説明

電気生理測定デバイス

【課題】本発明は、極性を持った検体の極性に応じた電気生理測定の実現及び、同一の検体の異なる領域を同時に電気生理測定することを目的とする。
【解決手段】この目的を達成するため、本発明の電気生理測定デバイスは検体を含む溶液を流すための内壁を有する流路溝4が形成された基板1と、この流路溝4に検体を捕捉させるための検体捕捉部6と、検体の電気生理現象を測定するためにこの流路溝4に検体を含まない溶液を連通させる導通孔5とを備え、前記検体捕捉部6に、流路溝4に導入された検体自身のもつ極性を配向させるように当該検体を捕捉させ、この検体の極性に応じて電気生理測定をすることとした。これにより本発明は、細胞の細胞膜上の極性に応じて細胞電気生理測定を効率良く計測することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の電気生理的活動の測定に用いられる電気生理測定デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電気生理学におけるパッチクランプ法は、細胞膜に存在するイオンチャンネルを測定する方法として知られており、このパッチクランプ法によってイオンチャンネルの様々な機能が解明されてきた。そして、イオンチャンネルの働きは細胞学において重要な関心事であり、これは薬剤の開発にも応用されている。
【0003】
しかし、一方でパッチクランプ法は測定技術に微細なマイクロピペットを1個の細胞に高い精度で挿入するという極めて熟達した操作を必要としているため、熟練作業者でさえ多くの測定をこなせないことがある。従って高いスループットで測定を必要とする場合には適切な方法でない。
【0004】
このため、微細加工技術を利用した基板型プローブの開発がなされており、これらは個々の細胞についてマイクロピペットの挿入を必要としない自動化システムに適している。
【0005】
例えば、プローブを細胞またはその部分の表面近くに制御し、プローブを該表面に垂直になるように表面に接触させるというパッチクランプ法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、基質上または内に形成された管状通路内における電気浸透流を用いて細胞を測定位置に自動的に配置するための手段を備えたオートパッチ方式が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2004−528553号公報
【特許文献2】特表2004−510980号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】The Journal of Biological Chemistry Vol.274, No13, p8375−8378、1999
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の構成によるオートパッチ方式の電気生理測定デバイスは極性を持っていない均質な方向性を有した細胞の測定に特化しており、被測定細胞が該デバイスに捕捉される方向を制御することができないため、極性を持った細胞の細胞膜上の極性に応じた電気生理測定することができなかった。そのため、オートパッチ方式の電気生理測定デバイスにおいては、細胞の細胞膜上の極性に応じた電気生理測定をすることが課題となっていた。
【0010】
また、細胞が捕捉される細孔は電気的な計測を行う際の電気浸透流の流路も兼ねており、被測定細胞一つに対して1カ所の電気生理測定することしかできないため、一回の測定で得られる情報が少なかった。そのため、より高度な計測を可能にするために、同一の被測定細胞の異なる細胞膜領域を同時に電気生理測定できるようにするという課題も有していた。
【0011】
本発明は、オートパッチ方式の電気生理測定デバイスの有する前記従来の課題を解決するもので、極性を持った細胞の細胞膜上の極性に応じた電気生理測定を実現できる電気生理測定デバイス及びこれを用いた測定方法を提供することを目的とする。
【0012】
また、一回の測定で同一の被測定細胞の異なる細胞膜領域を同時に電気生理測定することができる電気生理測定デバイス及びこれを用いた測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するための本発明は、捕捉される細胞などの検体の方向性を制御できるようにし、当該検体の有する極性が常に電気生理測定デバイスに対して一定の配向性を持つように構成したものである。
【0014】
また、検体を電気生理測定するための導通孔が同一細胞に複数結合されるように構成したものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の電気生理測定デバイスによれば、極性を持った検体の極性に応じた電気生理測定をすることができ、同一の検体の異なる領域を同時に電気生理測定することができる電気生理測定デバイス及びこれを用いた測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(A)本発明の実施の形態1における電気生理測定デバイスの構成を示す上面図、(B)本発明の実施の形態1における電気生理測定デバイスの構成を示す横断面図
【図2】極性細胞の横面図
【図3】(A)本発明の実施の形態1における極性細胞を捕捉した電気生理測定デバイスの横断面図、(B)本発明の実施の形態1における極性細胞の頭頂部細胞膜を計測している電気生理測定デバイスの模式図
【図4】本発明の実施の形態1における電気生理測定デバイスを用いた測定方法を示す図
【図5】本発明の実施の形態1における電気生理測定デバイスの作製方法を示す図
【図6】本発明の実施の形態2における極性細胞の頭頂部細胞膜を計測している電気生理測定デバイスの模式図
【図7】本発明の実施の形態3における電気生理測定デバイスの構成を示す横断面図
【図8】本発明の実施の形態4における電気生理測定デバイスの構成を示す横断面図
【図9】本発明の実施の形態4における神経細胞を測定している電気生理測定デバイスを示す横断面図
【図10】本発明の実施の形態4における細胞膜結合因子を用いた電気生理測定デバイスの構成を示す横断面図
【図11】本発明の実施の形態4における生体高分子を用いた電気生理測定デバイスの構成を示す横断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本発明はこれら実施の形態に限定されるものではない。
【0018】
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態1における電気生理測定デバイスおよびこれを用いた測定方法について図面を用いて説明する。
【0019】
図1(A)は本発明の実施の形態1における電気生理測定デバイスの構成を示す上面図、図1(B)は同横断面図、図2は極性を有した極性細胞の横面図、図3(A)は極性細胞を捕捉した電気生理測定デバイスの横断面図、図3(B)は極性細胞の頭頂部細胞膜を計測している電気生理測定デバイスの模式図、図4は電気生理測定デバイスを用いた測定方法を示す図である。
【0020】
また、図5は上記電気生理測定デバイスの作製方法を説明する図である。
【0021】
図1(A)において、流路基板1の上面には検体を導入するための検体導入口2と検体を導出する検体導出口3がそれぞれ検体を含む溶液を流すための流路溝4を挟んで対極に設けられており、検体導入口2と検体導出口3は流路基板1の外部につながっており流路溝4内に検体や検体を含む溶液が流入されるように構成されている。流路溝4にはそれぞれ独立した電気測定するための導通孔5(導通孔5a〜5f)が設けられており、流路溝4内の側面に開口している。
【0022】
図1(B)において、流路溝4の底面には検体捕捉部6が設けられており、例えばコラーゲンやフィブロネクチンやラミニンなどの細胞外マトリックスの構成成分がコーティングしてあり、細胞等の検体を捕捉することができるように構成されている。
【0023】
ここで、流路基板1はたとえばガラスやシリコン、熱酸化SiO2などの無機素材で形成することができ、また、PDMSやポリプロピレン、またはポリカーボネートなどの樹脂で成形することもでき、常温25度における吸水率が1%未満のものであればいずれのものも使用することができる。
【0024】
なお、例えば流路基板1としてシリコンを使用した場合は、フォトリソグラフィー法やドライエッチング法を用いることで、流路溝4や導通孔5aの形状を精度よく成形することができる。
【0025】
検体導入口2と検体導出口3にはテフロン(登録商標)やシリコン製のチューブでシリンジポンプなどの送液装置に連結することによって、所望の検体を一定流速で導入することができ、例えば、電気生理測定に用いる測定用緩衝液である生理食塩水やタイロード液を導入することができる。検体導入口2と検体導出口3は通常、直径100μm以上の円形に形成され、流路溝4の端部に設けられるが、細胞電気生理測定に供する動物細胞を導入させることができ、かつ動物細胞以外の大きな供雑物の侵入を防ぐことができる直径を選択することができる。また、流路溝4への流入をスムーズに行うために、流路基板1の側面部に設け流路溝4に対して平行になるように設計することもできる。
【0026】
導通孔5a〜5fは流路溝4の内壁に対して垂直に設けられており、流路溝4内の開口部は直径100nm〜10μmの円形に開口している。また、前記開口部は流路溝4底部から高さ5μm〜500μmの高さに設けられており、検体の大きさに応じて任意の高さを選択することができる。導通孔5a〜5f内には検体を含まない細胞電気生理測定を行うための緩衝液である生理食塩水や対ロード液が満たされており、外部に設けた電極に連通させることができる。
【0027】
検体捕捉部6は流路溝4の底部にコーティングされたコラーゲンやラミニンなどの生体高分子で構成されるものであるが、あらかじめ流路溝4底部にコーティングしておくこともできるが、細胞電気生理測定に直前にこれらの生体高分子物質を含んだ溶液を検体導入口2より滴下し、検体捕捉部6を細胞電気生理測定の直前に形成させることもできる。
【0028】
図2において、極性細胞7は上部に頭頂部細胞膜8と下部に基底部細胞膜9を有しており、極性細胞7同士は密着結合10によって結合保持されている。頭頂部細胞膜8上と基底部細胞膜9上には互いに異なる膜蛋白質が局在しており、機能局在することによって生命活動を営んでいる。
【0029】
例えば非特許文献1には頭頂部細胞膜8上にCaイオンの流入をつかさどるCaチャネルが局在しており、小腸細胞膜で行われるCaイオンの輸送に関与していることが報告されている。細胞膜上の膜蛋白質は通常細胞膜上を自由に流動するが、密着結合10が膜蛋白質の流動を阻害することによって、頭頂部細胞膜8上の膜蛋白質は頭頂部細胞膜8上にとどまり、基底部細胞膜9上には流動しないように制御されていると考えられている。
【0030】
このように、生体組織の中の細胞では、蛋白質の局在の勾配を維持することによって蛋白質がつかさどる機能を局在化させ、分子間の相互作用を空間的に制御し高次機能を発現していると考えられている。
【0031】
蛋白質の機能局在に伴う細胞応答は細胞生物学的研究においてきわめて高い関心事として扱われるばかりでなく、薬剤効果を正確に判定するためにはこのように蛋白質が機能局在して極性を有した状態の細胞を用いて判定する必要がある。
【0032】
これまでは、生物個体を解体し分断された組織片からしか極性細胞7を入手することができなかったため、品質の安定した極性細胞7を入手することが困難であった。しかしながら、近年ES細胞やiPS細胞を出発材料として、最終分化した極性細胞7を安定して入手することができるようになってきており、極性細胞7を被測定細胞とする研究が注目を集めてきている。
【0033】
特に薬剤開発においては、新薬候補となる薬剤の効果を非極性細胞を用いてスクリーニングした後に動物実験やそれに続く臨床試験に供していたため、開発の初期段階では、人体への副作用を予測することが難しく開発効率が非常に悪いものになっていた。
【0034】
このような最終分化細胞を薬剤候補化合物のスクリーニングに用いることができれば、より生体に近い状態の細胞を用いて薬理効果を判定することが可能になり、また、重篤な副作用となりうる現象も開発初期に発見することができるようになるため、薬剤開発における高いニーズとなっている。
【0035】
次に図3を用いて極性細胞7の頭頂部細胞膜8の電気生理測定を行う方法について説明する。図3(A)のように、はじめに極性細胞7を検体導入口2から流路溝4内に培養液あるいは電気生理測定用の緩衝液とともに導入し、極性細胞7の基底部細胞膜9を検体捕捉部6に捕捉させる。例えば極性細胞7としてはMDCK細胞などの上皮系細胞を用いることができ、この場合、基底部細胞膜9はコラーゲンに親和性を示すことが知られていることから、検体捕捉部6としてコラーゲンをコーティングすることができる。基底部細胞膜9が流路溝4の底面に配向することによって頭頂部細胞膜8が上方向に配向されることとなる。
【0036】
図3(B)のように、次に導通孔5fに陰圧を外部より印加することによって、頭頂部細胞膜8を導通孔5fの開口部に密着させる。そして、検体導入口2と導通孔5fとの間で外部電極を用いて回路を形成し、所望の電圧を印加することによって頭頂部細胞膜8上の電位依存性イオンチャネルによるイオン流を測定することが可能となる。なお、導通孔5側の外部電極は、個々の導通孔5内部に形成されていても良い。
【0037】
また、流路溝4内あるいは導通孔5f内に候補となる薬剤化合物を内在させておくことによって、薬剤候補化合物の極性細胞7への作用を頭頂部細胞膜8上のイオンチャネルのイオン流として測定することができるようになる。
【0038】
このように、検体捕捉部6と離れた部位に細胞電気生理用の開口部を設け、検体捕捉部6で極性細胞7の極性に応じた配向を制御することによって、極性に応じた細胞電気生理測定をすることが可能になる。
【0039】
なお、ここでは、極性細胞7を細胞電気生理測定時に流路溝4内に導入する方法を示したが、極性を有していない未分化細胞を流路溝4内に導入し、培養を行うことによって極性細胞を分化誘導し、流路溝4内で極性を形成させることもできる。例えば、HT−29−18細胞のような上皮系細胞を流路溝4内に導入し、ガラクトース培地に馴化させることによって極性細胞7に分化誘導し、HT−29−18細胞分化誘導後の細胞を電気生理測定に供することもできる。
【0040】
次に図4を用いて電気生理測定デバイスを用いた測定方法を説明する。流路基板1は外枠11内に固定されており、流路基板1内には極性細胞7と第一の測定液12が満たされている。前記極性細胞7は検体捕捉部6に捕捉固定されており、頭頂部細胞膜が導通孔5aあるいは導通孔5fの近傍に提示されている。また、外枠11内には第二の測定液13が充填されており、充填された第二の測定液13は導通孔5aあるいは導通孔5f内にも到達している。第一の測定液12に接するように第一の電極14が配置され、第二の測定液13に接するように第二の電極15が配置されている。
【0041】
上記構成において、外枠11内に陰圧をかけることによって極性細胞7の細胞膜が導通孔5aあるいは導通孔5fに吸引捕捉される。このとき第一の電極14と第二の電極15間では導通抵抗が発生し、細胞膜によって第一の測定液12と第二の測定液13が遮断された場合は通常500MΩ〜10GΩの高い抵抗値が得られるようになる。
【0042】
続いて、第一の電極14と第二の電極15の間に10mV程度の固定電圧を印加すると、極性細胞7上の細胞膜上のイオンチャネルを流れるイオン流を電流値として計測することができる。
【0043】
ここで、外枠11は例えばポリカーボネートやポリスチレンなどの樹脂で成形されたものであって、流路基板1と一体成型することもできる。第一の測定外液12および第二の測定液13としては例えば生理食塩水やタイロード液などを用いることができるが、これに種々の薬剤の例えばイオンチャネルのアゴニストやアンタゴニストの候補となる化合物を混合し、測定に用いることができる。
【0044】
また、第一の電極14および第二の電極15としては、例えば銀−塩化銀電極などを用いることができる。
【0045】
上記のように導通孔5が水平に配置されていることによって導通孔5内に気泡が入ることを防ぐことができ、気泡による導通不良を抑制することができ、また、極性細胞7の頭頂部細胞膜8を選択的に測定することができるようになる。
【0046】
次に図5を用いて電気生理測定デバイスの作製方法を説明する。流路基板1は上部の流路基板1aと下部の流路基板1bを張り合わせることによって形成することができる。流路基板1aは例えばシリコン基板を用いてフォトリソグラフィー法やドライエッチング法を用いて検体導入口2や検体導出口3あるいは流路溝4や導通孔5を精度高く成形することができ、また、ポリカーボネートなどの樹脂を材料として金型成型することもできる。
【0047】
同様に流路基板1bを作製した後に、流路溝4が成型された面同士を接合することで作成することができる。ここで接合方法として、例えば、流路基板1としてガラスやシリコンを用いている場合は、熱酸化による融着接合を用いることもでき、また、接着剤を塗布して接触面を接合した後に接着剤を硬化させる方法をとることもできる。
【0048】
なお、検体として例えば細胞以外の人工的に作製したリポソームを用いて電気生理測定することができ、この場合、前記人工リポソームに目的の蛋白質として例えばイオンチャネルなどの脂質膜の内外でイオン流を発生させる蛋白質を埋め込んで電気生理測定に供することによって、人工膜に埋め込んだイオンチャネルの電気生理的特性を計測することができる。
【0049】
上記構成において、極性を有する極性細胞7をその極性に応じて流路溝4内において一定方向に配向させるとともに、流路溝4内に設けた導通孔5の開口部付近に頭頂部細胞膜8を提示することができるようになる。そして、導通孔5で頭頂部細胞膜8を捕捉し、シールを形成させ、外部電極を用いて導通孔5と流路溝4内で電気回路を形成することによって、頭頂部細胞膜8の細胞電気生理測定を効率よく計測することができるようになる。
【0050】
よって極性を持った細胞の細胞膜上の極性に応じて電気生理測定を効率良く計測することができる。
【0051】
(実施の形態2)
以下、本発明の実施の形態2における電気生理測定デバイスおよびこれを用いた測定方法について図面を用いて説明する。なお、実施の形態1で説明した箇所と同じ箇所については説明を省略する。実施の形態1と異なる点は密着結合捕捉部16を構成している点である。
【0052】
図6は本発明の実施の形態2における電気生理測定デバイスを示す模式図である。流路溝4の内壁の導通孔5fの開口部と検体捕捉部6の間に密着結合捕捉部16が構成されており、極性細胞7の頭頂部細胞膜8と基底部細胞膜9の間の側面部が前記密着結合捕捉部16に密着するように結合している。密着結合捕捉部16は流路溝4内に設けられた段差構造の上に構成されており、流路基板1bを成形する際に例えばフォトリソグラフィー法やドライエッチング法を用いて成形した段差構造の上に密着結合捕捉部16を構成する蛋白質などをコーティングすることによって作製することができる。前記段差構造は流路溝4底部から5μm〜500μmの高さに設けられ、検体の形状に応じて任意の高さのものを選択することができる。
【0053】
例えば、流路基板1としてシリコンを用いている場合は、段差構造の上面にスパッタリング法によって金薄膜を形成し、作製された金薄膜上にチオール基を有したアルカン分子を反応させ単分子膜を作製し、単分子膜の持つ末端カルボキシル基と蛋白質の持つアミノ基をカップリング反応させることによって蛋白質をコーティングすることができる。
【0054】
コーティングさせる蛋白質としては、例えばコネクソン、クローディン、インテグリン、カドヘリンなどの接着因子を選択することができる。カップリング方法としては、例えば単分子膜が成膜された流路基板1を実施の形態1で示したような方法で接合した後に、流路溝4内に水溶性カルボジイミドとNヒドロキシコハク酸イミドの混合液を導入し、カルボキシル基末端を活性化した後、選択された上記接着因子溶液を流路溝4内に導入し、カップリング反応させ、余分な接着因子を洗浄によって洗い流すことによって行うことができる。
【0055】
上記構成において、極性細胞7は検体捕捉部6と密着結合捕捉部16の2箇所で流路溝4内に捕捉されることで正確な配向性を持つこととなり、頭頂部細胞膜8を導通孔5の開口部付近に提示しやすくなる。また、密着結合捕捉部16と密着結合10との密着を境に頭頂部細胞膜8と基底部細胞膜9が分断され、頭頂部細胞膜8の細胞膜成分が維持されるため、頭頂部細胞膜8の計測をより正確に行うことができるようになる。
【0056】
このようにして、実施の形態1で示したような方法で頭頂部細胞膜8の電気生理測定を行うことができるようになる。
【0057】
(実施の形態3)
以下、本発明の実施の形態3における電気生理測定デバイスおよびこれを用いた測定方法について図面を用いて説明する。
【0058】
図7は本発明の実施の形態3における電気生理測定デバイスの構成を示す横断面図である。なお、実施の形態1で説明した箇所と同じ箇所については説明を省略する。実施の形態1と異なる点は導通孔5dが検体捕捉部6上に構成されている点である。
【0059】
図7において、流路溝4の底面に導通孔5dが開口するように設けられている。導通孔5dは流路基板1の底面に設けられており、導通孔5aおよび導通孔5fが開口している面とは異なる面に設けられている。また、流路溝4の幅は極性細胞7が、1細胞分が収納される幅で成形されており、10μm〜1000μmまでの細胞電気生理測定に供する細胞の大きさに合わせて任意の長さに設計することができる。一般的な上皮系の細胞の高さは10μm〜20μmと小さく、反対に大きな細胞では動物卵母細胞で直径は1mmに到達するものもあるが、被測定細胞の大きさや形状に応じて流路溝4の幅を設計することによって、流路溝4内に被測定細胞を一列に並べることができる。一列に被測定細胞を並べることによって、流路溝4の左右両端に設けた導通孔5で細胞電気生理測定を同時に確実に行うことができ、同一細胞から同時に記録を複数ポイント得ることができるようになる。
【0060】
上記構成において、導通孔5dに外部から陰圧を印加することによって極性細胞7を吸引捕捉することができ、次に導通孔5aあるいは導通孔5fから同様に陰圧を印加することによって導通孔5dによって捕捉された細胞膜領域とは異なる細胞膜領域の電気生理測定を行うことができるようになる。また、導通孔5aと導通孔5fの両端から電気生理測定を行うことができるようになり、一つの細胞から同時に2つの細胞電気生理測定ができることから、得られる電気生理特性を平均することによってより正確な測定結果を得ることができるようになる。また、極性を有する細胞の極性に応じた応答の変化を検出することができるようになる。
【0061】
(実施の形態4)
以下、本発明の実施の形態4における電気生理測定デバイスおよびこれを用いた測定方法について図面を用いて説明する。
【0062】
図8は本発明の実施の形態4における電気生理測定デバイスの構成を示す横断面図である。なお、実施の形態1で説明した箇所と同じ箇所については説明を省略する。実施の形態1と異なる点は多核細胞17や神経細胞18で測定している点である。
【0063】
流路溝4内の底部には導通孔5a〜5dが流路溝4内に開口するように設けられており、流路溝4内には多核細胞17が導入されている。多核細胞17は導通孔5a〜5dによって吸引捕捉され、細胞電気生理測定される。
【0064】
上記構成において、同一の細胞上から複数ポイントの細胞電気生理測定を行うことができるようになり、空間的な電気生理的応答性を評価することができ、精度よく薬理効果を評価できるようになる。
【0065】
ここで、多核細胞17とは例えば、筋肉細胞に分化した細胞のことであり、心筋細胞を培養することによって容易に得ることができる。また、実施の形態1に示したように心筋細胞を流路溝4内に導入し、24時間培養することによっても、心筋細胞同士の膜融合や筋繊維の精製などを経て機能的な筋肉細胞へと分化させることができる。筋肉細胞へ分化した細胞からは拍動を検出することができ、生体内に近い細胞応答性を示す。このように生体内とほぼ同じ状況の細胞に対する応答を検出することによって、従来の極性を持たない培養細胞からでは入手することのできなかった、電気生理情報を得ることができるようになる。
【0066】
なお、図9に示すように多核細胞17の替わりに神経細胞18を測定することもできる。
【0067】
この場合、流路溝4内には神経細胞18が導入されており、神経細胞は流路溝4内でシナプス19を形成して連結されている。神経細胞18は導通孔5a〜導通孔5dによって吸引捕捉されており、神経細胞18のそれぞれ異なる細胞膜ドメインの電気生理測定をすることができるように配置されている。
【0068】
上記構成において、神経細胞18上の異なる細胞膜ドメインを同時に電気生理測定に供することができるようになり、神経細胞が発現する情報伝達のメカニズムに関する情報を得ることができるようになる。
【0069】
神経細胞18の細胞膜ドメインは軸策と樹状突起に機能分化しており、膜蛋白質の局在が異なることが知られている。シナプスを構成する軸策の終末から神経伝達物質が放出され、神経伝達物質が樹状突起に到達することによって樹状突起上の受容体が活性化され、種々の細胞応答例えば活動電位を発生させ、電気信号を次の神経細胞に伝達する。これら一連の神経細胞による情報伝達は細胞生物学的研究のテーマとして重要であり、また、神経疾患の治療薬の開発には欠かすことのできない評価系を提示する。
【0070】
このように、極性を有した細胞の細胞極性を制御した細胞電気生理測定は、ライフサイエンスの研究上極めて重要な手法であるだけでなく、薬剤開発においても開発効率を改善するツールとしても注目されている。
【0071】
なお、図10が示すように、検体捕捉部に細胞膜結合因子20を用いることもできる。
【0072】
この場合、流路溝4内の底部には細胞膜結合因子20が配置され、細胞膜結合因子20上に導通孔5a〜5dが流路溝4内に開口するように設けられており、流路溝4内には多核細胞17が導入されている。
【0073】
細胞膜結合因子20とは、例えば検体を構成する細胞膜の成分である脂質や細胞膜上のタンパク質や糖鎖などの生体高分子に対して親和性を示す化合物のことであり、疏水結合やイオン結合あるいは静電気的に結合する。これらの生体高分子に親和性を占めるものであればいずれの化合物も使用することができる。
【0074】
多核細胞17として、例えば血管平滑筋細胞を用いる場合、例えばエラスチンなどの細胞外マトリックスを細胞膜結合因子20として流路溝4底部に結合させることによって、平滑筋細胞を捕捉することができ、また、流路溝4内で平滑筋細胞を培養することもできるようになる。このように捕捉した多核細胞17を導通孔5a〜5dによって吸引し細胞膜を密着させることによって細胞電気生理測定を行うことができる。
【0075】
また、細胞膜結合因子20としてポリエチレンイミンやポリエルリジンなどのポリマーを用いることもでき、安価に細胞膜結合因子20を構成することもできる。
【0076】
上記構成において、同一の細胞上から複数ポイントの細胞電気生理測定を行うことができるようになり、空間的な電気生理的応答性を評価することができ、精度よく薬理効果を評価できるようになる。
【0077】
なお、図11が示すように、検体捕捉部に生体高分子21を用いることもできる。
【0078】
この場合、流路溝4内の底部に生体高分子21が配置されており、生体高分子21上に導通孔5a〜5dが流路溝4内に開口するように設けられており、流路溝4内には神経細胞18が導入されている。生体高分子21とは生物試料から精製される核酸や、脂質、糖鎖やタンパク質など化合物や、試験管内で合成された高分子のことをさし、例えば、タンパク質の一種であるラミニンやフィブロネクチンをコーティングしておくことによって神経細胞18を捕捉することができるようになる。また、これらの生体高分子上で神経細胞18を培養することによって神経細胞18の軸策伸長を促進することもできる。
【0079】
上記構成において、神経細胞18上の異なる細胞膜ドメインを同時に電気生理測定に供することができるようになり、神経細胞が発現する情報伝達のメカニズムに関する情報を得ることができるようになる。
【0080】
このように、極性を有した細胞の細胞極性を制御した細胞電気生理測定は、ライフサイエンスの研究上極めて重要な手法であるだけでなく、薬剤開発においても開発効率を改善するツールとしても有効な手法となりうる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の電気生理測定デバイスを用いることによって、細胞の有する極性に応じた電気生理的特徴を効率良く計測することができるようになる。また、電気生理測定をオートメーション化することによって極性細胞の有する極性に応じた電気生理測定をハイスループットで行うことができるようになり、より生体に近い状況の細胞を薬剤スクリーニングに用いることができるようになる。また、iPS細胞やES細胞から分化させた分化細胞を用いて毒性評価を行うことによって、副作用の有無をスクリーニング段階で予測することが可能になり、製薬メーカーの新薬開発リスクの低減化および、開発コストの低下を実現することができるようになることから、医療コストの圧縮も期待される。
【符号の説明】
【0082】
1 流路基板
1a 流路基板
1b 流路基板
2 検体導入口
3 検体導出口
4 流路溝
5 導通孔
5a 導通孔
5b 導通孔
5c 導通孔
5d 導通孔
5e 導通孔
5f 導通孔
6 検体捕捉部
7 極性細胞
8 頭頂部細胞膜
9 基底部細胞膜
10 密着結合
11 外枠
12 第一の測定液
13 第二の測定液
14 第一の電極
15 第二の電極
16 密着結合捕捉部
17 多核細胞
18 神経細胞
19 シナプス
20 細胞膜結合因子
21 生体高分子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体を含む溶液を流すための内壁を有する流路溝が形成された基板と、
この流路溝に検体を捕捉させるための検体捕捉部と、
検体の電気生理現象を測定するためにこの流路溝に検体を含まない溶液を連通させる導通孔とを備え、
前記検体捕捉部に、
流路溝に導入された検体自身のもつ極性を配向させるように当該検体を捕捉させ、
この検体の極性に応じて電気生理測定をするための電気生理測定デバイス。
【請求項2】
前記検体捕捉部と前記導通孔とをそれぞれ前記流路溝内の異なる場所に分離して備えた請求項1に記載の電気生理測定デバイス。
【請求項3】
前記検体捕捉部を前記流路溝の底面に備え、
前記導通孔を前記流路溝の側面に備えた請求項2に記載の電気生理測定デバイス。
【請求項4】
前記検体捕捉部と前記導通孔の間に密着結合捕捉部を備えた請求項1または3に記載の電気生理測定デバイス。
【請求項5】
前記導通孔と前記流路溝の底面との距離が5μm〜500μmである請求項3または4に記載の電気生理測定デバイス。
【請求項6】
前記導通孔を少なくとも2つ以上備え、
一つの検体を複数ヵ所で計測するようにした請求項1〜5のいずれか一つに記載の電気生理測定デバイス。
【請求項7】
隣り合う前記導通孔間の距離が10μm以内である請求項6に記載の電気生理測定デバイス。
【請求項8】
前記複数の導通孔のうち少なくとも一つの導通孔は、前記検体捕捉部を貫通するように設けられている請求項6に記載の電気生理測定デバイス。
【請求項9】
前記流路溝の幅が10μm〜1000μmである請求項1〜8のいずれか一つに記載の電気生理測定デバイス。
【請求項10】
前記流路溝に検体を含んだ溶液を導入/導出させるために前記流路溝と前記基板外部とを貫通した検体導入口/検体導出口とを設けた請求項1〜9のいずれか一つに記載の電気生理測定デバイス。

【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図1】
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【図3】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−191241(P2011−191241A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−59054(P2010−59054)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】