説明

GHz帯域電子部品用樹脂組成物及びGHz帯域電子部品

本発明は、熱可塑性樹脂、硬化性樹脂、及び熱可塑性樹脂と硬化性樹脂との複合樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂、及び、ナノスケールカーボンチューブを含有し、ナノスケールカーボンチューブが上記樹脂を基準として0.0001〜0.4重量%の割合で含有されているGHz帯域電子部品用樹脂組成物、及び該樹脂組成物から得られる電子部品等に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、GHz帯域電子部品用樹脂組成物に関する。更に詳しくは、本発明は、低誘電正接を具備し、電気・電子機器の回路基板材料、特にGHz帯域用の回路基板材料、その他の電子部品の製造用に好適な樹脂組成物に関する。また、本発明はかかる樹脂組成物から得られる電子部品にも関する。
【背景技術】
近年、通信情報量の急増に伴い、PHS、携帯電話等の情報通信機器の小型化、軽量化、高速化が強く望まれており、これに対応できる低誘電性電気絶縁材料が要求されている。特に自動車電話、デジタル携帯電話等の携帯移動体通信、衛星通信などのモバイル通信機器等に使用される電波の周波数帯域はメガからギガHz帯の高周波帯域のものが使用されている。また、使用可能波長帯域が減少していることにより、マイクロ波・ミリ波帯といった高周波帯域の利用が進んできている。また、コンピュータのCPUクロックタイムはGHz帯に達し、高周波数化が進行している。このような高周波帯域に対応した通信機の小型化、軽量化のためには、優れた高周波伝送特性と低誘電性特性とをあわせ持つ電気絶縁材料の開発が必要である。
電子機器の回路基板材料には、多くの場合、比誘電率や誘電正接等の誘電特性が低く、耐熱性や機械的強度等の物理的特性に優れることが要求される。比誘電率(ε)とは、誘電体内の分極の程度を示すパラメーターであり、比誘電率が高い程電気信号の伝播遅延が大きくなる。従って、信号の伝播速度を高め、高速演算を可能にするためには、比誘電率は低い方が好ましい。誘電正接(tanδ)は、誘電体内を伝播する信号が熱に変換されて失われる量を示すパラメーターであり、誘電正接が低い程信号の損失が少なくなり、信号伝達率が向上する。
即ち、素子回路内では誘電損失といわれる伝送過程におけるエネルギー損失が生じるが、このエネルギー損失は熱エネルギーとして素子回路内に放出されるため好ましくない。このエネルギー損失は、低周波帯域においては、誘電分極によって生じた双極子が電界変化により振動するために生ずるものであり、高周波帯域においては、イオン分極や電子分極によって生ずるものである。交番電界1サイクル当たり誘電体中で消費されるエネルギーと誘電体中に蓄えられるエネルギーの比を誘電正接といい、tanδで表される。
tanδは高周波帯域では周波数の増加にともなって増大し、また電子素子の高密度実装化により単位面積当たりの発熱量が多くなるので、絶縁材料の誘電損失を少しでも小さくするためには、tanδの小さな材料を用いる必要がある。誘電損失の小さい低誘電性高分子材料を用いることにより、誘電損失および電気抵抗による発熱が抑制され、その結果、信号の誤作動も少なくなることから、高周波通信分野においては伝送損失(エネルギーロス)の少ない材料が強く望まれている。
電気絶縁性であり、低誘電率である等の電気特性を有する材料として、通常、ポリオレフィン、塩化ビニル樹脂、フッ素系樹脂等の熱可塑性樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂(BTレジン)、架橋性ポリフェニレンオキサイド、硬化性ポリフェニレンエーテル等の熱硬化性樹脂などが、次の特性を満足させるため種々開発されている。
・積層板のドリル加工性、切削加工性
・高耐熱性
・低線膨張率
・金属導体層との密着性ないし接着性(銅箔密着性)
・機械的強度
・薄膜形成能
・比誘電率を比較的広範囲に渡って任意に設定することが可能
・絶縁性
・耐候性
・誘電特性が温度、湿度に対して依存性が少ない。
しかしながら、上記樹脂には下記のような問題点がある。
(1)ポリオレフィン
ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンは、C−C結合等の共有結合を有し、且つ大きな極性基を持たないため、電気特性、特に絶縁抵抗性に優れているが、耐熱性が低いという欠点がある。このため高温下での使用における電気特性(誘電損失、比誘電率など)が悪化して、コンデンサー等の絶縁膜(層)として好適とはいえない。
ポリエチレンやポリプロピレンは、一旦フィルムとして形成させ、これを接着剤を用いて導電材料に被覆接着しているが、この方法は加工工程が複雑となるばかりでなくフィルム形成層の厚みを薄くすることが非常に難しいなど、被覆形成上の問題もある。
(2)塩化ビニル樹脂
塩化ビニル樹脂は、絶縁抵抗性が高く、耐薬品性、難燃性に優れているが、ポリオレフィンと同様耐熱性に欠け、誘電損失が大きいという欠点がある。
(3)フッ化ビニリデン樹脂、トリフルオロエチレン樹脂、およびパーフルオロエチレン樹脂
フッ素原子を分子鎖中に含有しているこれら重合体は、電気特性(低誘電率、低誘電損失)、耐熱性、化学安定性に優れているが、熱可塑性樹脂のように熱処理加工することによって成形物、あるいはフィルム等を得るというような成形加工性、塗膜形成能に難があり、且つデバイス化を行う際、かなりのコスト高となる。さらに透明性が低いため応用分野が限られているという欠点がある。
(4)エポキシ樹脂
エポキシ樹脂は、絶縁抵抗性、絶縁破壊強度と耐熱温度においては要求性能を満たしている。しかし、比誘電率が3以上と比較的高く、満足される特性が得られていない。そして薄膜形成能に乏しいといった欠点もある。ポリフェニレンオキサイド樹脂(PPO)と多官能シアン酸エステル樹脂類、さらにこれら樹脂に他の樹脂を配合し、ラジカル重合開始剤を添加し、予備反応させてなる硬化可能な変性PPO樹脂組成物が知られているが、低比誘電率化は充分満足できるレベルまで至っていない。さらに耐熱性の乏しいエポキシ樹脂の改良目的で、例えばフェノールノボラック樹脂、ビニルトリアジン樹脂等の組合せも検討されているが、フィルムとして力学的特性が著しく低下するという欠点がある。そこで、電気特性を維持したまま上記の問題点、具体的には加熱加工性の改良、銅などの金属導電体(層)との密着性や接着性の改良を目的として、分岐シクロ環アモルファスフッ素ポリマー、パーフルオロエチレンモノマーと他のモノマーとの共重合体等が提案されているが、比誘電率、誘電損失等の電気特性は満たすものの、高分子主鎖に存在するメチレン鎖の影響のため耐熱性が悪化し、デバイス基板等に対する密着性が良好なものはまだ得られていない。
(5)ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルフォン、熱硬化性ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリエチレンテレフタレート
誘電性・絶縁抵抗性に優れた低誘電率材料にさらに求められる性能として、デバイス化工程のなかに必ず半田付け工程が入るため少なくとも260℃で120秒の加熱に耐え得るだけの耐熱性が要求され、耐熱性、耐アルカリ性等の化学的安定性、および耐湿性や機械的特性に優れたものでなければならない。これらの要求を満足する高分子素材として、例えばポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルフォン、熱硬化性ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリエチレンテレフタレート等が知られている。しかし、これら樹脂であっても、誘電損失がGHz帯域では大きくなってくる。
このように前述した特性を達成するには樹脂単独では種々の難点があるため、樹脂に添加剤を添加して、樹脂の電気的性質を改善することが提案されている。例えば、特開平8−134263号では、合成樹脂に特定のケイ酸金属塩系繊維状物を特定量配合すると、高周波域での使用に支障をきたす程の比誘電率及び誘電正接の上昇を伴うことなく、熱伝導性、耐熱性及び機械的強度をも向上させることができ、加えて、配合する樹脂の種類によっては、比誘電率を同程度に維持したまま、誘電正接を著しく低下させ得るので、従来、合成樹脂が適用されてきた電気・電子部品とは異なった電気的用途である回路基板材料、特に高周波用の回路基板材料として極めて好適に使用できることを提案している。
より具体的には、特開平8−134263号では、熱可塑性樹脂(ポリアミド樹脂を除く)及び/又は熱硬化性樹脂(フェノール樹脂を除く)に、一般式aMxOy・bSiO・cHO(ここでa、b及びcは正の実数を示す。xが1の場合はyは1を、xが2の場合はyは1又は3をそれぞれ示す。MはMg、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Ga、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Pb、Ba、W及びLiなる群より選ばれた少なくとも1種以上の金属元素を示す。)で表されるケイ酸金属塩系繊維状物質を主成分とする強化繊維を、上記樹脂及び上記繊維状物質の合計重量を基準として5〜60重量%の割合で配合してなることを特徴とする高周波電子部品用樹脂組成物を提案している。
しかし、上記特開平8−134263号公報では、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂に対する強化繊維の配合割合が少なくとも約5重量%以上であり、該強化繊維を大量に使用する必要がある。
【発明の開示】
本発明は、樹脂に少量添加するだけで、GHz帯域における誘電損失(ないしtanδ)を低減させることができる添加剤を開発し、種々の要請に柔軟に応えることができる電子部品用樹脂組成物を提供することを主たる目的とする。
また、本発明の他の目的は、低比誘電率、低誘電正接、高耐熱性、高機械的強度を具備する電気・電子機器の回路基板材料、特にGHz帯域用の回路基板材料、その他の電子部品の製造用に極めて好適な樹脂組成物を提供することである。
本発明者らは、上記目的達成のため鋭意検討した結果、合成樹脂にナノスケールカーボンチューブを特定範囲の少量で配合する場合には、高周波帯域、特にGHz帯域で誘電正接の上昇が抑制されること、また、熱伝導性、耐熱性、機械的強度、比誘電率などの合成樹脂の有する特性が維持されるので、ナノスケールカーボンチューブを特定の少量含有する樹脂組成物は、回路基板材料、特にGHz帯域用の回路基板材料として極めて好適に使用できることを見出した。
ナノスケールカーボンチューブは本来導電性を有しているので、前記特開平8−134263号のように5重量%以上も添加すると、得られる樹脂組成物から形成される電子部品も導電性を有する。よって、高周波帯域の電子部品用の樹脂組成物に、特開平8−134263号に記載のようにナノスケールカーボンチューブを大量に配合することは考えられず、従来、ナノスケールカーボンチューブで高周波帯域の誘電正接を低減させることは従来試みられることはなかった。ところが、本発明者の研究によると、ナノスケールカーボンチューブを、上記特開平8−134263号に記載の5重量%を遙かに下回る微量配合することにより、GHz帯域において、誘電正接が低下するか、又は、誘電正接の上昇を抑制できるという全く予想外の結果が得られたのである。
本発明は斯かる知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであって、次の電子部品用樹脂組成物、電子部品等を提供するものである。
項1 熱可塑性樹脂、硬化性樹脂、及び熱可塑性樹脂と硬化性樹脂との複合樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂、及び、ナノスケールカーボンチューブを含有し、ナノスケールカーボンチューブが上記樹脂を基準として0.0001〜0.4重量%の割合で含有されていることを特徴とするGHz帯域電子部品用樹脂組成物。
項2 ナノスケールカーボンチューブが、
(i) 単層カーボンナノチューブ又は入れ子構造の多層カーボンナノチューブ、
(ii) アモルファスナノスケールカーボンチューブ、
(iii) ナノフレークカーボンチューブ、
(iv) (a)ナノフレークカーボンチューブ及び入れ子構造の多層カーボンナノチューブからなるカーボンチューブと、(b)炭化鉄又は鉄とからなり、該カーボンチューブ(a)のチューブ内空間部の10〜90%の範囲に、該炭化鉄又は鉄(b)が存在している鉄−炭素複合体、又は
(v) 上記(i)〜(iv)の2種以上の混合物
である項1に記載のGHz帯域電子部品用樹脂組成物。
項3 ナノスケールカーボンチューブが、アモルファスナノスケールカーボンチューブであって、X線回折法(入射X線:CuKα)において、ディフラクトメーター法により測定される炭素網平面(002)の平面間隔が3.54Å以上であり、回折角度(2θ)が25.1度以下であり、2θバンドの半値幅が3.2度以上である項1又は2に記載のGHz帯域電子部品用樹脂組成物。
項4 樹脂が、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、フッ素樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、メタクリル酸エステル樹脂、アクリル酸エステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ABS樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、液晶ポリマー、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアセタール、ポリアリレート及びポリエーテルニトリル樹脂からなる群から選ばれた少なくとも1種の熱可塑性樹脂である項1〜3のいずれかに記載のGHz帯域電子部品用樹脂組成物。
項5 樹脂が、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂及び電子線硬化性樹脂からなる群から選ばれた少なくとも1種の硬化性樹脂である項1〜3のいずれかに記載のGHz帯域電子部品用樹脂組成物。
項6 樹脂が、硬化性樹脂の硬化物を分散した熱可塑性樹脂及び熱可塑性樹脂を分散した硬化性樹脂からなる群から選ばれた少なくとも1種の複合樹脂である項1に記載のGHz帯域電子部品用樹脂組成物。
項7 ナノスケールカーボンチューブが、樹脂を基準として0.001〜0.4重量%の割合で含有されている項1〜6のいずれかに記載のGHz帯域電子部品用樹脂組成物。
項8 ナノスケールカーボンチューブが、前記単層カーボンナノチューブ又は入れ子構造の多層カーボンナノチューブであり、その添加量が、樹脂に対して、0.0001〜0.1重量%である項1〜6のいずれかに記載のGHz帯域電子部品用樹脂組成物。
項9 ナノスケールカーボンチューブが、前記アモルファスナノスケールカーボンチューブであり、その添加量が、樹脂に対して、0.0001〜0.1重量%である項1〜6のいずれかに記載のGHz帯域電子部品用樹脂組成物。
項10 ナノスケールカーボンチューブが、前記鉄−炭素複合体であり、その添加量が、樹脂に対して、0.0001〜0.4重量%である項1〜6のいずれかに記載のGHz帯域電子部品用樹脂組成物。
項11 ナノスケールカーボンチューブが、前記ナノフレークカーボンチューブであり、その添加量が、樹脂に対して、0.0001〜0.1重量%である項1〜6のいずれかに記載のGHz帯域電子部品用樹脂組成物。
項12 項1〜11のいずれかに記載のGHz帯域電子部品用樹脂組成物から得られるGHz帯域電子部品。
項13 回路基板、半導体層間絶縁膜、アンテナ部品である項12に記載のGHz帯域電子部品。
項14 樹脂のtanδがGHz帯域で0.1以下に低減されており、且つ、樹脂が本来有している他の物性が保持されている項12又は13に記載のGHz帯域電子部品。
項15 熱可塑性樹脂、硬化性樹脂、及び熱可塑性樹脂と硬化性樹脂との複合樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂に対して0.0001〜0.4重量%の割合でナノスケールカーボンチューブを樹脂に配合することを特徴とする、当該樹脂から得られる電子部品のGHz帯域でのtanδを低減ないしGHz帯域でのtanδの上昇を抑制する方法。
項16 ナノスケールカーボンチューブが、
(i) 単層カーボンナノチューブ又は入れ子構造の多層カーボンナノチューブ、
(ii) アモルファスナノスケールカーボンチューブ、
(iii) ナノフレークカーボンチューブ、
(iv) (a)ナノフレークカーボンチューブ及び入れ子構造の多層カーボンナノチューブからなるカーボンチューブと、(b)炭化鉄又は鉄とからなり、該カーボンチューブ(a)のチューブ内空間部の10〜90%の範囲に、該炭化鉄又は鉄(b)が存在している鉄−炭素複合体、又は
(v) 上記(i)〜(iv)の2種以上の混合物
である項15に記載の方法。
項17 熱可塑性樹脂、硬化性樹脂、及び熱可塑性樹脂と硬化性樹脂との複合樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂に対して0.0001〜0.4重量%の割合でナノスケールカーボンチューブを樹脂に配合することを特徴とする、当該樹脂から得られる電子部品のGHz帯域でのtanδを樹脂単独の場合に比し低減するか又は上昇を抑制し、樹脂が本来有している他の物性を維持する方法。
項18 ナノスケールカーボンチューブが、
(i) 単層カーボンナノチューブ又は入れ子構造の多層カーボンナノチューブ、
(ii) アモルファスナノスケールカーボンチューブ、
(iii) ナノフレークカーボンチューブ、
(iv) (a)ナノフレークカーボンチューブ及び入れ子構造の多層カーボンナノチューブからなるカーボンチューブと、(b)炭化鉄又は鉄とからなり、該カーボンチューブ(a)のチューブ内空間部の10〜90%の範囲に、該炭化鉄又は鉄(b)が存在している鉄−炭素複合体、又は
(v) 上記(i)〜(iv)の2種以上の混合物
である項17に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
図1は、特開2002−338220号の実施例1で得られた炭素質材料を構成する鉄−炭素複合体1本の電子顕微鏡(TEM)写真である。
図2は、特開2002−338220号の実施例1で得られた炭素質材料における鉄−炭素複合体の存在状態を示す電子顕微鏡(TEM)写真である。
図3は、特開2002−338220号の実施例1で得られた鉄−炭素複合体1本を輪切状にした電子顕微鏡(TEM)写真である。尚、図3の写真中に示されている黒三角(▲)は、組成分析のためのEDX測定ポイントを示している。
図4は、カーボンチューブのTEM像の模式図を示し、(a−1)は、円柱状のナノフレークカーボンチューブのTEM像の模式図であり、(a−2)は入れ子構造の多層カーボンナノチューブのTEM像の模式図である。
図5は、実施例及び比較例で製造した評価用サンプル、アウターコンダクタ及びインナーコンダクタの形状を示す斜視図である。
図6は、比較例1、実施例2、実施例3及び比較例3で得られた評価用サンプルのtanδの測定結果を示すグラフである。
図7は、比較例1、実施例2及び実施例3で得られた評価用サンプルの比誘電率の測定結果を示すグラフである。
図8は、比較例1、実施例6及び比較例4で得られた評価用サンプルのtanδの測定結果を示すグラフである。
図9は、比較例1及び実施例7で得られた評価用サンプルのtanδの測定結果を示すグラフである。
図10は、実施例8〜11で得られた評価用サンプルのtanδの測定結果を示すグラフである。
上記図面において、符号は次の意味を有する。
100 ナノフレークカーボンチューブの長手方向のTEM像
110 略直線状のグラフェンシート像
200 ナノフレークカーボンチューブの長手方向にほぼ垂直な断面のTEM像
210 弧状グラフェンシート像
300 入れ子構造の多層カーボンナノチューブの長手方向の全長にわたって連続する直線状グラフェンシート像
400 入れ子構造の多層カーボンナノチューブの長手方向に垂直な断面のTEM像
501 評価用サンプル
502 インナーコンダクタ
503 アウターコンダクタ
発明の詳細な記述
本発明者の研究によれば、上記ナノスケールカーボンチューブを樹脂に0.001〜0.4重量%という極めて少量添加してなる樹脂組成物から得られる電子部品が上記目的を達成することを見いだしていたが、更に研究を重ねた結果、更に少量の0.0001重量%の添加量であっても、同様に上記目的が達成されることを見出した。
即ち、本発明によれば、上記ナノスケールカーボンチューブを樹脂に0.0001〜0.4重量%という極めて少量添加してなる樹脂組成物から得られる電子部品は、GHz帯域において、誘電正接(tanδ)が樹脂単独の場合よりも低下するか、または、樹脂単独の場合のtanδの上昇を抑制することができ、一方、樹脂が本来有する比誘電率、耐熱性、機械的強度(例えば、引っ張り強度、破断伸度、硬度など)、化学的特性等の物性、特に誘電特性は実質上変化することなくそのまま維持される。
従って、低い比誘電率を有する樹脂を使用すると、本発明に従って、低誘電率、高耐熱性、高機械的強度等の物性を有する樹脂にナノスケールカーボンチューブを少量配合してなる樹脂組成物から得られる電子部品は、GHz帯域において、樹脂単独に比し、誘電正接が低下するか又はその上昇が抑制されると共に、当該樹脂が本来持っている低誘電率、高耐熱性、高機械的強度等の物性が維持される。
従って、かかる樹脂組成物を使用することにより、電気・電子機器の回路基板材料、特にGHz帯域用の回路基板材料等として好適に使用できる電子部品が提供される。
また、本発明では、ナノスケールカーボンチューブの添加により、樹脂の各種特性(誘電特性、熱的特性、化学的特性、機械的特性)を劣化させることなくGHz帯域で誘電正接の増大を抑えるので、樹脂の選択の幅が増大するという利点もある。
ナノスケールカーボンチューブ
本発明で使用するナノスケールカーボンチューブとしては、ナノサイズの直径を有するカーボンチューブを指し、該カーボンチューブのチューブ内空間部には鉄等が内包されていてもよい。
かかるナノスケールカーボンチューブとしては、(i)単層カーボンナノチューブ又は多層カーボンナノチューブ、(ii)本出願人が開発したアモルファスナノスケールカーボンチューブ、(iii)ナノフレークカーボンチューブ、(iv)(a)ナノフレークカーボンチューブ及び入れ子構造の多層カーボンナノチューブからなる群から選ばれるカーボンチューブと(b)炭化鉄又は鉄とからなり、該カーボンチューブ(a)のチューブ内空間部の10〜90%の範囲に(b)の炭化鉄又は鉄が充填されている鉄−炭素複合体、(v)これらの2種以上の混合物等を例示することができる。
これらのうちでも、特に、上記アモルファスナノスケールカーボンチューブ、ナノフレークカーボンチューブおよび上記鉄−炭素複合体が、溶媒、バインダー中での分散が良好であり、好ましい。これらチューブが溶媒、バインダー中での分散が良好である理由は完全には解明されていないが、これらチューブの最外層の炭素網面が不連続であるため、溶媒、バインダー等との親和性が高くなっているためと推察される。
カーボンナノチューブ
カーボンナノチューブは、黒鉛シート(即ち、黒鉛構造の炭素原子面ないしグラフェンシート)がチューブ状に閉じた中空炭素物質であり、その直径はナノメートルスケールであり、壁構造は黒鉛構造を有している。カーボンナノチューブのうち、壁構造が一枚の黒鉛シートでチューブ状に閉じたものは単層カーボンナノチューブと呼ばれ、複数枚の黒鉛シートがそれぞれチューブ状に閉じて、入れ子状になっているものは入れ子構造の多層カーボンナノチューブと呼ばれている。本発明では、これら単層カーボンナノチューブ及び入れ子構造の多層カーボンナノチューブがいずれも使用できる。
本発明で使用できる単層カーボンナノチューブとしては、直径が0.4〜10nm程度、長さが1〜500μm程度のものが好ましく、直径が0.7〜5nm程度、長さが1〜100μm程度のものがさらに好ましく、特に、直径が0.7〜2nm程度、長さが1〜20μm程度のものが好ましい。
また、本発明で使用できる入れ子構造の多層カーボンナノチューブとしては、直径が1〜100nm程度、長さが1〜500μm程度のものが好ましく、直径が1〜50nm程度、長さが1〜100μm程度のものがさらに好ましく、特に、直径が1〜40nm程度、長さが1〜20μm程度のものが好ましい。
アモルファスナノスケールカーボンチューブ
また、上記アモルファスナノスケールカーボンチューブは、WO00/40509(日本国特許第3355442号)に記載されており、カーボンからなる主骨格を有し、直径が0.1〜1000nmであり、アモルファス構造を有するナノスケールカーボンチューブであって、直線状の形態を有し、X線回折法(入射X線:CuKα)において、ディフラクトメーター法により測定される炭素網平面(002)の平面間隔(d002)が3.54Å以上、特に3.7Å以上であり、回折角度(2θ)が25.1度以下、特に24.1度以下であり、2θバンドの半値幅が3.2度以上、特に7.0度以上であることを特徴とするものである。
該アモルファスナノスケールカーボンチューブは、マグネシウム、鉄、コバルト、ニッケル等の金属の塩化物の少なくとも1種からなる触媒の存在下で、分解温度が200〜900℃である熱分解性樹脂、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール等を、励起処理することにより得られる。
出発原料としての熱分解性樹脂の形状は、フィルム状乃至シート状、粉末状、塊状などの任意の形状であって良い。例えば、基板上に薄膜化アモルファスナノスケールカーボンチューブを形成させた炭素材料を得る場合には、基板上に熱分解性樹脂を塗布あるいは載置した状態で、適切な条件下に励起処理すればよい。
該励起処理としては、例えば、不活性雰囲気中、好ましくは450〜1800℃程度の温度域でかつ原料の熱分解温度以上で加熱する、室温〜3000℃程度の温度域でかつ原料の熱分解温度以上でのプラズマ処理する等の処理が例示できる。
本発明で使用するアモルファスナノスケールカーボンチューブは、アモルファス構造(非晶質構造)を有するナノスケールのカーボンナノチューブで、中空直線状であり、細孔が高度に制御されている。その形状は、主に円柱、四角柱などであり、先端の少なくとも一方が、キャップを有していない(開口している)場合が多い。先端が閉口している場合には、形状がフラット状である場合が多い。
該アモルファスナノスケールカーボンチューブの外径は、通常1〜1000nm程度の範囲にあり、好ましくは1〜200nm程度の範囲にあり、より好ましくは、1〜100nm程度の範囲にある。そのアスペクト比(チューブの長さ/直径)は2倍以上であり、好ましくは5倍以上である。
ここで、「アモルファス構造」とは、規則的に配列した炭素原子の連続的な炭素層からなる黒鉛質構造ではなく、不規則な炭素網平面からなる炭素質構造を意味し、多数の微細なグラフェンシートが不規則に配列している。代表的な分析手法である透過型電子顕微鏡による像からは、本発明による非晶質構造のナノスケールカーボンチューブは、炭素網平面の平面方向の広がりがアモルファスナノスケールカーボンチューブの直径の1倍より小さい。このように、アモルファスナノスケールカーボンチューブは、その壁部が黒鉛構造ではなく多数の微細なグラフェンシート(炭素網面)が不規則に分布したアモルファス構造を有しているため、最外層を構成する炭素網面は、チューブ長手方向の全長にわたって連続しておらず、不連続となっている。特に、最外層を構成する炭素網面の長さは、20nm未満、特に5nm未満である。
非晶質炭素は一般的にはX線回折を示さないが、ブロードな反射を示す。黒鉛質構造では、炭素網平面が規則的に積み重なっているので、炭素網平面間隔(d002)が狭くなり、ブロードな反射は高角側(2θ)に移行して、次第に鋭くなり(2θバンドの半値幅が狭くなり)、d002回折線として観測できるようになる(黒鉛的位置関係で規則正しく積み重なっている場合はd002=3.354Åである)。
これに対し、非晶質構造は、上記のように一般的にはX線による回折を示さないが、部分的に非常に弱い干渉性散乱を示す。X線回折法(入射X線=CuKα)において、ディフラクトメーター法により測定される本発明によるアモルファスナノスケールカーボンチューブの理論的な結晶学的特性は、以下の様に規定される:炭素網平面間隔(d002)は、3.54Å以上であり、より好ましくは3.7Å以上である;回折角度(2θ)は、25.1度以下であり、より好ましくは24.1度以下である;前記2θバンドの半値幅は、3.2度以上であり、より好ましくは7.0度以上である。
典型的には、本発明で使用するアモルファスナノスケールカーボンチューブは、X線回折による回折角度(2θ)が18.9〜22.6度の範囲内にあり、炭素網平面間隔(d002)は3.9〜4.7Åの範囲内にあり、2θバンドの半値幅は7.6〜8.2度の範囲内にある。
本発明のアモルファスナノスケールカーボンチューブの形状を表す一つの用語である「直線状」なる語句は、次のように定義される。すなわち、透過型電子顕微鏡によるアモルファスナノスケールカーボンチューブ像の長さをLとし、そのアモルファスナノスケールカーボンチューブを伸ばした時の長さをLとした場合に、L/Lが0.9以上となる形状特性を意味するものとする。
かかるアモルファスナノスケールカーボンチューブのチューブ壁部分は、あらゆる方向に配向した複数の微細な炭素網平面(グラフェンシート)からなる非晶質構造であり、これらの炭素網平面の炭素平面間隔により活性点を有するためか、樹脂との親和性に優れているという利点を有する。
鉄−炭素複合体
また、本発明で使用する上記鉄−炭素複合体は、特開2002−338220号公報(特許第3569806号公報)に記載されており、(a)ナノフレークカーボンチューブ及び入れ子構造の多層カーボンナノチューブからなる群から選ばれるカーボンチューブと(b)炭化鉄又は鉄とからなり、該カーボンチューブ(a)のチューブ内空間部の10〜90%の範囲に(b)の炭化鉄又は鉄が充填されている。即ち、チューブ内空間部の100%の範囲に完全に充填されているものではなく、上記炭化鉄又は鉄がそのチューブ内空間部の10〜90%の範囲に充填されている(即ち、部分的に充填されている)ことを特徴とするものである。壁部は、パッチワーク状ないし張り子状(いわゆるpaper mache状)のナノフレークカーボンチューブである。
本願特許請求の範囲及び明細書において、「ナノフレークカーボンチューブ」とは、フレーク状の黒鉛シートが複数枚(通常は多数)パッチワーク状ないし張り子状(paper mache状)に集合して構成されている、黒鉛シートの集合体からなる炭素製チューブを指す。
かかる鉄−炭素複合体は、特開2002−338220号公報に記載の方法に従って、
(1)不活性ガス雰囲気中、圧力を10−5Pa〜200kPaに調整し、反応炉内の酸素濃度を、反応炉容積をA(リットル)とし酸素量をB(Ncc)とした場合の比B/Aが1×10−10〜1×10−1となる濃度に調整した反応炉内でハロゲン化鉄を600〜900℃まで加熱する工程、及び
(2)上記反応炉内に不活性ガスを導入し、圧力10−5Pa〜200kPaで熱分解性炭素源を導入して600〜900℃で加熱処理を行う工程
を包含する製造方法により製造される。
ここで、酸素量Bの単位である「Ncc」は、気体の25℃での標準状態に換算したときの体積(cc)という意味である。
該鉄−炭素複合体は、(a)ナノフレークカーボンチューブ及び入れ子構造の多層カーボンナノチューブからなる群から選ばれるカーボンチューブと(b)炭化鉄又は鉄とからなるものであって、該カーボンチューブ内空間部(即ち、チューブ壁で囲まれた空間)の実質上全てが充填されているのではなく、該空間部の一部、より具体的には10〜90%程度、特に30〜80%程度、好ましくは40〜70%程度が炭化鉄又は鉄により充填されている。
本発明で使用する鉄−炭素複合体においては、特開2002−338220号公報に記載されているように、炭素部分は、製造工程(1)及び(2)を行った後、特定の速度で冷却するとナノフレークカーボンチューブとなり、製造工程(1)及び(2)を行った後、不活性気体中で加熱処理を行い、特定の冷却速度で冷却することにより、入れ子構造の多層カーボンナノチューブとなる。
<(a−1)ナノフレークカーボンチューブ>
本発明のナノフレークカーボンチューブと炭化鉄又は鉄からなる鉄−炭素複合体は、典型的には円柱状であるが、そのような円柱状の鉄−炭素複合体(特開2002−338220号公の実施例1で得られたもの)の長手方向にほぼ垂直な断面の透過型電子顕微鏡(TEM)写真を図3に示し、側面のTEM写真を図1に示す。
また、図4の(a−1)にそのような円柱状のナノフレークカーボンチューブのTEM像の模式図を示す。図4の(a−1)において、100は、ナノフレークカーボンチューブの長手方向のTEM像を模式的に示しており、200は、ナノフレークカーボンチューブの長手方向にほぼ垂直な断面のTEM像を模式的に示している。
本発明で使用する鉄−炭素複合体を構成するナノフレークカーボンチューブは、代表的には、中空円筒状の形態を有し、その断面をTEM観察した場合、弧状グラフェンシート像が同心円状に集合しており、個々のグラフェンシート像は、不連続な環を形成しており、その長手方向をTEMで観察した場合、略直線状のグラフェンシート像が、長手方向にほぼ並行に多層状に配列しており、個々のグラフェンシート像は、長手方向全長にわたって連続しておらず、不連続となっているという特徴を有している。
より詳しくは、本発明で使用する鉄−炭素複合体を構成しているナノフレークカーボンチューブは、図3及び図4の(a−1)の200から明らかなように、その長手方向に垂直な断面をTEM観察した場合、多数の弧状グラフェンシート像が同心円状(多層構造のチューブ状)に集合しているが、個々のグラフェンシート像は、例えば210、214に示すように、完全に閉じた連続的な環を形成しておらず、途中で途切れた不連続な環を形成している。一部のグラフェンシート像は、211に示すように、分岐している場合もある。不連続点においては、一つの不連続環を構成する複数の弧状TEM像は、図4の(a−1)の222に示すように、層構造が部分的に乱れている場合もあれば、223に示すように隣接するグラフェンシート像との間に間隔が存在している場合もあるが、TEMで観察される多数の弧状グラフェンシート像は、全体として、多層状のチューブ構造を形成している。
また、図1及び図4の(a−1)の100から明らかなように、ナノフレークカーボンチューブの長手方向をTEMで観察した場合、多数の略直線状のグラフェンシート像が本発明で使用する鉄−炭素複合体の長手方向にほぼ並行に多層状に配列しているが、個々のグラフェンシート像110は、鉄−炭素複合体の長手方向全長にわたって連続しておらず、途中で不連続となっている。一部のグラフェンシート像は、図4の(a−1)の111に示すように、分岐している場合もある。また、不連続点においては、層状に配列したTEM像のうち、一つの不連続層のTEM像は、図4の(a−1)の112に示すように、隣接するグラフェンシート像と少なくとも部分的に重なり合っている場合もあれば、113に示すように隣接するグラフェンシート像と少し離れている場合もあるが、多数の略直線状のTEM像が、全体として多層構造を形成している。
かかる本発明のナノフレークカーボンチューブの構造は、従来の多層カーボンナノチューブと大きく異なっている。即ち、図4の(a−2)の400に示すように、入れ子構造の多層カーボンナノチューブは、その長手方向に垂直な断面のTEM像が、410に示すように、実質上完全な円形のTEM像となっている同心円状のチューブであり、且つ、図4の(a−2)の300に示すように、その長手方向の全長にわたって連続する直線状グラフェンシート像310等が平行に配列している構造(同心円筒状ないし入れ子状の構造)である。
以上より、詳細は未だ完全には解明されていないが、本発明で使用する鉄−炭素複合体を構成するナノフレークカーボンチューブは、フレーク状のグラフェンシートが多数パッチワーク状ないし張り子状に重なり合って全体としてチューブを形成しているようにみえる。
このような本発明のナノフレークカーボンチューブとそのチューブ内空間部に内包された炭化鉄又は鉄からなる鉄−炭素複合体は、特許第2546114号に記載されているような入れ子構造の多層カーボンナノチューブのチューブ内空間部に金属が内包された複合体に比し、カーボンチューブの構造において大きく異なっている。
本発明で使用する鉄−炭素複合体を構成しているナノフレークカーボンチューブをTEM観察した場合において、その長手方向に配向している多数の略直線状のグラフェンシート像に関し、個々のグラフェンシート像の長さは、通常、2〜500nm程度、特に10〜100nm程度である。即ち、図4の(a−1)の100に示されるように、110で示される略直線状のグラフェンシートのTEM像が多数集まってナノフレークカーボンチューブの壁部のTEM像を構成しており、個々の略直線状のグラフェンシート像の長さは、通常、2〜500nm程度、特に10〜100nm程度である。
このように、鉄−炭素複合体においては、その壁部を構成するナノフレークカーボンチューブの最外層は、チューブ長手方向の全長にわたって連続していない不連続なグラフェンシートから形成されており、その最外面の炭素網面の長さは、通常、2〜500nm程度、特に10〜100nm程度である。
本発明で使用する鉄−炭素複合体を構成するナノフレークカーボンチューブの壁部の炭素部分は、上記のようにフレーク状のグラフェンシートが多数長手方向に配向して全体としてチューブ状となっているが、X線回折法により測定した場合に、炭素網面間の平均距離(d002)が0.34nm以下の黒鉛質構造を有するものである。
また、本発明で使用する鉄−炭素複合体のナノフレークカーボンチューブからなる壁部の厚さは、49nm以下、特に0.1〜20nm程度、好ましくは1〜10nm程度であって、全長に亘って実質的に均一である。
<(a−2)入れ子構造の多層カーボンナノチューブ>
前記のように、工程(1)及び(2)を行った後、特定の加熱工程を行うことにより、得られる鉄−炭素複合体を構成するカーボンチューブは、入れ子構造の多層カーボンナノチューブとなる。
こうして得られる入れ子構造の多層カーボンナノチューブは、図4の(a−2)の400に示すように、その長手方向に垂直な断面のTEM像が実質的に完全な円を構成する同心円状のチューブであり、且つ、その長手方向の全長にわたって連続したグラフェンシート像が平行に配列している構造(同心円筒状ないし入れ子状の構造)である。
本発明で使用する鉄−炭素複合体を構成する入れ子構造の多層カーボンナノチューブの壁部の炭素部分は、X線回折法により測定した場合に、炭素網面間の平均距離(d002)が0.34nm以下の黒鉛質構造を有するものである。
また、本発明で使用する鉄−炭素複合体の入れ子構造の多層カーボンナノチューブからなる壁部の厚さは、49nm以下、特に0.1〜20nm程度、好ましくは1〜10nm程度であって、全長に亘って実質的に均一である。
<(b)内包されている炭化鉄又は鉄>
本明細書において、上記ナノフレークカーボンチューブ及び入れ子構造の多層カーボンナノチューブからなる群から選ばれるカーボンチューブ内空間部の炭化鉄又は鉄による充填率(10〜90%)は、本発明で使用する鉄−炭素複合体を透過型電子顕微鏡で観察し、各カーボンチューブの空間部(即ち、カーボンチューブのチューブ壁で囲まれた空間)の像の面積に対する、炭化鉄又は鉄が充填されている部分の像の面積の割合である。
炭化鉄又は鉄の充填形態は、カーボンチューブ内空間部に連続的に充填されている形態、カーボンチューブ内空間部に断続的に充填されている形態等があるが、基本的には断続的に充填されている。従って、本発明で使用する鉄−炭素複合体は、金属内包炭素複合体ないし鉄化合物内包炭素複合体、炭化鉄又は鉄内包炭素複合体とも言うべきものである。
また、本発明で使用する鉄−炭素複合体に内包されている炭化鉄又は鉄は、カーボンチューブの長手方向に配向しており、結晶性が高く、炭化鉄又は鉄が充填されている範囲のTEM像の面積に対する、結晶性炭化鉄又は鉄のTEM像の面積の割合(以下「結晶化率」という)は、一般に、90〜100%程度、特に95〜100%程度である。
内包されている炭化鉄又は鉄の結晶性が高いことは、本発明鉄−炭素複合体の側面からTEM観察した場合、内包物のTEM像が格子状に配列していることから明らかであり、電子線回折において明確な回折パターンが得られることからも明らかである。
また、本発明で使用する鉄−炭素複合体に炭化鉄又は鉄が内包されていることは、電子顕微鏡、EDX(エネルギー分散型X線検出器)により容易に確認することができる。
<鉄−炭素複合体の全体形状>
本発明で使用する鉄−炭素複合体は、湾曲が少なく、直線状であり、壁部の厚さが全長に亘ってほぼ一定の均一厚さを有しているので、全長に亘って均質な形状を有している。その形状は、柱状で、主に円柱状である。
本発明による鉄−炭素複合体の外径は、通常、1〜100nm程度、特に1〜50nm程度の範囲にあり、好ましくは1〜30nm程度の範囲にあり、より好ましくは10〜30nm程度の範囲にある。チューブの長さ(L)の外径(D)に対するアスペクト比(L/D)は、5〜10000程度であり、特に10〜1000程度である。
本発明で使用する鉄−炭素複合体の形状を表す一つの用語である「直線状」なる語句は、次のように定義される。即ち、透過型電子顕微鏡により本発明で使用する鉄−炭素複合体を含む炭素質材料を200〜2000nm四方の範囲で観察し、像の長さをWとし、該像を直線状に伸ばした時の長さをWoとした場合に、比W/Woが、0.8以上、特に、0.9以上となる形状特性を意味するものとする。
本発明で使用する鉄−炭素複合体は、バルク材料としてみた場合、次の性質を有する。即ち、本発明では、上記のようなナノフレークカーボンチューブ及び入れ子構造の多層カーボンナノチューブから選ばれるカーボンチューブのチューブ内空間部の10〜90%の範囲に鉄または炭化鉄が充填されている鉄−炭素複合体は、顕微鏡観察によりかろうじて観察できる程度の微量ではなく、多数の該鉄−炭素複合体を含むバルク材料であって、鉄−炭素複合体を含む炭素質材料、或いは、炭化鉄又は鉄内包炭素質材料ともいうべき材料の形態で大量に得られる。
特開2002−338220号公報の実施例1で製造されたナノフレークカーボンチューブとそのチューブ内空間部に充填された炭化鉄からなる本発明炭素質材料の電子顕微鏡写真を、図2に示す。
図2から判るように、本発明で使用する鉄−炭素複合体を含む炭素質材料においては、基本的にはほとんど全ての(特に99%又はそれ以上の)カーボンチューブにおいて、その空間部(即ち、カーボンチューブのチューブ壁で囲まれた空間)の10〜90%の範囲に炭化鉄又は鉄が充填されており、空間部が充填されていないカーボンチューブは実質上存在しないのが通常である。但し、場合によっては、炭化鉄又は鉄が充填されていないカーボンチューブも微量混在することがある。
また、本発明の炭素質材料においては、上記のようなカーボンチューブ内空間部の10〜90%に鉄または炭化鉄が充填されている鉄−炭素複合体が主要構成成分であるが、本発明の鉄−炭素質複合体以外に、スス等が含まれている場合がある。そのような場合は、本発明の鉄−炭素質複合体以外の成分を除去して、本発明の炭素質材料中の鉄−炭素質複合体の純度を向上させ、実質上本発明で使用する鉄−炭素複合体のみからなる炭素質材料を得ることもできる。
また、従来の顕微鏡観察で微量確認し得るに過ぎなかった材料とは異なり、本発明で使用する鉄−炭素複合体を含む炭素質材料は大量に合成できるので、その重量を容易に1mg以上とすることができる。
本発明炭素質材料は、該炭素質材料1mgに対して25mm以上の照射面積で、CuKαのX線を照射した粉末X線回折測定において、内包されている鉄または炭化鉄に帰属される40°<2θ<50°のピークの中で最も強い積分強度を示すピークの積分強度をIaとし、カーボンチューブの炭素網面間の平均距離(d002)に帰属される26°<2θ<27°のピークの積分強度Ibとした場合に、IaのIbに対する比R(=Ia/Ib)が、0.35〜5程度、特に0.5〜4程度であるのが好ましく、より好ましくは1〜3程度である。
本明細書において、上記Ia/Ibの比をR値と呼ぶ。このR値は、本発明で使用する鉄−炭素複合体を含む炭素質材料を、X線回折法において25mm以上のX線照射面積で観察した場合に、炭素質材料全体の平均値としてピーク強度が観察されるために、TEM分析で測定できる1本の鉄−炭素複合体における内包率ないし充填率ではなく、鉄−炭素複合体の集合物である炭素質材料全体としての、炭化鉄又は鉄充填率ないし内包率の平均値を示すものである。
尚、多数の本発明鉄−炭素複合体を含む炭素質材料全体としての平均充填率は、TEMで複数の視野を観察し、各視野で観察される複数の鉄−炭素複合体における炭化鉄又は鉄の平均充填率を測定し、更に複数の視野の平均充填率の平均値を算出することによっても求めることができる。かかる方法で測定した場合、本発明で使用する鉄−炭素複合体からなる炭素質材料全体としての炭化鉄又は鉄の平均充填率は、10〜90%程度、特に40〜70%程度である。
ナノフレークカーボンチューブ
上記の鉄又は炭化鉄がナノフレークカーボンチューブのチューブ内空間に部分内包されている鉄−炭素複合体を酸処理することにより、内包されている鉄又は炭化鉄が溶解除去され、チューブ内空間部に鉄又は炭化鉄が存在しない中空のナノフレークカーボンチューブを得ることができる。
上記酸処理に使用する酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸等を例示でき、その濃度は0.1〜2N程度のものが好ましい。酸処理方法としては、種々の方法により行うことが可能であるが、例えば、1Nの塩酸100mlに対して、1gの鉄内包ナノフレークカーボンチューブを分散し、室温で6時間撹拌処理し、ろ過分離した後、さらに、2回1Nの塩酸100mlで同様の処理を行なうことで、中空のナノフレークカーボンチューブを得ることができる。
この酸処理によってもナノフレークカーボンチューブの基本的構成は特に変化を受けない。よって、チューブ内空間部に鉄又は炭化鉄が存在しない中空のナノフレークカーボンチューブにおいても、その最外面を構成する炭素網面の長さは、500nm以下であり、特に2〜500nm、特に10〜100nmである。
樹脂
本発明では、電子部品の分野で使用されている各種の熱可塑性樹脂、硬化性樹脂、及び熱可塑性樹脂と硬化性樹脂との複合樹脂からなる群から選ばれた少なくとも1種を使用する。
本発明で使用される熱可塑性樹脂としては、広い範囲のものが使用できるが、例えば、ポリオレフィン樹脂(例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ1−ブテン樹脂、ポリ4−メチル−1−ペンテン樹脂等の直鎖状ポリオレフィン樹脂、5−メチルペンテン樹脂、ポリノルボルネン樹脂等の環状オレフィンを成分に含む環状ポリオレフィン樹脂、)、ポリエステル樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート・ポリエチレングリコールブロック共重合体等)、ポリアミド樹脂(例えば、ナイロン4、ナイロン6、ナイロン6・6、ナイロン6・10、ナイロン12等)、フッ素樹脂(例えば、ポリ四フッカエチレン樹脂、ポリ三フッカエチレン樹脂等、及び、エチレン/テトラフルオロエチレンコポリマー、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルコキシビニルエーテルコポリマー等の熱溶融性フッ素樹脂)、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、メタクリル酸エステル樹脂又はアクリル酸エステル樹脂(例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート等)、ポリカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂(特に、ポリフェニレンエーテル、若干のポリスチレンもしくはスチレン・ブタジエン系エラストマーを添加して耐衝撃性や成形性を改善したポリフェニレンエーテル樹脂等)、ABS樹脂(例えば、マレイミドを共重合することにより熱変形温度を高めた耐熱性ABS樹脂等)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、液晶ポリマー(例えばサーモトロピック液晶ポリエステル樹脂等)、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアセタール、ポリアリレート、ポリエーテルニトリル樹脂等を例示できる。本発明では、これら熱可塑性樹脂の中から1種を単独で使用してもよく、又は2種以上を併用してもよい。
また、本発明で使用する硬化性樹脂は、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂等が代表として挙げられるが、何れも、加工、成型に際して、熱、光、電子線等の外部エネルギーを与えることで、硬化する性質を有するものである。
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂(例えば、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールA、レゾルシン等から合成される各種ノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、線状脂肪族エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂、ハロゲン化エポキシ樹脂、スピロ環式エポキシ樹脂等)、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、フラン樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、トリアジン系樹脂(例えば、ビスマレイミドトリアジン樹脂(BTレジン)等)、硬化性ポリフェニレンエーテル樹脂、架橋性ポリフェニレンオキサイド、マレイミド系樹脂、アルキッド樹脂、キシレン樹脂等を例示できる。本発明では、これら熱硬化性樹脂の中から1種を単独で使用してもよく、又は2種以上を併用してもよい。
これら熱硬化性樹脂は、必要に応じて適宜、重合開始材(硬化剤)を添加して使用することができ、例えばエポキシ樹脂の硬化剤としては、アミン系硬化剤、ポリアミド系硬化剤、酸無水物系硬化剤、潜在性硬化剤等が挙げられ、エポキシ基と反応しうる活性基(好ましくは、アミノ基、酸無水物基、アジド基、水酸基)を有する化合物が適している。より具体的には、アミン系硬化剤として、脂肪族アミン、脂環族アミン、芳香族アミン等、ポリアミド系硬化剤として、ポリアミドアミン等、酸無水物系硬化剤として、脂肪族酸無水物、脂環式酸無水物、芳香族酸無水物、ハロゲン系酸無水物等、潜在性硬化剤として、高融点活性水素化合物(ジシアンジアミド、有機酸ジヒドラジド等)、第三アミン・イミダゾール塩(ルイス酸・ブレンステッド酸の塩等)が挙げられるが、これに限定されない。シリコーン樹脂の硬化剤としては、アミノキシシラン等が挙げられる。不飽和ポリエステル樹脂の硬化剤としては、過酸化ベンゾイル(BPO)やメチルエチルケトンパーオキサイド(MEKPO)、有機過酸化物(ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート、パーオキシケタール、ケトンパーオキサイド)等が挙げられる。
これら硬化剤は、各熱硬化性樹脂について慣用されている使用量で使用すればよいが、一般には、熱硬化性樹脂100重量部に対して0.3〜5重量部程度、特に1〜3重量部程度とするのが好ましい。
本発明で使用する硬化性樹脂は、光硬化性付与した光硬化性樹脂であってもよい。光硬化性樹脂としては、公知の様々なものが使用でき、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エステル樹脂等があげられる。代表的なものとして、分子中にアクリロイル基を有する紫外線硬化型樹脂として次に示すモノマーまたはオリゴマーまたはポリマーなどの混合物が使用される。エポキシアクリレート系,ウレタンアクリレート系,ポリエステルアクリレート系,ポリオールアクリレート系のオリゴマーまたはポリマーが挙げられる。更に、単官能、二官能もしくは多官能の重合性(メタ)アクリル系としてテトラヒドロフルフリルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリトリトールトリアクリレート、ペンタエリトリトールテトラアクリレートなどのモノマーまたはオリゴマーまたはポリマーが挙げられる。これら光硬化性樹脂は、1種を単独で使用してもよく、又は2種以上を併用してもよい。
なお、光硬化性樹脂には、通常配合される光重合開始剤(必要であれば、光重合促進剤を併用する)を、通常使用されている量で配合してもよい。
光重合開始剤としては、紫外線を吸収してラジカルを発生しやすい物質が好ましく、アセトフェノン系、チオキサントン系、ベンゾイン系、パーオキサイド系の公知の物質を用いることができる。例えば、ジエトキシアセトフェノン、4−フェノキシジクロロアセトフェノン、ベンゾイン、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンジルジメチルケタール、ベンゾフェノン、4−フェニルベンゾフェノン、アクリル化ベンゾフェノン、チオキサントン、2−エチルアンスラキノンなどが挙げられる。
光重合開始剤の使用量は、各光硬化性樹脂について慣用されている使用量とすればよいが、一般には、光硬化性樹脂100重量部に対して0.3〜5重量部程度、特に1〜3重量部程度とするのが好ましい。
また、光重合促進剤としては、光重合開始剤単独の場合よりも開始反応が促進され、硬化反応を効率的にするものであり、脂肪族、芳香族のアミンなどの公知の光開始助剤を使用できる。例えば、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、ミヒラーケトン、4,4−ジエチルアミノフェノンなどがある。
光重合促進剤を使用する場合、その使用量は、各光硬化性樹脂について慣用されている使用量とすればよいが、一般には、光硬化性樹脂100重量部に対して0.3〜5重量部程度、特に1〜3重量部程度とするのが好ましい。
また、本発明で使用する硬化性樹脂は、電子線硬化性樹脂であってもよい。電子線硬化性樹脂としては、従来公知のものが広く使用でき、例えば、(A)脂肪族、脂環族、および芳香族の、1〜6価のアルコール及びポリアルキレングリコールのアクリレート化合物類、(B)脂肪族、脂環族、芳香族の、1〜6価のアルコールにアルキレンオキサイドを付加させたもののアクリレート化合物類、(C)ポリアクリロイルアルキルリン酸エステル類、(D)カルボン酸と、ポリオールと、アクリル酸との反応生成物類、(E)イソシアネートと、ポリオールと、アクリル酸との反応生成物類、(F)エポキシ化合物とアクリル酸との反応生成物類、(G)エポキシ化合物と、ポリオールと、アクリル酸との反応生成物類等を例示できる。
より具体的には、電子線硬化性樹脂は、ポリオキシエチレンエピクロルヒドリン変性ビスフェノールAジアクリレート、ジシクロヘキシルアクリレート、エピクロルヒドリン変性ポリエチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ヒドロキシビバリン酸エステルネオペンチルグリコールジアクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコールアクリレート、エチレンオキサイド変性フェノキシ化リン酸アクリレート、エチレンオキサイド変性フタル酸アクリレート、ポリブタジエンアクリレート、カプロラクタン変性テトラヒドロフルフリルアクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、1,4−ブタジエンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、およびネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジアクリレートなどから選ばれることが好ましい。
本発明では、熱可塑性樹脂及び硬化性樹脂を複合樹脂の形態で併用することもできる。この場合、該複合樹脂は、例えば、硬化性樹脂の硬化物を分散した熱可塑性樹脂の形態で用いてもよいし、熱可塑性樹脂を分散した熱硬化性樹脂の形態で用いてもよい。
上記例示の樹脂とナノスケールカーボンチューブとからなる樹脂組成物は、元の樹脂(母材)よりtanδを低減せしめ、それ以外の他の物性である比誘電率、機械的強度、耐熱性等は元の樹脂と同等に維持され、結果、各用途に適した電子部品を与える。
上記の樹脂の中でも、
(1)ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、フッ素樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリメチル(メタ)アクリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂等の熱可塑性樹脂、
(2)ポリイミド樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂(BTレジン)、架橋性ポリフェニレンオキサイド、硬化性ポリフェニレンエーテル、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、ジアリルフタレート樹脂、キシレン樹脂、エポキシ樹脂、エポキシアクリレート系樹脂、ウレタンアクリレート系樹脂、ポリエステルアクリレート系樹脂、ポリオールアクリレート系樹脂等の硬化性樹脂が好ましい。
樹脂組成物
本発明の樹脂組成物は、前記樹脂と前記ナノスケールカーボンチューブとを含有するものである。
本発明の樹脂組成物は、ナノスケールカーボンチューブの添加量が、樹脂を基準として0.0001〜0.4重量%の割合であることを特徴としている。このように極微量のナノスケールカーボンチューブの添加により、GHz帯域における誘電正接を低減するメカニズムは現在不明であるが、極微量のナノスケールカーボンチューブが均一分散することにより、樹脂に含まれる極性基が誘電分極によって生じた双極子の電界変化をナノスケールカーボンチューブが物理的に相殺するためと考えられる。ナノスケールカーボンチューブの配合量が、0.0001重量%未満ではその効果が薄れ、0.4重量%を超えるとかえって誘電正接が上昇してしまう。
ナノスケールカーボンチューブの添加量は、樹脂に対して、0.0005〜0.4重量%、好ましくは0.001〜0.4重量%、特に0.001〜0.3重量%であるのが好ましい。ナノスケールカーボンチューブの添加量を、樹脂に対して0.001〜0.2重量%、特に0.001〜0.1重量%にするのがより好ましい。
また、ナノスケールカーボンチューブが、前記単層カーボンナノチューブ又は入れ子構造の多層カーボンナノチューブである場合、その添加量は、樹脂に対して、0.0001〜0.1重量%、特に0.0001〜0.05重量%であるのが好ましい。
ナノスケールカーボンチューブが、前記アモルファスナノスケールカーボンチューブである場合、その添加量は、樹脂に対して、0.0001〜0.1重量%、特に0.0001〜0.05重量%であるのが好ましい。
ナノスケールカーボンチューブが、前記鉄−炭素複合体である場合、その添加量は、樹脂に対して、0.0001〜0.4重量%、特に0.01〜0.4重量%であるのが好ましい。
ナノスケールカーボンチューブが、前記ナノフレークカーボンチューブである場合、その添加量は、樹脂に対して、0.0001〜0.1重量%、特に0.0001〜0.05重量%であるのが好ましい。
なお、本発明において、使用する樹脂が熱硬化性樹脂である場合、ナノスケールカーボンチューブの添加量は、熱硬化性樹脂の重量(該熱硬化性樹脂の硬化に硬化剤を使用する場合は、熱硬化性樹脂の重量と硬化剤の重量の合計)を基準とするものとする。例えば、熱硬化性樹脂として、エポキシ樹脂を使用する場合は、該エポキシ樹脂の重量とその硬化に使用される硬化剤の重量との合計重量に対して、ナノスケールカーボンチューブの添加量を前記の0.0001〜0.4重量%の範囲とする。
同様に、本発明で使用する樹脂が光硬化性樹脂である場合、ナノスケールカーボンチューブの添加量は、(a)光重合性の樹脂成分(オリゴマー、モノマー等)の重量、及び、(b)該光硬化性樹脂の硬化に使用される光重合開始剤の重量(及び光重合促進剤を使用した場合は、光重合促進剤の重量を加える)の合計重量を基準とするものとする。例えば、樹脂として、紫外線硬化性アクリル樹脂を使用する場合は、(a)該紫外線硬化性アクリル樹脂の重量と、(b)その硬化に使用される光重合開始剤の重量(及び必要に応じて使用される光重合促進剤の重量)との合計重量に対して、ナノスケールカーボンチューブの添加量を前記の0.0001〜0.4重量%の範囲とする。
本発明の樹脂組成物を製造するには、各種の方法が採用できる。例えば、熱可塑性樹脂を使用する場合、熱可塑性樹脂を溶解する溶媒に溶解させて熱可塑性樹脂溶液を得、これにナノスケールカーボンチューブを添加し、得られる混合物から溶媒を留去する方法、或いは、熱可塑性樹脂を加熱溶融して液体状とし、これにナノスケールカーボンチューブを添加して均一となるまで混練する方法等が例示できる。
また、熱硬化性樹脂を使用する場合、熱硬化性樹脂を硬化する前は通常は液体状態であるので、硬化前の熱硬化性樹脂にナノスケールカーボンチューブを混合する方法が採用できる。同様に、光硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂も、硬化する前は通常は液体状態であるので、硬化前の樹脂にナノスケールカーボンチューブを混合する方法が採用できる。
本発明の樹脂組成物には、必要に応じて、本発明の効果を損ねない範囲で、この分野で使用されている酸化防止剤などの各種の添加剤を添加することもできる。
本発明の組成物は、上記樹脂、ナノスケールカーボンチューブ及び必要に応じて上記添加剤を混合することにより得られる。混合方法としては、公知の方法が使用でき、例えば、セラミック3本ロール、ペイントシェーカー、遊星ミル等を使用する方法が採用できる。
電子部品
本発明の組成物は、低比誘電率、低誘電正接、高耐熱性及び高機械的強度を具備した樹脂製品を与えるので、電気・電子機器の回路基板材料、特にGHz帯域用の回路基板材料として好適に使用できる。特に、各種特性(誘電特性、熱的特性、化学的特性、機械的特性)を改善した樹脂が持つ特性を劣化させることなく、GHz帯域で誘電正接の増大を抑えるので、樹脂の選択性を増大させることができる。
ここで、本発明の電子部品は、1GHz以上の広い範囲のGHz帯域において上記特性を有するが、一般には、1〜20GHz、特に1〜10GHzの範囲の帯域において、前記優れた効果を奏することができる。
本発明の樹脂組成物は、具体的には、例えば、衛星放送関連機器等に代表される高周波機器や情報処理機器のプリント回路基板材料として極めて好適に使用できる。更に本発明の樹脂組成物は、例えば、チップキャリアやピングリッドアレイ等の半導体パッケージの分野、抵抗器、スイッチ、コンデンサ、フォトセンサ等のベース部品からICソケットやコネクタ等の機構部品に至るまで、幅広い範囲で応用可能である。また、電子レンジ用の容器類にも使用が可能である。本発明の樹脂組成物は、特に、上記のような回路基板、半導体層間絶縁膜、アンテナ部品、高周波同軸ケーブルの絶縁材料等の製造用樹脂組成物として有用である。
これら電子部品は公知の方法により製造できる。例えば、プリント回路基板は、本発明組成物を板状に成形し、必要に応じて、その表面にめっき操作等により銅等の金属皮膜を形成し、常法に従って回路を形成することにより得られる。
本発明組成物の成形も、公知の成形方法、例えば、射出成形、押出成形、圧縮成型、注型成形等に従って行うことができる。
また、本発明によれば、ナノスケールカーボンチューブ、特に上記項2又は項3に記載のナノスケールカーボンチューブを樹脂に0.0001〜0.4重量%という極めて少量添加してなる本発明の樹脂組成物から得られる電子部品は、GHz帯域において、誘電正接(tanδ)が樹脂単独の場合よりも低下するか、または、樹脂単独の場合のtanδの上昇を抑制することができる。
従って、本発明は、前記の熱可塑性樹脂、硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂と硬化性樹脂との複合樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂に対して0.0001〜0.4重量%の割合でナノスケールカーボンチューブ、特に上記項2又は項3に記載のナノスケールカーボンチューブを樹脂に配合することを特徴とする、当該樹脂から得られる電子部品のGHz帯域でのtanδを低減乃至tanδの上昇を抑制する方法を提供するものでもある。
同様に、本発明は、上記熱可塑性樹脂、硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂と硬化性樹脂との複合樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂から得られる電子部品のGHz帯域でのtanδを低減乃至tanδの上昇を抑制するための、ナノスケールカーボンチューブ、特に上記項2又は項3に記載のナノスケールカーボンチューブの使用を提供するものでもある。
更に、本発明によると、ナノスケールカーボンチューブ、特に上記項2又は項3に記載のナノスケールカーボンチューブを樹脂に0.0001〜0.4重量%という極めて少量添加してなる本発明の樹脂組成物から得られる電子部品は、GHz帯域において、誘電正接(tanδ)が樹脂単独の場合よりも低下するか、または、樹脂単独の場合のtanδの上昇を抑制することができ、一方、樹脂が本来有する比誘電率、耐熱性、機械的強度等の物性は実質上変化することなくそのまま維持される。
従って、本発明は、前記の熱可塑性樹脂、硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂と硬化性樹脂との複合樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂に対して0.0001〜0.4重量%の割合でナノスケールカーボンチューブ、特に上記項2又は項3に記載のナノスケールカーボンチューブを樹脂に配合することを特徴とする、当該樹脂から得られる電子部品のGHz帯域でのtanδを樹脂単独の場合に比し低減させるか又は上昇を抑制し、樹脂が本来有する比誘電率、耐熱性、機械的強度(例えば、引っ張り強度、破断伸度、硬度など)、化学的特性等の物性、特に誘電特性は維持する方法を提供するものでもある。
同様に、本発明は、熱可塑性樹脂、硬化性樹脂、及び熱可塑性樹脂と硬化性樹脂との複合樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂から得られる電子部品のGHz帯域でのtanδを、樹脂自体が有するtanδに比べて低減するか、又は、該電子部品のGHz帯域でのtanδの上昇を抑制し、樹脂が有する他の物性を維持するための、ナノスケールカーボンチューブ、特に上記項2又は項3に記載のナノスケールカーボンチューブの使用を提供するものでもある。
【実施例】
以下に参考例(ナノスケールカーボンチューブの製造例)、実施例及び比較例を掲げて本発明をより詳しく説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではなく、各種の変更が可能である。
参考例1
アモルファスナノスケールカーボンチューブの製造
アモルファスナノスケールカーボンチューブは以下に示す方法で作製した。
60μm×10mm×10mmのPTFEフィルムに無水塩化鉄粉末(粒径500μm以下)10mgを均一に振りかけた後、プラズマ励起した。プラズマ励起の条件は、以下の通りであった:
雰囲気 :アルゴン(Ar)
内圧 :0.01torr
投入電力 :300W
RF周波数:13.56MHz。
反応終了後、アモルファスナノスケールカーボンチューブ(外径;10〜60nm、長さ;5〜6μm)が形成されたことを、走査電子顕微鏡(SEM)およびX線回折により確認した。
また、得られたアモルファスナノスケールカーボンチューブのX線回折角度(2θ)は19.1度であり、それから計算される炭素網平面間隔(d002)は4.6Å、2θのバンドの半値幅は8.1度であった。
参考例2
原料としてトルエンを用い、触媒として塩化第2鉄を用い、特開2002−338220号に記載の方法に従って反応を行うことにより、炭化鉄がナノフレークカーボンチューブのチューブ内空間部に部分的に内包された鉄−炭素複合体を含む炭素質材料を得た。
得られた鉄−炭素複合体は、SEM観察の結果から、外径20〜100nm、長さ1〜10ミクロンで直線性の高いものであった。また、炭素からなる壁部の厚さは、5〜40nmであり、全長に亘って実質的に均一であった。該壁部は、TEM観察において、その炭素壁面が、入れ子状でもスクロール状でもなく、パッチワーク状(いわゆるpaper mache状ないし張り子状)になっているように見え、また、X線回折法から炭素網面間の平均距離(d002)が0.34nm以下の黒鉛質構造を有するナノフレークカーボンチューブであることを確認した。また、X線回折、EDXにより、上記本発明の鉄−炭素複合体を構成するナノフレークカーボンチューブのチューブ内空間部には炭化鉄が部分的に充填されていることを確認した。
得られた本発明の炭素質材料を構成する多数の鉄−炭素複合体を含む炭素質材料を電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、ナノフレークカーボンチューブの空間部(即ち、ナノフレークカーボンチューブのチューブ壁で囲まれた空間)への炭化鉄の充填率が20〜60%の範囲の種々の充填率を有する鉄−炭素複合体が混在していた。
該多数の鉄−炭素複合体のナノフレークカーボンチューブ内空間部への炭化鉄のTEM観察像の複数の視野を観察して算出した平均充填率は30%であった。また、X線回折から算出されたR値は、0.57であった。
参考例3
上記参考例2で得られた鉄−炭素複合体(炭化鉄を部分内包するナノフレークカーボンチューブ)1gを、1Nの塩酸100mlに分散させ、室温で6時間撹拌処理し、ろ過分離した。さらに、2回1Nの塩酸100mlを用いて同様の処理を行ない、中空のナノフレークカーボンチューブを得た。
得られたナノフレークカーボンチューブは、上記参考例2の鉄−炭素複合体と比べて、形状、外形、長さ、壁部の厚さが実質上同一であった。また、該壁部は、TEM観察において、その炭素壁面が、入れ子状でもスクロール状でもなく、パッチワーク状(いわゆるpaper mache状ないし張り子状)になっているように見え、また、X線回折法から炭素網面間の平均距離(d002)が0.34nm以下の黒鉛質構造を有するナノフレークカーボンチューブであることを確認した。
[実施例1〜5]
硬化性樹脂として、感光性アクリル樹脂(エポキシアクリレート樹脂(日本化薬社製 EAM−2160)98g、光重合開始剤(日本化薬社製 DETX−S)1g、光重合促進剤(日本化薬社製 EPA)1gを混合したもの)を使用した。
ナノスケールカーボンチューブとして、参考例2で得られた鉄−炭素複合体を表1に記載の割合で使用した。表1は、上記エポキシアクリレート樹脂、光重合開始剤、光重合促進剤の合計100重量部に対するナノスケールカーボンチューブの配合量(重量部)を示している。
樹脂とナノスケールカーボンチューブ(鉄−炭素複合体)とを、セラミック3本ロール(ノリタケカンパニー製 NR−42A)により混合し、ナノスケールカーボンチューブを樹脂に均一分散させ、ペーストを得た。
得られたペーストを円筒形のモールドに入れて水銀灯(500W)で紫外線(照射線量:6J/cm)を照射し、円筒形の成形体を得た。この成形体の中央部をくりぬいて、評価用サンプルを得た。この評価用サンプルは、図5の501に示すように、同軸状加工物で、ドーナツ型の形状をしており、外径(2b)が0.7cm、内径(2a)が0.3cm、高さ(L)が0.15cmである。
比較例1〜3
鉄−炭素複合体の使用量を、上記エポキシアクリレート樹脂、光重合開始剤、光重合促進剤の合計に対して、0重量%、1.02重量%又は2.98重量%とした以外は実施例1〜5と同様にして比較のための評価用サンプルを得た。
[実施例6]
鉄−炭素複合体に代えて、参考例1で得たアモルファスナノスケールカーボンチューブを使用した以外は実施例2と同様にして評価用サンプルを得た。
比較例4及び5
アモルファスナノスケールカーボンチューブの使用量を、上記エポキシアクリレート樹脂、光重合開始剤、光重合促進剤の合計に対して1.19重量%又は3.02重量%とした以外は実施例6と同様にして比較のための評価用サンプルを得た。
[実施例7]
鉄−炭素複合体に代えて市販の単層カーボンナノチューブを表1に記載の割合で使用した以外は実施例1〜5と同様にして評価用サンプルを得た。
比較例6〜8
単層カーボンナノチューブの量を上記感光性アクリル樹脂(エポキシアクリレート樹脂(日本化薬社製 EAM−2160)98g、光重合開始剤(日本化薬社製 DETX−S)1g、光重合促進剤(日本化薬社製 EPA)1gを混合したもの)に対して、0.50重量%、0.98重量%、3.01重量%とする以外は実施例7と同様にして比較のための評価用サンプルを得た。

試験例1
前記実施例1〜7及び比較例1〜8で得られた評価用サンプルについて、黒川悟ら、京都府中小企業総合センター技報、2002、No.30に記載の方法に従い、GHz帯域でのtanδ及び比誘電率を測定した。
即ち、APC7mm規格の同軸コネクタの同軸状に加工した評価用サンプル(外径(2b):0.7cm、内径(2a):0.3cm、高さ(L):0.15cm)を、図5に示すアウターコンダクタ503に挿入し、S11、S21の2つのSパラメータを測定することにより複素誘電率を求める方法によりおこなった。測定は、ベクトルネットワークアナライザにより、APC7mm規格の同軸コネクタの同軸状に加工した被測定材料を挿入し、S11、S21の2つのSパラメータを測定することにより複素誘電率を求める方法により行なった。
比較例1、実施例2、実施例3及び比較例3で得られた評価用サンプルのtanδの測定結果を、図6に示す。また、比較例1、実施例2及び実施例3で得られた評価用サンプルの比誘電率の測定結果を、図7に示す。図6及び図7から判るように、鉄−炭素複合体を含有しない樹脂単独から得られた評価用サンプル(比較例1)に比し、特定量の鉄−炭素複合体を含有する樹脂組成物から得られた評価用サンプル(実施例2及び3)は、誘電正接(tanδ)の上昇が抑制されているが、比誘電率は実質上変化しないことが判る。
比較例1、実施例6及び比較例4で得られた評価用サンプルのtanδの測定結果を図8に示す。図8から判るように、アモルファスナノスケールカーボンチューブを約0.01重量%含有する実施例6の評価用サンプルは、樹脂単独からなる評価用サンプル(比較例1)又はアモルファスナノスケールカーボンチューブを1重量%を越えて含有する評価用サンプル(比較例4)に比べて、tanδの上昇が抑制されている。
また、比較例1及び実施例7で得られた評価用サンプルのtanδの測定結果を図9に示す。図9から判るように、カーボンナノチューブを約0.02重量%含有する実施例7の評価用サンプルは、樹脂単独からなる評価用サンプル(比較例1)に比べて、tanδの上昇が抑制されている。
更に、各実施例及び各比較例で得られた評価用サンプルの1GHz、5GHz及び10GHzにおけるtanδ及び比誘電率の測定結果を表2に示す。

上記表2から、ナノスケールカーボンチューブを特定量含有する本発明の樹脂組成物を用いて得られる電子部品は、GHz帯域、特に1〜10GHzの周波数範囲において、ナノスケールカーボンチューブを含有しない樹脂そのもの(比較例1)から得られる電子部品と比べて、tanδの上昇が抑制されているが、樹脂が本来有する物性(比誘電率)は殆ど劣化されることなく、ほぼ維持されることが判る。
試験例2
比較例1、2及び実施例1〜5と同様にして得た成形体(引っ張り試験片)につき、JIS K6911に従って引っ張り強度を測定し、JIS C2151に従って破断伸度を、JIS K5600に従って鉛筆硬度を測定した。これら物性の測定用の引っ張り試験片は、これらJIS規格に準拠して調製した。
結果を表3に示す。表3から判るように、ナノスケールカーボンチューブを含有していない比較例1の上記物性値(樹脂が本来有する物性値)に比較して、本発明の添加量範囲を超えてナノスケールカーボンチューブを含有する比較例2の成形体の上記物性値は変動しており、有意な変化が認められたのに対して、本発明の添加量範囲内でナノスケールカーボンチューブを含有している実施例1〜5の成形体の上記物性値は、比較例1の物性値(樹脂が本来有する物性値)に比べて大きく変動しておらず、有意な差は認められなかった。

[実施例8〜11]
樹脂として、感光性アクリル樹脂(エポキシアクリレート樹脂(日本化薬社製 EAM−2160)98g、光重合開始剤(日本化薬社製 DETX−S)1g、光重合促進剤(日本化薬社製 EPA)1gを混合したもの)を使用した。
ナノスケールカーボンチューブとして、参考例2で得られた鉄−炭素複合体を下記表4に記載の割合で使用した。表4は、上記感光性アクリル樹脂(エポキシアクリレート樹脂、光重合開始剤、光重合促進剤の合計)100重量部に対するナノスケールカーボンチューブの配合量(重量部)を示している。
まず、樹脂とナノスケールカーボンチューブ(鉄−炭素複合体)とを、セラミック3本ロール(ノリタケカンパニー製 NR−42A)により混合し、ナノスケールカーボンチューブを樹脂に均一分散させ、実施例8のペーストを得た。
次に、上記で得られた実施例8のペーストを、下記表4の組成となるように、比較例1のペースト(エポキシアクリレート樹脂、光重合開始剤及び光重合促進剤からなる組成物)で希釈して、実施例8よりナノスケールカーボンチューブの濃度が低い実施例9〜11のペーストを得た。
得られたペーストを円筒形のモールドに入れて水銀灯(500W)で紫外線(照射線量:6J/cm)を照射し、円筒形の成形体を得た。この成形体の中央部をくりぬいて、評価用サンプルを得た。この評価用サンプルは、同軸状加工物で、ドーナツ型の形状をしており、外径が0.7cm、内径が0.3cm、高さが0.3cmである。
試験例3
前記実施例8〜11で得られた評価用サンプルを使用する以外は試験例1と同様にしてGHz帯域でのtanδを測定した。
実施例8〜11で得られた評価用サンプルのtanδの測定結果を、図10に示す。
図10から判るように、鉄−炭素複合体を含有しない樹脂単独から得られた評価用サンプル(比較例1)に比し、特定量の鉄−炭素複合体を含有する樹脂組成物から得られた評価用サンプルは、誘電正接(tanδ)の上昇が抑制されていることが判る。
更に、実施例8〜11で得られた評価用サンプルの1GHz、5GHz及び10GHzにおけるtanδの測定結果を表4に示す。

[実施例12]
アモルファスナノスケールカーボンチューブに代えて、参考例3で得られたナノフレークカーボンチューブを用いる以外は実施例6と同様にして評価用サンプルを得た。
得られた評価用サンプルを、試験例1と同一の方法でGHz帯域でのtanδ及び比誘電率を測定したところ、tanδ及び比誘電率ともに、実施例6と実質上同様の結果が得られた。
[実施例13〜17]
樹脂として、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名「5046B80」)98g、硬化剤(ジシアンジアミド:ジャパンエポキシレジン株式会社製 DICY7)2gを混合した熱硬化性エポキシ樹脂を使用した。
ナノスケールカーボンチューブとして、参考例2で得られた鉄−炭素複合体を表5に記載の割合で使用した。
表5は、上記熱硬化性エポキシ樹脂100重量部に対するナノスケールカーボンチューブの配合量(重量部)を示している。
樹脂とナノスケールカーボンチューブ(鉄−炭素複合体)とを、セラミック3本ロール(ノリタケカンパニー製 NR−42A)により混合し、ナノスケールカーボンチューブを樹脂に均一分散させ、ペーストを得た。
得られたペーストを円筒形のモールドに入れて220℃で30分熱硬化させ、円筒形の成形体を得た。この成形体の中央部をくりぬいて、評価用サンプルを得た。この評価用サンプルは、図5の501に示すように、同軸状加工物で、ドーナツ型の形状をしており、外径(2b)が0.7cm、内径(2a)が0.3cm、高さ(L)が0.15cmである。
比較例9〜11
鉄−炭素複合体の使用量を、上記熱硬化性エポキシ樹脂に対して、0重量%、1.05重量%又は3.02重量%とした以外は実施例13〜17と同様にして比較のための評価用サンプルを得た。
[実施例18及び19]
鉄−炭素複合体に代えて、参考例1で得たアモルファスナノスケールカーボンチューブを表5に記載の量で使用した以外は実施例13〜17と同様にして評価用サンプルを得た。
比較例12
アモルファスナノスケールカーボンチューブの使用量を、上記熱硬化性エポキシ樹脂に対して3.02重量%とした以外は実施例18と同様にして比較のための評価用サンプルを得た。
試験例4
前記実施例13〜19及び比較例9〜12で得られた評価用サンプルを使用する以外は試験例1と同様にしてGHz帯域でのtanδを測定した。結果を表5に示す。

表5から判るように、鉄−炭素複合体を含有しない樹脂単独から得られた評価用サンプル(比較例9)に比し、本発明に従い特定量の鉄−炭素複合体を含有する樹脂組成物から得られた評価用サンプルは、誘電正接(tanδ)の上昇が抑制されていることが判る。
[実施例20〜23]
熱可塑性樹脂として日本ポリケム株式会社製の高圧法低密度ポリエチレン(LDPE)に対して1重量%のナノスケールカーボンチューブ、即ち、参考例1で得たアモルファスナノスケールカーボンチューブ又は参考例2で得られた鉄−炭素複合体を、加圧双腕型ニーダ((株)森山製作所)により加熱混練した。
こうして得られた1重量%のナノスケールカーボンチューブを含有する混練物に、ナノスケールカーボンチューブ含有量が表6に記載の割合になるようにLDPEを追加添加し、加圧双腕型ニーダにより加熱混練し、そして、日精樹脂工業(株)製の射出成形機により直径3mm、長さ120mmの棒状評価試験片を作製した。
こうして得られた評価試験片について、文献記載の方法(三菱電線時報2003年4月 「高周波同軸ケーブル用低損失材料の開発」−超高周波領域(GHz帯)での空胴共振器摂動法による誘電特性評価−に記載の方法)に従い、空胴共振器摂動法により、2GHzでの誘電正接を測定した。
結果を表6に示す。表6は、上記熱可塑性樹脂100重量部に対するナノスケールカーボンチューブの配合量(重量部)を示している。
比較例13
ナノスケールカーボンチューブを使用しない以外は実施例20〜23と同様にして、比較のための棒状評価試験片を得、誘電正接を測定した。結果を表6に示す。

表6から明らかなように、ナノスケールカーボンチューブを含有しない樹脂組成物から得られた棒状評価試験片(比較例13)のtanδに比べて、本発明に従ってナノスケールカーボンチューブを特定量含有する樹脂組成物から得られた棒状評価試験片(実施例20〜23)のtanδは2Gzにおいて低下していることが判る。
【産業上の利用可能性】
本発明によれば、上記ナノスケールカーボンチューブを樹脂に0.0001〜0.4重量%という極めて少量添加してなる樹脂組成物から得られる電子部品は、GHz帯域において、誘電正接(tanδ)が樹脂単独の場合よりも低下するか、または、樹脂単独の場合のtanδの上昇を抑制することができ、また、GHzの周波数によるtanδのドリフト変化を抑えることも出来、一方、樹脂が本来有する比誘電率、耐熱性、機械的強度(例えば、引っ張り強度、破断伸度、硬度など)、化学的特性等の物性、特に誘電特性は実質上変化することなくそのまま維持される。
従って、かかる樹脂組成物を使用することにより、電気・電子機器の回路基板材料、特にGHz帯域用の回路基板材料等として好適に使用できる電子部品が提供される。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂、硬化性樹脂、及び熱可塑性樹脂と硬化性樹脂との複合樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂、及び、ナノスケールカーボンチューブを含有し、ナノスケールカーボンチューブが上記樹脂を基準として0.0001〜0.4重量%の割合で含有されていることを特徴とするGHz帯域電子部品用樹脂組成物。
【請求項2】
ナノスケールカーボンチューブが、
(i) 単層カーボンナノチューブ又は入れ子構造の多層カーボンナノチューブ、
(ii) アモルファスナノスケールカーボンチューブ、
(iii) ナノフレークカーボンチューブ、
(iv) (a)ナノフレークカーボンチューブ及び入れ子構造の多層カーボンナノチューブからなるカーボンチューブと、(b)炭化鉄又は鉄とからなり、該カーボンチューブ(a)のチューブ内空間部の10〜90%の範囲に、該炭化鉄又は鉄(b)が存在している鉄−炭素複合体、又は
(v) 上記(i)〜(iv)の2種以上の混合物
である請求項1に記載のGHz帯域電子部品用樹脂組成物。
【請求項3】
ナノスケールカーボンチューブが、アモルファスナノスケールカーボンチューブであって、X線回折法(入射X線:CuKα)において、ディフラクトメーター法により測定される炭素網平面(002)の平面間隔が3.54Å以上であり、回折角度(2θ)が25.1度以下であり、2θバンドの半値幅が3.2度以上である請求項1に記載のGHz帯域電子部品用樹脂組成物。
【請求項4】
樹脂が、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、フッ素樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、メタクリル酸エステル樹脂、アクリル酸エステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ABS樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、液晶ポリマー、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアセタール、ポリアリレート及びポリエーテルニトリル樹脂からなる群から選ばれた少なくとも1種の熱可塑性樹脂である請求項1に記載のGHz帯域電子部品用樹脂組成物。
【請求項5】
樹脂が、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂及び電子線硬化性樹脂からなる群から選ばれた少なくとも1種の硬化性樹脂である請求項1に記載のGHz帯域電子部品用樹脂組成物。
【請求項6】
樹脂が、硬化性樹脂の硬化物を分散した熱可塑性樹脂及び熱可塑性樹脂を分散した硬化性樹脂からなる群から選ばれた少なくとも1種の複合樹脂である請求項1に記載のGHz帯域電子部品用樹脂組成物。
【請求項7】
ナノスケールカーボンチューブが、樹脂を基準として0.001〜0.4重量%の割合で含有されている請求項1に記載のGHz帯域電子部品用樹脂組成物。
【請求項8】
ナノスケールカーボンチューブが、前記単層カーボンナノチューブ又は入れ子構造の多層カーボンナノチューブであり、その添加量が、樹脂に対して、0.0001〜0.1重量%である請求項1に記載のGHz帯域電子部品用樹脂組成物。
【請求項9】
ナノスケールカーボンチューブが、前記アモルファスナノスケールカーボンチューブであり、その添加量が、樹脂に対して、0.0001〜0.1重量%である請求項1に記載のGHz帯域電子部品用樹脂組成物。
【請求項10】
ナノスケールカーボンチューブが、前記鉄−炭素複合体であり、その添加量が、樹脂に対して、0.0001〜0.4重量%である請求項1に記載のGHz帯域電子部品用樹脂組成物。
【請求項11】
ナノスケールカーボンチューブが、前記ナノフレークカーボンチューブであり、その添加量が、樹脂に対して、0.0001〜0.1重量%である請求項1に記載のGHz帯域電子部品用樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1に記載のGHz帯域電子部品用樹脂組成物から得られるGHz帯域電子部品。
【請求項13】
回路基板、半導体層間絶縁膜、アンテナ部品又は高周波同軸ケーブル絶縁材料である請求項12に記載のGHz帯域電子部品。
【請求項14】
樹脂のtanδがGHz帯域で0.1以下に低減されており、且つ、樹脂が本来有している他の物性が保持されている請求項12に記載のGHz帯域電子部品。
【請求項15】
熱可塑性樹脂、硬化性樹脂、及び熱可塑性樹脂と硬化性樹脂との複合樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂に対して0.0001〜0.4重量%の割合でナノスケールカーボンチューブを樹脂に配合することを特徴とする、当該樹脂から得られる電子部品のGHz帯域でのtanδを低減ないしGHz帯域でのtanδの上昇を抑制する方法。
【請求項16】
ナノスケールカーボンチューブが、
(i) 単層カーボンナノチューブ又は入れ子構造の多層カーボンナノチューブ、
(ii) アモルファスナノスケールカーボンチューブ、
(iii) ナノフレークカーボンチューブ、
(iv) (a)ナノフレークカーボンチューブ及び入れ子構造の多層カーボンナノチューブからなるカーボンチューブと、(b)炭化鉄又は鉄とからなり、該カーボンチューブ(a)のチューブ内空間部の10〜90%の範囲に、該炭化鉄又は鉄(b)が存在している鉄−炭素複合体、又は
(v) 上記(i)〜(iv)の2種以上の混合物
である請求項15に記載の方法。
【請求項17】
熱可塑性樹脂、硬化性樹脂、及び熱可塑性樹脂と硬化性樹脂との複合樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂に対して0.0001〜0.4重量%の割合でナノスケールカーボンチューブを樹脂に配合することを特徴とする、当該樹脂から得られる電子部品のGHz帯域でのtanδを樹脂単独の場合に比し低減するか又は上昇を抑制し、樹脂が本来有している他の物性を維持する方法。
【請求項18】
ナノスケールカーボンチューブが、
(i) 単層カーボンナノチューブ又は入れ子構造の多層カーボンナノチューブ、
(ii) アモルファスナノスケールカーボンチューブ、
(iii) ナノフレークカーボンチューブ、
(iv) (a)ナノフレークカーボンチューブ及び入れ子構造の多層カーボンナノチューブからなるカーボンチューブと、(b)炭化鉄又は鉄とからなり、該カーボンチューブ(a)のチューブ内空間部の10〜90%の範囲に、該炭化鉄又は鉄(b)が存在している鉄−炭素複合体、又は
(v) 上記(i)〜(iv)の2種以上の混合物
である請求項17に記載の方法。

【国際公開番号】WO2005/075571
【国際公開日】平成17年8月18日(2005.8.18)
【発行日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−517797(P2005−517797)
【国際出願番号】PCT/JP2005/001868
【国際出願日】平成17年2月2日(2005.2.2)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】