説明

電子写真感光体の製造装置

【課題】 本発明は、異なる種類の感光体を効率よく低コストで製造することができる電子写真感光体の製造装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 プラズマCVD法によって電子写真感光体を製造するための電子写真感光体の製造装置であって、真空気密可能な反応空間を有し、かつ、少なくとも一部の内側壁が円筒状電極で構成されている反応容器101と、前記円筒状電極に高周波電力を供給し、前記反応空間にグロー放電を生起させることによって、前記反応空間に供給された原料ガスを励起させるための高周波電力供給手段と、前記反応空間を排気するための排気手段と、を有する電子写真感光体の製造装置において、前記円筒状電極が、円筒状電極本体102、及び、前記反応空間に原料ガスを供給するためのガス放出孔が設けられているガス供給部材116を有し、ガス供給部材116が、円筒状電極本体102に脱着可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は円筒状基体の表面にシリコン原子を母材とする非晶質材料からなる機能性膜を形成する電子写真感光体の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、非晶質材料で構成された半導体用の堆積膜が提案され、その中のいくつかは実用に付されている。例えば水素およびハロゲン(例えばフッ素、塩素)の少なくとも一方で補償されたアモルファスシリコン(以下、“a−Si”と略記す。)が電子写真感光体として用いられている。
この種の堆積膜を形成する際には、堆積膜の膜厚、膜特性の均一化が求められることが多い。特に、電子写真感光体は、均一性が画像特性に大きく影響を与えるため、大面積領域に均一な堆積膜を形成する技術が必要となる。
【0003】
例えば、プラズマCVD法を用いて円筒状基体に堆積膜形成を行う電子写真感光体の製造装置においては、円筒状基体の周方向及び長手方向に均一な堆積膜を得るために原料ガスの導入方法に関してさまざまな提案がなされている。
例えば、反応容器を構成する円筒状電極の内部に原料ガス経路となる複数の管状空洞部を有し、これら管状空洞部の各々が円筒状電極の底部から頭部へ軸方向に沿って伸びて配置される堆積膜形成装置が提案されている。(特許文献1参照)
【0004】
本特許文献においては、管状空洞部から反応容器内に原料ガスを放出させることにより、反応容器内のガス流を安定化させることができ、円筒状基体全体にわたって均一な膜質、膜厚を得ることが可能となったことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-323375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、プラズマCVD法を用いて機能性堆積膜を形成する場合、反応容器の中の空間に均一かつ安定なプラズマが生成されることが重要となる。特に電子写真感光体のような大面積の機能性堆積膜を用いる部材の場合は、こうしたプラズマの均一性、安定性が特性の均一性に大きく影響を及ぼしてしまう。
プラズマCVD法による成膜方法の中でも、高周波電力としてRF帯を用いるRFプラズマCVD法が良好な特性の膜を容易に得られるため、a−Siを用いた電子写真感光体の製造などに広く用いられている。また、前記した特許文献1に示される従来の堆積膜形成装置により、均一性に優れた感光体を得ることが可能になった。
【0007】
しかしながら、特に近年では、市場にて要求される電子写真装置のスペックが厳しくなってきており、さらなる高画質化、高速化、高耐久性、および高機能化に向けた製品開発が急務となっている。
こうした市場の変化に伴って、a−Siを用いた電子写真感光体に関しても、従来以上に電気特性の向上と均一性に対する要求もより強くなってきていると同時に、低価格、低ランニングコストの要求も強くなってきている。
【0008】
更に、近年の電子写真装置の目覚しい普及により、市場における顧客のニーズは、用途やコピーボリューム、性能等において多種多様となってきている。
こうした多種多様な顧客のニーズに対応するには、例えば感光体の外径や長さ、堆積膜の厚さ、帯電特性等が異なるさまざまな種類の製品が必要となる。
こうした異なる感光体の製造においては、原料ガスや原料ガスの分解を司る電力、基板温度等の成膜条件パラメーターを製品ごとに変えていかなければならない。とりわけ、原料ガスの導入に関しては重要なパラメーターで、堆積膜形成装置における原料ガスの吹き出し方法や、吹き出し穴の配列等が堆積膜の均一性や帯電特性に大きな影響を与えることが解っている。
【0009】
例えば、特許文献1に示される堆積膜形成装置において、原料ガスの吹き出し穴の配置を変更して異なる製品を製造する場合、異なる吹き出し穴配置を有する別の反応容器に交換して製造しなければならない。そのため、反応容器の交換に時間が掛かるなどの課題が発生してきている。また、反応容器自体の製作においても、反応容器の構造が複雑で加工コストも高く、投資コスト増となってしまう課題も有している。
本発明は、上記のような従来技術に鑑みてなされたものであり、異なる種類の感光体を効率よく低コストで製造することができる電子写真感光体の形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本出願に係る発明は、プラズマCVD法によって電子写真感光体を製造するための電子写真感光体の製造装置であって、真空気密可能な反応空間を有し、かつ、少なくとも一部の内側壁が円筒状電極で構成されている反応容器と、前記円筒状電極に高周波電力を供給し、前記反応空間にグロー放電を生起させることによって、前記反応空間に供給された原料ガスを励起させるための高周波電力供給手段と、前記反応空間を排気するための排気手段と、を有する電子写真感光体の製造装置において、前記円筒状電極が、円筒状電極本体、及び、前記反応空間に原料ガスを供給するためのガス放出孔が設けられているガス供給部材を有し、前記ガス供給部材が、前記円筒状電極本体に脱着可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の堆積膜形成装置によれば、異なる製品の電子写真感光体を効率よく低コストで製造することができる。また、堆積膜形成装置の原料ガス放出孔の加工精度が向上することで、より均一性の優れた電子写真感光体を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の堆積膜形成装置を模式的に示した図。
【図2】本発明のガス供給部材を示した模式図。
【図3】本発明の別のガス供給部材を示した模式図。
【図4】ガス供給部材のガス放出孔のパターンを示した模式図。
【図5】本発明の別の堆積膜形成装置を模式的に示した図。
【図6】電子写真感光体の層構成を示した模式図。
【図7】従来の堆積膜形成装置を示した模式図。
【図8】従来の堆積膜形成装置の反応容器を示した模式図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、特許文献1で開示されている発明の改良発明であり、異なる種類の電子写真感光体を低コストかつ効率的に製造することに加え、優れた帯電特性と均一性を両立させた電子写真感光体を得るために検討を繰り返し想到したものである。
本発明者らは、前述したような異なる製品の電子写真感光体を効率よく低コストで生産する検討を行う過程において、以下の2つの課題を検討した。
(1)品種毎に反応容器を入れ替える作業に掛かる手番による製造装置停止時間の削減
(2)製造装置投資コストの削減
【0014】
(1)の具体的な課題として、反応容器本体を、異なる反応容器に付け替える作業は、反応容器自体が重量物であるために作業が大がかりなってしまうことが挙げられる。特に、真空搬送機構を設けた生産システムの場合、基体を搬送する搬送容器と堆積膜を形成する処理容器との位置決め調整作業に非常に手間が掛かる。このため製造装置停止時間が長くなってしまい、生産効率を低下させる要因となっている。
【0015】
(2)の具体的課題としては、製品毎に異なる反応容器を製作しなければならず、反応容器の製作コストがかかってしまうことが挙げられる。特に、特許文献1に示す反応容器は、構造が複雑であり、製作には複雑かつ高度な加工が伴い、製作コストを増大させている。
本発明者らは、上記二点の課題を同時に解決することができないか鋭意検討した結果、反応容器(円筒状電極)内部のガス経路部分を円筒状電極本体と分離できる構成とする本発明に至ったものである。
以下、図面を用いて本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0016】
図1は、RF(Radio Frequency)−プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法によって、電子写真感光体を製造するための製造装置(堆積膜形成装置)の一例を模式的に示した図である。図1(a)は縦断面図、図1(b)は横断面図である。
堆積膜形成装置100は、プラズマ処理によって円筒状基体120に堆積膜を形成する装置である。円筒状カソード電極(以下、「円筒状電極」とも記載する)、絶縁体106、107、底壁103、上壁104、上蓋105等により、円筒状の反応容器101が形成されている。
【0017】
反応容器101は、真空気密可能な反応空間を有し、かつ、少なくとも一部の内側壁が円筒状電極で構成されている。高周波電力供給手段は、マッチングボックス118、高周波電源119等によって構成される。高周波電力供給手段は、円筒状電極に高周波電力を供給し、反応空間にグロー放電を生起させることによって、反応空間に供給された原料ガスを励起させる。排気手段は、排気配管113等によって構成される。排気手段は、反応空間を排気する。円筒状電極は、円筒状電極本体102、及び、反応空間に原料ガスを供給するためのガス放出孔が設けられているガス供給部材116を有する。ガス供給部材116は、円筒状電極本体102に脱着可能である。
【0018】
反応容器101には、反応容器101の中に原料ガスを導入するためのガス供給部材であるガスブロック116が設けられている(以下、ガス供給部材のことを「ガスブロック」と記載する)。ガスブロック116は、保持される円筒状基体120の長手方向に、円筒状基体120と平行に延びている。ガスブロック116は、原料ガスの流量を調整するためのマスフローコントローラ(不図示)を介在させたミキシング装置129と、原料ガス流入バルブ128からなるガス供給系に接続されている。
【0019】
ガスブロック116とガス供給系との接続は、ガスブロックが円筒状電極の一部となる構成であるため、絶縁性の継ぎ手部材117を介して接続され、高周波電力を反応容器101の外部に持ち出されない構成となっている。
本発明のガスブロック116は反応容器101の一部を構成し、かつ円筒状電極本体102と同様に、円筒状電極の一部として構成され、ガスブロック116は円筒状電極本体102から取り外しが可能(脱着可能)な構造となっている。
【0020】
このような構成とすることで、品種毎に反応容器を入れ替える必要が無く、ガスブロックのみを入れ替えることで各品種の製造に対応した構成の反応容器に段取り換えができる。このため、前述した反応容器に入れ替え作業の課題を克服し、段取り換えの作業時間が大幅に短縮できることとなる。
また、反応容器自体を品種毎に製作する必要が無く、ガスブロックのみを品種に応じて製作すれば足りるため、装置の投資コストが大幅に削減できるメリットを生み出すこととなる。
以下、ガスブロックについてさら詳しく説明する。
【0021】
図2(a)はガスブロックの外観図であり、図2(b)がその断面図を示した模式図である。
ガスロック200の構造は、管状空洞部203、原料ガス放出孔204、原料ガス導入継ぎ手部材217で構成され、原料ガス放出孔204は反応容器101の内面に配置されるように取り付けられる。原料ガスライン218と原料ガス導入継ぎ手部材217が接続されることにより反応容器101の中に原料ガスが導入可能な構成となる。
【0022】
本発明のガスブロックは、円筒状電極本体に取り付けられた状態で円筒状電極の一部となる。更に、ガスブロックと円筒状電極本体が同電位と成るように取り付けることが好ましい。このことにより、ガスブロックを含めた円筒状電極全体が電極となり、より均一なプラズマが生成されることとなる。また、電極面積も広範囲と成るため、効率よく高周波を基体に印加することができる。
【0023】
本発明においては、ガスブロックの材質は導電性の金属であれば特に限定は無いが、加工の容易性やコスト等を考慮すれば、アルミニウムやステンレスが好ましい。
また、ガスブロックの取り付け方法としては円筒状電極本体と同電位となるように取り付けられれば特に限定はない。例えば導電性のネジ等で固定し、円筒状電極本体と同電位になるように取り付けることが本発明では好ましい。
本発明において、ガスブロックの形状に関しては特に制限はないが、円筒状電極本体の内面との段差は極力少ない方が好ましい。また、円筒状電極本体の内面と同じ面をなすガスブロックの面(ガス放出孔側の面)は平面でも良いが、円筒状電極本体の内面と同じ曲率もつ曲面とすることも本発明では有効な手段である。
【0024】
本発明のガスブロックの構成として、図2(c)に示すような背板202を設け、本体201と分解可能な構成にすることも本発明では有効である。
図2(d)は背板202を外した状態の模式図である。本体201と背板202はOリング205により気密が保持される構造になっている。図2(d)に示すように、背板202を外すことで内部管状空洞部203が開放状態となり、ガスブロック内部のガス経路が清掃しやすくなる。ガス経路には成膜中の残渣やエッチング時に取りきれない残渣等が残ってしまう場合があり、こうした残渣が感光体の画像欠陥の要因となる場合があった。図2(d)に示すように背板202を外してガス経路を直接清掃可能な構成とすることで、より安定して画像欠陥の少ない電子写真感光体の提供が可能になる。
【0025】
本発明のガスブロックでは、ガス放出孔の寸法精度及び穴の向きの精度を厳しく管理することが重要である。これらの精度は電子写真感光体の均一性に影響を及ぼす場合がある。
本発明におけるガスブロックのガス放出孔の直径は0.5mm〜2.0mmの範囲であることが好ましい。更に、各放出孔の精度は直径の±5%以内の精度であることが好ましい。ガス放出孔の精度によっては、電子写真感光体の長手方向(軸方向)の特性ムラのみならず、円筒状基体を回転させながら堆積膜を形成する場合においても周方向ムラに影響を及ぼす場合もある。
【0026】
特許文献1で開示されている堆積膜形成装置の場合、ガス放出孔を加工する場合、反応容器内径の制約から反応容器の内面から穴あけ加工することが困難となる。そのため、反応容器の外側から貫通穴をあけ、外側の穴を塞ぐ加工をしなけれならず、加工の手番が多くなることと、穴あけ加工のストロークが長くなることにより、精度が出しにくくなる場合がある。
本発明のガスブロック構成の場合、ガスブロック単体で機械加工を行なうことができるので、加工がしやすくなり、精度が出しやすくなる。
【0027】
本発明のガスブロックにおいては、ガス放出孔の近傍の材質に絶縁性セラミックからなる材料を用いることも有効である。RF−プラズマCVD法を用いた堆積膜形成装置においては、成膜条件によってはガス放出孔の近傍がガスの流れ(突出圧力)の影響でプラズマが集中しやすい状態に成る場合がある。特に、ガス放出部分が電極となる場合、その状態は顕著に表れる場合があった。こうした状況下では、ガス放出孔の近傍がプラズマの影響で局所的に高温になり、堆積膜が剥がれやすい状況になってしまう場合があった。こうした膜剥がれの影響で感光体の画像欠陥を悪化させてしまう場合があった。
【0028】
本発明のガスブロックの場合、前述したようにブロック単体で加工が行なえるので、図3に示すような多くの管状のセラミック部品304をガス放出孔の近傍に埋め込む加工も容易に行なえる。ガス放出孔に絶縁性のセラミック材料を埋め込むことによりガス放出部分が電極とならないため、前述した堆積膜の膜剥がれの発生を制御し、画像欠陥の少ない感光体を安定して提供可能になる。セラミックス材料として具体的には、アルミナ、ジルコニア、ムライト、コージェライト、炭化珪素、チッ化ホウ素、チッ化アルミ等が上げられる。これらの中でも、アルミナ、チッ化ホウ素、チッ化アルミは絶縁抵抗にすぐれ、高周波電力の吸収が少ないことからより好ましく、コスト、加工性等を鑑みるとアルミナを母体とする材料がより好ましい。
【0029】
図1において、堆積膜形成装置100は反応容器101の中を減圧する排気手段と、反応容器101の中の長手方向に円筒状基体120の軸方向が向くように円筒状基体120を保持する基体保持手段(回転台123)とを備える。
さらに、堆積膜形成装置100は、原料ガスを励起させて励起種化させる放電エネルギーを円筒状カソード電極に印加する印加手段としてマッチングボックス118、及び高周波電源119とを備える。
【0030】
反応容器101には、排気配管113を介して不図示の真空ポンプユニットが接続され、排気速度を制御することにより、反応容器101の中を各工程に適した所定の圧力に維持することができる。真空ポンプユニットには、例えばロータリーポンプや、メカニカルブースターポンプを用いることができる。
堆積膜形成装置100の反応容器101の内部には、加熱用ヒータ124が設けられている。加熱用ヒータ124は、真空中で使用可能なものであればどのようなものを用いてもよい。具体的には、シース状ヒータ、板状ヒータ、セラミックヒータ、カーボンヒータの様な電気抵抗発熱体や、ハロゲンランプ、赤外線ランプの様な熱放射ランプや、液体、気体を熱媒とした熱交換手段が対象として挙げられる。
【0031】
円筒状カソード電極の上下は、セラミックスからなる絶縁体106、107により底壁103および上壁104と絶縁されている。上壁104には上蓋105があって、ここから反応容器101の中に、円筒状基体120およびキャップ121を装着した基体ホルダ122を搬入・搬出する。
反応容器101の下部には、円筒状基体120およびキャップ121が装着された基体ホルダ122を回転可能に保持する回転台123が設けられている。回転台123は、回転台123を回転させるためのモータ(不図示)に接続されている。したがって、円筒状基体120は、基体ホルダ122の上に装着された状態で、回転台123と共に回転させることができる。
【0032】
円筒状基体120の材質は,使用目的に応じたものであれば良い。円筒状基体120の材質としては、例えば、銅、アルミニウム、金、銀、白金、鉛、ニッケル、コバルト、鉄、クロム、モリブデン、チタン、ステンレスが、電気伝導率が良好であるため、好適である。中でも、加工性や製造コストを考慮すると、アルミニウムが最適である。この場合、円筒状基体120を形成するアルミニウムとしては、例えばAl−Mg系合金、Al−Mn系合金のいずれかを用いることが好ましい。
【0033】
以上のように構成された堆積膜形成装置100を用いて堆積膜を形成する手順の一例について、以下図1を用いて説明する。
まず、円筒状基体120およびキャップ121を装着した基体ホルダ122を、反応容器101の中に搬入し、回転台123に設置して、上蓋105を閉める。
その後、排気配管113に接続されている真空ポンプ(不図示)により反応容器101の中を排気する。続いて、ミキシング装置129、原料ガス流入バルブ128を介して、反応容器101の中に円筒状基体120の加熱に必要な、例えばAr、Heガスを導入する。そして、反応容器101の中が所定の圧力になるように、真空計127を確認しながら真空ポンプの排気速度を調整する。この調整は、例えば、真空ポンプのメカニカルブースターポンプの回転周波数を調整することによって行うことができる。
【0034】
次に、所定の圧力になった後、加熱用ヒータ124により円筒状基体120の温度を150[℃]〜450[℃]、より好ましくは200[℃]〜350[℃]の所望の温度に制御する。
以上の手順によって堆積膜を形成する準備が完了した後、円筒状基体120の表面に堆積膜の形成を行う。
【0035】
まず、堆積膜形成用の原料ガスとして、主原料ガスと希釈ガスおよび特性改善ガスを、ミキシング装置129を介して混合して反応容器101の中に導入し、導入ガスが所望の流量になるように調整する。その際、反応容器101の中が13.3[mPa]〜1330[Pa]の所望の圧力になるように、真空計127を確認しながら真空ポンプの排気速度を調整する。
堆積膜形成時に使用する主原料ガスとしては、シラン(SiH)、ジシラン(Si)、四フッ化珪素(SiF)、六フッ化二珪素(Si)のごときa−Si形成用の原料ガス、またはそれらの混合ガスを用いることができる。希釈ガスとしては、水素(H)またはアルゴン(Ar)、ヘリウム(He)のごとき不活性ガスを用いることができる。また、特性改善ガスとして、窒素原子を含むもの、酸素原子を含むもの、炭素原子を含むもの、またはフッ素原子を含むもの、周期表の13族又は15族に属する原子を含むドーピングガス、あるいはこれらの混合ガスを併用してもよい。
【0036】
次に、反応容器101の中の圧力が安定した後、高周波電源119を所望の電力に設定して、高周波電力を、マッチングボックス118を介して円筒状カソード電極に供給することで、反応容器101の中にグロー放電(高周波グロー放電)を生起させる。供給電力は、例えば、RF帯、特に13.56[MHz]の周波数とすることができる。この放電エネルギーによって、反応容器101の中に導入された堆積膜形成用の原料ガスが励起されて励起種が生成され、すなわち分解されて、円筒状基体120の表面に所望のシリコン原子を主成分とする堆積膜が形成される。このとき、ガスブロック116は円筒状電極本体102と同電位であるので、ガスブロック116も高周波電極として機能することとなる。
【0037】
均一な堆積膜を形成するために、堆積膜を形成するのと同時に、あるいは円筒状基体120を加熱する段階から、円筒状基体120を回転させることは有効な手段となる。この回転は0.5[rpm]〜20[rpm]、例えば1[rpm]の回転速度とする。こうすることで、円筒状基体120の周方向に均一な堆積膜が形成される。
以上のようにして円筒状基体120の外周面の表面に堆積膜が形成される。
【0038】
堆積膜が形成された後には、堆積膜形成用の原料ガスおよび高周波電力の供給を停止し、反応容器101の中を排気する。その後、反応容器101およびガスブロック116の中をパージガス、例えばAr、He、N等の不活性なガスを用いてパージ処理する。パージ処理完了後、反応容器101の中をAr、He、N等の不活性なガスを用いて、大気圧まで戻す。そして、上蓋105を開けて、円筒状基体120およびキャップ121を装着した基体ホルダ122を、反応容器101の中から取り出す。
【0039】
その後に、必要に応じて、反応容器101の中に堆積した堆積膜および粉状の副生成物をクリーニング処理する。手順としては、まず、円筒状基体120の替わりに、略同一形状のクリーニング用ダミー基体を装着した基体ホルダ122を、反応容器101の中に搬入、回転台123に設置し、上蓋105を閉める。その後、真空ポンプにより反応容器101の中を排気する。続いて、反応容器101の中にミキシング装置129および原料ガス流入バルブ128を介して、クリーニング処理に必要なクリーニング性ガスを導入する。そして、反応容器101の中を所定の圧力になるように真空計127を確認しながら真空ポンプの排気速度を調整する。
【0040】
クリーニング処理時に使用するクリーニング性ガスとしては、例えばCF、CFとOの混合ガス、SF(六フッ化硫黄)、NF3(三フッ化窒素)、ClF(三フッ化塩素)等が挙げられる。本実施形態では、クリーニング時間を短縮する面から有効であるClFを用いる。また、本実施形態においては、クリーニング性ガスの濃度を調整するためにも、希釈用の不活性ガスを用いることが有効である。この不活性ガスとしては、例えばHe、Ne、Ar等が挙げられるが、なかでもArを用いることが好ましい。
【0041】
反応容器101の中の圧力が安定した後、高周波電源119を所望の電力に設定して、高周波電力を、マッチングボックス118を介して円筒状カソード電極に供給することで、反応容器101の中に高周波グロー放電を生起させる。この放電エネルギーによって、反応容器101の中に導入されたクリーニング性ガスが分解され、反応容器101の中に堆積した堆積膜および粉状の副生成物と反応し、反応容器101の中がクリーニング処理される。
【0042】
次に、クリーニング処理後に高周波電力の供給を停止し、反応容器101の中を排気する。その後、反応容器101およびガスブロック116の中をパージガス、例えばAr、He、N等の不活性なガスを用いてパージ処理する。パージ処理完了後、反応容器101の中をAr、He、N等の不活性なガスを用いて、大気圧まで戻す。そして、上蓋105を開けて、クリーニング用のダミー基体120が装着された基体ホルダ122を、反応容器101の中から取り出す。
【0043】
このような手順を繰り返すことにより、連続して電子写真感光体を製造することができる。更には、本発明の堆積膜形成装置では、ガスブロック116を電子写真感光体の性能、特性に応じて適宜最適なガスブロックに変更して電子写真感光体を製造することができる。即ち、本発明の構成の堆積膜形成装置100では異なる種類の電子写真感光体を効率よく製造することができる。
更に、本発明は、図5に示すような構成の堆積膜成膜装置においても有効である。図5において、成膜装置形成装置500は反応容器501の側面に排気配管513を設けた構成となっている以外は図1に示した堆積膜形成装置100と構成は同じである。
【実施例】
【0044】
以下に、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
〔実施例1〕
図1に示す堆積膜形成装置100を用いて、円筒状基体120の表面に表1に示す条件で、図6(a)に示す層構成のa−Si堆積膜(以下、電子写真感光体と略記する)の形成を上述の手順により10本(10サイクル)行った(製品Aとする)。円筒状基体120は、アルミニウムよりなる外径80mm、長さ358mm、肉厚3mmのものを用いた。ガスブロックは図4(a)に示すものを用いた。
【0045】
図6(a)中の601は円筒状基体を示し、602は下部阻止層、603は光導電層、605は表面層をそれぞれ示す。
上記10サイクル終了後、図1に示す堆積膜形成装置100のガスブロックを図4(b)に示すものに付け替える作業を行い、表2に示す条件で図6(b)に示す層構成の電子写真感光体を10本(10サイクル)作成した(製品Bとする)。このとき、円筒状基体のサイズを変更し、アルミニウムよりなる外径84mm、長さ381mm、肉厚3mmのものを使用した。図6(b)中の601は円筒状基体を示し、602は下部阻止層、603は光導電層、604は上部阻止層、605は表面層をそれぞれ示す。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
〔比較例1〕
図7に示す堆積膜形成装置を用いて、アルミニウムよりなる外径80mm、長さ358mm、肉厚3mmの円筒状基体120の表面に表1に示す条件で、図6(a)に示す層構成の製品Aと同様の電子写真感光体の形成を実施例1と同様に10本(10サイクル)行った。このとき、反応容器は図8(a)に示すものを用いた。
図8(a)は、図7に示す従来の円筒状電極612の一例を示す。図8(b)は、図7に示す従来の円筒状電極612の他の例を示す。図8(a)及び(b)に示すように、従来は円筒状電極612そのものにガス放出孔が設けられている。つまり、ガス放出孔を有する部位を円筒状電極612から取り外すことはできない。
上記10サイクル終了後、図7に示す堆積膜形成装置の反応容器を図8(b)に示すものに付け替える作業を行い、表2に示す条件で図6(b)に示す層構成の製品Bと同様の電子写真感光体Bを10本(10サイクル)作成した。このとき、円筒状基体のサイズを変更し、アルミニウムよりなる外径84mm、長さ381mm、肉厚3mmのものを使用した。
【0049】
実施例1及び比較例1で成膜終了後、各電子写真感光体を以下の要領にて評価した。
表1の条件にて作成した電子写真感光体を、キヤノン製複写機iRC5870を実験用に改造した改造機に設置し、感光体の軸方向帯電ムラ、周方向帯電ムラ等の電子写真特性について評価を行った。
また、表2の条件にて作製した電子写真感光体は、キヤノン社製iRC6800をマイナス帯電方式に改造した改造機に設置し、同様に感光体の軸方向帯電ムラ、周方向帯電ムラ等の電子写真特性について評価を行った。
【0050】
各項目は、以下の方法で作成した電子写真感光体10本全てについて評価を行った。
判定は10本の電子写真感光体の平均値を用いた。
さらに、交換作業によるライン停止時間の評価として、実施例1でのガスブロック交換作業時間と、比較例1での反応容器の交換作業時間を測定した。
【0051】
(軸方向帯電ムラ)
主帯電器の電流値をiRC5870は1000μA、iRC6800は−1000μAの条件にして電子写真感光体を帯電した。この時、表面電位計により電子写真感光体の暗部表面電位を測定する。暗部表面電位は周方向の平均値とする。電子写真感光体の中央部位置を0位置とし、両側夫々2cm間隔で8点(±2cm,±4cm,±6cm,±8cm,±10cm,±12cm,±14cm,±16cm)の合計17点の測定を行い、得られた各位置の電位の最大値と最小値の電位差を軸方向帯電ムラとする。
【0052】
そして比較例1の電子写真感光体の軸方向帯電ムラを100%とした相対評価を行い、以下のようにランク付けを行った。
A 80%未満
B 80%以上90%未満
C 90%以上110%未満
D 110%以上
【0053】
(周方向帯電ムラ)
主帯電器の電流値をiRC5870は1000μA、iRC6800は−1000μAの条件にして電子写真感光体を帯電した。この時、表面電位計により電子写真感光体の暗部表面電位を測定する。この時、感光体の中心から±150mm位置の周方向の電位を測定した。各位置の周方向36点の測定を行い、得られた各点の電位の最大値と最小値の電位差周方向帯電ムラとする。値は、+150mmと−150mm位置の平均値とする。
【0054】
そして比較例1の電子写真感光体の周方向帯電ムラを100%とした相対評価を行い、以下のようにランク付けを行った。結果を表3に示す。
A 80%未満
B 80%以上90%未満
C 90%以上110%未満
D 110%以上
【0055】
(交換作業によるライン停止時間)
実施例1及び比較例1において、製品Aの作成後、製品Bを作成するまでのライン停止時間の評価として、実施例1においてはガスブロック、比較例1においては反応容器の交換作業に要する延べ時間を測定した。
【0056】
そして比較例1の延べ交換作業時間、つまりは交換作業に必要な作業者の人数と各々の作業時間の積の総和を100%とした相対評価を行い、以下のようにランク付けを行った。結果をまとめて表3に示す。
A 60%未満
B 60%以上90%未満
C 90%以上110%未満
D 110%以上
【0057】
【表3】

【0058】
表3に示すように、本発明の構成を用いた製造装置においては、異なる種類の電子写真感光体の製造に伴う段取り換え作業時間が大幅に短縮される結果となった。
更に特筆すべきは、電子写真感光体の軸方向帯電ムラ、周方向帯電ムラが改善された点である。これは、ガス導入部分がブロック形状で、反応容器本体から分離できる構造となっていることで、特にガス放出孔の加工が容易となり加工精度が向上することに起因するものと考えられる。
【0059】
〔実施例2〕
実施例1と同様に表2に示す条件にて製品Bと同様の電子写真感光体を10本作成した。本実施例においては、ガスブロックは図3に示すようなガス放出孔の材質がアルミナセラミックス(Al3)と成っているものを使用し、ガス放出孔の分布は図4(b)に示すものと同じとした。
実施例2及び比較例1で作成した製品Bの電子写真感光体について、実施例1と同様の軸方向帯電ムラ、周方向帯電ムラの評価をおこなった。結果を表4に示す。
更に別の評価として、キヤノン社製iRC6800をマイナス帯電方式に改造した改造機に設置し、画像部を露光するイメージ露光方式で、露光部を現像する反転現像によりコピー画像を形成し、画像欠陥の評価を加えておこなった。評価は以下の要領で行なった。
【0060】
(画像欠陥)
A3サイズの白原稿を原稿台に置き、A3用紙にマゼンタ色、イエロー色、シアン色の3色で複写した。こうして得られた画像領域にある直径0.1mm以上の画像欠陥(シアン色の画像欠陥)の個数を数えた。
【0061】
得られた結果は、比較例1で作成した製品Bと同様の電子写真感光体で得られたコピー画像での個数を100%とした場合の相対比較でランク付けを行った。
A 60%未満
B 60%以上90%未満
C 90%以上110%未満
D 110%以上
結果を表4に示す。
【0062】
【表4】

【0063】
表4に示すように、ガスブロックのガス放出孔にアルミナセラミックス材料を用いることで画像欠陥レベルが大幅に改善される結果となった。
【符号の説明】
【0064】
101 反応容器
102 円筒状電極本体
116 ガスブロック
117 継ぎ手
120 円筒状基体
210 (ガスブロック)本体
202 背板
203 管状空洞部
204 ガス放出孔(穴)
205 Oリング
304 セラミック部品(ガス放出孔部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマCVD法によって電子写真感光体を製造するための電子写真感光体の製造装置であって、
真空気密可能な反応空間を有し、かつ、少なくとも一部の内側壁が円筒状電極で構成されている反応容器と、
前記円筒状電極に高周波電力を供給し、前記反応空間にグロー放電を生起させることによって、前記反応空間に供給された原料ガスを励起させるための高周波電力供給手段と、
前記反応空間を排気するための排気手段と、
を有する電子写真感光体の製造装置において、
前記円筒状電極が、円筒状電極本体、及び、前記反応空間に原料ガスを供給するためのガス放出孔が設けられているガス供給部材を有し、
前記ガス供給部材が、前記円筒状電極本体に脱着可能である
ことを特徴とする電子写真感光体の製造装置。
【請求項2】
前記ガス供給部材が前記円筒状電極本体と同電位となるように、前記ガス供給部材が前記円筒状電極本体に取り付けられている請求項1に記載の電子写真感光体の製造装置。
【請求項3】
前記ガス供給部材の前記ガス放出孔の近傍が、絶縁性セラミックで構成されている請求項1に記載の電子写真感光体の製造装置。
【請求項4】
前記絶縁性セラミックがアルミナである請求項3に記載の電子写真感光体の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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