説明

電池極板の製造方法

【課題】電極材料を通過させる一対のロールが同一材料で構成されている場合も、片方のロールに電極材料の付着残りを生じることなく集電体に選択的に転写できる電池極板の製造方法を提供する。
【解決手段】複数個のロールを対向させて配設し、第1ロール14の表面に付着させた電極材料12を、第1ロール14と第2ロール15の間に通して塗膜を形成させながら、第3ロール18の表面に沿って走行させる集電体11の表面に塗膜を転写させるときに、ロール内部に備えた圧力制御機構17、18より発生させた圧力により対向するロールの表面の圧力差を設け、転写させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電池極板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯用電子機器の電源として利用が広がっているリチウム二次電池は、負極にリチウムの吸蔵および放出が可能な炭素質材料等を用い、正極にLiCoO2等の遷移金属とリチウムの複合酸化物を活物質として用いたものである。
【0003】
近年の電子機器および通信機器の多機能化に伴って、リチウム二次電池の高容量化が望まれているが、高容量化の施策としては、多くの活物質を保持し、厚みが均一な電池極板とすることが課題とされている。
【0004】
電池極板の厚みの均一化の取り組みとしては、ロール法、塗布法が主に挙げられる。
【0005】
特許文献1に記載のロール法は、図8に示すように湿潤状態の正極合材52、53を、各一対の加熱ロール54、55間および加熱ロール56、57間に供給する。加熱ロール54〜57は、湿潤状態の正極合材をシート状に成形するときに、正極合材52、53を加熱して含有水分率を低下させている。このシートを芯材たる電極集電体(以下、集電体という)51の両面に積層した状態で一対の圧着ロール58、59間に供給して集電体51の両面に圧着させることにより、電池極板を作成する。たとえば正極合剤52は、加熱ロール54、55間を通過した時点で加熱ロール55に転写され、加熱ロール55、圧着ロール58間を通過した時点で圧着ロール58に転写される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2869156号公報(第5頁、図10)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の従来の製造方法では、一対の加熱ロール54、55は同一材料で構成されていることから、一対の加熱ロール54、55各々の表面に対する正極合剤52の付着力はほぼ等しいと考えられる。そこで、加熱ロール54、55の双方の表面に正極合剤52が転写され、つまり正極合剤52が分離することとなり、加熱ロール55へ正極合剤52の100%転写を達成することは困難かと推測される。このことから、従来の製造方法で作成される電池極板は、必ずしも厚みが均一であるとは言い難い。
【0008】
本発明は、上記従来の課題を解決するもので、電極材料を通過させる一対のロールが同一材料で構成されている場合であっても、片方のロール表面に電極材料の付着残りを生じることなく転写できる電池極板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の電池極板の製造方法は、
第1ロール、第2ロール、第3ロールを対向させて配設させ、前記第1ロールの表面にダイを用いて付着させた電極材料を、前記第1ロールと前記第2ロールの間に通過させ塗膜を形成させながら前記第1ロールから前記第2ロールに転写させ、前記第3ロールの表面に沿って走行させる集電体の表面に前記第2ロールに転写された塗膜を転写させる電池極板の製造方法であって、
前記塗膜を前記第1ロールから前記第2ロールに転写する際に前記第1ロール、前記第2ロールのいずれか1つ、または双方の内部に備えた圧力制御機構により
前記第1ロール表面の圧力>前記第2ロール表面の圧力 となる圧力差Fを設けるように(数1)に示す以上の空気圧を前記塗膜に付加し、前記第1ロールから前記第2ロールに前記塗膜を転写させ、
前記塗膜を前記第2ロールから前記集電体の表面に転写する際に前記第2ロールの内部に備えた圧力制御機構により
前記第2ロール表面の圧力>前記集電体表面の圧力 となる圧力差fを設けるように(数1)に示す以上の空気圧を前記塗膜に付加し、前記第2ロールから前記集電体に前記塗膜を転写させ電池極板を形成することを特徴とする電池極板の製造方法。
【0010】
【数1】

【0011】
上記構成により、一方のロールの表面上にある塗膜を、転写する側のロールの内部に設けた圧力制御手段で加圧もしくは、転写される側のロールの内部に設けた圧力制御手段で減圧する事で、転写するロール表面の圧力 > 転写されるロール表面の圧力 となる様にロール表面圧力がより低い他方のロール上または集電体に選択的に、つまり表面圧力がより低い一方のロールへの付着残りを生じることなく、転写することができる。
【0012】
このとき、(1)圧力は両方が正圧且つ、一方が他方に比べ小さい場合、あるいは、(2)圧力は一方が正圧である場合、あるいは、(3)圧力は一方が負圧である場合に使用できる。
【0013】
圧力は両方が負圧の場合は、塗膜が両面から引っ張られるために、塗膜が裂けてしまう恐れがあるため使用できない。
【0014】
前記電極材料が、(1)リチウム含有複合酸化物よりなる活物質と導電材と非水溶性高分子結着材とを非水分散媒にて混練分散した非水系正極合剤であるか、あるいは、(2)リチウム含有複合酸化物よりなる活物質と導電材と水溶性高分子結着材とを分散媒にて混練分散した水系正極合剤であるか、あるいは、(3)少なくともリチウムを保持しうる活物質と水溶性高分子結着材とを分散媒にて混練分散した負極合剤であるときに好適に使用できる。
【0015】
(数1)は鋭意検討した結果、得られた式である。前述した電極材料における材料係数は、前記構成の製造方法を使用して検討した中で、電極材料の固形分濃度を順次高めていき、前記製造方法で転写する事が可能となる固形分濃度の下限から1重量%引いた数値を材料係数aと置く事で、(数1)の関係がある事を見出し、3種の電極材料に適用させた結果、一致する事が判明した。
【0016】
前記電極材料の材料係数は、(1)非水系正極合剤を電極材料に用いた場合、製造方法で電極材料が転写可能となる固形分濃度の下限は76重量%であるから、その材料係数aはa=75となり、(2)同様に電極材料に水系正極合剤を用いた場合は、材料係数aはa=75、(3)同様に電極材料に水系負極合剤を用いた場合は、材料係数aはa=65である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の電池極板の製造方法は、その構成により、転写させる側のロールの表面のみに、さらに転写させる側のロール上の集電体の表面のみに、電極材料で形成される塗膜を転写させることができる。加えて転写する側のロールの表面には、電極材料の付着残りを生じることもなく、厚みが揃った電池極板を作成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態1における電池極板の製造方法を説明する断面模式図
【図2】本発明の実施の形態1のロール14、15のロール間の拡大断面図
【図3】本発明の実施の形態1のロール14、15内部の中実ロール部の断面模式図
【図4】本発明の実施の形態1のロール14内部の中実ロール部20の外周に設けた流路の拡大断面図
【図5】本発明の実施の形態1の中実ロール部の周囲を回転するケーシング部の断面模式図
【図6】本発明の実施の形態2における電池極板の製造方法を説明する断面模式図
【図7】本発明の実施の形態3における電池極板の製造方法を説明する断面模式図
【図8】従来の電池極板の製造方法を説明する断面模式図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0020】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における電池極板の製造方法を説明する断面模式図である。ロール14、ロール15は、所定のギャップを形成するように配置されており、押出ダイ13から吐出されギャップを通過する電極材料12の厚みを整える機能を担っている。
【0021】
ロール16は、ロール15との間に所定のギャップを形成するように配置されている。ロール15は、ロール16上を一方向に走行する集電体11に厚みを整えた電極材料12を転写する機能を担っている。
【0022】
ロール14、ロール15は、それぞれのロールの円周表面全体に微細な孔が設けられているケーシング部19とその内側に円周上の一部部分の圧力を制御できる機構および流路を有している中実ロール部20で構成されている。圧力制御できる箇所は、ロール14であればロール14とロール15との対向部に圧力制御機構17、ロール15であればロール14とロール15との対向部(図1では図示せず)およびロール15とロール16との対向部に圧力制御機構18を設けてある。その圧力制御方式としては、大気や窒素、二酸化炭素など一般的なエアをコンプレッサーで加圧し、用いることができる。この時に用いるエアは、塗膜中の材料と反応しないものであれば、何れの材料であってもよい。極板を製造している間、常時エアは排出されている。
【0023】
また、ロール14、ロール15の表面には、シリコンやフッ素に代表される離形性が高い材質を含む樹脂およびそれらの成分が含浸、含有した複合金属物を用いる。例えば、SUSロールを規則的に溝加工した面またはブラストし荒らした面に、離形性が高い材質をコートし、平滑な面が得られる様に円周面を加工した規則的またはランダムに離形性が高い材質を持たした面を部分的表面に出した材料や、クロムメッキした際に生じる小さなクラックに離形性が高い材質を溶融させて塗布した後に、表面を研磨してランダムに離形性が高い材質を持たした面を部分的表面に出した材料、フッ素を含有したニッケルメッキなど)を用いる。ロール16はたとえば、SUS研磨仕上げ、もしくはクロムメッキ仕上げ、ニッケルメッキのものを用いる。
【0024】
図2は、ロール14、15のロール間の拡大断面図である。黒塗りの矢印は各ロールの回転方向を示し、白抜きの矢印は空気の流れ方向を示している。ロール14、15の表面の微細な孔は直径Dとし、間隔は直径の2倍の2Dという形に配置している(D≧0.5mm)。ここでの孔径は、均一としている。
【0025】
ロール14の孔と対向するロール15の孔との位置関係は、一方の孔部と他方の肉部が対向するように配置されている。ロール14側の各々の孔から圧力制御機構17によって発生させた均一の圧力により、ロール14の表層にコートされた離形剤部分41より、電極材料12が離れ、ロール15側へと転写される。
【0026】
図3は、ロール14、15内部の中実ロール部の断面模式図である。図3(a)は、中実ロール部の断面図であり、図3(b)は、中実ロール部の正面図である。中実ロール部20には、流路61がロール外周部からロール中心部にかけて設けられ、流路61の外周部側にはその流路61と接する流路62がロールの幅方向に設けられている。流路61のロール中心側にはその流路61と接する流路63がロールの幅方向に設けられ、ロールの側端部65に通じている。
【0027】
ロール側端部65には、圧力制御機構17と結ばれる流路64が設けてあり、圧力制御機構17から発生させた圧力を流路64→流路63→流路61→流路62を経てロール14の外周部の一部に圧力を均一に分配できる。ロール15については、図示はしないがロール14と同じくロール内部の中実ロール部にロール中心部から外周部に繋がる流路が設けてある。ロール15の場合、ロール14とロール15との対向部と、ロール15とロール16との対向部の流路は別系統であり、それぞれ独立して圧力が制御可能である。
【0028】
図4は、ロール14内部の中実ロール部20の外周に設けた流路の拡大断面図である。ロール14の内部の中実ロール20の位置は固定してあり、中実ロール部20の周囲をケーシング部71(ロール14の表面)が回転する。中実ロール部20の位置は固定してあり、流路62の位置は対向するロール15との間隙が最も狭くなる部分から半径方向に見て1mm内側に入った位置まで圧力が制御できるように設けてある。
【0029】
図5は、中実ロール部の周囲を回転するケーシング部の断面模式図である。円周の外周部には内部に通じる孔81が設けてある。ロール側端部65の中央には流路63が出せるように穴82が設けてある。
【0030】
上記構成により、押出ダイ13から供給する電極材料12をロール14とロール15のギャップで厚みを規制して、その厚み分の調整した後に、ロール14内部に設けた圧力制御機構17より発生させた圧力によりロール14からロール15に電極材料12を回転に伴って離合し、ロール15表面に移動させ、その後にロール15表面上に転写された電極材料12を、ロール15内部に設けた圧力制御機構18より発生させた圧力により、ロール15からロール16上を走行する集電体11に、転写させることができる。この後に赤外線、熱風を用いた乾燥工程により残留した溶媒を乾燥除去し、調厚工程により極板厚みを均一に整える工程を経て電池極板を得る。
【0031】
次に電極材料12の転写性を確認するために次のような試験を実施した。
【0032】
ロール14およびロール15を回転させる状態において、一定量の電極材料12を転写元のロール14表面に投入供給して、ロール14とロール15との間のギャップで調厚し、離合後のロール14とロール15の双方のロール表面に付着した電極材料12の重量をそれぞれ測定した。そして、転写先のロール15への付着量の測定値を用いて数2により残留率を算出した。
【0033】
【数2】

【0034】
ここでは、ロール14は、直径300mm、幅300mm、ロール15はロール14と同様に、直径300mm、幅300mm、ロール16は、直径150mm、幅は300mmとした。ロール14における流路62の円周方向の範囲は、ロール14とロール15との対向部で最も間隙が狭い部分、つまり互いの中心点を直線で結んだ位置よりロールの進行方向に向けて、角度にして6.6°、距離にして17.33mmの長さで設けた。流路62の幅方向範囲は極板の幅240mmと設定した。ロール15についても同様の設定の流路が設けられた。
【0035】
ロール14、15、16の回転数は、集電体11の走行速度に合わせて20m/minに相当する回転数とした。ロール14とロール15との間のギャップは150μm、ロール15とロール16との間のギャップは150μm+集電体11の厚み(30μm)とした。ロール14、ロール15にはそれぞれシリコンを表面上に焼付けたものを用い、ロール16はクロムメッキ仕上げのものを用いた。
【0036】
電極材料12は、活物質としてニッケル酸リチウム(以下、LiNiO2と略す)と、導電剤としてアセチレンブラックと、非水溶性高分子結着材としてポリフッ化ビニリデン(以下、PVDFと略す)と、非水分散媒としてn−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略す)とを混合してなる非水系正極合剤を組成1、活物質としてグラファイトと、水溶性高分子結着材としてのカルボキシメチルセルロースナトリウム(以下、CMCと略す)およびスチレンブタジエンゴム(以下、SBRと略す)と、溶媒として純水とを混合してなる水系負極合剤を組成2として、下記の表1に示す。各々の供給量は10gとした。
【0037】
【表1】

【0038】
組成1では、固形分濃度で75〜87重量%の範囲、組成2では、固形分濃度で65〜77重量%の範囲で検討を行った。
【0039】
次に上記組成1の電極材料を使用して、転写するロール14から転写されるロール15において、ロール14の表面の電極材料の付着量、残留率%を、円周表面の微細な孔の直径Dと電極材料の重量濃度を変化させた結果を表2に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
表2において、ロール14からロール15への転写性を記号で示し、記号○は転写可、記号△は塗膜痕有、記号×は転写不可を意味する。各々の記号の右隣の数字は、残留率を示し、0%では転写残りがなく、転写させたいロールに電極材料が転写した事を示す。
【0042】
表2の列は、左から電極材料の固形分濃度、ロール14、15の円周表面の微細な孔の直径D=0.5、1、2、3mmの4種、ロール14からロール15に離形した際に電極材料で形成された塗膜にかかっていた圧力差Fを示している。
【0043】
塗膜にかかる圧力差Fを数3に示す。
【0044】
【数3】

【0045】
つまり離形した圧力差Fとは、ロール14からロール15に電極材料を転写する際に塗膜に生じていた数3で示される圧力差である。ここでは、転写する側とはロール14側であり、転写される側とはロール15側である。
【0046】
次に上記組成1の電極材料を使用して、転写するロール15からロール16の表面に沿って走行され転写される集電体において、ロール15の表面の電極材料の付着量、残留率%を、円周表面の微細な孔の直径Dと電極材料の重量濃度を変化させた結果を表3に示す。
【0047】
【表3】

【0048】
この表3の各記号の内容は、前述の表2と同様であることから、一部説明を簡略化する。
【0049】
表3の最終列は、離形した際に電極材料で形成された塗膜にかかっていた圧力差fを示している。
【0050】
塗膜にかかる圧力差fを数4に示す。
【0051】
【数4】

【0052】
つまり離形した圧力差fとは、ロール15からロール16の表面に沿って走行される集電体に電極材料を転写する際に塗膜に生じていた数4で示される圧力差である。ここでは、転写する側とはロール15側であり、転写される側とはロール16の表面に沿って走行される集電体側である。
【0053】
また、上記表2、表3の結果から離形するのに必要な圧力差F、fに以下の法則性を見出した。電極材料の固形分濃度を順次高めていき、本製造方法で転写する事が可能となる固形分濃度から1重量%引いた数値を材料係数aと置く事で、(数1)の関係がある事を見出した。
【0054】
組成1の電極材料の材料係数は前記電極材料が転写可能となる固形分濃度は76重量%であるからその材料係数aはa=75である。
【0055】
【数1】

【0056】
また、固形分濃度が75重量%の場合には、ロール14およびロール15に付着がみられた。表2、表3におけるその他の固形分濃度では、付着する事無く離形し、集電体にまで転写する事が確認できた。しかしながら、固形分濃度が76重量%でかつ孔の間隔および直径が3mmの場合、転写はするが塗膜の表面上に穴の跡が見られた。
【0057】
以上の結果から本製造方法を用いて、試料1における電極材料が転写可能であることが検証できた。
【0058】
次に、組成2の電極材料を使用して、転写するロール14から転写されるロール15において、ロール14の表面の電極材料の付着量、残留率%を、円周表面の微細な孔の直径Dと電極材料の重量濃度を変化させた結果を表4に示す。また、組成2の電極材料を使用して、転写するロール15から転写されるロール16の表面に沿って走行される集電体において、ロール15の表面の電極材料の付着量、残留率%を、円周表面の微細な孔の直径Dと電極材料の重量濃度を変化させた結果を表5に示す。
【0059】
【表4】

【0060】
【表5】

【0061】
この表4、表5の各記号の内容は、前述の表2、3と同様である。ここで組成2の電極材料において、組成1の電極材料で見出した数1の適用の可能性を検討した所、組成2の電極材料においても適用できる事がわかった。
【0062】
組成2の材料係数は前記電極材料が転写可能となる固形分濃度は66重量%であるからその材料係数aはa=65である。
【0063】
固形分濃度が65重量%の場合、ロール14およびロール15に付着がみられた。表4、表5におけるその他の固形分濃度では、付着する事無く離形し、集電体にまで転写する事が確認できた。しかしながら、固形分濃度が66重量%でかつ孔の間隔および直径が3mmの場合、転写はするが塗膜の表面上に穴の跡が見られた。
【0064】
また、表2〜表5には記載していないが、組成1では固形分濃度88重量%以上の場合、組成2では固形分濃度77重量%以上の場合、粉状のままでロール14、15の間から脱落し、塗膜化できなかった。
【0065】
表2〜表5に示す通り、固形分濃度に対するロール側の表面と前記塗膜を転写される側の表面との間で離形した圧力差F、fは、極値を持った傾向を示す。これは、低固形分の場合は、濡れの要素が大きく、液成分が多いためにロール表面への接触面積が増えるので付着が強くなったと思われる。
【0066】
逆に、高固形分の場合は、同じ厚みにするのに必要な圧力が大きくなるため、その分材料とロールとの密着性が増すためロール表面への接触面積が増えるので付着が強くなったと思われる。
【0067】
また、表2〜表5には記載していないが、0.9MPa以上で加圧した場合、ロール14からロール15への転写の際に、ケーシング部への付着が強くなりすぎるため、ロール15から集電体に転写する際に、ロール15のケーシングに付着残りをするという現象が、組成1では固形分濃度78%以下のもの、組成2では固形分濃度67%以下のもので見られた。
【0068】
以上表2〜表5より明らかなように、調厚用の一対のロール14、15の内部から圧力を発生させることで、ロール14側表面の圧力 >ロール15側表面の圧力とし、且つ前述の(数1)のFMPa以上の圧力差を設定する事で、ロール15の表面にのみ選択的に電極材料を転写することができる。また同様にロール15、集電体11においても、ロール15側表面の圧力 >集電体11側の表面の圧力とし、且つ前述の(数1)のfMPa以上の圧力差を設定する事で、集電体11の表面にのみ選択的に電極材料を転写することができる。
【0069】
また、ロール14、15、16における各一対間を電極材料で形成される塗膜が通過する際に、一方のロールの表面上にある電極材料を、転写する側のロールの内部に設けた圧力制御手段で加圧する事で、転写するロール表面の圧力 > 転写されるロール表面の圧力 となる様に、且つ圧力差を前述の数1におけるF、fMPa以上とすることにより、押出ダイ13からロール14上に供給した電極材料12の全量を集電体11へ転写することができる。
【0070】
さらに、ロール回転数を、集電体11の走行速度0.1m/minから60m/minに対応する回転数に制御したところ、残留率はロール回転数に依存することなく一定であった。長時間運転においても運転開始直後と終了直前での残留率はほぼ一定であった。
【0071】
(実施の形態2)
図6は、本発明の実施の形態2における電池極板の製造方法を説明する断面模式図である。実施の形態1と異なる構成は、ロール24(第1ロール)に対向するロール25(第2ロール)に2つ目の圧力制御機構を設けたことである。ロール24、ロール25は、所定のギャップを形成するように並列に配置され、押出ダイ23から供給される電極材料22の厚みを整え且つ表面を平滑にする機能を担っている。
【0072】
ロール26とロール25は、所定のギャップを形成するように配置されている。ロール25は、ロール25表面に付着した電極材料22を、ロール26上を一方向に走行する集電体21に厚みを整えて転写する機能を担っている。ロール24、ロール25は、それぞれのロールの円周表面全体に微細な孔が設けられているケーシング部とその内側に円周上の一部部分の圧力を制御できる機構を有している。
【0073】
ロール24とロール25の間でロール24内に設けた圧力制御機構27より発生させた圧力を加え、ロール25内に設けた圧力制御機構29より負圧を発生させる事で、塗膜状にした電極材料22のロール24側表面とロール25側表面にロール25側が低くなるように前述した数1のFMPa以上の圧力差を設けることで、ロール24からロール25に転写する事ができる。
【0074】
その後に、ロール25と集電体21との間でロール25内に設けた圧力制御機構28より発生させた圧力を加え、ロール25に転写された電極材料22のロール25側表面と集電体21側表面に集電体21側が低くなるように前述した(数1)のfMPa以上の圧力差を設けることで、電極材料22をロール25から集電体21へと転写させる。
【0075】
なお、圧力制御機構29において、負圧の発生源としては、ウェットポンプ・ドライポンプに代表される一般的な真空ポンプ等が使用できる。
【0076】
上記の装置構成において、実施の形態1と同様にして、ロール25とロール26の各々の表面に付着した電極材料の重量を測定し、残留率を算出した。
【0077】
ロール24の直径は300mm、ロール25の直径は300mm、ロール26の直径は150mmとした。ロール回転数は集電体21の走行速度20m/minに相当する回転数に制御した。電極材料22は、実施の形態1に示した組成2の固形分濃度73重量%のものを使用した。
【0078】
ロール25とロール26のロール表面の圧力差は圧力制御機構27の圧力を0.02MPa、圧力制御機構29の圧力を−0.02MPaと合算して差圧が0.04MPaにした所、このロール間の差圧により、押出ダイ23からの電極材料22をロール24からロール25へ全て転写でき、その後に圧力制御機構28の圧力を0.04MPaとする事で、全て集電体21へ転写することができた。
【0079】
(実施の形態3)
図7は、本発明の実施の形態3における電池極板の製造方法を説明する断面模式図である。実施の形態1と異なる構成は、ロール34(第1ロール)の圧力制御機構を配置せず、対向するロール35(第2ロール)に2つ目の圧力制御機構を設けたことである。押出ダイ33は、ロール34の上方にロール34との間に所定のギャップを形成するように配置されており、該ロール34表面に電極材料32を前記ギャップに見合う厚みで供給する。
【0080】
ロール36とロール35は、所定のギャップを形成するように配置されている。ロール35は、該ロール35表面に供給された電極材料32を、ロール36上を一方向に走行する集電体31に厚みを整えて転写する機能を担っている。
【0081】
ロール35は、ロールの円周表面全体に微細な孔が設けられているケーシング部とその内側に円周上の一部部分の圧力を制御できる機構を有している。
【0082】
ロール34とロール35の間で、ロール35内に設けた圧力制御機構39より負圧を発生させる事で、電極材料32をロール34からロール35に転写する事ができる。
【0083】
その後に、ロール35と集電体31との間でロール35内に設けた圧力制御機構38より発生させた圧力を加え、電極材料32をロール35から集電体31へと転写させる。
【0084】
なお、圧力制御機構39において、負圧の発生源としては、ウェットポンプ・ドライポンプに代表される一般的な真空ポンプ等が使用できる。
【0085】
上記の装置構成において、実施の形態1と同様にして、ロール35の表面に付着した電極材料の重量を測定し、残留率を算出した。
【0086】
ロール34の直径は300mm、ロール35の直径は300mm、ロール36の直径は150mmとした。ロール回転数は集電体31の走行速度20m/minに相当する回転数に制御した。電極材料32は、実施の形態1に示した組成2の固形分濃度73重量%のものを使用した。
【0087】
ロール35とロール36のロール表面の圧力差は圧力制御機構39の圧力を−0.04MPaにした所、このロール間の差圧により、押出ダイ33からの電極材料32をロール34からロール35へ全て転写でき、その後に圧力制御機構38の圧力を0.04MPaとする事で、全て集電体31へ転写することができた。
【0088】
以上の各実施の形態で説明したように、対向する一対のロール表面の圧力を塗膜状にした電極材料の転写する側表面と転写される側表面との間に、転写する側表面の圧力 >転写される側表面の圧力 であり、且つ前述の(数1)のF、fMPa以上設定することで、転写される側ロール表面もしくは集電体表面にのみ選択的に電極材料を転写させて成膜することができる。
【0089】
なお、以上の各実施形態では非水系正極合剤を用いたが、水系正極合剤についても同様の効果を確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の電池極板の製造方法は、電極材料をロールに付着させてその全量をフィルムあるいはシート状の集電体に転写することが可能なので、非水系あるいは水系の二次電池、リチウム電池などの電池極板の製造に有用である。機能性粉末を結合材樹脂、溶媒等と混合して成膜する電気二重層キャパシタ、ディスプレイ誘電体層等の製造方法にも適用できる。
【符号の説明】
【0091】
11 集電体
12 電極材料
13 押出ダイ
14、15、16 ロール
17、18 圧力制御機構
19 ケーシング部
20 中実ロール部
21 集電体
22 電極材料
23 押出ダイ
24、25、26 ロール
27、28、29 圧力制御機構
31 集電体
32 電極材料
33 押出ダイ
34、35、36 ロール
38、39 圧力制御機構
41 離形剤部分
61、62、63、64 流路
71 ケーシング部
81 孔
82 穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ロール、第2ロール、第3ロールを対向させて配設させ、前記第1ロールの表面にダイを用いて付着させた電極材料を、前記第1ロールと前記第2ロールの間に通過させ塗膜を形成させながら前記第1ロールから前記第2ロールに転写させ、前記第3ロールの表面に沿って走行させる集電体の表面に前記第2ロールに転写された塗膜を転写させる電池極板の製造方法であって、
前記塗膜を前記第1ロールから前記第2ロールに転写する際に前記第1ロール、前記第2ロールのいずれか1つ、または双方の内部に備えた圧力制御機構により
前記第1ロール表面の圧力>前記第2ロール表面の圧力 となる圧力差Fを設けるように(数1)に示す以上の空気圧を前記塗膜に付加し、前記第1ロールから前記第2ロールに前記塗膜を転写させ、
前記塗膜を前記第2ロールから前記集電体の表面に転写する際に前記第2ロールの内部に備えた圧力制御機構により
前記第2ロール表面の圧力>前記集電体表面の圧力 となる圧力差fを設けるように(数1)に示す以上の空気圧を前記塗膜に付加し、前記第2ロールから前記集電体に前記塗膜を転写させ電池極板を形成することを特徴とする電池極板の製造方法。
【数1】

【請求項2】
前記電極材料は、
リチウム含有複合酸化物よりなる活物質と、導電材と、非水溶性高分子結着材とを非水分散媒にて混練分散した非水系正極合剤を用いたこと(材料係数a=75)を特徴とする請求項1に記載の電池極板の製造方法。
【請求項3】
前記電極材料は、
リチウム含有複合酸化物よりなる活物質と、導電材と、水溶性高分子結着材とを分散媒にて混練分散した水系正極合剤を用いたこと(材料係数a=75)を特徴とする請求項1に記載の電池極板の製造方法。
【請求項4】
前記電極材料は、
少なくともリチウムを保持しうる活物質、水溶性高分子結着材とを分散媒にて混練分散した負極合剤を用いたこと(材料係数a=65)を特徴とする請求項1に記載の電池極板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−175740(P2011−175740A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−36789(P2010−36789)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】