説明

非水系二次電池用カーボンブラック、電極及び非水系二次電池

【課題】 導電性及び分散性に優れた非水系二次電池用カーボンブラックとその電極、非水系二次電池を提供すること。
【解決手段】 JIS K 6217−2法で測定されたBET比表面積が10〜50m/g、JIS K 6217−4で測定されたDBP吸収量が140〜200ml/100g、JISK 1469による電気抵抗率が0.15Ωcm以下、硫黄分が50ppm以下、揮発成分が0.1%以下である非水系二次電池用のカーボンブラック。カーボンブラックの含有量が、カーボンブラックと負極活物質又は正極活物質との合計に対して0.1〜20質量%である、負極活物質又は正極活物質とカーボンブラックとを含む組成物を集電体に被着させた非水系二次電池の電極。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解液に非水系電解液を用い、負極及び正極にリチウムイオンを吸蔵放出可能な材料を用いた非水系二次電池において、これら負極及び/又は正極に導電性を付与するための導電剤としてのカーボンブラックと、それらを用いて構成された電極及び非水系二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、携帯電話、ノートパソコンなどの小型民生用機器の電源として幅広く用いられている。また、近年は中・大型用途として車載用や据置用の電源として開発が進められ、一部は実用化されている。そして使用機器の高性能化、大型化に伴い、特に昨今、バッテリーパックとして複数の電池を直列・並列につなげて使用したり、電極面積を大型化して使用することが一般的になってきており、電池の品質管理要求レベルはますます高まっている。
【0003】
従来、リチウムイオン二次電池の正極としては、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム等の複合酸化物からなる正極活物質と黒鉛やカーボンブラック等の導電剤とを含有してなる組成物を、アルミ箔等の金属箔からなる集電体に被着させてなるものが用いられている。一方、負極としては、黒鉛、ハードカーボン等の炭素質材料やスズ系アモルファス材料、チタン酸リチウム等の複合酸化物からなる負極活物質と黒鉛やカーボンブラック等の導電剤とを含有してなる組成物を、銅箔等の金属箔からなる集電体に被着させてなるものが用いられている。
【0004】
導電剤の役割は、導電性を有しない活物質に導電性を付与すること、充放電時に電極活物質が繰り返し膨張収縮して導電性が損なわれるのを防止することである。そのため、電極において、活物質と導電剤の分散が悪いと、電極内において局所的に導電性の劣る部分が現れ、活物質が有効に利用されずに放電容量が低下し、寿命が短くなる原因となる。
【0005】
そこで導電剤と活物質の均一混合を目的として、特許文献1には凝集しやすいカーボンブラックや黒鉛等の導電剤を有機溶媒中でボールミル、ビーズミルを使用してより微細化する試みが行われている。また、特許文献2には分散剤を使用して高圧ジェットミルで有機溶媒に分散する試みが行われている。一方、特許文献3、4には、活物質と導電剤を乾式で均一混合する手法、活物質表面に導電剤を被覆する手法が試みられている。いずれも特殊な装置による前処理が必要で、前処理時の異物混入や、活物質、導電剤のダメージによる本来の性能の低下、更にはコスト増といった問題があった。
【0006】
また、特許文献5には、アセチレンブラックの物性を制御して導電性、分散性を向上させる試みが行われている。しかしながら、アセチレンブラックの特長であるストラクチャーの発達を抑制するため、導電剤としての本来の役割である導電パスの形成や活物質の膨張収縮の緩衝作用を抑制してしまうため、まだまだ改良の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−144302号公報
【特許文献2】特開2004−281096号公報
【特許文献3】特開2007−220510号公報
【特許文献4】特開2004−14519号公報
【特許文献5】特開2009−35598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、導電性及び分散性に優れた非水系二次電池用カーボンブラックとその電極、非水系二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を進めた結果、カーボンブラックの物性を制御することで分散性、導電性に優れる非水系二次電池用のカーボンブラックを開発した。
(1)JIS K 6217−2法で測定されたBET比表面積が10〜50m/g、JIS K6217−4で測定されたDBP吸収量が140〜200ml/100g、JISK 1469による電気抵抗率が0.15Ωcm以下、硫黄分が50ppm以下、揮発成分が0.1%以下であることを特徴とする非水系二次電池用のカーボンブラック。
(2)前記(1)記載のカーボンブラックの含有量が、カーボンブラックと負極活物質又は正極活物質との合計に対して0.1〜20質量%である、負極活物質又は正極活物質と請求項1記載のカーボンブラックとを含む組成物を集電体に被着させることを特徴とする非水系二次電池の電極。
(3)負極及び/又は正極が、請求項2記載の電極で構成されてなることを特徴とする非水系二次電池。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、導電性及び分散性に優れた非水系二次電池用カーボンブラックとその電極、非水系二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明で使用されるカーボンブラックは、JIS K 6217−2法で測定されたBET比表面積が10〜50m/gである。BET比表面積が10m/g未満だとカーボンブラック同士や活物質等の他添加剤との接触面積が小さくなり十分な導電性が発揮できなくなり、50m/gを超えると塗料の粘度上昇の原因となる。好ましいBET比表面積は15〜45m/gである。
【0012】
本発明で使用されるカーボンブラックは、JISK 6217−4で測定されたDBP吸収量が140〜200ml/100gである。DBP吸収量が140ml/100g未満だとストラクチャーによる導電経路が不十分となり、200ml/100gを超えると塗料の粘度上昇の原因となる。
【0013】
本発明で使用されるカーボンブラックは、JISK 1469による電気抵抗率が0.15Ωcm以下である。電気抵抗率が0.15Ωcmを超えると、電極の極板抵抗が増加し、充放電時の電気エネルギーの熱拡散のため充放電容量の低下につながる。
【0014】
本発明で使用されるカーボンブラックは、硫黄分が50ppm以下である。カーボンブラックが含有している硫黄分は、表面に硫酸基等の酸性官能基として存在しており、硫黄分が50ppmを超えると、カーボンブラックの導電性低下につながるばかりか、電極作製時の塗膜の乾燥工程でSOx等のガス発生により平滑な電極表面が得られず、電池内部で電気化学的な反応でもSOx等のガスを発生して電池性能を劣化させる可能性がある。
【0015】
カーボンブラックに含まれる硫黄分の測定方法は、酸素気流中で燃焼させ発生する燃焼ガスを過酸化水素水に吸収させ、それをイオンクロマトグラフィーで測定することができる。操作方法の一例として、試料1gを磁性ボートに精密にはかり取り、1300℃に昇温した燃焼吸収装置の反応管に挿入する。吸収液(過酸化水素水3.5mlを純水で希釈し1Lとする)を入れた吸収瓶を接続し、酸素ガスを流す。吸収液をイオンクロマトグラフィー分析装置に導入し、硫酸イオンのピーク面積を測定し、予め硫酸イオン標準溶液から作製した検量線を元に、試料中の硫黄の含有率を算出できる。
【0016】
本発明で使用されるカーボンブラックは、JIS K 6221(1982年)法で測定された揮発成分が0.1%以下のものである。カーボンブラックの揮発成分としては、原料由来の未分解品、カーボンブラックの表面官能基等がある。これら揮発成分も上記と同様、極板の平滑性や電池特性に悪影響を及ぼす。揮発成分が0.1%を超えるとその傾向が強く、0.1%以下が好ましい。
【0017】
本発明で使用されるカーボンブラックの製造方法の一例を示す。原料中の硫黄分を除去する工程、カーボンブラックを製造する工程、得られたカーボンブラックから硫黄分を除去する工程からなる。原料中の硫黄分を除去する工程では、吸収塔の塔底から原料ガスを吹き込み、塔頂から1.25〜5N(5〜20wt%)の水酸化ナトリウム水溶液を流下させて原料中の硫黄分を水溶液に吸収させる。カーボンブラックを製造する工程では、硫黄分を除去した原料ガスと酸素ガスを、縦型反応炉(若しくは横型)の炉頂に設置されたノズルから所定の割合で供給し、燃焼反応及び又は熱分解反応によりカーボンブラックを製造し、炉下部に直結されたバグフィルターから捕集する。得られたカーボンブラックから硫黄分を除去する工程では、マッフル炉等の焼成炉を使用し、不活性雰囲気中、又は不活性気流中、1000〜1500℃で1時間以上、加熱処理を行うことで、硫黄分を除去することが出来る。
【0018】
本発明では、ガス状の炭化水素原料として、アセチレン、メタン、エタン、プロパン、エチレン、プロピレン、ブタジエン等のガスを使用することができる。オイル状の炭化水素原料として、ベンゼン、トルエン、キシレン、ガソリン、灯油、軽油、重油等のオイル状炭化水素をガス化したものを使用することができる。
【0019】
カーボンブラックの製造時における炭化水素原料に対する、酸素ガスの割合は、完全燃焼にならない範囲、すなわち炭化水素中の炭素(C)1molに対して、酸素(O2)1mol未満とすることが好ましい。
【0020】
非水系二次電池電極について説明する。電極が負極である場合、その負極活物質としては、各種の炭素質材料が使用される。例えば天然黒鉛、人造黒鉛、グラファイト、活性炭、コークス、ニードルコークス、フリュードコークス、メソフェーズマイクロビーズ、炭素繊維、熱分解炭素などである。一方、電極が正極である場合、正極活物質としては、TiS、MoS、NbSe、V等のリチウムを含有しない金属硫化物、金属酸化物、あるいはLixMO(ただし、式中Mは、一種類以上の遷移金属であり、通常0.05≦x≦1.0である)を主体とするリチウム複合酸化物を使用することができる。具体的には、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム等である。
【0021】
本発明の電極は、例えば、負極活物質又は正極活物質と本発明のカーボンブラックとの混合物を結着剤を含む液体に分散してスラリーを調製し、それを金属箔からなる集電体に塗布・乾燥により被着させることによって製造することができる。この場合において、本発明のカーボンブラックの使用量は、本発明のカーボンブラックと負極活物質又は正極活物質との合計に対して、本発明のカーボンブラックが0.1〜20質量%の含有率であることが好ましい。0.1質量%未満では電極の導電性が不十分となり、導電経路の保持が十分に確保できなくなる。本発明のカーボンブラックの割合が増えるに従って、非水系二次電池の寿命が長くなるが、逆に充放電容量が小さくなるので、両特性のバランスから、その上限は20質量%であることが好ましい。
【0022】
結着剤としては、ポリエチレン、ニトリルゴム、ポリブタジエン、ブチルゴム、ポリスチレン、スチレン・ブタジエンゴム、多硫化ゴム、ニトロセルロース、セチルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、四フッ化エチレン樹脂、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化クロロプレン等が用いられる。
【0023】
集電体としては、特に限定されるものではないが、金、銀、銅、白金、アルミニウム、鉄、ニッケル、クロム、マンガン、鉛、タングステン、チタン等、ないしこれらを主成分とする合金の金属箔が使用される。金属箔の厚みは、薄い方が好ましい。取り扱いの容易さより、正極にはアルミニウムが、負極には銅が好適である。
【0024】
本発明の負極及び正極の少なくとも一方を用いて、本発明の非水系二次電池を作製するには、従来の負極、正極の代わりに、本発明の負極、正極を用いれば良く、特別な配慮は必要としない。
【0025】
電解液としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、γ−ブチルラクトン、N−メチルピロリドン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、ギ酸メチル、スルホラン、オキソゾリドン、塩化チオニル、1,2−ジメトキシエタン、ジエチレンカーボネートやこれらの誘導体等が用いられる。また、電解質としてはリチウムのハロゲン化物、リチウムの過酸化水素塩、リチウムのチオシアン塩、リチウムのホウフッ化塩、リチウムのリンフッ化塩、リチウムのヒ素フッ化塩、リチウムのアルミニウムフッ化塩、リチウムのトリフルオロメチル硫酸塩等が使用される。必要に応じて、セパレーター、端子、絶縁板等の部品が取り付けられる。
【実施例】
【0026】
実施例1〜4 比較例1〜4
トルエンガスと酸素ガスを、反応炉(炉全長6m、炉直径1m)の炉頂に設置されたノズルから供給し、燃焼反応及び又は熱分解反応によりカーボンブラックを製造し、炉下部に直結されたバグフィルターから捕集した。ここで、原料であるトルエンガスの精製(脱硫)は、トルエンガスを120〜150℃に保ったまま吸収塔の塔底から原料ガスを吹き込み、塔頂から5Nの水酸化ナトリウム水溶液(関東化学社製)を流下させて、原料中の硫黄分を水溶液に吸収させた。また、生成したカーボンブラックの精製(脱硫及び揮発成分の除去)作業は、マッフル炉を使用し、窒素雰囲気中、1300℃で5時間処理を行った。以上の方法で製造して得た7種類のカーボンブラックを準備し、以下の物性を測定した(実施例1〜3 比較例1〜4)。また、トルエンガスの代わりにベンゼンガスを用いて同様の方法でカーボンブラックを製造し、以下の物性を測定した(実施例4)。それらの結果を表1に示す。
(1)BET比表面積:JIS K 6217−2に従い測定した。
(2)DBP吸収量:JIS K 6217−4に従い測定した。
(3)電気抵抗率:JIS K 1469に従い測定した。
(4)硫黄分:試料1gを磁性ボートに精密にはかり取り、1300℃に昇温した燃焼吸収装置の反応管に挿入した。吸収液(過酸化水素水3.5mlを純水で希釈し1Lとする)を入れた吸収瓶を接続し、酸素ガスを流し、燃焼ガスを吸収瓶に通した。得られた吸収液をイオンクロマトグラフィー分析装置に導入し、硫酸イオンのピーク面積を測定し、予め硫酸イオン標準溶液から作製した検量線を元に、試料中の硫黄の含有率を算出した。
(5)揮発成分:JIS K 6221(1982年)に従い測定した。
【0027】
(6)NMPへの分散性
マイクロトラック(日機装社製、MT3300)を使用して、溶媒にNMP(=N−メチルピロリドン、Aldrich製)を用いて、カーボンブラックの粒度分布を測定し、粒度(D50)を求めた。
【0028】
正極活物質のLiFePO(Phostech社製、一次粒子径500nm)81質量%と、カーボンブラック9質量%、結着剤のPVDF(クレハ社製、KFポリマー)10質量%とを混合し混合物(=合剤)とした。溶媒としてNMPを添加し、プラネタリーミキサーを用いて、2000rpmで15分間混合し、合剤スラリーとした。この合剤スラリーのB型粘度計での粘度測定値が、10000mPa・sとなる様にNMP量を調整し、その時のNMP量と合剤量から、合剤の固形分濃度を算出した。
【0029】
この合剤スラリーを、厚さ20μmのアルミニウム箔(集電体)に塗布・乾燥、その後、プレス、裁断して正極を作製した。正極の塗膜の状態を目視観察し、◎:平滑で良好、○:普通、△:剥離有り不良、にて判断した。正極の表面抵抗はJIS K 7194に準じて、ダイアインスツルメンツ社製「ロレスタGP」でTFPプローブを用いて測定した。表面抵抗は1サンプルについて9カ所測定し、その平均値を求めると同時に、最大値、最小値からバラツキの割合を算出した。
【0030】
対極として金属リチウムを用い、エチレンカーボネート/ジメチルカーボネートを1/1の容積比で混合した溶液に、過塩素酸リチウム1モル濃度を溶解させたものを電解液としてコイン形電池(CR2032)を作製した。
【0031】
電池の放電試験として、電池を初充電後、充放電効率が100%近傍になるのを確認後、0.7mA/cmの電流密度にて定電流放電を2.1Vまで行った際の放電容量を測定し、正極活物質で除した容量密度(mAh/g)を算出した。この容量(mAh/g)を1時間で充放電可能な電流値を「1C」とした。レート特性は、4.1V(0.2C定電流)で充電し、0.2C、3Cで放電した際の放電容量を求め、0.2Cの放電容量に対する3Cの放電容量の比(%)をレート特性(容量維持率)とした。サイクル特性は、3Cで充放電を繰り返し、1サイクル目における放電容量に対する150サイクル目の放電容量の比(%)をサイクル特性(容量維持率)とした。
【0032】
【表1】

【0033】
表1から、本発明の実施例によって得られたカーボンブラックは、比較例に比べて硫黄分、揮発成分が抑制されており、NMPへの分散性、電池評価結果も良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のカーボンブラックは導電性及び分散性に優れた非水系二次電池用カーボンブラックであり、電池性能の優れた電極、非水系二次電池を得ることができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
JIS K 6217−2法で測定されたBET比表面積が10〜50m/g、JIS K 6217−4で測定されたDBP吸収量が140〜200ml/100g、JISK 1469による電気抵抗率が0.15Ωcm以下、硫黄分が50ppm以下、揮発成分が0.1%以下であることを特徴とする非水系二次電池用のカーボンブラック。
【請求項2】
請求項1記載のカーボンブラックの含有量が、カーボンブラックと負極活物質又は正極活物質との合計に対して0.1〜20質量%である、負極活物質又は正極活物質と請求項1記載のカーボンブラックとを含む組成物を集電体に被着させることを特徴とする非水系二次電池の電極。
【請求項3】
負極及び/又は正極が、請求項2記載の電極で構成されてなることを特徴とする非水系二次電池。


【公開番号】特開2012−221684(P2012−221684A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85376(P2011−85376)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】