説明

非水系溶液の測定方法および測定装置

【課題】フッ化物を含有する非水系溶液中のフッ化水素酸を、簡便な操作および装置により精度良く測定する。
【解決手段】フッ化水素酸を含有する非水系溶液中に含ケイ素化合物を添加し、フッ化水素酸と含ケイ素化合物とを反応させる工程S102と、フッ化水素酸と反応した反応化合物の量を測定する工程S112と、S112で測定された反応化合物の量に基づいて非水系溶液中のフッ化水素酸量を算出する工程S114と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系溶液の測定方法および測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯用電子機器や電気自動車等の電源の一つとして、リチウムイオン二次電池が知られている。一般に、リチウムイオン二次電池には、例えば六フッ化リン酸リチウム(LiPF)や四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)等の含フッ素化合物を含む電解質などを、EC(エチレンカーボネート)、PC(プロピレンカーボネート)、DEC(ジエチルカーボネート)など、適当な非水系溶媒に溶解させた非水系電解質溶液が用いられている。
【0003】
このような非水系電解質溶液などの、含フッ素化合物を含有する非水系溶液に水分が混入すると、含フッ素化合物と水が反応し、フッ化水素酸(HF)が生成する。フッ化水素酸には一般に、集電体の腐食など、電極等を劣化させる性質があるため、リチウムイオン二次電池用電解液中におけるHFの生成は、電池寿命に重大な影響を及ぼす要因の一つであるとされている。
【0004】
リチウムイオン二次電池用電解液のこのような性質を利用して、つまり、非水系溶液中に含有するフッ化水素酸量を測定することにより、例えばリチウムイオン二次電池用電解液の水分混入に伴う劣化の程度や、リチウムイオン二次電池への使用の可否などを評価することが可能となる。
【0005】
例えば特許文献1には、リチウムイオン電池用電解液中に特定のラジカルを加え、加水分解することで生じたフッ素量を定量し、良否を判定する検査方法について記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開2001−250587号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された検査方法は、例えば工程管理など、簡易的な検査に対しては好適である場合も想定されるが、該検査方法によれば、フッ化水素酸のみならず、加水分解により生成したフッ化リチウム(LiF)など、フッ化水素酸とは異なる他のフッ化物の影響を受けて誤差を生じてしまい、フッ化水素酸量のみを正確に求めることが困難な場合が有り得る。
【0008】
本発明は、非水系溶液中に含有するフッ化水素酸の量を高精度に測定することが可能となる測定方法、およびこの方法を適用し得る測定装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の構成は以下のとおりである。
【0010】
(1)フッ化水素酸を含有する非水系溶液中に含ケイ素化合物を添加し、前記フッ化水素酸と前記含ケイ素化合物との反応生成物を形成させる工程と、前記反応生成物の量を測定する工程と、測定した前記反応生成物の量に基づいて前記非水系溶液中のフッ化水素酸量を算出する工程と、を含む、非水系溶液の測定方法。
【0011】
(2)上記(1)に記載の測定方法において、前記非水系溶液が、リチウムイオン二次電池用電解液である、測定方法。
【0012】
(3)上記(1)または(2)に記載の測定方法において、前記含ケイ素化合物が、二酸化ケイ素またはシリカゲルである、測定方法。
【0013】
(4)上記(1)から(3)のいずれか1つに記載の測定方法において、前記反応生成物の量を測定する工程が、誘導結合プラズマ発光分光分析法を適用する工程を含む、測定方法。
【0014】
(5)フッ化水素酸を含有する非水系溶液中に含ケイ素化合物を添加する含ケイ素化合物添加手段と、前記フッ化水素酸と前記含ケイ素化合物とを反応させる反応手段と、前記フッ化水素酸と前記含ケイ素化合物の反応により生成した反応生成物の量を測定する測定手段と、を備える、非水系溶液の測定装置。
【0015】
(6)上記(5)に記載の測定装置において、前記測定手段により得られた前記反応生成物の量に基づいて前記非水系溶液中のフッ化水素酸量を算出する算出手段をさらに備える、測定装置。
【0016】
(7)上記(5)または(6)に記載の測定装置において、前記非水系溶液が、リチウムイオン二次電池用電解液である、測定装置。
【0017】
(8)上記(5)から(7)のいずれか1つに記載の測定装置において、前記含ケイ素化合物が、二酸化ケイ素またはシリカゲルである、測定装置。
【0018】
(9)上記(5)から(8)のいずれか1つに記載の測定装置において、前記測定手段が、誘導結合プラズマ発光分光分析装置を含む、測定装置。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、非水系溶液中に含有するフッ化水素酸を、精度良く測定または定量することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。なお、各図面において、同様の構成には同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0021】
図1は、本発明の実施の形態における非水系溶媒の測定装置の構成の一例を示す概略図である。
【0022】
図1において、測定装置50は、含ケイ素化合物添加部14と、反応部16とを有する反応手段12と、測定部20とを備えている。
【0023】
反応手段12において、含ケイ素化合物添加部14は、反応部16に送られた所定量の非水系溶液(以下、電解液または試料とも称する)10に含ケイ素化合物を添加する。フッ化水素を含有する非水系溶液10に含ケイ素化合物が添加されると、フッ化水素酸と含ケイ素化合物とが反応した反応生成物が得られる。このとき、非水系溶液10に含有するフッ化水素酸に対し、含ケイ素化合物を過剰に添加し、非水系溶液10に含有するフッ化水素酸を完全に反応させることが好適である。
【0024】
本実施の形態において、添加した含ケイ素化合物の流動性を向上させるために、必要に応じて、既知量の非水溶媒を添加し、希釈することも好適である。このような非水溶媒として、例えば無水の、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類などが好適に用いられるが、これに限らず、例えば、被験試料である非水系溶液10に用いられる溶媒と同様のものであっても良い。
【0025】
また、本実施の形態において、フッ化水素酸と含ケイ素化合物との反応を促進させるために、反応部16またはその近傍に、必要に応じて振とう機構や超音波発生機構などを設けても良い。また、フッ化水素酸と含ケイ素化合物との反応性が低い場合や、含ケイ素化合物の流動性が低い場合には、例えば撹拌子(回転子)などの撹拌機構を適用して撹拌を行なうことも好適である。
【0026】
非水系溶液10に含まれるフッ化水素酸を含ケイ素化合物と反応させて得られる、反応生成物を含む反応液は、必要に応じて、固形分除去部18にて処理が行なわれ、未反応の含ケイ素化合物を含む固形分が除去される。本実施の形態において、固形分除去部18は、後述する測定部20に対し異物となる固形分の導入を防止することが可能なものであればいかなる構成であっても良い。固形分除去部18は、例えば、ろ過または吸着などにより、不溶成分を除去する構成とすることができるが、必ずしも完全に固液分離させる構成でなくても良く、例えば静置による沈降であっても良い。また、例えば非水系溶液10に対し、添加する含ケイ素化合物の比重が十分大きく、速やかに沈降する場合には、固形分除去部18を省略することも可能である。また、固形分除去部18は、測定装置50に常設しておいても良く、または測定装置50とは別体として所望のときにのみ用いる構成としても良い。
【0027】
本発明の実施の形態において、非水系溶液10中に含有するフッ化水素酸と含ケイ素化合物とが反応手段12で反応し、得られる反応生成物が、反応液中に完全には溶存せず、例えば過剰添加された含ケイ素化合物などの固形物に対して吸着するなど、固相から分取出来ないような場合には、後述する測定部20での測定において、誤差が生じる場合が有り、好ましくない。かかる場合には、固形分除去部18での処理および/または測定部20への導入の前に、前処理、すなわち、酸処理手段24による処理が好適に行なわれる。
【0028】
本実施の形態において、酸処理手段24は、酸添加部26と、反応部28とを備える。酸添加部26は、反応部28に送られた、反応組成物を含む固形物を含有する反応液に対し、例えば硫酸などの酸溶液を添加し、反応生成物を固相から脱離させる。なお、フッ化水素酸と反応した反応生成物が、反応液中には残存しておらず、過剰量の含ケイ素化合物と吸着している場合には、酸処理手段24による酸処理に先立って、ろ別部22により含ケイ素化合物およびフッ化水素酸との反応生成物を含む固形物をろ別することも好適である。本実施の形態によれば、反応部28による反応を効率化することができるだけでなく、酸添加部26による酸添加量を少なくすることが可能となり、好適である。
【0029】
非水系溶液10に含ケイ素化合物を添加し、含有するフッ化水素酸と反応させた反応液、またはこれを酸処理した酸処理液は、測定部20にて測定される。測定部20は、反応液(酸処理液)中に溶存する、フッ化水素酸と反応して得られた反応生成物の量を直接的または間接的に測定することにより、非水系溶液10中に含有する各種のフッ化物の中でも、フッ化水素酸に由来する成分のみを選択的に定量することができる。なお、非水系溶液10中に含有するフッ化水素酸に由来する反応生成物の量の、より精度の高い測定を希望する場合には、非水系溶液10の質量を精秤した後、速やかに反応、測定を行なうことが好ましい。またこのとき、必要に応じて、測定部20に導入する前に、例えば得られた溶液に適切な非水溶媒(例えば、無水の、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類など)を加えて定容とする処理(メスアップ)を施し、濃度調整を行なっても良い。
【0030】
図1に示す測定部20として、例えば誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP−AES)、ICP質量分析装置(ICP−MS)、イオンクロマトグラフィ(IC)法を適用したイオンクロマトグラフなどが好適に用いられるが、分析感度や測定精度の観点から、ICP−AESがより好適である。
【0031】
測定部20により得られた、フッ化水素酸に由来する反応生成物の量に基づいて、フッ化水素酸の含有量を算出することができる。このとき、図1に示す算出部30により非水系溶液10中のフッ化水素酸の含有量を算出させることも好適である。本実施の形態において、図示しないデータ処理部を例えば図1に示す算出部30の内部またはその近傍に設けて、非水系溶液10の秤量値および測定部20により得られた反応生成物の量から、非水系溶液10中のフッ化水素酸の含有量を自動的に算出可能とする構成とすることも好適である。なお、ここでいうフッ化水素酸の含有量とは、測定装置50において測定に供した非水系溶液10中の絶対量であっても、また非水系溶液10中の含有濃度であっても良く、必要に応じて適宜設定することが可能である。
【0032】
測定装置50により得られた非水系溶液10中のフッ化水素酸の含有量の値は、例えば、非水系溶液10の劣化状態の評価や、使用適否の判定など、必要に応じてさまざまな場面に適用することができる。
【0033】
本実施の形態において、測定装置50内の、少なくとも非水系溶液10およびその反応溶液等に曝される部位については、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の樹脂材料を好適に使用することができるが、フッ化水素酸等の各物質に対する耐久性の高い材料であればこれに限定されない。
【0034】
本発明の実施の形態において、図1に示す測定装置50は、含ケイ素化合物添加部14より添加される含ケイ素化合物の種類に応じて反応液の流路を変更可能とする弁32を設けても良く、また、別の実施の形態として、ろ別部22および酸処理手段24を測定装置50から必要に応じて脱着させる構成とすることも可能であり、その態様に制限はない。
【0035】
図2は、本発明の実施の形態における非水系溶液の測定方法の概略を例示するフローチャートである。
【0036】
まずステップS100において、試料である非水系溶液を秤量する。本実施の形態において好適に適用することの可能な非水系溶液は、フッ化水素酸を含有する、または含有するおそれのある非水系溶液である。例えば、製造当初には含有していないが、環境中などの水分が混入することにより、例えばPFなどのフッ素系電解質の一部が加水分解し、生成したフッ化水素酸を含有する場合があるリチウムイオン二次電池用電解液などが挙げられるが、これに限らず、例えば、電気二重層キャパシタ用電解液なども適用可能である。なお、試料は、必ずしも溶液として調製または保管されているものでなくても良く、例えば充填されたリチウムイオン二次電池から必要量の電解質溶液を採取し、これを試料とすることも可能である。
【0037】
ステップS100において、一回の測定に使用する試料は一般に少量で良く、例えば1〜10g程度で適宜設定することが可能であるが、測定する含有成分量や要求される測定精度、測定機器の感度などにより、適宜はかり取り量を設定することができる。なお、質量比で数十から数百ppm程度のフッ化水素を含有する非水系溶液を測定試料とする場合を例に挙げると、好適には1g程度の試料で測定に供することが可能である。ステップS100の秤量は、以下に示すステップS102の操作を行なう容器(反応容器)上で直接行っても、一旦適当な容器で秤量したものをS102の操作を行なう反応容器内に移し入れても良い。また、含有濃度を測定する場合には、秤量に代えてホールピペットなどの定容分析機器を用い、例えば、1mLや10mLなど、一定容量をはかり取り、これを反応容器に移し入れ、必要に応じてさらにこれを精秤する態様であっても良い。
【0038】
次に、ステップS102にすすみ、含ケイ素化合物の添加処理を行なう。本実施の形態において、添加する含ケイ素化合物としては、フッ化水素酸に対しては高い反応性を有している一方、例えばフッ化リチウムなど、他のフッ化物とは容易に反応しないものが好適であり、例えば、二酸化ケイ素(シリカまたは無水ケイ酸とも称する)やシリカゲルなどが挙げられる。
【0039】
ステップS102において、フッ化水素酸を含有する非水系溶液中に添加した含ケイ素化合物は、フッ化水素酸と選択的に反応し、反応生成物が生成する。この反応を速やかに、また非水系溶液中のフッ化水素酸を完全に反応させるために、超音波洗浄器などの超音波発生機構や、振とう器、撹拌子などの使用、さらには飛散や揮発を防止するために必要に応じて蓋などを設けた閉容器内で処理することも好適である。非水系溶液中に含有するフッ化水素酸を含ケイ素化合物と確実に反応させるためには、含有するフッ化水素酸に対し含ケイ素化合物を少なくとも当量となるように添加する必要があり、また含ケイ素化合物を過剰量添加することが好ましい。
【0040】
また、本実施の形態において、固体である含ケイ素化合物を添加した場合においても、溶液の流動性がある程度確保できることが好ましく、試料の質量1に対し例えば1〜10倍程度の含ケイ素化合物の添加にとどめることが好ましいが、これに限定されるものではない。なお、非水系溶液に含有するフッ化水素酸の濃度が高く、予め非水系溶液を希釈する必要がある場合や、含ケイ素化合物添加後の反応液の適切な流動性を確保するため等、必要に応じて、フッ化水素酸を含む非水系溶液に対し反応性を有しない、例えば無水のアルコール類や、非水系溶液に用いられる溶媒と同様の、非水系溶媒などを希釈液として用いることも好適である。
【0041】
ステップS102において、目視にて反応終了を確認することは一般に困難である場合も少なくない。そこで、例えば事前に予備試験を行なうことにより、予め反応所要時間を設定しておき、この時間の経過をもって反応終了とみなすことができる。より具体的には、10〜60分間程度、より具体的には、30分間程度を反応所要時間とすることができるが、これに限定されない。
【0042】
次に、ステップS104にすすみ、次に行なう工程につき判断する。ここでは、ステップS102において生成した反応生成物の組成に応じて、異なる操作を行なう。
【0043】
本実施の形態において、フッ化水素酸と含ケイ素化合物との反応により得られた反応生成物が、反応液の液相中に溶存している場合には、ステップS110にすすむ。このような反応生成物を形成する含ケイ素化合物として、例えば二酸化ケイ素などが挙げられる。
【0044】
一方、ステップS102において得られた反応生成物が反応液の液相中に溶解しない、または液相中に少なくとも完全には溶存していない場合には、ステップS106にすすむ。このような反応生成物を形成する含ケイ素化合物として、例えばシリカゲルなどが挙げられる。
【0045】
ステップS106では、ステップS108の前工程として、ろ別処理を行なう。つまり、過剰量の含ケイ素化合物とともに反応液中に含有する反応生成物が液相中に溶存せず、含ケイ素化合物等の固形物と分取できない場合には、ろ別してろ液を除去する。ステップS106において、例えばろ紙やメンブランフィルタなど、通常ろ過材として用い得るものであればあらゆるものをろ別処理に使用しても良い。ただし、少なくともフッ化水素酸を含み、反応液中に含有するおそれのある、あらゆる成分に対し耐久性を有することが必要であり、また使用するろ過材としては、ステップS102において使用した含ケイ素化合物が、ろ液中に漏出しないものが選択される。なお、反応生成物の一部が液相中に溶存している可能性がある場合には、ステップS106を省略し、含ケイ素化合物等の固形物を含む反応液全体を次のステップに供することも可能である。
【0046】
ステップS106において、反応液中より固層がろ別された後の残渣、またはステップS106が省略された反応液は、ステップS108に供される。ステップS108では、酸処理が行なわれ、含ケイ素化合物等の固形物とは容易に分取できない反応生成物を、液相中に溶解可能とすることにより、固相から脱離させる。酸処理には、例えば適当な濃度に希釈した希硫酸や希塩酸などを好適に用いることが可能であるが、これに限定されない。反応生成物を固相から脱離させ、液相中に溶解させるものであればいかなる酸を用いても良く、酸濃度についても特に限定されるものではないが、例えば希硫酸の場合には、10〜50mg/L程度となるように調製することも可能である。
【0047】
ステップS108において、固相中に含まれる反応生成物は、酸処理により脱離し、または液相溶解性のケイ素−フッ素化合物を形成し、処理液中の液相に溶解する。
【0048】
含ケイ素化合物の添加(ステップS102)により生成した反応生成物が液相中に溶存している反応液や、酸の添加(ステップS108)により得られた、液相溶解性のケイ素−フッ素化合物が液相中に溶存している処理液は、ステップS110に供される。ステップS110では、ステップS112における測定に不要であって、かつ測定の妨げとなる固形分を除去する。ステップS110における固形分の除去は、ろ紙やメンブランフィルタなど、一般にろ過材として用いられるものによるものであっても、単に所定時間の容器の静置による沈降であっても良く、その方法に制限はない。また、後述するステップS112に供される反応液/処理液を導入する導入部分に備えられたものによる処理もステップS110に含まれて良い。なお、沈降速度が速いなどの理由により、反応液/処理液中の固形分と液相とが容易に分離可能であり、かつ定容処理などの後工程が不要である場合には、ステップS110は省略することも可能である。
【0049】
ここで、含ケイ素化合物としてシリカゲルを使用した場合の、図2に示すステップS100〜ステップS110に相当する、試料中のフッ化水素酸量の測定方法について、より具体的に例示するが、本実施の形態に何ら限定されないことは言うまでもない。なお、本実施の形態において、特に断りのない限り、「部」および「%」はいずれも質量基準である。
【0050】
まず、試料約1容量部を精秤し、例えばPE製などの適当な密封容器に入れる(図2のステップS100に相当)。次に、シリカゲル(例えば、シリカゲル(60)(カラムクロマト用シリカゲル(商品名)、ナカライテスク社製)を使用することができる)5部とエタノール(ナカライテスク社製)20容量部とを加えて蓋をし、室温にて約30分間、マグネティックスターラを用いて撹拌し(回転数300rpm)、試料中に含有するフッ化水素酸を完全に反応させる(同ステップS102に相当)。なおここでは、シリカゲル中のSiとフッ化水素酸とが反応し、Si−F結合を有する物質が生成している/SiF、HSiFが生成し、シリカゲルに吸着している、のうち少なくともいずれか一方の状態でシリカゲルと反応生成物とが共存していると考えられる。
【0051】
ここで、未反応のシリカゲルを含む反応液中の固形分を10分間沈降させた後、ろ紙(5B)を用いてろ過し、室温にて30分間乾燥させることができる(同ステップS106に相当)。
【0052】
固形分を沈降させた反応液またはろ別した後に乾燥させた固形分を再びPE製の反応容器に移したものに希硫酸溶液(例えば、96%硫酸試薬(ナカライテスク社製)を脱イオン水にて希釈し、25mg/Lとしたものを使用することができる)を20容量部添加し、マグネティックスターラを用いて30分間撹拌し(回転数300rpm程度)、固形分に吸着した反応生成物を脱離させることができる(同ステップS108に相当)。なおここでは、シリカゲルに対し反応/吸着していた反応化合物が脱離し、SiF、HSiFなどのケイ素−フッ素化合物が溶液中に溶存していると考えられる。
【0053】
次に、ステップS110に相当する操作として、数分間(具体的には、1〜5分間程度とすることができる)静置させてシリカゲルを沈降させることができる。また、沈降が不十分な場合には、ろ紙(5B)などを用いてろ過することも好適である。
【0054】
以上のようにして、ステップS110を終えた、またはステップS110が省略された反応液/処理液は、測定工程に供される(ステップS112に相当)。
【0055】
ステップS112において、反応液の液相中の反応生成物の量、または酸処理液の液相中に溶存するケイ素−フッ素化合物の量、を測定することにより、非水系溶液10中に含有する各種のフッ化物の中でも、フッ化水素酸に由来する化合物のみを測定することができる。なお、非水系溶液10中に含有するフッ化水素酸量の、より精度の高い測定を希望する場合には、非水系溶液10の質量を精秤した後、速やかに反応、測定を行なうことが好ましい。またこのとき、必要に応じて、測定部20に導入する前に、例えば得られた溶液に適切な溶媒を加えて定容とする処理(メスアップ)を施し、濃度調整を行なっても良い。このとき用いられる溶媒として、例えば、無水の、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類などを好適に用いることが可能であるが、場合によっては脱イオン水であっても良い。
【0056】
ステップS112において、例えばICP−AES、ICP−MS、IC法を適用したイオンクロマトグラフなどを好適に使用することが可能である。また、ステップS112の実施に際し、必要に応じて、例えば検量線作成用の標準液など、適用する測定方法に応じた、適切な試薬が準備・調製される。なお、かかる装置のいずれを適用する場合であっても、被験試料の導入部など、少なくとも反応液および/または酸処理液と接触する可能性のある箇所については、図2に示すS100〜S110の各ステップにおいて用いられる反応容器等の各器具と同様、該被験試料やフッ化水素酸に対する耐久性が必要である。
【0057】
ステップS112により得られた、フッ化水素酸に由来する反応生成物/液相溶解性ケイ素−フッ素化合物の測定値に基づいて、非水系溶液中のフッ化水素酸の含有量を算出することができる(ステップS114に相当)。このとき、必要に応じて、ステップS100における試料の秤量値を用いることも好適である。ステップS114において、非水系溶液中のフッ化水素酸の含有量の算出は、ステップS112において用いられる測定装置に備えられた算出部により自動的に行なうものであっても、作成した検量線に基づいて算出するものであっても良く、その構成は問わない。なお、ここでいうフッ化水素酸の含有量とは、非水系溶液10中の絶対量であっても含有濃度であっても良く、必要とする値に応じて適宜設定することが可能である。
【0058】
このように、図2のステップS100〜ステップS114に示す測定方法によれば、電解液などの非水系溶液中に複数のフッ化物が含まれる場合であっても、フッ化水素酸のみと選択的に反応する含ケイ素化合物を添加・反応させ、得られた反応生成物の量を直接的または溶解性ケイ素−フッ素化合物として間接的に測定することにより、非水系溶液中に含有するフッ化水素酸の量を精度良く測定することが可能となる。
【実施例】
【0059】
<試料および試薬>
実施例において使用する試料および試薬について、以下に示す。なお、特に断りのない限り、「部」および「%」はいずれも質量基準であり、各処理工程における環境条件はいずれも、室温24〜26℃、相対湿度50〜60%である。
【0060】
測定試料として、エチレンカーボネートを主とする電解液に六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を1mol/Lの濃度となるように溶解させたリチウムイオン二次電池用電解液を、各種条件下にて保管したものを用いた。使用した測定試料(試料1〜4)の保管条件について表1にまとめた。
【0061】
【表1】

【0062】
含ケイ素化合物の一つとして、二酸化ケイ素(高純度化合物 SiO(商品名)、レアメタリック社製、純度99.99%)を使用した。
【0063】
[実施例1]
図2に示した方法に従って、表1に示した各測定試料を処理し、各試料中のフッ化水素酸含有量を定量した。
【0064】
試料約1容量部を精秤し、用意したポリエチレン製の容器に入れた(図2のステップS100に相当)。次に、二酸化ケイ素0.01部を加え、室温にて約30分間、超音波洗浄器を用いて超音波振動を付加し、試料中に含有するフッ化水素酸を完全に反応させた(同ステップS102に相当)。なおここでは、二酸化ケイ素とフッ化水素酸とが電解液中で反応し、SiFおよびHSiFが生成していると考えられる。
【0065】
次に、ステップS110に相当する操作として、数分間(具体的には、2〜5分間程度)静置させて二酸化ケイ素を沈降させた。
【0066】
次に、ステップS112に相当する操作として、ICP発光分光分析装置(ICP-S8100、島津製作所製)を用いて、反応液に溶存するケイ素量の分析を行なった。なお、測定条件、検量線溶液の作製方法は以下の通りである。
【0067】
<測定条件>
高周波出力 :1.6kW
観測高さ :15cm
積分時間 :15秒×3
アルゴンガス量:冷却用 16L/分、補助 1.5L/分、キャリア 0.7L/分
定量法 :検量線法
分析波長 : 251.61nm (Si)。
【0068】
<検量線溶液の作製>
市販の0.1mol/Lフッ化水素酸(ナカライテスク社製)を、濃度が段階的となるよう、所定量(ここでは0〜0.5mL)はかり取り、これに過剰量の二酸化ケイ素(0.01部)を加え、あとは実施例1と同様の操作を実施し、検量線溶液とした。
【0069】
上記検量線溶液の、ICP発光分光分析装置による測定結果に基づいて得られた、フッ化水素酸濃度(単位:ppm)と、ICP測定による発光強度との関係を図3に示す。図3に示すように、得られた検量線の相関係数Rは、0.9991であり、良好な直線性を有する結果が得られた。
【0070】
表1に示す各試料につき2回ずつ、同様の操作を行ない、各試料中のフッ化水素酸の含有量を算出した。結果を表2に示す。
【0071】
【表2】

【0072】
表2によれば、各試料につき、2つの測定値の間に誤差はほとんどなく、良好な測定結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、リチウムイオン二次電池用電解質に限らず、フッ化水素酸を含有する非水系溶液の測定に利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の実施の形態における非水系溶液の測定装置の構成の概略を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態における非水系溶液の測定方法を例示するフローチャートである。
【図3】フッ化水素酸濃度とICP−AESによる発光強度との関係を表す検量線を示すグラフの一例である。
【符号の説明】
【0075】
10 非水系溶液、12 反応手段、14 含ケイ素化合物添加部、16 反応部、18 固形分除去部、20 測定部、22 ろ別部、24 酸処理手段、26 酸添加部、28 反応部、30 算出部、32 弁、50 測定装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化水素酸を含有する非水系溶液中に含ケイ素化合物を添加し、前記フッ化水素酸と前記含ケイ素化合物との反応生成物を形成させる工程と、
前記反応生成物の量を測定する工程と、
測定した前記反応生成物の量に基づいて前記非水系溶液中のフッ化水素酸量を算出する工程と、
を含むことを特徴とする非水系溶液の測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の測定方法において、
前記非水系溶液が、リチウムイオン二次電池用電解液であることを特徴とする測定方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の測定方法において、
前記含ケイ素化合物が、二酸化ケイ素またはシリカゲルであることを特徴とする測定方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の測定方法において、
前記反応生成物の量を測定する工程が、誘導結合プラズマ発光分光分析法を適用する工程を含むことを特徴とする測定方法。
【請求項5】
フッ化水素酸を含有する非水系溶液中に含ケイ素化合物を添加する含ケイ素化合物添加手段と、
前記フッ化水素酸と前記含ケイ素化合物とを反応させる反応手段と、
前記フッ化水素酸と前記含ケイ素化合物の反応により生成した反応生成物の量を測定する測定手段と、
を備えることを特徴とする非水系溶液の測定装置。
【請求項6】
請求項5に記載の測定装置において、
前記測定手段により得られた前記反応生成物の量に基づいて前記非水系溶液中のフッ化水素酸量を算出する算出手段をさらに備えることを特徴とする測定装置。
【請求項7】
請求項5または6に記載の測定装置において、
前記非水系溶液が、リチウムイオン二次電池用電解液であることを特徴とする測定装置。
【請求項8】
請求項5から7のいずれか1項に記載の測定装置において、
前記含ケイ素化合物が、二酸化ケイ素またはシリカゲルであることを特徴とする測定装置。
【請求項9】
請求項5から8のいずれか1項に記載の測定装置において、
前記測定手段が、誘導結合プラズマ発光分光分析装置を含むことを特徴とする測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−54353(P2009−54353A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−218320(P2007−218320)
【出願日】平成19年8月24日(2007.8.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】