説明

APDの自動調整機能を備えた光パルス試験器またはその方法

【課題】基準ファイバならびに測定対象である光ファイバが無くともAPDの増倍率の補正が容易に出来る光パルス試験器およびその調整方法を提供することを目的とする。
【解決手段】光パルスではなくタイミング制御不要な連続光を試験対象の光ファイバを接続するための外部接続部に向けて射出し、当該連続光の後方散乱光よりレベル大きい反射光をアバランシェフォトダイオード(APD)で受光し、APDの増倍率を決定するAPDバイアス電圧を変化させ、APDの増倍率とAPDバイアス電圧の組み合わせを複数検出することによってAPDの増倍率の補正を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象である光ファイバに光パルスを射出し、射出された光パルスの戻り光に基づいて光ファイバの損失分布特性を解析する光パルス試験器に関し、特に光パルス試験器に用いるアバランシェフォトダイオード(APD:Avalanche Photodiode)の調整に関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
光パルス試験器は、測定対象である光ファイバに試験光としての光パルスを繰り返し入射して、光パルスの戻り光(フレネル反射光(反射光)+後方散乱光)とその遅延時間を検出することにより、光ファイバの障害点の特定や損失分布測定等の試験を行う装置である。
【0003】
光パルス試験器の戻り光を受ける受光部としてはアバランシェフォトダイオード(APD)が用いられることが多い。図3は、APDの増倍率特性の一例を示す図である。図3に示す通り、APDは、APDバイアス電圧(逆バイアス)に応じて増倍率(光電流を増幅する割合)が変化する特性を有し、APDバイアス電圧が大きくなるにつれて増倍率が増加する。ところが、この増倍率特性には個体差があるので、その個体差による測定誤差をなくすために、個々の光パルス試験器毎にAPDの増倍率の特性を求める必要がある。
【0004】
なお、図3に示す通り、APDに対するAPDバイアス電圧をVxからVyに変化させてもAPDの増倍率が殆ど変化しない領域(受光信号レベルが変化しない領域)が存在する。この領域を増倍率安定領域と言う。
【0005】
図4は、従来の光パルス試験器101の構成を示すものである。方向性結合器3は、光源駆動部109の駆動信号によって光源102から射出されるパルス光を光ファイバ12に向けて出力するとともに光ファイバ12から方向性結合器3に戻ってくる戻り光を受光部104(APD)に入射させる。APDは、戻り光を受け、当該試験信号をバイアス印加部8が生成したAPDバイアス電圧に応じた増倍率で受光信号に変換し、増幅回路5は、APDで変換された受光信号を増幅し、A/D変換器6は、増幅回路5で増幅された信号をサンプリングしてデジタル化し、処理部107に出力する。処理部107はA/D変換器の出力に基づき各種解析を行うとともに、パルス試験器の制御を行う。表示部10は、処理部107の制御に基づいて設定情報や測定結果などの各種情報を表示するものであり、LCD(Liquid Crystal Display)などで構成される。
【0006】
この光パルス試験器101には、数メートルから数十メートル程度の長さを有する特性が既知である基準ファイバ11と、測定対象である光ファイバ12を接続されている。そして、基準光ファイバ11ならびに光ファイバ12に向けて光パルスPを数回〜数千回程度繰り返し入射して、APDで戻り光を受光する。さらに、受光した戻り光の一部である後方散乱光の受光レベルと、予め設定されている受光レベルの初期値とを比較し、その受光レベルの値が初期値と一致するように、APDの感度を制御することにより、APDの増倍率を補正する光パルス試験器101が提案されている(例えば、特許文献1 特に図1、図5[0036]〜[0040]を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−286578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、従来の光パルス試験器101は、光ファイバ12を測定する場合のほか、APDの増倍率の補正をする場合においても試験光として光パルスPを利用し、測定基準ファイバ11ならびに光ファイバ12を経由した戻り光(フレネル反射光(反射光)+後方散乱光)に含まれる後方散乱光を用いて補正している。この後方散乱光は、極めて微弱なので、光源のレーザー素子やAPDのショット雑音成分や増幅回路の熱雑音等の測定系による雑音の影響を受けやすい。この雑音成分を除去するために所定の回数(数回から数千回)繰り返し光パルスPを入射して、後方散乱光を測定し平均化する必要があるとともに、試験光にパルス光を用いているのでタイミング制御が必要となる。
【0009】
また、従来の光パルス試験器101は、特許文献1のように特性が既知である基準ファイバ11ならびに測定対象である光ファイバ12が必要となる。当然に光パルス試験器に基準ファイバ11が内蔵されていない場合や基準ファイバ11が準備できない場合、ならびに測定対象である光ファイバ12が無い場合においては増倍率の補正は実行できない。さらに、その基準ファイバ11の特性が変動すると、補正の精度に影響するため光パルス試験器101に内蔵された基準ファイバ11であったとしても基準ファイバ自体の取り扱いには細心の注意を要するとともに基準ファイバそれぞれに対応する特性データ(既知データ)の管理が必要となる。
【0010】
なお、上記戻り光に含まれる反射光について説明を加える。この反射光は、フレネル反射光と言われ、後方散乱光より大きなレベルであり、光ファイバの接続点(光の入射点)などで生じるが(例えば図4の接続部C1、C2)従来においては当該接続部の存在とその位置関係を認識するために利用されていた(従来技術では特許文献1 特に[0039]参照)。
【0011】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、基準ファイバならびに測定対象である光ファイバが無くともAPDの増倍率の補正が出来る光パルス試験器およびその方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、請求項1記載の本発明の光パルス試験器は、光源駆動部9の駆動信号によって光パルスを射出する光源2と、試験対象の光ファイバ12を接続するための外部接続部Aと、前記光パルスを前記外部接続部を介して前記光ファイバに入射して得られる戻り光を受光し受光信号に変換するアバランシェフォトダイオード4と、前記アバランシェフォトダイオードの増倍率を変化させる前記アバランシェフォトダイオードに印加するAPDバイアス電圧を制御するAPD特性制御部7を備え、前記受光信号に所定の演算処理を施し前記光ファイバの距離方向の伝送特性を試験するための光パルス試験器において、前記光源駆動部は、所定の一定レベルの連続光を前記外部接続部に向けて射出可能となるように前記光源を駆動可能とされ、前記アバランシェフォトダイオードは、前記連続光が前記外部接続部で反射した反射光を受光し、受光信号に変換可能とされ、前記APD特性制御部は、前記アバランシェフォトダイオードが前記反射光を受光しているとき前記APDバイアス電圧を所定の間隔で変化させ、異なる前記APDバイアス電圧ごとに前記受光信号のレベルを検出し、前記APDバイアス電圧の変化に対し前記受光信号のレベルの変動が少ない安定領域における基準受光信号レベルLSを検出する基準受光信号レベル検出部71と、前記受光信号のレベルが前記基準受光信号レベルを基準としたとき所定の増倍率となるように、さらに前記APDバイアス電圧を所定の間隔で変化させ、前記所定の増倍率に対応したAPDバイアス電圧を検出し、異なる前記所定の増倍率それぞれに対応する前記APDバイアス電圧の組み合わせを複数検出する増倍率対応バイアス電圧検出部72と、前記所定の増倍率と前記所定の増倍率に対応したAPDバイアス電圧の組み合わせを増倍率設定データとして記憶するAPDバイアス電圧記憶部73とを有し、前記増倍率設定データに基づいて、前記所定の増倍率に対応した前記APDバイアス電圧を前記アバランシェフォトダイオードに印加することによって前記試験を行う光パルス試験器としたことを特徴としている。
【0013】
この構成により、請求項1記載の本発明の光パルス試験器1は、特性が既知である基準ファイバ11ならびに試験対象の光ファイバ12を用いることなく光パルス試験器の補正をすることが出来る。
【0014】
請求項2記載の本発明は、上記課題を解決するために、試験対象の光ファイバ12を接続する外部接続部Aを介して当該光ファイバに光パルスを入射して得られる戻り光をアバランシェフォトダイオードで受光し、受光信号に変換し、前記受光信号を受け所定の演算処理を施し前記光ファイバの距離方向の伝送特性を試験する光パルス試験器の前記アバランシェフォトダイオードの増倍率を変化させる前記アバランシェフォトダイオードに印加するAPDバイアス電圧を制御する光パルス試験器の補正方法であって、前記アバランシェフォトダイオードを初期動作させるために前記APDバイアス電圧を所定の電圧に設定するステップS1と、所定の一定レベルの連続光を前記外部接続部に向けて射出するステップS2と、前記アバランシェフォトダイオードに印加する前記APDバイアス電圧を所定の間隔で変化させ、異なる前記APDバイアス電圧ごとに前記外部接続部で反射した反射光による受光信号のレベルを測定し、前記APDバイアス電圧の変化に対し前記反射光による受光信号のレベルの変動が所定の範囲内となる安定領域における基準受光信号レベルLSを検出する基準受光信号レベル検出ステップS3、S4、S5、S6と、前記受光信号のレベルが前記基準受光信号レベルを基準としたとき所定の増倍率となるように、さらに前記APDバイアス電圧を所定の間隔で変化させ、前記所定の増倍率に対応したAPDバイアス電圧を検出し、異なる前記所定の増倍率それぞれに対応する前記APDバイアス電圧の組み合わせを複数検出する増倍率検出ステップS7、S8、S9、S10、S11と、前記増倍率検出ステップで求めた前記所定の増倍率と、当該増倍率に対応した前記APDバイアス電圧との複数の組み合わせを増倍率設定データとして記憶するAPDバイアス電圧記憶ステップS12と、前記増倍率設定データに基づいて前記アバランシェフォトダイオードのAPDバイアス電圧を制御する光パルス試験器の補正方法としたことを特徴としている。
【0015】
本手順により、請求項2記載の本発明の光パルス試験器の補正方法は、特性が既知である基準ファイバ11ならびに試験対象の光ファイバ12を用いることなく光パルス試験器の補正をすることが出来る。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、基準ファイバならびに測定対象である光ファイバが無くとAPDの増倍率の補正が出来るとともに、光パルスではなく連続光を用いることによってパルスの発生と受光の制御等にかかるタイミング制御を必要とせずにAPDの増倍率の補正が出来る効果がある。また、後方散乱光よりレベル大きい反射光を用いることによってS/N比(Signal/Noise ratio)の良い状態で光パルス試験器の補正が出来る効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態の光パルス試験器を示すブロック図
【図2】本発明の実施形態の光パルス試験器の処理手順の一例を示すフローチャート
【図3】APDが備えるAPDバイアス電圧と増倍率の相関グラフ
【図4】従来の光パルス試験器を示すブロック図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に実施例を記載する。
【実施例】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。
図1は、本発明の実施形態の光パルス試験器のブロック図を示している。なお、図4に示した従来の光パルス試験器のブロック図と同一番号の機能ブロックについては、同一の機能を有するため説明は一部省略する。
【0020】
外部接続部Aは、試験対象の光ファイバ12を接続するための接続部であり、光コネクタである。
【0021】
光源2は、レーザー素子であって、後述する光源駆動部9の駆動信号により光信号を前記外部接続部Aに向けて射出する。なお、光源2の射出する光のパワーを可変にしておくことで、後述するAPDが過大な光のパワー受光によって飽和してしまう場合に射出する光のパワーを抑え、APDの飽和を防ぐことが出来る。
【0022】
光源駆動部9は、測定対象である光ファイバ12を測定する際に用いるパルス光を射出するように光源2を駆動するほか、連続光発生制御部91備えており、一定の連続光(CW光)も射出するように光源2を駆動可能となっている。
【0023】
受光部4は、APDからなり、光ファイバ12から戻ってくるパルス光を受光し、印加部8で生成されたAPDバイアス電圧に対応した増倍率Nで受光信号に変換するほか、光源2から射出された一定の連続光が外部接続部Aで反射した反射光(フレネル反射光)を受光し、パルス光同様に受光信号に変換する機能を有している。
【0024】
なお、前記APDの増倍率Nを所定の増倍率にするとき、どの程度の電圧をかけるかは、おおむねAPDの仕様で定まるものの、APDの個体差ならびにAPDの周囲環境(特にAPDの周囲温度など)が影響するため一義には定まらない。その個体差等による影響をなくすために、個々の光パルス試験器毎にAPDの増倍率特性を求める必要があり、本発明によって検出する。
【0025】
本発明の外部接続部Aによる反射光のパワーレベルは後方散乱光にくらべて大きく、結果としてS/N比(Signal/Noise ratio)の良い状態でAPDの補正が可能になり、光源のレーザー素子やAPDのショット雑音成分や増幅回路の熱雑音等の測定系による雑音成分から影響を減らすことが出来る。
【0026】
なお、従来においてこれらの雑音成分を取り除くために、測定を繰り返し行い、得られたデータを平均化処理は必要に応じ数回から数千回の測定を繰り返し行っていた。また、このほか最小二乗法を用いて統計処理することもあった。
【0027】
APD特性制御部7は、基準受光信号レベル検出部71と、増倍率対応バイアス電圧検出部72と、APDバイアス電圧記憶部73とを有しており、以下順次説明する。
【0028】
基準受光信号レベル検出部71は、APDバイアス電圧を変化させ、そのときの外部接続部Aからの反射光によるAPDの受光信号のレベルを検出し、そのAPDバイアス電圧の変化に対し前記反射光による受光信号のレベルLの変動が一定の範囲となった安定領域(図3で言うところの増倍率安定領域)における基準受光信号レベルLSならびにそのときのAPDバイアス電圧(Vs)を検出する。なお、安定領域か否かの判断は、APDバイアス電圧変化に対する受光信号のレベル変動差が所定の範囲内であるかで判断する(例えば±5ボルトの変化に対して受光信号のレベルの差が±0.2dB以下)。
【0029】
増倍率対応バイアス電圧検出部72は、APDバイアス電圧を一定の間隔で変化させ、APDバイアス電圧毎に受光信号のレベルを測定し、測定した受光信号レベルと、検出済みの基準受光信号レベルLSとを比較し、所定の増倍率Nに対応するAPDバイアス電圧を検出する。
【0030】
例えば増倍率1.4倍(許容誤差±0.05)を求める場合を例示する。APDバイアス電圧がVα(30)ボルトの時の受光信号レベルLαが、0.23ボルト、Vβ(33)ボルトの時のLβは、0.29ボルト、Vγ(35)ボルトの時のLγは、0.34ボルトであり、基準受光信号レベルLSが0.2ボルトであったとすると、増倍率Nは、以下のように求まる。
【0031】
Vα(30)の時:Nα=Lα(0.23)/Ls(0.2)=1.15
Vβ(33)の時:Nβ=Lβ(0.288)/Ls(0.2)=1.44
Vγ(35)の時:Nγ=Lγ(0.344)/Ls(0.2)=1.72
この求めた結果と、増倍率Nの許容誤差±0.05を考慮すると、増倍率N=1.4に対応するAPDバイアス電圧は、Vβ(33)ボルトであると言える。さらに前記APDバイアス電圧を変化させ、同様にして複数の異なる増倍率Nに対応したAPDバイアス電圧をそれぞれ検出する。
【0032】
APDバイアス電圧記憶部73は、APDバイアス電圧とそれに対応した増倍率Nの複数の組み合わせを増倍率設定データとして記憶する。なお、当該APDバイアス電圧記憶部73に記憶された増倍率設定データを利用することでAPDの補正が可能となる。
【0033】
以上に説明したように特性制御部7は、基準受光信号レベル検出部71と、増倍率対応バイアス電圧検出部72と、APDバイアス電圧記憶部73の3つの構成を有している。
【0034】
以上の構成により、本発明における光パルス試験器1は、特性が既知である基準ファイバならびに測定対象である光ファイバが無くとAPDの増倍率の補正が出来るとともに、光パルスではなく連続光を用いることによってパルスの発生と受光の制御等にかかるタイミング制御を必要とせずにAPDの増倍率の補正が出来る。また、後方散乱光よりレベル大きい反射光を用いることによってS/N比(Signal/Noise ratio)の良い状態で光パルス試験器の補正が出来る。
【0035】
次に、光パルス試験器の補正方法の手順の1例を説明する。図2は、光パルス試験器の補正方法の手順の1例を示すフローチャートである。以下このフローチャートに従って光パルス試験器の補正方法の動作を説明する。
【0036】
まず、光源2から光が射出されない状態で、APDに印加するAPDバイアス電圧を初期値V0(例えば10ボルト)に設定する(ステップS1)。
【0037】
次に光源駆動部9を駆動し、光源2から外部接続部Aに向けて一定の連続光(CW光)(例えば0.1mW)を射出する(ステップS2)。このとき、APDの受光信号L0を測定し、その値が想定された範囲であるかを確認する(著しく受光信号がずれていないか)ことでAPDの動作が正常であるかの診断を行うことも可能である。
【0038】
次にAPDの増倍率安定領域(図3で言うところの増倍率安定領域)を検出する。
まず、APDに設計値等で想定される増倍率安定領域近傍に対応するAPDバイアス電圧Vaボルトを印加し、(15ボルトの逆バイアス)そのときの外部接続部Aで反射した連続光による反射光をAPDで受光し、受光信号Laのレベルを測定する。次に、APDバイアス電圧を所定量δボルト(0.2ボルト)だけ変化させ、Vbボルトに変更し(10.2ボルト)、受光信号Lbのレベルを測定し(ステップS3)、先に測定した受光信号LaとLbのレベルの差を求める。さらに先ほどと同じ所定量δボルト(0.2ボルト)だけAPDバイアス電圧を変化させVcボルトに変更する(10.4ボルト)。そのときの受光信号Lcを求め、LbとLcのレベル差を比較する。以降同様にAPDバイアス電圧(Vd、Ve・・・)を変更して受光信号レベル(Ld、Le・・・)を求め、LcとLd、LdとLe・・・・のレベル差を求める。
【0039】
レベル差を求めると一定の電圧変化であるにもかかわらず、受光信号のレベルの差が少ない領域が現れる(図3で言うところの増倍率安定領域)(ステップS4、S5)。
【0040】
この領域をAPD増倍率の安定領域といい、このときの受光信号のレベルを基準受光信号レベルLSとする(ステップS6)。この基準受光信号のレベルLSは、増倍率を求める際の基準値となる。なお、安定領域か否かの判断は、APDバイアス電圧変化とこの受光信号のレベル差が所定の範囲内であるか否かで判断する(例えば±5ボルトの変化に対して受光信号のレベルの差が±0.2dB以下)。
【0041】
次にAPDの複数の増倍率(N1、N2、N3、・・・)それぞれに対応するAPDバイアス電圧を以下のように検出する。増倍率Nとは、ステップS6で定められた基準受光信号レベルLSを基準としたときAPDの受光信号のレベルがLSの何倍であるかで求まる。例えばAPDの受光信号のレベルがL1だった場合は、L1/LS=N1倍である。
【0042】
まず、所定の増倍率Nに対応するAPDバイアス電圧Vを決定する手順を示す。最初に光パルス試験器の光ファイバの12測定に使われると想定される所定の範囲における増倍率Nを複数設定する(ステップS7)。この増倍率は、測定用の光ファイバ12を測定する際に実際に利用される増倍率を考慮して補正開始前に光パルス試験器に設定しておくと良い。
【0043】
次に、増倍率N1に対応する設計値などに基づくAPDバイアス電圧の前後例えば、増倍率N1に対応する設計値などに基づくAPDバイアス電圧がV1ボルトであったとするとV1±2ボルトの範囲で0.02ボルトステップでAPDバイアス電圧を変化させ(ステップS10)、その時のAPD受光信号L1を測定する(ステップS8)。測定したAPD受光信号L1と基準信号レベルLsで増倍率を求め、求めた増倍率が所定の範囲内(例えばN1±5%=L1/LS)に入ったとき(ステップS9)のAPDバイアス電圧を増倍率N1に対応するAPDバイアス電圧V1とし、増倍率N1に対応するAPDバイアス電圧V1の組み合わせが決定される。
【0044】
同様にして増倍率N2に対応するAPDバイアス電圧V2、増倍率N3に対応するAPDバイアス電圧V3の組み合わせを決定し、複数の所定の増倍率に対応するAPDバイアス電圧が求め(ステップS11)、これらの増倍率NとAPDバイアス電圧の組み合わせを記憶する(ステップS12)。
【0045】
なお、光パルス試験器の測定に使われると想定される所定の範囲における増倍率すべてに対応するAPDバイアス電圧をすべて求めても良いが、代表的な増倍率Nを決定して、その検出された値に基き、他の増倍率の補正値を予測(統計処理など)してもよい。以上の手順で記憶された前記増倍率設定データに基づいて前記APDのバイアス電圧を制御することにより、基準ファイバを用いることなく光パルス試験器の補正をすることが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上のように、本発明に係る光パルス試験器は、基準ファイバならびに測定対象である光ファイバが無くともAPDの増倍率の補正が出来るため、容易に光パルス試験器のAPDの増倍率の補正が出来、例えば、環境変化の大きい屋外での光ファイバの測定の開始直前に行うことも可能となり、温度変化の影響を受けやすいAPDを用いた光パルス試験器の補正を精度よく行うことが出来る。
【符号の説明】
【0047】
1:光パルス試験器(本発明)
2:光源
3:方向性結合器
4:受光部(APD)
5:増幅回路
6:A/D変換器
7:APD特性制御部
71:基準受光信号レベル検出部
72:増倍率対応バイアス電圧検出部
73:APDバイアス電圧記憶部
8: バイアス印加部
9:光源駆動部
91:連続光発生制御部
10:表示部
11:基準ファイバ
12:光ファイバ
101: 光パルス試験器(従来)
102:光源
104:受光部(APD)
107:処理部
109:光源駆動部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源駆動部(9)の駆動信号によって光パルスを射出する光源(2)と、
試験対象の光ファイバ(12)を接続するための外部接続部(A)と、
前記光パルスを前記外部接続部を介して前記光ファイバに入射して得られる戻り光を受光し受光信号に変換するアバランシェフォトダイオード(4)と、
前記アバランシェフォトダイオードの増倍率を変化させる前記アバランシェフォトダイオードに印加するAPDバイアス電圧を制御するAPD特性制御部(7)を備え、前記受光信号に所定の演算処理を施し前記光ファイバの距離方向の伝送特性を試験するための光パルス試験器において、
前記光源駆動部は、所定の一定レベルの連続光を前記外部接続部に向けて射出可能となるように前記光源を駆動可能とされ、
前記アバランシェフォトダイオードは、前記連続光が前記外部接続部で反射した反射光を受光し、受光信号に変換可能とされ、
前記APD特性制御部は、前記アバランシェフォトダイオードが前記反射光を受光しているとき前記APDバイアス電圧を所定の間隔で変化させ、異なる前記APDバイアス電圧ごとに前記受光信号のレベルを検出し、前記APDバイアス電圧の変化に対し前記受光信号のレベルの変動が少ない安定領域における基準受光信号レベル(LS)を検出する基準受光信号レベル検出部(71)と、
前記受光信号のレベルが前記基準受光信号レベルを基準としたとき所定の増倍率となるように、さらに前記APDバイアス電圧を所定の間隔で変化させ、前記所定の増倍率に対応したAPDバイアス電圧を検出し、異なる前記所定の増倍率それぞれに対応する前記APDバイアス電圧の組み合わせを複数検出する増倍率対応バイアス電圧検出部(72)と、
前記所定の増倍率と前記所定の増倍率に対応したAPDバイアス電圧の組み合わせを増倍率設定データとして記憶するAPDバイアス電圧記憶部(73)とを有し、
前記増倍率設定データに基づいて、前記所定の増倍率に対応した前記APDバイアス電圧を前記アバランシェフォトダイオードに印加することによって前記試験を行うことを特徴とした光パルス試験器。
【請求項2】
試験対象の光ファイバを接続する外部接続部を介して当該光ファイバに光パルスを入射して得られる戻り光をアバランシェフォトダイオードで受光し、受光信号に変換し、前記受光信号を受け所定の演算処理を施し前記光ファイバの距離方向の伝送特性を試験する光パルス試験器の前記アバランシェフォトダイオードの増倍率を変化させる前記アバランシェフォトダイオードに印加するAPDバイアス電圧を制御する光パルス試験器の補正方法であって、
前記アバランシェフォトダイオードを初期動作させるために前記APDバイアス電圧を所定の電圧に設定するステップ(S1)と、
所定の一定レベルの連続光を前記外部接続部に向けて射出するステップ(S2)と、
前記アバランシェフォトダイオードに印加する前記APDバイアス電圧を所定の間隔で変化させ、異なる前記APDバイアス電圧ごとに前記外部接続部で反射した反射光による前記受光信号のレベルを測定し、前記APDバイアス電圧の変化に対し前記受光信号のレベルの変動が所定の範囲内となる安定領域における基準受光信号レベル(LS)を検出する基準受光信号レベル検出ステップ(S3、S4、S5、S6)と、
前記受光信号のレベルが前記基準受光信号レベルを基準としたとき所定の増倍率となるように、さらに前記APDバイアス電圧を所定の間隔で変化させ、前記所定の増倍率に対応したAPDバイアス電圧を検出し、異なる前記所定の増倍率それぞれに対応する前記APDバイアス電圧の組み合わせを複数検出する増倍率検出ステップ(S7、S8、S9、S10、S11)と、
前記増倍率検出ステップで求めた前記所定の増倍率と、当該増倍率に対応した前記APDバイアス電圧との複数の組み合わせを増倍率設定データとして記憶するAPDバイアス電圧記憶ステップ(S12)と、
前記増倍率設定データに基づいて前記アバランシェフォトダイオードのAPDバイアス電圧を制御する光パルス試験器の補正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−132815(P2012−132815A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−285907(P2010−285907)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000000572)アンリツ株式会社 (838)
【Fターム(参考)】