電動車両の充電制御装置および充電装置
【課題】電動車両の個々の普通充電負荷の通電開始時刻を通信等の外部からの制御を用いずに個々の電動車両で独自に制御し、深夜電力時間帯内に適切に負荷配分する技術の提供。
【解決手段】外部電源によって車載バッテリを充電する電動車両の充電装置の通電開始時刻を自律制御する車載型充電制御装置であって、通電可能開始時刻t1から通電開始時刻Tsmまでの間で通電開始時刻Tsを決定するにあたり、所定の範囲で一様に生成される乱数rndに予め設定した乱数修飾関数fnを掛合わせて通電調整係数k(0≦k≦1)を算出し、下記式Aにより通電開始時刻Tsを決定することを特徴とする電動車両の充電制御装置、それを搭載した充電装置および電動車両。
[式A]Ts=t1+k×(a−b)
【解決手段】外部電源によって車載バッテリを充電する電動車両の充電装置の通電開始時刻を自律制御する車載型充電制御装置であって、通電可能開始時刻t1から通電開始時刻Tsmまでの間で通電開始時刻Tsを決定するにあたり、所定の範囲で一様に生成される乱数rndに予め設定した乱数修飾関数fnを掛合わせて通電調整係数k(0≦k≦1)を算出し、下記式Aにより通電開始時刻Tsを決定することを特徴とする電動車両の充電制御装置、それを搭載した充電装置および電動車両。
[式A]Ts=t1+k×(a−b)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両の充電制御装置および充電装置に関し、より具体的には通常の時間帯とは電気料金の異なる深夜電力時間帯等の特定電力時間帯における電動車両搭載型普通充電装置における負荷平準化技術に関する。
本明細書における「電動車両」とは、電気自動車、プラグインハイブリッド車、電動フォークリフト、電動クレーン車、電動スクータ、電動車いす等の車両に二次電池を搭載しており、外部から二次電池に充電された電力を使って走行用動力を得る車両のことをいい、「電気自動車」とは、動力源が二次電池で駆動されるモータのみである自動車、二次電池で駆動されるモータ以外の動力源(例えばエンジン)などを有する自動車のことをいう。
また、本明細書において「普通充電」とは、急速充電ではない充電のことであり、100Vあるいは200Vコンセントを備えた車両外部の小型充電装置を使って、車両に搭載した二次電池を充電することをいう。
【背景技術】
【0002】
電力会社は、日中と夜間の電力消費量の差や夏季とそれ以外の季節の電力消費量の差を縮め電力消費量の平準化(負荷平準化)を図ることを目的として、深夜電力料金をはじめとする種々の時間帯別契約を用意している。しかしながら、特定電力時間帯において、一定の充電容量を有する数千ないし数万台以上の電気機器が一斉に充電を開始した場合、電力需要の増加が一時的に著しく増加し、その後一斉に落ち込むという問題が生じる。このような問題を解消すべく、家庭への普及が進んでいる電気温水器においては、深夜電力を利用した様々な負荷平準化手段が既に実用化されている(例えば、特許文献1ないし3)。
【0003】
また、電力会社は、一斉に通電を開始・終了することを回避するため、地域ごとに個別の通電可能時間設定タイマー(例えば、特許文献4)を設け、電気温水器の通電制御を行うことにより深夜通電地域の電力負荷が集中しないようにする運用を行っている。
しかしながら、上記タイマーの設置数が非常に多いことから、定期的に設定値をずらすなどの管理作業に多くの手間を要するという課題がある。
【0004】
特許文献5には、深夜電力時間帯枠における最低負荷時刻の電力需要に他の時間帯の電力需要を割り当てる手法が開示され、ここでは乱数を使って通電開始時間を調整する手法が提案されている。しかしながら、特許文献5では必要通電時間が一定時間以下であることを前提としており、電気温水器のように比較的通電時間の長い機器類への適用には適していない。
【0005】
ところで近年、電気自動車の普及に備え、集合住宅などの賃貸駐車場でも深夜電力を利用した充電装置の提供が考えられているが、平準化のための仕組みを設けなければ深夜料金適用時間の開始と同時に消費電力が急増するという課題が生じることになる。現時点においては電動車両の普及率は低いためこの種の問題は発生していないが、今後電動車両が普及するのに伴い、充電による電力消費ピークの発生は無視できない問題になると考えられる。
通信を使って通電時間を調整する手法も各種提案されているが(例えば特許文献6)、電気自動車が普及しその数が数十〜数百万と非常に多くなった際には同時通信によるトラフィック対策の問題などが生じることから、実用化は難しいと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平3−18106号公報
【特許文献2】特開平6−180147号公報
【特許文献3】特開平6−180148号公報
【特許文献4】特開平10−197069号公報
【特許文献5】特許第4142837号公報
【特許文献6】特2008−160902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電動車両は通常、普通充電用の充電器(コンセントからの交流電力を蓄電池充電のための直流電力に変換する装置)から充電を行う。従来の電動車両の普通充電装置は、充電器を車両本体に搭載しているが充電制御装置はなくコンセントに接続すると直ちに充電を開始するタイプ(図1(i))、充電器と充電制御装置を車両本体に搭載し充電時間帯をユーザで調整できる機能を有するタイプ(図1(ii))、充電器は車両本体に搭載しておらず外部の充電器で充電するタイプ(図1(iii))が存在する。それぞれのタイプの電動車両を深夜電力時間帯に充電する場合、充電器を車両本体に搭載しているが充電制御装置がないタイプ(図1(i))および外部の充電器で充電するタイプ(図1(iii))では、コンセント等外部に深夜電力時間帯のみに通電するタイマーを設置する必要がある。充電器と充電制御装置を車両本体に搭載しているタイプ(図1(ii))では、充電制御装置で充電時間帯を深夜電力時間帯内に調整する必要がある。いずれの場合でも通常は充電開始時刻は深夜電力時間帯の始まる23時に設定されると予想される。
【0008】
一方、電動車両通電時間はバッテリ残量に依存するが、通常は残量がかなりある場合が多いことが想定され、そうすると深夜電力時間帯など特定の通電可能時間帯内に収まるように設計されている定格通電時間よりかなり短い通電時間となることから、これらの負荷を合成すると、通電可能時間帯が始まった時に非常に大きな需要ピークを生じ、その後急激に減少していくという情況が生ずることとなる。このようなピークを発生する需要は電力会社の需給運用にとって望ましくなく、負荷平準化対策が必要である。
【0009】
また、マンションの駐車場で電気自動車を充電する場合など1箇所で多数の電動車両の充電を行う場合、その受電容量は制御を行わないと通電可能時間帯が始まった時に発生する需要ピークに合せる必要があることから、受電電力が大きくなり電気料金の基本料金が高価になる。負荷の平準化が行えれば受電容量を小さくでき基本料金も低減できる。このように利用者にとっても負荷平準化を行うことのメリットがある。
【0010】
本発明は、特定電力時間帯に一定の充電容量を有する数千ないし数万台以上の電動車両に充電をする際に生じ得る電力需要の極端な増減を、自律的な仕組みで解消することを課題とする。
【0011】
本発明は、上記の課題を解決することのできる、電動車両の充電制御装置および充電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の電動車両の充電制御装置および充電装置は、電動車両の個々の普通充電負荷の通電開始時刻を通信等の外部からの制御を用いずに個々の電動車両で独自に制御し、深夜電力時間帯内に適切に負荷配分することを可能とするものである。
【0013】
すなわち、本発明は、以下の技術手段から構成される。
[1]外部電源によって車載バッテリを充電する電動車両の充電装置の通電開始時刻を自律制御する車載型充電制御装置であって、通電可能開始時刻t1から通電開始時刻Tsmまでの間で通電開始時刻Tsを決定するにあたり、所定の範囲で一様に生成される乱数rndに予め設定した乱数修飾関数fnを掛合わせて通電調整係数k(0≦k≦1)を算出し、下記式Aにより通電開始時刻Tsを決定することを特徴とする電動車両の充電制御装置。
[式A]Ts=t1+k×(a−b)
[2]乱数修飾関数fnが、確率密度関数p(k)の累積分布関数 P(k)の逆関数であり、確率密度関数が下記式Bで規定され、累積分布関数 P(k)が下記式Cで規定されることを特徴とする[1]の電動車両の充電制御装置。
[式B]
[式C]
[3]乱数修飾関数fnが、下記式D、下記式E、下記式Fおよび/または下記式Gの関数(ただし、rは正の整数)を含む予め作成された累積分布関数群から一の関数を選択して設定されることを特徴とする[2]の電動車両の充電制御装置。
[式D]P(k)=1
[式E]P(k)=(r+1)×(1−k)^r
[式F]P(k)=(r+1)×k^r
[式G]P(k)=(r+1)×((1−k)^r+k^r)/2
[4]特定電力時間帯が、第2深夜電力が設定された深夜電力時間帯である場合に、乱数修飾関数fnに上記式Gの関数を選択することを特徴とする[3]に記載の電動車両の充電制御装置。
[5][1]ないし[4]のいずれかに記載の充電制御装置と、充電プラグと、充電器とを備えた電動車両の充電装置。
[6][5]に記載の充電装置を搭載した電動車両。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、特定電力時間帯に電動車両に充電をする際に生じ得る電力需要の極端な増減を、自律的な仕組みで解消することが可能となる。
また、電動車両に簡易な負荷分散手段を搭載することにより、多様な電力需要の形態に合わせた負荷平準化を自律的な仕組みで実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】従来の電動車両の普通充電装置の構成図である。
【図2】本発明の負荷平準化機能付き充電装置の構成図である。
【図3】本発明の負荷平準化手段の機能概要説明図である。
【図4】混合合同法による疑似乱数発生を説明するための図面である。
【図5】通電開始時刻の決定を説明するための概念図である。
【図6】通電している確率を説明するためのグラフである。
【図7】累積分布関数を説明するためのグラフである。
【図8】前山型の確率密度関数p(k)のグラフと通電している確率Pon(t)の算出手順である。
【図9】r=5、a=8時間の場合の前山型の通電している確率Pon(t)のグラフである。
【図10】後山型の確率密度関数p(k)のグラフと通電している確率Pon(t)の算出手順である。
【図11】r=5、a=8時間の場合の後山型の通電している確率Pon(t)のグラフである。
【図12】双山型の確率密度関数p(k)のグラフと通電している確率Pon(t)の算出手順である。
【図13】r=5、a=8時間の場合の双山型の通電している確率Pon(t)のグラフである。
【図14】均一型、前山型、後山型、双山型の確率密度関数のグラフである。
【図15】均一型、前山型、後山型、双山型の累積分布関数のグラフである。
【図16】均一型、前山型、後山型、双山型の乱数修飾関数のグラフである。
【図17】自動車走行距離(香川県)の統計データである。
【図18】乗用車の1日走行距離から推定した電気自動車の充電時間(普通充電)の予想例である。
【図19】実施例に係る合成負荷のグラフである。
【図20】実施例に係る電気自動車50台の充電時間、発生した疑似乱数、通電調整係数k、および通電開始時刻の一覧表である。
【図21】実施例に係る合成負荷のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図2に示す本発明の負荷平準化機能付き充電装置は、充電器と充電制御装置を車両本体に搭載し電動車両側で充電時間帯を調整できる機能を有する。本発明の充電装置のハードウェア構成は、従来の電動車両用充電装置と同様であるが、以下に説明する負荷分散プログラムが組み込まれている点で、従来の電動車両用充電装置と相違する。
【0017】
(a)充電可能時間帯の設定
“充電可能開始時刻t1”および“充電可能終了時刻t2”を設定する。
深夜電力時間帯であればt1=23時、t2=7時(31時)を設定する。この場合、“充電可能時間a”は8時間となる。なお、t1,t2は利用者の都合で変更する(例えば早朝に充電を完了する)ことも可能である。
【0018】
(b)充電時間の算定
電気自動車の充電に必要な“充電時間b”は式1により算出される。式1中、「電気自動車定格充電時間」とは、バッテリ残量0%→100%の充電に要する時間のことである。
【0019】
[式1]b=電気自動車定格充電時間×(100%−バッテリ残量計指示値(%))/100
なお、充電時間は電気自動車定格充電時間以下の範囲で手動で設定することも可能である。
【0020】
(c)通電開始時刻の決定
(c-1)乱数の発生
充電制御装置内でその演算機能を使って0以上1未満の乱数を一様に発生させる。乱数は、平方採中法、混合合同法などで得られる疑似乱数でよい。本明細書では、疑似乱数も含めた意味で「乱数」という用語を用いる場合がある。
乱数を発生させるアルゴリズムは任意のものを採用してよく、有効桁数も適宜選択してよいが、全ての負荷平準化機能付き充電装置で統一したアルゴリムズを使用することが重要である。
図4に演算の容易な混合合同法を用いて4桁の疑似乱数を発生させた例を示す。この場合発生される疑似乱数は0〜0.9999の範囲となるが実用上は問題ない。なお、使用する制御装置のCPUに疑似乱数発生機能があればそれを利用してもよい。
【0021】
(c-2)乱数の変換
負荷配分を調整するために、乱数に予め設定してある“乱数修飾関数fn”を掛合わせることで、発生確率が一定である乱数をある確率密度関数に従う数列(通電調整係数k:0≦k≦1)に変換する。充電制御装置には、手動または自動(通信制御など)で乱数修飾関数fnを選択可能とする手段を設けることが好ましい。乱数修飾関数fnを用いた通電調整係数kの算出手順については後述する。
【0022】
(c-3)通電開始時刻および通電終了時刻の決定
通電可能時間がa時間で通電時間がb時間であると、“通電開始時刻Ts”は通電可能開始時刻t1からt1+(a−b)までの間の任意の時刻を選定できる。通電開始時刻Tsは、通電調整係数kを使って式2で表現することができる。
[式2]Ts=t1+k×(a−b)
【0023】
“通電終了時刻Te”は、式3に示すように、通電開始時刻に通電時間bを加えて求めることができる。
[式3]Te=t1+k×(a−b)+b
【0024】
以上に説明した本発明の負荷平準化機能付き充電装置の機能概要説明を図3に示す。
【0025】
《乱数を使った負荷平準化の詳細な説明》
深夜電力時間帯(23時〜7時)など特定の通電可能時間帯にある負荷を通電する場合の例で説明する。
“通電可能開始時刻t1”および“通電可能終了時刻t2”と“通電可能時間a”の関係は式4のとおりとなる。
[式4]a=t2−t1
【0026】
通電時間をb(b≦a)とすると、通電開始時刻Tsは、通電可能開始時刻t1から最も遅い通電開始時刻Tsmまでの範囲で任意の時刻を選択することができる。“最も遅い通電開始時刻Tsm”は式5により算出される。
[式5]Tsm=t2−b=t1+a−b
【0027】
通電開始時刻Tsは、通電調整係数k(0≦k≦1)を使って式6で表現することができる。
[式6]Ts=t1+k×(a−b)
【0028】
ある時刻に通電がされている条件を、図5を参照しながら具体例で説明する。
通電開始可能時刻t1から通電可能終了時刻t2の間のある時刻t1+t(0≦t≦a)において、通電がされている条件は、t1+tが通電時間帯(図5のii)内にあることから、下記の式7により表される。
[式7]t1+k×(a−b)≦t1+t≦t1+k×(a−b)+b
【0029】
ここで、式7中、t1は全辺に加わることから除くと下記式8が導かれる。
[式8]k×(a−b)≦t≦k×(a−b)+b
【0030】
さらに式8より、通電調整係数kについて下記式8−1および8−2が導かれる。
[式8−1]k≦t/(a−b)
[式8−2](t−b)/(a−b)≦k
【0031】
ここで図5を見ると、b≧0.5aの場合(上段)とb<0.5aの場合(下段)では条件の算出式を異なるものとする必要があることが分かる。すなわち、b≧0.5aの場合はa−b≦t≦bの間(図5上段網掛け部分)は必ず通電されることとなるため、b≧0.5aの場合とそれ以外の場合を分けて、時刻t1+tで通電する条件を求める必要があることが分かる。
【0032】
(i)b≧0.5aの場合
(i−1)0≦t<a−bの場合、式8−2の左辺が負となることから、下記の式9−1が導かれる。
[式9−1]0≦k≦t/(a−b)
【0033】
(i−2)a−b≦t<bの場合、式8−1の右辺は1以上となり、式8−2の左辺は0以下となることから、下記の式9−2が導かれる。tがこの範囲の場合には、全ての場合に通電されることとなる。
[式9−2]0≦k≦1
【0034】
(i−3)b≦t≦aの場合、式8−1の右辺が1以上となることから、下記の式9−3が導かれる。
[式9−3](t−b)/(a−b)≦k≦1
【0035】
(ii)b<0.5aの場合
(ii−1)0≦t<bの場合、式8−2の左辺が負となることから、下記の式10−1が導かれる。
[式10−1]0≦k≦t/(a−b)
【0036】
(ii−2)b≦t<a−bの場合、下記の式10−2が導かれる。
[式10−2](t−b)/(a−b)≦k≦t/(a−b)
【0037】
(ii−3)a−b≦t≦aの場合、式8−2の右辺が1以上となることから、下記の式10−3が導かれる。
[式10−3](t−b)/(a−b)≦k≦1
ここでkが確率密度関数p(k)に従うとすると、0≦k≦1であることから、k<0あるいはk>1ではp(k)=0となる。
また、確率密度関数p(k)の特性として下記の式11が導かれる。
[式11]
【0038】
上記(i)および(ii)のそれぞれの場合において時刻t1+tに通電している確率Ponを求めるには、先に求めたkの範囲で確率密度関数p(k)を積分すればよい。すなわち、b≧0.5aの場合には下記式12が導かれ、b<0.5aの場合には下記式13が導かれる。
【0039】
[式12]
【0040】
[式13]
【0041】
通電している確率Ponに被通電機器の消費電力を掛け合せるとことで、負荷電力の期待値を求めることができる。したがって、通電している確率Ponは、被通電機器の数(負荷数)が一定数以上であり合成電力が期待値に等しくなると考えられる場合の合成負荷の形状を表していることになる。
なお、全時間帯でPon(t)を積分すると通電時間の期待値となるため、下記式14に示すようにその値はbとなる。
【0042】
[式14]
【0043】
また、通電調整係数kを発生確率一定の乱数で与えると、確率密度関数p(k)=1であることから通電している確率はPon(t)に等しくなる。すなわち、多数の負荷の通電開始時刻Tsを乱数で与えた通電調整係数kで式2のとおり決定すると、その通電している確率はPon(t)に等しくなる。そして、その合成電力の大きさの期待値、すなわち合成電力期待値Weは、式15により表される。
[式15]We=負荷電力×負荷数×Pon(t)
【0044】
ここで、通電開始調整係数k(0≦k≦1)に0以上1以下の乱数を使用した場合の時刻t1+tに通電している確率Ponを求める。すなわち、b≧0.5aの場合には下記式17が導かれ、b<0.5aの場合には下記式18が導かれる。
なお、0以上1以下の値を取る乱数の確率密度関数prnd(k)は、下記式16およびprnd(k)=一定値より prnd(k)=1 となる。
【0045】
[式16]
【0046】
[式17]
【0047】
[式18]
【0048】
図6は、通電可能時間a=8とし、通電時間bを1〜7時間の範囲で変えた場合における通電している確率Ponを図示したものである。図6を見ると、通電可能時間aに対する通電時間bの比(b/a)が小さい場合には通電している確率は比較的平坦な形状となるが、b/a=0.5付近で山型となり、b/aが大きくなると再び平坦になる。これは、図5の例で説明したように、b≧0.5aの場合はa−b≦t≦b(図5上段網掛け部分)の間は必ず通電することから、bがある程度大きくなると確率密度関数p(k)をどのように変えても通電している確率Ponの形状の調整が難しくなることを示している。換言すれば、b/aが大きくなると通電開始時刻Tsを調整できる幅a−bが短くなり、調整できる範囲が小さくなることに対応している。
【0049】
以上のことから、個々の負荷の通電開始時刻を調整することで全負荷の合成電力の形状を調整するためには、通電調整係数kの確率密度関数p(k)を負荷の状況に合わせて調整する必要があることが分かる。また、乱数を用いて通電調整係数kを決定する場合には、乱数に後述の“乱数修飾関数fn”を掛合わせて、確率密度一定の乱数を確率密度関数p(k)に従う分布を持つ数列に変換する必要がある。
【0050】
《累積分布関数》
確率密度関数p(k)の累積分布関数P(k)について説明する。
確率密度関数p(k)の累積分布関数P(k)は、k<0あるいはk>1ではp(k)=0であることから、下記の式19で表すことができる。これを図示したのが図7であり、例えば、通電調整係数kがk〜k+Δkの範囲の値になる確率はP(k+Δk)−P(k)となる。
[式19]
【0051】
《乱数修飾関数》
本明細書で乱数修飾関数とは、累積分布関数P(k)の逆関数のことをいう。図7の例で説明すると、0以上1以下の値を取る乱数を考えた場合、その確率密度関数はprnd(k)=1となる。乱数の累積分布関数は確率密度関数の積分で求められPrnd(k)=kとなり、P(k1)以上P(k1+Δk)以下の値を取る乱数の発生確率は Prnd(P(k1+Δk))−Prnd(P(k1))=P(k1+Δk)−P(k1)となる。P(k1)以上P(k1+Δk)以下の値を取る乱数に累積分布関数P(k)の逆関数を掛合わせると、乱数はk1以上k1+Δk以下の間に分布する。ただし、一義にkが決まるためにはP(k)は単調増加関数(p(k)>0、ただし1点でp(k)=0は許容)である必要がある。当然のことながら乱数にP(k)の逆関数を掛合わせてできたk1以上k1+Δk以下の間に分布する数列の発生する確率はP(k1+Δk)−P(k1)となる。この関係はk1およびk1+Δkが0以上1以下である限り常に成立する。すなわち、0以上1以下の値を取る発生確率一定の乱数に累積分布関数P(k)の逆関数を掛合わせて得られた数列がk1以上k1+Δk以下の値を取る確率は、P(k1+Δk)−P(k1)となる。これは累積分布関数の定義により、得られた数列の累積分布関数はP(k)に等しいことになる。以上により発生確率一定の乱数を累積分布関数P(k)あるいはその微分で求められる確率密度関数p(k)に従う数列に変換できたことになる。そして、この累積分布関数P(k)の逆関数が乱数修飾関数となる。
以上より、0以上1以下の乱数に乱数修飾関数を掛合わせて通電調整係数kを算出し、上記式6により通電開始時刻Tsを決定することで、通電している確率Pon(t)を確率密度関数p(k)あるいは累積分布関数P(k)で制御することができる。
【0052】
乱数修飾関数fnを用いた通電開始時刻Tsの算出手順を数式で表現すると下記(i)〜(iii)のとおりとなる。
(i)0以上1以下の乱数rndを発生する。発生する乱数は、実用的には疑似乱数で十分である。疑似乱数の発生方法は各種提案されているが、ここでは演算の簡単な混合合同法の例を示す。
a×p+q=a′4桁の疑似乱数を得るため、下2桁から5桁を利用する。
たとえば、最初のa=5678、p=678、q=789 とする。
5678×678+789=3850473 → 0.5047
5047×678+789=3422655 → 0.2265
2265×678+789=1536459 → 0.3645 (以下同様)
なお、混合合同法で得られた疑似乱数rndは0以上1未満となるが、実用上の問題はない。
【0053】
(ii)疑似乱数に乱数修飾関数fnを掛合わせて通電調整係数kを決定する。すなわち、通電調整係数kは下記式20により表すことができる。
[式20]
【0054】
(iii)通電開始時刻Tsを上記式7により決定する。
【0055】
《乱数修飾関数の例》
充電開始調整係数kの確率密度関数p(k)に様々な関数を導入した際の通電している確率Pon(t)を求める。
(a)前山型
通電を早い時間帯にシフトするために、kの確率分布をkが小さい方に偏らせる分布(以下「前山型」という)を考える。前山型を実現するためには、べき数で減少させる関数として下記式21の関数を考える。
[式21]p(k)=(r+1)×(1−k)^r
r:正の整数
【0056】
式21ではrを大きくするほど前に偏る。前山型の確率密度関数p(k)のグラフと式21の関数で上記式12および13により通電している確率Pon(t)を算出する手順を図8に示す。
また、r=5、a=8時間の場合の通電している確率Pon(t)を図9に示す。この場合もb/aの比が小さいほど早い時間帯へのシフト効果が大きくなっているが、全てのケースでシフト効果が見られる。なお、rは任意の正の整数を選択することができるが、例えば3〜10の範囲で選択すると一般的な電力需要に対応できることが多いと思われる(以下同様)。
【0057】
(b)後山型
通電を遅い時間帯にシフトするために、kの確率分布をkが大きい方に偏らせる分布(以下「後山型」という)を考える。後山型を実現するためには、べき数で増加させる関数として下記式22の関数を考える。
[式22]p(k)=(r+1)×k^r
r:正の整数
式22ではrを大きくするほど後に偏る。後山型の確率密度関数p(k)のグラフと式22の関数で上記式12および13により通電している確率Pon(t)を算出する手順を図10に示す。
また、r=5、a=8時間の場合の通電している確率Pon(t)を図11に示す。この場合もb/aの比が小さいほど遅い時間帯へのシフト効果が大きくなっているが、全てのケースでシフト効果が見られる。
【0058】
(c)双山型
通電を早い時間帯および遅い時間帯にシフトするために、kの確率分布をkが小さい方および大きい方に偏らせる分布(以下「双山型」という)を考える。前山型、後山型を平均した関数として下記式23の関数を考える。
[式23]p(k)=(r+1)×((1−k)^r+k^r)/2
r:正の整数
式23ではrを大きくするほど両端に偏る。双山型の確率密度関数p(k)のグラフと式23の関数で上記式12および13により通電している確率Pon(t)を算出する手順を図12に示す。
また、r=5、a=8時間の場合の通電している確率Pon(t)を図13に示す。この場合もb/aの比が小さいほど両端時間帯へのシフト効果が大きくなっているが、全てのケースでシフト効果が見られる。なお、第2深夜電力(1時〜6時)により2つの負のピークを有する電力需要の場合には、双山型が好適である。
【0059】
(d)均一型
乱数をそのまま使う場合はp(k)=1である。これを均一型と呼ぶこととする。
【0060】
(e)均一型、前山型、後山型、双山型の累積分布関数P(k)
上記式19にそれぞれの型の確率密度関数p(k)を導入すると下記式24のとおりとなる。r=5の場合のそれぞれの型の確率密度関数を図14に、累積分布関数を図15に示す。
[式24]
均一型 P1(k)=k
前山型 P2(k)=−(1−k)^(r+1)
後山型 P3(k)=k^(r+1)
双山型 P4(k)=(k^(r+1)−(1−k)^(r+1))/2
【0061】
上述したように、通電開始時刻Tsを制御するための乱数修飾関数(乱数をrndと表現)は、累積分布関数の逆関数となる。それぞれの型の乱数修飾関数を下記式25のとおりとなる。r=5の場合のそれぞれの型の乱数修飾関数を図16に示す。
[式25]
【0062】
均一型(k=rnd)以外の逆関数は代数的に表現できないものもあり、通電時間を制御する制御装置の演算能力にも限りがあるため、直線近似した結果(k=m×rnd+n)を下記に示す。ここで、表1は前山型乱数修飾関数f2であり、表2は後山型乱数修飾関数f3であり、表3は双山型乱数修飾関数f4である。
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
【表3】
【0065】
以上、代表的な乱数修飾関数の型を示したが、乱数修飾関数fnは下記条件を満たせばどのような関数でも良い。
ア)確率密度関数 p(k)
0≦k≦1であることから、k<0あるいはk>1ではp(k)=0
[式26]
【0066】
イ)累積分布関数 P(k)
[式27]
【0067】
ウ)乱数修飾関数 fn(rnd) 累積分布関数P(k)の逆関数
[式28]
【0068】
以上に説明した本発明の負荷平準化手段によれば、中央局と通信を行うことなく、乱数を使うことでそれぞれの機器毎に独自に確率論的に制御を行い、機器数が非常に多いことから合成負荷は目標とした形態(確率論の期待値)に自律分散制御することができる。
また、乱数修飾関数により合成負荷の形態を自由に調整できることから、さまざまな負荷形態、電力需給形態に柔軟に対応可能である。
例えば、集合住宅などで多数の電気自動車の充電を深夜電力を使って行う場合の合成充電負荷のピーク値を下げるための乱数修飾関数の選択方法は、対象電気自動車の平均的な充電時間が比較的短い(2〜3時間以下)場合は均一型、それよりも長い場合は双山型を選択することが望ましい。
また、本手法を戸建て住宅のように1台の電気自動車の充電を深夜電力を使って行う場合に適用すると、1台の負荷の平準化や充電電力低減には役立たないが、全体として見ると各電気自動車の充電開始時刻は深夜電力時間帯内に適切に調整され全体の充電負荷平準化に寄与することができる。その場合の乱数修飾関数の選択方法も先ほどと同様に、個々の電気自動車の平均的な充電時間が比較的短い(2〜3時間以下)場合は均一型、それよりも長い場合は双山型を選択することが望ましい。
【0069】
以下では本発明の詳細を実施例により説明するが、本発明は何ら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0070】
実際の電動車両の充電では、バッテリが空の状態から充電されることはまずなく、ほとんどはバッテリにかなりの残充電を残した状態からの充電になり充電時間はかなり短いと予想される。図17に1日の自動車の走行距離分布の例(国交省17年度交通センサス香川県の乗用車のデータ)を示す。これを基に充電器容量を3kWとして推定した充電時間分布を図18に示す。
図19に、図18の充電時間予想に基づき4種類の乱数修飾関数を適用して負荷平準化を行った場合の電気自動車普通充電の充電負荷の期待値のグラフを示す。図19では、充電負荷容量を3kW/台、通電可能時間を8時間として、充電負荷の期待値を式15を使って求めている。
図19から、最もピーク電力低減効果の高い均一型の場合、23時に一斉に充電開始する場合に比べて、ピーク電力は約1/4に低減され深夜電力時間帯に充電負荷が割り振られており十分な平準化効果が得られていることが確認できた。
【0071】
本実施例の負荷平準化機能付き充電装置の効果をシミュレーションにより確認する。
充電時間が図18の分布に従う50台の電気自走車の普通充電(3kW/台)に本実施例の負荷平準化機能付き充電装置を適用する。それぞれの充電時間、発生した疑似乱数、通電調整係数kおよび通電開始時刻をシミュレーションした結果を図20に、合成負荷の情況を図21に示す。台数が少ないため合成負荷の形はいびつであるが充電負荷の形状は図19の期待値と同じ傾向である。また、最もピーク電力低減効果の高い均一型のピーク電力は図19の期待値より大きいが一斉に充電開始する場合の約1/3になっており、本実施例の負荷平準化機能付き充電装置による平準化の効果が確認できた。
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両の充電制御装置および充電装置に関し、より具体的には通常の時間帯とは電気料金の異なる深夜電力時間帯等の特定電力時間帯における電動車両搭載型普通充電装置における負荷平準化技術に関する。
本明細書における「電動車両」とは、電気自動車、プラグインハイブリッド車、電動フォークリフト、電動クレーン車、電動スクータ、電動車いす等の車両に二次電池を搭載しており、外部から二次電池に充電された電力を使って走行用動力を得る車両のことをいい、「電気自動車」とは、動力源が二次電池で駆動されるモータのみである自動車、二次電池で駆動されるモータ以外の動力源(例えばエンジン)などを有する自動車のことをいう。
また、本明細書において「普通充電」とは、急速充電ではない充電のことであり、100Vあるいは200Vコンセントを備えた車両外部の小型充電装置を使って、車両に搭載した二次電池を充電することをいう。
【背景技術】
【0002】
電力会社は、日中と夜間の電力消費量の差や夏季とそれ以外の季節の電力消費量の差を縮め電力消費量の平準化(負荷平準化)を図ることを目的として、深夜電力料金をはじめとする種々の時間帯別契約を用意している。しかしながら、特定電力時間帯において、一定の充電容量を有する数千ないし数万台以上の電気機器が一斉に充電を開始した場合、電力需要の増加が一時的に著しく増加し、その後一斉に落ち込むという問題が生じる。このような問題を解消すべく、家庭への普及が進んでいる電気温水器においては、深夜電力を利用した様々な負荷平準化手段が既に実用化されている(例えば、特許文献1ないし3)。
【0003】
また、電力会社は、一斉に通電を開始・終了することを回避するため、地域ごとに個別の通電可能時間設定タイマー(例えば、特許文献4)を設け、電気温水器の通電制御を行うことにより深夜通電地域の電力負荷が集中しないようにする運用を行っている。
しかしながら、上記タイマーの設置数が非常に多いことから、定期的に設定値をずらすなどの管理作業に多くの手間を要するという課題がある。
【0004】
特許文献5には、深夜電力時間帯枠における最低負荷時刻の電力需要に他の時間帯の電力需要を割り当てる手法が開示され、ここでは乱数を使って通電開始時間を調整する手法が提案されている。しかしながら、特許文献5では必要通電時間が一定時間以下であることを前提としており、電気温水器のように比較的通電時間の長い機器類への適用には適していない。
【0005】
ところで近年、電気自動車の普及に備え、集合住宅などの賃貸駐車場でも深夜電力を利用した充電装置の提供が考えられているが、平準化のための仕組みを設けなければ深夜料金適用時間の開始と同時に消費電力が急増するという課題が生じることになる。現時点においては電動車両の普及率は低いためこの種の問題は発生していないが、今後電動車両が普及するのに伴い、充電による電力消費ピークの発生は無視できない問題になると考えられる。
通信を使って通電時間を調整する手法も各種提案されているが(例えば特許文献6)、電気自動車が普及しその数が数十〜数百万と非常に多くなった際には同時通信によるトラフィック対策の問題などが生じることから、実用化は難しいと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平3−18106号公報
【特許文献2】特開平6−180147号公報
【特許文献3】特開平6−180148号公報
【特許文献4】特開平10−197069号公報
【特許文献5】特許第4142837号公報
【特許文献6】特2008−160902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電動車両は通常、普通充電用の充電器(コンセントからの交流電力を蓄電池充電のための直流電力に変換する装置)から充電を行う。従来の電動車両の普通充電装置は、充電器を車両本体に搭載しているが充電制御装置はなくコンセントに接続すると直ちに充電を開始するタイプ(図1(i))、充電器と充電制御装置を車両本体に搭載し充電時間帯をユーザで調整できる機能を有するタイプ(図1(ii))、充電器は車両本体に搭載しておらず外部の充電器で充電するタイプ(図1(iii))が存在する。それぞれのタイプの電動車両を深夜電力時間帯に充電する場合、充電器を車両本体に搭載しているが充電制御装置がないタイプ(図1(i))および外部の充電器で充電するタイプ(図1(iii))では、コンセント等外部に深夜電力時間帯のみに通電するタイマーを設置する必要がある。充電器と充電制御装置を車両本体に搭載しているタイプ(図1(ii))では、充電制御装置で充電時間帯を深夜電力時間帯内に調整する必要がある。いずれの場合でも通常は充電開始時刻は深夜電力時間帯の始まる23時に設定されると予想される。
【0008】
一方、電動車両通電時間はバッテリ残量に依存するが、通常は残量がかなりある場合が多いことが想定され、そうすると深夜電力時間帯など特定の通電可能時間帯内に収まるように設計されている定格通電時間よりかなり短い通電時間となることから、これらの負荷を合成すると、通電可能時間帯が始まった時に非常に大きな需要ピークを生じ、その後急激に減少していくという情況が生ずることとなる。このようなピークを発生する需要は電力会社の需給運用にとって望ましくなく、負荷平準化対策が必要である。
【0009】
また、マンションの駐車場で電気自動車を充電する場合など1箇所で多数の電動車両の充電を行う場合、その受電容量は制御を行わないと通電可能時間帯が始まった時に発生する需要ピークに合せる必要があることから、受電電力が大きくなり電気料金の基本料金が高価になる。負荷の平準化が行えれば受電容量を小さくでき基本料金も低減できる。このように利用者にとっても負荷平準化を行うことのメリットがある。
【0010】
本発明は、特定電力時間帯に一定の充電容量を有する数千ないし数万台以上の電動車両に充電をする際に生じ得る電力需要の極端な増減を、自律的な仕組みで解消することを課題とする。
【0011】
本発明は、上記の課題を解決することのできる、電動車両の充電制御装置および充電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の電動車両の充電制御装置および充電装置は、電動車両の個々の普通充電負荷の通電開始時刻を通信等の外部からの制御を用いずに個々の電動車両で独自に制御し、深夜電力時間帯内に適切に負荷配分することを可能とするものである。
【0013】
すなわち、本発明は、以下の技術手段から構成される。
[1]外部電源によって車載バッテリを充電する電動車両の充電装置の通電開始時刻を自律制御する車載型充電制御装置であって、通電可能開始時刻t1から通電開始時刻Tsmまでの間で通電開始時刻Tsを決定するにあたり、所定の範囲で一様に生成される乱数rndに予め設定した乱数修飾関数fnを掛合わせて通電調整係数k(0≦k≦1)を算出し、下記式Aにより通電開始時刻Tsを決定することを特徴とする電動車両の充電制御装置。
[式A]Ts=t1+k×(a−b)
[2]乱数修飾関数fnが、確率密度関数p(k)の累積分布関数 P(k)の逆関数であり、確率密度関数が下記式Bで規定され、累積分布関数 P(k)が下記式Cで規定されることを特徴とする[1]の電動車両の充電制御装置。
[式B]
[式C]
[3]乱数修飾関数fnが、下記式D、下記式E、下記式Fおよび/または下記式Gの関数(ただし、rは正の整数)を含む予め作成された累積分布関数群から一の関数を選択して設定されることを特徴とする[2]の電動車両の充電制御装置。
[式D]P(k)=1
[式E]P(k)=(r+1)×(1−k)^r
[式F]P(k)=(r+1)×k^r
[式G]P(k)=(r+1)×((1−k)^r+k^r)/2
[4]特定電力時間帯が、第2深夜電力が設定された深夜電力時間帯である場合に、乱数修飾関数fnに上記式Gの関数を選択することを特徴とする[3]に記載の電動車両の充電制御装置。
[5][1]ないし[4]のいずれかに記載の充電制御装置と、充電プラグと、充電器とを備えた電動車両の充電装置。
[6][5]に記載の充電装置を搭載した電動車両。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、特定電力時間帯に電動車両に充電をする際に生じ得る電力需要の極端な増減を、自律的な仕組みで解消することが可能となる。
また、電動車両に簡易な負荷分散手段を搭載することにより、多様な電力需要の形態に合わせた負荷平準化を自律的な仕組みで実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】従来の電動車両の普通充電装置の構成図である。
【図2】本発明の負荷平準化機能付き充電装置の構成図である。
【図3】本発明の負荷平準化手段の機能概要説明図である。
【図4】混合合同法による疑似乱数発生を説明するための図面である。
【図5】通電開始時刻の決定を説明するための概念図である。
【図6】通電している確率を説明するためのグラフである。
【図7】累積分布関数を説明するためのグラフである。
【図8】前山型の確率密度関数p(k)のグラフと通電している確率Pon(t)の算出手順である。
【図9】r=5、a=8時間の場合の前山型の通電している確率Pon(t)のグラフである。
【図10】後山型の確率密度関数p(k)のグラフと通電している確率Pon(t)の算出手順である。
【図11】r=5、a=8時間の場合の後山型の通電している確率Pon(t)のグラフである。
【図12】双山型の確率密度関数p(k)のグラフと通電している確率Pon(t)の算出手順である。
【図13】r=5、a=8時間の場合の双山型の通電している確率Pon(t)のグラフである。
【図14】均一型、前山型、後山型、双山型の確率密度関数のグラフである。
【図15】均一型、前山型、後山型、双山型の累積分布関数のグラフである。
【図16】均一型、前山型、後山型、双山型の乱数修飾関数のグラフである。
【図17】自動車走行距離(香川県)の統計データである。
【図18】乗用車の1日走行距離から推定した電気自動車の充電時間(普通充電)の予想例である。
【図19】実施例に係る合成負荷のグラフである。
【図20】実施例に係る電気自動車50台の充電時間、発生した疑似乱数、通電調整係数k、および通電開始時刻の一覧表である。
【図21】実施例に係る合成負荷のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図2に示す本発明の負荷平準化機能付き充電装置は、充電器と充電制御装置を車両本体に搭載し電動車両側で充電時間帯を調整できる機能を有する。本発明の充電装置のハードウェア構成は、従来の電動車両用充電装置と同様であるが、以下に説明する負荷分散プログラムが組み込まれている点で、従来の電動車両用充電装置と相違する。
【0017】
(a)充電可能時間帯の設定
“充電可能開始時刻t1”および“充電可能終了時刻t2”を設定する。
深夜電力時間帯であればt1=23時、t2=7時(31時)を設定する。この場合、“充電可能時間a”は8時間となる。なお、t1,t2は利用者の都合で変更する(例えば早朝に充電を完了する)ことも可能である。
【0018】
(b)充電時間の算定
電気自動車の充電に必要な“充電時間b”は式1により算出される。式1中、「電気自動車定格充電時間」とは、バッテリ残量0%→100%の充電に要する時間のことである。
【0019】
[式1]b=電気自動車定格充電時間×(100%−バッテリ残量計指示値(%))/100
なお、充電時間は電気自動車定格充電時間以下の範囲で手動で設定することも可能である。
【0020】
(c)通電開始時刻の決定
(c-1)乱数の発生
充電制御装置内でその演算機能を使って0以上1未満の乱数を一様に発生させる。乱数は、平方採中法、混合合同法などで得られる疑似乱数でよい。本明細書では、疑似乱数も含めた意味で「乱数」という用語を用いる場合がある。
乱数を発生させるアルゴリズムは任意のものを採用してよく、有効桁数も適宜選択してよいが、全ての負荷平準化機能付き充電装置で統一したアルゴリムズを使用することが重要である。
図4に演算の容易な混合合同法を用いて4桁の疑似乱数を発生させた例を示す。この場合発生される疑似乱数は0〜0.9999の範囲となるが実用上は問題ない。なお、使用する制御装置のCPUに疑似乱数発生機能があればそれを利用してもよい。
【0021】
(c-2)乱数の変換
負荷配分を調整するために、乱数に予め設定してある“乱数修飾関数fn”を掛合わせることで、発生確率が一定である乱数をある確率密度関数に従う数列(通電調整係数k:0≦k≦1)に変換する。充電制御装置には、手動または自動(通信制御など)で乱数修飾関数fnを選択可能とする手段を設けることが好ましい。乱数修飾関数fnを用いた通電調整係数kの算出手順については後述する。
【0022】
(c-3)通電開始時刻および通電終了時刻の決定
通電可能時間がa時間で通電時間がb時間であると、“通電開始時刻Ts”は通電可能開始時刻t1からt1+(a−b)までの間の任意の時刻を選定できる。通電開始時刻Tsは、通電調整係数kを使って式2で表現することができる。
[式2]Ts=t1+k×(a−b)
【0023】
“通電終了時刻Te”は、式3に示すように、通電開始時刻に通電時間bを加えて求めることができる。
[式3]Te=t1+k×(a−b)+b
【0024】
以上に説明した本発明の負荷平準化機能付き充電装置の機能概要説明を図3に示す。
【0025】
《乱数を使った負荷平準化の詳細な説明》
深夜電力時間帯(23時〜7時)など特定の通電可能時間帯にある負荷を通電する場合の例で説明する。
“通電可能開始時刻t1”および“通電可能終了時刻t2”と“通電可能時間a”の関係は式4のとおりとなる。
[式4]a=t2−t1
【0026】
通電時間をb(b≦a)とすると、通電開始時刻Tsは、通電可能開始時刻t1から最も遅い通電開始時刻Tsmまでの範囲で任意の時刻を選択することができる。“最も遅い通電開始時刻Tsm”は式5により算出される。
[式5]Tsm=t2−b=t1+a−b
【0027】
通電開始時刻Tsは、通電調整係数k(0≦k≦1)を使って式6で表現することができる。
[式6]Ts=t1+k×(a−b)
【0028】
ある時刻に通電がされている条件を、図5を参照しながら具体例で説明する。
通電開始可能時刻t1から通電可能終了時刻t2の間のある時刻t1+t(0≦t≦a)において、通電がされている条件は、t1+tが通電時間帯(図5のii)内にあることから、下記の式7により表される。
[式7]t1+k×(a−b)≦t1+t≦t1+k×(a−b)+b
【0029】
ここで、式7中、t1は全辺に加わることから除くと下記式8が導かれる。
[式8]k×(a−b)≦t≦k×(a−b)+b
【0030】
さらに式8より、通電調整係数kについて下記式8−1および8−2が導かれる。
[式8−1]k≦t/(a−b)
[式8−2](t−b)/(a−b)≦k
【0031】
ここで図5を見ると、b≧0.5aの場合(上段)とb<0.5aの場合(下段)では条件の算出式を異なるものとする必要があることが分かる。すなわち、b≧0.5aの場合はa−b≦t≦bの間(図5上段網掛け部分)は必ず通電されることとなるため、b≧0.5aの場合とそれ以外の場合を分けて、時刻t1+tで通電する条件を求める必要があることが分かる。
【0032】
(i)b≧0.5aの場合
(i−1)0≦t<a−bの場合、式8−2の左辺が負となることから、下記の式9−1が導かれる。
[式9−1]0≦k≦t/(a−b)
【0033】
(i−2)a−b≦t<bの場合、式8−1の右辺は1以上となり、式8−2の左辺は0以下となることから、下記の式9−2が導かれる。tがこの範囲の場合には、全ての場合に通電されることとなる。
[式9−2]0≦k≦1
【0034】
(i−3)b≦t≦aの場合、式8−1の右辺が1以上となることから、下記の式9−3が導かれる。
[式9−3](t−b)/(a−b)≦k≦1
【0035】
(ii)b<0.5aの場合
(ii−1)0≦t<bの場合、式8−2の左辺が負となることから、下記の式10−1が導かれる。
[式10−1]0≦k≦t/(a−b)
【0036】
(ii−2)b≦t<a−bの場合、下記の式10−2が導かれる。
[式10−2](t−b)/(a−b)≦k≦t/(a−b)
【0037】
(ii−3)a−b≦t≦aの場合、式8−2の右辺が1以上となることから、下記の式10−3が導かれる。
[式10−3](t−b)/(a−b)≦k≦1
ここでkが確率密度関数p(k)に従うとすると、0≦k≦1であることから、k<0あるいはk>1ではp(k)=0となる。
また、確率密度関数p(k)の特性として下記の式11が導かれる。
[式11]
【0038】
上記(i)および(ii)のそれぞれの場合において時刻t1+tに通電している確率Ponを求めるには、先に求めたkの範囲で確率密度関数p(k)を積分すればよい。すなわち、b≧0.5aの場合には下記式12が導かれ、b<0.5aの場合には下記式13が導かれる。
【0039】
[式12]
【0040】
[式13]
【0041】
通電している確率Ponに被通電機器の消費電力を掛け合せるとことで、負荷電力の期待値を求めることができる。したがって、通電している確率Ponは、被通電機器の数(負荷数)が一定数以上であり合成電力が期待値に等しくなると考えられる場合の合成負荷の形状を表していることになる。
なお、全時間帯でPon(t)を積分すると通電時間の期待値となるため、下記式14に示すようにその値はbとなる。
【0042】
[式14]
【0043】
また、通電調整係数kを発生確率一定の乱数で与えると、確率密度関数p(k)=1であることから通電している確率はPon(t)に等しくなる。すなわち、多数の負荷の通電開始時刻Tsを乱数で与えた通電調整係数kで式2のとおり決定すると、その通電している確率はPon(t)に等しくなる。そして、その合成電力の大きさの期待値、すなわち合成電力期待値Weは、式15により表される。
[式15]We=負荷電力×負荷数×Pon(t)
【0044】
ここで、通電開始調整係数k(0≦k≦1)に0以上1以下の乱数を使用した場合の時刻t1+tに通電している確率Ponを求める。すなわち、b≧0.5aの場合には下記式17が導かれ、b<0.5aの場合には下記式18が導かれる。
なお、0以上1以下の値を取る乱数の確率密度関数prnd(k)は、下記式16およびprnd(k)=一定値より prnd(k)=1 となる。
【0045】
[式16]
【0046】
[式17]
【0047】
[式18]
【0048】
図6は、通電可能時間a=8とし、通電時間bを1〜7時間の範囲で変えた場合における通電している確率Ponを図示したものである。図6を見ると、通電可能時間aに対する通電時間bの比(b/a)が小さい場合には通電している確率は比較的平坦な形状となるが、b/a=0.5付近で山型となり、b/aが大きくなると再び平坦になる。これは、図5の例で説明したように、b≧0.5aの場合はa−b≦t≦b(図5上段網掛け部分)の間は必ず通電することから、bがある程度大きくなると確率密度関数p(k)をどのように変えても通電している確率Ponの形状の調整が難しくなることを示している。換言すれば、b/aが大きくなると通電開始時刻Tsを調整できる幅a−bが短くなり、調整できる範囲が小さくなることに対応している。
【0049】
以上のことから、個々の負荷の通電開始時刻を調整することで全負荷の合成電力の形状を調整するためには、通電調整係数kの確率密度関数p(k)を負荷の状況に合わせて調整する必要があることが分かる。また、乱数を用いて通電調整係数kを決定する場合には、乱数に後述の“乱数修飾関数fn”を掛合わせて、確率密度一定の乱数を確率密度関数p(k)に従う分布を持つ数列に変換する必要がある。
【0050】
《累積分布関数》
確率密度関数p(k)の累積分布関数P(k)について説明する。
確率密度関数p(k)の累積分布関数P(k)は、k<0あるいはk>1ではp(k)=0であることから、下記の式19で表すことができる。これを図示したのが図7であり、例えば、通電調整係数kがk〜k+Δkの範囲の値になる確率はP(k+Δk)−P(k)となる。
[式19]
【0051】
《乱数修飾関数》
本明細書で乱数修飾関数とは、累積分布関数P(k)の逆関数のことをいう。図7の例で説明すると、0以上1以下の値を取る乱数を考えた場合、その確率密度関数はprnd(k)=1となる。乱数の累積分布関数は確率密度関数の積分で求められPrnd(k)=kとなり、P(k1)以上P(k1+Δk)以下の値を取る乱数の発生確率は Prnd(P(k1+Δk))−Prnd(P(k1))=P(k1+Δk)−P(k1)となる。P(k1)以上P(k1+Δk)以下の値を取る乱数に累積分布関数P(k)の逆関数を掛合わせると、乱数はk1以上k1+Δk以下の間に分布する。ただし、一義にkが決まるためにはP(k)は単調増加関数(p(k)>0、ただし1点でp(k)=0は許容)である必要がある。当然のことながら乱数にP(k)の逆関数を掛合わせてできたk1以上k1+Δk以下の間に分布する数列の発生する確率はP(k1+Δk)−P(k1)となる。この関係はk1およびk1+Δkが0以上1以下である限り常に成立する。すなわち、0以上1以下の値を取る発生確率一定の乱数に累積分布関数P(k)の逆関数を掛合わせて得られた数列がk1以上k1+Δk以下の値を取る確率は、P(k1+Δk)−P(k1)となる。これは累積分布関数の定義により、得られた数列の累積分布関数はP(k)に等しいことになる。以上により発生確率一定の乱数を累積分布関数P(k)あるいはその微分で求められる確率密度関数p(k)に従う数列に変換できたことになる。そして、この累積分布関数P(k)の逆関数が乱数修飾関数となる。
以上より、0以上1以下の乱数に乱数修飾関数を掛合わせて通電調整係数kを算出し、上記式6により通電開始時刻Tsを決定することで、通電している確率Pon(t)を確率密度関数p(k)あるいは累積分布関数P(k)で制御することができる。
【0052】
乱数修飾関数fnを用いた通電開始時刻Tsの算出手順を数式で表現すると下記(i)〜(iii)のとおりとなる。
(i)0以上1以下の乱数rndを発生する。発生する乱数は、実用的には疑似乱数で十分である。疑似乱数の発生方法は各種提案されているが、ここでは演算の簡単な混合合同法の例を示す。
a×p+q=a′4桁の疑似乱数を得るため、下2桁から5桁を利用する。
たとえば、最初のa=5678、p=678、q=789 とする。
5678×678+789=3850473 → 0.5047
5047×678+789=3422655 → 0.2265
2265×678+789=1536459 → 0.3645 (以下同様)
なお、混合合同法で得られた疑似乱数rndは0以上1未満となるが、実用上の問題はない。
【0053】
(ii)疑似乱数に乱数修飾関数fnを掛合わせて通電調整係数kを決定する。すなわち、通電調整係数kは下記式20により表すことができる。
[式20]
【0054】
(iii)通電開始時刻Tsを上記式7により決定する。
【0055】
《乱数修飾関数の例》
充電開始調整係数kの確率密度関数p(k)に様々な関数を導入した際の通電している確率Pon(t)を求める。
(a)前山型
通電を早い時間帯にシフトするために、kの確率分布をkが小さい方に偏らせる分布(以下「前山型」という)を考える。前山型を実現するためには、べき数で減少させる関数として下記式21の関数を考える。
[式21]p(k)=(r+1)×(1−k)^r
r:正の整数
【0056】
式21ではrを大きくするほど前に偏る。前山型の確率密度関数p(k)のグラフと式21の関数で上記式12および13により通電している確率Pon(t)を算出する手順を図8に示す。
また、r=5、a=8時間の場合の通電している確率Pon(t)を図9に示す。この場合もb/aの比が小さいほど早い時間帯へのシフト効果が大きくなっているが、全てのケースでシフト効果が見られる。なお、rは任意の正の整数を選択することができるが、例えば3〜10の範囲で選択すると一般的な電力需要に対応できることが多いと思われる(以下同様)。
【0057】
(b)後山型
通電を遅い時間帯にシフトするために、kの確率分布をkが大きい方に偏らせる分布(以下「後山型」という)を考える。後山型を実現するためには、べき数で増加させる関数として下記式22の関数を考える。
[式22]p(k)=(r+1)×k^r
r:正の整数
式22ではrを大きくするほど後に偏る。後山型の確率密度関数p(k)のグラフと式22の関数で上記式12および13により通電している確率Pon(t)を算出する手順を図10に示す。
また、r=5、a=8時間の場合の通電している確率Pon(t)を図11に示す。この場合もb/aの比が小さいほど遅い時間帯へのシフト効果が大きくなっているが、全てのケースでシフト効果が見られる。
【0058】
(c)双山型
通電を早い時間帯および遅い時間帯にシフトするために、kの確率分布をkが小さい方および大きい方に偏らせる分布(以下「双山型」という)を考える。前山型、後山型を平均した関数として下記式23の関数を考える。
[式23]p(k)=(r+1)×((1−k)^r+k^r)/2
r:正の整数
式23ではrを大きくするほど両端に偏る。双山型の確率密度関数p(k)のグラフと式23の関数で上記式12および13により通電している確率Pon(t)を算出する手順を図12に示す。
また、r=5、a=8時間の場合の通電している確率Pon(t)を図13に示す。この場合もb/aの比が小さいほど両端時間帯へのシフト効果が大きくなっているが、全てのケースでシフト効果が見られる。なお、第2深夜電力(1時〜6時)により2つの負のピークを有する電力需要の場合には、双山型が好適である。
【0059】
(d)均一型
乱数をそのまま使う場合はp(k)=1である。これを均一型と呼ぶこととする。
【0060】
(e)均一型、前山型、後山型、双山型の累積分布関数P(k)
上記式19にそれぞれの型の確率密度関数p(k)を導入すると下記式24のとおりとなる。r=5の場合のそれぞれの型の確率密度関数を図14に、累積分布関数を図15に示す。
[式24]
均一型 P1(k)=k
前山型 P2(k)=−(1−k)^(r+1)
後山型 P3(k)=k^(r+1)
双山型 P4(k)=(k^(r+1)−(1−k)^(r+1))/2
【0061】
上述したように、通電開始時刻Tsを制御するための乱数修飾関数(乱数をrndと表現)は、累積分布関数の逆関数となる。それぞれの型の乱数修飾関数を下記式25のとおりとなる。r=5の場合のそれぞれの型の乱数修飾関数を図16に示す。
[式25]
【0062】
均一型(k=rnd)以外の逆関数は代数的に表現できないものもあり、通電時間を制御する制御装置の演算能力にも限りがあるため、直線近似した結果(k=m×rnd+n)を下記に示す。ここで、表1は前山型乱数修飾関数f2であり、表2は後山型乱数修飾関数f3であり、表3は双山型乱数修飾関数f4である。
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
【表3】
【0065】
以上、代表的な乱数修飾関数の型を示したが、乱数修飾関数fnは下記条件を満たせばどのような関数でも良い。
ア)確率密度関数 p(k)
0≦k≦1であることから、k<0あるいはk>1ではp(k)=0
[式26]
【0066】
イ)累積分布関数 P(k)
[式27]
【0067】
ウ)乱数修飾関数 fn(rnd) 累積分布関数P(k)の逆関数
[式28]
【0068】
以上に説明した本発明の負荷平準化手段によれば、中央局と通信を行うことなく、乱数を使うことでそれぞれの機器毎に独自に確率論的に制御を行い、機器数が非常に多いことから合成負荷は目標とした形態(確率論の期待値)に自律分散制御することができる。
また、乱数修飾関数により合成負荷の形態を自由に調整できることから、さまざまな負荷形態、電力需給形態に柔軟に対応可能である。
例えば、集合住宅などで多数の電気自動車の充電を深夜電力を使って行う場合の合成充電負荷のピーク値を下げるための乱数修飾関数の選択方法は、対象電気自動車の平均的な充電時間が比較的短い(2〜3時間以下)場合は均一型、それよりも長い場合は双山型を選択することが望ましい。
また、本手法を戸建て住宅のように1台の電気自動車の充電を深夜電力を使って行う場合に適用すると、1台の負荷の平準化や充電電力低減には役立たないが、全体として見ると各電気自動車の充電開始時刻は深夜電力時間帯内に適切に調整され全体の充電負荷平準化に寄与することができる。その場合の乱数修飾関数の選択方法も先ほどと同様に、個々の電気自動車の平均的な充電時間が比較的短い(2〜3時間以下)場合は均一型、それよりも長い場合は双山型を選択することが望ましい。
【0069】
以下では本発明の詳細を実施例により説明するが、本発明は何ら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0070】
実際の電動車両の充電では、バッテリが空の状態から充電されることはまずなく、ほとんどはバッテリにかなりの残充電を残した状態からの充電になり充電時間はかなり短いと予想される。図17に1日の自動車の走行距離分布の例(国交省17年度交通センサス香川県の乗用車のデータ)を示す。これを基に充電器容量を3kWとして推定した充電時間分布を図18に示す。
図19に、図18の充電時間予想に基づき4種類の乱数修飾関数を適用して負荷平準化を行った場合の電気自動車普通充電の充電負荷の期待値のグラフを示す。図19では、充電負荷容量を3kW/台、通電可能時間を8時間として、充電負荷の期待値を式15を使って求めている。
図19から、最もピーク電力低減効果の高い均一型の場合、23時に一斉に充電開始する場合に比べて、ピーク電力は約1/4に低減され深夜電力時間帯に充電負荷が割り振られており十分な平準化効果が得られていることが確認できた。
【0071】
本実施例の負荷平準化機能付き充電装置の効果をシミュレーションにより確認する。
充電時間が図18の分布に従う50台の電気自走車の普通充電(3kW/台)に本実施例の負荷平準化機能付き充電装置を適用する。それぞれの充電時間、発生した疑似乱数、通電調整係数kおよび通電開始時刻をシミュレーションした結果を図20に、合成負荷の情況を図21に示す。台数が少ないため合成負荷の形はいびつであるが充電負荷の形状は図19の期待値と同じ傾向である。また、最もピーク電力低減効果の高い均一型のピーク電力は図19の期待値より大きいが一斉に充電開始する場合の約1/3になっており、本実施例の負荷平準化機能付き充電装置による平準化の効果が確認できた。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部電源によって車載バッテリを充電する電動車両の充電装置の通電開始時刻を自律制御する車載型充電制御装置であって、
通電可能開始時刻t1から通電開始時刻Tsmまでの間で通電開始時刻Tsを決定するにあたり、所定の範囲で一様に生成される乱数rndに予め設定した乱数修飾関数fnを掛合わせて通電調整係数k(0≦k≦1)を算出し、下記式Aにより通電開始時刻Tsを決定することを特徴とする電動車両の充電制御装置。
[式A]Ts=t1+k×(a−b)
【請求項2】
乱数修飾関数fnが、確率密度関数p(k)の累積分布関数 P(k)の逆関数であり、確率密度関数が下記式Bで規定され、累積分布関数 P(k)が下記式Cで規定されることを特徴とする請求項1の電動車両の充電制御装置。
[式B]
[式C]
【請求項3】
乱数修飾関数fnが、下記式D、下記式E、下記式Fおよび/または下記式Gの関数(ただし、rは正の整数)を含む予め作成された累積分布関数群から一の関数を選択して設定されることを特徴とする請求項2の電動車両の充電制御装置。
[式D]P(k)=1
[式E]P(k)=(r+1)×(1−k)^r
[式F]P(k)=(r+1)×k^r
[式G]P(k)=(r+1)×((1−k)^r+k^r)/2
【請求項4】
特定電力時間帯が、第2深夜電力が設定された深夜電力時間帯である場合に、乱数修飾関数fnに上記式Gの関数を選択することを特徴とする請求項3に記載の電動車両の充電制御装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の充電制御装置と、充電プラグと、充電器とを備えた電動車両の充電装置。
【請求項6】
請求項5に記載の充電装置を搭載した電動車両。
【請求項1】
外部電源によって車載バッテリを充電する電動車両の充電装置の通電開始時刻を自律制御する車載型充電制御装置であって、
通電可能開始時刻t1から通電開始時刻Tsmまでの間で通電開始時刻Tsを決定するにあたり、所定の範囲で一様に生成される乱数rndに予め設定した乱数修飾関数fnを掛合わせて通電調整係数k(0≦k≦1)を算出し、下記式Aにより通電開始時刻Tsを決定することを特徴とする電動車両の充電制御装置。
[式A]Ts=t1+k×(a−b)
【請求項2】
乱数修飾関数fnが、確率密度関数p(k)の累積分布関数 P(k)の逆関数であり、確率密度関数が下記式Bで規定され、累積分布関数 P(k)が下記式Cで規定されることを特徴とする請求項1の電動車両の充電制御装置。
[式B]
[式C]
【請求項3】
乱数修飾関数fnが、下記式D、下記式E、下記式Fおよび/または下記式Gの関数(ただし、rは正の整数)を含む予め作成された累積分布関数群から一の関数を選択して設定されることを特徴とする請求項2の電動車両の充電制御装置。
[式D]P(k)=1
[式E]P(k)=(r+1)×(1−k)^r
[式F]P(k)=(r+1)×k^r
[式G]P(k)=(r+1)×((1−k)^r+k^r)/2
【請求項4】
特定電力時間帯が、第2深夜電力が設定された深夜電力時間帯である場合に、乱数修飾関数fnに上記式Gの関数を選択することを特徴とする請求項3に記載の電動車両の充電制御装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の充電制御装置と、充電プラグと、充電器とを備えた電動車両の充電装置。
【請求項6】
請求項5に記載の充電装置を搭載した電動車両。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2011−250560(P2011−250560A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120365(P2010−120365)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(000180368)四国電力株式会社 (95)
【出願人】(000144991)株式会社四国総合研究所 (116)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(000180368)四国電力株式会社 (95)
【出願人】(000144991)株式会社四国総合研究所 (116)
【Fターム(参考)】
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