説明

非対称第3級アルコールの製造方法

【課題】毒性の高い金属化合物を用いず、高い収率で簡易に環状骨格を有する非対称第3級アルコールを、製造する方法の提供。
【解決手段】環状骨格を有する酸ハロゲン化合物を含む液中に、特定の有機金属化合物を含む液を、0.01〜0.5当量/時間の速度で添加してケトン中間体とし、さらに、該中間体に特定の有機金属化合物を反応させて式(5)で表される非対称第3級アルコールを生成させる。


[式中、環Zは単環又は多環の非芳香族性又は芳香族性環を示す。まら、R1、R2は炭化水素基で、異なる基である。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非対称第3級アルコールの製造方法、及び該非対称第3級アルコールを用いたカルボン酸非対称第3級アルコールエステルの製造方法に関する。より詳細には、ヒドロキシル基が結合している炭素原子に、単環又は多環の非芳香族性又は芳香族性環が結合し、さらに相異なる2つの基が結合している非対称第3級アルコールの製造方法、及び該非対称第3級アルコールを用いたカルボン酸非対称第3級アルコールエステルの製造方法に関する。このような非対称第3級アルコール及びカルボン酸非対称第3級アルコールエステルは感光性樹脂等の機能性高分子や医薬品等の精密化学品などの原料として有用である。
【背景技術】
【0002】
非対称第3級アルコールの製造方法として、アルキルマンガンハライドと酸ハライドとを反応させてケトンを得、得られたケトンにアルキルリチウム又はアルキルマグネシウムハライドを反応させて目的とする非対称第3級アルコールを得る方法が報告されている(非特許文献1、2)。しかし、この方法では、有毒性の高いマンガン化合物を量論量用いる上、アルキルマンガンハライドを、アルカンから合成したアルキルリチウムにさらにハロゲン化マンガンを反応させて調製する必要があり、工程が煩雑となる。また、従来、環状骨格を有するカルボン酸非対称第3級アルコールエステルの工業的に効率のよい製造法はない。
【0003】
また、非対称ケトンの製造方法として、触媒量の金属ハライドの存在下、アシルクロライドとグリニヤール試薬とを反応させて目的とする非対称ケトンを得る方法が報告されている(非特許文献3)。この文献には、グリニヤール試薬の添加時間が速い場合には、目的物であるケトンの還元体(第2級アルコール)が主な副生物であり、グリニヤール試薬の添加時間が遅い場合には、カルボン酸のエステルが主な副生物であることが記載されている。なお、この文献には、非対称第3級アルコールの製造方法についての記載はない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】テトラヘドロン レターズ(Tetrahedron Letters), 1988, 29(30), 3659−3662
【非特許文献2】テトラヘドロン レターズ(Tetrahedron Letters), 1986, 27(37), 4441−4444
【非特許文献3】テトラヘドロン(Tetrahedron), 61(2005),83−88
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、環状骨格を有する非対称第3級アルコールを、毒性の高い金属化合物を用いなくても、高い収率で簡易に製造できる方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、環状骨格を有する非対称第3級アルコールを、入手容易な原料から高い選択率及び収率で製造できる方法を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、環状骨格を有するカルボン酸非対称第3級アルコールエステルの工業的に効率のよい製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、環状骨格を有するカルボン酸誘導体を含む混合液中に、特定の有機金属化合物を含む混合液を所定の速度で添加して対応するケトンを生成させた後、該ケトンに特定の有機金属化合物を反応させると、環状骨格を有する非対称第3級アルコールが高い収率で工業的に効率よく得られることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、下記式(1)
【化1】

[式中、環Zは単環又は多環の非芳香族性又は芳香族性環を示す。Xは、ハロゲン原子、−OCORa(式中、Raは炭化水素基を示す)、又は−ORb(式中、Rbは炭化水素基を示す)を示す]
で表される化合物を含む液中に、下記式(2)
1−M1 (2)
[式中、R1は炭化水素基を示す。M1は配位子を有していてもよい金属原子、又は−MaY(式中、Maはマンガン以外の金属原子、Yはハロゲン原子を示す)を示す]
で表される有機金属化合物を含む液を、0.01〜0.5当量/時間の速度で添加して、下記式(3)
【化2】

[式中、環Z、R1は前記に同じ]
で表されるケトンを生成させる工程A、及び前記式(3)で表されるケトンに、下記式(4)
2−M2 (4)
[式中、R2は炭化水素基を示す。但し、R1とR2は異なる基である。M2は配位子を有していてもよい金属原子、又は−MbY(式中、Mbはマンガン以外の金属原子、Yはハロゲン原子を示す)を示す]
で表される有機金属化合物を反応させて、下記式(5)
【化3】

(式中、環Z、R1、R2は前記に同じ)
で表される非対称第3級アルコールを生成させる工程Bとを少なくとも含む非対称第3級アルコールの製造方法を提供する。
【0008】
前記工程Aにおいて、式(1)で表される化合物を含む液中に式(2)で表される有機金属化合物を含む液を添加した後、活性水素を有する化合物を加えてもよい。
【0009】
工程Aにおける反応及び/又は工程Bにおける反応を、周期表第8族〜第11族元素を含むイオン化合物の存在下で行ってもよい。
【0010】
工程Aにおける反応及び/又は工程Bにおける反応を、ルイス酸の存在下で行ってもよい。
【0011】
工程Bの後、生成した式(5)で表される非対称第3級アルコールを含む反応混合液を共沸脱水操作に付して水を除去する工程をさらに含んでいてもよい。
【0012】
本発明は、また、前記の方法により下記式(5)
【化4】

(式中、環Zは単環又は多環の非芳香族性又は芳香族性環を示す。R1、R2は、それぞれ、炭化水素基を示す。但し、R1とR2は異なる基である)
で表される非対称第3級アルコールを製造した後、該非対称第3級アルコールを、下記式(6)
3COOH (6)
(式中、R3は炭化水素基、複素環式基又はこれらが結合した基を示す)
で表されるカルボン酸又はその反応性誘導体と反応させて、下記式(7)
【化5】

(式中、環Z、R1、R2、R3は前記に同じ)
で表される環状骨格を有するカルボン酸非対称第3級アルコールエステルを得ることを特徴とするカルボン酸非対称第3級アルコールエステルの製造方法を提供する。
【0013】
この製造方法において、前記式(5)で表される非対称第3級アルコールと式(6)で表されるカルボン酸又はその反応性誘導体とを反応させた後、アルコールを加えてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法によれば、環状骨格を有する非対称第3級アルコールを、毒性の高い金属化合物を用いなくても、高い収率で簡易に製造することができる。また、環状骨格を有する非対称第3級アルコールを、入手容易な原料から高い選択率及び収率で製造できる。
また、環状骨格を有するカルボン酸非対称第3級アルコールエステルを工業的に効率よく製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[非対称第3級アルコールの製造]
本発明の非対称第3級アルコールの製造方法は、式(1)で表される化合物を含む液中に、式(2)で表される有機金属化合物を含む液を、0.01〜0.5当量/時間の速度で添加して、式(3)で表されるケトンを生成させる工程Aと、前記式(3)で表されるケトンに、式(4)で表される有機金属化合物を反応させて、式(5)で表される非対称第3級アルコールを生成させる工程Bとを少なくとも含む。なお、本明細書において、「非対称」第3級アルコールとは、原料として用いられる式(1)の化合物のカルボニル炭素に2つの異なる基が導入された第3級アルコールを意味する。
【0016】
[式(1)で表される化合物]
前記式(1)で表される化合物において、環Zは単環又は多環の非芳香族性又は芳香族性環を示す。Xは、ハロゲン原子、−OCORa(式中、Raは炭化水素基を示す)、又は−ORb(式中、Rbは炭化水素基を示す)を示す。
【0017】
環Zにおける非芳香族性環には、脂環式炭化水素環(非芳香族性炭化水素環)及び非芳香族性複素環が含まれる。脂環式炭化水素環には、単環式炭化水素環及び多環式炭化水素環[スピロ炭化水素環、環集合炭化水素環、架橋環式炭化水素環(縮合環式炭化水素環を含む)]が含まれ、非芳香族性複素環には、単環式複素環及び多環式複素環(架橋環式複素環等)が含まれる。
【0018】
単環式炭化水素環としては、例えば、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン環などのC3-12シクロアルカン環;シクロヘキセン環などC3-12シクロアルケン環などが挙げられる。スピロ炭化水素環には、例えば、スピロ[4.4]ノナン、スピロ[4.5]デカン、スピロビシクロヘキサン環などのC5-16スピロ炭化水素環が含まれる。環集合炭化水素環としては、例えば、ビシクロヘキサン、ビパーヒドロナフタレン環などのC3-12シクロアルカン環を含む環集合炭化水素環が例示できる。
【0019】
架橋環式炭化水素環として、例えば、ピナン、ボルナン、ノルピナン、ノルボルナン、ビシクロオクタン環(ビシクロ[2.2.2]オクタン環、ビシクロ[3.2.1]オクタン環等)などの2環式炭化水素環;ホモブレダン、アダマンタン、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、トリシクロ[4.3.1.12,5]ウンデカン環などの3環式炭化水素環;テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン、パーヒドロ−1,4−メタノ−5,8−メタノナフタレン環などの4環式炭化水素環などが挙げられる。
【0020】
架橋環式炭化水素環には、ジエン類の二量体の水素添加物[例えば、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、シクロヘプタジエンなどのシクロアルカジエンの二量体の水素添加物(例えば、パーヒドロ−4,7−メタノインデンなど)、ブタジエンの二量体(ビニルシクロヘキセン)やその水素添加物など]に対応する環なども含まれる。
【0021】
また、架橋環式炭化水素環には、縮合環式炭化水素環、例えば、パーヒドロナフタレン(デカリン)、パーヒドロアントラセン、パーヒドロフェナントレン、パーヒドロアセナフテン、パーヒドロフルオレン、パーヒドロインデン、パーヒドロフェナレン環などの5〜8員シクロアルカン環が複数個縮合した縮合環も含まれる。
【0022】
好ましい架橋環式炭化水素環として、ノルボルナン、ボルナン、アダマンタン、ビシクロオクタン、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、デカリン環等が挙げられる。
【0023】
単環式非芳香族性複素環として、例えば、オキソラン、オキサン、オキセパン、オキソカン環などの酸素原子含有複素環;パーヒドロアゼピン環などの窒素原子含有複素環などが挙げられる。多環式非芳香族性複素環としては架橋環式複素環などが挙げられる。
【0024】
また、前記芳香族性環には、芳香族炭化水素環及び芳香族複素環が含まれる。芳香族炭化水素環としては、例えば、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、フェナレン環などの単環または多環の芳香族炭化水素環が挙げられる。芳香族複素環としては、例えば、フラン、チオフェン、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、キノリン、イソキノリン、キナゾリン、キノキサリン、アクリジン、フェナジン環などの酸素原子、窒素原子、硫黄原子などのヘテロ原子を1または複数個含む単環または多環の芳香族複素環が挙げられる。
【0025】
好ましい環Zは多環の非芳香族性環(炭化水素環又は複素環)であり、特に、アダマンタン環などの2〜4個の環を含む架橋環式環(架橋環式炭化水素環又は架橋環式複素環)が好ましい。また、環Zとしては、炭素数5以上(例えば5〜18、特に6〜14)の単環又は多環の非芳香族性又は芳香族性環が好ましい。
【0026】
環Zは置換基を有していてもよい。該置換基としては、反応を損なわないものであれば特に限定されない。置換基の代表的な例として、例えば、ハロゲン原子(臭素、塩素、フッ素原子など)、アルキル基(メチル、エチル、ブチル、t−ブチル基などのC1-4アルキル基など)、保護基で保護されたヒドロキシル基、保護基で保護されたアミノ基などが挙げられる。
【0027】
前記ヒドロキシル基の保護基としては、有機合成の分野で慣用の保護基、例えば、アルキル基(例えば、メチル、t−ブチル基などのC1-4アルキル基など)、シクロアルキル基(例えば、シクロヘキシル基など)、アラルキル基(例えば、ベンジル基など)、置換メチル基(例えば、メトキシメチル、メトキシチオメチル、ベンジルオキシメチル、t−ブトキシメチル、2−メトキシエトキシメチル基など)、置換エチル基(例えば、1−エトキシエチル、1−メチル−1−メトキシエチルなど)、アシル基(例えば、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、ピバロイル基などのC1-6脂肪族アシル基;アセトアセチル基;ベンゾイル、ナフトイル基などの芳香族アシル基など)、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル基などのC1-4アルコキシカルボニル基など)、アラルキルオキシカルボニル基(例えば、ベンジルオキシカルボニル基、p−メトキシベンジルオキシカルボニル基など)が例示できる。好ましいヒドロキシル基の保護基には、C1-4アルキル基、置換メチル基、置換エチル基、アシル基、C1-4アルコキシカルボニル基などが含まれる。
【0028】
前記アミノ基の保護基としては、前記ヒドロキシル基の保護基として例示した、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基などが挙げられる。好ましいアミノ基の保護基には、C1-4アルキル基、C1-6脂肪族アシル基、芳香族アシル基、C1-4アルコキシカルボニル基などが含まれる。
【0029】
Xにおけるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。これらの中でも、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が好ましい。
【0030】
前記Ra、Rbにおける炭化水素基には、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基およびこれらの基を複数個連結した基が含まれる。
【0031】
前記脂肪族炭化水素基として、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、デシル、ビニル、アリル、2−プロピニル基などのC1-10脂肪族炭化水素基(直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、アルケニル基およびアルキニル基)などが挙げられる。好ましい脂肪族炭化水素基はC1-6(特にC1-4)脂肪族炭化水素基である。
【0032】
脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロペンチル、シクロヘキシル基などの3〜12員脂環式炭化水素基(シクロアルキル基、シクロアルケニル基など)などが例示できる。
【0033】
芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル、ナフチル基などのC6-20芳香族炭化水素基(アリール基)などが挙げられる。また、異種の炭化水素基が複数個連結した基として、例えば、ベンジル、2−フェニルエチル基などのC7-16アラルキル基、シクロペンチルメチル、シクロへキシルメチル基などのC3-12シクロアルキル−C1-6アルキル基などが例示される。
【0034】
前記炭化水素基は置換基を有していてもよい。置換基としては、反応を阻害しないものであれば特に限定されず、例えば、ハロゲン原子、置換オキシ(またはチオ)基(例えば、メトキシ、メチルチオ、メトキシエトキシ、2−(トリメチルシリル)エトキシ、ベンジルオキシ基など)、アシル基(例えば、ベンゾイル基など)などが挙げられる。
【0035】
好ましいRa、Rbには、C1-6アルキル基、C3-12シクロアルキル基、C6-20アリール基など、特に、C1-4アルキル基、C5-6シクロアルキル基、フェニル基などが含まれる。
【0036】
[式(2)で表される有機金属化合物]
前記式(2)中、R1は炭化水素基を示す。M1は配位子を有していてもよい金属原子、又は−MaY(式中、Maはマンガン以外の金属原子、Yはハロゲン原子を示す)を示す。
【0037】
1における炭化水素基としては、前記Ra、Rbにおける炭化水素基と同様のものが挙げられる。好ましいR1には、C1-6アルキル基、C3-12シクロアルキル基、C3-12シクロアルキル−C1-6アルキル基、C6-20アリール基、C7-16アラルキル基などが含まれる。なかでも、R1として、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等のC1-4アルキル基が好ましい。
【0038】
1における金属原子としては、例えば、リチウムなどのアルカリ金属、セリウム、チタン、銅などの還移金属原子などが挙げられる。前記金属原子は配位子を有していてもよい。前記配位子としては、塩素原子などのハロゲン原子、イソプロポキシ基などのアルコキシ基、ジエチルアミノ基などのジアルキルアミノ基、シアノ基、アルキル基、リチウム原子などのアルカリ金属原子などが挙げられる。
【0039】
aとしては、例えば、マグネシウム、亜鉛などが挙げられる。Yで表されるハロゲン原子としては、塩素、臭素、ヨウ素原子が挙げられる。
【0040】
式(2)で表される有機金属化合物の代表的な例として、ジメチルジイソプロポキシチタンなどの有機チタン化合物(有機チタンのアート錯体など);メチルマグネシウムブロミド、エチルマグネシウムブロミド、ブチルマグネシウムブロミドなどの有機マグネシウム化合物(Grignard試薬など);メチル亜鉛ブロミド、エチル亜鉛ブロミド、ブチル亜鉛ブロミドなどの有機亜鉛化合物(有機亜鉛ハライドなど);メチルリチウム、ブチルリチウムなどの有機リチウム化合物などが挙げられる。
【0041】
[式(4)で表される有機金属化合物]
前記式(4)中、R2は炭化水素基を示す。但し、R1とR2とは異なる基である。M2は配位子を有していてもよい金属原子、又は−MbY(式中、Mbはマンガン以外の金属原子、Yはハロゲン原子を示す)を示す。
【0042】
2における炭化水素基としては、前記Ra、Rbにおける炭化水素基と同様のものが挙げられる。好ましいR2には、C1-6アルキル基、C3-12シクロアルキル基、C3-12シクロアルキル−C1-6アルキル基、C6-20アリール基、C7-16アラルキル基などが含まれる。なかでも、R2として、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等のC1-4アルキル基が好ましい。
【0043】
2における金属原子としては、例えば、リチウムなどのアルカリ金属、セリウム、チタン、銅などの還移金属原子などが挙げられる。前記金属原子は配位子を有していてもよい。前記配位子としては、塩素原子などのハロゲン原子、イソプロポキシ基などのアルコキシ基、ジエチルアミノ基などのジアルキルアミノ基、シアノ基、アルキル基、リチウム原子などのアルカリ金属原子などが挙げられる。
【0044】
bとしては、例えば、マグネシウム、亜鉛などが挙げられる。Yは前記と同様である。
【0045】
式(4)で表される有機金属化合物の代表的な例として、ジメチルジイソプロポキシチタンなどの有機チタン化合物(有機チタンのアート錯体など);メチルマグネシウムブロミド、エチルマグネシウムブロミド、ブチルマグネシウムブロミドなどの有機マグネシウム化合物(Grignard試薬など);メチル亜鉛ブロミド、エチル亜鉛ブロミド、ブチル亜鉛ブロミドなどの有機亜鉛化合物(有機亜鉛ハライドなど);メチルリチウム、ブチルリチウムなどの有機リチウム化合物などが挙げられる。
【0046】
[反応]
反応は2段階(2工程)で行われる。すなわち、まず、式(1)で表される化合物と式(2)で表される有機金属化合物とを反応させて式(3)で表されるケトンを生成させ(第1段の反応;工程A)、次いで、生成したケトンと式(4)で表される有機金属化合物とを反応させて式(5)で表される非対称第3級アルコールを生成させる(第2段の反応;工程B)。
【0047】
本発明では、第1段の反応(工程A)において、式(1)で表される化合物を含む液中に、式(2)で表される有機金属化合物を含む液を、通常0.01〜0.5当量/時間、好ましくは0.02〜0.4当量/時間、更に好ましくは0.03〜0.3当量/時間の添加速度で添加して、式(3)で表されるケトンを生成させることが重要である。前記「当量」とは、原料として用いられる式(1)で表される化合物(仕込み基準)に対する式(2)で表される有機金属化合物の当量を意味する。式(2)で表される有機金属化合物を含む液の添加速度が遅すぎると、反応時間が長くなり生産効率が低下する。一方、式(2)で表される有機金属化合物を含む液の添加速度が速すぎると、式(3)で表されるケトンの還元体(アルコール等)や、下記式(8)
【化6】

[式中、環Z、R1は前記に同じ]
で表される対称第3級アルコールが多く副生する。式(2)で表される有機金属化合物を含む液の添加速度は、好ましくは0.05〜0.4当量/時間、さらに好ましくは0.1〜0.3当量/時間である。
【0048】
式(1)で表される化合物を含む液としては、式(1)で表される化合物と溶媒との混合液を使用できる。前記溶媒としては、反応に不活性な溶媒であれば特に限定されず、例えば、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフランなどの鎖状又は環状エーテル;ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素;これらの混合溶媒などが例示できる。好ましい溶媒には、前記エーテル、又は前記エーテルと他の溶媒(炭化水素等)との混合溶媒が含まれる。溶媒中のエーテルの濃度は、好ましくは10重量%以上である。
【0049】
式(2)で表される有機金属化合物を含む液としては、式(2)で表される有機金属化合物と溶媒との混合液を使用できる。前記溶媒としては、反応に不活性な溶媒であれば特に限定されず、例えば、前記式(1)で表される化合物の溶媒と同様の溶媒が挙げられる。好ましい溶媒には、前記エーテル、又は前記エーテルと他の溶媒(炭化水素等)との混合溶媒が含まれる。溶媒中のエーテルの濃度は、好ましくは10重量%以上である。
【0050】
式(2)で表される有機金属化合物の使用量は、原料として用いた式(1)で表される化合物に対して、例えば0.5〜5当量、好ましくは0.8〜1.5当量、さらに好ましくは0.9〜1.2当量である。式(2)で表される有機金属化合物の使用量が少なすぎると、収率が低下しやすく、逆に多すぎると、副反応が生じて、選択率が低下しやすい。反応温度は、例えば−40℃〜60℃、好ましくは−10℃〜40℃、さらに好ましくは−5℃〜20℃である。反応温度が低すぎると、収率が低下しやすく、逆に高すぎると、副反応が生じて、選択率が低下しやすい。
【0051】
本発明では、前記式(1)で表される化合物を含む液中に式(2)で表される有機金属化合物を含む液を添加した後、反応混合液に活性水素を有する化合物を添加して、反応を停止させてもよい。
【0052】
活性水素を有する化合物としては、特に限定されないが、例えば、水;メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール、1−ヘキサノール、シクロヘキシルアルコール等のアルコール(例えば、炭素数1〜4のアルコール等);フェノール、クレゾール等のフェノール類;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、シュウ酸、コハク酸、マロン酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、安息香酸等のカルボン酸;硫酸、硝酸、塩酸、リン酸、ホウ酸等の無機酸;これらの混合物などが挙げられる。活性水素を有する化合物としては、なかでも、水、アルコール(例えば、炭素数1〜4のアルコール等)、有機酸、無機酸、これらの混合物が好ましい。
【0053】
活性水素を有する化合物を添加する際の温度は、前記反応温度と同様の範囲である。活性水素を有する化合物の添加量は、未反応の式(2)で表される有機金属化合物や該有機金属化合物の付加物等を分解して、不活性化できる量であればよく、大過剰量用いてもよい。
【0054】
前記反応混合液、若しくは該反応混合液に活性水素を有する化合物を添加した混合液は、必要に応じて液性調整、希釈、濃縮、溶媒交換等の物理的処理を施した後、抽出、水洗、蒸留等の精製に付すことにより、式(3)で表されるケトンを得ることができる。このケトンは第2段の反応(工程B)に供される。なお、式(3)で表されるケトンを精製することなく、前記反応混合液、若しくは該反応混合液に活性水素を有する化合物を添加した混合液を、そのまま、あるいは前記物理的処理を施した後に、第2段の反応(工程B)に供することもできる。
【0055】
第2段の反応(工程B)では、式(3)で表されるケトンに式(4)で表される有機金属化合物を反応させて、式(5)で表される非対称第3級アルコールを生成させる。この場合、式(3)で表されるケトンを含む液中に、式(4)で表される有機金属化合物を含む液を添加(滴下)してもよく、逆に、式(4)で表される有機金属化合物を含む液中に、式(3)で表されるケトンを含む液を添加(滴下)してもよい。収率等の点から、式(4)で表される有機金属化合物を含む液中に、式(3)で表されるケトンを含む液を添加(滴下)する方法が好ましい。
【0056】
式(3)で表されるケトンを含む液としては、式(3)で表されるケトンと溶媒との混合液が挙げられる。また、式(4)で表される有機金属化合物を含む液としては、式(4)で表される有機金属化合物と溶媒との混合液が挙げられる。これらの溶媒としては、前記例示の溶媒を使用できる。
【0057】
第2段の反応において、式(4)で表される有機金属化合物の使用量は、原料として用いた式(1)で表される化合物に対して、例えば0.5〜10当量、好ましくは0.8〜8当量、さらに好ましくは0.9〜5当量である。式(4)で表される有機金属化合物の使用量が少なすぎると、収率が低下しやすく、逆に多すぎると、副反応が生じて、選択率が低下したり、後処理が煩雑になりやすい。反応温度は、例えば−50℃〜50℃、好ましくは−20℃〜40℃、さらに好ましくは−10℃〜30℃である。反応温度が低すぎると、収率が低下しやすく、逆に高すぎると、副反応が生じて、選択率が低下しやすくなる。
【0058】
第2段の反応終了後、通常、酸(例えば、塩酸、硫酸などの無機酸;酢酸などの有機酸)又は塩(例えば、塩化アンモニウムなど)を含む水溶液を添加して有機金属化合物の付加物を分解し(クエンチし)、必要に応じて液性を調節し、濾過、濃縮、抽出、蒸留、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの慣用の分離精製手段に付すことにより、目的化合物である式(5)で表される非対称第3級アルコールを得ることができる。
【0059】
式(5)で表される非対称第3級アルコールは必ずしも単離精製する必要はなく、例えば、クエンチ後の式(5)で表される非対称第3級アルコールを含む混合液を、必要に応じて、液性調整、水洗等を施した後、水と共沸する溶媒の存在下で共沸脱水操作に付して水を除去した後、利用(例えば、後述するカルボン酸非対称第3級アルコールエステルの製造)に供することができる。このような共沸脱水操作を施す場合には、精密蒸留等の精製をしなくても非対称第3級アルコールを反応に利用することができるので、操作の簡易化、工程の短縮化が可能となる。前記水と共沸する溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、オクタンなどが挙げられる。共沸脱水操作は慣用の方法で行うことができる。
【0060】
[金属触媒]
前記第1段の反応、第2段の反応は、必要に応じて、金属触媒の存在下で行うことができる。金属触媒を反応系内に存在させることにより、収率や選択率を向上させることができる。金属触媒は、第1段の反応においては、例えば、式(1)で表される化合物を含む液中に含有させることができる。
【0061】
金属触媒としては、(i)周期表第8族〜第11族元素を含むイオン化合物、(ii)ルイス酸が挙げられる。周期表第8族〜第11族元素を含むイオン化合物(i)、ルイス酸(ii)は、それぞれ、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。金属触媒として、周期表第8族〜第11族元素を含むイオン化合物(i)のみを使用したり、ルイス酸(ii)のみを使用しても効果は得られるが、周期表第8族〜第11族元素を含むイオン化合物(i)とルイス酸(ii)とを併用することにより、目的化合物の収率を大きく向上できる。なお、本明細書では、ホウ素化合物も金属触媒に含まれるものとする。
【0062】
周期表第8族〜第11族元素を含むイオン化合物(i)において、第8族元素には、鉄、ルテニウム、オスミウムが含まれ、第9族元素には、コバルト、ロジウム、イリジウムが含まれ、第10族元素には、ニッケル、パラジウム、白金が含まれ、第11族元素には、銅、銀、金が含まれる。これらの中でも、第4周期の元素(鉄、コバルト、ニッケル、銅)が好ましく、銅が特に好ましい。
【0063】
これらの元素を含むイオン化合物としては、例えば、周期表第8族〜第11族元素(金属元素)の塩化物、臭化物、ヨウ化物等のハロゲン化物;硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、過塩素酸塩等の無機酸塩;酢酸塩などのカルボン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩などのスルホン酸塩等の有機酸塩などが挙げられる。これらの中でも、塩化物などのハロゲン化物が好ましい。
【0064】
周期表第8族〜第11族元素を含むイオン化合物(i)として、特に好ましい化合物は塩化銅である。なお、塩化銅中の銅の価数は1でも2でもよい。
【0065】
ルイス酸(ii)としては、周知のルイス酸を使用でき、例えば、セリウムトリフラート等の周期表第3族元素化合物(希土類金属化合物など);TiCl4等のチタン化合物、ZrCl4等のジルコニウム化合物等の周期表4族元素化合物;ZnCl2、ZnBr2、ZnI2等の亜鉛化合物などの周期表第12族元素化合物;三フッ化ホウ素エーテラート等のホウ素化合物、AlCl3、AlBr3等のアルミニウム化合物等の周期表第13族元素化合物;SnCl2、SnCl4等のスズ化合物等の周期表第14族元素化合物;アンチモン化合物、ビスマス化合物等の周期表第15族元素化合物などが挙げられる。ルイス酸としては、周期表第3族元素、第4族元素、第12族元素、第13族元素、第14族元素、第15族元素のハロゲン化物やトリフルオロメタンスルホン酸塩が好ましい。これらの中でも、TiCl4等のチタン化合物、ZrCl4等のジルコニウム化合物、ZnCl2等の亜鉛化合物、AlCl3、AlBr3等のアルミニウム化合物が特に好ましい。
【0066】
周期表第8族〜第11族元素を含むイオン化合物(i)の使用量は、式(1)で表される化合物1モルに対して、通常、0.0001〜0.2モル、好ましくは0.0005〜0.1モル、さらに好ましくは、0.005〜0.07モルである。また、ルイス酸(ii)の使用量は、式(1)で表される化合物1モルに対して、通常、0.0001〜0.2モル、好ましくは0.0005〜0.1モル、さらに好ましくは、0.005〜0.07モルである。
【0067】
本発明の方法によれば、グリニヤール試薬などの有毒性の低い一般的な有機金属試薬をそのまま用いることができ、途中で単離操作をする必要がなく、2種類の有機金属試薬を続けて反応させるだけで環状骨格を有する非対称第3級アルコールを高い収率及び選択率で簡易に製造することができる。また、工程Aにおいて、式(2)で表される有機金属化合物を所定の添加速度で式(1)で表される化合物を含む液中に添加するので、中間体であるケトンの還元体(アルコール等)や前記式(8)で表される化合物等の副生を顕著に抑制できる。このため、蒸留をしなくても、中間体である式(3)で表されるケトンにおいて、不純物である該ケトンの還元体の含有量を0.5重量%以下(好ましくは0.1重量%以下)、不純物である前記式(8)で表される化合物の含有量を0.5重量%以下(好ましくは0.1重量%以下)、これらの総含有量を1重量%以下とすることができる。さらに、工程Bでは、式(3)で表されるケトンを効率よく目的の環状骨格を有する非対称第3級アルコールに変換できるので、蒸留をしなくても、目的の環状骨格を有する非対称第3級アルコールにおいて、式(3)で表されるケトンの含有量を0.8重量%以下(好ましくは0.4重量%以下)とすることができる。したがって、本発明によれば、精密な蒸留を行わなくても、実用的レベルの環状骨格を有する非対称第3級アルコールを取得することが可能である。
【0068】
上記方法で得られた環状骨格を有する非対称第3級アルコールは感光性樹脂等の機能性高分子や医薬品等の精密化学品などの原料として有用である。
【0069】
[カルボン酸非対称第3級アルコールエステルの製造]
本発明のカルボン酸非対称第3級アルコールエステルの製造方法では、前記方法により得られた式(5)で表される非対称第3級アルコールを、前記式(6)で表されるカルボン酸又はその反応性誘導体と反応させて、前記式(7)で表される環状骨格を有するカルボン酸非対称第3級アルコールエステルを得る。反応には、反応速度を向上させるため、必要に応じて、塩基、酸、脱水縮合剤などを使用できる。なお、原料として用いる式(5)で表される非対称第3級アルコールとしては、前記の製造方法以外の方法により得られたものであってもよい。
【0070】
式(6)中のR3における炭化水素基としては、前記Ra、Rbにおける炭化水素基として例示したものが挙げられる。R3における複素環式基としては、ピリジル基、フリル基、チエニル基等の窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選択された少なくとも1種のヘテロ原子を有する複素環式基が挙げられる。R3としては、炭素数1〜20の炭化水素基、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選択された少なくとも1種のヘテロ原子を有する複素環式基が好ましい。なかでも、R3として、重合性不飽和結合を有する炭化水素基、例えば、ビニル基、プロペニル基、イソプロペニル基などの炭素数2〜10のアルケニル基が好ましい。
【0071】
式(6)で表されるカルボン酸の代表的な例として、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、ピバル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸などの飽和脂肪族カルボン酸(飽和脂肪族モノカルボン酸、飽和脂肪族ジカルボン酸等);アクリル酸、メタクリル酸、プロピオル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、オレイン酸、マレイン酸、フマル酸などの不飽和脂肪族カルボン酸(不飽和脂肪族モノカルボン酸、不飽和脂肪族ジカルボン酸等);安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフトエ酸、トルイル酸、桂皮酸などの炭素環カルボン酸;ニコチン酸、イソニコチン酸、フランカルボン酸、チオフェンカルボン酸などの複素環カルボン酸などが挙げられる。なお、ジカルボン酸を反応に用いた場合には、対応するジエステルが生成しうる。これらのなかでも、不飽和脂肪族カルボン酸、特に、アクリル酸、メタクリル酸が好ましい。
【0072】
式(6)で表されるカルボン酸の反応性誘導体としては、例えば、カルボン酸無水物;カルボン酸クロリド、カルボン酸ブロミド等のカルボン酸ハライドなどが挙げられる。
【0073】
カルボン酸第3級アルコールエステルの製造方法の好ましい態様では、式(5)で表される非対称第3級アルコールを、塩基の存在下、式(6)で表されるカルボン酸のハライド(カルボン酸クロリド、カルボン酸ブロミド等のカルボン酸ハライド)と反応させて、式(7)で表される環状骨格を有するカルボン酸第3級アルコールエステルを得る。
【0074】
塩基としては、例えば、下記式(9)又は(10)
cMgX1 (9)
cLi (10)
(式中、Rcはアルキル基又はハロアルキル基を示し、X1はハロゲン原子を示す)
で表される有機金属化合物、第3級アミンが挙げられる。これらの塩基は単独で又は2以上を組み合わせて使用できる。特に、前記式(9)又は(10)で表される有機金属化合物と第3級アミンとを組み合わせて用いると、高い収率で目的のカルボン酸非対称第3級アルコールエステルを得ることができる。
【0075】
cにおけるアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル基などのC1-6アルキル基等を挙げることができる。これらの中でも、特にC1-4アルキル基が好ましい。Rcにおけるハロアルキル基としては、トリフルオロメチル、2,2,2−トリフルオロエチル基等の前記アルキル基を構成する水素原子の1又は2以上がハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子等)で置き換えられた基等を挙げることができる。
【0076】
1におけるハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等を挙げることができる。
【0077】
式(9)で表される有機金属化合物の代表的な例として、メチルマグネシウムブロミド、エチルマグネシウムブロミド、ブチルマグネシウムブロミド、メチルマグネシウムクロリド、エチルマグネシウムクロリド、ブチルマグネシウムクロリドなどの有機マグネシウム化合物(グリニア試薬など)が挙げられる。また、式(10)で表される有機金属化合物の代表的な例として、メチルリチウム、エチルリチウム、ブチルリチウムなどの有機リチウム化合物が挙げられる。有機マグネシウム化合物はハロゲン化銅と組み合わせて用いることもできる。
【0078】
有機金属化合物としては、取り扱いが容易であり、安全にスケールアップすることができ工業化に適している点で、上記式(9)で表される化合物を使用することが特に好ましい。
【0079】
前記第3級アミンとしては、脂肪族アミン、芳香族アミン、脂環式アミン、複素環アミン等を挙げることができる。第3級アミンは、分子中にヒドロキシル基やニトロ基等が含まれていてもよい。さらに、モノアミンのほか、ジアミン等のポリアミンであってもよい。
【0080】
第3級アミンの具体例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、N−メチル−ジエチルアミン、N−エチル−ジメチルアミン、N−エチル−ジアミルアミン等の脂肪族アミン;N,N−ジメチルアニリン、ジエチルアニリン等の芳香族アミン;N,N−ジメチル−シクロヘキシルアミン、N,N−ジエチル−シクロヘキシルアミン等の脂環式アミン;N,N−ジメチルアミノピリジン、N−メチルモルホリン、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、ジアザビシクロノネン(DBN)、N−メチルピリジン、N−メチルピロリジン等の複素環アミン;テトラメチルエチレンジアミン、トリエチレンジアミン等のジアミン等を挙げることができる。
【0081】
第3級アミンとしては、特に、トリメチルアミン、トリエチルアミン等の脂肪族アミン、N−メチルモルホリン等の複素環アミンが好ましく、特にトリメチルアミン、トリエチルアミン等の脂肪族アミンが、目的化合物の収率をより向上させることができる点で好ましい。
【0082】
塩基の使用量(総量)は、原料として用いる式(5)で表される非対称第3級アルコールに対して、例えば0.2〜15当量、好ましくは1.6〜10当量、さらに好ましくは1.9〜7当量である。塩基として、前記式(9)又は(10)で表される有機金属化合物と第3級アミンとを組み合わせて使用する場合、式(9)又は(10)で表される有機金属化合物の使用量は、原料として用いる式(5)で表される非対称第3級アルコールに対して、例えば0.1〜5当量、好ましくは0.8〜3当量、さらに好ましくは0.9〜2当量であり、第3級アミンの使用量は、原料として用いる式(5)で表される非対称第3級アルコールに対して、例えば0.1〜10当量、好ましくは0.8〜7当量、さらに好ましくは1〜5当量である。塩基の量が少なすぎると、目的物の収率が低下しやすくなる。また、塩基の量が多すぎると、副反応が生じやすくなる。
【0083】
式(6)で表されるカルボン酸のハライド(カルボン酸ハライド)の使用量としては、原料として用いる式(5)で表される非対称第3級アルコールに対して、例えば0.1〜5当量、好ましくは0.8〜3当量、さらに好ましくは0.9〜2当量である。カルボン酸ハライドの使用量が上記範囲を下回ると、目的とするエステルの収率が低下する傾向がある。一方、カルボン酸ハライドの使用量が上記範囲を上回ると、カルボン酸ハライド由来の副生成物[例えば、カルボン酸ハライドとして(メタ)アクリル酸ハライド等の重合性不飽和基を有するカルボン酸ハライドを用いた場合には、カルボン酸ハライドの重合物等]が増加する傾向がある。
【0084】
本発明においては、反応収率の点から、塩基の総使用量[原料として用いる式(5)で表される非対称第3級アルコールに対する当量]−式(6)で表されるカルボン酸のハライドの使用量[原料として用いる式(5)で表される非対称第3級アルコールに対する当量]の値が、1.8当量以上(例えば、1.8〜8当量)が好ましく、さらに好ましくは2.0当量以上(例えば、2.0〜6当量)である。この値が低すぎると、目的物である環状骨格を有するカルボン酸非対称第3級アルコールエステルの収率が低下しやすくなる。
【0085】
また、カルボン酸ハライドとして(メタ)アクリル酸ハライド等の重合性不飽和基を有するカルボン酸ハライドを用いる場合には、重合禁止剤の存在下で反応を行うことが好ましい。重合禁止剤を添加することにより、反応に供するカルボン酸ハライドや、目的生成物である重合性不飽和基を有するエステル[(メタ)アクリル酸エステル等]が重合してオリゴマーを副生することを防止することができる。不純物としてのオリゴマー含有量が極めて低い、重合性不飽和基を有するエステル[(メタ)アクリル酸エステル等]をレジスト用ポリマーの原料として用いると、得られたポリマーを用いてレジスト膜を形成する際、均一且つ均質なレジスト膜を形成することができ、優れた感度及び解像度で微細パターンを形成することができるため、近年の基板回路の微細化に対応することができる。
【0086】
前記重合禁止剤としては、特に限定されず、一般に用いられるものを使用できるが、ベンゼン環上におけるフェノール性水酸基の2つのオルト位のうち一方は無置換であり他方は炭化水素基で置換されているフェノール類を使用することが好ましい。このような特定の構造を有するフェノール類を用いることにより、(メタ)アクリロイル基等の重合性不飽和基を有する原料や生成物の重合が抑制され、オリゴマーの副生を防止できる。
【0087】
ベンゼン環上におけるフェノール性水酸基のオルト位に有する炭化水素基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル基等のアルキル基;シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基等のアラルキル基等を挙げることができる。前記炭化水素基としては、メチル、エチル、イソプロピル、t−ブチル基等の炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、特に、t−ブチル基が好ましい。
【0088】
前記フェノール類において、フェノール性水酸基のメタ位、パラ位には置換基を有していても有していなくてもよいが、フェノール性水酸基の2つのメタ位のうち、前記置換基を有しないオルト位に隣接する位置には、置換基として炭化水素基を有しているのが好ましい。該炭化水素基としては、前記と同様の例を挙げることができるが、特にメチル基等の炭素数1〜3のアルキル基が好ましい。
【0089】
前記フェノール類の好ましい例として、例えば、4−ヒドロキシ−2,5−ジアルキルフェニル基を有する化合物を挙げることができる。該アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル基等の炭素数1〜6のアルキル基等が挙げられる。5位のアルキル基としては、特に、t−ブチル基が好ましく、2位のアルキル基としては、炭素数1〜3のアルキル基、特にメチル基が好ましい。
【0090】
前記4−ヒドロキシ−2,5−ジアルキルフェニル基を有する化合物の代表的な例として、例えば、4,4′−チオビス(6−t−ブチル−m−クレゾール)、4,4′−ブチリデンビス(6−t−ブチル−m−クレゾール)、1,1,3−トリス(5−t−ブチル−4−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)ブタン等を挙げることができる。これらの重合禁止剤は単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0091】
重合禁止剤の使用量は、原料として用いる式(5)で表される非対称第3級アルコール1モルに対して、例えば0.001〜0.1モル、好ましくは0.005〜0.05モル程度である。
【0092】
式(5)で表される非対称第3級アルコールと式(6)で表されるカルボン酸のハライド(カルボン酸ハライド)との反応は、有機溶媒中で行うことが好ましい。有機溶媒としては、反応に不活性な溶媒であればよく、例えば、ジエチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル(MTBE)、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン(THF)などのエーテル類;ヘプタン、ヘキサン、オクタンなどの脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素などを挙げることができる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。これらのなかでも、有機金属化合物の溶解性等に優れる点で、テトラヒドロフランとトルエン又はテトラヒドロフランとtert−ブチルメチルエーテルを組み合わせて使用することが好ましく、特に、テトラヒドロフランとトルエンを組み合わせて使用することが好ましい。
【0093】
反応温度は、有機金属化合物や反応成分の種類などにより、例えば−100℃〜150℃程度の範囲内で適宜選択できる。例えば、有機金属化合物として式(9)で表される化合物を用いる場合には、反応温度は、例えば0℃〜50℃、好ましくは0℃〜25℃、特に好ましくは0℃〜15℃である。有機金属化合物として式(10)で表される化合物を用いる場合には、反応温度は、例えば−20℃〜10℃、好ましくは−10℃〜5℃程度である。反応温度が上記範囲を外れると、収率が低下する傾向がある。
【0094】
反応は、回分式、半回分式、連続式などの慣用の方法により行うことができる。一般には、原料となる式(5)で表される非対称第3級アルコールを含む溶液中に、式(9)又は(10)で表される有機金属化合物(又はこれを含む溶液)を逐次添加し、次いで、式(6)で表されるカルボン酸のハライド(カルボン酸ハライド)(又はこれを含む溶液)を系内に逐次添加し、次いで第3級アミンを逐次添加する方法等により行われる。前記重合禁止剤を添加する場合は、式(6)で表されるカルボン酸のハライド(カルボン酸ハライド)を添加する前の適宜な時期に系内に添加することが好ましい。
【0095】
本発明では、式(5)で表される非対称第3級アルコールと式(6)で表されるカルボン酸又はその反応性誘導体とを反応させた後、アルコールを加えるのが好ましい。反応後に、アルコールを加えることにより、未反応の式(6)で表されるカルボン酸の反応性誘導体(カルボン酸ハライド等)をエステルに変換できる。アルコールを添加しない場合には、未反応の式(6)で表されるカルボン酸の反応性誘導体(カルボン酸ハライド等)に由来する副生物によって、目的物である環状骨格を有するカルボン酸非対称第3級アルコールエステルの品質が低下する場合がある。例えば、環状骨格を有するカルボン酸非対称第3級アルコールエステルが白濁したり、純度が低下しやすくなる。前記アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノールなどの炭素数1〜4のアルコール等が挙げられる。
【0096】
前記アルコールの添加量は、通常、反応に用いた式(5)で表される非対称第3級アルコールに対して、0.1〜10当量、好ましくは0.2〜7当量、さらに好ましくは0.4〜4当量である。前記アルコールを添加する際の温度は、前記反応温度と同様の範囲である。アルコール添加後の反応時間は、例えば0.1〜12時間、好ましくは0.3〜6時間である。
【0097】
式(5)で表される非対称第3級アルコールと式(6)で表されるカルボン酸又はその反応性誘導体との反応混合液、又はそのアルコール処理物に対し、必要に応じて水を添加した後、例えば、液性調整、濾過、濃縮、抽出、洗浄、蒸留、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィー、吸着処理などの分離精製手段を用いることで、目的のカルボン酸非対称第3級アルコールエステルを得ることができる。
【0098】
また、重合禁止剤を添加する場合は、オリゴマーの副生を顕著に抑制できるため、例えば、反応終了後、反応生成物を水と有機溶媒を用いた抽出に付し、得られた有機層を、例えば濃縮、蒸留するだけで、目的反応生成物を得ることができる。この製造方法によれば、優れた収率(例えば80%以上、好ましくは85%以上)で、高純度の環状骨格を有するカルボン酸非対称第3級アルコールエステル[例えば、環状骨格を有する(メタ)アクリル酸非対称第3級アルコールエステル]を得ることができる。
【0099】
こうして得られる環状骨格を有するカルボン酸非対称第3級アルコールエステル[例えば、環状骨格を有する(メタ)アクリル酸非対称第3級アルコールエステル]は、機能性高分子のモノマーや精密化学品の中間原料などとして用いることができる。特に、重合性不飽和結合を有するとともに、酸によってアルコール部位が脱離し、遊離のカルボン酸を生成させる化合物は、酸感応性化合物として感光性樹脂のモノマー原料に使用できる。このようなモノマーを重合して得られるポリマーを用いてレジスト膜を形成すると、均一且つ均質なレジスト膜が得られ、所望の微細パターンを精度よく得ることができる。
【実施例】
【0100】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、実施例等において、純度及び不純物の含有量はガスクロマトグラフィー(GC)による面積%の値(溶媒を除いて計算した値)である。
【0101】
製造例1
1−アダマンタンカルボン酸1250g(6.9mol)、N,N−ジメチルホルムアミド2.6g(0.005eq)をトルエン4110gに溶解させ、N2雰囲気下で70℃に昇温した。そこへ、塩化チオニル867g(7.1mol)を3時間かけて滴下し、滴下終了後、トルエン19gで滴下ロートを洗い流した。その後、70℃で1時間熟成し、100℃まで昇温後、さらに1時間熟成した。室温まで冷却後、1−アダマンタンカルボニルクロリドが60重量%となるまで溶媒留去することによって、目的とする1−アダマンタンカルボニルクロリド[下記式(1a)]を収率98%で得た(純度99.9%)。
【化7】

【0102】
実施例1
CuCl 20.2g(0.03eq)とZnCl2 27.8g(0.03eq)をTHF(テトラヒドロフラン)2363g中、N2雰囲気下、室温で30分撹拌した。そこに、製造例1で合成した1−アダマンタンカルボニルクロリド/トルエン溶液2248g(1−アダマンタンカルボニルクロリド:1350g、6.8mol)にTHF798gを加えた溶液を添加し、さらに室温で30分撹拌した。0℃まで冷却後、4時間かけて1.07mol/kgエチルマグネシウムブロマイド/THF溶液6370g(1.0eq)を滴下し(エチルマグネシウムブロマイドの滴下速度は0.25eq/時間である)、0℃のまま30分熟成した。さらに、1.07mol/kgエチルマグネシウムブロマイド/THF溶液318g(0.05eq)を滴下し、0℃のまま30分熟成した。さらに、1.07mol/kgエチルマグネシウムブロマイド/THF溶液318g(0.05eq)を滴下し、0℃のまま30分熟成した。−5℃〜5℃の範囲内で0.66M硫酸水溶液7185gを添加し、反応を停止した。有機層と水層に分液した後、有機層に5重量%水酸化ナトリウム水溶液3389gを添加し、撹拌後、分液させた。さらに分液した有機層に5重量%水酸化ナトリウム水溶液4509gを添加し、撹拌後、分液させた。分液させた有機層をガスクロマトグラフィー(GC)で分析した結果、1−(1−アダマンチル)プロパン−1−オン[下記式(3a)]の収率は94%であり、純度は98.5%であった。なお、不純物としての1−(1−アダマンチル)プロパン−1−オンの還元体(1−アダマンチル−1−プロパノール)の含有量は0.1%未満、3−アダマンチル−3−ペンタノール[下記式(8a)](ジエチル体)の含有量は0.1%未満であった。
【化8】

【0103】
実施例2
実施例1で得た有機層にトルエン5428gを添加した後、1重量%塩化ナトリウム水溶液(4136g)で水洗を2回実施した。溶媒を留去した後、単蒸留を行うことによって、目的とする1−(1−アダマンチル)プロパン−1−オンを84%の回収率で得た(純度99.6%)。
【0104】
実施例3
2雰囲気にした反応容器に1.66mol/kgメチルマグネシウムクロライド/THF溶液7050g(2.5eq)を仕込み、0℃まで冷却した。そこに、実施例1で合成した1−(1−アダマンチル)プロパン−1−オン900g/THF1800gを30分かけて滴下し、滴下終了後から徐々に室温まで昇温しながら3時間熟成した。0〜5℃の範囲内で0.8M硫酸水溶液8821gを添加し、反応を停止した。有機層と水層に分液した後、有機層に5重量%水酸化ナトリウム水溶液3600gを添加し、撹拌後、分液した。さらに分液した有機層に5重量%水酸化ナトリウム水溶液4500gを添加し、撹拌後、分液させ、収率98%で2−アダマンチル−2−ブタノール(純度98.6%)[下記式(5a)]を得た。
【化9】

【0105】
実施例4
実施例3で得られた有機層を1重量%塩化ナトリウム水溶液3153gで2回水洗を行った。得られた有機層について、2−アダマンチル−2−ブタノールが50重量%となるまで溶媒を留去した。そこにトルエン7905gを添加し、2−アダマンチル−2−ブタノールが12.7重量%となるまで溶媒を留去した(共沸脱水)。
【0106】
実施例5
2雰囲気にした反応容器に実施例4で得た2−アダマンチル−2−ブタノール12.7重量%溶液6805g、トルエン845g、重合禁止剤として4,4−ブチリデンビス−(6−tert−ブチル−m−クレゾール)を15.3g仕込んだ。そこへ、1.07mol/kgエチルマグネシウムブロマイド/THF溶液5573g(1.38eq)を約30℃で滴下し、滴下終了後、トルエン900gで滴下ロート内を洗い流した。温度を50℃まで上げて1時間熟成した。その後、0℃まで冷却し、メタクリル酸クロライド813g(1.8eq)をトルエン2250gに希釈した溶液を0℃付近の温度を保持しながら反応容器内にゆっくり滴下した。その後、トリエチルアミンを1749g(4.0eq)滴下し、10℃まで昇温し、20時間反応させた。温度を0℃以下まで冷却し、トルエン9000gを添加後、0〜5℃の範囲内でメタノール277gを添加し、そのままの温度で1.5時間撹拌した。
別の反応容器に0.5M硫酸15300gを張り込んでおき、0℃まで冷却後、前記メタノールでクエンチした反応溶液を0〜5℃の範囲内で滴下した。有機層と水層に分液した後、有機層に1N水酸化ナトリウム水溶液を6750g添加し、有機層と撹拌した。その後、分液して、2−アダマンチル−2−メタクリロイルオキシブタンのトルエン−THF溶液を24670g得た。得られた2−アダマンチル−2−メタクリロイルオキシブタンのトルエン−THF溶液にメトキノン4.8g(4000ppm対2−アダマンチル−2−メタクリロイルオキシブタン理論収量)を添加し、溶媒を留去した。さらに、トルエン2388gを添加し、溶媒を留去する操作を2回繰り返した。その後、2−アダマンチル−2−メタクリロイルオキシブタンが30重量%になるようにトルエン2800gを添加し、さらに、吸着剤(商品名「キョーワード500SN」、協和化学工業社製)を358g(30重量%対2−アダマンチル−2−メタクリロイルオキシブタン)添加し、40℃で5時間撹拌した。室温まで冷却後、トルエン1130gで洗いながら、濾過した後、イオン交換水5325gで3回水洗し、トルエンを1430g添加した後、溶媒を留去した。高速液体クロマトグラフィーによる分析の結果、2−アダマンチル−2−メタクリロイルオキシブタン[下記式(7a)]の収率は88%であった。
【化10】

【0107】
実施例6
実施例5で得た2−アダマンチル−2−メタクリロイルオキシブタンに、酸化防止剤(商品名「IRGANOX」)を5g(5000ppm対2−アダマンチル−2−メタクリロイルオキシブタン)溶解させ、0.005〜0.01torr、70〜100℃の範囲で蒸留した結果、2−アダマンチル−2−メタクリロイルオキシブタンを回収率64%で得た。
【0108】
実施例7
反応スケールを実施例1の50/1350(すなわち、1−アダマンタンカルボニルクロリドの使用量を50g)とした以外は実施例1と同様の操作を行った(エチルマグネシウムブロマイドの滴下速度は0.25eq/時間である)。その結果、目的の1−(1−アダマンチル)プロパン−1−オンの収率は86%であり、純度は96.3%であった。また、不純物としての1−(1−アダマンチル)プロパン−1−オンの還元体の含有量は0.1%未満、前記式(8a)で表される3−アダマンチル−3−ペンタノールの含有量は0.1%未満であった。
【0109】
実施例8
反応スケールを実施例1の10/1350(すなわち、1−アダマンタンカルボニルクロリドの使用量を10g)とし、且つエチルマグネシウムブロマイド/THF溶液の滴下時間を8時間とした(エチルマグネシウムブロマイドの滴下速度は0.125eq/時間である)以外は実施例1と同様の操作を行った。その結果、目的の1−(1−アダマンチル)プロパン−1−オンの収率は82%であり、純度は97.6%であった。また、不純物としての1−(1−アダマンチル)プロパン−1−オンの還元体の含有量は0.1%未満、前記式(8a)で表される3−アダマンチル−3−ペンタノールの含有量は0.1%未満であった。
【0110】
実施例9
反応スケールを実施例1の5/1350(すなわち、1−アダマンタンカルボニルクロリドの使用量を5g)とし、且つCuClを使用しなかったこと以外は実施例1と同様の操作を行った(エチルマグネシウムブロマイドの滴下速度は0.25eq/時間である)。その結果、目的の1−(1−アダマンチル)プロパン−1−オンの収率は77%であり、純度は92.6%であった。また、不純物としての1−(1−アダマンチル)プロパン−1−オンの還元体の含有量は0.1%未満、前記式(8a)で表される3−アダマンチル−3−ペンタノールの含有量は0.1%未満であった。
【0111】
実施例10
反応スケールを実施例1の5/1350(すなわち、1−アダマンタンカルボニルクロリドの使用量を5g)とし、且つZnCl2 を使用しなかったこと以外は実施例1と同様の操作を行った(エチルマグネシウムブロマイドの滴下速度は0.25eq/時間である)。その結果、目的の1−(1−アダマンチル)プロパン−1−オンの収率は75%であり、純度は95.7%であった。また、不純物としての1−(1−アダマンチル)プロパン−1−オンの還元体の含有量は0.1%未満、前記式(8a)で表される3−アダマンチル−3−ペンタノールの含有量は0.1%未満であった。
【0112】
実施例11
反応スケールを実施例1の575/1350(すなわち、1−アダマンタンカルボニルクロリドの使用量を575g)とし、且つCuClを使用せずにCuCl2を13.7g(0.03eq)使用し、更にエチルマグネシウムブロマイド/THF溶液の滴下時間を8時間とした(エチルマグネシウムブロマイドの滴下速度は0.125eq/時間である)以外は実施例1と同様の操作を行った。その結果、目的の1−(1−アダマンチル)プロパン−1−オンの収率は74%であり、純度は95.7%であった。また、不純物としての1−(1−アダマンチル)プロパン−1−オンの還元体の含有量は0.18%、前記式(8a)で表される3−アダマンチル−3−ペンタノールの含有量は0.1%未満であった。
【0113】
実施例12
反応スケールを実施例1の575/1350(すなわち、1−アダマンタンカルボニルクロリドの使用量を575g)とし、且つCuClを使用せずにCuCl2を13.7g(0.03eq)使用し、更にエチルマグネシウムブロマイド/THF溶液の滴下時間を9時間とした(エチルマグネシウムブロマイドの滴下速度は0.111eq/時間である)以外は実施例1と同様の操作を行った。その結果、目的の1−(1−アダマンチル)プロパン−1−オンの収率は78%であり、純度は96.3%であった。また、不純物としての1−(1−アダマンチル)プロパン−1−オンの還元体の含有量は0.15%、前記式(8a)で表される3−アダマンチル−3−ペンタノールの含有量は0.1%未満であった。
【0114】
実施例13
反応スケールを実施例1の12/1350(すなわち、1−アダマンタンカルボニルクロリドの使用量を12g)とし、更にエチルマグネシウムブロマイド/THF溶液の滴下時間を16時間とした(エチルマグネシウムブロマイドの滴下速度は0.063eq/時間である)以外は実施例1と同様の操作を行った。その結果、目的の1−(1−アダマンチル)プロパン−1−オンの収率は84%であり、純度は97.3%であった。また、不純物としての1−(1−アダマンチル)プロパン−1−オンの還元体の含有量は0.1%未満、前記式(8a)で表される3−アダマンチル−3−ペンタノールの含有量は0.1%未満であった。
【0115】
比較例1
反応スケールを実施例1の50/1350(すなわち、1−アダマンタンカルボニルクロリドの使用量を50g)とし、且つエチルマグネシウムブロマイド/THF溶液の滴下時間を80分とした(エチルマグネシウムブロマイドの滴下速度は0.75eq/時間である)以外は実施例1と同様の操作を行った。その結果、目的の1−(1−アダマンチル)プロパン−1−オンの収率は78%であり、純度は81.7%と低かった。また、不純物としての1−(1−アダマンチル)プロパン−1−オンの還元体の含有量は7.2%、前記式(8a)で表される3−アダマンチル−3−ペンタノールの含有量は8.6%であった。
【0116】
実施例1、7〜13、比較例1の結果を表1にまとめて示す。
【0117】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

[式中、環Zは単環又は多環の非芳香族性又は芳香族性環を示す。Xは、ハロゲン原子、−OCORa(式中、Raは炭化水素基を示す)、又は−ORb(式中、Rbは炭化水素基を示す)を示す]
で表される化合物を含む液中に、下記式(2)
1−M1 (2)
[式中、R1は炭化水素基を示す。M1は配位子を有していてもよい金属原子、又は−MaY(式中、Maはマンガン以外の金属原子、Yはハロゲン原子を示す)を示す]
で表される有機金属化合物を含む液を、0.01〜0.5当量/時間の速度で添加して、下記式(3)
【化2】

[式中、環Z、R1は前記に同じ]
で表されるケトンを生成させる工程A、及び前記式(3)で表されるケトンに、下記式(4)
2−M2 (4)
[式中、R2は炭化水素基を示す。但し、R1とR2は異なる基である。M2は配位子を有していてもよい金属原子、又は−MbY(式中、Mbはマンガン以外の金属原子、Yはハロゲン原子を示す)を示す]
で表される有機金属化合物を反応させて、下記式(5)
【化3】

(式中、環Z、R1、R2は前記に同じ)
で表される非対称第3級アルコールを生成させる工程Bとを少なくとも含む非対称第3級アルコールの製造方法。
【請求項2】
工程Aにおいて、式(1)で表される化合物を含む液中に式(2)で表される有機金属化合物を含む液を添加した後、活性水素を有する化合物を加える請求項1記載の非対称第3級アルコールの製造方法。
【請求項3】
工程Aにおける反応及び/又は工程Bにおける反応を、周期表第8族〜第11族元素を含むイオン化合物の存在下で行う請求項1又は2記載の非対称第3級アルコールの製造方法。
【請求項4】
工程Aにおける反応及び/又は工程Bにおける反応を、ルイス酸の存在下で行う請求項1〜3のいずれか1項に記載の非対称第3級アルコールの製造方法。
【請求項5】
工程Bの後、生成した式(5)で表される非対称第3級アルコールを含む反応混合液を共沸脱水操作に付して水を除去する工程をさらに含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の非対称第3級アルコールの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法により下記式(5)
【化4】

(式中、環Zは単環又は多環の非芳香族性又は芳香族性環を示す。R1、R2は、それぞれ、炭化水素基を示す。但し、R1とR2は異なる基である)
で表される非対称第3級アルコールを製造した後、該非対称第3級アルコールを、下記式(6)
3COOH (6)
(式中、R3は炭化水素基、複素環式基又はこれらが結合した基を示す)
で表されるカルボン酸又はその反応性誘導体と反応させて、下記式(7)
【化5】

(式中、環Z、R1、R2、R3は前記に同じ)
で表される環状骨格を有するカルボン酸非対称第3級アルコールエステルを得ることを特徴とするカルボン酸非対称第3級アルコールエステルの製造方法。
【請求項7】
式(5)で表される非対称第3級アルコールと式(6)で表されるカルボン酸又はその反応性誘導体とを反応させた後、アルコールを加える請求項6記載のカルボン酸非対称第3級アルコールエステルの製造方法。

【公開番号】特開2013−63950(P2013−63950A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−166667(P2012−166667)
【出願日】平成24年7月27日(2012.7.27)
【出願人】(000002901)株式会社ダイセル (1,236)
【Fターム(参考)】