説明

3成分吸収液、CO2又はH2S又はその双方の除去装置及び方法

【課題】吸収能力のみならず再生能力も兼ね備えた3成分吸収液、CO2又はH2S又はその双方の除去装置及び方法を提供する。
【解決手段】1)第1のアミンである二級直鎖状モノアミンと、2)第2のアミンである反応促進剤としての二級環状ポリアミンと、3)第3のアミンであるアミノ基が二級或いは三級で構成される環状アミン群又は立体障害性の高い直鎖状アミン群から選ばれる一種からなるアミンとを、混合して吸収液とすることによって、これらの相乗効果により、CO2又はH2S又はその双方の吸収性が良好であると共に、吸収液の再生時における吸収したCO2又はH2Sの放散性が良好なものとなり、CO2回収設備における吸収液再生時に用いる水蒸気量を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3成分吸収液、CO2又はH2S又はその双方の除去装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球の温暖化現象の原因の一つとして、CO2による温室効果が指摘され、地球環境を守る上で国際的にもその対策が急務となってきた。CO2の発生源としては化石燃料を燃焼させるあらゆる人間の活動分野に及び、その排出抑制への要求が一層強まる傾向にある。これに伴い大量の化石燃料を使用する火力発電所などの動力発生設備を対象に、ボイラの燃焼排ガスをアミン系CO2吸収液と接触させ、燃焼排ガス中のCO2を除去・回収する方法及び回収されたCO2を大気へ放出することなく貯蔵する方法が精力的に研究されている。また、前記のようなCO2吸収液を用い、燃焼排ガスからCO2を除去・回収する工程としては、吸収塔において燃焼排ガスとCO2吸収液とを接触させる工程、CO2を吸収した吸収液を再生塔において加熱し、CO2を放出させると共に吸収液を再生して再び吸収塔に循環して再使用するものが採用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
前記CO2 吸収液及び工程を用いて燃焼排ガスのようなCO2 含有ガスからCO2 を吸収除去・回収する方法においては、これらの工程は燃焼設備に付加して設置されるため、その操業費用もできるだけ低減させなければならない。特に前記工程の内、再生工程は多量の熱エネルギーを消費するので、可能な限り省エネルギープロセスとする必要がある。
【0004】
そこで、従来では再生塔からセミリーン溶液の一部を外部へ抜き出し、リーン溶液と熱交換器で熱交換させると共に、次いでスチーム凝縮水と熱交換器で熱交換させ、抜き出し位置より下部側に戻して、再生塔に下部側に供給するセミリーン溶液の温度を上昇させ、スチーム消費量の低減を図ることが提案されている(例えば、特許文献2(実施例8、図17)参照)。
【0005】
一方、CO2吸収液もその性能の向上を図るために、吸収性能の向上に寄与する吸収液の提案がある(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−51537号公報
【特許文献2】特許第4690659号公報
【特許文献3】特開2008−13400号公報
【特許文献4】特開2008−307519号公報
【特許文献5】特許第4634384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、CO2吸収液はその吸収性能のみならず、吸収液を再生させる際の放出能力も重要であるが、従来では、吸収性能の向上を追及したものが多く、再生性能が良好な吸収液の検討は少ないのが現状である。
【0008】
そこで、排ガスからのCO2回収にあたり、前記の如く蒸気が必要となるため、運転コスト低減の目的から、少ない蒸気量で所望のCO2回収量を達成できる省エネルギー性を発現させるため、吸収能力のみならず再生能力も兼ね備えた吸収液の出現が切望されている(特許文献5)。
【0009】
本発明は、前記問題に鑑み、吸収能力のみならず再生能力も兼ね備えた3成分吸収液、CO2又はH2S又はその双方の除去装置及び方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、ガス中のCO2又はH2S又はその双方を吸収する吸収液であって、1)二級直鎖状モノアミンと、2)二級環状ポリアミンと、3)アミノ基が二級或いは三級で構成される環状アミン群又は立体障害性の高い直鎖状アミン群から選ばれる少なくとも一種のアミンとを、水に溶解してなることを特徴とする3成分吸収液にある。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、1)の二級直鎖状モノアミンの配合割合が、30〜55重量%であり、2)の二級環状ポリアミンの配合割合が1〜15重量%であり、3)のアミノ基が二級或いは三級で構成される環状アミン群又は立体障害性の高い直鎖状アミン群から選ばれる少なくとも一種のアミンの配合割合が1〜15重量%であり、1)の二級直鎖状モノアミン、2)の二級環状ポリアミン、及び3)のアミノ基が二級或いは三級で構成される環状アミン群又は立体障害性の高い直鎖状アミン群から選ばれる少なくとも一種のアミン、の合計が、70重量%以下であることを特徴とする3成分吸収液にある。
【0012】
第3の発明は、第1又は2の発明において、1)の二級直鎖状モノアミンは、2−メチルアミノエタノール(MAE)、2−エチルアミノエタノール(EAE)、2−イソプロピルアミノエタノール(IPAE)、2−n−ブチルアミノエタノール(BEA)の中から選ばれることを特徴とする3成分吸収液にある。
【0013】
第4の発明は、第1又は2の発明において、2)の二級環状ポリア3成分ミンは、ピペラジン(P)及びピペラジン誘導体の中から選ばれることを特徴とする吸収液にある。
【0014】
第5の発明は、第1又は2の発明において、3)のアミノ基が二級或いは三級で構成される環状アミンは、ピペラジン誘導体であり、環外の置換基の炭素数が1のアミン群から選ばれることを特徴とする3成分吸収液にある。
【0015】
第6の発明は、第1又は2の発明において、3)のアミノ基が二級或いは三級で構成される環状アミンは、ピペラジン誘導体であり、環外の置換基の炭素数が2以上且つ立体障害性が高いアミン群から選ばれることを特徴とする3成分吸収液にある。
【0016】
第7の発明は、第1又は2の発明において、3)の立体障害性の高い直鎖状アミンは、窒素原子に隣接する炭素原子にアルキル基、ヒドロキシ基、アミノ基のいずれかの官能基が複数結合した一級或いは二級のヒンダードアミン類と三級アミン類のどちらかから選ばれることを特徴とする3成分吸収液にある。
【0017】
第8の発明は、第4の発明において、2)の二級環状ポリアミンのピペラジン誘導体は、1−メチルピペラジン(MPZ)、2−メチルピペラジン(MP)の中から選ばれることを特徴とする3成分吸収液にある。
【0018】
第9の発明は、第5の発明において、3)のアミノ基が二級或いは三級で構成される環状アミンのピペラジン誘導体で環外の置換基の炭素数が1のアミンは、1−メチルピペラジン(MPZ)、2−メチルピペラジン(MP)の中から、2)の二級環状ポリアミンのピペラジン誘導体とは異なるものを選ぶことを特徴とする3成分吸収液にある。
【0019】
第10の発明は、第6の発明において、3)のアミノ基が二級或いは三級で構成される環状アミンのピペラジン誘導体で環外の置換基の炭素数が2以上の立体障害性が高いアミンは、1−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン(OHPIZ)、N−イソプロピルアミノエチルピペラジン(IAZ)の中から選ばれることを特徴とする3成分吸収液にある。
【0020】
第11の発明は、CO2又はH2S又はその双方を含有するガスと吸収液とを接触させてCO2又はH2S又はその双方を除去する吸収塔と、CO2又はH2S又はその双方を吸収した溶液を再生する再生塔を有し、再生塔でCO2又はH2S又はその双方を除去して再生した溶液を吸収塔で再利用する、CO2又はH2S又はその双方の除去装置であって、第1乃至10のいずれか一つの3成分吸収液を用いてなることを特徴とするCO2又はH2S又はその双方の除去装置にある。
【0021】
第12の発明は、CO2又はH2S又はその双方を含有するガスと吸収液とを接触させてCO2又はH2S又はその双方を除去し、CO2又はH2S又はその双方を吸収した溶液を再生し、再生塔でCO2又はH2S又はその双方を除去して再生した溶液を吸収塔で再利用する、CO2又はH2S又はその双方の除去方法であって、第1乃至10のいずれか一つの3成分吸収液を用いてCO2又はH2S又はその双方を除去することを特徴とするCO2又はH2S又はその双方の除去方法にある。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、二級直鎖状モノアミンと反応促進剤としての二級環状ポリアミンと、アミノ基が二級或いは三級で構成される環状アミン群或いは立体障害性の高いアミン群から選ばれる一種からなるアミンとを混合して吸収液とすることによって、吸収液の再生時におけるCO2又はH2Sの放散性が良好なものとなり、CO2又はH2Sの回収設備における吸収液再生時に用いる水蒸気量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、実施例1に係るCO2回収装置の構成を示す概略図である。
【図2】図2は、CO2回収熱原単位の実測値と計算値との相関関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施例により本発明が限定されるものではなく、また、実施例が複数ある場合には、各実施例を組み合わせて構成するものも含むものである。また、下記実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例】
【0025】
本発明による実施例に係る3成分吸収液は、ガス中のCO2又はH2S又はその双方を吸収する吸収液であって、1)二級直鎖状モノアミンと、2)二級環状ポリアミンと、3)アミノ基が二級或いは三級で構成される環状アミン群又は立体障害性の高い直鎖状アミン群から選ばれる少なくとも一種のアミンとを、水に混合・溶解してなるものである。
【0026】
本発明では、1)の第1のアミンである二級直鎖状モノアミンと、2)の第2のアミンである反応促進剤としての二級環状ポリアミンと、3)の第3のアミンであるアミノ基が二級或いは三級で構成される環状アミン群或いは立体障害性の高い直鎖状アミン群から選ばれる一種からなるアミンとを、混合して吸収液とすることによって、複合的に絡み合い、これらの相乗効果により、CO2又はH2S又はその双方の吸収性が良好であると共に、吸収液の再生時における吸収したCO2又はH2Sの放散性が良好なものとなり、CO2回収設備における吸収液再生時に用いる水蒸気量を低減することができる。
【0027】
ここで、1)の第1のアミンの二級直鎖状モノアミンとしては、吸収液の主成分を構成する例えば2−メチルアミノエタノール(MAE)、2−エチルアミノエタノール(EAE)、2−イソプロピルアミノエタノール(IPAE)、2−n−ブチルアミノエタノール(BEA)の中から選ばれる少なくとも一つを用いるものである。
【0028】
また、2)の第2のアミンの二級環状ポリアミンは、反応促進剤で機能する例えばピペラジン(P)及びピペラジン誘導体の群から選ばれる少なくとも一つのアミンである。
【0029】
(請求項8の内容)
ここで、2)の第2のアミンのピペラジン誘導体の例としては、例えば1−メチルピペラジン(MPZ)、2−メチルピペラジン(MP)を挙げることができる。
【0030】
(請求項5の内容)
また、3)のアミノ基が二級或いは三級で構成される環状アミンとしては、ピペラジン誘導体であり、環外の置換基の炭素数が1のアミン群から選ばれるアミンとするのが好ましい。
【0031】
(請求項6の内容)
また、3)のアミノ基が二級或いは三級で構成される環状アミンとしては、ピペラジン誘導体であり、環外の置換基の炭素数が2以上且つ立体障害性が高いアミン群から選ばれるアミンとするのが好ましい。
【0032】
(請求項7の内容)
また、3)の立体障害性の高い直鎖状アミンとしては、窒素原子に隣接する炭素原子にアルキル基、ヒドロキシ基、アミノ基のいずれかの官能基が複数結合した一級或いは二級のヒンダードアミン類と三級アミン類のどちらかから選ばれるアミンとすることが好ましい。
【0033】
ここで、ヒンダードアミンとしては2−アミノ−2メチル−1−プロパノール(AMP)、2−イソプロピルアミノエタノール(IPAE)、tert―ブチルエタノールアミン(tBEA)等を挙げることができ、立体障害性を高くするために窒素原子に隣接する炭素原子に官能基が複数結合した構造とすることが肝要である。
また、三級アミンとしてはN−メチルジエタノールアミン(MDEA)等を挙げることができる。
【0034】
(請求項9の内容)
また、3)のアミノ基が二級或いは三級で構成される環状アミンのピペラジン誘導体で環外の置換基の炭素数が1のアミンとしては、1−メチルピペラジン(MPZ)、2−メチルピペラジン(MP)の中から、2)の二級環状ポリアミンのピペラジン誘導体とは異なるアミンを選ぶことが好ましい。
【0035】
(請求項10の内容)
また、3)のアミノ基が二級或いは三級で構成される環状アミンのピペラジン誘導体で環外の置換基の炭素数が2以上且つ立体障害性が高いアミンとしては、1−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン(OHPIZ)、N−イソプロピルアミノエチルピペラジン(IAZ)の中から選ばれるアミンとすることが好ましい。
【0036】
本実施例では、1)二級直鎖状モノアミン(例えば2−n−ブチルアミノエタノール:BEA)と、2)二級環状ポリアミン(例えばピペラジン:P)と、3)アミノ基が二級で構成される環状アミン(1−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン:OHPIZ)を混合溶解して3成分のアミン吸収液とすることで、これらの相乗効果により、CO2吸収特性が良好であると共に、CO2放散効果が良好なものとなり、従来技術で用いているモノエタノールアミン吸収液での値に比較して、CO2回収時の熱原単位を低減することができ、CO2回収設備における運転コスト(CO2吸収液の再生に係る蒸気コスト)の削減が可能となる。
【0037】
また、第1乃至第3の各アミンの配合割合は、1)の二級直鎖状モノアミンの配合割合が、30〜55重量%であり、2)の二級環状ポリアミンの配合割合が1〜15重量%であり、3)のアミノ基が二級或いは三級で構成される環状アミン群又は立体障害性の高い直鎖状アミン群から選ばれる少なくとも一種のアミンの配合割合が1〜15重量%であり、且つ、「1)の二級直鎖状モノアミン」、「2)の二級環状ポリアミン」、及び「3)のアミノ基が二級或いは三級で構成される環状アミン群又は立体障害性の高い直鎖状アミン群から選ばれる少なくとも一種のアミン」の合計が、70重量%以下であることが好ましい。
この1)のアミン、2)のアミン及び3)のアミンの合計をこの範囲とすることで、CO2の吸収能力と放出能力との両者の能力を兼ね備えた吸収液とすることができる。
【0038】
本来CO2の吸収液としては、その目的のCO2吸収性能の向上を図ることを主眼としているが、本発明では、その吸収性能のみならず、CO2を吸収した後の吸収液再生塔での一度捕獲したCO2を放出する作用・効果が顕著な組み合わせとなる吸収液の検討を図り、前述した第1アミン乃至第3アミンの吸収液とすることで、両者の特性を兼ね備えた吸収液を見出すに至った。
【0039】
この両者の特性で再生時のCO2放散特性が良好となる要因として、次の3点の観点からの吸収液とすることとした。
ここで、3)の第3のアミン成分として、アミノ基が二級或いは三級で構成される環状アミンを検討する。
【0040】
CO2吸収速度及びCO2吸収容量の点で優れるピペラジン及びピペラジン誘導体は、いわゆる複合アミン吸収液(第1のアミンである二級直鎖状アミンと、第2のアミンである二級環状ポリアミン)に対して、更なるCO2回収熱原単位低減の観点から、A)反応熱の低減、B)吸収容量の増大及びC)吸収速度の増大の観点を考慮して添加するようにした。
【0041】
A)反応熱の低減の観点からの検討
ピペラジン誘導体として、環内窒素原子に結合する水素原子をアルキル基等で置換することによって立体障害性を持たせることで反応熱の高いアミンカルボネートの生成を抑制し、吸収液からのCO2の放散に必要な熱量を低減させることとした。
この特性に寄与するアミンとしては、例えば1−メチルピペラジン(MPZ)、1−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン(OHPIZ)を例示することができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0042】
B)吸収容量の増大の観点からの検討
ピペラジン誘導体として、窒素含有基を更に導入することによって、CO2との反応量を増大させることで、CO2回収に必要な吸収液流量を減少させ、吸収液からのCO2の放散に必要な熱量を低減させることとした。
この特性に寄与するアミンとしては、例えばN−イソプロピルアミノエチルピペラジン(IAZ)を例示することができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0043】
C)吸収速度の増大の観点からの検討
アミン吸収液での吸収速度を更に向上させることによって、CO2との反応量を増大させることで、CO2回収に必要な吸収液流量を減少させ、吸収液からのCO2の放散に必要な熱量を低減させることとした。
この特性に寄与するアミンとしては、例えばピペラジン(P)、2−メチルピペラジン(MP)、1−メチルピペラジン(MPZ)を例示することができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0044】
ここで、吸収液からCO2を放散させるために必要な熱エネルギーとしては、CO2の放散量に依存するアミンとCO2の反応熱と、CO2の放散と同時に吸収液から発生する水蒸気量に応じた水の蒸発潜熱がある。吸収液とCO2の反応量を増大させた場合、所定のCO2回収量を得る為に必要な吸収液流量が減じ、水の蒸発潜熱の低減につながることとなる。
【0045】
次に3)の第3のアミン成分として、立体障害性の高いアミンを検討する
立体障害性の高いアミンとしては、例えばヒンダードアミンや三級アミンを挙げることができる。
この立体障害性の高いアミンとCO2の反応については、反応1)のアミン:CO2 =2:1の比で起こるカルバメートの生成反応と、反応2)のアミン:CO2 =1:1の比で起こる重炭酸イオン生成反応がある。
ここで、反応1)の反応では、反応速度が速いものの反応熱が大きいという問題がある。
【0046】
よって、立体障害性の高いアミンでは、CO2との反応部位であるアミンの窒素原子が立体障害性を有するため、カルバメート生成が抑制されることとなる。そして、立体障害性アミンでは、反応熱の大きいカルバメート生成が主であるアミンに比較して、少ない熱エネルギーでCO2の放散を行うことができることとなる。
【0047】
この特性に寄与するアミンとしては、例えば2−アミノ−2メチル−1−プロパノール(AMP)、2−イソプロピルエタノール(IPEA)、tert−ブチルエタノールアミン(tBEA)、N−メチルジエタノールアミン(MDEA)を例示することができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0048】
本発明において、CO2等を含有する排ガスとの接触時の吸収液の温度は、通常30〜70℃の範囲である。また本発明で用いる吸収液には、必要に応じて腐食防止剤、劣化防止剤などが加えられる。
【0049】
本発明により処理されるガスとしては、例えば石炭ガス化ガス、合成ガス、コークス炉ガス、石油ガス、天然ガス等を挙げることができるが、これらに限定されるものではなく、CO2やH2S等の酸性ガスを含むガスであれば、いずれのガスでもよい。
【0050】
本発明のガス中のCO2又はH2S又はその双方を除去する方法で採用できるプロセスは、特に限定されないが、CO2を除去する除去装置の一例について図1を参照しつつ説明する。
【0051】
図1は、実施例1に係るCO2回収装置の構成を示す概略図である。図1に示すように、実施例1に係るCO2回収装置12は、ボイラやガスタービン等の産業燃焼設備13から排出されたCO2とO2とを含有する排ガス14を冷却水15によって冷却する排ガス冷却装置16と、冷却されたCO2を含有する排ガス14とCO2を吸収するCO2吸収液(以下、「吸収液」ともいう。)17とを接触させて排ガス14からCO2を除去するCO2回収部18Aを有するCO2吸収塔18と、CO2を吸収したCO2吸収液(以下、「リッチ溶液」ともいう。)19からCO2を放出させてCO2吸収液を再生する吸収液再生塔20とを有する。そして、このCO2回収装置12では、吸収液再生塔20でCO2を除去した再生CO2吸収液(以下、「リーン溶液」ともいう。)17はCO2吸収塔18でCO2吸収液として再利用する。
【0052】
なお、図1中、符号13aは煙道、13bは煙突、34はスチーム凝縮水である。前記CO2回収装置は、既設の排ガス源からCO2を回収するために後付で設けられる場合と、新設排ガス源に同時付設される場合とがある。煙突13bには開閉可能な扉を設置し、CO2回収装置12の運転時は閉止する。また排ガス源は稼動しているが、CO2回収装置12の運転を停止した際は開放するように設定する。
【0053】
このCO2回収装置12を用いたCO2回収方法では、まず、CO2を含んだボイラやガスタービン等の産業燃焼設備13からの排ガス14は、排ガス送風機22により昇圧された後、排ガス冷却装置16に送られ、ここで冷却水15により冷却され、CO2吸収塔18に送られる。
【0054】
前記CO2吸収塔18において、排ガス14は本実施例に係るアミン吸収液であるCO2吸収液17と向流接触し、排ガス14中のCO2は、化学反応によりCO2吸収液17に吸収される。
CO2回収部18AでCO2が除去された後のCO2除去排ガスは、CO2吸収塔18内の水洗部18Bでノズルから供給されるCO2吸収液を含む循環する洗浄水21と気液接触して、CO2除去排ガスに同伴するCO2吸収液17が回収され、その後CO2が除去された排ガス23は系外に放出される。
また、CO2を吸収したCO2吸収液19であるリッチ溶液は、リッチ溶液ポンプ24により昇圧され、リッチ・リーン溶液熱交換器25において、吸収液再生塔20で再生されたCO2吸収液17であるリーン溶液により加熱され、吸収液再生塔20に供給される。
【0055】
吸収液再生塔20の上部から内部に放出されたリッチ溶液19は、底部から供給される水蒸気により吸熱反応を生じて、大部分のCO2を放出する。吸収液再生塔20内で一部または大部分のCO2を放出したCO2吸収液はセミリーン溶液と呼称される。このセミリーン溶液は、吸収液再生塔20の底部に至る頃には、ほぼ全てのCO2が除去されたCO2吸収液(リーン溶液)17となる。このリーン溶液17はその一部が再生過熱器26で水蒸気27により過熱され、再生塔20内部に水蒸気を供給している。
【0056】
一方、吸収液再生塔20の頭頂部からは、塔内においてリッチ溶液19およびセミリーン溶液から放出された水蒸気を伴ったCO2同伴ガス28が導出され、コンデンサ29により水蒸気が凝縮され、分離ドラム30にて水が分離され、CO2ガス40が系外に放出されて、別途圧縮器41により圧縮され、回収される。この圧縮・回収されたCO2ガス42は、分離ドラム43を経由した後、石油増進回収法(EOR:Enhanced Oil Recovery)を用いて油田中に圧入するか、帯水層へ貯留し、温暖化対策を図っている。
水蒸気を伴ったCO2同伴ガス28から分離ドラム30にて分離・還流された還流水31は還流水循環ポンプ35にて吸収液再生塔20の上部と循環洗浄水21側に各々供給される。
再生されたCO2吸収液(リーン溶液)17は、リッチ・リーン溶液熱交換器25にて、リッチ溶液19により冷却され、つづいてリーン溶液ポンプ32にて昇圧され、さらにリーン溶液クーラ33にて冷却された後、CO2吸収塔18内に供給される。なお、この実施の形態では、あくまでその概要を説明するものであり、付属する機器を一部省略して説明している。
【0057】
以下、本発明の効果を示す好適な試験例について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0058】
[比較試験]
図示しない吸収装置を用いて、CO2の吸収を行った。本試験例の吸収液組成は、表1乃至3に示した。
【0059】
<比較例1〜3>
ここで、比較例1は従来より用いられているモノエタノールアミン(MEA)単独のものである。
比較例2は、2−n−ブチルアミノエタノール(BEA)と、ピペラジン(P)とを、表2の配合(BEA(45wt%)、P(5wt%))で水に溶解混合させて吸収液とした。
比較例3は、2−n−ブチルアミノエタノール(BEA)と、ピペラジン(P)とを、表2の配合(BEA(45wt%)、P(10wt%))で水に溶解混合させて吸収液とした。
比較例4は、2−メチルアミノエタノール(MAE)と、ピペラジン(P)とを、表3の配合(MAE(40wt%)、P(5wt%))で水に溶解混合させて吸収液とした。
比較例5は、2−メチルアミノエタノール(MAE)と、ピペラジン(P)とを、表3の配合(MAE(50wt%)、P(5wt%))で水に溶解混合させて吸収液とした。
【0060】
<試験例1〜7>
これに対し、試験例1は2−n−ブチルアミノエタノール(BEA)と、ピペラジン(P)と、1−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン(OHPIZ)とを、表1の配合(BEA(35wt%)、P(10wt%)、OHPIZ(10wt%)で水に溶解混合させて吸収液とした。
試験例2は2−n−ブチルアミノエタノール(BEA)と、ピペラジン(P)と、1−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン(OHPIZ)とを、表1の配合(BEA(40wt%)、P(5wt%)、OHPIZ(10wt%))で水に溶解混合させて吸収液とした。
試験例3は2−n−ブチルアミノエタノール(BEA)と、ピペラジン(P)と、2−アミノ−2メチル−1−プロパノール(AMP)とを、表1の配合(BEA(40wt%)、P(9wt%)、AMP(6wt%))で水に溶解混合させて吸収液とした。
試験例4は2−n−ブチルアミノエタノール(BEA)と、ピペラジン(P)と、N−イソプロピルアミノエチルピペラジン(IAZ)とを、表1の配合(BEA(45wt%)、P(5wt%)、IAZ(5wt%))で水に溶解混合させて吸収液とした。
試験例5は2−n−ブチルアミノエタノール(BEA)と、2−メチルピペラジン(MP)と、N−イソプロピルアミノエチルピペラジン(IAZ)とを、表1の配合(BEA(40wt%)、MP(10wt%)、IAZ(5wt%))で水に溶解混合させて吸収液とした。
試験例6は2−n−ブチルアミノエタノール(BEA)と、ピペラジン(P)と、N−メチルジエタノールアミン(MDEA)とを、表1の配合(BEA(45wt%)、P(5wt%)、MDEA(5wt%))で水に溶解混合させて吸収液とした。
試験例7は2−n−ブチルアミノエタノール(BEA)と、ピペラジン(P)と、2−メチルピペラジン(MP)とを、表1の配合(BEA(45wt%)、P(5wt%)、MP(5wt%))で水に溶解混合させて吸収液とした。
【0061】
<試験例8>
試験例8は、2−n−ブチルアミノエタノール(BEA)と、ピペラジン(P)と、N−イソプロピルアミノエチルピペラジン(IAZ)とを、表2の配合(BEA(45wt%)、P(5wt%)、IAZ(5wt%))で水に溶解混合させて吸収液とした。
【0062】
<試験例9>
試験例9は、2−メチルアミノエタノール(MAE)と、ピペラジン(P)と、2−アミノ−2メチル−1−プロパノール(AMP)とを、表3の配合(MAE(40wt%)、P(5wt%)、AMP(10wt%))で水に溶解混合させて吸収液とした。
【0063】
<試験例10>
試験例10は、2−メチルアミノエタノール(MAE)と、ピペラジン(P)と、2−イソプロピルエタノール(IPEA)とを、表3の配合(MAE(40wt%)、P(5wt%)、IPEA(10wt%))で水に溶解混合させて吸収液とした。
【0064】
<試験例11>
試験例11は、2−メチルアミノエタノール(MAE)と、ピペラジン(P)と、tert―ブチルエタノールアミン(tBEA)とを、表3の配合(MAE(40wt%)、P(5wt%)、tBEA(10wt%))で水に溶解混合させて吸収液とした。
【0065】
単位CO2回収量当りに必要な熱エネルギーであるCO2回収熱原単位の評価は、CO2回収及び再生を連続的に行える試験装置を用いて行った。試験のガス温度は46℃とし、CO2含有ガスを5.8 Nm(dry)/hで流した。なお、ガス組成はCO2:10%(dry)とした。
【0066】
その結果を表1〜3に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
【表3】

【0070】
表1に示すように、本発明に係る試験例1〜7は、比較例1の吸収液よりも、CO2回収熱原単位(kcal/kg-CO2)を20%以上削減することができた。
【0071】
表2に示すように、本発明に係る試験例8は、比較例2、3の吸収液よりも、CO2回収熱原単位(kcal/kg-CO2)を5%程度削減することができた。
【0072】
ここで、比較例2の吸収液は、試験例8の吸収液の配合に対して、第3のアミンである3)アミノ基が二級或いは三級で構成される環状アミンを添加しないものである。
これに対し、試験例8の吸収液は、比較例2の吸収液よりもCO2回収熱原単位(kcal/kg-CO2)が削減されており、第3のアミンである3)アミノ基が二級或いは三級で構成される環状アミンを添加することによりCO2回収熱原単位(kcal/kg-CO2)の削減効果が発現することを示している。
【0073】
また、比較例3の吸収液は、試験例8の吸収液の配合に対して、第3のアミンである3)アミノ基が二級或いは三級で構成される環状アミンを添加しないが、吸収液の総アミン濃度を55wt%と試験例8の吸収液と等しくしたものである。
これに対し、試験例8の吸収液は、比較例3の吸収液よりもCO2回収熱原単位(kcal/kg-CO2)が削減されており、単に2)二級環状ポリアミンを高濃度に添加した場合に比較して、適切に第3のアミンである3)アミノ基が二級或いは三級で構成される環状アミンを選定して添加することによってCO2回収熱原単位(kcal/kg-CO2)の削減効果が発現することを示している。
【0074】
表3に示すように、本発明に係る試験例9、10、11は、比較例4、5の吸収液よりも、CO2回収熱原単位(kcal/kg-CO2)を約5%程度削減することができた。
【0075】
ここで、比較例4の吸収液は、試験例9の吸収液の配合に対して、第3のアミンである3)立体障害性の高いアミンを添加しないものである。
これに対し、試験例9、10、11の吸収液は、比較例4の吸収液よりもCO2回収熱原単位(kcal/kg-CO2)が削減されており、第3のアミンである3)立体障害性の高いアミンを添加することによりCO2回収熱原単位(kcal/kg-CO2)の削減効果が発現することを示している。
【0076】
また、比較例5の吸収液は、試験例9、10、11の吸収液の配合に対して、第3のアミンである3)立体障害性の高いアミンを添加しないが、吸収液の総アミン濃度を55wt%と試験例8の吸収液と等しくしたものである。
これに対して、試験例9の吸収液は、比較例5の吸収液よりもCO2回収熱原単位(kcal/kg-CO2)が削減されており、単に1)二級直鎖状モノアミンを高濃度に添加した場合に比較して、適切に第3のアミンである3)立体障害性の高いアミンを選定して添加することによってCO2回収熱原単位(kcal/kg-CO2)の削減効果が発現することを示している。
【0077】
図2は、CO2回収熱原単位の実測値と計算値との相関関係を示す図である。
ここで、試験例4〜11及び比較例2〜5は計算値であるが、図2に示すように、実測値と計測値とは良好な相関関係があるので、計算値に差異があることで、本発明の効果を推定できることができる。
【符号の説明】
【0078】
12 CO2回収装置
13 産業燃焼設備
14 排ガス
16 排ガス冷却装置
17 CO2吸収液(リーン溶液)
18 CO2吸収塔
19 CO2を吸収したCO2吸収液(リッチ溶液)
20 吸収液再生塔
21 洗浄水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス中のCO2又はH2S又はその双方を吸収する吸収液であって、
1)二級直鎖状モノアミンと、
2)二級環状ポリアミンと、
3)アミノ基が二級或いは三級で構成される環状アミン群又は立体障害性の高い直鎖状アミン群から選ばれる少なくとも一種のアミンとを、
水に溶解してなることを特徴とする3成分吸収液。
【請求項2】
請求項1において、
1)の二級直鎖状モノアミンの配合割合が、30〜55重量%であり、
2)の二級環状ポリアミンの配合割合が1〜15重量%であり、
3)のアミノ基が二級或いは三級で構成される環状アミン群又は立体障害性の高い直鎖状アミン群から選ばれる少なくとも一種のアミンの配合割合が1〜15重量%であり、
1)の二級直鎖状モノアミン、2)の二級環状ポリアミン、及び3)のアミノ基が二級或いは三級で構成される環状アミン群又は立体障害性の高い直鎖状アミン群から選ばれる少なくとも一種のアミン、の合計が、70重量%以下であることを特徴とする3成分吸収液。
【請求項3】
請求項1又は2において、
1)の二級直鎖状モノアミンは、2−メチルアミノエタノール、2−エチルアミノエタノール、2−イソプロピルアミノエタノール、2−n−ブチルアミノエタノールの中から選ばれることを特徴とする3成分吸収液。
【請求項4】
請求項1又は2において、
2)の二級環状ポリアミンは、ピペラジン及びピペラジン誘導体の中から選ばれることを特徴とする3成分吸収液。
【請求項5】
請求項1又は2において、
3)のアミノ基が二級或いは三級で構成される環状アミンは、ピペラジン誘導体であり、環外の置換基の炭素数が1のアミン群から選ばれることを特徴とする3成分吸収液。
【請求項6】
請求項1又は2において、
3)のアミノ基が二級或いは三級で構成される環状アミンは、ピペラジン誘導体であり、環外の置換基の炭素数が2以上且つ立体障害性が高いアミン群から選ばれることを特徴とする3成分吸収液。
【請求項7】
請求項1又は2において、
3)の立体障害性の高い直鎖状アミンは、窒素原子に隣接する炭素原子にアルキル基、ヒドロキシ基、アミノ基のいずれかの官能基が複数結合した一級或いは二級のヒンダードアミン類と三級アミン類のどちらかから選ばれることを特徴とする3成分吸収液。
【請求項8】
請求項4において、
2)の二級環状ポリアミンのピペラジン誘導体は、1−メチルピペラジン、2−メチルピペラジンの中から選ばれることを特徴とする3成分吸収液。
【請求項9】
請求項5において、
3)のアミノ基が二級或いは三級で構成される環状アミンのピペラジン誘導体で環外の置換基の炭素数が1のアミンは、1−メチルピペラジン、2−メチルピペラジンの中から、2)の二級環状ポリアミンのピペラジン誘導体とは異なるものを選ぶことを特徴とする3成分吸収液。
【請求項10】
請求項6において、
3)のアミノ基が二級或いは三級で構成される環状アミンのピペラジン誘導体で環外の置換基の炭素数が2以上且つ立体障害性が高いアミンは、1−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン、N−イソプロピルアミノエチルピペラジンの中から選ばれることを特徴とする3成分吸収液。
【請求項11】
CO2又はH2S又はその双方を含有するガスと吸収液とを接触させてCO2又はH2S又はその双方を除去する吸収塔と、CO2又はH2S又はその双方を吸収した溶液を再生する再生塔を有し、再生塔でCO2又はH2S又はその双方を除去して再生した溶液を吸収塔で再利用する、CO2又はH2S又はその双方の除去装置であって、
請求項1乃至10のいずれか一つの3成分吸収液を用いてなることを特徴とするCO2又はH2S又はその双方の除去装置。
【請求項12】
CO2又はH2S又はその双方を含有するガスと吸収液とを接触させてCO2又はH2S又はその双方を除去し、CO2又はH2S又はその双方を吸収した溶液を再生し、再生塔でCO2又はH2S又はその双方を除去して再生した溶液を吸収塔で再利用する、CO2又はH2S又はその双方の除去方法であって、
請求項1乃至10のいずれか一つの3成分吸収液を用いてCO2又はH2S又はその双方を除去することを特徴とするCO2又はH2S又はその双方の除去方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−86079(P2013−86079A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232135(P2011−232135)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【Fターム(参考)】