説明

非特異的相互作用抑制剤及びその診断測定系への応用

【課題】抗原-抗体反応を利用した診断薬などにおいて、固相である磁性微粒子に対する非特異的な反応などに起因して陰性と判定されるべき検体が、誤って陽性と判定される偽陽性の問題を減少させる技術の提供。
【解決手段】抗原-抗体反応を利用した診断薬で問題となる非特異反応を効果的に抑制し、偽陽性を低減させる蛋白質・ポリマー・塩類、あるいはそれらの組み合わせからなる非特異反応抑制剤を利用することで、免疫診断薬などにおける偽陽性を低減させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非特異的相互作用抑制剤及びその診断測定系への応用に関する。特には、本発明は、非特異的相互作用抑制剤を添加剤としたPIVKA-II測定系診断薬への応用技術に関する。本発明は、抗体固相化磁性粒子を免疫測定試薬として使用して免疫測定する場合に、血清、又は血漿など血液検体試料中の異常蛋白質の検出に際し問題となる非特異反応を効果的に抑制し、偽陽性を低減させる、蛋白質・ポリマー・塩類、あるいはそれらの組み合わせからなる非特異反応抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ビタミンK依存性血液凝固因子である第II、VII、IX、X因子などは、いずれも肝臓で合成される。すなわち、ビタミンK依存性血液凝固因子は、還元型ビタミンKとビタミンK依存性カルボキシラーゼの存在下、それらの生合成の最終段階において、前駆体分子のアミノ末端側にあるグルタミン酸(Glu)残基が、γ-カルボキシグルタミン酸(Gla)残基に変換され、正常な機能をもった糖蛋白となる。ビタミンK依存性血液凝固因子は、このGla残基を有するGalドメインを利用してカルシウムイオン(Ca2+)と結合することが可能となり、血中で凝血作用を発現する。一方、ビタミンK欠乏症、腸管閉塞、ワーファリン投与や肝臓癌などの状態では正常なビタミンK依存性凝固因子のγ-カルボキシル化が障害され、血液凝固活性を有さない異常蛋白、PIVKA(protein induced by vitamin K absence or antagonist)が血中に放出される。PIVKAは、生体膜上において補助因子の役割を果たす他の凝固因子とCa2+を介した複合体形成ができないため、抗凝血作用や抗血栓作用を示す。
【0003】
血液凝固第II因子、プロトロンビンの異常蛋白であるPIVKA-II、別名DCP (des-γ-carboxy prothrombin)量は、肝硬変、慢性肝炎、急性肝炎、劇症肝炎、アルコール性障害、肝内胆汁鬱滞、原発性胆汁性肝硬変、閉塞性黄疸で増加する。1984年にLiebman等は、肝細胞癌患者の血中でPIVKA-IIが高率に出現することを報告した〔非特許文献1〕。現在では、肝臓細胞癌(胆管細胞癌や転移性肝癌などの悪性腫瘍)で、腫瘍径が大きくなるに連れてPIVKA-II量は、高値を示す傾向があり、数値が大きいほど予後が悪いために、肝癌の診断や予後を判定する上でαフェトプロテイン(AFP)と併用される重要なバイオマーカーとなっている。
【0004】
一方、免疫学的測定法における偽陽性シグナルの存在は古くから知られ、その原因として、標識物質と特異的に反応する、検体中の非目的物質の固相表面への非特異的な結合が知られている。従来は、固相表面を蛋白質やポリマーなどのオーバーコート物質で覆うなどの方策が採られていたが、十分とは言えなかった。
血液、血清、血漿などのヒト検体中の特異抗原やバイオマーカーを測定することは、ウイルス、感染性細菌・原虫あるいは寄生性生物などによる感染の有無や悪性腫瘍、脳血管障害、臓器不全などの各種疾患を判定する意味から非常に重要となっている。こうした抗原抗体反応を利用する測定において、陰性と判定されるべき検体が誤って陽性と判定される(以下、「偽陽性」)ことは、大きな問題となるために、様々な非特異反応抑制剤、免疫測定試薬、及び、免疫測定方法が提案されている〔特許文献1〜4〕。
【0005】
正常型であるプロトロンビンとPIVKA-IIとの蛋白質化学的な相違点は、アミノ末端側にあるγ-カルボキシグルタミン酸(Gla)ドメイン内に、カルボキシル基が付加したグルタミン酸(Glu)残基、すなわちγ-カルボキシグルタミン酸(Gla)残基のみが存在するか、あるいはカルボキシル基の付加していないGlu残基が認められるかにある。その相違点は化学的に僅かであり、また、その領域も狭い範囲であることから、抗原抗体反応を利用するPIVKA-II測定系の開発では、固相表面、標識に用いられる両抗体をともにPIVKA-II特異的なものにすることは難しい。通常、固相表面にはPIVKA-IIに特異的な抗体を利用するが、標識抗体としては、PIVKA-II特異的ではないプロトロンビンに結合する抗体が用いられている。この測定系においては、標識抗プロトロンビン抗体がサンプル中のトロンビンまたはプロトロンビンとも反応することになる。たとえば、血液凝固の過程で生成したトロンビン、またはその前駆体であるプロトロンビンやそれらを含む複合体が磁性粒子表面や反応容器内壁へ非特異的に結合した場合でも、その後の標識抗体との特異反応により極めて高い偽陽性シグナルを生じさせ得る。
【0006】
免疫診断薬において、固相化磁性粒子や反応容器内壁に対する非特異的な反応に起因して陰性と判定されるべき検体が、誤って陽性と判定される偽陽性の存在が知られており、この偽陽性を減少させるために、反応中に界面活性剤を添加する、磁性粒子に抗原固相化後タンパク質やポリマーをオーバーコートするなどの様々な手法が用いられてきたが、磁性粒子表面や反応容器内壁への非特異的な結合に起因する偽陽性を減少させることには限界があった。これら偽陽性を減少させることは、多数検体同時迅速検査を目的とした自動化免疫測定装置をプラットホームとして用いる測定系の開発において、ますます重要な課題となっている。すなわち、磁性粒子表面や反応容器内壁への非特異的に対する非特異的反応を減少させることが診断薬業界では強く求められている。
【0007】
前述したとおり免疫学的にPIVKA-IIを測定する場合、プロトロンビンに対する抗体が標識抗体として用いられる。この標識抗体はプロトロンビンまたはトロンビンに特異的に結合するため、血中に多量に存在するプロトロンビン・トロンビンの一部やそれらを含む複合体が磁性粒子表面や反応容器内壁に非特異的に結合すると、偽陽性シグナルを生じさせる。この問題を回避するために、たとえば、測定検体試料を、抗原又は抗体が固相化されている磁性微粒子と、該磁性微粒子の表面素材と同じか、または類似の素材表面を持ち且つ磁性体を含まない微粒子の共存下、接触せしめる工程を含んでいることを特徴とする免疫測定方法が提案されている〔特許文献5〕。特許文献5は、非特異反応を減少させる方法として極めて有効な方法であるが、抗原又は抗体を固相化する磁性微粒子の表面素材と同じか、あるいは類似の素材表面を持つ磁性体を含まない微粒子と反応容器内壁の素材特性を有する磁性体を含まない微粒子の両者を用意する必要がある。
ポリアニオンの非特異反応抑制効果に関する特許文献が存在する〔特許文献6〜11〕が、いずれの特許文献においても、本発明で開示する「抗原-抗体反応を利用した診断薬の添加剤」や「肝癌の診断に有用な異常蛋白質PIVKA-IIの検出の添加剤」については触れていない。
【0008】
【特許文献1】特開2007−127438号公報
【特許文献2】特開2006−038823号公報
【特許文献3】特開2004−347614号公報
【特許文献4】特開2003−028875号公報
【特許文献5】特開2008−216237号公報
【特許文献6】特開2007-171054号公報
【特許文献7】特開平09-275996号公報
【特許文献8】特開平06-300761号公報
【特許文献9】特表2006-52319号公報
【特許文献10】特表2003-516519号公報
【特許文献11】特表2002-512045号公報
【非特許文献1】Liebman HA, Furie BC, Tong MJ, Blanchard RA, Lo KJ, Lee SD, Coleman MS, Furie B., "Des-gamma-carboxy (abnormal) prothrombin as a serum marker of primary hepatocellular carcinoma", N Engl J Med., 1984 May 31; 310(22): pp.1427-31
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
免疫診断薬において、固相化磁性粒子や反応容器内壁に対する非特異的な反応に起因して陰性と判定されるべき検体が、誤って陽性と判定される偽陽性の存在が知られており、この偽陽性を減少させることは、大きな課題となっている。特に、従来技術では、磁性粒子表面や反応容器内壁への非特異的な結合に起因する偽陽性を減少させることには限界がある。これら偽陽性を減少させることは、多数検体同時迅速検査を目的とした自動化免疫測定装置をプラットホームとして用いる測定系の開発において、ますます重要な課題となっている。すなわち、磁性粒子表面や反応容器内壁への非特異的に対する非特異的反応を減少させることが診断薬業界では強く求められている
免疫学的にPIVKA-IIを測定する場合、プロトロンビンに対する抗体が標識抗体として用いられるが、この標識抗体はプロトロンビンまたはトロンビンに特異的に結合するため、血中に多量に存在するプロトロンビン・トロンビンの一部やそれらを含む複合体が磁性粒子表面や反応容器内壁に非特異的に結合すると、偽陽性シグナルを生じさせる。この問題を簡単な手法で回避することが課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題に鑑み、発明者等は、PIVKA-II測定系非特異反応(偽陽性)の原因物質の同定を鋭意進めた結果、血清、又は血漿などの血液検体中のトロンビン、またはその前駆体であるプロトロンビンを含む複合体が磁性粒子表面や反応容器内壁へ非特異的に結合していることを突き止めた。この複合体の構成蛋白質は、アルギニン(Arg)に富んだ塩基性領域や細胞外マトリックス成分に特徴的に見られる領域を有していた。そこで、PIVKA-II測定系診断薬開発に際し、非特異的反応複合体の構成蛋白質の性質に焦点を当て、非特異反応抑制剤の探索を実施した。すなわち、塩基性表面と相互作用し得る酸性物質や蛋白質-蛋白質相互作用に影響を与え得る蛋白質ブロッカー、塩類のスクリーニングを行い、本発明に至った。すなわち、本発明は、血清、又は血漿などの血液検体試料中の異常蛋白質として肝癌の診断に有用なPIVKA-IIの検出に際し、トロンビン、またはその前駆体であるプロトロンビンやそれらを含む複合体が磁性粒子表面や反応容器内壁へ非特異的に結合し、その後の標識抗体との反応により極めて高い偽陽性シグナルを生じさせる非特異反応を効果的に抑制し、偽陽性を低減させる蛋白質・ポリマー・塩類、あるいはそれらの組み合わせからなる非特異反応抑制剤に関するものである。
【0011】
本発明は、以下を提供する。
〔1〕蛋白質、ポリマー、塩類及びそれらの混合物からなる群から選択されたものを含有し、且つ、
(a)抗原-抗体反応を利用した診断薬における、問題となる非特異反応を効果的に抑制し、偽陽性を低減させるものであること、
(b)抗原-抗体反応を利用した疾患特異的異常蛋白質の検出に際し、問題となる正常蛋白質やその複合体による免疫反応を効果的に抑制し、偽陽性を低減させるものであること、
(c)肝癌の診断に有用な異常蛋白質PIVKA-IIの検出に際し、偽陽性を低減させるものであること、
あるいは、
(d)異常蛋白質PIVKA-IIの検出に際し、問題となる正常トロンビン、正常プロトロンビンやその複合体による免疫反応を効果的に抑制し、偽陽性を低減させるものであること
を特徴とする非特異反応抑制剤。
〔2〕該蛋白質が、アルブミン、カゼイン、ゼラチン及びアテロコラーゲンを包含する可溶性コラーゲン、フィブリノーゲン、可溶性フィブリン、フィブロネクチン、ビトロネクチン及びラミニンを包含する細胞外マトリックス成分からなる群から選択されたもので、該ポリマーが、ポリアニオンからなる群から選択されたもので、該塩類が、食塩(NaCl)、塩化カリウム(KCl)及び塩化鉄(FeCl3)からなる群から選択されたものであることを特徴とする上記〔1〕に記載の非特異反応抑制剤。
〔3〕ポリマーを有効成分として含有し、該ポリマーが、ポリアニオンからなる群から選択されたものであることを特徴とする上記〔1〕又は〔2〕に記載の非特異反応抑制剤。
〔4〕該ポリアニオンが、ポリスチレンスルホン酸(PSS)、ポリビニルスルホン酸ナトリウム(PVSA)、デキストラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ポリアクリル酸(PAA)、ポリメタクリル酸(PMA)、ポリマレイン酸、ポリフマル酸、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、ヘパリンからなる群から選択されたもので、そのうち少なくとも1種類を含有することを特徴とする上記〔2〕又は〔3〕に記載の非特異反応抑制剤。
〔5〕該ポリアニオンが、ポリビニルスルホン酸ナトリウム(PVSA)、ポリアクリル酸(PAA)及びPVSAとPAAとの混合物からなる群から選択されたものであることを特徴とする上記〔2〕〜〔4〕のいずれか一に記載の非特異反応抑制剤。
〔6〕上記〔1〕〜〔5〕のいずれか一に記載の非特異反応抑制剤を使用することを特徴とする免疫学的測定方法。
【0012】
〔7〕測定検体試料を、抗体が固相化されており且つ磁性体を含む微粒子を含有する免疫測定試薬で処理する場合に、上記〔1〕〜〔5〕のいずれか一に記載の非特異反応抑制剤を、反応混合物中に共存させることを特徴とする免疫測定方法。
〔8〕測定検体試料を、抗体が固相化されている磁性微粒子と、上記〔1〕〜〔5〕のいずれか一に記載の非特異反応抑制剤の共存下、接触せしめる工程、磁石の影響下にB/F分離及び洗浄処理する工程、磁性微粒子固相に結合している抗原-抗体複合体(コンプレックス)と測定する抗原に対する標識化された抗体とを接触せしめる工程、磁石の影響下にB/F分離及び洗浄処理する工程、標識を指標に測定する抗原を定量する工程、を含んでいることを特徴とする上記〔7〕に記載の免疫測定方法。
〔9〕測定検体試料を、抗原又は抗体が固相化されている磁性微粒子と、上記〔1〕〜〔5〕のいずれか一に記載の非特異反応抑制剤の共存下、接触せしめる工程、磁石の影響下にB/F分離及び洗浄処理する工程、磁性微粒子固相に結合している測定する物質-抗原又は抗体の結合物と標識化された抗体とを接触せしめる工程、磁石の影響下にB/F分離及び洗浄処理する工程、標識を指標に測定する物質を定量する工程、を含んでいることを特徴とする上記〔7〕に記載の免疫測定方法。
〔10〕測定する物質が、PIVKA-IIであることを特徴とする上記〔7〕〜〔9〕のいずれか一に記載の免疫測定方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の技術で、抗体又は抗原固相化磁性粒子を使用する免疫診断薬及び免疫測定法における磁性粒子表面や反応容器内壁に対する偽陽性の問題を減少させ、より信頼性の高い測定結果を得ることができ、より優れた免疫診断薬並びに測定法を提供できる。これらの免疫測定法は、全自動スクリーニングシステムの利用により、低コストで血液スクリーニングのような多数検体の検査にも応用可能である。
本発明のその他の目的、特徴、優秀性及びその有する観点は、以下の記載より当業者にとっては明白であろう。しかしながら、以下の記載及び具体的な実施例等の記載を含めた本件明細書の記載は本発明の好ましい態様を示すものであり、説明のためにのみ示されているものであることを理解されたい。本明細書に開示した本発明の意図及び範囲内で、種々の変化及び/又は改変(あるいは修飾)をなすことは、以下の記載及び本明細書のその他の部分からの知識により、当業者には容易に明らかであろう。本明細書で引用されている全ての特許文献及び参考文献は、説明の目的で引用されているもので、それらは本明細書の一部としてその内容はここに含めて解釈されるべきものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、試料中の目的物をより精度良く検出若しくは測定する方法並びにそのための試薬を提供するものである。本発明の技術では、血清、又は血漿など血液検体試料中について、それを測定検体試料として、全自動血液スクリーニングシステムを利用可能とし、大量且つ迅速に測定して、特定の抗原量(臨床上や医学上などで問題となる癌マーカー等の血中量)を測定するのに適し、より正確に検出若しくは測定結果を与えるものである。
免疫診断薬では、磁性粒子に目的物質と特異的に反応する抗原または抗体を固相化させた固相化磁性粒子、それに目的物質を含む検体試料を抗原抗体反応させた後に固相化磁性粒子を洗浄し、それに発光試薬(アクリニジウムなど)を標識した抗体、「標識抗体」、を反応させ、目的物質を検出するという技術が汎用されている。
【0015】
このような技術の場合、磁性粒子表面や反応容器内壁に対する非特異物質の吸着反応が起こった場合に、それに対して標識抗体が結合した結果、非特異吸着を陽性シグナルとして検出してしまうことが多かった。
特に、PIVKA-IIを測定する免疫測定試薬においては、血清中に存在する血液凝固因子IIの活性化体であるトロンビンの磁性粒子表面や反応容器内壁への非特異結合の結果、それに対し標識抗体が反応して、血清で偽高値を示すことがあった。あるカットオフ値を設けて陰性/陽性を判定する免疫診断薬の場合、この磁性粒子表面や反応容器内壁に対する非特異物質(例えば、トロンビン、正常プロトロンビンやその複合体など)の吸着反応が甚だしく起こった場合には、特異的に反応する目的物質の量が極めて少なく、陰性と判定されるべき検体が誤って陽性と判定される偽陽性の場合があった。この偽陽性を減少させるために、反応系にアルブミンや界面活性剤を添加する、磁性粒子に抗原または抗体を固相化に引き続きアルブミンなどをオーバーコートするなどの様々な手法が用いられてきたが、磁性粒子や反応容器内壁に対する偽陽性を減少させることには限界があった。
【0016】
本発明では、抗原-抗体反応を利用した診断薬の開発に際し問題となる非特異反応を効果的に抑制し、偽陽性を低減させる蛋白質・ポリマー・塩類、あるいはそれらの組み合わせからなる非特異反応抑制剤を発見し、特異的に反応する目的物質を測定する免疫診断薬の開発に成功した。
当該非特異反応を効果的に抑制し、偽陽性を低減させる蛋白質としては、例えば、アルブミン、カゼイン、ゼラチン及びアテロコラーゲンを包含する可溶性コラーゲン、フィブリノーゲン、可溶性フィブリン、フィブロネクチン、ビトロネクチン及びラミニンを包含する細胞外マトリックス成分などが挙げられる。該当該非特異反応を効果的に抑制し、偽陽性を低減させるポリマーとしては、ポリアニオンなどが挙げられる。該ポリアニオンとしては、スルホン酸、硫酸、カルボン酸などの負荷電を帯びた官能基を有するポリマーが挙げられ、当該分野で知られたものの中から所望のものを適宜選択して使用でき、例えば、ポリスチレンスルホン酸(PSS)、ポリビニルスルホン酸ナトリウム(PVSA)、デキストラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ポリアクリル酸(PAA)、ポリメタクリル酸(PMA)、ポリマレイン酸、ポリフマル酸、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、ヘパリンなどが挙げられる。該当該非特異反応を効果的に抑制し、偽陽性を低減させる塩類としては、食塩(NaCl)、塩化カリウム(KCl)及び塩化鉄(FeCl3)などが挙げられる。該蛋白質・ポリマー・塩類は、それぞれ単独でも、任意に配合されて混合物としても使用でき、特には、所望の非特異反応を効果的に抑制し、偽陽性を低減させるという作用を発揮するものを選択して使用されてよい。一つの具体的な態様では、ポリビニルスルホン酸ナトリウム(PVSA)、ポリアクリル酸(PAA)及びPVSAとPAAとの混合物などを使用する。これら性質の異なる添加剤をそれぞれ一つ、乃至、複数を非特異反応抑制剤として使用してよい。
【0017】
汎用される免疫診断薬の検出の流れを要約すると、次のようなものとなる。
以下、「一次反応」工程の検体希釈液として偽陽性を低減させる蛋白質・ポリマー・塩類、あるいはそれらを組み合わせたものを添加した非特異反応抑制剤を用いる。
(1)検体(血清または血漿)を採取し、これを反応ウェルに入れる。
(2)このウェルに固相化磁性粒子を含む液および検体希釈液を入れ、定めた温度、時間反応させる(「一次反応」)。この間に、検体中の目的物質の固相化磁性粒子に対する特異的な抗原抗体反応が起こる。
(3)一次反応後に、磁性粒子を磁石で引きつけ、検体、検体希釈液、その他の反応液を吸引して除く。さらに、洗浄液を入れて洗浄後、磁性粒子を磁石で引きつけ、洗浄液を吸引して除き、磁性粒子に付着していた反応液を除く。
(4)洗浄後の磁性粒子に標識抗体を加え、定めた温度、時間反応させる(「二次反応」)。
(5)二次反応後に、磁性粒子を磁石で引きつけ、反応液を除く。さらに、洗浄液を入れて洗浄後、磁性粒子を磁石で引きつけ、洗浄液を吸引して除き、磁性微粒子に付着していた反応液を除く。
(6)発光試薬を発光させ、そのシグナルの強さにより、検体中に存在する目的物質を測定する。
本発明では、「一次反応」工程に含まれる非特異反応抑制剤により、非特異物質の磁性粒子表面や反応容器内壁に対する吸着が阻害され、続く洗浄工程で系外に除かれる仕組みで偽陽性を低減させた。
【0018】
具体的な態様では、本発明は、血液検体などの測定検体試料を用いるPIVKA-IIなどの測定検出法において、測定検体試料を、磁性粒子に固相化された抗体(特定の抗体)と、偽陽性を低減させる蛋白質・ポリマー・塩類、あるいはそれらの組み合わせからなる非特異反応抑制剤の共存下、接触せしめる工程、磁石の影響下にB/F分離及び洗浄処理する工程、磁性粒子固相に結合している抗原-抗原特異的複合体(コンプレックス)と標識化された特異的抗体とを接触せしめる工程、磁石の影響下にB/F分離及び洗浄処理する工程、標識を指標に目的物質を定量する工程、を含んでいる免疫学的測定方法を行うものである。
当該方法において使用する免疫測定方法は、競合法、サンドイッチ法等、公知のいずれの方法であってもよいが、特にサンドイッチ法が好ましい。化学発光免疫測定法(chemiluminescent immunoassay: CLIA)が好適に使用できる。
【0019】
本測定方法において用いる固相化抗体・標識抗体用の抗体(標識抗体用の抗ヒト免疫グロブリン抗体を包含する)は、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体のいずれであってもよいが、通常、モノクローナル抗体が好適に使用される。また、これら抗体はFab'、F(ab')2等の抗体フラグメントであってもよい。また遺伝子組み替えによって作成された抗体または抗体フラグメントであってもよい。
本免疫測定法において使用する固相、特にはサンドイッチ法で用いる固相としては、磁性粒子が挙げられ、特に好ましくは磁性マイクロ粒子(マイクロパーティクル)が挙げられる。本免疫測定法において使用する磁性粒子、または非磁性粒子としては、ポリマー微粒子が最も好適ではある。特には、全自動測定に適した微粒子として知られたものであれば、適宜選択してそれを使用できる。全自動免疫測定に有効な微粒子サイズとしては、特に制限はないが、10 nm から 100μm の範囲の微粒子が好適である。
標識物質としては、蛍光物質、発光物質、酵素、放射性同位元素等が挙げられ、特に好ましくは、アクリジニウム誘導体、例えば、10-(3-スルホプロピル)-N-(p-トルエンスルホニル)-N-(カルボキシエチル)-9-アクリジニウムカルボキサミドなどが挙げられる。アクリジニウム誘導体は、米国特許明細書第5,468,646号、同第5,543,524号などに記載のものなどが挙げられる。固相又は標識物への抗体や抗原を結合させる方法としては、周知の物理的吸着方法、化学的な反応による結合方法などが挙げられる。代表的なサンドイッチ法として、例えば、2ステップサンドイッチ法が挙げられる。
【0020】
標識の測定は、例えば、プレトリガー液やトリガー液を使用して標識アクリジニウムを反応させ、化学発光を起こす分子種に変換するなどして達成される。プレトリガー液としては、例えば、過酸化水素を含む酸性溶液などが挙げられ、アクリジニウム標識抗体を磁性マイクロパーティクル上から切り離し、アクリジニウムを溶液中に均一に溶出させる。トリガー液としては、例えば、Triton X-100を含む水酸化ナトリウム溶液などが挙げられ、発光反応を発生させる。
【0021】
本発明の技術は、免疫検査に必要な機能を備えた全自動免疫測定装置、例えば、全自動化学発光免疫装置で行うのに適したものであることができる。該全自動化学発光免疫装置は、普通、検体の受け入れと測定部位への移送を行うサンプラートラック機構、化学発光測定を行うプロセッシング機構、消耗品である洗浄液、反応試薬などの補給と廃棄物の処理を行うサプライ機構、システム全体の操作並びに制御を行うシステムコントロール機構を備えているようなものが好ましい。該サンプラートラック機構のうちには、各種のサンプルカップや試験管に対応し、さらに様々な大きさのものに対応している形態のものとされ、少量検体についても、バーコード読み取り機構を利用して検体の同定管理が可能とされており、さらに、ランダムアクセスや継続的なアクセスによるサンプリングが可能とされ、緊急的な検体測定も可能とされているなどの機構が挙げられる。検体の追加、取り外しがいつでも、当該装置全面から行うことが可能とされ、さらに検体IDユニットを備えバーコード情報が読み取り可能とされていることが好ましく、例えば、検体ラックをセットすると直ちにバーコード情報が読み取られ、測定を開始できるようにされている装置であってよい。また、検体ラックトランスポータは、検体ラックをセットすると直ちに動作可能とされ、3次元での検体ラック搬送を実現できるような機構を備えたものが好ましく、処理効率に応じた最適検体ラックポジションへの移送、サンプリングのための検体ラックの各モジュールへの分配、優先処理の最適化を図ることが可能な機構を備えているものとすることも可能である。
【0022】
該プロセッシング機構としては、多数の試薬ボトルを同時搭載可能とされ、1モジュールで莫大な数のテストが可能とされているものが好適であり、例えば、25個の試薬ボトルを同時搭載し、500テスト用の試薬ボトルが使用可能になっていて、1モジュール最大12,500テストが可能となっている能力を備えるものとされていることもできる。該プロセッシング機構には、冷却機能付き試薬カセロールにより、試薬を搭載したまま長時間安定に保持できる機能、試薬につき、項目名、ロットナンバー、テストサイズ、使用期限、マスターキャリブレーション情報などをバーコード自動読み取りにより管理可能とされる機能、検体量不足、気泡、血餅などの異常を感知できるプレシャーモニタリング機能、キャリーオーバーを低減するサンプルピペッタなどが含まれていることができる。キャリーオーバーの低減は、サンプルプローブの洗浄を強化せしめたり、また、自動位置調整機能を備えることにより達成されるものであることができる。該プレシャーモニタリング機能では、例えば、サンプリング・分注時の液圧の常時モニタリングにより、プローブの詰まりや気泡を検知可能とされ、誤った報告を防止できるようにされることが挙げられる。該サプライ機構には、化学発光に適した試薬、例えば、多くの数のテストに対応する数のトリガー試薬(希釈緩衝液)、プレトリガー試薬(希釈緩衝液)を保管可能とする機能、固型廃棄物用の廃物コンテナを備えるとともに、廃液については検査室の廃液口に自動廃液可能とする機能などが含まれていることができる。該システムコントロール機構としては、モニター画面上のスクリーンにタッチすることで操作可能となっている機能、各モジュールの状況が一目で判別可能とされているスナップショット画面形成機能、多数のテストの測定結果並びに多数のテストのQC結果を保存する機能などが含まれているものであってよい。全自動化学発光免疫装置の例としては、免疫測定装置アーキテクトTMアナライザーシリーズ(アボットジャパン(株))、例えば、アボット アーキテクトTMi2000 (Abbott ARCHITECTTMi2000)などが挙げられる。
【0023】
本発明の技術は、上述したARCHITECTTMシステムを用いたPIVKA-II測定に適用できる。最初に血清、又は血漿など血液検体、および抗PIVKA-IIモノクローナル抗体が固相化された磁性粒子を混合する。検体中にPIVKA-IIが存在する場合には、該固相化粒子に結合する。このとき非特異的反応複合体の構成蛋白質の塩基性表面と相互作用し得る酸性物質や蛋白質-蛋白質相互作用に影響を与え得る蛋白質ブロッカー、塩類を共存させることにより、非特異物質であるトロンビン、正常プロトロンビンやその複合体などの磁性粒子表面や反応容器内壁に対する吸着が阻害される。磁石を利用したB/F分離・洗浄の後、PIVKA-II+抗PIVKA-II抗体固相化磁性粒子の結合物が形成される。このときトロンビンを始めとする非特異物質は、続く洗浄工程で系外に除かれる。次にアクリジニウム標識抗ヒトプロトロンビン抗体が添加され、標識抗ヒトプロトンビン抗体+PIVKA-II+抗PIVKA-II抗体固相化磁性微粒子のサンドイッチ複合体が形成される。抗ヒトプロトロンビン抗体は、プロトロンビンの一部に含まれるトロンビンとも反応性を有するが、ほとんどのトロンビン、正常プロトロンビンやその複合体は、洗浄で除かれるため、これら非特異物質由来の偽陽性シグナルは生じない。再び洗浄の後、プレトリガー、トリガーを反応セルに添加し、その結果生じる化学発光反応を発光強度(RLU)として測定する。この検体のRLUが、あらかじめ測定しておいたキャリブレーションのカットオフ値以上を示した場合を陽性、カットオフ値未満の場合を陰性と判定する。
【0024】
本発明に基づけば、以下のものが提供される。
(1)抗原-抗体反応を利用した診断薬の開発に際し問題となる非特異反応を効果的に抑制し、偽陽性を低減させる蛋白質・ポリマー・塩類、あるいはそれらの組み合わせからなる非特異反応抑制剤;
(2)肝癌の診断に有用な異常蛋白質PIVKA-IIの検出に際し、偽陽性を低減させる蛋白質・ポリマー・塩類、あるいはそれらの組み合わせからなる非特異反応抑制剤;
(3)抗原-抗体反応を利用した疾患特異的異常蛋白質の検出に際し、問題となる正常蛋白質やその複合体による免疫反応を効果的に抑制し、偽陽性を低減させる蛋白質・ポリマー・塩類、あるいはそれらの組み合わせからなる非特異反応抑制剤;
(4)異常蛋白質PIVKA-IIの検出に際し問題となるトロンビン、正常プロトロンビンやその複合体による免疫反応を効果的に抑制し、偽陽性を低減させる蛋白質・ポリマー・塩類、あるいはそれらの組み合わせからなる非特異反応抑制剤;そして
(5)非特異反応抑制剤に含まれる蛋白質成分として、アルブミン、カゼイン、ゼラチンなどの可溶性コラーゲン、フィブリノーゲンや可溶性フィブリン、フィブロネクチン、ビトロネクチンやラミニンなどの細胞外マトリックス成分などが挙げられる。非特異反応抑制剤に含まれる塩類として、食塩(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化鉄(FeCl3)などが挙げられる。非特異反応抑制剤に含まれるポリマーとして、特にポリアニオンが挙げられる。ここで言うポリアニオンとは、スルホン酸、硫酸、カルボン酸などの負荷電を帯びた官能基を有するポリマーであり、たとえば、ポリスチレンスルホン酸(PSS)、ポリビニルスルホン酸ナトリウム(PVSA)、デキストラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ポリアクリル酸(PAA)、ポリメタクリル酸(PMA)、ポリマレイン酸、ポリフマル酸、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸などを指す。
【0025】
アボットジャパン(株)のARCHITECTTMアナライザー免疫測定装置は、システムコントロールセンター(System Control Center, SCC)、プロセッシングモジュール(Processing Module, PM)、そしてサンプルハンドラー(Sample Handler, SH)から構成され、さらにプロセッシングモジュールの主要部分はプロセッシングセンターと呼ばれ、多種項目の試薬を同時搭載できる試薬カローセルを備え、その周りにプロセスパスがあって、該プロセスパス内を反応セルが移動し、周りにサンプルピペッター、試薬ピペッター、内部攪拌装置、ウオッシュゾーンなどが配置されている。反応セルは、プロセスパス内を1ステップずつ移動しながら、それぞれのポジションへ移送される。プロセッシングセンター内には多数個の反応セルを収容できる。また、ダブルトレーも利用可能とされている。本装置は、輸血用血液の安全性を向上させ、効率的な血液供給を行うに適して全自動血液スクリーニングシステムである。独自の化学発光免疫測定法による優れた感度と特異性に加え、大量検体の処理を実現する。
本システムでは、高発光量の得られるアクリジニウム誘導体を標識に使用しているので、試薬の高い安定性(検量線の安定化、日差再現性の向上)、高い発光収率(感度の向上、測定範囲の拡張)が達成できる。また、磁性マイクロパーティクルを利用しているので、固相を磁石で押さえた状態で短時間のB/F分離、洗浄が可能となっており、内部攪拌装置で簡単に磁性マイクロパーティクルを分散させるので、均一な免疫反応が得られ、さらにプラスチック性消耗品の損耗が大幅に低減し、大量のテストを連続的に行うことができ、短時間で大量の検体の測定が可能である。
【0026】
本法の原理は、検体をサンプルピペッターが反応セルに分注した後、試薬ピペッターが試薬カローセルから磁性マイクロパーティクル液をその反応セルに分注する。次に内部攪拌装置で反応セル内の混合液を攪拌した後に、適温、例えば、37℃に維持されたプロセスパス内を移動しながら所要時間インキュベーションされる。かくして、検体、検体希釈液、及び抗原あるいは抗体を固相化した磁性マイクロパーティクル懸濁液をインキュベーションして、検体中の抗体あるいは抗原を特異的にマイクロパーティクル上の抗原あるいは抗体に反応させる(一次反応)。次に反応セルはウオッシュゾーンを通過し、永久磁石などを使用しての磁場の影響下にB/F分離及び磁性マイクロパーティクルの洗浄が希釈緩衝液を使用して行われる。次にアクリジニウム誘導体で標識された特異抗体の入ったコンジュゲート溶液を反応セルに分注し、内部攪拌装置で攪拌した後に、プロセスパス内を移動しながら所要時間インキュベーションされる。標識抗体は、磁性マイクロパーティクル上の測定目的物と結合する。すなわち、反応生成物は、アクリジニウム標識コンジュゲートにより検出される(二次反応)。このコンジュゲートは、アクチベータ溶液の存在下で化学発光を引き起こし、それを光電子増倍管で検出するものである。典型的には当該アクチベータ溶液としては、プレトリガー液とトリガー液とから構成されていてよく、該プレトリガー液は、アクリジニウム標識抗体を磁性マイクロパーティクル上から切り離して、アクリジニウムを反応溶液中に均一な状態で存在するように溶出せしめる働きのものであり、該トリガー液は、アクリジニウムを活性化して、例えば、アクリジニウムを酸化して、発光反応を生ぜしめる働きを持つものが挙げられる。
【0027】
以下に実施例を掲げ、本発明を具体的に説明するが、この実施例は単に本発明の説明のため、その具体的な態様の参考のために提供されているものである。これらの例示は本発明の特定の具体的な態様を説明するためのものであるが、本願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。本発明では、本明細書の思想に基づく様々な実施形態が可能であることは理解されるべきである。
全ての実施例は、他に詳細に記載するもの以外は、標準的な技術を用いて実施したもの、又は実施することのできるものである。
【実施例1】
【0028】
肝癌の診断に有用なPIVKA-IIの検出に際し、蛋白質・ポリマー・塩類、あるいはそれらの組み合わせからなる非特異反応抑制剤の偽陽性を低減させる効果を米国Abbott LaboratoriesのARCHITECTTMシステムを用いて実施し、評価した。得られた結果も示す。また、ARCHITECT PIVKA-II試薬は、化学発光免疫測定法(CLIA法)によるPIVKA-II測定試薬であり、B/F分離には磁性粒子(以下、マイクロパーティクル)を用いている。
【0029】
PIVKA-IIの検出用ARCHITECTTMシステムの反応様式は、以下の通りである。
1) 検体中のPIVKA-II抗原は、マイクロパーティクルに固相化された抗ヒトPIVKA-IIマウスモノクローナル抗体にキャプチャーされる。そこにアクリジニウム標識抗プロトロンビン抗体をプローブとして結合させ、マイクロパーティクル固相化抗ヒトPIVKA-IIマウスモノクローナル抗体−PIVKA-II抗原−アクリジニウム標識抗プロトロンビン抗体の複合体を形成する。
2) インキュベーション後、マイクロパーティクルは磁石によって反応セルの管壁に引きつけられる。この状態での洗浄操作により、未結合物質が除去される。
3) プレトリガー(過酸化水素水)及びトリガー(水酸化ナトリウム溶液)の添加により、アクリジニウムが酸化され、化学発光反応が起こる。このときの発光量は、RLU(相対的化学発光ユニット)という単位で表すことができる。
4) PIVKA-II抗原測定系に必要な陽性コントロール、およびキャリブレーターを並行して測定することにより、測定系が成立していることを確認し、個々の検体中のPIVKA-II抗原量をmAU/mLの単位で測定することが可能となる。
【0030】
本発明の非特異反応抑制剤は、蛋白質・ポリマー・塩類、あるいはそれらの組み合わせからなり、それをPIVKA-II測定系における非特異反応抑制に使用した。蛋白質として、アルブミン、カゼイン、ゼラチンなどの可溶性コラーゲン、フィブリノーゲンや可溶性フィブリン、フィブロネクチン、ビトロネクチンやラミニンなどの細胞外マトリックス成分からなる群から選択されたものを含む。ポリマーとして、スルホン酸、硫酸、カルボン酸などの負荷電を帯びた官能基を有するポリマー、たとえば、ポリスチレンスルホン酸(PSS)、ポリビニルスルホン酸ナトリウム(PVSA)、デキストラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ポリアクリル酸(PAA)、ポリメタクリル酸(PMA)、ポリマレイン酸、ポリフマル酸、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸などのポリアニオンからなる群から選択されたものを含む。更に塩類として、食塩(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化鉄(FeCl3)などからなる群から選択されたものを含む。これら性質の異なる添加剤をそれぞれ一つ、乃至、複数を非特異反応抑制剤として、検体希釈液(アッセイ緩衝液に添加し、評価を実施した。
【0031】
1)一次反応
反応セルで、以下に示す容量の検体、非特異反応抑制剤を含むアッセイ緩衝液、及びマウスモノクローナル抗体を固相化した磁性粒子懸濁液を混合する。アッセイ緩衝液および磁性粒子縣濁液、更にアクリジニウム標識コンジュゲート液中には界面活性剤が添加されている。また、この検討には非特異シグナルが観察される複数の血清検体(Serum)と血漿検体(Plasma)をサンプルとして用いた。
血清検体、または、血漿検体 50μL
非特異反応抑制剤を含むアッセイ緩衝液 50μL
マウスモノクローナル抗体固相化磁性粒子縣濁液 50μL
2)第一回インキュベーション
攪拌装置で攪拌した後、37℃、18分間インキュベーションし、検体中の抗体を特異的にマイクロパーティクル上の抗原に反応させる。
3)B/F分離/洗浄
反応セルを次のステップに移送する間に磁石により磁性マイクロパーティクルを反応セルの内壁に押し付けておいて未反応物及び非磁性マイクロパーティクルを除去(B/F分離)し、洗浄液で、反応セル内を洗浄する。
4)二次反応
アクリジニウム標識コンジュゲート(アクリジニウム化抗ヒトプロトロンビン)溶液50μLを反応セルに分注する。
5)インキュベーション
攪拌装置で攪拌した後、37℃、4分間インキュベーションし、反応生成物とアクリジニウム標識コンジュゲートの反応を進行させる。
6)B/F分離/洗浄
反応セルを次のステップに移送する間に磁石により磁性マイクロパーティクルを反応セルの内壁に押し付けておいて未反応標識コンジュゲートを除去(B/F分離)し、洗浄液で、更に未反応のコンジュゲートを洗い流し、複合体を浄化する。
7)アクリジニウムの活性化
プレトリガー液を100μL、次いでトリガー液300μLを加え、複合体上のアクリジニウムを活性化する。
8)検出
アクリジニウムの活性化により引き起こされた化学発光を光電子増倍管で検出する(化学発光度は、RLU(相対的化学発光単位)値として数値化される)。陽性コントロール、およびキャリブレーターを並行して測定することにより、測定系が成立していることを確認し、個々の検体中のPIVKA-II抗原量をmAU/mLの単位で非特異反応の軽減効果を判定した。
【0032】
非特異反応軽減効果の判定結果を表1及び2に示した。
PIVKA-II測定系における非特異反応抑制剤として、蛋白質・ポリマー・塩類、あるいはそれらの組み合わせが有効であった。有効な蛋白質としては、アルブミン、カゼイン(Casein)、ゼラチンなどの可溶性コラーゲン、フィブリノーゲンや可溶性フィブリン、フィブロネクチン、ビトロネクチンやラミニンなどの細胞外マトリックス成分を含むものが挙げられる。有効なポリマーとしては、スルホン酸、硫酸、カルボン酸などの負荷電を帯びた官能基を有するポリマー、たとえば、ポリスチレンスルホン酸(PSS)、ポリビニルスルホン酸ナトリウム(PVSA)、デキストラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ポリアクリル酸(PAA)、ポリメタクリル酸(PMA)、ポリマレイン酸、ポリフマル酸、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸などのポリアニオンを含むものが挙げられる。更に、有効な塩類としては、食塩(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化鉄(FeCl3)などが挙げられる。これら性質の異なる添加剤をそれぞれ一つ、乃至、複数を非特異反応抑制剤として、検体希釈液(アッセイ緩衝液に添加し、その効果が認められた。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
表1には、肝癌の診断に有用なPIVKA-IIの検出に際し、偽陽性を低減させる蛋白質・ポリマー・塩類、あるいはそれらの組み合わせからなる非特異反応抑制剤の効果をARCHITECTTMシステムにて実施し、評価した結果を示す。非特異反応の軽減効果を認めた添加物とその条件は、高NaCl濃度、Tris Base (pH 8.5)、CaseinとPAA(平均分子量1200)、またはPVSAの併用であった。表1中、Tris Baseは、tris(hydroxymethyl)aminomethaneを含有する緩衝剤を指し、Bis-Trisは、2-(bis(2-hydroxyethyl)amino)-2-(hydroxymethyl)propane-1,3-diolを含有する緩衝剤を指し、MESは、2-morpholinoethanesulfonic acid, monohydrateを含有する緩衝剤を指している。
表2には、蛋白質・ポリマー・塩類、あるいはそれらの組み合わせからなる非特異反応抑制剤の効果をARCHITECTTMシステムにて実施し、評価した結果を示す。添加物としては、PAAとGlycerolの併用も非特異反応の軽減効果を認めた。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の技術は、免疫測定で問題となっていた固相化磁性粒子に対する非特異的な反応などに起因して発生する偽陽性を簡単な手法で効率的に且つ効果的に減少せしめるので、より信頼性の高い測定結果を得ることができて、臨床検査、血液検査の分野で有用である。
また、本技術は、全自動測定システムの利用による低コストで多数検体の検査にも応用可能である。
本発明は、前述の説明及び実施例に特に記載した以外も、実行できることは明らかである。上述の教示に鑑みて、本発明の多くの改変及び変形が可能であり、従ってそれらも本件添付の請求の範囲の範囲内のものである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛋白質、ポリマー、塩類及びそれらの混合物からなる群から選択されたものを含有し、且つ、
(a)抗原-抗体反応を利用した診断薬における、問題となる非特異反応を効果的に抑制し、偽陽性を低減させるものであること、
(b)抗原-抗体反応を利用した疾患特異的異常蛋白質の検出に際し、問題となる正常蛋白質やその複合体による免疫反応を効果的に抑制し、偽陽性を低減させるものであること、
(c)肝癌の診断に有用な異常蛋白質PIVKA-IIの検出に際し、偽陽性を低減させるものであること、
あるいは、
(d)異常蛋白質PIVKA-IIの検出に際し、問題となる正常トロンビン、正常プロトロンビンやその複合体による免疫反応を効果的に抑制し、偽陽性を低減させるものであること
を特徴とする非特異反応抑制剤。
【請求項2】
該蛋白質が、アルブミン、カゼイン、ゼラチン及びアテロコラーゲンを包含する可溶性コラーゲン、フィブリノーゲン、可溶性フィブリン、フィブロネクチン、ビトロネクチン及びラミニンを包含する細胞外マトリックス成分からなる群から選択されたもので、該ポリマーが、ポリアニオンからなる群から選択されたもので、該塩類が、食塩(NaCl)、塩化カリウム(KCl)及び塩化鉄(FeCl3)からなる群から選択されたものであることを特徴とする請求項1に記載の非特異反応抑制剤。
【請求項3】
ポリマーを有効成分として含有し、該ポリマーが、ポリアニオンからなる群から選択されたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の非特異反応抑制剤。
【請求項4】
該ポリアニオンが、ポリスチレンスルホン酸(PSS)、ポリビニルスルホン酸ナトリウム(PVSA)、デキストラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ポリアクリル酸(PAA)、ポリメタクリル酸(PMA)、ポリマレイン酸、ポリフマル酸、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、ヘパリンからなる群から選択されたもので、そのうち少なくとも1種類を含有することを特徴とする請求項2又は3に記載の非特異反応抑制剤。
【請求項5】
該ポリアニオンが、ポリビニルスルホン酸ナトリウム(PVSA)、ポリアクリル酸(PAA)及びPVSAとPAAとの混合物からなる群から選択されたものであることを特徴とする請求項2〜4のいずれか一に記載の非特異反応抑制剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一に記載の非特異反応抑制剤を使用することを特徴とする免疫学的測定方法。


【公開番号】特開2010−127827(P2010−127827A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−304535(P2008−304535)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000109015)アボットジャパン株式会社 (14)