(2R,4R)−モナティンのカリウム塩結晶
【課題】 甘味強度に優れる(2R,4R)−モナティンの塩の結晶であって、保存安定性、溶解性、着色安定性に優れた結晶を提供すること。
【解決手段】 Cu−Kα線による粉末X線回折で得られるX線回折パターンにおいて、5.5°、7.2°、8.1°、8.9°および16.3°に回折角2θの特徴的ピークを有する、(2R,4R)−モナティンのカリウム塩結晶。
【解決手段】 Cu−Kα線による粉末X線回折で得られるX線回折パターンにおいて、5.5°、7.2°、8.1°、8.9°および16.3°に回折角2θの特徴的ピークを有する、(2R,4R)−モナティンのカリウム塩結晶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた甘味強度を有する(2R,4R)−モナティンのカリウム塩結晶に関する。
【背景技術】
【0002】
モナティン(Monatin)は南アフリカの北部トランスバール(northern
Transvaal)地方に自生する植物シュレロチトン イリシホリアス(Schlerochiton ilicifolius)の根皮から単離された天然由来のアミノ酸誘導体であり、R.Vleggaarらにより、その構造に関し、(2S,4S)−2−amino−4−carboxy−4−hydroxy−5−(3−indolyl)−pentanoic acid ((2S,4S)−4−hydroxy−4−(3−indolylmethyl)−glutamic acid)と報告されている(非特許文献1参照)。モナティンの合成法は、例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、非特許文献2、非特許文献3等に記載されている。
さらに、特許文献4において、モナティンの立体異性体((2S、4R)体、(2R,4R)体および(2R,4S)体)結晶が単離されているが、その中でもモナティンの(2R,4R)体(以下、(2R,4R)−モナティンと略すこともある)が高い甘味強度を示し、特に(2R,4R)−モナティンのカリウム塩結晶は、保存安定性等にも優れていることが開示されている。ところで、特許文献4において、具体的に開示されているモナティンのカリウム塩結晶は、1カリウム塩の結晶であり、粉末X線回折(Cu−Kα線)で得られるX線回折パターンにおいて、6.1°、12.2°、18.3°、20.6°および24.5°に回折角2θの特徴的ピークを有するものである。
【特許文献1】ZA 87/4288
【特許文献2】ZA 88/4220
【特許文献3】米国特許第5,994,559号明細書
【特許文献4】国際公開第03/045914号パンフレット
【非特許文献1】R.Vleggaar et al.,J.Chem.Soc.Perkin Trans.,3095−3098,(1992)
【非特許文献2】C.W.Holzapfel et al.,Synthetic Communications,24(22),3197−3211(1994)
【非特許文献3】K.Nakamura et al.,Organic Letters,2,2967−2970(2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記塩は上述の如く保存安定性等に優れた特性を有するが、溶解性、着色安定性の点において更に改善されればより好ましい。
【0004】
本発明の目的は、甘味強度に優れる(2R,4R)−モナティンの塩の結晶であって、保存安定性、溶解性、着色安定性に優れた結晶を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討を行った結果、モナティンの4種の立体異性体の中で最も甘味強度が高い(2R,4R)−モナティンにおいて、特定の粉末X線回折スペクトルを有する(2R,4R)−モナティンのカリウム塩が、保存安定性に加え、溶解性および着色安定性にも優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、
(1) Cu−Kα線による粉末X線回折で得られるX線回折パターンにおいて、5.5°、7.2°、8.1°、8.9°および16.3°に回折角2θの特徴的ピークを有する、(2R,4R)−モナティンのカリウム塩結晶、
(2) (2R,4R)−モナティンに対するカリウムのモル比が1.2〜2の範囲にある(2R,4R)−モナティンのカリウム塩結晶、
(3) (2R,4R)−モナティンに対するカリウムのモル比が1.2〜2の範囲にある上記(1)記載の結晶、
(4) (2R,4R)−モナティンに対する水のモル比が0.9〜1.7の範囲にある上記(1)〜(3)記載の結晶、
(5) 上記(1)〜(4)記載の結晶を含有する甘味料組成物
等に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、(2R,4R)−モナティンの1カリウム塩結晶と同等の保存安定性を示し、かつ該1カリウム塩結晶よりも優れた溶解性および着色安定性を示す(2R,4R)−モナティンのカリウム塩結晶が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の(2R,4R)−モナティンのカリウム塩結晶は、下式
【0009】
【化1】
【0010】
で表される(2R,4R)−モナティンのカリウム塩であり、Cu−Kα線による粉末X線回折で得られるX線回折パターンにおいて、5.5°、7.2°、8.1°、8.9°および16.3°付近に回折角2θの特徴的ピークを有する。粉末X線解析スペクトルにおける回折角(2θ)の値は、±0.2度程度の測定誤差を有し得る。このような誤差が存在する場合であっても結晶形の同一性が否定されないことは明らかである。
【0011】
本発明の(2R,4R)−モナティンのカリウム塩結晶は、(2R,4R)−モナティンにカリウムが付加した塩の結晶である。1モルの(2R,4R)−モナティンに対して付加するカリウムの量は、好ましくは1.2〜2モルであり、より好ましくは1.8〜2.0モルである。
【0012】
本発明の(2R,4R)−モナティンのカリウム塩結晶は、通常、水和物の結晶である。その場合、1モルの(2R,4R)−モナティンに対して水和している水分子の量は、好ましくは0.9〜1.7程度である。本発明の効果を奏することおよび甘味料としての使用に問題がない範囲で、エタノール等の他の溶媒が任意の比率で本発明の結晶に付加していてもよい。
【0013】
本発明の(2R,4R)−モナティンのカリウム塩結晶は甘味料として好適に使用される。更に担体、増量剤、添加剤、香料等の他の任意の成分を配合して甘味料組成物を提供することができる。本発明の甘味料組成物は、糖類(ショ糖、転化糖、異性化糖、ブドウ糖、果糖、乳糖、麦芽糖、トレハロース、キシロース等)、糖アルコール類(マルチトール、ソルビトール、マンニトール、エリスリトール、キシリトール、ラクチトール等)、オリゴ糖類、食物繊維、アスパルテーム、サッカリン、アセスルファムK、スクラロース等の他の甘味料を含んでいてもよい。
【0014】
本発明の結晶および甘味料組成物、より詳細には凍結乾燥物、混合粉砕物としての甘味料組成物は、必要により乾式造粒または湿式造粒等の当業者に公知の方法に従って造粒し、造粒物としてもよい。
【0015】
本発明の結晶および甘味料組成物は、粉末ジュース、粉末ココア、インスタントコーヒー、チョコレート、チューインガム、健康食品、パン、ケーキ等の各種食品、およびコーヒー飲料、野菜汁飲料、日本茶、中国茶、紅茶、乳飲料、スープ飲料、炭酸飲料、甘味飲料、果汁飲料、アルコール飲料等の各種飲料に使用することができる。また、歯磨き粉、薬品など甘味が必要とされる各種製品等にも使用することができる。
【0016】
本発明の(2R,4R)−モナティンのカリウム塩結晶は、(2R,4R)−モナティンの1カリウム塩から製造することができる。当該1カリウム塩は、例えば、上記非特許文献3および特許文献4に従って製造することができる。
【0017】
例えば、非特許文献3、特許文献4等の方法に従ってモナティンを合成し、陽イオン交換樹脂(H+型)に吸着させて、3%アンモニア水で溶出した後に、凍結乾燥によって精製して、(2S)−モナティン((2S,4S)−モナティンと(2S,4R)−モナティンとの混合物)のアンモニウム塩、(2R)−モナティン((2R,4S)−モナティンと(2R,4R)−モナティンとの混合物)のアンモニウム塩を得ることができる。さらに、逆相HPLCによって、(2R,4R)−モナティンをアンモニウム塩の形態で分離することができる。次に、例えば、特許文献4の方法に従って、この(2R,4R)−モナティンのアンモニウム塩を水に溶解し、得られた水溶液を陽イオン交換樹脂を充填したカラムに通すことで、アンモニウムイオンをカリウムイオンに交換することができる。カラムから溶出した液を濃縮して、60℃まで加熱し、エタノールを添加し、5℃/時間の速度で10℃まで冷却した後、10℃で一晩攪拌する。そうすることで液中に結晶が析出するので、得られた結晶を回収し、減圧乾燥器にて乾燥することにより(2R,4R)−モナティンの1カリウム塩結晶を得ることができる。
【0018】
本発明の(2R,4R)−モナティンのカリウム塩結晶は、(2R,4R)−モナティンの1カリウム塩結晶を溶媒、好ましくはエタノール(またはエタノール水溶液)に分散し、カリウム化合物、好ましくは水酸化カリウムを含むエタノール水溶液を添加して溶解させ、冷却晶析させることにより得ることができる。系中のエタノール/水の体積比率は好ましくは10/1以上、より好ましくは20/1以上、更に好ましくは40/1以上である。
【0019】
以下、実施例および比較例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。実施例および比較例中、本発明の(2R,4R)−モナティンのカリウム塩を便宜上「(2R,4R)−モナティンの2カリウム塩」と表記している。
【0020】
Cu−Kα線による粉末X線回折の測定は、スペクトリス株式会社製X線回折装置PW3050を用い、管球:Cu、管電流:30mA、管電圧:40kV、サンプリング幅:0.020°、走査速度:3°/min、波長:1.54056Å、測定回折角範囲(2θ):3〜30°の条件で測定した。
【0021】
(2R,4R)−モナティンとカリウムのモル比は、以下の条件で所定濃度の(2R,4R)−モナティンカリウム塩結晶溶液中のカリウムイオン濃度を測定し、濃度比にて決定した。
<陽イオン測定カラム>(株)昭和電工製 Shodex IC YK−421、内径4.6mm、長さ125mm
<溶離液>4mMリン酸+5mM18−Crown−6
<カラム温度>40℃
<流速>0.6ml/min
【0022】
(2R,4R)−モナティンとエタノールのモル比は、以下の条件で所定濃度の(2R,4R)−モナティンカリウム塩結晶溶液をNMRにより測定し、得られたスペクトルから(2R,4R)−モナティンとエタノールの積分比を算出して決定した。
<装置名> Bruker製 AVANCE400 1H;400MHz
<溶媒> 重水
<温度> 室温
<濃度> 約7重量%
<算出方法> (2R,4R)−モナティンのプロトン積分値の合計(但し活性プロトンは除く)とエタノールのプロトン積分値の合計(但し活性プロトンを除く)との比率から算出した。
【0023】
(2R,4R)−モナティンと水のモル比は、以下の条件で所定濃度の(2R,4R)−モナティンカリウム塩結晶溶液中の水濃度をカールフィッシャー法により測定し、濃度比にて決定した。
<装置名>平沼産業株式会社製 自動水分測定装置 AQV−2000
<滴定液>Hydranal−composite 5(Riedel−deHaёn製)
<溶媒>メタノール
<温度>室温
【実施例1】
【0024】
1.00g(3.03mmol)の(2R,4R)−モナティンの1カリウム塩を11.97mlのエタノールに分散させ、室温下で1N水酸化カリウム/エタノール溶液3.03ml(3.03mmol)を添加して(2R,4R)−モナティンの1カリウム塩を溶解させた。溶液を撹拌しながら氷浴で冷却し結晶を析出させた。得られた結晶を分離し湿結晶を得た。湿結晶の粉末X線は5.3°、8.5°、9.1°、14.3°、17.1°、20.1°に特徴的なピークを示した。該湿結晶を40℃で、減圧下に乾燥させ、乾燥結晶を得た。乾燥結晶の粉末X線(Cu Kα線、以下同様)は5.5°、7.2°、8.1°、8.9°、16.3°に特徴的なピークを示した。
【実施例2】
【0025】
10.00g(30.3mmol)の(2R,4R)−モナティンの1カリウム塩を170mlのエタノールに分散させ、20℃で1N水酸化カリウム/エタノール溶液30.27ml(30.3mmol)を添加して溶解させ一晩撹拌した。その後10℃まで冷却した後、結晶を分離し、10mlのエタノールで洗浄することによって湿結晶16.05gを得た。この湿結晶の粉末X線は5.3°、8.5°、9.1°、14.3°、17.1°、20.1°に特徴的なピークを示した。
【実施例3】
【0026】
0.50g(1.51mmol)の(2R,4R)−モナティンの1カリウム塩を9.885mlのエタノールに分散させ、室温下で50重量%水酸化カリウム水溶液0.17g(1.51mmol)を添加して溶解させた。撹拌しながら氷浴で冷却すると結晶が析出した。この結晶を分離し、0.42gの湿結晶を得た。この湿結晶の粉末X線は5.3°、8.5°、9.1°、14.3°、17.1°、20.1°に特徴的なピークを示した。
【実施例4】
【0027】
9.885mlのエタノールの代わりに、9.750mlのエタノールと0.135mlの水を使用する以外は実施例3と同様にして、0.64gの湿結晶を得た。この湿結晶の粉末X線は5.3°、8.5°、9.1°、14.3°、17.1°、20.1°に特徴的なピークを示した。
【実施例5】
【0028】
9.885mlのエタノールの代わりに、9.500mlのエタノールと0.385mlの水を使用する以外は実施例3と同様にして、0.17gの湿結晶を得た。この湿結晶の粉末X線は5.3°、8.5°、9.1°、14.3°、17.1°、20.1°に特徴的なピークを示した。
【0029】
(比較例1)
1.00g(3.03mmol)の(2R,4R)−モナティンの1カリウム塩を8.94mlのエタノールに分散させ、室温下で1N水酸化カリウム/エタノール溶液6.06ml(6.06mmol)を添加して溶解させた。撹拌しながら氷浴で冷却しても結晶は得られなかった。
【0030】
(比較例2)
1.00g(3.03mmol)の(2R,4R)−モナティンの1カリウム塩を5.91mlのエタノールに分散させ、室温下で1N水酸化カリウム/エタノール溶液9.09ml(9.09mmol)を添加して溶解させた。撹拌しながら氷浴で冷却しても結晶は得られなかった。
【0031】
(比較例3)
1.00g(3.03mmol)の(2R,4R)−モナティンの1カリウム塩を16.5mlのエタノールに分散させ、室温下で1N水酸化カリウム/エタノール溶液1.5ml(1.5mmol)を添加してスラリー化した。撹拌しながら氷浴で冷却すると結晶が析出した。この結晶を分離し、その後、40℃、減圧下に乾燥させ、得られた乾燥結晶の粉末X線回折パターンを得たところ、得られた結晶は、(2R,4R)−モナティンの1カリウム塩と2カリウム塩との混合物であった。
【0032】
(比較例4)
1.00g(3.03mmol)の(2R,4R)−モナティンの1カリウム塩を13.5mlのエタノールに分散させ、室温下で1N水酸化カリウム/エタノール溶液4.5ml(4.5mmol)を添加して溶解させた。撹拌しながら氷浴で冷却しても結晶は得られなかった。
【0033】
(比較例5)
0.50g(1.51mmol)の(2R,4R)−モナティンの1カリウム塩を9.0mlのエタノールと0.885mlの水に分散させ、室温下で50重量%水酸化カリウム水溶液0.17g(1.51mmol)を添加して溶解させた。撹拌しながら氷浴で冷却しても結晶は得られなかった。
【0034】
(比較例6)
1.00g(3.03mmol)の(2R,4R)−モナティンの1カリウム塩を6.97mlのエタノールと2mlの水に分散させ、室温下で1N水酸化カリウム/エタノール溶液3.03ml(3.03mmol)を添加して溶解させた。撹拌しながら氷浴で冷却しても結晶は得られなかった。
【0035】
(比較例7)
1.00g(3.03mmol)の(2R,4R)−モナティンの1カリウム塩を3.94mlのエタノールと2mlの水に分散させ、室温下で1N水酸化カリウム/エタノール溶液6.06ml(6.06mmol)を添加して溶解させた。撹拌しながら氷浴で冷却しても結晶は得られなかった。
【0036】
(比較例8)
1.00g(3.03mmol)の(2R,4R)−モナティンの1カリウム塩を0.91mlのエタノールと2mlの水に分散させ、室温下で1N水酸化カリウム/エタノール溶液9.09ml(9.09mmol)を添加して溶解させた。撹拌しながら氷浴で冷却しても結晶は得られなかった。
【0037】
以下に、実施例1〜5および比較例1〜8について、添加カリウム量、溶媒、晶析濃度ならびに(2R,4R)−モナティンに対するカリウム、エタノールおよび水のモル比を示す。
【0038】
【表1】
【0039】
*表1中の「添加カリウム量」は(2R,4R)−モナティンに対するモル比で示されている。
*表1中の「溶媒」は水酸化カリウム溶液添加後の溶媒を意味し、混合溶媒を用いた場合の比率は体積比で示されている。
*表1中の「モル比」は全て各実験例の湿結晶を乾燥させた乾燥結晶を測定した値である。
*実施例2のエタノール、水のモル比は未測定である。
【実施例6】
【0040】
実施例2で得られた(2R,4R)−モナティンの2カリウム塩の湿結晶0.473gをシャーレに入れ、40℃で1晩放置した。得られた結晶は0.23gであった。この結晶の粉末X線は5.5°、7.2°、8.1°、8.9°、16.3°に特徴的なピークを示した。
【実施例7】
【0041】
実施例2で得られた(2R,4R)−モナティンの2カリウム塩の湿結晶0.483gをシャーレに入れ、80℃で1晩放置した。得られた結晶は0.22gであった。この結晶の粉末X線は5.5°、7.2°、8.1°、8.9°、16.3°に特徴的なピークを示した。
【実施例8】
【0042】
0.50g(1.51mmol)の(2R,4R)−モナティンの1カリウム塩を(13.6ml)のエタノールに分散させ、10℃で50重量%水酸化カリウム水溶液0.17g(1.51mmol)を添加した。10℃で17.5時間撹拌すると結晶が析出した。この結晶を分離し、1.31gの湿結晶を得た。40℃で約2時間減圧乾燥して0.52gの結晶を得た。この結晶の粉末X線は5.3°、8.5°、9.1°、14.3°、17.1°、20.1°に特徴的なピークを示した。(2R,4R)−モナティンに対するモル比は、カリウム1.4、エタノール0.63、水0.87であった。
【0043】
<着色性試験>
実施例8で得られた(2R,4R)−モナティンの2カリウム塩結晶、上述の特許文献4に記載の製法に従って製造した(2R,4R)−モナティンおよび(2R,4R)−モナティンの1カリウム塩結晶につき、着色性試験を行った。
着色性測定方法
測定機器;バリアン テクノロジーズ ジャパン リミテッド製 CARY 50 紫外可視分光光度計
濃度;1g/dl
溶媒;H2O
温度;室温
測定波長;490nm
測定間隔;30min
【0044】
【表2】
【0045】
表2より、本発明の(2R,4R)−モナティンの2カリウム塩結晶は、(2R,4R)−モナティン結晶および(2R,4R)−モナティンの1カリウム塩結晶と比べて着色安定性が優れていることがわかる。
【0046】
<保存安定性試験>
実施例1および実施例8で得られた(2R,4R)−モナティンの2カリウム塩結晶、上述の特許文献4に記載の製法に従って製造した(2R,4R)−モナティンの1カリウム塩結晶につき、保存安定性試験を行った。各サンプル50mgを4mlバイアル瓶(スクリューキャップ付)に入れ、60℃および室温で1週間保存した。
各サンプルについてHPLCを測定し、室温保存サンプルを100%としたときの60℃保存サンプルのHPLC定量値を重量変化として表した。また、各サンプルについてHPLCを測定し、60℃保存サンプルで検出されたピーク(検出波長210nm)の全ピークのarea合計値に対する(2R,4R)−モナティンのarea値の比をarea%として表した。
【0047】
【表3】
【0048】
表3より、(2R,4R)−モナティンの2カリウム塩の保存安定性は、(2R,4R)−モナティンの1カリウム塩とほぼ同等であることがわかる。
【0049】
<溶解度試験>
実施例8で得られた(2R,4R)−モナティンの2カリウム塩結晶および(2R,4R)−モナティンの1カリウム塩結晶について、溶解度を測定した。
温度:20℃
溶解度測定方法:
試験管に0、20、40、60、80、100%エタノールをそれぞれ2mlずつ入れたものを各2本用意した。この中に(2R,4R)−モナティンの2カリウム塩結晶および(2R,4R)−モナティンの1カリウム塩結晶を完全に溶解しないように添加し、蓋をして一晩撹拌した。その後、0.45μmのフィルターで濾過し、濾液を分析した。
【0050】
【表4】
【0051】
表4より、(2R,4R)−モナティンの2カリウム塩は(2R,4R)−モナティンの1カリウム塩に比べて溶解性が優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の(2R,4R)−モナティンのカリウム塩結晶は、甘味強度が高く、保存安定性に優れ、また(2R,4R)−モナティンの1カリウム塩結晶よりも溶解性および着色安定性に優れていることから、甘味料またはその成分として、また飲食品等に対する甘味付与成分としても優れた性質を有する新規甘味物質として、工業的に、特に食品分野において極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】実施例1における(2R,4R)−モナティンのカリウム塩湿結晶の粉末X線回折図である。縦軸は回折強度を、横軸は回折角度2θ[deg]を示す(以下の粉末X線回折図についても同様である)。
【図2】実施例1における(2R,4R)−モナティンのカリウム塩結晶の乾燥後の粉末X線回折図である。
【図3】実施例2における(2R,4R)−モナティンのカリウム塩湿結晶の粉末X線回折図である。
【図4】実施例3における(2R,4R)−モナティンのカリウム塩湿結晶の粉末X線回折図である。
【図5】実施例3における(2R,4R)−モナティンのカリウム塩結晶の乾燥後の粉末X線回折図である。
【図6】実施例4における(2R,4R)−モナティンのカリウム塩湿結晶の粉末X線回折図である。
【図7】実施例4における(2R,4R)−モナティンのカリウム塩結晶の乾燥後の粉末X線回折図である。
【図8】実施例5における(2R,4R)−モナティンのカリウム塩湿結晶の粉末X線回折図である。
【図9】実施例5における(2R,4R)−モナティンのカリウム塩結晶の乾燥後の粉末X線回折図である。
【図10】実施例6における(2R,4R)−モナティンのカリウム塩結晶の乾燥後の粉末X線回折図である。
【図11】実施例7における(2R,4R)−モナティンのカリウム塩結晶の乾燥後の粉末X線回折図である。
【図12】実施例8における(2R,4R)−モナティンのカリウム塩結晶の乾燥後の粉末X線回折図である。
【図13】表4の溶解度の値をグラフ化した図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた甘味強度を有する(2R,4R)−モナティンのカリウム塩結晶に関する。
【背景技術】
【0002】
モナティン(Monatin)は南アフリカの北部トランスバール(northern
Transvaal)地方に自生する植物シュレロチトン イリシホリアス(Schlerochiton ilicifolius)の根皮から単離された天然由来のアミノ酸誘導体であり、R.Vleggaarらにより、その構造に関し、(2S,4S)−2−amino−4−carboxy−4−hydroxy−5−(3−indolyl)−pentanoic acid ((2S,4S)−4−hydroxy−4−(3−indolylmethyl)−glutamic acid)と報告されている(非特許文献1参照)。モナティンの合成法は、例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、非特許文献2、非特許文献3等に記載されている。
さらに、特許文献4において、モナティンの立体異性体((2S、4R)体、(2R,4R)体および(2R,4S)体)結晶が単離されているが、その中でもモナティンの(2R,4R)体(以下、(2R,4R)−モナティンと略すこともある)が高い甘味強度を示し、特に(2R,4R)−モナティンのカリウム塩結晶は、保存安定性等にも優れていることが開示されている。ところで、特許文献4において、具体的に開示されているモナティンのカリウム塩結晶は、1カリウム塩の結晶であり、粉末X線回折(Cu−Kα線)で得られるX線回折パターンにおいて、6.1°、12.2°、18.3°、20.6°および24.5°に回折角2θの特徴的ピークを有するものである。
【特許文献1】ZA 87/4288
【特許文献2】ZA 88/4220
【特許文献3】米国特許第5,994,559号明細書
【特許文献4】国際公開第03/045914号パンフレット
【非特許文献1】R.Vleggaar et al.,J.Chem.Soc.Perkin Trans.,3095−3098,(1992)
【非特許文献2】C.W.Holzapfel et al.,Synthetic Communications,24(22),3197−3211(1994)
【非特許文献3】K.Nakamura et al.,Organic Letters,2,2967−2970(2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記塩は上述の如く保存安定性等に優れた特性を有するが、溶解性、着色安定性の点において更に改善されればより好ましい。
【0004】
本発明の目的は、甘味強度に優れる(2R,4R)−モナティンの塩の結晶であって、保存安定性、溶解性、着色安定性に優れた結晶を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討を行った結果、モナティンの4種の立体異性体の中で最も甘味強度が高い(2R,4R)−モナティンにおいて、特定の粉末X線回折スペクトルを有する(2R,4R)−モナティンのカリウム塩が、保存安定性に加え、溶解性および着色安定性にも優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、
(1) Cu−Kα線による粉末X線回折で得られるX線回折パターンにおいて、5.5°、7.2°、8.1°、8.9°および16.3°に回折角2θの特徴的ピークを有する、(2R,4R)−モナティンのカリウム塩結晶、
(2) (2R,4R)−モナティンに対するカリウムのモル比が1.2〜2の範囲にある(2R,4R)−モナティンのカリウム塩結晶、
(3) (2R,4R)−モナティンに対するカリウムのモル比が1.2〜2の範囲にある上記(1)記載の結晶、
(4) (2R,4R)−モナティンに対する水のモル比が0.9〜1.7の範囲にある上記(1)〜(3)記載の結晶、
(5) 上記(1)〜(4)記載の結晶を含有する甘味料組成物
等に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、(2R,4R)−モナティンの1カリウム塩結晶と同等の保存安定性を示し、かつ該1カリウム塩結晶よりも優れた溶解性および着色安定性を示す(2R,4R)−モナティンのカリウム塩結晶が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の(2R,4R)−モナティンのカリウム塩結晶は、下式
【0009】
【化1】
【0010】
で表される(2R,4R)−モナティンのカリウム塩であり、Cu−Kα線による粉末X線回折で得られるX線回折パターンにおいて、5.5°、7.2°、8.1°、8.9°および16.3°付近に回折角2θの特徴的ピークを有する。粉末X線解析スペクトルにおける回折角(2θ)の値は、±0.2度程度の測定誤差を有し得る。このような誤差が存在する場合であっても結晶形の同一性が否定されないことは明らかである。
【0011】
本発明の(2R,4R)−モナティンのカリウム塩結晶は、(2R,4R)−モナティンにカリウムが付加した塩の結晶である。1モルの(2R,4R)−モナティンに対して付加するカリウムの量は、好ましくは1.2〜2モルであり、より好ましくは1.8〜2.0モルである。
【0012】
本発明の(2R,4R)−モナティンのカリウム塩結晶は、通常、水和物の結晶である。その場合、1モルの(2R,4R)−モナティンに対して水和している水分子の量は、好ましくは0.9〜1.7程度である。本発明の効果を奏することおよび甘味料としての使用に問題がない範囲で、エタノール等の他の溶媒が任意の比率で本発明の結晶に付加していてもよい。
【0013】
本発明の(2R,4R)−モナティンのカリウム塩結晶は甘味料として好適に使用される。更に担体、増量剤、添加剤、香料等の他の任意の成分を配合して甘味料組成物を提供することができる。本発明の甘味料組成物は、糖類(ショ糖、転化糖、異性化糖、ブドウ糖、果糖、乳糖、麦芽糖、トレハロース、キシロース等)、糖アルコール類(マルチトール、ソルビトール、マンニトール、エリスリトール、キシリトール、ラクチトール等)、オリゴ糖類、食物繊維、アスパルテーム、サッカリン、アセスルファムK、スクラロース等の他の甘味料を含んでいてもよい。
【0014】
本発明の結晶および甘味料組成物、より詳細には凍結乾燥物、混合粉砕物としての甘味料組成物は、必要により乾式造粒または湿式造粒等の当業者に公知の方法に従って造粒し、造粒物としてもよい。
【0015】
本発明の結晶および甘味料組成物は、粉末ジュース、粉末ココア、インスタントコーヒー、チョコレート、チューインガム、健康食品、パン、ケーキ等の各種食品、およびコーヒー飲料、野菜汁飲料、日本茶、中国茶、紅茶、乳飲料、スープ飲料、炭酸飲料、甘味飲料、果汁飲料、アルコール飲料等の各種飲料に使用することができる。また、歯磨き粉、薬品など甘味が必要とされる各種製品等にも使用することができる。
【0016】
本発明の(2R,4R)−モナティンのカリウム塩結晶は、(2R,4R)−モナティンの1カリウム塩から製造することができる。当該1カリウム塩は、例えば、上記非特許文献3および特許文献4に従って製造することができる。
【0017】
例えば、非特許文献3、特許文献4等の方法に従ってモナティンを合成し、陽イオン交換樹脂(H+型)に吸着させて、3%アンモニア水で溶出した後に、凍結乾燥によって精製して、(2S)−モナティン((2S,4S)−モナティンと(2S,4R)−モナティンとの混合物)のアンモニウム塩、(2R)−モナティン((2R,4S)−モナティンと(2R,4R)−モナティンとの混合物)のアンモニウム塩を得ることができる。さらに、逆相HPLCによって、(2R,4R)−モナティンをアンモニウム塩の形態で分離することができる。次に、例えば、特許文献4の方法に従って、この(2R,4R)−モナティンのアンモニウム塩を水に溶解し、得られた水溶液を陽イオン交換樹脂を充填したカラムに通すことで、アンモニウムイオンをカリウムイオンに交換することができる。カラムから溶出した液を濃縮して、60℃まで加熱し、エタノールを添加し、5℃/時間の速度で10℃まで冷却した後、10℃で一晩攪拌する。そうすることで液中に結晶が析出するので、得られた結晶を回収し、減圧乾燥器にて乾燥することにより(2R,4R)−モナティンの1カリウム塩結晶を得ることができる。
【0018】
本発明の(2R,4R)−モナティンのカリウム塩結晶は、(2R,4R)−モナティンの1カリウム塩結晶を溶媒、好ましくはエタノール(またはエタノール水溶液)に分散し、カリウム化合物、好ましくは水酸化カリウムを含むエタノール水溶液を添加して溶解させ、冷却晶析させることにより得ることができる。系中のエタノール/水の体積比率は好ましくは10/1以上、より好ましくは20/1以上、更に好ましくは40/1以上である。
【0019】
以下、実施例および比較例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。実施例および比較例中、本発明の(2R,4R)−モナティンのカリウム塩を便宜上「(2R,4R)−モナティンの2カリウム塩」と表記している。
【0020】
Cu−Kα線による粉末X線回折の測定は、スペクトリス株式会社製X線回折装置PW3050を用い、管球:Cu、管電流:30mA、管電圧:40kV、サンプリング幅:0.020°、走査速度:3°/min、波長:1.54056Å、測定回折角範囲(2θ):3〜30°の条件で測定した。
【0021】
(2R,4R)−モナティンとカリウムのモル比は、以下の条件で所定濃度の(2R,4R)−モナティンカリウム塩結晶溶液中のカリウムイオン濃度を測定し、濃度比にて決定した。
<陽イオン測定カラム>(株)昭和電工製 Shodex IC YK−421、内径4.6mm、長さ125mm
<溶離液>4mMリン酸+5mM18−Crown−6
<カラム温度>40℃
<流速>0.6ml/min
【0022】
(2R,4R)−モナティンとエタノールのモル比は、以下の条件で所定濃度の(2R,4R)−モナティンカリウム塩結晶溶液をNMRにより測定し、得られたスペクトルから(2R,4R)−モナティンとエタノールの積分比を算出して決定した。
<装置名> Bruker製 AVANCE400 1H;400MHz
<溶媒> 重水
<温度> 室温
<濃度> 約7重量%
<算出方法> (2R,4R)−モナティンのプロトン積分値の合計(但し活性プロトンは除く)とエタノールのプロトン積分値の合計(但し活性プロトンを除く)との比率から算出した。
【0023】
(2R,4R)−モナティンと水のモル比は、以下の条件で所定濃度の(2R,4R)−モナティンカリウム塩結晶溶液中の水濃度をカールフィッシャー法により測定し、濃度比にて決定した。
<装置名>平沼産業株式会社製 自動水分測定装置 AQV−2000
<滴定液>Hydranal−composite 5(Riedel−deHaёn製)
<溶媒>メタノール
<温度>室温
【実施例1】
【0024】
1.00g(3.03mmol)の(2R,4R)−モナティンの1カリウム塩を11.97mlのエタノールに分散させ、室温下で1N水酸化カリウム/エタノール溶液3.03ml(3.03mmol)を添加して(2R,4R)−モナティンの1カリウム塩を溶解させた。溶液を撹拌しながら氷浴で冷却し結晶を析出させた。得られた結晶を分離し湿結晶を得た。湿結晶の粉末X線は5.3°、8.5°、9.1°、14.3°、17.1°、20.1°に特徴的なピークを示した。該湿結晶を40℃で、減圧下に乾燥させ、乾燥結晶を得た。乾燥結晶の粉末X線(Cu Kα線、以下同様)は5.5°、7.2°、8.1°、8.9°、16.3°に特徴的なピークを示した。
【実施例2】
【0025】
10.00g(30.3mmol)の(2R,4R)−モナティンの1カリウム塩を170mlのエタノールに分散させ、20℃で1N水酸化カリウム/エタノール溶液30.27ml(30.3mmol)を添加して溶解させ一晩撹拌した。その後10℃まで冷却した後、結晶を分離し、10mlのエタノールで洗浄することによって湿結晶16.05gを得た。この湿結晶の粉末X線は5.3°、8.5°、9.1°、14.3°、17.1°、20.1°に特徴的なピークを示した。
【実施例3】
【0026】
0.50g(1.51mmol)の(2R,4R)−モナティンの1カリウム塩を9.885mlのエタノールに分散させ、室温下で50重量%水酸化カリウム水溶液0.17g(1.51mmol)を添加して溶解させた。撹拌しながら氷浴で冷却すると結晶が析出した。この結晶を分離し、0.42gの湿結晶を得た。この湿結晶の粉末X線は5.3°、8.5°、9.1°、14.3°、17.1°、20.1°に特徴的なピークを示した。
【実施例4】
【0027】
9.885mlのエタノールの代わりに、9.750mlのエタノールと0.135mlの水を使用する以外は実施例3と同様にして、0.64gの湿結晶を得た。この湿結晶の粉末X線は5.3°、8.5°、9.1°、14.3°、17.1°、20.1°に特徴的なピークを示した。
【実施例5】
【0028】
9.885mlのエタノールの代わりに、9.500mlのエタノールと0.385mlの水を使用する以外は実施例3と同様にして、0.17gの湿結晶を得た。この湿結晶の粉末X線は5.3°、8.5°、9.1°、14.3°、17.1°、20.1°に特徴的なピークを示した。
【0029】
(比較例1)
1.00g(3.03mmol)の(2R,4R)−モナティンの1カリウム塩を8.94mlのエタノールに分散させ、室温下で1N水酸化カリウム/エタノール溶液6.06ml(6.06mmol)を添加して溶解させた。撹拌しながら氷浴で冷却しても結晶は得られなかった。
【0030】
(比較例2)
1.00g(3.03mmol)の(2R,4R)−モナティンの1カリウム塩を5.91mlのエタノールに分散させ、室温下で1N水酸化カリウム/エタノール溶液9.09ml(9.09mmol)を添加して溶解させた。撹拌しながら氷浴で冷却しても結晶は得られなかった。
【0031】
(比較例3)
1.00g(3.03mmol)の(2R,4R)−モナティンの1カリウム塩を16.5mlのエタノールに分散させ、室温下で1N水酸化カリウム/エタノール溶液1.5ml(1.5mmol)を添加してスラリー化した。撹拌しながら氷浴で冷却すると結晶が析出した。この結晶を分離し、その後、40℃、減圧下に乾燥させ、得られた乾燥結晶の粉末X線回折パターンを得たところ、得られた結晶は、(2R,4R)−モナティンの1カリウム塩と2カリウム塩との混合物であった。
【0032】
(比較例4)
1.00g(3.03mmol)の(2R,4R)−モナティンの1カリウム塩を13.5mlのエタノールに分散させ、室温下で1N水酸化カリウム/エタノール溶液4.5ml(4.5mmol)を添加して溶解させた。撹拌しながら氷浴で冷却しても結晶は得られなかった。
【0033】
(比較例5)
0.50g(1.51mmol)の(2R,4R)−モナティンの1カリウム塩を9.0mlのエタノールと0.885mlの水に分散させ、室温下で50重量%水酸化カリウム水溶液0.17g(1.51mmol)を添加して溶解させた。撹拌しながら氷浴で冷却しても結晶は得られなかった。
【0034】
(比較例6)
1.00g(3.03mmol)の(2R,4R)−モナティンの1カリウム塩を6.97mlのエタノールと2mlの水に分散させ、室温下で1N水酸化カリウム/エタノール溶液3.03ml(3.03mmol)を添加して溶解させた。撹拌しながら氷浴で冷却しても結晶は得られなかった。
【0035】
(比較例7)
1.00g(3.03mmol)の(2R,4R)−モナティンの1カリウム塩を3.94mlのエタノールと2mlの水に分散させ、室温下で1N水酸化カリウム/エタノール溶液6.06ml(6.06mmol)を添加して溶解させた。撹拌しながら氷浴で冷却しても結晶は得られなかった。
【0036】
(比較例8)
1.00g(3.03mmol)の(2R,4R)−モナティンの1カリウム塩を0.91mlのエタノールと2mlの水に分散させ、室温下で1N水酸化カリウム/エタノール溶液9.09ml(9.09mmol)を添加して溶解させた。撹拌しながら氷浴で冷却しても結晶は得られなかった。
【0037】
以下に、実施例1〜5および比較例1〜8について、添加カリウム量、溶媒、晶析濃度ならびに(2R,4R)−モナティンに対するカリウム、エタノールおよび水のモル比を示す。
【0038】
【表1】
【0039】
*表1中の「添加カリウム量」は(2R,4R)−モナティンに対するモル比で示されている。
*表1中の「溶媒」は水酸化カリウム溶液添加後の溶媒を意味し、混合溶媒を用いた場合の比率は体積比で示されている。
*表1中の「モル比」は全て各実験例の湿結晶を乾燥させた乾燥結晶を測定した値である。
*実施例2のエタノール、水のモル比は未測定である。
【実施例6】
【0040】
実施例2で得られた(2R,4R)−モナティンの2カリウム塩の湿結晶0.473gをシャーレに入れ、40℃で1晩放置した。得られた結晶は0.23gであった。この結晶の粉末X線は5.5°、7.2°、8.1°、8.9°、16.3°に特徴的なピークを示した。
【実施例7】
【0041】
実施例2で得られた(2R,4R)−モナティンの2カリウム塩の湿結晶0.483gをシャーレに入れ、80℃で1晩放置した。得られた結晶は0.22gであった。この結晶の粉末X線は5.5°、7.2°、8.1°、8.9°、16.3°に特徴的なピークを示した。
【実施例8】
【0042】
0.50g(1.51mmol)の(2R,4R)−モナティンの1カリウム塩を(13.6ml)のエタノールに分散させ、10℃で50重量%水酸化カリウム水溶液0.17g(1.51mmol)を添加した。10℃で17.5時間撹拌すると結晶が析出した。この結晶を分離し、1.31gの湿結晶を得た。40℃で約2時間減圧乾燥して0.52gの結晶を得た。この結晶の粉末X線は5.3°、8.5°、9.1°、14.3°、17.1°、20.1°に特徴的なピークを示した。(2R,4R)−モナティンに対するモル比は、カリウム1.4、エタノール0.63、水0.87であった。
【0043】
<着色性試験>
実施例8で得られた(2R,4R)−モナティンの2カリウム塩結晶、上述の特許文献4に記載の製法に従って製造した(2R,4R)−モナティンおよび(2R,4R)−モナティンの1カリウム塩結晶につき、着色性試験を行った。
着色性測定方法
測定機器;バリアン テクノロジーズ ジャパン リミテッド製 CARY 50 紫外可視分光光度計
濃度;1g/dl
溶媒;H2O
温度;室温
測定波長;490nm
測定間隔;30min
【0044】
【表2】
【0045】
表2より、本発明の(2R,4R)−モナティンの2カリウム塩結晶は、(2R,4R)−モナティン結晶および(2R,4R)−モナティンの1カリウム塩結晶と比べて着色安定性が優れていることがわかる。
【0046】
<保存安定性試験>
実施例1および実施例8で得られた(2R,4R)−モナティンの2カリウム塩結晶、上述の特許文献4に記載の製法に従って製造した(2R,4R)−モナティンの1カリウム塩結晶につき、保存安定性試験を行った。各サンプル50mgを4mlバイアル瓶(スクリューキャップ付)に入れ、60℃および室温で1週間保存した。
各サンプルについてHPLCを測定し、室温保存サンプルを100%としたときの60℃保存サンプルのHPLC定量値を重量変化として表した。また、各サンプルについてHPLCを測定し、60℃保存サンプルで検出されたピーク(検出波長210nm)の全ピークのarea合計値に対する(2R,4R)−モナティンのarea値の比をarea%として表した。
【0047】
【表3】
【0048】
表3より、(2R,4R)−モナティンの2カリウム塩の保存安定性は、(2R,4R)−モナティンの1カリウム塩とほぼ同等であることがわかる。
【0049】
<溶解度試験>
実施例8で得られた(2R,4R)−モナティンの2カリウム塩結晶および(2R,4R)−モナティンの1カリウム塩結晶について、溶解度を測定した。
温度:20℃
溶解度測定方法:
試験管に0、20、40、60、80、100%エタノールをそれぞれ2mlずつ入れたものを各2本用意した。この中に(2R,4R)−モナティンの2カリウム塩結晶および(2R,4R)−モナティンの1カリウム塩結晶を完全に溶解しないように添加し、蓋をして一晩撹拌した。その後、0.45μmのフィルターで濾過し、濾液を分析した。
【0050】
【表4】
【0051】
表4より、(2R,4R)−モナティンの2カリウム塩は(2R,4R)−モナティンの1カリウム塩に比べて溶解性が優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の(2R,4R)−モナティンのカリウム塩結晶は、甘味強度が高く、保存安定性に優れ、また(2R,4R)−モナティンの1カリウム塩結晶よりも溶解性および着色安定性に優れていることから、甘味料またはその成分として、また飲食品等に対する甘味付与成分としても優れた性質を有する新規甘味物質として、工業的に、特に食品分野において極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】実施例1における(2R,4R)−モナティンのカリウム塩湿結晶の粉末X線回折図である。縦軸は回折強度を、横軸は回折角度2θ[deg]を示す(以下の粉末X線回折図についても同様である)。
【図2】実施例1における(2R,4R)−モナティンのカリウム塩結晶の乾燥後の粉末X線回折図である。
【図3】実施例2における(2R,4R)−モナティンのカリウム塩湿結晶の粉末X線回折図である。
【図4】実施例3における(2R,4R)−モナティンのカリウム塩湿結晶の粉末X線回折図である。
【図5】実施例3における(2R,4R)−モナティンのカリウム塩結晶の乾燥後の粉末X線回折図である。
【図6】実施例4における(2R,4R)−モナティンのカリウム塩湿結晶の粉末X線回折図である。
【図7】実施例4における(2R,4R)−モナティンのカリウム塩結晶の乾燥後の粉末X線回折図である。
【図8】実施例5における(2R,4R)−モナティンのカリウム塩湿結晶の粉末X線回折図である。
【図9】実施例5における(2R,4R)−モナティンのカリウム塩結晶の乾燥後の粉末X線回折図である。
【図10】実施例6における(2R,4R)−モナティンのカリウム塩結晶の乾燥後の粉末X線回折図である。
【図11】実施例7における(2R,4R)−モナティンのカリウム塩結晶の乾燥後の粉末X線回折図である。
【図12】実施例8における(2R,4R)−モナティンのカリウム塩結晶の乾燥後の粉末X線回折図である。
【図13】表4の溶解度の値をグラフ化した図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu−Kα線による粉末X線回折で得られるX線回折パターンにおいて、5.5°、7.2°、8.1°、8.9°および16.3°に回折角2θの特徴的ピークを有する、(2R,4R)−モナティンのカリウム塩結晶。
【請求項2】
(2R,4R)−モナティンに対するカリウムのモル比が1.2〜2の範囲にある(2R,4R)−モナティンのカリウム塩結晶。
【請求項3】
(2R,4R)−モナティンに対するカリウムのモル比が1.2〜2の範囲にある請求項1記載の結晶。
【請求項4】
(2R,4R)−モナティンに対する水のモル比が0.9〜1.7の範囲にある請求項1〜3のいずれか一項に記載の結晶。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の結晶を含有する甘味料組成物。
【請求項1】
Cu−Kα線による粉末X線回折で得られるX線回折パターンにおいて、5.5°、7.2°、8.1°、8.9°および16.3°に回折角2θの特徴的ピークを有する、(2R,4R)−モナティンのカリウム塩結晶。
【請求項2】
(2R,4R)−モナティンに対するカリウムのモル比が1.2〜2の範囲にある(2R,4R)−モナティンのカリウム塩結晶。
【請求項3】
(2R,4R)−モナティンに対するカリウムのモル比が1.2〜2の範囲にある請求項1記載の結晶。
【請求項4】
(2R,4R)−モナティンに対する水のモル比が0.9〜1.7の範囲にある請求項1〜3のいずれか一項に記載の結晶。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の結晶を含有する甘味料組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2006−52213(P2006−52213A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−204493(P2005−204493)
【出願日】平成17年7月13日(2005.7.13)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年7月13日(2005.7.13)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】
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