説明

靴下

【課題】 従来の捻挫防止ソックスは、足首が内反する方向の捻りに対して抗力が働くように設計されていないため、内反捻挫の予防効果が不十分であった。
【解決手段】 足背部に他の領域よりも伸縮性が低い帯状の第1低伸縮領域1を設けた靴下を用いる。第1低伸縮領域1は、少なくとも足首屈曲部1dを含み、該足首屈曲部1dよりも下端側は、コース方向の幅に対する中心線Cが徐々に第5趾側へシフトしながら足趾の付け根部まで延設され、下端部1bは、第3趾の付け根部から第5趾の付け根部の範囲に位置するように構成する。
【効果】 第1低伸縮領域1が、足首が内反する方向の捻りに対して抗力が働くように、足の第5趾側から足首屈曲部1dの方向に向けて適度に持ち上げる力を付与するので、内反捻挫を効果的に予防することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、足関節の内反捻挫を予防することができる靴下に関する。
【背景技術】
【0002】
捻挫は、関節の可動部に許容範囲を越えた無理な動きが与えられ、靭帯や関節の周辺部位が損傷を受けた状態をいう。特に足首の捻挫においては、足底の外側(第5趾側)が床面に固定された状態で足首が外側に押し出され、足の裏側を内側に強く捻ることが原因で起きる内反捻挫が80〜90%を占めると言われている。
【0003】
足首が内反の状態になったときに、最も損傷を受け易いのは、外くるぶしの前方で距骨と腓骨を繋いでいる前距腓靭帯である。さらに力が加わり続けると、足首の後方外側にある踵腓靭帯や後距腓靭帯が損傷する場合もある。このように、内反捻挫になると、腓骨、距骨、踵骨の間に張られた靭帯が損傷を受けるため、外くるぶし部に内出血を伴った腫れや痛みが生じて、受傷直後は体重を支えられないことも多い。
【0004】
そこで、従来より、捻挫を防止するための靴下やサポーター等が利用されている。例えば、下記特許文献1には、ふくらはぎ下部、くるぶし上、足の甲の付け根、足指の付け根に、強力なサポート力を持つ弾性繊維を含む糸をリング状に編み込むとともに、これらを縦方向に縦断するように、内外のふくらはぎから足先まで繋がる帯状の非伸縮性部分を設けることにより、足首の必要以上のぶれや捩れを抑制する捻挫抑制ソックスが開示されている。
【特許文献1】特開2001−355101号公報
【0005】
また、下記特許文献2には、靴下の底部内面に土踏まず側から外側に向って上り傾斜のパッドを縫い付けることにより内反捻挫を防止する靴下が開示されている。
【特許文献2】実開平5−37218号公報
【0006】
さらに、下記特許文献3には、下端に第1面ファスナーを備え、上端にファスナー係合部を備え、足裏を通り足の甲に向けて巻回される伸縮性のないベルト部材と、おもて面がファスナー係合面とされ、うら面が装着時に足首付近に面当接する伸縮性を有する当接部材と、この当接部材に取り付けられた第2面ファスナーからなる足首の内反捻挫防止具が開示されている。
【特許文献3】特開2001−238992号公報
【0007】
しかし、特許文献1の靴下は、内外のふくらはぎの位置から足先に至る帯状の非伸縮性部分が、足の動きを出来るだけ真っ直ぐに抑制するのみで、足首が内反する方向の捻りに対して抗力が働くように設計されていないため、内反捻挫を予防する効果は殆ど得られないという問題があった。
【0008】
また、特許文献2の靴下は、靴下の底部内面に土踏まず側から外側に向けて上り傾斜面を有するパッドを設けるため、足が常に内股気味の角度に強制的に保持され、長時間の歩行運動を行うと、足裏の外側の縁部に常に体重がかかって、痛みや疲れが生じ易くなるという問題があった。また、外返しの状態が生じ易くなるので、かえって外反捻挫の危険性が高くなるという問題もあった。
【0009】
さらに、特許文献3の内反捻挫防止具は、ベルトや面ファスナーによる足部への脱着が手間であり、また、この用具の上から靴下を履いたときの異物感は否めないという問題があった。特に高齢者にとっては、かかる用具を足首部に脱着するのは容易ではない上、歩行時における「かかとの着地」→「足底接地時の体重移行」→「つま先による地面の蹴り出し」という一連の歩行運動における足首部の柔軟な屈曲運動を阻害するため、足が疲れ易くなり、物に躓いて転倒するリスクが高まるという問題もあった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、従来の捻挫防止ソックスは、(1)足首が内反する方向の捻りに対して抗力が働くように設計されていないため、内反捻挫の予防効果が不十分であったこと、(2)足底部にパッドを設けるため、痛みや疲れが生じ易く、また、外返しの状態が生じ易くなるため、かえって外反捻挫の危険性が高くなるという問題があったこと、である。
【0011】
また、従来より利用されている内反捻挫防止具は、ベルトや面ファスナーによる脱着が手間であり、特に高齢者にとっては、足が疲れたり、物に躓いて転倒するリスクが高まるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、本発明の靴下は、足背部に他の領域よりも伸縮性が低い帯状の第1低伸縮領域を設けた靴下であって、前記第1低伸縮領域は、少なくとも足首屈曲部を含み、該足首屈曲部よりも下端側は、コース方向の幅に対する中心線が徐々に第5趾側へシフトしながら足趾の付け根部まで延設され、下端部は、第3趾の付け根部から第5趾の付け根部の範囲に位置していることを最も主要な特徴点としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、第1低伸縮領域が、足首が内反する方向の捻りに対して抗力が働くように、足の第5趾側から足首屈曲部の方向に向けて適度に持ち上げる力を付与するので、内反捻挫を効果的に予防することができる。
【0014】
また、本発明の靴下は、足底部にパッドを設けないので、長時間の着用によって足裏の外側の縁部に痛みや疲れが生じたり、外返しの状態が生じ易くなって外反捻挫の危険性が高まることはない。また、本発明の靴下は、通常の靴下と同様に容易に脱着できるので、高齢者であっても使用し易い上、着用時に足首の屈曲運動を阻害しないため、物に躓いて転倒するリスクもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の靴下は、足背部に他の領域よりも伸縮性が低い帯状の第1低伸縮領域を設けた靴下であって、前記第1低伸縮領域は、少なくとも足首屈曲部を含み、該足首屈曲部よりも下端側は、コース方向の幅に対する中心線が徐々に第5趾側へシフトしながら足趾の付け根部まで延設され、下端部は、第3趾の付け根部から第5趾の付け根部の範囲に位置していることを特徴とするものである。
【0016】
本発明では、靴下の口ゴム部側を「上」とし、つま先部側を「下」と呼ぶこととする。したがって、「該足首屈曲部よりも下端側」とは、足首屈曲部よりも、つま先部側の部分を意味する。また、「下端部」とは、第1低伸縮領域の内、つま先部側の先端部分を意味する。
【0017】
「足首屈曲部」とは、足甲部の付け根の位置の、足首が屈曲する部位のことである。本発明の第1低伸縮領域は、少なくとも足首屈曲部を含んでいる。すなわち、第1低伸縮領域の上端は、足首屈曲部に位置しているか、足首屈曲部よりも上方(口ゴム部側)に位置している。
【0018】
第1低伸縮領域は、少なくとも足首屈曲部を含み、該足首屈曲部よりも下端側は、コース方向の幅に対する中心線が徐々に第5趾側へシフトしながら足趾の付け根部まで延設され、下端部は、第3趾の付け根部から第5趾の付け根部の範囲に位置している。こうすることにより、本発明では、第1低伸縮領域が、足の第5趾側を足首屈曲部の方向へ向けて適度に持ち上げるので、内反捻挫を効果的に予防できる。
【0019】
本発明では、第1低伸縮領域の下端付近の第5趾側の側部が、第5中足骨を巻き込むように、足裏側に延設されていることがより望ましい。このように構成すれば、第1低伸縮領域の下端付近の第5趾側寄りの側部を第5中足骨に引っ掛けることにより、足の第5趾側全体を引き上げる力が得られるので、内反捻挫の予防効果が向上する。
【0020】
また、本発明では、第4趾付け根部の甲側から足裏側にかけて、第5足趾骨及び第4足趾骨を巻き込むように、他の領域よりも伸縮性が低い第2低伸縮領域をさらに設け、前記第1低伸縮領域の下端が前記第2低伸縮領域と連続していることがより望ましい。このような第2低伸縮領域を設けることにより、第5足趾骨及び第4足趾骨を含めた足の第5趾側寄りの部分全体をしっかりと引き上げる力が得られるので、内反捻挫の予防効果をより一層、高めることができる。
【0021】
本発明の低伸縮領域は、他の領域よりも伸縮性を低くして構成されるが、具体的には、(1)裏糸を太くしたり、ポリウレタンやゴム糸等の伸縮素材を加えたり挿入するなど、使用する糸で調整する方法、(2)タック編み等の伸縮し難い編み組織で編成したり、編地の度目密度を高くするなど、編成方法で調整する方法、(3)樹脂を付着させて伸縮性を低くする方法などが採用できる。なお、本発明における「低伸縮領域」は、実質的に伸縮しない「非伸縮性領域」も含むものとする。
【0022】
上記3種類の方法の内、樹脂の付着によって伸縮性を低くする方法は、靴下着用時の履き心地を悪くするというデメリットがある。そのため、履き心地を良いものとするためには、使用する糸で調整する方法、編成方法で調整する方法の何れかを採用するか、あるいは、これらの方法を併用する。
【0023】
また、使用する糸で調整する場合は、フィット感を高める程度に伸縮性が抑制されるのに対し、編成方法で調整する場合は、使用する糸で調整する方法よりも伸縮性を抑制する効果を高めることができる。具体的には、タック編で編成する方法が採用できる。
【0024】
そこで、本発明では、第1低伸縮領域と第2低伸縮領域は、タック編により編成することが望ましい。第1〜第2低伸縮領域は、伸縮性をなるべく低減させる方が、内反捻挫の予防効果が顕著に表れるからである。また、さらに望ましくは、タック編で編成の上、ウーリーナイロン糸を挿入する方法が採用できる。
【0025】
また、靴下非着用時における前記第1低伸縮領域のコース方向の幅は、4cm以上5cm以下の範囲とすることが、より望ましい。前述のとおり、上端側は少なくとも足首屈曲部を通り、下端側は第5趾側へと傾斜させた第1低伸縮領域を設けることにより内反防止方向へ力を働かせることができるが、この第1低伸縮領域のコース方向の幅が4cm未満となると、内反防止方向へ働く力が弱まり、内反捻挫防止効果が得られなくおそれが徐々に高くなる。一方、第1低伸縮領域のコース方向の幅が5cmよりも大きくなると、徐々に着用時に圧迫感を感じるようになり、靴下の脱着もしづらくなるからである。なお、これらは、本発明者らが試行錯誤を繰り返した結果、得られた数値である。
【0026】
本発明の靴下は、上記のような第1低伸縮領域を設けることを基本構成とするものであるが、長時間の歩行や運動時においても確実に効果を発揮するためには、第1低伸縮領域のずれを防止し、常に正しい位置を保つことが重要となる。
【0027】
そこで、本発明では、脹脛下部付近に、他の領域よりも伸縮性の低い第3低伸縮領域をさらに周設するとともに、前記第1低伸縮領域の上端が前記第3低伸縮領域と連続するように構成することが、より望ましい。こうすることにより、第3低伸縮領域がテーピングのアンカーの役割を果たし、第1低伸縮領域の上端部のずり落ちや左右のずれを防止することができるため、長時間の歩行や運動時においても第1低伸縮領域による内反捻挫予防効果が維持される。
【0028】
また、上記のように第3低伸縮領域を設ける場合、靴下非着用時における第3低伸縮領域のウェール方向の幅は、3cm以上とすることが望ましい。着用者の足の形状や太さにもよるが、平均的に見て、3cm未満の場合は、アンカーの機能を十分に果たせず、第1低伸縮領域のずり落ちが発生する可能性が高くなってしまうからである。なお、3cm以上であれば、第1低伸縮領域のずり落ち防止効果は得られるため、上限は特にない。
【0029】
また、本発明では、上記と同様の理由から、足趾の付け根部付近に、他の領域よりも伸縮性の低い第4低伸縮領域をさらに周設するとともに、前記第1低伸縮領域の下端が前記第4低伸縮領域と連続するように構成することが、より望ましい。このようにすれば、第4低伸縮領域がテーピングのアンカーの役割を果たし、第1低伸縮領域の下端部の左右方向のずれを防止できる。
【0030】
なお、本発明において、「他の領域」とは、第1〜第4低伸縮領域を設けていない、それ以外の領域をいう。
【0031】
本発明の靴下は、通常の靴下と同様に指袋のないつま先部とすることも可能であるが、長時間の歩行や運動を行うと、つま先部がコース方向に回転し、第1低伸縮領域の位置がずれてしまう可能性がある。
【0032】
そこで、本発明では、つま先部に指袋を少なくとも2つ以上設けることが、より望ましい。指袋を設けることにより、つま先部のコース方向の回転が抑制され、第1低伸縮領域の位置を保つことができるからである。指袋の数は、多くする程つま先部の回転抑制効果は徐々に大きくなるが、2つ設ければ、ほぼ十分な回転抑制効果が得られる。脱着のし易さや生産性も考慮すると、指袋を2つ設けた二股構造とすることが最も望ましい。
【0033】
また、本発明では、つま先部とかかと部を、夫々パイル編にて編成する方が望ましい。着地時に体重圧がかかる踵部と、蹴り出し時に体重圧がかかるつま先部を、共にパイル構造とすることで、歩行や運動による疲労を軽減できるからである。なお、内反捻挫は、長時間の歩行や運動による足の疲れが原因で徐々に歩行のリズムが崩れた場合に発生のリスクが高まるため、足の疲労を軽減することは、間接的に、内反捻挫のリスクを低減することにも繋がるものである。
【0034】
前述したように、本発明の靴下では、第1低伸縮領域の位置がずれないように維持することが重要である。しかし、足裏の趾球部一体は、丸みを帯びて張り出している上、歩行によって屈曲する部分であるため、足裏の趾球部一体を平面状に編み立てた場合は、突っ張り感が出やすく、それが原因で生地が引っ張られて、第1低伸縮領域の位置がずれてしまう場合がある。
【0035】
そこで、本発明では、足裏趾球部を包み込むように、編地のコース数を増やしたコース数増加領域を設けるとともに、前記コース数増加領域をパイル編とすることが、より望ましい。このようにすれば、足裏趾球部一体の形状に沿うようになり生地の突っ張り感が解消されるので、第1低伸縮領域の位置を維持することができる。また、併せて、コース数増加領域をパイル編とすることで、長時間の歩行や運動を行った際の足の疲労を軽減することもできる。
【0036】
なお、前述のとおり、第1〜第4低伸縮領域は、樹脂の付着によって伸縮性を低くすることも可能であるが、生産性や着用時の履き心地、脱着のし易さ等を考慮すると、第1〜第4低伸縮領域は、靴下全体の編立と同時に編み組織によって編成する方が良い。
【0037】
また、前述のとおり、第1〜第2低伸縮領域は、タック編により編成することで伸縮性を強く抑制する方が望ましいが、第1〜第2低伸縮領域の位置がずれないようにするために設ける第3〜第4低伸縮領域については、ウーリーナイロン糸やゴム糸等の伸縮素材の挿入のみとし、編成方法による調整は行わない方が良い。本発明の目的を達成するためには、第1〜第2低伸縮領域の伸縮性を強く抑制すれば十分であり、特に高年齢者が着用する場合を考慮すると、余分な締め付け感は、極力排除した方が良いからである。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の靴下を、実施例に基づいて更に詳細に説明する。図1は、第1低伸縮領域のみを備えた実施例1の靴下の足背部側を示した説明図、図2は、実施例1の靴下の斜視図、図3は、実施例1の靴下の足裏側を示した説明図、図4は、第1〜第4低伸縮領域を備えた実施例2(本発明の最良の形態)の斜視図、図5は、実施例2の靴下の足背部側を示した説明図、図6は、実施例2の靴下の足裏側を示した説明図、図7は、実施例2の靴下を側面方向から見た説明図、図8は、人の右足の骨を足底側から見た状態を表した説明図、図9は、人の右足の骨を足背部側から見た状態を表した説明図である。
【0039】
実施例1の靴下Sは、通常のシングルシリンダー・K式靴下編機を使用して、図1に示すように、口ゴム部8からつま先部5までを連続して一体に編み立てた。1は、靴下Sの足背部に設けた帯状の第1低伸縮領域を示しており、タック編で編成するとともに、表糸に220Dウーリーナイロン糸を使用することで、他の領域よりも伸縮性を低くしている。なお、第1低伸縮領域1以外の領域は、表糸に、32/−綿アクリル紡績糸を使用している。裏糸は、30/75エステル巻FTYを共通して使用している。
【0040】
図1において、1dは足首屈曲部を、1bは第1低伸縮領域1の下端部を示している。また、点線Cは、第1低伸縮領域1のコース方向の幅に対する中心線を示している。実施例1の靴下は、図1に示すように、足背部に他の領域よりも伸縮性が低い帯状の第1低伸縮領域1を設けたもので、この第1低伸縮領域1は、少なくとも足首屈曲部1dを含み、該足首屈曲部1dよりも下端側は、コース方向の幅に対する中心線Cが徐々に第5趾側へシフトしながら足趾の付け根部まで延設され、下端部1bは、第3趾の付け根部から第5趾の付け根部の範囲に位置している点に特徴がある。
【0041】
第1低伸縮領域1は、少なくとも足首屈曲部1dを含んでいれば本発明の効果が得られるので、足首屈曲部1dの位置を第1低伸縮領域1の上端部とすることも可能であるが、足首の屈曲によって第1低伸縮領域1の位置がずれるのを防止するためには、上方へやや吊り上げる方が望ましいので、実施例1では、図1に示すように、足首屈曲部1dよりも5cm上方の位置に、第1低伸縮領域1の上端部1aが位置するように構成した。
【0042】
このように構成することにより、第3趾の付け根部から第5趾の付け根部の範囲に位置している下端部1bを、図2に示すように、第1低伸縮領域1の方向に沿って、足首屈曲部1dの方向へ引っ張る方向に力(P)を働かせることができる。この力Pをベクトルとして左右方向(コース方向)と上下方向(ウェール方向)に分割すると、図2に示す通りP2とP3に分割することができ、内反防止方向(P2)と背屈補助方向(P3)に力が働くことが分かる。なお、6は、靴下Sのかかと部を示している。
【0043】
ここで、第1低伸縮領域1の下端部1bの中央部1b1の位置に注目すると、下端部中央部1b1の位置を第3趾の付け根部側へずらすほど、内反防止方向(P2)へ働く力は弱くなるとともに背屈補助方向(P3)へ働く力が強くなる。下端中央部1b1が第3趾の付け根部に位置するようにした場合は、左右方向の傾斜は完全に無くなり、背屈補助方向(P3)へのみ力が働くようになる。内反捻挫予防の機能を効果的に得るためには、第1低伸縮領域1の下端中央部1b1は、第4趾の付け根部に対応する位置に設けることが望ましく、実施例1の靴下は、そのような構造となっている。
【0044】
なお、第1低伸縮領域1の上端部1aの中央部1a1は、図1に示すように、足の脛部分の中央部と一致しており、左右何れにもシフトしていない。
【0045】
図1において、1cは、第1低伸縮領域1の下端付近の第5趾側の側部を示している。足裏側から見た状態を示す図3を見れば明らかなように、実施例1の靴下Sでは、第1低伸縮領域1の下端付近の第5趾側の側部1cは、第5中足骨を巻き込むように、足裏側に延設されている。
【0046】
ここで、図8は、人の右足の骨を足底側から見た状態を表した図である。図8に示すように、人の足を構成する骨は、足趾骨A1、中足骨A2、足根骨A3に大別される。そして、拇趾側の中足骨(A21)は第1中足骨、第5趾側の中足骨(A22)は第5中足骨と呼ばれている。
【0047】
図9は、人の右足の骨を足背部側から見た状態を表した説明図であり、第5中足骨A22と、第1低伸縮領域1の下端付近の第5趾側の側部1cの位置関係が、オーバーラップしていることを示している。
【0048】
このように、本発明では、第1低伸縮領域の下端付近の第5趾側の側部1cが、第5中足骨A22を巻き込むように、足裏側に延設されていることがより望ましい。このようにすれば、第1低伸縮領域の下端付近の第5趾側寄りの側部1cを第5中足骨A22に引っ掛けることにより、足の第5趾側全体を引き上げる力が得られ、内反捻挫の予防効果が向上するからである。
【0049】
続いて図4に示すように、実施例1の靴下に、第2低伸縮領域2、第3低伸縮領域4、第4低伸縮領域4をさらに設けた実施例2の靴下の構成を説明する。
【0050】
実施例2の靴下Sは、図5〜図6に示すように、第4趾付け根部の甲側から足裏側にかけて、第5足趾骨及び第4足趾骨を巻き込むように、他の領域よりも伸縮性が低い第2低伸縮領域2をさらに設け、第1低伸縮領域1の下端が第2低伸縮領域2と連続するように構成している。このように、第2低伸縮領域2を設けることにより、第5足趾骨及び第4足趾骨を含めた足の第5趾側寄りの部分全体をしっかりと引き上げる力が得られるので、内反捻挫の予防効果をより一層、高めることができる。
【0051】
第1低伸縮領域1と第2低伸縮領域2の編成方法は、共に、伸縮性の少ないタック編を採用した。また、さらにウーリーナイロン糸を挿入して、伸縮性を抑制した。第1〜第2低伸縮領域は、内反防止方向への直接的な作用があるため、伸縮性をなるべく低減させる方が、内反捻挫の予防効果が顕著に表れるからである。
【0052】
また、本実施例では、内反防止方向への力の働きと、着用時の圧迫感、脱着のしやすさのバランスを考慮して、靴下非着用時における第1低伸縮領域1のコース方向の幅は4.5cmとした。4cm以上5cm以下の範囲が望ましいことは、既に説明したとおりである。
【0053】
実施例2の靴下Sは、図5〜図6に示すように、脹脛下部付近に、他の領域よりも伸縮性の低い第3低伸縮領域3をさらに周設するとともに、第1低伸縮領域1の上端が第3低伸縮領域3と連続するように構成した。こうすることにより、第3低伸縮領域3がアンカーの役割を果たし、第1低伸縮領域1の上端部のずり落ちや左右のずれを防止することができるため、長時間の歩行や運動時においても第1低伸縮領域1による内反捻挫予防効果が維持される。
【0054】
第3低伸縮領域3は、靴下非着用時における第3低伸縮領域のウェール方向の幅が4cmとなるようにした。前述のとおり3cm以上であればアンカーとしての効果は得られるが、着用時の不要な圧迫感の回避と脱着の容易さを考慮して、4cmに設定した。なお、第3低伸縮領域3は、ウーリーナイロン糸を挿入することにより、伸縮性を適度に低くした。
【0055】
また、実施例2の靴下Sは、上記と同様の理由から、足趾の付け根部付近に、他の領域よりも伸縮性の低い第4低伸縮領域4をさらに周設するとともに、第1低伸縮領域1の下端が第4低伸縮領域4と連続するように構成した。これにより、第4低伸縮領域4がアンカーの役割を果たし、第1低伸縮領域1の下端部の左右方向のずれを防止できる。なお、第4低伸縮領域4は、ウーリーナイロン糸を挿入することにより、伸縮性を適度に低くした。
【0056】
本実施例の靴下Sは、図5〜図6に示すように、つま先部を、拇趾用の指袋5aとそれ以外の趾用の指袋5bとに分け、二股構造とした。指袋5a,5bを設けることにより、つま先部のコース方向の回転が抑制され、激しい運動を行った場合でも、第1低伸縮領域1の位置を保持することができる。指袋の数は、3以上でも構わず、多くする程つま先部の回転抑制効果は徐々に大きくなるが、2つ設ければ、ほぼ十分な回転抑制効果が得られる。脱着のし易さや生産性も考慮すると、指袋を2つ設けた実施例2の構成が最も望ましい。
【0057】
実施例2の靴下Sは、つま先部5a,5bと、かかと部6の内側面を、夫々パイル編で編成した。パイル編のクッションが歩行や運動の際の衝撃を吸収するので、足の疲労を軽減することができる。
【0058】
図7は、実施例2の靴下Sを、第5趾側の側面から見た状態を示した説明図である。実施例2の靴下Sでは、足裏趾球部を包み込むように、編地のコース数を増やしたコース数増加領域7を設けるとともに、コース数増加領域7の内側面をパイル編としている。増加させるコース数は、足裏趾球部一体を包み込む程度の大きさであれば良いが、極端に大きいと逆にたるみが生じて歩行運動の阻害に繋がるので注意が必要であり、小さすぎると突っ張り感の解消効果が出ない。本実施例では、紳士用サイズとする場合は40コース分、婦人用サイズとする場合は36コース分の編地を増加させた。
【0059】
こうすることにより、コース数増加領域7が足裏趾球部一体の形状に沿うようになり、生地の突っ張り感が解消されるので、第1低伸縮領域1の位置を維持することができる。また、併せてコース数増加領域7をパイル編としたので、長時間の歩行や運動を行った際でも、足の疲労を軽減できる。
【0060】
次に、本発明の靴下の効果を確認するために行った歩行時関節角度計測試験について、説明する。この試験では、被検者が左下肢部の外側面に図10に示すように電気角度計を取り付けた状態で、図11に示すように床上を歩行したときの足首の関節角度の変化の平均値を求めた。第1〜第4低伸縮領域を有さない比較例の靴下を履いた場合と、実施例2の靴下を履いた場合で、データを比較した。結果は、図12のグラフに示すとおりとなった。
【0061】
図12のグラフの縦軸は角度(deg) であり、単位は「°」である。縦軸の「0」よりも下方の「−」の値の部分は外反方向(内反防止方向)の角度を、「0」よりも上方の「+」の値の部分は内反方向の角度を示しているため、この試験では、グラフの線が「0」よりも下方へ振れるほど、内反捻挫を防止する効果が高いことを示している。
【0062】
図12のグラフの横軸は立脚相の時間帯の相対的な割合であり、単位は「%」である。なお、立脚相は、歩行の周期において、足のつま先から踵までの一部あるいは全部が床面に接触している時間帯のことである。通常は、歩行の一周期の約6割の時間を占めると言われており、より細かくは、図12に示すように、踵接地期、足底接地期、踵離地期、足指離地期の各段階に分けることができる。
【0063】
図12のグラフにより明らかなように、本発明の靴下を履いて歩行した場合は、踵接地期から足指離地期に至るまでの全ての段階で、通常の靴下を履いて歩行した場合よりも、足関節を外反方向(内反防止方向)へ回転する力が高いことが確認された。これにより、本発明の靴下は、内反捻挫を防止する優れた効果を有することが確認された。
【0064】
本発明は上記実施例に限らず、各請求項に記載された技術的思想の範囲内で、適宜実施の形態を変更しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の靴下は、一般用に限らず、高齢者用の靴下や、スポーツ選手用の靴下にも適用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】第1低伸縮領域のみを備えた実施例1の靴下の足背部側を示した説明図である。
【図2】実施例1の靴下の斜視図である。
【図3】実施例1の靴下の足裏側を示した説明図である。
【図4】第1〜第4低伸縮領域を備えた実施例2(本発明の最良の形態)の斜視図である。
【図5】実施例2の靴下の足背部側を示した説明図である。
【図6】実施例2の靴下の足裏側を示した説明図である。
【図7】実施例2の靴下を側面方向から見た説明図である。
【図8】人の右足の骨を足底側から見た状態を表した説明図である。
【図9】人の右足の骨を足背部側から見た状態を表した説明図である。
【図10】歩行時関節角度計測試験における電気角度計の取付け位置を説明する図である。
【図11】歩行時関節角度計測試験における被試者の歩行方向などを説明する図である。
【図12】歩行時関節角度計測試験の結果を表したグラフである。
【符号の説明】
【0067】
S 靴下
1 第1低伸縮領域
1b 第1低伸縮領域の下端部
1c 第1低伸縮領域の下端付近の第5趾側の側部
1d 足首屈曲部
C 第1低伸縮領域のコース方向の幅に対する中心線
2 第2低伸縮領域
3 第3低伸縮領域
4 第4低伸縮領域
5 つま先部
5a,5b 指袋
6 かかと部
7 コース数増加領域
A22 第5中足骨


【特許請求の範囲】
【請求項1】
足背部に他の領域よりも伸縮性が低い帯状の第1低伸縮領域を設けた靴下であって、
前記第1低伸縮領域は、
少なくとも足首屈曲部を含み、
該足首屈曲部よりも下端側は、コース方向の幅に対する中心線が徐々に第5趾側へシフトしながら足趾の付け根部まで延設され、
下端部は、第3趾の付け根部から第5趾の付け根部の範囲に位置していること、
を特徴とする靴下。
【請求項2】
前記第1低伸縮領域の下端付近の第5趾側の側部が、第5中足骨を巻き込むように、足裏側に延設されていることを特徴とする請求項1に記載の靴下。
【請求項3】
第4趾付け根部の甲側から足裏側にかけて、第5足趾骨及び第4足趾骨を巻き込むように、他の領域よりも伸縮性が低い第2低伸縮領域をさらに設け、前記第1低伸縮領域の下端が前記第2低伸縮領域と連続していることを特徴とする請求項2に記載の靴下。
【請求項4】
前記第1低伸縮領域と前記第2低伸縮領域を、タック編により編成したことを特徴とする請求項3に記載の靴下。
【請求項5】
靴下非着用時における前記第1低伸縮領域のコース方向の幅が、4cm以上5cm以下の範囲であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の靴下。
【請求項6】
脹脛下部付近に、他の領域よりも伸縮性の低い第3低伸縮領域をさらに周設するとともに、前記第1低伸縮領域の上端が前記第3低伸縮領域と連続していることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の靴下。
【請求項7】
靴下非着用時における前記第3低伸縮領域のウェール方向の幅が、3cm以上であることを特徴とする請求項6に記載の靴下。
【請求項8】
足趾の付け根部付近に、他の領域よりも伸縮性の低い第4低伸縮領域をさらに周設するとともに、前記第1低伸縮領域の下端が前記第4低伸縮領域と連続していることを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載の靴下。
【請求項9】
つま先部に指袋を少なくとも2つ以上設けたことを特徴とする請求項1〜8の何れかに記載の靴下。
【請求項10】
つま先部とかかと部を、夫々パイル編にて編成したことを特徴とする請求項1〜9の何れかに記載の靴下。
【請求項11】
足裏趾球部を包み込むように、編地のコース数を増やしたコース数増加領域を設けるとともに、前記コース数増加領域をパイル編としたことを特徴とする請求項1〜10の何れかに記載の靴下。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2009−275300(P2009−275300A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−125183(P2008−125183)
【出願日】平成20年5月12日(2008.5.12)
【出願人】(592154411)岡本株式会社 (29)
【Fターム(参考)】