説明

2価二重特異性抗体

本発明は、新規なドメイン交換された2価二重特異性抗体、それらの生産および使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な2価二重特異性抗体、それらの生産および使用に関する。
【背景技術】
【0002】
操作されたタンパク質、例えば、2またはそれ以上の抗原に結合できる二重特異性または多重特異性抗体はこの分野において知られている。このような多重特異性結合性タンパク質は、細胞融合、化学的接合または組換えDNA技術を使用して発生させることができる。
【0003】
広範な種類の組換え二重特異性抗体フォーマットは最近開発されてきている、例えば、IgG抗体フォーマットおよび一本鎖ドメインの融合により、例えば、4価二重特異性抗体が開発された (例えば、下記の文献を参照のこと: Coloma M. J. 他、Nature Biotech. 15 (1997) 159-163; WO 2001077342; およびMorrison S. L. Nature Biotech. 25 (2007) 1233-1234) 。
【0004】
また、抗体コア構造 (IgA、IgD、IgE、IgGまたはIgM) がもはや保持されていないいくつかの新しいフォーマット、例えば、2またはそれ以上の抗原に結合できる、ジ抗体、トリ抗体またはテトラ抗体、ミニ抗体、いくつかの一本鎖フォーマット (scFv、ビス-scFv) が開発された (Holliger P. 他 Nature Biotech. 23 (2005) 1126-1136; Fischer N. およびLeger O. Pathobiology 74 (2007) 3-14; Shen J. 他 J. Immunol. Methods 318 (2007) 65-74; Wu C. 他 Nature Biotech. 25 (2007) 1290-1297)。
【0005】
すべてのこのようなフォーマットはリンカーを使用して抗体コア (IgA、IgD、IgE、IgGまたはIgM) をそれ以上の結合性タンパク質 (例えば、scFv) に融合するか、あるいは、例えば、2つのFabフラグメントまたはscFvを融合する (Fischer N. およびLeger O. Pathobiology 74 (2007) 3-14) 。リンカーは二重特異性抗体の操作のために利点を有することは明らかであるが、それらは治療的設定において問題を引き起こすこともある。事実、これらの外来ペプチドはリンカーそれ自体に対してまたはタンパク質とリンカーとの間の接合部に対して免疫応答を誘発することがある。
【0006】
さらにいっそう、これらのペプチドの柔軟な特質はそれらのタンパク質分解的切断の傾向を高め、潜在的に抗体安定性の低下に導き、抗体を凝集させ、そして免疫原性を増加させる。さらに、エフェクター機能、例えば、補体依存性細胞障害作用 (CDC) または抗体依存性細胞障害作用 (ADCC) を保持することを必要とすることがあり、これらは天然に存在する抗体に対する高度の類似性を維持することによってFc部分を通して伝達される。こうして、理想的には、一般構造が天然に存在する抗体 (例えば、IgA、IgD、IgE、IgGまたはIgM) に非常に類似し、ヒト配列からの逸脱が小さい、二重特異性抗体の開発を目的とすべきである。
【0007】
1つのアプローチにおいて、二重特異性抗体の所望の特異性をもつネズミモノクローナル抗体を発現する2つの異なるハイブリドーマ細胞系統の体融合に基づくクアドローマ (quadroma) 技術 (参照、Milstein C. およびA. C. Cuello、Nature 305 (1983) 537-40) を使用して、天然の抗体に非常に類似する二重特異性抗体が生産された。生ずるハイブリッド-ハイブリドーマ (またはクアドローマ) 細胞系統内の2つの異なる抗体の重鎖および軽鎖の不規則な対合のために、10までの異なる抗体種が発生し、それらの1つのみが所望の機能的二重特異性抗体である。対合違い副産物の存在および有意に減少した生産収量のために、複雑な精製手順を必要とする (例えば、下記の文献を参照のこと: Morrison S. L. 、Nature Biotech. 25 (2007) 1233-1234)。一般に、組換え発現技術を使用する場合、対合違い副産物という同一の問題が残る。
【0008】
「ノブ-インツ-ホール (knobs-into-holes)」として知られている、対合違い副産物の問題を回避するアプローチは、CH3ドメイン中に突然変異を導入して接触インターフェイスを変更することによって、2つの異なる抗体重鎖の対合を強制することを目指す。1つの鎖上で嵩高アミノ酸が短い側鎖をもつアミノ酸と置換して、「ホール」をつくる。逆に、大きい側鎖をもつアミノ酸を他のCH3ドメイン中に導入して、「ノブ」をつくる。これらの2つの重鎖 (および2つの同一軽鎖、これらは両方の重鎖のために適当でなくてはならない) を共発現させることによって、ホモダイマー (「ホール-ホール」または「ノブ-ノブ」) の形成に比較してヘテロダイマー (ノブ-ホール) の形成の高い収量が観測された (Ridgway J. B.、Protein Eng. 9 (1996) 617-621; およびWO 96/027011) 。
【0009】
ファージ展示アプローチを使用して2つのCH3ドメインの相互作用表面を改造し、そしてジサルファイド架橋を導入してヘテロダイマーを安定化することによって、ヘテロダイマーの百分率をさらに増加することができる (Merchant A. M. 他、Nature Biotech. 16 (1998) 677-681; Atwell S. 他、J. Mol. Biol. 270 (1997) 26-35) 。ノブ-インツ-ホール技術についての新しいアプローチは、例えば、EP 1870459A1に記載されている。このフォーマットは非常に魅力的であるが、臨床に向かう進歩を記載するデータは現在入手不可能である。
【0010】
この戦略の1つの重要な拘束は、2つの親抗体の軽鎖が同一であって対合違いおよび不活性分子の形成を防止しなくてはならないことである。こうして、第1および第2の抗原に対する2つの抗体から出発して2つの抗原に対して組換え2価二重特異性抗体を容易に発生させるたには、これらの抗体の重鎖および/または同一の軽鎖を最適化しなくてはならないので、この技術は不適当である。
WO 2006/093794は、ヘテロダイマータンパク質結合性組成物に関する。WO 99/37791には、多目的抗体誘導体が記載されている。Morrison他、J. Immunolog. 160 (1998) 2802-2808は、IgGの機能的特性に対する可変性領域ドメインの交換の影響を言及している。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、下記を含んでなる、2価二重特異性抗体に関する:
a) 第1抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖、および
b) 第2抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖、
ここで可変性ドメインVLおよびVHは互いにより置換されており、そしてコンスタントドメインCLおよびCH1は互いにより置換されている。
【0012】
本発明のそれ以上の態様は、下記の工程を含んでなる本発明による2価二重特異性抗体を生産する方法である:
a) 下記で宿主細胞を形質転換し、
- 第1抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖をコードする核酸分子を含んでなるベクター、および
- 第2抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖をコードする核酸分子を含んでなるベクター、
ここで可変性ドメインVLおよびVHは互いにより置換されており、そして
コンスタントドメインCLおよびCH1は互いにより置換されており、
b) 前記抗体分子の合成を可能とする条件下に宿主細胞を培養し、そして
c) 前記培養物から前記抗体分子を回収する。
【0013】
本発明のそれ以上の態様は、下記を含んでなる宿主細胞である:
- 第1抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖をコードする核酸分子を含んでなるベクター、および
- 第2抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖をコードする核酸分子を含んでなるベクター、
ここで可変性ドメインVLおよびVHは互いにより置換されており、そして
コンスタントドメインCLおよびCH1は互いにより置換されている。
【0014】
本発明のそれ以上の態様は、本発明による抗体の組成物、好ましくは医薬組成物または診断組成物である。
本発明のそれ以上の態様は、本発明による抗体と、少なくとも1種の薬学上許容される賦形剤とを含んでなる医薬組成物である。
本発明のそれ以上の態様は、患者に治療的有効量の本発明による抗体を投与することを特徴とする、治療を必要する患者を治療する方法である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1はIgG、典型的な順序で可変性ドメインとコンスタントドメインとを含んでなる重鎖および軽鎖の2対をもつ1つの抗原に対して特異的な天然に存在する全抗体の略図。
【図2】図2はa) 第1抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖; およびb) 第2抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖を含んでなる、2価二重特異性抗体の略図、ここで可変性ドメインVLおよびVHは互いにより置換されており、そしてコンスタントドメインCLおよびCH1は互いにより置換されている。
【0016】
【図3】図3はa) 第1抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖; およびb) 第2抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖を含んでなる、2価二重特異性抗体の略図、ここで可変性ドメインVLおよびVHは互いにより置換されており、そしてコンスタントドメインCLおよびCH1は互いにより置換されており、そして両方の重鎖のCH3ドメインはノブ-インツ-ホール技術により変更されている。
【0017】
【図4】図4はa) 第1抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖; およびb) 第2抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖を含んでなる、2価二重特異性抗体の略図、ここで可変性ドメインVLおよびVHは互いにより置換されており、そしてコンスタントドメインCLおおよびCH1は互いにより置換されており、そして両方の重鎖のコンスタント重鎖ドメインCH3の一方はコンスタント重鎖ドメインCH1により置換されており、そして他方のコンスタント重鎖ドメインCH3はコンスタント軽鎖ドメインCLにより置換されている。
【0018】
【図5】図5は<IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体の重鎖*<IGF-1R>HC*のタンパク質配列のスキーム。
【図6】図6は<IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体の軽鎖*<IGF-1R>LC*のタンパク質配列のスキーム。
【図7】図7は重鎖*<IGF-1R>HC*発現ベクターpUC-HC*-IGF-1Rのプラスミド地図。
【図8】図8は軽鎖*<IGF-1R>LC*発現ベクターpUC-LC*-IGF-1Rのプラスミド地図。
【図9】図9は4700-Hyg-OriP発現ベクターのプラスミド地図。
【図10】図10はHEK 293 E細胞の一時的トランスフェクション後の細胞培養物上清からプロテインAアガロースを使用する免疫沈降により単離されたHC*およびLC*をもつ単一特異性2価<IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体 (IgG1*) のSDS-PAGE。
【0019】
【図11】図11はELISAに基づく結合アッセイにおけるIGF-1R ECDに対する単一特異性<IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体および野生型<IGF-1R>抗体の結合。
【図12】図12は重鎖*<ANGPT2>HC*発現ベクターpUC-HC*-ANGPT2のプラスミド地図。
【図13】図13は軽鎖*<ANGPT2>LC*発現ベクターpUC-LC*-ANGPT2のプラスミド地図。
【図14】図14はプロテインAアフィニティークロマトグラフィーおよび引き続くサイズ排除クロマトグラフィーおよび濃縮による細胞培養物上清からのA) 単一特異性<IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体、B) 二重特異性<ANGPT2-IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体およびC) <ANGPT2>野生型抗体の混合物 (「二重特異性VL-VH/CL-CH1交換混合物」) の精製からの還元および非還元SDS-PAGE。
【0020】
【図15】図15は機能的二重特異性<ANGPT2-IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体の存在を検出するI24 IGF-1R発現細胞上の細胞のFACS IGF-1R-ANGPT2架橋アッセイのアッセイ原理。
【図16】図16は細胞培養物上清中の機能的二重特異性<ANGPT2-IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体の存在を検出するI24 IGF-1R発現細胞上の細胞のFACS IGF-1R-ANGPT2架橋アッセイの試料A〜Gについての結果。
【0021】
【表1】

【0022】
【図17】図17は機能的二重特異性<ANGPT2-IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体の存在を検出するI24 IGF-1R発現細胞上の細胞のFACS IGF-1R-ANGPT2架橋アッセイの試料A〜Gについての結果。
【表2】

【0023】
【図18】図18はIGF-1R ECD結合ELISAのスキーム。
【図19】図19はANGPT2結合ELISAのスキーム。
【図20】図20はVEGF-ANGPT2架橋ELISAのスキーム。
【図21】図21はANGPT2- VEGF架橋バイアコア(Biacore) アッセイのスキーム。
【図22A】図22Aは<IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体の精製のSDS-PAGE、精製した<IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体は濃縮されたSECプールに対応する。
【図22B】図22Bは精製した<IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体のサイズ排除クロマトグラフィー。
【0024】
【図23A】図23Aは<ANGPT2>VL-VH/CL-CH1交換抗体の精製のSDS-PAGE、精製した<ANGPT2>VL-VH/CL-CH1交換抗体は濃縮されたSECプールに対応する。
【図23B】図23Bは精製した<ANGPT2>VL-VH/CL-CH1交換抗体のサイズ排除クロマトグラフィー。
【図24】図24はELISAに基づく結合アッセイにおけるANGPT2に対する単一特異性<ANGPT2>VL-VH/CL-CH1交換抗体および野生型<ANGPT2>抗体の結合。
【図25】図25はANGPT2に対する単一特異性<ANGPT2>VL-VH/CL-CH1交換抗体および野生型<ANGPT2>抗体の結合のバイアコア分析。
【0025】
【図26】図26は二重特異性<VEGF-ANGPT2>VL-VH/CL-CH1交換抗体のサイズ排除クロマトグラフィーからの溶離画分の還元および非還元SDS-PAGE。
【図27】図27は天然画分の質量スペクトルによるSDS-PAGE中のバンドの割当て。それぞれの非還元SDS-PAGEにおいて質量分析により同定されたタンパク質の位置を示す。
【図28】図28はVEGF-ANGPT2架橋ELISAにおける二重特異性<VEGF-ANGPT2>VL-VH/CL-CH1交換抗体のサイズ排除クロマトグラフィーからの溶離画分5および9の分析。ANGPT2およびVEGFを同時に認識する二重特異性および4価の抗体TvG6-Ang23を陽性対照として含める。
【0026】
【図29】図29はVEGF-ANGPT2架橋バイアコアアッセイにおける二重特異性<VEGF-ANGPT2>VL-VH/CL-CH1交換抗体のサイズ排除クロマトグラフィーからの溶離画分5および9の表面プラズモン共鳴分析。ANGPT2およびVEGFを同時に認識する二重特異性および4価の抗体TvG6-Ang23を陽性対照として含める。
【図30】図30はヘテロダイマー化にノブ-インツ-ホールを使用する二重特異性<VEGF-ANGPT2>VL-VH/CL-CH1交換抗体のスキーム。
【図31】図31はANGPT2に対する単一特異性<ANGPT2>VL-VH (G) /CL-CH1 (G) 交換抗体および野生型<ANGPT2>抗体のバイアコア分析。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、下記を含んでなる、2価二重特異性抗体に関する:
a) 第1抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖、 および
b) 第2抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖、
ここで可変性ドメインVLおよびVHは互いにより置換されており、そしてコンスタントドメインCLおよびCH1は互いにより置換されている。
したがって、二重特異性抗体は、下記を含んでなる:
a) 第1抗原に特異的に結合する抗体の第1軽鎖および第 1重鎖、
および
b) 第2抗原に特異的に結合する抗体の第2軽鎖および第2重鎖、
ここで第2軽鎖および第2重鎖の可変性ドメインVLおよびVHは互いにより置換されており、そして第2軽鎖および第2重鎖のコンスタントドメインCLおよびCH1は互いにより置換されている。
【0028】
こうして、第2抗原に特異的に結合する前記抗体について、下記が適用される:
軽鎖内において、
可変性軽鎖ドメインVLは前記抗体の可変性重鎖ドメインVHにより置換されており、そしてコンスタント軽鎖ドメインCLは前記抗体のコンスタント重鎖ドメインCH1により置換されている; そして
重鎖内において、
可変性重鎖ドメインVHは前記抗体の可変性軽鎖ドメインVLにより置換されており、そしてコンスタント重鎖ドメインCH1は前記抗体のコンスタント軽鎖ドメインCLにより置換されている。
【0029】
本明細書において使用するとき、用語 「抗体」 は全モノクローナル抗体を意味する。このような全抗体は「軽鎖」(LC) および「重鎖」(HC) の2対から成る (このような軽鎖 (LC) /重鎖 (HC) の対は本明細書中でLC/HCと略されている) 。このような抗体の軽鎖および重鎖はいくつかのドメインから成るポリペプチドである。全抗体において、各重鎖は重鎖可変性領域 (本明細書中でHCVRまたはVHと略す) と、重鎖コンスタント領域とを含んでなる。重鎖コンスタント領域は重鎖コンスタントドメインCH1、CH2およびCH3 (抗体クラスIgA、IgDおよびIgG) と、必要に応じて重鎖コンスタントドメインCH4 (抗体クラスIgEおよびIgM) とを含んでなる。各軽鎖は軽鎖可変性ドメインVLと、軽鎖コンスタントドメインCLとを含んでなる。1つの天然に存在する全抗体、IgG抗体の構造は、例えば、第1図に示されている。
【0030】
可変性ドメインVHおよびVLは、相補性決定領域 (CDR) と命名する、超可変性領域にさらに再分割することができ、フレームワーク領域 (FR) と命名する、いっそう保存された領域が介在する。各VHおよびVLは3つのCDRと、4つのFRとから構成され、それらは下記の順序でアミノ末端からカルボキシ末端に向かって配列されている: FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4 (Janeway CA. Jr. 他、Immunobiology 第5版、Garland Publishing (2001); およびWoof J. 、Burton D 、Nat. Rev. Immunol. (2004) 89-99) 。2対の重鎖および軽鎖 (HC/LC) は同一抗原に特異的に結合することができる。こうして、前記全抗体は2価単一特異性抗体である。このような「抗体」は、それらの特徴的特性が保持されるかぎり、例えば、マウス抗体、ヒト抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体および遺伝子操作された抗体 (変異型または突然変異抗体) を包含する。ヒトまたはヒト化抗体は、特に組換えヒトまたはヒト化抗体として、特に好ましい。
【0031】
ギリシャ文字、α、δ、ε、γおよびμで表示される5つの型の哺乳動物抗体重鎖が存在する (Janeway C. A. Jr. 他、Immunobiology 第5版、Garland Publishing (2001)) 。存在する重鎖の型は抗体のクラスを定義する; これらの鎖はそれぞれIgA、IgD、IgE、IgGおよびIgM抗体中に見出される (Rhoades RA、Pflanzer RG (2002) 、Human Physiology 第4版、Thomson Learning) 。明確な重鎖は大きさと組成が異なる; αおよびγはほぼ450アミノ酸を含有するが、μおよびεはほぼ550アミノ酸を含有する。
【0032】
各重鎖は2つの領域、コンスタント領域および可変性領域を有する。コンスタント領域は同一アイソタイプのすべての抗体において同一であるが、異なるアイソタイプの抗体において異なる。重鎖γ、αおよびδは3つのドメインCH1、CH2およびCH3 (直線) から構成されたコンスタント領域、および付加された柔軟性のためのヒンジ領域を有する (Woof J. 、Burton D、Nat. Rev. Immunol. 4 (2004) 89-99); 重鎖μおよびεは4つのコンスタントドメインCH1、CH2、CH3およびCH4から構成されたコンスタント領域を有する (Janeway C. A. Jr. 他、Immunobiology 第5版、Garland Publishing (2001)) 。重鎖の可変性領域は異なるB細胞により産生された抗体において異なるが、単一のB細胞にまたはB細胞クローンにより産生されたすべての抗体について同一である。各重鎖の可変性領域はほぼ110アミノ酸長さであり、そして単一の抗体ドメインから構成されている。
【0033】
哺乳動物において、わずかに2つの型の軽鎖、ラムダ (λ) およびカッパ (κ) とよぶ軽鎖が存在する。軽鎖は2つの連続的ドメインを有する: 1つのコンスタントドメインCLおよび1つの可変性ドメインVL。軽鎖の概算長さは211〜217アミノ酸である。好ましくは軽鎖はカッパ (κ) 軽鎖であり、そしてコンスタントドメインCLは好ましくはCカッパ (κ) である。
【0034】
本明細書において使用するとき、用語 「モノクローナル抗体」 または「モノクローナル抗体組成物」は、単一アミノ酸組成の抗体分子の調製物を意味する。
【0035】
本発明による「抗体」は任意のクラス (例えば、IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgM、好ましくはIgGまたはIgE) 、またはサブクラス (例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2、好ましくはIgG1) であることができ、ここで本発明による2価二重特異性抗体が由来する両方の抗体は、同一サブクラス (例えば、IgG1、IgG4およびその他、好ましくはIgG1) のFc部分、好ましくは同一アロタイプ (例えば、コーカソイド) のFc部分を有する。
【0036】
「抗体のFc部分」は当業者に十分に知られている用語であり、そして抗体のパパイン切断に基づいて定義される。本発明による抗体はFc部分として、好ましくはヒト起源に由来するFc部分および好ましくはヒトコンスタント領域のすべての他の部分を含有する。抗体のFc部分は補体活性化、C1q結合およびC3活性化およびFcリポーター結合に直接関係する。補体系に対する抗体の影響はある種の条件に依存するが、C1qに対する結合はFc部分中の規定された結合部位により引き起こされる。
【0037】
このような結合部位はこの分野において知られており、そして、例えば、下記の文献に記載されている: Lukas T. J. 他、J. Immunolog. 127 (1981) 2555-2560; Brunhouse R. およびCebra J. J. 、Mol. Immunol. 16 (1979) 907-917; Burton D. R. 、Nature 288 (1980) 338-344; Thommesen J. E. 他、Mol. Immunol. 37 (2000) 995-1004; Idusogie E. E. 他、J. Immunolog. 164 (2000) 4178-4184; Hezareh M. 他、J. Virol. 75 (2001) 12161-12168; Morgan A. 他、Immunobiology 86 (1995) 319-324; およびEP 0 307 434。
【0038】
このような結合部位は、例えば、L234、L235、D270、N297、E318、K320、K322、P331およびP329 (カバットのEUインデックスに従うナンバリング、下を参照) である。サブクラスIgG1、IgG2およびIgG3の抗体は通常補体活性化、C1q結合およびC3活性化を示すが、IgG4は補体系を活性化せず、C1qに結合せず、そしてC3を活性化しない。好ましくは、Fc部分はヒトFc部分である。
【0039】
用語「キメラ抗体」は、可変性領域、すなわち、1つの源または種からの結合領域と、異なる源または種に由来するコンスタント領域の少なくとも一部分とを含んでなる抗体を意味し、通常組換えDNA技術により生産される。ネズミ可変性領域と、ヒトコンスタント領域とを含んでなるキメラ抗体は好ましい。本発明に包含される「キメラ抗体」の他の好ましい形態は、本発明に従う特性、特にC1q結合および/またはFcレセプター (FcR) 結合に関する特性を発生するように、コンスタント領域が本来の抗体のそれから修飾または変化されている形態である。
【0040】
また、このようなキメラ抗体は「クラススイッチド抗体」と呼ぶ。キメラ抗体は、免疫グロブリン可変性領域をコードするDNAセグメントと、免疫グロブリンコンスタント領域をコードするDNAセグメントとを含んでなる、発現された免疫グロブリン遺伝子の産物である。キメラ抗体を生産する方法は慣用の組換えDNA技術および遺伝子トランスフェクション技術を包含し、この分野においてよく知られている。例えば、下記の文献を参照のこと: Morrison S. L. 他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81 (1984) 6851-6855; 米国特許第5,202,238号および米国特許第5,204,244号。
【0041】
用語「ヒト化抗体」は、フレームワークまたは「相補性決定領域」 (CDR) が親免疫グロブリンのCDRに比較して特異性が異なる免疫グロブリンのCDRを含んでなるように修飾されている抗体を意味する。好ましい態様において、ネズミCDRをヒト抗体のフレームワーク領域中にグラフト化して「ヒト抗体」を生産する。例えば、下記の文献を参照のこと: Riechmann L. 他、Nature 332 (1988) 323-327; およびNeuberger M. S. 他、Nature 314 (1985) 268-270。特に好ましいCDRは、キメラ抗体について前述した抗原を認識する配列を表すものに対応する。本発明に包含される「ヒト化抗体」の他の形態は、本発明に従う特性、特にC1q結合および/またはFcレセプター (FcR) 結合に関する特性を発生するように、コンスタント領域が本来の抗体のそれからさらに修飾または変化されている形態である。
【0042】
用語「ヒト抗体」は、本明細書において使用するとき、ヒト生殖細胞系統免疫グロブリン配列に由来する可変性領域およびコンスタント領域を有する抗体を包含することを意図する。ヒト抗体はこの分野においてよく知られている (van Dijk M. A. およびvan de Winkel J. G. 、Curr. Opin. Cell Biol. 5 (2001) 368-374) 。また、ヒト抗体はトランスジーン動物 (例えば、マウス) において産生することができ、これらの動物は、免疫化したとき、内因的免疫グロブリン産生の非存在下にヒト抗体の完全なレパートリーまたは選択物を産生することができる。
【0043】
このような生殖細胞系統の突然変異マウスにおけるヒト生殖細胞系統免疫グロブリン遺伝子アレイの転移は、抗原チャレンジのときヒト抗体を産生するであろう (例えば、下記の文献を参照のこと: Jakobovits A. 他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90 (1993) 2551-2555; Jakobovits A. 他、Nature 362 (1993) 255-258; Brueggemann M. 他、Year Immunol. 7 (1993) 33-40) 。また、ヒト抗体はファージ展示ライブラリー中で生産できる (Hoogenboom H. R. およびWinter G. J. 、J. Mol. Biol. 277 (1992) 381-388; Marks J. D. 他、J. Mol. Biol. 222 (1991) 581-597) 。また、Cole S. P. C. 他およびBoerner 他の技術はヒトモノクローナル抗体の生産に利用可能である (Cole S. P. C. 他、Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy、Alan R. Liss, Inc.、New York (1986) 、pp. 77-96; およびBoerner P. 他、J. Immunolog. 147 (1991) 86-95) 。
【0044】
本発明によるキメラ抗体およびヒト化抗体について既に言及したように、本明細書において使用するとき、用語「ヒト抗体」は、特にC1q結合および/またはFc結合に関する、本発明に従う特性を発生するように、コンスタント領域が、例えば、「クラススイッチング」、すなわち、Fc部分の変化または突然変異により、修飾されている (例えば、IgG1からIgG4へおよび/またはIgG1/IgG4突然変異) このような抗体をまた含んでなる。
【0045】
本明細書において使用するとき、用語 「組換えヒト抗体」 は組換え手段により生産され、発現され、つくられまたは単離されたすべてのヒト抗体、例えば、宿主細胞、例えば、NS0またはCHO細胞から単離された抗体、またはヒト免疫グロブリン遺伝子に対してトランスジェニックである動物 (例えば、マウス) から単離された抗体、または宿主細胞中にトランスフェクトされた組換え発現ベクターを使用して発現された抗体を包含することを意図する。このような組換えヒト抗体は再配列された形態で可変性領域およびコンスタント領域を有する。本発明による組換えヒト抗体はin vivo体細胞高突然変異に付されている。こうして、組換え抗体のVHおよびVL領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖細胞系統VHおよびVL配列に由来しかつそれに関係するが、in vivoヒト抗体生殖細胞系統レパートリー内に天然に存在しないことがある配列である。
【0046】
本明細書において使用するとき、用語 「可変性ドメイン」 (軽鎖の可変性ドメイン (VL) 、重鎖の可変性ドメイン (VH)) は、抗原に対する抗体の結合に直接関係する軽鎖および重鎖の対の各々を意味する。可変性ヒト軽鎖および重鎖のドメインは同一の一般構造を有し、そして各ドメインは4つのフレームワーク領域 (FR) を含んでなり、それらの配列は広く保存されており、3つの「高可変性領域」 (または相補性決定領域、CDR) により接続されている。フレームワーク領域はβ-シートコンフォメーションを採用し、そしてCDRはβ-シート構造を接続するループを形成することができる。各鎖中のCDRはフレームワーク領域によりそれらの三次元構造で保持されており、他の鎖からのCDRと一緒に抗原結合部位を形成する。抗体の重鎖および軽鎖CDR3領域は本発明による抗体の結合特異性/アフィニティーにおいて特に重要な役割を演じ、したがって本発明のそれ以上の目的を提供する。
【0047】
本明細書において使用するとき、用語 「高可変性領域」 または「抗体の抗原結合部分」は抗原結合のために要求される抗体のアミノ酸残基を意味する。高可変性領域は、「相補性決定領域」または「CDR」からのアミノ酸残基を含んでなる。「フレームワーク領域」または「FR」は、本明細書中で定義する高可変性領域残基以外の可変性ドメイン領域である。したがって、抗体の軽鎖および重鎖はN末端からC末端に向かってドメインFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3およびFR4を含んでなる。各鎖上のCDRはこのようなフレームワークアミノ酸により分離されている。ことに、重鎖のCDR3は抗原結合に最も寄与する領域である。CDRおよびFR領域は下記の文献の標準定義に従い決定される: Kabat 他、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、Public Health Service、National Institute of Health、Bethesda、MD (1991) 。
【0048】
重鎖および軽鎖の「コンスタント領域」は抗原に対する抗体の結合に直接関係しないが、種々のエフェクター機能を示す。それらの重鎖のコンスタント領域のアミノ酸配列に依存して、抗体または免疫グロブリンはクラスに分割される:
【0049】
本明細書において使用するとき、用語 「2価二重特異性抗体」 は重鎖および軽鎖 (HC/LC) の2対の各々が異なる抗原に特異的に結合し、すなわち、第1重鎖および第1軽鎖 (第1抗原に対する抗体に由来する) が第1抗原に特異的に一緒に結合し、そして第2重鎖および第2軽鎖 (第2抗原に対する抗体に由来する) が第2抗原に特異的に一緒に結合する前述の抗体を意味する (第2図に描写する); このような2価二重特異性抗体は2つの異なる抗原に同時に特異的に結合することができるが、3以上の抗原に結合することができず、反対に、一方において、単一特異性抗体は1つの抗原にのみ結合することができ、そして他方において、例えば、4価四重特異性抗体は4つの抗原に同時に結合できる。
【0050】
本発明によれば、望ましくない副産物と比較した所望の2価二重特異性抗体の比は、ただ1対の重鎖および軽鎖 (HC/LC) 中のある種のドメインの置換により改良できる。2 HC/LC対の第1は第1抗原に特異的に結合する抗体に由来し、そして本質的に未変化のまま残るが、2 HC/LC対の第2は第2抗原に特異的に結合する抗体に由来し、下記の置換により変更される:
【0051】
- 軽鎖: 第2抗原に特異的に結合する前記抗体の可変性重鎖ドメインVHによる可変性軽鎖ドメインVLの置換、および第2抗原に特異的に結合する前記抗体のコンスタント重鎖ドメインCH1によるコンスタント軽鎖ドメインCLの置換、および
- 重鎖: 第2抗原に特異的に結合する前記抗体の可変性軽鎖ドメインVLによる可変性重鎖ドメインVHの置換、および第2抗原に特異的に結合する前記抗体のコンスタント軽鎖ドメインCLによるコンスタント重鎖ドメインCH1の置換。
【0052】
こうして、生ずる2価二重特異性抗体は下記を含んでなる人工的抗体である:
a) 第1抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖; および
b) 第2抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖、
ここで前記軽鎖 (第2抗原に特異的に結合する抗体の) はVLの代わりに可変性ドメインVHを含有し、そしてCLの代わりにコンスタントドメインCH1を含有し、
ここで前記重鎖 (第2抗原に特異的に結合する抗体の) はVHの代わりに可変性ドメインVLを含有し、そしてCH1の代わりにコンスタントドメインCLを含有する。
【0053】
本発明の追加の面において、望ましくない副産物と比較した所望の2価二重特異性抗体のこのような改良された比は、下記の2つの代替法の1つによりさらに改良することができる:
【0054】
A) 第1代替法 (図3参照):
本発明による前記2価二重特異性抗体のCH3ドメインは、いくつかの例を使用して、例えば、下記の文献において、詳細に記載されている「ノブ-インツ-ホール」により変更することができる: WO 96/027011、Ridgway J. B.、Protein Eng. 9 (1996) 617-621; およびMerchant A. M. 他、Nat. Biotechnol. 16 (1998) 677-681。この方法において、2つのCH3の相互作用表面を変更して、これらの2つのCH3ドメインを含有する両方の重鎖のヘテロダイマー化を増加させる。2つのCH3ドメイン (2つの重鎖の) の各々は「ノブ」であることができるが、他は「ホール」である。ジサルファイド架橋の導入はヘテロダイマーを安定化し (Merchant A. M. 他、Nature Biotech. 16 (1998) 677-681; Atwell S. 他、J. Mol. Biol. 270 (1997) 26-35) そして収量を増加させる。
【0055】
したがって、好ましい態様において、第1 CH3ドメインおよび第2 CH3ドメインの各々が抗体のCH3ドメイン間の本来のインターフェイスを含んでなるインターフェイスおいて出会う、2価二重特異性抗体のCH3ドメインを、CH3ドメインにおけるジサルファイド架橋の導入によるそれ以上の安定化を含む「ノブ-インツ-ホール」技術 (下記の文献に記載されている: WO 96/027011、Ridgway J. B.、Protein Eng. 9 (1996) 617-621; Merchant A. M. 他、Nature Biotech. 16 (1998) 677-681; およびAtwell S. 他、J. Mol. Biol. 270 (1997) 26-35) により変更して、2価二重特異性抗体の形成を促進する。
【0056】
こうして、本発明の1つの面において、前記2価二重特異性抗体は下記により特徴づけられる:
一方の重鎖のCH3ドメインおよび他方の重鎖のCH3ドメインの各々は、抗体のC3ドメイン間の本来のインターフェイスを含んでなるインターフェイスにおいて出会う;
ここで前記インターフェイスは2価二重特異性抗体の形成を促進するように変更され、ここで変更は下記により特徴づけられる:
a) 2価二重特異性抗体内の他方の重鎖のCH3ドメインの本来のインターフェイスと出会う一方の重鎖のCH3ドメインの本来のインターフェイス内において、
アミノ酸残基はより大きい側鎖体積を有するアミノ酸残基と置換されており、これにより他方の重鎖のCH3ドメインのインターフェイス内のキャビティイ中に位置可能な突起を一方の重鎖のCH3ドメインのインターフェイス内に発生させるように、
一方の重鎖のCH3ドメインは変更されており、そして
b) 2価二重特異性抗体内の第1 CH3ドメインの本来のインターフェイスと出会う第2 CH3ドメインの本来のインターフェイス内において、
アミノ酸残基はより小さい側鎖体積を有するアミノ酸残基と置換されており、これにより第1 CH3ドメインのインターフェイス内の突起が位置可能であるキャビティイを第2 CH3ドメインのインターフェイス内に発生させるように、
他方の重鎖のCH3ドメインは変更されている。
【0057】
好ましくは、より大きい側鎖体積を有するアミノ酸残基はアルギニン (R) 、フェニルアラニン (F) 、チロシン (Y) およびトリプトファン (W) から成る群から選択される。
好ましくは、より小さい側鎖体積を有するアミノ酸残基はアラニン (A) 、セリン (S) 、トレオニン (T) およびバリン (V) から成る群から選択される。
本発明の1つの面において、両方のCH3ドメイン間のジサルファイド架橋を形成できるように、各CH3ドメインの対応する位置にアミノ酸としてシステイン (C) を導入することによって、両方のCH3ドメインはさらに変更される。
本発明の他の好ましい態様において、下記の文献に記載されているように、ノブ残基に残基R409D; K370E (K409D) を使用し、ホール残基に残基D399K; E357Kを使用して、両方のCH3ドメインを変更する: EP 1870459A1。
【0058】
または
B) 第2代替法 (第4図参照):
一方のコンスタント重鎖ドメインCH3をコンスタント重鎖ドメインCH1で置換し、そして他方のコンスタント重鎖ドメインCH3をコンスタント軽鎖ドメインCLで置換する。
重鎖ドメインCH3を置換するコンスタント重鎖ドメインCH1は、任意のIgクラス (例えば、IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgM) またはサブクラス (例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2) であることができる。
重鎖ドメインCH3を置換するコンスタント軽鎖ドメインCLは、ラムダ (λ) またはカッパ (κ) 型、好ましくはカッパ (κ) 型であることができる。
【0059】
こうして、本発明の1つの好ましい態様は、下記を含んでなる2価二重特異性抗体である:
a) 第1抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖、 および
b) 第2抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖、
ここで可変性ドメインVLおよびVHは互いにより置換されており、そしてコンスタントドメインはCLおよびCH1は互いにより置換されている、
そして、ここで必要に応じて、
【0060】
c) 一方の重鎖のCH3ドメインおよび他方の重鎖のCH3ドメインの各々は、抗体のCH3ドメイン間の本来のインターフェイスを含んでなるインターフェイスにおいて出会い、
ここで前記インターフェイスは2価二重特異性抗体の形成を促進するように変更されており、ここで前記変更は下記を特徴とする:
ca) 2価二重特異性抗体内の他方の重鎖のCH3ドメインの本来のインターフェイスと出会う一方の重鎖のCH3ドメインの本来のインターフェイス内において、
アミノ酸残基はより大きい側鎖体積を有するアミノ酸残基と置換されており、これにより他方の重鎖のCH3ドメインのインターフェイス内のキャビティイ中に位置可能な突起を一方の重鎖のCH3ドメインのインターフェイス内に発生させるように、
一方の重鎖のCH3ドメインは変更されており、そして
cb) 2価二重特異性抗体内の第1 CH3ドメインの本来のインターフェイスと出会う第2 CH3ドメインの本来のインターフェイス内において、
アミノ酸残基はより小さい側鎖体積を有するアミノ酸残基と置換されており、これにより第1 CH3ドメインのインターフェイス内の突起が位置可能であるキャビティイを第2 CH3ドメインのインターフェイス内に発生させるように、
他方の重鎖のCH3ドメインは変更されているか、あるいは
【0061】
d) 一方のコンスタント重鎖ドメインCH3はコンスタント重鎖ドメインCH1により置換されており、そして他方のコンスタント重鎖ドメインCH3はコンスタント軽鎖ドメインCLにより置換されている。
【0062】
本明細書において使用するとき、用語 「抗原」 または「抗原分子」は、抗体が特異的に結合できるすべての分子を意味する。2価二重特異性抗体は第1抗原および第2の独特な抗原に特異的に結合する。本明細書において使用するとき、用語 「抗原」 は、例えば、タンパク質、タンパク質上の異なるエピトープ (本発明の意味内の異なる抗原として) および多糖類を包含する。これは主として細菌、ウイルスおよび他の微生物の部分 (外皮、嚢、細胞壁、絨毛、房およびトキシン) を包含する。
【0063】
脂質および核酸は、タンパク質および多糖類と結合したときにのみ、抗原性である。非微生物の外因性 (非自己) 抗原は、花粉、卵白、および移植された組織および器官からのタンパク質または輸注された血球表面上のタンパク質を包含できる。好ましくは、抗原はサイトカイン、細胞表面のタンパク質、酵素およびレセプターのサイトカイン、細胞表面のタンパク質、酵素およびレセプターから成る群から選択される。
【0064】
腫瘍抗原は腫瘍細胞表面上のMHC IまたはMHC II分子により提供される抗原である。これらの抗原は時々腫瘍細胞により提供されるが、正常細胞により決して提供されない。この場合において、それらは腫瘍特異的抗原 (TSA) と呼ばれ、典型的には腫瘍特異的突然変異から生ずる。腫瘍細胞および正常細胞により提供される抗原はより普通であり、そしてそれらは腫瘍関連抗原 (TAA) と呼ばれる。これらの抗原を認識する細胞障害性Tリンパ球は腫瘍細胞を破壊した後、増殖または転移することができる。また、腫瘍抗原は腫瘍表面上に、例えば、突然変異したレセプターの形態で存在することができ、この場合において、それらはB細胞により認識されるであろう。
【0065】
1つの好ましい態様において、2価二重特異性抗体が特異的に結合する2つの異なる抗原 (第1および第2の抗原) の少なくとも1つは腫瘍抗原である。
他の好ましい態様において、2価二重特異性抗体が特異的に結合する2つの異なる抗原 (第1および第2の抗原) の両方は腫瘍抗原である; この場合において、第1および第2の抗原は同一腫瘍特異的タンパク質における2つの異なるエピトープであることもできる。
【0066】
他の好ましい態様において、2価二重特異性抗体が特異的に結合する2つの異なる抗原 (第1および第2の抗原) の一方は腫瘍抗原であり、そして他方はエフェクター細胞抗原、例えば、T細胞レセプター、CD3、CD16およびその他である。
他の好ましい態様において、2価二重特異性抗体が特異的に結合する2つの異なる抗原 (第1および第2の抗原) の一方は腫瘍抗原であり、そして他方は抗癌物質、例えば、トキシンまたはキナーゼインヒビターである。
【0067】
本明細書において使用するとき、用語 「特異的に結合する」 または「に特異的に結合する」は抗原に特異的に結合する抗体を言及する。好ましくは、この抗原に特異的に結合する抗体の結合アフィニティーは10-9モル/lまたはそれより小 (例えば、10-10モル/l) のKD値、好ましくは10-10モル/lまたはそれより小 (例えば、10-12モル/l) のKD値を有する。結合アフィニティーは、標準結合アッセイ、例えば、表面プラズモン共鳴技術 (Biacore(商標)) により決定される。
【0068】
用語「エピトープ」は、抗体に特異的に結合することができる、任意のポリペプチド決定因子を包含する。ある種の態様において、エピトープ決定因子は分子の化学的に活性な表面グループ、例えば、アミノ酸、糖側鎖、ホスホリルおよびスルホニルを包含し、そして、ある種の態様において、特別の三次元構造的特性および/または特別の電荷特性を有することがある。エピトープは抗体により結合された抗原の領域である。ある種の態様において、抗体がタンパク質および/または高分子の複雑な混合物中のそのターゲット抗原を優先的に認識するとき、抗体は抗原に特異的に結合すると言われる。
【0069】
本発明のそれ以上の態様は、下記の工程を含んでなる本発明による2価二重特異性抗体を生産する方法である:
a) 下記で宿主細胞を形質転換し、
- 第1抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖をコードする核酸分子を含んでなるベクター、および
- 第2抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖をコードする核酸分子を含んでなるベクター、
ここで可変性ドメインVLおよびVHは互いにより置換されており、そして
コンスタントドメインCLおよびCH1は互いにより置換されており、
b) 前記抗体分子の合成を可能とする条件下に宿主細胞を培養し、そして
c) 前記培養物から前記抗体分子を回収する。
【0070】
一般に、第1抗原に特異的に結合する前記抗体の軽鎖および重鎖をコードする2つのベクターが存在し、そしてさらに第2抗原に特異的に結合する前記抗体の軽鎖および重鎖をコードする2つのベクターが存在する。2つのベクターの一方はそれぞれの軽鎖をコードし、そして2つのベクターの他方はそれぞれの重鎖をコードする。しかしながら、本発明による2価二重特異性抗体を生産する別の方法において、第1抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖をコードするただ1つの第1ベクター、および第2抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖をコードするただ1つの第2ベクターを宿主細胞の形質転換に使用できる。
【0071】
本発明は、例えば、下記を発現させることによって、前記抗体分子の合成を可能とする条件下に対応する宿主細胞を培養し、そして前記培養物から前記抗体を回収することを含んでなる抗体を生産する方法を包含する:
- 第1抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖をコードする第1核酸配列;
- 第1抗原に特異的に結合する抗体の重鎖をコードする第2核酸配列;
- 第2抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖をコードする第3核酸配列、ここで可変性軽鎖ドメインVLは可変性重鎖ドメインVHにより置換され、そしてコンスタント軽鎖ドメインCLはコンスタント重鎖ドメインCH1により置換されている; そして
- 第2抗原に特異的に結合する抗体の重鎖をコードする第4核酸配列、ここで可変性重鎖ドメインVHは可変性軽鎖ドメインVLにより置換され、そしてコンスタント重鎖ドメインCH1はコンスタント軽鎖ドメインCLにより置換されている。
【0072】
本発明のそれ以上の態様は、下記を含んでなる宿主細胞である:
- 第1抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖をコードする核酸分子を含んでなるベクター、および
- 第2抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖をコードする核酸分子を含んでなるベクター、
ここで可変性ドメインVLおよびVHは互いにより置換されており、そして
コンスタントドメインCLおよびCH1は互いにより置換されている。
【0073】
本発明のそれ以上の態様は、下記を含んでなる宿主細胞である:
a) 第1抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖をコードする核酸部分を含んでなるベクター、および前記抗体の重鎖をコードする核酸分子を含んでなるベクター、および
b) 第2抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖をコードする核酸部分を含んでなるベクター、および前記抗体の重鎖をコードする核酸分子を含んでなるベクター、
ここで可変性ドメインVLおよびVHは互いにより置換されており、そして
コンスタントドメインCLおよびCH1は互いにより置換されている。
【0074】
本発明のそれ以上の態様は、本発明による2価二重特異性抗体の組成物、好ましくは医薬組成物または診断組成物である。
本発明のそれ以上の態様は、本発明による2価二重特異性抗体と、少なくとも1種の薬学上許容される賦形剤とを含んでなる医薬組成物である。
【0075】
本発明のそれ以上の態様は、治療的有効量の本発明による2価二重特異性抗体を患者に投与することを特徴とする、治療を必要する患者を治療する方法である。
本明細書において使用するとき、用語 「核酸または核酸分子」 は、DNA分子およびRNA分子を包含することを意図する。核酸分子は一本鎖または二本鎖であることができるが、好ましくは二本鎖DNAである。
【0076】
本明細書において使用するとき、表現「細胞」、「細胞系統」および「培養物」は互換的に使用し、そしてすべてのこのような指示は子孫を包含する。こうして、単語「形質転換体」および「形質転換された細胞」は一次的主題細胞および転移数に無関係にそれらに由来する培養物を包含する。また、すべての子孫は、計画的または不注意の突然変異のために、DNA含量が正確に同一ではないことがあることが理解される。本来形質転換された細胞についてスクリーニングしたとき、同一の機能または生物学的活性を有する変異型子孫が包含される。明確な指示を意図する場合、それは前後関係から明らかとなるであろう。
【0077】
本明細書において使用するとき、用語 「形質転換」は、ベクター/核酸が宿主細胞に転移するプロセスを意味する。難しい細胞壁バリヤーをもたない細胞を宿主細胞として使用する場合、トランスフェクションは、例えば、下記の文献に記載されているリン酸カルシウム沈殿法により実施される: Graham F. J. およびvan der Eb A. J. 、Virology 52 (1973) 456-467。しかしながら、DNAを細胞中に導入する他の方法、例えば、エレクトロポレーション、ヌクレオフェクション、核注入またはプロトプラスト融合を使用することもできる。原核細胞または実質的な細胞壁構築物を含有する細胞を使用する場合、例えば、1つのトランスフェクション法は下記の文献に記載されている塩化カルシウムを使用するカルシウム処理である: Cohen S. N. 他、PNAS 69 (1972) 2110-2114。
【0078】
形質転換を使用する抗体の組換え生産はこの分野においてよく知られており、そして、例えば、下記の文献に記載されている: 概観論文、Makrides S. C. 、Protein Expr. Purif. 17 (1999) 183-202; Geisse S. 他、Protein Expr. Purif. 8 (1996) 271-282; Kaufman R. J. 、Mol. Biotechnol. 16 (2000) 151-160; Werner R. G. 他、Arzneimittelforschung 48 (1998) 870-880ならびに米国特許第6,331,415号および米国特許第4,816,567号。
【0079】
本明細書において使用するとき、用語 「発現」は核酸をmRNAに転写するプロセスおよび/または転写されたmRNA (また転写体と呼ぶ) を引き続いてペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質に翻訳するプロセスを意味する。転写体およびコード化ポリペプチドを集合的に遺伝子産物と呼ぶ。ポリヌクレオチドがゲノムDNAに由来する場合、真核細胞における発現はmRNAのスプライシングを包含する。
【0080】
「ベクター」は核酸分子、特に自己スプライシング核酸分子であり、挿入された核酸分子を宿主細胞の中におよび/または間に転移する。この用語は主としてDNAまたはRNAの細胞中への挿入 (例えば、染色体の組込み) のために機能するベクター、DNAまたはRNAの複製に主として機能する複製ベクター、およびDNAまたはRNAの転写および/または翻訳に機能する発現ベクターを包含する。また、記載した機能の2以上を提供するベクターが包含される。
【0081】
「発現ベクター」は、適当な宿主細胞中に導入されたとき、ポリペプチドに転写および翻訳されることができるポリヌクレオチドである。「発現系」は、所望の発現産物を生ずるように機能することができる発現ベクターから構成された、適当な宿主細胞を意味する。
【0082】
本発明による2価二重特異性抗体は、好ましくは組換え手段により生産される。このような方法はこの分野においてよく知られており、そして原核細胞および真核細胞中でタンパク質を発現させ、次いで抗体のポリペプチドを単離し、通常薬学上許容される純度に精製することを含んでなる。タンパク質を発現させるために、軽鎖および重鎖をコードする核酸またはそのフラグメントを標準法により発現ベクター中に挿入する。発現は適当な原核または真核宿主細胞、例えば、CHO細胞、N50細胞、SP2/0細胞、HEK 293細胞、COS細胞、PER.C6細胞、酵母菌または大腸菌 (E. coli) 細胞中で実施し、そして抗体を細胞 (上清または溶菌後の細胞) から回収する。
【0083】
2価二重特異性抗体は全細胞中に、細胞ライゼイト中に、または部分的に精製したまたは実質的に純粋な形態で存在することができる。標準技術、例えば、アルカリ性/SDS処理、カラムクロマトグラフィーおよび他のこの分野においてよく知られている技術により、精製を実施して、他の細胞成分または他の汚染物質、例えば、他の細胞の核酸またはタンパク質を排除する。下記の文献を参照のこと: Ausubel F. 他 (編者) Current Protocols in Molecular Biology、Greene Publishing and Wiley Interscience、New York (1987) 。
【0084】
N50細胞中の発現は、例えば、下記の文献に記載されている: Barnes L. M. 他、Cytotechnology 32 (2000) 109-123; およびBarnes L. M. 他、Biotech. Bioeng. 73 (2001) 261-270。一時的発現は、例えば、下記の文献に記載されている: Durocher Y. 他、Nucl. Acids Res. 30 (2002) E9。可変性ドメインのクローニングは下記の文献に記載されている: Orlandi R. 他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86 (1989) 3833-3837; Carter P. 他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89 (1992) 4285-4289; およびNorderhaug L. 他、J. Immunol. Methods 204 (1997) 77-78。好ましい一時的発現系 (HEK 293) は下記の文献に記載されている: Schlaeger E. -J. およびChristensen K. 、Cytotechnology 30 (2999) 71-83およびSchlaeger E. -J. 、J. Immunol. Methods 194 (1996) 191-199。
【0085】
例えば、原核生物のために適当な制御配列は、プロモーター、必要に応じてオペレーター配列およびリボソーム結合部位を包含する。真核細胞はプロモーター、エンハンサーおよびポリアデニル化シグナルを利用することが知られている。
【0086】
核酸は他の核酸配列と機能的関係に配置されたとき、「作用可能に連鎖」される。例えば、プレ配列または分泌リーダーのためのDNAはポリペプチドの分泌に参加するプレタンパク質として発現される場合、ポリペプチドのためのDNAに作用可能に連鎖される; プロモーターまたはエンハンサーは配列の転写に影響を与える場合、コーディング配列に作用可能に連鎖される; またはリボソーム結合部位は翻訳を促進するように位置決定される場合、コーディング配列に作用可能に連鎖される。一般に、「作用可能に連鎖される」は、連鎖されているDNA配列が隣接していること、そして、分泌リーダーの場合において、隣接しかつリーデイングフレーム中にあることを意味する。しかしながら、エンハンサーは隣接する必要がない。連鎖は好都合な制限部位における結合により達成される。このような部位が存在しない場合、合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーを慣例に従い使用する。
【0087】
2価二重特異性抗体は、慣用の免疫グロブリン精製手順、例えば、プロテインA-セファローズ、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析またはアフィニティークロマトグラフィーにより、培地から適当に分離される。モノクローナル抗体をコードするDNAおよびRNAは、慣用手順を使用して容易に単離され、配列決定される。ハイブリドーマ細胞は、このようなDNAおよびRNA源として働くことができる。いったん単離されると、DNAを発現ベクター中に挿入し、次いでこれを宿主細胞、例えばHEK 293細胞、CHO細胞、またはそうでなければ免疫グロブリンタンパク質を産生する骨髄腫細胞中にトランスフェクトして、宿主細胞中で組換えモノクローナル抗体を合成する。
【0088】
2価二重特異性抗体のアミノ酸配列変異型 (または突然変異体) は、適当なヌクレオチド変化を抗体DNA中に導入するか、あるいはヌクレオチド合成により生産される。しかしながら、このような修飾は、例えば、上に記載したように、非常に制限された範囲においてのみ実行できる。例えば、修飾は前述の抗体の特性、例えば、IgGアイソタイプおよび抗原結合性を変更しないが、組換え産生の収量、タンパク質安定性を改良するか、あるいは精製を促進することができる。
【0089】
本発明の理解を促進するために、下記の実施例、配列リストおよび図面を提供する。本発明の真の範囲は添付された特許請求の範囲に記載されている。本発明の趣旨から逸脱しないで、記載した手順の変更が可能であることが理解される。
【0090】
配列表
配列番号1 野生型<IGF-1R>抗体重鎖のアミノ酸配列
配列番号2 野生型<IGF-1R>抗体軽鎖のアミノ酸配列
配列番号3 <IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体の重鎖* (HC*) のアミノ酸配列、
ここで重鎖ドメインVHは軽鎖ドメインVLにより置換されており、そして重鎖ドメインCH1は軽鎖ドメインCLにより置換されている。
配列番号4 <IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体の軽鎖* (LC*) のアミノ酸配列、
ここで軽鎖ドメインVLは重鎖ドメインVHにより置換されており、そして軽鎖ドメインCLは重鎖ドメインCH1により置換されている。
配列番号5 IGF-1RエクトドメインHis-ストレプトアビジン結合性ペプチド-タグ (IGF-1R-His-SBP ECD) のアミノ酸配列
【0091】
配列番号6 野生型アンギオポイエチン-2 <ANGPT2>抗体重鎖のアミノ酸配列
配列番号7 野生型アンギオポイエチン-2 <ANGPT2>抗体軽鎖のアミノ酸配列
配列番号8 <ANGPT2>VL-VH/CL-CH1交換抗体の重鎖* (HC*) のアミノ酸配列、
ここで重鎖ドメインVHは軽鎖ドメインVLにより置換されており、そして重鎖ドメインCH1は軽鎖ドメインCLにより置換されている。
配列番号9 <ANGPT2>VL-VH/CL-CH1交換抗体の軽鎖* (LC*) のアミノ酸配列、
ここで軽鎖ドメインVLは重鎖ドメインVHにより置換されており、そして軽鎖ドメインCLは重鎖ドメインCH1により置換されている。
配列番号10 ノブ-インツ-ホール技術において使用するT366W交換をもつCH3ドメイン (ノブ) のアミノ酸配列
【0092】
配列番号11 ノブ-インツ-ホール技術において使用するT366S、L368A、Y407V交換をもつCH3ドメイン (ホール) のアミノ酸配列
配列番号12 野生型<VEGF>抗体重鎖のアミノ酸配列
配列番号13および14 リーダーを含むおよび含まない野生型<VEGF>抗体重鎖のアミノ酸配列
配列番号15 <ANGPT2>VL-VH/CL-CH1交換抗体の重鎖* (HC*) のアミノ酸配列、ここで重鎖ドメインVHは軽鎖ドメインVLにより置換されており、そして重鎖ドメインCH1は軽鎖ドメインCLにより置換されており、そしてCH3ドメインはノブ-インツ-ホール技術において使用するT366S、L368A、Y407V交換 (ホール) をもつアミノ酸配列を担持する。
【0093】
配列番号16 野生型<VEGF>抗体重鎖のアミノ酸配列、ここでCH3ドメインはノブ-インツ-ホール技術において使用するT366W (ノブ) 交換をもつアミノ酸配列を担持する。
配列番号17 <ANGPT2>VL-VH/CL-CH1交換抗体の重鎖 (G)* (HC*) のアミノ酸配列、ここで重鎖ドメインVHは軽鎖ドメインVLにより置換されており、そして重鎖ドメインCH1は追加のグリシン挿入をもつ軽鎖ドメインCLにより置換されている。
配列番号18 <ANGPT2>VL-VH/CL-CH1交換抗体の軽鎖 (G)* (LC*) のアミノ酸配列、ここで軽鎖ドメインVLは重鎖ドメインVHにより置換されており、そして軽鎖ドメインCLは追加のグリシン挿入をもつ重鎖ドメインCH1により置換されている。
【実施例】
【0094】
材料および一般的方法
ヒト免疫グロブリン軽鎖および重鎖のヌクレオチド配列に関する一般情報は下記の文献に記載されている: Kabat E. A. 他、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、MD (1991) 。EUナンバリングに従い、抗体鎖のアミノ酸をナンバリングし、言及する (Edelman G. M. 他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 63 (1969) 78-85; Kabat E. A. 他、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、MD (1991)) 。
【0095】
組換えDNA技術
下記の文献に記載されているように、標準法を使用してDNA操作した: Sambrook J. 他、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、New York、1989。微生物学的試薬は製造業者の使用説明書に従い使用した。
【0096】
遺伝子合成
化学合成により作ったオリゴヌクレオチドから、所望の遺伝子セグメントを生産した。単一の制限エンドヌクレアーゼ切断部位がフランクする、600〜1800 bp長さの遺伝子セグメントを、PCR増幅を包含するオリゴヌクレオチドのアニーリングおよび連結により集合させ、引き続いて示した制限部位、例えば、KpnI/SacIまたはAscI/PacIを経由してpPCRscript (Stratagene) に基づくpGA4クローニングベクター中にクローニングした。DNA配列決定により、サブクローニングした遺伝子フラグメントのDNA配列を確認した。ジェネアート (Geneart) (ドイツ、レーゲンスブルク) において所定の明細事項に従い、遺伝子合成フラグメントを配列した。
【0097】
DNA配列の決定
メディジェノミックス社 (MediGenomix GmbH、ドイツ、マルチンスリート) またはセクイサーブ社 (Sequiserve GmbH、ドイツ、ファーターシュテッテン) において実施した二本鎖配列決定により、DNA配列を決定した。
【0098】
DNAおよびタンパク質配列の分析および配列データの管理
配列の創造、遺伝地図作製、分析、注解および図解のために、GCG (Genetics Computer Group、ウィスコンシン、マディソン) ソフトウェアパッケージバージョン10.2およびインフォマックス・ベクターNT1 アドバンス・スイートバージョン8.0を使用した。
【0099】
発現ベクター
一時的発現のための発現プラスミドの記載した抗体変異型を発現させるために (例えば、HEK 293 EBNAまたはHEK 293-F中で) 、CMV-イントロンAプロモーターを使用するcDNA構成またはCMVプロモーターを使用するゲノム構成に基づく細胞を適用した。
【0100】
抗体発現カセットのほかに、ベクターは下記を含有した:
- 大腸菌 (E. coli) 中でこのプラスミドの複製を可能とする複製起点、および
- 大腸菌 (E. coli) においてアンピシリン耐性を付与するβ-ラクタマーゼ遺伝子。
抗体遺伝子の転写単位は下記の要素から構成されている:
- 5’ 末端における1または2以上のユニーク制限部位、
- ヒトサイトメガロウイルスからの前初期エンハンサーおよびプロモーター、
- 引き続いてcDNA構成の場合においてイントロンA配列、
- ヒト抗体遺伝子の5’ 非翻訳領域、
- 免疫グロブリン重鎖シグナル配列、
- 免疫グロブリンエキソン-イントロン構成を伴うcDNAまたはゲノム構成としてヒト抗体鎖 (野生型またはドメイン交換を伴う) 、
- ポリアデニル化シグナル配列をもつ3’ 非翻訳領域、および
- 3’ 末端における1または2以上のユニーク制限部位。
【0101】
記載した抗体鎖を含んでなる融合遺伝子を後述するようにPCRおよび/または遺伝子合成により発生させ、既知の組換えの方法および技術に従い、例えば、それぞれのベクター中のユニーク制限部位を使用して、一致した核酸配列の接続により組み合わせた。サブクローニングした核酸配列をDNA配列決定により確認した。一時的トランスフェクションのために、形質転換した大腸菌 (E. coli) 培養物 (Nucleobond AX、Macherey-Nagel) からプラスミド生産により、より多い量のプラスミドを生産した。
【0102】
細胞培養技術
標準細胞培養技術を下記の文献に記載されているように使用した: Current Protocols in Cell Biology (2000) 、Bonifacino J. S. 、Dasso M. 、Harford J. B. 、Lippincott-Schwartz J. およびYamada K. M. (編者) 、John Wiley & Sons, Inc. 。
後述するように粘着成長するHEK 293 EBNA中でまたは懸濁液中で成長するHEK 293-F細胞中でそれぞれの発現プラスミドを一時的に共トランスフェクションすることによって、二重特異性抗体を発現させた。
【0103】
HEK 293 EBNA系における一時的トランスフェクション
10%のウルトラ・ロウ (Ultra Low) IgG FCS (胎仔ウシ血清、Gibco) 、2 mMのL-グルタミン (Gibco) および250μg/mlのジェネチシン (Gibco) を補充したDMEM (ダルベッコ変性イーグル培地、Gibco) 中で培養した、粘着成長するHEK 293 EBNA細胞 (エプスタイン-バール-ウイルス核抗原を発現するヒト胚腎細胞系統293; American Type Culture Collection受託番号ATCC # CRL-10852、ロット959 218) 中で、それぞれの発現プラスミド (例えば、重鎖および修飾した重鎖、ならびに対応する軽鎖および修飾した軽鎖をコードする) を一時的共トランスフェクションすることによって、二重特異性抗体を発現させた。トランスフェクションのために、FuGENETM 6トランスフェクション試薬 (Roche Molecular Biochemicals) を4:1 (3:1から6:1) のFuGENETM 試薬 (μl) 対DNA (μg) の比で使用した。
【0104】
それぞれ1:2から2:1までの範囲の1:1 (等モル) の (修飾したおよび野生型) 軽鎖および重鎖エンコーディングプラスミドのモル比を使用して、タンパク質をそれぞれのプラスミドから発現させた。第3日に、細胞に4 mMまでのL-グルタミン、グルコース (Sigma) およびNAA (Gibco) を供給した。トランスフェクション後第5日〜第11日に二重特異性抗体を含有する細胞培養物上清を遠心により収集し、-20℃において貯蔵した。例えば、HEK 293細胞中のヒト免疫グロブリンの組換え発現に関する一般情報は下記の文献に記載されている: Meissner P. 他、Biotechnol. Bioeng. 75 (2001) 197-203。
【0105】
HEK 293-F系における一時的トランスフェクション
HEK 293-F系 (Invitrogen) を製造業者の使用説明書に従い使用して、それぞれのプラスミド (例えば、重鎖および修飾した重鎖、ならびに対応する軽鎖および修飾した軽鎖をコードする) を一時的トランスフェクションすることによって、二重特異性抗体を発生させた。簡単に述べると、震蘯フラスコまたは攪拌した発酵槽を使用して無血清フリースタイル (FreeStyle 293) 発現媒質 (Invitrogen) 中の懸濁液中で成長するHEK 293-F細胞 (Invitrogen) を、4つの発現プラスミドおよび293フェクチンまたはフェクチン (Invitrogen) の混合物でトランスフェクトした。2リットルの震蘯フラスコ (Corning) について、1.0 E* 6細胞/mlの密度の600 mlのHEK 293-F細胞を接種し、8% CO2中で120 rpmにおいてインキュベートした。
【0106】
次の日に、A) 20 mlのOpti-MEM (Invitrogen) および等モル比のそれぞれ重鎖および修飾した重鎖および対応する軽鎖をコードする600μgの全プラスミドDNA (1μg/ml) と、B) 20 mlのOpti-MEM + 1.2 mlの293フェクチンまたはフェクチン (2μl/ml) との約42 mlの混合物で細胞を約1.5 E* 6細胞/mlの細胞密度においてトランスフェクトした。グルコース消費に従い、グルコース溶液を発酵過程間に添加した。5〜10日後に分泌抗体を含有する上清を収集し、抗体を上清から直接精製するか、あるいは上清を凍結させ、貯蔵した。
【0107】
タンパク質の測定
下記の文献に従いアミノ酸配列に基づいて計算したモル吸光係数を使用して、280 nmにおける光学密度 (OD) を測定することによって、精製した抗体および誘導体のタンパク質濃度を決定した: Pace C. N. 他、Protein Science 1995、4、2411-2423。
【0108】
上清中の抗体濃度の測定
プロテインAアガロースビーズ (Roche) を使用する免疫沈降により、細胞培養物上清中の抗体および誘導体の濃度を推定した。60μlのプロテインAアガロースビーズをTBS-NP40 (50 mM トリス、pH 7.5、150 mM NaCl、1% Nonidet-P40) 中で3回洗浄する。引き続いて、1〜15 mlの細胞培養物上清をTBS-NP40中で前平衡化したプロテインAアガロースビーズに適用した。室温において1時間インキュベートした後、ビーズをウルトラフリー (Ultrafree) -MCフィルターカラム (Amicon) 上で0.5 mlのTBS-NP40で1回、0.5 mlの2×リン酸塩緩衝液 (2×PBS、Roche) で2回、そして0.5 mlの100 mMのクエン酸ナトリウムpH 5.0で短時間4回洗浄した。
【0109】
35 μlのNuPAGE(商標)LDS試料緩衝液 (Invitrogen) を添加して、結合した抗体を溶離した。試料の半分をそれぞれNuPAGE(商標)試料還元剤と組み合わせるか、あるいは還元しないで放置し、そして10分間70℃に加熱した。結局、5〜30 μlを4〜12%のNuPAGE(商標)ビス-トリス SDS-PAGE (Invitrogen) に適用し (非還元SDS-PAGEについてMOPS緩衝液を使用し、そして還元SDS-PAGEについてMES緩衝液およびNuPAGE(商標)酸化防止剤ランニング添加剤 (Invitrogen) を使用した) 、そしてクーマッシーブルーで染色した。
【0110】
細胞培養物上清中の抗体および誘導体の濃度を、アフィニティーHPLCクロマトグラフィーにより定量的に測定した。簡単に述べると、プロテインAに結合する抗体および誘導体を含有する細胞培養物上清を、200 mM K2HPO4、100 mM クエン酸ナトリウム、pH 7.4中のアプライド・バイオシステムス・ポロス (Applied Biosystems Poros) A/20カラムに適用し、アジレント (Agilent) HPLC 1100系上で200 mM NaCl、100 mM クエン酸、pH 2.5でマトリックスから溶離した。溶離したタンパク質をUV吸収およびピーク面積の積分により定量した。精製した標準IgG1を標準として使用した。
【0111】
選択的に、細胞培養物上清中の抗体および誘導体の濃度をサンドイッチIgG-ELISAにより測定した。簡単に述べると、ストレプタウェル・ハイ・バインド・ストレプトアビジン (StreptaWell High Bind Streptavidin) A-96ウェルのマイクロタイタープレート (Roche) を、100 μl/ウェルのビオチニル化抗ヒトIgG捕捉分子F (ab’) 2 <hFcγ> BI (Dianova) で0.1 μg/mlにおいて室温で1時間被膜するか、あるいは選択的に一夜4℃において被覆し、引き続いて200 μl/ウェルのPBS、0.05%のツイーン (PBST、Sigma) で3回洗浄した。
【0112】
それぞれの抗体含有細胞培養物上清のPBS (Sigma) 中の希釈系列の100 μl/ウェルをウェルに添加し、室温においてマイクロタイタープレート震蘯器上で1〜2時間インキュベートした。ウェルを200 μl/ウェルのPBSTで3回洗浄し、検出抗体として100 μlの0.1 μg/ml のF (ab’) 2 <hFcγ> POD (Dianova) を使用して結合抗体を室温においてマイクロタイタープレート震蘯器上で1〜2時間検出した。結合しない検出抗体を200 μl/ウェルのPBSTで3回洗浄除去し、結合した検出抗体を100 μlのABTS/ウェルの添加により検出した。テカン・フルオア (Tecan Fluor) スペクトロメーターで405 nmの測定波長 (参照波長492 nm) において、吸収を測定した。
【0113】
タンパク質の精製
標準プロトコルに従い、濾過した細胞培養物上清からタンパク質を精製した。簡単に述べると、抗体をプロテインAセファローズカラム (GE Healthcare) に適用し、PBSで洗浄した。抗体をpH 2.8において溶離し、次いで試料を直ちに中和した。PBS中でまたは20 mMのヒスチジン、150 mMのHCl pH 6.0中でサイズ排除クロマトグラフィー (スーパーデックス200、GE Healthcare) により、凝集したタンパク質をモノマーの抗体から分離した。モノマーの抗体の画分をプールし、必要に応じて、例えば、ミリポア (MILLIPORE) アミコン・ウルトラ (30 MWCO) 遠心濃縮装置を使用して、濃縮し、凍結させ、-20℃または-80℃において貯蔵した。引き続いて、試料の一部分を、例えば、SDS-PAGEサイズ排除クロマトグラフィーまたは質量分析により、タンパク質分析し、分析的に特性決定した。
【0114】
SDS-PAGE
NuPAGE(商標)前注型ゲル系 (Invitrogen) を製造業者の使用説明書に従い使用した。特に、10%または4〜12%のNuPAGE(商標)Novex(商標)ビス-トリス前注型ゲル系 (pH 6.4) およびNuPAGE(商標)MES (還元したゲル、NuPAGE(商標)酸化防止剤ランニング緩衝液添加剤を使用する) またはMOPS (還元してないゲル) ランニング緩衝液を使用した。
【0115】
分析用サイズ排除クロマトグラフィー
抗体の凝集およびオリゴマーの状態を決定するサイズ排除クロマトグラフィーを、HPLCクロマトグラフィーにより実施した。簡単に述べると、プロテインA精製抗体をアジレント (Agilent) HPLC 1100系上の300 mM NaCl、50 mM KH2PO4/K2HPO4、pH 7.5中のトソ (Tosoh) TSKゲルG3000SWカラムに適用するか、あるいはジオネックス (Dionex) HPLC系上の2×PBS中のスーパーデックス200カラム (GE Healthcare) に適用した。溶離したタンパク質をUV吸収およびピーク面積の積分により定量した。バイオラド (BioRad) ゲル濾過標準151-1901を標準として使用した。
【0116】
質量分析
エレクトロスプレーイオン化質量分析 (ESI-MS) により、クロスオーバー抗体の全脱グリコシル化質量を測定し、確認した。簡単に述べると、100 μgの精製した抗体を100 mM KH2PO4/K2HPO4、pH 7中の50 mUのN-グリコシダーゼF (PNGaseF、ProZyme) で37℃において12〜24時間2 mg/mlまでのタンパク質濃度において脱グルコシル化し、引き続いてセファデックスG25カラム (GE Healthcare) 上のHPLCにより脱塩した。脱グルコシル化および還元後、それぞれの重鎖および軽鎖の質量をESI-MSにより測定した。簡単に述べると、115 μl中の50 μgの抗体を60 μlの1 M TCEPおよび50 μlの8 M 塩酸グアニジンとインキュベートし、引き続いて脱塩した。ナノメート (NanoMate) 源を装備したQ-Star Elite MS系上のESI-MSにより、全質量および還元した重鎖および軽鎖の質量を測定した。
【0117】
IGF-1R ECD結合ELISA
IGF-1R細胞外ドメイン (ECD) を使用するELISAアッセイにおいて、発生した抗体の結合特性を評価した。このために、天然のリーダー配列と、N末端のHis-ストレプトアビジン結合ペプチド-タグ (His-SBP) に融合したアルファ鎖のヒトIGF-1RエクトドメインのLI-システインに富んだ12ドメイン (McKern 他、1997; Ward 他、2001に従う) とを含んでなるIGF-1Rの細胞外ドメイン (残基1〜462) を、pcDNA3ベクター誘導体中にクローニングし、HEK 293-F細胞中で一時的に発現させた。IGF-1R-His-SBP ECDのタンパク質配列を配列番号5に記載する。可溶性IGF-1R-ECD-SBP融合タンパク質を含有する細胞培養物上清の100 μl/ウェルでストレプタウェル高結合ストレプトアビジンA-96ウェルマイクロタイタープレート (Roche) を4℃において一夜被覆し、200 μl/ウェルのPBS、0.05%ツイーン (PBST、Sigma) で3回洗浄した。
【0118】
引き続いて、1% BSA (画分V、Roche) を含むPBS (Sigma) 中のそれぞれの抗体および参照として野生型<IGF-1R>抗体の希釈系列の100 μl/ウェルをウェルに添加し、室温においてマイクロタイタープレート震蘯器上で1〜2時間インキュベートした。希釈系列について、参照として同一量の精製した抗体、または同一抗体濃度についてサンドイッチIgG-ELISAにより正規化したHEK 293 E (HEK 293-F) 中の一時的トランスフェクションからの上清をウェルに適用した。ウェルを200 μl/ウェルのPBSTで3回洗浄し、検出抗体として100 μl/ウェルの0.1 μg/ml のF (ab’) 2 <hFcγ> POD (Dianova) を使用して、マイクロタイタープレート震蘯器上で室温において結合抗体を1〜2時間検出した。結合しない検出抗体を200 μl/ウェルのPBSTで3回洗浄除去し、結合した検出抗体を100 μlのABTS/ウェルの添加により検出した。テカン・フルオア・スペクトロメーターで405 nmの測定波長 (参照波長492 nm) において、吸収を測定した。
【0119】
IGF-1R ECDバイアコア
また、バイアコア (BIACORE) T100計器 (GE Healthcare、Biosciences AB、スウェーデン、ウプサラ) を使用して表面プラズモン共鳴により、発生した抗体のヒトIGF-1R ECDに対する結合を研究した。簡単に述べると、アフィニティーの測定のために、ヒトIGF-1R ECD-Fcタッグドに対する抗体の提示についてのアミンカップリングにより、ヤギ抗ヒトIgG、JIR 109-005-098抗体をCM5チップ上に固定化した。HBS緩衝液 (HBS-P 、10 mM HEPES、150 mM NaCl、0.005% ツイーン20、pH 7.4) 中で25℃において、結合を測定した。IGF-1R ECD (R & D Systemsまたはイン-ハウス精製した) を溶液に種々の濃度で添加した。
【0120】
会合を80秒〜3分のIGF-1R ECD注入により測定した; チップ表面をHBS緩衝液で3〜10分間洗浄することによって解離を測定し、そして1:1ラングミュア結合モデルを使用してKD値を推定した。<IGF-1R>抗体の負荷密度および捕捉レベルが低いために、1価のIGF-1R ECDの結合が得られた。陰性対照のデータ (例えば、緩衝液の曲線) を試料の曲線から減じて、系固有の基線ドリフトを補正し、そして雑音を減少させた。バイアコアT100評価ソフトウェアバージョン1.1.1を使用して、センサーグラム (sensorgrams) を分析し、そしてアフィニティーのデータを計算した (図18) 。
【0121】
ANGPT2結合ELISA
全長のANGPT2-Hisタンパク質 (R & D Systems) を使用するELISAアッセイにおいて、発生した抗体の結合特性を評価した。このために、ファルコン (Falcon) ポリスチレンの透明な強化マイクロタイタープレートを、100 μlのPBS中の1 μg/mlの組換えヒトANGPT2 (R & D Systems、無担体) で室温において2時間または4℃において一夜被覆した。ウェルを300 μlのPBST (0.2%のツイーン20) で3回洗浄し、200 μlの2%のBSA、0.1%のツイーン20で室温において30分間ブロックし、引き続いて300 μlのPBSTで3回洗浄した。PBS (Sigma) 中の精製した<ANGPT2>VL-VH/CL-CH1交換抗体および参照として野生型<ANGPT2>抗体の希釈系列の100 μl/ウェルをウェルに添加し、室温においてマイクロタイタープレート震蘯器上で1時間インキュベートした。
【0122】
ウェルを300 μlのPBST (0.2%のツイーン20) で3回洗浄し、検出抗体として2%のBSA、0.1%のツイーン20中の100 μl/ウェルの0.1 μg/mlのF (ab’) 2 <hk> POD (Biozol カタログNo. 206005) または100 μl/ウェルの0.1 μg/mlのF (ab’) 2 <hFcγ> POD (Immuno research) で、結合抗体を室温においてマイクロタイタープレート震蘯器上で1時間検出した。結合しない検出抗体を300 μl/ウェルのPBSTで3回洗浄除去し、結合した検出抗体を100 μlのABST/ウェルの添加により検出した。テカン・フルオア・スペクトロメーターで405 nmの測定波長 (参照波長492 nm) において、吸収を測定した。
【0123】
ANGPT2結合バイアコア
また、バイアコアT100計器 (GE Healthcare、Biosciences AB、スウェーデン、ウプサラ) を使用して表面プラズモン共鳴により、ヒトANGPT2に対して発生した抗体の結合を研究した。簡単に述べると、アフィニティーの測定のために、ヒトANGPT2に対する抗体の提示についてのアミンカップリングにより、ヤギ<hIgG-Fcg>ポリクローナル抗体をCM5またはCM4チップ上に固定化した。HBS緩衝液 (HBS-P、10 mM HEPES、150 mM NaCl、0.005% ツイーン20、pH 7.4) 中で5 mM Ca2+の存在または非存在下に25℃において、結合を測定した。精製したANGPT2-His (R & D Systemsまたはイン-ハウス精製した) を溶液に種々の濃度で添加した。
【0124】
会合を3分のANGPT2の注入により測定した; チップ表面をHBS緩衝液で3〜5分間洗浄することによって解離を測定し、そして1:1ラングミュア結合モデルを使用してKD値を推定した。ANGPT2調製物の異質性のために、1:1結合を観測できなかった; こうしてKD値は相対的推定だけである。陰性対照のデータ (例えば、緩衝液の曲線) を試料の曲線から減じて、系固有の基線のドリフトを補正し、そして雑音を減少させた。バイアコアT100評価ソフトウェアバージョン1.1.1を使用して、センサーグラムを分析し、そしてアフィニティーのデータを計算した (図19) 。
【0125】
Tie-2-ECDに結合するhANGPT2の阻害 (ELISA)
Tie-2結合性を阻害するANGPT2抗体の能力を試験するために、下記のELISAを構成した。この試験は室温において384ウェルのマイクロタイタープレート (MicroCoat、デラウェア、カタログNo. 464718) 上で実施した。各インキュベーション工程後、プレートをPBSTで3回洗浄した。開始において、プレートを0.5 μg/mlのTie-2タンパク質 (R & D Systems、英国、カタログNo. 313-TI) で少なくとも2時間被覆した。その後、0.2%のツイーン20および2%のBSA (Roche Diagnostics GmbH、デラウェア) を補充したPBSで1時間ウェルをブロックした。
【0126】
精製した抗体のPBS中の希釈物を室温において0.2 μg/mlのhuANGPT2 (R & D Systems、英国、カタログNo. 623-AN) と1時間インキュベートした。洗浄後、0.5 μg/mlのビオチニル化抗ANGPT2クローンBAM0981 (R & D Systems) と1:3000希釈ストレプトアビジンHRP (Roche Diagnostics GmbH、デラウェア、カタログNo. 11089153001) との混合物を1時間添加した。その後、プレートをPBSTで6回洗浄した。プレートを新しく調製したABTS試薬 (Roche Diagnostics GmbH、デラウェア、緩衝液 #204 530 001、タブレット #11 112 422 001) で室温において30分間現像した。吸収を405 nmにおいて測定した。
【0127】
ANGPT2- VEGF架橋ELISA
ELISAアッセイにおいて、同時に結合した二重特異性抗体を検出するために固定化全長VEGF165-Hisタンパク質 (R & D Systems) およびヒトANGPT2-Hisタンパク質 (R & D Systems) を使用して、発生した二重特異性抗体の結合特性を評価した。二重特異性抗体のみがVEGFおよびANGPT2に同時に結合することができ、こうして2つの抗原を架橋するが、単一特異性「標準」IgG1抗体はVEGFおよびANGPT2に同時に結合することができないであろう。このために、ファルコン・ポリスチレンの透明な強化マイクロタイタープレートを100 μlのPBS中の2 μg/mlの組換えヒトVEGF165 (R & D Systems) で室温において2時間または4℃において一夜被覆した。
【0128】
ウェルを300 μlのPBST (0.2%のツイーン20) で3回洗浄し、200 μlの2%のBSA、0.1%のツイーン20で室温において30分間ブロックし、引き続いて300 μlのPBSTで3回洗浄した。PBS (Sigma) 中の精製した二重特異性抗体および対照抗体の希釈系列の100 μl/ウェルをウェルに添加し、室温においてマイクロタイタープレート震蘯器上で1時間インキュベートした。ウェルを300 μlのPBST (0.2%のツイーン20) で3回洗浄し、結合した抗体を100 μlのPBS中の0.5 μg/mlのヒトANGPT2-His (R & D Systems) の添加により検出した。ウェルを300 μlのPBST (0.2%のツイーン20) で3回洗浄し、結合したANGPT2を100 μlの0.5 μg/mlの<ANGPT2>mIgG1-ビオチン抗体 (BAM0981、R & D Systems) で室温において1時間検出した。
【0129】
結合しない検出抗体を300 μlのPBST (0.2%のツイーン20) で3回洗浄除去し、結合した抗体をブロッキング緩衝液中で1:4希釈した100 μlの1:2000ストレプトアビジンPODコンジュゲイト (Roche Diagnostics GmbH、カタログNo. 11089153) の添加により室温において1時間検出した。結合しないストレプトアビジン-PODコンジュゲイトを300 μlのPBST (0.2%のツイーン20) で3〜7回洗浄除去し、結合したストレプトアビジン-PODコンジュゲイトを100 μlのABTS/ウェルの添加により検出した。 テカン・フルオア・スペクトロメーターで405 nmの測定波長 (参照波長492 nm) において、吸収を測定した (図20) 。
【0130】
VEGFおよびANGPT2に対する二重特異性抗体の同時結合を検出するバイアコアアッセイ
架橋ELISAからのデータをさらに確認するために、下記のプロトコルに従いVEGFおよびANGPT2に対する同時結合を確認するバイアコアT100計器による表面プラズモン共鳴技術を使用して、追加のアッセイを確立した。T100ソフトウェアパッケージを使用してデータを解析した: アミンカップリング (無BSA) によりCM5チップ上に固定化されたペンタHis抗体 (PentaHis-ab、無BSA、Qiagen、No. 34660) を使用して、2000〜17000 RUの捕捉レベルでANGPT2を捕捉した。ランニング緩衝液としてHBS-N緩衝液を使用し、活性化をEDC/NHS混合物により実施した。ペンタHis抗体 (無BSA) 捕捉抗体をカップリング緩衝液NaAc、pH 4.5、c = 30 μg/ml中で希釈し、最後になお活性化されたカルボキシル基を1 Mのエタノールアミンの注入によりブロックし、5000および17000 RUのリガンド密度を試験した。
【0131】
500 nMの濃度のANGPT2をランニング緩衝液 + 1 mg/mlのBSAで希釈したペンタHis抗体により5 μl/分の流速で捕捉した。引き続いて、ANGPT2およびVEGFに対する二重特異性抗体の結合性をrhVEGFとのインキュベーションにより証明した。このために、二重特異性抗体を5 μl/分の流速および100〜500 nMの濃度でANGPT2に結合させ、ランニング緩衝液 + 1 mg/mlのBSAで希釈し、そしてPBS + 0.005% (v/v) のツイーン20ランニング緩衝液 + 1 mg/mlのBSA中でVEGF (rhVEGF、R & D Systems、カタログNo. 293-VE) と50 μl/分の流速および100〜150 nMのVEGF濃度においてインキュベーションすることによって、同時結合を検出した。会合時間120秒、解離時間1200秒。
【0132】
2 × 10 mMのグリシンpH 2.0を使用して50 μl/分の流速および60秒の接触時間において、再生を実施した。通常の二重参照 (対照参照: 分子ペンタHis抗体を捕捉するための二重特異性抗体およびrhVEGFの結合) を使用して、センサーグラムを補正した。rhVEGF濃度「0」で各抗体のためのブランクを測定した。バイアコアアッセイのスキームを図21に示す。通常の二重参照 (対照参照: 分子ペンタHis抗体を捕捉するための二重特異性抗体およびrhVEGFの結合) を使用して、センサーグラムを補正した。rhVEGF濃度「0」で各抗体のためのブランクを測定した。
【0133】
実施例1
単一特異性2価<IGF-1R>抗体の生産、発現、精製および特性決定、ここで可変性ドメインVLおよびVHは互いにより置換されており、そしてコンスタントドメインCLおよびCH1は互いにより置換されている (ここにおいて<IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体と略す) 。
【0134】
実施例1A.単一特異性2価<IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体のための発現プラスミドの生産
この実施例に記載するそれぞれのリーダー配列を含む単一特異性2価インスリン様増殖因子1レセプター<IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体の重鎖および軽鎖の可変性ドメインの配列は、WO 2005/005635に記載されている野生型<IGF-1R>抗体重鎖 (配列番号1、プラスミド4843-pUC-HC-IGF-1R) および軽鎖 (配列番号2、プラスミド4842-pUC-LC-IGF-1R) から誘導し、そして重鎖および軽鎖コンスタントドメインをヒト抗体 (C-カッパおよびIgG1) から誘導する。
【0135】
<IGF-1R>抗体のリーダー配列、軽鎖可変性ドメイン (VL) およびヒトカッパ-軽鎖コンスタントドメイン (CL) をコードする遺伝子セグメントを接合し、ヒトγ1-重鎖コンスタントドメイン (ヒンジ-CH2-CH3) のFcドメインの5’ 末端に融合した。VLおよびCLドメインによるVHおよびCH1ドメインの交換から生ずるそれぞれの融合タンパク質をコードするDNAを遺伝子合成により発生させ、下記において<IGF-1R>HC* (重鎖*) (配列番号3) と表示する。
【0136】
<IGF-1R>抗体のリーダー配列、重鎖可変性ドメイン (VH) およびヒトγ1-重鎖コンスタントドメイン (CH1) のための遺伝子セグメントを独立鎖として接合した。VHおよびCH1ドメインによるVLおよびCLドメインの交換から生ずるそれぞれの融合タンパク質をコードするDNAを遺伝子合成により発生させ、下記において<IGF-1R>LC* (軽鎖*) (配列番号4) と表示する。
【0137】
図5および図6は、修飾された<IGF-1R>HC*重鎖*および修飾された<IGF-1R>LC*軽鎖*のタンパク質配列の略図を示す。
下記において、それぞれの発現ベクターを簡単に説明する:
ベクターDW047-pUC-HC*-IGF-1R
ベクターDW047-pUC-HC*-IGF-1Rは、例えば、<IGF-1R>重鎖*HC* (cDNA構成発現カセット ; CMV-イントロンAをもつ) HEK 293 EBNA 細胞中の一時的発現のためのまたはCHO細胞中の安定な発現のための、発現プラスミドである。
【0138】
<IGF-1R>HC*発現カセットのほかに、このベクターは下記を含有する:
- 大腸菌 (E. coli) 中のこのプラスミドの複製を可能とするベクターpUC18からの複製起点、および
- 大腸菌 (E. coli) においてアンピシリン耐性を付与するβ-ラクタマーゼ遺伝子。
<IGF-1R>HC*遺伝子の転写単位は下記の要素から構成されている:
- 5’ 末端におけるユニークAscI制限部位、
- ヒトサイトメガロウイルスからの前初期エンハンサーおよびプロモーター、
- 次いでイントロンA配列、
- ヒト抗体遺伝子の5’ 非翻訳領域、
- 免疫グロブリン軽鎖シグナル配列
- ヒトγ1-重鎖コンスタントドメイン (ヒンジ-CH2-CH3) のFcドメインの5’ 末端に融合したヒト軽鎖可変性ドメイン (VL) およびヒトカッパ-軽鎖コンスタントドメイン (CL) の融合物をコードするヒト<IGF-1R>成熟HC*鎖、
- ポリアデニル化シグナル配列をもつ3’ 非翻訳領域、および
- 3’ 末端におけるユニーク制限部位SgrAI。
【0139】
<IGF-1R>HC*発現ベクターDW047-pUC-HC*-IGF-1Rのプラスミド地図を図7に示す。<IGF-1R>HC*のアミノ酸配列 (シグナル配列を含む) を配列番号3に記載する。
【0140】
ベクターDW048-pUC-LC*-IGF-1R
ベクターDW048-pUC-LC*-IGF-1Rは、例えば、VL-VH/CL-CH1交換<IGF-1R>軽鎖*LC* (cDNA構成発現カセット; CMV-イントロンAをもつ) のHEK 293 EBNA細胞中の一時的発現のためのまたはCHO細胞中の安定な発現のための、発現プラスミドである。
【0141】
<IGF-1R>LC*発現カセットのほかに、このベクターは下記を含有する:
- 大腸菌 (E. coli) 中のこのプラスミドの複製を可能とするベクターpUC18からの複製起点、および
- 大腸菌 (E. coli) においてアンピシリン耐性を付与するβ-ラクタマーゼ遺伝子。
<IGF-1R>LC*遺伝子の転写単位は下記の要素から構成されている:
- 5’ 末端におけるユニーク制限部位Sse8387I、
- ヒトサイトメガロウイルスからの前初期エンハンサーおよびプロモーター、
- 次いでイントロンA配列、
- ヒト抗体遺伝子の5’ 非翻訳領域、
- 免疫グロブリン重鎖シグナル配列
- ヒト重鎖可変性ドメイン (VH) およびヒトγ1-重鎖コンスタントドメイン (CH1) の融合物をコードするヒト<IGF-1R>抗体成熟LC*鎖、
- ポリアデニル化シグナル配列をもつ3’ 非翻訳領域、および
- 3’ 末端におけるユニーク制限部位SalIおよびFseI。
軽鎖*<IGF-1R>LC*発現ベクターDW048-pUC-LC*-IGF-1Rのプラスミド地図を図8に示す。<IGF-1R>LC*のアミノ酸配列 (シグナル配列を含む) を配列番号4に記載する。
【0142】
プラスミドDW047-pUC-HC*-IGF-1RおよびDW048-pUC-LC*-IGF-1Rは、例えば、HEK 293、HEK 293 EBNAまたはCHO細胞 (2-ベクター系) 中への、一時的または安定な共トランスフェクションに使用できる。比較の理由で、この実施例に記載するものと同様にして、野生型<IGF-1R>抗体をプラスミド4842-pUC-LC-IGF-1R (配列番号2) および4843-pUC-HC-IGF-1R (配列番号1) から一時的に発現させた。
【0143】
HEK 293 EBNA細胞中の一時的発現においてより高い発現レベルを達成するために、下記を含有する4700-pUC-Hyg-OriP発現ベクター中に、<IGF-1R>HC*発現カセットをAscIおよびSgrAI部位を通して、そして<IGF-1R>LC*発現カセットをSse8387IおよびFseI部位を通して、サブクローニングすることができる:
- OriP要素、および
- 選択可能なマーカーとしてヒグロマイシン耐性遺伝子。
【0144】
重鎖および軽鎖の転写単位は共トランスフェクションのために2つの独立4700-pUC-Hyg-OriPベクター (2ベクター系) 中にサブクローニングするか、あるいは生ずるベクターを使用する引き続く一時的または安定なトランスフェクションのために1つの共通の4700-pUC-Hyg-OriPベクター (1ベクター系) 中にクローニングすることができる。
基本的ベクター4700-pUC-OriPのプラスミド地図を図9に示す。
【0145】
実施例1B.単一特異性2価<IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体の発現プラスミドの生産
既知の組換えの方法および技術を使用して、一致する核酸セグメント接続により、野生型<IGF-1R>抗体の交換されたFab配列を含んでなる<IGF-1R>融合遺伝子 (HC*およびLC*融合遺伝子) を組立てた。
【0146】
IGF-1R HC*およびLC*をコードする核酸配列の各々を化学合成により合成し、引き続いてゲネアルト (Geneart) (レーゲンスブルク、ドイツ) においてpPCRScript (Stratagene) に基づくpGA4クローニングベクター中にクローニングした。IGF-1R HC*をコードする発現カセットをPvuIIおよびBmgBI制限部位を通してそれぞれの大腸菌 (E. coli) プラスミド中に結合して、最終ベクターDW047-pUC-HC*-IGF-1Rを生成した; それぞれのIGF-1R LC*をコードする発現カセットをPvuIIおよびSalI制限部位を通してそれぞれの大腸菌 (E. coli) プラスミド中に結合して、最終ベクターDW048-pUC-LC*-IGF-1Rを生成した。サブクローニングした核酸配列をDNA配列決定により確認した。一時的および安定なトランスフェクションのために、形質転換された大腸菌 (E. coli) 培養物 (Nucleobond AX、Macherey-Nagel) からプラスミド生産により大量のプラスミドを生産した。
【0147】
実施例1C.HEK 293 EBNA細胞における単一特異性2価<IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体の一時的発現
10%のウルトラ・ロウIgG FCS (胎仔ウシ血清、Gibco) 、2 mMのL-グルタミン (Gibco) および250 μg/mlのジェネチシン (Gibco) を補充したDMEM (ダルベッコ変性イーグル培地、Gibco) 中で培養した粘着成長するHEK 293 EBNA細胞 (エプスタイン-バール-ウイルスの核抗原を発現するヒト胚腎細胞系統293; American Type Culture Collection 受託番号ATCC # CRL-10852、ロット. 959 218) 中で、プラスミドDW047-pUC-HC*-IGF-1RおよびDW048-pUC-LC*-IGF-1Rの一時的共トランスフェクションにより、組換え<IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体を発現させた。トランスフェクションのために、4:1 (3:1〜6:1の範囲) のFuGENETM試薬 (μl) / DNA (μg) の比でFuGENETM 6トランスフェクション試薬 (Roche Molecular Biochemicals) を使用した。
【0148】
それぞれ1:2〜2:1の範囲の1:1 (等モル) の軽鎖/重鎖エンコーディングプラスミドのモル比を使用して、2つの異なるプラスミドから<IGF-1R>HC*およびLC*をコードする軽鎖および重鎖プラスミド (プラスミドDW047-pUC-HC*-IGF-1RおよびDW048-pUC-LC*-IGF-1R) を発現させた。第3日に細胞に4 mMまでのL-グルタミン、グルコース (Sigma) およびNAA (Gibco) を供給した。トランスフェクション後第5日〜第11日に遠心により<IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体を含有する細胞培養物上清を収集し、-20℃において貯蔵した。例えば、HEK 293細胞中のヒト免疫グロブリンの組換え発現に関する一般情報は下記の文献に記載されている: Meissner P. 他、Biotechnol. Bioeng. 75 (2001) 197-203。
【0149】
実施例1D.単一特異性2価<IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体の免疫沈降
細胞培養物上清 (実施例1C) からプロテインAアガロースビーズ (Roche) を使用する免疫沈降により、単一特異性2価<IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体を単離した。60 μlのプロテインAアガロースビーズをTBS-NP40 (50 mM トリス、pH 7.5、150 mM NaCl、1% Nonidet P-40) 中で3回洗浄した。引き続いて、TBS-NP40中で前平衡化したプロテインAアガロースビーズに、1〜15 mlの細胞培養物上清を適用した。室温において1時間インキュベートした後、ビーズをウルトラフリーMCフィルターカラム (Amicon) 上で0.5 mlのTBS-NP40で1回、0.5 mlの2×リン酸緩衝生理食塩水 (2×PBS、Roche) で2回洗浄し、そして0.5 mlの100 mMのクエン酸ナトリウムpH 5.0で短時間4回洗浄した。結合した抗体を35 μlのNuPAGE(商標)LDS試料緩衝液 (Invitrogen) の添加により溶離した。
【0150】
試料の半分をそれぞれNuPAGE(商標)試料還元剤と組み合わせるか、あるいは還元しないで放置し、そして10分間70℃に加熱した。結局、20 μlを4〜12%のNuPAGE(商標)ビス-トリス SDS-PAGE (Invitrogen) に適用し (非還元SDS-PAGEについてMOPS緩衝液を使用し、そして還元したSDS-PAGEについてMES緩衝液およびNuPAGE(商標)酸化防止剤ランニング緩衝液添加剤 (Invitrogen) を使用した) 、そしてクーマッシーブルーで染色した。典型的な免疫沈降実験からのSDS-PAGEを図10に示す。単一特異性2価<IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体は、LC*軽鎖に相当する約25 kDaのバンドおよびそれぞれのHC*重鎖に相当する50 kDaのバンドをもつ典型的なIgG1抗体のように挙動する。非還元状態において、完全な抗体について約150 kDaのバンドを観測できる。
【0151】
実施例1E.単一特異性2価<IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体の精製および質量分析による同一性の確認
既知の標準法に従いプロテインAアフィニティークロマトグラフィーにより、濾過した細胞培養物上清から、発現分泌された単一特異性2価<IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体を精製した。簡単に述べると、一時的トランスフェクションからの<IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体を含有する細胞培養物上清を遠心 (10,000 g、10分間) により清浄化し、0.45 μmのフィルターに通して濾過し、PBS緩衝液 (10 mM Na2HPO4、1 mM K2HPO4、137 mM NaClおよび2.7 mM KCl、pH 7.4) と平衡化したプロテインA ハイトラップ・マブセレクト・エクストラ (HiTrap MabSelect Xtra) カラム (GE Healthcare) に適用した。結合しないタンパク質をPBS平衡緩衝液、次いで0.1 Mのクエン酸ナトリウム緩衝液pH 5.5で洗浄除去し、PBSで洗浄した。<IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体を100 mMのクエン酸ナトリウムpH 2.8で溶離し、次いで試料を300 μlの2 M トリス pH 9.0/ 2 mlの画分で直ちに中和した。
【0152】
20 mMのヒスチジン、150 mM NaCl pH 6.0中のハイロード 26/60スーパーデックス200プレプ等級カラム (GE Healthcare) 上のサイズ排除クロマトグラフィーにより、凝集したタンパク質をモノマー抗体から分離し、引き続いてモノマー抗体画分をミリポア・アミコン・ウルトラ-15遠心濃縮装置で濃縮した。<IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体を凍結させ、-20℃または-80℃において貯蔵した。<IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体の完全性を還元剤の存在および非存在下にSDS-PAGEにより分析し、引き続いて実施例1Dに記載するようにクーマッシー・ブリリアント・ブルーで染色した。精製した<IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体は、LC*軽鎖に相当する約25 kDaのバンドおよびそれぞれのHC*重鎖に相当する50 kDaのバンドをもつ典型的なIgG1抗体のように挙動する。
【0153】
非還元状態において、約150 kDaにおけるバンドを完全な抗体について観測できる。<IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体の凝集およびオリゴマーの状態を分析用サイズ排除クロマトグラフィーにより分析し、精製したFabクロスオーバー抗体はモノマーの状態であることが示された。特性決定した試料を引き続きタンパク質分析および機能的特性決定のために使用した。主要な種として完全に脱グルコシル化された<IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体の理論分子量 (重鎖のC末端のリシン残基を使用せず、そして軽鎖のC末端のピログルタメート残基を使用して計算した) は、ESI質量分析により確認された。(図22)
【0154】
実施例1F.IGF-1R ECD結合ELISAにおけるおよびバイアコアによる単一特異性2価<IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体のIGF-1R結合特性の分析
前述したようにIGF-1R細胞外ドメイン (ECD) を使用するELISAアッセイにおいて、単一特異性2価<IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体の結合特性を評価した。サンドイッチIgG-ELISAによるHEK 293 E中の一時的トランスフェクション上清からの<IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体および野生型<IGF-1R>抗体の滴定より得られた正規化した結果を、図11に示す。明らかに理解できるように、<IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体は機能的であり、そして野生型<IGF-1R>抗体に匹敵する結合特性を示し、こうして完全に機能的であると思われる。小さい観測される差はこの方法の誤差の範囲内にあり、そして、例えば、タンパク質濃度における小さい変動から生ずることがある。
【0155】
これらの結果はそれぞれの精製した抗体を使用するバイアコアのデータにより確証され、ここで単一特異性2価<IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体はこの方法の誤差の範囲内で本来の野生型抗体に匹敵するIGF-1R ECDに対するアフィニティーおよび結合動力学を有することが示された。動力学的データを下記表に記載する:
【0156】
【表3】

【0157】
実施例1G.IGF-1Rを過剰発現するI24細胞を使用するFACSによる単一特異性2価<IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体のIGF-1R結合特性の分析
<IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体の結合活性を確認するために、I24細胞 (組換えヒトIGF-1Rを発現するNIH3T3細胞、Roche) の表面上で過剰発現されたIGF-1Rに対する結合性をFACSにより研究する。簡単に述べると、精製した<IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体および参照として野生型<IGF-1R>抗体の希釈物と5×10E5 I24細胞/FACSをインキュベートし、氷上で1時間インキュベートする。結合しない抗体を4 mlの氷冷PBS (Gibco) + 2% FCS (Gibco) で洗浄除去する。
【0158】
引き続いて、細胞を遠心 (5分、400 g) し、結合した抗体をF (ab’) 2 <hFcγ> PEコンジュゲイト (Dianova) により氷上で1時間光から保護して検出する。結合しない検出抗体を4 mlの氷冷PBS + 2% FCSで洗浄除去する。引き続いて、細胞を遠心 (5分、400 g) し、300〜500 μlのPBS中に再懸濁させ、そして結合した検出抗体をFACSカリブール (Calibur) またはFACSカント (Canto) (BD、FL2チャンネル、10,000細胞/獲得) 上で定量する。実験の間、それぞれのアイソタイプ対照を含めて非特異的結合事象を排除する。I24細胞上のIGF-1Rに対する<IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体および野生型<IGF-1R>参照抗体の結合性を、平均蛍光強度の濃度依存的シフトによって比較する。
【0159】
追加の実験において、<IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体はまたMCF7細胞上のIGF-1Rのインターナリゼーションを誘導する活性を保持し、ヒトPBMCとインキュベートした場合、野生型<IGF-1R>抗体に匹敵するDU145細胞に対してわずかに低いADCC活性を有することが示された。
【0160】
実施例1における実験を総合すると、ドメイン交換を使用して、野生型抗体に匹敵する特性をもつ完全に機能的な抗体を発生できることが示された。すべての機能的特性は生化学アッセイおよび細胞アッセイにおいて保持された。ドメイン交換したこれらの抗体は、後述するように、二重特異性抗体を発生させる基礎を形成する。
【0161】
実施例2.
単一特異性2価<ANGPT2>抗体の生産、発現、精製および特性決定、ここで可変性ドメインVLおよびVHは互いにより置換されており、そしてコンスタントドメインCLおよびCH1は互いにより置換されている (ここにおいて<ANGPT2>VL-VH/CL-CH1交換抗体と略す) 。
【0162】
実施例2A.単一特異性2価<ANGPT2>VL-VH/CL-CH1交換抗体変異型のための発現プラスミドの生産
この実施例に記載するそれぞれのリーダー配列を含む単一特異性2価アンギオポイエチン-2<ANGPT2>VL-VH/CL-CH1交換抗体の重鎖および軽鎖の可変性ドメインの配列を、WO 2006/045049に記載されているヒト<ANGPT2>抗体の重鎖 (配列番号6) および軽鎖 (配列番号7) から誘導し、そして重鎖および軽鎖のコンスタントドメインをヒト抗体 (C-カッパおよびIgG1) から誘導する。
【0163】
<ANGPT2>抗体のリーダー配列、軽鎖可変性ドメイン (VL) およびヒトカッパ-軽鎖コンスタントドメイン (CL) をコードする遺伝子セグメントを接合し、ヒトγ1-重鎖コンスタントドメイン (ヒンジ-CH2-CH3) のFcドメインの5’ 末端に融合した。VLおよびCLドメインによるVHおよびCH1ドメインの交換から生ずるそれぞれの融合タンパク質をコードするDNAを遺伝子合成により発生させ、下記において<ANGPT2>HC* (重鎖*) (配列番号8) と表示する。
【0164】
<ANGPT2>抗体のリーダー配列、重鎖可変性ドメイン (VH) およびヒトγ1-重鎖コンスタントドメイン (CH1) のための遺伝子セグメントを独立鎖として接合した。VHおよびCH1ドメインによるVLおよびCLドメインの交換から生ずるそれぞれの融合タンパク質をコードするDNAを遺伝子合成により発生させ、下記において<ANGPT2>LC* (軽鎖*) (配列番号9) と表示する。
【0165】
それぞれの発現ベクターは実施例1Aに記載するものに類似する。重鎖<ANGPT2>HC*発現ベクターpUC-HC*-ANGPT2のプラスミド地図を図12に示す。<ANGPT2>HC* (シグナル配列を含む) のアミノ酸配列を配列番号8に記載する。
【0166】
軽鎖<ANGPT2>LC*発現ベクターpUC-LC*-ANGPT2のプラスミド地図を図13に示す。<ANGPT2>LC* (シグナル配列を含む) のアミノ酸配列を配列番号9に記載する。プラスミドpUC-HC*-ANGPT2およびpUC-LC*-ANGPT2は、例えば、HEK 293-F、HEK 293 EBNAまたはCHO細胞 (2ベクター系) 中への、一時的または安定な共トランスフェクションのために使用できる。
【0167】
HEK 293 EBNA細胞においてより高い発現レベルを達成するために、実施例1Aに記載するように4700-pUC-Hyg-OriP発現ベクター中に、<ANGPT2>HC*発現カセットをAscIおよびSgrAI部位を通してサブクローニングし、そして<ANGPT2>LC*発現カセットをSse8387IおよびFseIを通してサブクローニングすることができる。重鎖および軽鎖の転写単位は共トランスフェクション (2ベクター系) のために2つの独立4700-pUC-Hyg-OriPベクター (2ベクター系) 中にサブクローニングするか、あるいはFseI、SgrAI、Sse8387IおよびAscI部位を通す、生ずるベクターを使用する引き続く一時的または安定なトランスフェクションのために1つの共通の4700-pUC-Hyg-OriPベクター (1ベクター系) 中にクローニングすることができる。
【0168】
この実施例および前の実施例1Aに記載するベクターに類似するプラスミドSB04-pUC-HC-ANGPT2 (配列番号6) およびSB06-pUC-LC-ANGPT2 (配列番号7) 中に野生型<ANGPT2>抗体をクローニングした。野生型<ANGPT2>抗体の重鎖および軽鎖の転写単位をプラスミドSB04-pUC-HC-ANGPT2およびSB06-pUC-LC-ANGPT2基本的ベクターからFseI、SgrAI、Sse8387IおよびAscI部位を通してプラスミドSB07-pUC-Hyg-OriP-HC-ANGPT2およびSB09-pUC-Hyg-OriP-LC-ANGPT2中にサブクローニングして、HEK 293 E細胞においてより高い一時的発現レベルを達成した。比較の理由でかつ共発現実験のために (実施例3参照) 、野生型<ANGPT2>抗体をプラスミドSB07-pUC-Hyg-OriP-HC-ANGPT2およびSB09-pUC-Hyg-OriP-LC-ANGPT2からまたはプラスミドSB04-pUC-HC-ANGPT2およびSB06-pUC-LC-ANGPT2から一時的に (共) 発現させた。
【0169】
実施例2B.単一特異性2価<ANGPT2>VL-VH/CL-CH1交換抗体発現プラスミドの生産
既知の組換えの方法および技術に従い一致する核酸セグメントの接続により、野生型<ANGPT2>抗体の交換されたFab配列を含んでなる<ANGPT2>VL-VH/CL-CH1交換抗体融合遺伝子 (HC*およびLC*融合遺伝子) を組合わせた。
【0170】
<ANGPT2>VL-VH/CL-CH1交換抗体HC*およびLC*をコードする核酸配列の各々を化学合成により合成し、引き続いてゲネアルト (Geneart) (レーゲンスブルク、ドイツ) においてpPCRScript (Stratagene) に基づくpGA4クローニングベクター中にクローニングした。<ANGPT2>VL-VH/CL-CH1交換抗体HC*をコードする発現カセットをPstIおよびEcoNI制限部位を通してそれぞれの大腸菌 (E. coli) プラスミド中に結合して、最終ベクターpUC-HC*-<ANGPT2>を生成した; それぞれの<ANGPT2>LC*をコードする発現カセットをPvuIIおよびFseI制限部位を通してそれぞれの大腸菌 (E. coli) プラスミド中に結合して、最終ベクターpUC-LC*-<ANGPT2>を生成した。サブクローニングした核酸配列をDNA配列決定により確認した。一時的および安定なトランスフェクションのために、形質転換された大腸菌 (E. coli) 培養物 (Nucleobond AX、Macherey-Nagel) からプラスミド生産によってより大量のプラスミドを生産した。
【0171】
実施例2C.HEK 293 EBNA細胞における単一特異性2価<ANGPT2>VL-VH/CL-CH1交換抗体の一時的発現
10%のウルトラ・ロウIgG FCS (胎仔ウシ血清、Gibco) 、2 mMのL-グルタミン (Gibco) および250 μg/mlのジェネチシン (Gibco) を補充したDMEM (ダルベッコ変性イーグル培地、Gibco) 中で培養した粘着成長するHEK 293 EBNA細胞 (エプスタイン-バール-ウイルスの核抗原を発現するヒト胚腎細胞系統293; American Type Culture Collection 受託番号ATCC # CRL-10852、ロット. 959 218) 中で、プラスミドpUC-HC*-ANGPT2およびpUC-LC*-ANGPT2の一時的共トランスフェクションにより、組換え<ANGPT2>VL-VH/CL-CH1交換抗体を発現させた。トランスフェクションのために、4:1 (3:1〜6:1の範囲) のFuGENETM試薬 (μl) / DNA (μg) の比でFuGENETM 6トランスフェクション試薬 (Roche Molecular Biochemicals) を使用した。
【0172】
それぞれ1:2〜2:1の1:1 (等モル) の軽鎖/重鎖エンコーディングプラスミドのモル比を使用して2つの異なるプラスミドから、<ANGPT2>HC*およびLC*をコードする軽鎖および重鎖プラスミド (プラスミドpUC-HC*-ANGPT2およびpUC-LC*-ANGPT2) を発現させた。第3日に細胞に4 mMまでのL-グルタミン、グルコース (Sigma) およびNAA (Gibco) を供給した。トランスフェクション後第5日〜第11日に遠心により<ANGPT2>VL-VH/CL-CH1交換抗体を含有する細胞培養物上清を収集し、-20℃において貯蔵した。例えば、HEK 293細胞中のヒト免疫グロブリンの組換え発現に関する一般情報は下記の文献に記載されている: Meissner P. 他、Biotechnol. Bioeng. 75 (2001) 197-203。
【0173】
実施例2D.単一特異性2価<ANGPT2>VL-VH/CL-CH1交換抗体の精製および質量分析による同一性の確認
濾過した細胞培養物上清から、既知の標準法に従いプロテインAアフィニティークロマトグラフィーにより、発現分泌した単一特異性2価<ANGPT2>VL-VH/CL-CH1交換抗体を精製した。簡単に述べると、一時的トランスフェクションからの<ANGPT2>VL-VH/CL-CH1交換抗体を含有する細胞培養物上清を遠心 (10,000 g、10分間) により清浄化し、0.45 μmのフィルターに通して濾過し、PBS緩衝液 (10 mM Na2HPO4、1 mM K2HPO4、137 mM NaClおよび2.7 mM KCl、pH 7.4) と平衡化したプロテインA ハイトラップ・マブセレクト・エクストラ・カラム (GE Healthcare) に適用した。
【0174】
結合しないタンパク質をPBS平衡緩衝液、次いで0.1 Mのクエン酸ナトリウム緩衝液pH 5.5で洗浄除去し、PBSで洗浄した。VL-VH/CL-CH1交換抗体を100 mMのクエン酸ナトリウムpH 2.8で溶離し、次いで試料を300 μlの2 M トリス pH 9.0/ 2 mlの画分で直ちに中和した。20 mMのヒスチジン、150 mM NaCl pH 6.0中のハイロード 26/60スーパーデックス200プレプ等級カラム (GE Healthcare) 上のサイズ排除クロマトグラフィーにより、凝集したタンパク質をモノマー抗体から分離し、引き続いてモノマー抗体画分をミリポア・アミコン・ウルトラ-15遠心濃縮装置で濃縮した。
【0175】
<ANGPT2>VL-VH/CL-CH1交換抗体を凍結させ、-20℃または-80℃において貯蔵した。<ANGPT2>VL-VH/CL-CH1交換抗体の完全性を還元剤の存在および非存在下にSDS-PAGEにより分析し、引き続いてクーマッシー・ブリリアント・ブルーで染色した (図23-A) 。<ANGPT2>VL-VH/CL-CH1交換抗体の凝集およびオリゴマーの状態を分析用サイズ排除クロマトグラフィーにより分析した (図23-B) 。特性決定した試料を引き続くタンパク質分析および機能的特性決定のために使用した。主要な種として完全に脱グルコシル化された<ANGPT2>VL-VH/CL-CH1交換抗体の理論分子量 は、ESI質量分析により確認された。抗体様タンパク質による汚染は観測不可能であった。
【0176】
実施例2F.<ANGPT2>結合ELISAにおけるおよびバイアコアによる単一特異性2価<ANGPT2>VL-VH/CL-CH1交換抗体の<ANGPT2>結合特性の分析
前述したように全長のANGPT2-Hisタンパク質 (R & D Systems) を使用するELISAアッセイにおいて、単一特異性2価<ANGPT2>VL-VH/CL-CH1交換抗体の結合特性を評価した。サンドイッチ結合ELISAにおける精製した<ANGPT2>VL-VH/CL-CH1交換抗体および野生型<ANGPT2>抗体の滴定結果を図24に示す。明らかに理解できるように、<ANGPT2>VL-VH/CL-CH1交換抗体は機能的であり、そして野生型<ANGPT2>抗体に匹敵する結合特性を示し、こうして完全に機能的である思われる。小さい観測される差はこの方法の誤差の範囲内にあり、そして、例えば、タンパク質濃度における小さい変動から生ずることがある。
【0177】
これらの結果はそれぞれの精製した抗体を使用するバイアコアのデータにより確証され、ここで13 pMのKD値をもつ単一特異性2価<ANGPT2>VL-VH/CL-CH1交換抗体はこの方法の誤差の範囲内で12 pMのKD値をもつ本来の野生型<ANGPT2>抗体に匹敵するANGPT2に対するアフィニティーおよび結合特性を有することが示された (図25) 。
【0178】
実施例2G.単一特異性2価<ANGPT2>VL-VH/CL-CH1交換抗体の機能的特性の分析
単一特異性2価<ANGPT2>VL-VH/CL-CH1交換抗体が本来の野生型<ANGPT2>抗体に匹敵する機能的特性を有することを示すために、前述したようにELISA結合アッセイにおいてそのTie2レセプター細胞外ドメインに対するANGPT2の結合性を阻害する能力について2つの抗体を比較した。それぞれの結合性ELISAにおいて、ヒトANGPT2の結合性の阻害について、本来の野生型<ANGPT2>抗体の145 nMのEC50値に匹敵する135 ng/mlのEC50値を<ANGPT2>VL-VH/CL-CH1交換抗体は有した。これらのデータはTie2をそれらの表面上で過剰発現するHEK 293細胞を使用する細胞のリガンド結合競合アッセイにおいて確認され、ここで本来の野生型<ANGPT2>抗体の205 nMのEC50値に匹敵する、ヒトANGPT2の結合性の阻害について225 ng/mlのEC50値を<ANGPT2>VL-VH/CL-CH1交換抗体は有した (データは示されてない) 。
【0179】
実施例2の実験を総括すると、ドメイン交換を使用して野生型抗体に匹敵する特性をもつ完全に機能的な抗体を発生できることが示された。生化学的および細胞のアッセイにおいて、すべての機能的特性が保持された。ドメインが交換されたこれらの抗体は、実施例3および4において後述する二重特異性抗体の発生のための基準を形成する。
【0180】
実施例2H.
ドメインが交換されたこれらの抗体の分子モデリング分析において、交換されたドメイン間の立体的余地はフォールディングを制限することがあることが明らかにされた。したがって、Fabの交換されたドメインのC末端に、例えば、それぞれVL-CLとヒンジ接続領域との間または遊離VH-CH1ドメインの末端に、追加のグリシン残基が導入された構成体を設計した。下記において、それぞれの単一特異性2価抗体を<ANGPT2>VL-VH (G) /CL-CH1 (G) 交換抗体と表示する。
【0181】
この実施例に記載するそれぞれのリーダー配列を含む単一特異性2価アンギオポイエチン-2<ANGPT2>VL-VH/CL-CH1交換抗体の重鎖および軽鎖の可変性ドメインの配列をWO 2006/045049に記載されているヒト<ANGPT2>抗体の重鎖 (配列番号6) および軽鎖 (配列番号7) から誘導し、そして重鎖および軽鎖のコンスタントドメインをヒト抗体 (C-カッパおよびIgG1) から誘導する。
【0182】
<ANGPT2>抗体のリーダー配列、軽鎖可変性ドメイン (VL) およびヒトカッパ-軽鎖コンスタントドメイン (CL) をコードする遺伝子セグメントを接合し、ヒトγ1-重鎖コンスタントドメイン (ヒンジ-CH2-CH3) のFcドメインの5’ 末端に融合し、そして追加のグリシン残基を含んだ。VLおよびCLドメインによるVHおよびCH1ドメインの交換から生ずるそれぞれの融合タンパク質をコードするDNAを遺伝子合成により発生させ、下記において<ANGPT2>HC (G)* (重鎖*) (配列番号17) と表示する。
【0183】
<ANGPT2>抗体のリーダー配列、重鎖可変性ドメイン (VH) およびヒトγ1-重鎖コンスタントドメイン (CH1) のための遺伝子セグメントを、追加のグリシン残基を含む独立鎖として接合した。VHおよびCH1ドメインによるVLおよびCLドメインの交換から生ずるそれぞれの融合タンパク質をコードするDNAを遺伝子合成により発生させ、下記において<ANGPT2>LC (G)* (軽鎖*) (配列番号18) と表示する。
【0184】
それぞれの発現ベクターは上の実施例2に記載するものに類似する。引き続いて、HEK 293-F細胞においてドメイン交換したそれぞれの<ANGPT2>VL-VH (G) /CL-CH1 (G) 抗体を一時的に共発現するために、これらの発現ベクター使用した。それぞれの<ANGPT2>VL-VH (G) /CL-CH1 (G) 交換抗体を前述したように一時的発現から精製し、それぞれの抗体のSDS-PAGE、サイズ排除クロマトグラフィーおよび質量分析により分析した。タンパク質発現の収量はすぐれ、前述の従来のVL-VH/CL-CH1交換抗体について得られた発現収量に類似した。研究したすべての特性は予期されざる結果を示さず、それぞれの<ANGPT2>野生型抗体に本質的に匹敵した。
【0185】
ANGPT2バイアコア結合アッセイにおける<ANGPT2>野生型抗体および<ANGPT2>VL-VH (G) /CL-CH1 (G) 抗体の事実上匹敵する特性は、図31において証明される。この方法の誤差の範囲内において、両方の抗体はヒトANGPT2について匹敵する結合アフィニティーを示し、推定されたKD値 (2回の測定値の平均) は<ANGPT2>野生型抗体について約38 pMであり、そして<ANGPT2>VL-VH (G) /CL-CH1 (G) 抗体について約45 pMであった。
【0186】
【表4】

【0187】
実施例3.
二重特異性2価<ANGPT2-IGF-1R>抗体の発現、ここでIGF-1Rに特異的に結合する重鎖および軽鎖において、可変性ドメインVLおよびVHは互いにより置換されており、そしてコンスタントドメインCLおよびCH1は互いにより置換されている (ここにおいて<ANGPT2-IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体と略す) 。
【0188】
実施例3A.二重特異性<ANGPT2-IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体を生ずるHEK 293 EBNA細胞における<ANGPT2>野生型抗体および<IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体の一時的共発現
一方の側で<ANGPT2>野生型Fab領域を通して<ANGPT2>を認識し、そして他方の側で<IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体のFab領域を通してIGF-1Rを認識する機能的二重特異性抗体を発生させるために、<IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体をコードする2つの発現プラスミド (実施例1A) を<ANGPT2>野生型抗体をコードする2つの発現プラスミド (実施例2A) と共発現させた。野生型重鎖HCおよびFabクロスオーバー重鎖HC*の統計的会合を仮定すると、これにより二重特異性および2価<ANGPT2-IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体が発生した。
【0189】
両方の抗体が等しく十分に発現されると仮定し、副産物を考慮しないとすると、これにより3つの主要な生成物、単一特異性<IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体、二重特異性<ANGPT2-IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体および<ANGPT2>野生型抗体が1:2:1の比で生じたであろう。さらに、いくつかの副産物、例えば、LC-LC* (Fab2フラグメント) 、HC-HC* (1価抗体) およびHC*-LC二量体を期待することができる。
【0190】
対照的に、<IGF-1R>野生型抗体をコードする2つの発現プラスミド (実施例1A) および参照として<ANGPT2>野生型抗体をコードする2つの発現プラスミドを共発現させるとき、重鎖の統計的会合であるが、<IGF-1R>および<ANGPT2>野生型抗体からの両方の重鎖との軽鎖の無誘導会合のために、わずかに小比率の機能的二重特異性<ANGPT2-IGF-1R>抗体が発生するであろう。
【0191】
主要な産物A) 単一特異性<IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体、B) 二重特異性<ANGPT2-IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体およびC) <ANGPT2>野生型抗体の混合物を発生させるために、4つのプラスミドDW047-pUC-HC*-IGF-1RおよびDW048-pUC-LC*-IGF-1RおよびいずれかのプラスミドSB07-pUC-Hyg-OriP-HC-ANGPT2およびSB09-pUC-Hyg-OriP-LC-ANGPT2 (またはプラスミドSB04-pUC-HC-ANGPT2およびSB06-pUC-LC-ANGPT2) を、10%のウルトラ・ロウ IgG FCS (胎仔ウシ血清、Gibco) 、2 mMのL-グルタミン (Gibco) および250μg/mlのジェネチシン (Gibco) を補充したDMEM (ダルベッコ変性イーグル培地、Gibco) 中で培養した、粘着成長するHEK 293 EBNA細胞 (エプスタイン-バール-ウイルス核抗原を発現するヒト胚腎細胞系統293; American Type Culture Collection受託番号ATCC # CRL-10852、ロット959 218) 中で一時的に共トランスフェクトした。
【0192】
トランスフェクションのために、FuGENETM 6トランスフェクション試薬 (Rhoche Molecular Biochemicals) を4:1 (3:1から6:1の範囲) のFuGENETM 試薬 (μl) 対DNA (μg) の比で使用した。<ANGPT2>HC*およびLC*をコードする軽鎖および重鎖のプラスミド (プラスミドDW047-pUC-HC*-IGF-1RおよびDW048-pUC-LC*-IGF-1R) および<ANGPT2>HCおよびLCをコードする軽鎖および重鎖のプラスミド (それぞれプラスミドSB07-pUC-Hyg-OriP-HC-ANGPT2およびSB09-pUC-Hyg-OriP-LC-ANGPT2またはプラスミドSB04-pUC-HC-ANGPT2およびSB06-pUC-LC-ANGPT2)を、1:1 (等モル) の軽鎖/重鎖エンコーディングプラスミドのモル比を使用して4つの異なるプラスミドから発現させた。
【0193】
第3日に、細胞に4 mMまでのL-グルタミン、グルコース (Sigma) およびNAA (Gibco) を供給した。収集した上清は主要な生成物A) 単一特異性<IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体、B) 二重特異性<ANGPT2-IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体およびC) <ANGPT2>野生型抗体の混合物を含有し、「二重特異性VL-VH/CL-CH1交換混合物」と表示する。遠心分離によるトランスフェクション後第5日〜第11日に二重特異性VL-VH/CL-CH1交換混合物を含有する細胞培養物上清を収集し、-20℃において貯蔵した。
【0194】
比較の理由で、野生型<IGF-1R>抗体をHCおよびLCプラスミド (4842-pUC-LC-IGF-1Rおよび4843-pUC-HC-IGF-1R、実施例1A) から野生型<ANGPT2>HCおよびLCプラスミド (それぞれSB07-pUC-Hyg-OriP-HC-ANGPT2およびSB09-pUC-Hyg-OriP-LC-ANGPT2またはSB04-pUC-HC-ANGPT2およびSB06-pUC-LC-ANGPT2) と一緒に一時的に共発現させた。第3日に、細胞に4 mMまでのL-グルタミン、グルコース (Sigma) およびNAA (Gibco) を供給した。収集した上清は、誤った軽鎖会合を生ずる<IGF-1R>および<ANGPT2>野生型抗体からの両方の重鎖との軽鎖の無誘導会合のために、単一特異性、二重特異性または結合機能不全の異なる<IGF-1R>および<ANGPT2>野生型抗体変異型の混合物を含有し、「野生型混合物」と表示する。遠心分離によるトランスフェクション後第5日〜第11日に野生型混合物を含有する細胞培養物上清を収集し、-20℃において貯蔵した。
【0195】
<ANGPT2>野生型抗体は<IGF-1R>野生型および<IGF-1R>Fabクロスオーバー抗体よりも有意に高い発現の一時的発現収量を示すので、<ANGPT2>野生型抗体プラスミドおよび<IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体プラスミドの比は<ANGPT2>野生型抗体の発現に有利にシフトした。プラスミド比は、将来の実験おいて両方の特異性の等しい発現を可能として、異なる抗体のいっそう均一な分布を生ずるように適合させなくてはならない。
【0196】
実施例3B.二重特異性<ANGPT2-IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体の免疫沈降
細胞培養物上清 (実施例3A) からプロテインAアガロースビーズ (Roche) を使用する免疫沈降により、主要な産物A) 単一特異性<IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体、B) 二重特異性<ANGPT2-IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体およびC) <ANGPT2>野生型抗体の混合物 (「二重特異性VL-VH/CL-CH1交換混合物」) を単離した。60 μlのプロテインAアガロースビーズをTBS-NP40 (50 mM トリス、pH 7.5、150 mM NaCl、1% Nonidet-P40) 中で3回洗浄した。引き続いて、TBS-NP40中で前平衡化したプロテインAアガロースビーズに、1〜15 mlの細胞培養物上清を適用した。
【0197】
室温において1時間インキュベートした後、ビーズをウルトラフリーMCフィルターカラム (Amicon) 上で0.5 mlのTBS-NP40で1回、0.5 mlの2×リン酸緩衝生理食塩水 (2×PBS、Roche) で2回洗浄し、そして0.5 mlの100 mMのクエン酸ナトリウムpH 5.0で短時間4回洗浄した。結合した抗体を35 μlのNuPAGE(商標)LDS試料緩衝液 (Invitrogen) の添加により溶離した。試料の半分をそれぞれNuPAGE(商標)試料還元剤と組み合わせるか、あるいは還元しないで放置し、そして10分間70℃に加熱した。結局、20 μlを4〜12%のNuPAGE(商標)ビス-トリス SDS-PAGE (Invitrogen) に適用し (非還元SDS-PAGEについてMOPS緩衝液を使用し、そして還元したSDS-PAGEについてMES緩衝液およびNuPAGE(商標)酸化防止剤ランニング添加剤 (Invitrogen) を使用した) 、そしてクーマッシーブルーで染色した。
【0198】
SDS-PAGE上で、3つの抗体種間に差を見ることができなかった。すべての抗体は軽鎖に相当する約25 kDaのバンドおよびそれぞれの重鎖に相当する50 kDaのバンドをもつ典型的なIgG1抗体のように挙動した。非還元状態において、約150 kDaにおけるバンドを完全な抗体について観測することができた。こうして、機能的二重特異性<ANGPT2-IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体の存在を証明するために、3つの抗体種のクロスオーバー混合物を精製し (実施例3C) 、細胞のFACS架橋アッセイを設計した (実施例3D)
【0199】
実施例3C.二重特異性<ANGPT2-IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体の精製
実施例3Aからの主要な生成物A) 単一特異性<IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体、B) 二重特異性<ANGPT2-IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体およびC) <ANGPT2>野生型抗体の混合物 (「二重特異性VL-VH/CL-CH1交換混合物」) を濾過細胞培養物上清から既知の標準法に従いプロテインAアフィニティークロマトグラフィーにより、次いでサイズ排除クロマトグラフィーにより精製した。
【0200】
簡単に述べると、プラスミドDW047-pUC-HC*-IGF-1RおよびDW048-pUC-LC*-IGF-1RおよびSB07-pUC-Hyg-OriP-HC-ANGPT2およびSB09-pUC-Hyg-OriP-LC-ANGPT2の一時的トランスフェクションからの抗体混合物含有細胞培養物上清を遠心 (10,000 g、10分間) により清浄化し、0.45 μmのフィルターに通して濾過し、PBS緩衝液 (10 mM Na2HPO4、1 mM K2HPO4、137 mM NaClおよび2.7 mM KCl、pH 7.4) と平衡化したプロテインA ハイトラップ・マブセレクト・エクストラ・カラム (GE Healthcare) に適用した。結合しないタンパク質をPBS平衡緩衝液、次いで0.1 Mのクエン酸ナトリウム緩衝液pH 5.5で洗浄除去し、PBSで洗浄した。
【0201】
二重特異性<ANGPT2-IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体を100 mMのクエン酸ナトリウムpH 2.8で溶離し、次いで試料を300 μlの2 M トリス pH 9.0/ 2 mlの画分で直ちに中和した。20 mMのヒスチジン、150 mM NaCl pH 6.0中のハイロード 26/60スーパーデックス200プレプ等級カラム (GE Healthcare) 上のサイズ排除クロマトグラフィーにより、凝集したタンパク質をモノマー抗体から分離し、引き続いてモノマー抗体画分をミリポア・アミコン・ウルトラ-15遠心濃縮装置で濃縮した。VL-VH/CL-CH1交換混合物を凍結させ、-20℃または-80℃において貯蔵した。抗体種の完全性を還元剤の存在および非存在下にSDS-PAGEにより分析し (図14参照) 、引き続いて実施例1Dに記載するようにクーマッシー・ブリリアント・ブルーで染色した。
【0202】
抗体混合物は軽鎖に相当する約25 kDaのバンドおよびそれぞれの重鎖に相当する50 kDaのバンドをもつ典型的なIgG1抗体のように挙動した。非還元状態において、約150 kDaにおけるバンドは完全な抗体について観測することができた。1価抗体およびその他のような明らかな副産物は、プロテインA精製後にSDS-PAGEから見ることができなかった。二重特異性<ANGPT2-IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体の凝集およびオリゴマー状態を分析用サイズ排除クロマトグラフィーにより分析し、精製した抗体種はモノマー状態であることが示された。特性決定した試料を引き続くタンパク質分析および機能的特性決定に使用した。機能的二重特異性<ANGPT2-IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体の存在を証明するために、3つの抗体種の混合物を細胞FACS架橋アッセイにおいて分析した (実施例3D) 。
【0203】
比較の理由で、野生型<IGF-1R>抗体のHCおよびLCプラスミド (4842-pUC-LC-IGF-1Rおよび4843-pUC-HC-IGF-1R、実施例1A) と野生型<ANGPT2>HCおよびLCプラスミド (SB07-pUC-Hyg-OriP-HC-ANGPT2およびSB09-pUC-Hyg-OriP-LC-ANGPT2) との共発現から生ずる野生型混合物を、記載した手順に従うプロテインAアフィニティークロマトグラフィーにより、次いでサイズ排除クロマトグラフィーにより、濾過細胞培養物上清から参照として精製した。
【0204】
実施例3D.I24 IGF-1R発現細胞上の細胞FACS架橋アッセイにおける機能的二重特異性<ANGPT2-IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体の検出
実施例3Aに記載する一時的共発現からの主要な生成物A) 単一特異性<IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体、B) 二重特異性<ANGPT2-IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体およびC) <ANGPT2>野生型抗体の「二重特異性VL-VH/CL-CH1交換混合物」中の機能的二重特異性<ANGPT2-IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体の存在を確認するために、I24細胞 (組換えヒトIGF-1Rを発現するNIH3T3細胞、Roche) 上で細胞FACS IGF-1R-ANGPT2架橋アッセイを実施した。このアッセイを図15に描写する。それぞれ上清 (実施例3A) または精製した抗体混合物 (実施例3C) 中に存在する二重特異性<ANGPT2-IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体は、IGF-1RにI24細胞中でおよび同時にANGPT2に結合することができ、こうしてその2つのターゲット抗原を2つの対向するFab領域と架橋させるであろう。
【0205】
簡単に述べると、5×10E5 I24細胞/FACS管を50 μlの非希釈細胞培養物上清と、または全精製抗体混合物の160 μg/ml希釈物とインキュベートし、氷上で1時間インキュベートした。第1の場合において、細胞をA) クロスオーバー<IGF-1R>プラスミド (DW047-pUC-HC*-IGF-1RおよびDW048-pUC-LC*-IGF-1R) と野生型<ANGPT2>プラスミド (SB04-pUC-HC-ANGPT2およびSB06-pUC-LC-ANGPT2) との共発現からの細胞培養物上清 (「二重特異性VL-VH/CL-CH1交換混合物」と表示する) またはB) 野生型<IGF-1R>プラスミド (4842-pUC-LC-IGF-1Rおよび4843-pUC-HC-IGF-1R) と野生型<ANGPT2>プラスミド (SB04-pUC-HC-ANGPT2およびSB06-pUC-LC-ANGPT2) との共発現からの細胞培養物上清 (「野生型混合物」と表示する) とインキュベートした (図16) 。
【0206】
第2の場合において、二重特異性VL-VH/CL-CH1交換混合物からまたは野生型混合物からのそれぞれの精製抗体混合物をI24細胞に適用した (実施例3C、図17) 。結合しない抗体を4 ml 氷冷PBS (Gibco) + 2% FCS (Gibco) で洗浄除去し、細胞を遠心 (5分、400 g) し、結合した二重特異性抗体を50 μlの2 μg/mlのヒトアンギオポイエチン-2 (ANGPT2) (R & D Systems) で氷上で1時間検出した。 引き続いて、結合しないアンギオポイエチン-2 (ANGPT2) を4 ml 氷冷PBS (Gibco) + 2% FCS (Gibco) で1回 (図16) または2回 (図17) 洗浄除去し、細胞を遠心 (5分、400 g) し、結合したアンギオポイエチン-2を50 μlの5 μg/mlの<Ang-2>mIgG1-ビオチン抗体 (BAM0981、R & D Systems) で氷上で45分間検出した; 選択的に、細胞を50 μlの5 μg/mlのmIgG1-ビオチン-アイソタイプ対照 (R & D Systems) とインキュベートした。
【0207】
結合しない検出抗体を4 ml 氷冷PBS (Gibco) + 2% FCS (Gibco) で洗浄除去し、細胞を遠心 (5分、400 g) し、結合した検出抗体を50 μlの1:400ストレプトアビジン-PEコンジュゲイト (Invitrogen/Zymed) を使用して氷上で45分間光から保護して検出した。結合しないストレプトアビジン-PEコンジュゲイトを4 ml 氷冷PBS + 2% FCSで洗浄除去した。引き続いて、細胞を遠心 (5分、400 g) し、300〜500 μlのPBS中に再懸濁させ、そして結合したストレプトアビジン-PEコンジュゲイトをFACSカリブールまたはFACSカント(BD、FL2チャンネル、10,000細胞/獲得) 上で定量した。実験の間、それぞれのアイソタイプ対照を含めて非特異的結合事象を排除した。さらに、精製した単一特異性2価IgG1抗体<IGF-1R>および<ANGPT2>を対照として含めた。
【0208】
細胞培養物上清を使用するI24細胞上の細胞FACS架橋アッセイからの結果を図16に示す; 精製抗体混合物からの結果を図17に示す。VL-VH/CL-CH1交換技術を適用した両方の場合において、VL-VH/CL-CH1交換抗体と野生型抗体との共発現からの上清または精製した抗体「二重特異性VL-VH/CL-CH1交換混合物」とのインキュベーションは蛍光の有意なシフトを生じ、IGF-1RにI24細胞中でおよび同時にANGPT2に結合することができ、こうしてその2つの抗原を2つの対向するFab領域と架橋させることができる機能的二重特異性<ANGPT2-IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体の存在を示した。
【0209】
これと対照的にかつ2つの野生型抗体の共発現について予測されるように、野生型<IGF-1R>プラスミドと野生型<ANGPT2>プラスミドとの共発現からの細胞培養物上清または精製した抗体「野生型混合物」を適用するとき、わずかに非常に小比率の機能的二重特異性抗体が形成し、FACS架橋アッセイにおいてほんのわずかの蛍光シフトを生じ、わずかに小さい画分の機能的二重特異性<ANGPT2-IGF-1R>野生型抗体の存在を示す。
【0210】
これらの結果が示すように、<IGF-1R>抗体をコードするVL-VH/CL-CH1交換抗体プラスミドと<ANGPT2>抗体をコードする野生型プラスミドとを共発現させることによって、2つの異なるターゲットを同時に認識する機能的二重特異性<ANGPT2-IGF-1R>VL-VH/CL-CH1交換抗体を容易に発生させることができる。対照的に、<IGF-1R>および<ANGPT2>抗体をコードする2つの野生型プラスミドの共発現は、形成した抗体の高い複雑さおよびわずかに小比率の機能的二重特異性<ANGPT2-IGF-1R>野生型抗体を生ずる。
【0211】
実施例4.修飾されたCH3ドメイン (ノブ-インツ-ホール) をもつ2価二重特異性<VEGF-ANGPT2>VL-VH/CL-CH1交換抗体の発生
上記実施例において示すように、野生型抗体をコードするプラスミドとVL-VH/CL-CH1交換抗体をコードするプラスミドとの共発現は、主要な生成物A) 単一特異性VL-VH/CL-CH1交換抗体、B) 二重特異性VL-VH/CL-CH1交換抗体およびC)野生型抗体の二重特異性VL-VH/CL-CH1交換混合物を発生させる。
【0212】
二重特異性<VEGF-ANGPT2>VL-VH/CL-CH1交換抗体の収量をさらに改良するために、ノブ-インツ-ホール技術を<ANGPT2>VL-VH/CL-CH1交換抗体と野生型<VEGF>抗体の共発現に適用して、それぞれの非修飾および修飾された重鎖 (HCおよびHC*を通す) のヘテロダイマー化を促進し、いっそう均質な機能的二重特異性抗体産物を得る。この実施例において、前述したように<VEGF>野生型抗体G6-31およびVL-VH/CL-CH1交換<ANGPT2>抗体Mab536に同時に基づくVEGFおよびANGPT2を認識する二重特異性抗体を発生させた。
【0213】
前述したように、<ANGPT2>抗体のリーダー配列、軽鎖可変性ドメイン (VL) およびヒトカッパ-軽鎖コンスタントドメイン (CL) をコードする遺伝子セグメントを接合し、ヒトγ1-重鎖コンスタントドメイン (ヒンジ-CH2-CH3) のFcドメインの5’ 末端に融合した。VLおよびCLドメインによるVHおよびCH1ドメインの交換から生ずるそれぞれの融合タンパク質をコードするDNAを遺伝子合成により発生させ、<ANGPT2>HC* (重鎖*) (配列番号8) と表示する。
【0214】
<ANGPT2>抗体のリーダー配列、重鎖可変性ドメイン (VH) およびヒトγ1-重鎖コンスタントドメイン (CH1) のための遺伝子セグメントを独立鎖として接合した。VHおよびCH1によるVLおよびCLの交換から生ずるそれぞれの融合タンパク質をコードするDNAを遺伝子合成により発生させ、下記において<ANGPT2>LC* (軽鎖*) (配列番号9) と表示する。
【0215】
この実施例に記載するそれぞれのリーダー配列を含む単一特異性2価<VEGF>野生型抗体G6-31の野生型重鎖および軽鎖の可変性ドメインの配列を、配列番号12のヒト<VEGF>抗体G6-31の重鎖可変性ドメインおよび配列番号13の軽鎖可変性ドメインから誘導し、ここで両方のドメインを下記の文献に詳細に記載されているヒトファージ展示誘導抗VEGF抗体G6-31から誘導し: Liang 他、J. Biol. Chem. 2006 Jan 13; 281 (2): 951-61およびUS 2007/0141065、そして重鎖および軽鎖コンスタントドメインをヒト抗体 (C-カッパおよびIgG1) から誘導する。
【0216】
この目的のために、遺伝子合成により発生させ、配列番号10のノブ残基T366WをコードするCH3遺伝子セグメントを、それぞれの<VEGF>野生型抗体G6-31重鎖のCH3ドメイン中に導入して配列番号16を生じさせることによって、<VEGF>野生型抗体G6-31の重鎖をコードするプラスミドを修飾した; 対照的に、遺伝子合成により発生させ、配列番号11のホール残基T366S、L368AおよびY407VをコードするCH3遺伝子セグメントを、それぞれのVL-VH/CL-CH1交換<ANGPT2>抗体Mab536重鎖*HC*中に導入して配列番号15を生じさせることによって、VL-VH/CL-CH1交換<ANGPT2>抗体Mab536の重鎖*HC*をコードするプラスミドを修飾した。この場合において、野生型<VEGF>ノブ抗体G6-31をコードするプラスミドをゲノムベクターとして構成したが、VL-VH/CL-CH1交換<ANGPT2>抗体Mab536をコードするプラスミドはイントロンA-cDNAベクターとして構成した。
【0217】
引き続いて、ノブをもつ<VEGF> G6-31重鎖HC配列番号16および野生型軽鎖LC 配列番号14、およびホールをもつ修飾されたVL-VH/CL-CH1交換<ANGPT>重鎖*HC* 配列番号15および修飾された軽鎖*LC* (配列番号8) をコードするそれぞれ4つのプラスミドを、上に記載したようにHEK 293-F系において2.6リットルの規模でクアド (Quad) 発酵槽中で一時的トランスフェクションにより等モル比で共発現させた。
【0218】
上に記載したようにハイトラップ・マブセレクト・カラム (GE) を通して、次いでハイロード・スーパーデックス200 26/60カラム (GE) 上のサイズ排除クロマトグラフィーにより、抗体を精製した。SEC後の収量は2リットルの一時的発現から約38 mgの精製抗体画分の範囲であった。精製間に得られたサイズ排除画分の還元および非還元SDS-PAGEを図26に示す。還元SDS-PAGE上において、それぞれの野生型および修飾された重鎖および軽鎖が合成され、均質に精製されたことを理解することができる。しかしながら、非還元SDS-PAGE上において、なおいくつかの抗体種が存在したことが明らかである。
【0219】
下記において、得られたサイズ排除画分を質量分析により分析した (脱グルコシル化したが、還元しないか、あるいは脱グルコシル化しかつ還元した) 。いくつかの抗体種を画分中において質量分析により同定することができ、また、それぞれのSDS-PAGE上に見られるバンドに割り当てることができる (図27) 。同定できた抗体種を下記表に示す:
【0220】
【表5】

【0221】
こうして、一方のアームをもつVEGFおよび他方のアームをもつANGPT2を認識する所望の二重特異性<VEGF-ANGPT2>VL-VH/CL-CH1交換抗体を質量分析により明白に同定することができ、また、それぞれのSDS-PAGE上で見ることができた。所望の二重特異性<VEGF-ANGPT2>VL-VH/CL-CH1交換抗体の概略的スキームを図30に示す。この所望の抗体の最高濃度は画分5および6において見出すことができるが、その濃度はその後の画分において減少した。
【0222】
さらに、ANGPT2およびVEGFに同時に結合できる二重特異性<VEGF-ANGPT2>VL-VH/CL-CH1交換抗体の存在は前述のELISA架橋アッセイ (図28) およびバイアコア架橋アッセイ (図29) により確認され、所望の二重特異性抗体はANGPT2およびVEGFに同時に結合できることが示された。これらのアッセイにおいて、4価二重特異性抗体TvG6-Ang23は対照として働いた。
【0223】
野生型<VEGF>抗体G6-31の比較的過剰の発現のために、例えば、G6-31誘導体をコードするゲノムベクターの発現収量がよりすぐれるために、不活性副産物の形成が促進され、過剰の不活性G6-31二量体および半抗体が生じたことに注意すべきである。所望の二重特異性<VEGF-ANGPT2>VL-VH/CL-CH1交換抗体の最大収量を達成するために、すべて4つの抗体鎖の均一な発現を達成し、副産物の形成を減少させる、追加の研究が進行中である。
【0224】
これらの研究は下記を包含する: i) 例えば、1つまたは2つのプラスミド上で転写単位を組合わせ、それぞれの対照要素を導入することによって、共発現に使用する4プラスミドの等モル化学量論を最適化する; その上ii) 例えば、異なるノブ-インツ-ホール技術、例えば、追加のジサルファイド架橋をCH3ドメイン中に導入する、例えば、Y349Cを「ノブ鎖」中に導入し、そしてD356Cを「ホール鎖」中に導入することにより、および/またはノブ残基のために残基R409D、K370E (K409D) を使用し、そしてホール残基のために残基D399K、E357Kを使用する (EP 1870459A1に記載されている) ことを組合わせることによって、ヘテロダイマー化を最適化する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記を含んでなる、2価二重特異性抗体:
a) 第1抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖、および
b) 第2抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖、
ここで可変性ドメインVLおよびVHは互いにより置換されており、そしてコンスタントドメインCLおよびCH1は互いにより置換されている。
【請求項2】
下記を特徴とする請求項1の抗体:
一方の重鎖のCH3ドメインおよび他方の重鎖のCH3ドメインの各々は、抗体のCH3ドメイン間の本来のインターフェイスを含んでなるインターフェイスにおいて出会い、
ここで前記インターフェイスは2価二重特異性抗体の形成を促進するように変更されており、ここで変更は下記を特徴とする:
a) 2価二重特異性抗体内の他方の重鎖のCH3ドメインの本来のインターフェイスと出会う一方の重鎖のCH3ドメインの本来のインターフェイス内において、
アミノ酸残基はより大きい側鎖体積を有するアミノ酸残基と置換されており、これにより他方の重鎖のCH3ドメインのインターフェイス内のキャビティ中に位置可能な突起を一方の重鎖のCH3ドメインのインターフェイス内に発生させるように、
一方の重鎖のCH3ドメインは変更されており、そして
b) 2価二重特異性抗体内の第1 CH3ドメインの本来のインターフェイスと出会う第2 CH3ドメインの本来のインターフェイス内において、
アミノ酸残基はより小さい側鎖体積を有するアミノ酸残基と置換されており、これにより第1 CH3ドメインのインターフェイス内の突起が位置可能であるキャビティを第2 CH3ドメインのインターフェイス内に発生させるように、
他方の重鎖のCH3ドメインは変更されている。
【請求項3】
より大きい側鎖体積を有する前記アミノ酸残基がアルギニン (R) 、フェニルアラニン (F) 、チロシン (Y) およびトリプトファン (W) から成る群から選択されることを特徴とする、請求項2の抗体。
【請求項4】
より小さい側鎖体積を有する前記アミノ酸残基がアラニン (A) 、セリン (S) 、トレオニン (T) およびバリン (V) から成る群から選択されることを特徴とする、請求項2または3の抗体。
【請求項5】
両方のCH3ドメインが各CH3ドメインの対応する位置におけるアミノ酸としてシステイン (C) を導入することによって変更されていることを特徴とする、請求項2〜4のいずれかの抗体。
【請求項6】
両方の重鎖のコンスタント重鎖ドメインCH3の一方がコンスタント重鎖ドメインCH1により置換されており、そして他方のコンスタント重鎖ドメインCH3がコンスタント軽鎖ドメインCLにより置換されていることを特徴とする、請求項1の抗体。
【請求項7】
下記の工程を含んでなる請求項1の2価二重特異性抗体を生産する方法:
a) 下記で宿主細胞を形質転換し、
- 第1抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖をコードする核酸分子を含んでなるベクター、および
- 第2抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖をコードする核酸分子を含んでなるベクター、
ここで可変性ドメインVLおよびVHは互いにより置換されており、そして
コンスタントドメインCLおよびCH1は互いにより置換されており、
b) 前記抗体分子の合成を可能とする条件下に宿主細胞を培養し、そして
c) 前記培養物から前記抗体分子を回収する。
【請求項8】
下記を含んでなる宿主細胞:
- 第1抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖をコードする核酸分子を含んでなるベクター、および
- 2抗原に特異的に結合する抗体の軽鎖および重鎖をコードする核酸分子を含んでなるベクター、
ここで可変性ドメインVLおよびVHは互いにより置換されており、そして
コンスタントドメインCLおよびCH1は互いにより置換されている。
【請求項9】
請求項1〜6の2価二重特異性抗体の組成物、好ましくは医薬組成物または診断組成物。
【請求項10】
請求項1〜6の2価二重特異性抗体と、少なくとも1種の薬学上許容される賦形剤とを含んでなる医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22A】
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【図22B】
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【図23A】
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【図23B】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【公表番号】特表2011−506509(P2011−506509A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−538440(P2010−538440)
【出願日】平成20年12月16日(2008.12.16)
【国際出願番号】PCT/EP2008/010702
【国際公開番号】WO2009/080251
【国際公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】