説明

電波伝搬特性推定システム、電波伝搬特性推定方法、およびコンピュータプログラム

【課題】 実測補正の精度を向上させる。
【解決手段】 電波伝搬特性推定システムは、電波伝搬特性を推定する評価エリア内の任意の評価点において、送信局のある送信点から送出された電波の受信レベル推定値を、測定点で測定した受信レベル実測値を用いて実測補正するシステムであって、所定の伝搬推定式を用いて前記評価点における受信レベル推定値を算出する伝搬推定部と、前記送信点から送出された電波の、前記評価点における伝搬損失と前記測定点における伝搬損失の関係を示す信頼度に基づいて、前記受信レベル推定値を実測補正する実測補正部と、前記送信点と前記評価点を結ぶ線分と、前記送信点と前記測定点を結ぶ線分とのなす角度に基づき前記信頼度を算出する角度別信頼度算出部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波伝搬特性推定システム、電波伝搬特性推定方法、およびコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電波伝搬特性の推定は、無線通信システムのエリア設計や干渉推定を行う際に重要である。
【0003】
例えば、移動通信システムでは、移動局の移動時にも通信サービスを維持できるように無線基地局が配置され、無線サービスエリアが連続して形成されるようにする。この際に、電波伝搬特性を推定することで、地形や地物等の影響による電波の受信できないエリアを特定し、そのようなエリアが存在しないよう、無線基地局の無線パラメータ(送信電力、アンテナ指向性、アンテナチルト角等)のチューニングが行われる。
【0004】
また、電波伝搬特性の推定を行う別な例としては、既存無線システムが空間的、時間的に自身の割り当て周波数を使用していない場合に、その周波数を共用して通信を行う無線システムであるコグニティブ無線システムがある。コグニティブ無線システムでは、自身の送信による既存無線システムへの干渉が既存サービスに影響を与えない範囲で、周波数を共用して通信を行う。この際、コグニティブ無線システムの送信によって既存無線システムにどの程度の干渉を与えるか推定するために、電波伝搬特性が推定される。
【0005】
電波伝搬特性は、一般には伝搬推定式を用いることで推定される。この伝搬推定式としては、奥村・秦式やITU−R(International Telecommunication Union Radiocommunications Sector) P.1546モデル(非特許文献1参照)等の様々な伝搬推定式が知られている。しかし、どのような伝搬推定式を用いたとしても、実際に電波伝搬特性を推定するエリアにおける地形や地物等の影響、伝搬推定式のモデル化誤差等によって、少なからず誤差が生じる。
【0006】
このような伝搬推定式の推定誤差(伝搬推定誤差)を軽減する方法として、実測補正が知られている。例えば、特許文献1に記載されている技術では、まず電波伝搬特性を推定するエリアにて走行試験を行い、電波の受信レベルを測定し、実測値を得る。次に、走行試験で得た受信レベルの実測値と伝搬推定式を用いて算出する受信レベルとの誤差が小さくなるように、伝搬推定式のパラメータ(周囲地物高、距離減衰係数、定数項等)を補正する。この際に使用する実測値は、送信点(無線基地局)から所定距離以内である測定データに限定する。これにより、送信点からの距離があまりに離れてしまい、伝搬損失を推定(評価)する位置(以下では、評価点とする)とは伝搬環境の異なる測定点で取得した実測値の影響を排除して、伝搬推定式を実測補正している。
【0007】
また、特許文献2は、送信点を中心として、所定の角度で評価エリアを分割し、評価点が含まれる分割された評価エリア内の測定データのみを使用して、実測補正を行うことについて記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−229453号公報
【特許文献2】特開2005−223732号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】ITU−R,Method for Point to area prediction for terrestrial services in the frequency range 30MHz to 3000MHz,ITU−R P.1546−3,2007.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載の実測補正技術の場合、以下のような問題が懸念される。測定点が送信点から所定距離内にあった場合であっても、必ずしも測定点と評価点との距離が近いとは限らない(例えば、極端には、測定点が送信点を挟んで評価点の反対側に位置する場合等)。評価点と測定点とが離れている場合には、伝搬環境(伝搬損失)の類似性が減少してしまうため、実測補正の精度が低下する虞がある。
【0011】
これに対し、特許文献2に記載の実測補正技術では、送信点を中心として所定角度で評価エリアを分割し、評価点と同一の分割エリアにある測定点で取得した実測値に制限して使用するため、特許文献1と異なり、伝搬環境の類似性をある程度確保した実測補正が可能になる。しかしながら、特許文献2の場合においても、例えば、分割エリアの両端に評価点と測定点が位置する場合には、伝搬環境の類似性が減少する可能性がある。従って、特許文献2の実測補正を用いた場合でも、評価点と測定点の位置関係によっては、実測補正の精度が低下する虞がある。
【0012】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、実測補正の精度を向上させることが可能な電波伝搬特性推定システム、電波伝搬特性推定方法、およびコンピュータプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の電波伝搬特性推定システムは、電波伝搬特性を推定する評価エリア内の任意の評価点において、送信局のある送信点から送出された電波の受信レベル推定値を、測定点で測定した受信レベル実測値を用いて実測補正するシステムであって、所定の伝搬推定式を用いて前記評価点における受信レベル推定値を算出する伝搬推定部と、前記送信点から送出された電波の、前記評価点における伝搬損失と前記測定点における伝搬損失の関係を示す信頼度に基づいて、前記受信レベル推定値を実測補正する実測補正部と、前記送信点と前記評価点を結ぶ線分と、前記送信点と前記測定点を結ぶ線分とのなす角度に基づき前記信頼度を算出する角度別信頼度算出部と、を備える。
【0014】
本発明の電波伝搬特性推定方法は、電波伝搬特性を推定する評価エリア内の任意の評価点において、送信局のある送信点から送出された電波の受信レベル推定値を、測定点で測定した受信レベル実測値を用いて実測補正する方法であって、所定の伝搬推定式を用いて前記評価点における受信レベル推定値を算出し、前記送信点から送出された電波の、前記評価点における伝搬損失と前記測定点における伝搬損失の関係を示す信頼度に基づいて、前記受信レベル推定値を実測補正し、前記信頼度を、前記送信点と前記評価点を結ぶ線分と、前記送信点と前記測定点を結ぶ線分とのなす角度に基づき算出する。
【0015】
本発明のコンピュータプログラムは、電波伝搬特性を推定する評価エリア内の任意の評価点において、送信局のある送信点から送出された電波の受信レベル推定値を、測定点で測定した受信レベル実測値を用いて実測補正するコンピュータプログラムであって、所定の伝搬推定式を用いて前記評価点における受信レベル推定値を算出する処理と、前記送信点から送出された電波の、前記評価点における伝搬損失と前記測定点における伝搬損失の関係を示す信頼度に基づいて、前記受信レベル推定値を実測補正する処理と、前記信頼度を、前記送信点と前記評価点を結ぶ線分と、前記送信点と前記測定点を結ぶ線分とのなす角度に基づき算出する処理と、をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、実測補正の精度を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施形態における評価エリアを説明する図であり、特に、評価エリアにおける測定−評価間角度を説明する図である。
【図2】第1の実施形態に係る電波伝搬特性推定システムの構成例を示すブロック図である。
【図3】本実施形態におけるパスロス誤差相関の関数をグラフ化したものである。
【図4】図2に示す電波伝搬特性推定システムの動作例を示すフローチャートである。
【図5】本発明の第2の実施形態における評価エリアを説明する図であり、特に、地物がある場合の評価エリアを示す図である。
【図6】第2の実施形態に係る電波伝搬特性推定システムの構成例を示すブロック図である。
【図7】第2の実施形態に関し、送信点から評価点の伝搬経路と地物の関係を示す図である。
【図8】第2の実施形態における別の評価エリアの図であり、特に、複数の地物を考慮する場合の評価エリアを示す図である。
【図9】本発明の第3の実施形態に係る無線通信システムの構成図である。
【図10】図9に示すセカンダリシステムの構成例を示すブロック図である。
【図11】図10に示すスペクトルマネージャの動作例(主に、与干渉レベル算出に関する動作例)を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態における評価エリア10を説明する図である。評価エリア10内には、電波伝搬特性の推定対象である電波を送出する送信局11の位置である送信点12と、受信レベルを推定する対象点である評価点13と、実測補正で用いる受信レベル実測値を測定した点である測定点14とが存在する。ここで、送信点12と評価点13を結ぶ線分と、送信点12と測定点14を結ぶ線分とがなす角度を、測定−評価間角度θとしている。
【0019】
本実施形態では、評価点13における受信レベルの推定を目的とし、その手段として、伝搬推定式を用いて算出した評価点13の受信レベル推定値を、測定点14において測定した受信レベル実測値を用いて実測補正する電波伝搬特性推定システムについて説明する。
【0020】
図2は、本実施形態に係る電波伝搬特性推定システム200の構成例を示すブロック図である。電波伝搬特性推定システム200は、伝搬推定部202と、測定データ決定部203と、測定データ記憶部204と、角度別信頼度算出部205と、実測補正部207と、を備える。
【0021】
電波伝搬特性推定システム200には、評価エリア10内の任意の点であって、受信レベルを推定する対象点である評価点に関する評価点情報(位置情報、想定する受信アンテナ高、想定する受信アンテナ利得等)が入力される。この評価点情報は、伝搬推定部202と、測定データ決定部203と、角度別信頼度算出部205へと入力される。ここで、上記位置情報は、例えば、緯度・経度の座標情報とすることができる。また、本実施形態では、評価点は、図3における評価点13であるとする。
【0022】
測定データ決定部203は、入力された評価点情報を基に、実測補正で用いる測定データを決定する。この測定データは、走行試験等により取得されるデータであって、受信レベルの実測値と、測定点情報(測定位置、測定アンテナ高、測定アンテナ利得等)で構成される。また、測定データは、測定データ記憶部204に保持されている。測定データ決定部203は、測定データ記憶部204から測定データを取得する。例えば、複数の測定データがある場合には、入力された評価点からの距離が最も近い測定点を選ぶこと等ができる。なお、本実施形態では、測定データは、測定点14の測定データが用いられるものとする。測定データ決定部203は、取得した測定データを、伝搬推定部202と、角度別信頼度算出部205と、実測補正部207とに出力する。
【0023】
なお、通常は、電波の測定によって電波固有の識別符号(例えば、送信局(基地局)毎に割り当てられたスクランブリングコード等)の情報を得ることができるが、実測補正を行うためには、さらにその識別符号がどの送信局から送信されたかを把握する必要がある。例えば、送信局の情報として、使用する識別符号を表す送信局データを保持していれば、測定データがどの送信局の信号の受信レベルを表すかを特定できるようになる。本発明では、説明を明りょうにするために、以上のように、識別符号と送信局データとを用いて、電波伝搬特性推定の対象である送信局と測定データとが既に関連付けられているものとし、実測補正には当該測定データを用いることとする。
【0024】
伝搬推定部202は、評価点13に関する評価点情報と、測定データ決定部203から出力された、測定点14での測定データとを入力する。伝搬推定部202は、評価点13および測定点14のそれぞれにおける受信レベル推定値を算出する。
【0025】
具体的には、伝搬推定部202は、評価点13と送信点12との距離を算出し、この距離における伝搬損失を、所定の伝搬推定式(例えば、奥村・秦式やITU−R P.1546モデル等の伝搬推定式)を用いて算出する。伝搬推定部202は、この伝搬損失と、送信局11の送信電力と、送信アンテナの指向性を含めたアンテナ利得と、評価点13で電波の受信に想定する受信アンテナ利得とを用いて、評価点13における受信レベル推定値を算出する。また、伝搬推定部202は、測定点14と送信点12との距離を算出し、この距離における伝搬損失を、上記伝搬推定式を用いて算出する。伝搬推定部202は、この伝搬損失と、送信局11の送信電力と、送信アンテナの指向性を含めたアンテナ利得と、測定点14における実測時の受信アンテナ利得とを用いて、測定点14における受信レベル推定値を算出する。
【0026】
こうして得られた評価点13および測定点14における各受信レベル推定値は、実測補正部207へと入力される。
【0027】
なお、本実施形態では、電波伝搬特性推定の対象である送信局についての情報(位置情報や送信電力、送信アンテナ利得、送信アンテナ高等)は、電波伝搬特性推定システム200に与えられており、使用できるものとする。
【0028】
角度別信頼度算出部205は、伝搬推定部202で算出された、評価点13における受信レベル推定値を、走行試験等により取得した受信レベル実測値を用いて実測補正する際に用いる、受信レベル実測値の信頼度(以下、「測定信頼度」)を算出する。測定信頼度は、本質的には、送信点12(送信局11)からの送信波の、評価点13における伝搬損失と測定点14における伝搬損失の関係(例えば、パスロス誤差の相関等)を表すものである。そして、この測定信頼度は、受信レベル実測値の評価点13に対する有効性を示す重み情報となる。この測定信頼度の算出に関し、角度別信頼度算出部205は、評価点13に関する評価点情報と、測定データ決定部203から出力された、測定点14での測定データとを入力する。角度別信頼度算出部205は、評価点情報の位置情報と測定データの位置情報を基に、送信点12と評価点13を結ぶ線分と、送信点12と測定点14を結ぶ線分とのなす角度である測定−評価間角度θを求める。角度別信頼度算出部205は、この測定−評価間角度θに基づいて、測定信頼度を算出する。
【0029】
本実施形態で用いる測定信頼度は、評価点13における実際の受信レベル(受信レベル真値)と伝搬推定式を用いて算出した受信レベル推定値との差であるパスロス誤差と、測定点14における受信レベル真値(測定点14での実測値に相当)と伝搬推定式を用いて算出した受信レベル推定値との差であるパスロス誤差との相関値であるパスロス誤差相関を用いる。このパスロス誤差相関の性質としては、例えば、パスロス誤差相関が高いとき(1に近いとき)には、測定点14におけるパスロス誤差が例えば+2dBであれば、評価点におけるパスロス誤差も+2dB程度である可能性が高くなる。反対に、パスロス誤差相関が低いとき(0に近いとき)には、測定点14におけるパスロス誤差が+2dBであったからといって、評価点におけるパスロス誤差が+2dBであるとは限らない。
【0030】
このパスロス誤差相関は、測定−評価間角度θに依存する値である。本実施形態では、このパスロス誤差相関を、測定−評価間角度θを変数としてρ(θ)と表すことにする。以下、このρ(θ)を、便宜的に、パスロス誤差相関と呼ぶことにするが、このρ(θ)は、パスロス誤差角度相関と呼ぶこともできる。
【0031】
図3は、パスロス誤差相関の関数ρ(θ)をグラフ化したものである(換言すれば、図3に示す特性を関数化したものが、関数ρ(θ)であるとも言える)。図3から諒解されるように、測定−評価間角度θが小さい場合には測定点14の周囲環境と評価点13の周囲環境との類似度が高くなるため、パスロス誤差相関が高くなり、反対に測定−評価間角度θが大きい場合にはパスロス誤差相関が低くなる。なお、図3に示す特性はあくまで一例であって、パスロス誤差相関の関数ρ(θ)は、測定−評価間角度θとパスロス誤差相関(角度相関)との関係を特定できる方法であれば如何なる方法で決定されてもよい。例えば、実験結果等から得られた特性を関数化することができ、あるいは、所定の計算式とすることもできる。
【0032】
角度別信頼度算出部205は、測定−評価間角度θを用いることで、パスロス誤差相関ρ(θ)を算出し、これを測定信頼度とする。こうして得られた測定信頼度は実測補正部207へと出力される。
【0033】
実測補正部207は、伝搬推定部202から、評価点13における受信レベル推定値(以下、Eとする)と測定点14における受信レベル推定値(以下、Eとする)を入力する。また、実測補正部207は、測定データ決定部203から測定データ(以下、このうちの受信レベル実測値をRとする)を入力するとともに、角度別信頼度算出部205から測定データの評価点13に対する測定信頼度(以下、wとする)を入力する。実測補正部207は、これらの入力を用いて、伝搬推定式により求めた評価点13の受信レベル推定値Eを、下記の(式1)によって実測補正する。


【0034】
(式1)において、Cは、評価点13における実測補正後の受信レベルを表す。(式1)は、測定点14におけるパスロス誤差(R−E)に測定信頼度wを重みとして乗じ、受信レベル推定値Eを補正するものである。この実測補正方法は、測定信頼度が高い場合には、受信レベル推定値に対して受信レベル実測値を大きく反映させる補正が行われ、測定信頼度が低い場合には、受信レベル実測値を小さく反映させる補正が行われる。こうして得られた評価点13における実測補正後の受信レベルは、出力される。
【0035】
なお、上述の説明では、(式1)における測定信頼度wを、パスロス誤差相関ρ(θ)とした(すなわちw=ρ(θ)とした)。この測定信頼度wに対して、さらに、測定点14における受信レベルの実測時の測定誤差を考慮に入れることも可能である。ここで、測定誤差は、測定時に含まれる熱雑音等の影響によって発生する統計誤差である。測定誤差の大きさに応じて、受信レベル実測値と受信レベル真値とのずれが大きくなるため、実測補正の精度が劣化する。測定誤差の影響を考慮に入れるためには、測定点14における受信レベル実測値の測定誤差の分散をσとし、また、伝搬推定式のパスロス誤差の分散をσとすれば、測定信頼度を(式2)で与えることができる。


【0036】
この(式2)では、受信レベル実測値の測定誤差とパスロス誤差との兼ね合いで測定信頼度を決定する、(式2)で定義された測定信頼度は、測定誤差がパスロス誤差に比べて十分低い場合は、パスロス誤差相関に近づき、一方、測定誤差がパスロス誤差に比べて十分高い場合は、パスロス誤差相関と比べて小さくなる。こうして得られた補正後の受信レベルは外部へ出力される。
【0037】
図4は、図2に示す電波伝搬特性推定システム200の動作例を示すフローチャートを表している。なお、以下の説明では、必要に応じて、図1〜図3を参照する。
【0038】
まず、電波伝搬特性を推定する評価エリア10内で、受信レベルを推定する対象である評価点13の位置を入力する(ステップS10)。次に、この評価点13における受信レベルの実測補正で用いる測定点14を決定する(ステップS11)。伝搬推定部202は、上述の伝搬推定式を用いて、評価点13および測定点14における各受信レベル推定値を算出する(ステップS12)。続いて、角度別信頼度算出部205は、評価点13と測定点14との位置情報を用いることで測定−評価間角度θを算出し、この測定−評価間角度θに基づいてパスロス誤差相関ρ(θ)を算出し、このパスロス誤差相関ρ(θ)を、評価点13に対する測定点14の測定信頼度とする(ステップS13)。次に、実測補正部207は、この測定信頼度を用いて実測補正を行う(ステップS14)。具体的には、実測補正部207は、測定点14におけるパスロス誤差(受信レベル実測値と伝搬推定式により求めた受信レベル推定値との誤差)に測定信頼度(この場合、パスロス誤差相関ρ(θ))を乗じた値を補正値として、評価点13における受信レベル推定値を補正する。
【0039】
ここで、前述したとおり、送信点を中心として所定角度で評価エリアを分割した場合、伝搬環境(伝搬損失)の類似性は、分割エリアの両端で異なる可能性がある。すなわち、伝搬環境の類似性は、送信点と評価点を結ぶ線分と送信点と測定点を結ぶ線分とのなす角度に依存する。これに対応して、以上説明した第1の実施形態では、測定点におけるパスロス誤差と評価点におけるパスロス誤差の相関であるパスロス誤差相関を、送信点と評価点を結ぶ線分と送信点と測定点を結ぶ線分とのなす角度である測定−評価間角度に基づき算出し、これを測定信頼度とする。そして、この測定信頼度を用いて、評価点における受信レベル推定値を実測補正する。すなわち、測定点と評価点の伝搬環境の類似性に応じた効果的な実測補正が可能になる。
【0040】
さらに、測定信頼度に、パスロス誤差相関だけでなく、受信レベル実測時の測定誤差の分散と、パスロス誤差の分散とを考慮することで、測定誤差の影響を軽減させた実測補正が可能になる。
【0041】
なお、本実施形態では、測定−評価間角度を変数とした関数としてパスロス誤差相関を決定したが、これに加えて、測定点と評価点と間の距離を変数とさせることも可能である。この場合には、角度別信頼度算出部205は、測定点と評価点との位置情報から測定−評価間角度だけでなく、測定点と評価点との間の距離を算出する。この距離と測定−評価間角度に応じたパスロス誤差相関を算出して、測定信頼度とした実測補正を行う。ここで、測定−評価間角度が同一であっても測定点と評価点との間の距離が異なる場合がある。このような実測補正を行うことで、例えば、同一の測定−評価間角度であっても、測定点と評価点との間の距離が近い場合、より伝搬環境の類似した測定データの影響を大きく補正に反映させることができるようになるため、実測補正の精度をより向上させることができる。
【0042】
[第2の実施形態]
第2の実施形態の特徴は、第1の実施形態における測定−評価間角度に加えて、伝搬経路周辺の地物データを用いることで測定信頼度を決定する点にある。
【0043】
図5は、第2の実施形態における測定信頼度で影響を考慮する地物30を図示した評価エリア10を示している。なお、図5において、評価エリア10、送信点12、評価点13は、図1と同様である。
【0044】
図5に示すように、評価エリア10は、送信点12から送信された電波が地物30によって遮蔽される評価エリア(図5ではAと図示)と、地物30による遮蔽の影響を受けない評価エリア(図5ではBと図示)を含む。また、地物によって遮蔽される角度である地物遮蔽角度をθ1としている。ここで、評価エリアAに測定点17があり、評価エリアBに測定点16があるものとする。第2の実施形態では、このような地物30による遮蔽の影響を受ける評価エリアAにある測定点17と遮蔽の影響を受けない評価エリアBにある測定点16とで異なる測定信頼度を用いる。
【0045】
図6は、第2の実施形態に係る電波伝搬特性推定システム300の構成例を示すブロック図である。図6における、伝搬推定部202と、測定データ決定部203と、測定データ記憶部204と、実測補正部207とは、第1の実施形態の電波伝搬特性推定システム200(図2参照)に示したものと同じである。電波伝搬特性推定システム300の電波伝搬特性推定システム200に対する違いは、角度別信頼度算出部205を角度別信頼度算出部301に代え、さらに、地物データ記憶部302を新たに備えている点にある。以上のことから、以下では、説明を明りょうにするために、電波伝搬特性推定システム200と同一の構成要素については説明を省略し、異なる構成(すなわち、角度別信頼度算出部301および地物データ記憶部302)についてのみ説明する。
【0046】
地物データ記憶部302には、評価エリア10内の地物についてのデータ(以下、地物データと呼ぶ。また、例としては、建物に関する情報)が保持されている。ここで、地物データは、地物の位置、高さ、大きさ(例えば、建物を直方体で近似した場合の幅、奥行き等)、地物の向き等の情報を表している。この地物データを用いることで、図5の地物30のように地図上へのマッピングが可能になる。なお、高さの代わりに、建物の階数が保持されている場合もある。この地物データは、角度別信頼度算出部301で利用される。
【0047】
角度別信頼度算出部301は、前述の通り、測定−評価間角度に加えて、地物による遮蔽の影響を考慮して測定信頼度を算出する。まず、角度別信頼度算出部301は、評価点情報と、測定データ決定部203から出力される測定データと、を入力する。次に、角度別信頼度算出部301は、図5に示すように、送信点12から評価点13までの伝搬経路周辺の地物30に関する地物データを、角度別信頼度算出部301から取得する。ここで、伝搬経路とは、送信局11のアンテナと評価点13での想定アンテナとを結ぶ線分、および、その線分を地面上に射影した線分の両方を含むとする。次に、角度別信頼度算出部301は、入力された測定データの位置情報を基に、測定点が地物30によって遮蔽される評価エリアAに属するか、遮蔽の影響を受けない評価エリアBに属するかを求める。
【0048】
例えば、測定点が評価エリアAに属する場合には(例えば測定点17の場合には)、角度別信頼度算出部301は、測定信頼度の関数としてρa(θ)を用いて測定信頼度を算出する。一方、評価エリアBに属する場合には(例えば測定点16の場合には)、角度別信頼度算出部301は、測定信頼度の関数としてρb(θ)を用いて測定信頼度を算出する。ここで、θは測定−評価間角度であり、送信点12の位置情報、測定点(16、17)の位置情報、評価点13の位置情報から算出される。算出された測定信頼度は、実測補正部207へ出力される。
【0049】
評価エリアAに属する測定点17では、評価点13と同様に地物30による電波の遮蔽の影響を受けることから、両点は伝搬環境の類似性が高い(すなわち、測定点の信頼度が高い)。これに対し、評価エリアBに属する測定点16では、地物30による遮蔽の影響を受けないため、評価点13の伝搬環境との類似性が低くなる(すなわち、測定点の信頼度が低い)。そこで、評価エリアAにおける測定信頼度の方が、評価エリアBにおける測定信頼度よりも高くなるように、各関数ρa(θ)、ρb(θ)を決定する。ここで、各関数ρa(θ)、ρb(θ)は、上記関係(すなわち、少なくとも、評価エリアAにおける測定信頼度の方が評価エリアBにおける測定信頼度よりも高くなるような関係)させ満たしていれば、どのような関数を用いてもよい。例えば、図3に示す関数ρ(θ)と同様に、実験結果等から得られた特性を関数化することができ、あるいは、所定の計算式とすることもできる。また、例えば、関数ρa(θ)、ρb(θ)は、各評価エリアA、B内において、θが大きくなるにつれて測定信頼度が低下する関数とすることができる。あるいは、関数ρa(θ)、ρb(θ)は、各評価エリアA、B内において一定値を出力する関数であってもよい(もちろん、この場合、評価エリアAにおける測定信頼度の方が評価エリアBにおける測定信頼度よりも高くなるようにする)。
【0050】
以上により、遮蔽物等があった場合であっても適切な信頼度の設定ができ、結果として、測定点と評価点の伝搬環境の類似性に応じた効果的な実測補正が可能になる。
【0051】
なお、上記では送信点12から評価点13までの伝搬経路周辺に地物30が存在することを仮定した。しかし、現実的には伝搬経路周辺には多数の地物が存在することが想定される。
【0052】
図7は、送信点12から評価点13の伝搬経路と地物の関係を示す図である。図7では、送信点12から評価点13までの伝搬経路を横軸とし、高さを縦軸としている。図7では、複数の地物(地物31、地物32、地物33、地物34)が伝搬経路周辺にある例を図示している。また、図7には、送信点12の送信局アンテナ41と評価点13の想定アンテナ40とが示されており、さらに、これらアンテナ間を結ぶ線分(すなわち、見通し内直接波の伝搬経路)が破線で示されている。
【0053】
図7のように伝搬経路周辺に複数の地物がある場合には、地物の高さを選択基準として、電波遮蔽の影響を考慮する地物を選択することができる。例えば、伝搬経路周辺の地物の中で最大高である地物32を選択することができる。また、電波遮蔽の影響を考慮する地物の別な選択方法としては、所定の高さ以上である地物を選択することも可能である。さらに、地物の別な選択方法としては、送信局アンテナ41と評価点13の想定アンテナ40とを結ぶ線分である見通し内直接波の伝搬経路の高さを基準として、地物の相対高さを選択基準とすることもできる。
【0054】
また、使用する伝搬推定式によって異なる地物の選択基準を用いることができる。例えば、奥村・秦式等の統計的伝搬推定式では、特定の地物を考慮しないため、伝搬経路を遮るような高い地物が伝搬推定の誤差要因となる可能性が高い。従って、このような場合には、上述の見通し内直接波の伝搬経路の高さを基準とした相対高さが高いことを地物の選択基準として用いることで、その影響を考慮することが望ましい。一方で、レイトレース法等といった決定論的伝搬推定方法では、伝搬経路周辺にある地物を考慮するため、相対高さが十分に高く伝搬経路を必ず遮るような地物は既に考慮されているので、誤差要因となりにくい。しかしながら、見通し内直接波の伝搬経路の高さと同程度の高さである地物は、実際に見通し内直接波を遮るか否かで大きく伝搬損失が変わってくる可能性がある。特に、地物の高さ情報が正確でなく、例えば、高さの情報として建物の階数情報しか得られないような場合には、このような状況での誤差が発生しやすい。従って、レイトレース法等の決定論的伝搬推定方法では、見通し内直接波の伝搬経路の高さを基準とした相対高さが零に近い地物を選択することが、誤差要因を特定するために望ましい。
【0055】
さらに、伝搬経路周辺の電波遮蔽の影響を考慮する地物として、複数の地物を選択することも可能である。以下、複数の地物による電波遮蔽の影響を考慮する例について説明する。
【0056】
図8は、第2の実施形態における別の評価エリアの図であり、特に、複数の地物を考慮する場合の評価エリア10を示す図である。図8では、送信点12から評価点13までの伝搬経路周辺にある地物の中で、電波遮蔽の影響を考慮する地物として地物35と地物36を選択した例を示す。評価エリア10は複数の評価エリアに分割されている。地物35と地物36の両方に遮蔽される評価エリアをA1とし、地物35のみに遮蔽される評価エリアをA2とし、地物36のみに遮蔽される評価エリアをA3とし、地物による遮蔽の影響がない評価エリアをBとしている。評価エリアA1、A2、A3、Bには、測定点19、測定点18、測定点20、測定点21がそれぞれ属しているものとする。また、この場合、評価点13が評価エリアA1内に存在しているものとする。
【0057】
このような場合には、評価エリア毎に異なる測定信頼度関数を用いる。例えば、評価エリアA1に属する測定点19に対しては測定信頼度ρa1(θ)を用い、評価エリアA2に属する測定点18に対しては測定信頼度ρa2(θ)を用い、評価エリアA3に属する測定点20に対しては測定信頼度ρa3(θ)を用い、評価エリアBに属する測定信頼度に対しては測定信頼度ρb(θ)を用いる。ここで、各測定信頼度関数ρa1(θ)、ρa2(θ)、ρa3(θ)、ρb(θ)は、評価点13の伝搬環境との各類似性に応じた値となるようにする。具体的には、例えば、評価点13の伝搬環境との類似性が最も高い評価エリアA1の測定信頼度が、他の評価エリアA2、A3、Bの測定信頼度よりも大きくなるように、ρa1(θ)を設定する。ここで、各関数ρa1(θ)、ρa2(θ)、ρa3(θ)、ρb(θ)は、上記関係(少なくとも、評価点13の伝搬環境との類似性が最も高い評価エリアA1の測定信頼度が、他の評価エリアA2、A3、Bの測定信頼度よりも大きくなるような関係)させ満たしていれば、どのような関数を用いてもよい。例えば、図3に示す関数ρ(θ)と同様に、実験結果等から得られた特性を関数化することができ、あるいは、所定の計算式とすることもできる。また、例えば、関数ρa1(θ)、ρa2(θ)、ρa3(θ)、ρb(θ)は、各評価エリアA1、A2、A3、B内において、θが大きくなるにつれて測定信頼度が低下する関数とすることができる。あるいは、関数ρa1(θ)、ρa2(θ)、ρa3(θ)、ρb(θ)は、各評価エリアA1、A2、A3、B内において一定値を出力する関数であってもよい(もちろん、この場合、評価エリアA1における測定信頼度が他の評価エリアにおける測定信頼度よりも高くなるようにする)。
【0058】
以上説明した第2の実施形態では、評価点における受信レベル推定値を実測補正する際に、送信点から評価点までの伝搬経路周辺にある地物によって生じる電波遮蔽を考慮した測定信頼度を用いて実測補正を行うため、測定点と評価点の伝搬環境の類似性をより反映した効果的な補正が可能になる。
【0059】
また、電波遮蔽の影響を考慮する地物の選択を、その地物の高さを選択基準として行うことで、より効果的な補正が可能になる。
【0060】
また、見通し内直接波の伝搬経路の高さを基準とした地物の相対高さを選択基準として、電波遮蔽の影響を考慮する地物を選択することで、直接波を遮ることによる伝搬推定誤差の影響を考慮させた効果的な補正が可能になる。
【0061】
また、実測補正の際には、第1の実施形態と同様に、パスロス誤差角度相関だけでなく、受信レベル実測時の測定誤差の分散とパスロス誤差の分散とを考慮することも可能である。
[第3の実施形態]
上述の第1および第2の実施形態では、実測補正を行うシステムを電波伝搬特性推定システムとした。一方で、このような実測補正は、既存無線システムの周波数を共用して通信を行うコグニティブ無線システムにおいても有用である。コグニティブ無線システムでは、自身の送信による既存無線システムへの干渉が既存サービスに影響を与えないよう、既存無線システムにどの程度の干渉を与えるか推定する必要がある。本実施形態は、干渉を把握するために、第1および第2の実施形態として説明した実測補正を行うコグニティブ無線システムについて説明するものである。
【0062】
図9は、本発明の第3の実施形態の無線通信システムの構成図である。本無線通信システムは、コグニティブ無線システム(以降では、セカンダリシステムとする)と、既存無線システム(以降では、プライマリシステムとする)を備える。プライマリシステムは、カバレッジ52を有する送信局50(以降では、プライマリ送信局50とする)と、受信局51(以降では、プライマリ受信局とする)と、を備える。セカンダリシステムは、送信局55(以降では、セカンダリ送信局とする)と、モニタリング局56と、を備える。
【0063】
図9において、プライマリシステムと同一の周波数帯域で送出したセカンダリ送信局55の電波が、プライマリ受信局51への干渉となっている。ここで、プライマリ受信局51は、カバレッジ52のエリア端に位置し、カバレッジ52内のプライマリ受信局の中で、セカンダリ送信局55からの干渉レベルが最も高いプライマリ受信局とする。セカンダリシステムでは、このプライマリ受信局51への与干渉量を把握することで、プライマリシステムの既存サービスに影響を与えないよう、与干渉レベルを許容値以下にする等の制御を行う。
【0064】
モニタリング局56は、プライマリ受信局51の周辺に位置するセカンダリシステムの受信局の一つであり、セカンダリ送信局55から送出されプライマリ受信局51へ干渉となる電波を測定する。この測定データを用いることで、プライマリ受信局51への与干渉レベルを精度良く実測補正する。
【0065】
すなわち、本実施形態において、受信レベルの推定対象である評価点はプライマリ受信局51の位置であり、測定点はモニタリング局56の位置である。そして、実測補正に使用する受信レベル実測値は、モニタリング局56が測定した与干渉レベルとなる。
【0066】
図10は、図9に示すセカンダリシステムの構成例を示すブロック図である。セカンダリシステムは、セカンダリ送信局55と、モニタリング局56と、コアネットワーク57と、地理データベース58と、スペクトルマネージャ59と、を備える。
【0067】
コアネットワーク57は、セカンダリ送信局55、モニタリング局56、地理データベース58、スペクトルマネージャ59との間で通信をするためのネットワークである。
【0068】
地理データベース58は、プライマリシステムに関する情報(送信電力や送信アンテナ利得、カバレッジ、受信アンテナ高や受信アンテナ利得)を保持する。地理データベース58に保持されたプライマリシステムに関する情報は、コアネットワーク57を経由して、セカンダリ送信局55やスペクトルマネージャ59で利用される。
【0069】
スペクトルマネージャ59は、プライマリシステムの既存サービスに影響を与えないように、セカンダリ送信局55からの与干渉レベルの制御や、使用する周波数帯域の制御を行う。また、スペクトルマネージャ59は、与干渉レベル制御を行うために、セカンダリ送信局55からプライマリ受信局51への与干渉レベルを算出する。具体的には、まず、スペクトルマネージャ59は、地理データベース58からプライマリシステムに関する情報を取得して、セカンダリ送信局55からの干渉が最大となる位置(すなわち、プライマリ受信局51の位置)を特定する。次いで、スペクトルマネージャ59は、所定の伝搬推定式により、プライマリ受信局51の位置における受信レベル推定値を算出する。さらに、スペクトルマネージャ59は、測定信頼度を決定する。そして、スペクトルマネージャ59は、モニタリング局56における与干渉レベル実測値と上記測定信頼度を用いて上記受信レベル推定値を実測補正し、与干渉レベルを算出する。ここで算出された与干渉レベルは、セカンダリ送信局55へ送られる。セカンダリ送信局55は、例えば、与干渉レベルが許容値以下となるような送信制御を行う。これにより、セカンダリシステムのサービスがプライマリシステムの既存サービスに影響を与えることを回避することができる。
【0070】
図11は、図10に示すスペクトルマネージャ59の動作例(主に、与干渉レベル算出に関する動作例)を説明するためのフローチャートである。
【0071】
まず、スペクトルマネージャ59は、カバレッジ52内で与干渉レベルが最大となるプライマリ受信局51の位置(すなわち、「評価点」の位置)を特定する(ステップS20)。
【0072】
次に、実測補正に使用する測定データを取得するために、スペクトルマネージャ59は、モニタリング局56(プライマリ受信局51の周辺に位置するセカンダリシステムの受信局であり、その位置を「測定点」とする)に対して、セカンダリ送信局55の送出した電波を測定するモニタリング指示を送信する(ステップS21)。
【0073】
続いて、スペクトルマネージャ59は、モニタリング局56が与干渉レベルを測定した後に、モニタリング局56から測定データを受信する(ステップS22)。
【0074】
スペクトルマネージャ59は、所定の伝搬推定式を用いて、セカンダリ送信局55からプライマリ受信局51への伝搬損失を算出する。そして、スペクトルマネージャ59は、この伝搬損失と、セカンダリ送信局55の送信電力および送信アンテナ利得と、プライマリ受信局51の受信アンテナ利得とを用いて、プライマリ受信局51への与干渉レベル推定値(第1および第2の実施形態における「受信レベル推定値」)を算出する(ステップS23)。
【0075】
スペクトルマネージャ59は、送信点(セカンダリ送信局55)から評価点(プライマリ受信局51)を結ぶ線分と送信点から測定点(モニタリング局56)を結ぶ線分とのなす角度に基づき与干渉レベル推定値の補正に関する測定信頼度を算出する。そして、スペクトルマネージャ59は、この測定信頼度に応じて、与干渉レベル実測値を用いた与干渉レベル推定値の実測補正を行う(ステップS24)。
【0076】
すなわち、スペクトルマネージャ59は、第1および第2の実施形態における電波伝搬特性推定システムの実測補正に関する機能を備え、実測補正を用いてプライマリ受信局51への与干渉レベルの推定値を補正する。
【0077】
以上説明した第3の実施形態によれば、既存無線システムと周波数帯域を共用して通信を行うコグニティブ無線システムにおいて、第1および第2の実施形態と同様に、測定点と評価点の伝搬環境の類似性に応じた効果的な実測補正が可能になる。なぜならば、与干渉制御の基礎となる与干渉レベルは、送信点(セカンダリ送信局55)から評価点(プライマリ受信局51)を結ぶ線分と送信点から測定点(モニタリング局56)を結ぶ線分とのなす角度に基づき算出される測定信頼度を考慮した実測補正により算出されるからである。
【0078】
また、以上説明した第3の実施形態では、スペクトルマネージャ59において、伝搬推定式を用いた与干渉レベル推定と、与干渉レベルの実測値を用いた実測補正を行ったが、これらはスペクトルマネージャ59以外の装置においても行うことが可能である。例えば、セカンダリ送信局55が与干渉レベル推定と実測補正を行ってもよい。
【0079】
また、以上説明した第3の実施形態では、与干渉レベルの実測値を用いた実測補正を対象としたが、モニタリング局56においてプライマリ送信局50から送出されプライマリ受信局51で受信される信号(以降では、プライマリ信号とする)の電波を測定することも可能である。この場合には、スペクトルマネージャ59において、伝搬推定式を用いてプライマリ受信局51で受信されるプライマリ信号の受信レベルを推定し、モニタリング局56の測定で得たプライマリ信号の実測値を用いて実測補正することで、プライマリシステムのカバレッジ52を正確に推定することが可能になる。また、スペクトルマネージャ59が、与干渉レベルに関する実測補正と、プライマリ信号に関する実測補正との両方を行うことで、プライマリ受信局51における搬送波対干渉電力比を算出し、与干渉レベルの制御に用いてもよい。
【0080】
以上を纏めると、説明した第1〜3の実施形態において、評価点における受信レベルの推定値を実測補正する際に、実測補正に用いる測定データの有効性を、送信点と評価点を結ぶ線分と送信点と測定点を結ぶ線分とのなす角度に応じた測定信頼度とするので、測定点と評価点の伝搬環境の類似性を反映させた効果的な実測補正が可能になる。
【0081】
尚、以上説明した第1〜3の実施形態は、所定のハードウェア、例えば、回路として具現化することもできる。
【0082】
また、以上説明した第1〜3の実施形態は、制御プログラムに基づいて図示しないコンピュータ回路(例えば、CPU(Central Processing Unit))によって制御され、動作するようにすることができる。その場合、これらの制御プログラムは、例えば、装置またはシステム内部の記憶媒体(例えば、ROM(Read Onl
y Memory)やハードディスク等)、あるいは、外部の記憶媒体(例えば、リムーバブルメディアやリムーバブルディスク等)に記憶され、上記コンピュータ回路によって読み出され実行される。
【符号の説明】
【0083】
10 評価エリア
11 送信局
12 送信点
13 評価点
14、16、17、18、19、20、21 測定点
30、31、32、33、34、35、36 地物
40 評価点の想定アンテナ
41 送信局アンテナ
50 プライマリ送信局
51 プライマリ受信局
52 カバレッジ
55 セカンダリ送信局
56 モニタリング局
57 コアネットワーク
58 地理データベース
59 スペクトルマネージャ
200、300 電波伝搬特性推定システム
202 伝搬推定部
203 測定データ決定部
204 測定データ記憶部
205、301 角度別信頼度算出部
207 実測補正部
302 地物データ記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波伝搬特性を推定する評価エリア内の任意の評価点において、送信局のある送信点から送出された電波の受信レベル推定値を、測定点で測定した受信レベル実測値を用いて実測補正するシステムであって、
所定の伝搬推定式を用いて前記評価点における受信レベル推定値を算出する伝搬推定部と、
前記送信点から送出された電波の、前記評価点における伝搬損失と前記測定点における伝搬損失の関係を示す信頼度に基づいて、前記受信レベル推定値を実測補正する実測補正部と、
前記送信点と前記評価点を結ぶ線分と、前記送信点と前記測定点を結ぶ線分とのなす角度に基づき前記信頼度を算出する角度別信頼度算出部と、
を備えることを特徴とする電波伝搬特性推定システム。
【請求項2】
前記評価エリア内の地物に関するデータを記憶する地物データ記憶部をさらに備え、前記角度別信頼度算出部は、前記地物データ記憶部に保持された地物データを用いて、前記送信点から前記評価点までの伝搬経路周辺にある地物を選択し、該地物による前記測定点での電波遮蔽の度合いに応じて前記信頼度を異なる値とすることを特徴とする請求項1記載の電波伝搬特性推定システム。
【請求項3】
前記地物の選択は、前記伝搬経路周辺にある地物の高さを選択基準とすることを特徴とする請求項2記載の電波伝搬特性推定システム。
【請求項4】
前記地物の選択は、前記送信点における送信局アンテナから前記評価点での想定アンテナへ伝搬する見通し内直接波の伝搬経路の高さを基準とした、地物の相対高さを選択基準とすることを特徴とする請求項2記載の電波伝搬特性推定システム。
【請求項5】
前記角度別信頼度算出部は、複数の地物が選択された際に、電波を遮蔽する地物数に応じて前記信頼度を異なる値とすることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の電波伝搬特性推定システム。
【請求項6】
前記信頼度は、前記評価点におけるパスロス推定誤差と前記送信点におけるパスロス推定誤差との相関であるパスロス誤差相関に基づいて算出されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の電波伝搬特性推定システム。
【請求項7】
前記信頼度は、前記パスロス誤差相関に加えて、受信レベル実測時の測定誤差の分散とパスロス推定誤差の分散とを用いて算出されることを特徴とする請求項6記載の電波伝搬特性推定システム。
【請求項8】
前記実測補正部は、前記測定点における受信レベル推定値と前記受信レベル実測値との差に対して前記信頼度を乗じた値を補正値として、前記評価点の受信レベル推定値を補正することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の電波伝搬特性推定システム。
【請求項9】
電波伝搬特性を推定する評価エリア内の任意の評価点において、送信局のある送信点から送出された電波の受信レベル推定値を、測定点で測定した受信レベル実測値を用いて実測補正する方法であって、
所定の伝搬推定式を用いて前記評価点における受信レベル推定値を算出し、
前記送信点から送出された電波の、前記評価点における伝搬損失と前記測定点における伝搬損失の関係を示す信頼度に基づいて、前記受信レベル推定値を実測補正し、
前記信頼度を、前記送信点と前記評価点を結ぶ線分と、前記送信点と前記測定点を結ぶ線分とのなす角度に基づき算出する
ことを特徴とする電波伝搬特性推定方法。
【請求項10】
電波伝搬特性を推定する評価エリア内の任意の評価点において、送信局のある送信点から送出された電波の受信レベル推定値を、測定点で測定した受信レベル実測値を用いて実測補正するコンピュータプログラムであって、
所定の伝搬推定式を用いて前記評価点における受信レベル推定値を算出する処理と、
前記送信点から送出された電波の、前記評価点における伝搬損失と前記測定点における伝搬損失の関係を示す信頼度に基づいて、前記受信レベル推定値を実測補正する処理と、
前記信頼度を、前記送信点と前記評価点を結ぶ線分と、前記送信点と前記測定点を結ぶ線分とのなす角度に基づき算出する処理と、
を、コンピュータに実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−100153(P2012−100153A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−247614(P2010−247614)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】