説明

電子装置および時刻補正方法

【課題】停電時の時計遅れを簡易且つ安価に補正し得ると共に、時計管理の労力をも軽減し得る。
【解決手段】ステップ114では復電になった現在日時と停電日時とを比較し、誤差データをカウントする。ステップ116では上記誤差データに基づく補正値を演算し(例えば、推測値データに基づき演算)、ステップ118では上記補正値による現在時刻を補正する。即ち、部品点数たとえばサーミスタまたはAT水晶発振子などを増やすことなく、停電時の時計遅れを簡易且つ安価に補正し得る。また、上記時刻補正が行われるので、ユーザは時計合わせの負担が軽減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶発振子で時計カウントするタイムレコーダ等の電子装置および時刻補正方法に関するものであり、特に時計の誤差を補正する電子装置および時刻補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、音叉型水晶発振子(以下、単に「水晶発振子」という)で時計カウントするタイムレコーダを製造する際には、時刻設定を行う。しかし、上記タイムレコーダは商品として物流を経由した後、販売店で販売されるので、例えば数週間から数ヶ月を経る間に時刻遅れが生ずる。
【0003】
その理由として、上記物流状態にある間は、タイムレコーダは商業電源に接続されていない停電状態となり、この停電状態では内蔵電池で動作しているのみである。
【0004】
そのため、製造ライン調整時の電源(商業電源と同一)でCPUを駆動させる電圧はたとえば5ボルトであり、一方上記内蔵電池のみでCPUを駆動させる電圧はたとえば3ボルトである。この電圧差に起因して、水晶発振子の発振に差(遅れ)が生ずるため、時刻遅れとなっている。
【0005】
具体的には、上記水晶発振子は一般的に発振周波数が2の15乗すなわち32.768キロヘルツのものが用いられる。また、「電源電圧」「環境温度(動作周囲温度と同義)」「水晶発振子自身の発振バラツキ」により水晶発振子の波形に差が生じる。
【0006】
そして、「水晶発振子固有のバラツキ」及び「環境温度」に対しては、以下のように取扱っている。上記水晶発振子に接続される固定容量コンデンサおよびトリマコンデンサ(これらによって発振回路が構成される)中のトリマコンデンサの静電容量を適当な値とすることで、32.768キロヘルツの発振周波数に対し設計目標で定められた発振精度(時刻遅れ許容範囲)内に収まるように、上記製造ライン調整(即ち、電源電圧は5ボルトで調整)時に発振回路を予め調整する(図4の実線に示す合格波形になるように調整する)。
【0007】
しかし、図4の一点鎖線に示すように、電源電圧が5ボルトから上記内蔵電池の電源電圧である3ボルトになると、電圧低下のために特性が下がり、そのため上記許容範囲から遅れ方向へと外れる。
【0008】
そのため、製造ラインで発振回路を調整しても、ユーザがタイムレコーダを商用電源に接続するまでの期間または停電期間によっては、表示時刻が遅れることになる。即ち、タイムレコーダの設置時または停電後には、表示時刻を確認し、必要に応じて時刻を補正する必要がある。
【0009】
これを解決するため、AT水晶発振子を商業電源用とし、音叉型水晶発振子を停電時専用として設け、各々製造ラインで調整を行うことにより、停電時の時計遅れを防止している。
【0010】
なお、従来では、メモリに記録される「時計精度を進めたり遅らせたりする補正データ」を、使用して時刻調整を行う技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。また、従来では、いわゆる公称周波数と周波数カウンターからの誤差データをメモリに書き込み、このメモリの内容に基づいて時刻を補正する技術が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2004−93524公報
【特許文献2】特開平11−52083号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、上述した2個の水晶発振子を設ける構成では、2個の部品代の他に、AT水晶発振子に対しては5ボルトでライン調整を行い、且つ音叉型水晶発振子に対しては3ボルトでライン調整を行うための手間とその費用などが増える。
【0012】
なお、特許文献1および特許文献2に係る技術は、通常時(停電時以外の電源供給時)と停電時における水晶発振子の差に基づく誤差に対処する技術では無く、単にトリマコンデンサを不要とするための技術である。
【0013】
そこで、本発明は、停電時の時計遅れを簡易且つ安価に補正し得ると共に、時計管理の労力をも軽減し得る例えばタイムレコーダなどの電子装置および時刻補正方法を、提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る電子装置は、発振信号を生成する発振手段と、上記発振手段の発振信号に基づき時計カウントを行うカウンター手段と、上記カウンター手段による時計カウント及び停電になると停電日時を記録すると共に、通常時と停電時の上記発振手段の差に基づき、停電時間に対応して予め設定される補正値データを記録する記録手段と、復電する時の復電日時および上記記録手段に記録される停電日時によって停電時間を演算すると共に、上記停電時間に基づいて上記記録手段に記録される上記補正値データに対応する補正値を演算する演算手段と、上記演算手段で演算される上記補正値により現在時刻を補正する補正手段と、を備える。
【0015】
ここで、通常時とは例えば商用電源が電子装置に供給されている状態であり、停電時とは例えば電子装置に商用電源が供給されておらず内蔵電池からの電圧が供給されている状態をいう。
【0016】
また、本発明に係る時刻補正方法は、発振手段の発振信号に基づく時計カウント及び停電になると停電日時を記録手段に記録すると共に、通常時と停電時の上記発振手段の差に基づき、停電時間に対応して予め設定される補正値データを上記記録手段に記録し、復電する時の復電日時および上記記録手段に記録される停電日時によって停電時間を演算手段が演算すると共に、上記停電時間に基づいて上記記録手段に記録される上記補正値データに対応する補正値を演算手段が演算し、上記演算手段で演算される上記補正値により現在時刻を補正する。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る電子装置および時刻補正方法では、演算手段が復電日時と停電日時とを比較カウントした誤差データに基づいて補正値を演算し、補正手段が上記補正値による現在時刻を補正するので、停電時の時計遅れを簡易且つ安価に補正し得ると共に、時計管理の労力をも軽減し得る。
【0018】
即ち、本発明に係る電子装置および時刻補正方法では、部品点数たとえばサーミスタまたはAT水晶発振子などを増やすことなく、時刻を補正し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図1および図2に基づいて、本発明の一実施形態である電子装置および時刻補正方法について説明する。ここで、図1は本実施形態におけるタイムレコーダの斜視図、図2は図1に示すタイムレコーダのブロック図である。
【0020】
(タイムレコーダの概略構成)
図1に示すように、タイムレコーダ10の上部には、タイムカード(二点鎖線参照)50を差込する差込口11が配置されている。タイムレコーダ10の前面には、時刻・各種メッセージなどを表示する表示部12が配置されている。表示部12の下部には操作部14が配置されており、操作部14には各種の操作キーを備える。
【0021】
(タイムレコーダの制御系に関する構成)
図2に示すように、タイムレコーダ10は、CPU20と、印字部16と、表示部12と、操作部14と、を備える。CPU20は、印字部16、表示部12、操作部14をそれぞれ接続している。印字部16は、図示しないカード送り機構および印字ヘッドなどを備え、図1に示すタイムカード50の時刻欄に時刻を印字する。
【0022】
CPU20は、ROM22と、RAM24と、カウンター手段である時計カウンター26とを含んでおり、タイムレコーダ10の全体的な動作を司り、たとえば操作キーが操作された場合に、その操作に基づく処理を行う。なお、CPU20は、後述する誤差時間などを演算する演算手段および演算された補正値により時刻補正する補正手段を構成する。
【0023】
ROM22は、タイムレコーダ10に各種の処理を制御するプログラムを記憶する。記録手段であるRAM24は、各種データの読み書き用の記録域を有し、この記録域に従業者各人の打刻データ・勤怠データなどが記録される。
【0024】
(発振回路に関する構成)
CPU20には発振手段である発振回路30が接続されており、この発振回路30が時計カウンター26の発振源となる。発振回路30は、音叉型水晶発振子(以下、単に水晶発振子という)32と固定容量コンデンサ34とトリマコンデンサ(可変コンデンサと同義)36を備える。
【0025】
水晶発振子32は、その両端がCPU20に接続されている。この水晶発振子32は、一般的に使用されている32.768キロヘルツのものが用いられる。水晶発振子32の両端にはコンデンサ34及びトリマコンデンサ36がそれぞれ接続されている。
【0026】
発振回路30は、この回路自身の発振精度のずれを調整できる構成となっている。即ち、発振回路30は、トリマコンデンサ36で発振回路30の周波数を、いわゆる公称周波数と一致するように調整される。
【0027】
また、時計カウンター26は、発振回路30からの発振信号を繰返し分周して基準カウントを取得し、この基準カウントに基づいて時または分の時計カウントを行う。この時計カウントに基づき、CPU20は表示部12に時計表示を行う。
【0028】
なお、タイムカード50がタイムレコーダ10の差込口11へ差込されると、CPU20は印字部16のカード送り機構を駆動してタイムカード50を引込む。そして、CPU20は、タイムカード50の個人IDを読取ると共に、現在日付に該当するタイムカード50の日付欄が印字ヘッドの位置と一致するまでタイムカード50を送る。印字部16は、タイムカード50の各時刻欄に現在時刻を印字する。印字された時刻データは、RAM24の個人データテーブルに書込まれて保存される。
【0029】
(電源回路に関する構成)
タイムレコーダ10はプラグ40を備え、このプラグ40は商用交流電源となるコンセントに接続される。プラグ40およびCPU20の間には変圧・整流回路42が接続されており、この変圧・整流回路42は交流を直流10ボルトにする。変圧・整流回路42およびCPU20の間には変圧用のIC44が接続されており、このIC44は直流10ボルトを直流5ボルトに変圧しCPU20へ電圧を供給する。
【0030】
また、CPU20およびIC44の間には電池46、例えばリチウム電池(3ボルト)が接続されている。そして、通常時は商用電源でCPU20等を駆動し、プラグ40が商用電源のコンセントに接続されていない等(以下、単に停電時という)の場合には電池46でCPU20等を駆動する。
【0031】
ここで、通常時とは商用電源がタイムレコーダ10に供給されている状態であり、停電時とはタイムレコーダ10に商用電源が供給されておらず電池46の電圧が供給されている状態をいう。なお、停電時のCPU20は、時計の歩進のみを行う。即ち、CPU20は、消費電力を抑制するために、クロックカウント以外の受信動作などは実行されない停電モードにする構成となっている。
【0032】
CPU20と、変圧・整流回路42およびIC44との間には停電検出用のIC48が接続されており、IC48は例えば6ボルト以下になると、CPU20に停電検出信号を出力する。即ち、6ボルト以下(停電状態)になると、IC48はL(停電)信号をCPU20へ出力する。そして、CPU20は、5ボルトに降圧するまでに間に、上述した停電モードに設定する。即ち、CPU20は、一般的に5ボルト以下になると、正常に機能しなくなるので、6ボルトから5ボルトになるまでの間に停電モードに設定する必要がある。
【0033】
一方、6ボルト以上に復電すると、IC48はH(通電)信号をCPU20へ出力する。
【0034】
(本実施形態の作用)
図3に示すフローチャートに基づき、停電における復電時の時刻補正モードの処理について説明する。ここで、図2に示すタイムレコーダ10における処理は、タイムレコーダ10のCPU20によって実行され、図3のフローチャートで表される。これらのプログラムは、予めタイムレコーダ10のROM22(図2参照)のプログラム領域に記憶されている。
【0035】
(時刻補正モード)
図3に示すように、ステップ100において、タイムレコーダ10のCPU20(図2参照)は、図2に示すIC48からL信号が入力された(即ち、停電になった)か否かを判断する。ステップ100が否定の場合すなわち停電では無い場合には、停電になるのを待つ。
【0036】
ステップ100が肯定の場合すなわち停電モードになった場合には、ステップ102において、停電になった現在日時(以下、停電日時という)をRAM24に記録する。例えば、西暦2007年10月1日の午前10:00:0000に停電になると、CPU20は停電日時をRAM24に西暦2007年10月1日の午前10:00:0000と記録する。
【0037】
ステップ104において、CPU20は低消費電力モードにする。時計割込みが入力(例えば、0.24999秒の周期毎に入力)されるまでCPU20機能を低減させる状態(たとえば時計カウントのみを最低限行う状態)にする。
【0038】
ステップ106において、CPU20は時計割込みがあるか否かを判断する。ステップ106が否定の場合すなわち時計割込みが無い場合は、時計割込みを待つ。
【0039】
ステップ106が肯定の場合すなわち時計割込みがあった場合、ステップ108において、CPU20は準通常モードにする。この準通常モードは、時計カウントをRAM24に記録させるためにするものである。
【0040】
そして、ステップ110において、時計カウントを1インクリメントし、歩進する。例えば、1インクリメントされると、上記午前10:00:0000から上記午前10:00:0025となる。ここで、1インクリメントされる毎に、理論値の0.25秒と実際の0.24999秒との間の誤差が累積し、現在時刻が遅れることになる。
【0041】
ステップ112において、CPU20はIC48からH信号が入力された(即ち、復電になった)か否かを判断する。ステップ112が否定の場合すなわち復電されない場合には、ステップ104に戻り、CPU20は低消費電力モードにする。
【0042】
ステップ112が肯定の場合すなわち復電した場合には、ステップ114において、復電になった現在日時(例えば、西暦2008年1月1日の午前10:00:0000)と上記停電日時とを比較し、誤差データ(具体的には、経過秒数)をカウントする。
【0043】
ステップ116において、CPU20は、遅れ時間である上記誤差データに基づき補正値を演算する。この補正値は、上記遅れ時間に対応して予め設定されている補正値データによって演算される。即ち、補正値データは、推測値データとしての補正係数に停電時間を加算することによって得られる。
【0044】
例えば、三ヶ月では777600(秒)となるので、理論値の0.25秒に対し実際値は0.24999秒に一度の割り込みとなり、0.25000(秒)−0.24999(秒)=0.00001(秒)の遅れが生じ、1秒につき0.00004(秒)の遅れが生ずることになる。上記三ヶ月に直すと、7776000(秒)×0.00004(秒)=311.04(秒)となり、補正値は311.04秒となる。
【0045】
ステップ118において、CPU20は、上記補正値による現在時刻を補正する(即ち、電圧偏差に基づく補正を行う)。例えば、CPU20は、現在時刻を西暦2008年1月1日の午前10:05:1104に補正する。
【0046】
一方、図1に示す表示部12には午前10:05のみが表示され、秒までは表示されない構成となっている。即ち、ユーザは分の表示に過ちがなければ、タイムレコーダ10の使用上不便にはならない。従って、本実施形態によれば、上記時刻補正が行われるので、時計合わせの負担が軽減される。なお、ステップ118の処理後は、本フローチャートの処理は終了する。
【0047】
本実施形態によれば、停電時の時計遅れを簡易且つ安価に補正し得ると共に、時計管理の労力をも軽減し得る。また、本実施形態によれば、部品点数たとえばAT水晶発振子などを増やすことなく、時刻を補正し得る。
【0048】
本実施形態では供給電圧の変動に伴う補正係数に基づき補正値を演算する例であるが、本発明では環境温度等の変動に伴う補正係数に基づき補正値を演算するようにしても良い。また、本実施形態では電池をリチウム電池とする例であるが、リチウム電池に替えて電気二重層コンデンサ等としても良い。
【0049】
さらに、本発明はタイムレコーダの他に、時計機能を備えるあらゆる電子装置に適用でき、例えばパーソナルコンピュータ等にも好適である。なお、上記実施形態において説明した各プログラムの処理の流れ(図3参照)は一例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内において適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明に係る一実施形態のタイムレコーダの斜視図である。
【図2】タイムレコーダのブロック図である。
【図3】図2に示すタイムレコーダが停電状態にある場合における復電時の時刻補正モードのフローチャート図である。
【図4】時計遅れの一要因となる電圧変化に伴う曲線を示す図である。
【符号の説明】
【0051】
10 タイムレコーダ
20 CPU(演算手段および補正手段)
22 RAM(記録手段)
26 時計カウンター(カウンター手段)
30 発振回路(発振手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発振信号を生成する発振手段と、
上記発振手段の発振信号に基づき時計カウントを行うカウンター手段と、
上記カウンター手段による時計カウント及び停電になると停電日時を記録すると共に、通常時と停電時の上記発振手段の差に基づき、停電時間に対応して予め設定される補正値データを記録する記録手段と、
復電する時の復電日時および上記記録手段に記録される停電日時によって停電時間を演算すると共に、上記停電時間に基づいて上記記録手段に記録される上記補正値データに対応する補正値を演算する演算手段と、
上記演算手段で演算される上記補正値により現在時刻を補正する補正手段と、
を備えることを特徴とする電子装置。
【請求項2】
上記記録手段に記録される補正値データは、上記発振手段に供給される通常時および停電時の電圧差に基づき、停電時間に対応して予め設定される推測値データとすることを特徴とする請求項1に記載の電子装置。
【請求項3】
発振手段の発振信号に基づく時計カウント及び停電になると停電日時を記録手段に記録すると共に、通常時と停電時の上記発振手段の差に基づき、停電時間に対応して予め設定される補正値データを上記記録手段に記録し、
復電する時の復電日時および上記記録手段に記録される停電日時によって停電時間を演算手段が演算すると共に、上記停電時間に基づいて上記記録手段に記録される上記補正値データに対応する補正値を演算手段が演算し、
上記演算手段で演算される上記補正値により現在時刻を補正することを特徴とする時刻補正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−128217(P2009−128217A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−304292(P2007−304292)
【出願日】平成19年11月26日(2007.11.26)
【出願人】(000006301)マックス株式会社 (1,275)
【Fターム(参考)】