説明

静電検出装置、静電検出回路、静電検出方法及び初期化方法

【課題】物体の接近などを検出する微小な静電容量のオフセットを除いた変化を、最適な検出レンジに合わせながら高分解能かつ高速に検出する。
【解決手段】支持基板上に配置された複数の検出電極と、複数の検出電極の各々に接続される検出電極が有する静電容量に対応した電圧波形に変換するための抵抗とコンデンサの直列接続で構成されるCV変換手段と、検出電極の各々に入出力ポートが接続される汎用的なマイクロコンピュータを有し、マイクロコンピュータのCPUにより検出電極の各々の静電容量あるいはその変化に対応した値から接近物体の位置を演算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体の接近や接近物体の座標の検出などに用いられ、静電容量あるいはその変化を検出する装置、回路、方法および初期化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
静電検出回路では、外部からの物体の接近や接近物体の座標の検出などを行い、主に指先の位置や動きの情報を得る。外部から物体の接近が起こると、検出対象の静電容量に変化が起こる。この場合において、検出対象の静電容量あるいはその変化を測定するために、検出対象の静電容量に対して充放電を行い、その際に流れる電荷量をデルタシグマ型のAD変換器等によりデジタル値に変換する。この方法により、物体の接近や接近物体の座標を検出することができ、タッチパネルを採用している携帯端末などに利用されている。
【0003】
従来の静電容量を検出する静電検出回路の一例について、図2を基に説明する(例えば、非特許文献1参照。)。検出対象1は便宜上任意の値を有する定電圧電源に接続され、他方の端子はスイッチSWd及びスイッチSWcへと接続されている。スイッチSWcの他方の端子には定電圧電源3に接続されている。ここで、スイッチSWc、スイッチSWd、定電圧電源3を総称してCQ変換手段14と呼ぶ。スイッチSWdの他方の端子には抵抗Rs5と積分コンデンサCi7とが接続されており比較手段8に出力される。抵抗Rs5の他方の端子にはスイッチSWsが接続されており、スイッチSWsの他方の端子は定電圧電源6に接続されている。積分コンデンサCi7の他方の端子にはグランドなどの任意の値を有する定電圧電源に接続されている。比較手段8の出力はサンプリング手段9に入力されている。サンプリング手段9はラッチ回路等により実現される。サンプリング手段9のサンプリング結果により前述のスイッチSWsを制御する。また、サンプリング手段9の出力は演算手段に入力されており、ここでフィルタリングしてデジタル値の電荷量に変換する。前述の抵抗Rs5、スイッチSWs、定電圧電源6、積分コンデンサCi7、比較手段8、サンプリング手段9及びフィルタ手段の構成をまとめてデルタシグマ型のAD変換器15を構成している。スイッチSWcとスイッチSWdは充放電制御手段11により交互にオンするように制御される。さらに、演算手段12は、シグマデルタ型のAD変換器として求めたデジタル値の電荷量と、充放電制御手段11の出力とから検出対象1の静電容量を求める。
【0004】
図2に於いて、コンデンサCxは、検出対象1の静電容量を表したものである。CQ変換手段14は、検出対象1の静電容量Cxに充放電を行い、静電容量に対応した電荷量Qxに変換する機能を有する。ここで、スイッチSWcは定電圧電源3を静電容量Cxに接続して充電するためのものであり、スイッチSWdは静電容量Cxをデルタシグマ型のAD変換器15に接続して充電されている電荷を放電させるためのものである。従って、スイッチSWcとスイッチSWdは、通常交互にオンするように、充放電制御手段11により制御される。
【0005】
但し、スイッチSWdは必ずしもスイッチである必要はなく、スイッチSWdを抵抗に置き換えることもできる。この場合には、スイッチSWcをオンしている間中、静電容量Cxとは無関係な電流が、定電圧電源3からデルタシグマ型のAD変換器15に流れ込む。この影響を取り除くために、スイッチSWcをオンする時間をなるべく短くしたり、必要に応じてデジタル値に変換された値から差し引くことにより対応していた。
【0006】
CQ変換手段14からの電荷量Qxは、デルタシグマ型のAD変換器15によりデジタル値に変換される。デルタシグマ型のAD変換器15は、積分コンデンサCi7により測定する電荷を積分して電圧に変換する積分手段と、2値化するための比較手段と、ラッチ回路等により実現されるサンプリング手段9と、抵抗Rs5とスイッチSWsとによりサンプリング手段9でのサンプリング結果からアナログ入力に負の帰還をかけるための1ビットのDA変換手段10と、カウンタやデジタルフィルタなどによりサンプリング手段9でのサンプリング結果をフィルタリングしてデジタル値の電荷量に変換するフィルタ機能を含む演算手段とにより構成される。なお、デルタシグマ型のAD変換器15では、負の帰還がかかっているため、入力電圧は比較手段8の閾値電圧Vtに凡そ等しくなるように制御されている。
【0007】
演算手段12では、充放電制御手段11からの充放電回数と、定電圧電源3の電圧Vcと比較手段8の閾値電圧Vtの差と、サンプリング手段9からのサンプリング結果とから、演算により検出対象1の静電容量を求める。但し、充放電制御手段11からの充放電回数と、定電圧電源3の電圧Vcと比較手段8の閾値電圧Vtの差は、予め定められた値であることが多い。そのため、演算手段12はサンプリング手段のサンプリング結果をフィルタリングするだけで検出対象の静電容量Cxに対応した値を求めることが多い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「Capacitance Sensing ? Migrating from CSR to CSD AN2408」、Cypress, February 8,2007, p.2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように、従来の静電検出回路では、静電容量を電荷量に変換するためのCQ変換手段と、デルタシグマ型のAD変換器とを組み合わせていたため、回路素子が多く部材コストが高いと言う課題があった。
【0010】
そこで、本発明の目的は、これらを統合することにより、回路素子を少なくして、部材コストを小さくすることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を達成するために、以下の発明を開示する。
【0012】
第1の発明として、支持基板上に配置された複数の検出電極と、複数の検出電極の各々に接続される検出電極などの検出対象が有する静電容量に対応した電圧波形に変換するための抵抗とコンデンサの直列接続で構成されるCV変換手段と、検出電極の各々に入出力ポートが接続される汎用的なマイクロコンピュータを有し、マイクロコンピュータのCPUにより検出電極の各々の静電容量あるいはその変化に対応した値から接近物体の位置を演算する静電検出装置であること。
【0013】
第2の発明として、上記第1に記載の発明において、CV変換手段の出力を閾値電圧と比較する比較手段と、前期比較手段の出力をサンプリングするサンプリング手段と、サンプリング手段の出力から検出対象の静電容量に対応した値を求める演算手段と、演算結果により入出力ポートのスイッチを制御するCV制御手段とをマイクロコンピュータにより実現されること。
【0014】
第3の発明として、静電検出回路は、検出対象の静電容量に対応した電荷量を変換すると共に変換した電荷量に相当する電荷量を補充して積分するCQ補充手段と、CQ補充手段の出力を閾値電圧と比較する比較手段と、比較手段の出力をサンプリングしてCQ補充手段に負の帰還をかけるサンプリング手段と、サンプリング手段の出力から検出対象の静電容量に対応した値を求める演算手段とを有し、
CQ補充手段が、第一の定電圧電源と第二の定電圧電源と第一のスイッチと第一の抵抗と第二の抵抗とコンデンサを有し、第一のスイッチの一方の端子に第一の定電圧電源が接続され、第一のスイッチの他方の端子に検出対象の静電容量と第一の抵抗の一方の端子が接続され、第一の抵抗の他方の端子が第二の抵抗の一方の端子に接続され、第二の抵抗の他方の端子が第二の定電圧電源に接続され、第一の抵抗と第二の抵抗の接続端子がコンデンサの一方の端子に接続されていること。
【0015】
第4の発明として、静電検出回路は、検出対象の静電容量に対応した電荷量を変換すると共に変換した電荷量に相当する電荷量を補充して積分するCQ補充手段と、CQ補充手段の出力を閾値電圧と比較する比較手段と、比較手段の出力をサンプリングしてCQ補充手段に負の帰還をかけるサンプリング手段と、サンプリング手段の出力から検出対象の静電容量に対応した値を求める演算手段とを有し、
CQ補充手段が、第一の定電圧電源と第二の定電圧電源と第一のスイッチと第二のスイッチと第三の抵抗とコンデンサを有し、第一のスイッチの一方の端子に第一の定電圧電源が接続され、第一のスイッチの他方の端子に検出対象の静電容量と第二のスイッチの一方の端子と第三の抵抗とコンデンサの直列接続の一方の端子が接続され、第二のスイッチの他方の端子が第二の定電圧電源に接続されること。
【0016】
第5の発明として、静電検出回路は、物体の接近位置を静電容量で検出する静電検出回路において、検出対象の静電容量に対応した電圧波形に変換するCV変換手段と、CV変換手段の出力を閾値電圧と比較する比較手段と、比較手段の出力をサンプリングするサンプリング手段と、サンプリング手段の出力から検出対象の静電容量に対応した値を求める演算手段とを有すること。
【0017】
第6の発明として、上記第5に記載の発明において、CV変換手段が、第一の定電圧電源と第二の定電圧電源と第一のスイッチと第一の抵抗と第二の抵抗とコンデンサを有し、第一のスイッチの一方の端子に第一の定電圧電源が接続され、第一のスイッチの他方の端子に検出対象の静電容量と第一の抵抗の一方の端子が接続され、第一の抵抗の他方の端子が第二の抵抗の一方の端子に接続され、第二の抵抗の他方の端子が第二の定電圧電源に接続され、第一の抵抗と第二の抵抗の接続端子が第一のコンデンサの一方の端子に接続されていること。
【0018】
第7の発明として、上記第5に記載の発明において、CV変換手段が、第一の定電圧電源と第二の定電圧電源と第一のスイッチと第二のスイッチと第三の抵抗とコンデンサを有し、第一のスイッチの一方の端子に第一の定電圧電源が接続され、第一のスイッチの他方の端子に検出対象の静電容量と第二のスイッチの一方の端子と第三の抵抗とコンデンサの直列接続の一方の端子が接続され、第二のスイッチの他方の端子が第二の定電圧電源に接続されること。
【0019】
第8の発明として、上記第4または7に記載の発明において、第一のスイッチの1回のオン時間は第二のスイッチの1回のオン時間と比較して0.7倍以下あるいは1.5倍以上であること。
【0020】
第9の発明として、静電検出方法は、検出対象の静電容量に対応した電圧波形に変換するCV変換工程と、CV変換工程により得られた出力を閾値電圧と比較する比較工程と、CV変換工程の出力する電圧波形の直流成分が検出対象の静電容量に対応して変化しつつ電圧波形の交流成分による電圧波形の変動の範囲内に比較工程の閾値電圧が収まるようにCV変換工程の出力を制御することを特徴とするCV制御工程と、比較工程の出力をサンプリングするサンプリング工程と、サンプリング工程の出力から検出対象の静電容量に対応した値を求める演算工程とを有すること。
【0021】
第10の発明として、上記第9に記載の発明において、CV制御工程は、演算工程の演算結果を基にしてCV変換工程の出力を制御すること。
【0022】
第11の発明として、静電検出方法の初期状態から定常状態にするための初期化方法は、コンデンサの電圧を比較工程の閾値電圧に近づけるためにコンデンサの電圧が比較工程の閾値電圧よりも高い場合には閾値の電圧より低い電圧の定電圧電源に接続しているスイッチを比較工程において出力が変化するまでオンし続け、逆にコンデンサの電圧が比較工程の閾値電圧よりも低い場合には閾値の電圧より高い定電圧電源に接続しているスイッチを比較工程において出力が変化するまでオンし続ける閾値接近工程により、検出前の初期状態から定常状態にすること。
【0023】
第12の発明として、上記第11に記載の初期化方法において、静電容量あるいはその変化を検出する静電検出方法の初期状態から定常状態にするための初期化方法において、前期閾値接近工程に加え、コンデンサの電圧を検出レンジのほぼ中央に合わせるため、コンデンサの電圧が比較工程の閾値電圧よりも高い場合には閾値の電圧より低い定電圧電源に接続しているスイッチをCQ変換工程で行なう回数より少ない回数分だけ連続してオンオフし、逆にコンデンサの電圧が比較工程の閾値電圧よりも低い場合には閾値の電圧より高い定電圧電源に接続しているスイッチをCQ変換工程で行なう回数より少ない回数分だけ連続してオンオフをする中央寄せ工程とを行なうこと。
【0024】
第13の発明として、上記第11に記載の初期化方法において、スイッチをCQ変換工程で行なう回数と同じ回数分だけ連続してオンオフをする動作を少なくても1回以上繰り返す助走工程を行なうこと。
【0025】
また、CQ補充手段およびCQ補充工程は従来例で用いられるCQ変換手段およびCQ変換工程にAD変換手段とAD変換工程の一部の機能が統合されたものである。これらの構成は従来例と区別をするためにCQ補充手段およびCQ補充工程と呼ぶ。
【発明の効果】
【0026】
本発明によると、静電容量を電荷量に変換するためのCQ変換とデルタシグマ型のAD変換器の1ビットのDA変換手段を統合することにより、回路素子を少なくして、部材コストを小さくすることが出来る。特に、汎用的なマイクロコンピュータの1つの入出力ポートに受動素子を付加する簡単な構成で、静電容量を高分解能で検出することを可能にする静電検出装置、静電検出回路、静電検出方法、および初期化方法を実現することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る静電検出回路の第1の実施例を示すブロック図。
【図2】従来の静電検出回路を示すブロック図。
【図3】実施例1のCQ補充手段或いは実施例2のCV変換手段を示す図。
【図4】実施例1のCQ補充手段或いは実施例2のCV変換手段を示す図。
【図5】第1の実施例と第2の実施例の回路構成図及びマイクロコンピュータ入出力ポートの回路構成図。
【図6】本発明に係る静電検出回路の第2の実施例を示すブロック図。
【図7】第2の実施例の検出動作を示すタイミング図。
【図8】第2の実施例の初期化動作を示すタイミング図。
【図9】本発明に係る静電検出回路の第1の実施例を示すフローチャート図。
【図10】本発明に係る静電検出回路の第2の実施例を示すフローチャート図。
【図11】第2の実施例の初期化動作を示すフローチャート図。
【図12】(a)第1または第2の実施例における1次元静電検出回路の構成図及び(b)第1または第2の実施例における2次元静電検出回路の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、本発明を実施するための形態について図面を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0029】
本発明の好適な実施例を、図1および図9を基に説明する。本発明による静電検出回路20は、検出対象40の静電容量Cxに対応した電荷量Qxに変換し出力する機能と、出力した分の電荷量を補充して積分する機能をもつCQ補充手段22と、CQ補充手段22の出力を閾値電圧Vtと比較する比較手段23と、比較手段23の出力をサンプリングしてCQ補充手段22に負の帰還を掛けるサンプリング手段24と、サンプリング手段24のサンプリングの結果により検出対象40の静電容量Cxあるいはその変化を求める演算手段25とにより構成した。
【0030】
また、本発明による静電検出方法は、検出対象40の静電容量Cxに対応した電荷量Qxに変換し出力する機能と、出力した分の電荷量を補充して積分する機能をもつCQ補充工程61と、CQ補充工程61の出力を閾値電圧Vtと比較する比較工程62と、比較工程62の出力をサンプリングしてCQ補充工程61に負の帰還を掛けるサンプリング工程63と、サンプリング工程63のサンプリングの結果により検出対象40の静電容量Cxあるいは静電容量の変化を求める演算工程64とにより実現した。
【0031】
これより、各手段及び各工程について、詳細に説明する。
【0032】
検出対象40は、2端子のコンデンサの静電容量でもよいし、物体の接近や位置を検出する静電検出装置の電極などの浮遊容量でも良い。接近物体の位置を検出する場合には、検出する座標に対応した複数の検出電極などが検出対象の静電容量に対応するが、本明細書では便宜上1つの静電容量を検出する場合を中心に説明する。
【0033】
CQ補充手段22及びCQ補充工程61の、好適な一例を図3の(a)に示す。
【0034】
図3の(a)の回路構成を説明する。検出対象40の一方の端子は便宜上任意の値を有する定電圧電源に接続され、他方の端子はスイッチSW1の一方の端子および放電抵抗Rd43の一方の端子に接続されている。スイッチSW1の他方の端子は電圧V1を有する定電圧電源41に接続されている。放電抵抗Rd43の他方の端子は、補充抵抗Rs44の一方の端子と積分コンデンサCi46の一方の端子とが接続されており比較手段23に出力されている。補充抵抗Rs44の他方の端子には電圧V2を有する定電圧電源45が接続され、積分コンデンサCi46の他方の端子はグランドなどの任意の値を有する定電圧電源が接続されている。スイッチSW1はサンプリング手段24により制御される。
【0035】
ここで、積分コンデンサCi46は、その静電容量の値が充分大きいために変動が小さく、その電圧は比較手段23および比較工程62の閾値電圧Vtにほぼ等しくなるように制御されている。
【0036】
また、定電圧電源41の電圧V1は比較手段23および比較工程62の閾値電圧Vtより大きく、定電圧電源45の電圧V2は比較手段23および比較工程62の閾値電圧Vtより小さい値に設定した。ただし、この限りでなく、逆に定電圧電源41の電圧V1は比較手段23および比較工程62の閾値電圧Vtより小さく、定電圧電源45の電圧V2は比較手段23および比較工程62の閾値電圧Vtより大きい値に設定しても良い。
【0037】
検出対象40の静電容量Cxは、スイッチSW1がオンすることにより定電圧電源41から充電され、オフした直後に放電抵抗Rd43を介して積分コンデンサCi46に放電する。このため、スイッチSW1のNc回のオンオフにより、数1に示す電荷量Qxが静電容量Cxから放電されて積分コンデンサCi46に充電される。この電荷量Qxは、デルタシグマ型のAD変換器に入力される電荷量に対応する。
【0038】
【数1】

同時にCQ補充手段22及びCQ補充工程61では、積分コンデンサCi46の電圧をほぼ一定にするように制御するために、放電抵抗Rd43と補充抵抗Rs44が接続されている。検出対象40の静電容量Cxからの電荷量Qxとほぼ同量で極性が反対の電荷Qsを積分コンデンサCi46に補充する。ただし、ここで言う極性とは、比較手段23および比較工程62の閾値電圧Vtを基準にしたものである。従って、検出期間をTs、スイッチSW1がオンしている合計時間Tcとすると、数2による電荷量Qsが積分コンデンサCi46に補充される。この補充は、デルタシグマ型のAD変換器の1ビットのDA変換器の動作に対応する。
【0039】
【数2】

このように本発明の実施例1では、CQ変換のためのスイッチと1ビットのDA変換器としてのスイッチを統合することにより、部材を削減する。
【0040】
積分コンデンサCi46は、デルタシグマ型のAD変換器の積分手段に対応し、検出対象40の静電容量Cxからの電荷量Qxを電荷量Qsで補充仕切れなかった補充誤差に対応する電荷量Qiを積分して電圧に変換する。この積分コンデンサCi46は、電荷補充の累積誤差を小さくするために誤差を累積すると同時に、電荷量の累積誤差を電圧に変換するためのものである。つまり、積分コンデンサCi46の電圧はほぼ一定にするように制御されるため、数1に示される検出対象40の静電容量Cxからの電荷量Qxと数2に示される補充する電荷Qsの総和はほぼ零になるように制御される。この積分コンデンサCi46の電圧は比較手段23および比較工程62に出力される。
【0041】
ここで、図3の(a)のように積分コンデンサCi46の電圧を直接比較手段23および比較工程62に出力するのが自然であるが、図3の(b)に示すように積分コンデンサCi46の電圧は放電抵抗Rd43を介して比較手段23および比較工程62に出力するようにしても良い。こうすることにより、スイッチと電圧比較を直接接続することになり、例えば汎用的なマイクロコンピュータの1つの入出力ポートに受動素子を付加するのみの簡単な構成で実現できるようになる。但し、この場合には、サンプリング手段およびサンプリング工程63でのサンプリングは、スイッチSW1がオフした後に検出対象40の静電容量Cxから積分コンデンサCi46への電荷の移動が充分行われた後に行うようにする。
【0042】
比較手段23および比較工程62では、CQ補充手段22及びCQ補充工程61の出力する電圧を閾値電圧Vtと比較して、サンプリング手段24およびサンプリング工程63に出力することにより、アナログ電圧を2値のデジタル信号に変換する。
【0043】
比較手段23および比較工程62で2値のデジタル値に変換された信号は、サンプリング手段24およびサンプリング工程63でサンプリングされる。このサンプリング手段24およびサンプリング工程63でのサンプリングは、ラッチ回路を用いても良いが、マイクロコンピュータの汎用の入力ポートを用いる場合には、ポートの読み込みがサンプリングに対応する。
【0044】
サンプリングの結果で、積分コンデンサCi46の電圧が閾値電圧Vtより小さい場合には、大きくなるようにCQ補充手段22及びCQ補充工程61のスイッチSW1を1回オンする。逆に積分コンデンサCi46の電圧が閾値電圧Vtより大きい場合には、小さくなるようにCQ補充手段22及びCQ補充工程61のスイッチSW1をオンしないようにした。このようにCQ補充手段22及びCQ補充工程61のスイッチSW1をサンプリング手段24から制御することにより、積分コンデンサCi46の電圧は比較手段23および比較工程62の閾値電圧Vtに近い値に制御される。
【0045】
ここで、スイッチSW1の1回のオン時間が長くなり過ぎると、1回のオンによる積分コンデンサCiの電圧の変化が大きくなってしまう。また、サンプリングの間隔が長くなり過ぎると、その間に抵抗Rsにより流れる電荷により積分コンデンサCiの電圧が大きく変化してしまう。これを回避するために、このサンプリングの間隔とスイッチSW1の1回のオン時間は、積分コンデンサCiの電圧が比較手段あるいは比較工程での閾値電圧Vtから大きく離れないような充分短い時間であれば、特にタイミング上の制約はない。
【0046】
演算手段25および演算工程64では、サンプリング手段24およびサンプリング工程63でサンプリングされた結果を用いて、演算により検出対象40の静電容量Cxに対応したデジタル値を得る。このため、演算手段25および演算工程64では、前述のように検出対象40の静電容量Cxからの電荷量Qxと補充する電荷Qsの総和がほぼ零であることを用いて、数1と数2をまとめて、静電容量Cxを例えば数3により求めることが出来る。但し、検出期間Tsとは、積分コンデンサCi46の電圧が比較手段23および比較工程62の閾値電圧Vtに近くなっていない過渡状態あるいは初期化中を含まない時間とした。
【0047】
【数3】

例えば、検出期間Tsが100μs、スイッチSW1のオン回数Ncが20回、スイッチSW1の合計のオン時間Tcが20μs、補充抵抗Rs44=500kΩ、放電抵抗Rd43が200kΩ、定電圧電源41の電圧V1が5.0V、比較手段23および比較工程62の閾値電圧Vtが2.5V、定電圧電源45の電圧V2が0Vの場合には、数3によりCxは5pFとなる。
【0048】
ここでは、数3により静電容量Cxを求める場合の例を示したが、数1と数2の関係から静電容量Cxを求める方法であれば、どのような方法を用いても良い。
【0049】
また、検出対象40の静電容量Cxの正確な静電容量値でなく、静電容量Cxに対応した値を求めれば良い場合には、例えば検出期間Ts、スイッチSW1がオンしている合計時間Tc、放電抵抗Rd43、補充抵抗Rs44、定電圧電源41の電圧V1、比較手段23および比較工程62の閾値電圧Vt、定電圧電源41の電源電圧V2を定数として、検出期間Tsの間にスイッチSW1をオンした回数をカウントしたり、連続的に動作させながらデジタルフィルタにより検出対象40の静電容量Cxに対応したデジタル値の時間推移を検出したりするなど、サンプリング手段24およびサンプリング工程63の出力を用いて検出対象40の静電容量Cxに対応した値を求めるものであればどのような手段や方法を用いてもよい。
【0050】
以上にCQ補充手段22及びCQ補充工程61を図3に示す構成により実現した場合の例を示したが、CQ補充手段22及びCQ補充工程61は、図4に示す構成によっても実現することが出来る。
【0051】
ここで図4の(a)の回路構成を説明する。検出対象40の一方の端子は便宜上任意の値を有する定電圧電源に接続され、他方の端子はスイッチSW1の一方の端子およびスイッチSW2の一方の端子および積分抵抗Ri48の一方の端子に接続されている。スイッチSW1の他方の端子は電圧V1を有する定電圧電源41に接続されており、スイッチSW2の他方の端子は電圧V2を有する定電圧電源45に接続されている。また、積分抵抗Ri48の他方の端子には比較手段23と積分コンデンサCi46の一方の端子が接続されており、積分コンデンサCi46の他方の端子は任意の値を有する定電圧電源に接続されている。
【0052】
図4の(a)の構成は、図3の(a)の構成での放電抵抗Rd43と補充抵抗Rs44が積分抵抗Ri48に統合されて、スイッチSW2が付加されたものである。このスイッチSW2もまた、スイッチSW1と同様にサンプリング手段24により制御される。
【0053】
つまり、サンプリングの結果で、積分コンデンサCi46の電圧が閾値電圧Vtより小さい場合には、大きくなるようにCQ補充手段22及びCQ補充工程61のスイッチSW1を1回オンする。逆に積分コンデンサCi46の電圧が閾値電圧Vtより大きい場合には、小さくなるようにCQ補充手段22及びCQ補充工程61のスイッチSW2を1回オンするようにした。
【0054】
また、図4の(a)の構成では、スイッチSW1とスイッチSW2の両方が異なる電圧で検出対象40の静電容量Cxに充電して静電容量Cxからの放電電荷が積分コンデンサCi46で積分される。ここで、図3の(a)の構成より図4の(a)の構成の方はスイッチが1つ余分に付加されているが、スイッチSW1とスイッチSW2とは同時にオンしないように用いるため、汎用的なマイクロコンピュータの出力ポートなどによりサンプリング手段24のスイッチの制御を実現する場合には、部材コストにはほとんど影響しないことが多く、抵抗が少なくなった分部材コストを安くすることができる。
【0055】
図4の構成では、スイッチSW1のオン回数をN1、スイッチSW2のオン回数をN2、スイッチSW1の1回のオン時間をt1、スイッチSW2の1回のオン時間をt2とすると、積分コンデンサCi46には数4に示す電荷Qiが流れる。
【0056】
【数4】

ここで、積分コンデンサCi46の電圧が比較手段23および比較工程62の閾値電圧Vtとほぼ等しくなるように制御されている場合には、Qiはほぼ定常状態では零である。従って、その場合の検出対象40の静電容量Cxは、数4のQiに零を代入してCxについて解いた数5により求めることができる。
【0057】
【数5】

但し、スイッチSW1の1回のオン時間をt1とスイッチSW2の1回のオン時間をt2が同じ時間tの場合には、数4のt1とt2にtを代入した数6では中括弧{}の中が零でなくてはならないため、Cxの値は不定になってしまう。
【0058】
【数6】

そこで、本発明では、スイッチSW1の測定期間での1回のオン時間をt1とスイッチSW2の測定期間での1回のオン時間t2の比率が0.7倍以下あるいは1.5倍以上になるような異なる値にして、静電容量Cxを検出するようにした。
【0059】
例えば、スイッチSW1の1回のオン時間t1が10μs、スイッチ2の1回のオン時間t2が1μs、スイッチSW1のオン回数N1が10回、スイッチSW2のオン回数N2が60回、積分抵抗Riが100kΩ、定電圧電源41の電圧V1が5.0V、比較手段23および比較工程62の閾値電圧Vtが2.5V、定電圧電源45の電圧V2が0Vの場合には、数5に代入してCxは8pFとなる。図3の例の場合と同様に、静電容量Cxに対応する値を求める手段や方法はこの限りでなく、CQ補充手段及びCQ補充工程61の動作から求めるものであれば、どのような手段や方法を用いても良い。
【0060】
図4の(a)の構成の場合には、積分コンデンサCi46の電圧を直接比較手段23および比較工程62に出力しているため、ノイズに強い正確な検出が出来る。
【0061】
図4の(b)の構成では、積分コンデンサCi46の電圧は積分抵抗Ri48を介して比較手段23および比較工程62に出力しているため、比較的ノイズの影響を受けやすく、サンプリング手段24およびサンプリング工程63のサンプリングをスイッチSW1やスイッチSW2がオフして充分な時間がたってから行う必要がある。それでも、スイッチSW1とスイッチSW2の接続点の電圧を直接比較手段および比較工程62に出力している。
【0062】
そのため、例えば図5に示すように汎用的なマイクロコンピュータ52の1つの入出力ポート50に積分抵抗Ri48と積分コンデンサCi46を付加するのみの簡単な構成で、検出対象40の静電容量Cxを測定することを可能にする。
【0063】
ここで図5の構成を説明する。図5において、検出対象40の一方の端子には便宜上任意の値を有する定電圧電源が接続され、検出対象40の他方の端子は入出力ポート50および積分抵抗48の一方の端子に接続されている。積分抵抗Ri48の他方の端子には積分コンデンサCi46の一方の端子が接続されており、積分コンデンサの他方の端子にはグランドなどの定電圧電源に接続されている。入出力ポート50はマイクロコンピュータ52内部でCPU51へと接続されている。入出力端子は検出対象40および積分抵抗Ri48の端子が接続され、端子にはスイッチ53の一方の端子とスイッチ54の一方の端子が接続されている。スイッチ53の他方の端子には定電圧電源VDDが接続され、同様にスイッチ54の他方の端子には定電圧電源VSSが接続されている。スイッチ53の一方の端子とスイッチ54の一方の端子の接続箇所にはコンパレーター55の+側入力が接続されている。コンパレーター55の−側入力には閾値電圧Vtが接続されており、コンパレーター55の出力はCPU51へと接続されている。
【0064】
また、積分抵抗Ri48と積分コンデンサCi46は直列に接続されているため、入れ換えても良いことは言うまでもない。この場合には、サンプリング手段24およびサンプリング工程63及び演算手段25および演算工程64は、マイクロコンピュータ52内のCPU51を用いて実現される。
【0065】
本実施例においては、図12の(a)に示すように、支持基板70上に1次元方向に配置された複数の検出電極の静電容量を同一のマイクロコンピュータの複数のポートに接続することによって、個々の検出電極の静電容量に対応した値から物体の接近および1次元方向の位置を検出するスライダを構成することが出来る。図12の(a)の支持基板70と入出力ポート50とが接続されているそれぞれの配線には抵抗Riの一方の端子が接続されており、積分抵抗Riの他方の端子は積分コンデンサCiの一方の端子に接続されている。各コンデンサCiの他方の端子は定電圧電源に接続されているが、これはあくまで実施例の一つにすぎない。
【0066】
さらに、図12の(b)に示すように、支持基板上に2次元の座標に対応した検出電極を配置することによって、同様に物体の接近および2次元方向の位置を検出する静電検出装置を構成することが出来る。図12の(b)においても同様に、支持基板70と入出力ポート50とが接続されているそれぞれの配線には抵抗Riの一方の端子が接続されており、抵抗Riの他方の端子はコンデンサCiの一方の端子に接続されている。各コンデンサCiの他方の端子は定電圧電源に接続されている。
【0067】
以上に示したように本実施例では、部材コストの低い比較的簡単な構成で、デルタシグマ型のAD変換器と同様に高い分解能で静電容量の検出を可能にする。
【実施例2】
【0068】
実施例1では、シグマデルタ型のAD変換器を応用した例を示したが、物体の接近や接近物体の座標の検出などを行う場合に検出される静電容量は、物体が接近していない場合の静電容量の値が大きく、物体の接近による変化が比較的小さい場合が多い。そのため、検出する静電容量の変化についての分解能が相対的に小さくなってしまう。分解能をさらに高くするためには、サンプリングの回数を増やしても良いがAD変換の時間が長くなってしまう。あるいは、リファレンスコンデンサCrを用いてオフセット容量の影響をキャンセルする方法もあるが、部材コストが高くなってしまうという課題がある。
【0069】
そこで本実施例2では、実施例1と同様の簡単な構成で、検出対象40の静電容量Cxの変化を高速かつ高分解能に検出することのできる静電検出回路およびその方法を実現することである。これは検出対象40の正確な静電容量値を求めるものではなく、静電容量の変化に対応した値を高分解能に検出できるものである。
【0070】
実施例2の好適な一例を、図6及び図10を基に説明する。図6は静電検出手段に関するものであり実施例2に関するものである。検出対象40の静電容量に対応した電圧波形に変換するCV変換手段29と、CV変換手段29の出力を閾値電圧と比較する比較手段23と、CV変換手段29の出力する電圧波形の直流成分が検出対象40の静電容量に対応して変化しつつ電圧波形の交流成分による変動の範囲内に比較手段23の閾値電圧が収まるようにCV変換手段29を制御することを特徴とするCV制御手段27と、比較手段23の出力をサンプリングするサンプリング手段24と、サンプリング手段24の出力から検出対象40の静電容量に対応した値を求める演算手段25とにより実現した。また、CV制御手段27は演算手段25により制御される。また、初期化段階において比較手段23から得られる出力を基に制御をしてもよい。これらはそれぞれ、図6の点線30と実線31で示される。実施例2の一例と従来例と異なる点として、実施例2では演算手段25の結果からCV変換手段29へ出力して電圧を制御しているのに対し、従来例では充放電制御手段11により一定のタイミングで電圧を制御しており、その制御結果を演算手段12へ出力している点が挙げられる。この従来例において充放電制御手段11は電圧の制御をする機能にとどまっているのに対し、実施例2の一例では電圧の制御に加えてCV変換に関しても制御をするように機能が統合されている点も異なる。
【0071】
また、実施例2による静電検出方法は図10において説明する。検出対象の静電容量に対応した電圧波形に変換するCV変換工程65と、CV変換工程65の出力を閾値電圧と比較する比較工程62と、CV変換工程65の出力する電圧波形の直流成分が検出対象40の静電容量に対応して変化しつつ電圧波形の交流成分による電圧波形の変動の範囲内に比較工程62の閾値電圧が収まるようにCV変換工程65を制御することを特徴とするCV制御工程66と、比較工程62の出力をサンプリングするサンプリング工程63と、サンプリング工程63の出力から検出対象の静電容量に対応した値を求める演算工程64とにより実現した。また、CV制御工程66は実線75で示すように演算工程64の出力に基づいて動作する。また、初期化する状態においては点線74に示すように比較工程62の出力によって動作するようにしてもよい。
【0072】
これより、各手段および各工程について詳細に説明する。
【0073】
検出対象40の静電容量Cxは、実施例1の場合と同様であるが、実施例2では、その変化を検出するために、便宜上検出対象40の物体が接近していない場合の静電容量をCxとし、物体の接近による静電容量の増加分をdCxとして、静電容量Cxの変化dCxを高分解能で検出する場合の例について説明する。
【0074】
実施例2ではデルタシグマ型のAD変換器とは動作が異なるため、図3あるいは図4に示す実施例1のCQ補充手段及びCQ補充工程61と同一の構成のものを、CV変換手段29およびCV変換工程65と称す。但し、CV変換手段29およびCV変換工程65のスイッチSW1とスイッチSW2は、サンプリング手段24およびサンプリング工程63のサンプリング結果に基づいてオンオフするのではなく、CV制御手段27およびCV制御工程により制御される。
【0075】
比較手段23および比較工程62とサンプリング手段24およびサンプリング工程63は、実施例1とほぼ同様である。つまり、比較手段23および比較工程62では、積分コンデンサCiの電圧を閾値電圧Vtと比較することにより2値化する。また、サンプリング手段24およびサンプリング工程63では、ラッチ回路などによりサンプリングを行う。但し、サンプリング手段24およびサンプリング工程63は、比較手段23および比較工程62の出力をサンプリングするのみで、CV変換手段29およびCV変換工程65のスイッチの制御は行わない。
【0076】
好適な例として、これより図4に示すCV変換手段およびCV変換工程を用いた場合のCV制御手段27およびCV制御工程66の動作を中心に、図7に示すタイミング図の例を基に詳細に説明する。
【0077】
図7で示されるSW1とSW2はそれぞれ、スイッチSW1とスイッチSW2のオンオフ状態を表す。SW1及びSW2のタイミングチャートは、縦軸がオンオフの状態、直線が上にある時がオンの状態であり、下にある時がオフの状態を表し、横軸は時間を表す。サンプリングの項にある上矢印(↑)はサンプリングするタイミングを表し、上矢印(↑)の下に書かれているTとFはそれぞれTrueとFalseを意味し正論理ではCiの電圧が閾値電圧Vtより高い状態がTrue、閾値電圧VtよりCiの電圧が低いときはFalseとなる。負論理の場合はTrueとFalseが逆になる。図7下方にあるグラフは縦軸が積分コンデンサCiの電圧、横軸が経過時間を表し、実線は検出対象の静電容量がCxの時の電圧波形71、点線は検出対象の静電容量がCx+dCxの時の電圧波形72の時間変化を表す。図7の横軸はSW1、SW2、サンプリング、電圧変化ともに共通の時間軸を有している。
【0078】
図7は、SW1をSW2の5倍の回数オンオフした場合の定常状態の例で、積分コンデンサCiの電圧波形は、スイッチSW2がオンしている間には定電圧電源45の電圧V2に近づき、SW1がオンしている間には定電圧電源41の電圧V1に徐々に近づく。
【0079】
サンプリングは、図4の(b)のCQ変換手段を想定して、スイッチSW1およびスイッチSW2がオフしている間にサンプリング手段でサンプリングするようにした。一回のサイクルにより得られるサンプリング結果のTの回数により、演算手段25において検出対象40の静電容量の増減を知ることが出来る。1回のサイクルで6回サンプリングを行なう場合積分コンデンサCiの静電容量がCxの時の電圧波形71の場合においてはTの回数は1回であり、Fの回数は5回となる。それに対して積分コンデンサCiの静電容量がCx+dCxの時の電圧波形72の場合においては、Tの回数は5回であり、Fの回数は1回となる。電圧波形71の場合では6回中1回検出されたという情報が得られ、電圧波形72の場合では6回中5回検出されたという情報が得られる。このTの割合を基に検出対象40が受けた情報を数値化して静電容量という形で演算手段25から外部へ出力することが出来る。検出対象40の静電容量がdCx増加した場合には、オンオフ回数の多いスイッチSW1側の定電圧電源41の電圧V1に近づくようにほぼ平行移動する。ここで、比較手段の閾値電圧Vtが、積分コンデンサCiの電圧波形の変化の範囲内に入るように制御されている。
【0080】
図7において、CV制御手段27およびCV制御工程66は、CV変換手段29およびCV変換工程65のスイッチSW1およびスイッチSW2を、1回のオン時間の比率が0.7倍以下あるいは1.5倍以上になるような異なる時間でオンオフさせると効果的である。実施例1で説明したように、図4に示すCV変換手段およびCV変換工程では、スイッチSW1とスイッチSW2の1回のオン時間が同じ場合には、検出対象40の静電容量Cxと積分コンデンサCi46の電圧とが無関係になるからである。
【0081】
例えば、ここで閾値電圧Vtが定電圧V1とV2の中間の場合には、積分コンデンサCi46の電圧が一定の範囲に収まるように制御するために、スイッチSW2のオン時間t2がスイッチSW1のオン時間t1より長い場合には、逆にスイッチSW1のオン回数N1はスイッチSW2のオン回数N2より多くするなどして調整を行なう。
【0082】
このスイッチSW1とスイッチSW2のオンオフにより、積分コンデンサCi46に振幅がVacの交流電圧を生じる。この交流成分の振幅Vacの値は、その値が充分小さい場合には積分コンデンサCi46の電圧はほぼ直流成分Vdcに等しく、スイッチSW1の1回のオン時間t1よりスイッチSW2の1回のオン時間t2の方が長い場合にはスイッチSW2の1回のオン時間t2から、数7により得ることができる。スイッチSW1のオン時間の方が長い場合についても同様である。但し、積分コンデンサCiの値は検出対象40の静電容量Cxの値より充分大きいため、Cxの影響は無視した。
【0083】
【数7】

また、積分コンデンサCi46への電荷の入出力のバランスから、同様に積分コンデンサCi46の電圧波形の交流成分Vacが充分小さい場合には、積分コンデンサCi46の電圧波形の直流成分Vdc、スイッチSW1の合計のオン時間T1、スイッチSW2の合計のオン時間T2、スイッチSW1のオン回数N1、スイッチSW2のオン回数N2、積分抵抗Ri48から、数8が成り立つ。
【0084】
【数8】

数8を積分コンデンサCi46の電圧の直流成分Vdcについて解くことにより、数9を得る。
【0085】
【数9】

この直流成分Vdcは、検出対象40の静電容量がCxからCx+dCxに増えた場合には、図7に示すように、オンオフ回数の多いスイッチ側の電源電圧に近づくように変化する。この電圧の変化量をdVdcとする。
【0086】
CV制御手段27およびCV制御工程66では、検出対象40の静電容量Cxの変化dCxによるこの直流成分の変化dVdcを検出するために、前述の積分コンデンサCi46の電圧の交流成分Vacと直流成分Vdcを望ましい値に設定するようにスイッチSW1とスイッチSW2をオンオフする。
【0087】
サンプリング手段24およびサンプリング工程63のサンプリングは、例えばスイッチSW1がオフした後のみに行っても良いが、図7に示すようにスイッチSW1あるいはスイッチSW2がオフした後に行うようにした。この間に積分コンデンサの電圧は、徐々に変化する。このため、積分コンデンサCi46の電圧の交流成分の振幅Vacは、検出レンジの広さにほぼ対応する。また、積分コンデンサCi46の電圧の直流成分Vdcは、検出レンジの中央に対応するため、この直流成分Vdcにより検出レンジのオフセットを設定することができる。つまり、検出対象40の静電容量がCxからCx+dCxに変化しても、積分コンデンサCiの電圧の変動の範囲内に比較手段23および比較工程62の閾値電圧Vtが入るように、積分コンデンサCi46の電圧の直流成分Vdcを設定する。
【0088】
例えば、定電圧電源41の電圧V1が5.0V、定電圧電源45の電圧V2が0V、スイッチSW1の1サイクルのオン回数N1が40回、スイッチSW2の1サイクルのオン回数N2が8回、スイッチSW1の1サイクルの合計のオン時間T1が40μs、スイッチSW2の1サイクルの合計のオン時間T2が74μs、積分抵抗Ri48が20kΩ、検出対象40の静電容量Cxが50pFの場合には、数9に代入すると積分コンデンサCi46の電圧の直流成分Vdcは2.469Vとなる。この条件での積分コンデンサCi46の電圧の交流成分の振幅Vacは、積分コンデンサCi46が15nFの場合には、1回あたりのスイッチSW2のオン時間を8回に分けて入力すると、一回あたりのスイッチSW2のオン時間t2は9.25μsとなる。これより数7に代入すると76mVとなる。従って、積分コンデンサCi46の電圧は、2.431V〜2.507Vの範囲で変化する。
【0089】
ここで、検出対象40の静電容量Cxが55pFに増加すると、積分コンデンサCi46の電圧の直流成分Vdcは数9に代入して2.518Vとなり、交流成分の振幅Vacは78mVとなる。従って、積分コンデンサCi46の電圧は、2.479V〜2.557Vの範囲で変化する。
【0090】
ここで、比較手段23および比較工程62の閾値電圧Vtが2.500Vの場合には、検出対象40の静電容量Cxが50pFから55pFに変化しても積分コンデンサCi46の電圧の変動の範囲に閾値電圧Vtが入っているため、サンプリング手段24およびサンプリング工程63でのサンプリング結果から検出対象40の静電容量Cxの変化を検出することが出来る。
【0091】
この場合の、検出レンジの広さは積分コンデンサCi46の電圧の交流成分の振幅Vacに対応して76〜78mVでほぼ一定であり、積分コンデンサCi46の電圧の直流成分Vdcは2.469Vから2.518Vに49mV変化しているため、検出レンジのおおよそ63%を用いて変化を検出したことになる。
【0092】
ここで、数7および数9により、積分コンデンサCi46の静電容量Ciはその電圧の直流成分Vdcには影響せずに交流成分Vacのみに影響しているため、積分コンデンサCi46の静電容量により検出レンジの広さを調整することが出来る。検出レンジの広さの調整はこの限りでなく、積分コンデンサCi46の静電容量Ciの電圧の交流成分Vacに影響するスイッチの1回のオン時間や積分抵抗Ri48の値などにより調整しても良い。
【0093】
また、検出のオフセットは、例えば数9により、長い時間オンしているスイッチの1サイクルの合計のオン時間により調整することができる。オフセットの調整は、例えば温度変化等により物体が接近していない時の静電容量Cxが変化した場合などに行う。検出対象40の静電容量Cxが50pFの前述の例では、スイッチSW2の1サイクルの合計のオン時間を74μsから75μsに変えることにより、積分コンデンサCi46の電圧の直流成分Vdcは2.469Vから2.454Vに15mV変化するため、1サイクルの合計のオン時間を1μs単位で変化させる場合には、検出のオフセットは15mV程度の精度で設定することが出来る。検出のオフセットの調整はこの限りでなく、積分コンデンサCi46の電圧の直流成分Vdcを求める数9の右辺に含まれる他の変数の値により調整しても良い。
【0094】
ここで、CV制御手段27およびCV制御工程のスイッチ制御の前述のサイクルについて説明する。サイクルとは同一の手順でのスイッチの一連のオンオフのことで、1つのサイクルの中にスイッチSW1やスイッチSW2が単数または複数回オンオフされる。
【0095】
スイッチSW1とスイッチSW2のオンオフは、積分コンデンサCi46の電圧の交流成分の振幅Vacが大きくならないように、通常なるべく片寄らないように均一にする。例えば、前述の例のように、スイッチSW1の1サイクルのオン回数が40回、スイッチSW2の1サイクルのオン回数が8回の場合には、スイッチSW2を1回オンオフするごとにスイッチSW1を5回オンオフする。
【0096】
ここで、前述のようにスイッチSW1の1サイクルの合計のオン時間が40μsでオン回数が40回の場合には、スイッチSW1の1回のオン時間は同一の1μsでも良い。しかし、スイッチSW2については、1サイクルの合計のオン時間が74μsとすると、スイッチSW2の1サイクルのオン回数が8回で割り切ることができないため、例えば1μs単位でしか設定できない場合には、9μsを6回と10μsを2回のようにオン時間がなるべく均一になるようなオン時間を用いる。
【0097】
ここで、検出の分解能について、詳細に説明する。検出の分解能は、1サイクルのサンプリングの回数に対応すると考えるのが基本ではあるが、実際には積分コンデンサCi46の電圧が同じ電圧で複数回のサンプリングをサンプリング手段24およびサンプリング工程63で行ってしまうと、サンプリングする時の積分コンデンサの電圧の数が減ったり偏ったりしてしまうために、分解能は低下してしまう。例えば、前述の1サイクルの中でスイッチSW2のオン時間が9μsを6回と10μsを2回にする場合には、例えばスイッチSW2をオンする時間を1回目と5回目を10μsにしてその他を9μsにすると、同じスイッチ制御が2回繰り返されることになる。それは1回目から4回目と5回目から8回目のスイッチ制御が全く同じになってしまうからである。ただし、ノイズがある環境であれば、同じ電圧を与えても異なる検出結果となり、分解能は維持されるが、ノイズがまったくないと分解能が半減してしまう。
【0098】
ここでは、分解能を低下させないためのいくつかの方法について、説明する。
【0099】
まず、繰り返しの最小単位を短くしないことが、分解能の低下を抑制する。前述の例の場合には、1回ずらして1回目と6回目を10μsにしてその他を9μsにするなど、繰り返しの最小単位を短くしないようにすると他のサンプリングと同じ電圧の時にサンプリングされにくくなる。従って、特に1サイクルの合計のオン時間を1サイクルのオン回数で割り切れる場合でも、すべてを同じ時間にしない方が良い場合が多い。
【0100】
また、検出対象40の静電容量Cx、CV変換手段29およびCV変換工程65、比較手段23および比較工程62のいずれかに適度なノイズが重畳することにより、積分コンデンサCi46の電圧が同じ電圧の時にサンプリングしてしまう確率が低くなる場合には、ノイズにより検出の分解能が高くなる場合がある。但し、ノイズが強すぎる場合には、ノイズの影響を除去するために、ノイズ相応の複数サイクルの検出を繰り返せば良い。
【0101】
さらに、積分コンデンサCi46の電圧に任意の波形、たとえばランプ波形を加えるなど、積極的にノイズを加えるようにすることも有効である。複数の検出電極の静電容量を検出する場合などには、1つのランプ波形を用意して、配線や配線パターンなどの容量結合等により印加すると比較的ローコストで安定したノイズを印加することが出来る。
【0102】
前述の例では、検出対象40の静電容量Cx、その増加量dCx、定電圧電源41、定電圧電源45の電圧V1、V2、比較手段23および比較工程62の閾値電圧Vt、積分抵抗Ri48、積分コンデンサCi46などの値が正確な場合の例を示した。これらの値にバラツキがあった場合でも基本的な動作は同様であり、検出レンジのバラツキを考慮して広めに設定したり、図6の実線31あるいは図10の実線75で示すように演算手段25および演算工程64の演算結果により積分コンデンサCi46の電圧の振幅であるVacのレンジを調整すれば、接近物体の検出のための静電容量の変化を十分実用的に捉えることが出来る。例えば、物体が接近していない場合に、演算手段25および演算工程64の演算結果が望ましい値になるように、CV制御手段27およびCV制御工程66によるCV変換手段29およびCV変換工程65のスイッチのオン時間を変更するようにすればよい。
【0103】
演算手段25および演算工程64では、実施例1の場合とほぼ同様に、サンプリング手段24およびサンプリング工程63でサンプリングされた結果を用いて、演算により検出対象40の静電容量Cxに対応したデジタル値を得る。このデジタル値は本発明である静電容量装置の最終出力に相当するものであり、検出対象40の静電容量の変化を数値化したものである。但し、実施例2では、検出対象40の静電容量Cxの正確な静電容量値でなく、静電容量の変化に対応した値を求めるようにした。
【0104】
このため、演算手段では、サンプリング手段の出力をカウントするようにした。例えば、サンプリング結果が正論理の場合の回数を所定のサイクル数においてカウントすることにより、静電容量Cxに対応したデジタル値を得ることが出来る。また、負論理の場合の回数をカウントしても、静電容量Cxに対応したデジタル値を得ることが出来ることは言うまでもない。また、カウントするサイクル数を多くすることにより分解能を高くすることが出来る。
【0105】
また、演算手段では、連続的に検出するために、サンプリング結果からデジタルフィルタにより検出対象40の静電容量の変化に対応したデジタル値の時間推移を検出するなど、サンプリング手段24およびサンプリング工程63の出力を用いて検出対象40の静電容量Cxに対応した値を求めるものであればどのような手段や方法を用いてもよい。
【0106】
以上に定常状態における動作について説明したが、ここでは、検出前の初期状態から定常状態にするための初期化方法の好適な例について、図8のタイミング図と図11の初期状態から定常状態にするためのフローチャート図を基に説明する。
【0107】
初期化は検出対象40の静電容量の検出の前に、定常状態に近づけるために、閾値接近と中央寄せと助走を必要に応じて行う。図8で示されるSW1とSW2はそれぞれ、スイッチSW1とスイッチSW2のオンオフ状態を表す。SW1及びSW2のタイミングチャートは、縦軸がオンオフの状態、直線が上にある時がオンの状態であり、下にある時がオフの状態を表し、横軸は時間を表す。図8下方にあるグラフは縦軸が電圧、横軸が経過時間を表し、実線はCiの電圧の時間変化を表す。図8の横軸はSW1、SW2、電圧変化ともに共通の時間軸を有している。また、スイッチSW2の1回目のオンが終了するまでの期間を閾値接近、スイッチSW1を所定の回数オンオフ繰り返す期間を中央寄、スイッチSW2の2回目のオンが開始されるタイミングから助走と呼び、それぞれ期間を表す。
【0108】
図11を基にして説明を行なう。閾値接近工程67では、積分コンデンサCi46の電圧を比較手段23および比較工程62の閾値の電圧に近づける。このため、積分コンデンサCi46の電圧が比較手段および比較工程62の閾値Vtより高い場合には、閾値の電圧より低い電圧の定電圧電源を接続しているスイッチを比較出力が変化するまでオンし続ける。逆に、積分コンデンサCi46の電圧が比較手段23および比較工程62の閾値Vtより低い場合には、閾値の電圧より高い電圧の定電圧電源を接続しているスイッチを比較出力が変化するまでオンし続ける。
【0109】
中央寄せ工程68では、積分コンデンサCi46の電圧を検出レンジのほぼ中央に合わせるために、1回のオン時間が短く連続して繰り返しオンオフするスイッチを通常の約半分の回数分だけオンオフする。あるいは、1回のオン時間が長いスイッチの定常状態でのオン時間の半分の時間オンするようにしても良い。例えば、実施例2の場合、SW1のオンオフ回数を通常の半分にするか、SW2のオン時間を電圧が閾値Vtより低くなったタイミングから通常の半分の時間オンにする。但し、この場合において助走工程は、SW1のオンからはじめる。
【0110】
さらに、助走工程69では、CV変換手段29及びCV変換工程65のスイッチのオンオフを実際の検出と同じサイクルを繰り返して、定常状態に近づける。
【0111】
これより、助走の動作と効果について、詳細に説明する。
【0112】
積分コンデンサCi46の電圧が定常状態の電圧Vdcから電圧dVだけずれている場合に1サイクルの間に積分コンデンサCi46の電荷が変化する量をdQとすると、数10が成り立つ。但し、ここでは便宜上1サイクルの中での積分コンデンサCi46の電圧の変化は無視した。
【0113】
【数10】

数10から定常状態の数8を差し引いて、数11を得る。
【0114】
【数11】

ここで、前述の例と同じ条件として、スイッチSW1の1サイクルのオン回数N1が40回、スイッチSW2の1サイクルのオン回数N2が8回、スイッチSW1の1サイクルの合計のオン時間T1が40μs、スイッチSW2の1サイクルの合計のオン時間T2が74μs、積分抵抗Riが20kΩ、検出対象40の静電容量Cxが50pFの場合には、定常状態からの電圧のずれdVが1Vの場合には、数11に代入して、積分コンデンサCi46の電荷の変化dQは、8100pCとなる。前述と同じで積分コンデンサCi46が15nFの場合には、0.54Vの変化となる。つまり、大雑把に言って、1サイクル毎に定常状態からの電圧のずれが半減してexpカーブで定常状態に近づく。
【0115】
例えば、1/64程度の検出の絶対精度(6ビット)が必要な場合には、中央寄せでほぼ1/2近づいているとする。1サイクルの助走で半減する場合には、その後の検出動作中にも定常状態に近づくことを考慮して、凡そ5サイクルの助走を行うようにした。
【0116】
但し、同一条件での静電容量の相対的な比較や変化を求めれば良い場合には、必ずしも助走は必要なく、検出速度や消費電力等を考慮して、必要に応じて必要なサイクル数行えばよい。必ずしも完全に収束させなくても、検出結果の影響が許容される範囲に収まれば充分である。
【0117】
また、前回の検出により定常状態に保持されている場合には、初期化そのものを都度行う必要はない。それでも、実際には、物体の接近を検出する場合には10ms〜数10ms程度のインターバルがあることが多い。ただし、図5に示すような汎用的なマイクロコンピュータの入出力ポートを使用する場合などには、リーク電流などによりインターバルの間に積分コンデンサCi46の電圧が大きく変化することが考えられるなど、初期化が必要になる場合も多い。
【0118】
それでも、積分コンデンサCi46の電圧が定常状態から微妙にずれている場合などには、閾値接近および中央寄せを行わずに助走だけを用いるようにしても良い。
【0119】
以上において、容量変化により平衡電圧が高くなる場合について説明したが、逆の場合についても同様である。
【0120】
なお、実施例2においても、実施例1の場合と同様に、図5に示すように汎用的なマイクロコンピュータの入出力ポート1つに積分抵抗Ri48と積分コンデンサCi46を付加するのみの簡単な構成で検出対象40の静電容量Cxを測定することを可能にする。この際、積分抵抗Ri48と積分コンデンサCi46は直列に接続されているため、入換えても良いことは言うまでもない。また、この場合には、サンプリング手段とサンプリング工程63及び演算手段25と演算工程64及びCV制御手段とCV制御工程及び制御手段と制御工程は、マイクロコンピュータ内のCPUにより実現される。
【0121】
また、実施例1の場合と同様に本実施例2においても、図12の(a)に示すように、支持基板上に1次元方向に配置された複数の検出電極の静電容量を同一のマイクロコンピュータの複数のポートに接続することによって、個々の検出電極の静電容量に対応した値から物体の接近および1次元方向の位置を検出するスライダを構成することが出来る。
【0122】
さらに、図12の(b)に示すように、支持基板上に2次元の座標に対応した検出電極を配置することによって、同様に物体の接近および2次元方向の位置を検出する静電検出装置を構成することが出来る。
【0123】
以上に示したように、本発明による実施例2では、部材コストの低い簡単な構成で、検出対象40の静電容量の変化を高速かつ高分解能で検出する静電検出回路およびその方法を実現することができる。
【0124】
また、本実施例によると、検出レンジをスイッチのオンオフのタイミングで制御することができるため、プログラマブルなレンジ設定を行うことができる。
【符号の説明】
【0125】
10 DA変換手段
14 CQ変換手段
15 デルタシグマ型のAD変換器
20 静電検出回路
22 CQ補充手段
23 比較手段
24 サンプリング手段
25 演算手段
27 CV制御手段
29 CV変換手段
40 検出対象
41 定電圧電源
43 放電抵抗Rd
44 補充抵抗Rs
45 定電圧電源
46 積分コンデンサCi
48 積分抵抗Ri
50 入出力ポート
51 CPU
52 マイクロコンピュータ
61 CQ補充工程
62 比較工程
63 サンプリング工程
64 演算工程
65 CV変換工程
66 CV制御工程
67 閾値接近工程
68 中央寄せ工程
69 助走工程
70 支持基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体の接近位置を静電容量で検出する静電検出装置において、支持基板上に配置された複数の検出電極と、前記複数の検出電極の各々に接続される検出電極などの検出対象が有する静電容量に対応した電圧波形に変換するための抵抗とコンデンサの直列接続で構成されるCV変換手段と、前記検出電極の各々に入出力ポートが接続される汎用的なマイクロコンピュータを有し、前記マイクロコンピュータのCPUにより前記検出電極の各々の静電容量あるいはその変化に対応した値から接近物体の位置を演算する静電検出装置。
【請求項2】
前記静電検出装置の汎用的なマイクロコンピュータにおいて、前記CV変換手段の出力を閾値電圧と比較する比較手段と、前期比較手段の出力をサンプリングするサンプリング手段と、前記サンプリング手段の出力から前記検出対象の静電容量に対応した値を求める演算手段と、前記演算結果により入出力ポートのスイッチを制御するCV制御手段とを前記マイクロコンピュータにより実現される請求項1に記載の静電検出装置。
【請求項3】
物体の接近位置を静電容量で検出する静電検出回路において、検出対象の静電容量に対応した電荷量を変換すると共に変換した電荷量に相当する電荷量を補充して積分するCQ補充手段と、前記CQ補充手段の出力を閾値電圧と比較する比較手段と、前記比較手段の出力をサンプリングして前記CQ補充手段に負の帰還をかけるサンプリング手段と、前記サンプリング手段の出力から前記検出対象の静電容量に対応した値を求める演算手段とを有し、
前記CQ補充手段が、第一の定電圧電源と第二の定電圧電源と第一のスイッチと第一の抵抗と第二の抵抗とコンデンサを有し、前記第一のスイッチの一方の端子に第一の定電圧電源が接続され、前記第一のスイッチの他方の端子に検出対象の静電容量と第一の抵抗の一方の端子が接続され、前記第一の抵抗の他方の端子が前記第二の抵抗の一方の端子に接続され、前記第二の抵抗の他方の端子が前記第二の定電圧電源に接続され、前記第一の抵抗と前記第二の抵抗の接続端子が前記コンデンサの一方の端子に接続されている静電検出回路。
【請求項4】
物体の接近位置を静電容量で検出する静電検出回路において、検出対象の静電容量に対応した電荷量を変換すると共に変換した電荷量に相当する電荷量を補充して積分するCQ補充手段と、前記CQ補充手段の出力を閾値電圧と比較する比較手段と、前記比較手段の出力をサンプリングして前記CQ補充手段に負の帰還をかけるサンプリング手段と、前記サンプリング手段の出力から前記検出対象の静電容量に対応した値を求める演算手段とを有し、
前記CQ補充手段が、第一の定電圧電源と第二の定電圧電源と第一のスイッチと第二のスイッチと第三の抵抗とコンデンサを有し、前記第一のスイッチの一方の端子に第一の定電圧電源が接続され、前記第一のスイッチの他方の端子に検出対象の静電容量と第二のスイッチの一方の端子と第三の抵抗と前記コンデンサの直列接続の一方の端子が接続され、前記第二のスイッチの他方の端子が前記第二の定電圧電源に接続される静電検出回路。
【請求項5】
物体の接近位置を静電容量で検出する静電検出回路において、検出対象の静電容量に対応した電圧波形に変換するCV変換手段と、前記CV変換手段の出力を閾値電圧と比較する比較手段と、前記比較手段の出力をサンプリングするサンプリング手段と、前記サンプリング手段の出力から前記検出対象の静電容量に対応した値を求める演算手段とを有する静電検出回路。
【請求項6】
前記CV変換手段が、第一の定電圧電源と第二の定電圧電源と第一のスイッチと第一の抵抗と第二の抵抗とコンデンサを有し、前記第一のスイッチの一方の端子に第一の定電圧電源が接続され、前記第一のスイッチの他方の端子に検出対象の静電容量と第一の抵抗の一方の端子が接続され、前記第一の抵抗の他方の端子が前記第二の抵抗の一方の端子に接続され、前記第二の抵抗の他方の端子が前記第二の定電圧電源に接続され、前記第一の抵抗と前記第二の抵抗の接続端子が前記第一のコンデンサの一方の端子に接続されている請求項5に記載の静電検出回路。
【請求項7】
前記CV変換手段が、第一の定電圧電源と第二の定電圧電源と第一のスイッチと第二のスイッチと第三の抵抗とコンデンサを有し、前記第一のスイッチの一方の端子に第一の定電圧電源が接続され、前記第一のスイッチの他方の端子に検出対象の静電容量と第二のスイッチの一方の端子と第三の抵抗とコンデンサの直列接続の一方の端子が接続され、前記第二のスイッチの他方の端子が前記第二の定電圧電源に接続される請求項5に記載の静電検出回路。
【請求項8】
前記第一のスイッチの1回のオン時間は、前記第二のスイッチの1回のオン時間と比較して0.7倍以下あるいは1.5倍以上である請求項4に記載の静電検出装置または請求項7に記載の静電検出回路。
【請求項9】
静電容量あるいは静電容量の変化を検出する静電検出方法において、検出対象の静電容量に対応した電圧波形に変換するCV変換工程と、前記CV変換工程により得られた出力を閾値電圧と比較する比較工程と、前記CV変換工程の出力する電圧波形の直流成分が前記検出対象の静電容量に対応して変化しつつ前記電圧波形の交流成分による前記電圧波形の変動の範囲内に前記比較工程の閾値電圧が収まるように前記CV変換工程の出力を制御することを特徴とするCV制御工程と、前記比較工程の出力をサンプリングするサンプリング工程と、前記サンプリング工程の出力から前記検出対象の静電容量に対応した値を求める演算工程とを有する静電検出方法。
【請求項10】
前記CV制御工程は、前記演算工程の演算結果を基にして前記CV変換工程の出力を制御する請求項9に記載の静電検出方法。
【請求項11】
静電容量あるいはその変化を検出する静電検出方法の初期状態から定常状態にするための初期化方法において、コンデンサの電圧を比較工程の閾値電圧に近づけるために前記コンデンサの電圧が前記比較工程の閾値電圧よりも高い場合には閾値の電圧より低い電圧の定電圧電源に接続しているスイッチを比較工程において出力が変化するまでオンし続け、逆に前記コンデンサの電圧が前記比較工程の閾値電圧よりも低い場合には閾値の電圧より高い定電圧電源に接続しているスイッチを比較工程において出力が変化するまでオンし続ける閾値接近工程により、検出前の初期状態から定常状態にする初期化方法。
【請求項12】
静電容量あるいはその変化を検出する静電検出方法の初期状態から定常状態にするための初期化方法において、前記閾値接近工程に加え、前記コンデンサの電圧を検出レンジのほぼ中央に合わせるため、前記コンデンサの電圧が前記比較工程の閾値電圧よりも高い場合には閾値の電圧より低い定電圧電源に接続しているスイッチをCQ変換工程で行なう回数より少ない回数分だけ連続してオンオフし、逆に前記コンデンサの電圧が前期比較工程の閾値電圧よりも低い場合には閾値の電圧より高い定電圧電源に接続しているスイッチをCQ変換工程で行なう回数より少ない回数分だけ連続してオンオフをする中央寄せ工程とを行なう請求項11に記載の初期化方法。
【請求項13】
静電容量あるいはその変化を検出する静電検出方法の初期状態から定常状態にするための初期化方法において、前記スイッチをCQ変換工程で行なう回数と同じ回数分だけ連続してオンオフをする動作を少なくても1回以上繰り返す助走工程を行なう請求項11に記載の初期化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−152876(P2010−152876A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−263378(P2009−263378)
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】