説明

高炉樋用流し込み材

【目的】 本発明は、高炉樋の内張りに使用される流し込み不定形耐火物において、特に樋のメタルライン部に対する耐食性に優れた材質の流し込み材を提供する。
【構成】 重量割合で、炭化珪素5〜25%、炭素1〜5%、平均粒径5μm以下のアルミナ超微粉5〜15%、アルミナセメント0.5〜7%、残部がMgO−Al23系スピネルを主材とした配合物よりなる高炉樋用流し込み材。上記流し込み材に有機質発泡剤としてアゾジカルボンアミドを添加する。
【効果】 高炉樋のメタルライン部の耐食性に有効。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、高炉樋の内張りに使用される流し込み不定形耐火物(以下、流し込み材)において、特に樋のメタルライン部に対する耐食性に優れた材質に関するものである。
【0002】
【従来の技術】高炉の出銑孔から排出された銑鉄およびスラグは、その比重差のためにに樋内で直ちに分離する。図1に樋内での銑鉄、スラグの分離状態を示す。図1R>1の中で、左側は通銑時、右側は貯銑時である。樋の内張り部分のうち、銑鉄(1)、スラグ(2)、耐火物(3)の三成分の共存点は、一般にメタルライン(4)と称している。このメタルライン(4)は、スラグライン(5)と共に他の部分より溶損が著しい。
【0003】メタルライン部の溶損が著しい理由は、銑鉄とスラグとの境界面で両者が反応してFeOが生成し、このFeOと耐火物中のAl23、SiC、SiO2 などの成分と反応し、低融物質が生成されるためと考えられる。
【0004】従来、高炉樋用の流し込み材の材質は、アルミナ−炭化珪素−炭素質である。最近では、メタルライン部の溶損メカニズムの解明が進むに伴って、FeOに強いマグネシアあるいはMgO−Al23系スピネル(以下、スピネルと称す)を骨材とした材質が提案されている。しかし、マグネシア質は添加水分とのMgO+H2O→Mg(OH)2の水和反応による容積変化のため、安定した施工体が構築されないという問題がある。
【0005】これに対しスピネルは、FeOに強く、しかも水和反応といった問題もない。このスピネル質の樋用流し込み材は、例えば、特開昭52−147610号公報、特開昭59−128271号公報などで提案されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】スピネル質の樋用流し込み材は、銑鉄・スラグの侵入防止、構造体としての膨脹抑制のために炭化珪素および炭素を配合している。また、施工特性を付与するために粘土、シリカ超微粉、あるいは耐食性の向上を目的とした金属シリコンなどを添加している。しかし、スピネル質の樋用流し込み材は、この粘土、シリカ超微粉、金属シリコンなどの添加量が多いとスピネル質の特性が十分に発揮されず、耐食性が低下する。
【0007】
【課題を解決するための手段】そこで本発明者らは、スピネル質の樋用流し込み材の材質改善についてさらに研究を重ねた。その結果、粘土、シリカ超微粉、金属シリコンなどのSiO2 またはSi含有添加物を添加しないかまたは極力低減させ、これらに替えてアルミナ超微粉を特定の割合で添加することによって耐食性が格段に向上することを知り、本発明を完成するに至ったものである。
【0008】本発明は、重量割合で、炭化珪素5〜25%、炭素1〜5%、平均粒径5μm以下のアルミナ超微粉5〜15%、アルミナセメント0.5〜7%、残部がMgO−Al23系スピネルを主材とした配合物よりなる高炉樋用流し込み材である。また、これに有機質発泡剤をとしてアゾジカルボンアミドを添加してなる高炉樋用流し込み材の発明である。
【0009】図2は、MgO、Al23、SiO2の三成分系の状態図を示す。SiO2量の増大(図中の太い破線で示す)に伴って融点が低下することが確認される。すなわち、MgOおよびAl23の成分よりなるスピネルを主骨材とした材質では、SiO2成分の存在が耐食性の低下を招く。粘土およびシリカ超微粉はSiO2を多量に含む。また、金属シリコンも酸化によってSiO2 となる。そこで、本発明では、このSiO2 源となる粘土、シリカ超微粉、金属シリコンを添加しないかまたは極力低減させ、これに替えてアルミナ超微粉を添加する。
【0010】アルミナ超微粉はSiO2 を含有しないためにスピネル質流し込み材における前記のような融点低下の問題がない。しかも、その添加量を特定化することによって流し込み材の低水分施工が可能となり、粘土およびシリカ超微粉を添加しなくとも十分な施工性が得られる。また、アルミナ超微粉は耐摩耗性付与にも効果的であり、従来材質で添加されていた金属シリコンの代替えのとしての効果も備えている。
【0011】本発明のスピネル質の流し込み材はこのアルミナ超微粉の添加によって緻密質の施工体を得ることができるが、反面、急激な乾燥を行なうと添加水分の蒸発による水蒸気圧によって爆裂を生じやすい。この問題を解決するには、有機発泡剤としてアゾジカルボンアミドの添加が効果的である。
【0012】アゾジカルボンアミドは、アルミナセメントの存在下での添加水分との混合で加水分解が生じ、窒素ガスを発生して、施工体に孔径1〜10μm程度の微細な通気孔を多数形成する。乾燥時、水蒸気がこの通気孔から飛散することにより、施工体の爆裂が防止される。
【0013】ガス発生によって微細な通気孔を形成し、施工体乾燥時の爆裂を防止する方法としては、金属アルミニウムを添加することも知られている。しかし、金属アルミニウムが添加水分と反応して発生する水素ガスは引火すると爆発する危険性があり、安全上、問題がある。また、本発明により得られる施工体は緻密度が高く、一方、金属アルミニウムからの水素ガスの発生は急激なため、施工体内部に微キレツが生じやすい。
【0014】以下に本発明の流し込み材の配合組成について詳細に説明するが、そこで示す%は、いずれも重量%である。スピネルは主骨材としての役割をもち、溶銑およびスラグの反応で生成すると考えられるFeO成分に対して耐食性に優れた効果を持つ。電融品、焼結品のいずれでもよい。本発明では微粒部分にアルミナ超微粉を添加するので、スピネルの粒度は主として粗粒、中粒に使用する。充分な効果を発揮させるためには、10〜80%配合する。
【0015】炭化珪素は、低熱膨張性、耐スポーリング性の向上、銑鉄・スラグの進入防止の役割をもつ。これらの効果を十分に発揮させるには、粒度は微粒が好ましい。配合割合は、5%未満では炭化珪素の効果が得られず、25%を超えるとFeOによる侵食傾向が増大し、耐食性が低下する。
【0016】炭素は溶銑・スラグに対して濡れにくいことから、銑鉄・スラグの進入防止の効果がある。また、耐スポーリング性に効果がある。具体的な種類は、リン状黒鉛、土状黒鉛、コークス、ピッチ、ピッチコークス、カーボンブラックなどから選ばれる一種または二種以上である。配合割合は、1%未満では銑鉄・スラグの進入防止能および耐スポール性が十分でない。5%を超えると耐酸化性が低下するので、耐食性が低下する。
【0017】アルミナ超微粉は、平均粒径5μm以下とする。平均粒径が5μmを超えると施工時の流動性および施工体の緻密性に劣る。粒径の下限は限定されるものではないが、製造コストなどの面から、平均粒径0.1μm以上が好ましい。アルミナ超微粉の配合割合は、5%未満ではアルミナ超微粉添加による前記の効果が得られず、15%を超えると、その分、炭化珪素、炭素などの割合を少なくしなければならず、耐スポーリング性、熱膨張特性に劣る。また、アルミナ超微粉の割合が多過ぎると材料が粘くなり、施工性が低下する。
【0018】アルミナセメントの配合量は、0.5%未満では結合剤としての効果がなく、7%を超えると耐スポーリング性および耐食性が低下する。また、従来の流し込み材と同様、施工時の流動性を付与するために分散剤を添加する。分散剤としては、例えば縮合リン酸塩、カルボン酸塩、リグニンスルフォン酸塩などが知られているが、これらから選ばれる一種または二種以上を、前記の耐火骨材および結合剤の総量100%に対して、0.01〜0.1%程度添加する。
【0019】本発明のスピネル質流し込み材は以上の配合物の他にも、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、酸化防止剤、シリカ超微粉などを少量添加してもよい。
【0020】
【実施例】表1に本発明実施例、表2その比較例を示す。各例はそれぞれの材質に合わせて適量の添加水分を添加し、混練後、流し込み施工した。試験方法はつぎのとおりである。
流動性;JIS・5201にもとづいて測定した。
気孔率;JIS・R2205−74準じて測定した。
熱膨脹率;試料を予め20φ×100mmに成形・乾燥したものを窒素雰囲気中で1450℃まで加熱したときの膨脹量を最初の寸法に対する百分率で表わしたものである。
【0021】耐スポーリング性;50φ×50mmに成形、乾燥したものを窒素雰囲気中で1450℃まで加熱し、15分保定した後、常温大気中で15分冷却する。この作業をくり返し、試料にキレツが発生しするまでの回数で示した。
【0022】耐食性;各例の材質を高周波誘導炉に内張りし、銑鉄100に対しスラグ5の割合の混合物を溶剤とし、1600℃にて30分保定後、スラグのみを排出して再び新しいスラグを投入し、さらに30分保定する。この操作を10回くり返した後侵食寸法を測定し、実施例5の溶損寸法を100とした指数で表した。数値が大きいほど耐食性に優れている。
銑鉄・スラグの侵入:前記した耐食性試験で使用した耐火物について、銑鉄・スラグの侵入寸法を測定した。
【0023】耐爆裂性;100φ×100mmに施工し、常温で20時間養生硬化させて作製した試料を、予め400℃または500℃に加熱した電気炉内に投入し、爆裂の有無を調べた。爆裂しなかったものを○、爆裂したものを×で示す。
【0024】
【表1】


【0025】
【表2】


【0026】実施例1〜6は、いずれも耐食性に優れている。一方、比較例1のスピネル原料の少ないものは耐食性向上効果がない。また、比較例2の炭化珪素量の多いもの、比較例4の炭素の多いもの、比較例5のアルミナ超微粉の少ないもの、比較例7の粘土を使用したもの、および比較例8の金属シリコンを使用したものは、いづれも耐食性が悪い。比較例6はアルミナ超微粉を過剰に使用した場合であるが、流し込み材の粘りが強くフロー値が小さく実使用上困難である。炭素源を配合しない比較例3は、銑鉄・スラグの侵入が大きく、使用上困難である。比較例9は、アルミナセメントの割合が多過ぎるために耐スポーリング性および耐食性に劣る。実施例5、6は、アゾジカルボンアミドを添加したものであり、耐爆裂性の効果は明らかである。
【0027】
【発明の効果】本発明の流し込み材、実施例2を高炉出銑用大樋に適用したところメタルラインの溶損速度は通銑量1000屯あたり3.5mmとなり、比較例8の5mmと比べ耐食性が大幅に向上した。また実施例5を同様に使用したところ3.0mmとなり、本発明の有効性が確認された。以上に述べたように、本発明の高炉樋用流し込み材は、特にメタルライン部での耐食性にすぐれた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【図1】高炉樋の長さ方向に直角の断面であり、図面に向かって左は通銑時、右は貯銑時の銑鉄、スラグの分離状態を示す。
【図2】MgO、Al23、SiO2の三成分系の状態図を示す。
【符号の説明】
1 銑鉄
2 スラグ
3 耐火物
4 メタルライン
5 スラグライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】 重量割合で、炭化珪素5〜25%、炭素1〜5%、平均粒径5μm以下のアルミナ超微粉5〜15%、アルミナセメント0.5〜7%、残部がMgO−Al23系スピネルを主材とした配合物よりなる高炉樋用流し込み材。
【請求項2】 請求項1記載の高炉樋用流し込み材に、有機質発泡剤としてアゾジカルボンアミドを添加してなる高炉樋用流し込み材。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate