説明

電池用セパレータ

【課題】ニッケル−カドミウム電池、ニッケル−亜鉛電池、ニッケル−水素電池等のアルカリ二次電池に好適で、長期間の保存や乾燥条件における親水性に優れた不織布にスルホン化処理を施した電池用セパレータを提供する。
【解決手段】本発明はスルホン化処理されたポリオレフィン系不織布にアルキルリン酸系陰イオン性界面活性剤を塗布してなることを特徴とする電池用セパレータ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル−カドミウム電池、ニッケル−亜鉛電池、ニッケル−水素電池等のアルカリ二次電池に好適に使用できる電池用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル−カドミウム電池やニッケル−水素電池等のアルカリ二次電池は、充放電特性、過充放電特性に優れ、長寿命で繰り返し使用できるため、コードレス電話、ノートパソコン、オーディオ機器等の小型電子機器の他、電動工具、電動自転車等の小型動力用途、ハイブリッド自動車、電気自動車等の大型動力用途等にも広く使用されている。このアルカリ二次電池に用いられている電池用セパレータの役割としては、正極と負極の分離、短絡の防止、電解液(高濃度アルカリ性水溶液)の吸液及び保持、また電極反応により生じるガスの透過等が挙げられる。
【0003】
従来から、電池用セパレータとしては、一般に不織布が用いられてきた。ニッケル−カドミウム電池では、電解液に濡れやすく、その保液量が大きく、しかも電解液を含んだ状態で電気抵抗の低いポリアミド系繊維からなる不織布が使用されてきた。しかし、高温における耐酸化劣化性に劣り、アルカリ二次電池の充電時に発生する酸素ガスによって酸化劣化するという欠点があるため、急速充放電により、電池内部の温度が60〜80℃に上昇した場合、性能低下が著しいという問題があった。
【0004】
一方、ポリオレフィン系繊維を主体とする不織布は親水性が低いため、スルホン化処理、親水性単量体のグラフト処理、コロナ放電処理、界面活性剤付与処理等が施されるのが一般的である。
【0005】
このうち、スルホン化処理は発煙硫酸や濃硫酸によって不織布にスルホン酸基を導入する方法である(例えば、特許文献1〜3参照)。スルホン化処理を施した不織布は電解液の吸液性や保液性が優れると共に、電池の自己放電反応を抑制する効果が見られる。
【0006】
ここで電池の自己放電反応が促進される原因として、電池内に不純物として存在する含窒素化合物が分解され、生成したアンモニアが正極上で酸化されて硝酸イオンとなり、この硝酸イオンが移動し、負極上で還元されてアンモニアとなる繰り返し反応(シャトル機構)が生じて自己放電を加速するという説が提唱されている。スルホン化処理を施した不織布からなる電池用セパレータをこの電池内に導入することにより、繊維に導入されたスルホン酸基が生成するアンモニアを捕捉し、電池の自己放電反応を抑制すると考えられている。
【0007】
スルホン化処理においては、親水性の付与が繊維表面のみであるため、電解液の保液性が不十分なため高率放電が困難という問題があった。そのために界面活性剤を塗布する方法が従来から取られているが、長期間の保存や乾燥条件下における界面活性剤の劣化により、電解液の吸液性が低下する問題、高率放電特性が悪くなる問題が発生していた(例えば、特許文献4及び5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭56−003973号公報
【特許文献2】特開昭58−175256号公報
【特許文献3】特開平01−132042号公報
【特許文献4】特開2009−218048号公報
【特許文献5】特開2009−218047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、スルホン化処理されたポリオレフィン系不織布に界面活性剤を塗布してなる電池用セパレータにおいて、界面活性剤の劣化による吸液性の低下、高率放電特性の悪化といった問題を解決することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、この課題を解決するために鋭意検討を行った結果、スルホン化処理されたポリオレフィン系不織布にアルキルリン酸系陰イオン性界面活性剤を塗布してなることを特徴とする電池用セパレータにより、上記課題を解決できる電池用セパレータを提供できることを見出し、本発明に至ったものである。
【0011】
前記アルキルリン酸系陰イオン界面活性剤は、アルキルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸エステル塩及び、非中和のリン酸エステル系界面活性剤を含む群から選択される1種以上の界面活性剤であることが好ましい。
【0012】
界面活性剤の付与量が、スルホン化処理後の不織布に対して、0.05〜2.00質量%であることが好ましく、0.10〜1.00質量%であることがより好ましい。
【発明の効果】
【0013】
スルホン化処理されたポリオレフィン系不織布に界面活性剤を塗布してなる電池用セパレータでは、長期間の保存及び乾燥条件下では吸液性の低下や高率放電特性の悪化を招いていたが、アルキルリン酸系陰イオン性界面活性剤を塗布してなる本発明の電池用セパレータによって、長期間の保存及び乾燥条件下における吸液性及び高率放電特性を保ち続けられる効果が得られた。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の電池用セパレータは、スルホン化処理後のポリオレフィン系不織布にアルキルリン酸塩系陰イオン性界面活性剤を塗布したものである。ポリオレフィン系不織布とは、1種以上のポリオレフィン繊維を主体とする不織布のことである。ポリオレフィン系繊維の含有量は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。
【0015】
ポリオレフィン繊維としては、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維等の単一成分からなる繊維、2種類以上の異なるポリオレフィンの混合物からなる混合ポリオレフィン繊維、2種類以上の異なるオレフィンの共重合体からなる共重合ポリオレフィン繊維、ポリエチレン、ポリプロピレン、共重合ポリオレフィン等の樹脂を適宜組み合わせた、芯鞘型、サイドバイサイド型、偏芯型、分割性等の複合繊維等が挙げられる。ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレンの他、ポリメチルペンテン、ポリブテン等を挙げることができる。
【0016】
ポリオレフィン系不織布が、ポリオレフィン系合成パルプを含有していても良い。ポリオレフィン系パルプとは、ポリオレフィンを原料として製造されたパルプ状物をいい、その製造方法として、例えば、特公昭55−10683号公報に開示された、原料の炭化水素溶媒より高温、高圧の溶液を減圧領域中にフラッシュ放出する方法、特公昭52−47049号公報に開示されている、原料のエマルジョン溶液を高温、高圧の状態で減圧領域中にフラッシュ放出する方法などに代表されるフラッシュ紡糸方法等が挙げられる。
【0017】
本発明の電池用セパレータに使用されるポリオレフィン系不織布において、ポリオレフィン系繊維と好適に併用することのできる繊維としては、半芳香族ポリアミド繊維、全芳香族ポリアミド繊維が挙げられ、特に半芳香族ポリアミド繊維がより好ましい。半芳香族ポリアミド繊維は、主成分として芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジアミンを縮合して得られる半芳香族ポリアミドからなる繊維であり、ジカルボン酸成分の60モル%以上が芳香族カルボン酸であり、ジアミン成分の60モル%以上が炭素数6から12の脂肪族アルキレンジアミンである。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,4−フェニレンジオキシジ酢酸、1,3−フェニレンジオキシ酢酸、2,2′−ビフェニルジカルボン酸、2,4′−ビフェニルジカルボン酸、4,4′−ビフェニルジカルボン酸、4,4′−オキシジ安息香酸、ジフェニルメタン−4,4′−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4′−ジカルボン酸が用いられる。脂肪族ジアミンとしては、1,6−ヘキサンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,9−ノナンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,11−ウンデカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、3−メチル−1,5−ペンタンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2−メチル−1,8−オクタンジアミン、5−メチル−1,9−ノナンジアミン等が挙げられる。
【0018】
本発明の電池用セパレータに含まれる繊維の繊維長、繊維径は特に限定されないが、不織布強度と製造性等から、繊維径は1μm以上20μm以下が好ましく、繊維長は1mm以上20mm以下が好ましい。また、分割性複合繊維を水流交絡やリファイナーにより細分化して使用することもできる。繊維長が1mm未満の場合には、不織布の十分な機械的強度が得られない場合がある。繊維長が20mmを超えた場合には、地合不良となり、良好な不織布が形成できなくなる場合がある。特に、湿式抄造法で作製された不織布(湿式不織布)では、分散時の繊維同士の異常な絡みが発生し、均一な分散状態にならず、地合不良となる場合がある。
【0019】
アルキルリン酸系陰イオン性界面活性剤の成分としては、アルキルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸エステル塩及び非中和のリン酸エステル系界面活性剤も含む群の1種以上を使用することができる。これらの群から、併用して使用することもできる。優れた吸液性の点でアルキルリン酸エステル塩が最も好ましい。これらのアルキルリン酸系陰イオン性界面活性剤は、含浸、塗布、スプレーした後、乾燥することにより不織布に付与することができる。界面活性剤の付与量は、スルホン化処理後のポリオレフィン系不織布に対して、0.05〜2.00質量%が好ましく、0.10質量〜1.00質量%がより好ましい。界面活性剤の付与量が0.05質量%未満の場合、吸液性が保持できない場合がある。また、2.00質量%を超えた場合、電池内の余剰の界面活性剤が、電池特性等に不具合を生じさせる場合がある。
【0020】
本発明の電池用セパレータに用いる不織布の原布は、湿式抄造法、カード法、クロスレイヤー法などの公知の方法によって製造することができる。しかし、カード法、クロスレイヤー法は、繊維長の長い繊維を用いることができるが、均一な原反化が困難で、地合が悪く、透過光で観測すると、斑点模様が見られる。このため、短絡を防ぐために必要な空隙径を得るには、高目付重量にしなければならないという問題がある。
【0021】
一方、湿式抄造法は、生産速度が上記方法に比べて速く、同一装置で繊維径の異なる繊維や複数の種類の繊維を任意の割合で混合できる利点がある。即ち、繊維の形態もステープル状、パルプ状等と選択の幅は広く、使用可能な繊維径も、極細繊維から太い繊維まで使用可能で、他の方法に比べ、極めて良好な地合の原布が得られる方法である。さらに、分割型複合繊維を用いた場合、該繊維を分割するに当たり、パルパーや高速ミキサーやビーター等の離解機での離解工程、及び分散工程で分割型複合繊維をほぼ完全に分割させることができる。このようなことから、極めて応用範囲が広い原布形成法である。そこで、本発明の電池用セパレータに用いる不織布の原布の製造方法としては、湿式抄造法が最適である。
【0022】
本発明の電池用セパレータは、水流交絡法による処理を行うことができる。水流交絡法はノズルから噴射された高圧の水流を上記のようにして得られた原布に当てることにより、繊維を3次元的に交絡させる方法である。水流交絡処理は不織布の機械的強度、保液性、通気性を向上させたり、不織布に柔軟性を付与したり、分割型複合繊維を用いた場合、複合繊維を分割させるといった効果をもたらす。
【0023】
本発明の電池用セパレータは、得られた不織布を熱処理することにより、該不織布に含有されるポリオレフィン繊維の一部又は全部を熱溶融させることができ、不織布の機械的強度を向上させることができる。熱溶融方法としては、熱風乾燥機(例えば、非接触式、接触式)、熱ロールなどの無加圧法、熱カレンダーなどの加圧法、及び湿式抄造時の湿熱接着法など公知の方法を使用できる。また、それら熱溶融方法を組み合わせて使用することで、不織布の機械的強度をさらに向上させることができる。
【0024】
本発明の電池用セパレータは、さらに自己放電特性を向上させるために、スルホン化処理を施す。スルホン化処理により自己放電特性が向上する理由については、現在のところ完全に解明されていないが、繊維表面近傍に導入されたスルホン酸基がイオン交換能を有することで、自己放電の原因と考えられているイオン性不純物を捕捉するためと推測され、優れた自己放電特性を示す。
【0025】
スルホン化処理としては、二酸化硫黄ガス、三酸化硫黄ガス等による気相処理法や熱濃硫酸、発煙硫酸、又はクロロ硫酸等による液相処理法等を使用することができる。本発明の電池用セパレータにおいては、気相処理法によるスルホン化処理が好ましい。液相処理法によるスルホン化処理は反応条件の設定が難しく、反応時間を長くし過ぎた場合や温度を高くし過ぎた場合に、不織布が炭化、収縮、フィルム化し劣化しやすいという問題がある。また、多量の強酸性廃液が出るという問題がある。また、繊維の表面から内部にS元素の含有率が0.10〜1.00質量%の範囲であることが好ましい。
【0026】
本発明の電池用セパレータにおいては、必要に応じて、スーパーカレンダーや熱カレンダー処理により、厚みを調整して用いられる。本発明の電池用セパレータの目付は、30g/m以上100g/m以下の範囲が好ましく、厚みは、60μm以上250μm以下の範囲が好ましい。電池用セパレータの目付及び厚みは、適用する電池の特性に応じて、適宜選択できる。ここで目付は、JIS P 8124に規定されている坪量を表し、厚みはJIS P 8118に規定される厚さを表す。また本発明の電池用セパレータの最大細孔径は1μm以上50μm以下の範囲が好ましい。最大細孔径が50μmを超えて大きくなると、短絡しやすくなり電池製造時の不良率が大きくなる。また最大細孔径が1μm未満では、酸素ガス透過性やイオン導電性が低下して好ましくない。ここで最大細孔径はJIS K 3832に規定されるバブルポイント法による最大細孔径を表す。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0028】
(スルホン化処理されたポリオレフィン系不織布の製造)
芯成分がポリプロピレン(融点165℃)、鞘成分がポリエチレン(融点135℃)である芯鞘型複合繊維(繊度0.8dtex、繊維長5mm)を、パルパーの水中で離解させ、アジテーター等の緩やかな撹拌のもと、均一な抄造用スラリーを調成した。この抄紙スラリーを円網抄紙機による湿式法を用い抄き上げ、140℃に設定されたヤンキードライヤーと併設されている熱風フードにより乾燥と芯鞘型繊維の鞘部分を熱溶融させて、坪量52.4g/m、幅500mmの不織布を作製した。次に、この不織布を硫黄含有率が0.80質量%になるまで、三酸化硫黄ガスを含む乾燥空気中でスルホン化処理を行い、水酸化ナトリウム水溶液で中和し、イオン交換水で洗浄し、スルホン化処理されたポリオレフィン系不織布を製造した。
【0029】
(実施例1)
界面活性剤として、アルキルリン酸エステル塩(高松油脂化学製、商品名:エレナイトAB−150)をスルホン化処理されたポリオレフィン系不織布に対して0.50質量%となるように含浸し、乾燥後、スーパーカレンダーにて、厚み120μmに調整して、電池用セパレータを得た。
【0030】
(実施例2)
界面活性剤として、アルキルリン酸エステル塩(高松油脂化学製、商品名:エレナイトAB−150)をスルホン化処理されたポリオレフィン系不織布に対して1.00質量%となるように含浸し、乾燥後、スーパーカレンダーにて、厚み120μmに調整して、電池用セパレータを得た。
【0031】
(実施例3)
界面活性剤として、アルキルリン酸エステル塩(高松油脂化学製、商品名:エレナイトAB−150)をスルホン化処理されたポリオレフィン系不織布に対して2.00質量%となるように含浸し、乾燥後、スーパーカレンダーにて、厚み120μmに調整して、電池用セパレータを得た。
【0032】
(実施例4)
界面活性剤として、アルキルリン酸エステル塩(高松油脂化学製、商品名:エレナイトAB−150)をスルホン化処理されたポリオレフィン系不織布に対して0.10質量%となるように含浸し、乾燥後、スーパーカレンダーにて、厚み120μmに調整して、電池用セパレータを得た。
【0033】
(実施例5)
界面活性剤として、アルキルリン酸エステル塩(高松油脂化学製、商品名:エレナイトAB−150)をスルホン化処理されたポリオレフィン系不織布に対して2.50質量%となるように含浸し、乾燥後、スーパーカレンダーにて、厚み120μmに調整して、電池用セパレータを得た。
【0034】
(実施例6)
界面活性剤として、アルキルリン酸エステル塩(高松油脂化学製、商品名:エレナイトAB−150)をスルホン化処理されたポリオレフィン系不織布に対して0.05質量%となるように含浸し、乾燥後、スーパーカレンダーにて、厚み120μmに調整して、電池用セパレータを得た。
【0035】
(実施例7)
界面活性剤として、アルキルリン酸エステル塩(高松油脂化学製、商品名:エレナイトAB−150)をスルホン化処理されたポリオレフィン系不織布に対して0.01質量%となるように含浸し、乾燥後、スーパーカレンダーにて、厚み120μmに調整して、電池用セパレータを得た。
【0036】
(実施例8)
界面活性剤として、アルキルフェニルリン酸エステル塩(東邦化学製、商品名:フォスファノール(登録商標)RD−715)をスルホン化処理されたポリオレフィン系不織布に対して0.50質量%となるように含浸し、乾燥後、スーパーカレンダーにて、厚み120μmに調整して、電池用セパレータを得た。
【0037】
(実施例9)
界面活性剤として、アルキルフェニルリン酸エステル(東邦化学製、商品名:フォスファノール(登録商標)RP−710)をスルホン化処理されたポリオレフィン系不織布に対して0.50質量%となるように含浸し、乾燥後、スーパーカレンダーにて、厚み120μmに調整して、電池用セパレータを得た。
【0038】
(実施例10)
界面活性剤として、アルキルリン酸エステル(東邦化学製、商品名:フォスファノール(登録商標)ML−240)をスルホン化処理されたポリオレフィン系不織布に対して0.50質量%となるように含浸し、乾燥後、スーパーカレンダーにて、厚み120μmに調整して、電池用セパレータを得た。
【0039】
(比較例1)
界面活性剤として、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム(花王製、商品名:エマール(登録商標)20C)をスルホン化処理されたポリオレフィン系不織布に対して0.50質量%となるように含浸し、乾燥後、スーパーカレンダーにて、厚み120μmに調整して、電池用セパレータを得た。
【0040】
(比較例2)
界面活性剤として、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム(花王製、商品名:エマール(登録商標)20C)をスルホン化処理されたポリオレフィン系不織布に対して1.00質量%となるように含浸し、乾燥後、スーパーカレンダーにて、厚み120μmに調整して、電池用セパレータを得た。
【0041】
(比較例3)
界面活性剤として、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム(花王製、商品名:ペレックス(登録商標)SS−H)をスルホン化処理されたポリオレフィン系不織布に対して0.50質量%となるように含浸し、乾燥後、スーパーカレンダーにて、厚み120μmに調整して、電池用セパレータを得た。
【0042】
(比較例4)
界面活性剤として、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム(花王製、商品名:ペレックス(登録商標)SS−H)をスルホン化処理されたポリオレフィン系不織布に対して1.00質量%となるように含浸し、乾燥後、スーパーカレンダーにて、厚み調整して、電池用セパレータを得た。
【0043】
(比較例5)
界面活性剤として、アセチレングリコール(日信化学工業製、商品名:サーフィノール(登録商標)465)をスルホン化処理されたポリオレフィン系不織布に対して0.50質量%となるように含浸し、乾燥後、スーパーカレンダーにて、厚み調整して、電池用セパレータを得た。
【0044】
<評価方法>
実施例及び比較例で得られた電池用セパレータについて、下記の評価を行い、結果を表1に示した。
【0045】
[硫黄含有率]
スルホン化処理された電池セパレータから直径35mmの試料を採取し、イオン交換水200mL中で10分間、2回洗浄し、60℃で10分間乾燥して測定用試料を作製した。この試料をホルダーにセットして、リガク製の蛍光X線装置(装置名:ZSX Primus II、Rhターゲット、50kV−50mA)で全元素測定を行った。硫黄含有率は、測定値を半定量分析法であるSQX計算することで算出し、スルホン化処理量を質量%で見積もった。
【0046】
[吸液性]
25mm×250mmの試験片を採取し、水分平衡状態にする。次に、試験片を20℃に保った比重1.30KOH水溶液を入れた水槽上の、一定の高さに支えた水平棒上にピンで止める。試験片の下端を並べて、水平棒を下ろし、試験片の下端が5mmだけ液中に漬かるように垂直に立て、毛細管現象によりKOH水溶液が上昇した高さを、3分後及び30分後に測定する。
【0047】
[注液性]
電極の集電体として、発泡ニッケル基材を用いたペースト式水酸化ニッケル正極(40mm幅)と、ニッケルメッキパンチングメタル基材を用いた水素吸蔵合金負極(40mm幅)を1枚ずつ用い、これらの電極の間に、43mm幅の実施例及び比較例で得られた電池用セパレータを介在させて、電池構成機を用いて巻き取り、渦巻状極板群を作製した。該渦巻状極板群を円筒形の金属ケースに収納した後、1N水酸化リチウムを含む7N水酸化カリウム水溶液を主体とするアルカリ電解液を一定量注入し、該電解液を吸収するのに要した時間を測定した。100秒未満を「○」、100秒以上を「△」とした。
【0048】
[電池製造時の不良率]
上記のようにして渦巻状極板群を作製し、円筒形の金属ケースに収納した後、安全弁付きの封印蓋を取り付けて、公称容量が1.7Ahの単3形密閉式ニッケル水素電池を10000個作製した。その後、正極と負極との間に240Vの電圧を印加し、各電池用セパレータについて30個選別した。電池の化成のため、25℃において、170mA(0.1C)の電流で15時間充電し、1.7A(1C)の電流で端子電圧が0.8Vになるまで放電するという充放電を4回繰り返した。
【0049】
[高率放電特性]
上記のようにして得られた化成済みの電池10個を用い、25℃で、1.7A(1C)の電流で充電し、満充電に達した後、電池電圧が10mV低下した時点で充電を1時間休止させ、次に30A(17.6C)の電流で終止電圧が0.8Vになるまで放電させる。このとき、放電時間から高率放電容量を求め、比較例1で作製したスルホン化されたオレフィン系繊維のみで構成された電池用セパレータを用いた電池の値を100としたときの指数で表した。100以下を「×」、101〜104を「△」、105以上を「○」として、高率放電特性の指標とした。
【0050】
[自己放電特性]
上記のようにして得られた化成済みの電池10個を用い、25℃で、1.7A(1C)の電流で充電し、満充電に達した後、電池電圧が10mV低下した時点で充電を1時間休止させ、次に340mA(0.2C)の電流で終止電圧が1.0Vになるまで放電させたときの放電容量を測定しC1とする。そして同様に1.7A(1C)の電流で充電してから、45℃の恒温槽中にて7日間保存し、その後25℃で6時間放冷し、同様に340mA(0.2C)の電流で放電させたときの放電容量を測定しC2とし、次の式(1)から容量維持率を算出した。容量維持率の値が大きいほど自己放電特性が優れることを示す。
【0051】
容量維持率(%)=C2/C1×100 (1)
【0052】
[加速試験]
上記の試験に加えて、スルホン化処理された電池セパレータに界面活性剤を塗布した後、75℃条件下にて7日間静置した。その後、上記[吸液性]、[注液性]、[高率放電特性]、[自己放電特性]の試験を再度行った。その評価結果を表2に示した。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
実施例で得られた本発明の電池用セパレータは、スルホン化処理されたポリオレフィン系不織布にアルキルリン酸エステル系陰イオン界面活性剤を塗布してなるため、高率放電特性に優れ、長期間の保存及び乾燥条件下においても、吸液性を保ち続ける効果が得られた。
【0056】
実施例1、8、9及び10の比較から、アルキルリン酸系陰イオン性界面活性剤の中でも、アルキルリン酸エステル塩を使用した場合、特に吸液性が優れていることが確認できた。
【0057】
実施例1〜7の比較から、界面活性剤の付与量が0.05〜2.00質量%にて、吸液性と長期間の保存及び乾燥条件下における吸液性及び注液性、高率放電特性、容量維持率が優れており、0.10〜1.00質量%の付与量において、さらに優れていることが確認できた。
【0058】
実施例で得られた本発明の電池用セパレータと比較して、スルホン酸塩系陰イオン界面活性剤を塗布されてなる比較例1、2、3及び4の電池用セパレータは、高率放電特性が低く、長期間の保存及び乾燥条件下における吸液性及び注液性の低下が確認された。
【0059】
実施例で得られた本発明の電池用セパレータと比較して、アセチレングリコール系の界面活性剤を塗布されてなる比較例5の電池用セパレータは、高率放電特性及び容量維持率が低く、長期間の保存及び乾燥条件下における吸液性、注液性及び容量維持率の低下が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0060】
以上、説明したように、本発明の電池用セパレータは、長期間の保存及び乾燥条件下において、吸液性が低下せず、また、耐酸化劣化性、イオン補足性に優れているため、本発明の電池用セパレータを用いたアルカリ二次電池は、優れた高率放電が可能で、長期間に亘って安定した電池特性を示し、自己放電特性も優れるといった秀逸な効果をもたらし、ニッケル−カドミウム電池、ニッケル−亜鉛電池、ニッケル−水素電池等のアルカリ二次電池に好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホン化処理されたポリオレフィン系不織布にアルキルリン酸塩系陰イオン性界面活性剤を塗布してなることを特徴とする電池用セパレータ。
【請求項2】
前記アルキルリン酸系陰イオン界面活性剤は、アルキルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸エステル塩、及び非中和のリン酸エステル系界面活性剤を含む群より選択される1種以上の界面活性剤である請求項1記載の電池用セパレータ。
【請求項3】
界面活性剤の付与量が、スルホン化処理後のポリオレフィン系不織布に対して、0.05〜2.00質量%である請求項1又は2記載の電池用セパレータ。
【請求項4】
界面活性剤の付与量が、スルホン化処理後のポリオレフィン系不織布に対して、0.10〜1.00質量%である請求項1又は2記載の電池用セパレータ。

【公開番号】特開2012−199203(P2012−199203A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64092(P2011−64092)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】