説明

電子写真感光体の製造方法

【課題】 傷の発生を抑制して、堆積膜表面を研磨できる電子写真感光体の製造方法を提供する。
【解決手段】 基体の外周面および面取り面に堆積膜を形成する工程と、前記基体の面取り面に形成された堆積膜を前記面取り面の全周にわたって除去して基体の表面を露出させる工程と、前記基体の外周面に形成された堆積膜の表面を研磨する工程と、を順次実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子写真感光体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真感光体としてアモルファスシリコン(以下「a−Si」と記す)が高速・高耐久性を求められる電子写真装置に用いられている。a−Si感光体の構造は、例えばアルミニウム合金からなる円筒状の基体の上にCVD法によりa−Siを主体とする堆積膜を形成してなる。堆積膜は基体からの電荷注入を阻止するための阻止層、光電荷を発生させるための光導電層、表面を保護し適当な抵抗で帯電電荷を保持するための表面層が積層されているものが一般的である。
【0003】
CVD法によって形成される堆積膜は基体の上の微小な付着物や基体の欠陥を起点に異常成長する場合がある。異常成長は断面方向から見た場合にすり鉢状に成長し、それが堆積膜の最表面に球面形状に突出する球状突起となって現れる。このようにして形成されたa−Si感光体を電子写真装置で用いた場合に残留トナ−を除去するクリ−ニングブレ−ドを破損したり、球状突起を起点にトナ−の融着が発生し拡大したりするといった問題点があった。
【0004】
上記のような問題点の対策として、堆積膜の最表面の球状突起を研磨して除去する方法が提案され実施されている。例えば特公平7−77702号公報には、基体を回転させ堆積膜の表面に研磨テ−プを押し当てることにより表面の球状突起を除去することが記載されている。
また突起の研磨だけでなく、堆積膜の表面性を制御する目的で、堆積膜の表面を研磨テープ等により研磨する場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平7−77702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
a−Si感光体の基体の端部は取扱性向上のためにC面取りなどの面取り加工が施されていることが一般的である。CVD法により形成される堆積膜は通常この面取り面にも形成される。しかしながら、面取り面に形成された堆積膜は外周面に形成された堆積膜と比べて剥離しやすい。前述した堆積膜の表面の球状突起を除去するための研磨工程においてもこのような剥離が発生する場合がある。その結果、剥離した堆積膜が研磨テ−プと堆積膜の最表面との間に侵入し摺擦されることにより正常な部分の堆積膜を傷つける「研磨キズ」を発生させ、スジ状の画像欠陥として現れてしまうことがあるという問題点があった。本発明の目的は、堆積膜表面を研磨するときに傷の発生を抑制して研磨できる電子写真感光体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明は、基体の外周面および面取り面に堆積膜を形成する工程と、前記基体の面取り面に形成された堆積膜を前記面取り面の全周にわたって除去して基体の表面を露出させる工程と、前記基体の外周面に形成された堆積膜の表面を研磨する工程と、を順次実施することを特徴とする電子写真感光体の製造方法である。面取り面は基体の外周面と端面の間に形成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば堆積膜表面を研磨するときに傷の発生を抑制して研磨することができる。また基体の面取り面から堆積膜が剥離することを抑制することができる。その結果、電子写真装置で用いた場合に初期および多数枚の出力後でも画像欠陥の少ない電子写真感光体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の電子写真感光体の製造方法を示したフロ−チャ−ト。
【図2】(A)は本発明に用いられる基体の端面近傍の断面図、(B)は成膜工程の終了時の基体の状態を示す模式的な断面図、(C)は面取り面膜除去工程の終了時の基体の状態を示す模式的な断面図、(D)は外周面研磨工程の終了時の基体の状態を示す模式的な断面図。
【図3】本発明に用いられるCVD装置の一例を示す模式的な断面図。
【図4】本発明で用いる研磨装置の模式的な図であって、(A)は断面図、(B)は上面図。
【図5】本発明の電子写真感光体の層構成を示す図。
【図6】面取り面膜除去工程の終了時の基体の状態を示す模式的な断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は本発明の電子写真感光体の製造方法を示したフロ−チャ−トである。本発明の電子写真感光体の製造フロ−は(1)成膜工程、(2)面取り面膜除去工程、(3)外周面研磨工程からなる。以下各工程を順に説明する。
【0011】
(1)成膜工程(ステップS1)
成膜工程では円筒状の基体の表面(外周面および面取り面)にCVD法により堆積膜を形成する。図2(A)は本発明に用いられる基体の端面近傍の断面図である。基体1の外周面2と端面3の境界部は面取り加工が施されて面取り面4が形成されている。面取り面4は旋削加工により形成される。図2における面取り面はC面取りを表しているが、面取り面は曲面(R面取り)であっても良い。C面取りの面取り幅aまたはR面取りの曲面の半径は0.01mmから2mm程度とすることができる。また、断面で見たときに面取り面4と外周面2のなす角度Θが135°より大きくてもよく、この場合外周面2の面取り幅aを0.01mmから10mm程度とすることができる。
【0012】
基体の材質としては、例えば、銅、アルミニウム、ニッケル、コバルト、鉄、クロム、モリブデン、チタンやこれらの合金を用いることができる。中でも加工性や製造コストを考慮するとアルミニウムが優れている。この場合、Al−Mg系合金、Al−Mn系合金のいずれかを用いることが好ましい。
【0013】
円筒状の基体を製造する方法は、アルミニウムまたはアルミニウム合金を用いる場合、押出、引抜、矯正等の工程を経て製造された管材を所定の長さに切断する方法が一般的である。このような方法で製造された基体内部には、押出、引抜、矯正等の工程で多少の残留応力が生じている。このままの状態で基体の旋削加工を施したり、または基体上に堆積膜を形成する際の加熱工程で残留応力が開放されたりすると、基体が変形してしまう。したがって残留応力を除去するために、管材切断後基体に加熱処理(焼鈍)が行われる。加熱処理の温度は通常300〜430℃程度の温度である。基体1の外周面2および端面3は旋削加工が施され基体1の直径および長手寸法がそれぞれ規定される。さらに外周面2と端面3の間に旋削により面取り加工を施して面取り面4が形成される。
【0014】
図3は成膜工程で用いられるCVD装置の一例を示す模式的な断面図である。CVD装置10は縦型の真空容器でカソ−ド電極を兼ねた反応容器12を有し、この反応容器12内の周囲には容器の縦方向に延びる原料ガス導入管13が複数本配設されている。原料ガス導入管13の側面には長手方向に沿って多数の細孔が設けられている。反応容器12内の中心には、ヒ−タ14が設けられている。基体1は、補助基体16と共に基体ホルダ15に装着された状態で反応容器12の上部の蓋17を開けて挿入され、ヒ−タ14を内側にして反応容器12の中に縦方向に設置される。また、反応容器12の側面からマッチングボックス18を介して高周波電源19より高周波電力が供給される。
【0015】
反応容器12の下部には、原料ガス導入管13に接続された原料ガス供給管21が取り付けられ、この供給管21は、供給バルブ22を介して図示しないガス供給装置に接続されている。また、反応容器12の下部には排気管23が取り付けられている。この排気管23は排気バルブ24を介して図示しない排気装置(真空ポンプ)に接続されている。反応容器12の下部には、基体1が装着された基体ホルダ15を回転可能にするモ−タ25、反応容器12内の内圧を測定する真空計26が取り付けられている。
【0016】
上記の装置を用いた高周波プラズマCVD法によるa−Si堆積膜の形成は次のようになされる。まず、基体1を基体ホルダ15にセットし、その上に補助基体16をセットする。基体1は電子写真感光体の基体となる。基体ホルダ15を反応容器12の内部にセットし蓋17を閉じる。図示しない排気装置により反応容器12内を所定の圧力まで排気する。以後排気を続けながら、モ−タ25により基体ホルダ15を回転させる。ヒ−タ14により基体1を内側から加熱して、基体1を所定の温度に制御する。基体1が所定の温度に維持されたら、所望の原料ガスをそれぞれの流量制御器(不図示)により調節しながら、原料ガス導入管13を通って反応容器12の中に導入する。導入された原料ガスは排気管23を通って反応容器12の外に排気される。
【0017】
原料ガスが満たされた反応容器12内が所定の圧力になって安定したことを真空計26により確認したら、高周波電源19(例えば13.56MHzのRF帯域)により、高周波電力を所望の投入電力量で反応容器12の中に導入する。このようにして反応容器12の中にグロ−放電を発生させる。このグロ−放電のエネルギーによって、原料ガスが分解してラジカルが生成され、基体1の表面にシリコンを主体とした堆積膜が形成される。
【0018】
このようにして、基体1の表面に堆積膜が所望の膜厚で形成されたら、高周波電力の供給を止め、供給バルブ22等を閉じて、反応容器12内への原料ガスの導入を停止し、一層分の堆積膜の形成を終える。ガス種、ガス導入量、ガス導入比率、圧力、基体温度、投入電力、膜厚などのパラメ−タを調整することにより様々な特性の堆積膜を形成することができ、電子写真感光体としての特性を制御することができる。同様の操作を複数回繰り返すことにより所望の感光体特性を有する堆積膜を形成する。
【0019】
成膜工程終了時の基体の状態を示す断面図を図2(B)に示す。基体1の外周面2および面取り面4に堆積膜5が形成されている。また外周面には堆積膜5の異常成長によって生じた球状突起6が散在している。
【0020】
(2)面取り面膜除去工程(ステップS2)
面取り面膜除去工程では面取り面4に形成された堆積膜を面取り面4の全周にわたって除去して基体の表面(面取り面4)を露出させる。面取り面膜除去工程は外周面研磨工程の前に実施することが重要である。工程順序をこのようにすることにより、外周面の研磨時に面取り面から剥離した堆積膜が外周面の堆積膜最表面を傷つけることを抑制できる。また、面取り面の堆積膜を全周にわたって除去するので本発明の感光体を電子写真装置で使用している最中に面取り面から剥離した堆積膜が電子写真感光体の外周面を傷つけて画像欠陥を生起するということも抑制できる。
【0021】
また、後述する研磨装置を使用して面取り面膜除去工程と外周面研磨工程を同一の研磨装置で基体を取り外すことなく連続的に実施してもよい。この方法によればそれぞれの工程のための専用装置を必要としないので生産装置のコスト上昇を抑制できる。また面取り面膜除去工程から外周面研磨工程へ移行する際に、面取り面膜除去用の研磨装置から外周面研磨用の研磨装置へ基体を移動させる必要がないので生産性を低下させることがない。
【0022】
面取り面4に形成された堆積膜を除去して基体の表面を露出させる方法として、物理的な方法と化学的な方法を用いることができる。物理的な方法として砥石、スポンジ研磨剤、サンドペーパー、研磨フィルム、金属やすりなどの研削材を用いた研削、バイトを用いた旋削、ビーズなどを吹き付けるブラストなどの方法を利用することができる。化学的な方法としてエッチングガスを用いたドライエッチングを利用することができる。また物理的な方法と化学的な方法を併用する化学機械研磨(CMP)を利用することができる。
【0023】
研削材である砥石は砥粒と結合材からなる。砥粒としてはアルミナ系のA(アランダム)、WA(ホワイトアランダム)、PA(ピンクアランダム)、HA(解体型アルミナ)、AE(人造エメリー)、AZ(アルミナジルコニア)、炭化ケイ素系のC(カーボランダム)、GC(グリーンカーボランダム)などの材料が挙げられる。結合材としてはビトリファイド(V)、レジノイド(B)、ラバー(R)、シリケート(S)、セラック(E)、メタル(M)、電着(P)、マグネシアセメント(Mg)など材料が挙げられる。砥粒の粒度は#100から#2000の範囲で、押し当てる加圧力と処理時間に応じて選択される。
【0024】
別の研削材であるスポンジ研磨剤、サンドペーパー、研磨フィルムは、それぞれ基材としてスポンジ、紙・布、プラスチックフィルムを用い、これらの基材上に前述の砥粒を塗布したものである。これらの研削材を回転する基体の面取り面に押し当てることにより、面取り面に形成された堆積膜を除去することができる。
バイトの種類として高速度鋼、超鋼などの鋼材のほか、サーメット、セラミックス、ダイヤモンド、CBN(立方晶窒化ホウ素)などの刃先材料を用いることができる。これらのバイトを回転する基体の面取り面に押し当てることにより、面取り面に形成された堆積膜を除去することができる。
【0025】
ビーズの種類として前述の砥粒のほか、ガラス、珪砂、ステンレスなどの細粒を用いることができる。基体の面取り面以外の部分をマスキングし、これらのビーズを圧縮空気や液体の噴流によって吹き付けることにより面取り面に形成された堆積膜を除去することができる。
エッチングガスとしてClF、CFなどのハロゲン系ガスを用いることができる。基体の面取り面以外の部分をマスキングし、これらのガスを吹き付けることにより面取り面に形成された堆積膜を除去することができる。
【0026】
面取り面4に形成された堆積膜を除去して基体の表面を露出させる方法として砥石を用いる場合に用いる研磨装置の一例を以下に示す。図4(A)は研磨装置の模式的な断面図、図4(B)はその上面図である。研磨装置30は基体1の面取り面の堆積膜を全周にわたって研削して除去するための砥石31と外周面に形成された球状突起を研磨して除去するための研磨テープ33を備えている。
砥石31は基体1の面取り面に沿うように砥石ホルダ32に保持されている。面取り面の堆積膜を全周にわたって研削して除去する際には砥石31が加圧機構43によって基体の面取り面に押し当てられる。
【0027】
研磨テープ33は長尺のロール状であり、ガイドローラー34に案内されて順次引き出され巻き取り部材35に回収される。遮蔽部材36は面取り面膜除去に伴う粉塵が飛散して研磨テープ33に付着しないようにするためのものであり、面取り面膜除去工程時に基体1と研磨テープ33の間に配置される。遮蔽部材36としてたとえば巻き取り可能なロールスクリーンを用いることができる。外周面に形成された球状突起を研磨して除去する際には加圧ローラー41が加圧機構42によって基体外周面に押し当てられる。加圧機構42および43はエアシリンダ、スプリングなどを用いることができる。
【0028】
基体1を保持するために、まずクランプ37を基体端部に向かって移動させる。次にクランプ37を不図示の圧縮空気供給手段によって膨張させ基体1を内周面で保持する。基体1を内周面で保持する方法としてはこの他にコレットチャックを用いる方法、テーパー形状の保持部材を嵌合させる方法などを用いることができる。
【0029】
面取り面膜除去工程は以下のように実施する。図4において基体1をクランプ37で保持し、基体1をモーター38で時計回りに回転させる。続いて加圧機構43により砥石31を基体1の面取り面に接触させる。面取り面に形成された堆積膜を砥石31で除去した後、砥石31を基体1から離し、基板表面に付着した膜片等の異物をブロワー40で吹き飛ばす。ブロワーに加えてブラシやスポンジなどによる拭き取りを併用しても良い。また、異物が研磨装置の筐体内部に飛散することを抑制するために筐体内部を排気する排気機構を備えていても良い。基体1の回転速度は線速度で1〜100cm/sec、砥石31の加圧力は9.8kPa〜980kPaの範囲とすることが好適である。
【0030】
面取り面膜除去工程終了時の基体の状態を示す断面図を図2(C)に示す。面取り面4に形成された堆積膜は研削されて除去され、周方向の全周にわたって基体1が露出している。図2(C)では断面で見たときに面取り面4と堆積膜の端面5aとが直線をなすように前記堆積膜が研削されて除去されている。面取り面除去工程は面取り面4が露出した時点で終了してもよいし、研削をさらに進めて基体1まで研削してもよい。
【0031】
(3)外周面研磨工程(ステップS3)
外周面研磨工程では外周面2に形成された堆積膜5の表面を研磨する。球状突起6がある場合にはこれが選択的に研磨されて堆積膜5が平滑化される。また、突起研磨だけでなく、堆積膜の表面性を制御する目的で、堆積膜の表面を研磨テープ等により研磨する場合もある。外周面研磨工程は前記面取り面膜除去工程から連続して以下のように実施することができる。図4において基体1をモーター38で反時計回りに回転させる。遮蔽部材36を巻き取り部材44で巻き取って退避させ、リニアガイド39に従って基体1を移動し、基体1の外周面を研磨テープ33に接触させる。研磨テープ33を所定の送り速度で送出・巻き取る。続いて加圧機構42により加圧ローラー41を基体1に向かって移動させ、研磨テープ33を基体1の外周面に押し当てることにより基体1の外周面が研磨される。基体1の回転速度は線速度で1〜100cm/sec、研磨テープ33の送り速度が1〜20cm/sec、研磨テープ33の加圧力は9.8kPa〜980kPaの範囲とすることが好ましい。研磨テープとしてポリエステルやポリエチレンなどのフィルム基材上に砥粒を接着剤で塗布したもの、不織布に砥粒をコーティングしたものなどを用いることができる。砥粒としては砥石と同様の材料を用いることができる。砥粒の粒度は#1000から#4000の範囲が好適である。
外周面研磨工程終了時の状態を示す基体の断面図を図2(D)に示す。球状突起が研磨され、外周面2の上の堆積膜5が平滑化された電子写真感光体7が得られた。
【0032】
<実施例1>
基体1としてマグネシウムを2.5重量%含有したAl−Mg合金からなる円筒状金属素管を用いた。この素管に端面旋削加工、インロ−加工および外周面の鏡面旋削加工を施す。さらに外周面と端面の境界部にC面取り加工を施す。C面取りの面取り幅は0.3mmとした。旋削装置はエグロ社製RL−550EXを用いた。
この基体上に図5に示す層構成の堆積膜を形成した。堆積膜50は基体1の上に形成された阻止層51、光導電層52、表面層53からなる。それぞれの層は図3に示すCVD装置を用いて、表1に示す条件で形成した。
【0033】
【表1】

【0034】
堆積膜50を形成した基体1を図4に示す研磨装置にセットして線速度40cm/secの速さで図4における時計回りに回転させる。砥石31をエアシリンダからなる加圧機構43で基体1に向かって移動させ、240kPaの押圧力で基体に10秒間、接触させることにより、面取り面4に形成された堆積膜50を全周にわたって研削し除去した。そして加圧機構43による加圧を解除して砥石31を基体1から離す。砥石31として柳瀬株式会社製セラボンスティック(品番CK−104215、粒度#1000)を用いた。
【0035】
つづいて、基体を取り外すことなく同一の研磨装置30で外周面研磨工程を実施した。基体1を線速度40cm/secの速さで図4における反時計回りに回転させる。研削残渣をブロワ−40によって除去した後、遮蔽部材36を退避させリニアガイド39に従って基体1を移動し、基体1の外周面を研磨テープ33に接触させる。研磨テープ33を3.3cm/secの送り速度で送出・巻き取る。続いてエアシリンダからなる加圧機構42により加圧ローラー41を基体1に向かって移動させ、研磨テープ33を基体1の外周面に80kPaの押圧力で60秒間接触させることにより外周面2に形成された球状突起6を除去した。研磨テ−プ33としてレフライト株式会社製MAXIMAラッピングフィルム(品番GC4000、粒度#4000)を用いた。
【0036】
このようにして得られた電子写真感光体を以下のように評価した。電子写真感光体を電子写真装置(キヤノン社製複写機iRC6880Nを改造した装置)にセットし、A3サイズの全面ハーフトーン原稿を複写して得られた初期画像を出力した。そして、幅0.1mm長さ3mm以上の大きさに観察されるスジ状の白抜け(画像欠陥の部分)の有無を観察した。同一条件で40本作製した電子写真感光体で評価したところ、初期画像にスジ状の白抜けがあったものは0本だった。
【0037】
引き続きこの電子写真装置で印字率2%のヨコ線チャートの複写画像を5万枚出力したのち、A3サイズの全面ハーフトーン原稿を複写して得られた画像を出力し、幅0.1mm長さ3mm以上の大きさに観察される白抜け有無の評価を行った。5万枚出力後でも白抜けは発生しなかった。5万枚出力後の電子写真感光体を取り出して観察したところ外周面と面取り面の境界部にあたる堆積膜に特に剥れは見られなかった。
【0038】
<比較例1>
上記実施例1において面取り面に形成された堆積膜を除去せずに外周面研磨工程を実施したほかは実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。実施例1と同様の評価を実施したところ、初期画像にスジ状の白抜けがあったものは40本中2本だった。これは、球状突起を除去するための研磨工程において面取り面から堆積膜の剥離が発生し、その結果剥離した堆積膜が研磨テ−プと堆積膜表面の間に侵入し摺擦されることにより堆積膜表面を傷つけたためと考えられる。
また、5万枚出力後に白抜けが観察されたものは40本中3本だった。5万枚出力後に白抜けが発生した電子写真感光体を取り出して観察したところ面取り面および面取り面と外周面の境界部に形成された堆積膜にごくわずかに剥れが見られた。5万枚出力後の白抜けの増加は面取り面から剥離した堆積膜によるものと考えられる。
【0039】
<比較例2>
上記実施例1において外周面研磨工程を実施した後に面取り面に形成された堆積膜を除去したほかは実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。実施例1と同様の評価を実施したところ、初期画像にスジ状の白抜けがあったものは40本中2本だった。初期のスジ状の白抜けは比較例1と同じ原因によるものと考えられる。また、5万枚出力後に観察される白抜けが観察されたものは40本中2本だった。5万枚出力後の電子写真感光体を取り出して観察したところ外周面と面取り面の境界部にあたる堆積膜に特に剥れは見られなかった。5万枚出力後でも白抜けが悪化しなかったのは面取り面から剥離する堆積膜がないことによるものと考えられる。
【0040】
<実施例2>
基体の面取り面に形成された堆積膜を前記面取り面の全周にわたって除去して基体の表面を露出させる工程において、面取り面と堆積膜が連続した曲面をなすように堆積膜および基体を研削するようにしたほかは実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。図6に示すように連続した曲面はその断面がほぼ楕円形状であり、長軸の長さAが2mm、短軸の長さBが1mmとなるように砥石31の表面形状を加工したものを用いて堆積膜5および基体の面取り面4を研削した。
【0041】
実施例1と同様に評価したところ、初期画像にスジ状の白抜けがあったものは40本中0本だった。5万枚出力後でも白抜けは発生しなかった。5万枚出力後の電子写真感光体を取り出して観察したところ外周面と面取り面の境界部にあたる堆積膜にも剥れは見られなかった。本実施例では外周面と面取り面の境界部にあたる堆積膜の剥れがより抑制されると考えらる。
以上の実施例および比較例の製造方法ならびに評価結果をまとめて表2に示した。以上の実施例および比較例から本発明の効果が明らかになった。
【0042】
【表2】

【符号の説明】
【0043】
1 基体
2 外周面
3 端面
4 面取り面
5 堆積膜
6 球状突起
7 電子写真感光体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体の外周面および面取り面に堆積膜を形成する工程と、
前記基体の面取り面に形成された堆積膜を前記面取り面の全周にわたって除去して基体の表面を露出させる工程と、
前記基体の外周面に形成された堆積膜の表面を研磨する工程と、
を順次実施することを特徴とする電子写真感光体の製造方法。
【請求項2】
前記基体の表面を露出させる工程と前記堆積膜の表面を研磨する工程は、同一の研磨装置で前記基体を取り外すことなく実施することを特徴とする請求項1に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項3】
前記基体の表面を露出させる工程において、断面で見たときに前記面取り面と前記堆積膜が直線をなすように前記堆積膜を研削することを特徴とする請求項1または2に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項4】
前記基体の表面を露出させる工程において、前記面取り面と前記堆積膜が連続した曲面をなすように前記堆積膜および基体を研削することを特徴とする請求項1または2に記載の電子写真感光体の製造方法。







【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate