説明

非接着部を有するマイクロチップの製造方法

【課題】 非接着部を有するマイクロチップを製造する際に、マスクを使用せず、また非接着性物質又はプラズマで活性化しない物質も塗布せずに非接着部を形成することができるマイクロチップの製造方法を提供する。
【解決手段】 互いに恒久接着可能な材質からなる第1の基板と第2の基板のうちの少なくとも一方の基板の貼り合わせ面を表面改質処理してから両基板を貼り合わせて恒久接着させることによりマイクロチップを製造する方法において、非接着部となるべき箇所に対応する箇所の前記第1の基板の外表面を吸引手段により引き上げながら前記第2の基板と貼り合わせることにより両基板間の非接着部となるべき箇所を剥離状態に維持し、前記表面改質処理による活性化状態が消失した後に、前記吸引手段による前記第1の基板の引き上げを停止させることにより非接着部を形成することを特徴とする非接着部を有するマイクロチップの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマイクロチップの製造方法に関する。更に詳細には、本発明は流路などのマイクロストラクチャー構造の一部に非接着部分を有するマイクロチップの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、マイクロスケール・トータル・アナリシス・システムズ(μTAS)又はラブ・オン・チップ(Lab-on-Chip)などの名称で知られるように、基板内に所定の形状の流路を構成するマイクロチャネル及びポートなどの微細構造を設け、該微細構造内で物質の化学反応、合成、精製、抽出、生成及び/又は分析など各種の操作を行うことが提案され、一部実用化されている。このような目的のために製作された、基板内にマイクロチャネル及びポートなどの微細構造を有する構造物は総称してマイクロチップとか、マイクロ流体チップ、マイクロ流路チップ又はマイクロ化学チップなどと呼ばれる。
【0003】
マイクロチップは遺伝子解析、臨床診断、薬物スクリーニング及び環境モニタリングなどの幅広い用途に使用できる。常用サイズの同種の装置に比べて、マイクロチップは(1)サンプル及び試薬の使用量が著しく少ない、(2)分析時間が短い、(3)感度が高い、(4)現場に携帯し、その場で分析できる、及び(5)使い捨てできるなどの利点を有する。
【0004】
マイクロチップ100の構造は種々提案されており、多層構造や複合構造と言った複雑な構造も存在するが、その構造の全体又は少なくともその一部において、図8に示されるような2枚の基板102及び108を貼り合わせた構造を有している。貼り合わせを行う必要性は、形成すべき微細なマイクロチャネル(流路)104や、液体貯留室及び/又は反応室を封止することにある。第1の基板102及び/又は第2の基板108の各貼り合わせ面側に、流路104、液体貯留室及び/又は反応室などを構成する元となる微細構造を有し、第1の基板と第2の基板を貼り合わせることにより、流体を流したり溜めておくことができる、流路、液体貯留室及び/又は反応室などが形成される。流路104の両端には流体を送出入させるためのポート105及び106が形成されることもある。
【0005】
マイクロチップを製作する上で、この基板同士の貼り合わせをどのような方法で行うかは重要な課題である。以下に主な貼り合わせ方法とその特徴を列記する。
(1)接着剤や溶剤を用いて接着する。
微細な流路や反応室を損なうことなく接着剤や溶剤を塗布することは比較的困難であり、生産性が低い。
(2)高温、高圧を(場合により溶剤も)作用させて接着する。
この方法は、ガラスの熱溶着やアクリルの拡散接合等に使用できるが、僅かながらも素材の変形を伴い、微細な流路や反応室を損なう危険がある。また、特殊な技術と大がかりな生産設備を必要とする。
(3)基板となる素材が持つ自己吸着性のみを用いて貼り合わせる。
この方法の場合、使用できる素材が限られ、また発生できる吸着力が弱いため、チップの機械的強度や管路耐圧が低い。
(4)負圧を用いて基板同士を吸着させ、貼り合わせる。
本来の流路や反応室の他に、吸引管路を設け、真空吸引することにより負圧を発生させ、吸盤のように基板同士を吸着させて貼り合わせる方法であるが、余分な吸引管路を必要とするばかりか、貼り合わせ力も弱い。
(5)シリコーンの恒久接着(いわゆるパーマネント・ボンディング)を用いる。
シリコーンには数々の種類や形態が存在するが、基本となる比較的純粋な構造を持つ物質はPDMS(ポリジメチルシロキサン)と呼ばれる。主鎖にシリコン(Si)基を持つ高分子化合物で、エラストマータイプの樹脂である。具体的には、米国ダウコーニング社製のSYLGARD 184 SILICONE ELASTOMER等がある。PDMSは微細構造鋳型に対する良好なモールド転写性や、透明性、耐薬品性、生体との相互作用の少なさなどのマイクロチップにおける優れた特徴を有している。
液状やグリース状を除く固形のシリコーン全般に関して、恒久接着と呼ばれる特異な性質を示すことが知られている。前処理としてシリコーン基板の貼り合わせ面に酸素プラズマ等を作用させ、適度な活性化状態を励起させる。その後、直ちに貼り合わせ面同士を十分に密着させ、一定時間放置すると、貼り合わせ面の接着が行われる。この接着現象を恒久接着と呼ぶ。
恒久接着の接着強度は、外部から力を加えて無理に剥がそうとすると、貼り合わせ面が剥がれるのではなく、シリコーンが千切れてしまう程の十分な強度を有している。接着剤や溶剤を使用せず、高温や高圧を作用させることもないので、微細な流路や反応室を損なわない。更に、特殊な技術を必要とせず、設備も簡便である。このため、シリコーンを用いたマイクロチップの製作において、基板同士の貼り合わせに一般的に使用されている。
第1の基板を固形のシリコーンとした場合、恒久接着が可能な第2の基板の材質は、シリコーン、ガラス、シリコン(単結晶)、サファイア、ポリスチレンなどの一部の樹脂などである。第1の基板は必ず貼り合わせ前に表面改質処理などの前処理が必要だが、第2の基板のうちガラスやシリコンなどは必ずしも前処理を必要としない材質もある。
【0006】
第1の基板と第2の基板は一般的には全面を均一に接着させるが、特殊な機能を実現するために、部分的に非接着部を形成する場合がある。このような部分的に非接着部が形成されたマイクロチップは特許文献1〜3に記載されている。
【0007】
例えば、特許文献1(特許第3905074号公報)には、微量流体制御機構の隔壁の下面を接着しないことにより、流体を流したり止めたりする弁としての機能を発揮する非接着部分を有するマイクロチップが記載されている。
【0008】
また、特許文献2(特開2005−313065号公報)には、流路となるべき部分を非接着部として形成することにより、流体物質が加圧流入される前の段階では容積がゼロである流路を有する化学反応用カートリッジが記載されている。図9はその概要断面図である。化学反応用カートリッジ200を形成する第2の基板208の貼り合わせ面上に非接着性物質又はプラズマで活性化しない物質の薄膜層210を予め塗布し、その後、第1の基板202を貼り合わせる。流体を送出入させるためのポート204及び206を薄膜層210の両端部に接続させるように第1の基板に形成することもできる。薄膜層210が形成されている箇所は流路となるべき箇所であるが、この状態では、流路は容積ゼロのままである。しかし、図10に示されるように、ポート204を介して適当な加圧手段212により圧力を加えると、薄膜層210の非接着部に対応する第1の基板部分が膨隆し、流路となるべき容積を有する空隙214が出現する。
【0009】
更に、特許文献3(特開2005−337415号公報)には、非接着部を有することを利用したマイクロバルブやマイクロポンプ及びこれらを内蔵したマイクロチップが記載されている。
【0010】
前記の特許文献1〜3より、非接着部を形成することで特徴のあるマイクロチップが得られることが理解できるが、非接着部は微細流路と同様に微小な領域であり、また、貼り合わせ面の様々な箇所に広範囲に点在しており、その形成は必ずしも容易ではない。
例えば、シリコーン素材の基板の恒久接着を用いた貼り合わせの場合、一般的に、下記の3種類の方法が試用されている。
(1)非接着部に対応したマスクを載置し、酸素プラズマ処理又はエキシマUV光照射処理を行う方法。
この方法は特許文献1の段落0033及び特許文献3の請求項5に記載されている。この方法は、非接着部が微小で、広範囲に点在している場合、マスクの製作や使用が困難である。また、マスクを使用する際、マスクに付着していたゴミなどの異物で基板の貼り合わせ面を汚染する危険性がある。更に、流体が通過する流路内にプラズマやエキシマUV光で処理された部分と処理されない部分とが存在し、流路壁面性状の均一性に欠ける。流路内壁と微量流体との間には相対的に大きな界面力が作用するので、流路壁面性状は流体の挙動に大きく影響する。また、微小部分に対するマスクによる処理の選択性は必ずしも十分ではない。プラズマやエキシマUV光及びそれに伴い発生するオゾンの効果はマスク下部にも及び、また逆にマスク周辺の処理効果が低下する傾向がある。その結果、処理部と未処理部との境界付近は処理程度が曖昧になり、接着部と非接着部との明確な造り分けが困難になる。
(2)非接着性物質又はプラズマで活性化しない物質を塗布する。
この方法は特許文献2の請求項4及び請求項5に記載されている。この方法は、流路内を出入りする物質と塗布物質との相性(耐性)が問題となり、また流路内に塗布した部分と塗布しない部分との流路壁面性状の大きな不均一が生じる。また、塗布時の異物混入の恐れもある。更に、非接着部が微小で広範囲に点在している場合、正確に塗布することが難しく、生産性に欠けるか又は利用が困難であり、技術的にも高度な塗布装置を必要とする。また、塗布物質の表面張力等の影響により、塗布面の厚みは必ずしも均一にならない。その結果、塗布部と非塗布部との境界が曖昧になり、接着部と非接着部との明確な造り分けが困難になる。特許文献2には、別法として、非接着性の表面を有する埋め込み材を用いる方法が請求項7及び請求項8に記載されているが、前記と同様な問題点がある。
(3)石英ガラスを基材としたマスクを用いてエキシマUV光照射処理を行う方法。
この方法は特許文献4(特開2001−324816号公報)の請求項1〜請求項5に記載されている。エキシマUV光を透過する石英ガラスに遮光パターンを形成し、これをマスクとしてエキシマUV光を照射する。この方法は、前記のマスクを用いる方法と異なり、非接着部が微小で広範囲に点在している場合でも使用可能である。しかし、マスク使用による異物による汚染、流路壁面性状の不均一性、接着境界の不明瞭性は同様に存在する。また、石英ガラス製マスクは高価で壊れやすく、取り扱いに細心の注意が必要である。更に、長期のエキシマUV光照射による石英ガラスの透過率の劣化も懸念される。
【特許文献1】特許第3905074号公報
【特許文献2】特開2005−313065号公報
【特許文献3】特開2005−337415号公報
【特許文献4】特開2001−324816号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、非接着部を有するマイクロチップを製造する際に、マスクを使用せず、また非接着性物質又はプラズマで活性化しない物質も塗布せずに非接着部を形成することができるマイクロチップの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題は、互いに恒久接着可能な材質からなる第1の基板と第2の基板のうちの少なくとも一方の基板の貼り合わせ面を表面改質処理してから両基板を貼り合わせて恒久接着させることによりマイクロチップを製造する方法において、非接着部となるべき箇所に対応する箇所の前記第1の基板の外表面を吸引手段により引き上げながら前記第2の基板と貼り合わせることにより両基板間の非接着部となるべき箇所を剥離状態に維持し、前記表面改質処理による活性化状態が消失した後に、前記吸引手段による前記第1の基板の引き上げを停止させることにより非接着部を形成することを特徴とする非接着部を有するマイクロチップの製造方法により解決される。
【0013】
この発明によれば、吸引手段で第1の基板の所定箇所を吸引変形させ、その状態のまま第2の基板に貼り合わせると、吸引変形されていない箇所の第1の基板は第2の基板と恒久接着するが、表面改質処理の活性化状態が消失してから吸引変形を解除すると、第1の基板の吸引変形されていた箇所は最早第2の基板と恒久接着せず、非接着部を形成することができる。
【0014】
前記吸引手段は、少なくとも吸引室と吸引口を有する吸引用部材からなり、前記吸引室は前記第1の基板を負圧で吸引変形させるのに必要十分な容積を有し、前記吸引口には排気手段が接続され、前記吸引用部材は前記第1の基板の引き上げが停止された後、前記第1の基板から剥離される。
【0015】
この発明によれば、吸引手段は第1の基板と自己吸着可能であればよいので、どのような材質の吸引手段でも使用できるという利点がある。
【0016】
前記吸引手段は、少なくとも吸引室と吸引口を有する第3の基板からなり、前記吸引室は前記第1の基板を負圧で吸引変形させるのに必要十分な容積を有し、前記吸引口には排気手段が接続され、前記第3の基板及び前記第1の基板のうちの少なくとも一方を表面改質処理してから両基板を貼り合わせ、前記第3の基板は前記第1の基板の引き上げが停止された後、前記第1の基板上にそのまま残置される。
【0017】
この発明によれば、第1の基板に非接着部を形成するのに使用された第3の基板をその後、前記非接着部を膨隆させ、所期の空隙を発生させる手段としても使用することができる。
【0018】
前記吸引手段は、少なくとも吸引口と吸引管路を有する第3の基板からなり、前記第1の基板の当該第3の基板との貼り合わせ面側に、前記第1の基板を負圧で吸引変形させるのに必要十分な容積を有する吸引室が形成されており、前記第3の基板及び前記第1の基板のうちの少なくとも一方を表面改質処理してから両基板を貼り合わせる際、前記第3の基板は、前記吸引管路を前記第1の基板の吸引室と位置合わせして前記第1の基板と貼り合わされ、前記吸引口には排気手段が接続され、前記第3の基板は前記第1の基板の引き上げが停止された後、前記第1の基板上にそのまま残置される。
【0019】
この発明によれば、第1の基板に非接着部を形成するのに必要な吸引室が形成されているので、第3の基板には吸引室を設ける必要がなく、第3の基板の吸引管路と第1の基板の吸引室との位置合わせが容易であるばかりでなく、第1の基板に非接着部を形成するのに使用された第3の基板をその後、前記非接着部を膨隆させ、所期の空隙を発生させる手段としても使用することができる。
【0020】
前記第1の基板はポリジメチルシロキサン、シリコンゴム及び硬化後のRTVゴムからなる群から選択される固形シリコーンから形成されており、前記第2の基板は前記固形シリコーン、ガラス、シリコン(単結晶)、サファイア及びポリスチレンからなる群から選択される材料から形成されており、前記吸引用部材はプラスチック又は金属からなる群から選択される材料から形成されている。
【0021】
この発明によれば、第1の基板と第2の基板とは互いに恒久接着可能な材質から形成されている必要があるが、吸引用部材は第1の基板と自己吸着可能な材料であればよい。
【0022】
前記第1の基板はポリジメチルシロキサン、シリコンゴム及び硬化後のRTVゴムからなる群から選択される固形シリコーンから形成されており、前記第2の基板は前記固形シリコーン、ガラス、シリコン(単結晶)、サファイア及びポリスチレンからなる群から選択される材料から形成されており、前記第3の基板は前記固形シリコーン、ガラス、シリコン(単結晶)、サファイア及びポリスチレンからなる群から選択される材料から形成されている。
【0023】
この発明によれば、第1の基板は、第2の基板及び第3の基板と相互に恒久接着可能な材質から形成されている必要がある。
【発明の効果】
【0024】
本発明による非接着部を有するマイクロチップの製造方法は、非接着部が微小で広範囲に点在している場合でも使用可能であり、下記の効果を有する。
(1)恒久接着前の表面改質処理時にマスクを使用しないため、マスク由来の異物汚染が生じない。
(2)恒久接着前の表面改質処理終了後に2枚の基板を貼り合わせる過程においても、貼り合わせ面を汚染するような行為(例えば、貼り合わせ面上に物をかざしたり、接触させる等)が無い。
(3)恒久接着前に貼り合わせ面を均一に表面改質処理するため、非接着部の流路と他の一般的な溝状のチャネル構造の流路との差が無いので、非接着部に基づく流路壁面性状の均一性が高い。
(4)恒久接着前に貼り合わせ面を均一に表面改質処理するため、接着部と非接着部との境界が明瞭に形成できる。
(5)非接着物質等の塗布や埋め込みを全く行わないため、それらによる流路の汚染、流路壁面性状の不均一性が生じない。
(6)塗布装置などの特殊な技術や装置を必要としない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下図面を参照しながら本発明のマイクロチップの製造方法について具体的に説明する。図1は本発明のマイクロチップの製造方法の一例の概要図である。本発明の方法によれば、先ず前処理として、第1の基板1及び/又は第2の基板3の各貼り合わせ面を表面改質処理する。両基板の貼り合わせ面を表面改質処理することが好ましい。表面改質処理方法としては、当業者に公知慣用の全ての表面改質処理方法を使用できる。このような表面改質処理方法には、例えば、減圧プラズマへの曝露、大気圧プラズマへの曝露、エキシマによる真空紫外光(エキシマUV光)の照射、その他のUV光の照射、オゾン処理、各種薬液(例えば、アルテコ社製PR−700などの市販のシリコーンゴム用プライマー等)への浸漬などが挙げられる。
【0026】
表面改質前処理の確実性、処理コスト及び処理効率の観点から、表面改質処理方法としてはエキシマUV光の照射が好ましい。エキシマUV光としては、放電性ガスの種類により次のような波長(中心波長)のものがある。126nm(Ar)、146nm(Kr)、172nm(Xe)、222nm(KrCl)、及び308nm(XeCl)。エキシマUV光を放射する照射ランプは例えばキセノンガスを封入した誘電体バリヤ放電ランプである。この誘電体バリヤ放電ランプは、キセノン原子が励起されたエキシマ状態となり(Xe)、このエキシマ状態から再びキセノン原子に解離するときに波長約172nmの光を発生する。この波長172nmの光を酸素に照射すると、従来の低圧水銀ランプから放射される波長185nmの光を酸素に照射する場合よりも高濃度のオゾンが得られ、更にまた、この高濃度のオゾンから活性酸化性分解物も得られる。これら高濃度オゾンと活性酸化性分解物との相乗作用により処理対象物の表面の改質及び/又は洗浄効果が飛躍的に高められる。
【0027】
エキシマUV光の照射強度は一般的に、5mW/cm〜30mW/cmの範囲内が好ましい。照射強度が5mW/cm未満の場合、処理時間が長くなり過ぎ作業効率が低下する。一方、照射強度が30mW/cm超の場合、このような高い照射強度を有する装置は少なく、有っても高価であるばかりか、照射有効面積が小さく、処理対象物の大きさが限られる。また、ランプを複数本密に並べるため、照射強度の均一性が低い場合もあり、その結果、処理の程度の不均一が生じることもある。エキシマUV光の照射時間は一般的に、10秒間〜5分間の範囲内が好ましい。エキシマUV光の照射時間は照射強度と相反関係にあり、照射強度が高い場合、照射時間は短くなる。選択された照射ランプの有する照射強度に対する最適な照射時間は実験を繰り返すことにより当業者が容易に決定することができる。
【0028】
エキシマUV光を放射する誘電体バリヤ放電ランプと共に遠紫外光を放射する光源を併用することもできる。誘電体バリヤ放電ランプから放射される波長172nmのエキシマUV光によりオゾン及び活性酸化性分解物を生成させて、このオゾン及び活性酸化性分解物に遠紫外光である波長254nmの光を照射すると、これらの活性度が一層高められ、表面改質・洗浄効果が飛躍的に向上される。遠紫外光光源は、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、クリプトンフッ素エキシマランプ、又はクリプトンフッ素エキシマレーザなどである。
【0029】
第1の基板及び第2の基板の材質は前記表面改質処理により相互に恒久接着可能なものであることが好ましい。例えば、第1の基板の材質がシリコーン(例えば、ポリジメチルシロキサン、シリコンゴム及び硬化後のRTVゴムなど)である場合、第2の基板の材質は、前記シリコーン、ガラス、シリコン(単結晶)、サファイア、ポリスチレンなどの一部の樹脂などである。
第1の基板1は非接着部が適度に変形できるように、厚さは10μm〜5mm、好ましくは30μm〜3mm、より好ましくは100μm〜1mmの範囲内である。図示されていないが、第1の基板1の貼り合わせ面には流路、反応室、液体貯留室、ポートなどのマイクロチップとして必要な微細構造が形成されていてもよい。
第2の基板3はマイクロチップとして必要十分な機械的強度を発揮できる厚さであることが好ましい。第2の基板3の厚さは層の積層構造に応じて変化する。例えば、第1の基板とだけ積層される2層構造の場合、一般的に、機械的強度が発揮できる0.5mm〜5mm程度が好ましい。一方、3層以上の多層構造の場合、必ずしも第2の基板3に機械的強度を持たせる必要性が無いので、第1の基板と同様に、10μm〜5mm程度でよい。第2の基板3の貼り合わせ面には流路、反応室、液体貯留室、ポートなどのマイクロチップとして必要な微細構造が形成されていてもよい。
【0030】
基板貼り合わせ面の表面改質処理が終了したら、第1の基板1を吸引用部材5に吸引保持させる。吸引用部材5は第1の基板1の貼り合わせ面と反対側の面に密着される。吸引用部材5の材質としてはプラスチック類などが好適に使用される。第1の基板1の材質であるシリコーンは自己吸着性が高く、吸引用部材5との密着、密閉において、良好に作用する。また、所望により、吸引用部材5の密着面の吸着性を、各種のコーティング剤を用いるなどの公知慣用の方法で増強しておくこともできる。
【0031】
吸引用部材5は吸引室7、吸引管路9及び吸引口11を有する。吸引口11には、適当な真空ポンプ、シリンジ、アスピレータ等の排気手段(図示されていない)が接続される。吸引管路9は吸引口11及び吸引室7に連通している。吸引用部材5の吸引室7は、第1の基板1と第2の基板3との貼り合わせ面の界面に形成すべき非接着部の平面形状と概ね同じ形状を有する。吸引室7の平面形状が円形の場合、その直径は100μm〜10mmの範囲内であることが好ましい。直径が100μm未満では第1の基板1を吸引変形させることが困難になり、直径が10mm超の場合は、第1の基板1の吸引変形が過剰となり、第1の基板1が破損するなどの不都合が生じる。また、吸引室7の平面形状が矩形の場合、縦及び/又は横幅は200μm〜10mmの範囲内であることが好ましい。縦及び/又は横幅が200μm未満の場合、円形の場合と同様に第1の基板1を吸引変形させることが困難になり、縦及び/又は横幅が10mm超の場合は、第1の基板1の吸引変形が過剰となり、第1の基板1が破損するなどの不都合が生じる。更に、吸引室7は第1の基板1を吸引により変形させるのに十分な深さを有する。吸引室7の深さは通常10μm以上であることが好ましい。吸引室7の深さが10μm未満の場合、吸引による第1の基板1の変形量が不十分となり、第1の基板1と第2の基板3との界面間の非接着部の形成が不確実になる恐れがある。吸引室7の個数は形成すべき非接着部の個数と同じ個数である。
【0032】
第1の基板1に形成すべき非接着部に相当する部分と吸引用部材5の対応する吸引室7の開口部が一致する位置関係で密着させる。第1の基板1を吸引用部材5に密着させたら、排気手段で吸引室7を、貼り合わせ雰囲気(通常は大気圧)よりも負圧に保持し、第1の基板1の非接着部に相当する部分を吸引室側に吸引変形させた状態のまま維持し続ける。
【0033】
次に、吸引用部材5で第1の基板1の非接着部に相当する部分を吸引室7側に吸引変形させた状態のまま、第1の基板1と第2の基板3とを、加圧しながら、又は加圧せずに貼り合わせ、そのまま所定時間静置する。この時、第1の基板1の非接着部は吸引変形により第2の基板3の貼り合わせ面には接触せず、恒久接着はしない。一方、吸引変形されていない部分は恒久接着する。なお、恒久接着が進行する活性化状態は極めて短命である。表面改質前処理の種類や強度、貼り合わせ後の接触静置雰囲気に応じて変化するが、活性化状態の有効な継続時間は数分間から長くて10時間程度である。一定の表面改質前処理条件下での活性化状態の持続時間を予め測定しておくことにより、適切な接触静置時間を決定することができる。
【0034】
恒久接着のための表面改質前処理による活性化状態が消失した後、吸引用部材5による負圧吸引を終了し、第1の基板1から吸引用部材5を取り除く。吸引力により弾性変形していた非接着部に相当する第1の基板1の部位は変形が戻って第2の基板に接触しても、最早、恒久接着しない。また、この時点では、接触部の恒久接着は完了しているか、又は使用に耐え得る十分な接着強度に達している。このようにして、本発明の方法により、マスクや塗布物質などを全く使用せずに、図2(A)に示されるように、第1の基板1と第2の基板3との貼り合わせ面内に非接着部15(図中、点線で囲まれている部分)を有するマイクロチップ13を製作することができる。図2(B)に示されるように、非接着部15の箇所に対応する箇所の第1の基板1を膨隆させると、所定の容積を有する空隙17が形成される。この空隙17を流路、反応室、液体貯留室などの、マイクロチップに必要とされる様々な微細構造として使用する。
【0035】
図1及び図2は第1の基板1と第2の基板3との1組の基板の貼り合わせ工程であるが、本発明の方法により製造することができるマイクロチップは、図示された構造のマイクロチップ13に限定されない。貼り合わせ面が2面以上存在する多層構造又は複合構造のマイクロチップの製造にも本発明の方法は使用できる。この場合、必要に応じて前記の貼り合わせを複数回行えばよい。
【0036】
別法として、選択される前処理方法の種類によって可能であれば(処理雰囲気等に関係する)、第1の基板1を吸引用部材5に密着させてから、第1の基板1の貼り合わせ面を表面改質の前処理を行うこともできる。例えば、エキシマUV光の照射により前処理を行う場合、第1の基板1を吸引用部材5に密着させてから、第1の基板1の貼り合わせ面を表面改質処理することができる。また、第1の基板1を吸引用部材5に密着させ、負圧吸引した状態で、第1の基板1の貼り合わせ面の表面改質前処理を実施することもできる。
【0037】
図3は、本発明の方法の別の実施態様を示す部分概要断面図である。図3に示された実施態様では、吸引室11の開口形状が四角形又は円形などのような単純な形状の場合、吸引用部材5Aに開口形状の貫通穴を形成し、貫通穴の上部を吸引口11として用いる。この実施態様では、吸引用部材5Aは、その内部に吸引管路を有しないので、吸引用部材5Aの形成が極めて容易である。しかし、吸引口11と同数の吸引手段が必要となる。本実施態様においても、図1に示される実施態様と同様に表面改質前処理などを経て、第2の基板3と貼り合わせ、図2に示されるマイクロチップ13を完成させる。
【0038】
図4は、本発明の方法の別の実施態様を示す部分概要断面図である。図4に示された実施態様では、吸引管路9が吸引用部材5Bと第1の基板1との密着面側に形成されている。第1の基板1の非接着部となるべき所定箇所を吸引変形させるにはある一定以上の深さが必要である。従って、吸引室7の深さよりも浅い溝状の吸引管路9を形成することにより、吸引室7の形状に対応した形状の非接着部を形成することができる。また、第1の基板1を変形させるには一定以上の幅が必要である。従って、溝状吸引管路9の幅は第1の基板1を変形させない幅以内でなければならない。一般的に、溝状吸引管路9の幅は500μm未満であることが好ましい。この溝状吸引管路が利用できることにより、吸引管路の形成に自由度が増し、非接着部が多数、広範囲に散在する場合にも、吸引管路9が吸引用部材5の内部に形成されている図1の実施態様に比べて、吸引用部材5Bを容易に製作することができる。本実施態様においても、図1に示される実施態様と同様に表面改質前処理などを経て、第2の基板3と貼り合わせ、図2に示されるマイクロチップ13を完成させる。
【0039】
前記の実施態様では吸引用部材5,5A及び5Bはマイクロチップ13を製造するための部材として使用され、製造後はマイクロチップ13から剥離し取り除かれる。しかし、吸引用部材自体をマイクロチップの構成部材の一部として具備することもできる。図5は吸引用部材の代わりに第3の基板19を使用し、第3の基板19と第2の基板3との間に第1の基板1を狭持したマイクロチップ13Aの概要断面図である。この実施態様のマイクロチップ13Aを製作する場合、先ず、第3の基板19を準備する。第1の基板1の非接着部となるべき箇所を吸引変形させるための吸引室7、吸引管路9及び吸引口11はそれぞれ第3の基板19に配設されている。第3の基板19と第1の基板1との各貼り合わせ面を前記に述べた表面改質処理方法に従って処理し、直ちに貼り合わせる。第3の基板19と第1の基板1とは恒久接着により貼り合わされていても良く、あるいは自己吸着により貼り合わされていても良い。従って、第3の基板19は第2の基板3の材質と同一の材質であるか又は異なる材質のものであることができる。第3の基板19と第1の基板1とは恒久接着により貼り合わされていることが好ましい。次に、第1の基板1と第2の基板3との貼り合わせ面を前記と同じ方法及び要領で表面改質前処理を行う。次いで、第3の基板19の吸引口11に適当な排気手段(図示されていない)を接続し、吸引管路9を介して吸引室7内の空気を排気し、内部を負圧状態にして第1の基板1の非接着部15に対応する部分を吸引室7内に吸引変形させる。第1の基板1をこの状態に維持したまま、第2の基板3を第1の基板1に貼り合わせ、所定時間静置する。その後、第3の基板19の吸引口11から吸引手段(図示されていない)を取り外し、マイクロチップ13Aを完成させる。
【0040】
図6は、図5に示されたマイクロチップ13Aの別の実施態様を示す概要断面図である。この実施態様におけるマイクロチップ13Bでは、第1の基板1の非接着部15に対応する箇所を吸引変形させるための吸引室7が第1の基板1自体に配設されており、この吸引室7に連通する吸引管9及び吸引口11は第3の基板19に配設されている。図5の実施態様では、第3の基板19の吸引室7と第1の基板1の非接着部となるべき箇所との位置合わせが比較的困難であるが、図6の実施態様では、第1の基板1の非接着部15の形成箇所は吸引室7が配設されている箇所なので、第1の基板1の吸引室7と第3の基板19の吸引管路9との位置合わせが極めて容易である。
【0041】
図5及び図6に示された各実施態様では、吸引管路9及び吸引口11が各吸引室7にそれぞれ独立に配設されているが、各吸引室7に連通する1本の吸引管路9と1個の吸引口11とすることもできる。吸引管路9及び吸引口11が各吸引室7に対してそれぞれ独立している形式の場合、各非接着部を他の非接着部と無関係に膨隆させることができる。これに対し、吸引管路9及び吸引口11が全ての吸引室7に連通している形式の場合、各非接着部は全て同時に膨隆する。マイクロチップの製造方法としては後者の場合がより簡便である。これら吸引管路9及び吸引口11と吸引室7との接続形式はマイクロチップの用途などに応じて使い分けることができる。
【0042】
図7(A)は、図5に示されたマイクロチップ13Aの更に別の実施態様を示す部分概要平面図であり、図7(B)は、図7(A)におけるB−B線に沿った部分概要断面図である。この実施態様におけるマイクロチップ13Cでは、第1の基板1の、第2の基板3との貼り合わせ面側に流路(マイクロチャネル)21が配設されており、かつ、流路21の途中にはバルブ室27が設けられており、バルブ室27は弁23で仕切られている。本発明の製造方法により、第1の基板1と第3の基板19とを貼り合わせ、次いで、第1の基板1と第2の基板3との各貼り合わせ面を表面改質前処理し、第3の基板19の吸引口11に適当な排気手段(図示されていない)を接続し、吸引管路9を介して吸引室7内の空気を排気し、内部を負圧状態にして第1の基板1の弁23に対応する部分を吸引室7内に吸引変形させる。第1の基板1をこの状態に維持したまま、第2の基板3を第1の基板1に貼り合わせ、所定時間静置し、マイクロチップ13Cを完成させる。弁23の下面(弁座)25が非接着部となる。第3の基板19の吸引室7,吸引管路9及び吸引口11は、第1の基板1の弁23の下面(弁座)25を第2の基板3と非接着状態にするために使用できるばかりか、その後、マイクロチップ13Cの弁23の開閉動作に使用することもできる。すなわち、流路21の一方から他方へ流体を移送する場合には、吸引口11から吸引管路9を介して吸引室7内の空気を排気して内部を負圧状態にすることにより弁23は吸引室7内に向かって吸引変形され、弁23の弁座25と第2の基板3との間に空隙が生じるので両側の流路21が連通し、流体の移送が可能になる。一方、流路21の一方から他方への流体の移送を遮断する場合、弁23の弁座25が第2の基板3に接触したままでも十分な遮断効果があるが、吸引口11から吸引管路9を介して吸引室7内に加圧空気を送入すれば、弁23の弁座25が第2の基板3に強く押し付けられ、一層高い遮断効果が得られる。
【実施例1】
【0043】
(1)マイクロチップの製作
図7に示される断面構造を有するマイクロチップを製造した。第1の基板1の材質はポリジメチルシロキサン(PDMS)である。第1の基板1の全体厚さは200μmであり、流路21の幅は100μm、高さは30μmである。バルブ室27の直径は1mm、高さは30μmであり、弁23の幅は30μmである。第2の基板3の材質はガラスであり、厚さは1mmである。第3の基板19の材質はPDMSであり、厚さは2mmであり、吸引室7は平面が円形の形状をしており、直径は1.1mm、高さは150μmである。吸引管路9の幅は100μm、高さは150μmであり、吸引口11の直径は2mmである。前記の寸法の流路21、バルブ室27及び弁23を有する第1の基板1を常用の光リソグラフ法により製作し、同様に、前記の寸法の吸引室7,吸引管路9及び吸引口11を有する第3の基板19を常用の光リソグラフ法により製作した。第1の基板1と第3の基板19の各貼り合わせ面をクリーンルーム内で照射強度が20mW/cmのエキシマUV光を1分間照射することにより表面改質処理してから両基板を恒久接着させた。次いで、この貼り合わせ体の第1の基板1の露出面側と第2の基板3の貼り合わせ面をクリーンルーム内で照射強度が20mW/cmのエキシマUV光を1分間照射することにより表面改質処理し、第3の基板19の吸引口11に真空ポンプを接続して第1の基板1を吸引室7内に吸引変形させ、弁座25が第2の基板3の貼り合わせ面に接触しないように維持しながら、第1の基板1を第2の基板3に恒久接着させた。この状態のまま約1時間静置した。その後、第1の基板1の吸引変形を解除し、弁23の弁座25を第1の基板1に接触させた。
(2)弁開閉試験
マイクロチップの流路21の一方から赤色に着色された水を5kPaの圧力を掛けて送入した。バルブ室27の手前で赤色水が停止するのが確認された。その後、吸引口11から真空ポンプで弁23を吸引変形させると、赤色水が弁23を通過して他方の流路へ流れ出るのが確認され、吸引変形を解除すると赤色水の流下が止まることが確認された。この試験により、本発明の方法に従って製造されたマイクロチップ13Cの弁座25が非接着の状態に維持されており、これにより弁23が正常に開閉動作できることが立証された。
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上、本発明の製造方法についてマイクロチップを中心に説明してきたが、本発明の製造方法はマイクロチップに限らず、相互に恒久接着する2枚の基板間に非接着部を形成すべき全ての部材の製造に使用することができる。また、本発明の方法により製造された非接着部を有するマイクロチップは、その実用性及び経済性が飛躍的に向上される。その結果、本発明の方法により製造された非接着部を有するマイクロチップは、医学、獣医学、歯科学、薬学、生命科学、食品、農業、水産など様々な分野で好適に有効利用することができる。特に、本発明のマイクロチップは、蛍光抗体法、in situ Hibridization等に最適なマイクロチップとして、免疫疾患検査、細胞培養、ウィルス固定、病理検査、細胞診、生検組織診、血液検査、細菌検査、タンパク質分析、DNA分析、RNA分析などの広範な領域で安価に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明のマイクロチップの製造方法の一例の概要説明図である。
【図2】図1に示された本発明のマイクロチップの製造方法により得られたマイクロチップの概要断面図であり、(A)は非接着部が容積ゼロの状態を示し、(B)は非接着部が膨隆されて所定の容積の空隙を形成している状態を示す。
【図3】図1に示された本発明のマイクロチップの製造方法の別の実施態様を示す部分概要断面図である。
【図4】図1に示された本発明のマイクロチップの製造方法の更に別の実施態様を示す部分概要断面図である。
【図5】図1に示された本発明のマイクロチップの製造方法の他の実施態様を示す概要断面図である。
【図6】図1に示された本発明のマイクロチップの製造方法の更に他の実施態様を示す概要断面図である。
【図7】(A)は図1に示された本発明のマイクロチップの製造方法の更に他の実施態様を示す部分概要平面図であり、(B)は(A)におけるB−B線に沿った部分概要断面図である。
【図8】従来のマイクロチップの一例の概要断面図である。
【図9】特許文献2に記載された流路が容積ゼロの非接着状態の化学反応用カートリッジの一例の概要断面図である。
【図10】図9に示されたマイクロチップの容積ゼロの非接着状態の流路が膨隆されて所定の容積を有する流路を形成している状態を示す模式的断面図である。
【符号の説明】
【0046】
1 第1の基板
3 第2の基板
5,5A,5B 吸引用部材
7 吸引室
9 吸引管路
11 吸引口
13,13A,13B,13C マイクロチップ
15 非接着部
17 空隙
19 第3の基板
21 流路
23 弁
25 弁座
27 バルブ室
100 従来のマイクロチップ
102 基板
104 流路
105,106 ポート
108 基板
200 特許文献2に記載された化学反応用カートリッジ
202 第1の基板
204,206 ポート
208 第2の基板
210 薄膜層
212 加圧手段
214 空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに恒久接着可能な材質からなる第1の基板と第2の基板のうちの少なくとも一方の基板の貼り合わせ面を表面改質処理してから両基板を貼り合わせて恒久接着させることによりマイクロチップを製造する方法において、非接着部となるべき箇所に対応する箇所の前記第1の基板の外表面を吸引手段により引き上げながら前記第2の基板と貼り合わせることにより両基板間の非接着部となるべき箇所を剥離状態に維持し、前記表面改質処理による活性化状態が消失した後に、前記吸引手段による前記第1の基板の引き上げを停止させることにより非接着部を形成することを特徴とする非接着部を有するマイクロチップの製造方法。
【請求項2】
前記吸引手段は、少なくとも吸引室と吸引口を有する吸引用部材からなり、前記吸引室は前記第1の基板を負圧で吸引変形させるのに必要十分な容積を有し、前記吸引口には排気手段が接続され、前記吸引用部材は前記第1の基板の引き上げが停止された後、前記第1の基板から剥離される請求項1記載のマイクロチップの製造方法。
【請求項3】
前記吸引手段は、少なくとも吸引室と吸引口を有する第3の基板からなり、前記吸引室は前記第1の基板を負圧で吸引変形させるのに必要十分な容積を有し、前記吸引口には排気手段が接続され、前記第3の基板及び前記第1の基板のうちの少なくとも一方を表面改質処理してから両基板を貼り合わせ、前記第3の基板は前記第1の基板の引き上げが停止された後、前記第1の基板上にそのまま残置される請求項1記載の非接着部を有するマイクロチップの製造方法。
【請求項4】
前記吸引手段は、少なくとも吸引口と吸引管路を有する第3の基板からなり、前記第1の基板の当該第3の基板との貼り合わせ面側に、前記第1の基板を負圧で吸引変形させるのに必要十分な容積を有する吸引室が形成されており、前記第3の基板及び前記第1の基板のうちの少なくとも一方を表面改質処理してから両基板を貼り合わせる際、前記第3の基板は、前記吸引管路を前記第1の基板の吸引室と位置合わせして前記第1の基板と貼り合わされ、前記吸引口には排気手段が接続され、前記第3の基板は前記第1の基板の引き上げが停止された後、前記第1の基板上にそのまま残置される請求項1記載の非接着部を有するマイクロチップの製造方法。
【請求項5】
前記第1の基板はポリジメチルシロキサン、シリコンゴム及び硬化後のRTVゴムからなる群から選択される固形シリコーンから形成されており、前記第2の基板は前記固形シリコーン、ガラス、シリコン(単結晶)、サファイア及びポリスチレンからなる群から選択される材料から形成されており、前記吸引用部材はプラスチック又は金属からなる群から選択される材料から形成されている請求項2記載の非接着部を有するマイクロチップの製造方法。
【請求項6】
前記第1の基板はポリジメチルシロキサン、シリコンゴム及び硬化後のRTVゴムからなる群から選択される固形シリコーンから形成されており、前記第2の基板は前記固形シリコーン、ガラス、シリコン(単結晶)、サファイア及びポリスチレンからなる群から選択される材料から形成されており、前記第3の基板は前記固形シリコーン、ガラス、シリコン(単結晶)、サファイア及びポリスチレンからなる群から選択される材料から形成されている請求項3又は4記載の非接着部を有するマイクロチップの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−220477(P2009−220477A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−68903(P2008−68903)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(000100861)アイダエンジニアリング株式会社 (153)
【Fターム(参考)】