説明

高純度2,3,6,7,10,11−ヘキサヒドロキシトリフェニレンの製造方法

【課題】簡便な操作にて高純度の2,3,6,7,10,11−ヘキサヒドロキシトリフェニレン(以下、HHTPと称する)を取得する方法を提供することにある。
【解決手段】本発明の高純度のHHTPは、
工程1;粗製のHHTPとケトン又はケトン水溶液とを混合し、不溶物の濾過及び溶液のpH値を7.5〜10へ調整し、調整液を得る工程
工程2;工程1で得られた調整液から、ケトン含水物を留去しながら、固体を生成させて懸濁液を調製し、これを濾過後、濾取した固体を精製水にて洗浄し、含水のHHTPを得る工程、
工程3;工程2で得られた含水のHHTPを減圧乾燥し、高純度のHHTPを得る工程、
を含む製造方法によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2,3,6,7,10,11−ヘキサヒドロキシトリフェニレンの製造方法及びその方法から得られる高純度の2,3,6,7,10,11−ヘキサヒドロキシトリフェニレンに関する。
【背景技術】
【0002】
2,3,6,7,10,11−ヘキサヒドロキシトリフェニレン(以下、HHTPと称する)は、例えば、ディスコチック液晶材料の中間体等、機能性有機材料の原料として有用な化合物である(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
従来、HHTPの合成法としては、例えば、酢酸溶媒下、ヨウ化水素を用いてヘキサアルコキシトリフェニレンの脱アルキル化により製造する方法等が知られている(例えば、特許文献1参照)。
しかし、特許文献1の方法は、強い腐食性と刺激臭を有するヨウ化水素を還流撹拌下で使用し、更に反応により生成するヨウ化メチルは、沸点が低く非常に有毒であるということから、作業の安全性上、非常に問題であった。また、製造されたHHTPを、例えば、電気、電子材料等で使用する場合、ヨウ化水素由来のヨウ化物(ハロゲン化物)が混入すると製品の電気、電子特性に影響を及ぼす恐れがあることから、工業的に好ましい製法とはいい難かった。
【0004】
一方、カテコールを原料とし、無水塩化第二鉄を用いるHHTPの製造法についても報告されている。しかし、得られるHHTPは、鉄、キノン体を含有したものであり、高純度のHHTPを取得する方法は、依然として確立されていない(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
更に、HHTPを、例えば、電子材料、機能性材料等で使用する場合、その化学純度のみならず、含有金属量、色などの外観等も重要な品質検査項目として挙げられていることがある。特に、金属成分の混入は、電子材料等の電子・電気分野での使用の際、重要な不具合の原因となることが多く、これらの材料として所望の性能を得るためには、より高純度のHHTPを得ることが求められている。しかし、前記文献の方法で得られたHHTPは、これらの用途での使用に対して、化学純度のみならず、含有金属量等においても問題がある場合が多く、更なる精製を行う必要があった。
【0006】
そこで、高純度のHHTPを得るために、例えば、粗製のHHTPをまずカルボン酸エステル化し、次いでこれを加水分解及び/又はアルコール分解する方法(例えば、特許文献3参照)、粗製のHHTP(HHTPと、HHTPの遷移金属錯体および/またはキ
ノン体を含有する反応混合物)を、還元処理してHHTPの遷移金属錯体および/またはキノン体をHHTPに転化させ、HHTPを回収する方法(例えば、特許文献4参照)、或いは粗製のHHTPからHHTPとゲスト化合物との包接化合物として取り出す方法(例えば、特許文献5参照)等、様々な方法がこれまで行われてきた。しかし、これらの方法は、いずれも精製のために更なる処理工程が増える煩雑さがあり、また精製後も、製品として要求される含有金属量などの前記の項目等について、すべてを満足するとは限らず、HHTPの工業的製造法としては、それぞれ方法にそれぞれの問題があった。
【0007】
【特許文献1】特開平8−119894号公報
【特許文献2】特開平9−143120号公報
【特許文献3】特開平9−301906号公報
【特許文献4】特開平9−118642号公報
【特許文献5】特開平11−255690号公報
【非特許文献1】J.Mater.Chem.,Vol.2,p.1261(1992)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、即ち、化学純度のみならず、含有金属量、色などの外観等の問題点を解決し、かつ簡便な操作にて、例えば、カテコールから高純度のHHTPを取得する製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する手段として、例えば、カテコール、酸化鉄(III)、及び硫酸とを反応させる等により得られた粗製のHHTPとケトン又はケトン水溶液とを混合してHHTP混合液を取得し、この混合液から不溶物を濾過した後、濾液のpH値を7.5〜10へ調整するか、あるいは混合液のpH値を7.5〜10へ調整した後、混合液から不溶物をろ過して調整液を得る工程(工程1)、次いで、この調整液から、ケトン含水物を留去しながら固体を生成させた懸濁液を調製し、これを濾過して2,3,6,7,10,11−ヘキサヒドロキシトリフェニレンを含む固体を得る工程(工程2)、得られた固体を精製水にて洗浄する工程及び洗浄した固体を減圧乾燥する工程(工程3)を含むことを特徴とする高純度2,3,6,7,10,11−ヘキサヒドロキシトリフェニレン(以下、高純度HHTPと称することもある。)の製造方法を見出し、本発明に至った。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法により、簡便な操作にて化学純度のみならず、含有金属量、色調などの外観にも優れた高純度HHTPを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の高純度HHTPは、
工程1:粗製のHHTPとケトン又はケトン水溶液とを混合してHHTP混合液を取得し、この混合液から不溶物を濾過した後、濾液のpH値を7.5〜10へ調整するか、あるいは混合液のpH値を7.5〜10へ調整した後、混合液から不溶物をろ過して調整液を得る工程、
工程2:工程1で得られた調整液から、ケトン含水物を留去しながら、固体を生成させて、懸濁液を調製し、これを濾過後、濾取した固体を精製水にて洗浄し、含水HHTPを得る工程、
工程3:工程2で得られた含水HHTPを減圧乾燥し、高純度HHTPを得る工程、
を含む方法により製造される。
【0012】
本発明の工程1は、粗製のHHTPにケトン又はケトン水溶液を加え、例えば、内温0℃〜50℃にて撹拌すること等により、HHTP混合液を得る。次いで得られたHHTP混合液は、以下に示す、操作1又は操作2を行い、HHTP調整液を得る工程である。
操作1:得られたHHTP混合液の濾過を行い、溶解性の低い反応副生成物等を固体として除去し、得られた溶液(濾液)のpH値を7.5〜10へ調整を行い、HHTP調整液を得る。
操作2:得られたHHTP混合液のpH値を7.5〜10へ調整した後、濾過を行い、溶解性の低い反応副生成物等を固体として除去し、HHTP調整液を得る。
【0013】
工程1において、使用される粗製のHHTPは、例えば、カテコール、酸化鉄(III)、及び硫酸を用いて、参考例1又は参考例2に記載の方法により得ることができる。
更に、例えば、前記特許文献1〜5等において製造されるHHTPについても、化学純度が90%未満、又は含有金属量(主に鉄分量)が100ppmより多く混入したものは、本発明の粗製のHHTPとして使用することができ、本発明の方法により、同様に、高純度HHTPとして得ることができる。
【0014】
工程1において、HHTP混合液は、原料である粗製のHHTPとケトン又はケトン水溶液と混合して調整される。この場合、粗製のHHTPが水分を多く含んでいる場合には、ケトンが好適に使用でき、粗製のHHTPが水分を多く含まない場合には、ケトン水溶液が好適に使用できる。
【0015】
使用されるケトンは、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、2−メチルシクロペンタノン、3−メチルシクロペンタノン、2−メチルシクロヘキサノン、3−メチルシクロヘキサノン、2,5−ヘキサンジオン、2,4−ペンタンジオン等の炭素数3から12の脂肪族ケトンが挙げられるが、好ましくはシクロヘキサノン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、より好ましくはシクロヘキサノン、メチルエチルケトン、アセトンである。
【0016】
また、ケトン水溶液は、ケトン水溶液中のケトンの容量比が99〜1.0容量%、好ましくは97〜20容量%、より好ましくは95〜50容量%である。
更に、ケトン又はケトン水溶液の使用量は、粗製のHHTP中に含有するHHTP量1gに対して、好ましくは0.1ml〜1000ml、より好ましくは1ml〜300ml、特に好ましくは3ml〜30mlである。なお、粗製のHHTP中に含有するHHTP量は、例えば、高速液体クロマトグラフィー(絶対検量線法)等により測定される。
【0017】
上記ケトン水溶液は、使用するケトンの種類によっては有機層と水層に分離することがある。その場合、上記操作1又は操作2を行いながら、適宜、分液・抽出操作を行い、その有機層をHHTP混合液又は調整液として得ることができる。
【0018】
工程1において、操作1又は操作2で行われる濾過は、例えば、濾紙等を用いる一般的濾過、及びガラスフィルター、加圧濾過機、遠心分離機あるいはフィルタープレス濾過機等を用いて行うことができる。
ここで、原料である粗製のHHTPの取得のみならず、含水HHTP、高純度HHTP及び本発明の製法にて濾別される不要物等は、粒子系が小さい場合もあることから、例えば、加圧濾過機、遠心分離機、又はフィルタープレス濾過機等から濾過機を適宜選択し、常圧、減圧又は加圧下にて使用することは、作業効率上、非常に有効である(例えば、参考例2及び実施例5参照)。
【0019】
得られたHHTP混合液は、通常酸性であるため、塩基又は塩基性溶液にて、pH7.5〜10に調整される。
pHの調整は、塩基又は塩基性溶液を用いて行われる。使用される塩基としては、例えば、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム等の無機塩基が挙げられ、塩基性溶液としては、これらの塩基を有機溶媒(例えば、メタノール、エタノール等のアルコール類)に溶かした溶液又はスラリー液、或いは水溶液が上げられる。塩基又は塩基性溶液として、好ましくはアンモニア又はアンモニア水溶液であり、より好ましくはアンモニア水溶液である。なお、これらの塩基又は塩基性溶液は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。また、このようにして得られる調整液のpH値は、好ましくは7.5〜10、より好ましくは8〜9である。
【0020】
本発明の工程2は、工程1で得られた調整液から、ケトン含水物を留去しながら、固体を生成させて懸濁液を調製し、これを濾過後、HHTPを含む固体を得、これを精製水にて洗浄し、含水HHTPを得る工程である。
【0021】
工程2において、調整液から減圧下にてケトン含水物を蒸留除去する際、調整液の液温は、5℃から50℃であることが望ましく、その際の減圧度は、使用するケトンにより異なるが、0.1〜100Torrにて行うことが望ましい。
工程2において、懸濁液の濾過は、ガラスフィルター、加圧濾過機、遠心分離機等を用いて行われる。更に得られた固体は、精製水にて洗浄することで含水HHTPが得られる。洗浄に用いる精製水の量は、工程2で得られた固体1gに対して、好ましくは0.5ml〜1000ml、より好ましくは1ml〜100mlである。
【0022】
本発明の工程3は、工程2で得られた含水HHTPを減圧乾燥し、高純度HHTPを得る工程である。
【0023】
工程3における減圧乾燥は、含水HHTP中の水分などの留去を行う操作である。ここで、例えば、含有する水分の留去は、減圧下にて行うことが好ましい。
この減圧乾燥操作における温度及び圧力の条件は、温度が10℃から150℃、好ましくは30℃〜120℃、より好ましくは50℃〜100℃であり、その際の圧力は、0.1〜100Torr(13.3Pa〜13.3kPa)であることが望ましい。
上記減圧乾燥操作は、HHTPの水分含量が6.0重量%以下となるまで行うことが好ましい。なお、その際のHHTPの水分含量は、例えば、カールフィッシャー水分計等を用いて適宜測定しながら行う。例えば、水分含量が6.0重量%を超えるHHTPは、例えば、非特許文献1に記載されたような液晶材料を合成する際の原料として用いた場合、有機溶剤への溶解性の低下及び反応性に影響を及ぼす可能性があるため、製品として好ましくない。
また、本発明により得られる高純度HHTPは、鉄の含量が100ppm以下であり得る。例えば、鉄の含量が100ppmを超えるHHTPを、電子・電気材料として使用した場合、含有金属により応答速度等に影響を及ぼす可能性が高く、製品として好ましくない。更に、上記の量を超える含量のHHTPの場合、製品に著しい着色が見られることが多く、これは外観上の点からも好ましくない。
このような含有する鉄が及ぼす製品への問題は、本発明の前記工程1におけるpHを調整により、非常に効果的に解決することができる。
上記より、本発明の製造方法により得られた高純度HHTPは、鉄の含量及び含有水分量が抑えられたものであり、その化学純度は90%以上、好ましくは95%以上であり得る。
【実施例】
【0024】
次に、実施例、参考例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
【0025】
参考例1(粗製のHHTPの合成)
攪拌装置、温度計を備えた500mlセパラブルフラスコを窒素ガスにて置換し、70%硫酸238.19g(1.70mol)と95%酸化鉄(III)18.49g(0.11mol)とを内温を22℃以下に保ちながら混合した。この混合液にカテコール11.01g(0.10mol)を内温23℃以下に保ちながら添加後、窒素雰囲気下、内温23℃から28℃にて24時間撹拌した。
反応終了後、得られた反応液に精製水318gを内温15℃から30℃に保ちながら加えて混合した。更に、この溶液を内温50℃に加熱後、グラスフィルターにて、固体を濾取した。得られた固体を精製水20mlにて洗浄し、黒色固体として粗製のHHTPを34.13g(水分量22.6g)得た。
【0026】
実施例1(高純度HHTPの取得;80容量%アセトン水溶液使用)
参考例1により得られた粗製のHHTP34.13gにアセトン63gを加え、室温下、撹拌して溶解し、この溶液をグラスフィルターにて濾過し、次いで80容量%アセトン水溶液(容積比は、アセトン:水=80:20)20mlにて洗浄した。得られた溶液は、28%アンモニア水を用いてpH8.9に調整した後、減圧下にてアセトンを含む溶媒を留去していき、固体を生成させた。次いで、この固体を濾取し、精製水20gにて洗浄し、含水HHTPを8.31g得た。得られた含水HHTPを、含水率が6.0重量%以下になるまで、15℃から90℃に昇温しながら減圧乾燥(0.4kPa、(3mmHg))を行い、淡赤白色固体として、高度に精製された高純度HHTPを5.37g得た。
得られた高純度HHTPを高速液体クロマトグラフィー(絶対検量線法)にて分析した結果、純分5.16g(化学純度:96%、測定波長:270nm)であった。また、参考例1から、本発明の2工程を経て得られた収率(取得収率)は、47.5%(参考例1のカテコール使用量基準)であった。また、その他の含有物を分析した結果、含有水分量;2.93重量%、含有鉄分量;11ppmであった。
更に、得られた高純度HHTPのスペクトルデータは、以下の通りであった。
1H-NMR(300MHz、DMSO-d6)δppm:9.27 (brs, 6H), 7.60 (s, 6H)。
マススペクトル(CI-MS):m/z=325[M++1]。
【0027】
実施例2(高純度HHTPの取得;メチルエチルケトン−水溶液使用)
参考例1と同様の方法にて得られた黒色の粗製のHHTPを減圧乾燥(〜90℃/0.4kPa、(〜90℃/3mmHg))し、黒色固体として粗製のHHTP(鉄分含量39000ppm)を得た。この粗製のHHTP5.0gにメチルエチルケトン90ml、次いで水70mlを加え、粗製のHHTPのメチルエチルケトン−水溶液とした。次いで、この溶液のpHを、アンモニア水を用いてpH1.3から8.9に調整したところ、得られた調整液は、有機層と水層に分離した。この調整液を加圧濾過機にて濾過し、有機層を抽出した。更に有機層を水50mlで2回洗浄し、得られた有機層溶液から減圧下にて溶媒を留去し、濾過後、精製水にて洗浄し、含水HHTP得た。得られた含水HHTPを含水率が6.0重量%以下になるまで、実施例1と同様に減圧乾燥を行い、淡赤白色固体として高純度HHTPを1.35g得た。
得られた高純度HHTPを高速液体クロマトグラフィー(絶対検量線法)にて分析した結果、純分1.30g(化学純度:96%、測定波長:270nm)であった。また、その他の含有物を分析した結果、含有水分量;1.8重量%、含有鉄分量;10ppm以下(検出限界以下)であった。
【0028】
実施例3(高純度HHTPの取得;メチルエチルケトン−水溶液、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液使用)
参考例1と同様の方法にて得られた鉄分含量400ppmの粗製のHHTP0.5gにメチルエチルケトン90ml、次いで水70mlを加え、粗製のHHTPのメチルエチルケトン−水溶液とした。次いで、この溶液のpHを、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を用いてpH3.8から8.9に調整したところ、得られた調整液は、有機層と水層に分離した。この調整液をグラスフィルターにて濾過し、有機層を抽出した。更に有機層を水15mlで2回洗浄し、得られた有機層溶液から減圧下にて溶媒を留去し、生成した固体を濾過後、これを精製水にて洗浄して、含水HHTP得た。得られた含水HHTPを、含水率が6.0重量%以下になるまで実施例1と同様の条件にて減圧乾燥を行い、淡赤白色固体として高純度HHTPを0.355g得た。
得られた高純度HHTPを高速液体クロマトグラフィー(絶対検量線法)にて分析した結果、純分0.345g(化学純度:97%、測定波長:270nm)であった。また、その他の含有物を分析した結果、含有水分量;4.2重量%、含有鉄分量;11ppmであった。
【0029】
実施例4(高純度HHTPの取得;95容量%アセトン水溶液使用)
参考例1と同様の方法にて得られた鉄分含量3800ppmの粗製のHHTP5.0gに95容量%アセトン水溶液100mlを加え、15分間攪拌した。次いで、得られた溶液のpHを、28%アンモニア水を用いてpH1.7から8.8に調整した。この調整液を濾過し、得られた濾液から減圧下にてアセトンを含む溶媒を留去していくと固体が生成した。生成した固体を濾過後、これを精製水20.0gにて洗浄して、含水HHTPを得た。得られた含水HHTPを、含水率が6.0重量%以下になるまで、実施例1と同様の条件にて減圧乾燥を行い、灰白色固体として高純度HHTPを2.54g得た。
得られた高純度HHTPを高速液体クロマトグラフィー(絶対検量線法)にて分析した結果、純分2.51g(化学純度:99%、測定波長:270nm)であった。また、その他の含有物を分析した結果、含有水分量;0.8重量%、含有鉄分量;9.3ppmであった。
【0030】
参考例2(粗製のHHTPの合成)
攪拌装置、温度計を備えた200Lの反応釜を窒素ガスにて置換し、72%硫酸220.81Kg(1.62Kmol)と94.4%酸化鉄(III)35.49Kg(0.21Kmol)とを内温22℃以下に保ちながら混合した。この混合液にカテコール21.00Kg(0.19Kmol)を内温24℃以下に保ちながら加え、窒素雰囲気下、内温24℃から29℃にて4時間攪拌後、更に内温53℃から55℃にて2時間撹拌した。
反応終了後、得られた反応液にイオン交換水409Kgを内温30℃以下に保ちながら加えて混合した。次いで、得られた混合液からフィルタープレス濾過機(エレポン化工機製、型式:FS−3C30)を用いて固体を濾取した。得られた固体をイオン交換水114Kgにて洗浄し、黒色固体として粗製のHHTPを51.96Kg(水分60.6%)得た。
【0031】
実施例5(高純度HHTPの取得;95容量%アセトン水溶液使用)
参考例2により得られた粗製のHHTPに、アセトン106Kgとイオン交換水1.97Kgとを加えて混合し、次いで28%アンモニア水を用いてpH8.4に調整した。得られた混合液からフィルタープレス濾過機(エレポン化工機製、型式:FS−3C30)を用いて、固体を濾過後、更にこれを80容量%アセトン水溶液(容積比は、アセトン:水=80:20)42Kgにて洗浄した。次いで得られた濾液に活性炭5.00Kgを加えて攪拌した後、フィルタープレス濾過機(エレポン化工機製、型式:FS−3C30)を用いて活性炭を濾別した。
得られた溶液から常圧下にてアセトンを含む溶媒を留去していくと固体が生成した。生成した固体を濾取後、これをイオン交換水2Kgにて洗浄した。
更に得られた固体に、80容量%アセトン水溶液及び活性炭0.5Kgを加えて混合し、上記と同様な操作を再度行い、アセトンを含む溶媒を留去及び析出した固体の濾取し、含水HHTPを7.39Kg得た。
得られた含水HHTPを、含水率が6.0重量%以下になるまで、実施例1と同様の条件にて減圧乾燥を行い、含有水分量;5.6重量%、含有鉄分量;8.6ppmの高純度HHTPを6.94Kg得た。
得られた高純度HHTPを高速液体クロマトグラフィー(絶対検量線法)にて分析した結果、純分6.30Kg(化学純度91%、測定波長:270nm)であった。また、参考例2からの取得収率は、30.6%(参考例2のカテコール使用量基準)であった。
【0032】
比較例1(HHTPの取得;pH未調整(pH1.7))
参考例1と同様の方法にて得られた鉄分含量5900ppmの粗製のHHTP1.0gに80容量%アセトン水溶液10mlを加え、還流下にて1時間攪拌後、室温まで冷却した。このときの溶液のpHは1.7であった。この溶液を濾過後、得られた濾液から減圧下にて含水アセトン溶媒を留去していき、固体を生成させた。この固体を濾取後、精製水8.0gにて洗浄し、実施例1と同様に減圧乾燥を行い、褐色固体として鉄分300ppmのHHTPを0.912g得た。
【0033】
比較例2(HHTPの取得;pH上限以上(pH11.0))
参考例1により得られた鉄分含量39000ppmの粗製のHHTP5.0gに80容量%アセトン水溶液100mlを加え、室温下、撹拌して溶解した。次いで、この溶液を濾過し、更に80容量%アセトン水溶液50mlにて洗浄した。得られた溶液は、28重量%アンモニア水を用いてpHを1.3から11.0に調整した後、減圧下にて含水アセトン溶媒を留去していき、固体を生成させた。この固体をフィルター濾過にて濾取後、精製水20gにて洗浄し、実施例1と同様の条件にて減圧乾燥を行い、帯褐色固体として含有水分量;1.9重量%、含有鉄分量;9400ppmのHHTPを1.58g得た。
【0034】
比較例3(HHTPの取得;pH下限以下(pH7.0))
実施例1により得られた鉄分含量39000ppmの粗製のHHTP5.0gに80容量%アセトン水溶液100mlを加え、室温下、撹拌して溶解した。次にこの溶液を濾過し、更に80容量%アセトン水溶液50mlにて洗浄した。得られた溶液は、28%アンモニア水を用いてpHを1.3から7.0に調整した後、減圧下にて含水アセトン溶媒を留去していき、固体を生成させた。この固体をフィルター濾過にて濾取後、精製水20gにて洗浄し、実施例1と同様に減圧乾燥を行い、帯紫色固体として含有水分量;2.5重量%、含有鉄分量;7700ppmのHHTPを1.40g得た。
【0035】
上記実施例、参考例及び比較例より、ケトン又はケトン水溶液の使用、pH調整、及び濾過操作を特徴とする本発明の製造方法によって、種々の不純物が分離された化学純度がよく、かつ含有水分量及び含有鉄分量(各比較例との比較)を抑えた、例えば、電子材料、機能性材料等でも使用可能な、高純度HHTPを簡便な操作にて取得することが出来た。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の製造方法により、簡便かつ工業的に好適な方法にて、高純度の2,3,6,7,10,11−ヘキサヒドロキシトリフェニレンを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗製の2,3,6,7,10,11−ヘキサヒドロキシトリフェニレンとケトン又はケトン水溶液とを混合し、混合液から不溶物を濾過した後、濾液のpH値を7.5〜10へ調整するか、あるいは混合液のpH値を7.5〜10へ調整した後、混合液から不溶物をろ過して調整液を得る工程、次いで、この調整液から、ケトン含水物を留去しながら固体を生成させた懸濁液を調製し、これを濾過して2,3,6,7,10,11−ヘキサヒドロキシトリフェニレンを含む固体を得る工程、得られた固体を精製水にて洗浄する工程及び洗浄した固体を減圧乾燥する工程を含むことを特徴とする高純度2,3,6,7,10,11−ヘキサヒドロキシトリフェニレンの製造方法。
【請求項2】
粗製の2,3,6,7,10,11−ヘキサヒドロキシトリフェニレンが、カテコール、酸化鉄(III)及び硫酸とを混合して反応させて得られたものである、請求項1に記載の2,3,6,7,10,11−ヘキサヒドロキシトリフェニレンの製造方法。
【請求項3】
減圧乾燥を、温度10℃〜150℃、圧力0.1Torr〜100Torrにて、水分量が6wt%以下になるまで行うことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の2,3,6,7,10,11−ヘキサヒドロキシトリフェニレンの製造方法。
【請求項4】
pHの調整を、アンモニア水溶液を用いて行うことを特徴とする、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の2,3,6,7,10,11−ヘキサヒドロキシトリフェニレンの製造方法。
【請求項5】
ケトン水溶液におけるケトンの容量比が95〜50容量%であることを特徴とする、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の2,3,6,7,10,11−ヘキサヒドロキシトリフェニレンの製造方法。
【請求項6】
ケトンが、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、2−メチルシクロペンタノン、3−メチルシクロペンタノン、2−メチルシクロヘキサノン、3−メチルシクロヘキサノン、2,5−ヘキサンジオン、2,4−ペンタンジオンから選択した一種以上であることを特徴とする、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の2,3,6,7,10,11−ヘキサヒドロキシトリフェニレンの製造方法。
【請求項7】
フィルタープレス濾過機を用いて濾過することを特徴とする、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の2,3,6,7,10,11−ヘキサヒドロキシトリフェニレンの製造方法。
【請求項8】
高純度2,3,6,7,10,11−ヘキサヒドロキシトリフェニレンの鉄含量が100ppm以下であることを特徴とする、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の2,3,6,7,10,11−ヘキサヒドロキシトリフェニレンの製造方法。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の製造方法により得られる、鉄含量が100ppm以下である高純度2,3,6,7,10,11−ヘキサヒドロキシトリフェニレン。
【請求項10】
カテコール、酸化鉄(III)及び硫酸を反応させることを特徴とする、2,3,6,7,10,11−ヘキサヒドロキシトリフェニレンの製造方法。

【公開番号】特開2009−155328(P2009−155328A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−310888(P2008−310888)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】