説明

静電チャック及びそれを用いた被吸着物の加熱処理方法

【課題】 サファイア基板のように剛性の高い被吸着物を吸着させた場合であっても、均熱性に優れた静電チャックを提供する。
【解決手段】 ヤング率が300GPa以上の被吸着物を吸着する静電チャックであって、静電チャックの誘電体と被吸着物の剛性比(被吸着物のヤング率/誘電体のヤング率)が1.0以上であり、前記誘電体の吸着面は環状稜部を有し、前記環状稜部の直径Dと前記誘電体の直径Ddの比D/Ddが0.75以上であり、前記環状稜部から中央部側の吸着面は凹面形状を成し、吸着面の中央部の深さHと前記環状稜部の直径Dとの比H/Dが2×10−5以下であることを特徴とする静電チャック。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電チャックに関するもので、特に、半導体製造過程における各種処理工程において被吸着物である基板を吸着保持する静電チャックに関するものである。さらには、静電チャックを用いた被吸着物の加熱処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえば、半導体製造過程および液晶製造過程等における各種処理工程では、シリコンウエハや液晶基板を載置台上で確実に保持する必要がある。こうした要求に応える保持装置としては、静電作用を利用して被吸着物であるシリコンウエハや液晶基板を吸着保持する静電チャック装置が広く用いられおり、その装置に搭載される静電チャックとしては、セラミックス誘電体の内部に静電吸着のための電極と加熱電極とを具備してなるものが提案されている。
【0003】
また、最近では、一方の面に基板を載置する加熱面を有する板状のセラミックス基体と、
前記セラミックス基体に埋設された抵抗発熱体とを有し、前記加熱面は、中央部が最も低く周辺部へ近づく程高い、凹面形状を持つことを特徴とする基板加熱装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−5095号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、静電チャックの被吸着物である基板の素材としては、これまでは半導体であるシリコン単結晶(以下、シリコンと略記)が一般的であった。シリコン以外の基板素材としてサファイアやAlTiC(AlとTiCの化合物)などが注目されている。サファイアは耐熱、耐腐食性に優れており、GaN等のエピタキシャル成長用として用いられ、青色LED用の次世代材料と期待されている。また、AlTiCはハードディスクの磁気ヘッドの材料として用いられており、今後も需要の拡大が見込まれている。
【0005】
しかし、サファイア(ヤング率:390GPa)やAlTiC(ヤング率:392GPa)は、シリコン(ヤング率:100GPa)と比較して剛性が高く、変形し難いという特徴がある。そのため、これらの高剛性基板は静電チャックの吸着面の平面形状等の影響を受けやすく、吸着面の平面形状が適切でない場合には基板が吸着面に完全に密着しないという課題があった。事実、特許文献1に記載された静電チャックでは、吸着面の傾斜が大きすぎるためサファイア基板のような高剛性基板を吸着させると吸着面に密着させることはできず、基板を加熱したときの均熱性も劣悪であった。
そこで、本発明者らは吸着面の平面度を高めた静電チャックの適用を試みたが、シリコン基板については問題なく密着できるものであっても、高剛性基板については十分な密着状態が得られない場合があった。このように、必ずしも高い平面度を持つ静電チャックの吸着力が高くて密着性が良いわけではなかったため、サファイア基板のような高剛性基板に適した静電チャックを歩留まり良く得ることはできなかった。しかしながら、歩留まりを上げるためには平面度を高めるしか方法はなく、研磨工程のコスト高が大きな問題となっていた。
【0006】
静電チャックはCVDなどの成膜工程で使用される場合が多く、基板とチャック吸着面の間に十分な密着性が得られない場合は基板を所定温度まで加熱することができなくなったり、均熱性が悪化したりするため、プロセス上好ましくない。このように、吸着面の平面度以外に高剛性基板の密着性に影響を与えている要因として吸着面の平面形状が考えられたが、静電チャックの歩留まりとの因果関係については明らかでなく、大きな課題となっていた。
【0007】
本発明者らは上記したような従来技術の問題点を解決するために鋭意検討し、高剛性基板を吸着させる静電チャックについて、吸着面の平面形状と均熱性との関係を明らかにすることにより本発明を完成した。すなわち、本発明の目的は、サファイア基板のように剛性の高い被吸着物を吸着させた場合であっても、均熱性に優れた静電チャック及びそれを用いた剛性の高い被吸着物の加熱処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記した本発明の目的は、ヤング率が300GPa以上の被吸着物を吸着する静電チャックであって、静電チャックの誘電体と被吸着物の剛性比(被吸着物のヤング率/誘電体のヤング率)が1.0以上であり、前記誘電体の吸着面は環状稜部を有し、前記環状稜部の直径Dと前記誘電体の直径Ddの比D/Ddが0.75以上であり、前記環状稜部から中央部側の吸着面は凹面形状を成し、吸着面の中央部の深さHと前記環状稜部の直径Dとの比H/Dが2×10−5以下であることを特徴とする静電チャックによって達成される。
【0009】
また、前記した本発明の目的は、前記誘電体は、AlN、AlまたはSiCから選ばれるいずれかのセラミックスからなり、静電チャックの使用温度における前記誘電体の体積抵抗率が10〜1013Ω・cmであることを特徴とする静電チャックによって達成される。
【0010】
また、前記した本発明の目的は、ヤング率が300GPa以上の被吸着物を加熱処理する方法であって、静電チャックの誘電体と被吸着物の剛性比(被吸着物のヤング率/誘電体のヤング率)が1.0以上であり、前記誘電体の吸着面は環状稜部を有し、前記環状稜部の直径Dと前記誘電体の直径Ddの比D/Ddが0.75以上であり、前記環状稜部から中央部側の吸着面は凹面形状を成し、前記中央部の深さHと前記環状稜部の直径Dとの比H/Dが2×10−5以下である静電チャックの吸着面に被吸着物を吸着させ、静電チャックに内蔵された加熱電極に電圧を印加することにより前記被吸着物を加熱処理することを特徴とする被吸着物の加熱処理方法によって達成される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、吸着面に形成された環状稜部の直径Dと誘電体の直径Ddの比D/Ddが0.75以上とし、さらに環状稜部から中央部側の吸着面を凹面形状にすることより、サファイア基板のように剛性の高い被吸着物を吸着しても、基板の外周部が吸着面と密着しているため、均熱性を保持することができる。
また、凹部を吸着面の中央部の深さHと環状稜部の直径Dとの比H/Dが2×10−5以下の凹面形状することにより、被吸着物が吸着面に倣って変形して密着するため均熱性に優れた静電チャックおよびそれを用いた加熱処理方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明では、ヤング率が300GPa以上の被吸着物を吸着する静電チャックであって、静電チャックの誘電体と被吸着物の剛性比(被吸着物のヤング率/誘電体のヤング率)が1.0以上であり、前記誘電体の吸着面は環状稜部を有し、前記環状稜部の直径Dと前記誘電体の直径Ddの比D/Ddが0.75以上であり、前記環状稜部から中央部側の吸着面は凹面形状を成し、吸着面の中央部の深さHと前記環状稜部の直径Dとの比H/Dが2×10−5以下であることを特徴とする静電チャックを提案している。
【0013】
本発明で、静電チャックが吸着する被吸着物のヤング率を300GPa以上とし、静電チャックの誘電体と被吸着物の剛性比(被吸着物のヤング率/誘電体のヤング率)が1.0以上としたのは、本発明の静電チャックは、従来用いられてきたシリコン基板のように剛性の低い被吸着物でなく、サファイア基板のように剛性の高い被吸着物であって静電チャックの誘電体と同等かそれ以上の剛性を持つ被吸着物を吸着するのに適していることを明確にしたものである。ヤング率が300GPa以上の被吸着物としては、例えば、サファイア基板(ヤング率:390GPa)やAlTiC基板(ヤング率:392GPa)等がある。
【0014】
本発明の実施の形態に係る静電チャックの模式的な断面図を図1に示した。本発明の静電チャック1は、円板形状のセラミックスからなる誘電体2の内部に静電吸着のための電極3と加熱電極4とを具備している。誘電体2の吸着面は環状稜部5を有し、環状稜部5の直径Dと誘電体2の直径Ddの比D/Ddが0.75以上であり、環状稜部5から中央部6にかけて凹面形状を成している。
【0015】
吸着面に環状稜部が形成されていることにより、被吸着物を吸着したときに環状稜部の内側の均熱性を保持することができる。また、環状稜部の直径Dと誘電体の直径Ddの比D/Ddが、0.75以上であれば、環状稜部の外側の密着性が低下しても、中央部から供給される熱で基板全体の均熱性に大きな影響を与えることはない。ここで、環状稜部とは、吸着面において環状に所定の高さで盛り上がった部分である。静電チャックの吸着面の研磨工程では、回転盤の回転軸が吸着面の中心に位置するように静電チャックを回転盤に固定して回転させながら研磨するため、稜部の環状形状は略円形となり、また環状稜部は滑らかな稜線を有している。環状稜部の直径Dは、略円形の環状稜部の内接円と外接円の直径の平均値で表される。環状稜部は、真円からのズレがあるため、環状稜部の直径と誘電体の直径とを一致させることは困難であり、これを一致させようとすると、誘電体の角部である最外周が過剰に研削されて、環状稜部の高さのばらつきが大きくなるため好ましくない。この高さのばらつき(環状稜部における最高点と最低点の差)は吸着面の中央部の深さHよりも小さくなければならない。このような環状稜部を形成するには、環状稜部の直径は誘電体の直径よりも2mm以上小さくすることが好ましい。
【0016】
吸着面の中央部の深さHと前記環状稜部の直径Dとの比H/Dが2×10−5以下の傾斜である。これは、ヤング率が300GPa以上のサファイア基板のような、静電チャックの誘電体の剛性と同等かそれ以上の被吸着物を吸着しても被吸着物が吸着面に密着し、環状稜部から中央部にかけての吸着面が凹面形状であるため基板の外周部と吸着面との密着性が良く、基板の均熱性を保持することができるからである。シリコン基板を吸着するのに適した静電チャックであっても、サファイアのような高剛性基板については均熱性が低かったのは、すなわち、平面度が高くても吸着面の形状が凸面形状では高剛性基板外周部の密着性が弱いため外周部に隙間が生じ、そこから放熱されることにより、基板全体の均熱性を保つことが困難であったためである。
【0017】
ここで、吸着面の凹面形状の傾斜が、誘電体の吸着面の中央部の深さHと環状稜部の直径Dとの比H/Dで2×10−5を越えて大きく急になると、被吸着物と吸着面との中央部における密着性が低下するため、均熱性も低下する。特にCVD処理のように被吸着物の加熱処理操作を伴う場合は、基板全面に大きな温度差が生じると、プロセスに悪影響を及ぼすため好ましくない。
逆に、誘電体の吸着面が凸面形状では、外周部における被吸着物と吸着面との密着性が低下し、そこから放熱されることにより、基板全体の均熱性を保つことが困難となる。
【0018】
したがって、本発明の誘電体の吸着面の中央部の深さHと環状稜部の直径Dとの比H/Dの範囲は吸着面の形状が凸面形状にならない範囲で適用できる。ここで、中央部の深さHの下限としては、吸着面の表面粗さが目安となる。なぜなら、吸着面の表面粗さが中央部の深さより大きい場合は、上記した凹面形状の特長が発揮できず、高密着による均熱化の効果が期待できないからである。また、吸着面の中央部の深さが吸着面の表面粗さとほぼ同じレベルまで加工することは、超精密加工が必要となるため製造コストが大幅にアップする。したがって、本発明は、吸着面の平面度を表面粗さと同等レベルまで高めなくとも、所定の形状に吸着面を形成することで十分な吸着力を発揮し、均熱性の優れた静電チャックを比較的低コストで提供することができる。
【0019】
環状稜部の外側の形状については特に規定しない。環状稜部と吸着面の外縁との高さの差は吸着面の中央部の深さHよりも大きくなっても構わない。ただし、外周部の均熱性を高めるためには、環状稜部の外側も平坦であることが好ましく、吸着面全体の平面度はHの3倍以下に抑えることが望ましい。なお、ここでいう吸着面には、誘電体の外縁に形成される面取り部は含まない。
【0020】
ここで、被吸着物である高剛性基板の厚さとしては、一般に、0.3〜1.0mm程度のものが好適に用いられているが、シリコン基板に比べて、剛性の高いサファイア基板等では、この程度の厚みであっても静電チャックの吸着面との吸着状態は被吸着物の剛性に大きく依存して影響を受けることが分かっている。
【0021】
本発明では、前記誘電体は、AlN、AlまたはSiCから選ばれるいずれかのセラミックスからなり、静電チャックの使用温度における前記誘電体の体積抵抗率が10〜1013Ω・cmであることを特徴とする前記に記載の静電チャックを提案している
。なお、被処理物である基板を精度良く固定するという静電チャックの本質的な目的を鑑みれば、静電チャック自体の変形を防ぐために静電チャックの厚みが被吸着物に比べて十分に大きいものでなければならないことは言うまでもない。また、金属である静電吸着のための電極等との熱膨張差に伴う歪みを抑えるために、誘電体を含むセラミックスの部分には、必然的にある程度の厚みが必要となる。したがって、本発明の静電チャックの厚みは10mm以上とすることが望ましい。
【0022】
ここで、誘電体を、AlN、AlまたはSiCから選ばれるいずれかのセラミックスとした理由は、いずれも、機械的および電気的特性に優れたセラミックスであり、本発明の静電チャックの誘電体の素材として好ましいからである。また、静電チャックの使用温度における前記誘電体の体積抵抗率が10〜1013Ω・cmであるとした理由は、静電チャックの使用温度における前記誘電体の体積抵抗率が10〜1013Ω・cmであることが実用的な吸着力を発揮するための必須条件であるからである。具体的な使用温度としては、25〜550℃の温度範囲が適用できる。
【0023】
また、本発明では、ヤング率が300GPa以上の被吸着物を加熱処理する方法であって、静電チャックの誘電体と被吸着物の剛性比(被吸着物のヤング率/誘電体のヤング率)が1.0以上であり、前記誘電体の吸着面は環状稜部を有し、前記環状稜部の直径Dと前記誘電体の直径Ddの比D/Ddが0.75以上であり、前記環状稜部から中央部側の吸着面は凹面形状を成し、前記中央部の深さHと前記環状稜部の直径Dとの比H/Dが2×10−5以下である静電チャックの吸着面に被吸着物を吸着させ、静電チャックに内蔵された加熱電極に電圧を印加することにより前記被吸着物を加熱処理することを特徴とする被吸着物の加熱処理方法を提案している。本発明の静電チャックを用いて被吸着物の加熱処理を行うと、上記したように、吸着面が中央部の深さHと環状稜部の直径Dとの比H/Dで2×10−5以下の凹面形状を呈しているため、被吸着物が吸着面に密着し、加熱処理に十分な均熱性を発現することができる。
【0024】
以下に、本発明を実施例と比較例により詳細に説明する。
【0025】
(1)静電チャックの作製
図1に示したような、誘電体2、静電吸着のための電極3および加熱電極4を備えた静電チャックを作製した。誘電体セラミックスの原料素材としては、静電チャックの使用温度における誘電体の体積抵抗率が10〜1013Ω・cmとなるようにAlNを主成分とし希土類酸化物の焼結助剤を添加してなる混合粉末を選んだ。市販のAlN粉末に希土類酸化物の焼結助剤を添加した混合粉末を100kg/cm(=9.8MPa)で一軸加圧成形し、直径50mm×厚み10mmの板状の成形体を作製した。次に、前記成形体の上に加熱電極を配置し、その上に前記した混合粉末を充填し、圧力100kg/cm(=9.8MPa)で加圧した。さらに、その上に静電吸着のための双極型電極を配置した。次に、その上に誘電体となる前記した混合粉末を充填した後、焼成温度;1850℃、焼成時間;2時間、プレス圧;100kg/cmの条件でホットプレス焼結を行った。
ここで得られたAlNセラミックスの剛性は312GPaであった。このようにして、直径50mm×厚み15mmの板状のAlNセラミックスからなる静電チャック用部材を得た。次に、静電チャックの誘電体の厚さが1mmになる様に研削し、反対側の面に孔をあけ、静電吸着のための電極への電圧印加用端子および加熱電極印加用端子を取り付けた。
【0026】
(2)静電チャックの洗浄処理
得られた静電チャックは各評価を行う前に以下の洗浄処理を施す。まず、アルコールによる超音波洗浄を10分行い、炭化水素系の洗浄剤に30分浸漬させる。次に超純水によるシャワー洗浄を行った後、超純水による超音波洗浄を30分行う。最後にエアブローを行って水分を除去した後、100℃で60分乾燥させる。このようにして、評価に供する静電チャックが得られる。
【0027】
(4)静電チャックの均熱性の評価方法
真空度が約10-4Paとした真空チャンバー内で、上記洗浄処理を行った静電チャックに内蔵された加熱電極に印加して500℃まで加熱する。500℃に達した際にサファイア基板(直径50mm、厚み0.7mm)の中心部と直径25mmの同心円周上の4箇所(4等配:表2において円周部1、2、3、4と略記)の計5箇所にK熱電対を溶接した温度測定用基板を吸着電圧±400Vで吸着させ、吸着1時間後の温度測定用基板の温度を測定した。基板の中心部一箇所、および円周部1〜4の四箇所の測定した結果が全て500℃±10℃の範囲以内のときに良好な均熱性であると評価した。これは熱電対の性能や事前テストの結果を鑑みたものである。
【0028】
(実施例1)上記の方法で作製した静電チャックの誘電体表面をまず鋳物定盤とGC800の研磨剤を用いて10分間ラッピング処理を行った。さらに、レジン定盤と溶融アルミナ系の研磨剤を用いて1.5時間ポリッシング処理を行って、静電チャックの吸着面が凹面形状となる静電チャックを得た。このようにして得られた静電チャックの吸着面をレーザー干渉計にて平面形状を測定した。吸着面の中央部の深さHは平面形状の測定結果から環状稜部の最高点と中央部の最低点との差より求めた。また環状稜部の直径も同様に、平面形状の測定結果より求めた。具体的には、鉛直平面上に描いた環状稜部の稜線の内接円と外接円の直径を平均したものを環状稜部の直径Dとした。測定の結果、平面度は1.81μmで、誘電体の吸着面の中央部の深さHは0.6μmであることから、環状稜部の直径D(45mm)との比H/Dは、1.3×10−5であった。
【0029】
(実施例2、3)同様の作製方法により、吸着面の形状を変化させて静電チャックを作製した。環状稜部の直径Dと誘電体の直径Ddの比D/Ddが、0.75以上、環状稜部の直径Dとの比H/Dは2×10−5以下となるようにした。なお、吸着面形状の調整は、定磐の形状、研磨時の荷重および研磨時間の条件を制御することで行った。
【0030】
(比較例1)同様の方法で作製した静電チャックの誘電体表面をまず鋳物定盤とGC800の研磨剤を用いて10分間ラッピング処理を行った。さらに、クロス定盤と溶融アルミナ系の研磨剤を用いて1時間ポリッシングを行って、静電チャックの吸着面が凸面形状となる静電チャックを得た。研磨後の静電チャックの吸着面をレーザー干渉計にて平面形状を測定した結果、平面度は0.59μmの凸面形状であった。
【0031】
(比較例2、3)同様の方法で作製した静電チャックの誘電体表面をまず鋳物定盤とGC800の研磨剤を用いて10分間ラッピング処理を行った。さらに、レジン定盤と溶融アルミナ系の研磨剤を用いて1.5時間ポリッシング処理を行って、静電チャックの吸着面が凹面形状となる静電チャックを得た。このようにして得られた静電チャックの吸着面をレーザー干渉計にて平面形状を測定した結果、平面度は1.84μmで、誘電体の吸着面の中央部の深さHは1.5μmであることから、環状稜部の直径D(46mm)との比H/Dは、3.3×10−5と大きく、実施例1よりも急な傾斜の凹面形状であった(比較例2)。また、環状稜部の直径Dと誘電体のDdの比D/Ddを0.65と0.75より小さくした環状稜部の直径をもつ凹形状の吸着面とした以外は同様の方法で作製した静電チャックについても同様の評価を行った(比較例3)。
【0032】
実施例1〜3および比較例1〜3の吸着面の特性を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
その後、上記の洗浄処理を行い、上記した方法にて均熱性の評価を行った。その結果を表2に示した。
【0035】
【表2】

【0036】
表1の結果から、D/DdおよびH/Dの値が本発明の範囲内である実施例1〜3では、加熱電極に印加して加熱した際の各測定箇所における設定温度500℃との温度差が±10℃以下と良好な結果得られた。これより、吸着面とサファイア基板との密着が良く、十分な吸着力を発現していることが確認された。一方、本発明の範囲外である吸着面が凸面形状の比較例1では、円周部のおける設定温度500℃との温度差が±10℃以上であった。これはサファイア基板の中心を除く円周部の大部分が静電チャックの吸着面にほとんど密着していない状態であったため、円周部より放熱していたと考えられる。比較例2では、吸着面の凹面形状が本発明の範囲外の急な傾斜であるために、サファイア基板が吸着面に倣って撓むことができず、中心部では基板と吸着面がほとんど密着していない状態となったため、吸着面中央部の熱がサファイア基板の中心部に伝わらず温度が低下したと考えられる。比較例3では、環状稜部の直径Dと誘電体の直径Ddとの比D/Ddが0.75よりも小さいことから円周部の密着性が弱く、円周部から放熱が起こり、均熱性が低下した。なお、これらの静電チャックの誘電体表面の表面粗さRaは0.1μmであったことから、実施例の静電チャックにより、平面度を表面粗さのレベルまで高めなくとも良好な吸着力および均熱性を発揮できることが示された。
【0037】
以上の通り、本発明によれば、吸着面の形状を所定形状に形成にすることより、サファイア基板のように剛性の高い被吸着物を吸着しても、被吸着物が吸着面に密着するため均熱性を発現する静電チャックを提供できる。また、本発明の静電チャックを用いれば、均熱性良く被吸着物を加熱処理する方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施の形態に係る静電チャックの模式的な断面図である。
【符号の説明】
【0039】
1;静電チャック
2;誘電体
3;電極
4;加熱電極
5;環状稜部
6;吸着面の中央部
H;吸着面の中央部の深さ
D;環状稜部の直径
Dd;誘電体の直径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヤング率が300GPa以上の被吸着物を吸着する静電チャックであって、静電チャックの誘電体と被吸着物の剛性比(被吸着物のヤング率/誘電体のヤング率)が1.0以上であり、前記誘電体の吸着面は環状稜部を有し、前記環状稜部の直径Dと前記誘電体の直径Ddの比D/Ddが0.75以上であり、前記環状稜部から中央部側の吸着面は凹面形状を成し、吸着面の中央部の深さHと前記環状稜部の直径Dとの比H/Dが2×10−5以下であることを特徴とする静電チャック。
【請求項2】
前記誘電体は、AlN、AlまたはSiCから選ばれるいずれかのセラミックスからなり、静電チャックの使用温度における前記誘電体の体積抵抗率が10〜1013Ω・cmであることを特徴とする請求項1に記載の静電チャック。
【請求項3】
ヤング率が300GPa以上の被吸着物を加熱処理する方法であって、静電チャックの誘電体と被吸着物の剛性比(被吸着物のヤング率/誘電体のヤング率)が1.0以上であり、前記誘電体の吸着面は環状稜部を有し、前記環状稜部の直径Dと前記誘電体の直径Ddの比D/Ddが0.75以上であり、前記環状稜部から中央部側の吸着面は凹面形状を成し、前記中央部の深さHと前記環状稜部の直径Dとの比H/Dが2×10−5以下である静電チャックの吸着面に被吸着物を吸着させ、静電チャックに内蔵された加熱電極に電圧を印加することにより前記被吸着物を加熱処理することを特徴とする被吸着物の加熱処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−211200(P2008−211200A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−19751(P2008−19751)
【出願日】平成20年1月30日(2008.1.30)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【出願人】(391005824)株式会社日本セラテック (200)
【Fターム(参考)】