電動車両用回転電機、駆動制御装置および絶縁診断方法
【課題】インバーター電源により駆動される電動車両用回転電機の絶縁状態を容易にかつ安価に診断する。
【解決手段】車両に搭載されてインバーター電源7により駆動される電動車両用回転電機10に、巻線間、相間および対地間の絶縁部で発生する部分放電を計測する部分放電計測センサー4を備える。
【解決手段】車両に搭載されてインバーター電源7により駆動される電動車両用回転電機10に、巻線間、相間および対地間の絶縁部で発生する部分放電を計測する部分放電計測センサー4を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両用回転電機とその駆動制御装置および回転電機の絶縁診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
運転中の回転電機の部分放電を計測し、その計測結果に基づいて回転電機の絶縁状態を診断する装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。この装置では、回転電機の固定子巻線での部分放電により発生した第1の高周波信号を固定子巻線に近接配置された第1の検出器で検出するとともに、第1の高周波信号から放射される第2の高周波信号を固定子巻線を収納するフレーム内に配置され第1検出器と直列に制御された第2検出器により検出し、第1および第2の高周波信号の所定の周波数帯域成分を解析して回転電機の絶縁状態、すなわち劣化状態を判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−304837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来の回転電機の絶縁診断装置は据置型の大型高電圧の回転電機を対象にしたものであり、部分放電を検出する検出器が大型、高価で電動車両用の回転電機には適さないという問題がある。例えば近年、回転電機を搭載した電気自動車あるいはハイブリッド電気自動車の普及にともなって、これらの電動車両に搭載される回転電機の絶縁診断の重要性が高まっているが、このような電動車両用回転電機はインバーター電源による駆動環境と駆動特性、様々な周囲環境とその変化、車両専用の構造および構成など、過酷で特異な環境条件下で使用されるため、従来の絶縁診断装置による絶縁診断が困難または不可能である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1) 請求項1の発明は、車両に搭載されてインバーター電源により駆動される電動車両用回転電機であって、巻線間、相間および対地間の絶縁部で発生する部分放電を計測する部分放電計測手段を備える。
(2) 請求項2の電動車両用回転電機は、請求項1に記載の電動車両用回転電機において、部分放電計測手段は、ステーターコイルのコイルエンド近傍にステーターコアの全周に沿って巻回された導電線材であり、部分放電により発生する電磁波を検出する。
(3) 請求項3の発明は、請求項1に記載の電動車両用回転電機において、部分放電計測手段は、回転電機内部の温度を計測する温度センサーと、温度センサー近傍の温度センサーの出力線の両端に接続された静電容量とからなり、温度センサーの出力線をステーターコイルのコイルエンド近傍にステーターコアの全周に沿って巻回して配設する。
(4) 請求項4の発明は、請求項2または請求項3に記載の電動車両用回転電機において、導電線材または出力線の一方を、ステーターコイルの一方のコイルエンド近傍にステーターコアの全周に沿って時計回りに配設するとともに、導電線材または出力線の他方を、ステーターコイルの他方のコイルエンド近傍にステーターコアの円周方向に反時計回りに配設する。
(5) 請求項5の発明は、請求項2に記載の電動車両用回転電機において、回転電機内部の温度を計測する温度センサーを備える。
(6) 請求項6の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の電動車両用回転電機において、回転電機内部の気圧を計測する気圧センサーを備える。
(7) 請求項7の発明は、請求項1〜6のいずれか一項に記載の電動車両用回転電機において、回転電機内部の湿度を計測する湿度センサーを備える。
(8) 請求項8の発明は、請求項1〜7のいずれか一項に記載の電動車両用回転電機において、回転電機内部と連通する配管とバルブを備える。
(9) 請求項9の発明は、請求項1〜8のいずれか一項に記載の電動車両用回転電機において、インバーター電源との間で電力の授受を行う電源用端子とは別個に、外部電源との間で電力の授受を行う外部電源用端子を備える。
(10) 請求項10の発明は、請求項1〜9のいずれか一項に記載の電動車両用回転電機を駆動制御する駆動制御装置であって、回転電機にインバーターパルス電圧を印加して駆動するインバーター電源と、部分放電計測手段の出力信号から部分放電信号を抽出する抽出手段と、抽出手段により抽出された部分放電信号に基づいて部分放電開始電圧を検出し、部分放電開始電圧の経時変化に基づいて回転電機の絶縁診断を行う診断手段とを備える。
(11) 請求項11の発明は、請求項10に記載の電動車両用回転電機の駆動制御装置において、回転電機の絶縁診断時には、インバーター電源は、回転電機の駆動電圧が通常運転時の駆動電圧よりも高くなるインバーターパルス電圧を印加し、抽出手段は、部分放電計測手段の出力信号にハイパスフィルター処理を施し、インバーター電源によるインバーターパルスノイズを除去して部分放電信号を抽出する。
(12) 請求項12の発明は、請求項11に記載の電動車両用回転電機の駆動制御装置において、ハイパスフィルターは、インバーターパルスノイズの周波数スペクトルと、最小部分放電信号の周波数スペクトルとの交点を遮断周波数とするハイパスフィルターである。
(13) 請求項13の発明は、請求項10に記載の電動車両用回転電機の駆動制御装置において、回転電機の絶縁診断時には、インバーター電源は、回転電機の駆動電圧が通常運転時の駆動電圧よりも高くなるインバーターパルス電圧を印加し、抽出手段は、部分放電計測手段の出力信号の内、インバーター電源によるインバーターパルスノイズの発生位相と異なる位相において発生した信号を部分放電信号として抽出する。
(14) 請求項14の発明は、請求項10に記載の電動車両用回転電機の駆動制御装置において、回転電機の絶縁診断時には、インバーター電源は、回転電機の誘起電圧が通常運転時の誘起電圧よりも高くなる回転電機の界磁制御を行い、抽出手段は、部分放電計測手段の出力信号から回転電機に発生する誘起電圧成分を除去して部分放電信号を抽出する。
(15) 請求項15の発明は、請求項8に記載の電動車両用回転電機を駆動制御する駆動制御装置であって、回転電機にインバーターパルス電圧を印加して駆動するインバーター電源と、部分放電計測手段の出力信号から部分放電信号を抽出する抽出手段と、抽出手段により抽出された部分放電信号に基づいて部分放電開始電圧を検出し、部分放電開始電圧の経時変化に基づいて回転電機の絶縁診断を行う診断手段とを備え、回転電機の絶縁診断時には、配管とバルブに真空ポンプを接続して回転電機の内部気圧を低下させる。
(16) 請求項16の発明は、請求項9に記載の電動車両用回転電機を駆動制御する駆動制御装置であって、回転電機にインバーターパルス電圧を印加して駆動するインバーター電源と、インバーター電源と回転電機との間に設けられる遮断手段と、部分放電計測手段の出力信号から部分放電信号を抽出する抽出手段と、抽出手段により抽出された部分放電信号に基づいて部分放電開始電圧を検出し、部分放電開始電圧の経時変化に基づいて回転電機の絶縁診断を行う診断手段とを備え、回転電機の絶縁診断時には、遮断器を開路するとともに、外部電源用端子を介して外部電源から回転電機に絶縁試験電圧を印加する。
(17) 請求項17の発明は、請求項10〜16のいずれか一項に記載の電動車両用回転電機の駆動制御装置において、回転電機の絶縁診断時の回転電機の温度、湿度および気圧を部分放電開始電圧とともに記録する記録手段と、記録手段に記録されている部分放電開始電圧を、回転電機の所定温度、所定湿度および所定気圧における値に換算する換算手段とを備え、診断手段は、換算手段により換算後の部分放電開始電圧に基づいて回転電機の絶縁診断を行う。
(18) 請求項18の発明は、請求項10〜17に記載の電動車両用回転電機の駆動制御装置において、診断手段は、回転電機の巻線間、相間および対地間の絶縁部の熱劣化、機械劣化、耐油劣化および耐加水分解劣化を考慮して部分放電開始電圧の経時変化に基づき絶縁診断を行う。
(19) 請求項19の発明は、車両に搭載されてインバーター電源により駆動される電動車両用回転電機の巻線間、相間および対地間の絶縁部で発生する部分放電をセンサーにより計測し、このセンサーの出力信号から部分放電信号を抽出し、抽出された部分放電信号に基づいて部分放電開始電圧を検出し、部分放電開始電圧の経時変化に基づいて電動車両用回転電機の絶縁診断を行う電動車両用回転電機の絶縁診断方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、インバーター電源により駆動される電動車両用回転電機の絶縁状態を、電動車両から回転電機を取り外すことなく通常の運転中に容易にかつ安価に診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】(a)は一実施の形態の電動車両用回転電機とその駆動制御装置の構成を示す図、(b)は回転電機の部分放電計測データを示す図、(c)は回転電機の印加電圧または誘起電圧に対する部分放電信号強度を示す図、(d)は部分放電開始電圧の経時変化に基づく絶縁診断方法を示す図
【図2】部分放電計測センサーと温度センサーの取り付け構造を示す図
【図3】部分放電計測センサーの周波数帯域特性を示す図
【図4】部分放電計測センサーを2つに分けてコイルエンドの両側に配置した変形例の部分放電計測センサーを示す図
【図5】図4に示す変形例の部分放電計測センサーによる計測原理を説明するための図
【図6】温度センサーにより部分放電を計測する構成を示す図
【図7】図6に示す温度センサー兼部分放電計測センサーによる部分放電計測時の周波数特性を示す図
【図8】図6に示す温度センサー兼部分放電計測センサーとコンデンサーのアドミタンスの関係を示す図
【図9】温度センサー兼部分放電計測センサーの変形例の構成を示す図
【図10】図6および図9に示す温度センサー兼部分放電計測センサーの回転電機への配置例を示す図
【図11】図6および図9に示す温度センサー兼部分放電計測センサーを2つに分けてコイルエンドの両側に配置した変形例の温度センサー兼部分放電計測センサーを示す図
【図12】図6および図9に示す温度センサー兼部分放電計測センサーの配線を一方のコイルエンドから他方のコイルエンドに引き回した場合の例を示す図
【図13】温度センサー兼部分放電計測センサーから出力される2本の配線を、固定子鉄心の円周方向の時計回りと反時計回りに分配して巻回した例を示す図
【図14】温度センサー兼部分放電計測センサーから出力される2本の配線を、固定子鉄心の円周方向の時計回りと反時計回りに分配して巻回した例を示す図
【図15】温度センサー兼部分放電計測センサーから出力される2本の配線を、固定子鉄心の円周方向の時計回りと反時計回りに分配して巻回した例を示す図
【図16】回転電機の軸方向の断面図
【図17】電気自動車あるいはハイブリッド電気自動車の駆動システムに用いるインバーターの回路構成を示す図
【図18】図16に示す回転電機と図17に示すインバータシステムを搭載したハイブリッド電気自動車の走行駆動システムを示す図
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明に係わる回転電機とその駆動制御装置および絶縁診断方法を、電気自動車またはハイブリッド電気自動車に搭載される回転電機に適用した一実施の形態を説明する。なお、本発明の回転電機とその制御装置および絶縁診断方法は、自動車に搭載される回転電機を対象としたものに限定されず、鉄道車両用の回転電機や建設車両や土木車両用の回転電機にも適用することができる。
【0009】
図1(a)は一実施の形態の構成を示すブロック図である。回転電機10はハイブリッド電気自動車の走行駆動源であり、ギヤまたはカップリング13によって車軸またはエンジンあるいはその他の回転電機12と機械的に連結されている。なお、回転電機10には、誘導機、同期機、直流機などのあらゆる種類の電動機および発電機を用いることができる。なお、この明細書において回転電機とは上述した誘導機、同期機、直流機などのあらゆる種類の回転電機であり、インバーターやコンバーターの駆動用電源により駆動されて駆動力を発生する電動機として機能するとともに、負荷側から駆動されて誘起電圧を発生する発電機としても機能する、いわゆるモーター・ジェネレーターである。
【0010】
回転電機10にはインバーター電源7によりインバーターパルス電圧が印加され、回転駆動されて駆動力を発生する。インバーター電源7は、バッテリー8の直流電源をDC−DCコンバーター71により昇圧し、コンデンサー72により平滑してインバーター73により交流電圧に変換する。インバーター電源7と回転電機10との間には遮断器11があり、インバーター電源7により回転電機10を駆動しながら絶縁診断する場合には遮断器11が接続(オン)状態にされ、回転電機10自体の誘起電圧により絶縁診断する場合には遮断器11が開放(オフ)される。
【0011】
回転電機10の中には気圧センサー1、湿度センサー2、温度センサー3および部分放電計測センサー4が内蔵されている。また、回転電機10には真空ポンプ15に接続するための外部配管およびバルブ16が設けられており、真空ポンプ15により回転電機10の内部の気圧を下げることができる。さらに、回転電機10には、インバーター電源7との間で電力の授受を行う電源用端子(不図示)とは別個に、外部電源14を接続するための外部電源端子17が設けられており、インバーター電源7に代わって外部電源14から外部電源端子17を介して回転電機10へ絶縁試験電圧を印加することができる。これらの外部配管およびバルブ16と真空ポンプ15、端子17と外部電源14については、詳細を後述する。
【0012】
部分放電計測器5は、回転電機10の内部に設置された部分放電計測センサー4により回転電機10の部分放電を計測する。部分放電計測器5は信号検出部51、ハイパスフィルター52および電圧計測器53を備えている。試験電圧を印加したときに部分放電計測センサー4により計測した部分放電信号は、信号検出部51により電圧信号に変換され、ハイパスフィルター52によりインバーターパルスノイズを除去した後、A/D変換器などの電圧計測器53によりデータに変換、計測される。計測した部分放電信号データは制御/データ処理装置6に送信される。
【0013】
制御/データ処理装置6は、CPU6aとメモリ6b、A/Dコンバーター6cなどの周辺部品から構成される。制御/データ処理装置6は、インバーター電源7を制御してインバーターパルス電圧を回転電機10へ印加し、部分放電計測センサー4および部分放電計測器5により回転電機10の部分放電を計測し、計測データに基づいて回転電機10の絶縁状態すなわち寿命を診断する。また、制御/データ処理装置6は、回転電機10の誘起電圧波形に基づいて部分放電を計測し、計測データに基づいて回転電機10の絶縁状態すなわち寿命を診断する。これらの絶縁診断方法については詳細を後述する。制御/データ処理装置6にはGPS受信機16とインターネット回線17が接続されており、自動車の現在位置の温度、湿度、気圧などの気象環境データを間接的に入手することができる。
【0014】
回転電機10の部分放電を計測するために回転電機10に印加する試験電圧としては、インバーター電源7により生成されるインバーターパルス電圧、回転電機10の回転によって発生する誘起電圧、および外部電源端子17を介して回転電機10に印加される試験電圧(パルス電圧や正弦波電圧など)がある。インバーター電源7のインバーターパルス電圧による部分放電計測は、DC−DCコンバーター71の出力直流電圧を通常運転時の定格電圧より高くし、インバーター73により通常運転時よりも高圧のインバーターパルス電圧を生成して回転電機10に印加して行う。なお、この計測方法ではインバーター電源7の耐圧は試験電圧以上にする必要がある。インバーターパルス電圧による部分放電計測は、回転電機10の巻線間、相間および対地間の絶縁部の部分放電を計測することができる。
【0015】
一方、回転電機10の誘起電圧による部分放電計測は、インバーター73により回転電機10の弱め界磁運転を行って通常運転時の回転速度よりも高い回転速度で運転し、その状態で強め界磁運転に切り換えて回転電機10で発生する誘起電圧を上昇させて行う。この計測方法においてもインバーター電源7の耐圧は試験電圧以上にする必要がある。誘起電圧による部分放電計測では、誘起電圧が正弦波になるため、相間と対地間の絶縁部の部分放電を計測できるが、巻線間には大きな電位差が生じないため、巻線間の絶縁部の部分放電を計測することはできない。
【0016】
外部電源14による部分放電計測は、遮断器11を開放(オフ)にして外部電源端子17に外部電源14を接続し、外部電源14によりパルス状または正弦波状の試験電圧を発生させて行う。パルス状の試験電圧によれば巻線間、相間および対地間の絶縁部の部分放電を計測でき、正弦波状の試験電圧によれば相間と対地間の絶縁部の部分放電を計測できる。外部電源14による部分放電計測では、遮断器11を開放して外部電源14および回転電機10とインバーター電源7とを遮断して行うため、インバーター電源7の耐圧を試験電圧以上にする必要がなく、インバーター電源7を安価に設計することができる。
【0017】
回転電機10の内部を低圧にすることによって、低い試験電圧で部分放電を計測することができる。上述した外部配管およびバルブ16に真空ポンプ15を接続し、回転電機10の内部気圧を低い値に保ちながら上述した部分放電計測を行うと、通常運転時の駆動電圧以下の試験電圧で部分放電を計測できる。この低圧による部分放電計測は上述した三つの部分放電計測方法のいずれとも併用することができ、部分放電計測に際して高耐圧のインバーター電源7や外部電源14が不要となる。
【0018】
図1(b)〜図1(d)は、制御/データ処理装置6のメモリ6bに記憶されている部分放電の計測データ61、62、63を示す。図1(b)において、制御/データ処理装置6によりインバーターパルス電圧で部分放電計測をした場合の計測データを610に、回転電機10の誘起電圧で部分放電計測をした場合の計測データを616に示す。インバーターパルス電圧による部分放電計測では、ハイパスフィルター52を通してもパルス電圧の急峻変化に伴うノイズが部分放電信号に残留する場合がある。このため、この一実施の形態では、はじめに回転電機10に印加される電圧の大きさがパッシェンの最低火花電圧である300V以下となるように、インバーター電源7のDC-DCコンバーター71を制御してインバーター73の直流電源電圧を調整し、インバーター73により直流電源をオン、オフしてインバーターパルス電圧611を生成し、回転電機10に印加する。このとき、部分放電計測器5では部分放電ではないインバーターパルスノイズ信号612が計測される。これを記録してから、次にDC−DCコンバーター71の電圧を徐々に昇圧し、回転電機10の通常運転電圧以上の電圧にする。その結果、インバーターパルス電圧613が高くなるとともに、インバーターパルスノイズ信号614も大きくなる。しかし、これとは別の位相で部分放電信号615が発生する。その後、電圧をさらに昇圧すると部分放電信号615が急増し、図1(c)に示すような印加電圧に対するPD(部分放電;Partial Discharge)信号強度特性62が得られる。一実施の形態のこの方式では実際にインバーターパルス電圧を印加して回転電機10の部分放電計測ができるため、インバーター駆動時に問題となる回転電機10の巻線間、相間、対地間の絶縁部の部分放電を計測して絶縁診断できる。
【0019】
しかし、DC−DCコンバーター71が限界設計されており高圧の試験電圧を生成できない場合や、そもそもDC−DCコンバーター71を内蔵していないインバーター電源では、通常運転電圧以上の電圧を回転電機10に印加することができない。この場合には、回転電機10に予め設置されている外部配管およびバルブ16を介して真空ポンプ15により回転電機10内部の気圧を下げる。これにより、回転電機10に印加する電圧を昇圧せずに、部分放電開始電圧を試験中のみ相対的に低下させることができ、低い試験電圧で部分放電を計測することができる。
【0020】
一方、回転電機10の誘起電圧による部分放電の計測方法では、回転電機10が回転しているときは、図1(b)に示す誘起電圧による部分放電の計測データ616のように、回転電機10に正弦波状の誘起電圧617が発生する。回転電機10の回転速度が高くなると、誘起電圧618も高くなって部分放電信号619が発生する。その後、誘起電圧618がさらに高くなると部分放電信号619が急増し、図1(c)に示すような誘起電圧に対するPD信号強度特性62が得られる。部分放電計測器5は、部分放電計測センサー4の出力信号から正弦波状の誘起電圧信号を除去し、部分放電信号619を抽出する。
【0021】
この計測方法では正弦波状の誘起電圧617,618を試験電圧として部分放電計測を行うので、上述したように回転電機10の巻線間に発生する部分放電を計測することはできない。しかし、例えば、インバーターパルス電圧611、613で部分放電が計測された際に、誘起電圧による計測方法を併せて実施することによって、それが相間および対地間の絶縁部の部分放電なのか、巻線間の絶縁部の部分放電であるのか区別することができる。これにより、回転電機10の絶縁劣化箇所の特定と対策ができる利点がある。
【0022】
上述した一実施の形態ではインバーターパルス電圧による部分放電計測と、誘起電圧による部分放電計測とを同時に実行する例を示したが、それらを別の機会に実施し、それぞれの部分放電計測データを合わせて絶縁診断を行うようにしてもよい。
【0023】
次に、以上の計測方法により求めた印加電圧または誘起電圧に対するPD信号強度特性62は、図1(c)に示すように、回転電機10の使用開始からの経時に応じて初期特性621、中期特性622、後期特性623のように変化する。これらの初期から後期までの各PD信号強度特性621〜623の立ち上がり部分の電圧、つまり部分放電開始電圧(PDIV(Partial Discharge Inception Voltage))は、回転電機10の使用開始からの経時に応じて初期値PDV1、中期値PDV2、後期値PDV3のように徐々に低下する。そこで、回転電機10の使用開始からの経時に応じたPDIVの初期値PDIV1、中期値PDIV2、後期値PDIV3を計測し、PDIVの経時変化を求める。
【0024】
このとき、事前に測定しておいた回転電機10の温度、湿度、気圧とこれらの環境条件に対するPDIVの依存性データベースを使ってPDIVの計測データを補正し、特定の環境条件、例えば、温度27℃、湿度50%、気圧1013hPaのPDIVに変換する。これにより、負荷条件および環境条件の影響が少なく、絶縁劣化特性のみを反映した運転時間に対するPDIVのグラフ63(図1(d)参照)が得られる。得られたグラフ63のPDIVの劣化カーブを予めデータベースに蓄えておいた絶縁劣化に伴うPDIVの劣化カーブと比較し、どのカーブでカーブフィティングできるかを求める。このカーブの外挿線が通常運転電圧(回転電機10を通常運転するときの駆動電圧)と交わるところが回転電機10の寿命となる。また、現在のPDIV(PDIV3)と寿命までの間の時間が回転電機10の余寿命となる。熱劣化の影響が大きい場合には劣化カーブは下に凸の劣化カーブ633となり、機械劣化の影響が大きい場合には上に凸の劣化カーブ631となり、熱劣化と機械劣化が同等の場合には中間の劣化カーブ632となる。
【0025】
なお、部分放電計測に際し、外部配管およびバルブ16から回転電機10に窒素ガスを送入して回転電機10の内部の気圧と湿度をそれぞれ所定の値に調節するとともに、ハイブリッド電気自動車のオートマチックオイルの温度を調節して回転電機10の内部の温度を所定の値にすることができる。また、上述した熱劣化と機械劣化の他に、耐油劣化および耐加水分解劣化に応じたPDIVの劣化カーブを予めデータベースに蓄えておき、計測結果のPDIVの劣化カーブとカーブフィッティングして余寿命を予測するようにしてもよい。
【0026】
以上の方法によって回転電機10の絶縁診断、特に運転中の部分放電計測ができる。従来は、このデータが回転電機の負荷条件および環境条件で大きくばらつき、劣化傾向がうまく見分けられなかったが、この一実施の形態では、特に、回転電機10の温度、湿度、気圧を直接あるいは間接的に計測し、PDIVの計測データを補正しているため、バラツキが少ない信頼できる絶縁診断と余寿命予測ができる。
【0027】
なお、上述したように一実施の形態の回転電機10には真空ポンプ15を接続する外部配管およびバルブ16と、外部電源14を接続する外部電源端子17が予め設けられている(図1(a)参照)。このため、運転中の自己絶縁診断だけでなく、定期的な検査、例えば車検などの際にも、回転電機10の環境条件(気圧、湿度、温度)をコントロールしながら、外部の任意試験電圧波形で回転電機10を診断することができる。従来の電気自動車用およびハイブリッド電気自動車用の回転電機では、一実施の形態の真空ポンプ接続用の外部配管およびバルブ16と、外部電源接続用の外部電源端子17がないため、定期的な検査などの際にも回転電機10をギヤBOXなどから取り外さないと絶縁診断を実施できなかったが、上述したような外部配管およびバルブ16と外部電源端子17を予め回転電機10に設置したことによって、車検の際にも回転電機10に容易にアクセスでき、絶縁診断を実施することができる。
【0028】
《部分放電の計測方法1》
図2は部分放電計測センサー4と温度センサー3の構造と取り付け位置を示し、(a)は回転電機10(図1(a)参照)の固定子鉄心(ステーターコア)20と固定子巻線(ステーターコイル)のコイルエンド21の側面図、(b)は固定子鉄心20とコイルエンド21の三相UVWの口出し(端子)24〜26側の正面図である。コイルエンド21は、回転電機10の固定子鉄心20から左右の軸方向に飛び出している。温度センサー3は、回転電機10の固定子コイルの温度が最も高くなると推定されるコイルエンド表面に貼り付けられる。温度センサー3には、半導体素子を使ったサーミスタや熱電対、白金の測定温度抵抗体などを使用する。
【0029】
部分放電計測センサー4は、三相UVWの口出し24、25、26側のコイルエンド21の近傍に、固定子巻線全体の部分放電を計測できるように固定子鉄心20の全周に沿って巻回して配設される。部分放電計測センサー4には、MHz〜GHz帯域の電磁波を計測するアンテナとして動作する導電線材を使用する。なお、部分放電計測センサー4を三相UVWの口出し24〜26と反対側のコイルエンド21に配置してもよい。また、口出し24〜26はインバーター電源7から回転電機10との間で電力の授受を行う端子であり、上述した外部電源14との間で電力の授受を行う外部電源端子17とは別のものである。
【0030】
図3に部分放電計測センサー4の周波数帯域特性を示す。図において、破線は最大試験電圧を印加したときの最大インバーターパルスノイズの周波数スペクトル122を示し、実線は検出すべき最小部分放電信号の周波数スペクトル121を示す。インバータパルスノイズの周波数スペクトル122と最小部分放電信号の周波数スペクトル121との交点を遮断周波数fcaとしたとき、一実施の形態では遮断周波数fcaよりも高域123を通過させる部分放電計測器5のハイパスフィルター52を使用している(図1(a)参照)。このため、インバータパルス電圧でも必要な部分放電検出感度を確保して部分放電を計測し、絶縁診断を行うことができる。なお、部分放電計測センサー4についても高域通過フィルターと同じ遮断周波数特性のセンサーを用いると、部分放電信号とインバータパルスノイズのS/N比がより高くなる。
【0031】
インバーターパルスノイズから部分放電信号を分離するには、上述したハイパスフィルター52による方法以外に、図1(b)に示すようにインバーターパルスノイズ614と部分放電信号615との位相差により分離することもできる。図1(b)において、インバーターパルス電圧で部分放電計測を行った場合のデータ610に示すように、インバーターパルスノイズ614は、インバーターパルス電圧613の立ち上がりおよび立ち下がりに同期して発生するが、部分放電信号615の発生位相はインバーターパルスノイズ614と発生位相と異なる。したがって、予め想定されるインバーターパルスノイズ614の発生位相と異なる位相において発生した信号を部分放電信号615として計測することができる。
【0032】
《部分放電の計測方法2》
図4は、部分放電計測センサーを2つに分けてコイルエンド21の両側に配置した変形例の部分放電計測センサー4a、4bを示し、(a)は固定子鉄心20と固定子巻線のコイルエンド21の側面図、(b)は固定子鉄心20とコイルエンド21の三相UVWの口出し24〜26側の正面図である。この変形例では、一方の部分放電計測センサー4aが、三相UVWの口出し24、25、26側と反対側のコイルエンド21の近傍に、固定子コイル全体の部分放電を計測できるように固定子鉄心20の全周に沿って巻回して配設され、また、他方の部分放電計測センサー4bが、三相UVWの口出し24、25、26側のコイルエンド21の近傍に、固定子コイル全体の部分放電を計測できるように固定子鉄心20の全周に沿って巻回して配設され、反口出し側の部分放電計測センサー4aと口出し側の部分放電計測センサー4bとが直列に接続される。これにより、インバーターパルスノイズをさらに低減し、部分放電信号を高感度で計測することができる。なお、温度センサー3については図2に示す計測方法2と同様であり、説明を省略する。
【0033】
図5は、図4に示す変形例の部分放電計測センサー4a、4bによる計測原理を説明するための図である。なお、図5では温度センサー3の図示を省略している。インバーターパルス電圧に伴う電流は、例えば、図5(a)に示す矢印141のように回転電機10の軸方向に対し左から右(あるいは右から左)に一方向に流れる。このため、部分放電計測センサー4a、4bの極性を合わせて向かい合わせに配置した場合には、図5(c)、(d)に示すように、部分放電計測センサー4a、4bに流れるインバーターパルス電圧にともなう電流1410、1411は互いに逆極性になる。一方、部分放電が発生した場合には、部分放電計測センサー4a、4bに流れる電流1420、1421はともに部分放電箇所に向かって流れるため、同極性となる。したがって、部分放電計測センサー4a、4bを直列に接続すると、図5(e)に示すように、インバーターパルス電圧にともなう電流1410と1411は互いに打ち消し合って消滅し、部分放電に伴う電流1420と1421は互いに強め合って大きな電流1422になる。この変形例の放電計測センサー4a、4bは、図2に示す放電計測センサー4よりも高感度に部分放電を計測することができる。
【0034】
《部分放電の計測方法3》
温度センサーを使った従来の高電圧回転電機の部分放電計測では、回転電機の急激な温度変化とともに温度センサーのインピーダンスが大きく変化するため、部分放電計測感度が大きく変化するという問題があった。このため、図1〜図5に示す部分放電の計測方法1、2では温度センサー3と部分放電計測センサー4とを分離した。しかし、電気自動車およびハイブリッド電気自動車では小型、軽量化、部品点数削減に対するニーズが高く、このようなニーズに応えるために温度センサーを改良し、負荷変動や温度変化の大きい電気自動車およびハイブリッド電気自動車において温度センサーを使って部分放電を計測する例を以下に説明する。
【0035】
図6は温度センサー41により部分放電を計測する構成を示す。この計測方法では、回転電機10の温度を計測するための温度センサー41にコンデンサー42が並列に接続される。コンデンサー42は温度センサー41の近くに配置される。このコンデンサー42を接続した温度センサー41(以下では、温度センサー兼部分放電計測センサー41と呼ぶ)は、図6に示すように部分放電計測器5に接続されるとともに、図1(a)に示す制御/データ処理装置6の温度計測ポートに接続される。ここで、一般に温度センサー41には温度依存性が大きいサーミスタなどの半導体素子や熱電対、測温抵抗体などが使用されるが、温度変化に対するインピーダンスや端子電圧の変化が大きく、温度計測感度がよくなればなるほど部分放電計測感度の温度変化が著しくなるという問題があった。この温度センサー41による部分放電の計測方法では、温度センサー41に並列にコンデンサー42を接続しているため、ミリ秒から分オーダーの低周波の温度時間変化に対しては温度センサー41から温度計測信号が出力され、温度センサー41として機能する。一方、MHzからGHzの高周波の部分放電信号変化があるとコンデンサー42を介して温度センサー41の両端が短絡され、部分放電計測センサーとして機能する。この結果、電気自動車およびハイブリッド電気自動車のように急激な負荷変動や温度変化がある回転電機10に対しても温度センサー41を使って部分放電の計測が可能となる。
【0036】
図7は、図6に示す温度センサー兼部分放電計測センサー41による部分放電計測時の周波数特性を示す。図において、破線は最大試験電圧を印加したときの最大インバーターパルスノイズの周波数スペクトル132を示し、実線は検出すべき最小部分放電信号の周波数スペクトル131を示す。インバータパルスノイズの周波数スペクトル132と最小部分放電信号の周波数スペクトル131の交点を遮断周波数fccとしたとき、この温度センサー41による計測方法では遮断周波数fccよりも高域133を通過させるように、並列コンデンサー42の静電容量Cと部分放電計測器5の信号検出部51のインピーダンス|Z|を調整する。このため、インバータパルス電圧でも必要な部分放電検出感度を確保して部分放電を計測し、絶縁診断を行うことができる。
【0037】
図8は、図6に示す温度センサー兼部分放電計測センサー41とコンデンサー42のアドミタンスの関係を示す。図6に示す部分放電の計測方法では、温度センサー41が持つ固有の最大アドミタンス|Ytm|と、並列に接続されるコンデンサー42のアドミタンス|Yc|との交点の周波数fcmをfcm≦fccとしている。このため、部分放電を計測する高周波帯域(≧fcc)では温度センサー41よりもコンデンサー42のアドミタンスが大きくなって温度センサー41の両端がコンデンサー42により短絡され、温度センサー41の温度特性の影響を受けずに部分放電を安定に計測することができる。
【0038】
具体的には、例えばfcc=100MHzとし、部分放電検出器5の信号検出部51の入力インピーダンスが直流カットのための結合コンデンサーを含めfcc=100MHz で150Ωである場合、図8に示す式からC=10pFとなる。この静電容量に対し、図8のアドミタンス|Yc|特性が求められる。温度センサー41の固有の最大アドミタンス|Ytm|の交点の周波数fcmをfcm≦fccにするためには、|Ytm|≦2π・fcc・C=0.006・Sと求めることができ、そのような温度センサー41を選定することによって図6に示す温度センサー41による温度と部分放電の計測を実現することができる。なお、上記の数値は一例であり、上述したような方法で回路定数を最適化すれば他の回路定数であっても温度センサー41による温度と部分放電の計測が可能である。
【0039】
《部分放電の計測方法4》
図9は、温度センサー兼部分放電計測センサー41の変形例の構成を示す。上述した図6に示す計測方法では、温度センサー41の両端にコンデンサー42を接続して部分放電を計測する方法を示したが、ここではコンデンサーを接続せずに温度センサー41から引き出されるリード線を平行に近接させて樹脂などでモールドして固定し(図中に500で示す部分)、温度センサー41の近くに並列に静電容量500を付加している(以下では、静電容量500を付加した温度センサー41を温度センサー兼部分放電計測センサー41と呼ぶ)。温度センサー兼部分放電計測センサー41は、図9に示すように部分放電計測器5に接続されるとともに、図1(a)に示す制御/データ処理装置6の温度計測ポートに接続される。この計測方法によれば、図7に示す効果と同様な効果が得られる上に、図6に示す計測方法に比べコンデンサー42が不要になり、部品点数の削減とともに接続作業工数を削減できる。
【0040】
図10は、図6および図9に示す温度センサー兼部分放電計測センサー41の回転電機10への配置例を示し、(a)は回転電機10(図1(a)参照)の固定子鉄心20と固定子巻線のコイルエンド21の側面図、(b)は固定子鉄心20とコイルエンド21の三相UVWの口出し24〜26側の正面図である。温度センサー兼部分放電計測センサー41は回転電機10の中で最も温度が高くなると想定されるコイルエンド21の表面位置に固定され、温度センサー兼部分放電計測センサー41の出力線はコイルエンド21の近傍に固定子鉄心20の全周に沿わせて巻回される。このようにすることで回転電機10のコイル全体の部分放電を捉えることができる。
【0041】
《部分放電の計測方法5》
図11は、図6および図9に示す温度センサー兼部分放電計測センサーを2つに分けてコイルエンド21の両側に配置した変形例の温度センサー兼部分放電計測センサー41a、41bを示し、(a)は回転電機10(図1(a)参照)の固定子鉄心20と固定子巻線のコイルエンド21の側面図、(b)は固定子鉄心20とコイルエンド21の三相UVWの口出し24〜26側の正面図である。温度センサー兼部分放電計測センサー41aと41bはそれぞれ、回転電機10の軸方向の左右のコイルエンド21の近傍に、固定子コイル全体の部分放電を計測できるように固定子鉄心20の全周に沿って巻回して配設され、温度センサー兼部分放電計測センサー41aと41bはコンデンサー43を介して接続される。このような構成とすることによって、ミリ秒から分オーダーまでの低周波の温度時間変化に対しては温度センサー兼部分放電計測センサー41aと41bがそれぞれ独立した温度センサーとして機能する。一方、MHzからGHzまでの高周波の部分放電信号変化があると、温度センサー兼部分放電計測センサー41a、41bの両端が短絡され、部分放電計測センサーとして機能する。このように、温度センサー兼部分放電計測センサーを2つに分けることによって、図4に示す2つの部分放電計測センサー4a、4bを直列接続した場合の図5に示す効果と同様な効果が得られ、インバータパルスノイズを低減しながら部分放電をより高感度で計測することが可能になる。
【0042】
《部分放電の計測方法6》
図12は、図6および図9に示す温度センサー兼部分放電計測センサー41の配線を一方のコイルエンド21から他方のコイルエンド21に引き回した場合の例を示し、(a)は回転電機10(図1(a)参照)の固定子鉄心20と固定子巻線のコイルエンド21の側面図、(b)は固定子鉄心20とコイルエンド21の三相UVWの口出し24〜26側の正面図である。上述した図11に示す部分放電の計測方法5では、2つの温度センサー兼部分放電計測センサー41a、41bを用いているため、温度を2点で計測できるメリットがある反面、センサーが2つになり部品点数が増加する上に、センサー41a、41bどうしを接続するコンデンサー43が必要になる。これに対し図12に示す計測方法6では、温度測定点は1つであるが、単一の温度センサー兼部分放電計測センサー41の配線を一方のコイルエンド21から他方のコイルエンド21に連続して引き回すことによって、部品点数を削減しつつ、インバータパルスノイズを低減し、部分放電をより高感度で計測することを可能にしている。
【0043】
《部分放電のその他の計測方法》
図10〜図12に示す温度センサー兼部分放電計測センサー41、(41a、41b)から出力される2本の配線を、固定子鉄心20の円周方向の時計回りと反時計回りに分配して巻回した例を図13〜図15に示す。図13〜図15において、(a)は回転電機10(図1(a)参照)の固定子鉄心20と固定子巻線のコイルエンド21の側面図、(b)は固定子鉄心20とコイルエンド21の三相UVWの口出し24〜26側の正面図である。上述した図10〜図12では温度センサー兼部分放電計測センサー41、(41a、41b)から出力される2本の配線を平行に配設していたため、配線間の静電容量が大きいと部分放電信号が配線間で漏れて短絡するおそれがあり、配線の絶縁部材を厚くする必要があった。これに対し図13〜図15に示すように温度センサー兼部分放電計測センサー41、(41a、41b)から出力される2本の配線を固定子鉄心20の全周の時計回りと反時計回りに分配することによって、配線間の漏れ静電容量を低減すると同時に、回転電機10の軸方向に伝播する部分放電の電磁波を効率的に捕らえることができる。
【0044】
ここで、上述した一実施の形態の電動車両用回転電機10とその駆動制御装置を電気自動車およびハイブリッド電気自動車に搭載した場合の利点について述べる。電気自動車およびハイブリッド電気自動車に搭載する回転電機は、(1)インバーター電源により駆動されるため、対地間絶縁だけでなく、相間絶縁と巻線間絶縁にも高電圧が印加される、(2)加速時や減速時に過大な電流が流れ、急激な温度変化が発生する、(3)自動車であるため、様々な環境下で使用される、(4)耐部分放電劣化特性に乏しい有機材料を使用しており、部分放電の発生が許容されない、(5)ギアボックスなどと一体設計になっており、自動車に組み込んだ後に解体して絶縁診断を行うのが困難など、高電圧大型回転電機とは印加電圧波形、運転条件、絶縁システム、構造が大きく異なり、上述した従来の高電圧大型回転電機に対する絶縁診断方法を適用することができない。特に、従来の絶縁診断方法では運転中に部分放電計測を行うことは不可能である。
【0045】
また、回転電機をインバーター電源で駆動した場合には、(1)インバーターパルスノイズと部分放電信号との分離が困難、(2)急激な温度変化とともに温度センサーのインピーダンス特性が大きく変化するため、温度センサーを使った部分放電計測では部分放電信号の計測感度が大きく変化し、安定したデータ計測と信頼できる絶縁診断ができない、(3)急激な負荷変動と温度変化があるため、絶縁劣化にともなう部分放電特性変化よりも負荷変動と温度変化にともなう部分放電特性変化が大きく、絶縁劣化傾向がつかめない、(4)任意の1スロットの部分放電計測結果で回転電機の概略の絶縁劣化傾向がつかめるが、回転電機コイルすべての部分放電計測、絶縁劣化診断をしているわけではない、(5)耐部分放電劣化特性に優れた材料を使用していないので、部分放電が発生すると短時間で破壊にいたるため、従来よりも高精度な部分放電計測と絶縁診断が必要である、などの問題がある。
【0046】
上述した一実施の形態とその変形例の電動車両用回転電機10およびその駆動制御装置によれば、従来の絶縁診断方法の上述した問題を解決でき、インバーター電源により駆動される電動車両用回転電機の絶縁状態を、電動車両から回転電機を取り外すことなく通常の運転中に容易にかつ安価に診断することができる。
【0047】
《回転電機10の構成例》
図16は回転電機10の軸方向の断面図である。回転電機10は、ステーター(固定子)150と、ステーター150の内周側に空隙を介して配置され、かつ回転可能に支持されているローター(回転子)151から構成されている。ステーター150とローター151は回転電機のハウジング152内に保持されている。
【0048】
ステーター150は、ステーターコア(固定子鉄心)153とステーターコイル(固定子巻線)154とから構成されている。ステーターコア153は、薄板の鋼板をプレス成形により所定の形状とした後、それらを積層したものである。ステーターコア153は、環状のヨークコアと、ヨークコアから径方向に突出し周方向に等間隔に配置された複数のティースコアとから構成されており、ヨークコアとティースコアは一体に形成されている。ステータコア153の内周部には、ステータコア153の内周表面側が開口して軸方向に連続した複数のスロットが形成されている。このスロットは、周方向に隣接するティースコア間に形成された溝状の空間部である。この一実施の形態では48個のスロットが形成されている。ステーターコイル154は分布巻きで、ステーターコア153のティースコアに巻回されている。ここで、分布巻きとは、コイルが複数のスロットを跨いで(あるいは挟んで)離間した2つのスロットに収納されるように、ステーターコア153に巻かれる巻線方式である。
【0049】
ステーターコイル154は、コイル導体を積層しながら連続的に巻回したU相ステーターコイルと、V相ステーターコイル、W相ステーターコイルとから構成されている。ステーターコイル154は、自動巻線機を用いて巻き枠に所定の順序で予め巻回され、その後自動挿入機を用いてステーターコア153のスロット155の入口部からスロット内に挿入され、ステーターコア153に巻かれる。ステーターコイル154は、U相ステーターコイル,V相ステーターコイル,W相ステーターコイルの順にスロット内に挿入される。ステーターコイル154のコイルエンド部は、スロット155から軸方向両側に突出し、ステーターコア153の軸方向両端面に配置されている。
【0050】
ローター151は、ローターコア156、永久磁石155およびシャフト157から構成されている。ローターコア156は、薄板の鋼板をプレス成形により所定の形状とした上で積層し、シャフト157に固定したものである。ローターコア156の外周部には、軸方向に貫通した複数の磁石挿入孔が周方向に等間隔で形成されている。この一実施の形態では8個の磁石挿入孔が形成されている。永久磁石挿入孔のそれぞれには永久磁石155が挿入され、固定されている。シャフト157は、ハウジング152の両側にそれぞれ固定されたエンドブラケット158F,158Rに軸受159F,159Rを介して回転可能に支承されている。
【0051】
《インバーター7の構成例》
図17は、電気自動車あるいはハイブリッド電気自動車の駆動システムに用いるインバーターINVの回路構成を示す。インバーターINVは、2個のインバーターINV1,INV2から構成されている。インバーターINV1,INV2の構成は同じである。インバーターINV1,INV2は、それぞれパワーモジュールPMと、ドライバーユニットDUから構成される。ドライバーユニットDUは、モーター制御ユニットMCUによって制御される。パワーモジュールPMにはバッテリーBAから直流電力が供給され、インバーターINV1,INV2はそれぞれ直流電力を交流電力に変換してモーター・ジェネレーターFMG,RMGに供給する。また、モーター・ジェネレーターFMG,RMGが発電機として動作するときには、発電機(ジェネレーター)の出力をインバーターINV1,INV2によって直流電力に変換するとともに、図示しないDC−DCコンバーターで電圧の大きさをコントロールしてバッテリーBAに蓄電される。
【0052】
インバーターINV1のパワーモジュールPMは6つのアームから構成され、車載用直流電源であるバッテリーBAから供給される直流を交流に変換して回転電機であるモーター・ジェネレーターFMG,RMGに電力を供給する。パワーモジュールPMの上記6つのアームは、半導体のスイッチング素子としてIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)を使用している。半導体のスイッチング素子としてはIGBT以外に電力用MOS‐FET(Metal Oxide Semiconductor‐Field Effect Transistor)を使用することができる。
【0053】
IGBTは動作速度が速いメリットがある。過去には電力用MOS‐FETが使用できる電圧が低かったので、高電圧用のインバーターはIGBTで作られていた。しかし、最近は電力用MOS‐FETの使用できる電圧が高くなり、車両用インバーターではどちらも半導体スイッチング素子として使用可能である。電力用MOS‐FETの場合は半導体の構造がIGBTに比べてシンプルであり、半導体の製造工程がIGBTに比べ少なくなるメリットがある。
【0054】
図17において、U相,V相,W相の各相の上アームと下アームとはそれぞれ直列に接続されている。U相とV相とW相の各上アームのそれぞれのコレクター端子(電力用MOS‐FET使用の場合はドレーン端子)はバッテリーBAの正極側に接続される。一方、U相とV相とW相の各下アームのそれぞれのエミッター端子(電力用MOS‐FETの場合はソース端子)は、バッテリーBAの負極側に接続される。
【0055】
U相上アームのエミッター端子(電力用MOS‐FETの場合はソース端子)と、U相下アームのコレクター端子(電力用MOS‐FETの場合はドレーン端子)との接続点は、モーター・ジェネレーターFMG(RMG)のU相端子に接続され、U相電流が流れる。電機子巻線(永久磁石型同期モーターの固定子巻線)がY結線の場合は、U相巻線の電流が流れる。V相上アームのエミッター端子(電力用MOS‐FETの場合はソース端子)と、V相下アームのコレクター端子(電力用MOS‐FETの場合はドレーン端子)との接続点は、モーター・ジェネレーターFMG(RMG)のV相の電機子巻線(固定子巻線)のV相端子に接続され、V相電流が流れる。固定子巻線がY結線の場合は、V相巻線の電流が流れる。W相上アームのエミッター端子(電力用MOS‐FETの場合はソース端子)と、W相下アームのコレクター端子(電力用MOS‐FETの場合はドレーン端子)との接続点は、モーター・ジェネレーターFMG(RMG)のW相端子に接続される。固定子巻線がY結線の場合は、W相巻線の電流が流れる。バッテリーBAから供給される直流電力を交流電力に変換して、モーター・ジェネレーターFMG(RMG)のステーターを構成するU相、V相、W相の3相ステーターコイルに供給することによって、3相のステーターコイルに流れる電流により発生する起磁力でローターが回転駆動する。
【0056】
モーター制御ユニットRMによりゲート信号を発生するドライバーユニットDUが制御され、各相のドライバーユニットから各相の半導体スイッチング素子へゲート信号が供給される。このゲート信号により各アームの導通、非導通(遮断)が制御される。その結果、供給された直流は三相交流に変換される。三相交流の生成については周知であるから、ここでは詳細な動作説明を省略する。
【0057】
《ハイブリッド電気自動車の構成例》
図18は、図16に示す回転電機10と図17に示すインバータシステムを搭載したハイブリッド電気自動車の走行駆動システムを示す。図18に示すハイブリッド電気自動車は、内燃機関であるエンジンENと、上述した回転電機10からなるフロント側モーター・ジェネレーターFMGによって前輪WH−Fを、回転電機10からなるリア側モーター・ジェネレーターRMGによって後輪WH−Rをそれぞれ駆動するように構成された四輪駆動式の車両である。なお、この一実施の形態では、エンジンENとフロント側モーター・ジェネレーターFMGによって前輪WH−Fを、リア側モーター・ジェネレーターRMGによって後輪WH−Rをそれぞれ駆動する場合について説明するが、エンジンENと上述した回転電機10からなるフロント側モーター・ジェネレーターFMGによって後輪WH−Rを、リア側モーター・ジェネレーターRMGによって前輪WH−Fをそれぞれ駆動するようにしてもよい。
【0058】
前輪WH−Fの前輪車軸DS−Fには、フロント側差動装置FDFを介して変速機TMが機械的に接続されている。変速機TMには出力制御機構(図示省略)を介してエンジンENとモーター・ジェネレーターMGが機械的に接続されている。出力制御機構(図示省略)は、回転出力の合成や分配を司る機構である。フロント側モーター・ジェネレーターMGの固定子巻線にはインバーターINVの交流側が電気的に接続されている。インバーターINVは、直流電力を三相交流電力に変換する電力変換装置であり、モーター・ジェネレーターMGの駆動を制御するものである。インバーターINVの直流側にはバッテリーBAが電気的に接続されている。
【0059】
後輪WH−Rの後輪車軸DS−R1,DS−R2には、リア側差動装置RDFとリア側減速機RGを介してリア側モーター・ジェネレーターRMGが機械的に接続されている。リア側モーター・ジェネレーターRMGの固定子巻線には、インバーターINVの交流側が電気的に接続されている。ここで、インバーターINVはフロント側モーター・ジェネレーターMGFとリア側モーター・ジェネレーターRMGに対して共用のものであり、モーター・ジェネレーターMG用の変換回路部と、リア側モーター・ジェネレーターRMGの変換回路部と、それらを駆動するための駆動制御部とを有する。
【0060】
ハイブリッド電気自動車の始動時および低速走行時(エンジンENの運転効率(燃費)が低下する走行領域)は、フロント側モーター・ジェネレーターFMGによって前輪WH−Fを駆動する。なお、この一実施の形態では、ハイブリッド電気自動車の始動時および低速走行時、フロント側モーター・ジェネレーターFMGによって前輪WH−Fを駆動する場合について説明するが、フロント側モーター・ジェネレーターFMGによって前輪WH−Fを駆動し、リア側モーター・ジェネレーターRMGによって後輪WH−Rを駆動するようにしてもよい(四輪駆動走行をしてもよい)。インバーターINVにはバッテリーBAから直流電力が供給される。供給された直流電力はインバーターINVによって三相交流電力に変換される。これによって得られた三相交流電力はフロント側モーター・ジェネレーターFMGの固定子巻線に供給される。これにより、フロント側モーター・ジェネレーターFMGが駆動され、回転出力を発生する。この回転出力は出力制御機構(図示省略)を介して変速機TMに入力される。入力された回転出力は変速機TMによって変速され、差動装置FDFに入力される。入力された回転出力は差動装置FDFによって左右に分配され、前輪WH−Fの一方における前輪車軸DS−Fと前輪WH−Fの他方における前輪車軸DS−Fにそれぞれ伝達される。これにより、前輪車軸DS−Fが回転駆動される。そして、前輪車軸DS−Fの回転駆動によって前輪WH−Fが回転駆動される。
【0061】
ハイブリッド電気自動車の通常走行時(乾いた路面を走行する場合であって、エンジンENの運転効率(燃費)が良い走行領域)は、エンジンENによって前輪WH−Fを駆動する。このため、エンジンENの回転出力は出力制御機構(図示省略)を介して変速機TMに入力される。入力された回転出力は変速機TMによって変速される。変速された回転出力はフロント側差動装置FDFを介して前輪車軸DS−Fに伝達される。これにより、前輪WH−Fが回転駆動される。また、バッテリーBAの充電状態を検出し、バッテリーBAを充電する必要がある場合は、エンジンENの回転出力を、出力制御機構(図示省略)を介してフロント側モーター・ジェネレーターFMGに分配し、フロント側モーター・ジェネレーターFMGを回転駆動する。これにより、フロント側モーター・ジェネレーターFMGは発電機として動作する。この動作により、フロント側モーター・ジェネレーターFMGの固定子巻線に三相交流電力が発生する。この発生した三相交流電力はインバーターINVによって所定の直流電力に変換される。この変換によって得られた直流電力はバッテリーBAに供給される。これにより、バッテリーBAが充電される。
【0062】
ハイブリッド電気自動車の四輪駆動走行時(雪道などの低μ路を走行する場合であって、エンジンENの運転効率(燃費)が良い走行領域)は、リア側モーター・ジェネレーターRMGによって後輪WH−Rを駆動する。また、上述した通常走行と同様に、エンジンENによって前輪WH−Fを駆動する。さらに、リア側モーター・ジェネレーターRMGの駆動によってバッテリーBAの蓄電量が減少するので、上記通常走行と同様に、エンジンENの回転出力によってフロント側モーター・ジェネレーターFMGを回転駆動してバッテリーBAを充電する。リア側モーター・ジェネレーターRMGによって後輪WH−Rを駆動するめに、インバーターINVにはバッテリーBAから直流電力が供給される。供給された直流電力はインバーターINVによって三相交流電力に変換され、この変換によって得られた交流電力がリア側モーター・ジェネレーターRMGの固定子巻線に供給される。これにより、リア側モーター・ジェネレーターRMGは駆動され、回転出力を発生する。発生した回転出力は、リア側減速機RGによって減速され、差動装置RDFの入力される。入力された回転出力は差動装置RDFによって左右に分配され、後輪WH−Rの一方における後輪車軸DS−R1,DS−R2と後輪WH−Rの他方における後輪車軸DS−R1,DS−R2にそれぞれ伝達される。これにより、後輪車軸DS−F4回転駆動される。そして、後輪車軸DS−R1,DS−R2の回転駆動によって後輪WH−Rが回転駆動される。
【0063】
ハイブリッド電気自動車の加速時は、エンジンENとフロント側モーター・ジェネレーターFMGによって前輪WH−Fを駆動する。なお、この一実施の形態ではハイブリッド電気自動車の加速時、エンジンENとフロント側モーター・ジェネレーターFMGによって前輪WH−Fを駆動する場合について説明するが、エンジンENとフロント側モーター・ジェネレーターFMGによって前輪WH−Fを駆動し、リア側モーター・ジェネレーターRMGによって後輪WH−Rを駆動するようにしてもよい(四輪駆動走行をしてもよい)。エンジンENとフロント側モーター・ジェネレーターFMGの回転出力は出力制御機構(図示省略)を介して変速機TMに入力される。入力された回転出力は変速機TMによって変速される。変速された回転出力は差動装置FDFを介して前輪車軸DS−Fに伝達される。これにより、前輪WH−Fが回転駆動される。
【0064】
ハイブリッド電気自動車の回生時(ブレーキを踏み込み時,アクセルの踏み込みを緩めた時あるいはアクセルの踏み込みを止めた時などの減速時)は、前輪WH−Fの回転出力を前輪車軸DS−F,差動装置FDF、変速機TM、出力制御機構(図示省略)を介してフロント側モーター・ジェネレーターFMGに伝達し、フロント側モーター・ジェネレーターFMGを回転駆動する。これにより、フロント側モーター・ジェネレーターFMGは発電機として動作する。この動作により、フロント側モーター・ジェネレーターFMGの固定子巻線に三相交流電力が発生する。この発生した三相交流電力はインバーターINVによって所定の直流電力に変換される。この変換によって得られた直流電力はバッテリーBAに供給される。これにより、バッテリーBAは充電される。一方、後輪WH−Rの回転出力を後輪車軸DS−R1,DS−R2,車両用出力伝達装置100の差動装置RDF、減速機RGを介してリア側モーター・ジェネレーターRMGに伝達し、リア側モーター・ジェネレーターRMGを回転駆動する。これにより、リア側モーター・ジェネレーターRMGは発電機として動作する。この動作により、リア側モーター・ジェネレーターRMGの固定子巻線に三相交流電力が発生する。この発生した三相交流電力はインバーターINVによって所定の直流電力に変換される。この変換によって得られた直流電力はバッテリーBAに供給される。これにより、バッテリーBAが充電される。
【0065】
以上のように、複雑な動作をするハイブリッド電気自動車や電気自動車に本発明の回転電機の絶縁診断装置を用いることによって、運転中あるいは車検の際に回転電機の絶縁診断が可能となる。
【0066】
なお、上述した実施の形態とそれらの変形例において、実施の形態どうし、または実施の形態と変形例とのあらゆる組み合わせが可能である。
【0067】
上述した実施の形態とその変形例によれば以下のような作用効果を奏することができる。まず、車両に搭載されてインバーター電源7により駆動される電動車両用回転電機10に、巻線間、相間および対地間の絶縁部で発生する部分放電を計測する部分放電計測センサー4を備えたので、インバーター電源7により駆動される電動車両用回転電機10の絶縁状態を、電動車両から回転電機10を取り外すことなく通常の運転中に容易にかつ安価に診断することができる。
【0068】
また、上述した一実施の形態とその変形例によれば、部分放電計測センサー4は、ステーターコイルのコイルエンド21の近傍にステーターコア20の全周に沿って巻回された導電線材であり、この導電線材により部分放電により発生する電磁波を検出するようにしたので、ギアボックスなどと一体に形成される電動車両用回転電機10の部分放電を自動車に組み込んだままで容易にかつ安価に計測できる。また、インバーター電源7で駆動される電動車両用回転電機10では、対地間の絶縁部だけでなく、相間および巻線間の絶縁部にも高電圧が印加されるため、これらの絶縁部における部分放電をも確実にかつ安価に計測することができる。
【0069】
一実施の形態とその変形例によれば、部分放電計測センサー4は、回転電機10内部の温度を計測する温度センサー41(図6、図9参照)と、温度センサー41近傍の温度センサー41の出力線の両端に接続された静電容量42,500とからなり、温度センサー41の出力線をステーターコイルのコイルエンド21近傍にステーターコア20の全周に沿って巻回して配設するようにしたので、温度センサーと部分放電計測センサーを兼用することができ、それらを別個に設ける必要がなく、小型、軽量化、部品点数削減が強く望まれる電気自動車やハイブリッド電気自動車に対して最適な部分放電計測手段を提供することができる。
【0070】
一実施の形態とその変形例によれば、部分放電計測センサーの導電線材、または温度センサー兼部分放電計測センサーの出力線の一方を、ステーターコイルの一方のコイルエンド21近傍にステーターコア20の全周に沿って時計回りに配設するとともに、導電線材または出力線の他方を、ステーターコイルの他方のコイルエンド21近傍にステーターコア20の円周方向に反時計回りに配設するようにしたので、インバーターパルスノイズが打ち消し合って消滅する一方、部分放電信号が強め合って増大し、高感度に部分放電を計測することができる。
【0071】
一実施の形態とその変形例によれば、回転電機10内部の温度を計測する温度センサー3,41、回転電機10内部の気圧を計測する気圧センサー1、回転電機10内部の湿度を計測する湿度センサー2を備えたので、部分放電計測時の回転電機10内部の環境を検出でき、部分放電の計測値を所定環境下の計測値に換算することができ、換算後の部分放電計測値に基づいて回転電機10の絶縁診断をより正確に行うことができる。
【0072】
一実施の形態とその変形例によれば、回転電機10内部と連通する配管とバルブ16を備えたので、回転電機10に通常運転時よりも高い駆動電圧を印加せずに、あるいは回転電機10に通常運転時よりも高い誘起電圧を発生させずに、部分放電を計測することができ、インバーター電源7を高耐圧にする必要がなく、回転電機10の駆動制御装置のコストを低減できる。
【0073】
一実施の形態とその変形例によれば、インバーター電源7との間で電力の授受を行う電源用端子とは別個に、外部電源14との間で電力の授受を行う外部電源用端子17を備えたので、この外部電源端子17を介して外部電源14から試験電圧を回転電機10に印加して部分放電を計測でき、インバーター電源7を高耐圧にする必要がなく、また回転電機10の駆動制御装置に部分放電計測のための煩雑な動作を行わせる必要がなくなり、回転電機10の駆動制御装置のコストを低減できる。
【0074】
一実施の形態とその変形例によれば、回転電機10にインバーターパルス電圧を印加して駆動するインバーター電源7と、部分放電計測センサー4、41の出力信号から部分放電信号を抽出する部分放電検出器5および制御/データ処理装置6と、抽出された部分放電信号に基づいて部分放電開始電圧PDIVを検出し、部分放電開始電圧PDIVの経時変化に基づいて回転電機10の絶縁診断を行う制御/データ処理装置6とを備えたので、電動車両用回転電機10を駆動制御する駆動制御装置により、インバーター電源7により駆動される電動車両用回転電機10の絶縁状態を、電動車両から回転電機10を取り外すことなく通常の運転中に容易にかつ安価に診断することができる。
【0075】
一実施の形態とその変形例によれば、回転電機10の絶縁診断時には、インバーター電源7は、回転電機10の駆動電圧が通常運転時の駆動電圧よりも高くなるインバーターパルス電圧を印加し、部分放電検出器5および制御/データ処理装置6は、部分放電計測センサー4,41の出力信号にハイパスフィルター処理を施し、インバーター電源7によるインバーターパルスノイズを除去して部分放電信号を抽出するようにしたので、インバーター電源7により駆動される電動車両用回転電機10において部分放電を正確にかつ容易に検出できる。
【0076】
一実施の形態とその変形例によれば、部分放電検出器5のハイパスフィルター52は、インバーターパルスノイズの周波数スペクトルと、最小部分放電信号の周波数スペクトルとの交点を遮断周波数とするハイパスフィルター52としたので、部分放電計測センサー4,41の出力信号からインバーターパルスノイズを分離除去して部分放電計測信号を正確に抽出することができる。
【0077】
一実施の形態とその変形例によれば、回転電機10の絶縁診断時には、インバーター電源7は、回転電機10の駆動電圧が通常運転時の駆動電圧よりも高くなるインバーターパルス電圧を印加し、部分放電検出器5および制御/データ処理装置6は、部分放電計測センサー4,41の出力信号の内、インバーター電源7によるインバーターパルスノイズの発生位相と異なる位相において発生した信号を部分放電信号として抽出するようにしたので、部分放電計測センサー4,41の出力信号からインバーターパルスノイズを分離除去して部分放電計測信号を正確に抽出することができる。
【0078】
一実施の形態とその変形例によれば、回転電機10の絶縁診断時には、インバーター電源7は、回転電機10の誘起電圧が通常運転時の誘起電圧よりも高くなる回転電機10の界磁制御を行い、部分放電検出器5および制御/データ処理装置6は、部分放電計測センサー4,41の出力信号から回転電機10に発生する誘起電圧成分を除去して部分放電信号を抽出するようにしたので、部分放電計測センサー4,41の出力信号から回転電機10の誘起電圧成分を分離除去して部分放電計測信号を正確に抽出することができる。
【0079】
一実施の形態とその変形例によれば、回転電機10にインバーターパルス電圧を印加して駆動するインバーター電源7と、部分放電計測センサー4、41の出力信号から部分放電信号を抽出する部分放電検出器5および制御/データ処理装置6と、抽出された部分放電信号に基づいて部分放電開始電圧PDIVを検出し、部分放電開始電圧PDIVの経時変化に基づいて回転電機10の絶縁診断を行う制御/データ処理装置6とを備え、回転電機10の絶縁診断時には、配管とバルブ16に真空ポンプ15を接続して回転電機10の内部気圧を低下させるようにしたので、回転電機10に通常運転時よりも高い駆動電圧を印加せずに、あるいは回転電機10に通常運転時よりも高い誘起電圧を発生させずに、部分放電を計測することができ、インバーター電源7を高耐圧にする必要がなく、回転電機10の駆動制御装置のコストを低減できる。
【0080】
一実施の形態とその変形例によれば、回転電機10にインバーターパルス電圧を印加して駆動するインバーター電源7と、インバーター電源7と回転電機10との間に設けられる遮断器11と、部分放電計測センサー4,41の出力信号から部分放電信号を抽出する部分放電検出器5および制御/データ処理装置6と、抽出された部分放電信号に基づいて部分放電開始電圧PDIVを検出し、部分放電開始電圧PDIVの経時変化に基づいて回転電機10の絶縁診断を行う制御/データ処理装置6とを備え、回転電機10の絶縁診断時には、遮断器11を開路するとともに、外部電源用端子17を介して外部電源14から回転電機10に絶縁試験電圧を印加するようにしたので、外部電源端子17を介して外部電源14から試験電圧を回転電機10に印加して部分放電を計測でき、インバーター電源7を高耐圧にする必要がなく、また回転電機10の駆動制御装置に部分放電計測のための煩雑な動作を行わせる必要がなくなり、回転電機10の駆動制御装置のコストを低減できる。
【0081】
一実施の形態とその変形例によれば、回転電機10の絶縁診断時の回転電機10の温度、湿度および気圧を部分放電開始電圧PDIVとともに記録する制御/データ処理装置6およびメモリ6bと、記録されている部分放電開始電圧PDIVを、回転電機10の所定温度、所定湿度および所定気圧における値に換算する制御/データ処理装置6とを備え、制御/データ処理装置6は、換算後の部分放電開始電圧PDIVに基づいて回転電機10の絶縁診断を行うようにしたので、部分放電の計測値を所定環境下の計測値に換算することができ、換算後の部分放電計測値に基づいて回転電機10の絶縁診断をより正確に行うことができる。
【0082】
一実施の形態とその変形例によれば、制御/データ処理装置6は、回転電機10の巻線間、相間および対地間の絶縁部の熱劣化、機械劣化、耐油劣化および耐加水分解劣化を考慮して部分放電開始電圧PDIVの経時変化に基づき絶縁診断を行うようにしたので、回転電機10の絶縁診断精度をより向上させることができる。
【符号の説明】
【0083】
1;気圧センサー、2;湿度センサー、3;温度センサー、4、4a、4b;部分放電計測センサー、5;部分放電検出器、6;制御/データ処理装置、6b;メモリ、7;インバーター電源、10;回転電機、11;遮断器、14;外部電源、15;真空ポンプ、16;外部配管およびバルブ、17;外部電源端子、20;スターターコア(電機子鉄心)、21;コイルエンド、41、41a、41b;温度センサー、42;コンデンサー
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両用回転電機とその駆動制御装置および回転電機の絶縁診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
運転中の回転電機の部分放電を計測し、その計測結果に基づいて回転電機の絶縁状態を診断する装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。この装置では、回転電機の固定子巻線での部分放電により発生した第1の高周波信号を固定子巻線に近接配置された第1の検出器で検出するとともに、第1の高周波信号から放射される第2の高周波信号を固定子巻線を収納するフレーム内に配置され第1検出器と直列に制御された第2検出器により検出し、第1および第2の高周波信号の所定の周波数帯域成分を解析して回転電機の絶縁状態、すなわち劣化状態を判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−304837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来の回転電機の絶縁診断装置は据置型の大型高電圧の回転電機を対象にしたものであり、部分放電を検出する検出器が大型、高価で電動車両用の回転電機には適さないという問題がある。例えば近年、回転電機を搭載した電気自動車あるいはハイブリッド電気自動車の普及にともなって、これらの電動車両に搭載される回転電機の絶縁診断の重要性が高まっているが、このような電動車両用回転電機はインバーター電源による駆動環境と駆動特性、様々な周囲環境とその変化、車両専用の構造および構成など、過酷で特異な環境条件下で使用されるため、従来の絶縁診断装置による絶縁診断が困難または不可能である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1) 請求項1の発明は、車両に搭載されてインバーター電源により駆動される電動車両用回転電機であって、巻線間、相間および対地間の絶縁部で発生する部分放電を計測する部分放電計測手段を備える。
(2) 請求項2の電動車両用回転電機は、請求項1に記載の電動車両用回転電機において、部分放電計測手段は、ステーターコイルのコイルエンド近傍にステーターコアの全周に沿って巻回された導電線材であり、部分放電により発生する電磁波を検出する。
(3) 請求項3の発明は、請求項1に記載の電動車両用回転電機において、部分放電計測手段は、回転電機内部の温度を計測する温度センサーと、温度センサー近傍の温度センサーの出力線の両端に接続された静電容量とからなり、温度センサーの出力線をステーターコイルのコイルエンド近傍にステーターコアの全周に沿って巻回して配設する。
(4) 請求項4の発明は、請求項2または請求項3に記載の電動車両用回転電機において、導電線材または出力線の一方を、ステーターコイルの一方のコイルエンド近傍にステーターコアの全周に沿って時計回りに配設するとともに、導電線材または出力線の他方を、ステーターコイルの他方のコイルエンド近傍にステーターコアの円周方向に反時計回りに配設する。
(5) 請求項5の発明は、請求項2に記載の電動車両用回転電機において、回転電機内部の温度を計測する温度センサーを備える。
(6) 請求項6の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の電動車両用回転電機において、回転電機内部の気圧を計測する気圧センサーを備える。
(7) 請求項7の発明は、請求項1〜6のいずれか一項に記載の電動車両用回転電機において、回転電機内部の湿度を計測する湿度センサーを備える。
(8) 請求項8の発明は、請求項1〜7のいずれか一項に記載の電動車両用回転電機において、回転電機内部と連通する配管とバルブを備える。
(9) 請求項9の発明は、請求項1〜8のいずれか一項に記載の電動車両用回転電機において、インバーター電源との間で電力の授受を行う電源用端子とは別個に、外部電源との間で電力の授受を行う外部電源用端子を備える。
(10) 請求項10の発明は、請求項1〜9のいずれか一項に記載の電動車両用回転電機を駆動制御する駆動制御装置であって、回転電機にインバーターパルス電圧を印加して駆動するインバーター電源と、部分放電計測手段の出力信号から部分放電信号を抽出する抽出手段と、抽出手段により抽出された部分放電信号に基づいて部分放電開始電圧を検出し、部分放電開始電圧の経時変化に基づいて回転電機の絶縁診断を行う診断手段とを備える。
(11) 請求項11の発明は、請求項10に記載の電動車両用回転電機の駆動制御装置において、回転電機の絶縁診断時には、インバーター電源は、回転電機の駆動電圧が通常運転時の駆動電圧よりも高くなるインバーターパルス電圧を印加し、抽出手段は、部分放電計測手段の出力信号にハイパスフィルター処理を施し、インバーター電源によるインバーターパルスノイズを除去して部分放電信号を抽出する。
(12) 請求項12の発明は、請求項11に記載の電動車両用回転電機の駆動制御装置において、ハイパスフィルターは、インバーターパルスノイズの周波数スペクトルと、最小部分放電信号の周波数スペクトルとの交点を遮断周波数とするハイパスフィルターである。
(13) 請求項13の発明は、請求項10に記載の電動車両用回転電機の駆動制御装置において、回転電機の絶縁診断時には、インバーター電源は、回転電機の駆動電圧が通常運転時の駆動電圧よりも高くなるインバーターパルス電圧を印加し、抽出手段は、部分放電計測手段の出力信号の内、インバーター電源によるインバーターパルスノイズの発生位相と異なる位相において発生した信号を部分放電信号として抽出する。
(14) 請求項14の発明は、請求項10に記載の電動車両用回転電機の駆動制御装置において、回転電機の絶縁診断時には、インバーター電源は、回転電機の誘起電圧が通常運転時の誘起電圧よりも高くなる回転電機の界磁制御を行い、抽出手段は、部分放電計測手段の出力信号から回転電機に発生する誘起電圧成分を除去して部分放電信号を抽出する。
(15) 請求項15の発明は、請求項8に記載の電動車両用回転電機を駆動制御する駆動制御装置であって、回転電機にインバーターパルス電圧を印加して駆動するインバーター電源と、部分放電計測手段の出力信号から部分放電信号を抽出する抽出手段と、抽出手段により抽出された部分放電信号に基づいて部分放電開始電圧を検出し、部分放電開始電圧の経時変化に基づいて回転電機の絶縁診断を行う診断手段とを備え、回転電機の絶縁診断時には、配管とバルブに真空ポンプを接続して回転電機の内部気圧を低下させる。
(16) 請求項16の発明は、請求項9に記載の電動車両用回転電機を駆動制御する駆動制御装置であって、回転電機にインバーターパルス電圧を印加して駆動するインバーター電源と、インバーター電源と回転電機との間に設けられる遮断手段と、部分放電計測手段の出力信号から部分放電信号を抽出する抽出手段と、抽出手段により抽出された部分放電信号に基づいて部分放電開始電圧を検出し、部分放電開始電圧の経時変化に基づいて回転電機の絶縁診断を行う診断手段とを備え、回転電機の絶縁診断時には、遮断器を開路するとともに、外部電源用端子を介して外部電源から回転電機に絶縁試験電圧を印加する。
(17) 請求項17の発明は、請求項10〜16のいずれか一項に記載の電動車両用回転電機の駆動制御装置において、回転電機の絶縁診断時の回転電機の温度、湿度および気圧を部分放電開始電圧とともに記録する記録手段と、記録手段に記録されている部分放電開始電圧を、回転電機の所定温度、所定湿度および所定気圧における値に換算する換算手段とを備え、診断手段は、換算手段により換算後の部分放電開始電圧に基づいて回転電機の絶縁診断を行う。
(18) 請求項18の発明は、請求項10〜17に記載の電動車両用回転電機の駆動制御装置において、診断手段は、回転電機の巻線間、相間および対地間の絶縁部の熱劣化、機械劣化、耐油劣化および耐加水分解劣化を考慮して部分放電開始電圧の経時変化に基づき絶縁診断を行う。
(19) 請求項19の発明は、車両に搭載されてインバーター電源により駆動される電動車両用回転電機の巻線間、相間および対地間の絶縁部で発生する部分放電をセンサーにより計測し、このセンサーの出力信号から部分放電信号を抽出し、抽出された部分放電信号に基づいて部分放電開始電圧を検出し、部分放電開始電圧の経時変化に基づいて電動車両用回転電機の絶縁診断を行う電動車両用回転電機の絶縁診断方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、インバーター電源により駆動される電動車両用回転電機の絶縁状態を、電動車両から回転電機を取り外すことなく通常の運転中に容易にかつ安価に診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】(a)は一実施の形態の電動車両用回転電機とその駆動制御装置の構成を示す図、(b)は回転電機の部分放電計測データを示す図、(c)は回転電機の印加電圧または誘起電圧に対する部分放電信号強度を示す図、(d)は部分放電開始電圧の経時変化に基づく絶縁診断方法を示す図
【図2】部分放電計測センサーと温度センサーの取り付け構造を示す図
【図3】部分放電計測センサーの周波数帯域特性を示す図
【図4】部分放電計測センサーを2つに分けてコイルエンドの両側に配置した変形例の部分放電計測センサーを示す図
【図5】図4に示す変形例の部分放電計測センサーによる計測原理を説明するための図
【図6】温度センサーにより部分放電を計測する構成を示す図
【図7】図6に示す温度センサー兼部分放電計測センサーによる部分放電計測時の周波数特性を示す図
【図8】図6に示す温度センサー兼部分放電計測センサーとコンデンサーのアドミタンスの関係を示す図
【図9】温度センサー兼部分放電計測センサーの変形例の構成を示す図
【図10】図6および図9に示す温度センサー兼部分放電計測センサーの回転電機への配置例を示す図
【図11】図6および図9に示す温度センサー兼部分放電計測センサーを2つに分けてコイルエンドの両側に配置した変形例の温度センサー兼部分放電計測センサーを示す図
【図12】図6および図9に示す温度センサー兼部分放電計測センサーの配線を一方のコイルエンドから他方のコイルエンドに引き回した場合の例を示す図
【図13】温度センサー兼部分放電計測センサーから出力される2本の配線を、固定子鉄心の円周方向の時計回りと反時計回りに分配して巻回した例を示す図
【図14】温度センサー兼部分放電計測センサーから出力される2本の配線を、固定子鉄心の円周方向の時計回りと反時計回りに分配して巻回した例を示す図
【図15】温度センサー兼部分放電計測センサーから出力される2本の配線を、固定子鉄心の円周方向の時計回りと反時計回りに分配して巻回した例を示す図
【図16】回転電機の軸方向の断面図
【図17】電気自動車あるいはハイブリッド電気自動車の駆動システムに用いるインバーターの回路構成を示す図
【図18】図16に示す回転電機と図17に示すインバータシステムを搭載したハイブリッド電気自動車の走行駆動システムを示す図
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明に係わる回転電機とその駆動制御装置および絶縁診断方法を、電気自動車またはハイブリッド電気自動車に搭載される回転電機に適用した一実施の形態を説明する。なお、本発明の回転電機とその制御装置および絶縁診断方法は、自動車に搭載される回転電機を対象としたものに限定されず、鉄道車両用の回転電機や建設車両や土木車両用の回転電機にも適用することができる。
【0009】
図1(a)は一実施の形態の構成を示すブロック図である。回転電機10はハイブリッド電気自動車の走行駆動源であり、ギヤまたはカップリング13によって車軸またはエンジンあるいはその他の回転電機12と機械的に連結されている。なお、回転電機10には、誘導機、同期機、直流機などのあらゆる種類の電動機および発電機を用いることができる。なお、この明細書において回転電機とは上述した誘導機、同期機、直流機などのあらゆる種類の回転電機であり、インバーターやコンバーターの駆動用電源により駆動されて駆動力を発生する電動機として機能するとともに、負荷側から駆動されて誘起電圧を発生する発電機としても機能する、いわゆるモーター・ジェネレーターである。
【0010】
回転電機10にはインバーター電源7によりインバーターパルス電圧が印加され、回転駆動されて駆動力を発生する。インバーター電源7は、バッテリー8の直流電源をDC−DCコンバーター71により昇圧し、コンデンサー72により平滑してインバーター73により交流電圧に変換する。インバーター電源7と回転電機10との間には遮断器11があり、インバーター電源7により回転電機10を駆動しながら絶縁診断する場合には遮断器11が接続(オン)状態にされ、回転電機10自体の誘起電圧により絶縁診断する場合には遮断器11が開放(オフ)される。
【0011】
回転電機10の中には気圧センサー1、湿度センサー2、温度センサー3および部分放電計測センサー4が内蔵されている。また、回転電機10には真空ポンプ15に接続するための外部配管およびバルブ16が設けられており、真空ポンプ15により回転電機10の内部の気圧を下げることができる。さらに、回転電機10には、インバーター電源7との間で電力の授受を行う電源用端子(不図示)とは別個に、外部電源14を接続するための外部電源端子17が設けられており、インバーター電源7に代わって外部電源14から外部電源端子17を介して回転電機10へ絶縁試験電圧を印加することができる。これらの外部配管およびバルブ16と真空ポンプ15、端子17と外部電源14については、詳細を後述する。
【0012】
部分放電計測器5は、回転電機10の内部に設置された部分放電計測センサー4により回転電機10の部分放電を計測する。部分放電計測器5は信号検出部51、ハイパスフィルター52および電圧計測器53を備えている。試験電圧を印加したときに部分放電計測センサー4により計測した部分放電信号は、信号検出部51により電圧信号に変換され、ハイパスフィルター52によりインバーターパルスノイズを除去した後、A/D変換器などの電圧計測器53によりデータに変換、計測される。計測した部分放電信号データは制御/データ処理装置6に送信される。
【0013】
制御/データ処理装置6は、CPU6aとメモリ6b、A/Dコンバーター6cなどの周辺部品から構成される。制御/データ処理装置6は、インバーター電源7を制御してインバーターパルス電圧を回転電機10へ印加し、部分放電計測センサー4および部分放電計測器5により回転電機10の部分放電を計測し、計測データに基づいて回転電機10の絶縁状態すなわち寿命を診断する。また、制御/データ処理装置6は、回転電機10の誘起電圧波形に基づいて部分放電を計測し、計測データに基づいて回転電機10の絶縁状態すなわち寿命を診断する。これらの絶縁診断方法については詳細を後述する。制御/データ処理装置6にはGPS受信機16とインターネット回線17が接続されており、自動車の現在位置の温度、湿度、気圧などの気象環境データを間接的に入手することができる。
【0014】
回転電機10の部分放電を計測するために回転電機10に印加する試験電圧としては、インバーター電源7により生成されるインバーターパルス電圧、回転電機10の回転によって発生する誘起電圧、および外部電源端子17を介して回転電機10に印加される試験電圧(パルス電圧や正弦波電圧など)がある。インバーター電源7のインバーターパルス電圧による部分放電計測は、DC−DCコンバーター71の出力直流電圧を通常運転時の定格電圧より高くし、インバーター73により通常運転時よりも高圧のインバーターパルス電圧を生成して回転電機10に印加して行う。なお、この計測方法ではインバーター電源7の耐圧は試験電圧以上にする必要がある。インバーターパルス電圧による部分放電計測は、回転電機10の巻線間、相間および対地間の絶縁部の部分放電を計測することができる。
【0015】
一方、回転電機10の誘起電圧による部分放電計測は、インバーター73により回転電機10の弱め界磁運転を行って通常運転時の回転速度よりも高い回転速度で運転し、その状態で強め界磁運転に切り換えて回転電機10で発生する誘起電圧を上昇させて行う。この計測方法においてもインバーター電源7の耐圧は試験電圧以上にする必要がある。誘起電圧による部分放電計測では、誘起電圧が正弦波になるため、相間と対地間の絶縁部の部分放電を計測できるが、巻線間には大きな電位差が生じないため、巻線間の絶縁部の部分放電を計測することはできない。
【0016】
外部電源14による部分放電計測は、遮断器11を開放(オフ)にして外部電源端子17に外部電源14を接続し、外部電源14によりパルス状または正弦波状の試験電圧を発生させて行う。パルス状の試験電圧によれば巻線間、相間および対地間の絶縁部の部分放電を計測でき、正弦波状の試験電圧によれば相間と対地間の絶縁部の部分放電を計測できる。外部電源14による部分放電計測では、遮断器11を開放して外部電源14および回転電機10とインバーター電源7とを遮断して行うため、インバーター電源7の耐圧を試験電圧以上にする必要がなく、インバーター電源7を安価に設計することができる。
【0017】
回転電機10の内部を低圧にすることによって、低い試験電圧で部分放電を計測することができる。上述した外部配管およびバルブ16に真空ポンプ15を接続し、回転電機10の内部気圧を低い値に保ちながら上述した部分放電計測を行うと、通常運転時の駆動電圧以下の試験電圧で部分放電を計測できる。この低圧による部分放電計測は上述した三つの部分放電計測方法のいずれとも併用することができ、部分放電計測に際して高耐圧のインバーター電源7や外部電源14が不要となる。
【0018】
図1(b)〜図1(d)は、制御/データ処理装置6のメモリ6bに記憶されている部分放電の計測データ61、62、63を示す。図1(b)において、制御/データ処理装置6によりインバーターパルス電圧で部分放電計測をした場合の計測データを610に、回転電機10の誘起電圧で部分放電計測をした場合の計測データを616に示す。インバーターパルス電圧による部分放電計測では、ハイパスフィルター52を通してもパルス電圧の急峻変化に伴うノイズが部分放電信号に残留する場合がある。このため、この一実施の形態では、はじめに回転電機10に印加される電圧の大きさがパッシェンの最低火花電圧である300V以下となるように、インバーター電源7のDC-DCコンバーター71を制御してインバーター73の直流電源電圧を調整し、インバーター73により直流電源をオン、オフしてインバーターパルス電圧611を生成し、回転電機10に印加する。このとき、部分放電計測器5では部分放電ではないインバーターパルスノイズ信号612が計測される。これを記録してから、次にDC−DCコンバーター71の電圧を徐々に昇圧し、回転電機10の通常運転電圧以上の電圧にする。その結果、インバーターパルス電圧613が高くなるとともに、インバーターパルスノイズ信号614も大きくなる。しかし、これとは別の位相で部分放電信号615が発生する。その後、電圧をさらに昇圧すると部分放電信号615が急増し、図1(c)に示すような印加電圧に対するPD(部分放電;Partial Discharge)信号強度特性62が得られる。一実施の形態のこの方式では実際にインバーターパルス電圧を印加して回転電機10の部分放電計測ができるため、インバーター駆動時に問題となる回転電機10の巻線間、相間、対地間の絶縁部の部分放電を計測して絶縁診断できる。
【0019】
しかし、DC−DCコンバーター71が限界設計されており高圧の試験電圧を生成できない場合や、そもそもDC−DCコンバーター71を内蔵していないインバーター電源では、通常運転電圧以上の電圧を回転電機10に印加することができない。この場合には、回転電機10に予め設置されている外部配管およびバルブ16を介して真空ポンプ15により回転電機10内部の気圧を下げる。これにより、回転電機10に印加する電圧を昇圧せずに、部分放電開始電圧を試験中のみ相対的に低下させることができ、低い試験電圧で部分放電を計測することができる。
【0020】
一方、回転電機10の誘起電圧による部分放電の計測方法では、回転電機10が回転しているときは、図1(b)に示す誘起電圧による部分放電の計測データ616のように、回転電機10に正弦波状の誘起電圧617が発生する。回転電機10の回転速度が高くなると、誘起電圧618も高くなって部分放電信号619が発生する。その後、誘起電圧618がさらに高くなると部分放電信号619が急増し、図1(c)に示すような誘起電圧に対するPD信号強度特性62が得られる。部分放電計測器5は、部分放電計測センサー4の出力信号から正弦波状の誘起電圧信号を除去し、部分放電信号619を抽出する。
【0021】
この計測方法では正弦波状の誘起電圧617,618を試験電圧として部分放電計測を行うので、上述したように回転電機10の巻線間に発生する部分放電を計測することはできない。しかし、例えば、インバーターパルス電圧611、613で部分放電が計測された際に、誘起電圧による計測方法を併せて実施することによって、それが相間および対地間の絶縁部の部分放電なのか、巻線間の絶縁部の部分放電であるのか区別することができる。これにより、回転電機10の絶縁劣化箇所の特定と対策ができる利点がある。
【0022】
上述した一実施の形態ではインバーターパルス電圧による部分放電計測と、誘起電圧による部分放電計測とを同時に実行する例を示したが、それらを別の機会に実施し、それぞれの部分放電計測データを合わせて絶縁診断を行うようにしてもよい。
【0023】
次に、以上の計測方法により求めた印加電圧または誘起電圧に対するPD信号強度特性62は、図1(c)に示すように、回転電機10の使用開始からの経時に応じて初期特性621、中期特性622、後期特性623のように変化する。これらの初期から後期までの各PD信号強度特性621〜623の立ち上がり部分の電圧、つまり部分放電開始電圧(PDIV(Partial Discharge Inception Voltage))は、回転電機10の使用開始からの経時に応じて初期値PDV1、中期値PDV2、後期値PDV3のように徐々に低下する。そこで、回転電機10の使用開始からの経時に応じたPDIVの初期値PDIV1、中期値PDIV2、後期値PDIV3を計測し、PDIVの経時変化を求める。
【0024】
このとき、事前に測定しておいた回転電機10の温度、湿度、気圧とこれらの環境条件に対するPDIVの依存性データベースを使ってPDIVの計測データを補正し、特定の環境条件、例えば、温度27℃、湿度50%、気圧1013hPaのPDIVに変換する。これにより、負荷条件および環境条件の影響が少なく、絶縁劣化特性のみを反映した運転時間に対するPDIVのグラフ63(図1(d)参照)が得られる。得られたグラフ63のPDIVの劣化カーブを予めデータベースに蓄えておいた絶縁劣化に伴うPDIVの劣化カーブと比較し、どのカーブでカーブフィティングできるかを求める。このカーブの外挿線が通常運転電圧(回転電機10を通常運転するときの駆動電圧)と交わるところが回転電機10の寿命となる。また、現在のPDIV(PDIV3)と寿命までの間の時間が回転電機10の余寿命となる。熱劣化の影響が大きい場合には劣化カーブは下に凸の劣化カーブ633となり、機械劣化の影響が大きい場合には上に凸の劣化カーブ631となり、熱劣化と機械劣化が同等の場合には中間の劣化カーブ632となる。
【0025】
なお、部分放電計測に際し、外部配管およびバルブ16から回転電機10に窒素ガスを送入して回転電機10の内部の気圧と湿度をそれぞれ所定の値に調節するとともに、ハイブリッド電気自動車のオートマチックオイルの温度を調節して回転電機10の内部の温度を所定の値にすることができる。また、上述した熱劣化と機械劣化の他に、耐油劣化および耐加水分解劣化に応じたPDIVの劣化カーブを予めデータベースに蓄えておき、計測結果のPDIVの劣化カーブとカーブフィッティングして余寿命を予測するようにしてもよい。
【0026】
以上の方法によって回転電機10の絶縁診断、特に運転中の部分放電計測ができる。従来は、このデータが回転電機の負荷条件および環境条件で大きくばらつき、劣化傾向がうまく見分けられなかったが、この一実施の形態では、特に、回転電機10の温度、湿度、気圧を直接あるいは間接的に計測し、PDIVの計測データを補正しているため、バラツキが少ない信頼できる絶縁診断と余寿命予測ができる。
【0027】
なお、上述したように一実施の形態の回転電機10には真空ポンプ15を接続する外部配管およびバルブ16と、外部電源14を接続する外部電源端子17が予め設けられている(図1(a)参照)。このため、運転中の自己絶縁診断だけでなく、定期的な検査、例えば車検などの際にも、回転電機10の環境条件(気圧、湿度、温度)をコントロールしながら、外部の任意試験電圧波形で回転電機10を診断することができる。従来の電気自動車用およびハイブリッド電気自動車用の回転電機では、一実施の形態の真空ポンプ接続用の外部配管およびバルブ16と、外部電源接続用の外部電源端子17がないため、定期的な検査などの際にも回転電機10をギヤBOXなどから取り外さないと絶縁診断を実施できなかったが、上述したような外部配管およびバルブ16と外部電源端子17を予め回転電機10に設置したことによって、車検の際にも回転電機10に容易にアクセスでき、絶縁診断を実施することができる。
【0028】
《部分放電の計測方法1》
図2は部分放電計測センサー4と温度センサー3の構造と取り付け位置を示し、(a)は回転電機10(図1(a)参照)の固定子鉄心(ステーターコア)20と固定子巻線(ステーターコイル)のコイルエンド21の側面図、(b)は固定子鉄心20とコイルエンド21の三相UVWの口出し(端子)24〜26側の正面図である。コイルエンド21は、回転電機10の固定子鉄心20から左右の軸方向に飛び出している。温度センサー3は、回転電機10の固定子コイルの温度が最も高くなると推定されるコイルエンド表面に貼り付けられる。温度センサー3には、半導体素子を使ったサーミスタや熱電対、白金の測定温度抵抗体などを使用する。
【0029】
部分放電計測センサー4は、三相UVWの口出し24、25、26側のコイルエンド21の近傍に、固定子巻線全体の部分放電を計測できるように固定子鉄心20の全周に沿って巻回して配設される。部分放電計測センサー4には、MHz〜GHz帯域の電磁波を計測するアンテナとして動作する導電線材を使用する。なお、部分放電計測センサー4を三相UVWの口出し24〜26と反対側のコイルエンド21に配置してもよい。また、口出し24〜26はインバーター電源7から回転電機10との間で電力の授受を行う端子であり、上述した外部電源14との間で電力の授受を行う外部電源端子17とは別のものである。
【0030】
図3に部分放電計測センサー4の周波数帯域特性を示す。図において、破線は最大試験電圧を印加したときの最大インバーターパルスノイズの周波数スペクトル122を示し、実線は検出すべき最小部分放電信号の周波数スペクトル121を示す。インバータパルスノイズの周波数スペクトル122と最小部分放電信号の周波数スペクトル121との交点を遮断周波数fcaとしたとき、一実施の形態では遮断周波数fcaよりも高域123を通過させる部分放電計測器5のハイパスフィルター52を使用している(図1(a)参照)。このため、インバータパルス電圧でも必要な部分放電検出感度を確保して部分放電を計測し、絶縁診断を行うことができる。なお、部分放電計測センサー4についても高域通過フィルターと同じ遮断周波数特性のセンサーを用いると、部分放電信号とインバータパルスノイズのS/N比がより高くなる。
【0031】
インバーターパルスノイズから部分放電信号を分離するには、上述したハイパスフィルター52による方法以外に、図1(b)に示すようにインバーターパルスノイズ614と部分放電信号615との位相差により分離することもできる。図1(b)において、インバーターパルス電圧で部分放電計測を行った場合のデータ610に示すように、インバーターパルスノイズ614は、インバーターパルス電圧613の立ち上がりおよび立ち下がりに同期して発生するが、部分放電信号615の発生位相はインバーターパルスノイズ614と発生位相と異なる。したがって、予め想定されるインバーターパルスノイズ614の発生位相と異なる位相において発生した信号を部分放電信号615として計測することができる。
【0032】
《部分放電の計測方法2》
図4は、部分放電計測センサーを2つに分けてコイルエンド21の両側に配置した変形例の部分放電計測センサー4a、4bを示し、(a)は固定子鉄心20と固定子巻線のコイルエンド21の側面図、(b)は固定子鉄心20とコイルエンド21の三相UVWの口出し24〜26側の正面図である。この変形例では、一方の部分放電計測センサー4aが、三相UVWの口出し24、25、26側と反対側のコイルエンド21の近傍に、固定子コイル全体の部分放電を計測できるように固定子鉄心20の全周に沿って巻回して配設され、また、他方の部分放電計測センサー4bが、三相UVWの口出し24、25、26側のコイルエンド21の近傍に、固定子コイル全体の部分放電を計測できるように固定子鉄心20の全周に沿って巻回して配設され、反口出し側の部分放電計測センサー4aと口出し側の部分放電計測センサー4bとが直列に接続される。これにより、インバーターパルスノイズをさらに低減し、部分放電信号を高感度で計測することができる。なお、温度センサー3については図2に示す計測方法2と同様であり、説明を省略する。
【0033】
図5は、図4に示す変形例の部分放電計測センサー4a、4bによる計測原理を説明するための図である。なお、図5では温度センサー3の図示を省略している。インバーターパルス電圧に伴う電流は、例えば、図5(a)に示す矢印141のように回転電機10の軸方向に対し左から右(あるいは右から左)に一方向に流れる。このため、部分放電計測センサー4a、4bの極性を合わせて向かい合わせに配置した場合には、図5(c)、(d)に示すように、部分放電計測センサー4a、4bに流れるインバーターパルス電圧にともなう電流1410、1411は互いに逆極性になる。一方、部分放電が発生した場合には、部分放電計測センサー4a、4bに流れる電流1420、1421はともに部分放電箇所に向かって流れるため、同極性となる。したがって、部分放電計測センサー4a、4bを直列に接続すると、図5(e)に示すように、インバーターパルス電圧にともなう電流1410と1411は互いに打ち消し合って消滅し、部分放電に伴う電流1420と1421は互いに強め合って大きな電流1422になる。この変形例の放電計測センサー4a、4bは、図2に示す放電計測センサー4よりも高感度に部分放電を計測することができる。
【0034】
《部分放電の計測方法3》
温度センサーを使った従来の高電圧回転電機の部分放電計測では、回転電機の急激な温度変化とともに温度センサーのインピーダンスが大きく変化するため、部分放電計測感度が大きく変化するという問題があった。このため、図1〜図5に示す部分放電の計測方法1、2では温度センサー3と部分放電計測センサー4とを分離した。しかし、電気自動車およびハイブリッド電気自動車では小型、軽量化、部品点数削減に対するニーズが高く、このようなニーズに応えるために温度センサーを改良し、負荷変動や温度変化の大きい電気自動車およびハイブリッド電気自動車において温度センサーを使って部分放電を計測する例を以下に説明する。
【0035】
図6は温度センサー41により部分放電を計測する構成を示す。この計測方法では、回転電機10の温度を計測するための温度センサー41にコンデンサー42が並列に接続される。コンデンサー42は温度センサー41の近くに配置される。このコンデンサー42を接続した温度センサー41(以下では、温度センサー兼部分放電計測センサー41と呼ぶ)は、図6に示すように部分放電計測器5に接続されるとともに、図1(a)に示す制御/データ処理装置6の温度計測ポートに接続される。ここで、一般に温度センサー41には温度依存性が大きいサーミスタなどの半導体素子や熱電対、測温抵抗体などが使用されるが、温度変化に対するインピーダンスや端子電圧の変化が大きく、温度計測感度がよくなればなるほど部分放電計測感度の温度変化が著しくなるという問題があった。この温度センサー41による部分放電の計測方法では、温度センサー41に並列にコンデンサー42を接続しているため、ミリ秒から分オーダーの低周波の温度時間変化に対しては温度センサー41から温度計測信号が出力され、温度センサー41として機能する。一方、MHzからGHzの高周波の部分放電信号変化があるとコンデンサー42を介して温度センサー41の両端が短絡され、部分放電計測センサーとして機能する。この結果、電気自動車およびハイブリッド電気自動車のように急激な負荷変動や温度変化がある回転電機10に対しても温度センサー41を使って部分放電の計測が可能となる。
【0036】
図7は、図6に示す温度センサー兼部分放電計測センサー41による部分放電計測時の周波数特性を示す。図において、破線は最大試験電圧を印加したときの最大インバーターパルスノイズの周波数スペクトル132を示し、実線は検出すべき最小部分放電信号の周波数スペクトル131を示す。インバータパルスノイズの周波数スペクトル132と最小部分放電信号の周波数スペクトル131の交点を遮断周波数fccとしたとき、この温度センサー41による計測方法では遮断周波数fccよりも高域133を通過させるように、並列コンデンサー42の静電容量Cと部分放電計測器5の信号検出部51のインピーダンス|Z|を調整する。このため、インバータパルス電圧でも必要な部分放電検出感度を確保して部分放電を計測し、絶縁診断を行うことができる。
【0037】
図8は、図6に示す温度センサー兼部分放電計測センサー41とコンデンサー42のアドミタンスの関係を示す。図6に示す部分放電の計測方法では、温度センサー41が持つ固有の最大アドミタンス|Ytm|と、並列に接続されるコンデンサー42のアドミタンス|Yc|との交点の周波数fcmをfcm≦fccとしている。このため、部分放電を計測する高周波帯域(≧fcc)では温度センサー41よりもコンデンサー42のアドミタンスが大きくなって温度センサー41の両端がコンデンサー42により短絡され、温度センサー41の温度特性の影響を受けずに部分放電を安定に計測することができる。
【0038】
具体的には、例えばfcc=100MHzとし、部分放電検出器5の信号検出部51の入力インピーダンスが直流カットのための結合コンデンサーを含めfcc=100MHz で150Ωである場合、図8に示す式からC=10pFとなる。この静電容量に対し、図8のアドミタンス|Yc|特性が求められる。温度センサー41の固有の最大アドミタンス|Ytm|の交点の周波数fcmをfcm≦fccにするためには、|Ytm|≦2π・fcc・C=0.006・Sと求めることができ、そのような温度センサー41を選定することによって図6に示す温度センサー41による温度と部分放電の計測を実現することができる。なお、上記の数値は一例であり、上述したような方法で回路定数を最適化すれば他の回路定数であっても温度センサー41による温度と部分放電の計測が可能である。
【0039】
《部分放電の計測方法4》
図9は、温度センサー兼部分放電計測センサー41の変形例の構成を示す。上述した図6に示す計測方法では、温度センサー41の両端にコンデンサー42を接続して部分放電を計測する方法を示したが、ここではコンデンサーを接続せずに温度センサー41から引き出されるリード線を平行に近接させて樹脂などでモールドして固定し(図中に500で示す部分)、温度センサー41の近くに並列に静電容量500を付加している(以下では、静電容量500を付加した温度センサー41を温度センサー兼部分放電計測センサー41と呼ぶ)。温度センサー兼部分放電計測センサー41は、図9に示すように部分放電計測器5に接続されるとともに、図1(a)に示す制御/データ処理装置6の温度計測ポートに接続される。この計測方法によれば、図7に示す効果と同様な効果が得られる上に、図6に示す計測方法に比べコンデンサー42が不要になり、部品点数の削減とともに接続作業工数を削減できる。
【0040】
図10は、図6および図9に示す温度センサー兼部分放電計測センサー41の回転電機10への配置例を示し、(a)は回転電機10(図1(a)参照)の固定子鉄心20と固定子巻線のコイルエンド21の側面図、(b)は固定子鉄心20とコイルエンド21の三相UVWの口出し24〜26側の正面図である。温度センサー兼部分放電計測センサー41は回転電機10の中で最も温度が高くなると想定されるコイルエンド21の表面位置に固定され、温度センサー兼部分放電計測センサー41の出力線はコイルエンド21の近傍に固定子鉄心20の全周に沿わせて巻回される。このようにすることで回転電機10のコイル全体の部分放電を捉えることができる。
【0041】
《部分放電の計測方法5》
図11は、図6および図9に示す温度センサー兼部分放電計測センサーを2つに分けてコイルエンド21の両側に配置した変形例の温度センサー兼部分放電計測センサー41a、41bを示し、(a)は回転電機10(図1(a)参照)の固定子鉄心20と固定子巻線のコイルエンド21の側面図、(b)は固定子鉄心20とコイルエンド21の三相UVWの口出し24〜26側の正面図である。温度センサー兼部分放電計測センサー41aと41bはそれぞれ、回転電機10の軸方向の左右のコイルエンド21の近傍に、固定子コイル全体の部分放電を計測できるように固定子鉄心20の全周に沿って巻回して配設され、温度センサー兼部分放電計測センサー41aと41bはコンデンサー43を介して接続される。このような構成とすることによって、ミリ秒から分オーダーまでの低周波の温度時間変化に対しては温度センサー兼部分放電計測センサー41aと41bがそれぞれ独立した温度センサーとして機能する。一方、MHzからGHzまでの高周波の部分放電信号変化があると、温度センサー兼部分放電計測センサー41a、41bの両端が短絡され、部分放電計測センサーとして機能する。このように、温度センサー兼部分放電計測センサーを2つに分けることによって、図4に示す2つの部分放電計測センサー4a、4bを直列接続した場合の図5に示す効果と同様な効果が得られ、インバータパルスノイズを低減しながら部分放電をより高感度で計測することが可能になる。
【0042】
《部分放電の計測方法6》
図12は、図6および図9に示す温度センサー兼部分放電計測センサー41の配線を一方のコイルエンド21から他方のコイルエンド21に引き回した場合の例を示し、(a)は回転電機10(図1(a)参照)の固定子鉄心20と固定子巻線のコイルエンド21の側面図、(b)は固定子鉄心20とコイルエンド21の三相UVWの口出し24〜26側の正面図である。上述した図11に示す部分放電の計測方法5では、2つの温度センサー兼部分放電計測センサー41a、41bを用いているため、温度を2点で計測できるメリットがある反面、センサーが2つになり部品点数が増加する上に、センサー41a、41bどうしを接続するコンデンサー43が必要になる。これに対し図12に示す計測方法6では、温度測定点は1つであるが、単一の温度センサー兼部分放電計測センサー41の配線を一方のコイルエンド21から他方のコイルエンド21に連続して引き回すことによって、部品点数を削減しつつ、インバータパルスノイズを低減し、部分放電をより高感度で計測することを可能にしている。
【0043】
《部分放電のその他の計測方法》
図10〜図12に示す温度センサー兼部分放電計測センサー41、(41a、41b)から出力される2本の配線を、固定子鉄心20の円周方向の時計回りと反時計回りに分配して巻回した例を図13〜図15に示す。図13〜図15において、(a)は回転電機10(図1(a)参照)の固定子鉄心20と固定子巻線のコイルエンド21の側面図、(b)は固定子鉄心20とコイルエンド21の三相UVWの口出し24〜26側の正面図である。上述した図10〜図12では温度センサー兼部分放電計測センサー41、(41a、41b)から出力される2本の配線を平行に配設していたため、配線間の静電容量が大きいと部分放電信号が配線間で漏れて短絡するおそれがあり、配線の絶縁部材を厚くする必要があった。これに対し図13〜図15に示すように温度センサー兼部分放電計測センサー41、(41a、41b)から出力される2本の配線を固定子鉄心20の全周の時計回りと反時計回りに分配することによって、配線間の漏れ静電容量を低減すると同時に、回転電機10の軸方向に伝播する部分放電の電磁波を効率的に捕らえることができる。
【0044】
ここで、上述した一実施の形態の電動車両用回転電機10とその駆動制御装置を電気自動車およびハイブリッド電気自動車に搭載した場合の利点について述べる。電気自動車およびハイブリッド電気自動車に搭載する回転電機は、(1)インバーター電源により駆動されるため、対地間絶縁だけでなく、相間絶縁と巻線間絶縁にも高電圧が印加される、(2)加速時や減速時に過大な電流が流れ、急激な温度変化が発生する、(3)自動車であるため、様々な環境下で使用される、(4)耐部分放電劣化特性に乏しい有機材料を使用しており、部分放電の発生が許容されない、(5)ギアボックスなどと一体設計になっており、自動車に組み込んだ後に解体して絶縁診断を行うのが困難など、高電圧大型回転電機とは印加電圧波形、運転条件、絶縁システム、構造が大きく異なり、上述した従来の高電圧大型回転電機に対する絶縁診断方法を適用することができない。特に、従来の絶縁診断方法では運転中に部分放電計測を行うことは不可能である。
【0045】
また、回転電機をインバーター電源で駆動した場合には、(1)インバーターパルスノイズと部分放電信号との分離が困難、(2)急激な温度変化とともに温度センサーのインピーダンス特性が大きく変化するため、温度センサーを使った部分放電計測では部分放電信号の計測感度が大きく変化し、安定したデータ計測と信頼できる絶縁診断ができない、(3)急激な負荷変動と温度変化があるため、絶縁劣化にともなう部分放電特性変化よりも負荷変動と温度変化にともなう部分放電特性変化が大きく、絶縁劣化傾向がつかめない、(4)任意の1スロットの部分放電計測結果で回転電機の概略の絶縁劣化傾向がつかめるが、回転電機コイルすべての部分放電計測、絶縁劣化診断をしているわけではない、(5)耐部分放電劣化特性に優れた材料を使用していないので、部分放電が発生すると短時間で破壊にいたるため、従来よりも高精度な部分放電計測と絶縁診断が必要である、などの問題がある。
【0046】
上述した一実施の形態とその変形例の電動車両用回転電機10およびその駆動制御装置によれば、従来の絶縁診断方法の上述した問題を解決でき、インバーター電源により駆動される電動車両用回転電機の絶縁状態を、電動車両から回転電機を取り外すことなく通常の運転中に容易にかつ安価に診断することができる。
【0047】
《回転電機10の構成例》
図16は回転電機10の軸方向の断面図である。回転電機10は、ステーター(固定子)150と、ステーター150の内周側に空隙を介して配置され、かつ回転可能に支持されているローター(回転子)151から構成されている。ステーター150とローター151は回転電機のハウジング152内に保持されている。
【0048】
ステーター150は、ステーターコア(固定子鉄心)153とステーターコイル(固定子巻線)154とから構成されている。ステーターコア153は、薄板の鋼板をプレス成形により所定の形状とした後、それらを積層したものである。ステーターコア153は、環状のヨークコアと、ヨークコアから径方向に突出し周方向に等間隔に配置された複数のティースコアとから構成されており、ヨークコアとティースコアは一体に形成されている。ステータコア153の内周部には、ステータコア153の内周表面側が開口して軸方向に連続した複数のスロットが形成されている。このスロットは、周方向に隣接するティースコア間に形成された溝状の空間部である。この一実施の形態では48個のスロットが形成されている。ステーターコイル154は分布巻きで、ステーターコア153のティースコアに巻回されている。ここで、分布巻きとは、コイルが複数のスロットを跨いで(あるいは挟んで)離間した2つのスロットに収納されるように、ステーターコア153に巻かれる巻線方式である。
【0049】
ステーターコイル154は、コイル導体を積層しながら連続的に巻回したU相ステーターコイルと、V相ステーターコイル、W相ステーターコイルとから構成されている。ステーターコイル154は、自動巻線機を用いて巻き枠に所定の順序で予め巻回され、その後自動挿入機を用いてステーターコア153のスロット155の入口部からスロット内に挿入され、ステーターコア153に巻かれる。ステーターコイル154は、U相ステーターコイル,V相ステーターコイル,W相ステーターコイルの順にスロット内に挿入される。ステーターコイル154のコイルエンド部は、スロット155から軸方向両側に突出し、ステーターコア153の軸方向両端面に配置されている。
【0050】
ローター151は、ローターコア156、永久磁石155およびシャフト157から構成されている。ローターコア156は、薄板の鋼板をプレス成形により所定の形状とした上で積層し、シャフト157に固定したものである。ローターコア156の外周部には、軸方向に貫通した複数の磁石挿入孔が周方向に等間隔で形成されている。この一実施の形態では8個の磁石挿入孔が形成されている。永久磁石挿入孔のそれぞれには永久磁石155が挿入され、固定されている。シャフト157は、ハウジング152の両側にそれぞれ固定されたエンドブラケット158F,158Rに軸受159F,159Rを介して回転可能に支承されている。
【0051】
《インバーター7の構成例》
図17は、電気自動車あるいはハイブリッド電気自動車の駆動システムに用いるインバーターINVの回路構成を示す。インバーターINVは、2個のインバーターINV1,INV2から構成されている。インバーターINV1,INV2の構成は同じである。インバーターINV1,INV2は、それぞれパワーモジュールPMと、ドライバーユニットDUから構成される。ドライバーユニットDUは、モーター制御ユニットMCUによって制御される。パワーモジュールPMにはバッテリーBAから直流電力が供給され、インバーターINV1,INV2はそれぞれ直流電力を交流電力に変換してモーター・ジェネレーターFMG,RMGに供給する。また、モーター・ジェネレーターFMG,RMGが発電機として動作するときには、発電機(ジェネレーター)の出力をインバーターINV1,INV2によって直流電力に変換するとともに、図示しないDC−DCコンバーターで電圧の大きさをコントロールしてバッテリーBAに蓄電される。
【0052】
インバーターINV1のパワーモジュールPMは6つのアームから構成され、車載用直流電源であるバッテリーBAから供給される直流を交流に変換して回転電機であるモーター・ジェネレーターFMG,RMGに電力を供給する。パワーモジュールPMの上記6つのアームは、半導体のスイッチング素子としてIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)を使用している。半導体のスイッチング素子としてはIGBT以外に電力用MOS‐FET(Metal Oxide Semiconductor‐Field Effect Transistor)を使用することができる。
【0053】
IGBTは動作速度が速いメリットがある。過去には電力用MOS‐FETが使用できる電圧が低かったので、高電圧用のインバーターはIGBTで作られていた。しかし、最近は電力用MOS‐FETの使用できる電圧が高くなり、車両用インバーターではどちらも半導体スイッチング素子として使用可能である。電力用MOS‐FETの場合は半導体の構造がIGBTに比べてシンプルであり、半導体の製造工程がIGBTに比べ少なくなるメリットがある。
【0054】
図17において、U相,V相,W相の各相の上アームと下アームとはそれぞれ直列に接続されている。U相とV相とW相の各上アームのそれぞれのコレクター端子(電力用MOS‐FET使用の場合はドレーン端子)はバッテリーBAの正極側に接続される。一方、U相とV相とW相の各下アームのそれぞれのエミッター端子(電力用MOS‐FETの場合はソース端子)は、バッテリーBAの負極側に接続される。
【0055】
U相上アームのエミッター端子(電力用MOS‐FETの場合はソース端子)と、U相下アームのコレクター端子(電力用MOS‐FETの場合はドレーン端子)との接続点は、モーター・ジェネレーターFMG(RMG)のU相端子に接続され、U相電流が流れる。電機子巻線(永久磁石型同期モーターの固定子巻線)がY結線の場合は、U相巻線の電流が流れる。V相上アームのエミッター端子(電力用MOS‐FETの場合はソース端子)と、V相下アームのコレクター端子(電力用MOS‐FETの場合はドレーン端子)との接続点は、モーター・ジェネレーターFMG(RMG)のV相の電機子巻線(固定子巻線)のV相端子に接続され、V相電流が流れる。固定子巻線がY結線の場合は、V相巻線の電流が流れる。W相上アームのエミッター端子(電力用MOS‐FETの場合はソース端子)と、W相下アームのコレクター端子(電力用MOS‐FETの場合はドレーン端子)との接続点は、モーター・ジェネレーターFMG(RMG)のW相端子に接続される。固定子巻線がY結線の場合は、W相巻線の電流が流れる。バッテリーBAから供給される直流電力を交流電力に変換して、モーター・ジェネレーターFMG(RMG)のステーターを構成するU相、V相、W相の3相ステーターコイルに供給することによって、3相のステーターコイルに流れる電流により発生する起磁力でローターが回転駆動する。
【0056】
モーター制御ユニットRMによりゲート信号を発生するドライバーユニットDUが制御され、各相のドライバーユニットから各相の半導体スイッチング素子へゲート信号が供給される。このゲート信号により各アームの導通、非導通(遮断)が制御される。その結果、供給された直流は三相交流に変換される。三相交流の生成については周知であるから、ここでは詳細な動作説明を省略する。
【0057】
《ハイブリッド電気自動車の構成例》
図18は、図16に示す回転電機10と図17に示すインバータシステムを搭載したハイブリッド電気自動車の走行駆動システムを示す。図18に示すハイブリッド電気自動車は、内燃機関であるエンジンENと、上述した回転電機10からなるフロント側モーター・ジェネレーターFMGによって前輪WH−Fを、回転電機10からなるリア側モーター・ジェネレーターRMGによって後輪WH−Rをそれぞれ駆動するように構成された四輪駆動式の車両である。なお、この一実施の形態では、エンジンENとフロント側モーター・ジェネレーターFMGによって前輪WH−Fを、リア側モーター・ジェネレーターRMGによって後輪WH−Rをそれぞれ駆動する場合について説明するが、エンジンENと上述した回転電機10からなるフロント側モーター・ジェネレーターFMGによって後輪WH−Rを、リア側モーター・ジェネレーターRMGによって前輪WH−Fをそれぞれ駆動するようにしてもよい。
【0058】
前輪WH−Fの前輪車軸DS−Fには、フロント側差動装置FDFを介して変速機TMが機械的に接続されている。変速機TMには出力制御機構(図示省略)を介してエンジンENとモーター・ジェネレーターMGが機械的に接続されている。出力制御機構(図示省略)は、回転出力の合成や分配を司る機構である。フロント側モーター・ジェネレーターMGの固定子巻線にはインバーターINVの交流側が電気的に接続されている。インバーターINVは、直流電力を三相交流電力に変換する電力変換装置であり、モーター・ジェネレーターMGの駆動を制御するものである。インバーターINVの直流側にはバッテリーBAが電気的に接続されている。
【0059】
後輪WH−Rの後輪車軸DS−R1,DS−R2には、リア側差動装置RDFとリア側減速機RGを介してリア側モーター・ジェネレーターRMGが機械的に接続されている。リア側モーター・ジェネレーターRMGの固定子巻線には、インバーターINVの交流側が電気的に接続されている。ここで、インバーターINVはフロント側モーター・ジェネレーターMGFとリア側モーター・ジェネレーターRMGに対して共用のものであり、モーター・ジェネレーターMG用の変換回路部と、リア側モーター・ジェネレーターRMGの変換回路部と、それらを駆動するための駆動制御部とを有する。
【0060】
ハイブリッド電気自動車の始動時および低速走行時(エンジンENの運転効率(燃費)が低下する走行領域)は、フロント側モーター・ジェネレーターFMGによって前輪WH−Fを駆動する。なお、この一実施の形態では、ハイブリッド電気自動車の始動時および低速走行時、フロント側モーター・ジェネレーターFMGによって前輪WH−Fを駆動する場合について説明するが、フロント側モーター・ジェネレーターFMGによって前輪WH−Fを駆動し、リア側モーター・ジェネレーターRMGによって後輪WH−Rを駆動するようにしてもよい(四輪駆動走行をしてもよい)。インバーターINVにはバッテリーBAから直流電力が供給される。供給された直流電力はインバーターINVによって三相交流電力に変換される。これによって得られた三相交流電力はフロント側モーター・ジェネレーターFMGの固定子巻線に供給される。これにより、フロント側モーター・ジェネレーターFMGが駆動され、回転出力を発生する。この回転出力は出力制御機構(図示省略)を介して変速機TMに入力される。入力された回転出力は変速機TMによって変速され、差動装置FDFに入力される。入力された回転出力は差動装置FDFによって左右に分配され、前輪WH−Fの一方における前輪車軸DS−Fと前輪WH−Fの他方における前輪車軸DS−Fにそれぞれ伝達される。これにより、前輪車軸DS−Fが回転駆動される。そして、前輪車軸DS−Fの回転駆動によって前輪WH−Fが回転駆動される。
【0061】
ハイブリッド電気自動車の通常走行時(乾いた路面を走行する場合であって、エンジンENの運転効率(燃費)が良い走行領域)は、エンジンENによって前輪WH−Fを駆動する。このため、エンジンENの回転出力は出力制御機構(図示省略)を介して変速機TMに入力される。入力された回転出力は変速機TMによって変速される。変速された回転出力はフロント側差動装置FDFを介して前輪車軸DS−Fに伝達される。これにより、前輪WH−Fが回転駆動される。また、バッテリーBAの充電状態を検出し、バッテリーBAを充電する必要がある場合は、エンジンENの回転出力を、出力制御機構(図示省略)を介してフロント側モーター・ジェネレーターFMGに分配し、フロント側モーター・ジェネレーターFMGを回転駆動する。これにより、フロント側モーター・ジェネレーターFMGは発電機として動作する。この動作により、フロント側モーター・ジェネレーターFMGの固定子巻線に三相交流電力が発生する。この発生した三相交流電力はインバーターINVによって所定の直流電力に変換される。この変換によって得られた直流電力はバッテリーBAに供給される。これにより、バッテリーBAが充電される。
【0062】
ハイブリッド電気自動車の四輪駆動走行時(雪道などの低μ路を走行する場合であって、エンジンENの運転効率(燃費)が良い走行領域)は、リア側モーター・ジェネレーターRMGによって後輪WH−Rを駆動する。また、上述した通常走行と同様に、エンジンENによって前輪WH−Fを駆動する。さらに、リア側モーター・ジェネレーターRMGの駆動によってバッテリーBAの蓄電量が減少するので、上記通常走行と同様に、エンジンENの回転出力によってフロント側モーター・ジェネレーターFMGを回転駆動してバッテリーBAを充電する。リア側モーター・ジェネレーターRMGによって後輪WH−Rを駆動するめに、インバーターINVにはバッテリーBAから直流電力が供給される。供給された直流電力はインバーターINVによって三相交流電力に変換され、この変換によって得られた交流電力がリア側モーター・ジェネレーターRMGの固定子巻線に供給される。これにより、リア側モーター・ジェネレーターRMGは駆動され、回転出力を発生する。発生した回転出力は、リア側減速機RGによって減速され、差動装置RDFの入力される。入力された回転出力は差動装置RDFによって左右に分配され、後輪WH−Rの一方における後輪車軸DS−R1,DS−R2と後輪WH−Rの他方における後輪車軸DS−R1,DS−R2にそれぞれ伝達される。これにより、後輪車軸DS−F4回転駆動される。そして、後輪車軸DS−R1,DS−R2の回転駆動によって後輪WH−Rが回転駆動される。
【0063】
ハイブリッド電気自動車の加速時は、エンジンENとフロント側モーター・ジェネレーターFMGによって前輪WH−Fを駆動する。なお、この一実施の形態ではハイブリッド電気自動車の加速時、エンジンENとフロント側モーター・ジェネレーターFMGによって前輪WH−Fを駆動する場合について説明するが、エンジンENとフロント側モーター・ジェネレーターFMGによって前輪WH−Fを駆動し、リア側モーター・ジェネレーターRMGによって後輪WH−Rを駆動するようにしてもよい(四輪駆動走行をしてもよい)。エンジンENとフロント側モーター・ジェネレーターFMGの回転出力は出力制御機構(図示省略)を介して変速機TMに入力される。入力された回転出力は変速機TMによって変速される。変速された回転出力は差動装置FDFを介して前輪車軸DS−Fに伝達される。これにより、前輪WH−Fが回転駆動される。
【0064】
ハイブリッド電気自動車の回生時(ブレーキを踏み込み時,アクセルの踏み込みを緩めた時あるいはアクセルの踏み込みを止めた時などの減速時)は、前輪WH−Fの回転出力を前輪車軸DS−F,差動装置FDF、変速機TM、出力制御機構(図示省略)を介してフロント側モーター・ジェネレーターFMGに伝達し、フロント側モーター・ジェネレーターFMGを回転駆動する。これにより、フロント側モーター・ジェネレーターFMGは発電機として動作する。この動作により、フロント側モーター・ジェネレーターFMGの固定子巻線に三相交流電力が発生する。この発生した三相交流電力はインバーターINVによって所定の直流電力に変換される。この変換によって得られた直流電力はバッテリーBAに供給される。これにより、バッテリーBAは充電される。一方、後輪WH−Rの回転出力を後輪車軸DS−R1,DS−R2,車両用出力伝達装置100の差動装置RDF、減速機RGを介してリア側モーター・ジェネレーターRMGに伝達し、リア側モーター・ジェネレーターRMGを回転駆動する。これにより、リア側モーター・ジェネレーターRMGは発電機として動作する。この動作により、リア側モーター・ジェネレーターRMGの固定子巻線に三相交流電力が発生する。この発生した三相交流電力はインバーターINVによって所定の直流電力に変換される。この変換によって得られた直流電力はバッテリーBAに供給される。これにより、バッテリーBAが充電される。
【0065】
以上のように、複雑な動作をするハイブリッド電気自動車や電気自動車に本発明の回転電機の絶縁診断装置を用いることによって、運転中あるいは車検の際に回転電機の絶縁診断が可能となる。
【0066】
なお、上述した実施の形態とそれらの変形例において、実施の形態どうし、または実施の形態と変形例とのあらゆる組み合わせが可能である。
【0067】
上述した実施の形態とその変形例によれば以下のような作用効果を奏することができる。まず、車両に搭載されてインバーター電源7により駆動される電動車両用回転電機10に、巻線間、相間および対地間の絶縁部で発生する部分放電を計測する部分放電計測センサー4を備えたので、インバーター電源7により駆動される電動車両用回転電機10の絶縁状態を、電動車両から回転電機10を取り外すことなく通常の運転中に容易にかつ安価に診断することができる。
【0068】
また、上述した一実施の形態とその変形例によれば、部分放電計測センサー4は、ステーターコイルのコイルエンド21の近傍にステーターコア20の全周に沿って巻回された導電線材であり、この導電線材により部分放電により発生する電磁波を検出するようにしたので、ギアボックスなどと一体に形成される電動車両用回転電機10の部分放電を自動車に組み込んだままで容易にかつ安価に計測できる。また、インバーター電源7で駆動される電動車両用回転電機10では、対地間の絶縁部だけでなく、相間および巻線間の絶縁部にも高電圧が印加されるため、これらの絶縁部における部分放電をも確実にかつ安価に計測することができる。
【0069】
一実施の形態とその変形例によれば、部分放電計測センサー4は、回転電機10内部の温度を計測する温度センサー41(図6、図9参照)と、温度センサー41近傍の温度センサー41の出力線の両端に接続された静電容量42,500とからなり、温度センサー41の出力線をステーターコイルのコイルエンド21近傍にステーターコア20の全周に沿って巻回して配設するようにしたので、温度センサーと部分放電計測センサーを兼用することができ、それらを別個に設ける必要がなく、小型、軽量化、部品点数削減が強く望まれる電気自動車やハイブリッド電気自動車に対して最適な部分放電計測手段を提供することができる。
【0070】
一実施の形態とその変形例によれば、部分放電計測センサーの導電線材、または温度センサー兼部分放電計測センサーの出力線の一方を、ステーターコイルの一方のコイルエンド21近傍にステーターコア20の全周に沿って時計回りに配設するとともに、導電線材または出力線の他方を、ステーターコイルの他方のコイルエンド21近傍にステーターコア20の円周方向に反時計回りに配設するようにしたので、インバーターパルスノイズが打ち消し合って消滅する一方、部分放電信号が強め合って増大し、高感度に部分放電を計測することができる。
【0071】
一実施の形態とその変形例によれば、回転電機10内部の温度を計測する温度センサー3,41、回転電機10内部の気圧を計測する気圧センサー1、回転電機10内部の湿度を計測する湿度センサー2を備えたので、部分放電計測時の回転電機10内部の環境を検出でき、部分放電の計測値を所定環境下の計測値に換算することができ、換算後の部分放電計測値に基づいて回転電機10の絶縁診断をより正確に行うことができる。
【0072】
一実施の形態とその変形例によれば、回転電機10内部と連通する配管とバルブ16を備えたので、回転電機10に通常運転時よりも高い駆動電圧を印加せずに、あるいは回転電機10に通常運転時よりも高い誘起電圧を発生させずに、部分放電を計測することができ、インバーター電源7を高耐圧にする必要がなく、回転電機10の駆動制御装置のコストを低減できる。
【0073】
一実施の形態とその変形例によれば、インバーター電源7との間で電力の授受を行う電源用端子とは別個に、外部電源14との間で電力の授受を行う外部電源用端子17を備えたので、この外部電源端子17を介して外部電源14から試験電圧を回転電機10に印加して部分放電を計測でき、インバーター電源7を高耐圧にする必要がなく、また回転電機10の駆動制御装置に部分放電計測のための煩雑な動作を行わせる必要がなくなり、回転電機10の駆動制御装置のコストを低減できる。
【0074】
一実施の形態とその変形例によれば、回転電機10にインバーターパルス電圧を印加して駆動するインバーター電源7と、部分放電計測センサー4、41の出力信号から部分放電信号を抽出する部分放電検出器5および制御/データ処理装置6と、抽出された部分放電信号に基づいて部分放電開始電圧PDIVを検出し、部分放電開始電圧PDIVの経時変化に基づいて回転電機10の絶縁診断を行う制御/データ処理装置6とを備えたので、電動車両用回転電機10を駆動制御する駆動制御装置により、インバーター電源7により駆動される電動車両用回転電機10の絶縁状態を、電動車両から回転電機10を取り外すことなく通常の運転中に容易にかつ安価に診断することができる。
【0075】
一実施の形態とその変形例によれば、回転電機10の絶縁診断時には、インバーター電源7は、回転電機10の駆動電圧が通常運転時の駆動電圧よりも高くなるインバーターパルス電圧を印加し、部分放電検出器5および制御/データ処理装置6は、部分放電計測センサー4,41の出力信号にハイパスフィルター処理を施し、インバーター電源7によるインバーターパルスノイズを除去して部分放電信号を抽出するようにしたので、インバーター電源7により駆動される電動車両用回転電機10において部分放電を正確にかつ容易に検出できる。
【0076】
一実施の形態とその変形例によれば、部分放電検出器5のハイパスフィルター52は、インバーターパルスノイズの周波数スペクトルと、最小部分放電信号の周波数スペクトルとの交点を遮断周波数とするハイパスフィルター52としたので、部分放電計測センサー4,41の出力信号からインバーターパルスノイズを分離除去して部分放電計測信号を正確に抽出することができる。
【0077】
一実施の形態とその変形例によれば、回転電機10の絶縁診断時には、インバーター電源7は、回転電機10の駆動電圧が通常運転時の駆動電圧よりも高くなるインバーターパルス電圧を印加し、部分放電検出器5および制御/データ処理装置6は、部分放電計測センサー4,41の出力信号の内、インバーター電源7によるインバーターパルスノイズの発生位相と異なる位相において発生した信号を部分放電信号として抽出するようにしたので、部分放電計測センサー4,41の出力信号からインバーターパルスノイズを分離除去して部分放電計測信号を正確に抽出することができる。
【0078】
一実施の形態とその変形例によれば、回転電機10の絶縁診断時には、インバーター電源7は、回転電機10の誘起電圧が通常運転時の誘起電圧よりも高くなる回転電機10の界磁制御を行い、部分放電検出器5および制御/データ処理装置6は、部分放電計測センサー4,41の出力信号から回転電機10に発生する誘起電圧成分を除去して部分放電信号を抽出するようにしたので、部分放電計測センサー4,41の出力信号から回転電機10の誘起電圧成分を分離除去して部分放電計測信号を正確に抽出することができる。
【0079】
一実施の形態とその変形例によれば、回転電機10にインバーターパルス電圧を印加して駆動するインバーター電源7と、部分放電計測センサー4、41の出力信号から部分放電信号を抽出する部分放電検出器5および制御/データ処理装置6と、抽出された部分放電信号に基づいて部分放電開始電圧PDIVを検出し、部分放電開始電圧PDIVの経時変化に基づいて回転電機10の絶縁診断を行う制御/データ処理装置6とを備え、回転電機10の絶縁診断時には、配管とバルブ16に真空ポンプ15を接続して回転電機10の内部気圧を低下させるようにしたので、回転電機10に通常運転時よりも高い駆動電圧を印加せずに、あるいは回転電機10に通常運転時よりも高い誘起電圧を発生させずに、部分放電を計測することができ、インバーター電源7を高耐圧にする必要がなく、回転電機10の駆動制御装置のコストを低減できる。
【0080】
一実施の形態とその変形例によれば、回転電機10にインバーターパルス電圧を印加して駆動するインバーター電源7と、インバーター電源7と回転電機10との間に設けられる遮断器11と、部分放電計測センサー4,41の出力信号から部分放電信号を抽出する部分放電検出器5および制御/データ処理装置6と、抽出された部分放電信号に基づいて部分放電開始電圧PDIVを検出し、部分放電開始電圧PDIVの経時変化に基づいて回転電機10の絶縁診断を行う制御/データ処理装置6とを備え、回転電機10の絶縁診断時には、遮断器11を開路するとともに、外部電源用端子17を介して外部電源14から回転電機10に絶縁試験電圧を印加するようにしたので、外部電源端子17を介して外部電源14から試験電圧を回転電機10に印加して部分放電を計測でき、インバーター電源7を高耐圧にする必要がなく、また回転電機10の駆動制御装置に部分放電計測のための煩雑な動作を行わせる必要がなくなり、回転電機10の駆動制御装置のコストを低減できる。
【0081】
一実施の形態とその変形例によれば、回転電機10の絶縁診断時の回転電機10の温度、湿度および気圧を部分放電開始電圧PDIVとともに記録する制御/データ処理装置6およびメモリ6bと、記録されている部分放電開始電圧PDIVを、回転電機10の所定温度、所定湿度および所定気圧における値に換算する制御/データ処理装置6とを備え、制御/データ処理装置6は、換算後の部分放電開始電圧PDIVに基づいて回転電機10の絶縁診断を行うようにしたので、部分放電の計測値を所定環境下の計測値に換算することができ、換算後の部分放電計測値に基づいて回転電機10の絶縁診断をより正確に行うことができる。
【0082】
一実施の形態とその変形例によれば、制御/データ処理装置6は、回転電機10の巻線間、相間および対地間の絶縁部の熱劣化、機械劣化、耐油劣化および耐加水分解劣化を考慮して部分放電開始電圧PDIVの経時変化に基づき絶縁診断を行うようにしたので、回転電機10の絶縁診断精度をより向上させることができる。
【符号の説明】
【0083】
1;気圧センサー、2;湿度センサー、3;温度センサー、4、4a、4b;部分放電計測センサー、5;部分放電検出器、6;制御/データ処理装置、6b;メモリ、7;インバーター電源、10;回転電機、11;遮断器、14;外部電源、15;真空ポンプ、16;外部配管およびバルブ、17;外部電源端子、20;スターターコア(電機子鉄心)、21;コイルエンド、41、41a、41b;温度センサー、42;コンデンサー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されてインバーター電源により駆動される電動車両用回転電機であって、
巻線間、相間および対地間の絶縁部で発生する部分放電を計測する部分放電計測手段を備えることを特徴とする電動車両用回転電機。
【請求項2】
請求項1に記載の電動車両用回転電機において、
前記部分放電計測手段は、ステーターコイルのコイルエンド近傍にステーターコアの全周に沿って巻回された導電線材であり、部分放電により発生する電磁波を検出することを特徴とする電動車両用回転電機。
【請求項3】
請求項1に記載の電動車両用回転電機において、
前記部分放電計測手段は、前記回転電機内部の温度を計測する温度センサーと、前記温度センサー近傍の前記温度センサーの出力線の両端に接続された静電容量とからなり、前記温度センサーの前記出力線をステーターコイルのコイルエンド近傍にステーターコアの全周に沿って巻回して配設することを特徴とする電動車両用回転電機。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の電動車両用回転電機において、
前記導電線材または前記出力線の一方を、ステーターコイルの一方のコイルエンド近傍にステーターコアの全周に沿って時計回りに配設するとともに、前記導電線材または前記出力線の他方を、ステーターコイルの他方のコイルエンド近傍にステーターコアの円周方向に反時計回りに配設することを特徴とする電動車両用回転電機。
【請求項5】
請求項2に記載の電動車両用回転電機において、
前記回転電機内部の温度を計測する温度センサーを備えることを特徴とする電動車両用回転電機。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の電動車両用回転電機において、
前記回転電機内部の気圧を計測する気圧センサーを備えることを特徴とする電動車両用回転電機。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の電動車両用回転電機において、
前記回転電機内部の湿度を計測する湿度センサーを備えることを特徴とする電動車両用回転電機。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の電動車両用回転電機において、
前記回転電機内部と連通する配管とバルブを備えることを特徴とする電動車両用回転電機。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の電動車両用回転電機において、
前記インバーター電源との間で電力の授受を行う電源用端子とは別個に、外部電源との間で電力の授受を行う外部電源用端子を備えることを特徴とする電動車両用回転電機。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の電動車両用回転電機を駆動制御する駆動制御装置であって、
前記回転電機にインバーターパルス電圧を印加して駆動するインバーター電源と、
前記部分放電計測手段の出力信号から部分放電信号を抽出する抽出手段と、
前記抽出手段により抽出された前記部分放電信号に基づいて部分放電開始電圧を検出し、前記部分放電開始電圧の経時変化に基づいて前記回転電機の絶縁診断を行う診断手段とを備えることを特徴とする電動車両用回転電機の駆動制御装置。
【請求項11】
請求項10に記載の電動車両用回転電機の駆動制御装置において、
前記回転電機の絶縁診断時には、前記インバーター電源は、前記回転電機の駆動電圧が通常運転時の駆動電圧よりも高くなるインバーターパルス電圧を印加し、
前記抽出手段は、前記部分放電計測手段の出力信号にハイパスフィルター処理を施し、前記インバーター電源によるインバーターパルスノイズを除去して前記部分放電信号を抽出することを特徴とする電動車両用回転電機の駆動制御装置。
【請求項12】
請求項11に記載の電動車両用回転電機の駆動制御装置において、
前記ハイパスフィルターは、インバーターパルスノイズの周波数スペクトルと、最小部分放電信号の周波数スペクトルとの交点を遮断周波数とするハイパスフィルターであることを特徴とする電動車両用回転電機の駆動制御装置。
【請求項13】
請求項10に記載の電動車両用回転電機の駆動制御装置において、
前記回転電機の絶縁診断時には、前記インバーター電源は、前記回転電機の駆動電圧が通常運転時の駆動電圧よりも高くなるインバーターパルス電圧を印加し、
前記抽出手段は、前記部分放電計測手段の出力信号の内、前記インバーター電源によるインバーターパルスノイズの発生位相と異なる位相において発生した信号を前記部分放電信号として抽出することを特徴とする電動車両用回転電機の駆動制御装置。
【請求項14】
請求項10に記載の電動車両用回転電機の駆動制御装置において、
前記回転電機の絶縁診断時には、前記インバーター電源は、前記回転電機の誘起電圧が通常運転時の誘起電圧よりも高くなる前記回転電機の界磁制御を行い、
前記抽出手段は、前記部分放電計測手段の出力信号から前記回転電機に発生する誘起電圧成分を除去して前記部分放電信号を抽出することを特徴とする電動車両用回転電機の駆動制御装置。
【請求項15】
請求項8に記載の電動車両用回転電機を駆動制御する駆動制御装置であって、
前記回転電機にインバーターパルス電圧を印加して駆動するインバーター電源と、
前記部分放電計測手段の出力信号から部分放電信号を抽出する抽出手段と、
前記抽出手段により抽出された前記部分放電信号に基づいて部分放電開始電圧を検出し、前記部分放電開始電圧の経時変化に基づいて前記回転電機の絶縁診断を行う診断手段とを備え、
前記回転電機の絶縁診断時には、前記配管とバルブに真空ポンプを接続して前記回転電機の内部気圧を低下させることを特徴とする電動車両用回転電機の駆動制御装置。
【請求項16】
請求項9に記載の電動車両用回転電機を駆動制御する駆動制御装置であって、
前記回転電機にインバーターパルス電圧を印加して駆動するインバーター電源と、
前記インバーター電源と前記回転電機との間に設けられる遮断手段と、
前記部分放電計測手段の出力信号から部分放電信号を抽出する抽出手段と、
前記抽出手段により抽出された前記部分放電信号に基づいて部分放電開始電圧を検出し、前記部分放電開始電圧の経時変化に基づいて前記回転電機の絶縁診断を行う診断手段とを備え、
前記回転電機の絶縁診断時には、前記遮断器を開路するとともに、前記外部電源用端子を介して外部電源から前記回転電機に絶縁試験電圧を印加することを特徴とする電動車両用回転電機の駆動制御装置。
【請求項17】
請求項10〜16のいずれか一項に記載の電動車両用回転電機の駆動制御装置において、
前記回転電機の絶縁診断時の前記回転電機の温度、湿度および気圧を前記部分放電開始電圧とともに記録する記録手段と、
前記記録手段に記録されている前記部分放電開始電圧を、前記回転電機の所定温度、所定湿度および所定気圧における値に換算する換算手段とを備え、
前記診断手段は、前記換算手段により換算後の部分放電開始電圧に基づいて前記回転電機の絶縁診断を行うことを特徴とする電動車両用回転電機の駆動制御装置。
【請求項18】
請求項10〜17に記載の電動車両用回転電機の駆動制御装置において、
前記診断手段は、前記回転電機の巻線間、相間および対地間の絶縁部の熱劣化、機械劣化、耐油劣化および耐加水分解劣化を考慮して前記部分放電開始電圧の経時変化に基づき絶縁診断を行うことを特徴とする電動車両用回転電機の駆動制御装置。
【請求項19】
車両に搭載されてインバーター電源により駆動される電動車両用回転電機の巻線間、相間および対地間の絶縁部で発生する部分放電をセンサーにより計測し、前記センサーの出力信号から部分放電信号を抽出し、抽出された前記部分放電信号に基づいて部分放電開始電圧を検出し、前記部分放電開始電圧の経時変化に基づいて前記電動車両用回転電機の絶縁診断を行うことを特徴とする電動車両用回転電機の絶縁診断方法。
【請求項1】
車両に搭載されてインバーター電源により駆動される電動車両用回転電機であって、
巻線間、相間および対地間の絶縁部で発生する部分放電を計測する部分放電計測手段を備えることを特徴とする電動車両用回転電機。
【請求項2】
請求項1に記載の電動車両用回転電機において、
前記部分放電計測手段は、ステーターコイルのコイルエンド近傍にステーターコアの全周に沿って巻回された導電線材であり、部分放電により発生する電磁波を検出することを特徴とする電動車両用回転電機。
【請求項3】
請求項1に記載の電動車両用回転電機において、
前記部分放電計測手段は、前記回転電機内部の温度を計測する温度センサーと、前記温度センサー近傍の前記温度センサーの出力線の両端に接続された静電容量とからなり、前記温度センサーの前記出力線をステーターコイルのコイルエンド近傍にステーターコアの全周に沿って巻回して配設することを特徴とする電動車両用回転電機。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の電動車両用回転電機において、
前記導電線材または前記出力線の一方を、ステーターコイルの一方のコイルエンド近傍にステーターコアの全周に沿って時計回りに配設するとともに、前記導電線材または前記出力線の他方を、ステーターコイルの他方のコイルエンド近傍にステーターコアの円周方向に反時計回りに配設することを特徴とする電動車両用回転電機。
【請求項5】
請求項2に記載の電動車両用回転電機において、
前記回転電機内部の温度を計測する温度センサーを備えることを特徴とする電動車両用回転電機。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の電動車両用回転電機において、
前記回転電機内部の気圧を計測する気圧センサーを備えることを特徴とする電動車両用回転電機。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の電動車両用回転電機において、
前記回転電機内部の湿度を計測する湿度センサーを備えることを特徴とする電動車両用回転電機。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の電動車両用回転電機において、
前記回転電機内部と連通する配管とバルブを備えることを特徴とする電動車両用回転電機。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の電動車両用回転電機において、
前記インバーター電源との間で電力の授受を行う電源用端子とは別個に、外部電源との間で電力の授受を行う外部電源用端子を備えることを特徴とする電動車両用回転電機。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の電動車両用回転電機を駆動制御する駆動制御装置であって、
前記回転電機にインバーターパルス電圧を印加して駆動するインバーター電源と、
前記部分放電計測手段の出力信号から部分放電信号を抽出する抽出手段と、
前記抽出手段により抽出された前記部分放電信号に基づいて部分放電開始電圧を検出し、前記部分放電開始電圧の経時変化に基づいて前記回転電機の絶縁診断を行う診断手段とを備えることを特徴とする電動車両用回転電機の駆動制御装置。
【請求項11】
請求項10に記載の電動車両用回転電機の駆動制御装置において、
前記回転電機の絶縁診断時には、前記インバーター電源は、前記回転電機の駆動電圧が通常運転時の駆動電圧よりも高くなるインバーターパルス電圧を印加し、
前記抽出手段は、前記部分放電計測手段の出力信号にハイパスフィルター処理を施し、前記インバーター電源によるインバーターパルスノイズを除去して前記部分放電信号を抽出することを特徴とする電動車両用回転電機の駆動制御装置。
【請求項12】
請求項11に記載の電動車両用回転電機の駆動制御装置において、
前記ハイパスフィルターは、インバーターパルスノイズの周波数スペクトルと、最小部分放電信号の周波数スペクトルとの交点を遮断周波数とするハイパスフィルターであることを特徴とする電動車両用回転電機の駆動制御装置。
【請求項13】
請求項10に記載の電動車両用回転電機の駆動制御装置において、
前記回転電機の絶縁診断時には、前記インバーター電源は、前記回転電機の駆動電圧が通常運転時の駆動電圧よりも高くなるインバーターパルス電圧を印加し、
前記抽出手段は、前記部分放電計測手段の出力信号の内、前記インバーター電源によるインバーターパルスノイズの発生位相と異なる位相において発生した信号を前記部分放電信号として抽出することを特徴とする電動車両用回転電機の駆動制御装置。
【請求項14】
請求項10に記載の電動車両用回転電機の駆動制御装置において、
前記回転電機の絶縁診断時には、前記インバーター電源は、前記回転電機の誘起電圧が通常運転時の誘起電圧よりも高くなる前記回転電機の界磁制御を行い、
前記抽出手段は、前記部分放電計測手段の出力信号から前記回転電機に発生する誘起電圧成分を除去して前記部分放電信号を抽出することを特徴とする電動車両用回転電機の駆動制御装置。
【請求項15】
請求項8に記載の電動車両用回転電機を駆動制御する駆動制御装置であって、
前記回転電機にインバーターパルス電圧を印加して駆動するインバーター電源と、
前記部分放電計測手段の出力信号から部分放電信号を抽出する抽出手段と、
前記抽出手段により抽出された前記部分放電信号に基づいて部分放電開始電圧を検出し、前記部分放電開始電圧の経時変化に基づいて前記回転電機の絶縁診断を行う診断手段とを備え、
前記回転電機の絶縁診断時には、前記配管とバルブに真空ポンプを接続して前記回転電機の内部気圧を低下させることを特徴とする電動車両用回転電機の駆動制御装置。
【請求項16】
請求項9に記載の電動車両用回転電機を駆動制御する駆動制御装置であって、
前記回転電機にインバーターパルス電圧を印加して駆動するインバーター電源と、
前記インバーター電源と前記回転電機との間に設けられる遮断手段と、
前記部分放電計測手段の出力信号から部分放電信号を抽出する抽出手段と、
前記抽出手段により抽出された前記部分放電信号に基づいて部分放電開始電圧を検出し、前記部分放電開始電圧の経時変化に基づいて前記回転電機の絶縁診断を行う診断手段とを備え、
前記回転電機の絶縁診断時には、前記遮断器を開路するとともに、前記外部電源用端子を介して外部電源から前記回転電機に絶縁試験電圧を印加することを特徴とする電動車両用回転電機の駆動制御装置。
【請求項17】
請求項10〜16のいずれか一項に記載の電動車両用回転電機の駆動制御装置において、
前記回転電機の絶縁診断時の前記回転電機の温度、湿度および気圧を前記部分放電開始電圧とともに記録する記録手段と、
前記記録手段に記録されている前記部分放電開始電圧を、前記回転電機の所定温度、所定湿度および所定気圧における値に換算する換算手段とを備え、
前記診断手段は、前記換算手段により換算後の部分放電開始電圧に基づいて前記回転電機の絶縁診断を行うことを特徴とする電動車両用回転電機の駆動制御装置。
【請求項18】
請求項10〜17に記載の電動車両用回転電機の駆動制御装置において、
前記診断手段は、前記回転電機の巻線間、相間および対地間の絶縁部の熱劣化、機械劣化、耐油劣化および耐加水分解劣化を考慮して前記部分放電開始電圧の経時変化に基づき絶縁診断を行うことを特徴とする電動車両用回転電機の駆動制御装置。
【請求項19】
車両に搭載されてインバーター電源により駆動される電動車両用回転電機の巻線間、相間および対地間の絶縁部で発生する部分放電をセンサーにより計測し、前記センサーの出力信号から部分放電信号を抽出し、抽出された前記部分放電信号に基づいて部分放電開始電圧を検出し、前記部分放電開始電圧の経時変化に基づいて前記電動車両用回転電機の絶縁診断を行うことを特徴とする電動車両用回転電機の絶縁診断方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2011−130544(P2011−130544A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−284794(P2009−284794)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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