説明

CX3CR1受容体モジュレータ及びその治療的使用

本発明はCX3CR1レセプタのモジュレータに関する。より詳しくは、CX3CR1レセプタのアンタゴニストとアゴニストが特定された。これ等拮抗質及び作動物質は、炎症性疾患、自己免疫疾患、心臓血管疾病、神経変性疾患、対宿主性移植片病、行動障害、瘢痕化疾患、ウイルス性感染症、癌又は疼痛の治療に用いることができる。また、ワクチン組成における添加剤として用いても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はCX3CR1受容体のモジュレータに関する。より詳しくは、CX3CR1受容体(レセプタ)の拮抗質(アンタゴニスト)と作動物質(アゴニスト)が特定された。これ等の拮抗質(拮抗体)及び作動物質(作動体)は、炎症性疾患、自己免疫疾患、心臓血管疾病、神経変性疾患、対宿主性移植片病、行動障害、瘢痕形成疾患、ウイルス性感染症、癌又は疼痛の治療に用いることができる。それ等はまた、ワクチン組成における添加剤として用いても良い。
【背景技術】
【0002】
ケモカインは、恒常及び炎症状態に交通する白血球に含まれる一系統の微小分泌タンパク質(典型的には8−10kDa)である。それ等は、それ等のレセプタとともに、生理学的または病理学的状態における白血球移動を変調する標的として識別されている。
【0003】
ケモカインCX3CL1(フラクタルカインとも呼ばれる)は可溶性の、且つ膜アンカード形式として存在する(Imai et al. (1997) Cell 91, 521-530)と云う意味で、他のケモカインから構造的に区別できる。それは膜アンカーされて、その唯一のレセプタであるCX3CR1を発現する白血球のセレクチン及びインテグリン独立接着を促進する。他方、生CX3CL1の劈開により生成される可溶性CX3CL1は有力な化学誘引物質である。
【0004】
Koposiの肉腫ヘルペスウィルスにより符号化されるvMIP−II(Kledal et al. 1997, Science 277(5332): 1656-9; Chen et al. 1998, J Exp Med 188 (1): 193-8)等のタンパク質及びRSV Gタンパク質(Harcourt et al. 2006, J Immunol 176 (3): 1600-8)はCX3CR1及びCX3CL1と結合して、それ等の活性度を変調することが示されている。だが、CX3CR1及び/又はCX3CL1に対するそれ等の結合性(親和力)は低く、従って適切な治療的化合物候補とはならない。
【0005】
突然変異CX3CL1タンパク質は、Mizoue et al. (2001, J Biol Chem 276, 33906-33914)とDavis et al. (2004, Pharmacol. 66, 1431-1439)とInoue et al. (2005, Arthritis Rheum 52, 1522-33)により記述されている。即ち、Mizoue et al. (2001, J Biol Chem 276, 33906-33914)はCX3CL1へのN末端変異が結果として生物活性の低下したタンパク質を生ずることを報告した。Davis el al. (2004)はキメラCX3CL1−MIP−II融合タンパク質と、アミノ酸9−11が削除されている突然変異ヒトCX3CL1タンパク質の両方を記述した。だが、これ等のタンパク質の示した結合性は低い。Inoue et al. (2005)は、4つのN端末残基を欠くネズミのCX3CL1はネズミのCX3CL1に対して拮抗物質として作用することを報告した。だが、この化合物がヒトCXCR1にも結合すると云う証拠は無い。更に、ヒトCX3CL1の最初の7つの残基の除去がCX3CR1に対して親和性の低い不活性アナログを生成することが示されている(Mizoue el al., 2001)。
【0006】
CX3CR1及びCX3CL1は多数の炎症性疾患で暗示されていた(Umehara et al. 2001, Trends Immunol 22, 602-7; Stievano et al. 2004, Crit Rev Immunol 24, 205-28)。例えば、内皮細胞において、ストレスと炎症性サイトカインの両方がCX3CL1発現を上方調整する(Umehara et al. 2004, Arterioscler Thromb Vasc Biol 24, 34-40)。細胞毒性CT8T細胞やNK細胞等のCX3CR1発現白血球の糸球体への漸増は糸球体腎炎(Chen et al. 1998, J. Exp. Med. 188, 193-198)及び狼瘡腎炎(Inoue et al. 2005, Arthritis Rheum 52, 1522-33)に関係するようである。更に、炎症性血管CX3CL1内皮はCX3CR1単核細胞を捕捉して細胞蓄積の主要成分となり、これがマウス(Combadiere et al. 2003, Circulation 107, 1009-16; Lesnik et al. 2003, J Clin Invest 111, 333-40)及びヒト(Moatti et al. 2001, Blood 97, 1925-8)におけるアテローム発生を惹き起す。最後に、CX3CR1白血球の漸増はリウマチ様動脈炎(Ruth et al. 2001, Arthritis Rheum 44, 1568-81)及び炎症性腸疾患(Brand et al. 2006, Am J Gastroenterol 101, 99-106)において働きをする。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
非特許文献1:Imai et al. (1997) Cell 91, 521-530
非特許文献2:Kledal et al. 1997, Science 277(5332): 1656-9
非特許文献3:Chen et al. 1998, J Exp Med 188 (1): 193-8
非特許文献4:Harcourt et al. 2006, J Immunol 176 (3): 1600-8
非特許文献5:Mizoue et al. 2001, J Biol Chem 276, 33906-33914
非特許文献6:Davis et al. 2004, Pharmacol. 66, 1431-1439
非特許文献7:Inoue et al. 2005, Arthritis Rheum 52, 1522-33
非特許文献8:Umehara et al. 2001, Trends Immunol 22, 602-7
非特許文献9:Stievano et al. 2004, Crit Rev Immunol 24, 205-28
非特許文献10:Umehara et al. 2004, Arterioscler Thromb Vasc Biol 24, 34-40
非特許文献11:Combadiere et al. 2003, Circulation 107, 1009-16
非特許文献12:Lesnik et al. 2003, J Clin Invest 111, 333-40)
非特許文献13:Moatti et al. 2001, Blood 97, 1925-8
非特許文献14:Ruth et al. 2001, Arthritis Rheum 44, 1568-81
非特許文献15:Brand et al. 2006, Am J Gastroenterol 101, 99-106
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、CX3CR1モジュレータは有望な抗炎症薬であり、従来、新規、且つ有力なCX3CR1モジュレータを特定するニーズがあった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
作動及び拮抗CX3CR1モジュレータの両方を特定するのにファージ表示策を用いた。かなり多くの作動性及び拮抗性CX3CR1モジュレータが特定された(配列ID番号:7−50)。これ等のCXCR1モジュレータはCXCR1モジュレータのコンセンサス配列を定義できた(配列ID番号:1−6、51)。本明細書に記載のCX3CR1モジュレータは生ヒトCX3CL1のものに近い見掛けCX3CR1結合親和性を示している。更に、これ等のCX3CR1モジュレータは自然発生アミノ酸のみを含む完全組換えCX3CL1類似体であり、従って低コスト生産に適している。
【0010】
斯く特定された1つの拮抗性モジュレータ(F1と呼ぶ)が更に特徴付けられた。F1は専らCX3CR1を発現するヒト細胞に結合し、生CX3CL1のものに近いKd値を有した。だが、F1は化学走性、カルシウムフラックス又はCX3CR1内在化を誘発しなかったので、信号伝達分子ではない。更に、それはCX3CL1誘導カルシウムフラックスと、ヒト及びマウス両方のCX3CR1発現一次細胞における走化性を5−50nMのIC50で有効に抑止した。それはまた、CX3CL1−CX3CR1軸を介してもたらされる細胞接着を効果的に抑止した。最後に、F1は腹膜炎の非感染ネズミのモデルにおいてCX3CR1単核細胞(単球)の腹膜漸増を部分的に抑制した。
【0011】
本発明は従って、ヒトCX3CR1の作動体(アゴニスト)及び拮抗体(アンタゴニスト)に関する。斯かるモジュレータは、CX3CR1抑制により作用する抗炎症薬の開発のための主役化合物として用いることができる。
【0012】
本発明によるモジュレータ
【0013】
本発明は単離及び/又は純化したヒトCX3CR1受容体モジュレータに関し、該モジュレータは配列X−X−X−X−X−X−X(配列ID番号:1)又はX−X−X−X−X−X(配列ID番号:2)を含んで成り、ここで
はI,T,F,Q,S,W,A,G,N又はV、
はそれがある場合に、L,P又はR、
はD,A,Q,G,L,I,P,H,F,V又はS、
はN,Q,G,S,L,R,F,H,V,M,Y又はP、
はV,A,D又はG、
はL,M又はV、
はS,P,T又はAであり、
ここで、配列ID番号:2は配列QHHGVT(配列ID番号:52)又はQHLGMT(配列ID番号:.53)からは成らない。配列ID番号:1又は配列ID番号:2の前記配列は好ましくは前記モジュレータNの末端終端に位置する。
【0014】
用語「モジュレータ」は本明細書で用いるとき、CX3CR1受容器(レセプタ)に結合し、その生物活性を変調する化合物を指す。このモジュレータは拮抗体(即ち、CX3CR1受容体の生物活性を低下又は抑制する)又は作動体(CX3CR1受容体の生物活性を誘発又は増大する)の何れに対応しても良い。
【0015】
用語「CX3CR1受容体」は本明細書で用いるとき、CX3CL1ケモカインの受容体を指す。CX3CR1受容体は、ヒト染色体位置3p21.3にあるCX3CR1遺伝子により符号化される(Entrez Gene ID: 1524)。用語「CX3CR1受容体」は配列ID番号:63のタンパク質及びその自然発生変種、例えばスプライス変種、多形性変種及びタンパク分解処理により得られる変種を指す。斯かる自然発生変種は例えば、SwissProt Accession No. P49238に示されている。
【0016】
用語「CX3CR1受容体の生物活性」は本明細書で用いるとき、CX3CL1ケモカインによるCX3CR1の活性化、例えば細胞内カルシウムの可動化及び/又はCD8T細胞及び/又はNK細胞の誘発、を介してもたらされる生物活性の何れかを云う。CX3CR1受容体の生物活性を測る方法は従来技術で周知である。例えば、カルシウム可動化アッセイ、化学走性アッセイ又は生体内チオグリコレート誘発炎症アッセイを用いて、CX3CR1受容体の生物活性を測定することができる。斯かるアッセイは実施例1に記載されている。
【0017】
本発明によるモジュレータはCX3CR1受容体に結合する。好ましくは、それ等は明確にCX3CR1受容体に結合する。最も好ましくは、それ等の見掛け結合親和性(IC50)は10、5、2.5、2.3、2、1.9、1.5、1、0.5、0.3、0.16又は0.1nMより少ない。その見掛け結合親和性は好ましくは、競争結合における生CX3CL1のものと比較して、トレーサとしてのHEK−CX3CR1又はCHO-CX3CR1細胞及び[125I]−CX3CL1で測定される。
【0018】
拮抗体はCX3CR1発現細胞に内在化されず、従ってどんな信号も送らない。作動体は逆に、CX3CR1発現細胞に内在化され、従って信号を送る。
【0019】
より詳しくは、本発明による「拮抗体(アンタゴニスト)」は(i)PBMC細胞においてCX3CL1誘発カルシウム反応を抑制、(ii)NK細胞及びCD8+T細胞のCX3CL1誘発化学走性を抑制及び/又は(iii)単球(例えば、CD11b+Ly6G‐7/4+単球、最も好ましくは7/4lo単球)漸増を、好ましくは薬用量従属的に低減することができる。拮抗体の存在は好ましくは、CX3CL1のみが存在する場合のCX3CR1受容体の生物活性と比較して、CX3CR1受容体の生物活性を少なくとも10、15、20、25、30、40又は50%低下させる。
【0020】
本発明による「作動体(アゴニスト)」は、(i)細胞、例えばPBMC細胞においてカルシウム反応を誘発、(ii)NK細胞の及びCD8+T細胞の化学走性を誘発、(iii)単球(例えば、CD11b+Ly6G−7/4+単球、最も好ましくは7/4lo単球)漸増を、好ましくは薬用量従属的に誘発することができる。作動体は好ましくは、CX3CL1の存在下のCX3CR1受容体の生物活性と比較して、CX3CR1受容体の生物活性を少なくとも10、15、20、25、30、40又は50%増大する。
【0021】
用語「N末端終端」は別途指摘のある場合を除いて、ポリペプチドの成熟同形の末端部を指す。
【0022】
用語「ポリペプチドの成熟同形」は、信号ペプチド、プロペプチド又はプレペプチドの劈開後のポリペプチドの同形(isoform)を指す。
【0023】
そのN末端終端に所定の配列を含んで成るポリペプチドは、成熟同形の第1のアミノ酸が該配列にあるポリペプチドを指す。例えば、その末端終端に配列ILDNGVS(配列ID番号:8)を含んで成るポリペプチドは、ポリペプチドの成熟同形の最初の7つの残基がILDNGVSであるポリペプチドを云う。換言すれば、斯かるポリペプチドの成熟同形の最(最初の)N末端アミノ酸はイソロイシンである。
【0024】
別途指摘(配列リスティングの配列を言及することによる)のある場合を除いて、ポリペプチド内のアミノ酸の位置は該ポリペプチドの成熟同形に相対的に与えられる。
【0025】
本明細書で用いられるとき、「単離及び/又は純化(した)」は人体及び/又は化合物ライブラリから単離及び/又は純化されている化合物を云う。
【0026】
好適な実施態様において、本発明によるモジュレータは拮抗体(アンタゴニスト)である。斯かる拮抗体は好ましくは、以下(i)〜(vi)から成る群より選ばれる何れか1つである:
(i)配列X−X−X−X−X−X−X(配列ID番号:1)又はX−X−X−X−X−X(配列ID番号:2)を含んで成る拮抗体,ここで
はI,T,F,Q,S,W又はV、
はそれがある場合に、L,P又はR、
はD,A,Q,G,L,I,P又はS、
はN,Q,G,S,L,R,F,H又はP、
はV,A,D又はG、
はL又はV、
はS,P,T又はAである
(ii)配列X−X−X−X−X−X−X(配列ID番号:1)を含んで成る拮抗体、ここで
はI,T,F,Q,S又はW、
はL,P又はR、
はD,A,Q,G,L,I,P又はS、
はN,Q,G,S,L,R,F,H又はP、
はV,A,D又はG、
はL又はV、
はS,P,T又はAである
(iii)配列X−X−X−X−L−X(配列ID番号:3)を含んで成る拮抗体、ここで
はQ又はV、
はQ,L又はS、
はS,L又はF、
はV又はA
はS又はPである
(iv)配列X−L−X−X−X−X−X(配列ID番号:4)を含んで成る拮抗体、ここで
はI,T,F,S又はW、
はD,A,Q,G,I,P又はS、
はN,Q,G,S,L,R,H又はP、
はV,D又はG、
はL又はV、
はS,P,T又はAである
(v)配列Q−X−X−X−X−X−A(配列ID番号:5)を含んで成る拮抗体、ここで
はP又はR、
はD又はL、
はS又はF、
はV又はA、
はL又はVである
(vi)配列I−L−D−X−G−X−X(配列ID番号:6)を含んで成る拮抗体、ここで
は任意のアミノ酸、
はL又はV
はA又はSである。
【0027】
当業者に直ちに明らかなように、上記(i)〜(vi)に定義の配列ID番号:1〜6の配列は、一般式X−X−X−X−X−X−X(配列ID番号:1)又はX−X−X−X−X−X(配列ID番号:2)の配列の特定実施態様に対応し、ここで
はI,T,F,Q,S,W,A,G,N又はV、
はそれがある場合に、L,P又はR、
はD,A,Q,G,L,I,P,H,F,V又はS、
はN,Q,G,S,L,R,F,H,V,M,Y又はP、
はV,A,D又はG、
はL,M又はV、
はS,P,T又はAであり、
且つ、配列ID番号:2は配列QHHGVT(配列ID番号:52)又はQHLGMT(配列ID番号:53)からは成らないものとする。云い換えれば、一般式X−X−X−X−X−X−X(配列ID番号:1)又はX−X−X−X−X−X(配列ID番号:2)は好ましくは、上記(i)〜(vi)に定義の配列から選ばれる。上記(i)〜(vi)に定義の前記配列は従って、本発明によるモジュレータのN末端終端に位置するのが好ましい。
【0028】
最も好ましくは、前記拮抗体は配列ID番号:8〜24から成る群から選ばれた配列を含んで成る。この好適な実施態様において、一般式X−X−X−X−X−X−X(配列ID番号:1)又はX−X−X−X−X−X(配列ID番号:2)の配列は配列ID番号:8〜24の配列から選ばれる。
【0029】
もう1つの好ましい実施態様において、本発明によるモジュレータは作動体(アゴニスト)である。斯かる作動体は好ましくは配列X−X−X−X−X−X(配列ID番号:2)を含んで成り、ここで
はQ,A,G又はN、
はP,A,H,L,S,F又はV、
はG,Q,V,M,L,S,P,H,R又はY、
はA又はG、
はL,M又はV、
はS,P,T又はAである。
【0030】
当業者に直ちに明らかなように、上記配列ID番号:2の配列はまた、一般式X−X−X−X−X−X−X(配列ID番号:1)又はX−X−X−X−X−X(配列ID番号:2)の配列の特定実施態様に相当する。従って、それは本発明によるモジュレータのN末端終端に位置するのが好ましい。
【0031】
最も好ましくは、前記作動体は配列ID番号:25〜51から成る群から選ばれた配列を含んで成る。この好適な実施態様において、一般式X−X−X−X−X−X−X(配列ID番号:1)又はX−X−X−X−X−X(配列ID番号:2)の配列は配列ID番号:25〜51の配列から選ばれる。
【0032】
或いはまた、本発明による作動体は配列X−X−X−X−X−X(配列ID番号:.7)を含んで良く、ここで
は任意のアミノ酸、
は任意のアミノ酸、
は任意のアミノ酸、
はV,A,D又はG、
はL,M又はV、
はS,P,T又はAであり、
且つ、配列ID番号:7はQHHGVT(配列ID番号:52)又はQHLGMT(配列ID番号:53)から構成されない。配列ID番号:7の前記配列は好ましくは、前記モジュレータのN末端終端に位置付けられる。
【0033】
本発明によるモジュレータはペプチド又はポリペプチドの何れかに対応しても良い。
【0034】
好適な実施態様において、前記モジュレータはペプチド(即ち、アミノ酸50、40、30、20又は10未満のアミノ酸分子鎖)に相当する。本発明のペプチドは要すれば、化学的改質物を含んで、その安定性及び/又はその生物学的利用性を良くすることができる。斯かる化学的改質剤は生体内の酵素劣化に対してペプチドの保護及び/又は膜障壁を超える能力が増大したペプチドを得、従ってその半減期を増大し、且つその生物活性を維持又は改良することを目的とする。本発明によれば、周知の化学的改質何れも用いることができる。斯かる化学的改質には、ペプチドのN末端及び/又はC末端終端に対する改質、2つのアミノ酸間のアミド結合における改質、2つのアミノ酸をリンクするアミド結合のアルファ炭素における改質、キラリティ変更、逆反転、アザペプチドを生じる改質及びベータペプチドを生じる改質が含まれるが、それ等には限定されない。
【0035】
もう1つの好適な実施態様において、前記モジュレータはポリペプチド(即ち、50のアミノ酸を超えるアミノ酸分子鎖)に相当する。該ポリペプチドは好ましくは、可溶性ポリペプチドに相当する。
【0036】

本発明によるモジュレータは好ましくは、配列ID番号:55又は56の少なくとも10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、125、150、175、200、250又は300のアミノ酸の断片を含むペプチド又はポリペプチドから成る。本発明によるモジュレータは好ましくは、CXC3CL1のケモカイン分域を含んで成る。本モジュレータは更に、CXC3L1のムチンストーク(stalk)分域を含んでも良い。従って、より好ましいモジュレータは
i.配列ID番号:55のアミノ酸1〜77、1〜316又は〜318
ii.配列ID番号:56のアミノ酸1〜76、1〜315又は〜317
iii.(i)又は(ii)に対して少なくとも80、85、90、95、96、97又は99%の同一性を示す配列
を含む、又はから成る。
【0037】
本明細書に提示の実施例から得られる情報は第2世代ライブラリの構築のため用いることができる。該ライブラリでは、
‐モジュレータのN末端終端が配列ID番号:55又は56のN末端終端と同一である、且つ
‐第1の対の保存システインに対するC末端の近傍領域(Nループ領域)に付加的突然変異が導入される。この領域はCX3CL1の残基40〜50に相当する。だが、付加的突然変異は好ましくは、タンパク質のコア内に明らかにある残基にも、4つの保存システイン残基にも、導入されない。
【0038】
本発明によるモジュレータは好ましくは、配列ID番号:7〜51の何れか1つの配列から成るN末端終端をもつ。本発明によるモジュレータはまた、上に定義のような配列ID番号:1〜6の何れか1つの配列から成るN末端終端を有しても良い。
【0039】
本発明によるモジュレータは更に、免疫グロブリンの断片を含んでも良い。免疫グロブリンの斯かる断片は溶解度を高める、又は特定器官をモジュレータの攻撃目標にするのに有用である(例えば、Challita-Eid et al. 1998, J Immunol 161 (7): 3729-36.; Biragyn et al. 1999, Nat Biotechnol 17 (3): 253-8参照)。
【0040】
本モジュレータは更に、タンパク質分解処理により劈開される、例えば信号ペプチド、プロペプチド又はプレペプチド等のリーダ配列を含み、本発明によるN末端終端を有するペプチド又はポリペプチドを発生しても良い。
【0041】
本発明による突然変異体
【0042】
本発明は更に、ヒトCX3CL1の単離及び/又は純化した突然変異体であって、該突然変異体の成熟(mature)同形のN末端終端が
‐配列ID番号:1〜51の何れか1つの配列から成り、且つ
‐QHHGVT(配列ID番号:52)又はQHLGMT(配列ID番号:53)から成らない
ものに関する。
【0043】
本明細書で用いられるとき、用語「CX3CL1」及び「CX3CL1ポリペプチド」はヒトCX3CL1ケモカインを指す。CX3CL1ケモカインは、ヒト染色体16q13にあるCX3CL1遺伝子により符号化される(Entrez GeneID: 6376)。「CX3CL1」及び「CX3CL1ポリペプチド」はより詳しくは、配列ID番号:54のタンパク質及びその自然発生変種、例えばスプライシング変種、多形性変種及びタンパク質分解処理を通して得られる変種を云う。斯かる自然発生変種は例えば、SwissPro Accession No. P78423に示されている。
【0044】
用語「突然変異体」は本明細書で用いられるとき、ポリペプチドの非自然発生変種を指す。
【0045】
本発明による突然変異体は、それ等のN末端終端が配列ID番号:1〜51の配列から成ることを特徴とする。
【0046】
本発明による突然変異体はCX3CL1ポリペプチドの断片に対応しても良い。突然変異体は例えば、CX3CL1ポリペプチドの少なくとも10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、125、150、175、200、250又は300のアミノ酸の断片、を含む又は、から成ることができる。突然変異体は好ましくは、CX3CL1ポリペプチドの可溶性断片に相当する。例えば、突然変異体はCXC3CL1のケモカイン分域及び/又はムチンストーク分域を含んでも良い。従って、より好ましい突然変異体は配列ID番号:54のCX3CL1のアミノ酸31〜100、31〜339又は31〜341を含む。
【0047】
他のより好適な突然変異体は、CX3CL1ポリペプチドの少なくとも10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、125、150、175、200、250又は300のアミノ酸、例えば配列ID番号:54のアミノ酸31〜100、31〜339、31〜341又は31〜397の断片に対して少なくとも80、85、90、95、96、97、98又は99%の同一性を示す配列を含む。
【0048】
基準配列と「少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%同一な」アミノ酸配列から成る突然変異体は基準配列と比較して、削除、挿入及び/又は置換等の突然変異体を含んでも良い。置換の場合、基準配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%同一なアミノ酸配列から成る突然変異体は基準配列ではない、別の哺乳類種由来の相同な配列に相当しても良い。もう1つの好適な実施態様において、置換は好ましくは下の表に示されているように保存的置換に相当する。
【0049】
【表4】

【0050】
これ等突然変異体は免疫グロブリン及び/又は先導配列の断片を含んでも良い。先導配列は生CX3CL1信号ペプチド又は異形配列の何れかに相当するものとしても良い。
【0051】
最も好適な突然変異体は本発明によるモジュレータに対応する。より詳しくは、斯かる突然変異体はCX3CR1受容体に結合し、「本発明によるモジュレータ」のタイトル下の段落で述べたようにその生物活性を変調することができる。
【0052】
本発明による核酸
【0053】
本発明は更に、本発明によるモジュレータ又は突然変異体を符号化する核酸に向けられている。斯かる核酸は、クローニング及び配列ID番号の有向突然変異誘発により当業者に容易に得られる。
【0054】
本発明によるモジュレータ、突然変異体及び核酸の治療的使用
【0055】
CX3Cl1及びその受容体CX3CR1は、多数の炎症過程で重要な役割を果たす。CX3CL1/CX3CR1の経路は、多発性硬化症(Huang et al. 2006, Faseb J 20 (7): 896-905) 等の自己免疫疾患、リウマチ様動脈炎(Sawai et al. 2007 Arthritis Rheum 56 (10): 3215-25)、紅斑性狼瘡(Inoue et al. 2005, Arthritis Rheum 52 (5): 1522-33)、心臓血管疾病(Moatti et al. 2001, Blood 97 (7): 1925-8; Combadiere et al. 2003, Circulation 107 (7): 1009-16; Lesnik et al. 2003, J Clin Invest 111 (3): 333-40; McDermott et al. 2003, J Clin Invest 111 (8): 1241-50)、黄斑変性 (Combadiere et al. 2007, J Clin Invest 117 (10): 2920-8) 及びパーキンソン症候群(Cardona et al. 2006, Nat Neurosci 9 (7): 917-24)等の神経変性疾患、対宿主性移植片病(Robinson et al. 2000, J Immunol 165 (11): 6067-72)、癌(Andre et al. 2006, Ann Oncol 17 (6): 945-51; Vitale et al. 2007, Gut 56 (3): 365-72)、HIV感染(Faure et al. 2000, Science 287 (5461): 2274-7; Garin et al. 2003, J Immunol 171 (10): 5305-12)等のウイルス性感染症、RSウイルス感染症症(Tripp et al. 2001, Nat Immunol 2 (8): 732-8)及び西ナイルウイルス感染症(Getts et al. 2008, J Exp Med 205 (10): 2319-37)の発現に含まれることが示されている。CX3CL1/CX3CR1の経路はまた、瘢痕形成(Ishida et al. 2008, J Immunol 180 (1): 569-79)、疼痛(Holmes et al. 2008, J Neurochem 106 (2): 640-9)、行動障害(Gordon Research Conference, 21-26/09/2008)に含まれることが示され、CXC3CL1を符号化する核酸はワクチンにおける添加剤(Iga et al. 2007, Vaccine 25 (23): 4554-63)として有用である。
【0056】
従って、本発明は、医薬として特に本明細書に記載の病気何れの治療又は予防のために用いられる、本発明によるモジュレータ、突然変異体又は核酸に向けられている。
【0057】
本発明のより好適な側面は、
‐炎症性疾患、自己免疫疾患、心臓血管疾病、神経変性疾患、対宿主性移植片病、行動障害、瘢痕形成疾患、ウイルス性感染症、癌又は疼痛から成る群より選ばれた疾病を治療又は予防する方法であって、本発明によるモジュレータ、突然変異体又は核酸を、それを要する個体に投与する処置を含んで成る方法及び又は
‐炎症性疾患、自己免疫疾患、心臓血管疾病、神経変性疾患、対宿主性移植片病、行動障害、瘢痕形成疾患、ウイルス性感染症、癌又は疼痛から成る群より選ばれた疾病を治療又は予防するために用いられる本発明によるモジュレータ、突然変異体又は核酸
に向けられている。
【0058】
より一般的には、本発明は新規な、効力の大きい治療化合物及び医薬物質、特に精神又は神経疾病、又は免疫系病変、感染症又は癌の治療のためのものの生成に向けられている。これ等のモジュレータはまた、特定の治療薬がいま無い病理学的状態の治療のための医薬としても用いることができる。マカクモデルを用いた出版物掲載の研究は、局部薬剤におけるケモカイン変種の潜在能力を既に強調している(Lederman, 2004, Science, 306, 485-487)。年齢関連障害の予防の分野では、成長ホルモン放出の制御の要因である稀少GPCRの代理アゴニストが、加齢に関連する廃疾のいくつかを回復させる(Smith et al., 1999, Trends Endocrinol Metab. 10(4), 128-135)ことが期待されている。
【0059】
「有効量」は、治療すべき病気を予防、治療又はその進行を減速できるペプチドの濃度を実現するに十分な量を意味する。斯かる濃度は当業者により所定の手順で容易に決定することができる。実際に投与される化合物の量は一般に、治療すべき状態、投与の選択ルート、実際の投与化合物、個体患者の年齢、体重及び反応、患者の症候の重篤度等を含む関連状況をみて医師により決定されるであろう。投与量は投与ペプチドの安定性にもよることも当業者には理解されるであろう。
【0060】
「それを要する個体」は、治療又は予防すべき病気を患っている又は患いやすい個体を意味する。本発明の枠内で治療されるべき個体は好ましくは、ヒト個人である。だが、モジュレータ、突然変異体及び核酸の獣医学的使用も本発明により意図されている。
【0061】
「治療」は治療的使用を意味し、「予防」は予防的使用を意味する。
【0062】
好適な実施態様において、モジュレータ、突然変異体又は核酸はアンタゴニスト(拮抗体)である、又はこれを符号化する。そして、前記病気は、炎症性疾患、自己免疫疾患、心臓血管疾病、神経変性疾患、癌及び対宿主性移植片病から成る群より選ばれる。炎症性疾患は例えば、糸球体腎炎又は狼瘡性腎炎に相当することがある。自己免疫疾患は例えば多発性硬化症、リウマチ様動脈炎、狼瘡性紅斑症、炎症性腸疾患及び潰瘍性大腸炎を含む。心臓血管疾病は例えばアテローム性動脈硬化症、血栓症、アテローム血栓症及び心不全を含む。癌は例えば乳癌、結腸癌及び淋巴腫を含む。神経変性疾患は例えば、パーキンソン病に相当することがある。
【0063】
もう1つの好適な実施態様において、モジュレータ、突然変異体又は核酸はアゴニスト(作動体)である、又はこれを符号化する。そして、前記病気は、ウイルス性感染症及び活動及び注意力障害等の行動障害から成る群より選ばれる。ウイルス性感染症は例えば、HIV感染症に相当することがある。行動障害は好ましくは、活動過剰随伴又は非随伴注意力欠損疾患に相当する。
【0064】
本発明はまた、
‐本発明によるアゴニスト、本発明による、アゴニスト活性をもつ突然変異体、又は本発明による、アゴニストを符号化する核酸の有効量を、それを要する個体に投与する処置を含んで成る、抗腫瘍反応又は瘢痕化を刺激する方法、及び/又は
‐抗腫瘍反応又は瘢痕化を刺激するのに用いられる、本発明によるアゴニスト、本発明による、アゴニスト活性をもつ突然変異体、又は本発明による、アゴニストを符号化する核酸
に向けられている。
【0065】
本発明は更に、
‐本発明によるアゴニスト、本発明による、アゴニスト活性をもつ突然変異体、又は本発明による、アゴニストを符号化する核酸の有効量を含んで成るワクチン組成物を前記個体に投与する処置を含んで成る、個体にワクチン接種する方法、及び/又は
‐ワクチン組成物に添加物として用いられる本発明によるアゴニスト、本発明による、アゴニスト活性をもつ突然変異体、又は本発明による、アゴニストを符号化する核酸
に向けられている。
【0066】
本発明によるモジュレータ、突然変異体又は核酸は任意の経路を通して、好ましくは非経口又は局所経路を通して投与することができる。
【0067】
本発明によるモジュレータ、突然変異体及び核酸を含む組成物
【0068】
本明細書に記載のモジュレータ、突然変異体及び核酸は医薬組成物に配合することができる。従って、本発明は、本明細書に記載のモジュレータ、突然変異体及び核酸の任意のもの及び生理的に許容し得る担体を含む医薬組成物を考える。生理的に許容し得る担体は、当業者により任意の方法によって作成することができる。
【0069】
本発明の少なくとも1つのモジュレータ、突然変異体及び核酸を含む医薬組成物は、モジュレータ、突然変異体又は核酸が所期の目的を達成するのに有効な量含まれるあらゆる組成を含む。加えて、医薬組成物は活性化合物の、薬剤として使用可能な配合物への処理を促進する、付形剤及び補剤を含む適宜の生理的許容可能担体を含んでも良い。用語「生理的許容可能な担体」は、有効成分の生物活性の有効性を妨げず、投与されるホストに有毒でない任意の担体を含むことを意味する。適宜の生理的許容可能な担体は周知であり例えば、この分野の標準的参考文献であるRemington’s Pharmaceutical Science (Mack Publishing Company, Easton, USA, 1985)に記載されている。例えば、非経口の投与では食塩水、デキストロース溶液、血清アルブミン及びリンガー溶液等のビヒクルでの注射のため、上記有効成分を単位投与量に調合することができる。生理的許容可能な担体の他に、本発明の組成物はまた、安定剤、付形剤、緩衝剤や防腐剤等の添加剤を少量含んでも良い。本発明の組成物は更に、第2の有効成分を含んでも良い。
【0070】
本発明のモジュレータ、突然変異体及び核酸は、所期の目的を実現する任意の手段で投与できる。例えば、投与は皮下、静脈内、皮内、筋肉内、腹腔内、大腸内、髄腔内、鼻内、口腔内、直腸、経皮、頬、局部、局所、吸入又は皮下使用を含むが、これ等に限らない、多数の異なる経路によって達成しても良い。非経口及び局部経路は特に好ましい。
【0071】
投与すべき投与量は、所望の効果に関する個々の必要及び選択投与経路による。投与される投与量は受者の年齢、性別、健康状態及び体重、他に何かあれば同時治療、治療の頻度及び所望効果の性質に依存するであろうことが分かる。各治療に要する全薬用量は複数薬用量であることも、単一薬用量であることもある。
【0072】
狙いとする配達経路に応じて、化合物は液体(例えば溶液、懸濁液)、固体(例えばピル、錠剤、坐薬)又は半固体(例えばクリーム、ゲル)形式として配合することができる。
【0073】
好適な実施態様において、生理的許容可能な担体はヒドロゲル基質である。本発明によるモジュレータ、ポリペプチド又は核酸は好ましくは、ヒドロゲル基質に共有結合される。斯かるヒドロゲルは局部使用に、例えば瘢痕化を強める、及び/又は刺激するために極めて好都合である。ヒドロゲル基質は例えば、Kuros Biosurgery AG (Zurich, Switzerland) により商品化されている。
【0074】
本発明はまた、本発明のペプチドを、例えば遺伝子療法による治療の枠内で符号化する核酸を含んで成る医薬組成物を考える。この場合、核酸は好ましくは、ペプチドのコーディングが、その発現を可能にする発現信号(例えば、プロモーター、ターミネーター及び/又はエンハンサー)の制御下に置かれるベクトル上に存在する。このベクトルは例えば、アデノウイルス又はレンチウイルスベクトル等のウイルスベクトルに相当する。
【0075】
本発明は更に、本発明によるモジュレータ、突然変異体又は核酸を含む医薬組成物と、投与様式に関する指図書を含んで成るキットを提供する。これ等指図書は医療指示、投与の経路、投与量及び/又は治療される患者のグループを指示することができる。
【0076】
本発明はまた、
‐免疫抗原性の分子、
‐本発明によるモジュレータ、突然変異体又は核酸、及び
‐生理的許容可能な担体
を含むワクチンである医薬組成物を提供する。
【0077】
斯かるワクチンは、有効成分としての免疫抗原性分子と、添加剤としての本発明によるモジュレータ、突然変異体又は核酸とを含んで成る。本発明によるモジュレータ、突然変異体又は核酸の役割はその場合、免疫抗原性分子に対する免疫反応を引き出すことである。この実施態様の枠内で、ワクチンは本発明による核酸を含み、該核酸がアゴニストを符号化するのが好ましい。
【0078】
本発明によるモジュレータ及び突然変異体の生成方法
【0079】
本発明のモジュレータ及び突然変異体は、組換技術及び化学合成技術を含む周知の手法で生成することができる。
【0080】
本発明の好適な実施態様は、本発明によるモジュレータ又は突然変異体を生成する方法であって、
a)本発明による核酸を含むホスト細胞を用意し、
b)モジュレータ又は突然変異体の発現に適した条件下で前記ホスト細胞を培養し、
c)モジュレータ又は突然変異体を単離する
の手順を含む方法に向けられている。
【0081】
この方法は更に、前記モジュレータ又は突然変異体を純化する、そして必要に応じて、前記モジュレータ又は突然変異体を医薬組成物に配合する手順を含んでも良い。
【0082】
この発明の枠内で、本発明による核酸は好ましくは、発現ベクトルにクローン複写される。斯かる発現ベクトルでは、本発明の核酸がその発現を可能にする発現信号(例えば、プロモーター、ターミネーター及び/又はエンハンサー)の制御下に置かれる。
【0083】
この発明の枠内で、本発明による核酸は好ましくは、信号ペプチド等のリーダ配列をそのN末端終端に含む本発明によるポリペプチド又は突然変異体を符号化する。
【0084】
ホスト細胞は、タンパク質生成のための任意の周知ホスト細胞に相当するものとしても良い。斯かるホスト細胞はヒト細胞(例えば、293, PER. C6)や、CHO、マウス、サル、カビ(例えば、A. niger)、イースト(例えば、S. cerevisiae)及びバクテリア(例えば、E. coli)を含む。
【0085】
定期刊行物論文又は抄録、公開又は公告特許出願、登録特許又は他の参考文献を含む、本明細書に引用の全ての参考文献は引用により、斯かる引用文献中に提示の全てのデータ、表、図及び本分を含んで本明細書に参照として挿入される。
【0086】
明確な意味をもつものの、用語「含んで成る」、「有する」、「含む」及び「から成る」は本明細書を通じて互いに、交換可能に用いられている。そして、互いに置き換えできる。
【0087】
本発明を、次の実施例及び図面を考慮して更に評価する。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】ファージ表示CX3CR1アンタゴニストを選ぶのに用いる方法を示す。ファージ粒子は、多ヘッド(pIII‐CX3CL1突然変異体融合)をもつシリンダー(封入ファージゲノム)として描かれている。(1):ファージ表示CX3CL1突然変異体のライブラリが、細胞表面上にCX3CR1レセプタを安定に発現するHEK細胞に結合することが可能になる。(2):これ等細胞は37℃で培養され、アゴニストファージ粒子のリガンド誘発内在化を可能にする間、アンタゴニストは細胞内には入らない。(3):緊縮洗浄を用いて非特定結合ファージを除去した。(4):過剰量の可溶性CX3CL1(sCX3CL1)が添加され、表面随伴ファージを除去した。溶出ファージをE. Coliに感染させることができ、選択ファージの株が選択を新たにもう1度行う際の使用のために用意された(手順1〜4)。
【図2】F1及びF1‐Igの化学走性活性度を示す。ケモカインとケモカインIgの両者をそれ等の、CD8+T細胞(A),NK細胞(B)及びCD4+T細胞(C)に対する化学走性潜在能に付いて調べた。結果は化学走性指標Dとして表されている。D:F1は、1nM CX3CL1により誘発されるCD8+T細胞(◆)及びNK細胞(◇)の化学走性を量依存的に抑制する。データは標準的用量‐応答曲線(GraphPad Prismソフトウェア)に合っている。IC50はCD8+T細胞では6.6nM(LogIC50=0.82±0.8nM)、NK細胞では、2.9nM(LogIC50=0.46±0.3nM)であった。
【図3】F1のカルシウム評価分析(アッセイ)を示す。A:HEK‐CX3CR1細胞(トレースa及びb)又はPBMC(トレースc及びd)を、100nMのCX3CL1に対するカルシウム応答(トレースa及びc)又は指示濃度におけるF1に対するカルシウム応答(トレースb及びd)に付いて調べた。示されているのは、3つ中1つの代表的実験である。B:20nMのCX3Cl1によりPBMCに引き出されたカルシウム応答に関するF1(▲)及びF1‐Ig(△)を評価分析した。データ(3組の1つ±SD)は標準的用量‐応答曲線(GraphPad Prismソフトウェア)に合っている。IC50はF1では34nM(LogIC50=1.53±0.08nM)、F1‐Igでは72nM(LogIC50=1.86±0.14nM)であった。
【図4】CX3CR1安定発現細胞に付いて競合結合アッセイにより測定したF2及びF2−IgのヒトCX3CR1との結合を示す。A:CX3CR1発現HEK細胞との結合。B:CX3CR1発現CHO細胞との結合。
【図5】F2及びF2‐Igの特性の一部を示す。A:HEK‐CX3CR1の固定CX3CL1‐His、CX3CL1‐Ig及びF2‐Igへの接着性。データは、各条件における最大接着%で表されている。B:安定転移HEK細胞の面からのCX3CR1のダウン調整。HEK‐CX3CR1細胞は、CX3CR1又はCX3CL1変種を用いて37℃で30分培養された。面CX3CR1は単一クローン性のCX3CR1抗体で検出され、フローサイトメトリーにより分析された。CX3CL1及びF2は投与量依存レセプタのダウン変調を誘発する一方、F1でのダウン調整は観測されなかった。C:CX3CL1(△)及びR2(■)でのダウン調整後にCX3CR1をHEK‐CX3CR1にリサイクル。細胞は始め、100nMのケモカインを用いて37℃で30分培養した。洗浄を数回行った後、細胞は更に37℃で様々な時間培養され、CX3CR1発現に関して分析された。
【図6】F2(上線)及びF2‐Ig(下線)の化学走性を示す。F2及びF2‐Igの両方をそれ等の、CD3+T細胞(左欄)、NK細胞(中欄)及びCD4+T細胞(右欄)に対する化学走性潜在能力を調べた。結果は、ケモカインが無い状態で移動する細胞数に対して、ケモカインに応答して移動する細胞数を表す化学走性指標で表わされている。
【図7】CX3CR1発現細胞に関するF2‐Igのカルシウム強化分析の結果を示す。FKN‐Ig及びF2‐Igの種々の濃度(0、0.2、0.6、1.9、5.5、16.7、50及び150nM)に応答する細胞質ゾルのカルシウム依存蛍光の変化を、フルオ4色素の負荷されたCHO‐CX3CR1細胞に付いて特定した。
【0089】
配列の簡単な説明
【0090】
配列ID番号:1〜7及び64は、本発明によるモジュレータのコンセンサス配列に対応する。
配列ID番号:8〜24は、実施例2に記載のように特定されたアンタゴニストの配列に対応する。
【0091】
配列ID番号:25〜51は、実施例2に記載のように特定されたアゴニストの配列に対応する。
配列ID番号:52は、成熟ヒトのCX3CL1の6個のN末端アミノ酸に対応する。
【0092】
配列ID番号:53は、成熟ラット及びネズミのCX3CL1の6個のN末端アミノ酸に対応する。
配列ID番号:54は、ヒトCX3CL1(タンパク分解処理前の)の配列に対応する。
【0093】
配列ID番号:55及び56は、ヒトCX3CL1ポリペプチドの突然変異体に対応する。
配列ID番号:57は、免疫グロブリンの領域に融着したヒトCX3CL1の突然変異体に対応する。
【0094】
配列ID番号:58は、CX3CL1のCDSの核酸配列に対応する。
配列ID番号:59〜62、69及び70は、実施例1に用いられるオリゴヌクレオチドに対応する。
【0095】
配列ID番号:63は、ヒトCX3CL1の配列に対応する。
配列ID番号:64は、実施例2のフレーム内で用いられる配列に対応する。
【0096】
配列ID番号:65及び66は、ヒトCX3CL1ポリペプチドの突然変異体のヌクレオチド及びポリペプチド配列に対応する。
配列ID番号:67及び68は、免疫グロブリンの領域に融着したヒトCX3CL1ポリペプチドの突然変異体のヌクレオチド及びポリペプチド配列に対応する。
【発明を実施するための形態】
【0097】
実施例
【0098】
実施例1:プロトコル
【0099】
1.1細胞系
ヒト単球性白血病(THP-1)、ヒト胚形成腎臓(HEK)及びチャイニーズハムスター卵巣(CHO及びCHO‐S)細胞系は慣行的に、2mMのL‐グルタミン、1%(v/v)非必須アミノ酸、2mMピルビン酸ナトリウム、10%FBS、ペニシリン(50U/mL)及びストレプトマイシン(50μg/mL)補充のDMEMにて維持された。HEK‐CCR5及びHEK‐CX3CR1細胞は、Combadiere et al. (1996, J. Leukoc. Bio. 60, 147-152)及びCombadiere et al. (1998, J. Biol. Chem. 273, 23799-23804)により記述されている。ヒトCX3CR1を発現するCHO細胞は、Dr. Jeffery K. Harrison (Department of Pharmacology and Therapeutics, College of Medicine, University of Florida, Gainesville, FL, USA)からの寄贈であった。健康なドナーから得られるヒト末梢血単核性細胞(PBMC)及びC57B/6マウスからのマウス単核性骨細胞(MBMC)は、フィコール・ハイパーク勾配遠心分離法で純化された。
【0100】
1.2.ファージ・ケモカイン及びライブラリ構築
ヒトCX3CL1のDNA配列を、pBlast‐hCX3CL1プラスミド(Invivogen, San Diego, CA, USA)からのPCRにより、Nco l-tailed順プライマー5’‐CCGGCCATGGCCCAGCACCACGGTGTGAC(配列IC番号:59)及びNot I-tailed逆プライマー5’TTGTTCTGCGGCCGCGCCATTTCGAGTTAG(配列IC番号:60)で増幅した(エンドヌクレアーゼの認識部位に下線が付せられている)。このPCR生成物は切断され、Hoogenboom et al. (1991, Nucleic Acids Res 19, 4133-7)に記載されているようにpHEN1ファージミド・ベクトルにサブクローン化された。N末端CX3CL1突然変異体のライブラリが、Hartley et al. (2003, J Virol 77, 6637-44)により基本的に報告されているように、PCR突然変異誘発により、Not l-tailed 逆プライマー及び縮退上流プライマー5’‐CCGGCCATGGCCNNKCNANNKNNKGNCNTGNCAAAATGCAACATCACGTGC(配列ID:61)及び5’‐CCGGCCATGGCCNNKNNKNNKGNCNTGNCAAAATGCAACATCACGTGC(配列ID番号:69)で構成された。NCo lの認識部位に下線が付せられ、Nは4つの塩基の任意のものを、KはG又はTを表す。PCR生成物はファージミドpHEN1カットN col l‐Not lにクローン化され、E. Coli TG1に電気穿孔された。コロニーは選択前にPCRスクリーンされ、それ等のDNAインサートは自動シーケンサーABI377(Applied Biosystems, Parkin-Elmer, Waltham, Massachusetts, USA)で配列化されライブラリの多様性を調べた。
【0101】
1.3.生体細胞上のCX3CR1アンタゴニストの選択
選択方法を図1に提示する。CX3CL1突然変異体(1010CFU)のファージライブラリが5.10HEK‐CX3CR1又はHEK‐CCR5細胞で直接培養、細胞は25cmの組織培養フラスコ(Becton Dickinson, Le Pont de Claix, France)内37℃、CO5%、補充RPMI−1640媒体5ml中で培養した。1時間後、細胞は室温でリン酸緩衝塩類溶液(PBS)10mlを用いて10回洗浄され,次いでプレートからPBS‐0.5%BSA10ml内に掻取られた。細胞は次いで、ペレット化され、過剰量の可溶性CX3CL1(100μ中10μMのPBS‐BSA)から成る溶出緩衝液内の氷上に20分間培養された。細胞を遠心分離し(5分間1000xg)、上澄みをログ相E.coliTG1と混合し, Hartley et al. (2003, J Virol 77, 6637-44)に記載されているように選択を更に何度も行えるようにするため株ファージを生成及び純化した。
【0102】
1.4.生体細胞上のCX3CR1アゴニストの選択
選択方法は、細胞により細胞内に取り込まれたファージが回収される点を除いて、上記段落1.3.に記載されたものと同じである。アゴニストを選ぶのに用いられた方法は、Hartley et al. (2003, J Virol 77, 6637-442003)に記載されている。
【0103】
1.5.
純化ファージ・ケモカインは、抗ヒトCX3CL1ポリクローン性抗体(AF365, R&D, Lille, France)をコーティングとして用い、Dorgham et al. (2005, AIDS Res Retroviruses 21, 82-92)により記述されているようにファージELISAに用いられた。フローサイトメトリー分析のため、ファージ(1010CFU/ml)を4℃で10HEK又はHEK‐CX3CR1細胞を用いて培養した。細胞は洗浄され、Sambrook et al. (1989, Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor)により記述されているようにFITCと表記の抗M13抗体(Pharmacia, Saclay, France) で培養され, FACSCalibur (BD Bioscience, Le Pont de Claix, France)上にCell Questソフトウェアで分析された。
【0104】
1.6.
CX3CL1類似体であるF1及びF2は基本的には、Hartley et al. (2004, Proc Natl Acad Sci US A101, 16460-5)により記述されているように、全化学合成で作成された。化合物純度及び完全性は、高性能液体クロマトグラフィー分析及び質量分析法で検証された。濃度は、280nmにおける吸収度の測定により特定された。
キメラケモカイン‐Ig構成物はLavergne et al. (2003, Cancer Res 63, 7468-74)及びIga et al. (2007, Vaccine 25, 4554-63)により既に記述されているように作成された。Clq結合モチーフ(E318, K320, K322)及びFcγR1部位(L235)(Altman et al. 1996, Science 274, 94-96; Zheng et al. 1995, J Immunol 154, 5590-6000) にて突然変異したネズミFcγ2a断片を用いて、非細胞溶解型のF1‐Ig及びF2‐Igを生成した。F1及びF2のDNA配列はファージ表示ベクトルから、ヒトCX3CL1信号ペプチド5’‐AAAACTGCAGCCATGGCTCCGATATCTCTGTCGTGGCTGCTCCGCTTGGCCACCTTCTGCCATCTGACTGTCCTGCTGGCTGGAATTCTAGATAATGGCGTGTCA‐3’(配列ID番号:62)及び5’‐AAAACTGCAGCCATGGCTCCGATATCTCTGTCGTGGCTGCTCCGCTTGGCCACCTTCTGCCATCTGACTGTCCTGCTGGCTGGACAGCCTCAGGGCGTGTCAAAA‐3’(配列番号:70)をそれぞれ符号化するNot I-tailed 逆プライマー及び特定の上流プライマーで増幅された。PstIの認識箇所には、下線が付せられている。PCR生成物はpVRCベクトル(Lavergne et al. 2003, Cancer Res 63, 7468-74; Lavergne et al. 2004, J Immunol 173, 3755-62) にクローン化された。
低内毒素pVRCケモカイン-Ig(5μg)及び空pブラストプラスミド(1μg)を、登録商標がJetPEIのトランスフェクション試薬を製造者(Polyplus-transfection SA, Illkirch, France)の指示に従って含むCHO-S細胞系(Invitrogen, Cergy-Pontoise, France)に同時トランスフェクトさせた。トランスフェクタントは10μg/mlのブラストサイジン(Invivogen Cayla, Toulouse, France)を添加して選ばれ、5μg/mlのブラストサイジンで管理された。高生成クローンが、捕獲ELISA(Human CX3CL1/Fractalkine, R&D, Lille, France)によりCX3CL1の上澄みを篩掛けして得られた。培養物上澄み500〜1000mlからのケモカイン-Ig融合タンパク質は、タンパク質Gカラム(NUNC ProPur Kit Midi G, VWR International S. A. S. Fonternay sous Bois, France) を通して純化された。タンパク質は緩衝液が交換され、PBS中最終容積1mLに濃縮された。キメラタンパク質溶液をSDS‐PAGE、銀染色法及び免疫ブロット法アッセイにより調べ、製剤の純度を推定した。溶液内のタンパク質濃度は、280nMにおける吸光度及び生体内実験前の捕獲ELISAで決定した。
【0105】
1.7.CX3CR1受容体ダウン変調実験
細胞(10)を、ケモカインを種々の濃度(1〜1000nM)で含む補充培養媒体100μlにおいて、37℃、30分間培養した。媒体のみを制御として用いた。細胞は低温PBSで5回洗浄され、氷上で30分間、50nmの抗ヒトCX3CR1(clone 2A9-1 phycoerythrin-conjugated, MBL Clinisciences, Montrouge, France)で培養された。細胞は2度洗浄され、4%パラフォルムアルデヒドで固定され、FACScalibur及びCell Questソフトウェアで分析された。少なくとも10000の事象がサンプル毎に蓄積された。表面CX3CR1発現の百分率が、相対蛍光強度の平均チャネルにより次のように計算された:(MCFケモカイン−MCF負制御/(MCF媒体−MCF負制御)(Mack et al. 1998, J Exp Med 187, 1215-24)。
【0106】
1.8.CX3CR1との競合放射リガンド結合
アッセイをMoatti et al. (2001, Blood 97, 1925-8)による既述のように行った。HEK‐CX3CR1及びCHO‐CX3CR1細胞の競合結合が、50pM[125I]‐CX3CL1(Amersham General Electric, Saclay, France)、而も未分類リガンド種々の量で行った。各濃度を2通り評価分析した。37℃で2時間後、細胞は洗浄され、細胞ペレット内の放射能がγカウンター(LKB Wallac, Saint Quentin en Yvelines, France)で定量化された。
【0107】
1.9.カルシウム可動化評価分析
細胞質ゾル状の遊離カルシウムが、基本的にGarin et al. (2003, J Immunol 171, 5305-12)による記述のようにFura‐2/AM(Molecular Probes, Leiden, Netherlands)で測定された。簡単に云うと、PBMC(4x10)に37℃で30分に亘って、10mMのHEPES、0.5mMのMgCl及び1mMのCaClが補充された1mlのHBSS緩衝液内2μMのFura‐2/AM及び2μMのプルロン酸が加えられた。細胞は遠心分離され、読取りのため石英キューベットに移された。ケモカイン及びケモカイン-Ig 融合タンパク質が、37℃に恒温維持され、連続して攪拌されたキューベット内の種々の濃度の細胞に添加された。蛍光は分光蛍光計(SAFAS, Monaco)により340及び380nmでチェックされ、510nmで測定された。
【0108】
1.10.化学走性評価分析
移動アッセイが24トランスウェルインサート(Corning Costar, Avon, France)において、ヒトPBMCのため5μm孔ポリカーボネートフィルタ及びマウスMBMCのため8μmフィルタで行われた。細胞は化学走性緩衝液で再懸濁され(0.5%BSA及び10mMのHEPESを含む100μlのRPMI中5.10細胞)、上室に入れられた。各ウェルの底部を、600μlの表示のケモカイン濃度の予備温化走性緩衝液で満たした。次いでプレートは5%CO雰囲気内で37℃にて3時間に亘って培養された。膜を通った細胞は、蛍光性抗体(抗ヒトCD45‐FITC、CD8‐APC、CD3‐PE又は抗マウスCD11b‐FITC, BD, Le Pont de Claix, France)と所定数のビーズ(登録商標Flow-Count 蛍光球:Beckman Coulter, Villepinte, France)を混合させることによって免疫表現型に分類された。氷中培養30分後に、ビーズと細胞はFACSCaliburのフローサイトメータで計数され、データはCell Quest ソフトウェアで分析された。結果は、化学的誘引物質の存在下vs非存在下で移動する細胞の比を表す化学走性指標(CI)として表される。全ての状態は2通り実施され、結果は少なくとも3つの独立実験を表すものである。
【0109】
1.11.接着評価分析
CX3CL‐H6(R & D Systems, Lille, France: ウェル当たり50μL中1nM)又は純化ケモカイン-Ig タンパク質(指示の量で希釈)が、25mMトリス、pH8、150mMのNaClを含む緩衝液中のMaxisorb96ウェルのマイクロタイタプレート(Nunc A/S, Roskild, Denmark)上で、4℃で培養された。CFDA‐SE(Invitron, Cergy-Pontoise, France)負荷のHEK‐CX3CR1細胞が、1%脱脂乳で予めブロックされたプレートに、指示濃度で、CX3CL1の存在又は非存在下で、室温で45分に亘って培養された。非接着性細胞を除去するため、ウェルはPBSで緩やかに満たされ、マイクロプレートはPBS内に逆様に置かれ、1時間に亘って浮動した後、Hermand et al. (2000, J Biol Chem 275, 26002-10)による記述のようにフュージョンユニバーサルマイクロプレートアナライザ (Packard Bioscience, Perkin Elmer, Villebon sur Yvette, France)で、535nmで読取りを行った。実験は3通り行い、結果は全接着細胞の百分率(±SD)として表された。
【0110】
1.12.チオグリコレートにより誘発される炎症
生後6〜10週間のワイルドタイプ雌C57BL/6のマウス(Janvier, Le Genest Saint Isle, France)に、無菌のPBSに溶解の1ml3%(wt/vol)チオグリコレートを、14時間後に50μlの500nmケモカイン類似体又はPBSを腹腔内注射した。2日後、マウスは殺され、3mlの低温PBSを腹腔内注射され、腸膜細胞を回収し、該細胞は次いで抗CD11b‐FITC、抗Ly6G‐PE及び抗7/4‐APC(R & D Systems, Lille, France)で染色された。マウス毎に少なくとも7.10の細胞が数えられた。異なる細胞種の百分率及び絶対数が計算された。地方動物実験倫理委員会は実験プロトコルを是認した。
【0111】
1.13.CX3CR1再生
CX3CR1の再生を検討するため、先ず100nmのFKN(CXCL1)、100nmのF2又は媒体をコントロールとして用い、HEX‐CX3CR1細胞を37℃で30分間培養した。細胞を4回媒体中で室温にて洗浄し、更に37℃で培養した。アリコットを種々の回数で取り、染色し、段落1.13で記載のように分析した。線形回帰を解析し、グラフパッドソフトウェアを用いて傾斜を計算した。
【0112】
実施例2:CX3CR1モジュレータを処理する
【0113】
2.1.CX3CR1アンタゴニストを処理する
ファージ粒子は哺乳類細胞にレセプタ依存様に効率的にエンドサイトーシスして取り入れられ、ファージケモカインアゴニストは細胞溶解後回収が可能である。生細胞競合溶出による変調ファージ表示ベース選択方法を用いて、アンタゴニスト特性をもつCX3CL1変種を優先的に選び出した。この方法では、ファージライブラリをCX3Cl1発現細胞で、37℃で培養して、アゴニストファージ特性のリガンド誘発内在化を可能にした。ファージ表示CX3CR1アンタゴニストは細胞には入らず、従って大量過剰の可溶性CX3CL1と競合溶出し易いものであろう。
【0114】
ヒトCX3Cl1ケモカイン領域は、成熟タンパク質の初めの77個の残基から成るが、ファージ表示によって発現のためクローン化された。CX3CL1ファージは、抗CX3CL1抗体との検出可能な結合を示したが、アイソタイプである制御抗体を示さなかった。更に、CX3CL1ファージは、CX3CR1を発現するHEK細胞に結合したが、元のHEK又はCCR5発現細胞の何れにも結合しなかった。CCL5発現ファージは抗CX3CL1抗体又はHEK‐CX3CR1細胞の何れとも結合しなかった。これ等の結果は、CX3CL1ファージは特にCX3CR1発現細胞に結合したことを示す。
【0115】
本発明者等の上記研究及びCX3CL1がファージ上に上手く発現されると云う例証に基づいて、PCR突然変異誘発を用いて、CX3CL1変種のファージライブラリを設計、且つ発現させ、ここで、CX3CL1のDNA配列の初めの6個の残基は完全又は部分的にランダム化された。CX3CL1変種のもう1つのファージライブラリでは、1残基N末端延長部(位置0)が我々のライブラリ設計に加えられた。最後に、CX3CL1の2つの突然変異体は組成が次の通りであった:
‐XΣΦΨ−CX3CL1(7‐76)(即ち、配列ID番号:54のアミノ酸31〜100に融合する配列ID番号:64)及び
‐XΣΦΨ−CX3CL1(7−76)(即ち、配列ID番号:54のアミノ酸31〜100に融合する配列ID番号:7)
ここでXは任意のアミノ酸、ZはL、P、Q又はR、ΣはV、A、D又はG、ΦはL、M又はV、ΨはS、P、T又はA(表1)である。
【0116】
HEK‐CX3CR1に付いて4回の選択の後、下の表1に示すアンタゴニストが特定された。
【0117】
【表1】

【0118】
選択配列を比較することにより、コンセンサス配列を定義:ILDXGL/VA/S(配列ID番号:6)することができた、ここでXは任意のアミノ酸である。
【0119】
このコンセンサス配列の選択がCX3CR1に特有なものであるかどうかを確認するため、同一選択手続をHEK‐CCR5細胞に付いて行った。2回のバイオパニングの後、選択ファージの殆どはCX3CL1遺伝子インサートが無くなっていた。
【0120】
最後に、優先選択ファージクローン、即ち配列番号:8のILDNGVS(配列ID番号:8以下、F1と云う)が固定抗CX3CL1抗体及びCX3CR1発現細胞に結合したのが確認された。この結合は特有である、即ちファージF1は制御体IgGをも、元のHEK又はHEK‐CCR5をも認識しなかった。
【0121】
更なる分析のため、化学合成を用いて、CX3CL1ケモカイン領域に対応してF1類似体を可溶性タンパク質として生成した。更に、免疫グロブリンのネズミFc断片をもつ融合タンパク質を構築して、生体内半減期が長いF1の変種を生成した。
【0122】
2.2.CX3CR1アゴニストを工学する
エンドサトーシスで取り込まれたファージを回収して、CX3CR1アゴニストを単離した。上記段落2.1に既述のものと同じライブラリを用いた。HER‐CX3CL1細胞に付いて複数回の選択の後、下の表2に示すアゴニストが特定された。
【0123】
【表2】

【0124】
これ等選択配列により、QPQGVS(配列ID番号:51)コンセンサス配列を特定することができた。
【0125】
実施例3:F1のCX3CR1リガンドとしての特徴付け
【0126】
CX3CR1に対するF1の結合親和力を、HEK‐CX3CL1細胞及びトレーサとしての[125I]‐CX3CL1との競合結合において生CX3CL1のものと比較した。F1類似体はCX3CR1と相互に作用したが、CX3CL1より親和度が低かった。1.9nMの見掛け結合親和度(IC50)(Log IC50=−8.73±0.21;n=3)がF1に付いて決定されたが、それはCX3CL1のもの(IC50=0.16nM;LogIC50=−9.79±0.28;n=3)より約12倍弱かった。同様の親和度における差は、F1とCX3CL1をCHO‐CX3CR1細胞に付いて調べ、且つCX3CL1‐Ig の親和度をF1‐Igのものと比較したところ明らかになった。それと共にこれ等データは、F1類似体は特にCX3CR1に結合するが、生CX3CL1より親和度が僅かに弱いことを確認させる。
【0127】
アンタゴニストに対するファージ選択方法は、CX3CR1発現細胞に内在化しないクローンを優先的に選択するように工夫された。CX3CR1の量依存下方変調を誘発する生のCX3CL1と違って、F1はHEK細胞にCX3CR1内在化を誘発しないことが確認された。0.1μMのCX3CL1は培養30分後に40%のCX3CR1内在化を誘発したが、1μMのF1は内在化効果が全く無かった。CCR5アンタゴニストに付いての報告のように、活性の上方調整さえ観測された。同様の結果がCHO‐CX3CR1細胞でも得られた。これは、培養媒体中のCX3CL1のトレースによる、又はレセプタ自身の固有の活動による、辺縁のCX3CR1の活性によるものかも知れず、これはF1により抑制され、逆アゴニストとして機能する可能性もある。
【0128】
実施例4:F1はCX3CL1誘発カルシウム及び走性応答を拮抗させる
【0129】
HEK‐CX3CR1細胞にカルシウム応答を引き出すF1の能力が次いで、CX3CL1のものと比較された。生CX3CL1とは異なり、F1は応答が、HEK‐CX3CR1細胞における濃度300nmまで(図3A,トレースaとbを比較)又はヒトPBMCにおける400nMまで(図3A、トレースcとdを比較)及びCHO‐CX3CR1細胞において全く、観測されなかった。同様の結果がF1−Igキメラでも得られた。次いで、CX3CL1誘発細胞応答を抑制するF1の能力が調べられた。F1とF1−Ig両方の存在下で、20nMのCX3CL1により誘発されるカルシウム応答は量依存的に、34nm及び72nmのIC50夫々で減少した(図3B)。
【0130】
次いで、CX3CR1媒介走性に対するF1の効果を調べた(図2)。CL3CL1はCD8+T細胞及びNK細胞に有意の応答を引き出し、CX3CL1‐Ig はその結合親和度と一貫して完全効能だが効力の減少した走性を誘発した。それと対照的に、F1もF1‐Ig もどの検査濃度でも走性を誘発しなかった。検査リガンドの何れも、微小Th1細胞毒性分集団を除いてCX3CR1を発現しないCD4+T細胞(図2C)による検出可能な走性を全く誘発しなかった。
【0131】
F1及びF1‐Igは両方とも、2.7nM及び6.1nM夫々のIC50値(Log IC50=0.44±0.07; n=3 及び0.79±0.17; n=3)にて量依存的に、NK細胞及びCD8+T細胞のCH3CL1及びCX3CL1‐Ig 誘発走性を抑制できた。ヒトTHP‐1及びネズミCD11b+MBMCでも同様の結果が得られた。
【0132】
【表3】

【0133】
従って、F1はヒト及びネズミCX3CR1レセプタの有効なアンタゴニストである。
【0134】
実施例5:F1はCX3CL1媒介着生を拮抗させる
【0135】
細胞面と粘素ストークを介して連鎖するケモカイン分域から成る完全なCX3CL1分子は、そのレセプタCX3CR1と対になると、特性がかなりの接着性のものとなる。CX3CL1の接着性はストークの性質と独立して報告されるべきなので、CX3CL1−Ig は接着分子として挙動するものと仮定された。
【0136】
静的接着アッセイでは、CX3CL1-Ig はHEK‐CX3CR1細胞を有意に捕獲したが、非特定Ig はそうでなかった。更に、親のHEK細胞はCX3CL1−Ig に接着しなかった。F1‐Ig はまた、特にCX3CR1発現細胞を捕獲したものの、その結合親和度が低いことに整合して、見掛け能力はCX3CL1‐Ig の1/8であった。
【0137】
更に、可溶性のF1は固定CX3CL1に対するCX3CR1陽性細胞の接着力をかなり減少させた、即ち接着能は可溶性CX3CL1のものの40倍低かった。従って、F1はまた、CX3CL1/CX3CR1媒介接着を拮抗した。これ等の結果はまた、F1のアンタゴニスト能は結合アッセイ及と接着アッセイでは僅かに異なることを示している。
【0138】
実施例6:F1は生体内でCX3CR1アンタゴニストの働きをする
【0139】
F1の生体内抑制作用を更に、Boring et al. (1997, J Cli Invest 100, 2552-61)のチオグリコール酸塩誘発腹膜炎モデルで評価した。
【0140】
チオグリコール酸塩の腹腔内注射の62時間後、腹腔に漸増される循環単核性細胞を、それ等のCD11b、Ly6G及び7/4発現についてフローサイトメトリーにより分析した。単球(CD11b+Ly6G‐7/4+)漸増は、チオグリコール酸塩注射後14時間後、F1の1注射で治療されるマウスにおいて有意に減少した。それとは対照的に、CX3CR1陰性であるPMN母集団(CD11b+Ly6G+)の移動はF1投与により有意には影響されなかった。減少単球漸増は、高レベルのCX3CR1を発現する7/4lo分集団で特に明らかであった(図6C)。一方、7/4hi単球(CX3CR1lo)の移動は殆ど影響を受けなかった。
【0141】
実施例7:結論
【0142】
この検討では、ファージ表示方法を用いて、アゴニスト及びアンタゴニストCX3CL1ケモカイン類似体を選択した。アゴニストであるリガンドはCX3CR1レセプタに結合し、CX3CR1信号発信を向上させることができる。これとは違って、アンタゴニスト・リガンドは、アゴニスト誘発信号発信を起こさずに、CX3CR1レセプタに結合することができる。幾つかの斯かるアゴニスト及びアンタゴニストCX3CL1類似体が選ばれた(配列ID番号:7〜50)。これ等選択CX3CL1類似体により、CX3CR1モジュレータのコンセンサス配列の定義が可能になった(配列ID番号:1〜6及び51)。
【0143】
F1アンタゴニスト類似体は更に特徴付けられた。F1はCX3CR1内在化、又はカルシウム応答(図3A)又は化学走性応答(図2A)を全く誘発しなかった。更に、F1はCX3CL1誘発カルシウム応答(図3B)、並びにCX3CL1‐CX3CR1軸に媒介される化学走性(図2D)及び癒着性機能を抑制した。最後に、F1は、生体内テスト中に単球漸増の抑制を有意に促進した。従って、F1がヒトCX3CR1の真実のアンタゴニストであることを意味する。
【0144】
F1と同様、選択ケモカイン・アンタゴニストの殆どは、生タンパク質の残基0、1及び2(残基0はN末端延長部を表す)に対応するN末端コンセンサス・モチーフILDを担う(表1)。このモチーフは脂肪I及びL残基の存在のため、生CX3CL1のQHHGVT配列より疎水性であり、又より酸性である(D対H)。一方、位置3には明白な選択は無く、位置4〜6で選ばれた残基はヒト及びネズミCX3CL1で判明されたものに類似していた(表1)。従って、タンパク質の延長N末端におけるILDモチーフはF1のアンタゴニスト特性に重要な働きをするであろう。
【0145】
選択ケモカイン・アンタゴニストの殆どは、生成熟CX3CL1タンパク質(即ち、ライブラリXΣΦΨ‐CX3CL1(7〜76))のN末端終端と比較して付加的1残基N末端延長部(位置0)から成るファージライブラリに由来した。これとは対照的に、全選択ケモカイン・アゴニストはXΣΦΨ‐CX3CL1(7〜76)ライブラリに由来した。
【0146】
F1類似体は、1nMのCX3CL1により媒介される化学走性を見掛け親和度3〜6nMで拮抗させた(図2D)。それはまた、20nMのCX3CL1により見掛け親和度34nMにて媒介されるカルシウム応答を首尾一貫して抑制した(図3B)。而も、細胞接着アッセイにおける見掛けF1親和度は150nMに近い、即ち可溶性CX3CL1の見掛け効力より40倍高かった。これは、固定CX3CL1に対するアビジティー(avidity)に関するF1の効果はCX3CR1に対するその結合親和力に従わないこと、及び単純なCX3CL1/CX3CR1結合と比較して、より複雑な過程がCX3CL1/CX3CR1接着に多分伴うことを示している。
【0147】
マウスにおいては、2つの重要な単球個体群がCX3CR1及びLy6C又は7/4の発現レベルに従って記述された。ヒトCD14単球に対応する所謂古典的又は炎症性単球はCX3CR1loLY6Chi7/4hiCCR2CD62Lであり、一方ヒトCD16単球に類似の非古典的単球はCX3CR1hiLY6Clo7/4loCCR2CD62Lである。古典的単球はCX3CR1発現とは独立して、炎症部位急速に漸増されるものと報告されている。非古典的単球に付いては余り知られていないが、常住個体マクロファージ又はDCに取って代わる非炎症組織に移行するためにCX3CR1を用いることが提言されている。最近の報告によれば、この単球分集団は血管の管腔面を監視し、これ等組織を急速に湿潤してマクロファージに分化させる一方、古典的単球は後に炎症部位に達し、炎症性樹状突起細胞を生ずる。CX3CR1アンタゴニストF1がCX3CR1陽性単球個体群の移動を特に低下させると云うことは、F1等のアンタゴニストが炎症経路の徹底的分析において、また広範囲の抑制物質の副作用の最終予防おける治療セットにおいて有用である可能性を示している。
【0148】
F1等の選択的CX3CR1抑制物質は、CX3CL1がある役割をなす種々の疾病における炎症を抑制するのに有用であることが判明するであろう。されど、炎症を起こした器官に何れかのCX3CR1アンタゴニストの作用を向けることは極めて重要である。例えばアテローム発生又は糸球体腎炎等の疾患においては、アンタゴニストが主として循環及び湿潤単球を標的にし、常住細胞は到達できないであろう。他の疾病では、特定の標的化は二価のIgキメラを用いて得られるかも知れない。従って、細胞マーカーに特有な一抗体を本発明に従ってモジュレータに融着させ得る可能性がある。
【0149】
実施例8:F2のCX3CR1アゴニストとしての特徴付け
【0150】
配列ID番号:66(F2と云う)のポリペプチドと配列ID番号:68のポリペプチドを化学合成により生成した。これ等2つのポリペプチドは、それ等のN末端終端に配列ID番号:51の配列を含む。従って、それ等は本発明によるアゴニストである。これ等ポリペプチドがCX3CR1レセプタのアゴニストの働きをすることを確認するため、実験による検討が行われた。
【0151】
全実験で、F2をCX3CL1と比較し、F2-IgをCX3CL1-Ig と比較した。これ等分子は、F2及びF2-Ig に夫々、類似するタンパク質に対応するが、野生型N末端終端を有する。
【0152】
F2及びF2-Ig をCX3CR1に結合する競合的放射リガンドを特定するアッセイが実施例1.8に記載のように行われた。図4に示すように、F2及びF2-Ig がCX3CR1に対して、FKN(CX3CL1)及びFKN-Ig(CX3CL1-Ig)より夫々、有意に高い親和度を示すことが分かった。CX3CR1発現HEK細胞に関して、且つトレーサとして125I‐FKNの場合、僅か0.05nMのIC50がF2に対して(CX3CL1の0.58であるIC50に対する)観測された。CHO発現HEK細胞に関して、且つトレーサとして125I‐FKNの場合、僅か0.39nMであるIC50がF2―Igに対して(CX3CL1-Ig の1.47であるIC50に対する)が観測された。以上のことを纏めてみると、F2及びF2-Ig は、同一レセプタに対してCX3CL1の親和度の約10倍高いCX3CR1親和度を示す。この結果は、2つの異なる細胞種(HEK及びCHO)で発見された。
【0153】
F2及びF2-Ig は更に、
‐実施例1.11に記載のような接着アッセイ、
‐実施例1.7に記載のようなダウン変調及び
‐実施例1.8に記載のような再生アッセイ
を行うことで特徴付けられる。
【0154】
F2-Ig はCX3CL1-Ig より接着性が良好である(図5A)ことが分かった。更に、F2はCX3CL1と同様に効率よく膜CX3CR1レセプタの内在化を誘発できる(図5B)。更に、F2はCX3CL1より効率よく内在化CX3CR1を保持する。実に、F2の存在下で培養された細胞は、CX3CL1の存在下で観測される速さより2倍遅い速さで内在化CX3CR1を再生する(図5C)。
【0155】
NK細胞、CD8+T細胞及びCD4+T細胞の走化性を誘発するF2及びF2-Ig の能力を、実施例1.10に記載のようにして更に評価した。F2及びF2-Ig はこれ等全ての細胞に走化性を誘発できることが分かった(図6)。この能力は少なくともCX3CL1−Igのものと同程度高い。
【0156】
CHO−CX3CR1細胞にカルシウム応答を誘発するF2-Ig の能力を、実施例1.9に記載のようにして評価した。F2-Ig はCHO−CX3CR1細胞にカルシウム応答を誘発できることが分かった(図7)。この能力は少なくともCX3CL1-Ig のものと同程度高い。
【0157】
以上のことを纏めると、上記結果はF2及びF2-Ig がCX3CR1レセプタのアゴニストの働きをすることを実証している。実際、F2及びF2-Ig は両者共、(i)NK細胞、CD8+T細胞及びCD4+T細胞の走化性を誘発でき、且つ(ii)カルシウム応答を誘発できる。更に、それ等はCX3CR1に対する親和性が野生型CX3CL1ケモカインより高いこと、並びに接着性も保持能力も良いことを示す。
【0158】
斯くして、本明細書に記載のCX3CR1アゴニストを機能的に選別することにより、CX3CR1アゴニストが首尾良く単離できることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離及び/又は純化したヒトCX3CR1受容体モジュレータであって、該モジュレータは配列X−X−X−X−X−X−X(配列ID番号:1)又はX−X−X−X−X−X(配列ID番号:2)をそのN末端終端に含んで成り、ここで
‐XはI,T,F,Q,S,W,A,G,N又はV、
‐Xはそれがある場合に、L,P又はR、
‐XはD,A,Q,G,L,I,P,H,F,V又はS、
‐XはN,Q,G,S,L,R,F,H,V,M,Y又はP、
‐XはV,A,D又はG、
‐XはL,M又はV、
‐XはS,P,T又はAであり、
且つ、配列ID番号:2が配列QHHGVT(配列ID番号:52)又はQHLGMT(配列ID番号:53)からは成らないモジュレータ。
【請求項2】
前記モジュレータがアンタゴニストであり、配列ID番号:1又は2の前記配列が次の(i)〜(vi)、即ち
(i)配列X−X−X−X−X−X−X(配列ID番号:1)又はX−X−X−X−X−X(配列ID番号:2),ここで
‐XはI,T,F,Q,S,W又はV、
‐Xはそれがある場合に、L,P又はR、
‐XはD,A,Q,G,L,I,P又はS、
‐XはN,Q,G,S,L,R,F,H又はP、
‐XはV,A,D又はG、
‐XはL又はV、
‐XはS,P,T又はA
(ii)配列X−X−X−X−X−X−X(配列ID番号:1)、ここで
‐XはI,T,F,Q,S又はW、
‐XはL,P又はR、
‐XはD,A,Q,G,L,I,P又はS、
‐XはN,Q,G,S,L,R,F,H又はP、
‐XはV,A,D又はG、
‐XはL又はV、
‐XはS,P,T又はA
(iii)配列X−X−X−X−L−X(配列ID番号:3)、ここで
‐XはQ又はV、
‐XはQ,L又はS、
‐XはS,L又はF、
‐XはV又はA
‐XはS又はP
(iv)配列X−L−X−X−X−X−X(配列ID番号:4)、ここで
‐XはI,T,F,S又はW、
‐XはD,A,Q,G,I,P又はS、
‐XはN,Q,G,S,L,R,H又はP、
‐XはV,D又はG、
‐XはL又はV、
‐XはS,P,T又はA
(v)配列Q−X−X−X−X−X−A(配列ID番号:5)、ここで
‐XはP又はR、
‐XはD又はL、
‐XはS又はF、
‐XはV又はA、
‐XはL又はV、及び
(vi)配列I−L−D−X−G−X−X(配列ID番号:6)、ここで
‐Xは任意のアミノ酸、
‐XはL又はV
‐XはA又はS
から成る群から選ばれる請求項1のモジュレータ。
【請求項3】
配列ID番号:1又は2の前記配列が次のもの、即ち
‐ILDNGVS(配列ID番号:8)
‐TLAQGLP(配列ID番号:9)
‐ILDGGVS(配列ID番号:10)
‐FLQSDVA(配列ID番号:11)
‐ILDLGLS(配列ID番号:12)
‐ILDLGLT(配列ID番号:13)
‐ILDNGVA(配列ID番号:14)
‐ILGRDVA(配列ID番号:15)
‐QPLFAVA(配列ID番号:16)
‐QRDSVLA(配列ID番号:17)
‐SLDHGLS(配列ID番号:18)
‐SLIPVVP(配列ID番号:19)
‐TLPQGLA(配列ID番号:20)
‐WLSQGLA(配列ID番号:21)
‐QSLVLP(配列ID番号:22)
‐QLFALS(配列ID番号:23)及び
‐VQSVLS(配列ID番号:24)
から成る群より選ばれる請求項2のモジュレータ。
【請求項4】
モジュレータはアゴニストであって、配列ID番号:1又は2の前記配列が配列X−X−X−X−X−X(配列ID番号:2)であり、ここで
‐XはQ,A,G又はN、
‐XはP,A,H,L,S,F又はV、
‐XはG,Q,V,M,L,S,P,H,R又はY、
‐XはA又はG
‐XはL,M又はV
‐XはS,P,T又はA
である請求項1のモジュレータ。
【請求項5】
配列ID番号:2の前記配列が次のもの、即ち
‐QPGGVS(配列ID番号:25)
‐QPQAVS(配列ID番号:26)
‐QPVALA(配列ID番号:27)
‐QPVGLS(配列ID番号:28)
‐AAQGMS(配列ID番号:29)
‐QPGAVS(配列ID番号:30)
‐QPMGVA(配列ID番号:31)
‐QPQGLA(配列ID番号:32)
‐QPVAVA(配列ID番号:33)
‐QHLGLS(配列ID番号:34)
‐QLQGLA(配列ID番号:35)
‐QPSALS(配列ID番号:36)
‐QSLGVS(配列ID番号:37)
‐GPQAMS(配列ID番号:38)
‐NPQALS(配列ID番号:39)
‐QFPGVS(配列ID番号:40)
‐QLLGVS(配列ID番号:41)
‐QPHGVA(配列ID番号:42)
‐QPRALP(配列ID番号:43)
‐QPSALT(配列ID番号:44)
‐QPSGMS(配列ID番号:45)
‐QPVAVS(配列ID番号:46)
‐QPYGMS(配列ID番号:47)
‐QPYGVS(配列ID番号:48)
‐QSPGMS(配列ID番号:49)
‐QVQGVT(配列ID番号:50)及び
‐QPQGVS(配列ID番号:51)
から成る群より選ばれる請求項4のモジュレータ。
【請求項6】
単離及び/又は純化したヒトCX3CR1受容体モジュレータであって、該モジュレータは配列X−X−X−X−X−X(配列ID番号:7)をそのN末端終端に含むアゴニストであり、ここで
‐Xは任意のアミノ酸、
‐Xは任意のアミノ酸、
‐Xは任意のアミノ酸、
‐XはV,A,D又はG、
‐XはL,M又はV、
‐XはS,P,T又はAであり、
且つ、配列ID番号:7が配列QHHGVT(配列ID番号:52)又はQHLGMT(配列ID番号:53)からは成らないモジュレータ。
【請求項7】
前記モジュレータが、配列ID番号:55又は56の少なくとも10個のアミノ酸の断片を含むポリペプチドから成る請求項1のモジュレータ。
【請求項8】
前記ポリペプチドが配列ID番号:55のアミノ酸1〜77又は配列ID番号56のアミノ酸1〜76を含む、又はから成るモジュレータ。
【請求項9】
前記モジュレータのN末端終端が配列ID番号8〜51の何れか1つの配列から成る請求項7のモジュレータ。
【請求項10】
前記ポリペプチドが更に免疫グロブリンの断片を含む請求項7のモジュレータ。
【請求項11】
前記モジュレータがペプチドである請求項1のモジュレータ。
【請求項12】
ヒトCX3CL1ポリペプチドの単離及び/又は純化突然変異体であって、前記突然変異体の成熟同形のN末端終端が
配列ID番号1〜51の何れか1つの配列から成り、
QHHGVT(配列ID番号:52)又はQHLGMT(配列ID番号:53)からは成らない突然変異体。
【請求項13】
請求項1〜11の何れか1つに記載のモジュレータ又は請求項12に記載の突然変異体、を符号化する核酸。
【請求項14】
請求項1〜11の何れか1つに記載のモジュレータ、請求項12に記載の突然変異体又は請求項13に記載の核酸、生理学的許容可能な担体を含む医薬組成物。
【請求項15】
前記医薬組成物が免疫抗原性分子を含むワクチンである請求項14の医薬組成物。
【請求項16】
前記生理学的許容可能な担体がヒドロゲルマトリックスであり、前記モジュレータ、ポリペプチド又は核酸がヒドロゲルマトリックスに共有結合で結合されている請求項14の医薬組成物。
【請求項17】
炎症性疾患、自己免疫疾患、心臓血管疾病、神経変性疾患、対宿主性移植片病、行動障害、瘢痕化疾患、ウイルス性感染症、癌又は疼痛から成る群から選ばれた疾病を治療又は予防する方法であって、請求項1〜11の何れか1つに記載のモジュレータ、請求項12に記載の突然変異体又は請求項13に記載の核酸の有効量を、それを要する個体に投与する処置を含む方法。
【請求項18】
前記モジュレータが非経口又は局所経路を通して投与されて成る請求項17の方法。
【請求項19】
前記モジュレータがアンタゴニストであり、前記疾病が炎症性疾患、自己免疫疾患、心臓血管疾病、神経変性疾患、癌及び対宿主性移植片病から成る群から選ばれた疾病である請求項17の方法。
【請求項20】
前記疾病が多発性硬化症、リューマチ様関節炎、紅斑性狼瘡、炎症性腸疾患及び潰瘍性大腸炎から成る群から選ばれた自己免疫疾患である請求項19の方法。
【請求項21】
前記疾病がアテローム性動脈硬化症である請求項19の方法。
【請求項22】
前記疾病が乳癌、結腸癌及びリンパ腫から選ばれた癌である請求項19の方法。
【請求項23】
前記モジュレータがアゴニストであり、前記疾病がウイルス性感染症及び活動性や注意力の障害等の行動障害から成る群より選ばれた疾病である請求項17の方法。
【請求項24】
前記疾病がHIV感染である請求項23の方法。
【請求項25】
抗癌(腫瘍)反応又は瘢痕形成を刺激する方法であって、請求項1〜11の何れか1つに記載のモジュレータ、請求項12に記載の突然変異体又は請求項13に記載の核酸の有効量を、それを要する個体に投与する処置む方法。
【請求項26】
個体にワクチン接種する方法であって、請求項1〜11の何れか1つに記載のアゴニスト、請求項12に記載の突然変異体又は請求項13に記載の核酸の有効量を前記個体に投与する処置を含む方法。
【請求項27】
請求項1〜11の何れか1つに記載のモジュレータ又は請求項12に記載の突然変異体を生成する方法であって、
a)請求項13に記載の核酸を含む宿主細胞を用意し、
b)前記宿主細胞を、前記モジュレータ又は突然変異体の発現に適した条件下で培養し、
c)前記モジュレータ又は突然変異体を単離する
手順を含む方法。
【請求項28】
更に、前記モジュレータ又は突然変異体を純化する手順を含む請求項27の方法。
【請求項29】
前記モジュレータ又は突然変異体を医薬組成に配合する手順を含む請求項28の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−511921(P2012−511921A)
【公表日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−541413(P2011−541413)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【国際出願番号】PCT/EP2009/067325
【国際公開番号】WO2010/079063
【国際公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(511144295)ユニヴェルシテ ピエール エ マリ キューリ (パリ 6) (1)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PIERRE ET MARIE CURIE(PARIS 6)
【Fターム(参考)】