説明

電気二重層キャパシタ用電極の製造装置

【課題】大容量で低抵抗であり、長期耐久性に優れる電気二重層キャパシタ用電極を、歩留まり良く高速で量産できる製造装置を実現する。
【解決手段】グラビアロール4の周面には、その回転軸Xに垂直な方向から見て、回転軸Xに対して斜め方向に沿って溝が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム箔にシート電極を貼り合せる機構を有する電気二重層キャパシタ用電極の製造装置に関するものであり、導電性接着剤を集電体に連続かつ高速で塗工するための装置及び材料の技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気二重層キャパシタは、電解コンデンサに比べて大容量であり、二次電池に比べて高出力であるという特徴から、瞬時電圧低下保障装置の電源、電気自動車やフォークリフトの補助電源等に採用されている。
【0003】
電気二重層キャパシタ用電極は、活性炭等の高比表面積を有する炭素材、カーボンブラック等の導電性フィラー、及びバインダ樹脂を混練した電極合材を集電体に密着して形成される。集電体としては、アルミニウム、ニッケル、ステンレス等の金属箔または金属板が使用される。
【0004】
電気二重層キャパシタ用電極の製造方法として、集電体と前記のような電極合材をシート状に成型してなる分極性電極(これ以降カーボンシートと称する)とを一体化する方法(シート法)と、インク状の電極合材を集電体に塗工(塗布)する方法(塗工法)とに大別される。
【0005】
また、シート法には、導電性接着剤を介してカーボンシートと集電体とを貼り合せる方法と、カーボンシートを集電体に圧着する方法とが有るが、接触抵抗を小さくするために、導電性接着剤を使用する方法が主流となっている。
【0006】
電気二重層キャパシタは、以下の過程を経て製造される。まず、シート法及び塗工法のいずれか1つの方法により製造された電極と、セパレーターとを積層する。または電極とセパレーターとを巻き回す。次に、積層したものあるいは巻き回したものを電解液に含浸させる。そして、電解液に含浸させたものを外装材に収納し、電気二重層キャパシタが完成する。外装材として、アルミラミネートフィルムと金属缶とが有り、電気二重層キャパシタの使用環境に応じて選択される。
【0007】
一般に塗工法により製造される電極は、シート法により製造される電極と比較すると、電極厚みを薄く出来る。また、塗工法により製造される電極は、シート法により製造される電極よりも製造コストが安価である。このため、低抵抗・高出力の電気二重層キャパシタを製造する際、かつ電気二重層キャパシタの量産を要する際に用いると好適である。
【0008】
一方、塗工法により製造される電極は、電極中のカーボン材が脱落し易いという問題があり、これが内部短絡や性能劣化の原因となって製品の長期安定性の観点から信頼性に欠ける。
【0009】
そこで、高エネルギー密度の電気二重層キャパシタを製造する際、または電気二重層キャパシタの長期信頼性を重視する際は、シート法により電極を製造する傾向にある。シート法による電極製造では、カーボン材と樹脂バインダ等のバインダとから構成されるカーボンシートを製造する工程と、導電性接着剤をアルミニウム箔に塗工し、塗工した部分にカーボンシートを貼り合せる工程とからなる。上記貼り合せる工程において、アルミニウム箔上に導電性接着剤を数μmの厚みで薄く塗工することが、電気二重層キャパシタの、大容量化、低抵抗化及び高出力化、さらには低コスト化を実現する上で重要な課題となっている。
【0010】
シート法による電極の製造において、これまでに幾つかの製造方法が提案されているが、その中で、ロールコーターによる導電性接着剤を塗工する方法がある。特許文献1には、シート法における導電性接着剤の塗工装置として、ロールコーターにより製造可能であるとの記載がある。
【0011】
また、特許文献2には、格子状のセルパターンを有するグラビアロールにバックアップロールを設け、ダイレクトグラビア方式を用いて集電体に導電性接着剤を10μm以下の厚みで塗工し、CCDカメラで塗工不良を監視する技術が提案されている。
【0012】
さらに、特許文献3の実施例には、エッチング処理を施した硬質アルミニウム箔に、黒鉛とPTFEからなる導電性接着剤を、グラビアコーターを用いて塗工し、塗工した部分にカーボンシートを貼り合せる方法が記載されている。
【0013】
そして、特許文献4には、柔軟性のある軟質アルミニウム箔を使用すると、それを使用した電極を、積層した場合または巻き回した場合に、電極が破断する事故を起こすことが無いため好ましいと記載されている。
【特許文献1】特開平11−162787号公報(平成11年6月18日公開)
【特許文献2】特許第3811122号(平成18年6月2日登録)
【特許文献3】特開2006−100477号公報(2006年4月13日公開)
【特許文献4】特許第3692735号(平成17年7月1日登録)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述したように、高性能で低コストの電気二重層キャパシタ用の電極を製造する過程で、アルミニウム箔に導電性接着剤を薄膜で連続的に塗工する装置として、グラビアコーターを使用する技術は公知である。また電極の、積層工程あるいは巻回工程において、取り扱いが容易であるとの理由から、軟質アルミニウム箔が好まれて使用されることが知られている。しかし、導電性接着剤を使用する貼り合せ電極を、高速で歩留まり良く量産する技術は、まだ知られていない。
【0015】
電気二重層キャパシタ用電極をシート法により製造する場合、塗工法と比較すると工程数が圧倒的に多く、また、別途導電性接着剤が必要となるためにコスト高となる問題がある。電極の製造コストを低減するため、特許文献1〜特許文献3に記載されているように、薄膜での塗工が可能であり、塗工速度が比較的速いグラビアコーターの適用が試みられてきた。しかしながら、従来のグラビアコーターによる導電性接着剤の塗工には、次のような課題がある。
【0016】
特許文献1では、導電性接着剤の塗工装置について、接着剤の粘度や厚み、塗工温度によりロールコーター等の最適機種を選択できるとある。しかし、実際には導電性接着剤の性状や目的とする塗工厚み、製造環境だけでは、性能に優れた電気二重層キャパシタ用の電極を、歩留まり良く量産する塗工装置を選択することは極めて困難である。
【0017】
特許文献2では、導電性接着剤の塗工方式として、グラビアロールにバックアップロールを設けてロール間で集電箔を固定し、導電性接着剤を印刷するダイレクトグラビア方式が使用されている。しかし、ダイレクトグラビア方式は、貼り合せ基材であるアルミニウム箔に対して、印圧が大きくなり過ぎることがあるため、集電体がグラビアロールとの摩擦により損傷する虞がある。
【0018】
また、ダイレクトグラビア方式では、グラビアロールとバックアップロールとの間でアルミニウム箔に圧力をかけて固定するために、これら2本のロールの間が基点となって、アルミニウム箔に対して引張応力が増大することがあり、集電体が変形したり、破断したりする虞がある。
【0019】
さらに、特許文献3では、黒鉛とPTFEとからなる導電性接着剤を、グラビアコーターで硬質アルミニウム箔に塗工するとの記載がある。しかし、高速で量産する技術には一切触れられておらず、硬質アルミニウム箔とカーボンシートとの密着性も良好ではない。
【0020】
そして、特許文献4のように、柔軟性のある軟質アルミニウム箔を使用した場合、軟質アルミニウム箔には腰がなく、引張強度が小さいため、導電性接着剤を塗工する過程で生じる応力により皺等の変形が発生したり、破断したりする虞がある。
【0021】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、大容量で低抵抗であり、長期耐久性に優れる電気二重層キャパシタ用電極を、歩留まり良く高速で量産できる製造装置を実現する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の電気二重層キャパシタ用電極の製造装置は、上記課題を解決するために、キスコート方式によって導電性接着剤を集電体に塗工するグラビアロールを備え、炭素材である活物質、導電性を付与する導電性フィラー及びバインダを含むカーボンシートを、前記導電性接着剤を介して前記集電体と貼り合せる電気二重層キャパシタ用電極の製造装置において、前記グラビアロールの周面には、その回転軸に垂直な方向から見て、前記回転軸に対して斜め方向に沿って溝が形成されていることを特徴とする。
【0023】
上記発明によれば、前記溝に充填された前記導電性接着剤が、回転する上記グラビアロールの周面において、前記溝の中を絶えず流動し、その流動体が集電体に転写される。この際、前記導電性接着剤中の気泡や凝集物が前記溝の中を流れ、前記溝に沿って滑り出るので、前記集電体と前記グラビアロールとの接触面には、前記導電性接着剤のみが残る。よって、効率よく前記導電性接着剤を塗工できるので、転写効率が向上する。その結果として、導電性接着剤の塗工不良が発生することを防止出来、歩留まりの向上をもたらすことが出来る。従って、大容量で低抵抗の電気二重層キャパシタ用電極を、歩留まり良く高速で量産でき、電極の製造コストを低減させることが可能となる。
【0024】
また、上記集電体と上記導電性接着剤との界面における接着強度を大きくすることが可能となるので、長期耐久性に優れる電気二重層キャパシタ用電極を製造することが可能となる。
【0025】
前記電気二重層キャパシタ用電極の製造装置では、前記集電体は、焼鈍しを施さない硬質アルミニウム箔であってもよい。
【0026】
これにより、前記硬質アルミニウム箔に大きな応力がかかったとしても皺が生じず、また伸びて変形することも無い。この性状により、前記硬質アルミニウム箔を前記集電体として使用した場合に、製造された貼り合せ電極が変形する不良や事故を防止することが出来る。
【0027】
前記いずれかの電気二重層キャパシタ用電極の製造装置では、前記グラビアロールは、前記集電体の走行方向に対して逆向きに回転してもよい。
【0028】
これにより、前記集電体と前記グラビアロールとの間に転写ビードと呼ばれる液溜まりが形成され、前記液溜まりが前記集電体に絶えず前記導電性接着剤を供給し続けるため、塗工面に前記導電性接着剤が塗工されない部分が生じるという不良を防ぐことが出来る。
【発明の効果】
【0029】
本発明の電気二重層キャパシタ用電極の製造装置は、以上のように、グラビアロールの周面には、その回転軸に垂直な方向から見て、前記回転軸に対して斜め方向に沿って溝が形成されているものである。
【0030】
それゆえ、大容量で低抵抗であり、長期耐久性に優れる電気二重層キャパシタ用電極を、歩留まり良く高速で量産できる製造装置を実現するという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明の一実施形態について図1に基づいて説明すれば、以下の通りである。
【0032】
図1は、本発明の実施の形態に係る電気二重層キャパシタ用電極の製造装置1(これ以降、単に製造装置1と称する)を示す図である。製造装置1は、グラビアロール4、インクパン5、ドクターブレード6、ガイドロール7a〜ガイドロール7e、一対のニップロール8a、8b、乾燥機9、第1巻出しロール10、第2巻出しロール11及び巻取りロール12を備えている。
【0033】
製造装置1において、第1巻出しロール10から巻き出される集電体2は、ガイドロール7aにより後述するグラビアコーター13に導かれる。グラビアコーター13を出た集電体2は、ガイドロール7dにより、ニップロール8a、ニップロール8bに導かれる。また、第2巻出しロール11から巻き出されるカーボンシート14は、一対のニップロール8a、8bにより集電体2と貼り合せられる。
【0034】
また、製造装置1において、集電体2に導電性接着剤3を塗工するグラビアコーター13は、導電性接着剤3を入れたインクパン5に、斜線状のセルパターンを周面に有するグラビアロール4を含浸させる。グラビアロール4が、塗工基材となる集電体2の走行方向に対して逆向きに回転しながら、グラビアロール4の周面に余剰に付着した導電性接着剤はドクターブレード6により除去される。
【0035】
その後で、2本のガイドロール7b、7cに支持された集電体2にグラビアロール4が接触(密接)することで、導電性接着剤3をに集電体2に転写する。この時に、グラビアロール4にはバックアップロールを設けず、集電体2としては、硬質アルミニウム箔が使用される。
【0036】
グラビアロール4にバックアップロールを設けない構造は、一般にキスコート方式と呼ばれ、基材に対して極めて低い印圧で塗料を印刷できる、即ち導電性接着剤3を塗工出来ることが特徴である。グラビアコーター13における、キスコート方式を使用して集電体2に導電性接着剤3を塗工する工程の後に、連続的にカーボンシート14を貼り合せる工程に移る。なお、グラビアコーター13の塗工速度は、集電体2の走行速度と等しい。
【0037】
上記貼り合せる工程において、製造装置1に一対のニップロール8a、8bを設けており、ロール間で集電体2とカーボンシート14とを圧延しながら貼り合せて貼り合せ電極15を製造することが望ましい。これにより、導電性接着剤3の内部の気泡、及び導電性接着剤3とカーボンシート14との間の気泡を追い出し、導電性接着剤3及び集電体2、並びに導電性接着剤3及びカーボンシート14の密着性を向上させることが出来る。
【0038】
さらに、第2巻き出しロール11とニップロール8a、8bとの間におけるカーボンシート14の張力を緩和することが出来る。このため、引張強度の小さなカーボンシート14であっても、カーボンシート14を破断させることなく安定して貼り合せを行うことが出来る。
【0039】
また、カーボンシート14は多孔質材であるため、導電性接着剤3はカーボンシート14の表面に含浸され得る。貼り合せ部に設けたニップロール8a、8bにより、カーボンシート14への導電性接着剤3の含浸を促進する効果がある。
【0040】
なお、一対のニップロール8a、8bは必須ではない。例えば通気性等の基材の性状によっては、一対のニップロール8a、8bが無くても、集電体2とカーボンシート14とを良好に貼り合せることが可能である。
【0041】
集電体2とカーボンシート14とを貼り合せた後に、乾燥機9にて貼り合せ電極15を乾燥させる。乾燥温度を50℃から200℃の範囲で選択することにより、乾燥を良好に行うことができる。より好ましい乾燥温度の範囲は、80℃から180℃の範囲である。
【0042】
なお、硬質アルミニウム箔の両面にカーボンシートを貼り合せる場合には、本実施の形態に係る工程を片面ずつ両面行うことによって対応することができる。
【0043】
乾燥機9により乾燥した貼り合せ電極15は、ガイドロール7eにより巻取りロール12に導かれて巻き取られる。
【0044】
グラビアロール4のセルパターンとして、薄膜での塗工に優れる四角錐(ピラミッド型)版や台形(格子型)版を使用すると、導電性接着剤3中に存在する気泡や凝集物が基点となりスジや欠け等の未塗工部が発生しやすい。このため、導電性接着剤3の塗工不良を起こす可能性が高くなる。
【0045】
これに対して、図2に示すような、斜線版を使用し、斜線状のセルパターンを周面に有するグラビアロール4により導電性接着剤3の塗工を行うと、上述した気泡や凝集物が原因となる塗工不良を起こすことはなく、歩留まり良くカーボンシート14の貼り合せを行うことが可能となる。これは、グラビアロール4の周面に、その回転軸Xに垂直な方向から見て、回転軸Xに対して斜め方向に沿って形成された溝に充填された導電性接着剤3が、回転するグラビアロール4の周面において、前記溝の中を絶えず流動し、その流動体が集電体2に転写される。この際、導電性接着剤3中の気泡や凝集物が前記溝の中を流れ、前記溝に沿って滑り出るので、集電体2とグラビアロール4との接触面には、導電性接着剤3のみが残る。よって、効率よく前記導電性接着剤を塗工できるので、転写効率が向上する。その結果として、導電性接着剤3の塗工不良が発生することを防止出来、歩留まりの向上をもたらすことが出来る。
【0046】
製造装置1では、前記溝は螺旋状に彫られていてもよい。
【0047】
また、製造装置1では、前記溝の断面は三角形であってもよい。
【0048】
さらに、製造装置1では、回転軸Xと前記斜め方向とのなす角度は45度であってもよい。
【0049】
これらの構成により、効率よく前記導電性接着剤を塗工できるので、転写効率が向上する。その結果として、導電性接着剤の塗工不良が発生することを防止出来、歩留まりの向上をもたらすことが出来る。
【0050】
本実施の形態で用いるグラビアロール4の斜線版は、図3に示すような断面三角形の溝がロールの回転軸Xに対して45°の角度θで螺旋状に彫られているものを好適に使用することができるが、溝の角度は45°に限定されない。溝の線数は1インチ当り100線から250線を好適に使用することができ、より好ましくは150線から200線である。また、溝の深度は10μmから80μmを好適に使用することができ、より好ましくは30μmから50μmである。
【0051】
また、本実施の形態において、グラビアロール4を、集電体2の走行方向に対して逆向きに回転させる、即ち図4において反時計方向に回転させることにより、低い印圧でも歩留り良く導電性接着剤3をアルミニウム箔である集電体2に塗工し、カーボンシート14と貼り合せた貼り合せ電極15を量産することを可能とした。グラビアロール4を、集電体2の走行方向に対して逆向きに回転させることにより、図4に示すように集電体2とグラビアロール4との間に転写ビードと呼ばれる液溜まり16が形成され、液溜まり16が集電体2に絶えず導電性接着剤3を供給し続けるため、塗工面に導電性接着剤3が塗工されない未塗工部が生じるという不良を防ぐことが出来る。
【0052】
逆に、グラビアロール4を正回転、即ち図4において時計方向に回転させて導電性接着剤3を塗工する場合には、液溜まり16が形成されないため、集電体2に導電性接着剤3が塗工されていない未塗工部を残す不良を起こすことがある。
【0053】
集電体2としては、アルミニウム、銅、チタン、タンタル、ニッケル、ステンレス等の金属箔を使用することが出来る。この中で、とりわけ安価で電気伝導性が良く、電気化学的な耐食性に優れたアルミニウム箔が好適に用いられる。
【0054】
純度が99.9%以上のアルミニウム箔を集電体2として使用すると、表面が劣化しにくく好ましいが、99.8%以上であれば好適に使用することが出来る。また、アルミニウム箔の厚みは、6μmから100μmまでの間で使用でき、好ましくは10μmから50μmまでの間である。
【0055】
さらに、本実施の形態において、集電体2に使用するアルミニウム箔として、表面が平滑な硬質アルミニウム箔の他に、化学エッチング、電解エッチング、サンドブラスト等の粗面化処理を施した硬質アルミニウム箔を使用しても良い。アルミニウム箔の表面が粗面化されていると、導電性接着剤3との密着性がアンカー効果により増大するとともに、接触抵抗が減少するため好ましい。
【0056】
さらに、本実施の形態において、皺が生じたり、伸びたりしない硬質アルミニウム箔を用いることにより、導電性接着剤3を塗工する際に生じる塗工不良によるロスを効果的に低減させるとともに、導電性接着剤3と硬質アルミニウム箔である集電体2との接着強度を向上させることができる。
【0057】
アルミニウム箔には、アルミニウム箔を圧延し、圧延後に加工硬化で硬くなった状態の硬質箔と、硬質箔を焼鈍して軟らかくした軟質箔とがある。本実施の形態において用いるアルミニウム箔は、焼鈍しを施さない硬質箔であって、JIS H 4160で規定されるH18材を使用する。
【0058】
硬質アルミニウム箔は、硬くて弾力に富み、腰が有る。このため、大きな応力がかかったとしても皺が生じず、また伸びて変形することも無い。この性状により、硬質アルミニウム箔を集電体2として使用した場合に、貼り合せ電極15が変形する不良や事故を防止することが出来る。
【0059】
さらに、硬質アルミニウム箔は、本実施の形態において用いるキスコート方式による導電性接着剤3の塗工に適した集電体であることを発明者らは見出した。つまり、弾力のある硬質アルミニウム箔は、応力に対して反発力があるため、バックアップロールの無いキスコート方式のグラビアロール4は、集電体2として使用する硬質アルミニウム箔に対して適度な圧力で密着することが出来る。この作用によって、グラビアロール4と集電体2として使用する硬質アルミニウム箔との密着性が強固で安定する。従って、10m/分以上の高速で塗工する場合においても、集電体2として使用する硬質アルミニウム箔に導電性接着剤3が塗工されない未塗工部が生じる不良を未然に防止することが出来る。
【0060】
さらに、集電体2として表面をエッチング処理したアルミニウム箔を使用する場合に、軟質箔をエッチング処理したものよりも硬質箔をエッチング処理したものを使用した方が導電性接着剤3との密着性はより強固となる。
【0061】
本実施の形態において、交流エッチング処理を行ったアルミニウム箔を使用する場合、アルミニウム箔表面におけるエッチング処理層の深度は、平均して5μmから10μm前後の範囲で好適に使用される。図5に示すように、アルミニウム箔両面のエッチング処理層21にはエッチングピットと呼ばれるごく微細な孔が無数に存在し、2つのエッチング処理層21の間には粗面化されていない残芯層22が残存している。
【0062】
軟質箔の場合にはこの海綿状構造体が硬質箔に比べて軟らかく脆弱であるために、アルミニウム箔と導電性接着剤との接着強度は比較的小さくなる。本実施の形態においては、硬質アルミニウム箔をエッチング処理したものを使用することで、硬質アルミニウム箔と導電性接着剤との接着強度は増大し、結果として製造装置1により製造された電気二重層キャパシタの長期耐久性を向上させることができる。
【0063】
さらに、本実施の形態において用いる導電性接着剤3は、導電性フィラー、結着剤及び分散剤を備えていると好適である。ここで、導電性フィラーとしては、黒鉛やカーボンブラック等のカーボン粒子を用いることが望ましく、これらを2種類以上併用するとさらに望ましい。
【0064】
また、導電性接着剤3に用いる結着剤としては、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリル酸エステル、エチレン酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、ポリブチラール、ニトロセルロース、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンアクリロニトリルゴム、イソプレンゴム、ネオプレンゴム、アクリル酸樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、尿素樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、水ガラス等が用いられる。
【0065】
また、導電性接着剤3に用いる分散剤としては、水が好適に用いられるが、これ以外にもメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等の低級アルコール、ジメチルホルムアミド、キシレン、アセトン等、各種の溶媒を単独又は複数種類混合して用いることが出来る。
【0066】
本実施の形態において用いる導電性接着剤3の粘度は、所望の厚みや、基材表面の性質により適宜変更すれば良い。具体的には、10mPa・s(ミリパスカル秒)から1000mPa・sであることが望ましく、100mPa・sから500mPa・sであるとさらに望ましい。
【0067】
本実施の形態において電気二重層キャパシタ用電極の貼り合せで使用するカーボンシート14は、例えば活性炭等の炭素材である活物質、導電性フィラー、バインダを含む原料組成物をシート状に成形して構成される。
【0068】
活性炭としては、電気二重層キャパシタ用途で使用されているものであれば特に限定されず、粉末状や繊維状の活性炭を使用することができる。活性炭は例えば、やしがら、木、石炭ピッチ、石油ピッチ、メソフェーズピッチ、コークス、フェノール樹脂等の原料からなる炭化物を水蒸気賦活、燐酸賦活、あるいはアルカリ賦活を行うことにより得られるものが使用される。
【0069】
導電性フィラーはカーボンシートの導電性を向上させる目的で配合され、当該技術分野で通常に使用される導電性の微粉末、例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、カーボンナノファイバー、黒鉛、金属粉末の中から1種類、あるいは2種類以上使用することができる。導電性フィラーの配合量は従来公知の量でよく、一般的に1質量%から35質量%の範囲である。導電性フィラーの配合量が前記の範囲よりも多いと、静電容量が少なくなるとともに、導電性フィラーにカーボンブラックを使用したカーボンシートでは、電解液の含浸性が低下する傾向にある。
【0070】
バインダは、活性炭と導電性フィラーを結着するために使用されるものであり、本発明に好適に使用可能なバインダの例として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、クロロトリフルオロエチレン重合体、フッ化ビニリデン重合体、テトラフルオロエチレン−フルオロアルキルビニルエーテル共重合体等のフッ素樹脂が挙げられるが、特にこれらに限定されない。
【0071】
本実施の形態で使用されるカーボンシート14は、当該技術分野で公知の方法により製造することができる。例えば、活性炭、導電性フィラー、バインダを分散し、水、アルコールやオイル等の分散媒を加えて湿式混練したものを、押出し成型あるいはロール成型でロッド状やシート状に予備成型した後、所望の厚みにロール圧延することにより得ることができる。また、前記材料に分散媒を加えずに、乾式で分散・混練したものを、ロール成形することによっても得ることができる。これらの方法は、所望のカーボンシートの配合、密度、厚みによって選択される。
【0072】
〔実施例〕
まず、本実施例におけるカーボンシート14及び導電性接着剤3は、以下に示す工程により得られる。
【0073】
〔カーボンシート〕
活性炭粉末(比表面積:2000m/g、平均粒径:8μm):75質量部、アセチレンブラック(1次粒子平均粒径:35nm):15質量部、PTFE粉末:10質量部からなる混合物に、エタノール:100質量部を加えて混練し、ロール圧延を施して、幅:150mm、厚み:150μmで長尺のカーボンシート14を得た。
【0074】
〔導電性接着剤〕
天然鱗片状黒鉛(平均粒径:4μm):10質量部、アセチレンブラック(平均粒径:1次粒子35nm):10質量部、ポリビニルアルコール:3質量部、カルボキシメチルセルロース:3質量部、精製水:74質量部を混合・攪拌して導電性接着剤3を得た。
【0075】
以下に示す比較例1から4、実施例1から3で得られた電気二重層キャパシタ用電極を160℃で24時間真空乾燥を行うことにより、導電性接着剤中に残留している水分を除去した。その後、アルミニウム箔とカーボンシートとの貼り合せ電極の密着性試験を行った。また、アルミニウム箔と導電性接着剤との密着性試験を行うための試料として、比較例1から4、実施例1から3において、アルミニウム箔に導電性接着剤を塗工した後にカーボンシートを貼り合せず、前記と同様の乾燥を行うことにより試験試料を得た。
【0076】
〔比較例1〕
平均エッチング深度が5μmで両面を交流エッチング処理された厚み40μmの軟質アルミニウム箔に対して、バックアップロールを設けずに、四角錐のセルパターンを有するグラビアロールをアルミニウム箔の走行方向に対して逆方向に回転させた状態で、導電性接着剤3を塗工した。このときのグラビアロールの塗工速度を2m/分とした。その後、カーボンシートを貼り合せて80℃に設定した乾燥機で乾燥させることにより、電気二重層キャパシタ用電極を得た。
【0077】
〔比較例2〕
グラビアロールのセルパターンを斜線としたこと以外は比較例1と同様にして貼り合せ電極を得た。
【0078】
〔比較例3〕
グラビアコーターの塗工速度を5m/分としたこと以外は比較例2と同様にして貼り合せ電極を得た。
【0079】
〔比較例4〕
グラビアコーターの塗工速度を10m/分としたこと以外は比較例2と同様にして貼り合せ電極を得た。
【0080】
〔実施例1〕
平均エッチング深度が5μmで両面を交流エッチング処理された厚み40μmの硬質アルミニウム箔を集電体2として使用し、上記硬質アルミニウム箔に対して、バックアップロールを設けずに、斜線のセルパターンを有するグラビアロール4をアルミニウム箔の走行方向に対して逆方向に回転させた状態で、導電性接着剤3を塗工した。この時のグラビアロール4の塗工速度を2m/分とした。その後、カーボンシート14を貼り合せて80℃に設定した乾燥機9で乾燥させることにより、電気二重層キャパシタ用電極である貼り合せ15を得た。
【0081】
〔実施例2〕
グラビコーター13の塗工速度を5m/分としたこと以外は実施例1と同様にして貼り合せ電極を得た。
【0082】
〔実施例3〕
グラビコーター13の塗工速度を10m/分としたこと以外は実施例1と同様にして貼り合せ電極を得た。
【0083】
得られた試験試料に対して、以下に示す3つの評価を行った。結果を表1に示す。
【0084】
【表1】

【0085】
〔導電性接着剤の塗工状態〕
比較例1から4、実施例1から3において、アルミニウム箔に対する導電性接着剤の塗工状態を50mに渡り観察し、次の不良モードの基準に従って評価した。
【0086】
即ち、導電性接着剤の塗工面において、未塗工部が全く無い場合は良好、図6に示すように小さな未塗工部20が発生する場合は不良、大きな未塗工部が断続的に発生する場合は塗工不能と評価した。
【0087】
〔アルミニウム箔と導電性接着剤との密着性〕
テープ剥離試験により密着性を評価した。幅10mm、長さ100mmのアルミニウム箔に導電性接着剤を塗工したのみの試料において、導電性接着剤層の表面に、幅15mm、長さ120mm粘着テープ(住友スリーエム社製「スコッチテープ」(登録商標))を導電性接着剤と粘着テープの間の気泡が抜ける程度に十分に指で押し付けた後、粘着テープを引き剥がして、密着性を次の式に従って評価した。
密着性(%)=引き剥がし後の導電性接着剤層の重量/引き剥がし前の導電性接着剤層の重量×100
〔アルミニウム箔とカーボンシートとの接着力〕
テープ剥離試験により接着力を評価した。幅10mm、長さ100mmのアルミニウム箔(集電体2)とカーボンシート14との貼り合せ電極15の試料において、カーボンシート14の表面に、幅15mm、長さ120mmの粘着テープ(住友スリーエム社製「スコッチテープ」(登録商標))をカーボンシート14と粘着テープの間の気泡が抜ける程度に十分に指で押し付けた後、粘着テープを引き剥がして、カーボンシート部分の剥離状態を観察し、接着力を次の破壊モードの基準に従って評価した。
【0088】
即ち、硬化した導電性接着剤3の層が例えば図7の矢印Aにおいて破壊する場合は凝集破壊、導電性接着剤3の層とアルミニウム箔との境界面(図7の矢印B)、あるいは導電性接着剤3の層とカーボンシート14との境界面(図7の矢印C)が破壊する場合は接着破壊、カーボンシート14そのものが例えば図7の矢印Dにおいて破壊する場合は基材破壊と評価した。
【0089】
このような破壊モードの基準において、必ず起こる基材破壊に加えて、凝集破壊が生じた場合は導電性接着剤そのものの強度が十分でなく、接着破壊が生じた場合は貼り合せ基材の性状が適当ではないか、あるいは貼り合せ工程が不適切であることになる。
【0090】
〔結果〕
表1の結果から、実施例1から3の電気二重層キャパシタ用電極は、比較例1から4の電気二重層キャパシタ用電極に比べて、高い生産性を示し、接着強度が良好であることがわかる。つまり、本発明の電気二重層キャパシタ用電極の製造装置によって製造した電極を使用して電気二重層キャパシタを構成すれば、より低い製造コストで、長期耐久性に優れたものとすることができる。
【0091】
以上に示した実施形態または実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、本発明の精神と特許請求事項の範囲内で、いろいろと変更して実施することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の電気二重層キャパシタ用電極の製造装置は、大容量で低抵抗の電気二重層キャパシタ用電極を、歩留まり良く高速で量産できるので、瞬時電圧低下保障装置の電源、電気自動車やフォークリフトの補助電源等に用いる電気二重層キャパシタの、電気二重層キャパシタ用電極の製造に好適に用いることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の実施の形態に係る電気二重層キャパシタ用電極の製造装置を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るグラビアロールのセルパターンとして用いる斜線版を示す図である。
【図3】図2のグラビアロールの周面に彫られた三角形の溝を示す斜視図である。
【図4】グラビアロールを、集電体の走行方向に対して逆向きに回転させることを示す図である。
【図5】アルミニウム箔両面のエッチング処理層にエッチングピットと呼ばれるごく微細な孔が無数に存在し、2つのエッチング処理層の間には粗面化されていないアルミニウムが残芯層として残存していることを示すアルミニウム箔の断面図である。
【図6】集電体に導電性接着剤を塗工した場合に、未塗工部が生じることを示す図である。
【図7】貼り合せ電極テープ剥離試験を行う貼り合せ電極の断面図である。
【符号の説明】
【0094】
1 製造装置
2 集電体
3 導電性接着剤
4 グラビアロール
5 インクパン
6 ドクターブレード
7a〜7e ガイドロール
8a、8b ニップロール
9 乾燥機
10 第1巻出しロール
11 第2巻出しロール
12 巻取りロール
13 グラビアコーター
14 カーボンシート
15 貼り合せ電極
20 未塗工部
21 エッチング処理層
22 残芯層
A〜D 矢印
X 回転軸
θ 角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キスコート方式によって導電性接着剤を集電体に塗工するグラビアロールを備え、
炭素材である活物質、導電性を付与する導電性フィラー及びバインダを含むカーボンシートを、前記導電性接着剤を介して前記集電体と貼り合せる電気二重層キャパシタ用電極の製造装置において、
前記グラビアロールの周面には、その回転軸に垂直な方向から見て、前記回転軸に対して斜め方向に沿って溝が形成されていることを特徴とする電気二重層キャパシタ用電極の製造装置。
【請求項2】
前記集電体は、焼鈍しを施さない硬質アルミニウム箔であることを特徴とする請求項1に記載の電気二重層キャパシタ用電極の製造装置。
【請求項3】
前記グラビアロールは、前記集電体の走行方向に対して逆向きに回転することを特徴とする請求項1または2に記載の電気二重層キャパシタ用電極の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−21203(P2010−21203A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−178166(P2008−178166)
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【出願人】(000003942)日新電機株式会社 (328)
【Fターム(参考)】