説明

電気音響変換器及び振動板

【課題】天然木による自然な響きと高い外観品質が得られるようにすると共に、中音域から高音域にかけて音圧ディップが抑えられた平坦な特性を確保する。
【解決手段】磁気回路と、磁気回路を収納するフレームと、断面が略ドーム形状の中央振動部19、及び、中央振動部19の外周全周にわたり成形され断面が略ドーム形状の外周振動部21を有し、外周振動部21の外周側のエッジ部分21bの端部がフレームに固定された振動板11とを備え、振動板11が、中央振動部19の中央部分を含む第1の板厚領域D1と、外周振動部21のエッジ部分21bを含み板厚が第1の板厚領域D1よりも薄い第2の板厚領域D1−1と、第1の板厚領域D1と第2の板厚領域D1−1との間に位置し中央振動部19における外周振動部21との連結部分20に連なる所定領域を含み板厚が第1の板厚領域D1よりも厚い第3の板厚領域D1−2とを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヘッドホーン等に適する全帯域型の電気音響変換器及び振動板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、振動板の素材に自然の木を利用したものが知られている。振動板の素材に木を用いる理由としては、例えば、紙や樹脂に比べて音速が速い、剛性、ヤング率が大きい、金属等に比べ内部損失が大きい、密度が小さい(軽い)等の総合的に優れた特性を有する点に加えて、木が本来持っている自然な響きが得られることにある。加えて、見栄えの向上が図れるようになり、高品質を与える効果がある為、振動板素材の1つとして注目されている。
【0003】
低音域から高音域までの広帯域にわたって音声を再生する場合は、例えば、図6に示すように、フレーム113内に収納された振動板111が用いられる。振動板111は、ドーム形状の中央振動部101とその中央振動部101の外周に連続して配置された外周振動部103とによって構成される。中央振動部101及び外周振動部103の組合せによって、低音域から高音域までの全帯域にわたってカバーするようになっている。このときの一般的な周波数レスポンスを図7に示す。
【0004】
図7に示す周波数レスポンスは、基準軸上1mの点における音圧レベルを周波数に対応させて連続した曲線となるように自動測定したものである。周波数レスポンスにおいて、再生される周波数範囲を実効周波数帯域FBという。低域の限界を示す低域共振周波数foと、高域の限界を示す高域共振周波数fhの範囲で、出力音圧レベルが−10dB低下した低域再生限界Lと高域再生限界Hの周波数範囲が示されている。特性は、ピストン振動域PBの平坦な特性と、振動板の複雑な振動域からなる分割振動域DBとに2分される。全体域型では、低域再生限界Lから高域再生限界Hまでの実効周波数帯域FBの全域を使用する。
【0005】
この場合、低音域ではエッジ部105を支点として振動するピストン振動域PBのため、特性は出力音圧の周波数特性はほぼフラットとなる。中音域では、振動板の周辺のエッジ部105及び中央振動部101と外周振動部103の境目となる連結部分にそれぞれ影響が現れ、共振により、図6の矢印a、bに示すような逆位相の振動が発生して音が打ち消し合い、中音の谷dと呼ばれるディップが生じる。高音域では、振動板はピストン振動ができなくなり、振動板の各部分が複雑に振動する分割振動域DBとなるため、多くのピークデイップが生じるようになる。高域限界では、主に振動板の中央部のスティフネスと質量、ボイスコイル107の質量で決まる周波数で高域共振が起こり、この高域限界周波数(高域再生限界H)でのピークを最後に音圧が急激に低下する。
【0006】
これらの問題を解消する手段として、例えば、特許文献1に示す如く、高音域を拡げるために音響損失特性0.02以上の振動板材料を用い、振動板の分割振動を利用して20kHz以上の周波数帯を再生可能とする手段が知られている。あるいは、特許文献2に示す如く、エッジ部の固定支持を弾性部材を用いることにより中音域でのエッジ部の逆位相振動を抑えてディップdを小さくする手段が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−152885号公報
【特許文献2】特開2005−204215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した如く、全帯域型の振動板にあっては、特に、中音域から高音域にかけて問題が起きるようになる。しかしながら、中音域を改善する特許文献1の手段にあっては、音響損失特性が0.02以上の特殊な材料を用いる必要があることと、高音域以外の音域改善には大きくつながらない不具合をかかえると共に外観品質の向上を図る点について何等考慮されていない。
【0009】
弾性部材でエッジ部を支持する特許文献2の手段にあっては、エッジ部の振動特性の改善が図れる反面、中央振動部と外周振動部の境目で起きる逆位相の改善にはつながらず、中音域から高音域にかけての不具合をかかえると共に外観品質の向上を図る点についても何等考慮されていない。
【0010】
そこで、本発明にあっては、木が本来持っている自然な響きが得られるようにすると共に中音域から高音域にわたる音域の音質改善が図れるようにし、外観品質に優れた電気音響変換器及び振動板を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
目的を達成するために、本発明の態様によれば、磁気回路と、磁気回路を収納するフレームと、断面が略ドーム形状の中央振動部、及び、中央振動部の外周全周にわたり成形され断面が略ドーム形状の外周振動部を有し、外周振動部の外周側のエッジ部分の端部がフレームに固定された振動板とを備え、振動板が、中央振動部の中央部分を含む第1の板厚領域と、外周振動部のエッジ部分を含み板厚が第1の板厚領域よりも薄い第2の板厚領域と、第1の板厚領域と第2の板厚領域との間に位置し中央振動部における外周振動部との連結部分に連なる所定領域を含み板厚が第1の板厚領域よりも厚い第3の板厚領域とを形成してなる電気音響変換器が提供される。
【0012】
本発明の他の態様によれば、磁気回路と、磁気回路を収納するフレームと、断面が略ドーム形状の中央振動部、及び、中央振動部の外周全周にわたり成形され断面が略ドーム形状の外周振動部を有し、外周振動部の外周側のエッジ部分の端部がフレームに固定された振動板とを備え、振動板が、中央振動部の中央部分を含む第1の板厚領域と、外周振動部のエッジ部分を含み板厚が第1の板厚領域よりも薄い第2の板厚領域と、第1の板厚領域と第2の板厚領域との間に位置し外周振動部における中央振動部との連結部分に連なる所定領域を含み板厚が第1の板厚領域よりも厚い第3の板厚領域とを形成してなる電気音響変換器が提供される。
【0013】
本発明の他の態様によれば、磁気回路と、磁気回路を収納するフレームと、断面が略ドーム形状の中央振動部、及び、中央振動部の外周全周にわたり成形され断面が略ドーム形状の外周振動部を有し、外周振動部の外周側のエッジ部分の端部がフレームに固定された振動板とを備え、振動板が、中央振動部の中央部分を含む第1の板厚領域と、外周振動部のエッジ部分を含み板厚が第1の板厚領域よりも薄い第2の板厚領域と、第1の板厚領域と第2の板厚領域との間に位置し中央振動部における外周振動部との連結部分に連なる所定領域及び外周振動部における中央振動部との連結部分に連なる所定領域を含み板厚が第1の板厚領域よりも厚い第3の板厚領域とを形成してなる電気音響変換器が提供される。
【0014】
本発明の他の態様によれば、断面が略ドーム形状の中央振動部と、中央振動部の外周全周にわたり成形され断面が略ドーム形状の外周振動部とを備える振動板であって、振動板が、中央振動部の中央部分を含む第1の板厚領域と、外周振動部のエッジ部分を含み板厚が第1の板厚領域よりも薄い第2の板厚領域と、第1の板厚領域と第2の板厚領域との間に位置し中央振動部における外周振動部との連結部分に連なる所定領域を含み板厚が第1の板厚領域よりも厚い第3の板厚領域とを形成してなる振動板が提供される。
【0015】
本発明の他の態様によれば、断面が略ドーム形状の中央振動部と、中央振動部の外周全周にわたり成形され断面が略ドーム形状の外周振動部とを備える振動板であって、振動板が、中央振動部の中央部分を含む第1の板厚領域と、外周振動部のエッジ部分を含み板厚が第1の板厚領域よりも薄い第2の板厚領域と、第1の板厚領域と第2の板厚領域との間に位置し外周振動部における中央振動部との連結部分に連なる所定領域を含み板厚が第1の板厚領域よりも厚い第3の板厚領域とを形成してなる振動板が提供される。
【0016】
本発明の他の態様によれば、断面が略ドーム形状の中央振動部と、中央振動部の外周全周にわたり成形され断面が略ドーム形状の外周振動部とを備える振動板であって、振動板が、中央振動部の中央部分を含む第1の板厚領域と、外周振動部のエッジ部分を含み板厚が第1の板厚領域よりも薄い第2の板厚領域と、第1の板厚領域と第2の板厚領域との間に位置し中央振動部における外周振動部との連結部分に連なる所定領域及び外周振動部における中央振動部との連結部分に連なる所定領域を含み板厚が第1の板厚領域よりも厚い第3の板厚領域とを形成してなる振動板が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、天然木からなる木製シートと木に近い性質の紙のシートと樹脂フィルムとを組合せた積層構造によって、木が本来持っている自然な響きが得られると共に、木の持つ木目調によって見栄えが向上し外観品質の面で大変好ましいものとなる。
【0018】
一方、振動板は、薄く作られた第2の板厚領域を支点として一体に振動するピストン振動域となり出力音圧の周波数特性をフラットにできる。また、中央振動部、外周振動部を含めて連結部分の厚い板厚形状によって、連結部分の剛性を増大させ、フラットな帯域を拡大でき、さらに、共振による逆位相の振動が小さく抑えられ音圧ディップの改善を図ることができる。同時に高音域においても、表面伝搬速度(音速)の速い木製シートと紙のシートと樹脂フィルムとの積層構造からなる振動板により、振動板の複雑な分割振動が小さく抑えられピークデイップの改善を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明にかかる電気音響変換器の概要切断説明図。
【図2】丸太状の木から木製シートを作る一例を示した概要説明図。
【図3】第1、第2の板厚領域を備えた振動板を作るための概要説明図。
【図4】第1、第2の板厚領域の外に、第3の板厚領域を備えた振動板を示した概要説明図。
【図5】振動板として使用する木材とその外の材料とを比較した説明図。
【図6】従来例の電気音響変換器の振動板を示した概要説明図。
【図7】周波数レスポンス(出力音圧周波数特性)の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載においては、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は構成部品の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。
【0021】
本発明の実施の形態に係る電気音響変換器1は、図1に示すように、磁極(ヨーク)3と中心極5と磁石7とで構成された磁気回路9と、磁気回路9の上方に配置された振動板11とを有している。
【0022】
磁気回路9を構成する磁極3、中心極5、磁石7はフレーム13の凹部15から立ち上がる柱状突起体17と嵌合し、磁極3と中心極5との間に所定のギャップGを有して凹部15内に収納されている。
【0023】
振動板11は、断面形状がドーム形状の中央振動部19とその中央振動部19の外周に形成された断面形状がドーム形状の外周振動部21とを有し、連結部分20によって中央振動部19から外周振動部21へかけて一体に連続し合う形状となっている。連結部分20の裏面にはギャップG内にボイルコイル22が落し込みにより中心出しをしながら接着剤を介して接合支持される。一方、外周振動部21は、中央振動部19と同じ厚さの板部21aと、それより薄い板厚のエッジ部21bとからなり、エッジ部21bの周端縁Pはフレーム13の外周縁に接着剤等の接着手段によって接着された支持構造となっている。
【0024】
図1に示す振動板11は、中央振動部19の全体及び連結部分20を含むように定義される第1の板厚領域Dと、外周振動部21のエッジ部21bを含むように定義され、板厚が第1の板厚領域Dより薄い第2の板厚領域D−1とによって構成されている。
【0025】
第1の板厚領域Dは、天然木からなる木製シート23と紙のシート24と合成樹脂フィルム25を重ね合わせた積層構造となっている。第1の板厚領域Dの外径は、重量管理の点から出来る限り小さいこと、連結部分に十分な剛性を与える大きさであること、外周振動部に通常形成されるコルゲーション領域に掛からないことから上下限が規定される。中音域にあっては逆位相による振動を小さく抑えると共に、高音域にあっては複雑な分割振動を小さく抑える厚みαに設定されている。
【0026】
ヘッドホーンやイヤホーンに用いられる振動板は、軽量であることが重要な条件であるため、重量管理とスティフネス確保の観点から、厚みαは、例えば、5μmから250μm程度、より好ましくは20μmから100μm程度とすることができる。
【0027】
木製シート23は、例えば、図2に示すように矢印の如く丸太状の木材27を回転させながら切削刃29にあてて、いわゆるかつらむき(ロータリースライス)を行うことで作られるようになっている。また、板目材、柾目木材からのスライス加工によっても作製できる。薄板化の下限は、木材の導管や木質細胞の大きさに依存する。
【0028】
使用する天然木の材質としては、導管密度が均一で小さい、導管が短い、木繊維質が長い、夏目の成長が遅い等の条件に加えて成形加工のし易い材料があげられる。加えて、音響特性の各条件、例えば、音速伝搬速度が速いこと、適度に高い内部損失を有することを考慮すると、低密度、高弾性率とともに異方性、不均一性を満たすものが最適で、例えば、図5に例示するように、広葉樹から針葉樹まで広範な木材が用いられる。上記の条件を満たす木材としては、広葉樹が望ましく、特に、散孔材で塞冷地、高標高地で生育するダケカンバ等のカバ材等を用いることが好適である。又は、ホウノキ材、又はイタヤカエデ等のカエデ系、ハードメープル等のメープル系の木材も好適に用いられる。
【0029】
音響特性の各条件を天然木だけで実施するのは難しく、また、成形性、形状安定性を考慮すると、この実施形態では、木の材質に近似する紙のシート24を重ね合わせた積層構造とするのが好ましい。
【0030】
紙のシート24としては高耐熱で引っ張り等の機械強度が高いことが求められ、ビニロンとパルプ混合系の不織布が用いられ、天然素材ではガンピ、コウゾ等の抄紙を用いた手段となっている。
【0031】
一方、第2の板厚領域D−1は、合成樹脂フィルム25からなる単層構造となっている。材質にはポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリイミド(PI)等が用いられ、振動板11全体が一体に振動するピストン振動域となる厚みβに設定されている。
【0032】
厚みβは、特に限定されないが、例えば、ヘッドホーンやイヤホーンに用いる場合には、重量管理とスティフネス確保の観点から厚さの範囲が規定でき、例えば、4μmから40μm程度、さらには6μmから25μm程度とすることが好ましい。
【0033】
また、共振による逆位相の振動の抑制と、高音域における振動板の複雑な分割振動を考慮すると、厚みαと厚みβの厚みの比は、例えば、α:βを1:1程度〜25:1程度、さらには4:1程度から15:1程度とするのが好適である。厚みの比を上述の範囲とすることにより、ディップの発生を更に抑制でき、中音域から高音域にわたる音域の改善を図った音響振動板が得られる。
【0034】
このように構成された第1の板厚領域D及び第2の板厚領域D−1を備えた振動板11を作るには、例えば、図3(a)に示すように、木製シート23、紙のシート24、合成樹脂フィルム25を、樹脂含浸や接着剤等の接着手段によって重ね合わせることで、3層の貼り合せシートを形成する。その貼り合せシートを、ヒータ等の加熱手段を備えた雄型と雌型のプレス機(図示していない)により加熱プレス成型することで、図3(b)に示すような振動板11が得られる。図3(b)に示す振動板11は、全領域にわたって重ね合わされた3層の積層構造となっている。エッジ部21bを含むように定義された薄い第2の板厚領域D−1については、例えば、研磨紙を押し当て木製シート23及び紙のシート24を同時に研削除去することで、図3(c)に示すように、合成樹脂フィルム25のみによる単層構造を作ることができる。
【0035】
なお、木製シート23と紙のシート24とのプレス加工した積層シートを第1の板厚領域Dの大きさに打ち抜き加工し、予め成形してある合成樹脂フィルム25上にその積層シートを接着手段を用いて貼り合せることによっても、第2の板厚領域D−1を設けることが可能である。この場合、第1の板厚領域Dは、木製シート23、紙のシート24、合成樹脂フィルム25からなる積層構造となる。
【0036】
図4(a)及び図4(b)に示す如く、中央振動部19の合成樹脂フィルム25を一定領域Lにわたって除去することで、中央振動部19の中心部に、木製シート23及び紙のシート24からなる2層の積層構造を有する第1の板厚領域D1を形成してもよい。一定領域Lとしては、振動板口径が大きく、例えば、φ30mm以上となると、全体の重量に対する、中央振動部の樹脂フィルムの寄与も大きくなってくるため、重量管理の観点から、除去することが望ましい。一定領域Lの最大径は、連結部分から中央振動部側への立ち上がり部分で、積層シートとの接着時の糊代が取れる大きさであれば良い。
【0037】
図4に示す例では、エッジ部21bとなる第2の板厚領域D1−1は、合成樹脂フィルム25からなる単層構造としている。図4の振動板11は、連結部分20を含む第3の板厚領域D1−2を更に有することが好ましい。
【0038】
第3の板厚領域D1−2は、第1の板厚領域D1と第2の板厚領域D1−1との間に位置しており、第1の板厚領域D1(厚みをα1とする)及び第2の板厚領域D1−1(厚みをβ1とする)より厚く形成されている。第3の板厚領域D1−2は、例えば、振動板11全体が一定に振動するピストン振動域となる厚みγ1に設定される。
【0039】
厚みγ1は、特に限定されないが、例えば、ヘッドホーンやイヤホーンに用いる場合には、求められる重量やスティフネス等を考慮して、例えば、好ましくは20μmから100μm程度とすることができる。また、共振による逆位相の振動の抑制と、高音域における振動板の複雑な分割振動を考慮すると、厚みα1、厚みβ1、厚みγ1の比は、例えば、α1:β1:γ1を1:1:2程度〜25:1:35程度、さらには4:1:6程度〜15:1:20程度とすることができる。厚みの比を例えば上述の範囲に変化させることにより、ディップの発生を更に抑制でき、中音域から高音域にわたる音域の改善を図った音響振動板が得られる。
【0040】
その結果、図4に示す例では、第1の板厚領域D1を木製シート23と紙のシート24による2層の積層構造とし、第2の板厚領域D1−1を合成樹脂フィルム25による単層構造とし、第3の板厚領域D1−2を木製シート23、紙のシート24、合成樹脂フィルム25の3層の積層構造とする振動板11が形成される。
【0041】
なお、図4においては、第2の板厚領域D1−2として、中央振動部19における外周振動部21との連結部分に連なる所定領域(中央振動部19の外周部分)と外周振動部21における中央振動部19との連結部分に連なる所定領域(外周振動部21の内周部分)とを含むように定義している。
【0042】
しかし、連結部分20及び中央振動部19の外周部分の一方を含むように第2の板厚領域D1−2を定義した振動板、即ち、中央振動部19の外周部分と連結部分20の厚みを特に他の領域より厚くした振動板も好適に用いることができる。あるいは、連結部分20及び外周振動部21の内周部分を含むように第2の板厚領域D1−2を定義した振動板、即ち、Lの幅を大きくし、中央振動部19をほぼ木製シート23と紙のシート24のみで構成した振動板等も、図4及び図4と同様の作用効果を奏し、好適に用いることができる。
【0043】
このように構成された電気音響変換器1によれば、天然木からなる木製シート23と木に近い性質の紙のシート24を組合せた積層構造によって、木が本来持っている自然な響きが得られると共に、木の持つ木目調によって見栄えが向上し外観品質の面で大変好ましいものとなる。
【0044】
一方、振動板11は、薄く作られた第2の板厚領域D1−1を支点として一体に振動するピストン振動域となり出力音圧の周波数特性をフラットにできる。また、中央振動部、外周振動部を含めて連結部分20の厚い板厚形状によって、連結部分の剛性を増大させ、フラットな帯域を広くでき、さらに、共振による逆位相の振動が小さく抑えられ音圧ディップの改善を図ることができる。同時に高音域においても、表面伝搬速度(音速)の速い木製シートと紙のシートの積層構造からなる振動板により、振動板の複雑な分割振動が小さく抑えられピークデイップの改善を図ることができる。
【0045】
中央振動部19は、表面に音速伝搬速度の速い材料が望ましい。木製シート23は金属同等の音速伝搬速度が紙程度の密度を有する軽量な材料で得られるため、振動板に用いる材料としては非常に好適である。さらに、木製シートは木繊維を有するため構造に異方性を有し、内部損失が適度な大きさで共鳴振動や分割振動の発生を抑制できる。ただし、重量管理の点で、木製シート23を極限に薄くすると、繊維直交方向の強度が弱いため、木製シートと接着結合性の良好な紙のシート24で補強することが必要である。従って、中央振動部19を少なくとも二層構造の複数層とすることにより、上記木製シート23を用いた音響的効果が得られる。また、板厚領域を連結部分20に拡大することにより、安定したピストン振動を得ることが可能となる。
【0046】
一方、外周振動部21は、上記の様にピストン振動を行う際のバネ部として規定できるため、樹脂フィルムの物性値を選定することが望ましい。薄層、軽量で気密性を有し、適度な剛性を、形状復元性を有し、かつ成形性の良い合成樹脂フィルム25の単層構造は好適である。
【0047】
第1の板厚領域D1において、二層構造、さらには、第3の板厚領域D1−2において、三層構造といった複数層とする場合には、上記の効果が引き出せるばかりでなく、形状保持性にも優れており、即ち、振動板の生産性においても優れた構成となる。
【0048】
本発明は上記の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が可能であり、実施段階においては、その要旨を逸脱しない範囲で変形して具体化できる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の電気音響変換器は、ヘッドホーンやイヤホーン等の全帯域型で小型の動電型タイプのスピーカに適用できる。
【符号の説明】
【0050】
9 磁気回路
11 振動板
13 フレーム
19 中央振動部
21 外周振動部
21b エッジ部
23 木製シート
24 紙のシート
25 合成樹脂フィルム
D,D1 第1の板厚領域
D−1,D1−1 第2の板厚領域
D1−2 第3の板厚領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気回路と、
前記磁気回路を収納するフレームと、
断面が略ドーム形状の中央振動部、及び、前記中央振動部の外周全周にわたり成形され断面が略ドーム形状の外周振動部を有し、前記外周振動部の外周側のエッジ部分の端部が前記フレームに固定された振動板とを備え、
前記振動板が、前記中央振動部の中央部分を含む第1の板厚領域と、前記外周振動部の前記エッジ部分を含み板厚が前記第1の板厚領域よりも薄い第2の板厚領域と、前記第1の板厚領域と前記第2の板厚領域との間に位置し前記中央振動部における前記外周振動部との連結部分に連なる所定領域を含み板厚が第1の板厚領域よりも厚い第3の板厚領域とを形成してなることを特徴とする電気音響変換器。
【請求項2】
磁気回路と、
前記磁気回路を収納するフレームと、
断面が略ドーム形状の中央振動部、及び、前記中央振動部の外周全周にわたり成形され断面が略ドーム形状の外周振動部を有し、前記外周振動部の外周側のエッジ部分の端部が前記フレームに固定された振動板とを備え、
前記振動板が、前記中央振動部の中央部分を含む第1の板厚領域と、前記外周振動部の前記エッジ部分を含み板厚が前記第1の板厚領域よりも薄い第2の板厚領域と、前記第1の板厚領域と前記第2の板厚領域との間に位置し前記外周振動部における前記中央振動部との連結部分に連なる所定領域を含み板厚が第1の板厚領域よりも厚い第3の板厚領域とを形成してなることを特徴とする電気音響変換器。
【請求項3】
磁気回路と、
前記磁気回路を収納するフレームと、
断面が略ドーム形状の中央振動部、及び、前記中央振動部の外周全周にわたり成形され断面が略ドーム形状の外周振動部を有し、前記外周振動部の外周側のエッジ部分の端部が前記フレームに固定された振動板とを備え、
前記振動板が、前記中央振動部の中央部分を含む第1の板厚領域と、前記外周振動部の前記エッジ部分を含み板厚が前記第1の板厚領域よりも薄い第2の板厚領域と、前記第1の板厚領域と前記第2の板厚領域との間に位置し前記中央振動部における前記外周振動部との連結部分に連なる所定領域及び前記外周振動部における前記中央振動部との連結部分に連なる所定領域を含み板厚が第1の板厚領域よりも厚い第3の板厚領域とを形成してなることを特徴とする電気音響変換器。
【請求項4】
断面が略ドーム形状の中央振動部と、
前記中央振動部の外周全周にわたり成形され断面が略ドーム形状の外周振動部とを備える振動板であって、
前記振動板が、前記中央振動部の中央部分を含む第1の板厚領域と、前記外周振動部のエッジ部分を含み板厚が前記第1の板厚領域よりも薄い第2の板厚領域と、前記第1の板厚領域と前記第2の板厚領域との間に位置し前記中央振動部における前記外周振動部との連結部分に連なる所定領域を含み板厚が第1の板厚領域よりも厚い第3の板厚領域とを形成してなることを特徴とする振動板。
【請求項5】
断面が略ドーム形状の中央振動部と、
前記中央振動部の外周全周にわたり成形され断面が略ドーム形状の外周振動部とを備える振動板であって、
前記振動板が前記中央振動部の中央部分を含む第1の板厚領域と、前記外周振動部のエッジ部分を含み、板厚が前記第1の板厚領域よりも薄い第2の板厚領域と、前記第1の板厚領域と前記第2の板厚領域との間に位置し前記外周振動部における前記中央振動部との連結部分に連なる所定領域を含み板厚が第1の板厚領域よりも厚い第3の板厚領域とを形成してなることを特徴とする振動板。
【請求項6】
断面が略ドーム形状の中央振動部と、
前記中央振動部の外周全周にわたり成形され断面が略ドーム形状の外周振動部とを備える振動板であって、
前記振動板が、前記中央振動部の中央部分を含む第1の板厚領域と、前記外周振動部のエッジ部分を含み板厚が前記第1の板厚領域よりも薄い第2の板厚領域と、前記第1の板厚領域と前記第2の板厚領域との間に位置し前記中央振動部における前記外周振動部との連結部分に連なる所定領域及び前記外周振動部における前記中央振動部との連結部分に連なる所定領域を含み板厚が第1の板厚領域よりも厚い第3の板厚領域とを形成してなることを特徴とする振動板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−166819(P2011−166819A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95214(P2011−95214)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【分割の表示】特願2007−222859(P2007−222859)の分割
【原出願日】平成19年8月29日(2007.8.29)
【出願人】(000004329)日本ビクター株式会社 (3,896)
【Fターム(参考)】