説明

電源装置

【課題】出力電流偏差(設定電流値と出力電流値との差)を効果的に抑制する。
【解決手段】大容量インバータ回路10A,10Bと小容量インバータ回路20A,20Bとが誘導性負荷30を介して直列に接続されている。大容量インバータ回路10A,10Bは互いに並列に接続され、小容量インバータ回路20A,20Bは互いに並列に接続されている。大容量インバータ回路10A,10Bのスイッチング素子はIGBTであり、小容量インバータ回路20A,20Bのスイッチング素子はFETである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導性負荷用の電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
誘導性負荷用の電源装置に関する技術文献として、下記特許文献1〜3がある。
【0003】
特許文献1には、誘導性負荷(電磁石6)用の電源装置であって、サイリスタ整流器3とフィルタ4と高周波チョッパ5とを接続したインバータ回路と、サイリスタ変換器1とフィルタ2とPWM位相器16とを接続したインバータ回路とが並列に接続された、電源装置が開示されている。
当該装置は、高周波チョッパ回路の電源となるコンデンサの過充電防止等を実現するため、出力電流に見合った値にフィルタ回路内のコンデンサ電圧を制御すると共に、電流立下げ時には電圧パターンに補正を加える等の処理を行う。
【0004】
特許文献2には、それぞれ平滑用のリアクトルとコンデンサを有し、出力側に直流スイッチを備えた直流電圧源と、出力側にチョッパを備えた直流電流源と、これらの直流電圧源と直流電流源とを直列接続して負荷コイルを付勢するようにした電源装置が開示されている。
当該装置は、それぞれの平滑用コンデンサに並列接続される限流抵抗器と短絡スイッチとからなる直列回路と、直流スイッチとチョッパへの切指令信号と、平滑用コンデンサの電圧が所定値を超えたときに発生する信号とのアンド条件で短絡スイッチを閉路する短絡スイッチ制御回路とをさらに具備している。
特許文献2によると、上記構成によって、平滑用コンデンサの電圧が上昇しても、その上昇分は、短絡スイッチを閉路することで、限流抵抗器で消費され、負荷電流立上時の精度を一定に保つことができるとされている。
【0005】
特許文献3には、高い出力電圧を発生する直流電圧源と、低い出力電圧を発生し高速に応答する直流電流源とを直列に接続した電源装置が開示されている。当該装置は、電流基準値と負荷定数から直流電圧源の電圧基準を算出する手段をさらに有する。
特許文献3によると、上記構成によって、電流基準値のみを外部からもらうだけで、負荷電流を高速で立ち上げ、制御できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−288197号公報(特に、図1)
【特許文献2】特開昭63−245253号公報(特に、図1)
【特許文献3】特開平6−163242号公報(特に、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記各特許文献に記載のような構成では、出力電流偏差(設定電流値と出力電流値との差)を小さくするのに限界がある。
例えば、互いに並列に接続された各インバータ回路のスイッチングタイミングをずらすことで、負荷からみた等価スイッチング周波数を高くし、これにより、出力電流偏差を小さくすることができる。しかし、並列接続可能な回路の数に限りがあること、インバータ回路への入力電圧値が比較的大きいこと等から、出力電流偏差の抑制に限界がある(例えば出力電流偏差=1×10−5程度が限界であると考えられる)。
【0008】
従って、本発明の目的は、出力電流偏差を効果的に抑制することができる電源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の電源装置は、誘導性負荷と、それぞれ誘導性負荷に接続された、小容量インバータ回路および大容量インバータ回路とを備え、小容量インバータ回路は、大容量インバータ回路の容量よりも小さな容量を有し、誘導性負荷を介して大容量インバータ回路に直列に接続されていることを特徴とする。
【0010】
上記の構成によると、大容量インバータ回路にて必要な電圧のほとんどを出力し、小容量インバータ回路にて残りの電圧を出力し、かつ出力電流値を設定電流値に近づけるといった制御を行うことができる。これにより、出力電流偏差の抑制に係る制御を低い入力電圧値で行うことが可能となり、出力電流偏差を効果的に抑制することができる(例えば出力電流偏差=1×10−6程度と、従来の出力電流偏差(1×10−5程度)に比べて1桁以上小さくすることができる)。
【0011】
本発明の電源装置において、前記大容量インバータ回路のスイッチング素子は、絶縁ゲートバイポーラトランジスタであり、前記小容量インバータ回路のスイッチング素子は、電界効果トランジスタであってよい。
この構成によると、例えば、小容量インバータ回路のスイッチング周波数を100kHz程度、大容量インバータ回路のスイッチング周波数を20kHz程度とすることができる。したがって、小容量インバータ回路について、低い電圧での制御が可能となり、出力電流偏差をより一層効果的に抑制することができる。
【0012】
本発明の電源装置において、前記大容量インバータ回路に対する前記小容量インバータ回路の容量比率が1/2〜1/20であってよい。
また、本発明の電源装置において、大容量インバータ回路に対する前記小容量インバータ回路のスイッチング周波数比率が3〜6倍であってよい。
これらの構成によると、小容量インバータ回路について、低い電圧での制御が可能となり、出力電流偏差をより一層効果的に抑制することができる。
【0013】
本発明の電源装置は、前記小容量インバータ回路および前記大容量インバータ回路の少なくとも一方に並列に接続された、当該回路と略同じ容量を有するインバータ回路をさらに備えてよい。
この構成によると、互いに並列に接続された各インバータ回路のスイッチングタイミングや、互いに並列に接続された各インバータ回路のスイッチングタイミングをずらすことで、出力電流偏差をさらに小さくすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、大容量インバータ回路にて必要な電圧のほとんどを出力し、小容量インバータ回路にて残りの電圧を出力し、かつ出力電流値を設定電流値に近づけるといった制御を行うことができる。これにより、出力電流偏差の抑制に係る制御を低い入力電圧値で行うことが可能となり、出力電流偏差を効果的に抑制することができる(例えば出力電流偏差=1×10−6程度と、従来の出力電流偏差(1×10−5程度)に比べて1桁以上小さくすることができる)。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る電源装置の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0017】
本発明の一実施形態に係る電源装置1は、電磁石等の誘導性負荷30、2つの変圧器40A,40B、2つのダイオード整流回路50A,50B、2つの平滑回路60A,60B、4つのインバータ回路10A,10B,20A,20B、および、パッシブフィルタ70により、構成されている。
なお、変圧器40Aと変圧器40B、ダイオード整流回路50Aとダイオード整流回路50B、平滑回路60Aと平滑回路60B、インバータ回路10Aとインバータ回路10B、および、インバータ回路20Aとインバータ回路20Bは、それぞれ、互いに略同じ構成である。
【0018】
変圧器40A,40Bはそれぞれ、受電系統との絶縁および電源の出力に必要な直流電圧を発生させるための三相交流電圧を生成する。
【0019】
ダイオード整流回路50A,50Bはそれぞれ、変圧器40A,40Bが生成した三相交流電圧を直流電圧に変換する。
【0020】
平滑回路60A,60Bはそれぞれ、電力変動および整流リプルを吸収するものであり、リアクトルとコンデンサとで構成されている。
【0021】
パッシブフィルタ70は、スイッチングリプルを低減するものであり、リアクトルとコンデンサとで構成されている。
【0022】
インバータ回路10A,10B,20A,20Bはそれぞれ、直流を任意の電流波形に変換するものであり、パッシブフィルタ70を介して誘導性負荷30に接続されている。インバータ回路10A,10B,20A,20Bは共に、Hブリッジ回路である。
【0023】
インバータ回路10A,10B,20A,20Bは、大容量インバータ回路10A,10Bと小容量インバータ回路20A,20Bの2種類に区分される。
大容量インバータ回路10A,10Bは、スイッチング素子として絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT:Insulated gate bipolar transistor)を具備しており、小容量インバータ回路20A,20Bは、スイッチング素子として電界効果トランジスタ(FET:Field effect transistor)を具備している。
小容量インバータ回路20A,20Bは、大容量インバータ回路10A,10Bの容量よりも小さな容量を有し、誘導性負荷30を介して大容量インバータ回路10A,10Bに直列に接続されている。
【0024】
大容量インバータ回路10A,10Bは、互いに並列に接続され、小容量インバータ回路20A,20Bは、互いに並列に接続されている。
【0025】
上述したように、本実施形態の電源装置1によると、大容量インバータ回路10A,10Bと小容量インバータ回路20A,20Bとは、誘導性負荷30を介して、直列に接続されている。
このような構成により、大容量インバータ回路10A,10Bにて必要な電圧のほとんどを出力し、小容量インバータ回路20A,20Bにて残りの電圧を出力し、かつ出力電流値を設定電流値に近づけるといった制御を行うことができる。これにより、出力電流偏差の抑制に係る制御を低い入力電圧値で行うことが可能となり、出力電流偏差を効果的に抑制することができる(例えば出力電流偏差=1×10−6程度と、従来の出力電流偏差(1×10−5程度)に比べて1桁以上小さくすることができる)。
【0026】
大容量インバータ回路10A,10Bのスイッチング素子はIGBTであり、小容量インバータ回路20A,20Bのスイッチング素子はFETである。
これにより、例えば、小容量インバータ回路20A,20Bのスイッチング周波数を100kHz程度、大容量インバータ回路10A,10Bのスイッチング周波数を20kHz程度とすることができる。したがって、小容量インバータ回路20A,20Bについて、低い電圧での制御が可能となり、出力電流偏差をより一層効果的に抑制することができる。
【0027】
大容量インバータ回路10A,10Bに対する小容量インバータ回路20A,20Bの容量比率は1/2〜1/20、大容量インバータ回路10A,10Bに対する小容量インバータ回路20A,20Bのスイッチング周波数比率は3〜6倍であることが好ましい。さらに、上記容量比率は略1/10、上記スイッチング周波数比率は4〜5倍であることがより好ましい。
なお、上記容量比率は、大容量インバータ回路10A,10Bへの入力電圧に対する小容量インバータ回路20A,20Bへの入力電圧の比率である。よって、小容量インバータ回路20A,20Bに入力する直流電圧は、大容量インバータ回路10A,10Bに入力する直流電圧の1/2〜1/20であることが好ましく、さらに、大容量インバータ回路10A,10Bに入力する直流電圧の略1/10であることがより好ましい。
これにより、小容量インバータ回路20A,20Bについて、低い電圧での制御が可能となり、出力電流偏差をより一層効果的に抑制することができる。
【0028】
大容量インバータ回路10A,10Bは、略同じ容量を有し、かつ、互いに並列に接続されている。また、小容量インバータ回路20A,20Bは、略同じ容量を有し、かつ、互いに並列に接続されている。
これにより、互いに並列に接続された各インバータ回路10A,10Bのスイッチングタイミングや、互いに並列に接続された各インバータ回路20A,20Bのスイッチングタイミングをずらすことで、出力電流偏差をさらに小さくすることができる。
【0029】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な設計変更が可能なものである。
【0030】
例えば、大容量インバータ回路10A,10Bの一方、または、小容量インバータ回路20A,20Bの一方を省略してもよい。或いは、大容量インバータ回路10A,10Bの一方、および、小容量インバータ回路20A,20Bの一方を共に省略してもよい。
または、互いに並列に接続された3つ以上の大容量インバータ回路や、互いに並列に接続された3つ以上の小容量インバータ回路を設けてもよい。
【0031】
大容量インバータ回路および小容量インバータ回路のスイッチング素子は、それぞれIGBTおよびFETに限定されず、適当なスイッチング素子に置き換えて適用可能である。
【0032】
誘導性負荷として、上記実施形態では電磁石を例示したが、電磁石に限らず任意の誘導性負荷を適用可能である。
【0033】
その他、回路構成を適宜、変更可能である。
【符号の説明】
【0034】
1 電源装置
10A,10B 大容量インバータ回路
20A,20B 小容量インバータ回路
30 誘導性負荷
40A,40B 変圧器
50A,50B ダイオード整流回路
60A,60B 平滑回路
70 パッシブフィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導性負荷と、
それぞれ前記誘導性負荷に接続された、小容量インバータ回路および大容量インバータ回路とを備え、
前記小容量インバータ回路は、前記大容量インバータ回路の容量よりも小さな容量を有し、前記誘導性負荷を介して前記大容量インバータ回路に直列に接続されていることを特徴とする電源装置。
【請求項2】
前記大容量インバータ回路のスイッチング素子は、絶縁ゲートバイポーラトランジスタであり、
前記小容量インバータ回路のスイッチング素子は、電界効果トランジスタであることを特徴とする請求項1に記載の電源装置。
【請求項3】
前記大容量インバータ回路に対する前記小容量インバータ回路の容量比率が1/2〜1/20であることを特徴とする請求項1または2に記載の電源装置。
【請求項4】
前記大容量インバータ回路に対する前記小容量インバータ回路のスイッチング周波数比率が3〜6倍であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の電源装置。
【請求項5】
前記小容量インバータ回路および前記大容量インバータ回路の少なくとも一方に並列に接続された、当該回路と略同じ容量を有するインバータ回路をさらに備えたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の電源装置。

【図1】
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【公開番号】特開2012−139083(P2012−139083A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291778(P2010−291778)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000004606)ニチコン株式会社 (656)
【Fターム(参考)】