説明

CO警報器および電気化学式センサ

【課題】電気化学式センサを用いて水素(H2 )の存在による誤警報を防止できるCO警報器およびこれに用いられる新規な構造の電気化学式センサを提供すること。
【解決手段】CO警報器20は、固体電解質膜を含むセンサ素子4を加熱するためのヒータ12を有する電気化学式センサ1からのセンサ出力が警報しきい値以上になった時に警報を発する。CO警報器20は、ヒータ12に給電してセンサ素子4を周囲温度以上の所定温度まで加熱するように制御する制御手段22a−1と、電気化学式センサ1が周囲温度状態にある時の第1のセンサ出力と、所定温度状態にある時の第2のセンサ出力を検出する検出手段22a−2と、検出された第1および第2のセンサ出力に基づいて水素ガスの有無を判定する判定手段22a−3と、判定手段22a−3で水素ガス有りと判定された場合、警報しきい値を再設定する再設定手段22a−4とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CO警報器およびこれに用いられる電気化学式センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一般家庭、食堂やレストラン等にCO(一酸化炭素)監視用に使用する電気化学式センサを用いたCO警報器において、都市ガス等の不完全燃焼で発生するCOを検知する場合、水素(H2 )の発生による誤警報の可能性がある。
【0003】
電気化学式センサは、金属缶の下部を水溜とし、上部にくびれ部を介して高分子プロトン導電体膜等の固体電解質膜とその表裏に配した電極(検知極および対極)とからなるセンサ素子を備え、センサ素子の表裏に、ガスの拡散と導電性コンタクトを兼ねた導電性ガス流路が設けられている(たとえば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−170101号公報
【0004】
一方、半導体式センサを用いたCO警報器でも水素(H2 )の発生による誤警報の可能性がある。特に、半導体式センサがLOW−HIGHレベルのパルス駆動式センサである場合、HIGHレベルによる高温加熱(たとえば、400℃)終了後のLOWレベル駆動による低温加熱(たとえば、100℃)の開始から0.5〜1.5秒の間は水素(H2 )感度が高く、しかも他のガスに対する感度がほとんどない。そこで、その間に水素判定点を設け、水素が発生していると判定された場合は、CO警報点(あるいは、CH4 警報器を兼ねている場合はCO警報点およびCH4 警報点)を補正することにより、誤警報を防止している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これに対して、電気化学式センサは常温で作動するものであり、水素(H2 )の選択性を得られるのは困難であるため、常温のままで水素(H2 )の有無の判定が不可能である。したがって、水素(H2 )の有無の判定ができるような電気化学式センサの構造を工夫する必要がある。
【0006】
そこで本発明は、上述した課題に鑑み、電気化学式センサを用いて水素(H2 )の存在による誤警報を防止できるCO警報器およびこれに用いられる新規な構造の電気化学式センサを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた請求項1記載の発明は、図1の基本構成図に示すように、固体電解質膜6を含むセンサ素子4を有する電気化学式センサ1からのセンサ出力が警報しきい値以上になった時に警報を発するCO警報器20であって、前記電気化学式センサ1は、前記センサ素子4を加熱するためのヒータ12をさらに有し、前記CO警報器20は、前記電気化学式センサ1の前記ヒータ12に給電して前記センサ素子4を周囲温度以上の所定温度まで加熱するように制御する制御手段22a−1と、前記電気化学式センサ1が前記周囲温度状態にある時の第1のセンサ出力と、前記電気化学式センサ1が前記所定温度状態にある時の第2のセンサ出力を検出する検出手段22a−2と、前記検出手段22a−2で検出された前記第1および第2のセンサ出力に基づいて水素ガスの有無を判定する判定手段22a−3と、前記判定手段22a−3で水素ガス有りと判定された場合、前記警報しきい値を再設定する再設定手段22a−4とを備えたことを特徴とするCO警報器に存する。
【0008】
請求項1記載の発明においては、CO警報器20は、固体電解質膜6を含むセンサ素子4を有する電気化学式センサ1からのセンサ出力が警報しきい値以上になった時に警報を発する。電気化学式センサ1は、センサ素子4を加熱するためのヒータ12をさらに有している。CO警報器20は、制御手段22a−1、検出手段22a−2、判定手段22a−3および再設定手段22a−4を備えている。制御手段22a−1は、電気化学式センサ1のヒータ12に給電してセンサ素子4を周囲温度以上の所定温度まで加熱するように制御する。検出手段22a−2は、電気化学式センサ1が周囲温度状態にある時の第1のセンサ出力と、電気化学式センサ1が所定温度状態にある時の第2のセンサ出力を検出する。判定手段22a−3は、検出手段22a−2で検出された第1および第2のセンサ出力に基づいて水素ガスの有無を判定する。再設定手段22a−4は、判定手段22a−3で水素ガス有りと判定された場合、警報しきい値を再設定する。それにより、水素ガスの存在による誤警報を防止することができる。
【0009】
上記課題を解決するためになされた請求項2記載の発明は、図1の基本構成図に示すように、請求項1記載のCO警報器において、前記判定手段22a−3は、前記検出手段22a−2で検出された前記第1および第2のセンサ出力の比を予め設定され記憶手段22cに記憶されている第1の設定比と比較することにより水素ガスの有無を判定し、前記再設定手段22a−4は、前記判定手段22a−3で前記第1および第2のセンサ出力の比が前記第1の設定比以上になり、前記水素ガス有りと判定された場合、前記警報しきい値を予め設定された値より高い値に再設定することを特徴とするCO警報器に存する。
【0010】
請求項2記載の発明においては、判定手段22a−3は、検出手段22a−2で検出された第1および第2のセンサ出力の比を予め設定され記憶手段22cに記憶されている第1の設定比と比較することにより水素ガスの有無を判定する。再設定手段22a−4は、判定手段22a−3で第1および第2のセンサ出力の比が第1の設定比以上になり、水素ガス有りと判定された場合、警報しきい値を予め設定された値より高い値に再設定する。それにより、水素ガスの存在による誤警報を防止することができる。
【0011】
上記課題を解決するためになされた請求項3記載の発明は、図1の基本構成図に示すように、請求項1または2記載のCO警報器において、前記CO警報器20の周囲温度を検出する温度検出手段21と、前記温度検出手段21により検出された周囲温度が、前記所定温度より低く予め設定され記憶手段22cに記憶されている周囲温度しきい値以上になった場合に前記再設定手段22a−4による再設定を禁止する禁止手段22a−5をさらに備えたことを特徴とするCO警報器に存する。
【0012】
請求項3記載の発明においては、CO警報器20は、温度検出手段21および禁止手段22a−5をさらに備えている。温度検出手段21が検出したCO警報器20の周囲温度が、所定温度より低く予め設定され記憶手段22cに記憶されている周囲温度しきい値以上になった場合、禁止手段22a−5は、再設定手段22a−4による再設定を禁止する。それにより、水素ガスに対する感度がどのように変化するか不明で水素ガスの有無の判定が困難な温度領域での警報しきい値の再設定を禁止するので、不正確な補正による誤警報の可能性をなくすことができる。
【0013】
上記課題を解決するためになされた請求項4記載の発明は、図1の基本構成図に示すように、請求項3記載のCO警報器において、前記温度検出手段21により検出された周囲温度が前記温度しきい値より低い予め設定され記憶手段22cに記憶されている第1の温度範囲内にあるか否かを判定する温度判定手段22a−6をさらに備え、前記判定手段22a−3は、前記温度判定手段22a−6により前記周囲温度が前記第1の温度範囲内にあると判定された場合、前記第1および第2のセンサ出力の比を前記第1の設定比と比較することにより水素ガスの有無を判定する第1の判定手段22a−3aと、前記温度判定手段22a−6により前記周囲温度が前記第1の温度範囲より低い第2の温度範囲内にあると判定された場合、前記第1および第2のセンサ出力の比を前記第1の設定比より高く予め設定され記憶手段22cに記憶されている第2の設定比と比較することにより水素ガスの有無を判定する第2の判定手段22a−3bとを含み、前記再設定手段22a−4は、前記第1の判定手段22a−3aまたは前記第2の判定手段22a−3bで前記水素ガス有りと判定された場合、前記警報しきい値を予め設定された値より高い値に再設定することを特徴とするCO警報器に存する。
【0014】
請求項4記載の発明においては、CO警報器20は、温度検出手段21により検出された周囲温度が温度しきい値より低い予め設定され記憶手段22cに記憶されている第1の温度範囲内にあるか否かを判定する温度判定手段22a−6をさらに備えている。判定手段22a−3は、温度判定手段22a−6により周囲温度が第1の温度範囲内にあると判定された場合、第1および第2のセンサ出力の比を第1の設定比と比較することにより水素ガスの有無を判定する第1の判定手段22a−3aと、温度判定手段22a−6により周囲温度が第1の温度範囲より低い第2の温度範囲内にあると判定された場合、第1および第2のセンサ出力の比を第1の設定比より高く予め設定され記憶手段22cに記憶されている第2の設定比と比較することにより水素ガスの有無を判定する第2の判定手段22a−3bとを含む。再設定手段22a−4は、第1の判定手段22a−3aまたは第2の判定手段22a−3bで水素ガス有りと判定された場合、警報しきい値を予め設定された値より高い値に再設定する。それにより、電気化学式センサ1の周囲温度の変化に対する水素ガスの感度の変化に応じた適切な警報しきい値の再設定が可能となる。
【0015】
上記課題を解決するためになされた請求項5記載の発明は、請求項1から4のいずれか1項に記載のCO警報器に用いられる電気化学式センサ1であって、前記センサ素子4は、前記固体電解質膜6の一面に検知極7を他面に対極5を設けたセンサ素子であり、前記電気化学式センサ1は、互いに絶縁された導電性容器にフィルタ材10を充填し、周囲雰囲気ガスを通過させて前記センサ素子4の前記検知極7に導入する第1および第2のフィルタ9,11を備え、前記ヒータ12は、前記第1のフィルタ9の導電性容器に電気的に一端が接続されかつ前記第2のフィルタ11の導電性容器に電気的に他端が接続されていることを特徴とする電気化学式センサに存する。
【0016】
請求項5記載の発明においては、電気化学式センサ1のセンサ素子4は、固体電解質膜6の一面に検知極7を他面に対極5を設けたセンサ素子である。電気化学式センサ1は、互いに絶縁された導電性容器にフィルタ材10を充填し、周囲雰囲気ガスを通過させてセンサ素子4の検知極7に導入する第1および第2のフィルタ9,11を備えている。ヒータ12は、第1のフィルタ9の導電性容器に電気的に一端が接続されかつ第2のフィルタ11の導電性容器に電気的に他端が接続されている。それにより、電気化学式センサのセンサ素子4を、水素ガスに対して感度が高くなる所定温度まで加熱することができる。そして、このような構造を持つ電気化学式センサを用いてCO警報器を構成することにより、所定温度まで加熱した状態の電気化学式センサのセンサ出力と、加熱せず周囲温度状態の電気化学式センサのセンサ出力との比が予め設定された第1の設定比以上になった時に、水素ガス有りと判定して、警報しきい値を予め設定された値より高い値に補正し、水素ガスの有無による誤警報を防止するCO警報器を構成することができる。
【発明の効果】
【0017】
請求項1記載の発明によれば、固体電解質膜6を含むセンサ素子4を有する電気化学式センサ1からのセンサ出力が警報しきい値以上になった時に警報を発するCO警報器20であって、電気化学式センサ1は、センサ素子4を加熱するためのヒータ12をさらに有し、CO警報器20は、電気化学式センサ1のヒータ12に給電してセンサ素子4を周囲温度以上の所定温度まで加熱するように制御する制御手段22a−1と、電気化学式センサ1が周囲温度状態にある時の第1のセンサ出力と、電気化学式センサ1が所定温度状態にある時の第2のセンサ出力を検出する検出手段22a−2と、検出手段22a−2で検出された第1および第2のセンサ出力に基づいて水素ガスの有無を判定する判定手段22a−3と、判定手段22a−3で水素ガス有りと判定された場合、警報しきい値を再設定する再設定手段22a−4とを備えているので、水素ガスの存在時に警報しきい値を再設定して、水素ガスの有無による誤警報を防止することができる。
【0018】
請求項2記載の発明によれば、判定手段22a−3は、検出手段22a−2で検出された第1および第2のセンサ出力の比を予め設定され記憶手段22cに記憶されている第1の設定比と比較することにより水素ガスの有無を判定し、再設定手段22a−4は、判定手段22a−3で第1および第2のセンサ出力の比が第1の設定比以上になり、水素ガス有りと判定された場合、警報しきい値を予め設定された値より高い値に再設定するので、水素ガスの存在時に警報しきい値を予め設定された値より高い値に補正し、水素ガスの有無による誤警報を防止することができる。
【0019】
請求項3記載の発明によれば、CO警報器20の周囲温度を検出する温度検出手段21と、温度検出手段21により検出された周囲温度が、所定温度より低く予め設定され記憶手段22cに記憶されている周囲温度しきい値以上になった場合に再設定手段22a−4による再設定を禁止する禁止手段22a−5をさらに備えているので、水素ガスの有無の判定が困難な温度領域での警報しきい値の再設定を禁止するので、不正確な補正による誤警報の可能性をなくすことができる。
【0020】
請求項4記載の発明によれば、CO警報器20は、温度検出手段21により検出された周囲温度が温度しきい値より低い予め設定され記憶手段22cに記憶されている第1の温度範囲内にあるか否かを判定する温度判定手段22a−6をさらに備え、判定手段22a−3は、温度判定手段22a−6により周囲温度が第1の温度範囲内にあると判定された場合、第1および第2のセンサ出力の比を第1の設定比と比較することにより水素ガスの有無を判定する第1の判定手段22a−3aと、温度判定手段22a−6により周囲温度が第1の温度範囲より低い第2の温度範囲内にあると判定された場合、第1および第2のセンサ出力の比を第1の設定比より高く予め設定され記憶手段22cに記憶されている第2の設定比と比較することにより水素ガスの有無を判定する第2の判定手段22a−3bとを含み、再設定手段22a−4は、第1の判定手段22a−3aまたは第2の判定手段22a−3bで水素ガス有りと判定された場合、警報しきい値を予め設定された値より高い値に再設定するので、電気化学式センサ1の周囲温度の変化に対する水素ガスの感度の変化に応じてきめ細かい警報しきい値の再設定が可能となり、水素ガスの有無による誤警報を防止することができる。
【0021】
請求項5記載の発明によれば、電気化学式センサ1のセンサ素子4は、固体電解質膜6の一面に検知極7を他面に対極5を設けたセンサ素子であり、電気化学式センサ1は、互いに絶縁された導電性容器にフィルタ材10を充填し、周囲雰囲気ガスを通過させてセンサ素子4の検知極7に導入する第1および第2のフィルタ9,11を備え、ヒータ12は、第1のフィルタ9の導電性容器に電気的に一端が接続されかつ第2のフィルタ11の導電性容器に電気的に他端が接続されているので、電気化学式センサのセンサ素子を、水素ガスに対して感度が高くなる所定温度まで加熱することができる。そして、このような構造を持つ電気化学式センサを用いてCO警報器を構成することにより、水素ガスの有無時に警報しきい値を予め設定された値より高い値に補正し、水素ガスの有無による誤警報を防止するCO警報器を構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0023】
図2は、本発明に係る一実施の形態の電気化学式センサの構造を示す断面図である。本発明の電気化学式センサ1は、水タンク2、ワッシャ3、センサ素子4、ガスケット8、フィルタ9,11およびヒータ12からなる。
【0024】
水タンク2には、蒸留水14が貯留されている。ワッシャ3は、金属製であり、水タンク2の上部に形成されたくびれ部2aに支持され、水蒸気供給口3aが形成されている。センサ素子4は、バッキングレイヤ(対極)5、固体電解質膜である高分子プロトン導電体膜およびバッキングレイヤ(検知極)7の積層構造からなり、ワッシャ3の上に配置されている。
【0025】
フィルタ9は、SUS等の金属製容器からなり、その内部にフィルタ材(たとえば、活性炭等)10が充填されると共に、上部にガス入口9a、底部にガス拡散口9bが形成されている。フィルタ11は金属製容器からなり、その内部に活性炭10が充填されると共に、上部にガス入口11a、底部にガス拡散口11bが形成されている。フィルタ9および11は、被毒物質や誤警報の原因となるガスを除去するためのものであり、センサ素子4上に配置され、水タンク2のくびれ部2aの上方をパッキングするガスケット8に絶縁体13を挟んではめ込まれている。
【0026】
フィルタ9および11は、たとえば図4(A)および(B)に示すように、水タンク2の上方から見て半円形や長方形に形成される。図4(A)および(B)の形状は、それぞれ、水タンク2の形状が上方から見た場合に円形および長方形の場合に適用される。
【0027】
ヒータ12は、センサ素子4とフィルタ9,11の間に配置され、図3に示すように、フィルタ9とフィルタ11の間に直流電源15を接続することによって給電されて発熱し、センサ素子4を加熱する。ヒータ12は、絶縁性樹脂12aの内部に、たとえば図5に示すように櫛状の発熱体12bを封じた構成を有する。ヒータ12の一方の端子(発熱体12bの一端)は、バッキングレイヤ(検知極)7の上面に電気的に接触し、ヒータ12の他方の端子(発熱体12bの他端)は、フィルタ11の底部に電気的に接触している。バッキングレイヤ(検知極)7の一方の端部には突起が設けられ、この部分でフィルタ9の底部に電気的に接触している。
【0028】
上述の構成を有する電気化学式センサ1において、雰囲気ガス中にCOが有無すると、センサ素子4の検知極7および対極5において、それぞれ下記の反応が起こる。
検知極 CO+H2 O→CO2 +2H+ +2e- ・・・(1)
対極 2H+ +O2 /2+2e- →H2 O・・・(2)
【0029】
拡散制御用のピンホール(ガス拡散口9b,11b)および透過性のバッキングレイヤ7,5を設けているため、電気化学式センサ1のセンサ出力(検知極7から対極5へ流れる電流)Iは、式(3)で表される。
I=F×(A/σ)×D×C×N・・・(3)
【0030】
ここで、Fはファラデー定数、Aは拡散膜(高分子プロトン導電体)の表面積、Dはガス拡散係数、Cはガス濃度、σは拡散膜(高分子プロトン導電体)の厚み、Nは反応電子数である。
【0031】
電気化学式センサ1のセンサ出力は、図3に示すように、バッキングレイヤ(検知極)7およびフィルタ9を介する経路と、バッキングレイヤ(対極)5、ワッシャ3および水タンク2を介する経路とを通ってセンサ出力検出手段14で検出される。
【0032】
式(3)のガス拡散係数D、拡散膜(高分子プロトン導電体)の表面積Aおよび拡散膜(高分子プロトン導電体膜)の厚みσは、温度に依存するので、周囲温度が上がると、COの検出出力は上昇する。
【0033】
図6は、電気化学式センサ1のCOに対する感度依存性を示す温度特性図である。横軸は周囲温度(℃)、縦軸は、常温(20℃)時の感度Kを1とした場合の任意の周囲温度T(℃)の時の感度K(T)の感度比K(T)/K(20℃)である。図6から分かるように、周囲温度が常温(20℃)の場合の感度に対して、低温では感度が低く、高温では高くなる。そして、COに対する温度50℃での感度比は、0.9〜1.4程度となる。
【0034】
図7は、電気化学式センサ1の水素(H2 )に対する感度依存性を示す温度特性図である。横軸は周囲温度、縦軸は、常温(20℃)時の感度Kを1とした場合の周囲温度T(℃)の感度K(T)の感度比K(T)/K(20℃)である。図7から分かるように、周囲温度が常温(20℃)の場合の感度に対して、低温では感度が低く、高温では高くなる。そして、水素(H2 )に対する50℃での感度比は、3.0〜5.0程度となる。
【0035】
図6および図7の比較から分かるように、CO感度の温度傾きと水素(H2 )感度の温度傾きの差は非常に大きいので、この差を利用し、電気化学式センサ1のセンサ出力がCOによるものなのかまたは水素(H2 )によるものなのかを判別することができる。
【0036】
そこで、図1の構造を有する電気化学式センサを用いた本発明のCO警報器では、ヒータ12によりセンサ素子4の温度を、CO検出に対して十分識別できるほど水素(H2 )検出の感度が高くなる所定温度(たとえば、50℃)まで加熱し、50℃まで加熱した時のセンサ出力と加熱前の周囲温度でのセンサ出力との比(感度比)を算出し、その感度比に基づいて水素(H2 )の有無の有無を判断する。すなわち、感度比の値が小さければ(たとえば、1.5より小さければ)、水素(H2 )は発生しておらず、感度比の値が大きければ(たとえば、1.5以上であれば)、水素(H2 )が発生していると判断する。その判断結果に基づいて、水素(H2 )が発生していると判断された場合、CO警報点(警報しきい値)を警報しにくい方向に再設定する補正を行い、水素(H2 )の有無による誤警報を防止する。
【0037】
図8は、本発明の実施の形態に係るCO警報器の構成を示すブロック図である。CO警報器20は、本発明の電気化学式センサ1、直流電源15、スイッチ16、温度センサ21、マイクロコンピュータ(以下、マイコンという)22および警報部23から構成される。
【0038】
電気化学式センサ1に内蔵されているヒータ12には、スイッチ16を介して直流電源15が接続されている。温度センサ21は、電気化学センサ1の近傍に設置され、電気化学センサ1の周囲温度を検出する。温度センサ21は、請求項における温度検出手段として働く。
【0039】
マイコン22は、電流予め定めたプログラムにしたがって各種の制御および処理等を行うCPU22aと、CPU22aのためのプログラム等を格納したROM22bと、各種データを格納するとともに、CPU22aの処理作業に必要なエリアを有するRAM22c等を内蔵している。
【0040】
CPU22aは、請求項における制御手段22a−1、検出手段22a−2、判定手段22a−3、第1の判定手段22a−3a、第2の判定手段22a−3b、再設定手段22a−4、禁止手段22a−5および温度判定手段22a−6として働く。RAM22cは、請求項における記憶手段22cとして働き、予め設定される、警報しきい値、第1の設定比、第2の設定比、周囲温度しきい値、第1の温度範囲および第2の温度範囲を予め記憶している。
【0041】
CPU22aは、電気化学式センサ1からセンサ出力信号が入力され、図1における検出手段22a−2として働く。また、CPU22aは、温度センサ21から温度検出信号が入力されると共に、警報部23に警報信号を出力しかつスイッチ16をオン、オフ制御する制御信号を出力する。
【0042】
上述の構成において、CPU22aは、温度センサ21からの温度検出信号を所定のサンプリングタイミングで取り込み、CO警報器20の周囲温度を検出する。次に、CPU22aは、周囲温度における電気化学式センサ1のセンサ出力を上述と同じサンプリングタイミングで取り込み、RAM22cに記憶する。次に、検出した周囲温度が、RAM22cに記憶されている周囲温度しきい値未満の場合は、CPU22aは、スイッチ16へ制御信号を出力してスイッチ16をオフからオンにし、ヒータ12へ直流電源15から電流を流してヒータ12を発熱させる。
【0043】
周囲温度しきい値は、CO検出感度に対して水素(H2 )検出感度が識別が困難になる周囲温度(たとえば、35℃)に設定される。検出した周囲温度が周囲温度しきい値以上の場合、水素(H2 )の有無の判断は難しいため、ヒータ12による加熱は行われず、CO警報点(警報しきい値)の補正は行わない。また、周囲温度がマイナス温度になると、水素(H2 )による誤警報がないと考えられるので、マイナス温度でのCO警報点(警報しきい値)の補正も行わない。
【0044】
CPU22aは、発熱したヒータ12により、電気化学式センサ1のセンサ素子4を所定温度(たとえば、50℃)まで加熱するように制御する。次に、CPU22aは、センサ素子4が50℃に過熱された状態のセンサ出力を取り込み、RAM22cに記憶する。次に、CPU22aは、RAM22cに記憶された、周囲温度でのセンサ出力と50℃加熱時のセンサ出力との比(感度比)を算出し、算出された比(感度比)から水素(H2 )の有無することが判断されたら、CO警報点(警報しきい値)の補正を行う。
【0045】
図9は、CPU22aが行う上述のCO警報器20のCO警報点(CO警報しきい値)の補正処理を示すフローチャートである。まず、温度センサ21の温度検出信号を所定のサンプリングタイミングで取り込み、検出した周囲温度TをRAM22cに記憶すると共に、電気化学式センサ1のセンサ出力を取り込み、検出したセンサ出力V(T)をRAM22cに記憶する(ステップS1;検出手段)、次に、検出したセンサ出力V(T)と、ROM22bに予め記憶しておいたエアベースV(0)との差(感度)ΔV(T)(=V(T)−V(0))を算出する(ステップS2)。
【0046】
次に、温度補正後のセンサ出力が、警報点ΔVの半分のレベル以上(ΔV(T)/K(T)≧ΔV/2(警報点))か否かを判定する(ステップS3)。K(T)は温度補正係数である。その答がNoならば、次いでステップS1に戻り、Yesならば、次いでステップS4に進む。このステップS3は、CO警報の予備判断ステップである。温度補正後の感度ΔV(T)/K(T)が、警報点ΔVの半分のレベルより小さい場合、ステップS4以降のCO警報の補正および警報の処理を行わない。それにより、CPU22aの処理が軽減される。温度補正後の感度ΔV(T)/K(T)が、ΔV(T)であれば、ステップS4以降の処理を行う。警報点ΔVは、たとえば常温(20℃)時のCO濃度150ppmに対応するレベルに設定される。
【0047】
ステップS4で、ステップS1で検出された周囲温度が周囲温度しきい値(たとえば、35℃)以下か否かを判定する(ステップS4;禁止手段)。その答がYesならば、次いで温度補正後のセンサ出力が警報点(警報しきい値)以上になった(ΔV(T)/K(T)≧ΔV(警報点))か否かを判定する(ステップS5)。
【0048】
ステップS5の答がNoならば、次いでステップS1に戻り、Yesならば、次いでステップS6に進む。ステップS6で、警報信号を警報部23へ出力し、ブザー等からなる警報部23よりCOの発生を警報する。
【0049】
一方、ステップS4の答がNoならば、次いで、スイッチ16がオンとなるように制御してヒータ12に電流を流して発熱させ、電気化学式センサ1のセンサ素子4を所定温度(たとえば、50℃)までヒートアップする(ステップS7;制御手段)。次に、周囲温度Tが第1の温度範囲(たとえば、20℃を超えて35℃以下)内にある(20℃≦T≦35℃)か否かを判定する(ステップS8;温度判定手段)。ステップS8の答がYesならば、次いでステップS9に進み、Noならば、次いでステップS10に進む。
【0050】
ステップS9(第1の判定手段)で、温度50℃の時のセンサ出力を取り込みRAM22cに記憶した50℃の時のセンサ出力とステップS1で検出した周囲温度Tの時のセンサ出力の比(感度比)を算出し、算出した比(感度比)が、第1の設定比(たとえば、1.5)以上(Δ(50℃)/ΔV(T)≧1.5)か否かを判定する。ステップS9の答がNoならば、水素(H2 )が発生して居ないと判断して、次いでステップS5に戻り、Yesならば、水素(H2 )が発生していると判断して、次いでステップS12に進む。
【0051】
ステップS10(温度判定手段)で、周囲温度Tが第2の温度範囲(たとえば、20℃以下)内にある(0℃<T≦20℃)か否かを判定する。ステップS10の答がYesならば、次いで、算出した比(感度比)が、第2の設定比(たとえば、2)以上(Δ(50℃)/ΔV(T)≧2)か否かを判定する(ステップS11;第1の判定手段)。ステップS11の答がNoならば、水素(H2 )が発生していないと判断して、次いでステップS5に戻り、Yesならば、水素(H2 )が発生していると判断して、次いでステップS12に進む。
【0052】
ステップS12(再設定手段)で、警報点の補正を行う。すなわち、ΔV(警報点)をΔV(T)/K(T)+ΔV(警報点)に再設定し、次いで、ステップS1に戻る。
【0053】
このように、水素(H2 )が発生してい留と判断された場合は、警報点(警報しきい値)を警報しにくくなる方向に、つまりもとの警報点(警報しきい値)より高い値に再設定されるので、水素(H2 )発生時のCOの誤警報を防止することができる。
【0054】
以上の通り、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限らず、種々の変形、応用が可能である。
【0055】
たとえば、上述の実施の形態では、予め設定される、警報しきい値、第1の設定比、第2の設定比、周囲温度しきい値、第1の温度範囲および第2の温度範囲がRAM22cに予め記憶されているが、これに代えて、EEPROM等の外部メモリの記憶手段に記憶しても良い。
【0056】
また、上述の実施の形態では、警報点(警報しきい値)ΔVをΔV(T)/K(T)だけ高い値に再設定しているが、これに限らず、元の警報点ΔVに好適な範囲の他の値を化加算して再設定しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の一実施の形態に係る電気化学式センサを用いたCO警報器の基本構成を示す基本構成図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る電気化学式センサの構造を示す断面図である。
【図3】図2の電気化学式センサの部分拡大断面図である。
【図4】(A)および(B)は、それぞれ、電気化学式センサにおけるフィルタの形状例を示す図である。
【図5】電気化学式センサにおけるヒータの発熱体の形状例を示す図である。
【図6】電気化学式センサのCOに対する感度依存性を示す温度特性図である。
【図7】電気化学式センサの水素(H2 )に対する感度依存性を示す温度特性図である。
【図8】本発明の実施の形態に係るCO警報器の構成を示すブロック図である。
【図9】CO警報器の警報点(警報しきい値)の補正処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0058】
1 電気化学式センサ
5 対極
6 高分子プロトン導電体膜(固体電解質膜)
7 検知極
9 フィルタ
10 フィルタ材
11 フィルタ
12 ヒータ
22a CPU(制御手段、検出手段、判定手段、第1の判定手段、第2の判定手段、再設定手段、禁止手段、温度判定手段)
22b ROM
22c RAM(記憶手段)
22a−1 制御手段
22a−2 検出手段
22a−3 判定手段
22a−3a 第1の判定手段
22a−3b 第2の判定手段
22a−4 再設定手段
22a−5 禁止手段
22a−6 温度判定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質膜を含むセンサ素子を有する電気化学式センサからのセンサ出力が警報しきい値以上になった時に警報を発するCO警報器であって、
前記電気化学式センサは、前記センサ素子を加熱するためのヒータをさらに有し、
前記CO警報器は、
前記電気化学式センサの前記ヒータに給電して前記センサ素子を周囲温度以上の所定温度まで加熱するように制御する制御手段と、
前記電気化学式センサが前記周囲温度状態にある時の第1のセンサ出力と、前記電気化学式センサが前記所定温度状態にある時の第2のセンサ出力を検出する検出手段と、
前記検出手段で検出された前記第1および第2のセンサ出力に基づいて水素ガスの有無を判定する判定手段と、
前記判定手段で水素ガス有りと判定された場合、前記警報しきい値を再設定する再設定手段と
を備えたことを特徴とするCO警報器。
【請求項2】
請求項1記載のCO警報器において、
前記判定手段は、前記検出手段で検出された前記第1および第2のセンサ出力の比を予め設定され記憶手段に記憶されている第1の設定比と比較することにより水素ガスの有無を判定し、
前記再設定手段は、前記判定手段で前記第1および第2のセンサ出力の比が前記第1の設定比以上になり、前記水素ガス有りと判定された場合、前記警報しきい値を予め設定された値より高い値に再設定する
ことを特徴とするCO警報器。
【請求項3】
請求項1または2記載のCO警報器において、
前記CO警報器の周囲温度を検出する温度検出手段と、
前記温度検出手段により検出された周囲温度が、前記所定温度より低く予め設定され記憶手段に記憶されている周囲温度しきい値以上になった場合に前記再設定手段による再設定を禁止する禁止手段をさらに備えたことを特徴とするCO警報器。
【請求項4】
請求項3記載のCO警報器において、
前記温度検出手段により検出された周囲温度が前記温度しきい値より低い予め設定され記憶手段に記憶されている第1の温度範囲内にあるか否かを判定する温度判定手段をさらに備え、
前記判定手段は、前記温度判定手段により前記周囲温度が前記第1の温度範囲内にあると判定された場合、前記第1および第2のセンサ出力の比を前記第1の設定比と比較することにより水素ガスの有無を判定する第1の判定手段と、前記温度判定手段により前記周囲温度が前記第1の温度範囲より低い第2の温度範囲内にあると判定された場合、前記第1および第2のセンサ出力の比を前記第1の設定比より高く予め設定され記憶手段に記憶されている第2の設定比と比較することにより水素ガスの有無を判定する第2の判定手段とを含み、
前記再設定手段は、前記第1の判定手段または前記第2の判定手段で前記水素ガス有りと判定された場合、前記警報しきい値を予め設定された値より高い値に再設定する
ことを特徴とするCO警報器。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のCO警報器に用いられる電気化学式センサであって、
前記センサ素子は、前記固体電解質膜の一面に検知極を他面に対極を設けたセンサ素子であり、
前記電気化学式センサは、互いに絶縁された導電性容器にフィルタ材を充填し、周囲雰囲気ガスを通過させて前記センサ素子の前記検知極に導入する第1および第2のフィルタを備え、
前記ヒータは、前記第1のフィルタの導電性容器に電気的に一端が接続されかつ前記第2のフィルタの導電性容器に電気的に他端が接続されている
ことを特徴とする電気化学式センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−240484(P2007−240484A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−67142(P2006−67142)
【出願日】平成18年3月13日(2006.3.13)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】