説明

電池状態推定装置

【課題】 二次電池の性能劣化を可及的に抑制すること。
【解決手段】 電池状態推定装置は、電圧検出部と、電流検出部と、温度検出部と、充電率推定部と、直流抵抗変化率設定部と、を備えている。直流抵抗変化率設定部は、推定許可条件が不成立である場合に、直流抵抗変化率の推定値に代えて、二次電池における充電率の利用範囲が想定範囲から逸脱することを防止するためのガード値を用いて、直流抵抗変化率を設定する。あるいは、直流抵抗変化率設定部は、推定許可条件が不成立である場合に、直流抵抗変化率の推定値に代えて、直流抵抗変化率学習値を用いて、直流抵抗変化率を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の状態を推定するように構成された、電池状態推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池によって負荷へ電源を供給し、かつ必要に応じて当該負荷の運転中にも当該二次電池を充電可能な電源システムが、広く知られている(例えば、ハイブリッド自動車、電気自動車、等。)。この種の電源システムにおいて、前記二次電池の状態(典型的にはSOC:SOCはState of Chargeの略)を推定する装置が、従来種々提案されている(例えば、特許第4649682号公報、特許第4703593号公報、特開2008−243373号公報、等参照。)
【発明の概要】
【0003】
前記二次電池におけるSOCの利用範囲が、想定範囲から逸脱すると、当該二次電池の性能劣化が加速する等の懸念がある。本発明は、このような課題に対処するためになされたものである。
【0004】
<構成>
本発明の電池状態推定装置は、二次電池の状態(以下、「電池状態」と称する。)を推定するように構成されている。この電池状態推定装置(「二次電池の状態推定装置」とも称され得る。)は、電圧検出部と、電流検出部と、温度検出部と、充電率推定部と、直流抵抗変化率設定部と、を備えている。
【0005】
前記電圧検出部は、電池電圧(前記二次電池の端子間に発生する電圧)を検出するように設けられている。前記電流検出部は、前記二次電池の充放電中の電流(入出力電流あるいは電池電流とも称され得る)を検出するように設けられている。前記温度検出部は、前記二次電池の温度である電池温度を検出するように設けられている。
【0006】
前記充電率推定部は、検出された前記電池温度及び前記電池電圧と、前記二次電池の内部の電気化学反応に基づいて構築された計算モデルである電池モデルと、に基づいて、前記二次電池の充電率を推定するように設けられている。なお、前記電池モデルは、特許第4265629号公報、特許第4649682号公報、特許第4703593号公報、特許第4744622号公報、特許第4802945号公報、特開2007−141558号公報、特開2008−243373号公報、特開2010−60406号公報、等に詳細に記載されている。よって、かかる電池モデルに関する詳細な説明は、本明細書においては省略する。
【0007】
前記直流抵抗変化率設定部は、前記電池モデルにおける直流抵抗変化率を設定するように設けられている。ここで、前記「直流抵抗変化率」とは、抵抗値パラメータを前記二次電池の稼働状況に応じて補正するための値であって、当該抵抗値パラメータの初期値からの変化率である。また、前記「抵抗値パラメータ」は、前記電池モデルに用いられるパラメータであって、前記二次電池の内部の直流抵抗を表すものである。
【0008】
前記直流抵抗変化率設定部は、直流抵抗変化率推定部と、直流抵抗変化率推定値設定部と、を備えている。前記直流抵抗変化率推定部は、前記電池温度と前記充電率の推定の際に算出される特性値とに基づいて特定される前記初期値と、検出された前記電流と、に基づいて、前記直流抵抗変化率の推定値を逐次算出するようになっている。前記直流抵抗変化率推定値設定部は、所定の推定許可条件が成立している場合に、前記推定値を用いて前記直流抵抗変化率を設定する(前記直流抵抗変化率の設定値として前記推定値を用いる)ようになっている。
【0009】
本発明の一側面における特徴は、前記直流抵抗変化率設定部が、
「前記推定許可条件が不成立である場合に、前記推定値に代えて、前記二次電池における前記充電率の利用範囲が想定範囲から逸脱することを防止するためのガード値を用いて、前記直流抵抗変化率を設定する、直流抵抗変化率ガード値設定部」
を備えたことにある。
【0010】
前記直流抵抗変化率ガード値設定部は、前記電池温度と前記充電率とに基づいて前記ガード値を設定するようになっていてもよい。
【0011】
前記直流抵抗変化率ガード値設定部は、前記直流抵抗変化率を前記ガード値に漸近させるようになっていてもよい。
【0012】
前記直流抵抗変化率ガード値設定部は、前記推定許可条件が不成立である場合であって、且つ、前記充電率が所定範囲よりも高い又は低いときに、前記ガード値を用いて前記直流抵抗変化率を設定するようになっていてもよい。この場合、前記直流抵抗変化率設定部は、抵抗変化率保持部をさらに備えていてもよい。この抵抗変化率保持部は、前記推定許可条件が不成立である場合であって、且つ、前記充電率が前記所定範囲内であるときに、前記直流抵抗変化率を、前記推定許可条件が前回成立した時点の値に保持するようになっている。
【0013】
本発明の他の一側面における特徴は、前記直流抵抗変化率設定部が、
「前記推定値に基づく直流抵抗変化率学習値を、前記電池温度と前記充電率とに対応付けて保存する、直流抵抗変化率学習部と、
前記推定許可条件が不成立である場合に、前記推定値に代えて、前記直流抵抗変化率学習値を用いて、前記直流抵抗変化率を設定する、直流抵抗変化率学習値設定部と、」
を備えたことにある。
【0014】
前記直流抵抗変化率学習部は、前記推定許可条件が成立している場合に、前記直流抵抗変化率学習値を保存(格納)するようになっている。なお、前記直流抵抗変化率学習値設定部は、前記直流抵抗変化率を前記直流抵抗変化率学習値に漸近させるようになっていてもよい。
【0015】
<作用・効果>
かかる構成を有する本発明の電池状態推定装置においては、所定の前記推定許可条件が成立している場合には、前記直流抵抗変化率推定部によって逐次算出された前記推定値を用いて、前記直流抵抗変化率が設定される。一方、前記推定許可条件が不成立である場合には、前記推定値に代えて、前記ガード値あるいは前記直流抵抗変化率学習値を用いて、前記直流抵抗変化率が設定される。これにより、前記推定許可条件が不成立である場合において、不用意に前記二次電池における前記充電率の利用範囲が前記想定範囲(例えば10〜90%:この範囲は、実験等によって劣化速度を見ながら予め決定することができる)から逸脱することが、可及的に抑制され得る。したがって、本発明によれば、前記二次電池の性能劣化が可及的に抑制され得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態が適用された電源システムの概略構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示されている電源システムの一例である車両の概略構成を示すブロック図である。
【図3】図1に示されているバッテリ制御用電子制御ユニット内にて実現される、本発明の一実施形態に係る電池状態推定装置の概略的な機能構成を示すブロック図である。
【図4】図3に示されている電池パラメータ値設定部の概略的な機能構成を示すブロック図である。
【図5】図3に示されている電池状態推定装置によって実行される、電池状態(具体的にはSOC)の推定動作の一具体例を示すフローチャートである。
【図6】図4に示されている電池パラメータ値設定部によって実行される、直流抵抗値の設定動作の一具体例を示すフローチャートである。
【図7】図4に示されている電池パラメータ値設定部によって実行される、直流抵抗値の設定動作の他の具体例を示すフローチャートである。
【図8】図4に示されている電池パラメータ値設定部の一変形例の概略的な機能構成を示すブロック図である。
【図9】図8に示されている電池パラメータ値設定部によって実行される、直流抵抗値の設定動作の一具体例を示すフローチャートである。
【図10】図1に示されているバッテリ制御用電子制御ユニット内にて実現される、本発明の他の一実施形態に係る電池パラメータ値設定部の概略的な機能構成を示すブロック図である。
【図11】図10に示されている電池パラメータ値設定部によって実行される、直流抵抗値の設定動作の一具体例を示すフローチャートである。
【図12】図10に示されている電池パラメータ値設定部によって実行される、直流抵抗値の設定動作の他の具体例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、後述するように、本発明が、以下に説明する実施形態の具体的構成に何ら限定されるものではないことは、全く当然である。本実施形態に対して施され得る各種の変更(変形例:modification)は、当該実施形態の説明中に挿入されると、首尾一貫した一つの実施形態の説明の理解が妨げられるので、末尾にまとめて記載されている。
【0018】
<電源システムの全体構成>
図1は、本発明の一実施形態が適用された電源システムSの概略構成を示すブロック図である。この電源システムSは、二次電池1と、負荷2と、バッテリ制御装置3と、メイン制御ユニット4と、を備えていて、二次電池1によって負荷2へ電源を供給するとともに、必要に応じて、当該負荷2の運転中に生じる電力により当該二次電池1を充電可能に構成されている。
【0019】
本実施形態においては、二次電池1は、充放電可能ないわゆる「リチウムイオン電池」であって、その端子は電源ライン5を介して負荷2と電気的に接続されている。また、電源システムSは、モータを搭載した車両(電気自動車あるいはハイブリッド自動車)である。すなわち、負荷2には、二次電池1から供給される電力によって駆動される当該モータ等の駆動要素、及び、車両走行中に発電可能な発電要素(図示せず:この発電要素には上述のモータが含まれ得る)が設けられている。
【0020】
バッテリ制御装置3は、二次電池1の内部の電気化学反応に基づいて構築された計算モデルである電池モデルに従って二次電池1の電池状態(SOC等)を推定するとともに、この推定値を含む二次電池1に関する各種情報をメイン制御ユニット4に向けて送出するようになっている。メイン制御ユニット4(以下、「メインECU4」と称する。)は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、バックアップRAM(書き換え可能な不揮発性メモリ)、等を含む、いわゆるマイクロコンピュータであって、バッテリ制御装置3から得られる電池情報、及び運転者からの運転指令情報(図示しないアクセルペダルの操作量等)に応じて、二次電池1の充放電状態や負荷2の動作状態を制御するようになっている。
【0021】
図2は、図1に示されている電源システムSの一例である車両VHの概略構成を示すブロック図である。図2を参照すると、車両VHは、いわゆる「ハイブリッド自動車」であって、負荷2としての、第一モータジェネレータ21と、第二モータジェネレータ22と、インバータ23と、電力ライン24及び25と、エンジン26と、動力伝達機構27と、を備えている。
【0022】
第一モータジェネレータ21は、発電機としても電動機としても動作可能な周知の交流同期型発電電動機(本実施形態においては主として発電機として機能する)であって、エンジン26の回転駆動力のうちの全部又は一部を受け取ることで発電し得るように設けられている。第二モータジェネレータ22は、発電機としても電動機としても動作可能な周知の交流同期型発電電動機であって、二次電池1及び/又は第一モータジェネレータ21から電力供給を受けることで車軸DS(車輪W)を回転駆動するための動力を発生する一方、減速時には車軸DS(車輪W)の回転駆動力から電力を回収し得るように設けられている。
【0023】
インバータ23は、電源ライン5を介して二次電池1と電気的に接続されているとともに、電力ライン24及び25を介してそれぞれ第一モータジェネレータ21及び第二モータジェネレータ22と電気的に接続されている。このインバータ23は、二次電池1から供給された直流電力を交流電力に変換して電力ライン24へ出力するとともに、電力ライン24及び25に供給された交流電力を直流電力に変換して電源ライン5に出力するようになっている。
【0024】
第一モータジェネレータ21、第二モータジェネレータ22、及びエンジン26は、動力伝達機構27を介して車軸DSと結合されている。動力伝達機構27は、動力分割機構27aと、減速機27bと、を備えている。動力伝達機構27は、エンジン26から出力された回転駆動力のうちの全部又は一部を第一モータジェネレータ21に伝達することで第一モータジェネレータ21における発電を可能とするとともに、エンジン26及び第二モータジェネレータ22から出力された回転駆動力を車軸DSに伝達することで車輪Wを駆動可能に構成されている。
【0025】
<バッテリ制御装置の構成>
再び図1を参照すると、バッテリ制御装置3は、バッテリ制御用電子制御ユニット30(以下、「バッテリECU30」と称する。)と、電圧センサ31と、電流センサ32と、温度センサ33と、を備えている。
【0026】
バッテリECU30も、メイン制御ユニット4と同様に、予めプログラムされた所定のシーケンス及び所定の演算を実行するためのCPU、かかるシーケンス及び演算を実行するためのルーチン(プログラム)及びパラメータを格納したROM、CPUによるルーチン実行の際に適宜データが格納されるRAM及びバックアップRAM、等を含む、いわゆるマイクロコンピュータであって、電圧センサ31、電流センサ32、及び温度センサ33が出力する検出信号(検出値)等に基づいて上述の電池情報を生成するようになっている。
【0027】
電圧センサ31は、二次電池1の端子間に発生する電圧である電池電圧に応じた出力(検出値Vb)を生じるように設けられている。電流センサ32は、二次電池1の入出力電流すなわち充放電中の電流に応じた出力(検出値Ib:以下「電池電流Ib」と称する)を生じるように設けられている。温度センサ33は、二次電池1の温度である電池温度に応じた出力(検出値Tb)を生じるように設けられている。
【0028】
図3は、図1に示されているバッテリECU30内にて実現される、本発明の一実施形態に係る電池状態推定装置300の概略的な機能構成を示すブロック図である。この電池状態推定装置300は、拡散推定部311と、開放電圧推定部312と、電池パラメータ値設定部313と、電流推定部314と、境界条件設定部315と、平均濃度算出部321と、SOC推定部322と、を備えている。なお、これらのうち電池パラメータ値設定部313以外のものは、上述の電池モデルを用いた上記各公報に開示されたものと同様のものであるので(例えば、特開2008−243373号公報の図9及び図10等参照。なお、本願の出願時において、特開2008−243373号公報に係る特許出願は特許査定されている。)、各部で用いられるモデル式等の詳細は本明細書では省略する(必要であれば上記各公報を参照のこと)。
【0029】
拡散推定部311は、上述の電池モデルを構成する公知の活物質拡散モデル式により、境界条件設定部315によって設定された境界条件に基づいて、活物質内部でのリチウム濃度分布を逐次演算及び更新するようになっている。
【0030】
開放電圧推定部312は、所定のマップに従って、正極及び負極それぞれの開放電圧、あるいは正極及び負極を合成した開放電圧を算出するようになっている(図中では、これらを包括して「開放電圧U(θ)」と表記している。ここで、「U(θ)」は、開放電圧「U」が、「θ」の関数であって、θを引数とするマップにより取得されることを示している。また、「θ」は、拡散推定部311による推定に基づく局所SOCである。)。
【0031】
本発明の「直流抵抗変化率設定部」に相当する電池パラメータ値設定部313は、上述の各センサの検出値に従って検知される現在の電池温度T、電池電圧V及び電池電流Ib、拡散推定部311による推定に基づく現在の局所SOC(図中「θ」と表記されている)、開放電圧推定部312による推定に基づく現在の開放電圧U(θ)、平均濃度算出部321によって算出された現在の正極活物質モデル(かかる正極活物質モデルも上述の電池モデルを構成するものである)内のリチウム平均濃度csave、並びにSOC推定部322よって推定された現在の二次電池1の充電率の推定値(図中SOCeと示されている)に基づいて、使用する電池モデル式中の電池パラメータ値(直流抵抗Ra、交換電流密度i0、拡散定数Ds、等)を設定するようになっている。
【0032】
ここで、本発明の「抵抗値パラメータ」に相当する直流抵抗Raは、二次電池1をマクロに見た場合の内部の直流抵抗に相当するものであって、具体的には、負極及び正極での電子eの移動に対する純電気的な抵抗(純抵抗)Rdと、活物質界面での反応電流発生時に等価的に電気抵抗として作用する電荷移動抵抗(反応抵抗)Rrと、を併せたものである。
【0033】
電流推定部314は、開放電圧推定部312によって推定された開放電圧U(θ)と、電池パラメータ値設定部313から読み出された各種の電池パラメータ値と、電圧センサ31の検出値Vbに従って検知される現在の電池電圧Vと、公知の電圧−電流関係モデル式及び活物質拡散モデル式と、に基づいて、電池電流密度Iを算出するようになっている。境界条件設定部315は、電流推定部314によって算出された電池電流密度Iを反応電流密度(リチウム生成量)に換算して、活物質拡散モデル式の境界条件を更新するようになっている。
【0034】
平均濃度算出部321は、拡散推定部311によって推定された活物質内部でのリチウム濃度分布に基づいて、正極活物質モデル内のリチウム平均濃度csaveを算出するようになっている。SOC推定部322は、平均濃度算出部321によって算出されたリチウム平均濃度csaveに基づいて、二次電池1全体のSOCの推定値(SOCe)を生成するようになっている。すなわち、本発明の「充電率推定部」に相当するSOC推定部322は、検出された電池温度T及び電池電圧Vと、二次電池1の内部の電気化学反応に基づいて構築された計算モデルである電池モデルと、に基づいて、二次電池1の充電率(SOC)を推定するように設けられている。
【0035】
<<第一実施形態>>
図4は、図3に示されている電池パラメータ値設定部313の概略的な機能構成(但し直流抵抗Raの設定に関する部分のみ)を示すブロック図である。図4を参照すると、本実施形態における電池パラメータ値設定部313は、パラメータ特性マップ3131と、パラメータ変化率推定部3132と、ガード値マップ3133と、パラメータ変化率決定部3134と、を備えている。
【0036】
パラメータ特性マップ3131には、上述したような、電池モデル式中の拡散係数Dsや直流抵抗Ra等のパラメータの初期値(初期状態における値)が格納されている。すなわち、パラメータ特性マップ3131は、電池温度T及び局所SOC等の時々刻々変化する電池状態に対応して、現時点での電池状態に対応する拡散係数Dsや直流抵抗Ra等のパラメータの初期値を読出可能に構成されている。ここで、本実施形態においては、「初期値」は、新品状態における値をいうものとする。これらの初期値は、実験あるいは計算機シミュレーションによって予め取得されたものである。なお、パラメータ特性マップ3131において、直流抵抗Raの初期値Ranは、電池温度T及び局所SOCを引数とするマップとして格納されている。
【0037】
本発明の「直流抵抗変化率推定部」に相当するパラメータ変化率推定部3132は、公知の逐次最小自乗法モデルを用いて、上述の各センサにより測定された電池データ(Tb,Vb,Ib)と、パラメータ特性マップ3131から読み出された現在の電池状態(T,θ)に対応する直流抵抗の初期値Ranと、を用いた、電池モデル式に基づくパラメータ同定により、直流抵抗変化率grの推定値greを逐次算出するようになっている。ここで、「直流抵抗変化率」とは、直流抵抗Raを二次電池1の稼働状況に応じて補正するための値であって、当該直流抵抗Raの初期値Ranからの変化率である。なお、パラメータ特性マップ3131及びパラメータ変化率推定部3132は、上述の電池モデルを用いた上記各公報に開示されたものと同様のものであるので(例えば、本出願人の先願に係る特許第4703593号公報の図7等参照。)、これらにおいて用いられる数式等の詳細は本明細書では省略する(必要であれば上記各公報を参照のこと)。
【0038】
詳細は後述するが、本実施形態においては、電池パラメータ値設定部313は、所定の推定許可条件(推定実行可能条件:本出願人の先願に係る特許第4703593号公報のステップS205参照)が成立している場合には、上述の推定値greを用いて直流抵抗変化率grを設定する(gr=greとする)一方、当該推定許可条件が成立していない場合には、上述の推定値greに代えてガード値grgを用いて直流抵抗変化率grを設定する(gr=grgとする)ようになっている。かかるガード値grgは、電池温度TとSOCeとを引数とするマップとして、ガード値マップ3133に格納されている。
【0039】
すなわち、本発明の「直流抵抗変化率推定値設定部」及び「直流抵抗変化率ガード値設定部」に相当するパラメータ変化率決定部3134は、上述の推定許可条件の成否に応じて直流抵抗変化率grを決定するとともに、決定した直流抵抗変化率grとパラメータ特性マップ3131から読み出した直流抵抗の初期値Ranとの積により算出される直流抵抗Raを出力するようになっている。
【0040】
<<<直流抵抗変化率の設定動作の概要>>>
上述の推定許可条件としては、典型的には、(1)電流条件、(2)リチウム濃度条件、の2つを挙げることができる。(1)の電流条件は、電池電流の絶対値が予め定めた所定範囲内であるときである。この所定電流範囲における下限値は、二次電池の緩和状態を除外するように設定することができる。また、上限値は、大電流充放電時を排除するように設定することができる。(2)のリチウム濃度条件は、活物質表面のリチウム濃度(図4におけるθ参照)と活物質内の平均リチウム濃度(図4におけるcsave参照)との差の絶対値が所定値以下であるとき、あるいは、かかる差の絶対値が所定値以下になってから所定時間が経過したときである。(1)の電流条件と、(2)のリチウム濃度条件と、のうちのいずれか一方あるいは双方が、上述の推定許可条件として用いられる。これらの条件が設定される理由は、以下の通りである。
【0041】
直流抵抗変化率grの推定には、線形回帰が用いられる。このため、電流と電圧との関係が非線形となる領域では、推定精度が悪化する。よって、電池電流の絶対値が所定範囲内であるときに、上述の推定値greの推定精度が良好となる。また、拡散抵抗の寄与が大きくなる状況(すなわち活物質内におけるリチウム拡散により電圧変化が起きている状況)においては、直流抵抗変化率の推定が困難になる。この拡散抵抗は、活物質表面のリチウム濃度と活物質内の平均リチウム濃度との差が大きくなると大きくなる。よって、活物質表面のリチウム濃度と活物質内の平均リチウム濃度との差が小さいとき、あるいはこれが所定時間継続したときに、上述の推定値greの推定精度が良好となる。
【0042】
ところで、上述の推定許可条件が不成立となった場合に、直流抵抗変化率grとして直前の推定値greを用いる(すなわち最後に推定許可条件が成立したときの推定値greにより設定された直流抵抗変化率grをそのまま保持する)手法が考えられる。しかしながら、かかる手法においては、推定許可条件が不成立である時間が長くなり、且つ、保持された推定値greが実際の直流抵抗変化率grの値(真値)よりも過大となったときに、SOC推定を行うと、推定誤差の影響で、二次電池1におけるSOCの利用範囲が想定範囲(例えば10〜90%)から逸脱する可能性がある。すると、二次電池1の性能劣化が加速するおそれがある。
【0043】
そこで、本実施形態においては、上述の推定許可条件が不成立である場合に、パラメータ変化率推定部3132による推定値greに代えて、二次電池1におけるSOCの利用範囲が想定範囲から逸脱することを防止するためのガード値grg(フェールセーフ値とも云い得る)を用いて、直流抵抗変化率grが設定される。このガード値grgを用いてSOC推定が実施される。このガード値grgとしては、経年劣化で想定される直流抵抗Raの変化範囲における最小値(例えば、様々な条件下での保存試験とパルス耐久試験とを、想定される性能ばらつきを有する複数の新品の二次電池1で行ったときの、新品の最大抵抗と劣化時の最小抵抗とから算出された値)が用いられる。また、直流抵抗は電池温度T又はSOCが変化すると大きく変化するため、ガード値grgは、電池温度TとSOCeとを引数とするマップとして格納される。
【0044】
本実施形態によれば、上述の推定許可条件が不成立である場合に、SOC推定を実施しても、不用意に二次電池1におけるSOCの利用範囲が想定範囲から逸脱することが、可及的に抑制され得る。したがって、二次電池1の性能劣化が可及的に抑制され得る。
【0045】
<動作の具体例>
図5は、図3に示されている電池状態推定装置300によって実行される、電池状態(具体的にはSOC)の推定動作の一具体例を示すフローチャートである。図中、「S」は「ステップ」の略称である(他のフローチャートにおいても同様である)。図5に示されているSOC推定ルーチン500は、バッテリECU30において所定の演算周期毎に実行される。
【0046】
まず、ステップ510において、電圧センサ31等の検出値に基づいて、電池電圧V、電池温度T、及び電池電流Ibが測定される。次に、ステップ520において、前回のルーチン実行時にて後述するステップ570によって更新されたリチウム濃度分布に基づいて、活物質表面の局所的SOCの値(θ)が算出される。続いて、ステップ530において、上述のステップ520にて算出された局所的SOCの値に基づいて、開放電圧U(θ)値が算出される。以上の処理は、本出願人の先願に係る特開2008−243373号公報の図12におけるステップ100〜130と同様である。その後、処理がステップ540に進行する。ステップ540においては、図4に示されている電池パラメータ値設定部313の機能により、直流抵抗Raが算出される(この直流抵抗Raの算出動作については後述する)。
【0047】
次に、ステップ550において、開放電圧推定部312によって推定された開放電圧U(θ)と、電池パラメータ値設定部313から読み出された各種の電池パラメータ値(ステップ540において算出された直流抵抗Raを含む)と、電圧センサ31の検出値Vbに従って検知される現在の電池電圧Vと、公知の電圧−電流関係モデル式及び活物質拡散モデル式と、に基づいて、電流推定部314の機能により、電池電流密度Iの推定値が算出される。この処理も、直流抵抗Raとして本実施形態による算出値を用いる以外は、本出願人の先願に係る特開2008−243373号公報の図12におけるステップ140と同様である。
【0048】
このようにして電池電流密度Iの推定値が算出されると、処理がステップ560に進行し、推定された電池電流密度Iから反応電流密度(リチウム生成量)が算出されるとともに、算出した反応電流密度を用いて拡散モデル方程式の活物質界面における境界条件(活物質界面)が設定される。この処理も、本出願人の先願に係る特開2008−243373号公報の図12におけるステップ150と同様である。
【0049】
次に、ステップ570において、拡散方程式モデルに従って、活物質モデル内のリチウム濃度分布が計算され、活物質モデル内の各領域のリチウム濃度推定値が更新される。すなわち、ステップ570において実行される処理は、図3における拡散推定部311の機能に相当する。なお、上述のように、このとき演算及び更新された最外周の分割領域におけるリチウム濃度は、次回のルーチン実行時に、ステップ520にて局所的SOCの算出に用いられる。
【0050】
ステップ570にてリチウム濃度分布が更新された後、処理がステップ580に進行し、ステップ570にて求められた活物質内のリチウム濃度分布に基づいてリチウム平均濃度csaveが算出される。続いて、ステップ590において、ステップ580にて求められたリチウム平均濃度csaveに基づいて二次電池1全体のSOC推定値(図中SOCeと示されている)が算出される。これらの処理も、本出願人の先願に係る特開2008−243373号公報の図12におけるステップ171及び172と同様である。その後、本ルーチンが一旦終了する。
【0051】
<<第一実施形態の動作具体例1>>
図6は、図4に示されている電池パラメータ値設定部313によって実行される、直流抵抗値の設定動作(上述のステップ540における動作)の一具体例を示すフローチャートである。
【0052】
上述のステップ540(図5参照)の動作が開始されると、図6に示されている直流抵抗算出ルーチン600が起動される。かかるルーチン600が起動されると、まず、ステップ610において、上述の推定許可条件(本具体例においては上述の電流条件及びリチウム濃度条件の論理積)が成立しているか否かが判定される。ここで、本動作具体例においては、「推定許可条件が成立していない場合(ステップ610=No)」とは、当該推定許可条件が所定期間連続して成立していない場合をいい、「推定許可条件が成立している場合(ステップ610=Yes)」には当該推定許可条件が不成立である状態が上述の所定期間未満である場合が含まれるものとする(後述する他の動作具体例においても同様である)。かかる「所定期間」の具体的な値は、実験や計算機シミュレーション等によって適宜設定され得る。
【0053】
推定許可条件が成立している場合(ステップ610=Yes)、処理がステップ620に進行し、直流抵抗変化率grの推定値greが算出される。この推定値greの算出は、本出願人の先願に係る特許第4703593号公報と同様であるので(但し当該公報においては直流抵抗変化率grの推定値は「gr#」と表記されている)、本明細書においてはその詳細な説明については省略する。続いて、処理がステップ630に進行し、推定値greを用いて直流抵抗変化率grが設定される(gr=gre)。
【0054】
推定許可条件が成立していない場合(ステップ610=No)、処理がステップ650に進行し、現在の電池温度T及びSOCeと、これらを引数とするマップと、に基づいて、ガード値grgが取得される。その後、ステップ660において、かかるガード値grgを用いて直流抵抗変化率grが設定される(gr=grg)。
【0055】
ステップ630又は660において直流抵抗変化率grが設定された後、処理がステップ690に進行する。ステップ690においては、パラメータ特性マップ3131から読み出された直流抵抗の初期値Ranと、設定された直流抵抗変化率grと、の積により、直流抵抗Raが算出される。その後、本ルーチンが終了する。
【0056】
<<第一実施形態の動作具体例2>>
図7は、図4に示されている電池パラメータ値設定部313によって実行される、直流抵抗値の設定動作の他の具体例を示すフローチャートである。本具体例は、上述の推定許可条件が成立していない場合に、直流抵抗変化率grをガード値grgにいきなり設定するのではなく、直流抵抗変化率grをガード値grgに漸近させるものである。これにより、制御の安定性が向上する。
【0057】
本具体例に係るルーチン700におけるステップ710〜750及び790の処理は、上述のルーチン600(図6参照)におけるステップ610〜650及び690と同一である。よって、ステップ710〜750及び790の処理についての説明は省略する(上述のステップ610〜650及び690の処理についての説明を援用する)。
【0058】
推定許可条件が成立していない場合(ステップ710=No)、ステップ750におけるガード値grgの取得の後、処理がステップ755に進行する。ステップ755においては、ガード値grgに所定の係数ξを乗じた値grg1が算出される。ここで、係数ξは、1以下の正の値であって、推定許可条件が最後に成立から不成立に転じた時点(ステップ710の判定が最後にYesからNoに転じた時点)から現時点までの経過時間に応じて大きくなり、当該経過時間が所定時間となった以後は1となる値である。この係数ξは、上述の経過時間を引数とするマップによって取得され得る。その後、処理がステップ760に進行し、grg1を用いて直流抵抗変化率grが設定される(gr=grg1)。
【0059】
<変形例>
なお、上述の実施形態は、上述した通り、出願人が取り敢えず本願の出願時点において最良であると考えた本発明の代表的な実施形態を単に例示したものにすぎない。よって、本発明はもとより上述の実施形態に何ら限定されるものではない。したがって、本発明の本質的部分を変更しない範囲内において、上述の実施形態に対して種々の変形が施され得ることは、当然である。
【0060】
以下、代表的な変形例について、幾つか例示する。もっとも、言うまでもなく、変形例とて、以下に列挙されたものに限定されるものではない。また、複数の変形例が、技術的に矛盾しない範囲内において、適宜、複合的に適用され得る。
【0061】
本発明(特に、本発明の課題を解決するための手段を構成する各構成要素における、作用的あるいは機能的に表現されているもの)は、上述の実施形態や、下記変形例の記載に基づいて限定解釈されてはならない。このような限定解釈は、(特に先願主義の下で出願を急ぐ)出願人の利益を不当に害する反面、模倣者を不当に利するものであって、許されない。
【0062】
本発明は、上述の実施形態にて開示された具体的な装置構成に限定されない。例えば、第一モータジェネレータ21と第二モータジェネレータ22とのうちのいずれか一方は、省略されてもよい。また、本発明の適用対象は、ハイブリッド自動車に限定されない。すなわち、例えば、本発明は、内燃機関を用いない電気自動車に対しても良好に適用され得る。さらに、本発明の適用対象は、車両に何ら限定されるものではない。
【0063】
本発明は、上述の実施形態にて開示された具体的な処理態様に限定されない。例えば、初期状態は新品時に限定されるものではなく、予想される最大劣化時と新品時との間の中間的な状態に対応して初期状態が定義されてもよい。これにより、初期値に対する変化率推定値の範囲が狭くなるため、推定精度の向上を図ることができる。また、上述の推定許可条件は、電流条件及びリチウム濃度条件のいずれか一方であってもよい。さらに、上述の推定許可条件に対して、他の条件(例えば電池温度等)が追加されてもよい。
【0064】
図8は、図4に示されている電池パラメータ値設定部313の一変形例の概略的な機能構成を示すブロック図である。図9は、図8に示されている電池パラメータ値設定部313によって実行される、直流抵抗値の設定動作の一具体例を示すフローチャートである。
【0065】
上述の各具体例においては、推定許可条件が不成立である場合に、ガード値grgを用いて直流抵抗変化率grが設定される。このガード値grgは、経年劣化で想定される直流抵抗Raの変化範囲における最小値である。このため、ガード値grgを用いて直流抵抗変化率grが設定されている間は、SOCの推定精度が悪化するおそれがある。一方、このガード値grgは、二次電池1におけるSOCの利用範囲が想定範囲から逸脱することを防止するためのフェールセーフ値である。よって、このガード値grgを用いた直流抵抗変化率grの設定は、二次電池1におけるSOCの利用範囲が想定範囲から逸脱する可能性のある、高SOCあるいは低SOC領域にて行われれば充分であると考えられる。
【0066】
そこで、かかる変形例においては、推定許可条件が不成立である場合であって、且つ、SOC(推定値SOCe)が所定範囲(例えば上述の想定範囲よりも若干内側の15〜85%)よりも高い又は低いときに、ガード値grgを用いて直流抵抗変化率grが設定される。一方、かかる変形例においては、推定許可条件が不成立である場合であって、且つ、SOC(推定値SOCe)が上述の所定範囲内であるときに、直流抵抗変化率grが、推定許可条件が前回成立した時点の値に保持される。すなわち、かかる変形例においては、電池パラメータ値設定部313は、本発明の「抵抗変化率保持部」にも対応するものである。
【0067】
以下、本変形例における動作について図9を用いて説明する。上述のステップ540(図5参照)の動作が開始されると、図9に示されている直流抵抗算出ルーチン900が起動される。かかるルーチン900が起動されると、まず、ステップ910において、上述の推定許可条件が成立しているか否かが判定される。
【0068】
推定許可条件が成立している場合(ステップ910=Yes)、処理がステップ920に進行し、直流抵抗変化率grの推定値greが算出される。続いて、処理がステップ930に進行し、推定値greを用いて直流抵抗変化率grが設定される(gr=gre)。
【0069】
推定許可条件が成立していない場合(ステップ910=No)、処理がステップ940に進行し、SOC(推定値SOCe)が所定範囲外であるか否かが判定される。かかるステップ940に用いられるSOC(推定値SOCe)は、推定許可条件が成立から不成立に転じる直前(ステップ910の判定がYesからNoに転じる直前)の値が用いられるものとする。
【0070】
SOCが所定範囲内である場合(ステップ940=No)、処理がステップ945に進行し、直流抵抗変化率grの推定値greとして、前回算出された値が用いられる(推定許可条件が成立から不成立に転じる直前の値が保持される)。その後、処理がステップ930に進行して、保持された前回の推定値greが直流抵抗変化率grとして設定される。
【0071】
一方、SOCが所定範囲外である場合、すなわち、推定値SOCeが高SOCあるいは低SOC領域である場合(ステップ940=Yes)、処理がステップ950〜960に進行し、ガード値grgを用いて直流抵抗変化率grが設定される。これらのステップ950〜960の処理は、ルーチン700におけるステップ750〜760の処理と同一である。よって、ステップ950〜960の処理についての説明は省略する(上述のステップ750〜760の処理についての説明を援用する)。
【0072】
ステップ930又は960において直流抵抗変化率grが設定された後、処理がステップ990に進行する。ステップ990においては、パラメータ特性マップ3131から読み出された直流抵抗の初期値Ranと、設定された直流抵抗変化率grと、の積により、直流抵抗Raが算出される。その後、本ルーチンが終了する。
【0073】
かかる変形例によれば、推定許可条件が不成立である場合であって、且つ、SOC(推定値SOCe)が所定範囲よりも高い又は低いときにのみ、ガード値grgを用いて直流抵抗変化率grが設定される。一方、推定許可条件が不成立である場合であっても、SOC(推定値SOCe)が所定範囲内であるときは、直流抵抗変化率grが、推定許可条件が前回成立した時点の値に保持される。したがって、本変形例によれば、二次電池1の性能劣化が可及的に抑制されつつ、SOCの推定精度の悪化も可及的に抑制され得る。
【0074】
なお、ステップ940における判定に用いられるSOCの値は、推定許可条件が成立から不成立に転じる直前(ステップ910の判定がYesからNoに転じる直前)の推定値greを、推定許可条件が成立から不成立に転じた後の経過時間(ステップ910の判定がYesからNoに転じた後の経過時間、あるいは上述の推定許可条件が実際に不成立状態となっている時間)に応じて適宜補正した値であってもよい。また、ステップ950〜960の処理は、ルーチン600におけるステップ650〜660の処理と同一であってもよい。
【0075】
<<第二実施形態>>
図10は、図1に示されているバッテリECU30内にて実現される、本発明の他の一実施形態(第二実施形態)に係る電池パラメータ値設定部313の概略的な機能構成を示すブロック図である。図10を参照すると、本実施形態における電池パラメータ値設定部313は、パラメータ特性マップ3131と、パラメータ変化率推定部3132と、パラメータ変化率決定部3134と、パラメータ変化率学習部3135と、を備えている。
【0076】
すなわち、図10に示されている第二実施形態の電池パラメータ値設定部313に備えられたパラメータ特性マップ3131及びパラメータ変化率推定部3132は、図4に示されている第一実施形態のものと同一である。よって、これらの説明については、上述の第一実施形態における説明を援用する。
【0077】
本発明の「直流抵抗変化率学習部」に相当するパラメータ変化率学習部3135は、推定許可条件が成立している間に算出された直流抵抗変化率grの推定値greに基づく直流抵抗変化率学習値grL(以下、単に「学習値grL」と略称する。)を、電池温度TとSOC(推定値SOCe)とに対応付けた「学習マップ」として保存するようになっている。
【0078】
詳細は後述するが、本実施形態においては、電池パラメータ値設定部313は、所定の推定許可条件(推定実行可能条件:本出願人の先願に係る特許第4703593号公報のステップS205参照)が成立している場合には、上述の推定値greを用いて直流抵抗変化率grを設定する(gr=greとする)一方、当該推定許可条件が成立していない場合には、かかる推定値greに代えて上述の学習値grLを用いて直流抵抗変化率grを設定する(gr=grLとする)ようになっている。
【0079】
すなわち、本発明の「直流抵抗変化率推定値設定部」及び「直流抵抗変化率学習値設定部」に相当するパラメータ変化率決定部3134は、上述の推定許可条件の成否に応じて直流抵抗変化率grを決定するとともに、決定した直流抵抗変化率grとパラメータ特性マップ3131から読み出した直流抵抗の初期値Ranとの積により算出される直流抵抗Raを出力するようになっている。
【0080】
本実施形態においては、上述の推定許可条件が不成立である場合に、パラメータ変化率推定部3132による推定値に代えて、上述の学習値grLを用いて、直流抵抗変化率grが設定される。この学習値grLとしては、一次遅れ等の影響による誤差を考慮して、推定値greよりも低めに設定される。
【0081】
本実施形態によれば、上述の推定許可条件が不成立である場合において、直流抵抗変化率grとして学習値grLを用いることで、不用意に二次電池1におけるSOCの利用範囲が想定範囲から逸脱することを可及的に抑制しつつ、SOC使用領域を良好に確保することができる。したがって、二次電池1の性能劣化を可及的に抑制しつつ、車両VHの燃費悪化やEV走行距離の減少を可及的に抑制することが可能になる。
【0082】
図11は、図10に示されている電池パラメータ値設定部313によって実行される、直流抵抗値の設定動作(上述のステップ540における動作)の一具体例を示すフローチャートである。
【0083】
上述のステップ540(図5参照)の動作が開始されると、図11に示されている直流抵抗算出ルーチン1100が起動される。かかるルーチン1100が起動されると、まず、ステップ1110において、上述の推定許可条件が成立しているか否かが判定される。ここで、本動作具体例においては、「推定許可条件が成立していない場合(ステップ1110=No)」とは、当該推定許可条件が所定期間連続して成立していない場合をいい、「推定許可条件が成立している場合(ステップ1110=Yes)」には当該推定許可条件が不成立である状態が上述の所定期間未満である場合が含まれるものとする(後述する他の動作具体例においても同様である)。かかる「所定期間」の具体的な値は、実験や計算機シミュレーション等によって適宜設定され得る。
【0084】
推定許可条件が成立している場合(ステップ1110=Yes)、処理がステップ1120に進行し、直流抵抗変化率grの推定値greが算出される。この推定値greの算出は、本出願人の先願に係る特許第4703593号公報と同様であるので(但し当該公報においては直流抵抗変化率grの推定値は「gr#」と表記されている)、本明細書においてはその詳細な説明については省略する。
【0085】
次に、処理がステップ1125に進行し、上述のようにして推定値greに基づいて学習値grLが算出されるとともに、かかる学習値grLが電池温度TとSOC(推定値SOCe)とに対応付けて格納される。続いて、処理がステップ1130に進行し、推定値greを用いて直流抵抗変化率grが設定される(gr=gre)。
【0086】
推定許可条件が成立していない場合(ステップ1110=No)、処理がステップ1150に進行し、現在の電池温度T及びSOCeと、これらを引数とする学習マップと、に基づいて、学習値grLが取得される。その後、ステップ1160において、かかる学習値grLを用いて直流抵抗変化率grが設定される(gr=grL)。
【0087】
ステップ1130又は1160において直流抵抗変化率grが設定された後、処理がステップ1190に進行する。ステップ1190においては、パラメータ特性マップ3131から読み出された直流抵抗の初期値Ranと、設定された直流抵抗変化率grと、の積により、直流抵抗Raが算出される。その後、本ルーチンが終了する。
【0088】
図12は、図10に示されている電池パラメータ値設定部313によって実行される、直流抵抗値の設定動作の他の具体例を示すフローチャートである。本具体例は、上述の推定許可条件が成立していない場合に、直流抵抗変化率grを学習値grLにいきなり設定するのではなく、直流抵抗変化率grを学習値grLに漸近させるものである。
【0089】
本具体例に係るルーチン1200におけるステップ1210〜1250及び1290の処理は、上述のルーチン1100(図11参照)におけるステップ1110〜1150及び1190と同一である。よって、ステップ1210〜1250及び1290の処理についての説明は省略する(上述のステップ1110〜1150及び1190の処理についての説明を援用する)。
【0090】
推定許可条件が成立していない場合(ステップ1210=No)、ステップ1250における学習値grLの取得の後、処理がステップ1255に進行する。ステップ1255においては、学習値grLに所定の係数ξを乗じた値grL1が算出される。ここで、係数ξは、1以下の正の値であって、推定許可条件が最後に成立から不成立に転じた時点(ステップ1210の判定が最後にYesからNoに転じた時点)から現時点までの経過時間に応じて大きくなり、当該経過時間が所定時間となった以後は1となる値である。この係数ξは、上述の経過時間を引数とするマップによって取得され得る。その後、処理がステップ1260に進行し、grL1を用いて直流抵抗変化率grが設定される(gr=grL1)。
【0091】
上述の「所定範囲」(ステップ940等参照)は、上述の「想定範囲」と同一であってもよいし、上述の具体例のように、上述の「想定範囲」よりも若干内側の値であってもよい。また、上述の「所定範囲」や「想定範囲」の例示として挙げられていた数値は、あくまで単なる一具体例にすぎない。よって、本発明は、当然のことであるが、上記の具体的な数値に何ら限定されない。
【0092】
その他、特段に言及されていない変形例についても、本発明の本質的部分を変更しない範囲内において、本発明の範囲内に含まれることは当然である。
【0093】
また、本発明の課題を解決するための手段を構成する各要素における、作用的あるいは機能的に表現されている要素は、上述の実施形態や変形例にて開示されている具体的構造の他、当該作用あるいは機能を実現可能ないかなる構造をも含む。さらに、本明細書にて引用した各公報の内容(明細書及び図面を含む)は、技術的に矛盾しない範囲において、本明細書の一部を構成するものとして適宜援用され得る。
【符号の説明】
【0094】
S…電源システム VH…車両 1…二次電池
2…負荷 21…MG1 22…MG2
23…インバータ 24…電力ライン 25…電力ライン
26…エンジン 27…動力伝達機構
3…バッテリ制御装置 30…バッテリ制御用電子制御ユニット
31…電圧センサ 32…電流センサ 33…温度センサ
300…電池状態推定装置 311…拡散推定部 312…開放電圧推定部
313…電池パラメータ値設定部 314…電流推定部 315…境界条件設定部
321…平均濃度算出部 322…SOC推定部
3131…パラメータ特性マップ 3132…パラメータ変化率推定部
3133…ガード値マップ 3134…パラメータ変化率決定部
3135…パラメータ変化率学習部
4…メイン制御ユニット 5…電源ライン
【先行技術文献】
【特許文献】
【0095】
【特許文献1】特許第4649682号公報
【特許文献2】特許第4703593号公報
【特許文献3】特開2008−243373号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池の端子間に発生する電池電圧を検出するように設けられた、電圧検出部と、
前記二次電池の充放電中の電流を検出するように設けられた、電流検出部と、
前記二次電池の温度である電池温度を検出するように設けられた、温度検出部と、
検出された前記電池温度及び前記電池電圧と、前記二次電池の内部の電気化学反応に基づいて構築された計算モデルである電池モデルと、に基づいて、前記二次電池の充電率を推定するように設けられた、充電率推定部と、
前記電池モデルに用いられるパラメータであって前記二次電池の内部の直流抵抗を表す抵抗値パラメータを前記二次電池の稼働状況に応じて補正するための値であって、当該抵抗値パラメータの初期値からの変化率である直流抵抗変化率を、設定するように設けられた、直流抵抗変化率設定部と、
を備え、
前記直流抵抗変化率設定部は、
前記電池温度と前記充電率の推定の際に算出される特性値とに基づいて特定される前記初期値と、検出された前記電流と、に基づいて、前記直流抵抗変化率の推定値を逐次算出する、直流抵抗変化率推定部と、
所定の推定許可条件が成立している場合に、前記推定値を用いて前記直流抵抗変化率を設定する、直流抵抗変化率推定値設定部と、
前記推定許可条件が不成立である場合に、前記推定値に代えて、前記二次電池における前記充電率の利用範囲が想定範囲から逸脱することを防止するためのガード値を用いて、前記直流抵抗変化率を設定する、直流抵抗変化率ガード値設定部と、
を備えたことを特徴とする、電池状態推定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の、電池状態推定装置であって、
前記直流抵抗変化率ガード値設定部は、前記電池温度と前記充電率とに基づいて前記ガード値を設定することを特徴とする、電池状態推定装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の、電池状態推定装置であって、
前記直流抵抗変化率ガード値設定部は、前記直流抵抗変化率を前記ガード値に漸近させることを特徴とする、電池状態推定装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のうちのいずれか1項に記載の、電池状態推定装置であって、
前記直流抵抗変化率ガード値設定部は、前記推定許可条件が不成立である場合であって、且つ、前記充電率が所定範囲よりも高い又は低いときに、前記ガード値を用いて前記直流抵抗変化率を設定することを特徴とする、電池状態推定装置。
【請求項5】
請求項4に記載の、電池状態推定装置であって、
前記直流抵抗変化率設定部は、
前記推定許可条件が不成立である場合であって、且つ、前記充電率が前記所定範囲内であるときに、前記直流抵抗変化率を、前記推定許可条件が前回成立した時点の値に保持する、抵抗変化率保持部
をさらに備えたことを特徴とする、電池状態推定装置。
【請求項6】
二次電池の端子間に発生する電池電圧を検出するように設けられた、電圧検出部と、
前記二次電池の充放電中の電流を検出するように設けられた、電流検出部と、
前記二次電池の温度である電池温度を検出するように設けられた、温度検出部と、
検出された前記電池温度及び前記電池電圧と、前記二次電池の内部の電気化学反応に基づいて構築された計算モデルである電池モデルと、に基づいて、前記二次電池の充電率を推定するように設けられた、充電率推定部と、
前記電池モデルに用いられるパラメータであって前記二次電池の内部の直流抵抗を表す抵抗値パラメータを前記二次電池の稼働状況に応じて補正するための値であって、当該抵抗値パラメータの初期値からの変化率である直流抵抗変化率を、設定するように設けられた、直流抵抗変化率設定部と、
を備え、
前記直流抵抗変化率設定部は、
前記電池温度と前記充電率の推定の際に算出される特性値とに基づいて特定される前記初期値と、検出された前記電流と、に基づいて、前記直流抵抗変化率の推定値を逐次算出する、直流抵抗変化率推定部と、
前記推定値に基づく直流抵抗変化率学習値を、前記電池温度と前記充電率とに対応付けて保存する、直流抵抗変化率学習部と、
所定の推定許可条件が成立している場合に、前記推定値を用いて前記直流抵抗変化率を設定する、直流抵抗変化率推定値設定部と、
前記推定許可条件が不成立である場合に、前記推定値に代えて、前記直流抵抗変化率学習値を用いて、前記直流抵抗変化率を設定する、直流抵抗変化率学習値設定部と、
を備えたことを特徴とする、電池状態推定装置。
【請求項7】
請求項6に記載の、電池状態推定装置であって、
前記直流抵抗変化率学習値設定部は、前記直流抵抗変化率を前記直流抵抗変化率学習値に漸近させることを特徴とする、電池状態推定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−108937(P2013−108937A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256151(P2011−256151)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】