説明

高炉樋流し込み施工用耐火物

【目的】 高炉樋の内張りにおいて、特にメタルライン部の耐食性に優れた効果を発揮する流し込み施工用耐火物を提供する。
【構成】 MgO・Al23系スピネル、アルミナ、炭化珪素、炭素およびアルミナセメントを含む配合物100wt%に対し、粒径10〜50mmのMgO・Al23系スピネル粗大粒子またはジルコニア粗大粒子を外掛け10〜40wt%と、分散剤とを添加してなる、高炉樋流し込み施工用耐火物である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、高炉樋の内張りにおいて、特にメタルライン部の耐食性に優れた効果を発揮する流し込み施工用耐火物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】高炉の出銑孔から排出された銑鉄およびスラグは、その比重差のためにに樋内で直ちに分離する。図1は高炉樋において、その長さ方向に対して直角の断面図であり、銑鉄とスラグとの分離状態を模式的に示したものである。また、同図において、左側は通銑時、右側は貯銑時である。
【0003】樋の内張り部分のうち銑鉄(1)、スラグ(2)および耐火物(3)の共存点は、一般にメタルライン(4)と称されている。一方、スラグ(2)、大気および耐火物(3)の共存点は、スラグライン(5)と称される。メタルライン(4)とスラグライン(5)はいずれも、溶銑面の推移によって、上下方向に一定の幅をもって他の部分より先行して溶損される。
【0004】メタルラインが先行して溶損される理由は、銑鉄とスラグとがその境界面で反応して生成したFeOが、耐火物中のSiO2 、SiC、Al23などの成分と反応し、低融物質を生成するためと考えられる。特にSiO2 との反応による低融物の生成が顕著である。
【0005】高炉樋の内張り材において、メタルライン用の流し込み施工用耐火物(以下、流し込み材と称す)は、従来、アルミナ−炭化珪素−炭素質が主流であるが、メタルライン部の溶損メカニズムの解明によって、FeOと反応し難いMgO・Al23系スピネル(以下、スピネルと称す)を主材としたスピネル−炭化珪素−炭素質が提案されている。例えば特開昭52−147610号公報、特開平5−339065号公報などに見られるとおりである。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、最近の高炉の操業条件の過酷化により、特にメタルラインにおいては、このスピネル質であっても十分なものではない。本発明は、従来材質よりさらに耐食性に優れた流し込み材を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、MgO・Al23系スピネル、アルミナ、炭化珪素、炭素およびアルミナセメントを含む高炉樋流し込み施工用耐火物に、MgO・Al23系スピネル粗大粒子またはジルコニア粗大粒子を添加するとメタルラインの耐食性が格段に向上することを知り、本発明を導き出すに至ったものである。
【0008】
【作用】図2はFeOと各種耐火性酸化物との混合物を加熱した場合にその混合物が溶融して融液を生成する時の温度を示している。この図から明らかなように、MgOとZrO2の融液生成温度は、MgO、ZrO2の割合が多くなるほど高くなるのに対し、SiO2 とAl23は割合が多くなっても大きな変化はない。本発明においてスピネル粗大粒子またはジルコニア粗大粒子の添加がメタルラインの耐食性向上に効果があるのは、この図からMgOまたはZrO2 がFeOとの共存下において、融液生成温度が高いことによると考えられる。
【0009】MgOは、施工水分による水和によって施工体強度を低下させる。そこで本発明では、MgOをAl23との化合物であるMgO・Al23系スピネルの形で使用する。MgO含有量が30wt%以下のスピネルは水和がほとんど見られず、施工体強度への影響もない。
【0010】溶鋼容器内張り用としての流し込み材において、亀裂進展を防止することを目的として、アルミナまたはスピネルよりなる粗大粒子を添加することは公知である。しかしながら、スピネル−炭化珪素−炭素系の流し込み材において、スピネル粗大粒子またはジルコニア粗大粒子を添加すること、およびそれによる高炉樋メタルラインの耐食性向上については知られていない。
【0011】スピネル50wt%、アルミナ20wt%、炭化珪素15wt%、ピッチ5wt%、アルミナセメント5wt%よりなる配合物に、粒径20〜40mmのスピネル、ジルコニアまたはアルミナよりなる粗大粒子を外掛け0〜50wt%と、分散剤を外掛け0.1wt%を添加した流し込み材において、粗大粒子の添加量とメタルラインの耐食性の関係を試験し、その結果をグラフに示したものが図3である。なお、ここでのメタルラインの耐食性の試験は、高周波誘導炉を用い、後述の実施例の欄に示す方法と同様にして行ったものである。
【0012】図3の結果からも、スピネル粗大粒子またはジルコニア粗大粒子の添加量の増加に伴って耐食性が向上することが確認される。これに対し、アルミナの粗大粒子の添加では顕著な効果がない。
【0013】高炉樋流し込み材において、炭化珪素は耐スポーリング性および耐酸化性の重要な役割を持つ。しかし、使用温度である1500℃程度の高温下において、炭化珪素が樋材組織の内部を満たしているCOガス雰囲気で酸化され、SiC+2CO→SiO2+3Cの反応でSiO2が生成する。そして、このSiO2 がスピネル成分との反応でMgO−Al23−SiO2 系低融物を生成する結果、溶銑温度が高いなどの操業条件が厳しい場合は、スピネル質の流し込み材は耐食性において十分な効果が発揮されない。
【0014】これに対しスピネル粗大粒子は、粗大粒子のために比表面積が小さく、SiO2成分との反応性が低く、耐食性の低下の原因となる低融物の生成が少ない。これにより、スピネルがもつ耐食性の効果がいかんなく発揮される。
【0015】また、ジルコニア粗大粒子は、材質自体が高融点であり、SiCがCOガス雰囲気で酸化されて生成するSiO2 との反応性がなく、しかも銑鉄とスラグとが境界面で反応して生成したFeOに対する耐食性も高いため、メタルラインでの耐食性に優れる。
【0016】以下、本発明をさらに詳細に説明する。本発明において基本配合物となるスピネル、アルミナ、炭化珪素、炭素およびアルミナセメントは、その粒度および配合割合ともに、従来材質と特に変わりない。
【0017】本発明においてスピネルは、基本配合の骨材部と、粗大粒子に使用する。電融品、焼結品のいずれでもよい。スピネルを構成するMgOおよびAl23の割合は、理論組成に限らず、例えばMgO:5〜30wt%、Al23:95〜70wt%のものが使用できる。
【0018】基本配合の骨材に使用されるスピネルは、メタルラインで生成すると考えられるFeO成分に対する耐食性向上の効果を持つことは前述のとおりである。基本配合の骨材に使用されるスピネルの粒径は、最大粒径を10mm未満とする。後述する炭化珪素および炭素が微粒のために、密充填組織を得るための粒度構成上、主として粗粒および中粒に使用するのが好ましい。また、SiCから生成するSiO2 との反応を抑制するためにも微粒としての使用は極力少ないことが好ましい。
【0019】炭化珪素は低熱膨張性の材料であり、耐スポール性を付与する効果をもつ。従って流し込み材に加熱、冷却を繰り返した時のキレツ発生の防止に役立つ。また、その濡れ性の悪さから、耐火物組織内への銑鉄・スラグ進入防止の役割をもつ。これらの効果を十分に発揮させるには、粒径1mm以下の微粒、さらに好ましくは0.3mm以下で使用するのが好ましい。炭化珪素の配合割合は、5〜25wt%が好ましい。5wt%未満では上述の炭化珪素による効果が得られず、25%を超えるとメタルライン材としてFeOに対する侵食傾向が増大し、耐食性に劣る。
【0020】アルミナは容積安定性に優れた材料であり、耐火物組織を強化させる効果を持つ。電融品、焼結品、仮焼品のいずれでも使用できる。粒度は微粉または超微粉を主体に使用するのが好ましい。その好ましい配合割合は、5〜50wt%であり、5wt%未満では組織強度が十分ではなく、50wt%を超えるとその分、スピネルの使用量が少なくなって耐食性が低下する。
【0021】炭素は、溶銑・スラグに対して濡れにくいことから、銑鉄・スラグの進入防止の効果が大である。また、耐スポーリング性にも大きな効果をもつ。具体的な種類は、ピッチ、カーボンブラック、ピッチコークス、コークス、土状黒鉛、リン状黒鉛などであり、これらから選ばれる一種または二種以上を使用する。その配合割合は0.5〜10wt%が好ましい。0.5wt%未満では銑鉄・スラグの進入防止能および耐スポール性が十分でない。10wt%を超えると耐酸化性が低下し、耐食性が低下する。
【0022】凝集剤として、アルミナセメントを使用する。アルミナセメントとしては構成成分であるCaOの含有量が10〜30wt%のアルミナセメントを使用するのが好ましい。その配合割合は0.5〜10wt%が好ましい。0.5wt%未満では施工体強度に劣り、10wt%を超えると耐食性が低下する。
【0023】本発明の材質は、以上の配合物100wt%に対する割合で、粒径10〜50mmの粗大粒子を外掛け10〜40wt%添加する。粗大粒子の材質は、スピネル、ジルコニアまたはその併用とする。粗大粒子の割合は、外掛けで10wt%未満では耐食性向上の効果が不十分であり、40%wt以上では流し込み施工時の流動性が低下して好ましくない。また、粗大粒子はその粒径が50mmを超えると流し込み材との馴じみが悪くなり、流し込み材との分離によって施工体の強度が低下する。
【0024】本発明はスピネル粗大粒子および/またはジルコニア粗大粒子を外掛け10〜40wt%添加している限り、他の材質の粗大粒子を30wt%以下の範囲で組合せて使用してもよい。他の材質の粗大粒子としては、例えばアルミナ、水和防止処理をしたマグネシア、各種レンガ屑などである。しかし、このその他材質の粗大粒子を組み合わせて使用する場合も、粗大粒子の割合は合量で10〜40wt%であることが必要である。
【0025】本発明で使用する粗大粒子は、焼結品、電融品のいずれでも使用可能であるが、電融品の方が耐食性の面でより好ましい。この理由として、結晶の発達度合いが原因していると考えられる。すなわち、スピネルを例に挙げると、電融法で製造した場合、結晶のサイズは500μm程度と大きく、一方の焼結法で製造したものは20μm程度と小さい。結晶の大きい粒子は、換言すれば各結晶間の境界部分が少ない。そして、不純物成分の集積しやすい境界部分が少ないことは粒子として侵食され難い。焼結法で製造すると各結晶間の境界部分が多く、電融法で製造した粒子に比較するとその耐食性に劣る。
【0026】分散剤は、施工時の流動性を付与するためにを添加する。その具体的な材質およびその添加割合は従来の流し込み材に使用されるもので足りる。例えば縮合リン酸塩、カルボン酸塩、リグニンスルフォン酸塩などから選ばれる一種または二種以上を、外掛けで0.01〜0.5wt%程度添加する。
【0027】本発明では、焼結剤、乾燥爆裂防止剤、シリカ超微粉、粘土、ファイバー類などを添加してもよい。施工面から、特に乾燥爆裂防止剤の添加が有効である。乾燥爆裂防止剤としてはアルミニウム等の金属粉、アゾジカルボンアミドなどの有機発泡剤などの使用が好ましい。その好ましい添加割合は、金属粉の場合では0.05〜5wt%、有機発泡剤では0.05〜1wt%である。
【0028】施工方法は、中子を用いて高炉樋に直接流し込み施工する。内張材全体を同一材質にしてもよいが、本発明の材質の効果をより顕著に発揮させるには、本発明の材質をメタルライン以下の部分に内張りし、それより上方は例えばスラグラインに対して耐食性に優れた材質にする二層構造にするのが好ましい。
【0029】
【実施例】表1に、本発明実施例および比較例で使用した粗大粒子の化学分析値を示す。表2および表3に本発明実施例とその比較例を示す。各例はそれぞれの材質に合わせて適量の添加水分を添加し、混練後、流し込み施工した。試験方法はつぎのとおりである。
流動性;JIS・5201に準じて測定した。
気孔率;JIS・R2205−74に準じて測定した。
【0030】
【表1】


【0031】
【表2A】


【0032】
【表2B】


【0033】
【表2C】


【0034】
【表3A】


【0035】
【表3B】


【0036】耐食性;各例の材質を高周波誘導炉の内周に、周方向に区分けして内張りし、重量比で銑鉄100:スラグ5の混合物を溶剤とし、溶鉄温度を1600℃にて30分保定後、スラグのみを排出して再び新しいスラグを投入し、さらに30分保定する。このスラグの交換を9回くり返して内張りを溶損させた。そのメタルラインである、銑鉄とスラグの界面部分の溶損寸法を測定し、比較例1を100とした指数で表した。
実機試験:高炉樋のメタルライン部に実際に内張りし、溶損速度(溶銑1000t通銑あたりの溶損寸法)を測定した。なお、試験データが空欄のものは試験しなかったものである。
【0037】実施例1〜9は、いずれも耐食性に優れている。一方、比較例1、2、9は耐食性向上効果がなく、3〜8、10〜12は耐食性が悪化している。
【0038】実施例1〜4は焼結スピネル−アルミナ−炭化珪素−炭素質流し込み材に焼結スピネル、電融スピネルB、電融スピネルAの粗大粒子を添加したものであるが、そのいずれも耐食性が向上しており、その向上効果は電融スピネルの方が焼結スピネルより大きくなっている。
【0039】比較例1は粗大粒子を添加していないもので耐食性評価の基準とした流し込み材である。比較例2〜3は粗大粒子の添加量が特許請求範囲より少ないかまたは多過ぎる場合(特許請求範囲外)の流し込み材であり、耐食性向上効果がないかまたは耐食性が悪化している。また粗大粒子の添加量が特許請求範囲より多過ぎる場合の流し込み材では流動性不良の問題も生じている。
【0040】比較例4はスピネル−アルミナ−炭化珪素−炭素質流し込み材に特許請求範囲外の粗大粒子(電融アルミナ)を添加したものであり耐食性は悪化している。
【0041】実施例5〜9には電融スピネル−アルミナ−炭化珪素−炭素質流し込み材に電融スピネル、焼結スピネル、電融ジルコニア、電融アルミナ、レンガ屑の粗大粒子を特許請求範囲内の添加方法に従って添加した場合の結果を示している。いずれも耐食性向上効果が明白であり、本発明の効果は明らかである。ここで実施例6、8〜9は添加する粗大粒子が2種類を併用する形となっている。
【0042】比較例5〜6は炭化珪素が特許請求範囲より少ないか、または多い場合を示しており、比較例5では炭化珪素が少ないので耐スポール性が劣る結果となっている。比較例6では炭化珪素が多過ぎる場合を示しており耐食性がかなり悪化している。
【0043】比較例7〜8は炭素が特許請求範囲以外の例を示している。ここで両者共耐食性が悪化しており、比較例7の炭素が使用されていない流し込み材へは侵食時のスラグの侵入が見られる。比較例8は炭素が過剰に使用されたものであり侵食試験後の試料の酸化傾向がかなり進んでいる。
【0044】比較例9〜12はスピネル−アルミナ−炭化珪素−炭素質流し込み材にジルコニア粗大粒子を添加したものにつき説明している。比較例9〜10ではジルコニア粗大粒子の添加量が特許請求範囲以外の添加量であり、耐食性の十分な向上が見られない。
【0045】さらに比較例10のジルコニア粗大粒子の添加量が過剰なものは流動性が極めて低い。比較例11はジルコニア粗大粒子の添加量は特許請求範囲内であるが炭素が添加されておらず(特許請求範囲以外)耐食性が悪化しているとともに侵食試験後のサンプルにスラグの浸透が大であった。
【0046】比較例12は炭化珪素が添加されていない場合(特許請求範囲以外)を示している。その結果耐食性が悪化しているとともに試験後のサンプルにキレツが発生しており、耐スポール性が劣る結果となっている。
【0047】
【発明の効果】以上に述べたように、本発明の高炉樋流し込み施工用耐火物は、特にメタルライン部での耐食性にすぐれた効果を発揮する。その結果、最近の高炉樋の操業条件の過酷化に対応する材質として、その工業的価値は大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】高炉樋の長さ方向に直角の断面であり、銑鉄、スラグの分離状態を示す。
【図2】各種耐火性酸化物とFeO混合物の液相生成温度曲線を示す。
【図3】スピネル50wt%、アルミナ20wt%、炭化珪素15wt%、ピッチ5wt%、アルミナセメント5wt%よりなる配合物に、粒径20〜40mmのスピネル、ジルコニアまたはアルミナの粗大粒子を外掛け0〜50wt%と分散剤を外掛け0.1wt%を添加した流し込み材において、粗大粒子の添加量とメタルラインの耐食性の関係をグラフで示したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 MgO・Al23系スピネル、アルミナ、炭化珪素、炭素およびアルミナセメントを含む配合物100wt%に対し、粒径10〜50mmのMgO・Al23系スピネル粗大粒子を外掛け10〜40wt%と、分散剤とを添加してなる、高炉樋流し込み施工用耐火物。
【請求項2】 MgO・Al23系スピネル、アルミナ、炭化珪素、炭素およびアルミナセメントを含む配合物100wt%に対し、粒径10〜50mmのジルコニア粗大粒子を外掛け10〜40wt%と、分散剤とを添加してなる、高炉樋流し込み施工用耐火物。
【請求項3】 MgO・Al23系スピネル、アルミナ、炭化珪素、炭素およびアルミナセメントを含む配合物100wt%に対し、粒径10〜50mmのMgO・Al23系スピネル粗大粒子および/またはジルコニア粗大粒子を外掛け10〜40wt%と、分散剤とを添加してなる、高炉樋流し込み施工用耐火物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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