説明

高設ベンチ

【課題】 栽培槽を移設可能に形成し、積雪時には栽培槽を取外し、積雪による倒壊を防止することが可能なベンチを提供することを課題とする。
【解決手段】 ベンチ1は、イチゴ6を栽培する栽培ベット2と、栽培ベット2を設置面から離間した上方位置に複数の支柱4を利用して支持するための栽培ベット支持部7と、栽培ベット2及び栽培ベット支持部7を脱着自在に連結するS字フック3とを主に具備して構成されている。そして、寒冷地にベンチ1が設置された場合、冬季の積雪時には栽培ベット2を栽培ベット支持部7から取外し、倉庫等の他所に移設することができる。これにより、積雪の重みによってベンチ1が倒壊するおそれがなくなる。さらに、栽培槽8が不織布シートによって形成されていることにより、栽培ベット2の軽量化が図られ、移設が楽に行える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高設ベンチに関するものであり、特に移設可能な栽培ベットを形成し、寒冷地での高設栽培を実施可能とする高設ベンチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、イチゴ等の農作物を栽培する場合、地表面(設置面)から離間した上方位置に、培地が充填された栽培槽を配し、作業者の腰部付近で農作物の栽培を行う「高設栽培」が行われている。この高設栽培は、所定温度に室内がコントロールされたハウスの中に設置された高設ベンチを使用し、作業者の作業が行いやすい高所位置に農作物の株がくるようにして栽培するものである。特に、農作物の中でもイチゴは、茎が上方に伸びることがないため、従来の栽培方法(土耕栽培等)では、作業者は必然的に前屈みになる等の無理な姿勢を強いられており、作業者の負担が大きかった。加えて、イチゴは、他の野菜や果物に比べ、果実のサイズが小さいため、収穫作業が面倒であり、また一粒ずつ丁寧に収穫する必要があるため、作業者にとって、特に手間のかかる農作物の一つであった。そのため、上述した高設栽培は、作業者の作業環境を改善することが優れた利点を有する栽培方法の一つである。
【0003】
さらに、農作物が定植され、栽培される培地は、従来の土耕栽培の場合の土壌と異なり、土壌から完全に隔離された状態にある。そのため、農作物の生育に適する土壌条件に容易にコントロールすることが可能となり、単位面積当たりの収穫量を安定させることも可能となる。また、培地が土壌から隔離され、独立して存在しているため、土壌を媒介として伝搬する病害虫や病原菌による土壌病の発生、及び発生後のその被害の拡大を速やかに抑えることができる。
【0004】
ここで、ハウス内に設置される高設ベンチは、栽培対象となる農作物及び培地を含む栽培ベットを長期間(例えば、6ヶ月間等)にわたって高所上方に保持する必要があり、それらの重量(荷重)に抗することができる十分な強度を有している必要がある。そのため、上述の高設ベンチは、特に鉄製の角材やパイプ管などの硬質部材を複数組み合わせ、重い荷重に耐えるように強固に形成されている。なお、個々の部材をボルト及びナット等の締結固定具を用いたり、溶接などによって強固に固定されている。そのため、高設ベンチは、ハウス内に設置されると、数年(例えば、5年〜10年)は、そのままの状態で使用され、ハウスから撤去されることはほとんどない。
【0005】
一方、高設栽培用のベンチの一例として、水耕栽培及び養液栽培に比べ、病害の拡大を抑え、かつ最適な水分量を適宜農作物に供給可能な高設栽培設備が開示されている(例えば、特許文献1参照)。これにより、農作物の栽培条件を安定させ、高い収穫量を得ることができるようになる。なお、これらの高設栽培設備には、農作物の栽培される栽培槽を高所位置に支持するための支柱の下部に、ローラ型のキャスターを設け、不使用時には高設栽培設備の全体をハウス内から撤去したり、或いはハウス内の任意の位置に移動させるための移動手段が設けられている。
【0006】
【特許文献1】特開平10−178914
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、従来の高設ベンチは、ハウス内に一端固定された後は、数年間は容易に撤去できないようになっていた。ここで、山間部や高緯度地域などの寒冷地(豪雪地帯を含む)は、冬季の間は多量の積雪が観測され、イチゴ等の農作物の栽培期間が終了した後はハウスの倒壊を防止するために、ハウスに被覆された被覆資材(ビニールシート)を取除き、骨組だけにする作業が行われていた。ところが、ハウス内に設置された高設ベンチは、上述の理由から容易に撤去することができず、そのままの状態で冬季の間放置されることが多かった。そのため、積雪の際の雪の重みによって高設ベンチが押潰される可能性が高かった。
【0008】
高設ベンチで栽培されるイチゴ(夏秋イチゴ)は、冷涼な気候を利用して栽培され、栽培期間が5月から12月にかけて行われるため、上述の寒冷地での栽培が最も適していた。しかしながら、積雪による高設ベンチの倒壊の被害が予測されるため、作業者及び農家は高設ベンチの利用による有益な効果を享受することなく、かかる高設ベンチの使用を断念するケースもあり、これに対する対策を講じることが期待されていた。
【0009】
一方、支柱の下部に移動用のキャスターを設けた高設栽培設備は、構造が複雑化し、製造コストのアップや設備の自重が増大するなどの問題を生じることがあった。さらに、設備全体をハウスから移動させて撤去するために、この作業に要する作業時間及び人員が多く必要となる場合もあった。加えて、ハウスの設置面(地面)は、農作物の供給される水や養液などの給水(給液)用のチューブ、或いは排水(排液)用のチューブが張り巡らされていることが多く、比較的多くの段差が形成されていることがあった。そのため、キャスターによって、これらの段差を乗越える必要があり、移動が制限され、実用性に欠ける場合もあった。
【0010】
そこで、本発明は、上記実情に鑑み、農作物の栽培される栽培槽を移設可能に形成し、積雪等による倒壊を防止することが可能な高設ベンチの提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、本発明の高設ベンチは、「農作物の栽培される栽培槽を有する栽培ベットと、少なくとも一部を設置面に埋没し、前記設置面から略鉛直方向に向かって立設された複数の支柱を配して構成される栽培ベット支持部と、前記栽培ベットを前記設置面から離間した上方位置に支持するとともに、前記栽培ベット支持部から前記栽培ベットを脱着自在に連結する連結具と」から主に構成されている。
【0012】
ここで、栽培槽とは、例えば、発泡スチロールやプラスチック等の素材から構成された栽培用のプランター等を挙げることができる。そして、この容器状のプランターの空間に培地を充填し、農作物の苗を定植することによって農作物の栽培が行われる。このとき、培地には、農作物の生育に不可欠な水や養液などを供給するためのチューブが挿入され、予め定められた量の水等が供給されている。また、培地から排出される排水のための排水用チューブ等が配設されている。
【0013】
さらに、連結具とは、栽培ベット支持部の支柱に対し、栽培ベットを脱着自在に連結するものであり、バックルや係止用のフックなどを例示することができる。これにより、通常の使用状態では、栽培ベット支持部に栽培ベットが安定して支持され、作業者の作業姿勢を良好にする上方位置に栽培ベット及び農作物の株を位置させることが可能となる。一方、連結具による連結を解除することにより、栽培ベットは、栽培ベット支持部から容易に取外し、任意の位置に移設することが可能となる。
【0014】
したがって、本発明の高設ベンチによれば、連結具によって栽培ベット及び栽培ベット支持部が脱着自在に連結される。このとき、栽培ベット支持部の複数の支柱には、栽培槽、栽培槽に充填された培地、及び培地に定植された農作物(苗)の重量に相当する荷重が鉛直下方向へ常に加えられた状態にある。そのため、連結具に連結された栽培ベットは、連結具によって下方への移動が規制されるとともに、水平方向の移動も制限される。一方、この状態から栽培ベット(栽培槽)を荷重による重力に抗する力で持ち上げる操作を行うことにより、水平方向の規制が解除され、栽培ベットを栽培ベット支持部の支柱から容易に分離することが可能となる。
【0015】
これにより、ハウス内に設けられた高設ベンチは、一部を設置面に埋没して固定された複数の支柱を含む栽培ベット支持部を除き、栽培ベットを他所に移設することが可能となる。その結果、ハウスが寒冷地に設置された場合、周囲の被覆資材を撤去し、かつ栽培ベットを取り外すことによって、積雪によるハウス及び高設ベンチの倒壊を防ぐことが可能となる。なお、取り外された栽培ベットは、別に設けられた栽培ベット用の保管倉庫などに保管される。そのため、ハウスが豪雪地帯に設置された場合でも、積雪による高設ベンチの倒壊を防ぐことが可能となる。なお、この場合、土壌に一部が埋没された栽培ベット支持部の支柱は、略鉛直方向に立設されているため、積雪による雪の重みの影響が少ない。そのため、土壌の表面から立設された状態を維持することができ、倒壊のおそれがほとんどない。
【0016】
さらに、本発明の高設ベンチは、上記構成に加え、「前記栽培ベットは、長手方向を略水平方向に沿って、前記栽培槽に取設された少なくとも一対の横支持部をさらに有し、前記連結具は、略S字形状を呈して構成され、前記栽培槽の前記横支持部を下方から支持するベット支持部と、前記ベット支持部と接続し、前記栽培ベット支持部の前記支柱に設けられたフック受部と係合可能に形成された係止フックと」から構成されるものであっても構わない。
【0017】
したがって、本発明の高設ベンチによれば、S字形状の連結具を用いることによって、栽培ベットと支柱とを連結し、栽培ベットを地面から離間した上方位置に維持させることが可能となる。ここで、S字形状の連結具は、金属などの硬質素材によって形成され、前述した栽培ベット等の荷重によっても容易に変形することがないものが使用される。また、支柱に設けられるフック受部は、管状のパイプの切断面に形成されるパイプ孔等を例示することができる。そして、S字の上部に相当し、先端が下方に向かって曲折された形状の係止フックがこのパイプ孔等のフック受部に係合される。その結果、連結具が支柱のフック受部に吊下げられた状態となる。一方、係止フックに接続したS字の下部に相当し、先端が上方に向かって跳上げたようにして曲折されたベット支持部の内周面に当接するように栽培ベットの横支持部が載置される。これにより、係止フック及びフック受部の係合によって下方への移動が規制された連結具の作用により、横支持部を下方から支持することができる。このため、比較的簡易な構成からなる連結具によって栽培ベットを栽培ベット支持部に連結し、かつ栽培ベット等の自重によって水平方向の移動を最小限に規制することが可能となる。さらに、上方に持ち上げるだけの簡易の操作で、双方の連結を解除することができる。
【0018】
さらに、本発明の高設ベンチは、上記構成に加え、「前記栽培槽は、前記横支持部の間に架渡された可撓性を有する不織布シートを有して構成される」ものであっても構わない。
【0019】
したがって、本発明の高設ベンチによれば、栽培槽に不織布からなるシート材が用いられている。これにより、発泡スチロールやプラスチック等から主として構成される栽培ベットに比べ、軽量化を図ることが可能となり、栽培ベット支持部から取外し、他所に移設する作業を楽に行えるようになる。さらに、可撓性を有するため、なお、係る不織布シートは、充填される培地や農作物に荷重に耐え得るための十分な強度を有する必要がある。また、これらの不織布シートの強度を補助する目的で、不織布シートをネットなどの被覆物で覆うようにしたものを用いることも可能である。
【0020】
さらに、本発明の高設ベンチは、上記構成に加え、「前記栽培ベット支持部は、前記設置面に近接し、互いに隣合う前記支柱の間を略水平方向に架渡して連結した横架部を有する」ものであっても構わない。
【0021】
したがって、本発明の高設ベンチによれば、互いの支柱の間に架け渡された横架部は、設置面に近接するように形成されている。そのため、前述した培地や農作物、さらには栽培ベットの自重による荷重が栽培ベット支持部に加えられた場合、栽培ベットが連結された支柱は、下方向に向かう力がかかる。このとき、設置面に一部が埋没された支柱は、この下向きの荷重によってさらに深く埋没しようとする。このとき、支柱の間に架渡された横架部が設置面に接することによって、この支柱の下方向への移動が規制される。その結果、支柱の設置面への沈み込みが防止され、栽培ベット支持部の設置と当初の支柱高さを維持することが可能となる。
【0022】
さらに、本発明の高設ベンチは、上記構成に加え、「前記栽培槽で栽培される前記農作物は、イチゴ」であっても構わない。
【0023】
したがって、本発明の高設ベンチによれば、栽培される農作物としてイチゴが採用される。これにより、前述した栽培期間が5月から12月の「夏秋イチゴ」を冷涼な気候で、冬季に多量の積雪が観測される寒冷地でも高設ベンチが倒壊することなく、栽培することが可能となる。特に、不織布シートを用いた栽培槽を採用することにより、「岐阜県方式」として確立されたイチゴの栽培システムに適用することが可能となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の高設ベンチによれば、栽培ベット支持部の複数の支柱に栽培ベットを簡易な操作で脱着自在に連結することができ、夏秋イチゴの栽培に適した寒冷地に高設ベンチを設置することができる。そして、イチゴが収穫された1月から2月の積雪期間には、高設ベンチの周囲に構築されたハウスの被覆資材を除去し、さらに栽培ベットを栽培ベット支持部から取り外し、倉庫などに移設して保管することにより、高設ベンチが倒壊し、破損することを防ぐことができる。さらに、栽培槽に不織布シートを用いることにより、栽培ベットの軽量化が図られ、高設ベンチからの取外し、及び移設作業が容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態である高設ベンチ1(以下、単に「ベンチ1」と称す)について、図1乃至図5に基づいて説明する。ここで、図1は本実施形態のベンチ1の概略構成を示す斜視図であり、図2はベンチ1から栽培ベット2を取外した状態を示す分解斜視図であり、図3はS字フック3による支柱4及び直管パイプ9aの連結を示す説明図であり、図4はベンチ1を使用したイチゴ6の栽培例を示す説明図であり、図5はベンチ1の培地温変化を比較したグラフである。
【0026】
本実施形態のベンチ1は、図1乃至図4に主として示されるように、イチゴ6を栽培する栽培ベット2と、栽培ベット2を設置面から離間した上方位置に複数の支柱4を利用して支持するための栽培ベット支持部7と、栽培ベット2及び栽培ベット支持部7を脱着自在に連結するS字フック3とを主に具備して構成されている。ここで、S字フック3が本発明における連結具に相当し、イチゴ6が本発明における農作物に相当する。
【0027】
さらに、詳細に説明すると、本実施形態のベンチ1に使用される栽培ベット2は、図1等に示されるように、一つの栽培ベット2に対して二条の栽培槽8が設けられている。そして、各々の栽培槽8は、管径が19mmの断面円形状を呈した一対の直管パイプ9a,9bと、この直管パイプ9a,9bを互いに平行に配したときの間に架渡された網状素材からなる園芸用のネット10と、架渡されたネット10に積重するようにして展張された不織布シート11とから構成されている。さらに、直管パイプ9a,9bの間を一定にするために、直管パイプ9a,9bの両端近傍及び略中央付近の上面に直交するように配された固定用パイプ12によって締結固定されている。ここで、直管パイプ9a,9b及び固定用パイプ12の固定は、周知の固定具(例えば、ボルト及びナット等)によって行われている。さらに、該固定用パイプ12は、互いに隣接する二条の栽培槽8のそれぞれの直管パイプ9a,9bを同時に固定するように取付けられている。これにより、両端の直管パイプ9a,9b或いは固定用パイプ12をそれぞれ把持し、上方に持ち上げることにより、ネット10上に敷設された不織布シート11が下方に垂れ下がり、側方(図1における矢印A参照)から観察すると、直管パイプ9a,9bと不織布シート11とによってヤシ殻培地13(詳細は後述する)が充填される空間に相当する窪みが形成される。
【0028】
ここで、本実施形態は、直管パイプ9a,9bの長さは約2mに設定され、固定用パイプ12の長さは、約40cmに設定されている。さらに、栽培槽8の幅(各直管パイプ9a,9bの間の長さに相当)は、約10cmになるように設定されている。さらに、使用される不織布シート11は、イチゴ6を栽培する際の条件を考慮して約60%の透水率を有するものが使用され、上述した窪みを形成するために、栽培槽8の幅10cmに対し、約25cmの幅のものが使用されている。ここで、直管パイプ9a,9bが本発明における横支持部に相当する。
【0029】
一方、栽培ベット支持部7は、図1等に示すように、設置面に一部が埋没するように打ち込まれ、該設置面から略鉛直方向に向かって立設された六本の支柱4と、ベンチ1の幅方向に隣り合う支柱4の間の設置面の表面近傍(地際)に架渡された横架部14とを具備して構成されている。なお、本実施形態では、設置面にはコンクリートが敷設されている。このとき、支柱4の高さ(設置面から突出した部分に相当)は約70cm、支柱4の幅方向の間は栽培ベット2の幅と同一の約40cm、支柱4の長さ方向の間は約1.2mに設定されている。また、支柱4に直交して架渡された横架部14は、本実施形態では溶接によって固定されている。これにより、支柱4の幅方向を強固に安定させ、かつ仮に支柱4に大きな荷重が加えられた場合でも、横架部14が設置面に近接しているため、該横架部14がストッパーの役割を果たし、支柱4の設置面への沈込みを防止することができる。なお、支柱4の上端は、パイプ管を切断したパイプ切断面15が形成され、パイプ肉厚部分16の内部にパイプ孔17が形成されている。ここで、パイプ孔17が本実施形態におけるフック受部に相当する。なお、図1等に示されるように、設置面から下方に埋没した支柱の一部4aは、破線で示されている。
【0030】
さらに、S字フック3は、設置面に立設された六本の支柱4のそれぞれに対して用意され、各支柱4のパイプ孔17に一部を挿入し、係合可能なS字の上部側に相当する係止フック18と、係止フック18と接続し、S字の下部側に相当するベット支持部19とによって構成されている。なお、本実施形態においては、長さが約6cm、幅が約3.4cm、及び厚さが約4mmの金属材料からなるS字フック3が用いられている。ここで、ベット支持部19は、図3等に示されるように、先端が上方に向かって跳ね上げられた構造を有し、栽培槽8に取設された円管状の直管パイプ9a,9bの外周管形状に沿って湾曲して形成されたフック内周面20を有している。このとき、係止フック18は、図3に示されるように支柱4のパイプ孔17に先端から挿入され、係合されているため、S字フック3の下方に向かう移動が規制されている。そのため、このフック内周面20の部分で栽培槽8の直管パイプ9aを下方から支持し、栽培ベット2を所定の高さに維持することができる。
【0031】
次に、本実施形態のベンチ1を使用したイチゴ6の栽培例を示す。まず、本実施形態のベンチ1をイチゴ6をハウス(図示しない)に設置し、栽培槽8の不織布シート11の撓みによって形成された窪み部分にヤシ殻からなるヤシ殻培地13を充填し、イチゴ6の苗を所定間隔で定植する。このとき、本実施形態では、一条の栽培槽8当たり、5〜10株のイチゴ6が植えられる。なお、使用される不織布シート11は、充填されるヤシ殻培地13及びイチゴ6の苗等の重量に十分耐え得る強度を有し、さらにネット10によって該不織布シート11を下方から支え、補助することができる。
【0032】
さらに、従来の高設ベンチに適用される潅水用の水を供給する給水チューブ、栄養剤等の薬液を適宜供給する養液チューブがヤシ殻培地13に挿入され、さらにヤシ殻培地13から排出される排水を外部に導出する排水チューブが挿入されている。なお、説明を簡略化するため、これらのチューブ類は図1等には図示を省略している。そして、これらの状態で、栽培槽8のヤシ殻培地13に適宜潅水を行い、ハウスの室内温度を生育に適した温度に制御することにより、イチゴ6の栽培を約6ヶ月間行った(図4参照)。
【0033】
ここで、図5は、上記栽培条件にあるイチゴ6の一日の培地温変化を示したものである。グラフ中「▲」で示したものが、本実施形態の不織布シート11によって構成された栽培槽8を有するベンチ1のヤシ殻培地13の培地温であり、「●」で示したものが、比較例として栽培槽を発泡スチロールを用いた場合のヤシ殻培地13の培地温であり、「□」で示したものがその時の室内の気温である。
【0034】
この結果、連結具としてS字フック3を用いることにより、栽培槽8、イチゴ6、及びヤシ殻培地3による荷重に十分耐え得ることの可能な強度を有することが示された。さらに、従来の発泡スチロール製等の栽培槽に比べ、重量を軽量化することが可能となり、イチゴ6及びヤシ殻培地13を栽培槽8に充填した状態でも二人の作業者で容易に栽培ベット支持部7から取外し、他所に移設することが可能となる。このとき、栽培ベット2の取外しは、特に複雑な操作を要するものではなく、栽培ベット2の一部(例えば、直管パイプ9a,9b等)を把持し、上方に持ち上げることにより、S字フック3による栽培ベット2の連結状態を容易に解除することができる(図2参照)。なお、イチゴ6等の農作物及びヤシ殻培地13が取除かれている場合は、上記操作を一人の作業者で行うことも可能である。
【0035】
また、図5に示されるように、本実施形態のベンチ1(調査例)を使用することにより、比較例に対し、培地温が約2〜5℃低くなることが示される。さらに、室内の気温の変化が約10℃前後に対し、ベンチ1のヤシ殻培地13の培地温の変化は、約5℃前後であり、一日を通じて培地温の急激な変化がない。ここで、夏秋イチゴの場合、培地温を低下させることによって収量及び収益性が良好となることが知られている。そのため、低温で、急激な温度変化の少ない本実施形態のベンチ1は、特に夏秋イチゴの栽培に適していることが示される。
【0036】
さらに、上述したように、ベンチ1の栽培ベット2の連結を容易に解除し、他所に移設することが可能であるため、特に冬季の積雪によるベンチの倒壊の被害を防ぐことができる。このとき、栽培ベット支持部7の支柱4は、設置面から鉛直方向に立設されており、積雪による荷重をあまり受けることがなく、倒壊のおそれはほとんどない。これにより、特に栽培期間が夏季及び秋季にわたる夏秋イチゴの栽培が終わった後の寒冷地であっても、高設ベンチ1による栽培を行うことができ、作業者の労力の負担を軽減することができる。
【0037】
また、栽培槽を不織布シート11を主な素材として形成することにより、栽培ベット2を軽量化することができ、本実施形態のように、栽培ベット2の移設を前提として形成されたものに対しては、特に好適である。さらに、不織布シート11を用いることにより、ヤシ殻培地13の培地温を発泡スチロール製等に比べ、低く抑えることが可能であり、イチゴ6の収量の安定及び収益性の向上に寄与することができる。
【0038】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0039】
すなわち、本実施形態のベンチ1において、農作物として主に夏季及び秋季の間を栽培期間とする夏秋イチゴを栽培するものについて例示したが、これに限定されるものではなく、栽培期間が冬季及び春季にかかる冬春イチゴや、その他イチゴ以外の農作物であっても構わない。特に、比較的気候の温暖な平坦地で栽培される冬春イチゴの場合、台風による強風や強雨によってベンチの倒壊が発生したり、或いは培地に含まれる肥料成分が雨水によって洗い流されてしまう不具合を生じることがある。そのため、本実施形態のベンチ1を使用し、これらの時季は、栽培ベット2を倉庫などに移設し、雨水の影響を及ぼさないようにしたり、強風によって支柱4に大きな荷重が加わることを防ぎ、倒壊を防止することができる。
【0040】
さらに、本実施形態のベンチ1において、連結具としてS字フック3を用いるものを示したが、これに限定されるものではなく、その他のバックルやベルトなどの互いを連結し、固定することができる周知の固定連結具を用いることが可能である。しかしながら、上述のバックル等は、操作が煩雑となる。一方、本実施形態のS字フック3は、単に栽培ベット2を上方に持ち上げるだけの簡易な操作で互いの連結状態を解除できるため、操作性及び労力を低減させる点で、特に好適と考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】ベンチの概略構成を示す斜視図である。
【図2】ベンチから栽培ベットを取外した状態を示す分解斜視図である。
【図3】S字フックによる支柱及び横支持部の連結を示す説明図である。
【図4】ベンチを使用したイチゴの栽培例を示す説明図である。
【図5】ベンチの培地温変化を比較したグラフである。
【符号の説明】
【0042】
1 ベンチ(高設ベンチ)
2 栽培ベット
3 S字フック(連結具)
4 支柱
6 イチゴ(農作物)
7 栽培ベット支持部
8 栽培槽
9a,9b 各直管パイプ(横支持部)
11 不織布シート(栽培槽)
12 固定用パイプ
13 ヤシ殻培地(培地)
14 横架部
18 係止フック(連結具)
19 ベット支持部(連結具)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
農作物の栽培される栽培槽を有する栽培ベットと、
少なくとも一部を設置面に埋没し、前記設置面から略鉛直方向に向かって立設された複数の支柱を配して構成される栽培ベット支持部と、
前記栽培ベットを前記設置面から離間した上方位置に支持可能に形成され、前記栽培ベット支持部から前記栽培ベットを脱着自在に連結する連結具と
を具備することを特徴とする高設ベンチ。
【請求項2】
前記栽培ベットは、
長手方向を略水平方向に沿って配し、前記栽培槽に取設された少なくとも一対の横支持部をさらに有し、
前記連結具は、
略S字形状を呈して構成され、
前記栽培槽の前記横支持部を下方から支持するベット支持部と、
前記ベット支持部と接続し、前記栽培ベット支持部の前記支柱に設けられたフック受部と係合可能に形成された係止フックと
を有することを特徴とする請求項1に記載の高設ベンチ。
【請求項3】
前記栽培槽は、
前記横支持部の間に架渡された可撓性を有する不織布シートを具備して構成されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の高設ベンチ。
【請求項4】
前記栽培ベット支持部は、
前記設置面に近接し、互いに隣合う前記支柱の間を略水平方向に架渡して連結した横架部を有することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一つに記載の高設ベンチ。
【請求項5】
前記栽培槽で栽培される前記農作物は、
イチゴであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一つに記載の高設ベンチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−122022(P2006−122022A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−318281(P2004−318281)
【出願日】平成16年11月1日(2004.11.1)
【出願人】(391016842)岐阜県 (70)
【出願人】(000201641)全国農業協同組合連合会 (69)
【Fターム(参考)】