説明

電動車両駆動制御装置及びその制御方法

【課題】変速の前後でエンジン回転速度が変化することがなく、運転者に不快感、違和感等を与えることがないようにする。
【解決手段】第1の回転要素が第1の電動機に、第2の回転要素が伝動軸15を介して第2の電動機に、第3の回転要素がエンジン11に連結された差動装置と、伝動軸15に伝達された回転の変速を行う変速機18と、変速機による変速に伴って、イナーシャによる回転速度の変動を補償するイナーシャ補償トルクを算出する補償トルク算出処理手段と、第1の電動機の目標となるトルクをイナーシャ補償トルクに従って修正する目標トルク修正処理手段とを有する。イナーシャ及び制御遅れによって、エンジン回転速度が変化するのを防止することができ、エンジン11においてイナーシャトルクが発生するのを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両駆動制御装置及びその制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電動車両、例えば、ハイブリッド型車両に搭載され、エンジンのトルク、すなわち、エンジントルクの一部を発電機に、残りを駆動輪に伝達するようにした車両駆動装置においては、サンギヤ、リングギヤ及びキャリヤを備えたプラネタリギヤユニットを有する。そして、前記キャリヤとエンジンとを連結し、リングギヤ及びモータと駆動輪とを変速機を介して連結し、サンギヤと発電機とを連結し、前記リングギヤ及びモータから出力された回転を駆動輪に伝達して駆動力を発生させるようにしている。
【0003】
ところで、エンジンを駆動し、エンジントルクを発生させ、前記変速機を介して駆動輪に伝達してハイブリッド型車両を走行させている間、変速機において変速を行うときに、変速の前後でエンジンの回転速度、すなわち、エンジン回転速度が変化すると、変速ショックが発生してしまう。そこで、変速の前後でエンジン回転速度の変化を抑制するように、発電機の回転速度、すなわち、発電機回転速度を制御するようにしている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2005−61498号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来の車両駆動装置においては、発電機回転速度を制御する場合、発電機自体が有するイナーシャ及び制御遅れによって、エンジン回転速度が変化することがあり、その場合、エンジン回転速度の変化量に対応してエンジンにおいてイナーシャトルクが発生し、変速ショックが発生してしまい、運転者に不快感を与えてしまう。
【0005】
また、エンジン回転速度の変化に伴って、ハイブリッド型車両の駆動力が変化すると、運転者に違和感を与えてしまう。
【0006】
本発明は、前記従来の車両駆動装置の問題点を解決して、変速の前後でエンジン回転速度が変化することがなく、運転者に不快感、違和感等を与えることがない電動車両駆動制御装置及びその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そのために、本発明の電動車両駆動制御装置においては、第1の電動機と、第2の電動機と、第1〜第3の回転要素を備え、第1の回転要素が前記第1の電動機に、第2の回転要素が伝動軸を介して前記第2の電動機に、第3の回転要素がエンジンに連結された差動装置と、前記伝動軸に伝達された回転の変速を行う変速機と、変速機による変速に伴って、イナーシャによる回転速度の変動を補償するイナーシャ補償トルクを算出する補償トルク算出処理手段と、前記第1の電動機の目標となるトルクを前記イナーシャ補償トルクに従って修正する目標トルク修正処理手段とを有する。
【0008】
本発明の他の電動車両駆動制御装置においては、さらに、前記補償トルク算出処理手段は、前記変速機において変速制御を開始するための変速開始指標が発生させられたときに、イナーシャ補償トルクを算出する。
【0009】
本発明の更に他の電動車両駆動制御装置においては、さらに、前記変速開始指標は、変速要求に従って発生させられた変速出力である。
【0010】
本発明の更に他の電動車両駆動制御装置においては、さらに、前記補償トルク算出処理手段は、第1の電動機のイナーシャ、及び変速に伴う第2の電動機の回転速度の変化に基づいて、イナーシャ補償トルクを算出する。
【0011】
本発明の更に他の電動車両駆動制御装置においては、さらに、前記補償トルク算出処理手段は、変速中において、エンジン回転速度及びエンジントルクが変化しないようにイナーシャ補償トルクを算出する。
【0012】
本発明の電動車両駆動制御装置の制御方法においては、第1の電動機、第2の電動機、第1〜第3の回転要素を備え、第1の回転要素が前記第1の電動機に、第2の回転要素が伝動軸を介して前記第2の電動機に、第3の回転要素がエンジンに連結された差動装置、及び前記伝動軸に伝達された回転の変速を行う変速機を有する電動車両駆動制御装置に適用されるようになっている。
【0013】
そして、変速機による変速に伴って、イナーシャによる回転速度の変動を補償するイナーシャ補償トルクを算出し、前記第1の電動機の目標となるトルクを前記イナーシャ補償トルクに従って修正する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電動車両駆動制御装置においては、第1の電動機と、第2の電動機と、第1〜第3の回転要素を備え、第1の回転要素が前記第1の電動機に、第2の回転要素が伝動軸を介して前記第2の電動機に、第3の回転要素がエンジンに連結された差動装置と、前記伝動軸に伝達された回転の変速を行う変速機と、変速機による変速に伴って、イナーシャによる回転速度の変動を補償するイナーシャ補償トルクを算出する補償トルク算出処理手段と、前記第1の電動機の目標となるトルクを前記イナーシャ補償トルクに従って修正する目標トルク修正処理手段とを有する。
【0015】
この場合、変速機による変速に伴って、イナーシャによる回転速度の変動を補償するイナーシャ補償トルクが算出され、前記第1の電動機の目標となるトルクが前記イナーシャ補償トルクに従って修正されるので、イナーシャ及び制御遅れによって、エンジン回転速度が変化するのを防止することができ、エンジンにおいてイナーシャトルクが発生するのを防止することができる。その結果、変速ショックが発生するのを防止することができ、運転者に不快感を与えることがなくなる。
【0016】
また、電動車両の駆動力が変化するのを防止することができるので、運転者に違和感を与えることがなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。この場合、電動車両としてのハイブリッド型車両を駆動するための電動車両駆動制御装置及びその制御方法について説明する。
【0018】
図2は本発明の実施の形態におけるエンジン及び車両駆動装置の概念図である。
【0019】
図において、10は車両駆動装置、11はエンジン(E/G)、12は該エンジン11を駆動することによって発生させられた回転及びエンジントルクTEが出力される出力軸であり、該出力軸12は車両駆動装置10の入力軸を兼ねる。また、13は、前記出力軸12を介して入力されたエンジントルクTEを分配する差動装置としてのプラネタリギヤユニット、14、15は該プラネタリギヤユニット13において発生させられた回転を受け、かつ、プラネタリギヤユニット13において分配されたエンジントルクTEを受ける伝動軸、16は伝動軸14を介して前記プラネタリギヤユニット13と連結された第1の電動機としての、かつ、第1の電動機械としての発電機(G)、25は伝動軸15を介して前記プラネタリギヤユニット13と連結された第2の電動機としての、かつ、第2の電動機械としてのモータ(M)である。
【0020】
18は前記伝動軸15を介してプラネタリギヤユニット13及びモータ25と連結された変速機であり、該変速機18は、伝動軸15を介して入力された回転を変速し、変速された回転を出力軸19に出力する。
【0021】
そして、該出力軸19に図示されないディファレンシャル装置が接続され、該ディファレンシャル装置は、出力軸19を介して伝達された回転を分配し、図示されない駆動輪に伝達する。このように、エンジン11、発電機16、モータ25及び駆動輪は、互いに機械的に連結される。
【0022】
前記プラネタリギヤユニット13は、シングルプラネタリギヤから成り、第1のサンギヤS1、該第1のサンギヤS1と噛(し)合する第1のピニオンP1、該第1のピニオンP1と噛合する第1のリングギヤR1、及び前記第1のピニオンP1を回転自在に支持する第1のキャリヤCR1を備え、前記第1のサンギヤS1は前記伝動軸14を介して発電機16と、第1のリングギヤR1は、伝動軸15を介してモータ25及び変速機18と、前記第1のキャリヤCR1は出力軸12を介してエンジン11と連結される。そして、前記第1のサンギヤS1、第1のリングギヤR1及び第1のキャリヤCR1によって第1の差動要素が構成され、第1のキャリヤCR1によって第1の回転要素が、第1のサンギヤS1によって第2の回転要素が、第1のリングギヤR1によって第3の回転要素が構成される。
【0023】
また、前記発電機16は、前記伝動軸14に固定され、回転自在に配設されたロータ21、該ロータ21の周囲に配設されたステータ22、及び該ステータ22に巻装されたコイル23から成る。前記発電機16は、伝動軸14を介して伝達される回転によって交流の電流であるU相、V相及びW相の電流を発生させる。また、発電機16は、必要に応じて、U相、V相及びW相の電流を受けて発電機16のトルク、すなわち、発電機トルクTGを発生させ、伝動軸14に出力する。
【0024】
そして、前記ロータ21と前記車両駆動装置10のケースCsとの間に図示されない発電機ブレーキが配設され、該発電機ブレーキを係合させることによってロータ21を固定し、発電機16の回転を機械的に停止させることができる。
【0025】
また、前記モータ25は、前記伝動軸15に固定され、回転自在に配設されたロータ26、該ロータ26の周囲に配設されたステータ27、及び該ステータ27に巻装されたコイル28から成る。前記モータ25は、図示されないバッテリから供給されたU相、V相及びW相の電流によってモータ25のトルク、すなわち、モータトルクTMを発生させ、伝動軸15に出力する。
【0026】
そして、前記変速機18は、シングルプラネタリギヤから成る第1、第2のギヤユニット31、32を備えるとともに、摩擦係合要素としてのクラッチC0〜C2、ブレーキB1、B2及びワンウェイクラッチF1を備える。
【0027】
前記第1のギヤユニット31は、第2のサンギヤS2、該第2のサンギヤS2と噛合する第2のピニオンP2、該第2のピニオンP2と噛合する第2のリングギヤR2、及び前記第2のピニオンP2を回転自在に支持する第2のキャリヤCR2を備え、第2のギヤユニット32は、第3のサンギヤS3、該第3のサンギヤS3と噛合する第3のピニオンP3、該第3のピニオンP3と噛合する第3のリングギヤR3、及び前記第3のピニオンP3を回転自在に支持する第3のキャリヤCR3を備える。
【0028】
前記第2のサンギヤS2、第2のリングギヤR2及び第2のキャリヤCR2によって第2の差動要素が、前記第3のサンギヤS3、第3のリングギヤR3及び第3のキャリヤCR3によって第3の差動要素が構成される。
【0029】
そして、前記第2のサンギヤS2は、クラッチC2を介して伝動軸15と連結されるとともに、ブレーキB1を介してケースCsと連結され、第2のリングギヤR2は第3のキャリヤCR3と連結され、第2のキャリヤCR2は、第3のリングギヤR3と連結されるとともに、クラッチC0を介して伝動軸15と連結され、ワンウェイクラッチF1を介してケースCsと連結される。
【0030】
また、第3のサンギヤS3は、クラッチC1を介して伝動軸15と連結され、第3のリングギヤR3は、第2のキャリヤCR2と連結されるとともに、ワンウェイクラッチF1を介して、また、ブレーキB2を介してケースCsと連結され、第3のキャリヤCR3は、第2のリングギヤR2と連結されるとともに、出力軸19と連結される。
【0031】
次に、前記変速機18の動作について説明する。
【0032】
図3は本発明の実施の形態における変速機の作動表を示す図、図4は本発明の実施の形態における変速機の速度線図である。
【0033】
図において、C0〜C2はクラッチ、B1、B2はブレーキ、F1はワンウェイクラッチ、1ST、2ND、3RD、4THは前進走行における1速〜4速を、REVは後進走行を表す。また、○はクラッチC0〜C2及びブレーキB1、B2が係合させられ、ワンウェイクラッチF1がロックの状態に置かれることを、(○)はエンジンブレーキ時にブレーキB2が係合させられることを、その他は、クラッチC0〜C2及びブレーキB1、B2が解放され、ワンウェイクラッチF1がフリーの状態に置かれることを表す。
【0034】
S2は第2のサンギヤ、R2は第2のリングギヤ、CR2は第2のキャリヤ、S3は第3のサンギヤ、R3は第3のリングギヤ、CR3は第3のキャリヤである。
【0035】
そして、λ1は第2のリングギヤR2の歯数に対する第2のサンギヤS2の歯数の比、λ2は第3のリングギヤR3の歯数に対する第3のサンギヤS3の歯数の比である。なお、図4における−1、0、1、2及び3は入力される回転の回転速度を1としたときの、相対的な回転速度を表す。
【0036】
前記構成の変速機18(図2)において、前進走行の1速において、クラッチC1が係合させられ、ワンウェイクラッチF1がロックの状態に置かれる。このとき、クラッチC1が係合させられるのに伴って伝動軸15の回転が第3のサンギヤS3に入力され、第3のサンギヤS3が回転速度1で回転させられる。一方、ワンウェイクラッチF1がロックの状態になるのに伴って、第3のリングギヤR3の回転速度が零(0)になるので、第3のキャリヤCR3から出力軸19に、減速された1速の回転が出力される。
【0037】
また、前進走行の2速において、クラッチC1及びブレーキB1が係合させられる。このとき、クラッチC1が係合させられるのに伴って伝動軸15の回転が第3のサンギヤS3に入力され、第3のサンギヤS3が回転速度1で回転させられる。一方、ブレーキB1が係合させられるのに伴って、第2のサンギヤS2の回転速度が零になるので、第3のキャリヤCR3から出力軸19に、減速され、1速より高い2速の回転が出力される。
【0038】
次に、前進走行の3速において、クラッチC0、C1が係合させられる。このとき、クラッチC0が係合させられるのに伴って伝動軸15の回転が第2のキャリヤCR2に入力され、第2のキャリヤCR2が回転速度1で回転させられる。一方、クラッチC1が係合させられるのに伴って伝動軸15の回転が第3のサンギヤS3に入力され、第3のサンギヤS3が回転速度1で回転させられる。その結果、変速機18は直結状態になり、第3のキャリヤCR3から出力軸19に、伝動軸15の回転速度と同じ3速の回転が出力される。
【0039】
続いて、前進走行の4速において、クラッチC0及びブレーキB1が係合させられる。このとき、クラッチC0が係合させられるのに伴って伝動軸15の回転が第2のキャリヤCR2に入力され、第2のキャリヤCR2が回転速度1で回転させられる。一方、ブレーキB1が係合させられるのに伴って、第2のサンギヤS2の回転速度が零になるので、第3のキャリヤCR3から出力軸19に、増速され、伝動軸15の回転速度より高い4速の回転が出力される。
【0040】
また、後進走行においては、クラッチC2及びブレーキB2が係合させられる。このとき、クラッチC2が係合させられるのに伴って伝動軸15の回転が第2のサンギヤS2に入力され、第2のサンギヤS2が回転速度1で回転させられる。一方、ブレーキB2が係合させられるのに伴って、第3のリングギヤR3の回転速度が零になるので、第3のキャリヤCR3から出力軸19に、伝動軸15の回転と逆方向の回転が出力される。
【0041】
次に、電動車両駆動制御装置について説明する。
【0042】
図1は本発明の実施の形態における電動車両駆動制御装置のブロック図である。
【0043】
図において、10は車両駆動装置、11はエンジン、12は出力軸であり、前記車両駆動装置10は、プラネタリギヤユニット13、伝動軸14、15、発電機16、モータ25、変速機18、出力軸19、前記変速機18のクラッチC0〜C2及びブレーキB1、B2を係脱させるための図示されない油圧サーボに対して油を給排する油圧制御装置35、エンジン11の回転を受けて作動させられ、所定の油圧を機械的に発生させ、油圧制御装置35に供給するポンプ(メカO/P)36等を備える。
【0044】
前記出力軸19には、ディファレンシャル装置38が連結され、該ディファレンシャル装置38は、出力軸19を介して伝達された回転を分配し、駆動輪39に伝達する。
【0045】
また、41は、前記発電機16を駆動するためのインバータ及びモータ25を駆動するためのインバータを備えたインバータ装置、43は発電機16を流れる電流を検出する電流検出部としての電流センサ、45はモータ25を流れる電流を検出する電流検出部としての電流センサ、46はバッテリ、47はバッテリ電圧検出部としてのバッテリ電圧センサ、48は発電機回転速度NGを検出する回転速度検出部としての回転速度センサ、49はモータ25の回転速度、すなわち、モータ回転速度NMを検出する回転速度検出部としての回転速度センサ、50はエンジン回転速度NEを検出する回転速度検出部としての回転速度センサ、53は油圧制御装置35における油圧を検出する油圧検出部としての油圧センサ、54は油圧制御装置35における油温を検出する油温検出部としての油温センサ、59は出力軸19の回転速度に基づいて車速Vを検出する車速検出部としての車速センサである。なお、エンジン回転速度NE、発電機回転速度NG及びモータ回転速度NMによって、それぞれエンジン11、発電機16及びモータ25の駆動状態を判定するための駆動状態判定指標が構成され、前記回転速度センサ48〜50によって駆動状態判定指標検出部が構成される。また、前記車速Vによってハイブリッド型車両の走行負荷が構成され、車速センサ59によって走行負荷検出部が構成される。
【0046】
そして、51は所定の油圧を電気的に発生させ、油圧制御装置35に供給するポンプ(電動O/P)、52は該ポンプ51を駆動するための電動O/P用インバータである。
【0047】
また、55はハイブリッド型車両の全体の制御を行う車両制御装置、56はエンジン11の制御を行うエンジン制御装置、57は、発電機16及びモータ25の制御を行う発電機・モータ制御装置、58は変速機18の制御を行う変速機制御装置である。前記車両制御装置55、エンジン制御装置56、発電機・モータ制御装置57及び変速機制御装置58は、単独又は二つ以上組み合わせることによってコンピュータとして機能し、各種のプログラム、データ等に基づいて演算処理を行う。
【0048】
前記車両制御装置55は、前記エンジン制御装置56にエンジン制御信号を送り、エンジン制御装置56によってエンジン11の始動・停止を設定する。
【0049】
そして、車両制御装置55は、エンジン回転速度NEの目標値を表すエンジン目標回転速度NE* 、発電機トルクTGの目標値を表す発電機目標トルクTG* 、及びモータトルクTMの目標値を表すモータ目標トルクTM* を設定し、前記発電機・モータ制御装置57は、発電機回転速度NGの目標値を表す発電機目標回転速度NG* 、モータトルクTMの補正値を表すモータトルク補正値δTM等を設定する。
【0050】
また、前記変速機制御装置58の図示されない変速段設定処理手段は、変速段設定処理を行い、図示されないアクセルペダルの踏込量に基づいて検出されたエンジン負荷を表すアクセル開度Ac、前記車速V等を読み込み、変速機制御装置58に内蔵された図示されない記録装置の変速マップを参照し、変速段を設定する。続いて、変速機制御装置58の図示されない変速要求処理手段は、変速要求処理を行い、現在の変速段及び設定された変速段に基づいて、変速が必要かどうかを判断し、変速が必要な場合、変速要求を発生させる。そして、変速機制御装置58の図示されない変速処理手段は、変速処理を行い、変速要求に基づいて変速出力を発生させ、変速制御を行う。
【0051】
また、車両制御装置55の図示されない車両要求トルク算出処理手段は、車両要求トルク算出処理を行い、前記車速V、アクセル開度Ac等を読み込み、ハイブリッド型車両を走行させるのに必要な車両要求トルクTO* を算出する。
【0052】
次に、前記車両制御装置55の図示されない車両要求出力算出処理手段は、車両要求出力算出処理を行い、前記車両要求トルクTO* と車速Vとを乗算することによって、運転者要求出力PDを算出し、図示されないバッテリ残量検出センサによって検出されたバッテリ残量SOCに基づいてバッテリ充放電要求出力PBを算出し、前記運転者要求出力PDとバッテリ充放電要求出力PBとを加算することによって、車両要求出力POを算出する。
【0053】
続いて、前記車両制御装置55の図示されないエンジン目標運転状態設定処理手段は、エンジン目標運転状態設定処理を行い、前記車両要求出力PO、アクセル開度Ac等に基づいてエンジン11の運転ポイントを決定し、該運転ポイントにおけるエンジントルクTEをエンジン目標トルクTE* として、前記運転ポイントにおけるエンジン回転速度NEをエンジン目標回転速度NE* として決定し、該エンジン目標回転速度NE* をエンジン制御装置56に送る。
【0054】
そして、該エンジン制御装置56の図示されない始動要求処理手段は、始動要求処理を行い、エンジン11が駆動領域に置かれているかどうかを判断し、駆動領域に置かれているにもかかわらず、エンジン11が駆動されていない場合、エンジン制御装置56の図示されない始動処理手段は、始動処理を行い、エンジン11を始動するためのエンジン始動要求を発生させる。次に、前記エンジン制御装置56の図示されないエンジン始動処理手段は、エンジン始動処理を行い、エンジン始動要求が発生させられると、エンジン始動信号を発生させる。このようにして、エンジン11を駆動し、エンジントルクTEを発生させてハイブリッド型車両を走行させることができる。
【0055】
ところで、前述されたように、エンジントルクTEを発生させ、前記変速機18を介して駆動輪39に伝達してハイブリッド型車両を走行させている間、変速機18において変速が行われ、変速の前後でエンジン回転速度NEが変化すると、変速ショックが発生してしまう。
【0056】
そこで、変速の前後でエンジン回転速度NEが変化することがないように、発電機・モータ制御装置57の図示されない発電機制御処理手段は、発電機制御処理を行い、前記エンジン目標回転速度NE* に基づいて発電機回転速度NGを制御するようにしている。
【0057】
そのために、前記発電機制御処理手段の発電機目標回転速度算出処理手段は、発電機目標回転速度算出処理を行い、回転速度センサ49によって検出されたモータ回転速度NMを読み込み、伝動軸15から第1のリングギヤR1までのギヤ比に基づいてリングギヤ回転速度NR1を算出するとともに、エンジン目標運転状態設定処理において決定されたエンジン目標回転速度NE* を読み込み、リングギヤ回転速度NR1及びエンジン目標回転速度NE* に基づいて、プラネタリギヤユニット13の回転速度関係式によって、発電機目標回転速度NG* を算出し、決定する。そして、前記発電機制御処理手段の発電機トルク算出処理手段は、発電機トルク算出処理を行い、前記回転速度センサ48によって検出された発電機回転速度NGを読み込み、該発電機回転速度NGと発電機目標回転速度NG* との差回転速度ΔNGに基づいてPI制御を行い、発電機目標トルクTG* を算出し、決定する。この場合、差回転速度ΔNGが大きいほど、発電機目標トルクTG* は大きくされ、正負も考慮される。
【0058】
このようにして発電機目標トルクTG* が算出されると、前記発電機制御処理手段の発電機駆動処理手段は、発電機駆動処理を行い、発電機目標トルクTG* に従って電流指令値及び電圧指令値を発生させ、発電機16を駆動する。その結果、発電機回転速度NGを制御することができる。
【0059】
ところが、発電機回転速度NGを制御する場合、発電機16自体が有するイナーシャIg及び制御遅れによって、エンジン回転速度NEが変化すると、エンジン回転速度NEの変化量に対応してエンジン11においてイナーシャトルクTIeが発生し、変速ショックが発生してしまい、運転者に不快感を与えてしまう。
【0060】
また、エンジン回転速度NEの変化に伴って、ハイブリッド型車両の駆動力が変化すると、運転者に違和感を与えてしまう。
【0061】
そこで、前記発電機制御処理手段は、イナーシャIgに対応させてエンジン回転速度NEの変化を抑制するように発電機16の制御を行うようにしている。
【0062】
図5は本発明の実施の形態における車両制御装置の動作を示すフローチャート、図6は本発明の実施の形態における変速時の速度線図の変化の例を示す図である。
【0063】
例えば、図6に示されるように、変速機18(図1)において変速が行われ、速度線図が線L1に示す変速前の状態から線L2に示す変速後の状態に変化して、伝動軸15の回転速度が低くなると、モータ回転速度NMがΔωmだけ低くなる。このとき、モータ回転速度NMの変化に伴って、エンジン回転速度NEが変化すると、変速ショックが発生してしまう。そこで、変速の前後でエンジン回転速度NEが変化することがないように、発電機回転速度NGがΔωgだけ高くされる。
【0064】
ところが、発電機回転速度NGを制御する際、発電機16自体が有するイナーシャIg及び制御遅れによって、発電機回転速度NGをΔωgだけ高くすることができない場合には、エンジン回転速度NEがその分低くなり、該エンジン回転速度NEの変化量に対応してエンジン11においてイナーシャトルクTIeが発生し、変速ショックが発生してしまい、運転者に不快感を与えてしまう。
【0065】
また、エンジン回転速度NEの変化に伴って、ハイブリッド型車両の駆動力が変化すると、運転者に違和感を与えてしまう。
【0066】
前記変速処理手段は、変速要求が発生させられると、変速出力を発生させ、変速制御を開始する。なお、前記変速要求及び変速出力は、前記変速機18において変速制御を開始するための変速開始指標を構成する。
【0067】
続いて、前記発電機制御処理手段の補償トルク算出処理手段は、補償トルク算出処理を行い、発電機16の角加速度αg及びイナーシャIgに基づいて、変速に伴うイナーシャIgによるエンジン回転速度NEの変動を補償する発電機16のイナーシャ補償トルクTgiを算出する。そのために、補償トルク算出処理手段は、発電機・モータ制御装置57のCPUにおける制御周期をΔtとし、モータ25の角加速度をαmとしたとき、角加速度αg、αmは、
αg=Δωg/Δt
αm=Δωm/Δt
になる。そして、第1のリングギヤR1の歯数に対する第1のサンギヤS1の歯数の比をλとすると、
αm:αg=λ:1
になるので、次のように、角加速度αgを比λ及び角加速度αmで表すことができる。
【0068】
αg=1/λ・αm
したがって、前記イナーシャ補償トルクTgiは、
Tgi=Ig・αg
=Ig/λ・αm
になる。
【0069】
次に、前記発電機制御処理手段の目標トルク修正処理手段は、目標トルク修正処理を行い、発電機目標トルクTG* を読み込み、該発電機目標トルクTG* をイナーシャ補償トルクTgiに従って修正する。そのために、本実施の形態において、目標トルク修正処理手段は、修正後の発電機目標トルクTG* を修正目標トルクとしての修正発電機目標トルクTG* ′としたとき、
TG* ′=TG* +Tgi
になる。
【0070】
したがって、前記発電機駆動処理手段は、修正発電機目標トルクTG* ′に従って電流指令値及び電圧指令値を発生させ、発電機16を駆動する。その結果、イナーシャIg及び制御遅れによって、エンジン回転速度NEが変化することがなくなり、エンジン11においてイナーシャトルクTIeが発生するのを防止することができるので、エンジントルクTEを一定にすることができる。さらに、変速ショックが発生するのを防止することができ、運転者に不快感を与えることがなくなる。
【0071】
また、ハイブリッド型車両の駆動力が変化するのを防止することができるので、運転者に違和感を与えることがなくなる。
【0072】
このようにして変速制御が行われ、続いて、変速処理手段は、モータ回転速度NMを読み込み、モータ回転速度NMの変化率を算出し、該変化率が閾(しきい)値より小さくなったかどうかによって、変速が終了したかどうかを判断する。そして、変速が終了すると、変速処理手段は変速制御を終了する。
【0073】
次に、フローチャートについて説明する。
ステップS1 変速出力が発生させられたかどうかを判断する。変速出力が発生させられた場合はステップS2に進み、発生させられていない場合はリターンする。
ステップS2 変速制御を開始する。
ステップS3 発電機16のイナーシャ補償トルクTgiを算出する。
ステップS4 エンジン回転速度NEが変化しないように発電機16の制御を行う。
ステップS5 変速が終了したかどうかを判断する。変速が終了した場合はステップS6に、終了していない場合はステップS3に戻る。
ステップS6 変速制御を終了し、リターンする。
【0074】
次に、発電機目標トルクTG* に基づいて発電機16を駆動した場合と、修正発電機目標トルクTG* ′に基づいて発電機16を駆動した場合の、車両駆動装置10の動作について説明する。
【0075】
図7は発電機目標トルクに基づいて発電機を駆動した場合の車両駆動装置の動作を示すタイムチャート、図8は本発明の実施の形態における車両駆動装置の動作を示すタイムチャートである。
【0076】
図7及び8において、τ1は変速が開始されてから終了されるまでの区間、τ2は変速が開始されてからクラッチC0(図2)〜C2及びブレーキB1、B2の係脱が行われ、変速機18の入力回転の変化がない区間であるトルク相、τ3はクラッチC0〜C2及びブレーキB1、B2の係脱が行われ、変速機18の入力回転の変化がある区間であるイナーシャ相である。
【0077】
そして、変速に伴って、出力軸19に出力される出力トルクTOUT、変速機18に入力される入力トルクTIN、エンジントルクTE、発電機トルクTG及びモータトルクTMから成る各トルク、変速に伴って係合させられる摩擦係合要素の係合側トルクTm、及び変速に伴って解放される摩擦係合要素の解放側トルクTrから成る係合要素トルク、エンジン回転速度NE、発電機回転速度NG及びモータ回転速度NMから成る回転速度、並びに発電機16の消費電力PG、モータ25の消費電力PM、及び消費電力PG、PMを加算した総消費電力PTが示される。
【0078】
そして、図7においては、タイミングt1で変速出力が発生させられて、変速制御が開始されると、アップシフトの変速の変速信号が発生させられて、変速が開始され、トルク相τ2が開始される。該トルク相τ2において、係合側トルクTmが大きくなり、解放側トルクTrが小さくなり、トルク分担が行われる。このとき、エンジン回転速度NE、発電機回転速度NG及びモータ回転速度NMは変化しない。
【0079】
続いて、タイミングt2でトルク相τ2が終了し、イナーシャ相τ3が開始され、タイミングt3でイナーシャ相τ3が終了する。該イナーシャ相τ3でモータ回転速度NMは低くなり、発電機回転速度NGは発電機目標回転速度NG* に従って高くされるが、イナーシャIg及び制御遅れによって、発電機回転速度NGが十分に高くならない。したがって、エンジン回転速度NEはその分低くなってしまう。
【0080】
これに対して、図8においては、タイミングt1で変速出力が発生させられて、変速制御が開始されると、アップシフトの変速の変速信号が発生させられて、変速が開始され、トルク相τ2が開始される。該トルク相τ2において、係合側トルクTmが大きくなり、解放側トルクTrが小さくなり、トルク分担が行われる。このとき、エンジン回転速度NE、発電機回転速度NG及びモータ回転速度NMは変化しない。
【0081】
続いて、タイミングt2でトルク相τ2が終了し、イナーシャ相τ3が開始され、タイミングt3でイナーシャ相τ3が終了する。該イナーシャ相τ3でモータ回転速度NMは低くなり、発電機回転速度NGは、イナーシャ補償トルクTgiに基づいて修正された後の修正発電機目標トルクTG* ′によって算出された発電機目標回転速度NG* と一致させられる。したがって、エンジン回転速度NEを一定にすることができる。
【0082】
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々変形させることが可能であり、それらを本発明の範囲から排除するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の実施の形態における電動車両駆動制御装置のブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態におけるエンジン及び車両駆動装置の概念図である。
【図3】本発明の実施の形態における変速機の作動表を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態における変速機の速度線図である。
【図5】本発明の実施の形態における車両制御装置の動作を示すフローチャートである。
【図6】本発明の実施の形態における変速時の速度線図の変化の例を示す図である。
【図7】発電機目標トルクに基づいて発電機を駆動した場合の車両駆動装置の動作を示すタイムチャートである。
【図8】本発明の実施の形態における車両駆動装置の動作を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0084】
10 車両駆動装置
11 エンジン
13 プラネタリギヤユニット
14、15 伝動軸
16 発電機
18 変速機
25 モータ
57 発電機・モータ制御装置
CR1 第1のキャリヤ
R1 第1のリングギヤ
S1 第1のサンギヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電動機と、第2の電動機と、第1〜第3の回転要素を備え、第1の回転要素が前記第1の電動機に、第2の回転要素が伝動軸を介して前記第2の電動機に、第3の回転要素がエンジンに連結された差動装置と、前記伝動軸に伝達された回転の変速を行う変速機と、変速機による変速に伴って、イナーシャによる回転速度の変動を補償するイナーシャ補償トルクを算出する補償トルク算出処理手段と、前記第1の電動機の目標となるトルクを前記イナーシャ補償トルクに従って修正する目標トルク修正処理手段とを有することを特徴とする電動車両駆動制御装置。
【請求項2】
前記補償トルク算出処理手段は、前記変速機において変速制御を開始するための変速開始指標が発生させられたときに、イナーシャ補償トルクを算出する請求項1に記載の電動車両駆動制御装置。
【請求項3】
前記変速開始指標は、変速要求に従って発生させられた変速出力である請求項2に記載の電動車両駆動制御装置。
【請求項4】
前記補償トルク算出処理手段は、第1の電動機のイナーシャ、及び変速に伴う第2の電動機の回転速度の変化に基づいて、イナーシャ補償トルクを算出する請求項1に記載の電動車両駆動制御装置。
【請求項5】
前記補償トルク算出処理手段は、変速中において、エンジン回転速度及びエンジントルクが変化しないようにイナーシャ補償トルクを算出する請求項1に記載の電動車両駆動制御装置。
【請求項6】
第1の電動機、第2の電動機、第1〜第3の回転要素を備え、第1の回転要素が前記第1の電動機に、第2の回転要素が伝動軸を介して前記第2の電動機に、第3の回転要素がエンジンに連結された差動装置、及び前記伝動軸に伝達された回転の変速を行う変速機を有する電動車両駆動制御装置の制御方法において、変速機による変速に伴って、イナーシャによる回転速度の変動を補償するイナーシャ補償トルクを算出し、前記第1の電動機の目標となるトルクを前記イナーシャ補償トルクに従って修正することを特徴とする電動車両駆動制御装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−118696(P2007−118696A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−311608(P2005−311608)
【出願日】平成17年10月26日(2005.10.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】