説明

非晶質金属管状製品の製造方法

【目的】 実質上非晶質の、すなわち組織の過半量が非晶質相または粒径100nm以下の超微細結晶相である金属の管状製品を一工程で製造する方法を提供する。
【構成】 熱伝導率の高い金属で鋳型と中子を製作し、両者で形成する管状のキャビティに金属溶湯を加圧下に注入して急速に凝固させる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、実質上非晶質である金属の管状の製品を製造する方法に関する。「実質上非晶質」とは、構成する金属組織の全量または過半量が非晶質相であるか、または過半量が粒径100nm以下の超微細結晶相であることを意味する。
【0002】
【従来の技術】金属を管状に成形した素材は、種々の機械構造部品や電子機器部品の材料として用途が広い。 この金属の管状体の製法としては、従来、引抜きや鋳造など、いくつかの技術が確立されている。
【0003】一方、非晶質の金属は、合金組成の選択により、高強度、高靱性、高耐食性、高加工性あるいはすぐれた軟磁気特性を示すものが得られる。 結晶質であっても、粒径が100nm以下の超微細ないわゆる「ナノ結晶」は、非晶質に似た特性をもつ。 そこで、これらの材料を種々の機能部品に応用することが試みられている。
【0004】よく知られているように、非晶質の金属は、溶融状態から急速に冷却しなければ得られないから、実際に入手できる材料は薄帯、薄膜、細線または粉末の形態をしている。 このような材料から管状の部品または部品素材を製造するには、たとえば粉末のホットプレスや押出しのような加工を行なわなければならない。ところが、非晶質の金属は塑性加工が可能になる温度Tgと結晶化温度Txとの差が小さいものが多く、結晶化をさせずに成形することは、しばしば困難である。可能な場合でも、粉末の製造とその管状体への成形という二工程が少なくとも必要であり、コストが嵩む。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、実質上非晶質の金属からなる管状体を、鋳造により一工程で製造する方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明の非晶質金属管状製品の製造方法は、構成する金属組織の過半量が非晶質相または粒径100nm以下の超微細結晶相である金属の管状製品を製造する方法であって、熱伝導率の高い金属で製作した鋳型と中子の組み合わせにより管状のキャビティを形成し、このキャビティに金属の溶湯を加圧下に注入して急速に凝固させ、凝固体を鋳型からとり出して中子を抜くことからなる。
【0007】この非晶質金属管状製品の製造方法は、任意の単体金属および合金に適用可能であるが、ある程度の非晶質形成能をもつ合金、たとえば金属−半金属系非晶質の代表であるFe−Si−B合金に対して好適である。 非晶質形成能がさらに高い合金、たとえばLa−Ni−Al系合金やZr−Ni−Al系合金を対象とするときは、容易に実施できる。
【0008】
【作用】図1に、本発明の実施に好適な装置の構成を示す。
【0009】鋳型(1)は、その中心に中子(2)を設けて、両者で管状のキャビティ(3)を形成する。 鋳型と中子の材料は、できるだけ熱伝導率の高いものを用いるべきであり、その観点からは純銅が最適である。 前記した非晶質形成能の高い合金を対象とする場合には、純銅に代えて、耐摩耗性の高いベリリウム銅などを使用し、鋳型の耐久力を高めることもできる。 鋳型の材質の選択には、管の肉厚などの条件も考慮すべきことが理解されるであろう。
【0010】図2は、図1のキャビティの横断面を示す。 図示した例は断面が円形であるが、これに限らず、多角形そのほか種々の断面のものが使用できることはいうまでもない。
【0011】鋳造すべき金属の溶湯は、図1に示すように、下端に細径のノズル(5)をもつ、石英などの酸化物やBNなどの窒化物から構成されたセラミックス容器(4)を高周波コイル(6)の中に置き、誘導加熱により金属の材料(7)を加熱して溶湯(8)とすることによって調製するとよい。 溶湯は、ノズルの径が細いため表面張力が重力に打ち勝ち、常圧下ではセラミックス容器内に保持されている。 溶解雰囲気は、必要によりArのような不活性ガスでコントロールする。
【0012】溶湯が用意できたら、図3に示すようにセラミックス容器を降下させてノズルを鋳型の湯道に押し当て、キャビティに溶湯を圧入する。 この加圧は雰囲気ガスの圧力増大によるのが好都合であるが、もちろん溶湯に直接圧力を加えて行なうこともできる。
【0013】注入された溶湯(8)は、熱伝導率の高い材料で製作された、冷く、大きな熱容量をもった鋳型に接触して急速に冷却される。 キャビティが管状であるため、溶湯は中子によっても冷却され、管の内外から冷却される。 このようにして凝固が瞬時に起って、実質上非晶質の凝固体が得られる。 これを鋳型からとり出し、中子を抜くことによって、所望の非晶質金属管状製品が得られる。
【0014】上記の、溶湯の注入時に加圧することは肝要である。 それは、冷却速度を高くするとキャビティ内に十分に湯が回らないうちに凝固が進んで巣ができるおそれがあり、とくに肉薄の製品を製造する場合には溶湯の表面張力による湯回り不良の心配があるからである。
【0015】
【実施例1】純銅の厚さ25mmの板に直径3.0mmの貫通孔をあけ、長さ21mm×直径2.0mmの純銅線を中心に固定して、図1に示すような鋳型キャビティを形成した。
【0016】下端に直径0.5mmのノズルをもつ石英管に合金ペレットを入れたものを、Arガス雰囲気下に高周波誘導により加熱した。 合金は、原子パーセントで、La55Ni5Co5Cu10Al25の組成をもつものである。
【0017】溶解後、ノズルを上記鋳型の上に当て、Arガスの圧力を5気圧に高めて溶湯をキャビティに圧入した。
【0018】冷却後、鋳型から凝固体をとり出し、端を切削加工するとともに中子の銅線を抜き取って、外径3.0mm、内径2.0mm、(従って肉厚0.5mm)、長さ20mmの管状製品を得た。
【0019】この金属管状製品の組織をX線回析により確認したところ、非晶質単相であった。
【0020】
【実施例2】実施例1で使用した鋳型の中子を、直径2.6mmの純銅線に交換した。 溶解する合金として、やはり原子パーセントで、Fe75Cu1Ti2Si139の組成のものを使用し、同様に鋳造を行なって肉厚0.2mmの管状体を得た。
【0021】この鋳造物の金属組織をX線回析によりしらべたところ、bccFe固溶体のピークだけが認められた。 ピークの半値幅から計算したbccFe固溶体の結晶粒径は、約13nmであった。 この製品の飽和磁化の温度依存性を振動試料型磁力計によって測定し、bccFe固溶体の結晶相と非結晶相との割合を推定したところ、結晶相が75%、非晶質相が25%であった。
【0022】
【発明の効果】本発明の方法によれば、実質上非晶質である金属の管状製品を、複雑な工程を経る必要なく、一挙に製造することができる。 所望に応じた合金材料を選択することにより、結晶質組織の金属では得られないすぐれた特性をもった製品が得られ、それらは種々の機能部品の素材として使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の非晶質金属管状製品の製造方法の実施に適する装置の構成を示し、あわせて金属溶湯を調製する段階を示す縦断面図。
【図2】 図1のA−A方向の拡大横断面図。
【図3】 図1に続く、鋳造の段階を示す図。
【符号の説明】
1 鋳型 5 ノズル
2 中子 6 高周波コイル
3 キャビティ 7 金属材料
4 セラミックス容器 8 溶湯

【特許請求の範囲】
【請求項1】 構成する金属組織の全量または過半量が非晶質相であるかまたは粒径100nm以下の超微細結晶相である金属の管状製品を製造する方法であって、熱伝導率の高い金属で製作した鋳型と中子の組み合わせにより管状のキャビティを形成し、このキャビティに金属の溶湯を加圧下に注入して急速に凝固させ、凝固体を鋳型からとり出して中子を抜くことからなる非晶質金属管状体製品の製造方法。
【請求項2】 金属材料として、La基またはZr基の非晶質形成能の高い合金を使用する請求項1の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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