説明

電極用バインダー組成物、電極用スラリー、電極、および蓄電デバイス

【課題】密着性に優れると共に、充放電特性に優れた蓄電デバイスが作製可能な電極用バインダーを提供する。
【解決手段】本発明に係る電極用バインダー組成物は、数平均粒子径が50〜400nmの範囲にある重合体粒子(A)と、分散媒体(B)と、を含有し、前記重合体粒子(A)の長径(Rmax)と短径(Rmin)との比率(Rmax/Rmin)が1.1〜1.5の範囲にあることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極用バインダー組成物、該バインダー組成物と電極活物質とを含有する電極用スラリー、該スラリーを集電体に塗布して形成された電極、および該電極を備えた蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の駆動用電源として高電圧、高エネルギー密度を有する蓄電デバイスが要求されている。特にリチウムイオン電池やリチウムイオンキャパシタは、高電圧、高エネルギー密度を有する蓄電デバイスとして期待されている。
【0003】
このような蓄電デバイスに使用される蓄電デバイス用電極は、通常、活物質粒子と電極バインダーとして機能する重合体粒子との混合物を集電体表面へ塗布・乾燥することにより作製される。電極用バインダーとして使用される重合体粒子に要求される特性としては、活物質粒子同士の結合および活物質粒子と集電体との接着能力や、電極を巻き取る工程における耐擦性、その後の裁断等で塗布された電極用組成物層(以下、「活物質層」ともいう)から活物質の微粉等が発生しない粉落ち耐性等がある。これらの要求特性を重合体粒子が満足することにより、得られる電極の折り畳み方法や捲回半径等の設定などの蓄電デバイスの構造設計の自由度が高くなり、蓄電デバイスの小型化を達成することができる。
【0004】
なお、上記の活物質粒子同士の結合能力および活物質粒子と集電体との結着能力、ならびに粉落ち耐性については、性能の良否がほぼ比例関係にあることが経験上明らかになっている。したがって本明細書では、以下これらを包括して「密着性」という用語を用いて表す場合がある。
【0005】
電極用バインダーとして使用される重合体は、正極の場合では、ポリフッ化ビニリデン(PVDF(登録商標))等のイオン導電性および耐酸化性に優れる含フッ素系有機重合体を使用することが有利である。また、負極の場合では、耐酸化性には劣るものの、密着性に優れる(メタ)アクリル酸系の重合体を使用することが有利である。これらの重合体については、イオン導電性および耐酸化性を維持しつつ、密着性をさらに向上させる技術が種々提案されている。
【0006】
例えば特許文献1には、PVDF(登録商標)とゴム系重合体とを併用することにより、負極用バインダーのリチウムイオン導電性および耐酸化性と密着性とを両立させようとする技術が提案されている。特許文献2には、PVDF(登録商標)を特定の有機溶媒へ溶解し、これを集電体表面上に塗布した後、低温で溶媒を除去する工程を経ることによって密着性を向上させようとする技術が提案されている。さらに特許文献3には、フッ化ビニリデン共重合体からなる主鎖に、フッ素原子を有する側鎖を有する構造の電極バインダーの適用によって、密着性を向上させようとする技術が提案されている。さらに、バインダー組成を制御することにより上記特性を向上させる技術(特許文献4参照)や、エポキシ基やヒドロキシル基を有するバインダーを用いて上記特性を向上させる技術(特許文献5、6参照)が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−3529号公報
【特許文献2】特開2010−55847号公報
【特許文献3】特開2002−42819号公報
【特許文献4】特開2000−299109号公報
【特許文献5】特開2010−205722号公報
【特許文献6】特開2010−3703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、含フッ素系有機重合体とゴム系重合体とを併用する特許文献1に技術によると、密着性は向上するものの、有機重合体のイオン導電性が減殺されるとともに耐酸化性が大きく損なわれるため、これを用いて製造される蓄電デバイスは充放電の繰り返しによって充放電特性が不可逆的に劣化してしまうという問題があった。一方、電極バインダーとして含フッ素系有機重合体のみを使用する特許文献2および3の技術によると、密着性のレベルは未だ不十分であった。また、特許文献4および5のようなバインダー組成は、密着性が向上するものの、活物質に付着するバインダー自身が電極の抵抗成分となり、良好な充放電特性を長期に亘り維持することは困難であった。
【0009】
そこで、本発明に係る幾つかの態様は、前記課題を解決することで、密着性に優れると共に、充放電特性に優れた蓄電デバイスが作製可能な電極用バインダー組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様または適用例として実現することができる。
【0011】
[適用例1]
本発明に係る電極用バインダー組成物の一態様は、
数平均粒子径が50〜400nmの範囲にある重合体粒子(A)と、
分散媒体(B)と、
を含有し、
前記重合体粒子(A)の長径(Rmax)と短径(Rmin)との比率(Rmax/Rmin)が1.1〜1.5の範囲にあることを特徴とする。
【0012】
[適用例2]
適用例1の電極用バインダー組成物において、
前記重合体粒子(A)が、
含フッ素化合物に由来する繰り返し単位(a)と、
多官能(メタ)アクリル酸エステルに由来する繰り返し単位(b)と、
を少なくとも含有することができる。
【0013】
[適用例3]
適用例2の電極用バインダー組成物において、
前記繰り返し単位(a)を構成する単量体と前記繰り返し単位(b)を構成する単量体のとの量比が質量基準で2:1〜10:1の範囲にあることができる。
【0014】
[適用例4]
適用例2または適用例3の電極用バインダー組成物は、蓄電デバイスの正極を作製するために用いられることができる。
【0015】
[適用例5]
適用例1の電極用バインダー組成物において、
前記重合体粒子(A)が、
不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位(c)と、
多官能(メタ)アクリル酸エステルに由来する繰り返し単位(b)と、
を少なくとも含有することができる。
【0016】
[適用例6]
適用例5の電極用バインダー組成物において、
前記繰り返し単位(c)を構成する単量体と前記繰り返し単位(b)を構成する単量体のとの量比が質量基準で1:1〜1:3の範囲にあることができる。
【0017】
[適用例7]
適用例5または適用例6の電極用バインダー組成物は、蓄電デバイスの負極を作製するために用いられることができる。
【0018】
[適用例8]
適用例1ないし適用例7のいずれか一例の電極用バインダー組成物において、
前記重合体粒子(A)についてJIS K7121に準拠して示差走査熱量測定(DSC)を行ったときに、−30℃〜30℃の温度範囲における吸熱ピークが1つ及び80℃〜150℃の温度範囲における吸熱ピークが1つ観測されることができる。
【0019】
[適用例9]
本発明に係る電極用スラリーの一態様は、
適用例1ないし適用例8のいずれか一例に記載の電極用バインダー組成物と、電極活物質と、を含有することを特徴とする。
【0020】
[適用例10]
本発明に係る蓄電デバイス用電極の一態様は、
集電体と、前記集電体の表面に適用例9の電極用スラリーを塗布、乾燥して作製された電極活物質層と、を備えることを特徴とする。
【0021】
[適用例11]
本発明に係る蓄電デバイスの一態様は、
適用例10の蓄電デバイス用電極を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る電極用バインダー組成物によれば、活物質粒子同士の結合能力および活物質粒子と集電体との結着能力ならびに粉落ち耐性、いわゆる密着性に優れた電極を製造することができる。また、本発明に係る電極用バインダー組成物を用いて製造された電極を備える蓄電デバイスによれば、電気的特性の一つである放電レート特性が極めて良好となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】重合体粒子(A)の長径および短径の概念を模式的に示す説明図である。
【図2】重合体粒子(A)の長径および短径の概念を模式的に示す説明図である。
【図3】重合体粒子(A)の長径および短径の概念を模式的に示す説明図である。
【図4】異形粒子の概念を模式的に示す説明図である。
【図5】異形粒子の概念を模式的に示す説明図である。
【図6】異形粒子の概念を模式的に示す説明図である。
【図7】異形粒子の概念を模式的に示す説明図である。
【図8】異形粒子の概念を模式的に示す説明図である。
【図9】異形粒子の概念を模式的に示す説明図である。
【図10】異形粒子の生成メカニズムを模式的に示す説明図である。
【図11】異形粒子の生成メカニズムを模式的に示す説明図である。
【図12】異形粒子の生成メカニズムを模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、下記に記載された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含むものとして理解されるべきである。なお、本明細書における「(メタ)アクリル酸〜」とは、「アクリル酸〜」および「メタクリル酸〜」の双方を包括する概念である。また、「〜(メタ)アクリル酸エステル」とは、「〜アクリル酸エステル」および「〜メタクリル酸エステル」の双方を包括する概念である。
【0025】
1.電極用バインダー組成物
本実施の形態に係る電極用バインダー組成物は、数平均粒子径が50〜400nmの範囲にある重合体粒子(A)と、分散媒体(B)と、を含有し、前記重合体粒子(A)の長径(Rmax)と短径(Rmin)との比率(Rmax/Rmin)が1.1〜1.5の範囲にあることを特徴とする。以下、本実施の形態に係る電極用バインダー組成物に含まれる各成分について詳細に説明する。
【0026】
1.1.重合体粒子(A)
1.1.1.重合体粒子(A)の形状および大きさ
本実施の形態に係る電極バインダー組成物に含有される重合体粒子(A)は、数平均粒子径(Da)が50〜400nmであり、長径(Rmax)と短径(Rmin)との比率(Rmax/Rmin)が1.1〜1.5であることを特徴とする。
【0027】
重合体粒子(A)の数平均粒子径(Da)は、50〜400nmの範囲にあればよく、100〜250nmの範囲にあることが好ましい。重合体粒子の数平均粒子径が前記範囲にあると、活物質粒子表面に重合体粒子が十分に吸着することができるため、活物質粒子の移動に伴って重合体粒子も追随して移動することができる。その結果、粒子のうちのどちらかのみが単独でマイグレーションすることを抑制できるため、電気的特性の劣化を低減させることができる。重合体粒子の数平均粒子径が前記範囲未満であると、上記いずれかの粒子のマイグレーションによって電気的特性が劣化するため好ましくない。一方、重合体粒子の数平均粒子径が前記範囲を超えると、重合体粒子の添加量に対する表面積の割合が小さくなるため、良好なバインダー特性が発現できなくなる。その結果、密着性が低下するため好ましくない。
【0028】
重合体粒子の数平均粒子径(Da)とは、光散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置を用いて粒度分布を測定し、小さい粒子から粒子を累積したときの粒子数の累積度数が50%となる粒子径(D50)の値である。このような粒度分布測定装置としては、例えばコールターLS230、LS100、LS13 320(以上、Beckman Coulter.Inc製)や、FPAR−1000(大塚電子株式会社製)等を挙げることができる。これらの粒度分布測定装置は、重合体粒子の一次粒子だけを評価対象とするものではなく、一次粒子が凝集して形成された二次粒子をも評価の対象とすることができる。したがって、これらの粒度分布測定装置によって測定された粒度分布は、電極用バインダー組成物中に含まれる重合体粒子の分散状態の指標とすることができる。なお、重合体粒子の数平均粒子径(Da)は、後述する電極用スラリーを遠心分離して活物質粒子を沈降させた後、その上澄み液を上記の粒度分布測定装置によって測定する方法によっても測定することができる。
【0029】
重合体粒子(A)の長径(Rmax)と短径(Rmin)との比率(Rmax/Rmin)は、1.1〜1.5の範囲にあればよく、1.2〜1.4の範囲にあることが好ましい。比率(Rmax/Rmin)が前記範囲にあると、重合体粒子(A)の表面積が増大しかつ重合体粒子(A)の表面が真球の曲面ではなくなるため、活物質粒子同士の結着性や集電体と活物質層との密着性が良好となる。その結果、蓄電デバイスの電気的特性が良好となる。比率(Rmax/Rmin)が前記範囲未満であると、重合体粒子(A)が真球に近づくため、真球に近い活物質粒子に対して接触しにくくなり、活物質粒子同士の結着性や集電体と活物質層との密着性が低下する傾向がある。その結果、電極にクラックが入りやすくなると共に、蓄電デバイスの電気的特性が損なわれる傾向がある。一方、比率(Rmax/Rmin)が前記範囲を超えると、重合体粒子(A)の表面積は増大するが真球に近い活物質粒子に対して接触しにくくなり、活物質粒子同士の結着性や集電体と活物質層との密着性が低下する傾向がある。その結果、電極にクラックが入りやすくなると共に、蓄電デバイスの電気的特性が損なわれる傾向がある。
【0030】
重合体粒子の長径(Rmax)とは、透過型電子顕微鏡により撮影された一つの独立した重合体粒子の像について、像の端部と端部を結んだ直線のうち最も長い直線の距離を意味するものとし、短径(Rmin)とは、像の端部と端部を結んだ直線のうち最も短い直線の距離を意味するものとする。
【0031】
例えば、図1に示すように透過型電子顕微鏡により撮影された一つの独立した重合体粒子10aの像が楕円形状である場合、その楕円形状の長軸aを重合体粒子の長径(Rmax)と判断し、短軸bを重合体粒子の短径(Rmin)と判断する。図2に示すように、透過型電子顕微鏡により撮影された一つの独立した重合体粒子の10bの像が2つの一次粒子の凝集体である場合、像の端部と端部を結んだ直線のうち最も長い距離cを重合体粒子の長径(Rmax)と判断し、像の端部と端部を結んだ直線のうち最も短い径dを重合体粒子の短径(Rmin)と判断する。図3に示すように、透過型電子顕微鏡により撮影された一つの独立した重合体粒子の10cの像が3つ以上の一次粒子の凝集体である場合、像の端部と端部を結んだ直線のうち最も長い距離eを重合体粒子の長径(Rmax)と判断し、像の端部と端部を結んだ直線のうち最も短い径fを重合体粒子の短径(Rmin)と判断する。
【0032】
上記のような判断手法により、例えば10個の重合体粒子の長径(Rmax)と短径(Rmin)を測定し、長径(Rmax)と短径(Rmin)の平均値を算出した後、長径と短径との比率(Rmax/Rmin)を計算して求めることができる。
【0033】
また、重合体粒子(A)は、第1の重合体粒子と第2の重合体粒子とが密着した構造である「異形粒子」であってもよい。この場合、重合体粒子(A)は、いずれか一方の重合体粒子の表面の少なくとも一部にもう一方の重合体粒子が配置されている構造であることができる。ここで、本明細書にいう「異形」とは、2つの粒子が粒子全体の中心点に対して非対称に配置されていることをいう。
【0034】
図4ないし図9は、異形粒子の概念を模式的に示した説明図である。「異形粒子」としては、例えば図4ないし図9に示すような構造が挙げられる。
【0035】
図4に示す異形粒子20aは、第1の重合体粒子22aの表面の一部に第2の重合体粒子24aが密着しており、第2の重合体粒子24aが第1の重合体粒子22aの表面から突き出ている構造を有している。
【0036】
図5に示す異形粒子20bは、第1の重合体粒子22bの内部に第2の重合体粒子24bが完全に包含されており、第1の重合体粒子22bの表面の一点で第2の重合体粒子24bと接しており、全体としては略球状の構造を有している。
【0037】
図6に示す異形粒子20cは、第1の重合体粒子22cと第2の重合体粒子24cとが密着して、全体としては略球状の構造を有している。なお、図6に示す異形粒子20cでは、第1の重合体粒子22cおよび第2の重合体粒子24cは同程度の表面積を有しているが、この点については特に限定されるものではない。
【0038】
図7に示す異形粒子20dは、第1の重合体粒子22dの内部に第2の重合体粒子24dが包含され、第2の重合体粒子24dの曲面が異形粒子20dの表面に現れており、全体としては略球状の構造を有している。
【0039】
図8に示す異形粒子20eは、図6に示す異形粒子20cが全体としてラグビーボールのような楕円球状の構造を有している。なお、図8に示す異形粒子20eでは、第1の重合体粒子22eおよび第2の重合体粒子24eは同程度の表面積を有しているが、この点については特に限定されるものではない。
【0040】
図9に示す異形粒子20fは、略球状の第1の重合体粒子22fと略球状の第2の重合体粒子24fとが面で密着しており、全体としては双子球状の構造を有している。
【0041】
本実施の形態において使用することができる異形粒子は、上述のように第1の重合体粒子および第2の重合体粒子から構成されるものであることが好ましい。かかる場合、第1の重合体粒子の組成と第2の重合体粒子の組成とが、同一であっても異なっていてもよいが、第1の重合体粒子に含まれる単量体単位の少なくとも1種が、第2の重合体粒子に含まれる単量体単位とは異なっていることが好ましい。すなわち、この場合には、異形粒子を構成する単量体単位のうち少なくとも1種が、第1の重合体粒子と第2の重合体粒子のいずれか一方の重合体粒子にのみ含まれていることになる。これにより、図4〜図9に示すように、第1の重合体粒子と第2の重合体粒子とを非対称に分離させることができる。
【0042】
重合体粒子(A)が異形粒子である場合、異形粒子が実質的に1個の粒子を構成していることから、異形粒子の長径および短径は以下のようにして測定する。例えば、重合体粒子(A)が図4に示すような球状突起を有する略球状の粒子20aである場合、長径(Rmax)は第1の重合体粒子22aの端部から第2の重合体粒子24aの端部までの距離で表される。また、短径(Rmin)はより大きい方の粒子(図4においては第1の重合体粒子22a)の直径で表される。
【0043】
本実施の形態に係る電極用バインダー組成物は、上述したような重合体粒子(A)が分散媒体(B)中に分散している。なお、本実施の形態に係る電極用バインダー組成物は、正極および負極のいずれにも用いることができる。正極を作製するために用いられる場合、重合体粒子(A)が、含フッ素化合物に由来する繰り返し単位(a)と、多官能(メタ)アクリル酸エステルに由来する繰り返し単位(b)と、を少なくとも含有することが好ましい。一方、負極を作製するために用いられる場合、重合体粒子(A)が、不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位(c)と、多官能(メタ)アクリル酸エステルに由来する繰り返し単位(b)と、を少なくとも含有することが好ましい。以下、重合体粒子(A)を構成する繰り返し単位について説明する。
【0044】
1.1.2.重合体粒子(A)を構成する繰り返し単位
1.1.2.1.含フッ素化合物に由来する繰り返し単位(a)
重合体粒子(A)は、含フッ素化合物に由来する繰り返し単位(a)を含有することが好ましい。含フッ素化合物に由来する繰り返し単位(a)は、エチレン性不飽和結合を有する含フッ素化合物に由来する繰り返し単位(a)であることが好ましい。エチレン性不飽和結合を有する含フッ素化合物の中でも、フッ化ビニリデン、四フッ化エチレンおよび六フッ化プロピレンよりなる群から選択される少なくとも1種であることが特に好ましい。重合体粒子(A)が繰り返し単位(a)を有することにより、イオン導電性および耐酸化性が良好となる。このため、本実施の形態に係る電極用バインダー組成物を正極を作製するために用いられる場合に特に好適となる。蓄電デバイスの正極において耐酸化性が低い重合体粒子を使用した場合、充放電を繰り返すことにより酸化分解して変質するため、良好な充放電特性を得ることができないからである。
【0045】
重合体粒子(A)における繰り返し単位(a)の含有割合は、重合体粒子(A)100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、10質量部以上であることがより好ましい。
【0046】
1.1.2.2.多官能(メタ)アクリル酸エステルに由来する繰り返し単位(b)
重合体粒子(A)は、多官能(メタ)アクリル酸エステルに由来する繰り返し単位(b)を含有することが好ましい。重合体粒子(A)が繰り返し単位(b)を含有することにより、上述したような異形粒子を作製することが容易となる。すなわち、上述した図4〜図9に示される異形粒子の例によれば、シード粒子となる第1の重合体粒子の表面及び/又は内部に存在する繰り返し単位(b)が起点ないし契機となることによって、第2の重合体粒子が形成されるのである。その生成メカニズムについては、後に詳述する。
なお、本願発明において「多官能」とは、(メタ)アクリル酸エステルが有する重合性の二重結合以外に、さらに重合性の二重結合、エポキシ基、水酸基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有することを示す。
【0047】
多官能(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸アリル、ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸プロピレングリコール、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパン、テトラ(メタ)アクリル酸ペンタエリスリトール、ヘキサ(メタ)アクリル酸ジペンタエリスリトール、ジ(メタ)アクリル酸エチレン等を挙げることができ、これらから選択される1種以上であることができる。これらのうち、(メタ)アクリル酸グリシジルおよび(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルから選択される1種以上であることが好ましく、(メタ)アクリル酸グリシジルであることが特に好ましい。
【0048】
重合体粒子(A)における繰り返し単位(b)の含有割合は、重合体粒子(A)100質量部に対して、1〜10質量部であることが好ましく、2〜8質量部であることがより好ましい。含有割合が前記範囲であると、上述したような異形粒子を作製することが容易となるため好ましい。含有割合が前記範囲未満であると、粒子間の接地面積が小さくなるため、第1の重合体粒子と第2の重合体粒子が密着しない場合があり、異形粒子を作製できない場合があるため好ましくない。一方、含有割合が前記範囲を超えると、シード粒子の表面全体を繰り返し単位(b)が覆ってしまうため、いわゆるコアシェル粒子となり異形粒子を作製できない場合があるため好ましくない。
【0049】
なお、本実施の形態に係る電極用バインダー組成物が正極を作製するために用いられる場合、前記繰り返し単位(a)を構成する単量体と前記繰り返し単位(b)を構成する単量体のとの量比が質量基準で2:1〜10:1の範囲にあることが好ましく、3:1〜9:1の範囲にあることがより好ましい。量比が前記範囲にあると、上述したような異形粒子を作製することがより容易となるため好ましい。
【0050】
一方、本実施の形態に係る電極用バインダー組成物が負極を作製するために用いられる場合、後記繰り返し単位(c)を構成する単量体と前記繰り返し単位(b)を構成する単量体のとの量比が質量基準で1:1〜1:3の範囲にあることが好ましく、1:2〜1:3の範囲にあることがより好ましい。量比が前記範囲にあると、上述したような異形粒子を作製することがより容易となるため好ましい。
【0051】
1.1.2.3.不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位(c)
重合体粒子(A)は、不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位(c)を含有することが好ましい。重合体粒子(A)が不飽和カルボン酸に由来する構成単位(c)を有することにより、本発明の電極用バインダー組成物を用いた電極用スラリーの安定性が向上する。
【0052】
不飽和カルボン酸の具体例としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のモノまたはジカルボン酸(無水物)を挙げることができ、これらから選択される1種以上であることができる。特に、アクリル酸、メタクリル酸およびイタコン酸から選択される1種以上であることが好ましい。
【0053】
重合体粒子(A)における繰り返し単位(c)の含有割合は、重合体粒子(A)100質量部に対して、15質量部以下であることが好ましく、0.3〜10質量部であることがより好ましい。繰り返し単位(c)の含有割合が前記範囲にあると、電極用スラリー調製時、重合体粒子(A)の分散安定性に優れ、凝集物が生じにくい。また、経時的なスラリー粘度の上昇も抑えることができる。
【0054】
1.1.2.4.単官能(メタ)アクリル酸エステルに由来する繰り返し単位(d)
重合体粒子(A)は、単官能(メタ)アクリル酸エステルに由来する繰り返し単位(d)をさらに含有するものであることが好ましい。重合体粒子(A)が単官能(メタ)アクリル酸エステル化合物に由来する構成単位(d)を有することにより、得られる重合体粒子(A)は、電解液との親和性が適度なものとなり、蓄電デバイス中でバインダーが電気抵抗成分となることによる内部抵抗の上昇を抑制すると共に、電解液を過大に吸収することによる結着性の低下を防ぐことができる。
なお、本願発明において「単官能」とは、(メタ)アクリル酸エステルが有する重合性の二重結合以外に、さらに重合性の二重結合、エポキシ基、水酸基、カルボン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有さないことを示す。
【0055】
このような単官能(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸i−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸n−アミル、(メタ)アクリル酸i−アミル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル等を挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上であることができる。これらのうち、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルおよびアクリル酸2−エチルヘキシルから選択される1種以上であることが好ましく、(メタ)アクリル酸メチルであることが特に好ましい。
【0056】
重合体粒子(A)における繰り返し単位(d)の含有割合は、重合体粒子(A)100質量部に対して、40質量部以上であることが好ましく、45質量部以上であることがより好ましい。繰り返し単位(d)の含有割合が前記範囲にあると、得られる重合体粒子(A)は電解液との親和性が適度なものとなり、蓄電デバイス中でバインダーが電気抵抗成分となることによる内部抵抗の上昇を抑制すると共に、電解液を過大に吸収することによる結着性の低下を防ぐことができる。
【0057】
1.1.2.5.α,β−不飽和ニトリル化合物に由来する繰り返し単位(e)
重合体粒子(A)は、α,β−不飽和ニトリル化合物に由来する繰り返し単位(e)をさらに含有するものであることが好ましい。重合体粒子(A)が繰り返し単位(e)を有することにより、重合体粒子(A)の電解液に対する膨潤性をより向上させることができる。すなわち、ニトリル基の存在によって重合体鎖からなる網目構造に溶媒が侵入し易くなって網目間隔が広がるため、溶媒和したリチウムイオンがこの網目構造をすり抜けて移動し易くなる。これにより、リチウムイオンの拡散性が向上すると考えられ、その結果、電極抵抗が低下してより良好な充放電特性を実現することができるのである。
【0058】
α,β−不飽和ニトリル化合物の具体例としては、例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリル、シアン化ビニリデン等を挙げることができ、これらから選択される1種以上であることができる。これらのうち、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルから選択される1種以上であることが好ましく、特にアクリロニトリルであることが好ましい。
【0059】
重合体粒子(A)における繰り返し単位(e)の含有割合は、重合体粒子(A)100質量部に対して、35質量部以下であることが好ましく、10〜25質量部であることがより好ましい。繰り返し単位(e)の含有割合が前記範囲にあると、使用する電解液との親和性に優れ、かつ膨潤率が大きくなりすぎず、電池特性の向上に寄与することができる。
【0060】
1.1.2.6.共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位(f)
重合体粒子(A)は、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位(f)をさらに含有するものであることが好ましい。重合体粒子(A)が繰り返し単位(f)を有することにより、粘弾特性および強度に優れた重合体粒子(A)を製造することが容易となる。すなわち、繰り返し単位(f)を有する重合体粒子(A)を使用すると、重合体粒子(A)が強い結着力を有することができる。すなわち、共役ジエン化合物に由来するゴム弾性が重合体粒子(A)に付与されるため、電極の体積収縮や拡大等の変化に追従することが可能となる。これにより、結着性を向上させて、さらには長期に充放電特性を維持する耐久性を有するものと考えられる。
【0061】
共役ジエン化合物の具体例としては、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエンなどを挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上であることができる。共役ジエン化合物としては、上記のうち特に1,3−ブタジエンが好ましい。
【0062】
重合体粒子(A)における繰り返し単位(f)の含有割合は、重合体粒子(A)100質量部に対して、35質量部以下であることが好ましく、25質量部以下であることがより好ましい。繰り返し単位(f)の含有割合が前記範囲にあると、結着性のさらなる向上が可能となる。
【0063】
1.1.2.7.芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位(g)
重合体粒子(A)は、芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位(g)をさらに含有するものであることが好ましい。重合体粒子(A)が繰り返し単位(g)を有することにより、電極用スラリーが導電付与剤を含有する場合に、これに対する親和性をより良好にすることができる。
【0064】
芳香族ビニル化合物の具体例としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、クロルスチレン、ジビニルベンゼンなどを挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上であることができる。芳香族ビニル化合物としては、上記のうち特にスチレンであることが好ましい。
【0065】
重合体粒子(A)における繰り返し単位(g)の含有割合は、重合体粒子(A)100質量部に対して、50質量部以下であることが好ましく、45質量部以下であることがより好ましい。繰り返し単位(g)の含有割合が前記範囲にあると、重合体粒子が活物質として用いられるグラファイトに対して適度な結着性を有する。また、得られる電極層は、柔軟性や集電体に対する結着性が良好なものとなる。
【0066】
1.1.2.8.その他の化合物に由来する繰り返し単位
重合体粒子(A)は、必要に応じて上記以外の化合物に由来する繰り返し単位をさらに含有してもよい。その他の化合物の具体例としては、例えば(メタ)アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド等のエチレン性不飽和カルボン酸のアルキルアミド;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル;エチレン性不飽和ジカルボン酸の酸無水物;モノアルキルエステル;モノアミド;アミノエチルアクリルアミド、ジメチルアミノメチルメタクリルアミド、メチルアミノプロピルメタクリルアミド等のエチレン性不飽和カルボン酸のアミノアルキルアミドを挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上であることができる。
【0067】
1.1.3.重合体粒子(A)の特性
1.1.3.1.重合体粒子(A)の熱特性
重合体粒子(A)は、JIS K7121に準拠する示差走査熱量測定(DSC)によって測定した場合、−30℃〜30℃の温度範囲における吸熱ピークが1つ及び80℃〜150℃の温度範囲における吸熱ピークが1つ観測されることが好ましい。このように吸熱ピークが2つ観測された場合、重合体粒子(A)が成分の異なる2種類の重合体粒子から形成された異形粒子であると理解される。重合体粒子(A)の有する吸熱ピークの1つの温度が−30〜+30℃の範囲にある場合、該粒子は活物質層に対してより良好な柔軟性と粘着性とを付与することができ、従って密着性をより向上させることができる。
【0068】
1.1.3.2.テトラヒドロフラン(THF)不溶分
重合体粒子(A)のTHF不溶分は、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。THF不溶分は、蓄電デバイスで使用する電解液への不溶分量とほぼ比例すると推測される。このため、THF不溶分が前記範囲であれば、蓄電デバイスを作製して、長期間にわたり充放電を繰り返した場合でも電解液への重合体粒子(A)の溶出を抑制できるため良好であると推測できる。
【0069】
1.1.4.重合体粒子(A)の作製方法
本実施の形態に係る電極用バインダー組成物に含まれる重合体粒子(A)は、上記のような構成をとるものである限り、その合成方法は特に限定されないが、例えば公知の乳化重合工程またはこれを適宜に組み合わせることによって、容易に合成することができる。例えば、特開2007−197588号公報に記載の方法により作製することができる。
【0070】
本実施の形態に係る電極用バインダー組成物に含まれる重合体粒子(A)は、例えば、以下に示す方法に従って製造することができる。先ず、第1の重合体粒子は、水系媒体を用いた通常の乳化重合方法により得ることができる。この「水系媒体」とは、水を主成分とする媒体を意味する。具体的には、この水系媒体中における水の含有率は、40質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることが更に好ましい。水と併用することのできる他の媒体としては、エステル類、ケトン類、フェノール類、アルコール類等の化合物を挙げることができる。
【0071】
乳化重合の条件は、公知の方法に準ずればよい。例えば使用する単量体の全量を100部とした場合に、通常100〜500部の水を使用し、重合温度−10〜100℃(好ましくは−5〜100℃、より好ましくは0〜90℃)、重合時間0.1〜30時間(好ましくは2〜25時間)の条件で行うことができる。乳化重合の方式としては、単量体を一括して仕込むバッチ方式、単量体を分割若しくは連続して供給する方式、単量体のプレエマルジョンを分割若しくは連続して添加する方式、又はこれらの方式を段階的に組み合わせた方式等を採用することができる。また、通常の乳化重合に用いられる分子量調節剤、キレート化剤、無機電解質等を、必要に応じて一種又は二種以上使用することができる。
【0072】
乳化重合に際して開始剤を使用する場合には、この開始剤として、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート、2−カルバモイルアザイソブチロニトリル等のアゾ化合物;過酸化基を有するラジカル乳化性化合物を含有するラジカル乳化剤、亜硫酸水素ナトリウム、及び硫酸第一鉄等の還元剤を組み合わせたレドックス系;等を用いることができる。また、乳化剤を用いる場合には、この乳化剤として、公知のアニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、及び両性乳化剤からなる群より選択される一種以上を使用することができる。なお、分子内に不飽和二重結合を有する反応性乳化剤等を用いてもよい。
【0073】
乳化重合に使用する分子量調節剤には、特に制限はない。分子量調節剤の具体例としては、n−ヘキシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ヘキサデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、t−テトラデシルメルカプタン、チオグリコール酸等のメルカプタン類;ジメチルキサントゲンジスルフィド、ジエチルキサントゲンジスルフィド、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド等のキサントゲンジスルフィド類;テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド等のチウラムジスルフィド類;クロロホルム、四塩化炭素、四臭化炭素、臭化エチレン等のハロゲン化炭化水素類;ペンタフェニルエタン、α−メチルスチレンダイマー等の炭化水素類;アクロレイン、メタクロレイン、アリルアルコール、2−エチルヘキシルチオグリコレート、ターピノーレン、α−テルネピン、γ−テルネピン、ジペンテン、1,1−ジフェニルエチレン等を挙げることができる。これらの分子量調節剤を、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、メルカプタン類、キサントゲンジスルフィド類、チウラムジスルフィド類、1,1−ジフェニルエチレン、α−メチルスチレンダイマー等がより好適に使用される。
【0074】
乳化重合終了時における単量体の重合転化率は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることが特に好ましい。第1の重合体粒子の重合添加率が80質量%未満の状態で、第2の重合体粒子用の単量体を投入すると、形成される第1の重合体粒子と第2の重合体粒子とが明確に分離し難くなる。得られる第1の重合体粒子は、通常は略球状の粒子である。
【0075】
得られた第1の重合体粒子の存在下において、第2の重合体粒子用の単量体を重合させる。より具体的には、得られた第1の重合体粒子をシード粒子として使用した状態で第2の重合体粒子用の単量体をシード重合させることによって、第2の重合体粒子を形成することができる。例えば、第1の重合体粒子が分散した水系媒体中に、第2の重合体粒子用単量体若しくはそのプレエマルジョンを一括、分割、又は連続して滴下すればよい。このとき使用する第1の重合体粒子の量は、第2の重合体粒子用の単量体100質量部に対して、1〜100質量部とすることが好ましく、2〜80質量部とすることがより好ましい。重合に際して開始剤や乳化剤を用いる場合には、第1の重合体粒子の製造時と同様のものを使用することができる。また、重合時間等の条件についても、第1の重合体粒子の製造時と同様とすればよい。
【0076】
図10ないし図12は、異形粒子の生成メカニズムを模式的に示す説明図である。図10に示すように、第1の重合体粒子22が分散した水系媒体中に、第2の重合体粒子用単量体23を投入すると、投入された第2の重合体粒子用単量体23の大部分は、通常、一旦第1の重合体粒子に吸蔵され、この第1の重合体粒子22中又はその表面で重合が開始される。この第2の重合体粒子用単量体23は、重合の進行に伴って第1の重合体粒子22に対する相溶性が低下し、第1の重合体粒子22と相分離するようになる。このため、重合の初期には、図11に示すように第1の重合体粒子22の複数箇所で重合が進行し得るが、それぞれの重合体を構成する単量体単位がこれまで述べてきた関係を満たす場合、第2の重合体粒子24は、第1の重合体粒子22の各所で重合されたものが互いに集まって単一の第2の重合体粒子24を形成する傾向にある。そして、第2の重合体粒子24がある程度の大きさに成長すると、図12に示すようにそれ以降の重合は主としてこの第2の重合体粒子24で進行するようになる。このようにして、第1の重合体粒子と第2の重合体粒子とが非対称に分離した異形粒子が形成される。
【0077】
上記のようにして形成される異形粒子においては、第1の重合体粒子と第2の重合体粒子との質量比(第1/第2)は、2/98〜98/2であることが好ましく、5/95〜95/5であることがより好ましい。また、異形粒子の全表面積のうち、第1の重合体粒子により形成される露出面と、第2の重合体粒子により形成される露出面との割合(面積比=第1/第2)は、5/95〜95/5であることが好ましく、10/90〜90/10であることがより好ましい。第1の重合体粒子及び第2の重合体粒子のいずれか一方の割合が上記範囲よりも少ない場合には、この異形粒子が「異形」であることによる効果が十分に得られない場合がある。なお、異形粒子の全表面積に占める各一次粒子の露出面の割合は、例えば電子顕微鏡写真から測定することができる。
【0078】
なお、異形粒子の形状は、第1の重合体粒子と第2の重合体粒子との質量比、第1の重合体粒子と第2の重合体粒子との分離性、第2の重合体粒子を形成する際の重合条件等によって種々変化する。例えば、第1の重合体粒子と第2の重合体粒子との質量比及び重合条件を一定とした場合、第1の重合体粒子と第2の重合体粒子との分離性が高くなるにつれて、異形粒子の形状は、図5、図7、図4の順に変化する傾向にある。
【0079】
1.2.分散媒体(B)
本実施の形態に係る電極用バインダー組成物は、分散媒体(B)を含有する。上記分散媒体(B)は、水を含有する水系媒体であることが好ましい。この水系媒体は、水以外に少量の非水系媒体を含有することができる。このような非水系媒体としては、例えばアミド化合物、炭化水素、アルコール、ケトン、エステル、アミン化合物、ラクトン、スルホキシド、スルホン化合物等を挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することができる。このような非水系媒体の含有割合は、水系媒体100質量部に対して10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましく、非水系媒体を含有せずに水のみからなるものであることが最も好ましい。
【0080】
本実施の形態に係る電極用バインダー組成物は、媒体として水系媒体を使用し、好ましくは水以外の非水系媒体を含有しないことにより、環境に対する悪影響を与える程度が低く、取扱作業者に対する安全性も高くなる。
【0081】
1.3.その他の添加剤
本実施の形態に係る電極用バインダー組成物は、上述する重合体粒子(A)、液状媒体(B)の他に、必要に応じてその他の添加剤をさらに含有させることができる。たとえば、その塗布性や蓄電デバイスの充放電特性等をさらに向上させる観点から、増粘剤を含有させることができる。
【0082】
このような増粘剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース化合物;上記セルロース化合物のアンモニウム塩またはアルカリ金属塩;ポリ(メタ)アクリル酸、変性ポリ(メタ)アクリル酸等のポリカルボン酸;上記ポリカルボン酸のアルカリ金属塩;ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体などのポリビニルアルコール系(共)重合体;(メタ)アクリル酸、マレイン酸およびフマル酸等の不飽和カルボン酸とビニルエステルとの共重合体の鹸化物等の水溶性ポリマーを挙げることができる。これらの中でも特に好ましい増粘剤としては、カルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩、ポリ(メタ)アクリル酸のアルカリ金属塩等である。
【0083】
これら増粘剤の市販品としては、カルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩として、例えばCMC1120、CMC1150、CMC2200、CMC2280、CMC2450(以上、ダイセル化学工業株式会社製)等を挙げることができる。
【0084】
本実施の形態に係る電極用バインダー組成物が増粘剤を含有する場合、増粘剤の使用割合としては、電極用バインダー組成物中の全固形分量に対して、好ましくは15質量%以下であり、より好ましくは0.1〜10質量%である。
【0085】
2.電極用スラリー
前述の電極用バインダー組成物を用いて、本実施の形態に係る電極用スラリーを製造することができる。電極用スラリーとは、これを集電体の表面に塗布した後、乾燥して、集電体表面上に電極活物質層を形成するために用いられる分散液のことをいう。本実施の形態に係る電極用スラリーは、前述の電極用バインダー組成物と、電極活物質と、水と、を含有する。以下、本実施の形態に係る電極用スラリーに含まれる成分についてそれぞれ詳細に説明する。ただし、電極用バインダー組成物に含まれる成分については、前述したとおりであるから割愛する。
【0086】
2.1.電極活物質
電極用スラリーに含まれる電極活物質を構成する材料としては特に制限はなく、目的とする蓄電デバイスの種類により適宜適当な材料を選択することができる。
【0087】
例えば、リチウムイオン二次電池の正極を作製する場合には、リチウム原子含有酸化物が好ましく、オリビン構造を有するリチウム原子含有酸化物であることがより好ましい。上記オリビン構造を有するリチウム原子含有酸化物は、下記一般式(1)で表され、そしてオリビン型結晶構造を有する化合物である。
Li1−x(XO) ・・・・・(1)
(式中、Mは、Mg、Ti、V、Nb、Ta、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Ga、GeおよびSnよりなる群から選択される金属のイオンの少なくとも1種であり;Xは、Si、S、PおよびVよりなる群から選択される少なくとも1種であり;xは数であり、0<x<1の関係を満たし;そしてLiイオンおよびMイオンの価数の合計は+3である。)
【0088】
上記オリビン構造を有するリチウム原子含有酸化物は、金属元素Mの種類によって電極電位が異なる。従って、金属元素Mの種類を選択することにより、電池電圧を任意に設定することができる。オリビン構造を有するリチウム原子含有酸化物の代表的なものとしては、LiFePO、LiCoPO、Li0.90Ti0.05Nb0.05Fe0.30Co0.30Mn0.30POなどを挙げることができる。これらのうち、特にLiFePOは、原料となる鉄化合物の入手が容易であるとともに安価であるため好ましい。また、上記の化合物中のFeイオンをCoイオン、NiイオンまたはMnイオンに置換した化合物も、上記各化合物と同じ結晶構造を有するので、電極活物質として同様の効果を有する。
【0089】
一方、リチウムイオン二次電池の負極を作製する場合には、カーボンを用いることができる。カーボンの具体例としては、フェノール樹脂、ポリアクリロニトリル、セルロース等の有機高分子化合物を焼成することにより得られる炭素材料;コークスやピッチを焼成することにより得られる炭素材料;人造グラファイト;天然グラファイト等が挙げられる。
【0090】
電気二重層キャパシタ電極を作製する場合には、活性炭、活性炭繊維、シリカ、アルミナ等を用いることができる。また、リチウムイオンキャパシタ電極を作製する場合には、アモルファスカーボン、天然黒鉛、人造黒鉛、難黒鉛化炭素、ハードカーボン、ソフトカーボン、コークス等の炭素材料や、ポリアセン系有機半導体(PAS)等を用いることができる。
【0091】
電極活物質の数平均粒子径(Db)は、0.4〜10μmの範囲とすることが好ましく、0.5〜7μmの範囲とすることがより好ましい。電極活物質の数平均粒子径が前記範囲内にあると、電極活物質内におけるリチウムの拡散距離が短くなるので、充放電の際のリチウムの脱挿入に伴う抵抗を低減することができ、その結果、充放電特性がより向上する。さらに、電極用スラリーが後述の導電付与剤を含有する場合、電極活物質の数平均粒子径が前記範囲内であることにより、電極活物質と導電付与剤との接触面積を十分に確保することができることとなり、電極の電子導電性が向上し、電極抵抗がより低下する。
【0092】
ここで、電極活物質の数平均粒子径(Db)とは、レーザー回折法を測定原理とする粒度分布測定装置を用いて粒度分布を測定し、小さい粒子から粒子を累積したときの粒子数の累積度数が50%となる粒子径(D50)の値である。このようなレーザー回折式粒度分布測定装置としては、例えばHORIBA LA−300シリーズ、HORIBA LA−920シリーズ(以上、株式会社堀場製作所製)等を挙げることができる。この粒度分布測定装置は、電極活物質の一次粒子だけを評価対象とするものではなく、一次粒子が凝集して形成された二次粒子をも評価対象とする。従って、この粒度分布測定装置によって得られた平均粒子径(Db)は、電極用スラリー中に含まれる電極活物質の分散状態の指標とすることができる。なお、電極活物質の平均粒子径(Db)は、電極用スラリーを遠心分離して電極活物質を沈降させた後、その上澄み液を除去し、沈降した電極活物質を上記の方法により測定することによっても測定することができる。
【0093】
2.2.その他の成分
上記電極用スラリーは、必要に応じて前述した成分以外の成分を含有することができる。このような成分としては、例えば導電付与剤、非水系媒体、増粘剤等が挙げられる。
【0094】
2.2.1.導電付与剤
上記導電付与剤の具体例としては、リチウムイオン二次電池においてはカーボンなどが;ニッケル水素二次電池においては、正極では酸化コバルトが:負極ではニッケル粉末、酸化コバルト、酸化チタン、カーボンなどが、それぞれ用いられる。上記両電池において、カーボンとしては、グラファイト、活性炭、アセチレンブラック、ファーネスブラック、黒鉛、炭素繊維、フラーレンなどを挙げることができる。これらの中でも、アセチレンブラックまたはファーネスブラックを好ましく使用することができる。導電付与剤の使用割合は、電極活物質100質量部に対して、好ましくは20質量部以下であり、より好ましくは1〜15質量部であり、特に好ましくは2〜10質量部である。
【0095】
2.2.2.非水系媒体
上記電極用スラリーは、その塗布性を改善する観点から、80〜350℃の標準沸点を有する非水系媒体を含有することができる。このような非水系媒体の具体例としては、例えばN−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド化合物;トルエン、キシレン、n−ドデカン、テトラリン等の炭化水素;2−エチル−1−ヘキサノール、1−ノナノール、ラウリルアルコール等のアルコール;メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、ホロン、アセトフェノン、イソホロン等のケトン;酢酸ベンジル、酪酸イソペンチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル等のエステル;o−トルイジン、m−トルイジン、p−トルイジン等のアミン化合物;γ−ブチロラクトン、δ−ブチロラクトン等のラクトン;ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホキシド・スルホン化合物等を挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することができる。これらの中でも、重合体粒子の安定性、電極用スラリーを塗布する際の作業性等の点から、N−メチルピロリドンを使用することが好ましい。
【0096】
2.2.3.増粘剤
上記電極用スラリーは、その塗工性を改善する観点から、増粘剤を含有することができる。増粘剤の具体例としては、前記「1.3.その他の添加剤」に記載した各種化合物が挙げられる。
【0097】
電極用スラリーが増粘剤を含有する場合、増粘剤の使用割合としては、電極用スラリーの全固形分量に対して、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは0.1〜15質量%であり、特に好ましくは0.5〜10質量%である。
【0098】
2.3.電極用スラリーの製造方法
本実施の形態に係る電極用スラリーは、前述の電極用バインダー組成物と、電極活物質と、水と、必要に応じて用いられる添加剤と、を混合することにより製造することができる。これらの混合には公知の手法による攪拌によって行うことができ、例えば攪拌機、脱泡機、ビーズミル、高圧ホモジナイザー等を利用することができる。
【0099】
電極用スラリーの調製(各成分の混合操作)は、少なくともその工程の一部を減圧下で行うことが好ましい。これにより、得られる電極層内に気泡が生じることを防止することができる。減圧の程度としては、絶対圧として、5.0×10〜5.0×10Pa程度とすることが好ましい。
【0100】
電極用スラリーを製造するための混合撹拌としては、スラリー中に電極活物質の凝集体が残らない程度に撹拌し得る混合機と、必要にして十分な分散条件とを選択する必要がある。分散の程度は粒ゲージにより測定可能であるが、少なくとも100μmより大きい凝集物がなくなるように混合分散することが好ましい。このような条件に適合する混合機としては、例えばボールミル、サンドミル、顔料分散機、擂潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、ホバートミキサー等を例示することができる。
【0101】
2.4.電極用スラリーの特徴
前述の電極用バインダー組成物に含まれる重合体粒子(A)の数平均粒子径(Da)と電極活物質の数平均粒子径(Db)との比(Da/Db)が0.01〜1.0の範囲にあることが好ましく、0.05〜0.5の範囲にあることがより好ましい。このことの技術的な意味は、以下の通りである。
【0102】
電極用スラリーを集電体の表面に塗布した後、形成された塗膜を乾燥する工程において、重合体粒子および電極活物質のうちの少なくとも一方がマイグレーションすることが確認されている。すなわち、粒子が表面張力の作用を受けることによって塗膜の厚み方向に沿って移動するのである。より具体的には、重合体粒子および電極活物質のうちの少なくとも一方が、塗膜面のうちの、集電体と接する面とは反対側、すなわち水が蒸発する気固界面側へと移動する。このようなマイグレーションが起こると、重合体粒子および電極活物質の分布が塗膜の厚み方向で不均一となり、電極特性が悪化する、密着性が損なわれる、などの問題が発生する。例えば、バインダーとして機能する重合体粒子が電極活物質層の気固界面側へとブリード(移行)し、集電体と電極活物質層との界面における重合体粒子の量が相対的に少なくなると、電極活物質層への電解液の浸透が阻害されることにより十分な電気的特性が得られなくなるとともに、集電体と電極活物質層との結着性が不足して剥離してしまう。さらに、重合体粒子がブリードすることにより、電極活物質層表面の平滑性が損なわれてしまう。
【0103】
しかしながら、両粒子の数平均粒子径の比(Da/Db)が前記範囲にあると、前述したような問題の発生を抑制することができ、良好な電気的特性と結着性とが両立した電極を容易に製造できることとなる。比(Da/Db)が前記範囲未満では、重合体粒子と電極活物質との平均粒子径の差が小さくなるため、重合体粒子と電極活物質とが接触する面積が小さくなり、粉落ち耐性が不十分となる場合がある。一方、比(Da/Db)が前記範囲を超えると、重合体粒子と電極活物質との平均粒子径の差が大きくなりすぎることにより、重合体粒子の接着力が不十分となり、集電体と電極活物質層との間の結着性が不足する場合がある。
【0104】
本実施の形態に係る電極用スラリーは、その固形分濃度(スラリー中の溶媒以外の成分の合計質量がスラリーの全質量に対して占める割合)が20〜80質量%であることが好ましく、30〜75質量%であることがより好ましい。
【0105】
本実施の形態に係る電極用スラリーは、その曳糸性が30〜80%であることが好ましく、33〜79%であることがより好ましく、35〜78%であることが特に好ましい。曳糸性が前記範囲未満であると、電極用スラリーを集電体上へ塗布する際、レベリング性が不足するため、電極厚みの均一性が得られ難くなる場合がある。このような厚みが不均一な電極を使用すると、充放電反応の面内分布が発生するため、安定した電池性能の発現が困難となる。一方、曳糸性が前記範囲を超えると、電極用スラリーを集電体上に塗布する際、液ダレが起き易くなり、安定した品質の電極が得られ難くなる。そこで、曳糸性が前記範囲にあれば、これらの問題の発生を抑制することができ、良好な電気的特性と密着性とを両立させた電極を製造することが容易となるのである。
【0106】
本明細書における「曳糸性」は、以下のようにして測定される。
まず、底部に直径5.2mmの開口部を有するザーンカップ(太佑機材株式会社製、ザーンビスコシティーカップNo.5)を準備する。この開口部を閉じた状態で、ザーンカップに電極用スラリー40gを流し込む。その後、開口部を開放すると、開口部から電極用スラリーが流れ出す。ここで、開口部を開放した時をT、電極用スラリーの曳糸が終了した時をT、電極用スラリーの流出が終了した時をTとした場合に、本明細書における「曳糸性」は下記数式(2)から求めることができる。
曳糸性(%)=((T−T)/(T−T))×100 ・・・・・(2)
【0107】
3.電極
本実施の形態に係る電極は、集電体と、前記集電体の表面上に前述の電極用スラリーが塗布、乾燥されて形成された層と、を備えるものである。かかる電極は、金属箔などの適宜の集電体の表面に、前述の電極用スラリーを塗布して塗膜を形成し、次いで該塗膜を乾燥することにより製造することができる。このようにして製造された電極は、集電体上に、前述の重合体粒子(A)および電極活物質、さらに必要に応じて添加した任意成分を含有する電極活物質層が結着されてなるものである。かかる電極は、集電体と電極活物質層との結着性に優れるとともに、電気的特性の一つである充放電レート特性が良好である。したがって、このような電極は蓄電デバイスの電極として好適である。
【0108】
集電体は、導電性材料からなるものであれば特に制限されない。リチウムイオン二次電池においては、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレスなどの金属製の集電体が使用されるが、特に正極にアルミニウムを、負極に銅を用いた場合、前述の電極用バインダーを用いて製造された電極用スラリーの効果が最もよく現れる。ニッケル水素二次電池における集電体としては、パンチングメタル、エキスパンドメタル、金網、発泡金属、網状金属繊維焼結体、金属メッキ樹脂板などが使用される。集電体の形状および厚さは特に制限されないが、厚さ0.001〜0.5mm程度のシート状のものとすることが好ましい。
【0109】
電極用スラリーの集電体への塗布方法についても特に制限はない。塗布は、例えばドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、浸漬法、ハケ塗り法などの適宜の方法によることができる。電極用スラリーの塗布量も特に制限されないが、液状媒体を除去した後に形成される電極活物質層の厚さが、0.005〜5mmとなる量とすることが好ましく、0.01〜2mmとなる量とすることがより好ましい。
【0110】
塗布後の塗膜からの乾燥方法(水および任意的に使用される非水系媒体の除去方法)についても特に制限されず、例えば温風、熱風、低湿風による乾燥;真空乾燥;(遠)赤外線、電子線などの照射による乾燥などによることができる。乾燥速度としては、応力集中によって電極活物質層に亀裂が入ったり、電極活物質層が集電体から剥離したりしない程度の速度範囲の中で、できるだけ早く液状媒体が除去できるように適宜に設定することができる。
【0111】
さらに、乾燥後の集電体をプレスすることにより、電極活物質層の密度を高めることが好ましい。プレス方法は、金型プレスやロールプレスなどの方法が挙げられる。プレス後の電極活物質層の密度としては、1.6〜2.4g/cmとすることが好ましく、1.7〜2.2g/cmとすることがより好ましい。
【0112】
4.蓄電デバイス
上記のような電極を用いて、蓄電デバイスを製造することができる。本実施の形態に係る蓄電デバイスは、前述した電極を備えるものであり、さらに電解液を含有し、セパレータなどの部品を用いて、常法に従って製造することができる。具体的な製造方法としては、例えば、負極と正極とをセパレータを介して重ね合わせ、これを電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口する方法が挙げられる。電池の形状は、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など、適宜の形状であることができる。
【0113】
電解液は、液状でもゲル状でもよく、電極活物質の種類に応じて、蓄電デバイスに用いられる公知の電解液の中から電池としての機能を効果的に発現するものを選択すればよい。電解液は、電解質を適当な溶媒に溶解した溶液であることができる。
【0114】
上記電解質としては、リチウムイオン二次電池では、従来から公知のリチウム塩のいずれをも使用することができ、その具体例としては、例えばLiClO、LiBF、LiPF、LiCFCO、LiAsF、LiSbF、LiB10Cl10、LiAlCl、LiCl、LiBr、LiB(C、LiCFSO、LiCHSO、LiCSO、Li(CFSON、低級脂肪酸カルボン酸リチウムなどを例示することができる。ニッケル水素二次電池では、例えば従来公知の濃度が5モル/リットル以上の水酸化カリウム水溶液を使用することができる。
【0115】
上記電解質を溶解するための溶媒は、特に制限されるものではないが、その具体例として、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどのカーボネート化合物;γ−ブチルラクトンなどのラクトン化合物;トリメトキシメタン、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、2−エトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル化合物;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド化合物などを挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することができる。電解液中の電解質の濃度としては、好ましくは0.5〜3.0モル/Lであり、より好ましくは0.7〜2.0モル/Lである。
【0116】
5.実施例
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例、比較例中の「部」および「%」は、特に断らない限り質量基準である。なお、実施例1〜3及び比較例1、4は、本願発明の電極用バインダー組成物が正極を作製するために用いられた具体例であり、実施例4〜6、7及び比較例2、3、5、6は、本発明に係る電極用バインダー組成物が負極を作製するために用いられた具体例である。
【0117】
5.1.実施例1
5.1.1.電極用バインダー組成物の調製
電磁式撹拌機を備えた内容積約6Lのオートクレーブの内部を十分に窒素置換した後、脱酸素した純水2.5Lおよび乳化剤としてパーフルオロデカン酸アンモニウム25gを仕込み、350rpmで撹拌しながら60℃まで昇温した。次いで、単量体であるフッ化ビニリデン(VDF(登録商標))70%および六フッ化プロピレン(HFP)30%からなる混合ガスを、内圧が20kg/cmに達するまで仕込んだ。重合開始剤としてジイソプロピルパーオキシジカーボネートを20%含有するフロン113溶液25gを窒素ガスを使用して圧入し、重合を開始した。重合中は内圧が20kg/cmに維持されるようVDF(登録商標)60.2%およびHFP39.8%からなる混合ガスを逐次圧入して、圧力を20kg/cmに維持した。また、重合が進行するに従って重合速度が低下するため、3時間経過後に、先と同じ重合開始剤溶液の同量を窒素ガスを使用して圧入し、さらに3時間反応を継続した。反応液にメタクリル酸グリシジル(GMA)5部を添加し、3時間反応を継続した後、反応液を冷却すると同時に撹拌を停止し、未反応の単量体を放出した後に反応を停止することにより、重合体粒子を40%含有する水系分散体を得た。なお、得られた重合体粒子につき、19F−NMRおよびH−NMRにより分析した結果、各単量体の質量組成比はVDF(登録商標)/HFP/GMA=40/5/5であった。
【0118】
次いで、容量7Lのセパラブルフラスコに3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキシサイド(商品名「パーロイル355」、日油株式会社製、水溶解度:0.01%)2部、ラウリル硫酸ナトリウム0.1部、及び水20部を撹拌して乳化させた。さらに、先に作製した重合体粒子50部を添加し、16時間撹拌した。次いで、セパラブルフラスコの内部を十分に窒素置換した後、メタクリル酸メチル(MMA)20部、アクリル酸2−エチルヘキシル(EHA)25部およびメタクリル酸(MAA)5部を加え、40℃で撹拌した。その後、75℃に昇温して3時間反応を行い、さらに85℃で2時間反応を行った。その後、冷却した後に反応を停止し、2.5N水酸化ナトリウム水溶液でpH7に調節することにより、重合体粒子を40%含有する水系分散体(電極用バインダー組成物)を得た。
【0119】
得られた重合体粒子の水系分散体について、動的光散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置(大塚電子株式会社製、形式「FPAR−1000」)を用いて粒度分布を測定し、その粒度分布から数平均粒子径(Da)を求めたところ330nmであった。
【0120】
また、透過型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、型式「H−7650」)により10個の重合体粒子について長径(Rmax)と短径(Rmin)を測定し、その平均値を算出したところ、長径が360nm、短径が300nmであり、長径と短径との比率(Rmax/Rmin)が1.20であった。
【0121】
さらに、得られた膜(重合体)に関してJIS K7121に準拠して示差走査熱量測定(DSC)を行った結果、吸熱ピークが120℃(溶解温度Tm)と−5℃(ガラス転移温度Tg)の二つが観測された。
【0122】
5.1.2.電極用スラリーの調製
先ず、市販のリン酸鉄リチウム(LiFePO)をめのう乳鉢で粉砕し、ふるいを用いて分級することにより、数平均粒子径(Db)が0.5μmである活物質粒子を得た。
【0123】
次いで、二軸型プラネタリーミキサー(プライミクス株式会社製、商品名「TKハイビスミックス 2P−03」)に増粘剤(ダイセル化学工業株式会社製、商品名「CMC1120」)1部(固形分換算)、上記活物質粒子100部、アセチレンブラック5部および水68部を投入し、60rpmで1時間攪拌を行った。次いで、上記「5.1.1.電極用バインダー組成物の調製」で調製した電極バインダー組成物を、該組成物中に含有される重合体粒子が1部となるように加え、さらに1時間攪拌してペーストを得た。得られたペーストに水を加えて固形分濃度を50%に調整した後、攪拌脱泡機(株式会社シンキー製、商品名「あわとり練太郎」)を使用して、200rpmで2分間、1,800rpmで5分間、さらに真空下(約5.0×10Pa)において1,800rpmで1.5分間攪拌混合することにより、電極用スラリーを調製した。
【0124】
このようにして得られた電極用スラリーの曳糸性を以下のようにして測定した。
先ず、容器の底辺に直径5.2mmの開口部が存在するザーンカップ(太佑機材株式会社製、ザーンビスコシティーカップNo.5)を準備した。このザーンカップの開口部を閉じた状態で、上記で調製した電極用スラリーを40g流し込んだ。開口部を開放するとスラリーが流れ出した。このとき、開口部を開放した瞬間の時間をTとし、スラリーが流れ出る際に糸を曳くようにして流出し続けた時間を目視で測定し、この時間をTとした。さらに、糸を曳かなくなってからも測定を継続し、電極用スラリーが流れ出なくなるまでの時間Tを測定した。測定した各値T、TおよびTを下記数式(2)に代入して曳糸性を求めた。
曳糸性(%)=((T−T)/(T−T))×100 ・・・・・(2)
電極用スラリーにおける曳糸性は、30〜80%である場合に良好と判断できる。
【0125】
5.1.3.電極および蓄電デバイスの製造ならびに評価
5.1.3.1.電極(正極)の製造
厚み30μmのアルミニウム箔からなる集電体の表面に、上記「5.1.2.電極用スラリーの調製」で調製した電極用スラリーを、乾燥後の膜厚が100μmとなるようにドクターブレード法によって均一に塗布し、120℃で20分間乾燥した。その後、膜(活物質層)の密度が表1に記載の値になるようにロールプレス機によりプレス加工することにより、電極(正極)を得た。
【0126】
5.1.3.2.電極の評価(クラック率)
作製した電極を、幅2cm×長さ10cmの極板に切り出し、幅方向に直径2mmの丸棒に沿って電極板を折り曲げ回数100回にて繰り返し折り曲げ試験を行った。丸棒に沿った部分のクラックの大きさを目視により観察し計測し、クラック率を測定した。クラック率は、下記数式(3)によって定義した。
クラック率(%)={クラックの入った長さ(mm)÷極板全体の長さ(mm)}×100 ・・・・・(3)
ここで、柔軟性や密着性に優れた電極板はクラック率が低い傾向がある。クラック率は0%であることが望ましいが、電極をセパレータを介して渦巻き状に捲回して極板群を製造する場合には、クラック率が20%までなら許容される。しかしながら、クラック率が20%より大きくなると、電極が切れ易くなり極板群の製造が不可能となり、極板群の生産性が低下する。このことから、クラック率の閾値として20%までが良好な範囲であると考えられる。クラック率の測定結果を表1に併せて示した。
【0127】
5.1.3.3.対極(負極)の製造
二軸型プラネタリーミキサー(プライミクス株式会社製、商品名「TKハイビスミックス 2P−03」)に、ポリフッ化ビニリデン(PVDF(登録商標))4部(固形分換算)、負極活物質としてグラファイト100部(固形分換算)、N−メチルピロリドン(NMP)80部を投入し、60rpmで1時間撹拌を行った。その後、さらにNMP20部を投入した後、撹拌脱泡機(株式会社シンキー製、製品名「あわとり練太郎」)を使用して、200rpmで2分間、次いで1,800rpmで5分間、さらに真空下において1,800rpmで1.5分間撹拌・混合することにより、対極(負極)用スラリーを調製した。
【0128】
次いで、銅箔からなる集電体の表面に、得られた対極(負極)用スラリーを、乾燥後の膜厚が150μmとなるようにドクターブレード法によって均一に塗布し、120℃で20分間乾燥した。その後、膜の密度が1.5g/cmとなるようにロールプレス機を使用してプレス加工することにより、対極(負極)を得た。
【0129】
5.1.3.4.リチウムイオン電池セルの組立て
露点が−80℃以下となるようAr置換されたグローブボックス内で、上記「5.1.3.3.対極(負極)の製造」において製造した対極(負極)を直径15.95mmに打ち抜き成型したものを、2極式コインセル(宝泉株式会社製、商品名「HSフラットセル」)上に載置した。次いで、直径24mmに打ち抜いたポリプロピレン製多孔膜からなるセパレータ(セルガード株式会社製、商品名「セルガード#2400」)を載置し、さらに、空気が入らないように電解液を500μL注入した後、上記「5.1.3.1.電極(正極)の製造」において製造した正極を直径16.16mmに打ち抜き成型したものを載置し、前記2極式コインセルの外装ボディーをネジで閉めて封止することにより、リチウムイオン電池セル(蓄電デバイス)を組み立てた。なお、使用した電解液は、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート=1/1(質量比)の溶媒に、LiPFを1モル/Lの濃度で溶解した溶液である。
【0130】
5.1.3.5.蓄電デバイスの評価(放電レート特性の評価)
上記「5.1.3.4.リチウムイオン電池セルの組立て」において製造した蓄電デバイスにつき、定電流(0.2C)にて充電を開始し、電圧が4.2Vになった時点で引き続き定電圧(4.2V)にて充電を続行し、電流値が0.01Cとなった時点を充電完了(カットオフ)として0.2Cでの充電容量を測定した。次いで、定電流(0.2C)にて放電を開始し、電圧が2.7Vになった時点を放電完了(カットオフ)とし0.2Cでの放電容量を測定した。
【0131】
次に、同じセルにつき、定電流(3C)にて充電を開始し、電圧が4.2Vになった時点で引き続き定電圧(4.2V)にて充電を続行し、電流値が0.01Cとなった時点を充電完了(カットオフ)として3Cでの充電容量を測定した。次いで、定電流(3C)にて放電を開始し、電圧が2.7Vになった時点を放電完了(カットオフ)とし、3Cでの放電容量を測定した。
【0132】
上記の測定値を用いて、0.2Cでの放電容量に対する3Cでの放電容量の割合(百分率%)を計算することにより放電レート(%)を算出した。放電レートが80%以上のとき、放電レート特性は良好であると評価することができる。測定された放電レートの値を、表1に併せて示した。
【0133】
なお、測定条件において「1C」とは、ある一定の電気容量を有するセルを定電流放電して1時間で放電終了となる電流値のことを示す。たとえば「0.1C」とは、10時間かけて放電終了となる電流値のことであり、10Cとは0.1時間かけて放電完了となる電流値のことをいう。
【0134】
5.2.実施例2および比較例1、4
5.2.1.電極用バインダー組成物の調製
上記実施例1の「5.1.1.電極用バインダー組成物の調製」において、単量体の組成と乳化剤量を適宜に変更したほかは実施例1と同様にして、表1に示す組成の重合体粒子を含有する水系分散体を調製し、該水系分散体の固形分濃度に応じて水を減圧除去または追加することにより、固形分濃度40%の水系分散体を得た。得られた重合体粒子について数平均粒子径測定、長径と短径との比率算出結果、DSC測定を実施例1と同様にして行った。その結果を表1に併せて示した。
【0135】
5.2.2.電極用スラリーの調製
表1に記載した種類および量の増粘剤を使用したほかは、実施例1における「5.1.2.電極用スラリーの調製」と同様にして電極(正極)用スラリーを調製し、その曳糸性を測定した。曳糸性の値を表1に併せて示した。
【0136】
5.2.3.電極および蓄電デバイスの製造ならびに評価
上記で得た各材料を使用したほかは、実施例1と同様にして電極(正極)および蓄電デバイスを製造し、評価した。その評価結果を表1に併せて示した。
【0137】
5.3.実施例3
5.3.1.電極用バインダー組成物の調製
上記実施例1の「5.1.1.電極用バインダー組成物の調製」において、単量体ガスの組成と乳化剤量を適宜に変更したほかは実施例1と同様にして、表1に示す組成の重合体粒子を含有する水系分散体を調製し、該水系分散体の固形分濃度に応じて水を減圧除去または追加することにより、固形分濃度40%の水系分散体を得た。得られた水系分散体へN−メチルピロリドン(NMP)を添加し、水を減圧除去することにより、NMPを分散媒体とするバインダー組成物を得た。得られた重合体粒子について行った数平均粒子径測定、長径と短径との比率算出結果、DSC測定の結果を、表1に併せて示した。
【0138】
5.3.2.電極用スラリーの調製
上記実施例1の「5.1.2.電極用スラリーの調製」において、使用したふるいの目開きを適宜変更することにより、数平均粒子径(Db)が3μmである活物質粒子を調製した。
【0139】
次いで、二軸型プラネタリーミキサー(プライミクス株式会社製、商品名「TKハイビスミックス 2P−03」)に増粘剤(商品名「CMC1150」、ダイセル化学工業株式会社製)10部(固形分換算)、上記の数平均粒子径が3μmである活物質粒子100部、アセチレンブラック5部、上記「5.3.1.電極用バインダー組成物の調製」で調製したバインダー組成物4部(固形分換算)およびNMP68部を投入し、60rpmで2時間攪拌してペーストを得た。得られたペーストにNMPを加えて固形分濃度を45%に調整した後、攪拌脱泡機(株式会社シンキー製、商品名「あわとり練太郎」)を使用して、200rpmで2分間、1800rpmで5分間、さらに真空下において1800rpmで1.5分間攪拌混合することにより、電極用スラリーを調製した。
【0140】
5.3.3.電極および蓄電デバイスの製造ならびに評価
上記の電極用スラリーを用いたほかは、実施例1における「5.1.3.電極および蓄電デバイスの製造ならびに評価」と同様にして正極および蓄電デバイスを製造し、評価した。評価結果は表1に併せて示した。
【0141】
5.4.実施例4
5.4.1.電極用バインダー組成物の調製
容量7Lのセパラブルフラスコの内部を十分に窒素置換した後、乳化剤「アデカリアソープSR1025」(商品名、株式会社ADEKA製)0.5部、スチレン(ST)45部、および水130部を順次仕込み、次いで油溶性重合開始剤であるアゾビスイソブチロニトリル0.5部を含有するテトラヒドロフラン溶液20mLを添加し、75℃に昇温して3時間反応を行い、さらに85℃で2時間反応を行った。反応液にメタクリル酸ヒドロキシエチル(HEMA)10部を添加し、3時間反応を継続した後、反応液を冷却すると同時に撹拌を停止し、重合体粒子を40%含有する水系分散体を得た。
【0142】
次いで、容量7Lのセパラブルフラスコに3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキシサイド(商品名「パーロイル355」、日油株式会社製、水溶解度:0.01%)2部、ラウリル硫酸ナトリウム0.1部、及び水20部を撹拌して乳化させた。さらに、先に作製した重合体粒子の55部を添加し、16時間撹拌した。次いで、セパラブルフラスコの内部を十分に窒素置換した後、メタクリル酸メチル(MMA)30部、アクリル酸2−エチルヘキシル(EHA)10部およびメタクリル酸(MAA)5部を加え、40℃で3時間ゆっくり撹拌して、モノマー成分を重合体粒子に吸収させた。その後、75℃に昇温して3時間反応を行い、さらに85℃で2時間反応を行った。その後、冷却した後に反応を停止し、2.5N水酸化ナトリウム水溶液でpH7に調節することにより、重合体粒子を40%含有する水系分散体(バインダー組成物)を得た。得られた重合体粒子について行った数平均粒子径測定、長径と短径との比率算出結果、DSC測定を実施例1と同様にしておこなった。その結果を表1に併せて示した。
【0143】
5.4.2.電極用スラリーの調製
次いで、二軸型プラネタリーミキサー(プライミクス株式会社製、商品名「TKハイビスミックス 2P−03」)に増粘剤(商品名「CMC2200」、ダイセル化学工業株式会社製)1部(固形分換算)、負極活物質として市販のグラファイト100部(固形分換算)、水68部を投入し、60rpmで1時間攪拌を行った。その後、「5.4.1.電極用バインダー組成物の調製」で調製された電極用バインダー組成物2部(固形分換算)を加え、さらに1時間攪拌しペーストを得た。得られたペーストに水を投入し、固形分を50%に調製した後、攪拌脱泡機(株式会社シンキー製、商品名「泡とり練太郎」)を使用して、200rpmで2分間、1800rpmで5分間、さらに真空下において1800rpmで1.5分間攪拌混合することにより、電極用スラリーを調製した。実施例1における「5.1.2.電極用スラリーの調製」に記載した方法で負極用スラリーの曳糸性を測定した。その結果を表1に併せて示した。
【0144】
5.4.3.電極および蓄電デバイスの製造ならびに評価
5.4.3.1.電極(負極)の製造
厚み20μmの銅箔からなる集電体の表面に、上記「5.4.2.電極用スラリーの調製」で調製した電極(負極)用スラリーを、乾燥後の膜厚が150μmとなるようにドクターブレード法によって均一に塗布し、120℃で20分間乾燥した。その後、膜の密度が1.5g/cmとなるようにロールプレス機を使用してプレス加工することにより、電極(負極)を得た。
【0145】
5.4.3.2.負極のクラック率の評価
実施例1における「5.1.3.2.電極の評価(クラック率)」と同様にして、負極のクラック率を測定した。その結果を表1に併せて示した。
【0146】
5.4.3.3.対極(正極)の製造
二軸型プラネタリーミキサー(プライミクス株式会社製、商品名「TKハイビスミックス 2P−03」)に電気化学デバイス電極用バインダー(株式会社クレハ製、商品名「KFポリマー#1120」)4.0部(固形分換算)、導電助剤(電気化学工業株式会社製、商品名「デンカブラック50%プレス品」)3.0部、正極活物質として粒径5μmのLiCoO(ハヤシ化成株式会社製)100部(固形分換算)、N−メチルピロリドン(NMP)36部を投入し、60rpmで2時間攪拌を行った。得られたペーストにNMPを投入し、固形分を65%に調製した後、攪拌脱泡機(株式会社シンキー製、商品名「泡とり練太郎」)を使用して、200rpmで2分間、1800rpmで5分間、さらに真空下において1800rpmで1.5分間攪拌混合することにより、正極用スラリーを調製した。アルミ箔よりなる集電体の表面に、得られた正極用スラリーを、乾燥後の膜厚が80μmとなるようにドクターブレード法によって均一に塗布し、120℃で20分間乾燥処理した。その後、電極層の密度が3.0g/cmとなるようにロールプレス機によりプレス加工することにより、二次電池用正極を得た。
【0147】
5.4.3.4.リチウムイオン電池セルの組立て
実施例1における「5.1.3.4.リチウムイオン電池セルの組立て」と同様にして、リチウムイオン電池セルを組み立てた。
【0148】
5.4.3.5.蓄電デバイスの評価(放電レート特性の評価)
実施例1における「5.1.3.5.蓄電デバイスの評価(放電レート特性の評価)」と同様にして、蓄電デバイスの評価を行った。その結果を表1に併せて示した。
【0149】
5.5.実施例5、6、7および比較例2、3、5、6
5.5.1.電極用バインダー組成物の調製
実施例5、6および比較例2、3、5、6について、上記実施例4の「5.4.1.電極用バインダー組成物の調製」において、単量体の組成と乳化剤量を適宜に変更したほかは実施例4と同様にして、表1に示す組成の重合体粒子を含有する水系分散体を調製し、該水系分散体の固形分濃度に応じて水を減圧除去または追加することにより、固形分濃度40%の水系分散体を得た。得られた重合体粒子について数平均粒子径測定、長径と短径との比率算出結果、DSC測定を実施例4と同様にして行った。その結果を表1に併せて示した。
実施例7については、上記実施例1における「5.1.1.電極用バインダー組成物の調製」で作製した電極用バインダー組成物を用いた。
【0150】
5.5.2.電極(負極)用スラリーの調製
表1に記載した種類および量の増粘剤を使用したほかは、実施例4における「5.4.2.電極(負極)用スラリーの調製」と同様にして電極(負極)用スラリーを調製し、その曳糸性を測定した。その結果を表1に併せて示した。
【0151】
5.5.3.電極(負極)および蓄電デバイスの製造ならびに評価
上記で得た各材料を使用したほかは、実施例4と同様にして電極(負極)および蓄電デバイスを製造し、評価した。その結果を表1に併せて示した。
【0152】
【表1】

【0153】
表1における各成分の略称は、それぞれ以下の通りである。
<含フッ素化合物>
・VDF(登録商標):フッ化ビニリデン
・HFP:六フッ化プロピレン
・TFE:四フッ化エチレン
<多官能(メタ)アクリル酸エステル>
・AMA:メタクリル酸アリル
・GMA:メタクリル酸グリシジル
・HEMA:メタクリル酸ヒドロキシエチル
<不飽和カルボン酸>
・AA:アクリル酸
・MAA:メタクリル酸
<単官能(メタ)アクリル酸エステル>
・MMA:メタクリル酸メチル
・EHA:アクリル酸2−エチルヘキシル
<その他の単量体>
・AN:アクリロニトリル
・ST:スチレン
・BD:ブタジエン
<活物質>
・LFP:リン酸鉄リチウム(LiFePO
・GF:グラファイト
【0154】
なお、増粘剤の欄に記載されているCMC1120、CMC1150、CMC2200、およびCMC2280は、いずれもダイセル化学工業株式会社製品の商品名であり、カルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩である。
【0155】
表1における「−」の表記は、該当する成分を使用しなかったか、あるいは該当する操作を行わなかったことを示す。
【0156】
5.6.評価結果
上記表1から明らかなように、実施例1〜7に示した本願発明に係る電極用バインダー組成物を用いて調製された電極用スラリーは、集電体と活物質層との間の結着性が良好であり、クラック率が低く、密着性に優れる電極を与えた。また、これらの電極を具備する蓄電デバイス(リチウムイオン電池)は、放電レート特性が良好であった。
【0157】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0158】
10a・10b・10c…重合体粒子、20a・20b・20c・20d・20e・20f…異形粒子、22・22a・22b・22c・22d・22e・22f…第1の重合体粒子、23…第2の重合体粒子用単量体、24・24a・24b・24c・24d・24e・24f…第2の重合体粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
数平均粒子径が50〜400nmの範囲にある重合体粒子(A)と、
分散媒体(B)と、
を含有し、
前記重合体粒子(A)の長径(Rmax)と短径(Rmin)との比率(Rmax/Rmin)が1.1〜1.5の範囲にあることを特徴とする、電極用バインダー組成物。
【請求項2】
前記重合体粒子(A)が、
含フッ素化合物に由来する繰り返し単位(a)と、
多官能(メタ)アクリル酸エステルに由来する繰り返し単位(b)と、
を少なくとも含有する、請求項1に記載の電極用バインダー組成物。
【請求項3】
前記繰り返し単位(a)を構成する単量体と前記繰り返し単位(b)を構成する単量体のとの量比が質量基準で2:1〜10:1の範囲にある、請求項2に記載の電極用バインダー組成物。
【請求項4】
蓄電デバイスの正極を作製するために用いられる、請求項2または請求項3に記載の電極用バインダー組成物。
【請求項5】
前記重合体粒子(A)が、
不飽和カルボン酸に由来する繰り返し単位(c)と、
多官能(メタ)アクリル酸エステルに由来する繰り返し単位(b)と、
を少なくとも含有する、請求項1に記載の電極用バインダー組成物。
【請求項6】
前記繰り返し単位(c)を構成する単量体と前記繰り返し単位(b)を構成する単量体のとの量比が質量基準で1:1〜1:3の範範囲にある、請求項5に記載の電極用バインダー組成物。
【請求項7】
蓄電デバイスの負極を作製するために用いられる、請求項5又は請求項6に記載の電極用バインダー組成物。
【請求項8】
前記重合体粒子(A)についてJIS K7121に準拠して示差走査熱量測定(DSC)を行ったときに、−30℃〜30℃の温度範囲における吸熱ピークが1つ及び80℃〜150℃の温度範囲における吸熱ピークが1つ観測される、請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載の電極用バインダー組成物。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載の電極用バインダー組成物と、電極活物質と、を含有する電極用スラリー。
【請求項10】
集電体と、前記集電体の表面に請求項9に記載の電極用スラリーを塗布、乾燥して作製された電極活物質層と、を備える蓄電デバイス用電極。
【請求項11】
請求項10に記載の蓄電デバイス用電極を備える蓄電デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−98123(P2013−98123A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242342(P2011−242342)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】