説明

電気二重層キャパシタ及びその製造方法

【課題】自動車用等に用いる電気二重層キャパシタに関し、正極の劣化を抑制して低抵抗化を図ることが可能な電気二重層キャパシタを提供する。
【解決手段】集電体2上に活性炭主体の分極性電極層3を形成した正負一対の電極をその間にセパレータ4を介在させて巻回した素子1と、この素子1を駆動用電解液と共に収容した金属ケース6からなり、上記分極性電極層3が形成された正極電極の表裏面をフッ化アルミニウムで被覆し、かつ、駆動用電解液の電解質アニオンとしてBF3(C25-、PF3(C253-、(CF3SO22-、(C25SO22-、(CF3SO23-、PF6-などのいずれか一つを用いた構成にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は各種電子機器、ハイブリッド自動車や燃料電池車のバックアップ電源用や回生用、あるいは電力貯蔵用等に使用される電気二重層キャパシタ及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、高耐電圧で大容量、しかも急速充放電の信頼性が高いということから電気二重層キャパシタが着目され、多くの分野で使用されている。このような電気二重層キャパシタは正極、負極共に活性炭を主体とする分極性電極を電極として用いたものであり、電気二重層キャパシタとしての耐電圧は、水系電解液を使用すると1.2V、有機系電解液を使用すると2.5〜3.3Vである。電気二重層キャパシタのエネルギーは耐電圧の2乗に比例するため、耐電圧の高い有機系電解液の方が水系電解液より高エネルギーであるが、有機系電解液を使用した電気二重層キャパシタでも、そのエネルギー密度は鉛蓄電池等の二次電池の1/10以下である。
【0003】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1が知られている。
【特許文献1】特開平10−270293号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上記従来の電気二重層キャパシタでは、電圧印加時に、駆動用電解液を構成する電解質アニオンとして用いられるBF4-やPF6-等のF-成分が正極の集電体であるアルミニウムと反応してアルミニウムが溶出し、この溶出したアルミニウムがフッ化アルミニウム(AlF3)として分極性電極層を構成する活性炭の表面に付着して抵抗値が上昇したり、集電体が劣化したりして性能が劣化するという課題があった。
【0005】
本発明はこのような従来の課題を解決し、正極の劣化を抑制して低抵抗化を図ることが可能な電気二重層キャパシタ及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明は、金属箔からなる集電体上に活性炭を主体とした分極性電極層を形成した正負一対の電極を、その間にセパレータを介在させて夫々の電極層が対向した状態で積層または巻回することにより構成された素子と、この素子を駆動用電解液と共に収容したケースからなる電気二重層キャパシタにおいて、上記分極性電極層が形成された正極電極の表裏面をフッ化アルミニウムで被覆し、かつ、上記駆動用電解液の電解質アニオンとしてBF3(C25-、PF3(C253-、(CF3SO22-、(C25SO22-、(CF3SO23-、(化1)、(化2)、PF6-のいずれか一つを用いた構成にしたものである。
【0007】
【化1】

【0008】
【化2】

【0009】
また、この電気二重層キャパシタを製造する方法としては、金属箔からなる集電体上に活性炭を主体とした分極性電極層を形成して正極ならびに陰極電極を作製する工程と、上記電極を正負一対としてその間にセパレータを介在させて夫々の電極層が対向した状態で積層または巻回することにより素子を作製する工程と、この素子を駆動用電解液と共にケース内に収容する工程と、このケースの開口部を封止する工程とを有した電気二重層キャパシタの製造方法において、上記分極性電極層が形成された正極電極の表裏面をフッ素プラズマ処理することによりフッ化アルミニウムで被覆するようにしたものである。
【発明の効果】
【0010】
以上のように本発明による電気二重層キャパシタは、分極性電極層が形成された正極電極の表裏面をフッ化アルミニウムで被覆した構成により、フッ化アルミニウムはフッ素原子とアルミニウム原子の結合が強いため、電圧印加時に正極の集電体であるアルミニウムが電解液中に溶出するのを抑制して電極箔の劣化を防止することができるようになる。また、電解液の電解質アニオンによってアルミニウム製の集電体が不動態化するため、電解液中のフッ素成分がアルミニウムを侵すことなく、これにより抵抗の増加を抑制することができるという効果が得られるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(実施の形態)
以下、実施の形態を用いて、本発明の特に全請求項に記載の発明について説明する。
【0012】
図1は本発明の一実施の形態による電気二重層キャパシタの構成を示した一部切り欠き斜視図であり、図1において、1は素子であり、この素子1はアルミニウム箔からなる集電体2の表裏面に活性炭を主体とした分極性電極層3を形成した正負一対の電極を、その間にセパレータ4を介在させた状態で巻回することにより構成されているものである。
【0013】
5は上記2枚の電極に夫々接続されて引き出されたリード線、6は上記素子1を図示しない駆動用電解液と共に収容したアルミニウム製の金属ケース、7は上記素子1から一対で引き出されたリード線5が貫通する孔を有して上記金属ケース6の開口部に嵌め込まれ、金属ケース6の開口端の加工により封止を行う封口ゴムであり、以下に具体的な実施の形態について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0014】
まず、正極ならびに負極の電極として、厚さ30μmの高純度アルミニウム箔(Al:99.99%以上)を集電体2として用い、塩酸系のエッチング液中で電解エッチングして表面を粗面化した。
【0015】
続いて、平均粒径5μmのフェノール樹脂系活性炭粉末と、導電性付与剤として平均粒径0.05μmのカーボンブラック、カルボキシメチルセルロース(以下、CMCと呼ぶ)を、10:2:1の重量比に混合して溶解した水溶性バインダ溶液を混練機で十分に混練した後、メタノールと水の分散溶媒を少しずつ加え、更に混練して所定の粘度のペーストを作製し、このペーストを上記集電体2の表裏面に塗布し、100℃の大気中で1時間乾燥することにより分極性電極層3を形成した。
【0016】
続いて、この集電体2の表裏面に分極性電極層3が形成された正極電極の表裏面をフッ素プラズマ処理することによりフッ化アルミニウムで被覆した。なお、このフッ素プラズマ処理は、図2(a)のプラズマ処理用チャンバーの断面図と図2(b)のプラズマ発生用チャンバーの断面図に夫々示す装置を用いて行ったものである。
【0017】
すなわち、上記プラズマ処理用チャンバー11とプラズマ発生用チャンバー12はチャンバー接続孔13を介して接続されており、図2(b)において、ガス導入孔14からアルゴン及び四フッ化炭素からなる混合ガスを高周波電源15に接続されている電極16A、16B間に注入することによってプラズマを発生させ、このプラズマをプラズマ導出孔17からプラズマ導入孔18を介してプラズマ処理用チャンバー11へ供給する。
【0018】
図2(a)に示すように、上記プラズマ導入孔18からプラズマが導入されたプラズマ処理用チャンバー11内には上記集電体2の表裏面に分極性電極層3を形成した正極19がロールで用意されており、未処理正極19aとして巻き出し側から送り出された正極19はプラズマ処理された後、巻き取り側にて処理済み正極19bとして巻き取られ、適宜の長さに切断されるものである。
【0019】
また、上記フッ素プラズマ処理は以下の(表1)に示す条件で行ったものであり、このフッ素プラズマ処理前とフッ素プラズマ処理後の正極の断面図を図3(a)、(b)に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
このようにしてフッ素プラズマ処理を行った正極19は、図3(b)に示すように、アルミニウム箔からなる集電体2と活性炭3aに接触している部分のAl23組成の合金層2aは、フッ素プラズマ処理前後で変化はない。一方、集電体2と活性炭3aに囲まれておらず、Al23組成の合金層2aが露出している部分は、フッ素プラズマ処理によりフッ素化され、AlF3の合金層2bへと組成変化を起こす。
【0022】
従って、プラズマ処理を行うことによってアルミニウム成分を予めAlF3の組成にしておくことにより、この電極体を電解液中に含浸し、充放電を行っても、アルミニウムの溶出を抑制することができるようになり、容量ならびに抵抗の劣化を防止することができるものである。
【0023】
すなわち、上記フッ素プラズマ処理前の正極(酸化アルミニウムからなるAl23組成の合金層2aが形成され、さらにその上に活性炭3aを主成分とする分極性電極層3が形成されたもの)は、酸化アルミニウムからなるAl23組成の合金層2aが分極性電極層3と集電体2の間に介在することにより、接触抵抗を低減させる効果があるものの、この正極を電解液中に浸漬して充放電を行うと、Al23組成の合金層2aの一部からアルミニウムが溶出し、電解液中のフッ素成分と反応してAlF3化合物が生成し、活性炭3aの表面に付着する(図3(a))。そのため、活性炭面積が低下し、電気二重層キャパシタの容量が低下するようになり、しかも、上記AlF3化合物は良導体ではないために、反応が進むほど抵抗も上昇していくものであるという問題があるが、これを本実施の形態のようにフッ素プラズマ処理することにより、アルミニウムの溶出を抑制して、容量ならびに抵抗の劣化を防止することができるようになるものである。
【0024】
次に、このようにして得られた正極と負極を2枚1組とし、その間にセパレータを介在させた状態で巻回することにより素子1を得て、この素子1を駆動用電解液と共に金属ケース6内に挿入すると共に、素子1に駆動用電解液を含浸させた。この駆動用電解液としては、電解質カチオンとしてテトラエチルアンモニウムイオンを、電解質アニオンとしてBF3(C25-を、溶媒として高誘電率のポリカーボネートを用い、これに添加剤としてリン酸を1wt%添加したものを用いた。
【0025】
次に、このようにして駆動用電解液と共に金属ケース6内に挿入された素子1から引き出されたリード線5を封口ゴム7に設けられた孔を貫通させ、この封口ゴム7を金属ケース6の開口部に嵌め込んだ後、金属ケース6の開口端近傍を絞り加工とカーリング加工することにより封止を行い、本実施の形態による電気二重層キャパシタを完成させた。
【0026】
このように構成された本実施の形態による電気二重層キャパシタの容量/抵抗特性を測定した結果を比較例としての従来品と比較して(表2)に示す。
【0027】
【表2】

【0028】
(表2)から明らかなように、本実施の形態による電気二重層キャパシタは、分極性電極層が形成された正極電極の表裏面をフッ化アルミニウムで被覆した構成により、フッ化アルミニウムはフッ素原子とアルミニウム原子の結合が強いため、電圧印加時に正極の集電体であるアルミニウムが電解液中に溶出するのを抑制して電極箔の劣化を防止することができるようになる。また、電解液の電解質アニオンならびに添加剤によってアルミニウム製の集電体が不動態化するため、電解液中のフッ素成分がアルミニウムを侵すことなく、これにより抵抗の増加を抑制することができるという格別の効果が得られるものである。
【0029】
なお、本実施の形態においては、上記駆動用電解液の電解質アニオンとしてBF3(C25-を用いた例で説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、PF3(C253-、(CF3SO22-、(C25SO22-、(CF3SO23-、(化3)、(化4)、PF6-のいずれかを用いた場合でも同様の効果が得られるものであり、このような各電解質アニオンを以下に示す(a)〜(d)に分類分けし、夫々の電解質アニオンによる効果についてより詳しく説明する。
【0030】
【化3】

【0031】
【化4】

【0032】
(a)BF3(C25-、PF3(C253-を用いた場合
(b)(CF3SO22-、(C25SO22-、(CF3SO23-を用いた場合
(c)(化3)、(化4)を用いた場合
(d)PF6-を用いた場合
まず、(a)のBF3(C25-、PF3(C253-の電解質アニオンを用いた場合、従来品としてのBF4-アニオンを用いた場合と比較して、加水分解を抑制することによるセル劣化抑制の効果とセル低抵抗化の効果が得られるものである。
【0033】
この理由を説明するため、まず従来例のBF4-アニオンを用いた場合について説明すると、BF4-アニオンを用いた場合の加水分解は、(式1)〜(式4)のように進行し、平衡が右へ進み、H+およびF-の濃度が増大する。
【0034】
【化5】

【0035】
+濃度が増大すると電解液系内の酸性化が進行する。電解液が強酸性になると一般的に電気化学キャパシタや電気二重層キャパシタの電解液中の溶媒として使用される環状カーボネート系溶媒(プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート等)の分解(溶媒分解反応)が進むため、ガス発生や容量劣化および抵抗劣化を引き起こすことになる。なお、この溶媒分解反応は化学反応のため、温度が高いほど反応速度が速くなってセル性能劣化が大きくなる。また、上記(式1)〜(式4)は平衡反応であり、H+濃度により溶液内平衡が変化することは言うまでもない。
【0036】
一方、F-濃度が増大すると主に正極集電体であるアルミニウム表面のアルミニウムや酸化アルミニウムがF-と反応しやすくなり、フッ化アルミニウム(主にAlF、AlF3)に変化する(アルミ腐食反応)。このアルミ腐食反応を(式5)〜(式8)で示す。
【0037】
【化6】

【0038】
この反応は、電気二重層キャパシタセル使用中(主に電圧印加時)に緩やかに反応するため、アルミニウム表面はアルミニウムまたは酸化アルミニウムの比率が徐々に減ると共に、フッ化アルミニウムの比率が徐々に増加する。フッ化アルミニウムは有機電解液中で非常に安定であり、その皮膜が機械的、電気的、または電気化学的に破壊されたとしても電解液中にフッ素源があれば修復される。すなわち、アルミニウム表面を緩やかに安定化(不動態化)できる。また、フッ素とアルミニウムはその結合エネルギーが高いため、フッ化アルミニウムは特に酸もしくはアルカリ溶液中でも非常に安定な化合物を形成する。このためBF4-アニオンは電気化学キャパシタや電気二重層キャパシタに広く利用されている。
【0039】
しかし、このアルミ腐食反応は、電解液溶液内でフッ化アルミニウムを生成し、電極表面またはセパレータ表面に付着することにより、電極活物質表面、セパレータ表面を不導体のフッ化アルミニウムで覆うことになる。このため、電気二重層キャパシタセルの容量劣化、抵抗劣化の要因となっているという課題がある。
【0040】
フッ化アルミニウムの組成は主にAlF、AlF3であるが、AlOF、AlO(OH)、Al(OH)3等の酸素を含有した組成(構造)になっている部分も若干量は残存することは言うまでもない。また、AlOF等が若干量存在していたとしても、主組成がAlF、AlF3であれば良好な不動態皮膜として機能することは言うまでもない。
【0041】
これに対し、本発明によるBF3(C25-を電解質アニオンに用いた場合には、以下の(式9)に示すようになる。
【0042】
【化7】

【0043】
(式9)の反応は、上記(式1)の反応と比較して右辺に進み難い。すなわち、上記(式1)〜(式4)のような加水分解反応が進行しにくいため、H+発生およびF-発生を抑制できる。そのために劣化反応が抑制でき、セル容量劣化、抵抗劣化、ガス発生を抑制できると考えられる。F-発生を抑制できることから、上記(式5)〜(式8)に示すような反応は、BF4-アニオンの場合より進行しにくい。従って、実使用上アルミニウム集電体をあらかじめ主にフッ化アルミニウムにしておくことが必須というわけではないが、長期間の使用においては、アルミニウム集電体をあらかじめ主にフッ化アルミニウムにしておくほうが劣化抑制の効果が若干あるものと考えられる。
【0044】
更に、BF3(C25-アニオンはBF4-アニオンと比較して、電解液粘度が低く電導度が高い傾向があるため、電気二重層キャパシタセルとして低抵抗化の効果も得られる。
【0045】
このように、BF3(C25-アニオンは加水分解抑制による劣化抑制効果に加え、低抵抗化の効果が得られるものである。なお、PF3(C253-を用いた場合も同様の効果が得られるものである。
【0046】
次に、(b)の(CF3SO22-、(C25SO22-、(CF3SO23-の電解質アニオンを用いた場合について、(CF3SO22-を例に用いて説明する。
【0047】
この電解質アニオンを単独で電気二重層キャパシタセルに適用した場合(電極処理やリン酸系添加をしない場合)、セル容量劣化、抵抗劣化が生じるという課題がある。劣化の理由としては、アニオンの加水分解反応によってH++F- が多量に生成するため、上記(式5)〜(式8)に示したアルミ腐食反応が激しく起こるためと推定される。
【0048】
このアニオンの加水分解反応について(式10)〜(式15)を用いて説明する。
【0049】
【化8】

【0050】
これらの式より、加水分解反応が進行すると平衡が右へ進み、F-およびH+の濃度が増大することが分かる。このため、(i)アルミ腐食反応と(ii)溶媒分解反応が進行する。
【0051】
(i)アルミ腐食反応の抑制
アルミ腐食反応を抑制するため、アルミ表面をあらかじめ主にフッ化アルミニウム(AlFまたはAlF3)からなる組成にする電極処理が特に有効である。
【0052】
電極活物質を有する電極に対して電極処理する場合、電極処理方法はドライプロセスとする必要がある。ウエットプロセスでは、反応生成物(主にフッ化アルミニウム等の不導体)が電極活物質表面やセパレータに付着するため、セル容量劣化や抵抗劣化の原因となるためである。このために電極へのプラズマ処理等のドライプロセスでの処理が必要となる。
【0053】
プラズマ処理に使用されるガスは主にCF4等のフッ素原子を含有したものであればよい。また、地球温暖化防止の観点から言うと、C26、c−C48、c−C58、CFCO等の地球温暖化係数がより小さいガスが望ましい。プラズマ生成装置に用いられる電極やRF電源などの装置、RF電力、圧力、ガス組成等のプロセス条件は、FラジカルまたはF-イオンを含むプラズマを適度に生成するものが望ましい。
【0054】
プラズマ安定生成の観点からCF4等のフッ素含有ガスと共にアルゴンガスを併用することが望ましい。プラズマ生成中のアルゴン発光強度(IAr(発光波長:λ=697nm))とフッ素発光強度(IF(発光波長:λ=685nm))の比(IF/IAr)がプラズマ処理実施中に一定になるようなプロセス条件にすることが望ましい。これらは電極処理プロセス中にガス流量、圧力、RF電力等を変化させることでも実現可能である。これにより長尺の電極箔に対して安定した電極処理を連続して行うことが可能となる条件が得られる。
【0055】
電極活物質を有さない電極に対して電極処理する場合(活物質層形成前に集電体アルミニウムのみにフッ化アルミニウムを形成する場合)には、ドライプロセスに限らず、ウエットプロセスを用いてもよい。この場合は、ウエットプロセスでも、先に述べた容量劣化や抵抗劣化を引き起こさないためである。ウエットプロセスで用いる溶液は、フッ酸含有水溶液やBF4-アニオン、やPF6-アニオン含有電解液等、Fを含有する電解液であれば良い。好ましくはBF4-アニオン、やPF6-アニオン含有有機系電解液がある。
【0056】
なお、AlFまたはAlF3がアルミニウム集電体表面、電極表面に形成されていることは、例えばXPS分析(Al2pおよびF1s結合エネルギーの評価)により確認できる。Handbook of X−ray Photospectron Spectroscopy(Perkin−Elmer Corporation) Appendix B. Chemical States Tablesに記載されているXPS分析により得られるAl2p結合エネルギーによると、その値が76.3eVであればAlF3と同定されることがわかる。一方、アルミニウム単体:72.9eV、酸化アルミニウム:74.4〜74.7eV、水酸化アルミニウム:74.0〜74.2eV、であることが分かる。酸化アルミニウムの結合(Al−O結合)よりも強固な結合を形成する元素は、Oの電気陰性度(3.44)よりも高い元素と考えられ、該当するのはF(電気陰性度:3.98)のみである(電気陰性度値はポーリングのもの)。よって、Al−Fの結合がAl−O結合より強固な唯一の結合と推定される。よって、酸化アルミニウムの結合エネルギーよりも高エネルギー側にシフトするためにはAl−F結合が少なくとも形成される必要がある。
【0057】
以上から、XPS分析により得られるAl2p結合エネルギーが74.7eVより大であれば、アルミニウム集電体表面組成はフッ化アルミニウムを有するものであり上述の腐食反応が抑制されるものと考えられる。
【0058】
また本質的にはアルミニウム表面の皮膜のAl2p結合エネルギーが74.7eVより大であれば、フッ化アルミニウムに限らず、電極(アルミニウム集電体)腐食反応は抑制できるものと考えられる。
【0059】
さらに、皮膜組成が主にフッ化アルミニウムということであれば、酸化アルミニウムの結合エネルギー値の上限:74.7eVとAlF3の結合エネルギー値:76.3eVの中心値である75.5eV以上であれば皮膜組成が主にフッ化アルミニウムであると完全に言えるものと考える。
【0060】
すなわち、未使用(エージング後も含む)の電気二重層キャパシタセルを分解して、正極集電体表面をXPS分析した場合、Al2p結合エネルギーが、少なくとも74.7eVより大、好ましくは75.5eV以上であれば、本発明によるものとみなせる。
【0061】
さらに、XPS分析により、F1s結合エネルギーを評価でき、そのエネルギーが686〜687eVにあることにより、フッ化アルミニウムが形成されていることが分かる。
【0062】
なお、上記XPS分析条件とは、以下に示す内容のものである。
装 置 Physical Electronics社 ESCA5400MC
X線アノード Monochromated-AlKα(1486.6eV) 14kV 200W
分析領域 直径0.6mmの円
(ii)溶媒分解反応の抑制
溶媒分解反応を抑制するため、駆動用電解液に用いる添加剤としてリン酸トリメチルを添加するのが効果的である。このメカニズム詳細は明らかではないが、電極活物質表面およびアルミニウム集電体表面に薄い不動態皮膜を形成するため、溶媒分解反応が抑制されるためと推定される。
【0063】
また、上記駆動用電解液に用いる添加剤としては、リン酸の他に、リン酸モノメチル、リン酸ジメチル、リン酸トリメチル、リン酸エステル、亜リン酸、またはそれらの塩、またはホウ酸エステル、ホウ酸、またはその塩を用いることができ、添加量としては0.01〜20wt%の範囲が好ましい。添加量が0.01wt%未満の場合には十分に良好な不動態皮膜が形成できない場合があり、電圧印加時に正極表面が酸性を帯び、アルミニウムを溶解してしまい、電気二重層キャパシタの劣化が起こってしまう。また、20wt%を超えるとアルミニウムの表面に不動態皮膜が必要以上に厚く形成されてしまい、不動態皮膜による抵抗増加を引き起こしてしまうために好ましくないものである。
【0064】
以上のことから、(b)の電解質アニオンを用いた場合、(1)アルミニウム集電体表面をフッ化アルミニウムで被う、(2)リン酸トリメチル系添加剤を使用する、という(1)と(2)の両方または片方の工夫を施すことにより、(b)の電解質アニオンの本来の性能である劣化抑制(耐電圧を向上させる)能力を引き出すことができるものである。
【0065】
次に、(c)の(化3)、(化4)の電解質アニオンを用いた場合について、(化3)を用いた場合を例に説明する。
【0066】
この場合には、上記(b)の電解質アニオンの場合と同じ説明(電極処理によるフッ化アルミニウム形成とリン酸系添加剤の添加による(i)アルミ腐食反応抑制と、(ii)溶媒分解反応抑制)が成り立ち、加えて上記(a)の電解質アニオンで示した加水分解反応抑制効果があるため、上記(a)、(b)の電解質アニオンの場合よりも、更に大きな劣化抑制効果が得られるものである。
【0067】
上記(化3)の加水分解反応を以下の(式16)〜(式19)に示す。
【0068】
【化9】

【0069】
【化10】

【0070】
【化11】

【0071】
【化12】

【0072】
【化13】

【0073】
上記(式16)〜(式19)のように加水分解反応が進むと、H+とF-が増大するため、上記(b)の電解質アニオンの場合と同様に(i)アルミ腐食と(ii)溶媒分解が進む。それらを抑制するために、電極処理によるアルミ集電体表面へのフッ化アルミニウム形成と電解液中へのリン酸系添加剤の添加が効果的である。
【0074】
また、上記(式16)〜(式19)は上記(式10)〜(式15)と比較すると右辺に反応が進行する度合いは少ないと考えられる。これはアニオン構造を環状にしたためと考えられる。従って、上記(化3)、(化4)のような環状アニオンは、加水分解抑制、すなわち上記(a)に分類した電解質アニオンで示した効果も併せ持つと推定できる。
【0075】
以上のことから、(c)の電解質アニオンを用いた場合には、(1)加水分解反応抑制による劣化反応抑制と、(2)アニオンの本来の性能である劣化抑制(耐電圧を向上させる)能力を引き出すことができるという2つの効果を併せ持つものである。
【0076】
なお、上記(化3)、(化4)の構造において炭素末端基は全てフッ素で終端した構造で示したが、一部を水素やハロゲン原子で置き換えても同様の効果が得られるものである。
【0077】
最後に、(d)のPF6-の電解質アニオンを用いた場合について説明すると、この効果は上記(b)の電解質アニオンによる効果と電解液電導度向上によるセル低抵抗化が図れるというものである。
【0078】
PF6-アニオン単独では、BF4-アニオン単独の場合と比較して、耐電圧は高いが、加水分解時にフッ素の解離が多く、アルミニウムの腐食が生じ、セル容量劣化、抵抗劣化が生じるという課題がある。そこで、(1)アルミニウム集電体表面をフッ化アルミニウムで被う、(2)リン酸トリメチル系添加剤を使用する、という(1)と(2)の両方または片方の工夫を施すことにより、(d)のPF6-の電解質アニオンの本来の性能である劣化抑制(耐電圧を向上させる)能力を引き出すことが可能となるものである。
【0079】
さらに、PF6-アニオン自体はサイズが小さく、負電荷が非局在化しており、上記(b)、(c)の電解質アニオンと比較すると、低粘度で高電導度のためにセル低抵抗化を図ることができるという効果を有するものである。
【0080】
また、本発明において、フッ素化処理を施す電極は、主に正極に限定してきたが、広義には、少なくとも正極を選択する必要がある。すなわち、正極のみが最も望ましい形態だが、正極および負極への処理でも劣化抑制効果は見られる。これは、正極よりは少ないものの、負極からもアルミニウムの溶出が少なからずあるためである。ただし、セル耐電圧(印加電圧)を上昇させて試験(使用)した場合は、正極のみにフッ素処理したほうがより効果が高い。この理由は、負極にフッ素化処理を施した場合、負極の還元電位が上昇し、負極側の耐電圧が低くなるためであると考えられる。
【0081】
以上のように、電気二重層キャパシタ、広義には、アルミニウムを主とした集電体を正負極共に用いたキャパシタの場合、少なくとも正極にフッ素処理を行うことによってセル劣化抑制の効果が得られる。ただし、負極のみにフッ素処理を行うことは避ける必要がある。
【0082】
これらの証明には、例えば、先に述べた、XPS分析でのAl2p結合エネルギーの測定により検証できる。初期またはエージング後、または使用済みの電気二重層キャパシタセルを分解し、正負極の集電体アルミニウムについて、先に示した分析条件と同等の条件でXPS分析し、正極のAl2p結合エネルギーと負極のAl2p結合エネルギーに有意差があり、正極のAl2p結合エネルギーより負極のAl2p結合エネルギーのほうが高く、かつ負極のAl2p結合エネルギーが74.7eVより大であれば、本発明によるものとみなせる。
【0083】
また、活性炭表面がフッ素化している証明にも、例えばXPS分析が使用できる。初期またはエージング後、または使用済みの電気二重層キャパシタセルを分解し、正極の活性炭表面の分析を実施し、C−F結合を示す287〜290eV付近にピークの一つが得られれば、本発明によるものとみなせる。
【0084】
以上、本発明による内容についてのXPSによる検出方法の例について説明したが、NMR等の他の分析方法によっても検出できることは言うまでもない。
【0085】
また、本発明に示したアニオン種の同定には、NMR、イオンクロマトグラフィー、FT−IR、GC−MS等の各種分析方法により同定可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明による電気二重層キャパシタ及びその製造方法は、アルミニウムが電解液中に溶出するのを抑制して電極箔の劣化を防止し、抵抗の増加を抑制することができるという効果を有し、特に、ハイブリッド自動車や燃料電池車のバックアップ電源や回生用等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の一実施の形態による電気二重層キャパシタの構成を示した一部切り欠き斜視図
【図2】(a)同実施の形態に用いるプラズマ処理用チャンバーの構成を示した断面図、(b)同プラズマ発生用チャンバーの構成を示した断面図
【図3】(a)同実施の形態によるプラズマ処理前の正極を示した断面図、(b)同プラズマ処理後の正極を示した断面図
【符号の説明】
【0088】
1 素子
2 集電体
2a Al23組成の合金層
2b AlF3組成の合金層
3 分極性電極層
3a 活性炭
3b 導電助剤
3c バインダ
4 セパレータ
5 リード線
6 金属ケース
7 封口ゴム
11 プラズマ処理用チャンバー
12 プラズマ発生用チャンバー
13 チャンバー接続孔
14 ガス導入孔
15 高周波電源
16A、16B 電極
17 プラズマ導出孔
18 プラズマ導入孔
19 正極
19a 未処理正極
19b 処理済み正極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属箔からなる集電体上に活性炭を主体とした分極性電極層を形成した正負一対の電極を、その間にセパレータを介在させて夫々の電極層が対向した状態で積層または巻回することにより構成された素子と、この素子を駆動用電解液と共に収容したケースからなる電気二重層キャパシタにおいて、上記駆動用電解液の電解質アニオンとして、BF3(C25-、PF3(C253-、(CF3SO22-、(C25SO22-、(CF3SO23-、(化1)、(化2)、PF6-のいずれか一つを用いた電気二重層キャパシタ。
【化1】

【化2】

【請求項2】
分極性電極層が形成された正負電極のうち、少なくとも正極の表裏面をフッ化アルミニウムで被覆した請求項1に記載の電気二重層キャパシタ。
【請求項3】
正極の表裏面を被覆したフッ化アルミニウムがフッ素プラズマ処理により形成されたものである請求項2に記載の電気二重層キャパシタ。
【請求項4】
駆動用電解液にリン酸、リン酸塩、リン酸エステルのいずれか、またはホウ酸、ホウ酸塩、ホウ酸エステルのいずれかからなる添加剤を0.01〜20wt%添加した請求項1に記載の電気二重層キャパシタ。
【請求項5】
金属箔からなる集電体上に活性炭を主体とした分極性電極層を形成して正極ならびに負極電極を作製する工程と、上記電極を正負一対としてその間にセパレータを介在させて夫々の電極層が対向した状態で積層または巻回することにより素子を作製する工程と、この素子を駆動用電解液と共にケース内に収容する工程と、このケースの開口部を封止する工程とを有した電気二重層キャパシタの製造方法において、少なくとも上記分極性電極層が形成された正極電極の表裏面をフッ素プラズマ処理することによりフッ化アルミニウムで被覆するようにした電気二重層キャパシタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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