説明

非球面ホモジナイザー及びホモジナイザー用非球面レンズの設計方法

【課題】本発明は、レーザー加工等に用いられるチルト誤差の影響を受けにくい非球面ホモジナイザーを提供する。
【解決手段】平行でエネルギー分布がガウシアン分布である入射ビームを屈折縮小させて、入射ビームの直径よりも小さい直径の範囲において像面に均一エネルギー分布のビームを形成するための1枚のレンズからなるホモジナイザーにおいて、前記レンズが、両面非球面又は片面が非球面、もう一方の面が凹の球面である非球面ホモジナイザー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属の切断、溶接、熱処理などに用いられる炭酸ガスレーザーやYAGレーザーなど高出力レーザーに好適な非球面モジナイザー及びそれに用いる非球面レンズの設計方法に係り、特に、レーザーから出たビームを均一パワー分布に変換する1枚レンズからなる非球面ホモジナイザー及びホモジナイザー用非球面レンズの設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザーから出力されるビームはパワー分布が均一でなく、中央部でパワーが大きく、周辺部に行くにしたがってパワーが減少する。
【0003】
このようなレーザーを金属の加工等に用いる場合、中央部のみが加工速度が速く均一な加工ができない場合が生じる。そのため、均一に加工するためにはある空間範囲でパワーが均一であることが要求される。そのためガウス分布をしているビーム(ガウシアンビーム)をある範囲で均一にして、いわゆるトップハット型にする手法が知られているが、そのためには、通常は2枚のレンズを必要としている。
【0004】
そのような状況の中、1枚の非球面レンズを用いて、レーザーから出てくるガウスビームをトップハット型のビームに変換する光学系(ホモジナイザー)が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1では、最終ビーム径は初めのガウスビーム径よりも小さく、位相はそろっておらず、平行光ではないものの、加工用途には十分で、レンズが軸線に対してチルトにも強い、とする技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許3960295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のホモジナイザーではチルトに強いとして、0.5度までチルトした場合のデータが一実施例として開示されているが、それ以上にチルトした場合の性能変化については一切触れられていない。一般に、レンズをチルト0.5度以内になるように鏡筒に設置するのは困難であり、最大2度程度チルトしても性能が著しく悪化しないようにする必要がある。
【0008】
本発明は、上記問題点に着目してなされたもので、両方の面が非球面あるいは、片方の面が非球面でもう片方の面が凹の球面であるレンズからなるチルト誤差低減非球面ホモジナイザーの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討した結果、両方の面が非球面、あるいは片方の面が非球面でもう片方の面が凹の球面であるレンズとすることで、上記問題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明のホモジナイザーは、平行でエネルギー分布がガウシアン分布である入射ビームを屈折縮小させて、入射ビームの直径よりも小さい直径の範囲において像面に均一エネルギー分布のビームを形成するための1枚のレンズからなるホモジナイザーにおいて、前記レンズが、両面非球面であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の他のホモジナイザーは、平行でエネルギー分布がガウシアン分布である入射ビームを屈折縮小させて、入射ビームの直径よりも小さい直径の範囲において像面に均一エネルギー分布のビームを形成するための1枚のレンズからなるホモジナイザーであって、前記レンズが、片面が非球面、もう一方の面が凹の球面であることを特徴とする。
【0012】
本発明のホモジナイザー用非球面レンズの設計方法は、一方の面の非球面形状を設定し、他方の面を輪帯状に複数の領域に分割し、前記分割した各領域をそれぞれ異なる曲率をもった球面であって、中心から外に行くに従って球面収差が少なくなるように球面の曲率を設定し、前記球面の曲率を設定した各領域同士を隣り合った領域の球面と滑らかに結ぶ非球面式で近似して繋ぎ合せ、一枚で、平行でエネルギー分布がガウシアン分布である入射ビームを屈折縮小させて、入射ビームの直径よりも小さい直径の範囲において像面に均一エネルギー分布のビームを形成可能なレンズとすることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の他のホモジナイザー用非球面レンズの設計方法は、一方の面の凹球面形状を設定し、他方の面を輪帯状に複数の領域に分割し、前記分割した各領域をそれぞれ異なる曲率をもった球面であって、中心から外に行くに従って球面収差が少なくなるように球面の曲率を設定し、前記球面の曲率を設定した各領域同士を隣り合った領域の球面と滑らかに結ぶ非球面式で近似して繋ぎ合せ、一枚で、平行でエネルギー分布がガウシアン分布である入射ビームを屈折縮小させて、入射ビームの直径よりも小さい直径の範囲において像面に均一エネルギー分布のビームを形成可能なレンズとすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の非球面ホモジナイザー及びホモジナイザー用非球面レンズの設計方法によれば、チルトによる性能の変化を低減でき、安定したレーザー光を照射できるホモジナイザーを提供できる。また、ここで用いる非球面レンズは、このプレス成形により製造可能であり、その場合には、容易に非球面レンズを歩留まり良く製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1のホモジナイザーの概略構成及び光線パワー分布を例示した図である。
【図2】本発明の第1のホモジナイザーの製造フローである。
【図3】本発明の第2のホモジナイザーの概略構成及び光線パワー分布を例示した図である。
【図4】本発明の第2のホモジナイザーの製造フローである。
【図5】本発明の第1のホモジナイザー(実施例1)のR2面における曲率半径とザイデルのコマ収差係数の関係を示した図である。
【図6】本発明の第1のホモジナイザー(実施例1)の輪帯状の各領域に対する球面収差の関係を示した図である。
【図7】本発明の第1のホモジナイザー(実施例1)の光線パワー分布を示した図である。
【図8】本発明の第1のホモジナイザー(実施例1)を0.5度チルトした場合の光線パワー分布を示した図である。
【図9】本発明の第1のホモジナイザー(実施例1)を2度チルトした場合の光線パワー分布を示した図である。
【図10】本発明の第2のホモジナイザー(実施例2)の輪帯状の各領域に対する球面収差の関係を示した図である。
【図11】本発明の第2のホモジナイザー(実施例2)の光線パワー分布を示した図である。
【図12】本発明の第2のホモジナイザー(実施例2)を0.5度チルトした場合の光線パワー分布を示した図である。
【図13】本発明の第2のホモジナイザー(実施例2)を2度チルトした場合の光線パワー分布を示した図である。
【図14】従来例のホモジナイザーの光線パワー分布を示した図である。
【図15】従来例のホモジナイザーを0.5度チルトした場合の光線パワー分布を示した図である。
【図16】従来例のホモジナイザーを2度チルトした場合の光線パワー分布を示した図である。
【図17】従来例と同一スペックで設計した本発明のホモジナイザーの概略構成及び光線パワー分布を示した図である。
【図18】従来例と同一スペックで設計した本発明のホモジナイザーの光線パワー分布を示した図である。
【図19】従来例と同一スペックとなるように本発明の設計方法で設計したホモジナイザーを0.5度チルトした場合の光線パワー分布を示した図である。
【図20】従来例と同一スペックとなるように本発明の設計方法で設計したホモジナイザーを2度チルトした場合の光線パワー分布を示した図である。
【図21】従来例と同一スペックとなるように本発明の設計方法で設計したホモジナイザーのR22面における曲率半径とザイデルのコマ収差係数の関係を示した図である。
【図22】従来例と同一スペックとなるように本発明の設計方法で設計したホモジナイザーの輪帯状の各領域に対する球面収差の関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0017】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1のホモジナイザーの概略構成及び光線のパワー分布を例示した図である。ここで、上段はホモジナイザーの概略構成に加えレーザー光線が集光していく状態を示しており(図1(a−1)は図1(a)のレンズ部分を拡大したもの)、下段は集光位置におけるパワー分布を示したものである(図1(b−1)は図1(b)のスポット部分を拡大したもの)。
【0018】
図1において、ホモジナイザー1は鏡筒に収容された両非球面レンズ2とカバーガラス3から構成される(図1(a))。図1において両非球面レンズ2の左側の面(R1面)は凸の非球面であり、集光位置において、中心から外に行くに従って、球面収差が小さくなるように設計される。図1においてレンズ右側の面(R2面)は凸の非球面であり、チルトによる影響が最小となるように設定される。
【0019】
R1面とR2面の設計方法は、まずR2面をチルトによる影響ができるだけ小さくなるような非球面形状を任意に設定する。そのときR1面は、R2面の曲率半径を算出する際に得られる曲率半径を持った球面形状とする。その後、R1面を輪帯状に複数の領域(例えば、5つの領域)に区切り、それぞれの領域を光軸上に曲率中心をもつようなそれぞれ異なる曲率をもった球面とし、中心から外に行くに従って球面収差が傾向的に少なくなるように設定する。最後に、R1面の区切った各領域同士を隣り合った領域の面と滑らかに結ぶ非球面式で近似して繋ぎ合わせた形状として設計できる。また、最初に設定したR2面の非球面形状を必要に応じて調整してもよい。この設計方法のフローを図2に示した。
【0020】
なお、R2面をチルトによる影響が小さくなるようにするには、R1面とR2面のベンディングによってR2面におけるザイデルのコマ収差係数が小さくなるような曲率半径を探し出し、その曲率半径をR2面非球面の近軸曲率半径に設定しスポット径が最小となるよう非球面係数を決定する。実際に非球面形状を決定する際はプレス成形のし易さ等も考慮して行うこととなる。
【0021】
複数の領域に区切る手法としては、第n番目の領域の最大径をD(n)maxとすると、第n番目の領域の始まりが第n−1番目の領域のD(n−1)maxと境界領域で繋がるように第n番目の領域を光軸方向にオフセットさせることで行う。但し、D(0)=0とする。光学設計ソフト(製造元:Radiant ZEMAX,LLC、商品名:ZEMAX)のユーザー定義面「マルチゾーン面」を使用すれば輪帯状の複数の領域を容易に設定できる。
【0022】
そのとき、球面収差が傾向的に少なくなるようにするには、領域番号(n)と各領域の径方向中間位置での球面収差の絶対量|SA´(n)|からなる分布の近似直線y=ax+bの傾きaがa<0(負)となるように各領域の曲率半径を設定する。なお、a>0(正)であれば、傾向的に多くなっていると判断する。
【0023】
(第2の実施形態)
図3は、本発明の第2のホモジナイザーの概略構成及び光線のパワー分布を例示した図である。ここで、上段はホモジナイザーの概略構成に加えレーザー光線が集光していく状態を示し(図3(a−1)は図3(a)のレンズ部分を拡大したもの)、下段は集光位置におけるパワー分布を示したものである(図3(b−1)は図3(b)のスポット部分を拡大したもの)。
【0024】
図3において、ホモジナイザー11は鏡筒に収容された片面非球面−片面凹球面レンズ12とカバーガラス13から構成される。図3においてレンズ左側の面(R11面)は凸の非球面であり、集光位置において、中心から外に行くに従って、球面収差が小さくなるように設計される。図3においてレンズ右側の面(R12面)は凹球面であり、チルトによる影響が最小となるように設定される。
【0025】
R11面とR12面の設計方法は、まずR12面をチルトによる影響ができるだけ小さくなるような凹球面形状を任意に設定する。そのときR11面は、R12面の曲率半径を算出する際に得られる曲率半径を持った球面形状とする。その後、R11面を輪帯状に複数の領域(例えば、5つの領域)に区切り、それぞれの領域を光軸上に曲率中心をもつようなそれぞれ異なる曲率をもった球面とし、中心から外に行くに従って球面収差が傾向的に少なくなるように設定する。最後に、R11面の区切った各領域同士を隣り合った領域の面と滑らかに結ぶ非球面式で近似して繋ぎ合わせた形状として設計できる。また、最初に設定したR12面の凹球面形状を必要に応じて調整してもよい。この設計方法のフローを図4に示した。
【0026】
ここでのR11面とR12面の設計は、上記第1の実施形態と同様の手法により行えばよい。ただし、R12面は、第1の実施形態とは異なり凹球面であり、この面のチルトによる影響が小さくなるようにするには、R11面とR12面のベンディングによってR12面におけるザイデルのコマ収差係数が小さくなるような曲率半径を探し出し、凹球面(R12面)の曲率半径として設定すればよい。
【実施例1】
【0027】
図1に示した通りのホモジナイザーを構成した。このとき、レンズ2は上述の第1の実施形態で説明した手法で実際に設計を行い、その結果を以下に示す。
なお、図1に示したレンズと集光位置の距離は75.34mmであり、間にカバーガラスが設けられている。レンズは屈折率nd1.58091、アッベ数νd59.4の光学ガラスからなり、表面にはフッ化マグネシウムMgFの反射防止コーティングが、中心波長が1070nmとなるようにコートされている。トップハットのスポット径は62μmである。図1のレンズ左側の面(R1面)は、凸の非球面であり、近軸曲率半径は62.5mm、円錐定数Kは0、非球面式は下記に示すとおりである。
【0028】
設計手法として図2のフローで示した通り設計した。具体的には、
(1)R2面の設定方法は、先ず近軸曲率半径の設定を行うことから始めるが、ザイデルのコマ収差係数が最良となる曲率半径は70mmと27.8mmの凹形状(レンズとしては凸凹形状)であるところを、プレス成形のし易さや形状測定の便宜を図りつつもコマ収差係数が小さくなる−170.59mmの凸形状(レンズとしては両凸形状)とする。図5にR2面における曲率半径とザイデルのコマ収差係数の関係を示す。次に、上述の近軸曲率半径を固定した状態でスポット径が最小となるように非球面係数を調整することでR2面の非球面形状が得られる。そのときR1面はベンディングによってR2面と一緒に得られた曲率半径を持った球面形状とする。
【0029】
(2)R1面を複数の領域に分割するには、光学設計ソフト(製造元:Radiant ZEMAX,LLC、商品名:ZEMAX)のユーザー定義面「マルチゾーン面」を使用し、分割の径は中心から1.5mm、2.0mm、3.0mm、4.5mm、5.0mmを設定し、分割した各領域の曲率半径は上記(1)でR2面の計算で一緒に得られたR1面の曲率半径56.55mmを仮で一律に与えている。
【0030】
(3)分割した領域を球面とし、中心から外側に行くに従って球面収差が少なくなるように各球面の曲率半径を設定する方法は、先ず第1番目の曲率半径を、その領域の球面収差をSA1、径をD1、焦点距離をf、そして、トップハットのスポット径をDsとするときに、D1の領域で形成される集光位置でのスポット径がDsと一致する条件、すなわちSA1=f*Ds/D1で求められるSA1に大体一致するように調整する。第2以降の曲率半径は基本的には球面収差が徐々に少なくなるよう調整するが、最終的には、第1番目の曲率半径を含めて光線パワー分布が所望の形状になるように調整を行う。調整後の曲率半径は中心から62.5mm、54.0mm、56.0mm、54.7mm、56.0mm、曲率半径調整後における輪帯状の各領域に対する球面収差の関係を図6に示す。
【0031】
(4)これら分割した各面を隣り合った面と滑らかに結ぶ非球面式で近似する方法は、近似前形状の径に対するサグ量のデータ(点群データ)に対して下記に示す非球面式で近似を行うことであるが、その非球面式の近軸曲率半径は第1番目の領域の曲率半径62.5mmとし、円錐定数Kは0とし、そして非球面係数A1〜A14の算出はサグ量から球面成分(y/r)/{1+((1−K)・y/r1/2 }を差し引いた非球面成分によるサグ量と係数A1〜A14からなる連立方程式を解く事によって行った。
【0032】
Z(y)=(y/r)/{1+((1−K )・y/r1/2
+A・y +A・y +A・y +A・y +A・y
+A・y+A・y +A・y +A・y +A10・y10
+A11・y11 +A12・y12 +A13・y13 +A14・y14

(R1面の非球面式)
【表1】

【0033】
図1のレンズ右側の面(R2面)も凸の非球面であり、近軸曲率半径は−170.59mm、円錐定数Kは0、非球面式は下記に示すとおりである。
【0034】
Z(y)=(y/r)/{1+((1−K )・y/r1/2
+A・y +A・y+A・y +A10・y10

(R2面の非球面式)
【表2】

【0035】
このホモジナイザーにおいて、レンズのチルトを0度、0.5度、2度と傾けていった場合のパワー分布をそれぞれ図7、図8、図9に示す。
図7から図9のチルトによる強度変化をX軸、Y軸別にまとめたものを表3に示す。なお、Y軸はチルトするほうの軸、X軸はチルトの中心軸である。強度変化の指標をチルト0度に対するチルト後の強度変化量の割合として定義し、光線パワー分布のトップハット中央部および周辺部それぞれについて算出した。
【0036】
【表3】

【0037】
表3から、本件のホモジナイザーは、チルトが0.5度おきても強度変化は−4%以内、チルトが2度おきた場合でもトップハット周辺部の強度変化は−13%以内であるためチルトに強いことがわかる。トップハット中央部の強度は通常十分にあるものなので、中央部の強度が多少変化しても加工としては問題ない。
【実施例2】
【0038】
実施例2として、第2の実施形態に記載の片面が非球面、もう一方の面が凹球面のレンズを使用した場合を挙げる。
【0039】
図3に示した通りのホモジナイザーを構成した。このとき、レンズ12は上述の第2のホモジナイザーで説明した手法で実際に設計を行い、その結果を以下に示す。
なお、図3に示したレンズと集光位置の距離は75.34mmであり、間にカバーガラスが設けられている。レンズは屈折率nd1.58091、アッベ数νd59.4の光学ガラスからなり、表面にはフッ化マグネシウムMgFの反射防止コーティングが、中心波長が1070nmとなるようにコートされている。トップハットのスポット径は62μmである。図3のレンズ左側の面(R11面)は、凸の非球面であり、近軸曲率半径は28.03mm、円錐定数Kは0、非球面式は下記に示すとおりである。
【0040】
設計手法として図4のフローで示した通り設計した。具体的には、
(1)R12面の設定方法は、ザイデルのコマ収差係数が最良となる曲率半径70mmの凹形状とする。図5にR12面における曲率半径とザイデルのコマ収差係数の関係を示す。そのときR11面はベンディングによってR12面と一緒に得られた曲率半径を持った球面形状とする。
【0041】
(2)R11面を複数の領域に分割するには、光学設計ソフト(製造元:Radiant ZEMAX,LLC、商品名:ZEMAX)のユーザー定義面「マルチゾーン面」を使用し、分割の径は中心から2.0mm、3.0mm、3.5mm、4.0mm、5.0mmを設定し、分割した各領域の曲率半径は上記(1)でR12面の計算で一緒に得られたR11面の曲率半径26.93mmを仮で一律に与えている。
【0042】
(3)分割した領域を球面とし、中心から外側に行くに従って球面収差が少なくなるように各球面の曲率半径を設定する方法は、先ず、第1番目の曲率半径を、その領域の球面収差をSA1、径をD1、焦点距離をf、そして、トップハットのスポット径をDsとするときに、D1の領域で形成される集光位置でのスポット径がDsと一致する条件、すなわちSA1=f*Ds/D1で求められるSA1と大体一致するように調整する。第2以降の曲率半径は基本的には球面収差が徐々に少なくなるよう調整するが、最終的には、第1番目の曲率半径を含めて光線パワー分布が所望の形状になるように調整を行う。調整後の曲率半径は中心から28.03mm、27.12mm、27.33mm、27.19mm、27.25mm、曲率半径調整後における輪帯状の各領域に対する球面収差の関係を図10に示す。
【0043】
(4)これら分割した各面を隣り合った面と滑らかに結ぶ非球面式で近似する方法は、近似前形状の径に対するサグ量のデータ(点群データ)に対して下記に示す非球面式で近似を行うことであるが、その非球面式の近軸曲率半径は第1番目の領域の曲率半径28.03mmとし、円錐定数Kは0とし、そして非球面係数A1〜A14の算出はサグ量から球面成分(y/r)/{1+((1−K)・y/r1/2 }を差し引いた非球面成分によるサグ量と係数A1〜A14からなる連立方程式を解く事によって行った。
【0044】
Z(y)=(y/r)/{1+((1−K )・y/r1/2
+A・y +A・y +A・y +A・y +A・y
+A・y+A・y +A・y +A・y +A10・y10
+A11・y11 +A12・y12 +A13・y13 +A14・y14

(R11面の非球面式)
【表4】

【0045】
図3のレンズ右側の面(R12面)は凹球面であり、Rは70mmである。
【0046】
このホモジナイザーにおいて、レンズのチルトを0度、0.5度、2度と傾けていった場合のパワー分布をそれぞれ図11、図12、図13に示す。
図11から図13のチルトによる強度変化をX軸、Y軸別にまとめたものを表5に示す。なお、Y軸はチルトするほうの軸、X軸はチルトの中心軸である。強度変化の指標をチルト0度に対するチルト後の強度変化量の割合として定義し、光線パワー分布のトップハット中央部および周辺部それぞれについて算出した。
【0047】
【表5】

【0048】
表5から、本件のホモジナイザーは、チルトが0.5度おきても強度変化は−4%以内、チルトが2度おきた場合でもトップハット周辺部の強度変化は−25%以内であるためチルトに強いことがわかる。中央部の強度は十分にあるものなので、中央部の強度変化が多少変化しても加工としては問題ない。
【比較例】
【0049】
特許文献1の実施例1のレンズ(片面非球面、片面平面)について、そのチルトを0度、0.5度、2度と傾けていった場合のパワー分布をそれぞれ図14、図15、図16に示す。
【0050】
図14から図16のチルトによる強度変化をX軸、Y軸別にまとめたものを表6に示す。なお、Y軸はチルトするほうの軸、X軸はチルトの中心軸である。強度変化の指標をチルト0度に対するチルト後の強度変化量の割合として定義し、トップハット部の中央部および周辺部それぞれについて算出した。
【0051】
【表6】

【0052】
(実施例3)
一方、本件の設計方法で特許文献1のレンズと同等の特性となる両凸の両非球面レンズを設計し、その概略構成及び光線のパワー分布を図17に示した。ここで、上段はホモジナイザーの概略構成に加えレーザー光線が集光していく状態を示し(図17(a−1)は図17(a)のレンズ部分を拡大したもの)、下段は集光位置におけるパワー分布を示したものである(図17(b−1)は図17(b)のスポット部分を拡大したもの)。
【0053】
このレンズのチルトを0度、0.5度、2度と傾けていった場合のパワー分布をそれぞれ図18、図19、図20に示す。
【0054】
図17に示したレンズと集光位置の距離は53mmであり、レンズは屈折率nd1.45846、アッベ数νd67.8の光学ガラスからなり、表面にはフッ化マグネシウムMgFの反射防止コーティングが、中心波長が355nmとなるようにコートされている。トップハットのスポット径は30μmである。図17においてレンズ左側の面(R21面)は、凸の非球面であり、近軸曲率半径は33.5mm、円錐定数Kは0、非球面式は下記に示すとおりである。
【0055】
設計手法として実施例1と同様の方法で設計した。具体的には、
(1)R22面の設定方法は、先ず近軸曲率半径の設定を行うことから始めるが、ザイデルのコマ収差係数が最良となる曲率半径は50mmと18mmの凹形状(レンズとしては凸凹形状)であるところを、プレス成形のし易さや形状測定の便宜を図りつつもコマ収差係数が小さくなる−156.21mmの凸形状(レンズとしては両凸形状)とする。図21にR22面における曲率半径とザイデルのコマ収差係数の関係を示す。次に、上述の近軸曲率半径を固定した状態でスポット径が最小となるように非球面係数を調整することでR22面の非球面形状が得られる。そのときR21面はベンディングによってR22面と一緒に得られた曲率半径を持った球面形状とする。
【0056】
(2)R21面を複数の領域に分割するには、光学設計ソフト(製造元:Radiant ZEMAX,LLC、商品名:ZEMAX)のユーザー定義面「マルチゾーン面」を使用し、分割の径は中心から2.0mm、4.0mm、6.0mm、8.0mm、10.0mmを設定し、分割した各領域の曲率半径は上記(1)でR22面の計算で一緒に得られたR21面の曲率半径33.5mmを仮で一律に与えている。
【0057】
(3)分割した領域を球面とし、中心から外側に行くに従って球面収差が少なくなるように各球面の曲率半径を設定する方法は、先ず、第1番目の曲率半径を、その領域の球面収差をSA1、径をD1、焦点距離をf、そして、トップハットのスポット径をDsとするときに、D1の領域で形成される集光位置でのスポット径がDsと一致する条件、すなわちSA1=f*Ds/D1で求められるSA1に大体一致するように調整する。第2以降の曲率半径は基本的には球面収差が徐々に少なくなるよう調整するが、最終的には、第1番目の曲率半径を含めて光線パワー分布が所望の形状になるように調整を行う。調整後の曲率半径は中心から33.5mm、33.49mm、33.484mm、33.485mm、33.43mm、曲率半径調整後における輪帯状の各領域に対する球面収差の関係を図22に示す。
【0058】
(4)これら分割した各面を隣り合った面と滑らかに結ぶ非球面式で近似する方法は、近似前形状の径に対するサグ量のデータ(点群データ)に対して下記に示す非球面式で近似を行うことであるが、その非球面式の近軸曲率半径は第1番目の領域の曲率半径33.5mmとし、円錐定数Kは0とし、そして非球面係数A1〜A14の算出はサグ量から球面成分(y/r)/{1+((1−K )・y/r1/2 }を差し引いた非球面成分によるサグ量と係数A1〜A14からなる連立方程式を解く事によって行った。
【0059】
Z(y)=(y/r)/{1+((1−K)・y/r1/2
+A・y +A・y +A・y +A・y +A・y
+A・y+A・y +A・y +A・y +A10・y10
+A11・y11 +A12・y12 +A13・y13 +A14・y14

(R21面の非球面式)
【表7】

【0060】
図17においてレンズ右側の面(R22面)も凸の非球面であり、近軸曲率半径は−156.21mm、円錐定数Kは0、非球面式は下記に示すとおりである。
【0061】
Z(y)=(y/r)/{1+((1−K)・y/r1/2
+A・y +A・y+A・y +A10・y10

(R22面の非球面式)
【表8】

【0062】
図18から図20のチルトによる強度変化をX軸、Y軸別にまとめたものを表9に示す。なお、Y軸はチルトするほうの軸、X軸はチルトの中心軸である。強度変化の指標をチルト0度に対するチルト後の強度変化量の割合として定義し、トップハット部の中央部および周辺部それぞれについて算出した。
【0063】
【表9】

【0064】
表6と表9の比較から、比較例として挙げた特許文献1の実施例1のホモジナイザーは同一スペックで設計した本件のホモジナイザーと比較して、強度変化の割合がX断面中央部で2倍以上大きく、本発明と比較してチルトに弱いことがわかる。
【0065】
実施例1の非球面レンズを既存の方法(例えば特開2011−132059号に記載の方法)でプレス成形で製造し、ホモジナイザーに組み込み評価し、設計性能が得られることを確認した。
【0066】
上述の実施例1では、片面が凸の非球面もう一方の面が凸の非球面としたが、これに限定されるものではなく、各面の非球面の組合せは凸−凸、凸−凹、凹−凸でも設計可能である。同様に実施例2では、片面が凸の非球面もう一方の面が凹の球面としたが、これに限定されるものではなく、非球面側が凹であっても設計可能である。
【0067】
以上に示したように、本発明によりレンズがチルトしても出力特性の変動が少ないホモジナイザーが得られた。さらに本件のレンズはプレス成形で安価に精度良く製造できるため、レーザー加工装置のコストダウンにも貢献できる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明のホモジナイザーは、レーザービームを利用した加工装置に用いられる。
【符号の説明】
【0069】
1…非球面ホモジナイザー、2…両面非球面レンズ、3…カバーガラス、11…非球面ホモジナイザー、12…片面非球面レンズ、13…カバーガラス、21…非球面ホモジナイザー、22…両面非球面レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平行でエネルギー分布がガウシアン分布である入射ビームを屈折縮小させて、入射ビームの直径よりも小さい直径の範囲において像面に均一エネルギー分布のビームを形成するための1枚のレンズからなるホモジナイザーであって、
前記レンズが、両面非球面であることを特徴とする非球面ホモジナイザー。
【請求項2】
平行でエネルギー分布がガウシアン分布である入射ビームを屈折縮小させて、入射ビームの直径よりも小さい直径の範囲において像面に均一エネルギー分布のビームを形成するための1枚のレンズからなるホモジナイザーであって、
前記レンズが、片面が非球面、もう一方の面が凹の球面であることを特徴とする非球面ホモジナイザー。
【請求項3】
前記レンズの片面側の非球面が、輪帯状に複数の領域に分割されたそれぞれ異なる曲率をもった球面で形成され、これら球面が中心から外に行くに従って球面収差が小さくなるように設計され、かつ、前記各領域同士を隣り合った領域の球面と滑らかに結ぶ非球面式で近似して繋ぎ合わせた請求項1又は2記載の非球面ホモジナイザー。
【請求項4】
前記レンズがプレス成形で得られる請求項1乃至3のいずれか1項記載の非球面ホモジナイザー。
【請求項5】
一方の面に任意の非球面形状を設定し、
他方の面を輪帯状に複数の領域に分割し、
前記分割した各領域をそれぞれ異なる曲率をもった球面であって、中心から外に行くに従って球面収差が少なくなるように球面の曲率を設定し、
前記球面の曲率を設定した各領域同士を隣り合った領域の球面と滑らかに結ぶ非球面式で近似して繋ぎ合せ、
一枚で、平行でエネルギー分布がガウシアン分布である入射ビームを屈折縮小させて、入射ビームの直径よりも小さい直径の範囲において像面に均一エネルギー分布のビームを形成可能なレンズとすることを特徴とするホモジナイザー用非球面レンズの設計方法。
【請求項6】
一方の面に任意の凹球面形状を設定し、
他方の面を輪帯状に複数の領域に分割し、
前記分割した各領域をそれぞれ異なる曲率をもった球面であって、中心から外に行くに従って球面収差が少なくなるように球面の曲率を設定し、
前記球面の曲率を設定した各領域同士を隣り合った領域の球面と滑らかに結ぶ非球面式で近似して繋ぎ合せ、
一枚で、平行でエネルギー分布がガウシアン分布である入射ビームを屈折縮小させて、入射ビームの直径よりも小さい直径の範囲において像面に均一エネルギー分布のビームを形成可能なレンズとすることを特徴とするホモジナイザー用非球面レンズの設計方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2013−29748(P2013−29748A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−166989(P2011−166989)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】