説明

電気音響変換器の振動板およびその製造方法

【課題】音声等の振動を電気信号に変換する電気音響変換器の振動板において、センタードームをその感度や周波数応答のばらつきを最小限に抑えて補強し、それにより高域再生限界の低下を抑制し、異常共振の発生を防止する。
【解決手段】センタードーム2を有する電気音響変換器の振動板1において、前記センタードームには、該センタードームと同材質かつ同形状に形成された補強フィルム7が、該センタードームと同質系のホットメルトからなる接着剤6により貼着され、前記補強フィルムの前記接着剤により貼着される一面には、多角形の網目状に形成された溝部7aが設けられ、他面には、前記溝部に対応した凸リブ8が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音声等の振動を電気信号に変換する電気音響変換器の振動板に関し、特に、振動板のセンタードーム部をその感度や周波数応答のばらつきを最小限に抑えて補強した振動板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばダイナミックマイクロホンやヘッドホンにおける振動板において、その低域再生限界を拡げるために、振動板のサブドーム部のフィルムの厚みを薄く形成し、共振周波数を低くする方法がある。この方法を実施する場合、ポリエステル等のフィルムを成形型に載せて加熱加工し、薄い振動板が作られる。
しかしながら、その場合、サブドーム部の厚みが薄くなるだけでなく、センタードーム部の厚みも薄くなるため、センタードーム部の機械的強度が低下し、高域再生限界が下がり、異常共振が発生しやすくなるという課題があった。
【0003】
前記課題を解決するため、従来から、センタードーム部に同形状の補強フィルムを貼着する方法によりセンタードーム部を補強することが行われている。
しかしながら、このセンタードーム部に補強フィルムを貼着する方法にあっては、センタードーム部の材質に対し、フィルムや接着剤の材質が異なると、熱膨張係数が異なるために、バイメタルの様に温度変化による熱変形が生じるという課題があった。また、熱変形により個差が生じ、周波数応答や感度にばらつきが生じるという課題があった。
【0004】
そのような課題に対し、本願出願人は、特許文献1において、センタードーム部が振動板と同質の材料で構成され、かつセンタードームと同形状に成形された補強フィルムが、振動板と同質系のホットメルトで構成された接着剤により貼着されてなる振動板を提案している。
【0005】
この振動板を製造する際には、図10に示すようにセンタードームの直径に略等しい補強フィルム51を成形型50の上方に載置し、その上からベースフィルム52を覆い、加圧ポット(図示せず)を成形型に向け下降させることにより成形する。
このとき、補強フィルム51もホットメルト接着剤53によりフィルムに貼着される。同時に、成形型50の熱によりホットメルト接着剤53の有機溶剤は揮発してホットメルト接着剤53は硬化する。これにより、図11に示すように中央部に補強フィルム51が貼着されたセンタードーム55とサブドーム56とが成形される。
【0006】
かかる構成によれば、ベースフィルム52と補強フィルム51そしてホットメルト接着剤53は同質系の材料で構成されているので、温度変化による感度、周波数応答のばらつきを最小限に抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3049570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の構成にあっては、振動板の成形時にホットメルト接着剤53を溶解させると、その粘性が高いために横方向に広がりにくく、センタードーム55の接着層の厚みにむら生じることがあった。
そして、センタードーム55の接着層の厚みにむらが生じると、その感度や周波数応答のばらつきによって音質に個体差が生じるという課題があった。
【0009】
本発明は、前記した点に着目してなされたものであり、音声等の振動を電気信号に変換する電気音響変換器の振動板において、センタードームをその感度や周波数応答のばらつきを最小限に抑えて補強し、それにより高域再生限界の低下を抑制し、異常共振の発生を防止することができる振動板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記した課題を解決するために、本発明に係る電気音響変換器の振動板は、センタードームを有する電気音響変換器の振動板において、前記センタードームには、該センタードームと同材質かつ同形状に形成された補強フィルムが、該センタードームと同質系のホットメルトからなる接着剤により貼着され、前記補強フィルムの前記接着剤により貼着される一面には、多角形の網目状に形成された溝部が設けられ、他面には、前記溝部に対応した凸リブが形成されていることに特徴を有する。
尚、前記多角形の網目状に形成された溝部には、前記接着剤が充填されていることが望ましい。
また、前記多角形は六角形であって、前記溝部、及びそれに対応した凸リブは、ハニカム状に形成されていることが望ましい。
このように、前記補強フィルムの接着剤により貼着される一面に、多角形の網目状に形成された溝部が設けられていることにより、振動板を成形する際、加熱により溶解した接着剤を、その粘性があっても前記補強フィルムの溝部に流し込むことができる。
その結果、センタードームに対する接着面を均一とすることができ、音圧に対する感度や周波数応答のばらつき(音質差のばらつき)を抑制することができる。
また、前記補強フィルムの他面に、前記溝部に対応した凸リブが形成されていることにより、センタードームの機械的強度が高くなり、音質向上の効果を得ることができる。
【0011】
また、前記した課題を解決するために、本発明に係る電気音響変換器の振動板の製造方法は、センタードームを有する電気音響変換器の振動板の製造方法であって、前記センタードームと同形状の第1の押型面を備えた第1の加熱型により前記センタードームと同材質かつ同形状の補強フィルムを成形する工程と、前記補強フィルムの成形面の一面に、有機溶剤で希釈可能な前記センタードームと同質系のホットメルトで構成された接着剤を塗布する工程と、前記補強フィルムの成形面を打ち抜く工程と、前記第1の押型面と同形状の面上に多角形の網目状に形成された溝部が形成された第2の押型面を備えた第2の加熱型を用い、前記第2の加熱型に前記打ち抜かれた補強フィルムを載置し、その上を振動板フィルムで覆い、前記第2の加熱型により前記補強フィルムを前記振動板フィルムに固着させる工程とを含むことに特徴を有する。
このような工程を実施することにより、前記した効果を奏する電気音響変換器の振動板を得ることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、音声等の振動を電気信号に変換する電気音響変換器の振動板において、センタードームにおける感度や周波数応答のばらつきを最小限に抑えて補強し、それにより高域再生限界の低下を抑制し、異常共振の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の振動板の一実施例を示す断面図である。
【図2】図2は、図1の振動板のセンタードーム部の一部を下方から見た平面図である。
【図3】図3は、図1の振動板の製造方法を説明するための断面図であって、補強フィルムをドーム状に成形する工程を説明するための図である。
【図4】図4は、図3の成形工程で作られたドーム状の補強フィルムを示す斜視図である。
【図5】図5は、ドーム状の補強フィルムの打抜工程を説明するための断面図である。
【図6】図6は、図5の工程で得られた補強フィルムを用いて、振動板を成形する工程を説明するための断面図である。
【図7】図7は、図6の一部を拡大した断面図である。
【図8】図8は、図6の成形工程で得られた振動板を示す斜視図である。
【図9】図9は、振動板を所定の大きさに打ち抜くための打抜工程を説明するための断面図である。
【図10】図10は、従来の振動板の製造方法を説明するための断面図である。
【図11】図11は、図10の製造方法により得られる振動板の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。図1はこの発明の振動板の一実施例を示す断面図、図2は図1のセンタードーム部の一部を下方から見た平面図である。
図1に示すように、振動板1はセンタードーム2と、このセンタードーム2の外周を囲むように形成されたサブドーム3と、サブドーム3の外周部に形成された平坦な周縁部4とを備えている。それらは、例えば厚みが9μm程度のポリエステルフィルム等で構成されたベースフィルム5と、接着剤6を介してセンタードーム2に貼着されたドーム状の補強フィルム7とから構成されている。
【0015】
前記補強フィルム7には、例えば厚みが25μmのフィルム5と同材料のポリエステルフィルムが使用され、その凹面側には、多角形の網目状、具体的にはハニカム状(六角形状)に形成された溝部7aが設けられている。
また、前記補強フィルム7の凸面側には、図1、図2に示すように前記溝部7aに対応したハニカム状の凸リブ8が形成されている。この凸リブ8により形成されているハニカム形状(正六角形)は、その一辺の長さが例えば1mm程度となされている。
また、前記溝部7aには、接着剤6が充填されて硬化しており、ベースフィルム5と補強フィルム7との間に介在する接着剤6は、前記ハニカム状の凸リブ8(溝部7a)の部分において肉厚となり、その他の部分では薄く形成されている。そのため、センタードーム2の機械的強度は、従来の構成(特許文献1に記載の構成)より高いものとなされている。
尚、接着剤6には、有機溶剤で稀釈可能なポリエステル系のホットメルトが使用されている。
【0016】
続いて、図3から図9を用いて、振動板1の製造方法を説明する。
まず、図3に示すような振動板成形用の第1の成形型11(第1の加熱型)と加圧ポット12によりドーム状の補強フィルム7を成形する。
第1の成形型11は振動板1を成形するように、上面中央にセンタードーム2と同形状の凹部13(第1の押型面)が形成されている。そしてこの凹部13の外周を囲むように形成されたサブドーム3と同形状の凹部14が形成され、凹部14の外周部は周縁部4を形成するため平坦部15にされている。
【0017】
加圧ポット12は、断面が略コの字状に形成されてその内部に加圧室16が設けられ、その開放部が成形型11の上面と相対するように位置している。加圧ポット12は、図示しないシリンダロッド等に固定され、上下動するようになっている。加圧ポット12の開放部端縁には気密用のOリング17が取付けられている。加圧ポット12の側面には、図示しない加圧空気供給源に接続するための加圧空気供給口18が形成されている。これらの構成は従来の加熱成形装置と同じであるので、それらの詳細な構造の説明は省略する。
【0018】
予め設定された温度に加熱した成形型11上に補強フィルム7を載置し、加圧ポット12を下降させて、成形型11と加圧ポット12の開放部端縁間に補強フィルム7を挾んで固定する。そして加圧空気供給口18から加圧空気を加圧室16内に供給して、空気圧と熱とにより成形型11の上面に形成された凹部13,14にしたがった形状に補強フィルム7を成形する。補強フィルム7は図示するように複数枚をまとめて成形することができる。
このようにして成形された補強フィルム7の中央の凹部に図4に示すように接着剤6を塗布する。接着剤6の塗布は中央の凹部の外郭よりはみ出して塗布してもよい。
【0019】
次に図5に示すような一対の抜き型19,20により補強フィルム7の中央の凹部のみを打ち抜く。すなわち、センタードーム2の直径に略等しい直径の貫通穴21を有する凹型の抜き型19上に補強フィルム7をその中央凹部が貫通穴21に嵌合するように載置し、貫通穴21に嵌合されるポンチ22を有する凸型の抜き型20を下降させて、ポンチ22を貫通穴21に嵌合させることにより補強フィルム7の中央凹部のみを打ち抜くことができる。
【0020】
このようにして成形された補強フィルム7は、図6に示すように第2の成形型31(第2の加熱型)の凹部33上に載置し、その上からベースフィルム5(振動板フィルム)を覆い、図3の加圧ポット12を下降させてベースフィルム5にセンタードーム2とサブドーム3を成形する。
ここで、第2の成形型31は、図3に示した第1の成形型11と殆ど同一形状であるが、凹部13に代えて前記凹部33(第2の押型面)を有している。
【0021】
凹部33には、図7に示すように凹部全体にハニカム状に溝部33aが形成されている。これは、図2に示したハニカム状の凸リブ8を形成するためのものである。
この工程において、補強フィルム7は接着剤6によりベースフィルム5に貼着され、同時に、第2の成形型31の熱により補強フィルム7には溝部33aの形状に沿ってハニカム状の溝部7aが形成される。
【0022】
また、補強フィルム7の凹部に塗布された接着剤6は、溶解することによって、面方向に均一になるよう拡がるが、溶解した接着剤6が前記補強フィルム7の溝部7aに流れ込むことによって、より面方向に均一となる。
そして、有機溶剤が揮発することによって接着剤6は硬化し、図8に示すように、フィルム5の中央部には、補強フィルム7が貼着されたセンタードーム2とサブドーム3が成形される。
また、センタードーム2に貼着された補強フィルム7の凸面には、図1、図2に示したようなハニカム状の凸リブ8が形成される。
【0023】
このようにして成形されたベースフィルム5は、図9に示す一対の抜き型23,24により図1に示すような振動板1の外径に打ち抜かれる。すなわち、振動板1の周縁部4の外径に略等しい直径の貫通穴25を有する凹型の抜き型23上にベースフィルム5をその中央部が貫通穴25の中心に位置するように載置し、貫通穴25に嵌合されるポンチ26を有する凸型の抜き型24を下降させて、ポンチ26を貫通穴25に嵌合させることにより振動板1を打ち抜くことができる。
【0024】
以上のように、本発明に係る実施の形態によれば、センタードーム2には、センタードーム2と同材質かつ同形状に形成された補強フィルム7が、センタードーム2と同質系のホットメルトからなる接着剤6により貼着されている。
また、前記補強フィルム7の接着剤6により貼着される一面(凹面)には、ハニカム状に形成された溝部7aが設けられている。このため、振動板1を成形する際、加熱により溶解した接着剤6は、粘性があっても前記補強フィルム7の溝部7aに流れ込み、ベースフィルム5に対する接着面は均一となる。したがって、音圧に対する感度や周波数応答のばらつき(音質差のばらつき)を抑制することができる。
また、前記補強フィルム7の他面(凸面)には、前記溝部7aに対応した凸リブ8が形成されている。このため、センタードーム2の機械的強度が高くなり、音質向上の効果を得ることができる。
【0025】
尚、前記実施の形態にあっては、補強フィルム7の凹面側に、ハニカム状(六角形状)に形成された溝部7aが設けられ、凸面側に、溝部7aに対応したハニカム状の凸リブ8が設けられている構成とした。
しかしながら、本発明に係る振動板1の構成にあっては、前記溝部7a及び凸リブ8は、ハニカム状に形成された構成に限定されるものではなく、多角形の網目状であればよい。そのような網目状に構成可能な多角形としては、三角形、四角形などが挙げられる。
【符号の説明】
【0026】
1 振動板
2 センタードーム
3 サブドーム
4 周縁部
5 ベースフィルム(振動板フィルム)
6 接着剤
7 補強フィルム
7a 溝部
8 凸リブ
11 第1の成形型(第1の加熱型)
12 加圧ポット
13 凹部(第1の押型面)
14 凹部
15 平坦部
16 加圧室
17 Oリング
18 加圧空気供給口
19 抜き型
20 抜き型
21 貫通穴
22 ポンチ
23 抜き型
24 抜き型
25 貫通穴
26 ポンチ
31 第2の成形型(第2の加熱型)
33 凹部
33a 溝部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
センタードームを有する電気音響変換器の振動板において、
前記センタードームには、該センタードームと同材質かつ同形状に形成された補強フィルムが、該センタードームと同質系のホットメルトからなる接着剤により貼着され、
前記補強フィルムの前記接着剤により貼着される一面には、多角形の網目状に形成された溝部が設けられ、他面には、前記溝部に対応した凸リブが形成されていることを特徴とする電気音響変換器の振動板。
【請求項2】
前記多角形の網目状に形成された溝部には、前記接着剤が充填されていることを特徴とする請求項1に記載された電気音響変換器の振動板。
【請求項3】
前記多角形は六角形であって、前記溝部、及びそれに対応した凸リブは、ハニカム状に形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載された電気音響変換器の振動板。
【請求項4】
センタードームを有する電気音響変換器の振動板の製造方法であって、
前記センタードームと同形状の第1の押型面を備えた第1の加熱型により前記センタードームと同材質かつ同形状の補強フィルムを成形する工程と、
前記補強フィルムの成形面の一面に、有機溶剤で希釈可能な前記センタードームと同質系のホットメルトで構成された接着剤を塗布する工程と、
前記補強フィルムの成形面を打ち抜く工程と、
前記第1の押型面と同形状の面上に多角形の網目状に形成された溝部が形成された第2の押型面を備えた第2の加熱型を用い、前記第2の加熱型に前記打ち抜かれた補強フィルムを載置し、その上を振動板フィルムで覆い、前記第2の加熱型により前記補強フィルムを前記振動板フィルムに固着させる工程とを含むことを特徴とする電気音響変換器の振動板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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