GRP94ベース組成物及びそれらの使用方法
【解決手段】 癌や他の疾患を治療するためのミニシャペロンとそれらの使用方法が提供される。GRP94に選択的結合親和性を有する治療薬のスクリーニングを容易にする手段も提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本発明は、2003年5月12日に出願された米国仮出願番号第60/469,723号、2003年6月6日に出願された米国仮出願番号第60/477,990号と第60/478,1489号、及び2004年4月28日に出願された米国仮出願番号第60/566,362号と第60/566,363号に対して優先権を主張するものである。前述の仮出願のそれぞれに開示されたことは、この参照によって本明細書に組み込まれるものである。
【0002】
ここに記載された本発明の一部はアメリカ国立衛生研究所からの資金で行われた(グラント番号:CA−74182及びNIH/NIAID RO1 AI30178)ため、35 U.S.C.第202条(c)に準じて、米国政府は特定の権利を有することは理解されるものである。
【0003】
本発明は、免疫調節、癌治療、及び胚形成の領域に関連するものである。より詳しくは、本発明は、これらの過程に有利に及び治療的に影響を与えるための、GRP94ベース組成物、及びそれらの使用方法を提供するものである。
【背景技術】
【0004】
いくつかの刊行物や特許文献は、本発明に付随する技術分野を説明するために本明細書を通じて引用される。それらの引用のそれぞれは、この参照により、完全に説明されているかのようにその全体が本明細書に組み込まれる。
【0005】
グルコース調節タンパク質94(Glucose Regulated Protein 94;GRP94)は、小胞体内に存在し、熱ショックタンパク質(HSP)90ファミリーのメンバーである、分子シャペロン若しくはストレスタンパク質である。このファミリーは、細菌のhtpG遺伝子、酵母のHSP82、高等真核生物のHSP90α及びβ、及びミトコンドリアのTRAP1タンパク質を含む(Buchner,J.1999.Hsp90&Co.−a holding for folding.Trends Biochem Sci 24:136)。HSP90タンパク質は、細胞シグナル伝達から細菌性認識や免疫調節にまで至る多様な細胞活性に関与する、タンパク質基質の高次構造的な成熟を制御し関与するリガンドである。細胞培養モデルにおける広範囲な研究によって、GRP94発現は、グルコースのレベルを減少することによって(Lee,A.S.,et al.,Transcriptional Regulation of Two Genes Specifically Induced by Glucose Starvation in a Hamster Mutant Fibroblast Cell Line.J.Biol.Chem.,1983.258:p.597〜603)、細胞カルシウムレベルの摂動(Drummond,I.A.,et al.,Depletion of intracellular calcium stores by calcium ionophore A23187 induces the genes for glucose−regulated proteins in hamster fibroblasts.J.Biol.Chem.,1987.262(26):p.12801〜5;Little,E.and A.S.Lee,Generation of a mammalian cell line deficient in glucose−regulated protein stress induction through targeted ribozyme driven by a stress−inducible promoter.J.Biol.Chem.,1995.270(16):p.9526〜34)、或いは、酸化還元ポテンシャル(Kim,Y.K.,K.S.Kim,and A.S.Lee,Regulation of the glucose−regulated protein genes by b−mercaptoethanol requires de novo protein synthesis and correlates with inhibition of protein glycosylation.J.Cell.Physiol.,1987.133(3):p.553〜559)、グリコシル化(糖修飾)の阻害、若しくは折り畳まれていないタンパク質反応の活性化(Gass,J.N.,N.M.Gifford,and J.W.Brewer,Activation of an unfolded protein response during differentiation of antibody−secreting B cells.J.Biol.Chem,2002.277(50):p49047〜54)などによって調節されることが示された。
【0006】
その発現を調節する全ての要素を考えると、酵母細胞は哺乳類細胞と同様にこれらのストレス状況に反応するにも関わらず、GRP94が酵母ゲノムには存在しないことは興味深い。GRP94細胞は、本質的に多細胞性生物のタンパク質であるが、ERにおける全体的なタンパク質折り畳みには明らかに必要ではなく、それ自体は分泌性過程にも必要ではない。従って、GRP94が重要かどうか及びどの過程にGRP94が重要なのかという質問が生じる。
【0007】
腫瘍は、一般的に、しばしばそれ自身の形質転換過程に関連している変異タンパク質を含む。同じ変異タンパク質は、生化学的に異なる腫瘍も生じる。それ故に、そのようなタンパク質は、外来性として認識されるべきであり、免疫システムのT細胞アームによる活発な免疫反応を誘発する(Velders,M.P.,H.Schreiber,and W.M.Kast,Active immunization against cancer cells:impediments and advances.Semin Oncol,1998.25:69)。しかし、腫瘍細胞を殺傷するT細胞の天然の能力にも関わらず、実際は、検出可能ではあるが、癌に対する免疫反応は弱い。これは、免疫偵察システム全体から逃れるための、若しくはT細胞の"炎症力(fire power)"を減少するための、腫瘍細胞内の複数のメカニズムにおける進化に起因する。
【0008】
Srivastavaらは、ペプチドに結合した腫瘍内のGRP94(Tamura,Y.,et al.,Immunotherapy of tumors with autologous tumor−derived heat shock protein preparations.Science,1997.278:117〜120を参照のこと)は、瀕死の細胞から放出されており(Basu,S.,et al.,Necrotic but not apoptotic cell death releases heat shock proteins,which deliver a partial maturation signal to dendritic cells and activate the NF−kappa B pathway.Int Immunol,2000.12:1539〜1546を参照のこと)、次に、マクロファージ及び/若しくは樹状細胞によって取り込まれ(Binder,R.J.,D.K.Han,and P.K.Srivastava,CD91:a receptor for heat shock protein gp96.Nat Immunol,2000.1:151〜155;Berwin,B.,J.P.Hart,S.Rice,C.Gass,S.V.Pizzo,S.R.Post,and C.V.Nicchitta.2003.Scavenger receptor−A mediates gp96/GRP94 and calreticulin internalization by antigen−presenting cells.Embo J 22:6127を参照のこと)、ここでは、Tamura,Y.ら(図1)に記載されたように、前記ペプチドはGRP94から解離し、クラスI組織適合性タンパク質へ移行される。クラスI分子によって提示されたペプチドは、主にCD8+ T細胞を刺激するので、これは"ペプチド再提示"経路と呼ばれ、本発明者らの研究室によって培養細胞において、及びSrivastavaの研究室によってマウスモデルにおいて、この経路によって10〜100倍の増加を示すように腫瘍に対して増強されたキラー細胞活性を導く(Suto,R.and P.K.Srivastava,A mechanism for the specific immunogenicity of heat shock protein−chaperoned peptides.Science,1995.269:1585〜1588、及びBlashere,N.E.,et al.,Heat shock protein−peptide complexes,reconstituted in vitro,elicit peptide−specific cytotoxic T lymphocyte response and tumor immunity.J.Exp.Med.,1997.186:1315〜1322を参照のこと)。GRP94は、抗原提示細胞(APC)活性を誘発し、APCのトール様(APC活性化)受容体及びエンドサイトーシス(交差提示)受容体の相互作用を解してAPCの交差提示経路へペプチドを向ける(Vabulas,R.M.,S. Braedel,N.Hilf,H.Singh−Jasuja,S.Herter,P.Ahmad−Nejad,C.J.Kirschning,C.Da Costa,H.G.Rammensee,H.Wagner,and H.Schild.2002.The endoplasmic reticulumr−resident heat shock protein Gp96 activates dendritic cells via the Toll−like receptor 2/4 pathway.J Biol Chem 277:20847)。
【0009】
分化及び器官形成の過程は、天然代謝性ストレス反応に関与するように考えられるが、哺乳類発生の間のGRP94発現に関しては、ほとんど知られていない。GRP94が胚形成の間で重要であるかどうかは、まだ決定されていない。
【0010】
前述したことに基づいて、免疫過程の調節における、GRP94やそれらの断片によって担われている役割のさらなる解明が必要であることは明らかである。そのような情報によって、癌、ウイルス感染及び他の代謝性障害を治療するための新規GRP94ベース治療法を提供する。
【発明の開示】
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、切断されたGRP94ミニシャペロンタンパク質をコード化する核酸が提供される。好ましい実施形態において、前記核酸配列は、配列ID番号2の34〜355アミノ酸、配列ID番号2の34〜221アミノ酸、配列ID番号2の70〜221アミノ酸からなる群から選択されたGRP94タンパク質変異体をコード化する。
【0012】
前述した核酸によってコード化されたGRP94ミニシャペロンタンパク質も提供される。別の観点において、薬学的に許容可能な担体内に含まれた生物学的に関連性のあるペプチドと複合された、少なくとも1つの前記ミニシャペロンタンパク質を有する組成物が開示される。そのようなペプチドは、腫瘍特異的抗原、及びウイルス抗原を有するが、これに限定されない。
【0013】
本発明は、悪性腫瘍を治療するために、腫瘍組織に対する免疫反応を刺激するための方法も提供する。例示的な方法は、本発明の少なくとも1つのミニシャペロンと、腫瘍特異的抗原を有する少なくとも1つの腫瘍特異的ペプチドとの間で複合体を形成する工程と、それを必要としている患者へ、腫瘍特異的細胞傷害性T細胞(CTL)反応が開始するような、前記複合体の有効量を投与する工程とを伴う。前記CTL反応は、前記腫瘍組織の減少を生じ、それにより悪性腫瘍を治療する。腫瘍特異的ペプチドは、表3に記載したものを含むが、これに限定されるものではない。或いは、そのようなペプチドは、悪性腫瘍に対する治療を受けている患者から単離される。
【0014】
別の観点において、本発明は、ウイルス感染を治療するために、ウイルス感染に対する免疫反応を刺激する方法を提供する。例示的な方法は、本発明の少なくとも1つのミニシャペロンと、前記ウイルスに特異的な抗原を有する少なくとも1つのウイルス特異的ペプチドとの間で複合体を形成する工程と、それを必要とする患者へ、ウイルス特異的細胞傷害性T細胞(CTL)反応が開始し、前記ウイルス付加の減少を生じ、それにより前記感染を治療するような、前記複合体の有効量を投与する工程とを伴う。
【0015】
その内在性GRP94遺伝子においてホモ接合性無発現変異を内部に持つトランスジェニック(遺伝子組換え)マウス胚も本発明によって含まれ、ここにおいて前記変異は、胚性幹細胞における相同的な組換えを介して前記マウスへ導入され、さらに前記マウスは、機能的マウスGRP94タンパク質を発現しない。
【0016】
上述したトランスジェニックマウス胚に由来するGRP94欠損細胞株も開示される。そのような細胞株は、胚性幹細胞株、細胞分化が起こるように導入された幹細胞株を含み得るが、これに限定されるものではない。本発明のGRP94欠損細胞株を用いて得られる細胞タイプは、例えば、神経細胞(ニューロン)、脂肪細胞、肝細胞、及びリンパ球を含む。
【0017】
本発明のGRP94欠損細胞株を用いて、GRP94活性に選択的に影響する治療薬をスクリーニングする方法も、本発明の範囲内である。そのような方法の1つとして、GRP94欠損細胞及び野生型マウス胚に由来する細胞へテスト化合物を投与する工程と、前記GRP94関連性生理学的過程における変化を、前記GRP94欠損細胞と野生型細胞とで評価し、これにより、GRp94活性を選択的に修飾する薬剤を同定する工程とを伴う。
【0018】
最終的に、本発明は、ヒトHSP90の1〜210アミノ酸を有するHSP90ミニシャペロンをコード化する核酸を開示し、ここにおいて、Thr90、Ile81、Pro82からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基は、別のアミノ酸に変更される。前記HSP90ミニシャペロンを用いて、腫瘍若しくはウイルス抗原に対する免疫反応を刺激する方法も提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
ストレスタンパク質GRP94がT細胞に対するペプチドの提示を増強することが可能であるので、他のHSP90ファミリー全メンバーと同様に、どのようにペプチドに結合するのか定義することが重要である。GPR94の半分のN−末端によって、完全長のタンパク質のペプチド結合活性を説明することができると以前示されたため、本発明者らは、分子ドッキングモデルの予想をテストすることによって、この結合部位を見つけた。最善の予想部位は、pan−HSP90ラディシコール結合ポケットからのβシートの対面上であり、深い疎水性ポケットと近接している。前記ペプチドとラディシコール結合部位は、ペプチドに結合するためのラディシコール−屈折変異の能力によって示されるように、区別されている。フルオロフォアacrylodanが、前記疎水性ポケット内のCys117へ結合した場合、2つのリガンドの隣接性と一致して、その蛍光はペプチド結合によって減少される。前記結合ペプチドと接触するHis125の置換は、ペプチド結合活性に影響を及ぼす。本発明者らは、ペプチドは、N−末端ドメインのβシートの凹面と結合し、結合はシャペロンの作用サイクルの間に調節されると結論付けた。これらの研究と関連して、本発明者らは、特定の機能を保持する切断されたGRP94ポリペプチドも設計した。そのようなペプチドは、GRP94仲介性生物機能のアゴニスト及びアンタゴニストを同定するためのスクリーニング方法において有用である。
【0020】
GPR94は、偏在性に発現するが、クライアントタンパク質(これらは重要な発生チェックポイントには関わっていない)はあまり知られていない。マウスGRP94遺伝子の標的破壊は、胚性発生において重要な機能を有していることを示した。Grp94−/−胎仔は、発生の卵筒段階である妊娠期間の7日目に子宮内で死亡した。それらは、この段階で正常に起こる主な分化現象である、中胚葉、原始的ストリーク(線条)、及び原始羊膜腔を発生できず、中胚葉誘導に関連するキー遺伝子を発現しない。発生上の欠陥は、母系性GRP94の希釈に起因するものではなく、シャペロンの活性を反映してるように思われる。Grp94−/−細胞は、その野生型対応物と同じペースで分裂する。さらに、低グルコース張力によるGRP94の転写調節が知られているにも関わらず、変異ES細胞は、低グルコース培地において野生型細胞のように増殖した。一方、変異細胞は、カルシウム恒常性の撹乱に対して、及び血清欠乏に対して、より感受性を有していた。これらのデータにより、GRP94の必要条件は非常に選択的であると示唆された。本発明者らは、中胚葉に重要な分泌性若しくは細胞表面タンパク質は、それらの適切な発現はGRP94に依存している、及びこのシャペロン非存在下では、細胞−細胞相互作用が胚性細胞の適切な運命を特定する場合、それらは効率的に提示されないと仮説を立てた。
【0021】
GRP94は、腫瘍拒絶において重要な役割を担っている。この活性を増強すると、悪性腫瘍の治療に有用であると示されるであろう。従って、本発明のGRP94ベース組成物は、腫瘍ワクチンの作成に使用され得る。
【0022】
以下の定義は、本発明の理解を容易にするために提供される。
【0023】
従来の特許法の慣習に従うと、"a"及び"an"という用語は、請求の範囲を含む本明細書において用いられた場合、"1若しくはそれ以上"という意味である。
【0024】
ここで用いられたように、"GRP94タンパク質"という用語は、小胞体内に存在し、本分野ではgp96、ERp99及びエンドプラスミンとして知られている、分子シャペロンを言及することを意味している。GRP94は、高等植物及び後生動物内でのみ発見されている(Nicchitta(1998)Curr Opin Immunol 10:103〜109)。GRP94などのストレスタンパク質は、適切な折り畳み(フォールディング)や新規に合成されたタンパク質の輸送を指示すること、及び熱ショック、酸化ストレス、低酸素/無酸素条件、栄養欠乏、他の生理学的ストレス、及びそのようなストレスを促進する、例えば脳卒中や心筋梗塞などの疾患や外傷などの状態の時に細胞を保護することに関連している。
【0025】
ここで用いられたように、"GRP94のリガンド結合ドメイン(LBD)"という用語は、ヌクレオチド、ADP、ATP、或いはNECA、若しくは真菌代謝産物であるゲルダナマイシン、17AAG或いはラディシコールが結合するGRP94の領域を意味している。より好ましくは、本発明者らの研究によって、GRP94断片は、哺乳類(ヒト、イヌ)GRP94のアミノ酸34〜355(配列ID番号3によってコード化された、配列ID番号4)、好ましくは残基34〜221(配列ID番号5によってコード化された、配列ID番号6)、好ましくは残基70〜221(配列ID番号7によってコード化された、配列ID番号8)を有していることが示された。これらは、完全長タンパク質の結合活性に対しては十分である。
【0026】
ここで用いられたように、"GRP94リガンド結合ドメインの結合ポケット"、"GRP94リガンド結合ポケット"、及び"GRP94結合ポケット"という用語は、同義的に用いられており、リガンドが結合できる、GRP94リガンド結合ドメイン(LBD)内の大きな空洞を意味している。この空洞は、空であったり、水分子や溶媒からの他の分子を含むこともできる、若しくはリガンド原子を含むこともできる。前記結合ポケットは、GRPの原子によって占められたものではなく、"主要な"結合ポケットの近く、及び前記"主要な"結合ポケットと近接した、"主要な"結合ポケット近くのスペースの領域も含む。
【0027】
ここで用いられたように、"抗原性分子"は、外因性抗原/免疫原(すなわち、in vivoではGRP94と複合体を形成しない)やそれらの誘導体と同様に、GRP94が内因的にin vivoで(例えば、感染細胞、若しくは前癌性或いは癌性組織)関連するペプチドを意味している。
【0028】
"共通腫瘍抗原"という用語は、同様の腫瘍タイプを患った患者に共通して見られる腫瘍特異的抗原を意味している。代表的な共通腫瘍抗原は、表3に提供されている。
【0029】
"生物活性"という用語は、対象において生物学的若しくは生理学的効果を有している分子を言及することを意味している。アジュバンド活性は、生物活性の一例である。アジュバンド活性を有する他の生物分子の産生を活性化する若しくは誘導することも、考えられる生物活性である。
【0030】
"アジュバンド活性"という用語は、増強する、或いは抗原に対する脊椎動物対象の免疫システムの反応を調節する能力を有している分子を言及することを意味している。
【0031】
"免疫システム"という用語は、非特異的及び特異的カテゴリーを含み、脊椎動物対象において、潜在的病原体を含む抗原分子に対する防御を提供する、全ての細胞、組織、システム、構造、及び工程を含む。本分野ではよく知られているように、非特異的免疫システムは、好中球、単球、組織マクロファージ、クッパー細胞、肺胞マクロファージ、樹状細胞、及びミクログリアなどの食作用細胞を含む。特異的免疫システムは、宿主内で特異的な免疫を与える細胞及び他の構造を意味している。特にB細胞リンパ球やT細胞リンパ球などのリンパ球は、これらの細胞に含まれる。これらの細胞としては、ナチュラルキラー(NK)細胞も含まれる。さらに、Bリンパ球のような抗体産生細胞、及び抗体産生細胞から産生された抗体は、"免疫システム"という用語内に含まれる。
【0032】
"免疫反応"という用語は、脊椎動物対象の免疫システムによる、抗原若しくは抗原決定基に対するあらゆる反応を言及することを意味している。例示的な免疫反応は、以下に定義されているように、体液性免疫反応(例えば、抗原特異的抗体の産生)や細胞仲介性免疫反応(例えば、リンパ球増殖)を含む。
【0033】
"全身性免疫反応"という用語は、免疫システムのBリンパ球などの細胞が発達する、リンパ節−、脾臓−、若しくは腸−関連リンパ様組織内の免疫反応を言及することを意味している。例えば、全身性免疫反応は、血清IgGの産生を有することができる。さらに、全身性免疫反応は、血流内の抗原特異的抗体の循環や、脾臓及びリンパ節などの全身性コンパートメントのリンパ様組織における抗原特異的細胞を意味している。
【0034】
"体液性免疫"若しくは"体液性免疫反応"という用語は、抗体分子が抗原刺激に反応して分泌される、後天性免疫の形態を言及することを意味している。
【0035】
"細胞仲介性免疫"及び"細胞仲介性免疫反応"という用語は、Tリンパ球がそれらの犠牲細胞の近くに来た場合、それらによって提供される防御のような、リンパ球によって提供される免疫学的な防御を言及することを意味している。細胞仲介性免疫反応は、リンパ球増殖も有する。"リンパ球増殖"が測定した場合、特異的抗原に反応して分裂するリンパ球の能力が測定される。リンパ球増殖は、B細胞、T−ヘルパー細胞、若しくはCTL細胞増殖を言及することを意味している。
【0036】
"CTL反応"という用語は、特異的抗原を発現している細胞を溶解し殺傷する抗原特異的細胞の能力を言及することを意味している。以下に記載されたように、標準な、当業者には認識されているCTLアッセイは、CTL活性を測定するために行われた。そのようなアッセイにおいて、殺傷される細胞は、"標的細胞"として言及される。
【0037】
ここで用いられたように、"養子免疫治療"とは、癌に対して特定な適用性を有し、それにより、前記細胞は直接的に若しくは間接的に樹立された腫瘍の退行を仲介することを目的として、抗腫瘍反応性を有する免疫細胞が腫瘍宿主へ投与されるという、治療アプローチを意味している。
【0038】
"免疫原性組成物"は、免疫反応を誘発することができる組成物を言及することを意味している。ワクチンは、本発明によると、"免疫原生組成物"という用語の意味においては範囲に含まれると考えられる。
【0039】
"生物反応修飾物質"という用語は、抗原の存在などの特定の刺激に対する対象の反応を増強する、若しくは調節する能力を有する分子を言及することを意味している。
【0040】
ここで用いられたように、"候補物質"及び"候補化合物"という用語は、同義的に用いられており、生物反応修飾物質として、別の部分と相互作用すると考えられる物質を言及している。例えば、代表的な候補化合物は、完全GRP94タンパク質、若しくはその断片と相互作用すると考えられており、その化合物は、その後そのような相互作用で評価され得る。本発明の方法を用いて検討され得る例示的な候補化合物は、これに限定されるものではないが、GRP94タンパク質のアゴニスト及びアンタゴニスト、ウイルスエピトープ、ペプチド、酵素、酵素基質、補助因子、レクチン、糖質、オリゴヌクレオチド或いは核酸、オリゴ糖、タンパク質、化学化合物、小分子、及びモノクローナル抗体を含む。
【0041】
ここで用いられたように、"調節する"とは、任意若しくは全ての科学的及び生物学的活性、若しくは野生型或いは変異型GRP94ポリペプチドの特性の増加、減少、若しくは他の改変を意味している。ここで用いられたように、"調節"という用語は、反応の上方制御(すなわち、活性化若しくは刺激)及び下方制御(すなわち、阻害若しくは抑制)の両方を言及する。
【0042】
ここで用いられたように、"アゴニスト"とは、機能的GRP94タンパク質の生物活性を補う或いは増強する因子を意味している。
【0043】
ここで用いられたように、"アンタゴニスト"とは、機能的GRP94タンパク質の生物活性を減少する或いは阻害する因子、若しくは、天然由来或いは改変非機能的GRP94タンパク質の生物活性を補う或いは増強する因子を意味している。
【0044】
ここで用いられたように、"アルファへリックス"という用語は、ポリペプチド鎖の高次構造を言及しており、ここにおいて、ポリペプチドバックボーンは、左巻き若しくは右巻き方向で、分子の長軸の回りに巻かれており、アミノ酸のR基がらせん状(へリックス)バックボーンから外側へ突出しているものであり、前記構造の反復ユニットは、前記へリックスの1分岐であり、前記長軸に沿って約0.56nm伸長している。
【0045】
ここで用いられたように、"βストランド"とは、伸長したジグザグ高次構造へ延びたポリペプチド鎖の高次構造を言及している。並列に配向したポリペプチド鎖のβストランドは、"βシート"を形成する。"並列(平行)"に走ったストランドは全て、同じ方向に走る。"逆平行"のポリペプチド鎖のストランドは、お互い反対の方向に走る。
【0046】
ここで用いられたように、"細胞"、"宿主細胞"、若しくは"組換え宿主細胞"という用語は、同義的に用いられており、特定の対象細胞だけでなく、そのような細胞の子孫や潜在的な子孫も意味する。変異或いは環境的な影響に起因して、特定な修飾が後世にも生じるため、実は、そのような子孫は親細胞とは同一ではないのであるが、本明細書で用いられたようなような範囲内には含まれる。
【0047】
"キメラタンパク質"若しくは"融合タンパク質"という用語は、ここでは同義的に用いられており、GRP94ポリペプチドをコード化している第1のアミノ酸配列と、GRP94のどのドメインとも異なり、相同性もないポリペプチドを定義している第2のアミノ酸配列との融合を意味している。例えば、キメラタンパク質は、第1のタンパク質も発現している生物体内で見出される外来性ドメインを含むことができる、若しくは、異なる種類の生物体によって発現されているタンパク質構造の"種間"或いは"遺伝子間"融合であり得る。一般的に、融合タンパク質は、一般式X−GRP94−Yで表すことができ、ここにおいてGRP94は、GRP94ポリペプチドから由来したタンパク質の一部を表し、XとYは独立して、生物体においてGRP94配列と関連しておらず、天然由来の変異を含むアミノ酸配列を有する若しくは持たないものである。
【0048】
ここで用いられたように、"検出する"という用語は、例えば、放射線学的シグナル、分光学的シグナル、若しく標的物質が存在する場合にのみ現れる別のシグナルなどの検出可能なシグナルの出現を観察することによって、標的物質の存在を確認することを意味している。
【0049】
ここで用いられたように、"相互作用する"という用語は、例えば、酵母二重ハイブリッドアッセイなどを用いて検出され得るような、分子間の検出可能な相互作用を意味している。また、"相互作用"という用語は、分子間の"結合"相互作用も含むことを意味している。相互作用は、例えば、タンパク質−タンパク質、若しくはタンパク質−核酸間で生じ得る。
【0050】
ここで用いられたように、"修飾された"という用語は、物質の正常な状態からの変化を意味している。物質は、別々の化学ユニットの除去によって、若しくは別々の化学ユニットを付加することによって修飾され得る。"修飾された"という用語は、検出可能な標識や、精製において補助として追加されたそれら物質を含む。
【0051】
ここで用いられたように、"変異"という用語は、その従来の意味合いを含み、核酸或いはポリペプチド配列における改変、遺伝的、天然由来、若しくは導入を意味しており、本分野の当業者には一般的に知られているような意味で用いられる。
【0052】
ここで用いられたように、"部分的アゴニスト"という用語は、標的に結合でき、アゴニストによって誘導された、標的における改変のごく一部を誘導できる物質を意味している。その違いは、質的である、若しくは量的であり得る。従って、部分的アゴニストは、他のものでではなくアゴニストによって誘導される立体構造改変のいくつかを誘導することができる、若しくは限定範囲で特定の変化のみを誘導することができる。
【0053】
ここで用いられたように、"部分的アンタゴニスト"という用語は、標的に結合でき、アンタゴニストによって誘導された、標的における変化のごく一部を阻害できる物質を意味している。その違いは、質的である、若しくは量的であり得る。従って、部分的アンタゴニストは、他のものでではなくアンタゴニストによって誘導される立体構造改変のいくつかを阻害することができる、若しくは限定範囲で特定の変化を阻害することができる。
【0054】
ここで用いられたように、"核酸"若しくは"核酸分子"は、一本鎖或いは二本鎖の、あらゆるDNA若しくはRNA分子を意味しており、もし一本鎖の場合はその分子の相補的配列は直線或いは環状形態である。核酸分子の所で説明したように、特定の核酸分子の配列或いは構造は、5’から3’方向で配列を表示している従来の方法に従って、本明細書において記載されている。本発明の核酸に関して、"単離核酸"という用語は、しばしば用いられる。この用語は、DNAに適用された場合、それが由来する生体の天然由来のゲノム内におけるすぐ連続した配列から分離されたDNA分子を意味する。例えば、"単離核酸"は、プラスミド或いはウイルスベクターなどのベクターに挿入されたDNA分子、若しくは原核或いは真核細胞或いは宿主生物体のゲノムDNAへ組み込まれたDNA分子を含む。
【0055】
RNAに適用された場合、"単離核酸"という用語は、上で定義したような単離DNA分子によってコード化された主にRNA分子を言及している。或いは、この用語は、その天然状態(すなわち、細胞或いは組織内)と関連した他の核酸から十分に分離されたRNA分子を言及している。"単離核酸"(DNA或いはRNA)は、さらに生物学的或いは合成手段によって直接生産された分子、及びその産生の間に存在する他の化合物から分離された分子を表す。
【0056】
"パーセント相似"、"パーセント同一"、及び"パーセント同一"、及び"パーセント相同性"という用語は、特定の配列を言及する場合、ウィスコンシン大学のGCGソフトウェアプログラムに規定されているものとして使用される。
【0057】
"実質的に純粋"という用語は、所定の物質(例えば、核酸、オリゴヌクレオチド、タンパク質、など)の少なくとも50〜60重量%を有する調剤を言及している。より好ましくは、前記調剤は、所定の化合物の少なくとも75重量%、最も好ましくは90〜95重量%を有するものである。純度は、所定の化合に対して適切な方法(例えば、クロマトグラフィー法、アガロース或いはポリアクリルアミドゲル電気泳動、HPLC解析、及びそれらの同等方法など)によって測定される。
【0058】
"レプリコン"とは、例えば、プラスミド、コスミド、バクミド、プラスチド(plastid)、ファージ、若しくはウイルスなどの、それ自身の制御下で大部分は複製できるあらゆる遺伝的要素である。
【0059】
"ベクター"とは、プラスミド、コスミド、バクミド、ファージ、若しくはウイルスなどの、他の遺伝配列或いは要素(DNA若しくはRNA)が結合され、その結合した配列或いはヨウ素の複製をもたらすような、レプリコンである。
【0060】
"発現オペロン"は、例えば、プロモーター、エンハンサー、翻訳開始シグナル(例えばATG或いはAUGコドン)、ポリアデニル化シグナル、ターミネーター(転写終結区)、及びそれらと同等物であり、宿主細胞或いは生物においてポリペプチドコード化配列の発現を促進する、転写や翻訳制御配列を持つ核酸セグメントを言及する。
【0061】
ここで用いられたように、"オリゴヌクレオチド"という用語は、本発明の配列、プライマー、及びプローブを言及し、2若しくはそれ以上の、好ましくは3以上のリボ或いはデオキシリボヌクレオチドからなる核酸分子として定義される。オリゴヌクレオチドの正確なサイズは、様々な因子、及びそのオリゴヌクレオチドの特定の適用や使用に依存するであろう。
【0062】
"特異的なハイブリダイズ"という用語は、本分野で一般的に用いられる事前に決定された状況下で、そのようなハイブリダイゼーションを可能にするために十分に相補的な配列の2つの一本鎖核酸分子の間の結合を言及する(しばしば"実施的に相補的"と言われる)。特に、この用語は、非相補的配列の一本鎖核酸を有するオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションを物質的に排除する、本発明の一本鎖DNA或いはRNA分子内に含まれる実質的に相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションを言及する。
【0063】
ここで用いられたように"プローブ"という用語は、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、若しくは核酸(RNA或いはDNA)を言及しており、これらは、精製制限酵素で消化して天然に由来する、或いは合成的に生産されたものであり、前記プローブに相補的な配列を有する核酸とアニーリングする、若しくは特異的にハイブリダイズすることができるものである。プローブは、一本鎖若しくは二本鎖である。前記プローブの正確な長さは、温度、プローブの原料、及び用いる方法を含む多くの因子に依存するであろう。例えば、診断用適用に対しては、標的配列の複雑さに依存して、オリゴヌクレオチドプローブは、少しのヌクレオチドを含んでいるが、15〜25或いはそれ以上のヌクレオチドを典型的に含む。ここにおいてプローブとは、特定の標的核酸配列の異なる鎖と"実質的に"相補的であるように選択される。これは、事前に決定された状況下で、前記プローブが"特異的にハイブリダイズ"できる、若しくはそれらそれぞれの標的配列とアニーリングことができるように、十分に相補的でなくてはならないことを意味している。従って、前記プローブ配列は、標的の正確に相補的な配列を反映している必要はない。例えば、非相補的ヌクレオチドフラグメントは、標的鎖に相補的な前記プローブ配列の残りの部分を有し、前記プローブの5’若しくは3’末端に結合される。或いは、非相補的塩基、若しくはより長い配列は、プローブ中に散在し、それと共に特異的にアニーリングするために、前記プローブ配列が標的核酸の配列と十分な相補性を有するように提供される。
【0064】
ここで用いられたように、"プライマー"という用語は、RNA若しくはDNA、一本鎖若しくは二本鎖、生体システムから由来する、制限酵素消化によって産生される、若しくは適切な環境に置かれた時、鋳型−依存性核酸合成の阻害剤として機能的に働くことができるように合成的に生産される、オリゴヌクレオチドを言及する。適切な核酸鋳型、核酸の適切なヌクレオシド三リン酸前駆体、ポリメラーゼ酵素、適切な補助因子、及び例えば適切な温度やpHなどの適切な条件、と存在する場合、前記プライマーは、プライマー伸長産物を生じるために、ポリメラーゼの作用、或いは同様の活性によるヌクレオチドの付加によって、その3’終端で伸長される。前記プライマーは、特定の条件、及び適用の要求に依存して、長さが変わる。例えば、診断用適用において、前記オリゴヌクレオチドプライマーは、典型的に15〜25、若しくはそれ以上の長さのヌクレオチドである。前記プライマーは、望ましい伸長産物の合成を刺激するために、望ましい鋳型に対して十分に相補的でなくてはならない、つまり、ポリメラーゼ、若しくは同様な酵素による合成の開始で使用するために、適切な近位で、前記プライマーの3’ヒドロキシル部分を提供するのに十分な形で、望ましい鋳型鎖とアニーリングすることが可能である。前記プライマー配列は、望ましい鋳型の正確な相補体を表していることは必要とされていない。例えば、非相補的ヌクレオチド配列は、別の相補的プライマーの5’末端に結合される。或いは、非相補的塩基は、前記オリゴヌクレオチドプライマー配列内に散在し、これにより、前記伸長産物の合成用の鋳型プライマー複合体を機能的に提供するために、前記プライマー配列が望ましい鋳型鎖の配列と十分に相補的であることが提供される。
【0065】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、米国特許番号第4,683,195号、第4,880,195号、及び第4,965,188号に記載されており、これらの全体の開示はこの参照により本明細書に組み込まれる。
【0066】
ここで用いられたように、"レポーター"、"レポーターシステム"、"レポーター遺伝子"、若しくは"レポーター遺伝子産物"という用語は、発現した場合、例えば、生物アッセイ、免疫アッセイ、放射線免疫アッセイによって、若しくは比色定量的な方法、蛍光発生的な方法、化学発光的な方法、或いは他の方法によって、容易に測定可能なレポーターシグナルを産生する、産物をコード化する遺伝子を核酸が有している操作的な遺伝システムを意味している。前記核酸は、RNA或いはDNA、直線或いは環状、一本鎖或いは二本鎖、アンチセンス或いはセンスポラリティーであり、前記レポーター遺伝子産物の発現に対して、必要な調節要素に動作可能に結合される。必要な調節要素は、レポーターシステムの性質に従って、及び前記レポーター遺伝子がDNA或いはRNAの形態かどうかで変わるが、これに限定されるものではないが、そのような要素には、プロモーター、エンハンサー、翻訳調節配列、ポリA付加シグナル、転写終止シグナル、及びそれらと同等物を含む。
【0067】
"形質転換"、"形質移入"、"形質導入"という用語は、核酸が細胞或いは宿主生物へ導入されることによる、あらゆる方法或いは手段を意味し、同じ意味を伝えるために同義的に用いられる。そのような方法は、これに限定されるものではないが、形質移入(トランスフェクション)、マイクロインジェクション、PEG−融合、及びそれらの同等物を含む。
【0068】
導入された核酸は、レシピエント細胞或いは生物体の核酸配列へ(共有結合して)組み込まれる、若しくは組み込まれない。細菌、酵母、植物、及び哺乳類細胞において、例えば、導入された核酸は、エピソーム要素、或いはプラスミドなどの独立レプリコンとして維持される。或いは、前記導入された核酸は、レシピエント細胞或いは生物体の核酸へ組み込まれ、及び細胞或いは生物体ないで安定して維持され、さらに、子孫細胞或いはレシピエント細胞の生物体へ伝えられる或いは遺伝される。最後に、前記導入された核酸は、一時的にのみ、レシピエント細胞或いは宿主生物体に存在する。
【0069】
"選択可能なマーカー遺伝子"という用語は、発現された場合、形質転換された細胞或いは植物に、抗菌抵抗などの選択可能な表現型を与える遺伝子を言及する。
【0070】
"動作可能に接続された"という用語は、翻訳領域配列の発現に必要である調節性配列が、領域配列の発現に影響を及ぼすように、翻訳領域配列に対して適切な位置でDNA分子に配置されていることを意味している。この同じ定義は、時々、発現ベクターにおける転写ユニット、及び他の転写調節要素(例えば、エンハンサーなど)の配列に適用される。
【0071】
アミノ酸残基は、従来の3文字或いは1文字略語に従って本明細書中で同定される。
【0072】
ここに記載されたアミノ酸残基は、"L"異性体型であることが好ましい。しかしながら、"D"異性体型における残基は、あらゆるLアミノ酸残基に置換され、これにより前記ポリペプチドの望ましい特性が保持されることが提供される。ここに表された全てのアミノ酸残基配列は、従来の左から右というアミノ終端からカルボキシ終端配向に一致する。
【0073】
"単離タンパク質"若しくは"単離及び精製タンパク質"という用語は、時々ここで用いられる。この用語は、主に、本発明の単離された核酸分子の発現によって産生されたタンパク質を意味している。或いは、この用語は、"実質的に純粋"な形態で存在するように、自然に関連した他のタンパク質から十分に分けられたタンパク質を言及している。"単離された"は、他の化合物或いは物質を有する人工的な或いは合成的な混合物、若しくは基本的な活性を阻害せず、例えば不完全な精製或いは安定剤の添加に起因して生じる不純物の存在を排除することを意味している訳ではない。
【0074】
"成熟タンパク質"若しくは"成熟ポリペプチド"は、ポリタンパク質前駆体からのタンパク質分解プロセシングなどの、一連のその発生の間、前記ポリペプチドに正常に起こるあらゆるプロセシング現象の後で前記ポリペプチドの配列を所有するポリペプチドを意味している。成熟タンパク質の配列或いは境界(バウンダリ)を指定する際、前記成熟タンパク質配列の第1のアミノ酸は、アミノ酸残基1として指定される。ここで用いられたように、天然には発見されない成熟タンパク質と関連したあらゆるアミノ酸残基は、アミノ酸1を先行するタンパク質がアミノ酸−1、2、3、などに指定されていることに関連付けられる。組換え発現システムに対して、メチオニン開始コドンはしばしば、効率的な翻訳を目的として用いられる。ここで用いられたように、結果として生じるポリペプチドにおけるこのメチオニン残基は、成熟GRP94タンパク質配列に相対的な−1位に位置される。
【0075】
低分子量"ペプチド類縁体"は、GRP94タンパク質の天然型若しくは変異(変異された)類縁体を意味しており、これは、そのタンパク質の断片の直線或いは不連続体を有しており、他のアミノ酸で置換された1若しくはそれ以上のアミノ酸を有し、親或いは非変異タンパク質と比較した場合、改変、増強或いは減少された生物活性を有している。
【0076】
本発明は、GRP94ポリペプチド或いは本発明のタンパク質の活性部分、断片、誘導体、及び機能的或いは非機能的擬態も含む。そのようなポリペプチドの"活性部分"は、完全長ポリペプチドより短いが、測定可能な生物活性は維持しているペプチドを意味している。
【0077】
GRP94ポリペプチドの"断片"若しくは"部分"は、一続きのアミノ酸残基の少なくとも約5〜7の連続アミノ酸を意味しており、しばしば、少なくとも約7から9の連続アミノ酸であり、典型的には少なくとも約9〜13の連続アミノ酸であり、最も好ましくは、少なくとも約12〜13、若しくはそれ以上の連続アミノ酸である。GRP94ポリペプチド配列、抗原決定基、若しくはエピトープの断片は、免疫特異的抗GRP94抗体の有効な産生のために、GRP94タンパク質アミノ酸配列の一部に対する免疫反応を誘発するのに有用である。
【0078】
GRP94ポリペプチドの異なる"変異体"は、天然に存在する。これらの変異体は、前記タンパク質をコード化する遺伝子のヌクレオチド配列における違いによって特徴付けられる対立遺伝子(アレル)である、若しくは異なるRNAプロセシング或いは翻訳後修飾に関わるものである。当業者は、単一或いは複数アミノ酸の置換、欠損、或いは交換を有する変異体を生産することができる。これらの変異体は、これに限定されるものではないが、(a)1若しくはそれ以上のアミノ酸残基が、保存的或いは非保存的アミノ酸と置換されている変異体、(b)1若しくはそれ以上のアミノ酸がポリペプチドに付加されている変異体、(c)1若しくはそれ以上のアミノ酸が置換基を含む変異体、及び、(d)前記ポリペプチドが、融合パートナー、タンパク質タグ、或いは他の化学部分などの別のペプチド或いはポリペプチドと融合されており、例えば、抗体に対するエピトープ、ポリヒスチジン配列、膜融合配列、細胞質標的配列、核標的配列、ビオチン部分、及びそれらと同等物などの、GRP94関連ポリペプチドに対して有用な特性を与えるものである、変異体を含む。本発明の別のGRP94ポリペプチドは、1種からのアミノ酸残基が、保存或いは非保存位置で、別の種の対応する残基に置換されている変異体を含む。別の実施形態において、非保存位置でのアミノ酸残基は、保存或いは非保存残基と置換される。これらの変異体を得るための技術は、遺伝的(抑制、欠損、変異など)、化学的、及び酵素的技術を含み、本分野の当業者には既知である。そのような対立遺伝的変異体、類縁体、断片、誘導体、変異体、及び修飾体の範囲では、GRP94の生物学的特性のいくつかを保持するアポトーシス修飾因子ポリペプチドの誘導体を生じる、選択的核酸プロセシング形態と、選択的転写後修飾形態を含み、それらは本発明の観点内に含まれる。
【0079】
ここで用いられたように、"機能的"という用語は、核酸配列或いはアミノ酸配列が、列挙されたアッセイや目的に対して機能的であることを意味している。
【0080】
特定のヌクレオチド或いはアミノ酸を言及する場合の"基本的に〜からなる"という用語は、所定の配列ID番号の特性を有する配列を意味している。例えば、アミノ酸配列を言及する時に用いられた場合、その用語は、配列それ自体、及びその配列の基本や新規特徴に影響を与えない分子修飾を含む。
【0081】
"タグ"、"タグ配列"、若しくは"タンパク質タグ"という用語は、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、或いはアミノ酸、ペプチド或いはタンパク質、若しくは他の化学物質などの化学部分を言及しており、これらが他の配列へ付加されたとき、特にその配列の欠損若しくは単離において、付加的な有用性を提供する、若しくは有用な特性を与えるものである。従って、例えば、ホモポリマー核酸配列、若しくはキャプチャー(捕獲)オリゴヌクレオチドと相補的な核酸配列は、プライマー或いはプローブ配列に付加され、その後に続く伸長産物或いはハイブリダイズされた産物の単離を容易にする。タンパク質タグの場合、ヒスチジン残基(例えば、4〜8の連続したヒスチジン残基)は、タンパク質のアミノ終端或いはカルボキシ終端に付加され、金属クロマトグラフィーのキレート化によるタンパク質単離を容易にする。代わりに、アミノ酸配列、ペプチド、タンパク質、若しくは、特異的抗体分子或いは他の分子(例えば、フラグエピトープ、c mycエピトープ、インフルエンザAウイルス赤血球凝集素(hemaglutinin)タンパク質の膜貫通エピトープ、タンパク質A、セルロース結合ドメイン、カルモジュリン結合タンパク質、マルトース結合タンパク質、キチン結合ドメイン、グルタチオンSトランスフェラーゼ、及びそれらの同等物など)に反応性を有する決定基と結合する、或いはエピトープを表す融合パートナーは、タンパク質に付加され、アフィニティー(親和性)クロマトグラフィー或いは免疫親和性クロマトグラフィーなどの手順によるタンパク質単離を容易にする。化学タグ部分は、ビオチンなどの分子を含み、核酸或いはタンパク質に付加され、アビジン試薬及びそれと同等物との相互作用による単離或いは検出を容易にする。多くの他のタグ部分は、訓練を受けた職人によっては既知で、想定され得るものであり、この定義の範囲内であると考えられる。
【0082】
"クローン"若しくは"クローン細胞集合"は、有糸分裂による、単一細胞若しくは共通の祖先から由来した細胞の集合である。
【0083】
"細胞株"とは、何代もの間、in vitroで安定して成長できる第1次細胞若しくは細胞集合のクローンである。
【0084】
"抗体"若しくは"抗体分子"は、抗体やそれらの断片を含むあらゆる免疫グロブリンであり、GRP94タンパク質のエピトープなどの特異的な抗原に結合するものである。この用語は、ポリクローナル、モノクローナル、キメラ、及び二重特異性抗体を含む。ここで用いられたように、抗体若しくは抗体分子としては、無傷免疫グロブリン分子と、Fab、Fab’、F(ab’)2及びF(v)として本分野では知られた免疫グロブリンの一部である免疫学的に活性な部分との両方が考えられる。
【0085】
I.GRP94コード化核酸分子、GRP94ポリペプチド、及びその断片の調整
A.核酸分子
本発明のGRP94関連配列をコード化した核酸分子は、以下の2つの(1)適切なヌクレオチド三リン酸から合成する、若しくは(2)生物源から単離する、という一般的な方法によって調整される。用いられた両方の方法は、本分野ではよく知られた方法である。
【0086】
例えば、配列ID番号1を有する完全長cDNAなどのヌクレオチド配列情報の利用可能性は、オリゴヌクレオチド合成による、本発明の単離核酸分子の調整を可能にする。合成オリゴヌクレオチドは、Applied Biosystems 38A DNA Synthesizer若しくは同様の装置で用いられるホスホラミダイト方法によって調整される。結果生じる構成物は、本分野では既知な方法、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)などに従って精製される。本発明のDNA分子などの長い二本鎖ポリヌクレオチドは、現在のオリゴヌクレオチド合成方法に固有なサイズ限定のおかげで、段階的に合成されるべきである。従って、例えば2.4kb二本鎖分子は、適切な相補性を有したいくつかの小さい断片として合成される。従って、産生された相補的断片は、各断片が隣接した断片に結合するための適切な突出末端を有するように、アニーリングされる。隣接した断片は、DNAリガーゼの存在下で、突出末端をアニーリングすることによって結合され、完全な2.4kb二本鎖分子を構成する。そのように構成された合成DNA分子は、次にクローン化され、適切なベクター内で増幅される。
【0087】
GRP94若しくはそれらの相同体をコード化する核酸配列は、本分野では既知である方法を用いて、適切な生物源から単離される。好ましい実施形態において、cDNAクローンは、ヒトのcDNA発現ライブラリーから単離される。別の実施形態において、cDNA配列によって提供された配列情報を用いて、GRP94をコード化したゲノムクローンが単離される。代わりに、GRP94との相同性を有したcDNA若しくはゲノムクローンは、GRP94遺伝子内の事前に決定した配列に対応するオリグヌクレオチドプローブを用いて、マウスなどの他の種から単離される。
【0088】
本発明に従って、配列ID番号1のタンパク質コード領域と適切なレベルの配列相同性を有した核酸は、ハイブリダイゼーションと適切に厳密な洗浄条件とを用いることによって同定される。例えば、ハイブリダイゼーションは、Sambrookら(supra)の方法に従って、5X SSC、5X デンハート液、0.5〜1.0% SDS、100μg/ml 変性断片化サケ精子DNA、0.05% ピロリン酸ナトリウム、及び50%までのホルムアミドからなるハイブリダイゼーション溶液を用いて、実行される。ハイブリダイゼーションは、37〜42℃で、少なくとも6時間実行された。ハイブリダイゼーションに続いて、フィルタを以下のように、(1)2X SSC及び0.5〜1%SDS中で、室温で5分間、(2)2X SSC及び0.1% SDS中で、室温15分間、(3)1X SSC及び1% SDS中で、37℃で30分〜1時間、(4)溶液を30分毎に変えながら、1X SSC及び1% SDSで、42〜65℃で2時間、洗浄した。
【0089】
特異的配列相同性を有する核酸分子間のハイブリダイゼーションを達成するために必要とされる前記厳密な条件を計算するための一つの共通の公式としては(Sambrook et al.,1989);
Tm=81.5℃+16.6Log[Na+]+0.41(%G+C)−0.63(%ホルムアミド)−600/#bp(二重鎖における)である。
【0090】
上の公式に記載されたように、[Na+]=[0.368]、及び50%ホルムアミドを用い、GC含量が42%であり、平均プローブ細部が200ベースである場合、Tmは57℃である。DNA二重鎖のTmは、相同性が1%減る毎に1〜1.5℃ずつ減少する。従って、約75%以上の配列同一性を有する標的は、42℃のハイブリダイゼーション温度を用いて観察される。そのような配列は、本発明の核酸配列と実質的に相同であると考えられる。
【0091】
ハイブリダイゼーションと洗浄の厳密さは、溶液の塩濃度と温度に第1に依存している。一般的に、プローブのその標的とのアニーリングの割合を最大限にするために、ハイブリダイゼーションは、ハイブリッドの計算されたTmが20〜25℃以下である塩及び温度条件で通常実行される。洗浄条件は、前記標的に対するプローブの同一性のためにもできる限り厳密であるべきである。一般的に、洗浄条件は、ハイブリッドのTmが約12〜20℃以下であるように選択される。本発明の核酸に関しては、中程度に厳密なハイブリダイゼーションは、6X SSC、5X デンハート溶液、0.5% SDS、及び100μg/ml 変性サーモン精子DNA中、42℃でのハイブリダイゼーションを行い、2X SSC及び0.5% SDS中、55℃で15分洗浄することとして定義される。高度に厳密なハイブリダイゼーションは、6X SSC、5X デンハート溶液、0.5% SDS、及び100μg/ml 変性サーモン精子DNA中、42℃でのハイブリダイゼーションを行い、1X SSC及び0.5% SDS中、65℃で15分洗浄することとして定義される。非常に高度に厳密なハイブリダイゼーションは、6X SSC、5X デンハート溶液、0.5% SDS、及び100μg/ml 変性サーモン精子DNA中、42℃でのハイブリダイゼーションを行い、0.1X SSC及び0.5% SDS中、65℃で15分洗浄することとして定義される。
【0092】
本発明に用いるための核酸は、あらゆる簡便性クローニングベクターにおけるDNAとして維持される。好ましい実施形態において、クローンは、例えば、pBluescript(Stratagene,La Jolla,CA)などのプラスミドクローニング/発現ベクターにおいて維持され、適切なE.coli(大腸菌)宿主細胞において増殖される。ヒト若しくはマウスGRP94遺伝子をコード化した、本発明のゲノムクローンは、ラムダファージFIX II(Stratagene)において維持される。
【0093】
本発明のGRP94コード化核酸分子は、cDNA、ゲノムDNA、RNA,及びそれらの断片を含み、一本鎖或いは二本鎖であり得る。従って、本発明は、本発明の核酸分子の少なくとも1つの配列、例えば、配列ID番号1を有するcDNAの選択断片など、とハイブリダイズ可能な配列を有するオリゴヌクレオチド(DNA或いはRNAのセンス鎖或いはアンチセンス鎖)を提供する。
【0094】
これら配列の変異体(例えば、アリル変異体など)は、ヒト集団の中に存在し、本発明のオリゴを設計及び/若しくは使用する場合、考慮に入れられるべきであることは、当業者には理解されるであろう。従って、ここに開示されたGRP94配列、若しくはそれぞれの遺伝子或いはRNA転写物上の特異的位置を標的としたオリゴに関して、そのような変異体を含むことは本発明の範囲内である。そのような変異体を含むことに関して、"天然アリル変異体"という用語は、ヒト集団において生じる、様々な特異的ヌクレオチド配列とそれらの変異体を言及するためにここでは用いられている。コード化タンパク質における保存的若しくは中立アミノ酸置換を生じさせる遺伝子多形は、そのような変異の例である。加えて、"実質的に相補的"という用語は、標的配列と完全にマッチされていないが、そのミスマッチが、記載された条件下でその標的配列とハイブリダイズする前記オリゴの能力に実質的に影響を与えていない、オリゴ配列を言及している。
【0095】
従って、コード配列は、配列ID番号1に示されたものである。若しくはこの配列の変異体(mutant)、変異形(variant)、誘導体、若しくはアリル体である。前記配列は、示した配列の1若しくはそれ以上のヌクレオチドの付加、挿入、欠損、及び置換の1若しくはそれ以上である改変によって示される配列とは異なる。ヌクレオチド配列の改変は、遺伝子コードによって決定されたようにタンパク質レベルでのアミノ酸改変を生じる、若しくは生じない。
【0096】
従って、本発明に従った核酸は、同じアミノ酸配列を有するポリペプチドをコード化するにも関わらず、配列ID番号1に示された配列とは異なる配列を含む。
【0097】
一方、前記コードポリペプチドは、配列ID番号2に示されたアミノ酸配列とは、1若しくはそれ以上のアミノ酸残基が異なるアミノ酸配列を有する。配列ID番号2に示された配列のアミノ酸配列変異形、変異体、誘導体、若しくはアリル体であるポリペプチドをコード化する核酸は、本発明によってさらに提供される。そのようなポリペプチドをコード化した核酸は、配列ID番号1に示されたコード配列と60%以上の相同性を示し、好ましくは、70%以上の相同性、80%以上の相同性、90%以上の相同性、若しくは95%以上の相同性を示す。
【0098】
本発明は、目的の核酸を得るための方法を提供し、前記方法は、配列ID番号1に示された配列の一部若しくは全てを有する、若しくは標的核酸に対して相補的な配列を有するプローブのハイブリダイゼーションを含む。一般的に、ハイブリダイゼーションに続いて、成功したハイブリダイゼーションの同定と、前記プローブにハイブリダイズされた核酸の単離(PCRの1若しくはそれ以上の工程が関連する)がある。
【0099】
そのようなオリゴヌクレオチドプローブ若しくはプライマー、及び完全長配列(及び変異形、変異体、アリル体、及び誘導体)は、アリル体、変異形、及び変異体、特に腫瘍抗原結合活性が増強されたそれらが存在するか、核酸を有するテストサンプルをスクリーニングする際に有用であり、前記プローブは、テストされる個人から得たサンプルからの標的配列とハイブリダイズするものである。前記ハイブリダイゼーションの条件は、非特異的結合を最小限にするために調節され、中程度に厳密なハイブリダイゼーション条件に対する好ましい厳密さが使用される。当業者は、ハイブリダイゼーション反応に対して、そのようなプローブを容易に設計し、それらを標識し、適切な条件を工夫することができ、これはSambrook et al(1989)やAusubel et al(1992)などの教科書によって支援されている。
【0100】
いくつかの好ましい実施形態において、配列ID番号1に示された配列の断片、若しくはペプチド結合活性に関するあらゆるアリル体である、本発明に従ったオリゴヌクレオチドは、少なくとも約10ヌクレオチド長であり、より好ましくは約20ヌクレオチド長である。そのような断片事態は、それぞれ本発明の観点を表している。断片及び他のオリゴヌクレオチドは、説明されたようにプライマー若しくはプローブとして用いられるが、GRP94ポリペプチドをコード化する配列のテストサンプルにおける存在を決定することに関係する方法(例えば、PCRによって)でも産生される。
【0101】
B.タンパク質
GRP94タンパク質は、小胞体に存在し、他の分泌タンパク質或いは小胞体内に形成し、それらの3次元形を達成する膜受容体を助ける機能を有する分子シャペロンである。本発明の完全長GRP94タンパク質は、既知の方法に従った様々な方法で調整される。前記タンパク質は、例えば、形質転換細菌、若しくは動物培養細胞或いは組織などの適切な源から、免疫親和性精製によって精製される。しかしながら、これは、いかなる時点でも、所定の細胞タイプにおいて存在するであろうタンパク質が少ないため、好ましい方法ではない。GRP94をコード化する核酸分子の利用可能性は、当業者には既知であるin vitro発現方法を用いた、前記タンパク質の産生を可能にする。例えば、cDNA若しくは遺伝子は、in vitro転写のために適切なin vitro転写ベクター(pSP64やpSP65など)へクローン化され、その後、コムギ胚芽或いはウサギ網状赤血球可溶化液などの適切な無細胞翻訳システムにおける無細胞翻訳が続く。In vitro転写と翻訳システムは、例えば、Promega Biotech(Madison、ウィスコンシン州)或いはBRL(Rockville、メリーランド州)から商業用に利用可能である。
【0102】
或いは、好ましい実施形態によると、より大量なGRP94は、適切な原核或いは真核システムにおける発現によって産生される。例えば、配列ID番号1を有するcDNA或いはそれらの望ましい断片などの、DNA分子の一部或いは全部は、大腸菌などの細菌性細胞内の発現に適応したプラスミドベクターへ挿入される。そのようなベクターは、宿主細胞内で前記DNAの発現を可能にするような方法で位置付けられた、宿主細胞(例えば、大腸菌)内で前記DNAを発現するために必要な調節性要素を有する。発現に必要とされるそのような調節要素は、プロモーター配列、転写開始配列、及び任意に、エンハンサー配列を含む。
【0103】
組換え原核或いは真核システムにおける遺伝子発現によって産生されたGRP94は、本分野では既知である方法に従って精製される。好ましい実施形態において、商業的に利用可能な発現/分泌システムを用いることができ、これによって前記組換えタンパク質は発現され、その後宿主細胞から分泌され、周囲の培地から容易に精製される。発現/分泌ベクターを用いなかった場合、代わりのアプローチは、例えば、組換えタンパク質と特異的に結合する抗体との、若しくはそれらのN末端或いはC末端での6〜8のヒスチジン残基でタグ付けされた組換えタンパク質を単離するためのニッケルカラムとの免疫学的相互作用によってなどの、親和性分離によって組換えタンパク質を精製する工程を含む。代替タグは、FLAGエピトープ、若しくは赤血球凝集素エピトープを有する。そのような方法は、当業者によって一般的に使用されている。
【0104】
本発明のGRP94タンパク質若しくはペプチド断片は、上述した方法によって調整され、標準手順に従って解析される。例えば、そのようなタンパク質は、既知の方法に従ったアミノ酸配列解析を受ける。
【0105】
上述したように、本発明に従ったポリペプチドを産生するための簡便な方法は、発現システムにおける核酸の使用によって、それのコード化している核酸を発現することである。発現システムの使用は、非常に高度な精巧度まで到達している。
【0106】
従って、本発明は、(上述したように)ポリペプチドを産生する方法も含み、前記方法は、前記ポリペプチドをコード化する核酸(一般的には本発明に従った核酸)から発現する工程を含む。これは、ポリペプチドの産生を引き起こす若しくは可能にする適切な条件下、そのようなベクターを含む、培養中の宿主細胞を増殖することによって簡便に達成される。ポリペプチドは、網状赤血球可溶化液などのin vitroシステムにおいても産生される。
【0107】
アミノ酸配列の変異形、アリル体、誘導体、若しくは変異体であるポリペプチドも、本発明によって提供される。変異形、アリル体、誘導体、或いは変異体であるポリペプチドは、配列ID番号2も示された配列と、1若しくはそれ以上のアミノ酸の付加、置換、欠損、及び挿入の1若しくはそれ以上によって異なるアミノ酸配列を有する。好ましいそのようなポリペプチドは、GRP94機能を有する、すなわち、以下の特徴、ペプチド結合活性、ADP、ATP、或いはNECAに対する結合活性、ゲルダナマイシン或いはラディシコール、若しくはそれらの合成変異体に対する結合活性、及び配列ID番号2に示された配列に対するポリペプチドとの抗体反応性を有する免疫交差反応性の1若しくはそれ以上を有するものである。配列ID番号2に示されたアミノ酸配列のアミノ酸配列変異形、アリル体、誘導体、若しくは変異体であるポリペプチドは、示された配列と約35%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、約70%以上、約80%以上、約90%以上、約95%以上の配列相同性を有する配列相同性を有するアミノ酸配列を有する。特定のアミノ酸配列変異形は、配列ID番号2に示されたアミノ酸配列とは、1アミノ酸、2、3、4、5〜10、10〜20、20〜30、30〜40、40〜50、50〜100、100〜150、若しくは150アミノ酸以上の挿入、付加、置換、或いは欠損によって、異なるものである。
【0108】
本発明に従ったポリペプチドは、その活性や機能に影響を与える、若しくは修飾する分子のためのスクリーニングに用いられる。そのような分子は、治療的状況(場合によっては、予防的な状況も含む)に対して有用である。
【0109】
II.GRP94コード化核酸、GRP94タンパク質、及びGRP94ペプチド断片の使用
GRP94タンパク質及びGRP94ペプチド断片
GRP94は、抗原提示及び腫瘍拒絶に影響を及ぼす重要な免疫調節性タンパク質であることが明らかになった。本発明のGRP94分子は、癌の治療に対する免疫反応を特に増強するための方法を促進するために用いられる。
【0110】
さらに、本発明に従ったGRP94核酸、タンパク質、及びそれらに対する抗体は、抗原修復、タンパク質折り畳み、及び腫瘍拒絶反応に密接に関与する他のタンパク質を同定するための研究ツールとして使用される。これらの経路の生化学的解明は、癌及び他の免疫機能障害の治療のための新規試薬の開発を促進するであろう。
【0111】
A.GRP94コード化核酸
GRP94コード化核酸は、本発明に従った多くの目的で用いられる。GRP94コード化DNA、RNA、若しくはそれらの断片は、GRP94タンパク質をコード化する遺伝子の存在及び/若しくは発現を検出するためのプローブとして用いられる。GRP94コード化核酸がそのようなアッセイに対するプローブとして用いられる方法としては、これに限定されるものではないが、(1)in situハイブリダイゼーション、(2)サザンハイブリダイゼーション、(3)ノーザンハイブリダイゼーション、及び(4)ポリメラーゼ鎖反応(PCR)などの様々な増幅反応を含む。
【0112】
本発明のGRP94コード化核酸は、他の動物種からの関連遺伝子を同定するためのプローブとしても有用である。本分野ではよく知られているように、ハイブリダイゼーション厳密性は、核酸プローブと、様々な程度の相同性を有する相補的配列とのハイブリダイゼーションを可能にするように調節される。従って、GRP94コード化核酸は、様々な程度でGRP94と関連する他の遺伝子を同定し、特徴付けることを促進するために用いられ、それにより分子シャペロンシステムのさらなる特徴付けが可能になるものである。さらに、それらは、GRP94と(例えば"相互作用トラップ"技術によって)相互作用するタンパク質をコード化する遺伝子を同定するために用いられ、これはさらに、抗原提示及び腫瘍拒絶に関与する構成成分の同定を促進するべきである。
【0113】
GPR94をコード化する核酸分子、或いはそれらの断片は、GRP94の産生を調節し、それによって免疫調節性反応に使用できるタンパク質の量を調節するためにも有用である。GRP94タンパク質の生理学的な量における変化は、例えば抗原提示などに関与する他のタンパク質因子の活性に対して劇的な影響を与える。
【0114】
GRP94コード化核酸の利用可能性は、GRP94遺伝子の一部或いは全部、若しくはそれらの変異配列を有している実験マウスの系統の産生を可能にする。そのようなマウスは、免疫調節及び腫瘍拒絶に対するin vivoモデルを提供する。代わりに、ここに提供されたGRP94配列情報は、GRP94をコード化する内在性遺伝子が特異的に不活性化されているノックマウスの産生を可能にする。実施例2を参照のこと。実験マウスに導入遺伝子を導入する方法は、当業者には既知である。3つの共通する方法としては、1.初期胚への目的外来性遺伝子をコード化するレトロウイルスベクターの組込み、2.新しく受精させた卵の前核へのDNAの注入、及び3.初期胚への遺伝操作された胚性幹細胞の取り込みを含む。上述したトランスジェニック(遺伝子組換え)マウスの生産は、胚発生や免疫調節におけるGRP94の役割を分子的解明するために有用である。
【0115】
ヒトGPR94遺伝子を有するトランスジェニックマウスは、マウスGPR94遺伝子をヒトの遺伝子に直接置換することによって生成される。これらのトランスジェニック動物は、ヒトの疾患に対する、及びGRP94によって修飾された生物活性に関連する傷害や疾患を最終的な治療に対する動物モデルとして、薬剤スクリーニング研究に有用である。GRP94の"ノックアウト"を有するトランスジェニック動物は、胚発生におけるGRP94の役割を評価するのに有用である。
【0116】
哺乳類システムにおけるGRP94の役割を定義する手段として、GRP94遺伝子の標的変異破壊が原因でGRP94タンパク質を産生できないマウスが産生される。
【0117】
この項で用いられたように、"動物"という用語は、ヒトを除く全ての脊椎動物を含む。また、胚性及び胎生段階を含む全ての発生段階の個々の動物も含む。"トランスジェニック動物"は、例えば、標的組換え或いはマイクロインジェクションによって、若しくは組換えウイルスでの注入によってなどの、細胞下レベルでの計画的な遺伝子操作によって、直接的に或いは間接的に変えられた或いは有するようになった遺伝子情報を有する1若しくはそれ以上の細胞を有するあらゆる動物のことである。"トランスジェニック動物"という用語は、典型的な異種交配やin vitro受精を含むことを意味しているものではないが、1若しくはそれ以上の細胞が組換えDNA分子によって変えられている或いはそれらを有するようになった動物を含むことを意味している。この分子は、定義された遺伝子座を特異的に標的化される、染色体内に無作為に連結される、若しくは染色体外のDNA置換されるものである。"生殖(胚)細胞系列トランスジェニック動物"という用語は、遺伝子改変若しくは遺伝子情報が生殖細胞系列に導入され、それにより遺伝子情報を子孫へ伝達する能力を持つようになったトランスジェニック動物を言及している。そのような子孫において、その改変或いは遺伝子情報のいくつかまたは全てを有する子孫もまたトランスジェニック動物である。
【0118】
改変或いは遺伝子情報は、レシピエントが属する動物の種とは異なっている、或いは特定の個々のレシピエントのみ異なっているものである、若しくは遺伝子情報はすでにレシピエントが有しているものである。最後のケースでは、改変或いは導入された遺伝子は、未変性遺伝子とは異なった発現をする。
【0119】
改変GRP94遺伝子は、宿主動物由来の同じGRP94タンパク質を完全にコード化するものではなく、その発現産物は、軽微な或いは大幅な度合いで改変される、若しくは全く欠けているものである。しかしながら、より中程度に修飾されたGRP94遺伝子は、それが特異的な改変であった場合、本発明の範囲内に含まれると考えられる。
【0120】
標的遺伝子を改変するために用いられたDNAは、幅広い多くの技術によって得られ、その技術には、これに限定されるものではないが、ゲノム源からの単離、単離されたmRNA鋳型からのcDNAの調整、直接的な合成、若しくはそれらの組み合わせを含む。
【0121】
導入遺伝子を導入するための標的細胞の種類は、胚性幹細胞(ES)である。ES細胞は、in vitroで培養された移植前胚から得られる(Evans et al.,(1981)Nature 292:154〜156;Bradley et al.,(1984)Nature 309:255〜258;Gossler et al.,(1986)Proc.Natl.Acad.Sci.83:9065〜9069)。導入遺伝子は、DNA形質移入などの標準技術によって、若しくはレトロウイルス仲介性形質伝達によって、ES細胞へ効率的に導入され得る。結果生じる形質転換されたES細胞は、その後、非ヒト動物からの胚盤胞と組み合わさ得る。導入されたES細胞は、その後その胚をコロニー形成し、結果生じるキメラ動物の生殖細胞系列を与える。
【0122】
個々の遺伝子やそれらの発現産物の寄与を決定するための問題に対する1つのアプローチは、単離されたGRP94遺伝子を用いて、野生型遺伝子を分化全能性ES細胞(上述したような細胞など)において選択的に不活性化し、次にトランスジェニックマウスを産生することである。遺伝子−標的トランスジェニックマウスの産生における遺伝子−標的ES細胞の使用は、他の所で記載され概説されている(Frohman et al.,(1989)Cell 56:145〜147;Bradley et al.,(1992)Bio/Technology 10:534〜539)。
【0123】
標的相同性組換えを用いることによって、特異的変化を染色体アリルへ挿入し、あらゆる遺伝子領域を望んだ変異を有するように不活性化する或いは改変する技術が利用可能である。しかしながら、100%に近い頻度で生じる相同性染色体外組換えと比較して、相同性プラスミド−染色体組換えは、10−6〜10−3の間の頻度でのみ検出されると当初は報告されていた。非相同性プラスミド−染色体相互作用は、相同的挿入と比較して、105倍〜102倍のレベルでより頻繁に生じる。
【0124】
マウスES細胞における標的組換えのこの低比率を克服するために、希少な相同性組換えを検出する或いは選択するための様々な戦略が開発された。相同性改変現象を検出するための1つのアプローチは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用い、相同的挿入のために、形質転換体細胞のプールをスクリーニングし、個々のクローンをスクリーニングすることである。代わりに、ポジティブ遺伝子選択アプローチは、相同的挿入が生じる場合にのみ活性であるマーカー遺伝子が構成されるように開発され、これによりこれらの組換えの直接的な選択を可能になるものである。相同性組換えを選択するために開発された最も強力なアプローチの一つは、ポジティブ−ネガティブ選択(PNS)方法であり、これは、改変が存在するため直接的な選択がない遺伝子のために開発された。PNS方法は、マーカー遺伝子がそれ自身のプロモーターを有しているためん、高レベルでは発現していない遺伝子を標的にするためにはより効率的である。単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV−TK)遺伝子を用いることによって、及びガンシクロビル(GANC)或いは1−(2−デオキシ−2−フルオロ−B−Dアラビノフルラノシル)−5−ヨードウラシル)(FIAU)などの効果的なヘルペス薬剤を有するその非相同的挿入に対して選択することによって、非相同性組換えは選択される。このカウンター選択によって、生存形質転換体における相同性組換えの数は、増加され得る。
【0125】
ここで用いられたように、"標的遺伝子"若しくは"ノックアウト"とは、これに限定するものではないが、ここに記載された方法などのヒトの介入によって、生殖細胞系列或いは非ヒト動物へ導入されたDNA配列である。本発明の標的遺伝子は、同族内在性アリルを特異的に改変するように設計されたDNA配列を含む。
【0126】
本発明のトランスジェニックマウスのために使用する方法も、本明細書で提供される。癌の治療や予防のための薬剤は、GRP94トランスジェニックマウスを用いた研究でスクリーニングされる。
【0127】
本発明の別の実施形態において、GRP94ノックアウトマウスは、GRP94タンパク質に特異的なモノクローナル抗体のアレイを産生するために用いられる。
【0128】
また、本発明の別の実施形態において、GRP94遺伝子は、ゲノムから検出され得る(すなわち、切り出される)短い配列で隣接するGRP94遺伝子と置換される。2つの異なるバクテリオファージリコンビナーゼを用いる方法が記載され、これはゲノムへの外来性DNAの切除或いは組込みのために用いられる。いくつかの原核生物及び低等真核生物の部位特異的組換えシステムは、高等真核生物においてもうまく操作することが示された。酵母、植物、及び動物細胞において、機能的部位特異的組換えシステムは、バクテリオファージP1(CRE−loxP)(以下を参照)及びMu(Gin−gix)から、及びSaccharomyces cerevisiae(出芽酵母、FLP−frt)(Morris et al.1991;Lyznik et al.1996)及びZygosaccharomyces rouxii(R−RS)(Onouchi et al.1991;Onouchi et al.1995)の転化プラスミドから、報告された。このアプローチは、本分野では既知である方法によって、組織特異的方法若しくは発生的特異的方法において用いられ得る。選択された細胞においてはGRP94が不活性で他の細胞ではそうではない、そのようなマウスは、"条件的ノックアウトマウス"と名付けられており、疾患に対する動物モデルとして役立つ。例えば、GRP94が筋肉発達に対して重要であるとの発見は、筋肉組織の遺伝的欠陥や、筋肉変性疾患に対する重要な動物モデルを提供する。
【0129】
GRP94欠損マウス及びGRP94欠損ES細胞の利用可能性は、治療法を開発するために用いることができる細胞株の産生を可能にする。第1に、GRP94欠損細胞株は、GRP94の機能を哺乳類HSP90ファミリーの他の3つのメンバーの機能と区別するアッセイを開発するために用いられ得る。GRP94に優位に依存するこのストレス反応性は、これらの細胞に影響を受け、従って(本明細書のデータにおいてすでに示されたように)識別可能であるべきである。第2に、GRP94欠損細胞株は、HSP90若しくはGRP94に対して特異的な薬剤を開発するための用いられ得、従って、このファミリーの全てのメンバーを標的とする薬剤よりもよく、望まない副作用を持たない抗腫瘍薬剤の作成を可能にする。第3に、GRP94欠損ES細胞株は、組織特異的或いは細胞種特異的適用に対する、培養分化細胞株を作成するために用いられ得る。例えば、肝臓細胞(hepatocytes)若しくは脂肪細胞(adipocytes)は既にそのような細胞から産生されており、これらは、DNAアレイやタンパク質アレイなどの全ゲノム及び全プロテオーム技術を用いて、正常及び/若しくは病原性肝機能における、及び/若しくは脂肪組織生物学におけるGRP94の役割を決定するために用いられ得る。GRP94は、グルコース代謝に対するセンサーであると知られているので、目的の細胞種には膵臓細胞及び筋細胞も含むことができ、GRP94の非存在は、GRP94のセンサー機能に依存した、或いはこれらの組織の生理機能に影響を与えるその非存在に依存した薬剤の研究や産生を可能にする。
【0130】
癌治療の状況において、GRP94欠損マウスとES細胞の利用可能性は、腫瘍免疫療法に対する、Srivastavaらによって促進されたモデルの遺伝子テストを可能にする。腫瘍は、GRP94欠損を産生し、免疫システムを刺激した場合のin vivoでの役割を決定するためにマウスへ注射され得る。そのような研究室テストの有用性は、免疫調節活性も有している、ストレスタンパク質などの他のタンパク質の発見になり得、そのタンパク質の作用はGRP94の存在によって遮蔽されるものである。
【0131】
B.GRP94タンパク質及びそれらの断片
精製GRP94若しくはそれらの断片は、哺乳類細胞におけるGRP94の存在及び蓄積に対する高感度検出試薬としても作用する、GRPポリクローナル抗体或いはモノクローナル抗体を産生するために用いられる。組換え技術は、GRP94タンパク質の一部或いは全部を含む融合タンパク質の発現を可能にする。前記タンパク質の完全長タンパク質或いは断片は、前記タンパク質の様々なエピトープに特異的なモノクローナル抗体のアレイを生産を促進するために用いられ、それにより細胞内の前記タンパク質の検出に対して著しい感受性を提供する。
【0132】
GRP94に免疫学的に特異的であるポリクローナル抗体或いはモノクローナル抗体は、前記タンパク質を検出し定量化するように設計された様々なアッセイにおいて用いられる。そのようなアッセイには、これに限定されるものではないが、(1)フローサイトメトリー解析、(2)腫瘍細胞におけるGRP94の免疫化学的局在、及び(3)様々な細胞からの抽出物の免疫ブロット解析(例えば、ドットブロット、ウエスタンブロットなど)を含む。さらに、上述されたように、抗GRP94は、GRP94の精製のためにも用いられ得る(例えば、親和性カラム精製、免疫沈降など)。
【0133】
前述に説明から、本発明のGRP94コード化核酸、GRP94発現ベクター、GRP94タンパク質、及び抗GRP94抗体は、GRP94遺伝子発現を検出し、タンパク質折り畳み、抗原提示、及び腫瘍拒絶に関連した遺伝子及びタンパク質の相互作用を評価するために、GRP94タンパク質蓄積を改変するために用いられる。本発明の別の観点によると、GRP94産生を回復する或いは増強するのに適切な薬剤を同定するための、癌治療に対する薬剤をスクリーニングする方法が提供される。上述したGRP94欠損細胞株は、この目的のための優れたスクリーニングツールを提供する。
【0134】
薬剤スクリーニングアッセイに用いられたGRP94ポリペプチド或いは断片は、溶液中では含まれず、固体支持体へ添加される、若しくは細胞内に存在するものである。薬剤スクリーニングの1つの方法は、原核生物或いは真核生物宿主細胞を利用し、それら宿主細胞は、好ましくは競合的結合アッセイにおいて、前記ポリペプチド或いは断片を発現する組換えポリヌクレオチドで安定的に形質転換される。そのような細胞(生細胞でも固定された形態でも)は、標準結合アッセイに用いられ得る。ある人は、例えば、GRP94ポリペプチド或いは断片とテストされる薬剤との間の複合体の形成を決定し、GRP94ポリペプチド或いは断片と既知リガンドとの間の複合体の形成が、テストされる薬剤によってどの程度干渉されるかを検討する。本発明の細胞株を用いたそのようなアッセイは、HSP90とGRP94の間で異なった結合を示す薬剤の同定を促進する。
【0135】
薬剤スクリーニングのための別の技術は、GRP94ポリペプチドに対して適切な結合親和性を有する化合物のための高処理スクリーニング系を提供し、Geysenによる1984年9月13日に公開されたPCT公開公報番号WO84/03564号に詳細に記載されている。簡潔に説明すると、多くの異なる小ペプチドテスト化合物は、プラスチックピン或いは他のものの表面などの固体基質上に合成される。前記ペプチドテスト化合物は、GRP94ポリペプチドと反応され、洗浄される。GRP94ポリペプチド結合は、次に本分野ではよく知られた方法によって検出される。
【0136】
精製されたGRP94は、上述した薬剤スクリーニング技術で用いるために、プレート上に直接コーティングされる。しかしながら、前記ポリペプチドに対する非中和抗体は、GRP94ポリペプチドを前記固体相上に固定化するための抗体を捕獲するために用いられ得る。GRP94をプレート或いは他の固体基質上に接着する好ましい方法は、部位特異的ビオチン付加に向いたC末端タグを有する、修飾GRP94を使用するものである。特に、著者らは、ビオチン標識化部位がN1−355、N34−355、及びN34−222のC末端に作成され得ることを示した。
【0137】
本発明は、GRP94ポリペプチド或いはそれらの断片と結合するためのテスト化合物と競合する、GRP94ポリペプチドに特異的に結合可能な抗体を中和する競合性薬剤スクリーニングアッセイの使用も考慮に入れる。これに関して、前記抗体は、GRP94ポリペプチドの1若しくはそれ以上の抗原性決定基を共有するあらゆるペプチドの存在を検出するために用いられ得る。
【0138】
薬剤スクリーニングに対するさらなる技術は、非機能性GRP94遺伝子を有する宿主真核生物細胞株若しくは細胞(上述したような)の使用を含む。これらの宿主細胞株若しくは細胞は、GRP94ポリペプチドレベルで欠損している。前記宿主細胞株若しくは細胞は、薬剤化合物の存在下で増殖する。前記宿主細胞の増殖速度は、前記化合物がGRP94欠損細胞の増殖を調節するかどうか決定するために測定される。
【0139】
例えば、腫瘍細胞は、制御されない増殖によって正常細胞とは区別される。従って、多くの癌治療法は、急速に分裂する細胞を選択的に阻害するように設計される。細胞の増殖調節は、外部細胞膜における多くの受容体タンパク質、及び細胞膜内に埋め込まれた"キナーゼ"と呼ばれる酵素に依存しており、それらの機能としては、他の増殖調節タンパク質をリン酸化(リン酸基を付加する)するものである。受容体やキナーゼの多くは、熱ショックタンパク質90(HSP90)と相互作用する細胞増殖調節に関与しており、細胞内でのそれらの適切な機能と正確な堆積のためにこの相互作用に依存している。特に、HSP90は、有力な抗腫瘍薬剤標的候補として考えられてきた。しかしながら、HSP90は、GRP94に非常に高い相同性を有しており、GRP94と構造要素を共有しており。GRP94が結合するものとほとんど同じリガンドに結合する。今日まで、HSP90活性を干渉するように設計された全ての阻害剤は、GRP94にも結合し、阻害する。これは、抗HSP90薬剤を用いた結果として望まない副作用を導く。従って、GRP94欠損細胞株の使用は、GRP94若しくはHSP90の選択的結合を示す薬剤の同定を可能にするであろう。
【0140】
癌に対抗するための第2の戦略は、癌性細胞と正常細胞との間の増殖の違いではなく、それらの間の化学的な違いを目標とするものである。腫瘍細胞の特徴となるタンパク質断片における違いを検出するTリンパ球の精巧な能力のおかげで、そのような細胞に作用し殺傷するためのT細胞性免疫システムの助けを得ることは可能である。GRP94は、始めSrivastavaらによって、後に他の人によって、そのようなTリンパ球による腫瘍細胞の認識を刺激することが示された。
【0141】
この技術におけるバリエーションとしては、目的の様々なストレス条件下で、GRP94が欠損した細胞の増殖があり、これにより前記ストレスに対処する細胞の能力を決定し、細胞性ストレス反応を修飾するための薬剤の能力を測定するものである。全ての動物に対するこの技術の重要な進展としては、特異的組織及び/若しくは細胞種においてGRP94遺伝子が不活性化されたマウスにおけるストレス反応性の測定がある。
【0142】
理論的薬剤デザインのゴールは、生物学的に活性な目的のポリペプチドの構造類似体、若しくは、例えばより活性があり安定した形態のポリペプチドである薬剤或いは例えば、in vivoでポリペプチドの機能を増殖する或いは阻害する薬剤を構築するために相互作用する(例えば、アゴニスト、アンタゴニスト、阻害剤など)小分子の構造類似体を産生することである。例えば、Hodgson,(1991)Bio/Technology 9:19〜21を参照のこと。ひとつのアプローチにおいて、ある人は、まず(例えば、GRP94ポリペプチドなど)目的のタンパク質、若しくは例えばGRP94ペプチド複合体の三次元構造を、X線結晶学によって、核磁気共鳴によって、コンピューターモデリング、若しくは最も一般的にはそれらアプローチの組み合わせによって決定する。頻繁ではないが、ポリペプチドの構造に関する有用な情報は、相同性タンパク質の構造に基づいたモデリングによって得られる。理論的薬剤デザインの例としては、HIVプロテアーゼ阻害剤の開発である(Erickson et al.,(1990)Science 249:527〜533)。加えて、ペプチド(例えば、GRP94ポリペプチド)は、アラニンスキャンによって解析される(Wells,1991,Meth.Enzym.202:390〜411)。この技術において、アミノ酸残基は、Alaによって置換され、前記ペプチド活性に対するその影響が決定される。前記ペプチドの前記アミノ酸残基のそれぞれは、この方法によって解析され、前記ペプチドの重要領域を決定する。
【0143】
GRP94のペプチド結合部位の発見、及びHSP90ファミリータンパク質の他のメンバーとの配列及び/若しくは構造の高度な相同性によって、このファミリーの他のメンバーにおける相同的部位に結合するペプチド及び同様のリガンドに関連する、本発明の別の観点が示される。例えば、細菌におけるhtpGを標的とすることによって、新規抗生物質が導かれる。別の例として、HSP90ペプチド結合部位を標的とすることによって、その活性の修飾が導かれる。第3に、1ペプチド結合部位についての知識を得ることによって、ストレスタンパク質であるHSP90ファミリーの全ての他のメンバーの結合部位の理論的構造ベース遺伝子操作が導かれる。
【0144】
また、機能的アッセイによって選択された、標的特異的抗体を単離し、次にその結晶構造を解析することも可能である。原理としては、このアプローチは、次に続く薬剤デザインの基礎となり得る薬学的コア(pharmacore)をもたらす。機能的薬理学的活性抗体に対する抗イディオタイプ固体(抗−ids)を産生することにより、タンパク質結晶学全体を回避することが可能である。鏡像として、前記抗−idsの結合部位は、オリジナル分子の類似体になると予想される。次に、前記抗−idsは、科学的或いは生物学的に産生されたペプチドのバンクからペプチドを同定し、単離するために用いられる。選択されたペプチドは、その後薬学的コアとして働く。
【0145】
従って、ある人は、例えば、GRP94ポリペプチド活性の阻害剤、アゴニスト、アンタゴニストなどとして作用する、改善されたGRP94ポリペプチド活性或いは安定性を有する薬剤をデザインする。クローン化GRP94配列の利用可能性の長所によって、十分量のGRP94ポリペプチドが、X線結晶学などの解析研究を実行する場合に利用できるようになる。さらに、ここに提供されたGRP94タンパク質配列の知識を得ることによって、X線結晶学の変わりに、或いはそれに加えて、コンピューターモデリング技術を用いる人に対するガイドとなる。
【0146】
III.薬剤
A.薬剤とペプチド治療
本発明のGRP94ポリペプチド/タンパク質、抗体、ペプチド、及び核酸は、薬学的組成物にも調合され得る。これらの組成物は、上述の物質の1つに加えて、本分野の当業者にはよく知られた、薬学的に許容可能な賦形剤、担体、緩衝液、安定剤、若しくは他の物質を有する。そのような物質は、無毒性であるべきで、前記活性成分の有効性を阻害しないものでなくてはならない。前記担体若しくは他の物質の正確な性質は、例えば、経口、静脈内、皮膚或いは皮下、鼻腔内、筋肉内、腹腔内経路などの投与経路に依存している。
【0147】
個々へ与えられるものである本発明に従ったポリペプチド、抗体、ペプチド、核酸分子、小分子、若しくは他の薬学的に有用な化合物は、好ましくは、"予防的に有効な量"若しくは"治療上有効な量"(場合によっては、予防的な場合は治療であると考えられるが)であり、これは、前記個々に有益をもたらすのに十分である。
【0148】
B.遺伝子治療の方法
さらなる別の手段として、標準の生物学的に活性なGRP94ポリペプチドをコード化する核酸は、免疫システムの修飾が必要とされている患者、若しくは癌を患っている患者などを治療するための遺伝子治療の方法に用いられ得る。1つのアプローチにおいて、pan−HSP90薬剤に感受性を持たない、GRP94の修飾されたバージョンは、抗HSP90の特異性を増加し、GRP94の同時標的に起因する望まない副作用を阻害する方法で、投与され得る。別のアプローチにおいて、GRP94は、効率的に分泌されず、効率的な分泌にGRP94を必要としているタンパク質(例えば、免疫グロブリン、トール様受容体など)などに関与する疾患の遺伝子治療に用いられる(Randow,F.,and B.Seed.2001.Endoplasmic reticulum chaperone gp96 is required for innate immunity but not cell viability.Nat Cell Biol 3:891)。
【0149】
最小で十分なバージョンのGRP94遺伝子を遺伝子治療(及び微小タンパク質をタンパク質ベース治療)に使用することの主な利益は、投与した遺伝子/タンパク質の望まない効果及び活性が最小限になるということである。他のHSP90全ての様な、GRP94は、モジュラー構造を有している。それは、ユニークな活性を有する、異なるドメインから成っている。例えば、少なくとも3つのタンパク質は、HSP90のC末端ドメインに結合すると知られており、少なくとも1つは、中央ドメインに結合する(Young,J.C.,I.Moarefi,and F.U.Hartl.2001.Hsp90:a specialized but essential protein−folding tool.J.Cell Biol 154:267;Buchner,J.1999.Hsp90&Co.−a holding for folding.Trends Biochem Sci 24:136)。GRP94のリガンド結合ドメインと荷電ドメインとからのみなる構造に対する治療に限れば、導入された遺伝子/タンパク質をより特異的な治療に用いるような、他の相互作用が起こる可能性はない。
【0150】
最小シャペロンモジュールを用いる第2の利点は、小タンパク質は組換え体を産生することが簡単である点である。小355アミノ酸タンパク質は、細菌、昆虫細胞、或いは哺乳類細胞発現システムにおいて、完全長GRP94と比較して、高収量とより良い活性(おそらく、正確に折り畳まれたタンパク質分子のより高いパーセンテージに起因する)が得られる。
【0151】
ウイルスベクターなどのベクターは、幅広い様々な異なる標的細胞へ遺伝子を導入するために先行文献において使用されてきた。典型的には、前記ベクターは、目的のポリペプチドの発現から有用な治療効果或いは予防効果を提供するのに十分な比率において、形質転換が生じることができるように標的細胞へさらされる。形質転換された核酸は、各標的腫瘍細胞のゲノムへ永久に取り込まれ持続的な効果を提供する、若しくは代わりにその治療が定期的に繰り返される。
【0152】
ウイルスベクターやプラスミドベクターの両方である様々なベクターは、本分野では知られており、米国特許番号第5,252,479号、及び国際特許番号WO93/07282号を参照のこと。特に多くのウイルスは、遺伝子転移ベクターとして用いられ、これらには、SV40、ワクシニアウイルス、HSVやEBVを含むヘルペスウイルス、及びレトロウイルスなどのパポバウイルスが含まれる。先行技術における多くの遺伝子治療プロトコールは、障害のあるマウスレトロウイルスが用いられていた。
【0153】
腫瘍組織に対するGRP94核酸を選択的に標的とする遺伝子転移技術が好ましい。この例としては、受容体仲介性遺伝子転移を含み、ここにおいて核酸は、前記標的細胞の表面に存在する受容体に特異的なリガンドを有しているタンパク質リガンドにポリリシンを介して結合されているものである。
【0154】
以下の実施例は、本発明の特定の実施形態を説明するために提供される。これらは、決して本発明を限定することを意図したものではない。
【実施例1】
【0155】
GRP94のN末端ペプチド結合部位の同定
グルコース調節タンパク質94(GRP94)(gp96としても知られている)は、分子シャペロンのHSP901ファミリーのメンバーであり、2つのメカニズム:すなわち、免疫システムの適応アームに対するペプチド提示の増強[1]、及び自然免疫の刺激[2]によってT細胞反応を劇的に刺激することができる。これらの活性のおかげで、腫瘍由来GRP94は、腫瘍に対して免疫反応を誘発するために用いられ得、潜在的に強力な免疫治療ツールになる[3]。抗原提示活性は、その免疫原性を増強するGRP94における変異に起因するものではなく、むしろペプチドと結合するその能力に起因するものであると示されている[4]。GRP94−ペプチド複合体は、受容体仲介性エンドサイトーシスを介して抗原提示細胞のサブセットによって取り込まれると知られており[5]、次に、細胞表面にあるMHCクラスI分子に対して、シャペロンペプチドが内在性抗原提示細胞上に提示される。ペプチド結合は多くの分子シャペロンの通常の活性である一方で、GRP94は、抗原提示を増強する場合、そのようなシャペロンのなかで最も効果的であると議論されていた。その重要性にも関わらず。GRP94ペプチド相互作用、及びそのペプチド結合部位の同定は、詳細には特徴付けられていなかった。これらは、GRP94の免疫刺激作用を理解するに対して、重大な問題である。GRP94によるペプチド結合の機序は、2つの活性の間の連結は未だ解明されていないが、選択された膜結合のシャペロン及び分泌タンパク質としてのその活性についても伝達する[6]。同様な質問が、シグナル伝達複合体を組織化し、転写因子を調節する場合に、これらサイトゾルシャペロンの重要な役割であるにも関わらず、全ての他のHSP90シャペロンに対して答えられていない。水疱性口内炎ウイルス(VSV)由来のいくつかのペプチドは、GRP94に結合すると示されていた。VSV8は、VSVのNタンパク質からの八量体(RGYVYQGL)であり、MHCクラスIKbを介して特異的T細胞に対して提示された、ウイルスの優性T細胞エピトープである[8]。MHCクラスIを有するこのペプチドの複合体の構造は、解明されている[9]。VSV8は、VSV Nタンパク質形質転換細胞株から精製されたGRP94から溶出され[10]、このペプチドは、精製されたGRP94にin vitroで直接結合することが示された[1]。ペプチドAは、前記ウイルスの糖タンパク質からの15−mer(KRQIYTDLEMNRLGK)であり、免疫原性であるとは知られていない[1、11、12]。しかしながら、このペプチドは、VSV Gタンパク質からのLSSLFRPKRRPIYKSを含む、他のペプチドがするように、GRP94に結合する[1]。SpeeとNeefjesは、光反応性側鎖を有する放射性ペプチドを用い、GRP94のペプチド優先度を探索した[13]。明らかなサイズ優先度は発見できず、40merでさえ前記シャペロンに結合した。特異性が観られた唯一の配列は、基本的に9merである、若しくはGRP94に相対的に弱く結合する2及び9位の酸性アミノ酸である。従って、GRP94との結合に互換性がある配列或いは構造的な特徴は、まだ知られていない。
【0156】
GRP94のペプチド結合活性に関する限られた量の情報は、低い結合の化学量論(約1%のペプチドのみがペプチドに結合すると示されている[14])と、遅い結合反応速度論[15]にある程度起因している。これらの技術的障害は、前記ペプチド結合部位とその調節の構造的決定の同定も妨げている。本発明者らは、ペプチド結合構成要素を構成し、この断片に対するペプチド結合が特異的であることを示す第3のGRP94のN末端は、pan−HSP90阻害剤であるラディシコール及びゲルダナマイシンによって阻害され、GRP94の1モルに対して1モルに近い結合化学量論を有することを示した[15]。加えて、本発明者らのデータによると、この部位の前記ペプチド特異性は、別のER常在ストレスタンパク質であるBiPの特異性とは異なることが示唆された[15]。この実施例において、本発明者らは、分子モデリング、生化学的特徴付け、及び部位特異的突然変異誘発を用い、N末端ドメイン内に位置した、或いはラディシコール結合部位の反対の表面にあるペプチド結合部位を同定し、His125が前記結合部位内に位置し、その結合活性に直接関連していることを示した。
【0157】
以下の材料及び方法は、実施例1の実施を容易にするために提供される。
【0158】
組換えタンパク質
N1−355:昆虫細胞内のN1−355の発現のための構成要素と、その精製工程は[15]に記載されている。組換えN1−355タンパク質は、N末端His6タグを含み、次にGRP94の成熟配列の最初の355アミノ酸が続き、シグナルKDELを標的にしたC末端ER1を含む。
【0159】
N34−355:N1−355の最初の33アミノ酸をコード化した配列は、PCRクローニングにより削除された。結果生じたPCR産物を、BamH1とXmaIを用いて、アミノ末端の因子Xa認識配列が続くHis6タグに付加するように、pQEXaベクター(Qiagen)に挿入した。前記プラスミドを、M15 E.coliにおいて形質転換し、中間ログ段階まで増殖させ、次に1mM IPTGと共に4時間、27℃でインキュベートし、タンパク質発現を誘導した。バクテリアを播種し、500mM NaClと20mMイミダゾールを含む20mMリン酸バッファー(pH7.2)で1%NP40(Sigma Chemicals)で溶解した。N34−355を、取り扱い説明書に従って、Ni−NTAカラム(Qiagen)の親和性クロマトグラフィーによって、界面活性剤溶解液から精製した。結合したタンパク質は、500mMイミダゾールで溶出し、透析し、濃縮した。このタンパク質は、10〜20%スクロースを含む25mM HEPES(pH7.2)、110mM KOAc、20mM NaCl、1mM Mg(OAc)2、0.1mM CaCl2(バッファーA)中、−80℃で保存した。必要な場合、His6タグを含むアミノ末端伸長を、取り扱い説明書に従って、因子Xa(Novagen)での消化によって除去した。反応混合液は、小さいNi−NTAカラムに通して再精製し、切断されたN34−355のみを含む流出液を使用した。前記切断されたタンパク質は、SDS−PAGE上で、親タンパク質よりも2〜3kDa小さく現れ、これは17アミノ酸の除去と一致していた(図示せず)。消化後、7merであるPYNGTGSは、Ala34或いは成熟N34−355配列の前に置かれる。
【0160】
ミニ−GRP94(例えば、アミノ酸34〜355、70〜221)のための、及び/若しくはミニ−HSP90組換えたんぱく質のための構成要素を、目的の配列のPCR増幅によって作成し、標準手順によって、発現ベクターpQE30(Qiafen Corp.)のマルチプルクローニング部位へクローニングした。6−ヒスチジン部位は、発現タンパク質のN末端にこのベクターによって提供され、親和性精製が可能になった。
【0161】
アミノ酸1〜210からなるHSP90断片を用い、GRP94で記載したように発現させた。正常HSP90配列を用いることに関して、本発明者らは、アミノ酸100〜134の間の領域に突然変異を誘導した(実施例1の図4を参照のこと)。部位特異的突然変異は、結合ペプチドと結合するGRP94におけるアミノ酸によって導かれ、これに限定されるものではないが、Thr90、Ile81、Pro82、及びGRP94配列にマッチするようなアミノ酸130の前の残基の挿入を含む。
【0162】
変異タンパク質:QuikChange Kit(Stratagene)を用いて、アミン鎖置換を、N34−355をコード化するベクターへ導入した。制限酵素解析によって解析する場合、変異はシークエンスによって検証した。このタンパク質は、バクテリア内で発現させ、上述したように精製した。
【0163】
ペプチド
ペプチドは、the University of Chicagoの施設で合成され、質量分析法によって検証された。2つのバインダーペプチドの配列は、VSV8としてRGYVYQGL(VSVNタンパク質から)、及びPepAとしてKRQIYTDLEMNRLGK(VSV Gタンパク質から)である。水の中に保存溶液を調整し、−80℃で保存した。ペプチド濃度は、BCAアッセイ(Pierce)をもちいて決定した。指示されたように、ペプチドは、IodoBead法(Pierce)によってイオジン化し、取り込まれなかったイオジンは、短いDowex Ag1X8カラムに通すことによって除去した。前記ペプチドの特異的放射線は、通常2x1014〜1x1015cpm/moleであった。
【0164】
ペプチド結合アッセイ
2種類の結合アッセイを用いた。溶液結合(solution binding)アッセイは、[15]に記載されたように実行した。簡潔には、組換えタンパク質を、飽和状態下でイオジン化ペプチドと共にインキュベートし、バッファーA中、0.8μlのパックP−30ビーズ(Bio Rad)を含むスピンカラムを通じて、遊離ペプチドの分離後、タンパク質−ペプチド複合体に関連する放射線を測定した。タンパク質なしのイオジン化ペプチドは、スピンカラム分離のバックグラウンド対照として使用された。
【0165】
固相結合アッセイ(テキスト中ではプレートアッセイとして言及されている)は、他の所で記載、検証されている(Biswas et al.,manuscript in preparation)。簡潔には、96ウェルプレート(Costar 3590 High Binding,Corning,ニューヨーク州)を、アッセイ前にペプチドでコーティングし、100μlのバッファーA中の組換えタンパク質を90分間結合させた。結合は、HRP−ウサギ抗His6(Amersham)によって定量し、色変化は、BioTekプレートリーダーを用いて415nmで観察した。N1−355及びN34−355は通常、0.7或いは1μgのインプットレベルで飽和に到達するので、このレベルのOD415値を1と定義し、全てのデータ点をそれを規準化した。300μMラディシコール(Sigma;DMSO中の保存溶液)による阻害を、特異性対照として用いた。
【0166】
GRP94に対するペプチド結合は、飽和可能で特異的であるので、オフ率はまだ非常に遅く[15]、Ka値は、分数占有曲線(Fractional occupancy curves)から図形的に推測した(タンパク質インプットの機能としての、飽和時のOD415値に関連した所定のタンパク質インプットのOD415値)。結合反応が均等でない場合、これらの値は、様々な変異の間の比較用パラメーターとして有効である。
【0167】
ゲル電気泳動
ブルーネガティブゲル電気泳動によるタンパク質高次構造の解析は、SDSなしのLaemliゲルシステムの5〜15%勾配アクリルアミドゲルを用いて、ネガティブバッファーに含まれたクーマシーブリリアントブルーG250(Sigma Chemicals)によって行われた[40]。チログロブリン、フェリチン、及びBSAを、分子量標準として用いた。
【0168】
タンパク質修飾
タンパク質への蛍光色素8−ANS(Molecular Probes,Eugene,オレゴン州)の結合は、500μlのバッファーA中の0.5μMの適切なN355構成要素を含む5μM ANSとインキュベートすることによって行った。
【0169】
アクリロダン(acrylodan;6−アクリロイル−2−ジメチルアミノナフタレン)修飾のために、組換えタンパク質(10μM)を、50mMアンモニウム酢酸バッファー(pH6.9)中の100μMアクリロダン(Molecular Probes)の存在下、40℃で一晩インキュベートし、遊離アクリロダンはスピンカラムを用いて除去した。N355−アクリロダンに対するペプチドの効果を測定する実験のために、ペプチドを最終濃度100μMになるように添加し、対照サンプルには等量のバッファーを添加した。この混合液に、10分間50℃の熱ショックを与え、500μlまで希釈し、蛍光測定をPTI蛍光測定器で実行した。サンプルは、ANSに対しては350nm、アクリロダンに対しては390nmで励起させ、発光スペクトルは、400〜600nmの間で収集した。このスリット幅は、励起に対しては2nmで、発光に対しては2〜6nmにセットした。
【0170】
DEPCでのヒスチジン修飾の前に、野生型或いはH125D N34−355(各800μg)を、バッファーA中の24ユニットの因子Xa(Novagen)と25℃で一晩処理し、因子Xaを除去するためにXarex Agarose(Novagen)を用いて、ペプチドを含むHis6を除去するためにNi−NTAアガロースを用いて再精製した。His−切断タンパク質は、バッファーA中の12μMのタンパク質及び2.8mMのペプチドとして、25℃で一晩、ペプチドA(若しくは溶液のみ)と反応させた。遊離ペプチドを除去し、バッファーを、P10スピンカラムを用いて、50mMアンモニア酢酸(pH6.8)に代えた。遊離N34−355及びタンパク質−ペプチド複合体の両方を、1mM DEPC(Sigma Chemicals)と25℃で反応させる、若しくは溶液対照としてEtOHと反応させた。15〜20分間インキュベートし、240nmでの反応を観察することによって決定されたように、完全なHis修飾が得られた[25]。指示されたように、カルベトキシヒスチジン(carbethoxyhistidine)は、400mMヒドロキシルアミンで15分間、25℃で処理することによって、ヒスチジンに戻される。
【0171】
質量分析法
サンプルは、アセトニトリルと1% TFAで飽和したシナピニン酸中、20μM最終濃度でまで希釈した。各サンプルの1〜2μlを、Ciphergen gold chipに吸収させ、空気乾燥した。質量は、SELDI−TOF ProteinChip Reader(Ciphergen)によって測定した。
【0172】
結果
GRP94−結合ペプチドは、188残基断片内に含まれる
以前、本発明者らは、切り取られたバージョンのGRP94(アミノ酸1〜355を含む)は、VSV主要T細胞抗原であるVSV8などの免疫学的に関連のあるペプチドと結合するための完全長タンパク質の能力を説明するのに十分であると証明した。本発明者らはさらに、この活性は、pan−HSP90阻害剤であるラディシコール及びゲルダナマイシンによって調節される対象であることを示した[15]。このペプチド結合部位をさらに位置付けるために、成熟タンパク質の最初の33アミノ酸を欠損した、より短いバージョンの組換えGRP94(N34−355;図1A)をクローニングし、E.coli内で過剰発現させた。この組換えタンパク質は、N1−355の結合曲線と非常に類似した結合曲線でVSV8と結合し(図1B)、これは、最初の33アミノ酸が、ペプチド結合活性には重要ではないことを示している。ペプチド結合部位を含むより小さい断片を定義するために、本発明者らは、N34−355の1つのトロンビン部位(C末端側Arn222)を利用し、N34−355とペプチドとの複合体はトロンビン切断後、無傷を維持するかどうかを検証した。消化後、2つのバンドがクーマシーブルー染色によって検出可能であり、これらは予想されたN末端22.4kDa、及びC末端14.6kDa断片と一致した(図1C)。断片の割り当ては、N34−355のN末端部に対して(抗His60)、若しくはC末端近くの残基261〜276(9G19[16])に対して特異的な抗体によって確認した。GRP94−ペプチド複合体は、SDSに対して耐性であり[1]、ペプチド結合タンパク質断片は、SDS−PAGE後、結合イオジン化ペプチドの放射線活性によって検出できる。トロンビンの非存在下において、非切断複合体に一致する放射線活性バンドが検出可能であった。部分的トロンビン消化の後、正確な分子量である22.4kDaの付加的な放射線標識バンドが、SDS−PAGE分離後に検出でき、一方、他の14.6kDa断片は標識されなかった(図1C)。従って、これらのデータより、GRP94のアミノ酸34〜222は、ペプチドの結合を維持するのに十分であることが示された。
【0173】
GRP94−ペプチド複合体の分子モデリング
本発明者らは、次に以前に公開したデータを利用し[17][18]、潜在的ペプチド結合部位のコンピューターモデルを作成した。第1に、本発明者らは、HSP90のN末端ドメインの結晶構造(PDB files 1YER and 1A4H)を用いて、エネルギー最小化をされた、GRP94の高度相同性セグメント(酵母HSP90とマウスGRP94の間で51%の相同性)の予想構造を産生した。第2に、本発明者らは、MHCクラスIと関連して決定された(2MHC;[9])抗原性ペプチドVSV8の既知構造を用いた。第3に、GRP94に結合する場合、VSV8の高次構造は、MHCクラスIと結合したときのその高次構造と本質的に同様であるという仮定を単純化するために、本発明者らは、the docking algorithm PatchDock[19]を用いて、潜在的結合部位を予想した。前記アルゴリズムは、リガンド分子と高度にゲノム的形状相補性を有する位置をタンパク質表面で検査し、前記リガンドをこれらの位置にドッキングさせる。そのようなドッキング解法は通常、異なるタンパク質の溝においてクラスターを形成し、この溝における結合は高度な形状相補性を可能にする。加えて、VSV8とMHCクラスIとの原子接触に関する統計学的データを収集し、前記ドッキング解法を評価するために用いた。形状相補性の観点から一番高い評価の解法、及び統計的評価を選択した。
【0174】
ペプチド結合部位はラディシコール結合ポケットとは区別される
7つの最適な解法(ソリューション)は、2つの潜在的ドッキング部位にマップされた。1つの部位は、ラディシコール結合ポケットと部分的に一致し(図2A)、前記タンパク質において最大の溝であった。以前のデータによるとラディシコール及びペプチドが同時に結合できるので[15]、この部位は考えられそうもない。従って、本発明者らは、ラディシコールには結合しない変異がまだペプチドに結合できるかどうかを検討した。酵母HSP90のN末端ドメインとラディシコールとの間の複合体の決定構造[18]、及びHSP90とGRP94の間の類似性[19]に依存して、本発明者らは、残基Asp128とGly132を同時に、それぞれAsnとAlaへ変異させた。HSP90におけるAsp93(GRP94におけるAsp128に対応する)は、ラディシコールと重大な水素結合をなし、Gly97は阻害剤に対して固くパッキングし、前記結合ポケットの重要な位置であるヘリックス4位に対して役立つ[17、18、20]。HSP90のD93N変異体は、ATPとは結合せず[21]、GRP94の二重変異体は、ラディシコールと結合できないと予想された。組換えN34−355 D128N、G132A変異体(RadR)は、可溶性であり、ほぼ単量体であり、野生型タンパク質のように、抗体9G10に対する構造感受性エピトープを発現した。前記RadR変異体がラディシコールに結合するかテストするために、本発明者らは、2つの機能的テスト(詳細は[15]を参照のこと)である、9G10エピトープの欠損、及びネガティブブルーゲルにおいて移動性を増加した小型高次構造の獲得を用いた。両方の変化は、ラディシコール結合に対するタンパク質の高次構造変化に影響を及ぼすように見られた[15]。結果生じた変異体は、9G10エピトープの連続してさらすこと(データは示さず)、及び小型高次構造の獲得の欠損によって判断されたように、ラディシコールでの処理に屈折性を有した(図3A)。ラディシコール結合の欠損にも関わらず、WTタンパク質と比較して明らかな会合定数における少しの減少のみで、前記RadRタンパク質はペプチドと効果的に結合した(図3C)。ラディシコール結合の欠損と一致して、RadR変異体のペプチド結合活性は、ラディシコールでの前処理によって阻害されないが、野生型N34−355の活性は著しく阻害された(図3B)。本発明者らは、N34−355のペプチド結合部位がラディシコール結合部位と異なる[15]だけでなく、阻害剤結合の消滅はペプチドへ結合する能力には影響を与えないと結論付けた。
【0175】
ペプチド結合は2つの疎水性プローブに対する結合部位の環境に影響を及ぼす
他の潜在的ペプチドドッキング部位は、βシートの反対側にあり、ここには8つのβシートからできたサドル様表面がある。このサドルに対するサイドバリアは、2つのループ(Asp170〜Arg222、及びLys119〜Asn122)であり、モデル配列の末端であるストランドH(Val260〜Ser263)のプラス部分によって提供される(図2B)。4つの最高の評価解法は、VSV8がこのサドル内にうまくはまると予想した(図2B)。ペプチドは、ストランドE〜Hを横切り、βシートの長軸に相対して約70度の角度ではまり、表面接触のほとんどはβシートとであった。
【0176】
この推定上のペプチド結合部位は、深い疎水性ポケットと近接している(図4)。へリックス及びストランドHを導いているループからと同様に、ストランドE、F,G、及びHからの疎水性残基は、このポケットを形成すると予想される。βシートのエッジストランド(H)と前述のループは、このポケットへの入り口の一部を形成し(図4B)、疎水性色素bis−ANSの結合部位を導くと示された[22]。従って、本発明者らは、このポケットは、GRP94に結合すると報告されていた[12、22]、例えばbis−ANS、ANS、アクリロダン、及びNile Redなどの様々な疎水性プローブに適応できると推測した。ANSが疎水性環境において結合されると予想された[23]ように、ANS標識化N1−355の発光スペクトルは、474nm周辺で最大になる(図5A)。ANS標識化N1−355をペプチドAとインキュベートした場合、ANS蛍光の強度は減少し、その発光最大値はわずかにブルーシフトであった(図5A)。そのような減少したANS傾向は、直接的に若しくは構造変化を介して、フルオロフォアの環境に影響を及ぼす、ペプチドA結合と一致した。或いは、ANS及びペプチドが同じ結合部位に競合した場合、ANSの放出に起因するものになるであろう。後者の説明は、ANS発光のブルーシフトに起因して外されるので、本発明者らは、ペプチドは疎水性ポケットに近接して結合するという意見に賛成する。
【0177】
予想されたようにペプチドが結合した場合、他の疎水性プローブの環境にも影響を及ぼすであろう。ストランドGは、N1−355中に単一のシステイン残基(Cys117)を有しており、この側鎖は前記疎水性ポケットに方向を向いているので(図4)、本発明者らは前記タンパク質をCys−特異的ナフタレン誘導体アクリロダンで修飾した[12]。アクリロダンは水溶性溶液中では非常に低量子収量であるので、その蛍光は、チオールとの反応によって著しく増加し[24]、次にその蛍光は、疎水性のその環境に対して非常に感受性を有していた。図5Bに示されたように、390nmで励起した場合、アクリロダン−修飾N1−355は、フルオロフォアが極度な疎水性の環境にいた場合に予想されたように、474nm周辺で最大の発光をした。遊離アクリロダンは、520nmで最大値を示した。6Mグアニジン塩酸塩と共役したN1−355−アクリロダンの変性は、474nmでの蛍光を消滅し、6Mグアニジン中の遊離アクリロダンと同じ発光最大値を生じ、これは観察された蛍光はタンパク質の三次構造に依存することを示している。共有結合性修飾であると予想されたように、変性N1−355−アクリロダン共役の蛍光強度は、遊離アクリロダンに比べて著しく高かった(図5B)。これらのスペクトル特性は、Cys117ni共有結合的に結合した場合、アクリロダンが疎水性ポケットに位置付けられるという予想を実現させる。従って、N1−355のアクリロダン修飾は、分子変化の検出用に定義された蛍光プローブを提供する。
【0178】
アクリロダンでの修飾がN1−355のペプチド結合に影響を及ぼすかどうかをテストするために、本発明者らは、アクリロダン−修飾タンパク質、及び非修飾タンパク質を、飽和量のイオジン化VSV8と共にインキュベートし、それぞれに対するペプチド結合を測定した。アクリロダン−共役タンパク質は、前記非修飾タンパク質のように、本質的にはペプチドを結合でき(図5C)、これはアクリロダンが結合活性を干渉しないことを示している。重要なことには、アクリロダンの蛍光は、ペプチドの存在下で部分的に消光された(図5D)。これらのデータは、図2Bのモデルと十分一致し、ペプチド結合部位は異なってはいるが、前記疎水性ポケットと近接していると予想された。しかしながら、これらのデータは、ペプチド結合がアクリロダンと近接することに起因する消光と、より離れた部位へのペプチド結合の結果としての高次構造変化に起因する消光とを区別できない。しかしながら、本発明者らは以前、ペプチド結合は阻害剤結合と同様な構造変化を誘導せず、全体的な構造変化と相反して、N355のプロテアーゼ感受性も変えない(データは示さず)ことを示した[15]。これは、以下に示したデータ(表1)と共に、Cys117に近接したペプチド結合が好ましいことを示している。
【0179】
ペプチド結合はヒスチジン残基の修飾に対して感受性を有している
ペプチド結合部位を定義するための第3のアプローチは、ペプチド結合がpH感受性であるという観察に由来している(図6A及び参考文献[1])。結合はpH7.2以上で
阻害され、pH6.0周辺で刺激される。加えて、結合は、イミダゾールに感受性を有しており、6mMイミダゾールの存在下でペプチド結合が半分に減少する(図6B)両方の観察によって、ヒスチジン残基がGRP94によるペプチド結合に関与していることを示された。ジエチルピロカルボネート(DEPC)は、特定の条件下、高度に特異的な方法で、ヒスチジンのイミダゾール環をN−カルベトシキレート化し(N−carbethoxylates)[25、26]、従って、ヒスチジンの役割を定義する場合に有用である。エタノール溶液のみは阻害作用がない一方で、N34−355のDEPC処理(His6タグの切断後)は、阻害剤であるラディシコールと同じ位効果的に、前記タンパク質のペプチド結合活性を消滅させる(図6C)。ヒドロキシルアミン(HA)処理は、DEPC修飾タンパク質の活性を回復し(図6C)、他のアミノ酸ではなく、修飾されたHis残基のみが、活性の変化に重要であった。
【0180】
His125はペプチド結合に重要である
N34−355タンパク質は4つのHis残基を有しており、125位、194位、200位、及び353位である。前記モデルに基づいて(図2B)、His125は、ペプチド結合部位に最も関与しそうなヒスチジン残基であると判断された。従って、本発明者らは、His125を、Asp(電荷が変わる)に、或いはTyr(イミダゾール環がフェノール環に置換する)に変異させた。変異H125Dタンパク質は、ペプチド結合活性を有さず、H125Yタンパク質は部分的な活性のみを有していた(図7A)。結合反応が非常に遅い速度[15]であり、従って平衡ではなく、ヒルプロットはその親和性を計算するためには用いることができないが、分数占有プロットは、会合定数を測定するために用いることはできる。野生型及びH125Yに対して計算された分数占有は、super−imposableであり(図7B)、野生型とH125Yタンパク質の会合定数の間に著しい違いは見られなかった。H125Y変異体の飽和レベルは野生型の飽和レベルの約0.6であるので、この解析は、H125Y変異体が、活性割合による結合によってというよりも、前記タンパク質の活性割合に影響を及ぼすことを示唆していた。結合活性の欠損は、前記変異タンパク質の全体的な誤った折り畳みに起因するものではない。第1に、両者は可溶性タンパク質として精製され、野生型タンパク質と類似のクロマトグラフィー特性を示した。第2に、H125D及びH125Yの両方は、モノクローナル9G10エピトープを発現した(データは示さず)。第3に、図7Cにおけるネガティブゲル移動テストによって示されたように、H125Dは、阻害剤であるラディシコールへ結合し、その高次構造を変えることによってそれに反応するためのその能力を保持した。同様のテストによって、H125Y変異体の約半分はラディシコールの非存在下でさえ、速く移動する高次構造内に見出されることが示されており、これはH125Y変異体は、活性タンパク質の割合を減少するという結論を支持している。しかしながら、正確な移動度(約50%)を示すこのタンパク質の集団は、ラディシコール結合誘導性構造変化できる能力があると明らかになった(図7C)。この集団の相対的な存在量は、H125Yのペプチド飽和レベル(野生型のペプチド飽和レベルの約0.6、図7A)と一致している。従って、N34−355の125位のチロシンは、活性タンパク質の割合が減少する間、ペプチド結合それ自体は妨げない。ヒスチジン及びチロシンと対照的に、125位のアスパラギン酸は、ペプチド結合を消滅するので、本発明者らは、125位残基の性質はペプチド結合に重要であると提案し、これは構造モデルの強力な予想を確認するものである。
【0181】
His125は結合ペプチドに物理的に近い
上述したデータによると、Cys117の環境はペプチド結合に変化をもたらし、DEPCによる若しくは電荷変化変異によるHis125修飾はペプチド結合を消滅することが示されているけれども、それらは高次構造変化の伝達の観点で説明され、従って物理的関連は形式上示していない。従って、本発明者らは、ペプチド保護実験においてDEPC修飾手順を用いた。DEPC修飾の程度は、ペプチド結合N34−355及びペプチドなしN34−355(His6タグが除去された所から)の間で比較され、ペプチドがモデル通りに結合された場合を推測すると、修飾からHis125を保護するべきである。前記タンパク質は、SELDI−TOF質量分析法によって解析された(表1)。各N−カルベトキシル化によって、修飾されたHis残基当たり72Daが付加される。DEPCで修飾されたN34−355の質量は、非修飾タンパク質と比較して、289Daに増加し、これは全てのHis残基の修飾から予想された通りである。Hisのみが修飾されたことは、ヒドロキシルアミンでの後処理による質量増加の可逆性によって示された[26]。N34−355は、DEPCでの修飾前にペプチドAde飽和され、得られた質量は、ペプチドの非存在下の場合以下の73Daであり(表1)、これは1つの残基がDEPC修飾から保護された場合に予想された通りである。DEPC修飾タンパク質のタンパク質分解性断片の質量分析により、保護残基はHis125であると確認された(データは示さず)。H125D変異体が同様な方法で用いられた場合、その質量は、ペプチドが存在の有無に関わらず、DEPCでの修飾後211〜215Da増加し、これは3つのHisのみを有し、ペプチドに結合できないタンパク質から予想された通りである(表1)。これらの修飾実験によって、4つのヒスチジンの修飾であり、His125のみがペプチド結合に関与しており、これは前記ペプチドに物理的に関与していることが立証された。
【0182】
【表1】
【0183】
議論
GRP94のシャペロン活性、若しくはペプチド特異的T細胞反応を刺激するその能力を理解するための骨格としては、どのようにそれがペプチドに結合するかを解析することである。我々の以前のデータ[15]と共に、本発明者らは、シャペロンGRP94のペプチド結合部位は、N末端ドメインの大きな溝内で、ヌクレオチド/ゲルダナマイシン/ラディシコール結合部位の反対側に位置付けられていることを示した。このペプチド結合部位は、コンピュータードッキングアルゴリズムによって予想され、以下の実験的観察はその予想からなっている。a)1〜33及び223〜355の残基は、結合に使用しない場合、結合ペプチドの保持に対して不必要である、b)ペプチド結合は天然では疎水性ではなく、むしろこの部位の親水性性質に一致している、c)疎水性ポケットに位置付けられたCys117は、ペプチド結合によって影響を受けるが、ペプチド結合を阻害することなく共有結合的に修飾され得る、d)阻害剤であるラディシコールに対する結合部位の変化はペプチド結合を妨げない、e)125位残基の性質は、ペプチド結合にとって重要であり、His−125は、ペプチドが結合された場合、DEPCでの修飾から保護される、f)N1−355における他の3つのヒスチジンは関与してないように見える。
【0184】
His125に対するAspの置換は、前記タンパク質のペプチド結合活性を消滅するには十分である。ペプチド結合を減少或いは消滅した変異体は結合ポケットの外側に位置し、タンパク質高次構造に影響を及ぼすように作用する一方、本発明者らは、ペプチドが結合した場合、小分子DEPCによる修飾からの保護のため、His125及びペプチドの間の物理的関連を示した。従って、本発明者らは、N末端ドメインの湾曲したβシートが、少なくともin vitroではこのシャペロンのペプチド結合部位であり、単なる調節部位ではないと提案する。突然変異によるアミノ酸のより広範囲な調査、及び結合部位の範囲をマップするための他の生化学的方法が進行中である。
【0185】
コンピュータ生成モデルがペプチド関連性のモードを予想する時も正しい場合、結合は、完全長のペプチドと接触して溝の軸に沿ったものであり、これはペプチドとMHCクラスIタンパク質の溝との相互作用を暗示するものである。提案された結合部位のサドル様配置は、GRP94結合ペプチドが前記溝の軸に沿って‘スライド’することを可能にし、これはVSV8は、真ん中の8アミノ酸がVSV8配列であるペプチドのVSV19と同様の反応速度で結合するという観察を明らかにするものである。結合部位のこの観点は、同様の親和性を有して、8mer〜40merの異なる長さのペプチドと結合するGRP94の能力も説明する[1、13、15]。
【0186】
シャペロンは一般的に疎水性ペプチドを認識すると考えられているが(実際、HSP70ではそうである)、GRP94によって認識されるペプチドの特徴は、異なるように観られる。ここで同定されたGRP94溝は、塩基性側鎖(リシン及びヒスチジン)、及び疎水性側鎖をほとんど持たないヒドロキシル性側鎖(例えばスレオニン)に沿っている。本発明において用いられた2つのバインダーペプチドも、完全に親水性であり、それらの結合はpHに対して感受性を有しており、高塩濃度で解離した[15]。従って、少なくともこれらのペプチドの結合は、疎水性ではなく。極性及び静電気的相互作用によって決定されるようである。この観察も、His125変異体の性質と一致しており、これは、イミダゾール環のTyr側鎖での置換は部分的結合を可能にし、Aspでの置換は完全に結合を阻害したように、結合に影響を及ぼした。
【0187】
ペプチド結合部位に対する床を形成するβストランドは、ラディシコール結合ポケットとは分離している。前記ドメインの中心にあるβシートは、N末端ドメインの両方の活性において役割を果たしているように見える。これは、このβシートのストランドFに対して、ここに明らかに示されている(図4A)。これは、少なくとも1つの残基であるAsp128を含み、この側鎖はラディシコールに向けられており、ラディシコールへの結合に重要であり、これはHSP90との相同性から予想された通りであり[18]、この研究においても直接的に示されている。同じストランドFは、His125も内蔵し、ペプチド結合におけるこの中心的役割は、ここに説明されている。それらは近接しているにも関わらず、阻害剤と接触するこのストランド側の残基の置換は、ペプチド結合を有する前記すとランドの別側における接触には著しく影響せず、その逆もまた同じである。本発明者らによると、ラディシコール−屈折変異体は、ペプチドと結合することができ、ペプチド結合における変異はラディシコールに対してまだ正常に反応することが示された。ペプチド結合は、ラディシコールの結合によって阻害され得るが、前記阻害剤はその結合部位を最初に占有しなくてはならない[15]。これは、ラディシコールの結合は、βシートを横切る或いはペプチド結合溝を変えるようなより間接的な、一方向性の変化を伝達する。
【0188】
HSP90の結晶構造は、ゲルダナマイシン/ラディシコール/ATPの存在下及び非存在下の両方で解析され、構造におけるその違いは、ヌクレオチド部位の占有によって誘導された高次構造変化を定義するのを助ける[17、18、20、29]。2つの形態は、全部で約35残基である、3つのらせん体及びループの点で異なり、これらの大部分はヌクレオチド結合ポケットの増強を可能にする若しくは抑制するものである。GRP94の対応する領域は、アミノ酸135〜174である(図4A)。ゲルダナマイシン或いはラディシコールによるペプチド結合の阻害を説明するような、βシートにおける明らかな違いはない。従って、観察された阻害は、微妙の変化に起因する、若しくは135〜174領域から前記分子の反対側までの構造変化のより間接的な伝達に起因するものである。
【0189】
GRP94のペプチド結合部位の同定は、それらはペプチドに結合すると報告されていたので、全てのHSP90タンパク質に直接関連しているが、それらの結合部位は未だ一つもマップされていない。Scheibelらは、酵母HSP90のN末端210アミノ酸は、ゲルダナマイシン−及びATP−感受性で[30]、ペプチドに結合するのに十分な単量体ドメインを形成することを示し、それはここに記載されたような最小GRP94コンストラクトによく似ている。N末端ドメインへの負に電荷したドメインの付加は、特異性に影響を及ぼすことなく、ペプチド結合親和性を増加する[31]。酵母HSP90とマウスGRP94との間の別の類似点は、ペプチド結合の性質が明白に非平衡であることである([15、31]及び本発明)。サドル様結合部位に寄与する残基の比較によって、His125は全てのHSP90を欠損し、ほとんどのHSP90配列はThrに置換されていることが示された。HSP90の1〜210ドメインは、より長いペプチドより緩くVSV8に結合するため[31]、HSP90のN末端部位は、ペプチド結合においてGRP94ほど効率的ではない、若しくはそのペプチド特異性が異なる可能性がある。
【0190】
GRP94によるペプチド結合を他のペプチド結合部位と比較することは有益である。HSP70タンパク質において、ペプチドは、βサンドイッチドメインからのループによって描かれたβシートの先端にも結合する[32、33]。このペプチドは、3つのβストランドに対して垂直に接触し、その結合溝は疎水性アミノ酸及び極性アミノ酸の両方を有しているが、電荷残基は有していない[32、33]。相対的に、GRP94ペプチド溝は広く、ほとんどの極性残基を作り出し、前記ペプチドは、大体3つのストランド(ストランドG、F、及びH)の軸に沿って接触している。GRP94のペプチドとの相互作用は、MHCタンパク質と共通したいくつかの特徴を有している。MHCクラスI及びクラスIIの両方において、会合定数は低く、オフ率は非常に遅い。GRP94‐ペプチド複合体は、非常に安定で、SDSに対してさえも耐性を有し、多くのMHC−ペプチド複合体のようである[34]。KbクラスIタンパク質との複合体の場合、この研究に用いられた同じVSV8ペプチドは、3−ストランドβシートを横切った約450位に位置し、GRp94結合溝であると提案した形態(トポロジー)と同様な形態である2つのαらせんの間に束縛された[9]。面白いことに、βシートの別面上の残基と阻害剤であるゲルダナマイシン或いはラディシコールとの重要な接触をもたらすストランドFのように、ペプチドと相互作用するMHCクラスIの同じ3つのβストランドは、前記シートの別面上に、前記タンパク質のβ2mサブユニットとの重要な接触も提供する[35]。MHCアリルに依存して[36]、β2mにおける変異は、そのような接触を変え、βシートの別面上に負荷したペプチドに影響を及ぼすことができる[37]。
【0191】
MHC−ペプチド複合体は、次に続くT細胞受容体との接触が到達し利用できるように、結合ペプチドの1面を残すように設計される。一方、HSP70タンパク質において、結合ペプチドは、可逆的なラッチとして作用するαへリックスドメインによって、所定の位置に埋められ、ロックされ、その動きは、ヌクレオチド誘導性構造変化によって調節される[33]。本発明のデータは、GRP94−ペプチド複合体がモデルのどちらか一方に似ているかどうかを決定するには十分でない。N末端ドメインの少なくとも1つの活性に必要とされ、N末端ドメインへの阻害剤の結合によって誘導される高次構造変化に関与するため[15]、第2のGRP94の酸性ドメインはペプチドのロッキングシステムを提供する可能性がある。最近公開されたGRP94のN末端残基48〜316の構造[38](その論文で用いられた命名法では残基69〜337)は、結合ペプチドを束縛するように作用する明らかな部分はないと示していた。一方、酸性ドメインは、結晶構造では不規則であり、従って、HSP70タンパク質の長いへリックスと同様に、ペプチド結合ポケットへの接近を潜在的に制御できる[33]。
【0192】
この研究で同定されたペプチド−結合部位は、GRP94のT細胞刺激活性において重要な役割を演じる。N末端GRP94断片は抗原提示細胞と結合し、T細胞を活性化できると示したデータと合わせて[39]、本発明者らのデータは、免疫学的に関連するペプチドはこの部位で結合すること、及びGRP94のN34−355断片はT細胞のペプチド特異的活性の原因となるように見えると示していた。この部位はヌクレオチド部位や疎水性ポケットに結合するリガンドによって制御され得るので、この部位へのペプチドの結合は、まだ発見されていない細胞内補助因子によって制御され得る。
【0193】
【表2】
【0194】
【表3】
【実施例2】
【0195】
小胞体シャペロンGRP94はマウス原腸形成及び中胚葉誘導に重要である
小胞体シャペロンGRP94は、遍在的に発現されるが、クライアントタンパク質はほとんど知られておらず、それらは重要な発生チェックポイントには関与していない。マウスGRP94遺伝子の標的破壊によって、それは胚発生において重要な機能を有していることが示された。Grp94−/−胚は、発生の卵筒段階である、妊娠7日目に子宮内で死んだ。それらは、その段階で正常に生じる主な分化イベントである、中胚葉、原始線条、及び原始羊膜腔を発生することに失敗し、中胚葉誘導に関与する重要な遺伝子を発現しない。発生上の欠損は、母系GRP94の希釈に起因するものではなく、前記シャペロンの活性を反映しているようである。Grp94−/−細胞は、それらの野生型対応物と同じペースで分裂した。さらに、低グルコース張力による既知のGRP94の転写性制御にも関わらず、変異ES細胞は、低グルコース培地において野生型と同様に増殖した。一方、変異細胞は、血清欠乏、及びカルシウム恒常性の摂動に対してさらに感受性を有していた。これらのデータは、GRP94の必要条件は非常に選択的であると示している。本発明者らは、中胚葉誘導に重要であるいくつかの分泌或いは細胞表面タンパク質の適切な発現はGRP94に依存しており、細胞−細胞相互作用が胚細胞の適切な運命を特定する場合、このシャペロンの非存在下ではこれらの提示が非効率的である。
【0196】
分化及び器官形成のほとんどは天然代謝性ストレス反応が関与していると考えられているけれども、哺乳類発生の間のGRP94発現に関してほとんど知られていない。GRP94転写は、卵母細胞及び2細胞期胚を含んで、遍在的に見出されている[6]。タンパク質レベルで、未分化F9細胞には検出されていないが、一方、主要なERストレスタンパク質であるGRP78/BiPは、構成的に発現されていることが見出されている。しかしながら、Ca++イオン透過孔によって誘導されたストレスに対して、GRP94及びGRP78タンパク質両方の発現は、生体分化細胞の場合と同様に誘導された[6]。GRp94であるように思われるが厳格には同定されていない、100kDaタンパク質は、早ければ4細胞期の発生中のマウス胚の細胞上に発現されていることが示された[7]。卵筒段階で7から8.5日胚では、発現は胚性及び胚体外外胚葉において最も高く、内臓内胚葉においてはより低くなる[8]。さらに、原始線条から現れる中胚葉細胞は、陽性であった[7]。後期(E9.5〜13.5)では、器官形成の間、GRP94は、構成的に発現され、発生中の心臓、神経上皮、及び外胚葉組織の表面内に最も顕著に局在していることが見出された[9]。これらの発現パターンは、発生中の胚におけるエネルギー代謝に関連しているとしばしば考えられており、GRP94発現は、ストレスタンパク質と同様に、その機能を最も要求されている時期と場所で最大である。
【0197】
GRP94の重要な機能は、いくつかの遺伝的方法によって研究されていた。アンチセンス[10]若しくはGRP94レベルのリボザイム仲介性欠乏[8]は、GRP94及びGRP78/BiPタンパク質両方に影響を及ぼし、ストレス条件によるそれらの誘導が阻害され得る場合、それらの基本的な発現は変わらず、細胞成長と増殖を支持するには十分である。GRP94は、多くのその転写的制御因子をGRP79/BiPと共有している[11]。GRP94欠損マウス前Bリンパ球株である70Z/3は、リポ多糖類(LPS)刺激に対する感受性に基づいてRandowとSeedによって単離され[12]、培養で増殖可能であることが示された。シロイヌナズナ(Arabidopsis)において、ヌルgrp94変異体は、前記タンパク質が植物発生において重要であることを示している[13]。ナズナ(Shepherd)変異体及び70Z/3細胞株の両方は、GRP94の欠損は細胞致死ではなく、むしろ選択的な過程に影響を及ぼすことを遺伝的に示した。これらの研究及び酵母からGRP94の非存在は、GRP94発現と複数の細胞性(multi−cellularity)との間の相関に一致する。
【0198】
上述の結論は、GRP94を他のほとんどのシャペロンと区別し、そのクライアントタンパク質が少数である、といったGRP94の別の例外的な特徴に恐らく関連している。GRP94欠損株において、表面発現するものであるが、インテグリン及びトール様受容体ではないタンパク質が影響を受けることが示された[12]。同様に、本発明者らは、免疫グロブリン生合成は、GRP94の薬理学的な阻害に対して感受性を有しているが、MHCクラスIの生合成ではそうではない。それらの折り畳みの間にGRP94が関連していると知られている分泌及び膜タンパク質の間では、同定可能な共通の構造因子はない。従って、タンパク質構造に基づいてGRP94基質を予想することは現在不可能である。GRP94の明らかな選択性のため、マウスにおいてGRP94発現を除去することの影響を決定することが重要であった。
【0199】
本発明者らは本明細書において、マウス組織におけるその遍在性発現にも関わらず、GRP94に対するマウス遺伝子を標的化することは、重大な発生チェックポイント、すなわち中胚葉の誘導における特異的な欠陥を有する胚性致死な表現型を生じると報告する。
【0200】
以下の材料及び方法は、実施例2の実施を容易にするために提供される。
【0201】
grp94のクローニング及びマッピング
Srivastavaら[41]は、10番染色体に位置する1つのマウスGRP94コード化遺伝子が存在するが、部分的なゲノム配列が利用可能であることを示した。本発明者らは、マウスgrp94のエクソン/イントロン構造をマップするためのガイドとして、ブタgrp94遺伝子[42]を用いた。マウスGRP94の重複部分をコード化する9つのファージを、Sv129ゲノムλファージライブラリー(Strategene)から単離し、それらのgrp94遺伝子含有量をエクソンPCR解析によってマッピングした。約23kbのそれぞれのゲノムDNAを有するファージ(データは示さず)は、標的ベクターを構成するために用いた。
【0202】
標的コンストラクトは、ベクターpPNT1内に構築した[43]。エクソン8と4、及びエクソン8の間のイントロンから伸長する8kbのEcoRV断片を、右腕として用いた。左腕はPCR増幅された完全な配列であった。これは、5’UTRから始まりエクソン3内部で終わる、1.5kbのgrp94を含む。この2つの腕(アーム)は、転写の方向とは逆方向に挿入されたネオマイシン耐性カセットによって分離した。これは停止コドンを形成し、成熟GRP94タンパク質の781アミノ酸の61のみ(+ベクター由来の付加的なアミノ酸3つ)を含むタンパク質産生が予想される。前記標的コンストラクトであるgrp94配列の上流には、ネガティブ選択のためにチミジンキナーゼ(tk)遺伝子を含有した。
【0203】
grp94遺伝子標的化マウスの生成
前記標的コンストラクトを、C1 ES細胞(Dr.B.Hendrikson(the University of Chicago)から寄贈された)へ電気穿孔し、ガンシクロビル及びG418の両方に対して耐性なクローンを単離し、増殖させた。12の正確に標的化したクローンを同定し、これは、非標的化ESクローンの約1/4の割合に相当する。これらのクローンの6つを、さらに増殖させ、偽妊娠C57B1/6 WT雌マウスからの胚盤胞に注入した。前記胚盤胞を移植し、その雌マウスはある期間まで成長させ、キメラ動物を作成した。次に、75%以上の茶毛を有する7匹のオスキメラ子孫を、WT C57B1/6雌マウスと交配し、結果生じた子孫の遺伝子型を同定した。ヘテロ接合体を、F1世代を生むために交雑(inter−cross)した。破壊された遺伝子の生殖系列伝達を有する2つの独立マウス系統を派生させた。両系統の表現型は、区別不可能であるので、ここで報告したデータは、系統18から得られたものである。このデータは、少なくとも6世代に亘って、C57B1/6バックグラウンドと戻し交雑されたマウスからのものである。
【0204】
標的化マウスからのES細胞株の生成
grp94−/−交雑からのES細胞を、30−1/2"ゲージ針を用いてM2培地(Sigma)でE3.5妊娠雌の卵管を流すことによって単離した。胚盤胞は、完全ES培地(DEME、20%FCS、Pen−Strepグルタミン、β−メルカプトエタノール、非必須アミノ酸、Hepes。1000μ/mlESGRO)中でゼラチンコーティングした組織培養ディッシュに播種した。内部細胞塊を4日後に単離し、照射されたマウス胚性線維芽細胞上に増殖させた。
【0205】
細胞増殖及び生存アッセイ
増殖アッセイは、CellTiter96 Aqueous Non−Radioactive Proliferation assay kit(Promega)を用いて実行した。増殖アッセイを実行する前に、細胞を2週間、異なるレベルのグルコースを含む培地中で増殖させた。無グルコースの培地、及び高グルコース培地(4.5g/L)は、Invitrogenより購入した。いくつかの実験において、細胞は、1mMEGTAの存在下で増殖させ、その増殖は細胞分裂の数で定量化した。血清欠乏実験として、60%コンフルエンス或いはそれ以上で既知数の細胞をプレーティングし、前記細胞がゼラチンコーティングプレートに適切に接着したら、増殖培地を無血清培地に交換し、そのプレートを洗浄し、残った接着細胞をトリパンブルー(Fisher)除去でアッセイした。剥離した細胞は、ほとんどがトリパンブルー陽性であり、再びプレーティングしても接着できなかった。タプシガルジン感受性アッセイのために、細胞培養を、0.25〜3μMの薬剤濃度で3〜24時間処理した。
【0206】
免疫組織化学及びホールマウント原位置ハイブリッド形成
脱落膜膨張(Decidual swellings)を、子宮筋組織から単離し、4℃で一晩、4%パラホルムアルデヒド内で固定した。この組織をパラフィンに包埋し、5〜7μmで切片化し、Superfront slides(Fisher)上に載せた。免疫組織化学法のために、このスライドを脱蝋して、H2O2で固定し、10mMクエン酸(pH6.0)で10分間煮沸し、9G10(Neomarkers)での抗体検出の前に室温に冷却した。H&E染色のために、スライドは脱蝋し、再水和し、Harris’ hematoxylin(Sigma)で4分間染色し、水道水できれいになるまで洗浄し、脱色するために1%酸アルコール(70%エタノールに1% HCl)に浸し、流水で洗浄し、100%エタノールに浸した。次にスライドを3〜4回、エオシン−phloxine(Fisher)に浸し、脱水し、キシレン(Fisher)できれいにし、載せた。脾細胞のFACS解析を、標準的な手順を用いて、蛍光抗−IgM及び抗−CD3モノクローナル抗体(Pharmingen)で実行した。
【0207】
ホールマウント原位置ハイブリッド形成のために、胚(E6.5及びE7.5)を新鮮に単離された脱落膜から解体し、45分間冷4%パラホルムアルデヒドで固定し、[44]に記載されたように処理した。簡潔には、胚を再水和させ、H2O2で脱色し、プロテインキナーゼKで透過性にし、再固定した。ホウ化水素ナトリウムで処理した後、胚を洗浄し、63℃で1時間、プレハイブリダイズした。DIG標識プローブ(2μg/ml)(Company for DIG)を、添加し、ハイブリダイゼーションを63℃で20分間、実行した。厳密性が増加した時点での洗浄後、プローブ結合をPurple AP(Roche)で検出した。胚を、T−100 タングステンフィルム(Kodak)を用いた精密顕微鏡を通じて写真を撮った。
【0208】
Brachyury(T)を除く全てのリボプローブは、pBluescriptIIKS+(Stratagene)内にクローニングされたcDNAからT3 RNA ポリメラーゼ(Promega)を用いて合成された。brachyury鋳型コンストラクトはDr.Hermann(Max−Planck−Institut fur Entwicklungsbiologie,Tubingen,Germany))から寄贈され、T7 RNAポリメラーゼ(Promega)で転写された。
【0209】
LPSアッセイ
新鮮に単離されホモジナイズされたマウス脾臓からのB細胞を、取り扱い説明書に従って、Lympholyte M(Accurate Chemical)で精製した。細胞は、106細胞当たり5μg LPS(E.coli血清型0127:B8、Sigma)の非存在或いは存在下、200μl培地中に、3つ組で96ウェルプレートに播種した。前記細胞を、72時間、37℃、7.5% CO2でインキュベートし、その上清を、アルカリ性ホスファターゼ標識抗−マウスIgG(Southern Biotechnology Associates Clonotyping System)と、検出用に基質バッファー(500ml中に0.24MMgCl2*6H2O、0.9Mジエタノールアミン、pH9.8)中の1mg/mlPNPP基質を用いて、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によって解析した。
【0210】
RNA及びcDNA調整
総RNAを調整するために、全体胚を100μl Trizol(Sigma)中でピペッティングすることによってホモジナイズした。10μgグリコゲンを担体として添加し、RNAをフェノール/クロロホルムで抽出し、エタノールで沈殿させた。他の胚からのRNAは、Qiagen RNeasy Mini kit(Qiagen)を用いて調整した。一般的に、各RNAサンプルの半分は、cDNA調整のために用いた。ランダムプライマー(Gibco若しくはInvitrogen)及びdNTP混合物を添加し、5分間、65℃でインキュベートし、氷上ですぐに冷やした。反応バッファーを添加した後、Placental RNase阻害剤(Roche)を添加し、50分間42℃でSuperscript II酵素(Invitrogen)、若しくは1時間37℃でSensiscript逆転写酵素(Qiagen)を用いて第1鎖が合成された。次に、RNA鋳型を除去するためにRNase Hを用い、PCR解析の干渉を最小限にした。
【0211】
結果
マウスgrp94遺伝子の標的化
GRP94は、多細胞生物にのみ発見され、細胞増殖には必要なく、限られた基質範囲を有するので、このシャペロンは、分泌経路においてほとんどのタンパク質の折り畳みには恐らく必要ない。従って、本発明者らは、標的化マウスgrp94の切断は、破局的な成長欠陥というよりも定義された表現型を生むであろうと仮定した。
【0212】
マウスgrp94遺伝子は、10番染色体に位置し[14]、129C1ES細胞系統内で標的化され(図8A)、6つの正確に標的化されたクローン(ガンシクロビル及びG418両方に耐性)を選択し、偽妊娠C57B1/6野生型(WT)雌マウスからの胚盤胞内に注入した。2つの独立した系統から75%以上の表皮色キメラ化を示した7匹の雌を次に、WT C57B1/6雌と交配させ、結果生じた子孫の遺伝子型を同定した。ヘテロ接合体を交雑し、さらに同様に、12世代に亘ってWT C57B1/6バックグラウンドと戻し交雑した。
【0213】
この標的化コンストラクトから産生される予想されたタンパク質は、成熟GRP94タンパク質の61アミノ酸(781の中から)、さらにベクター由来の3つの付加的アミノ酸を含む。この断片は、タンパク質−ペプチド結合及びヌクレオチド結合の既知活性に対しては不十分である[15〜17]。1つのWT及び2つのヘテロ接合体F1マウスから単離したゲノムDNAでのサザンブロット解析を、標的コンストラクト外部の3’プローブを用いて行い、この結果は図8Bに示した。RT−PCR解析は、GRP94の非存在下での−/−胚からの転写を示すことによって、この発見の解釈を拡大した(図4A)。GRP94タンパク質の非存在は、アミノ酸266位から347位のあいだのエピトープを認識する9G10モノクローナル抗−GRP94を用いて、胚性組織と細胞の免疫ブロットによって検証した。
【0214】
grp94のホモ接合体欠損は胚性致死表現型を有する
表2に示したように、生存可能なgrp94−/−マウスは、ヘテロ接合体間の交雑による900以上の子孫からは得られなかった。ヘテロ接合体生産マウスの割合は、55.4%であり、これは−/−マウスの非存在において予想された66.7%ではなかった。従って、ホモ接合体変異死亡率にくわえて、ノックアウトアリルであり、まだ研究されていない表現型の歪んだ遺伝が存在することを示している。
【0215】
胚性死亡率の段階を決定するために、本発明者らは、胚形成の異なる段階で胚をばらばらにした。E14.5及びE10.5の時点で、−/−胚は見出せず、E8.5の時点でさえ、ごく少数の変異胚が同定されたのみである(表2)。E8.5〜E9.5の間で、胚の再吸収は共通のことであった。しかしながら、本発明者らは、E5.5〜E7.5の間で、予想された1:2:1メンデル比に一致する遺伝子型分配を発見した。
【0216】
発生の卵筒段階まで、grp94−/−胚は、grp94+/+胚と形態学的に区別不可能である(図9A〜D)。GRP94タンパク質発現は、WT胚を通じて容易に検出された(図9C)。1日後、grp94−/−胚は、WT胚と比べてまだほぼ区別不可能であった(図9E〜F)。しかしながら、E7.0〜7.5では、grp94−/−胚とgrp94+/+胚の間に劇的な違いが観察された(図9I、J)。それらは適切に伸長しないので、遠位チップの周りの卵黄嚢には余分なスペースがあった。羊膜若しくは漿膜も形成されず、原始羊膜溝も明らかでなかった(図9J)。胚盤葉上層と胚外領域との間の接合部は、WT胚のものよりも明白ではなく、内胚葉細胞層は異常に現れた(図9K)この段階の正常の胚においては、内胚葉の胚外領域は、頂端空胞(apical vacuoles)及び微絨毛を有する立方状/円柱状細胞で構成されており、前記接合部の下に位置する内胚葉層の胚領域は、ほとんど扁平上皮細胞からなっていた。対照的に、grp94−/−胚の内胚葉は、胚領域及び胚外領域の両方が立方状細胞で構成されていた(図9L、黒矢印)。ライヘルト膜に結合した頭頂部内胚葉は、−/−胚において正常に見えた(図9L)。
【0217】
注目すべきこととしては、−/−胚は、中胚葉の形成を開始した時に原始外胚葉細胞の移入を時々示すのみであり、正常のものは明らかに3つの胚葉を産生したけれども、2つの胚葉のみがこれらの胚において現れた(図9I〜L)。
【0218】
【表4】
【0219】
grp94−/−発生における欠損は原腸形成の時に生じる
発生における欠損がgrp94−/−胚において明らかになった時点で、正常胚は、原腸形成を開始していた。この過程の間、内臓内胚葉細胞は置換され、全3胚葉が胚盤葉上層から発生する。前記内臓内胚葉細胞は、卵黄嚢及び胚外領域の一部に寄与するが、それにも関わらず体軸の形成において役割を担っていることが示された[19、20]。GRP94に対する免疫化学染色によって、GRP94はE5.5(図10A)若しくはE6.5(図10B)の全ての細胞において発現されていることが示された。しかしながら、染色は均一ではなく、他の内胚葉或いは外胚葉細胞よりもGRPを発現した内臓内胚葉細胞のクラスターが明らかに存在した(図10)。重要なこととしては、胚本来及び胚外組織における発現レベルが、周囲の母系組織と比較して著しく異ならないことである。
【0220】
原腸形成の進行は、細胞運命特定化に関連した転写因子の発現によって一般的に観察されており、従って、本発明者らは、grp94−/−胚をin situ(原位置)ハイブリダイゼーション及び半定量性RT−PCRによって解析した。正常胚においてE4.5の時点ですでに発現が検出される[21]転写因子であるOct4は、E6.5の時点で胚盤葉上層の至るところで発現されており、翌日を超えると、原条内に徐々に集結してくる(図11A)。E7.5−/−胚において、Oct4転写物の分配は、E6.5 WT胚のものと似ている(図11A)。Otx2はホメオボックス転写因子であり、原腸形成前の胚性外胚葉及び内臓内胚葉に偏在的に発現し、原条伸長[45]のように、E6.5〜7.5の間に胚の前領域に徐々に限定されるものである。E7.5のgrp94−/−胚において、変異胚の全外胚葉に発現したOtx2は、E6.5のWT胚におけるその分配と同じである。これら両方のマーカーは、grp94−/−胚はE6.5段階以降は進行しないという結論を分子レベルで確証させるものである。
【0221】
前記胚の異なる領域が特異的に影響を受けたかどうかを決定するために、本発明者らは、前内臓内胚葉(AVE)に対する多くのマーカーの発現をテストした。E6.5〜7.5の時点でAVEに限定された[22]lim−1の発現は、発現のドメインが同じ齢のWT胚と同じくらい近くに伸長しなかったけれども、変異胚においても適切に正常に見えた(図11G)。同様に、第2のAVEマーカーであるHex[23]は、変異胚において前側に発現した(データは示さず)。機能的内蔵内胚葉は、適切な原腸形成にとって重大であるため[24]、いくつかの他のAVEマーカーをRT−PCRによってテストした。トランスサイレチン、トランスフェリン、αフェトプロテイン、アポリポタンパク質A1及びE、及びレチノール結合タンパク質の転写物は、WT及び変異胚において全て同等に発現していた(図12D)。結論としては、このマーカー解析によって、AVE形成体の形成である少なくとも軸性分化プログラムの一部は、GRP94における欠損によって破壊されるものではないと示唆された。
【0222】
調査された別の領域は、胚外外胚葉であった。正常及び変異胚の両方は、E6.5の胚外外胚葉においてマーカーBmp4[46]の発現を示した(図11E)。E7.5のgrp94−/−胚は、近接した胚外外胚葉にのみBmp4を発現したが、WT胚においては胚外溝を裏打ちする胚外中胚葉において発現していた(図11F)。これは、胚外外胚葉に対して明らかな影響を及ぼさず、E6.5の分化停止と再び一致していた。
【0223】
対照的に、初期中胚葉マーカー[47]であるbrachyury(T)の発現は、著しく影響を及ぼした。E7.5のgrp94−/−胚は、in situハイブリダイゼーションにおいて、Tアンチセンスプローブに対してネガティブ(陰性)であったが、正常同腹仔brachyuryは原条において発現していた(図11C)。brachyuryの非存在或いは低発現は、RT−PCRによっても確認された(図12)。brachyury特異的プライマーを用いた個々のE7.5胚からの転写物の増幅は、grp94−/−サンプルにおいて限界に近いbrachyuryシグナルのみを示したが、hgprt転写物は、容易に増幅された。しかしながら、第2のT−ボックスタンパク質であるEomesは、原腸形成、及びbrachyuryよりも初期段階での中胚葉誘導に関与し[25]、−/−胚において発現していた。in situハイブリダイゼーションの全マウントによって、eomesは、WTのE7.5胚の原条及び胚外領域において最初に発現されている[26]。変異胚において、eomesの発現ドメインは、原条が発達するために発現される領域を含む、卵筒の大部分を有していた(図11D)。E7.5のgrp94−/−胚におけるeomesの発現パターンは、E6.5のWT胚のものと非常に類似していた[26]。この結果と一致して、RT−PCR解析は、eomes転写物は、WTのE7.5胚で見られた範囲内の中間レベルで、変異胚において容易に検出された(図12C)。WT胚における変異性は、E6.5〜E7.5の間のeomesの徐々に限定される発現と一致していた[26]。最後に、後期中胚葉マーカーであるpMesogenin1[27]は、RT−PCRによって検出されなかった(データは示さず、N=2変異胚)。RT−PCR、ハイブリダイゼーション解析、及び形態学的データを総合すると、grp94−/−発生における欠損は、原条が発生する初期の原腸形成段階であった。さらに、GRP94活性は、eomes発現の初期ウェーブと、brachyury発現の正常時間との間に必要とされるように見られた。
【0224】
生産へテロ接合体は正常である
生産へテロ接合体とWTマウスの間に表現型の違いは観察されなかった。外見、体重、寿命、及び繁殖性は、全て正常であった(データは示さず)。これが残存アリルからのGRP94発現の上方制御に起因するかどうかを調査するために、grp94+/+、及びgrp94+/−マウスの肝臓及び脾臓から総タンパク質を単離し、GRP94発現を免疫ブロッティングによって定量化した。図13Aに示したように、ヘテロ接合体組織におけるGRP94の量は、WTレベルの約50%近くであり、これはWTありるからの発現の上方制御がないことを意味している。さらに、3つの異なる主要なERシャペロンのレベルを定量化した。BiP、カルネキシン、及びERp72のレベルは、ヘテロ接合体及びWT動物において一致しており(S.Vogen and T.Gidalevitz、データは示さず)、これはこれらのERシャペロンはGRP94の発現の減少を補わなかったことを示している。本発明者らは、GRP94の正常の発現は、正常マウス生理機能に対しては半分で十分であると結論付けた。
【0225】
GRP94は休止Bリンパ球の免疫グロブリン(Ig)分泌プラズマ細胞への分化の間に上方制御されるので[28、29]、本発明者らは、半分の量のGRP94がB細胞分化やIg分泌に及ぼす影響を検討した。LPSでの刺激前後の、表面Ig発現に対するFACSによって、及びIg分泌に対するELISAによって、脾臓細胞を調査した。図13Bに示したように、ex vivoのLPS刺激の3日前後での表面Ig発現のレベルにおける違いはなかった。T細胞及びB細胞の数も、両方の遺伝子型のマウスにおいて同じだった。第3に、grp94+/−、及びgrp94+/+マウス脾細胞によって分泌されたIgMのレベルにおいても、著しい違いを検出できなった(図13C)。従って、正常レベルの50%のGRP94は、ERシャペロンの強大な上方制御を伴う生理反応である、Ig分泌を補助するには十分であった。
【0226】
異なるストレス条件下でのGRP94の分化要求
grp94−/−胚で見られたような初期胚致死表現型は、例えば、部分的な細胞周期の阻止などの遅い増殖によって引き起こされる。別の可能性では、変異体はその細胞が母系由来GRP94の十分なレベルを有する限りのみ生存することである。これらの可能性を解決するために、本発明者らは、移植前E3.5胚盤胞からES細胞株を派生させた。ES細胞クローンのマッチングペアは、grp94−/−及び+/−同腹仔胚〜樹立した。grp94−/−ES細胞(14.1と呼ばれるクローン)は、+/+ESクローン(42.1と呼ばれる)と同様に、複数世代に亘って培養増殖可能であった(図14A)。従って、GRP94は、細胞増殖と分裂それ自体に対しては必須ではない。さらに、この観察によって、初期胚形成の間の母系GRP94の希釈が原因で、変異胚の発生停止は単純なものではないと証明された。
【0227】
GRP94はよく知られたストレスタンパク質であるので、本発明者らは、以下の3つの細胞性ストレス条件:低グルコースでの増殖、血清使用中止に対する反応、及びカルシウム恒常性の摂動、に対するGRP94欠損細胞の感受性を検討した。驚くべくことに、grp94−/−細胞は、正常グルコースレベルの2.5%まで下がったとしても、低グルコース張力下の正常細胞と同様に増殖した(図14B)。従って、グルコース欠乏によるその転写制御にも関わらず、GRP94は、このストレス条件下での細胞生存には重要ではない。一方、grp94−/−細胞は、血清欠乏は許容しない。血清の使用中止後3時間いないに、25%の変異細胞は死滅し、約20%のみが血清なしで24時間後まで生存したが、一方、WT細胞の細胞死は48時間後でさえさほどなかった(図14C)。GRP欠損細胞も、ER Ca++−ATPaseの阻害剤である、タプシガルジンとの処理に対して感受性を有しており[30]、300nMタプシガルジンの存在下で7時間後に広範囲の細胞死が生じた(図14D)。さらに、WT細胞は、1mMEGTAの存在下で5日間増殖できたが、−/−細胞は、そのようなCa++−キレート化条件下では増殖できなかった(図14E〜F)。これらの研究によって、GRP94のストレスタンパク質としての要求は、GRP94のシャペロンとしての要求と同様に選択的であり、いくつかのストレス反応には重要であるが、全てにではなく、その限定基質特性を恐らく反映している。
【0228】
図15は、GRP94−欠損細胞が血清使用中止に対して感受性を有していることを示したものである。ES細胞培養を、正常増殖培地から無血清培地へ移行し、生細胞を示した時間で測定した。示されたように、野生型ES細胞は、このストレスに対して少なくとも4日間生存したが、GRP94−/−細胞は、すぐ死滅した。図16は、GRP94のN末端ドメインが樹状細胞によって取り込まれることを示したものである。GRP94のN末端ドメイン(N1−355或いはN34−355)は、40℃で精製マウス樹状細胞と結合し、37℃での加熱によってエンドソーム小胞内へ内部移行した。前記タンパク質は、テキサスレッド−ストレプトアビジン(Texas−red−Streptavidin)のそれらのC末端ビオチン化Lys370への結合によって視覚化した。結合アッセイは、右の顕微鏡写真に示され、N34−355の樹状細胞への結合を定量化した。前記タンパク質は、単独或いはアルファ2マクログロブリン(CD91受容体の阻害剤)の存在下、若しくはフコイジン(スカベンジャー受容体Aの阻害剤)の存在下で、4℃、1時間で前記細胞への結合を可能にした。インキュベーション後、前記細胞を洗浄し、溶解し、免疫ブロットによって解析した。結合度を蛍光体イメージングによって定量化した。
【0229】
図17に示したように、GRP94ノックアウト(KO)細胞は、全ての3胚葉から細胞タイプへ分化できた。GRP94−/−或いはGRP94+/−細胞は、懸滴内に凝集され胚様体を形成し、その胚様体は、次に培地中のDMSO或いはレチノイン酸の含有によって様々な細胞タイプへの分化が誘導される。ニューロン(神経細胞:左のパネル)は、その形態によって、及び中間体フィラメントタンパク質に対するニューロン特異的抗体で染色によって同定される。肝細胞(真ん中のパネル)は、インドシアニングリーン染色によって、及びマーカータンパク質のPCR増幅によって同定される。脂肪細胞(右のパネル)は、その脂質顆粒のオイルレッドO(Oil Red O)染色によって同定される。
【0230】
図18は、GRP94欠損細胞は、筋肉へは分化しないことを示したものである。+/+ES細胞はミオシン重鎖ポジティブ細胞(上パネル)へ容易に分化したが、−/−ES細胞は、骨格筋細胞を生じることはできなかった(左、下)。
【0231】
図19は、ノックアウト(KO)胚はおよそE6.5で停止したことを示す(A〜H)WT(上パネル)及び変異体(下パネル)胚の組織学的解析である。妊娠E5.5、6.5、若しくは7.5日目の胚を固定し、切片化し、ヘマトキシリンとエオシンとで染色した。E7.5の野生型胚において空洞、羊膜、及び絨毛膜の形成、及び左−右及び背−腹非対称軸の形成に着目すべきであるが、一方、変異胚ではこれらの発生特徴のどれも現れなかった。
【0232】
議論
多くの分子シャペロンは、豊富に且つ偏在的に発現している。従って、そのようなシャペロンの1つであるGRP94の消失によって、母系GRP94が閾値レベルに到達したらすぐに細胞レベルの破局的な増殖欠損を生じる可能性は十分にある。代わりに、その機能は、重複性を有し、容易に別のシャペロンによって満たされるであろう。従って、ここに記載されたgrp94の標的とした破壊の表現型は、驚くべくその特異性を有している。胚致死によって、grp94はマウス発生にとって重要な遺伝子であることが示された。さらに、その欠損の綿密な解析によって、GRP94に非常に依存した第1段階としては、原腸形成と中胚葉誘導であることが示された。これは、GRP94のサイトゾルファミリーメンバーであるHSP90βを必要とする第1段階よりも早く、その消失によって、胎盤発生の欠陥が原因でマウスの発生がE9.0〜9.5で停止する[31]。GRP94の必要性は、別のCa++−結合ERシャペロンであるカルレティキュリンよりも早く、その消失によって心臓発生の欠陥を引き起こす[32]。
【0233】
grp94−/−胚の発生停止は、母系遺伝的タンパク質の希釈に起因するものではなく、胚に対する自律性のもののようである。GRP94は、その前にはないが、早ければE4.5から移植後胚の至る所で発現されていた([Li,1991 #1038]及び本発明者らによる研究)。さらに重要なことは、GRP94欠損細胞は、分裂する能力を有し、培養中で分化する能力さえも有しており、これは、GRp94が細胞増殖それ自体にとって重要でないことを示している。この結論は、Randow and Seed(GRP94欠損前駆B細胞株を用いた)[12]、及びIshifuroら(天然由来シロイヌナズナヌル変異体を用いた)[13]による観察によって拡大される。従って、発生停止の正確な段階に関する本発明者らの解釈としては、GRP94の活性は、胚形成の間の重要なチェックポイントのいくつかの局面の適切な実行にとって重要であるというものである。
【0234】
GRP94の非存在下で、原条の形成及びその結果生じる中胚葉の誘導なしに、胚発生は卵筒段階で停止した。いくつかの中胚葉マーカー、特に転写因子であるbrachyury及びeomesoderminの転写物の解析によって、分化プログラムはeomes及びbrachyuryの発現の間のどこかで停止されることが示唆された。内臓内胚葉、及びAVEは、Lim−1及びHex転写物を局在化することによって、及びトランスフェリン受容体、レチノール結合タンパク質、及びいくつかの他のマーカーの転写物を定量化することによって判断されたように、GRP94欠損胚においても正常に発生した。それにも関わらず、前領域の分化は完全に正常という訳ではなかった。第1に、Lim−1及びHexの発現ドメインは、WT胚のものより小さく、より局在化しており、胚の全周縁を伸ばしていない。第2に、胚周辺の内胚葉細胞は、扁平上皮になるというよりも立方状を適切に維持している。主要な原条欠陥に対するこれらの欠陥の割合は、不明である。
【0235】
発生欠陥は、培養grp94−/−ES細胞の表現型にも反映される。これらの細胞は、血清使用中止などのストレスに対して、及びカルシウム恒常性の崩壊に対してより感受性を有するが、驚くことに、WT ES細胞よりも低グルコース張力に対する感受性は有していない。これらの生化学的表現型は、ストレスタンパク質としてその役割においてでさえ、GRP94の選択性を強調する。さらに、grp94−/−ES細胞は、培養において分化する能力を有しており、これにより、全3胚葉に由来した多系統を生じるが、心臓細胞若しくは骨格筋細胞を生じることはできない。さらにこれにより、GRP94の必要性におけるいくつかの特異性が示された(S.Wanderling,O.Ostrovsky and Y.Argon,manuscript in preparation)。
【0236】
GRP94の非存在に起因する正確な分子欠損はまだ定義されていないが、このシャペロンの欠乏によって、発生的に重要なクライアントタンパク質の成熟に対してGRP94が非常に必要とされることを明らかにすると容易に提案できるように思われる。GRP94はERシャペロンであるので、推定上のクライアントは、分泌型若しくは膜結合性であってもよく、高度な誘導性過程である中胚葉形成に必要とされる細胞−細胞相互作用に関与しているようである。注目すべきこととして、mesdマウスにおける中胚葉誘導欠陥は、LRP−5/6膜受容体と相互作用する能力を持ったER常在性タンパク質における欠損に起因しているものとして最近同定された[33]。GRP94誘導性胚欠損は、同様なパラダイムに起因するものである。GRP94クライアントタンパク質を同定することは、GRP94の特異性に関する構造的情報がないのでより難しくなる。少数の基質のみが確実に同定されており、その中の少数が共通のモチーフの定義を妨げる。初期発生において潜在的な機能を有する唯一の既知クライアントタンパク質は、トール様受容体1、2、及び4である。注目すべきは、トールはそもそも、ショウジョウバエ胚において、軸形成において非常に重要であるものとして同定された[34]。同様な機能は、その後アフリカツメガエル胚においても同定された[35]。しかしながら、高等真核生物において、複数のトール様受容体が存在し、これまで初期哺乳類発生における機能を示されたことはなかった。GRP94が、複数トール様受容体に共通する構造的モチーフを認識するならば、全ての折り畳みはこのシャペロンの非存在下で損なわれ、軸形成における欠陥として潜在的に現れる。
【0237】
反対に、多くの他のタンパク質の遺伝的消失によって、原条形成及び原腸形成時のその重要性が確認された。これらは、線維芽細胞成長因子受容体、アクチビン受容体、骨形成受容体、及びそれらの各リガンドのいくつかを含む[36][37〜40]。これらのタンパク質は、膜発現或いは分泌のためのGRP94への依存性という観点で研究されなかったが、小胞体におけるその生合成に起因して全て、潜在的なクライアントである。
【0238】
要約すると、本発明者らは、1若しくはそれ以上の発生的に重要なタンパク質のER成熟は、GRP94の活性に大きく依存していると仮定した。この分子シャペロンの非存在下で、基質は適切に折り畳まれず、細胞表面へ輸送するためのER質調節機構によって放出されなかった。言い換えると、これは重大なリガンド−受容体相互作用を阻害しており、中胚葉誘導で必要とされる特定の細胞間相互作用を妨げる。
【0239】
以下の、1)Grp94は、中胚葉誘導に対する哺乳類発生の間必要とされる、2)Grp94は、筋肉細胞のin vitro分化に必要とされるが、他の系統の分化には必要ではない、3)Grp94は、血清が欠乏した場合、生存因子の分泌を支持することによって、胚性幹細胞をアポトーシスから保護する、4)Grp94のペプチド結合部位は、そのN末端ヌクレオチド結合ドメインに位置している、5)His125は、ペプチド結合にとって重要であり、結合ペプチドと接触する、及び6)ペプチド結合にとって十分な同じ断片は結合するにも十分であり、樹状細胞によって内部移行される、という結論は、前述の結果に基づいてなされたものである。
【0240】
【表5】
【0241】
【表6】
【0242】
【表7】
【0243】
【表8】
【実施例3】
【0244】
ペプチドを含む腫瘍保護薬剤はGRP94タンパク質に結合できる
この実施例は、腫瘍抗原を提示するためのペプチドに結合する分子シャペロンGRP94を用いることによって、腫瘍に反応した免疫システムの調節について説明する。本発明は、GRP94のペプチド特異性は、それを腫瘍保護薬剤として特に有効にするという仮説に基づいている。従って、本発明は、分子シャペロンGRP94のペプチド結合活性に基づいた腫瘍ワクチンを提供する。1観点において、表3に提供されたようなペプチド配列は、GRP94或いはHSP90ミニシャペロンと複合体を形成する。複合体形成に続いて、前記複合体を有する組成物の有効量は、癌患者へ投与され、腫瘍特異的CTL反応を刺激する。代わりに、腫瘍関連ペプチドは、治療される患者から単離され、ここに記載されたGRP94及びHSP90ミニシャペロンと複合体を形成される。両方のアプローチは、免疫調節腫瘍減少若しくは拒絶を刺激しなくてはならない。同様なアプローチは、ウイルス特異的ペプチド、及び本発明のミニシャペロンからなる複合体を用いて、ウイルス生感染の治療及び根絶のために用いられ得る。
【0245】
組換えタンパク質(GRP94由来或いはHSP90由来)は、典型的には、結合率が遅いことに起因するペプチドの膨大なモル濃度過剰で、合成ペプチドとインキュベートした。4マイクロモルのGRP94は、800マイクロモルの合成バインダーペプチドと飽和させた。会合は、10分間、50℃でのタンパク質処理によって増強され、この負荷は非常に効率的であるので、タンパク質の85%までペプチドに負荷され得る。
【0246】
【表9】
【0247】
新しく発明されたペプチド結合アッセイを用いて、ペプチドライブラリーを、組換えGRP94を用いてスクリーニングし、高親和性及び低親和性結合ペプチドを同定した。バインダーペプチドの最適な長さ及び他の特性は、順序を変えられた(permutated)合成配列のライブラリーを用いることで推定される。次にコンセンサスバインダー配列は、大きな複雑性ファージディスプレイ(complexity phase display)ライブラリーを選別することによって決定された。次にバインダーペプチドは、他のシャペロンによって選択されたペプチド、最も重要なのはMHCクラスI及びクラスII結合ペプチドと比較された。これらの実験は、GRP94−ペプチド提示経路の選択性を決定するのを助ける。
【0248】
実施例1に記載されたように、GRP94のペプチド結合部位は、生化学及び部位直接的変異原性の組み合わせによってマッピングされ、そのデータは、前記シャペロンのコンピュータ構造モデルに合致する。この分子をさらに特徴付けるために、本発明者らは、改変されたペプチドへの親和性及び/若しくは特異性を有するGRP94バージョンを研究し、組織培養内で、次に特異的キラーT細胞反応を増強されたマウスモデルにおいて、GRP94の操作されたバージョンをテストした。高親和性バインダーペプチドは、それらがエンドサイトーシスの間でもGRP94への結合を維持したため、より提示されることが可能である。代わりに、GRP94に対して中程度親和性を有するペプチドは、それらがMHCクラスIにより効率的に伝達されるため、選択的に提示される。
【0249】
抗原提示細胞によって取り込まれ、T細胞を刺激する最小GRP94誘導体は、ここに記載されている。様々なマクロファージ及び樹状細胞(培養株及びex vivo由来)は、GRP94由来のペプチド負荷組換えコンストラクトとインキュベートされ、前記ペプチドを提示するそれらの能力は、培養でのT細胞反応を測定することによってテストされた。そのようなミニシャペロンは、完全長シャペロンの他の活性を含まないようであり、従って、腫瘍ワクチンとしてより適している。
【0250】
T細胞認識を可能にし、刺激する腫瘍特異的ペプチド人工的に増加する1つの方法は、図20に示されたように、タンパク質GRP94を有する複合体としてそのようなペプチドを導入することである。GRP94は偏在性タンパク質であり、腫瘍細胞内の変異ペプチドを含むペプチドに結合する。Srivastava研究室による優れた研究によって、腫瘍ペプチドに結合したGRP94は、ワクチン接種したマウスに使用し、対照マウスと比較して、腫瘍と戦う場合に10〜200倍T細胞の反応が優れていた(Blachere,N.E.,et al.,Heat shock protein−peptide complexs,reconstituted in vitro,elicit peputid−specific cytotoxic T lymphocyte response and tumor immunity.J.Exp.Med.,1997.186:1315〜1322を参照のこと)。GRP94注入マウスによる腫瘍拒絶の頻度は、優れていた。このアプローチは、現在臨床試験でテストされている。この大きな利点は、自己タンパク質を持ちいることであり、ペプチド抗原を運搬する手段として、著しい免疫反応もない。
【0251】
少なくとも2つの薬剤がGRP94のペプチド結合活性を阻害すると以前報告された(Schulte,T.W.,et al.,Interaction of radicicol with members of the heat shock protein 90 family of molecular chaperones.Mol.Endocrinol.,1999.13:1435〜1448)。これらの研究は、タンパク質配列の最初の200アミノ酸に結合するペプチドの部位を局在化した(Vogen,S.M.,et al.,Radicicol−sensitive peputide binding to the N−terminal portion of GRP94.J.Bio.Chem.2002.277:40742〜40750を参照のこと)。組換えタンパク質を産生する能力を用いて、本発明者らは、GRP94における異なる部位に対するペプチド結合及び阻害剤結合マップを示し、重要なこととしては、このシャペロンのペプチド特異性は、Vogenらによって開示されたように、BiP若しくはHSP70などの他のものの特異性とは異なっていると示した。最後に、実施例2に記載された本発明のノックアウトマウス胚由来のGRP94欠損細胞は、前記タンパク質の操作されたバージョンの活性をテストするための宿主として用いられ得る。
【0252】
図20に記載したように、GRP94結合ペプチドがマクロファージ及び/若しくは樹状細胞を介して、T細胞に間接的に提示されることはすでに確認されている。これらの細胞は、注入されたGRP94を取り込み(Binder et al.によって記載されたようなCD91依存性エンドサイトーシス、若しくはBerwin,B.,et al.(CD91−Independent Cross−Presentation of GRP94(gp94)−Associated Peptides.J.Immunol,2002.168:4282〜4286)に記載されたような別の経路を介して)、腫瘍ペプチドをGRP94からMHCクラスIへ、いくつかのill定義経路によって伝達され、次に、T細胞刺激のために、前記ペプチドをクラスI分子との複合体で表面に提示する(Berwin,B.,et al.,Transfer of GRP94(G¥p94)−Associated Peptides onto Endocomal MHC Class I Molecules.Traffic,2002.3:358〜366)。
【0253】
GRP94結合ペプチドのスペクトルを定義するために、本発明者らは、ライブラリーアプローチを用いることを計画した。本発明者らは、組換えGRP94バージョンを用いた96ウェルプレートフォーマット結合アッセイを確立し、これにより図21に示されたように、バインダーペプチドの最適な特性を決定可能になった。本発明者らは、一番知られたバインダーペプチドの化学的に合成されたバージョンのライブラリーを選択し(vsv8:RGYVYQGL;ペプチドA:KRQIYTDLEMNRLGK)、ピン或いはプレートフォーマットのニロトセルロースにくっ付けた。前記ライブラリーは、2つのペプチド及び合成アミノ酸置換の各末端からの進行性切断(truncations)からなる。結合の特異性は、Vogenらによって記載されたように、阻害剤であるラディシコールへの感受性によって確認された。この方法において、本発明者らは、結合するために最適であり、重要な側鎖に対して必要である長さと疎水性を決定した。このアプローチは、合成ペプチド能力及びroboticアッセイシステムがこのスクリーンに利用可能になるように、さらに強化された。
【0254】
最適な長さが分かったので、本発明者らは、すてに保有していたライブラリーを用いてペプチドファージディスプレイライブラリーを使用した。ファージディスプレイGRP94結合ペプチドは、コンセンサス配列を派生させるために、単離され、配列決定した。本発明者らのアッセイは定量的であるので、結果として生じたペプチドは、ランク付けされた。ヒトゲノムデータベースは、これらのペプチドがヒトタンパク質中にどのくらいの頻度で、及びどの種類のタンパク質が生じるかを解明するために使用した。このアプローチの重要な組成物は、T細胞を刺激すると知られているペプチドを有するGRP94結合ペプチドを比較した。本発明者らは、この目的のために、そのようなペプチドのコレクション、及びそれに対応する各T細胞クローン若しくはハイブリドーマを有している。GRP94結合ペプチドの大部分が、T細胞によって認識されるペプチドと構造的に異なる場合、腫瘍に対して免疫化するこの方法は、広く適用可能とならないであろう。しかしながら、GRP94結合ペプチドとして知られた小サブセットの検討によって、これはこのケースには当てはまらず、T細胞によって認識されるペプチドと相当な同一性を有していることが示唆された。
【0255】
従って、GRP94の最小ペプチド結合ドメインは、アミノ酸34〜221である。上と同様なアッセイを用いて、本発明者らは、平均ヒット率が配列当たり1〜2変異となるようにこの配列を無作為に変異させ、既知ペプチドVSV8に対する親和性が減少した組換えタンパク質を選択した。これらは、ペプチド結合に影響を及ぼす全てのアミノ酸を決定するために配列決定した。部位直接的変異原性を用いた予備データによって、Trp202及びHis136はペプチド結合に関与すると示唆され、結合部位をマッピングするための本アプローチの実行可能性を検証した。
【0256】
平行して、本発明者らは、T細胞反応の増強においてより効果的である"設計バージョン"を産生するために、GRP94を、ペプチドとよく結合するように及び/若しくは天然由来タンパク質をは異なるように操作した。低レベルのペプチド−GRP94が投与された場合でも、ペプチド親和性が増加した変異体は、免疫システムに感作した。代わりに、より高い親和性は、マクロファージ/樹状細胞環境においてペプチドからのGRP94の解離がより難しくなったため、有害となった。従って、本発明者らは、改変されたペプチド認識を与える変異体をスクリーニングした。
【0257】
これらの変異体が細胞−フリーペプチド結合アッセイで特徴付けられたので、本発明者らは、まず、(ここに記載されたように)培養抗原提示細胞を用い、次にTamuraら、Basu ら、Sutoら、及びBlachereらによる引用文献に記載されたように、マウスの免疫化を用いて、これらをT細胞へのペプチド提示に関してテストした。
【0258】
図22は、野生型GRP94の核酸及びアミノ酸配列を提供するものである。
【0259】
【表10】
【0260】
本発明は詳細に記載され、それらの特定の実施例を参照にしているが、様々な変更及び修飾が、それらの要旨や範囲から逸脱することなくなされることが、当業者には理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0261】
【図1A】図1は、GRP94の最小部分を示したものであり、これでペプチド結合は十分である。図1Aは、用いられた組換えタンパク質の図式である。「15」で用いられたタンパク質であるN1−355は、GRP94の最初の355アミノ酸を含み、成熟タンパク質のDDEVD N−末端から開始している。N34−355は、細菌内で発現したバージョンであり、成熟GRP94の最初の33アミノ酸が欠損している。斜線部分はN−末端ドメインであり、ヌクレオチド/ゲルダナマイシン/ラディシコール結合部位を含む。濃い灰色の部分は、N−末端ドメインに属する少なくとも1つの活性を必要とする酸性度メインである。薄い灰色の部分は、His6タグである。N34−355において、前記タグは、因子Xa切断部位が続く。N1−355は、KDEL ER回収シグナルで終結し、このシグナルはN34−355内にはない。Arg222の後の1つのトロンビン切断部位は、その領域が9G10モノクローナル抗GRP94エピトープ(抗原決定基)を含むように印(*)をつけた。
【図1B】図1は、GRP94の最小部分を示したものであり、これでペプチド結合は十分である。図1Bは、N1−355及びN34−355のペプチド結合能力を示したものである。組換えシャペロンのこの2つのバージョンは、96ウェルプレートアッセイにおいて、8−merのペプチドVSV8の結合に対して、示された用量でテストされた(実験手順を参照のこと)。黒塗り三角形はN1−355を示し、黒塗り四角はN34−355を示す。白塗りの記号はラディシコールによるペプチド結合の阻害を示している。
【図1C】図1は、GRP94の最小部分を示したものであり、これでペプチド結合は十分である。図1Cは、N1−355−ヨウ素化ペプチド複合体のトロンビン消化を示したものである。C.B.は、トロンビンによる部分的なタンパク質分解の後のクーマシーブルー染色ゲルであり、組換えタンパク質が2つの断片に切断されていることを示している。125Iは、同じゲルのオートラジオグラフィーであり、ヨウ素化ペプチドは、より大きなトロンビン断片とともに共遊走することを示している。α−Hisは、N−末端Hisタグに対するウエスタンブロットであり、22.4kDaのバンドはN−末端断片として確認できる。9G10は、酸性度メイン内に存在するエピトープに対するウエスタンブロットであり、14.6kDaのバンドはC−末端断片として確認できる。ゲルの上部にあるより大きなバンドは、未消化物質である。
【図2A】図2は、分子ドッキングモデルを示したものである。マウスGRP94の関連配列(アミノ酸46〜269)は、BioSymソフトウェアを用いて、酵母HSP90(PDBファイル1YER;[20])のN末端ドメインの解決された構造を介して構成され、エネルギーは最小化させた。前記ペプチドVSV8の構造は、VSV8及びMHCクラスIKbの複合体の解決された構造[9]から選択された。次にVSV8は、PatchDock(Schneidman−Duhovny,D.,Y.Inbar,V.Polak,M.Shatsky,I.Halperin,H.Benyamini,A.Barzilai,O.Dror,N.Haspel,R.Nussinov, and H.J.Wolfson.2003.Taking geometry to its dege:fast unbound rigid(and hinge−bent)docking.Proteins 52:107)を用いてモデル化GRP94構造へドッキングされ、MHCクラスIと同様な高次構造内のGRP94へ結合すると予想された。最高ランキングドッキング解法(ソリューション)が示された。これらは、2つの可能部位の間で分割され、それぞれパネルA及びBにおいて緑色で示されている。図2Aは、ラディシコール/ゲルダナマイシン結合部位を部分的に重複する3つのペプチドドッキング解法を示している。左のパネルは、βシートの軸に沿ったC末端からの側面図である。右のパネルは、底面図である。白い楕円は、ラディシコール結合部位のアウトラインである。
【図2B】図2は、分子ドッキングモデルを示したものである。マウスGRP94の関連配列(アミノ酸46〜269)は、BioSymソフトウェアを用いて、酵母HSP90(PDBファイル1YER;[20])のN末端ドメインの解決された構造を介して構成され、エネルギーは最小化させた。前記ペプチドVSV8の構造は、VSV8及びMHCクラスIKbの複合体の解決された構造[9]から選択された。次にVSV8は、PatchDock(Schneidman−Duhovny,D.,Y.Inbar,V.Polak,M.Shatsky,I.Halperin,H.Benyamini,A.Barzilai,O.Dror,N.Haspel,R.Nussinov, and H.J.Wolfson.2003.Taking geometry to its dege:fast unbound rigid(and hinge−bent)docking.Proteins 52:107)を用いてモデル化GRP94構造へドッキングされ、MHCクラスIと同様な高次構造内のGRP94へ結合すると予想された。最高ランキングドッキング解法(ソリューション)が示された。これらは、2つの可能部位の間で分割され、それぞれパネルA及びBにおいて緑色で示されている。図2Bは、βシートの一部の上をマッピングした4つのドッキング解法である。左のパネルは、図2Aと同様な、βシートの軸に沿った図である。右のパネルは、上面図である。1つのシステイン及び3つのヒスチジンは、それぞれ黄色と淡い青色の円柱状の線で示されている。赤い矢印は、Cys117、赤い矢じり(arrowhead)は、His125であり、A〜Hは、βシート鎖を示している。
【図3A】図3は、ラディシコール−屈折変異体N34−355 D128N、G132Aがまだペプチドに結合することを示した図である。図3Aは、N34−355(RadR)のD128N、G132A変異体は、ラディシコール処理N34−355(WT)に対して屈折性を有しておりRadRタンパク質は、15分間、DMSO若しくはラディシコールとインキュベートされ、ブルーネガティブゲルで解析された。ラディシコール結合WTタンパク質は、タンパク質内の構造変化[15]のため、ゲルにおいて素早く移動した。ラディシコールへ結合するためのRadRタンパク質の能力は、劇的に減少した。黒矢印は、非修飾タンパク質、白矢印は、ラディシコール結合タンパク質を示している。
【図3B】図3は、ラディシコール−屈折変異N34−355 D128N、G132Aがまだペプチドに結合することを示した図である。図3Bは、RadR変異体によるペプチド結合がラディシコールによって影響を受けず、WTタンパク質の飽和性と同様な飽和性を有していることを示したものである。N34−355及びRadRタンパク質のVSV8への結合は、プレートアッセイ(実験手順を参照のこと)によって測定された。黒いバーは、阻害剤非存在下での結合、灰色のバーは、ラディシコール存在下での結合を示している。データは、3つ組サンプルの平均値である。
【図3C】図3は、ラディシコール−屈折変異N34−355 D128N、G132Aがまだペプチドに結合することを示した図である。図3Cは、N34−355及びRadRタンパク質の用量結合を示したものである。VSV8ペプチドへの結合は、プレートアッセイによって測定された。丸は、WTタンパク質、四角は、RadR変異体を示している。データは、3つ組サンプルの平均値である。
【図4A】図4は、予想されるペプチド結合部位が深い疎水性ポケットと、阻害剤結合部位とに近接していることを示したものである。図4Aは、GRP94及びHSP90のN末端ドメインの一部の複数配列の配列比較を示したものである。配列上の黒線は、ストランドG及びF(パネルBを参照のこと)を示しており、それぞれCys117及びHis125を含むものである。配列下の赤線は、部分的配列内の阻害剤結合ポケット構成物を示している[17、20]。緑線は、HSP90における35アミノ酸を示しており、この位置はゲルダナマイシン結合と、遊離高次構造との間で異なっている。これらは、HSP90残基100〜134(括弧内の番号)は、GRP94の残基135〜174に一致する。黄色のハイライトは125位、灰色のハイライトはAsp128及びGly132(RadR変異体において変異された残基)、緑色のハイライトはIle115、Leu124、及びVal126(疎水性ポケットに寄与している残基)を示している。疎水性ポケットからの他の残基は、Leu80、Ile84、Leu240、Ile243、Val247、Ile254、Ile258、Pro259、及びVal260である。アミノ酸は、E或いはDに対しては青色で、K、R或いはHに対しては赤色、N或いはQに対しては紫色、F或いはYに対しては緑色、Cに対しては茶色、A、G、P、S、Tに対しては黒色、及びI、L、M、Vに対しては黄色で示してある。
【図4B】図4は、予想されるペプチド結合部位が深い疎水性ポケットと、阻害剤結合部位とに近接していることを示したものである。図4Bは、疎水性ポケットのモデルを示したものである。スペースフィル(specefill)モデル(左のパネル)は、図2Bと同様な図のタンパク質を示している。ペプチドは、淡い緑で示されている。濃い緑色は、残基I、L、及びV、青色はF、紫色はT、茶色はP、黄色はC、淡い青色はHを示している。赤矢印はCys117、赤矢じりはHis125を示している。赤の点線は、bis−ANSへの架橋を示す残基のおおよその位置を示している[22]。
【図5A】図5は、ペプチド結合がCys117を含む疎水性ポケットの環境に影響を及ぼすことを示したものである。図5Aは、ペプチドA結合がN1−355−結合ANSの発光に影響を及ぼすことを示したものである。N1−355は、まずANSと反応し(N1−355−ANS)、次に飽和量のペプチドAと結合した。N1−355−ANSの発光最大値は、478nmであり、これは高度な疎水性環境であることを示している。ペプチドAの付加は、N1−355−ANSの蛍光を部分的に消光するが、遊離ANSはしない。N1−355自体は、示された波長範囲においては蛍光ではない。
【図5B】図5は、ペプチド結合がCys117を含む疎水性ポケットの環境に影響を及ぼすことを示したものである。図5Bは、アクリロダンが予想された疎水性ポケット内のCysと共有結合的に結合することを示したものである。N1−355及びN34−355は、40℃で一晩、アクリロダンと反応させた。タンパク質なしで同一量のアクリロダンを有するサンプルを、対照とした。次に各サンプルの半分量を、グアニジン塩化物に最終濃度が6Mとなるまで添加し、残りには当量のバッファーを添加した。非変性条件下でN1−355−結合アクリロダンの発光最大値は、約473nmであり、これは、高度な疎水性環境であることを示している。6Mグアニジン塩化物において、発光最大値は、N1−355−結合、及び遊離アクリロダンの両方に対して約522nmであったが、一方、タンパク質結合アクリロダンの蛍光強度は、遊離色素よりも著しく高く、これは共有結合を意味している。
【図5C】図5は、ペプチド結合がCys117を含む疎水性ポケットの環境に影響を及ぼすことを示したものである。図5Cは、アクリロダン共役N1−355が非共役N1−355と同程度でペプチドと結合することを示したものである。遊離或いはアクリロダン−共役タンパク質(3.6μM)は、飽和条件下で800mM 125I−VSV8と反応させ、非結合ペプチドは、スピンカラムを用いて除去された[15]。遊離125IVSV8は、非結合ペプチドの効率的な除去を調節するために用いられた。N1−355及びN1−355−acrは、それぞれ遊離及びアクリロダン共役タンパク質を意味しており、N1−355+VSV8*及びN1−355−acr+VSV8*は、同じタンパク質が125I−VSV8に結合していることを意味しており、VSV8*は、遊離125I−VSV8ペプチドを意味している。
【図5D】図5は、ペプチド結合がCys117を含む疎水性ポケットの環境に影響を及ぼすことを示したものである。図5Dは、N1−355に共有結合的に結合したアクリロダンの蛍光がペプチドの付加によって影響を受けることを示したものである。VSV8(800mM最終濃度)若しくは同等量のバッファーの存在下でのアクリロダン共役N1−355の蛍光発光スキャンは、励起波長390nmで測定された。VSV8単独は、測定された波長範囲内では蛍光を示さなかった。
【図6A】図6は、ペプチド結合がHis残基を必要とすることを示したものである。図6Aは、ペプチド結合がpH依存性であることを示したものである。N1−355のペプチドVSV8への結合は、[15]に記載された溶液結合アッセイを用いて様々なpH値で測定された。pH7.2において、Hepes若しくはPipesは、同様の結果で使用され、平均値は、100%に設定した。HepesはpH8.2で用い、PipesはpH6.2で使用し、標準pHの7.2で得られた値で規準化された平均結合値を有していた。
【図6B】図6は、ペプチド結合がHis残基を必要とすることを示したものである。図6Bは、ペプチド結合がイミダゾールに感受性を有していることを示したものである。N34−355のペプチドAへの結合は、96ウェルプレートアッセイ(実験手順を参照のこと)を用いて測定された。イミダゾールは、指示された最終濃度まで添加され、各濃度の結合は、イミダゾールなしのもので規準化した。ラディシコール存在下でのペプチド結合は、非特異的結合の測定値として示された。三角は阻害剤の非存在下での結合、四角はラディシコールの存在下での結合を示す。
【図6C】図6は、ペプチド結合がHis残基を必要とすることを示したものである。図6Cは、結合活性がDEPC修飾によって消滅されることを示したものである。組換えN355のHis6タグは、取り扱い説明書(Novagen)に従って、因子Xaによって切断され、Ni−NTAカラムを用いてタンパク質再精製を行った。タンパク質は、ここに記載されたようにDEPCで処理し、ヒスチジン選択的に修飾した。一部の修飾されたタンパク質は、0.4Mヒドロシキルアミン(HA)で処理され、DEPC作用を逆転させた。エタノールでの修飾は、溶液対照として用いられた。ラディシコール処理は、特異的ペプチド結合を測定するために用いられた。未処理及び修飾タンパク質は、ペプチドAコーティングプレート(0.7μgタンパク質/ウェル)に結合され、結合はHRP−ヤギ抗−ラット(Jackson Labs)に続いて、9G10 Mab(Affinity Bioreagents)との間接的な反応によって定量化された。3つ組データポイントは、それぞれの実験からのものである。DEPCは、結合をバックグラウンドレベルまで減少したが、一方HAは、DEPC効果を完全に逆転させた。His6タグの除去は、有効性或いは結合の特異性に全く影響を及ぼさなかった。Rはラディシコール、Etはエタノール、DEPはDEPCでの処理、HAはヒドロキシルアミンに続きDEPCでの処理を意味している。
【図7A】図7は、部位直接的変異原性によってペプチド結合に対するヒスチジン125の重要性を明らかにされることを示しているものである。図7Aは、His125の改変がペプチドAへのN34−355結合に影響を及ぼすことを示している。野生型N34−355、H125Y、或いはH125Dタンパク質は、金属キレートクロマトグラフィーによって精製され、ペプチドへ結合するその能力は、プレートアッセイ(方法を参照のこと)でテストされた。ラディシコール(300μM)による阻害は、特異性対照として用いられた(Rad)。結合は、WTタンパク質に対する結合飽和のレベルに基づいて、2つのタンパク質インプット(入力)レベル(0.7或いは2μg)で測定された。示されたデータは平均値であり、2回の実験の3つ組ポイントの標準エラーである。黒色バーは、0.7μgタンパク質、灰色バーは、2μgタンパク質を示している。
【図7B】図7は、部位直接的変異原性によってペプチド結合に対するヒスチジン125の重要性を明らかにされることを示しているものである。図7Bは、野生型及びH125Yの分数占有曲線を示したものである。ペプチド結合タンパク質の量は、各タンパク質に対する飽和結合レベルの分数として計算され、タンパク質のインプットの機能として示された。黒色四角は、野生型タンパク質に対する3回の独立した用量結合実験からの値である。白色四角は、H125Yに対する3回の独立した実験からの値である。
【図7C】図7は、部位直接的変異原性によってペプチド結合に対するヒスチジン125の重要性を明らかにされることを示しているものである。図7Cは、H125D変異体がラディシコール結合に対して予想された構造変化を示すことを示したものである。H125D及びH125Yは、ブルーネガティブゲル電気泳動を用いてWTタンパク質と比較された。各タンパク質(10μg)は、300μMラディシコール或いはDMSOで処理され、次に各2つの隣接するゲルレーンに添加された。電気泳動後、ゲルをクーマシーブルーで染色した。野生型及びH125Dタンパク質は、モノマーとしてほぼ移動し、特有のラディシコール誘導性移動度シフトは両者に見られた。H125Yタンパク質もモノマーとして移動したけれども、2つの異なる高次構造で存在した。約半分のH125Yは、ラディシコール非存在下でさえも移動度の増加を示したが、他の半分は予想された移動度とラディシコール誘導性高次構造変化の両方を示した。黒矢印は非結合タンパク質、白矢印はラディシコール結合タンパク質を示している。
【図8A】図8は、マウスGRP94遺伝子の標的化破壊を示したものである。図8Aは、マウス遺伝子及び標的ベクターの模式図である。GRP94遺伝子の16エクソン(黒ボックス)、及びイントロン(細い線、長さはエクソンプライマーPCR及び/若しくはシークエンス解析によって決定された)は、エクソン11及び18の間のギャップと共に、縮小して記載されている。標的ベクターは、PCR増幅によって産生された1.2kbの5’相同性、及びEcoRV断片における8.0kbの3’相同性を含む。neo耐性カセットは、成熟タンパク質の中にエクソン3,61アミノ酸の末端でコード領域を中断した。その転写配向は、GRP94の配向と反対であり、矢印によって示されている。5’相同性領域は、tkと隣接しており、ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子は、ネガティブ選択に対して用いた。
【図8B】図8は、マウスGRP94遺伝子の標的化破壊を示したものである。図8Bには、2つのマウスにおける正確な標的化は、HindIII(H)或いはEcoRI(R)での消化後、挿入(パネルAの矢印を参照のこと)の5’に位置したプローブAでのサザンブロットによって決定されたことが示されている。
【図9a】図9は、Grp94−/−胚が原腸形成に失敗したことを示すものである。図9A〜Hは、WT(左パネル)及び変異体(右パネル)胚の組織学的及び免疫染色解析を示したものである。E5.5胚(A〜D)及びE6.5胚(E〜H)は、材料及び方法に記載されたように、固定され、切片化され、ヘマトキシリン及びエオシン(HとE、A〜B、E〜F)或いはMab 9G10(αGRP94、C〜D、G〜H)で染色された。VEは内臓内胚葉、EPCは栄養膜錐体を示す。パネルE〜F内の*は、前羊膜腔の発生を示している。
【図9b】図9は、Grp94−/−胚が原腸形成に失敗したことを示すものである。図9I〜Lは、E7.5胚の組織学的解析によって、WT胚(I)と比較して、変異胚(J)において、中胚葉形成の欠損、及び空洞化の欠損が見られたことを示すものである。PA Cavは前羊膜腔、EC Cavは胚外腔、PEは頭頂内胚葉を示す。パネルIにおける二重矢印、及びパネルKにおける矢印は、胚性及び胚外領域の間の接合を占め得している。Kは、WT内胚葉のより高度な拡大率画像であり、接合部の胚外側における細胞の立方状構造、及び接合部の胚側内胚葉細胞上の扁平上皮形態を示している。Lは、変異体胚の同様な図であり、接合部の両側上のVE細胞は立方状である。前羊膜腔に対する証拠がないことに注意する。PE細胞は変異体及びWT胚において違いは見られなかった。
【図10】図10は、前原腸形成胚におけるGRP94の発現を示したものである。抗−GRP94モノクローナル抗体である9G10による、E5.5(A)及びE6.5(B)WT胚の免疫組織化学を示した。示された切片は、複数サンプルの代表例であり、材料及び方法に記載されたように染色された。矢じりは、高タンパク質発現を現している内臓内胚葉細胞のクラスターを指し示している。バーは、(A)では50μm、及び(B)では100μmである。
【図11】図11は、grp94−/−胚が原条を発生しないことを示したものである。grp94変異胚における発生的マーカーの解析は、全マウントin situハイブリダイゼーションによってなされた。全てのペアにおいて、WT胚は左側に、変異胚は右側に示した。全ての胚は、表示されない限りE7.5である。示されたこれらの図は、各マーカーに対する2〜7同腹仔からの代表的な変異体及びWT胚である。図11Aより、Oct4は、E6.5の胚盤葉上層に亘って正常に発現し、後半ではWT胚においてE7.5で原条(ps)に局在化していた。変異体は、胚盤葉上層全体の発現が維持されていた。図11Bより、E7.5でのOtx2発現は正常胚の前領域に局在化されていたが、変異体では胚盤葉上層全体に発現されていた。図11Cより、Brachyuryは、正常胚においてE7.5で原条において発現されていたが、E7.5変異胚では検出できなかった。図11Dより、Eomesは、E6.5で胚外外胚葉(ee)及び発生原条で発現されており、後半、WT胚においてE7.5で原条に局在化されていた。E7.5の変異胚はE6.5のWT胚と共通していた。図11Eは、E6.5におけるBmp4発現を示している。Bmp4は、正常胚及び変異は位の両者の近位胚外外胚葉において正常に発現していた(矢印)。図11Fより、Bmp4発現は、WT胚の胚外(exocoelomic)腔(ec)を裏打ちする胚外中胚葉においてE7.5でも検出された。変異胚は、矢印で示されたように、近位胚外外胚葉にのみBmp4を発現した。図11Gにより、Lim1はWT E7.5胚のAVE及び中胚葉翼において発現されていたが、変異体においては、中胚葉発現は見られなかった。
【図12】図12は、中胚葉性マーカーの転写の解析を示したものである。図12Aにおいて、cDNAは、母系組織から注意深く切り離された完全E7.5胚から調整された。1つの野生型(WT)及び2つのgrp94−/−胚(KO1及びKO2)が示されている。インプットcDNAの量は、PCR反応の直線範囲におけるHPRTプライマーを用いて規準化された(レーン1〜6)。レーン1〜3、7〜9は、それぞれ0.25、0.125、0.063μlのWTcDNAである。レーン4〜5、10〜11は、2つの分離−/−胚からの1.5μlのgrp94−/−cDNAである。図12Bにおいて、Aと同様なcDNAは、基準初期中胚葉マーカーであるbrachyuryの発現を推測するために用いられた。インプットcDNAの違いを調整すると、KO1からのシグナルは、KO2からのシグナルより約4倍強かったが、WTcDNAより2桁小さかった。示された実験は、4分の1である。図12Cは、Eomos発現のRT−PCR定量を示したものである。cDNAインプットは、β−チューブリンの増幅物を用いて規準化された。2つのWT及び2つの変異体(KO)胚の5分の1が示されている。図12Dは、VEマーカー発現のRT−PCR解析を示したものである。3つのWT及び3つのKO胚からのcDNAを比較し、β−チューブリン発現に対して規準化された。TTRはトランスサイレチン、TFNはトランスフェリン、AFPはαフェトタンパク質、ApoA1はアポリポタンパク質A1、ApoEはアポリポタンパク質E、RBPはレチノール結合タンパク質を示している。
【図13】図13は、ヘテロ接合体マウスが正常であることを示したものである。図13Aより、grp94−/−マウスにおいて、GRP94タンパク質は50%減少した。肝臓ホモジェネート液をヘテロ接合体及びWTマウスから調整し、総タンパク質の等量を左から右に向かって希釈シリーズ(100、50、25μg)で添加し、抗GRP94(9G10)(上のパネル)、或いは抗βチューブリン(下のパネル)を用いた免疫ブロットによって解析した。3つのGRP94バンドは、完全長タンパク質、及び2つの小さい消化産物であり、肝臓抽出物において共通して見られるものである。示されたブロットは、4つの反復の代表例である。基本的に同じ結果が脾臓溶解液の解析によっても得られた。図13Bは、脾細胞上の表面マーカーの発現を示したものである。ヘテロ接合体(HET)或いはWTマウスからの脾臓細胞は、培養し、50μg/mlLPSで処理し、B細胞の増殖を開始させ、Ig分泌細胞へ分化させた。3日後、T細胞に対するマーカーである抗CD3抗体(右の灰色)、或いはB細胞に対するマーカーである抗IgM抗体(濃い灰色)で染色した。黒線は、非染色細胞を意味している。図13Cは、脾細胞におけるIg分泌の誘導を示したものである。ヘテロ接合体或いはWTマウスからの脾臓細胞は、上述したように50μg/mlLPSで処理し、3日後培地中のIgのレベルを、抗−μ抗体或いは抗−κ抗体を用いたELISAによって決定した。LPS処理前後の培地中のIgの割合は、各脾臓培養に対して計算し、誘導の大きさとしてプロットした。
【図14】図14は、grp94−/−細胞の増殖とストレス反応を示したものである。野生型及び変異ES細胞クローンは、E3.5胚盤胞から確立し、支持細胞なしで増殖するように適応させた。細胞は、高グルコース培地(4.5L)(図14A)で増殖させる、若しくは低(0.1g/L)グルコース培地(図14B)で増殖するように適応させ、次にその増殖率を1週間後に測定した(n=3)。図14Cは、血清欠乏に対する変異細胞の感受性を示したものである。血清を時間0で除去し、生存接着細胞を指示された時間で計測した(n=4)。脱離した細胞の全ては、トリパンブルー陽性であり、完全な培地に取り替えた際に増殖しない。青の四角はクローン42.1のWT細胞、赤の丸はクローン14.1の変異細胞を示している。図14Dは、タプシガルジン(Tg)への異なる感受性を示したものである。WT及び変異ES細胞を、300nMタプシガルジン(+)で処理する、若しくはニセ(mock)処理(−)し、その生存度を6時間後(WT細胞への細胞毒性が限界に近い時間)に観察した。図14E〜Fより、WT及び変異ES細胞が1mMEGTAの存在下或いは非存在下、指示された時間で増殖するか、その生存度を評価された。
【図15】図15は、GRP94欠損細胞が血清除去に対して感受性を有することを示したグラフである。
【図16】図16は、GRP94のN末端ドメインが樹状細胞によって取り込まれることを示した顕微鏡写真及び結合アッセイである。
【図17】図17は、GRP94ノックアウト(KO)細胞が全ての3胚葉から細胞タイプへ分化できることを示した一連の顕微鏡写真である。
【図18】図18は、GRP94欠損細胞が筋肉へは分化しないことを示した一連の顕微鏡写真とブロットである。
【図19】図19は、ノックアウト(KO)胚はE6.5周辺で停止することを示した一連の顕微鏡写真である。
【図20】図20は、T細胞へのペプチド提示に対するSrivastavaモデルを示している。末期腫瘍細胞10由来のGRP94の分画を、腫瘍特異的ペプチドと共に添加した。これは、特定の樹状細胞及びマクロファージ(APC)の原形質膜上のCD91と結合し、その結果、受容体仲介性エンドサイトーシスによって内部移行された。エンドソームコンパートメントにおいて、前記ペプチドは、GRP94から解離され、APCのサイトゾルへ押し出され、次に小胞体ペプチド輸送体(TAP)を介してER内腔へ輸送され、これは、新しく合成されたクラスI分子20及び22へ含まれる。次に、含まれたクラスIは、原形質膜へ輸送され、ここのいてT細胞によって認識されるように腫瘍由来ペプチドを提示する。いくつかのペプチドは、GRP94から放出された後及びクラスI分子へ含まれる前に、プロテオソーム30によって整形される。
【図21】図21は、ペプチド結合アッセイを示している。複数ウェルプレート(96)は、指示されたペプチドでコーティングし、次に阻害剤であるラディシコールの非存在下或いは存在下で、GRP94のアミノ酸34〜355からなるHis6タグ化N355とインキュベートした。各反応は、0.7μモルシャペロンを含む。VSV8及びPepAは、GRP94バインダーペプチドとして知られており、一方NYLは非バインダーである。溶解液とは、細菌溶解液中の総タンパク質量を意味しており、それぞれ0.7μモルシャペロンを含み、これは結合の部分的阻害のみを説明しているものである。ペプチドコーティングプレートへのシャペロンの結合は、HRP共役抗−His抗体によって検出された。
【図22A】図22A及び図22Bは、完全長GRP94に対するタンパク質及び核酸配列を示している。図22Aは、GRP94タンパク質配列(配列ID番号2)を示している。
【図22B】図22A及び図22Bは、完全長GRP94に対するタンパク質及び核酸配列を示している。図22Bは、GRP94核酸(配列ID番号1)を示している。
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本発明は、2003年5月12日に出願された米国仮出願番号第60/469,723号、2003年6月6日に出願された米国仮出願番号第60/477,990号と第60/478,1489号、及び2004年4月28日に出願された米国仮出願番号第60/566,362号と第60/566,363号に対して優先権を主張するものである。前述の仮出願のそれぞれに開示されたことは、この参照によって本明細書に組み込まれるものである。
【0002】
ここに記載された本発明の一部はアメリカ国立衛生研究所からの資金で行われた(グラント番号:CA−74182及びNIH/NIAID RO1 AI30178)ため、35 U.S.C.第202条(c)に準じて、米国政府は特定の権利を有することは理解されるものである。
【0003】
本発明は、免疫調節、癌治療、及び胚形成の領域に関連するものである。より詳しくは、本発明は、これらの過程に有利に及び治療的に影響を与えるための、GRP94ベース組成物、及びそれらの使用方法を提供するものである。
【背景技術】
【0004】
いくつかの刊行物や特許文献は、本発明に付随する技術分野を説明するために本明細書を通じて引用される。それらの引用のそれぞれは、この参照により、完全に説明されているかのようにその全体が本明細書に組み込まれる。
【0005】
グルコース調節タンパク質94(Glucose Regulated Protein 94;GRP94)は、小胞体内に存在し、熱ショックタンパク質(HSP)90ファミリーのメンバーである、分子シャペロン若しくはストレスタンパク質である。このファミリーは、細菌のhtpG遺伝子、酵母のHSP82、高等真核生物のHSP90α及びβ、及びミトコンドリアのTRAP1タンパク質を含む(Buchner,J.1999.Hsp90&Co.−a holding for folding.Trends Biochem Sci 24:136)。HSP90タンパク質は、細胞シグナル伝達から細菌性認識や免疫調節にまで至る多様な細胞活性に関与する、タンパク質基質の高次構造的な成熟を制御し関与するリガンドである。細胞培養モデルにおける広範囲な研究によって、GRP94発現は、グルコースのレベルを減少することによって(Lee,A.S.,et al.,Transcriptional Regulation of Two Genes Specifically Induced by Glucose Starvation in a Hamster Mutant Fibroblast Cell Line.J.Biol.Chem.,1983.258:p.597〜603)、細胞カルシウムレベルの摂動(Drummond,I.A.,et al.,Depletion of intracellular calcium stores by calcium ionophore A23187 induces the genes for glucose−regulated proteins in hamster fibroblasts.J.Biol.Chem.,1987.262(26):p.12801〜5;Little,E.and A.S.Lee,Generation of a mammalian cell line deficient in glucose−regulated protein stress induction through targeted ribozyme driven by a stress−inducible promoter.J.Biol.Chem.,1995.270(16):p.9526〜34)、或いは、酸化還元ポテンシャル(Kim,Y.K.,K.S.Kim,and A.S.Lee,Regulation of the glucose−regulated protein genes by b−mercaptoethanol requires de novo protein synthesis and correlates with inhibition of protein glycosylation.J.Cell.Physiol.,1987.133(3):p.553〜559)、グリコシル化(糖修飾)の阻害、若しくは折り畳まれていないタンパク質反応の活性化(Gass,J.N.,N.M.Gifford,and J.W.Brewer,Activation of an unfolded protein response during differentiation of antibody−secreting B cells.J.Biol.Chem,2002.277(50):p49047〜54)などによって調節されることが示された。
【0006】
その発現を調節する全ての要素を考えると、酵母細胞は哺乳類細胞と同様にこれらのストレス状況に反応するにも関わらず、GRP94が酵母ゲノムには存在しないことは興味深い。GRP94細胞は、本質的に多細胞性生物のタンパク質であるが、ERにおける全体的なタンパク質折り畳みには明らかに必要ではなく、それ自体は分泌性過程にも必要ではない。従って、GRP94が重要かどうか及びどの過程にGRP94が重要なのかという質問が生じる。
【0007】
腫瘍は、一般的に、しばしばそれ自身の形質転換過程に関連している変異タンパク質を含む。同じ変異タンパク質は、生化学的に異なる腫瘍も生じる。それ故に、そのようなタンパク質は、外来性として認識されるべきであり、免疫システムのT細胞アームによる活発な免疫反応を誘発する(Velders,M.P.,H.Schreiber,and W.M.Kast,Active immunization against cancer cells:impediments and advances.Semin Oncol,1998.25:69)。しかし、腫瘍細胞を殺傷するT細胞の天然の能力にも関わらず、実際は、検出可能ではあるが、癌に対する免疫反応は弱い。これは、免疫偵察システム全体から逃れるための、若しくはT細胞の"炎症力(fire power)"を減少するための、腫瘍細胞内の複数のメカニズムにおける進化に起因する。
【0008】
Srivastavaらは、ペプチドに結合した腫瘍内のGRP94(Tamura,Y.,et al.,Immunotherapy of tumors with autologous tumor−derived heat shock protein preparations.Science,1997.278:117〜120を参照のこと)は、瀕死の細胞から放出されており(Basu,S.,et al.,Necrotic but not apoptotic cell death releases heat shock proteins,which deliver a partial maturation signal to dendritic cells and activate the NF−kappa B pathway.Int Immunol,2000.12:1539〜1546を参照のこと)、次に、マクロファージ及び/若しくは樹状細胞によって取り込まれ(Binder,R.J.,D.K.Han,and P.K.Srivastava,CD91:a receptor for heat shock protein gp96.Nat Immunol,2000.1:151〜155;Berwin,B.,J.P.Hart,S.Rice,C.Gass,S.V.Pizzo,S.R.Post,and C.V.Nicchitta.2003.Scavenger receptor−A mediates gp96/GRP94 and calreticulin internalization by antigen−presenting cells.Embo J 22:6127を参照のこと)、ここでは、Tamura,Y.ら(図1)に記載されたように、前記ペプチドはGRP94から解離し、クラスI組織適合性タンパク質へ移行される。クラスI分子によって提示されたペプチドは、主にCD8+ T細胞を刺激するので、これは"ペプチド再提示"経路と呼ばれ、本発明者らの研究室によって培養細胞において、及びSrivastavaの研究室によってマウスモデルにおいて、この経路によって10〜100倍の増加を示すように腫瘍に対して増強されたキラー細胞活性を導く(Suto,R.and P.K.Srivastava,A mechanism for the specific immunogenicity of heat shock protein−chaperoned peptides.Science,1995.269:1585〜1588、及びBlashere,N.E.,et al.,Heat shock protein−peptide complexes,reconstituted in vitro,elicit peptide−specific cytotoxic T lymphocyte response and tumor immunity.J.Exp.Med.,1997.186:1315〜1322を参照のこと)。GRP94は、抗原提示細胞(APC)活性を誘発し、APCのトール様(APC活性化)受容体及びエンドサイトーシス(交差提示)受容体の相互作用を解してAPCの交差提示経路へペプチドを向ける(Vabulas,R.M.,S. Braedel,N.Hilf,H.Singh−Jasuja,S.Herter,P.Ahmad−Nejad,C.J.Kirschning,C.Da Costa,H.G.Rammensee,H.Wagner,and H.Schild.2002.The endoplasmic reticulumr−resident heat shock protein Gp96 activates dendritic cells via the Toll−like receptor 2/4 pathway.J Biol Chem 277:20847)。
【0009】
分化及び器官形成の過程は、天然代謝性ストレス反応に関与するように考えられるが、哺乳類発生の間のGRP94発現に関しては、ほとんど知られていない。GRP94が胚形成の間で重要であるかどうかは、まだ決定されていない。
【0010】
前述したことに基づいて、免疫過程の調節における、GRP94やそれらの断片によって担われている役割のさらなる解明が必要であることは明らかである。そのような情報によって、癌、ウイルス感染及び他の代謝性障害を治療するための新規GRP94ベース治療法を提供する。
【発明の開示】
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、切断されたGRP94ミニシャペロンタンパク質をコード化する核酸が提供される。好ましい実施形態において、前記核酸配列は、配列ID番号2の34〜355アミノ酸、配列ID番号2の34〜221アミノ酸、配列ID番号2の70〜221アミノ酸からなる群から選択されたGRP94タンパク質変異体をコード化する。
【0012】
前述した核酸によってコード化されたGRP94ミニシャペロンタンパク質も提供される。別の観点において、薬学的に許容可能な担体内に含まれた生物学的に関連性のあるペプチドと複合された、少なくとも1つの前記ミニシャペロンタンパク質を有する組成物が開示される。そのようなペプチドは、腫瘍特異的抗原、及びウイルス抗原を有するが、これに限定されない。
【0013】
本発明は、悪性腫瘍を治療するために、腫瘍組織に対する免疫反応を刺激するための方法も提供する。例示的な方法は、本発明の少なくとも1つのミニシャペロンと、腫瘍特異的抗原を有する少なくとも1つの腫瘍特異的ペプチドとの間で複合体を形成する工程と、それを必要としている患者へ、腫瘍特異的細胞傷害性T細胞(CTL)反応が開始するような、前記複合体の有効量を投与する工程とを伴う。前記CTL反応は、前記腫瘍組織の減少を生じ、それにより悪性腫瘍を治療する。腫瘍特異的ペプチドは、表3に記載したものを含むが、これに限定されるものではない。或いは、そのようなペプチドは、悪性腫瘍に対する治療を受けている患者から単離される。
【0014】
別の観点において、本発明は、ウイルス感染を治療するために、ウイルス感染に対する免疫反応を刺激する方法を提供する。例示的な方法は、本発明の少なくとも1つのミニシャペロンと、前記ウイルスに特異的な抗原を有する少なくとも1つのウイルス特異的ペプチドとの間で複合体を形成する工程と、それを必要とする患者へ、ウイルス特異的細胞傷害性T細胞(CTL)反応が開始し、前記ウイルス付加の減少を生じ、それにより前記感染を治療するような、前記複合体の有効量を投与する工程とを伴う。
【0015】
その内在性GRP94遺伝子においてホモ接合性無発現変異を内部に持つトランスジェニック(遺伝子組換え)マウス胚も本発明によって含まれ、ここにおいて前記変異は、胚性幹細胞における相同的な組換えを介して前記マウスへ導入され、さらに前記マウスは、機能的マウスGRP94タンパク質を発現しない。
【0016】
上述したトランスジェニックマウス胚に由来するGRP94欠損細胞株も開示される。そのような細胞株は、胚性幹細胞株、細胞分化が起こるように導入された幹細胞株を含み得るが、これに限定されるものではない。本発明のGRP94欠損細胞株を用いて得られる細胞タイプは、例えば、神経細胞(ニューロン)、脂肪細胞、肝細胞、及びリンパ球を含む。
【0017】
本発明のGRP94欠損細胞株を用いて、GRP94活性に選択的に影響する治療薬をスクリーニングする方法も、本発明の範囲内である。そのような方法の1つとして、GRP94欠損細胞及び野生型マウス胚に由来する細胞へテスト化合物を投与する工程と、前記GRP94関連性生理学的過程における変化を、前記GRP94欠損細胞と野生型細胞とで評価し、これにより、GRp94活性を選択的に修飾する薬剤を同定する工程とを伴う。
【0018】
最終的に、本発明は、ヒトHSP90の1〜210アミノ酸を有するHSP90ミニシャペロンをコード化する核酸を開示し、ここにおいて、Thr90、Ile81、Pro82からなる群から選択された少なくとも1つのアミノ酸残基は、別のアミノ酸に変更される。前記HSP90ミニシャペロンを用いて、腫瘍若しくはウイルス抗原に対する免疫反応を刺激する方法も提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
ストレスタンパク質GRP94がT細胞に対するペプチドの提示を増強することが可能であるので、他のHSP90ファミリー全メンバーと同様に、どのようにペプチドに結合するのか定義することが重要である。GPR94の半分のN−末端によって、完全長のタンパク質のペプチド結合活性を説明することができると以前示されたため、本発明者らは、分子ドッキングモデルの予想をテストすることによって、この結合部位を見つけた。最善の予想部位は、pan−HSP90ラディシコール結合ポケットからのβシートの対面上であり、深い疎水性ポケットと近接している。前記ペプチドとラディシコール結合部位は、ペプチドに結合するためのラディシコール−屈折変異の能力によって示されるように、区別されている。フルオロフォアacrylodanが、前記疎水性ポケット内のCys117へ結合した場合、2つのリガンドの隣接性と一致して、その蛍光はペプチド結合によって減少される。前記結合ペプチドと接触するHis125の置換は、ペプチド結合活性に影響を及ぼす。本発明者らは、ペプチドは、N−末端ドメインのβシートの凹面と結合し、結合はシャペロンの作用サイクルの間に調節されると結論付けた。これらの研究と関連して、本発明者らは、特定の機能を保持する切断されたGRP94ポリペプチドも設計した。そのようなペプチドは、GRP94仲介性生物機能のアゴニスト及びアンタゴニストを同定するためのスクリーニング方法において有用である。
【0020】
GPR94は、偏在性に発現するが、クライアントタンパク質(これらは重要な発生チェックポイントには関わっていない)はあまり知られていない。マウスGRP94遺伝子の標的破壊は、胚性発生において重要な機能を有していることを示した。Grp94−/−胎仔は、発生の卵筒段階である妊娠期間の7日目に子宮内で死亡した。それらは、この段階で正常に起こる主な分化現象である、中胚葉、原始的ストリーク(線条)、及び原始羊膜腔を発生できず、中胚葉誘導に関連するキー遺伝子を発現しない。発生上の欠陥は、母系性GRP94の希釈に起因するものではなく、シャペロンの活性を反映してるように思われる。Grp94−/−細胞は、その野生型対応物と同じペースで分裂する。さらに、低グルコース張力によるGRP94の転写調節が知られているにも関わらず、変異ES細胞は、低グルコース培地において野生型細胞のように増殖した。一方、変異細胞は、カルシウム恒常性の撹乱に対して、及び血清欠乏に対して、より感受性を有していた。これらのデータにより、GRP94の必要条件は非常に選択的であると示唆された。本発明者らは、中胚葉に重要な分泌性若しくは細胞表面タンパク質は、それらの適切な発現はGRP94に依存している、及びこのシャペロン非存在下では、細胞−細胞相互作用が胚性細胞の適切な運命を特定する場合、それらは効率的に提示されないと仮説を立てた。
【0021】
GRP94は、腫瘍拒絶において重要な役割を担っている。この活性を増強すると、悪性腫瘍の治療に有用であると示されるであろう。従って、本発明のGRP94ベース組成物は、腫瘍ワクチンの作成に使用され得る。
【0022】
以下の定義は、本発明の理解を容易にするために提供される。
【0023】
従来の特許法の慣習に従うと、"a"及び"an"という用語は、請求の範囲を含む本明細書において用いられた場合、"1若しくはそれ以上"という意味である。
【0024】
ここで用いられたように、"GRP94タンパク質"という用語は、小胞体内に存在し、本分野ではgp96、ERp99及びエンドプラスミンとして知られている、分子シャペロンを言及することを意味している。GRP94は、高等植物及び後生動物内でのみ発見されている(Nicchitta(1998)Curr Opin Immunol 10:103〜109)。GRP94などのストレスタンパク質は、適切な折り畳み(フォールディング)や新規に合成されたタンパク質の輸送を指示すること、及び熱ショック、酸化ストレス、低酸素/無酸素条件、栄養欠乏、他の生理学的ストレス、及びそのようなストレスを促進する、例えば脳卒中や心筋梗塞などの疾患や外傷などの状態の時に細胞を保護することに関連している。
【0025】
ここで用いられたように、"GRP94のリガンド結合ドメイン(LBD)"という用語は、ヌクレオチド、ADP、ATP、或いはNECA、若しくは真菌代謝産物であるゲルダナマイシン、17AAG或いはラディシコールが結合するGRP94の領域を意味している。より好ましくは、本発明者らの研究によって、GRP94断片は、哺乳類(ヒト、イヌ)GRP94のアミノ酸34〜355(配列ID番号3によってコード化された、配列ID番号4)、好ましくは残基34〜221(配列ID番号5によってコード化された、配列ID番号6)、好ましくは残基70〜221(配列ID番号7によってコード化された、配列ID番号8)を有していることが示された。これらは、完全長タンパク質の結合活性に対しては十分である。
【0026】
ここで用いられたように、"GRP94リガンド結合ドメインの結合ポケット"、"GRP94リガンド結合ポケット"、及び"GRP94結合ポケット"という用語は、同義的に用いられており、リガンドが結合できる、GRP94リガンド結合ドメイン(LBD)内の大きな空洞を意味している。この空洞は、空であったり、水分子や溶媒からの他の分子を含むこともできる、若しくはリガンド原子を含むこともできる。前記結合ポケットは、GRPの原子によって占められたものではなく、"主要な"結合ポケットの近く、及び前記"主要な"結合ポケットと近接した、"主要な"結合ポケット近くのスペースの領域も含む。
【0027】
ここで用いられたように、"抗原性分子"は、外因性抗原/免疫原(すなわち、in vivoではGRP94と複合体を形成しない)やそれらの誘導体と同様に、GRP94が内因的にin vivoで(例えば、感染細胞、若しくは前癌性或いは癌性組織)関連するペプチドを意味している。
【0028】
"共通腫瘍抗原"という用語は、同様の腫瘍タイプを患った患者に共通して見られる腫瘍特異的抗原を意味している。代表的な共通腫瘍抗原は、表3に提供されている。
【0029】
"生物活性"という用語は、対象において生物学的若しくは生理学的効果を有している分子を言及することを意味している。アジュバンド活性は、生物活性の一例である。アジュバンド活性を有する他の生物分子の産生を活性化する若しくは誘導することも、考えられる生物活性である。
【0030】
"アジュバンド活性"という用語は、増強する、或いは抗原に対する脊椎動物対象の免疫システムの反応を調節する能力を有している分子を言及することを意味している。
【0031】
"免疫システム"という用語は、非特異的及び特異的カテゴリーを含み、脊椎動物対象において、潜在的病原体を含む抗原分子に対する防御を提供する、全ての細胞、組織、システム、構造、及び工程を含む。本分野ではよく知られているように、非特異的免疫システムは、好中球、単球、組織マクロファージ、クッパー細胞、肺胞マクロファージ、樹状細胞、及びミクログリアなどの食作用細胞を含む。特異的免疫システムは、宿主内で特異的な免疫を与える細胞及び他の構造を意味している。特にB細胞リンパ球やT細胞リンパ球などのリンパ球は、これらの細胞に含まれる。これらの細胞としては、ナチュラルキラー(NK)細胞も含まれる。さらに、Bリンパ球のような抗体産生細胞、及び抗体産生細胞から産生された抗体は、"免疫システム"という用語内に含まれる。
【0032】
"免疫反応"という用語は、脊椎動物対象の免疫システムによる、抗原若しくは抗原決定基に対するあらゆる反応を言及することを意味している。例示的な免疫反応は、以下に定義されているように、体液性免疫反応(例えば、抗原特異的抗体の産生)や細胞仲介性免疫反応(例えば、リンパ球増殖)を含む。
【0033】
"全身性免疫反応"という用語は、免疫システムのBリンパ球などの細胞が発達する、リンパ節−、脾臓−、若しくは腸−関連リンパ様組織内の免疫反応を言及することを意味している。例えば、全身性免疫反応は、血清IgGの産生を有することができる。さらに、全身性免疫反応は、血流内の抗原特異的抗体の循環や、脾臓及びリンパ節などの全身性コンパートメントのリンパ様組織における抗原特異的細胞を意味している。
【0034】
"体液性免疫"若しくは"体液性免疫反応"という用語は、抗体分子が抗原刺激に反応して分泌される、後天性免疫の形態を言及することを意味している。
【0035】
"細胞仲介性免疫"及び"細胞仲介性免疫反応"という用語は、Tリンパ球がそれらの犠牲細胞の近くに来た場合、それらによって提供される防御のような、リンパ球によって提供される免疫学的な防御を言及することを意味している。細胞仲介性免疫反応は、リンパ球増殖も有する。"リンパ球増殖"が測定した場合、特異的抗原に反応して分裂するリンパ球の能力が測定される。リンパ球増殖は、B細胞、T−ヘルパー細胞、若しくはCTL細胞増殖を言及することを意味している。
【0036】
"CTL反応"という用語は、特異的抗原を発現している細胞を溶解し殺傷する抗原特異的細胞の能力を言及することを意味している。以下に記載されたように、標準な、当業者には認識されているCTLアッセイは、CTL活性を測定するために行われた。そのようなアッセイにおいて、殺傷される細胞は、"標的細胞"として言及される。
【0037】
ここで用いられたように、"養子免疫治療"とは、癌に対して特定な適用性を有し、それにより、前記細胞は直接的に若しくは間接的に樹立された腫瘍の退行を仲介することを目的として、抗腫瘍反応性を有する免疫細胞が腫瘍宿主へ投与されるという、治療アプローチを意味している。
【0038】
"免疫原性組成物"は、免疫反応を誘発することができる組成物を言及することを意味している。ワクチンは、本発明によると、"免疫原生組成物"という用語の意味においては範囲に含まれると考えられる。
【0039】
"生物反応修飾物質"という用語は、抗原の存在などの特定の刺激に対する対象の反応を増強する、若しくは調節する能力を有する分子を言及することを意味している。
【0040】
ここで用いられたように、"候補物質"及び"候補化合物"という用語は、同義的に用いられており、生物反応修飾物質として、別の部分と相互作用すると考えられる物質を言及している。例えば、代表的な候補化合物は、完全GRP94タンパク質、若しくはその断片と相互作用すると考えられており、その化合物は、その後そのような相互作用で評価され得る。本発明の方法を用いて検討され得る例示的な候補化合物は、これに限定されるものではないが、GRP94タンパク質のアゴニスト及びアンタゴニスト、ウイルスエピトープ、ペプチド、酵素、酵素基質、補助因子、レクチン、糖質、オリゴヌクレオチド或いは核酸、オリゴ糖、タンパク質、化学化合物、小分子、及びモノクローナル抗体を含む。
【0041】
ここで用いられたように、"調節する"とは、任意若しくは全ての科学的及び生物学的活性、若しくは野生型或いは変異型GRP94ポリペプチドの特性の増加、減少、若しくは他の改変を意味している。ここで用いられたように、"調節"という用語は、反応の上方制御(すなわち、活性化若しくは刺激)及び下方制御(すなわち、阻害若しくは抑制)の両方を言及する。
【0042】
ここで用いられたように、"アゴニスト"とは、機能的GRP94タンパク質の生物活性を補う或いは増強する因子を意味している。
【0043】
ここで用いられたように、"アンタゴニスト"とは、機能的GRP94タンパク質の生物活性を減少する或いは阻害する因子、若しくは、天然由来或いは改変非機能的GRP94タンパク質の生物活性を補う或いは増強する因子を意味している。
【0044】
ここで用いられたように、"アルファへリックス"という用語は、ポリペプチド鎖の高次構造を言及しており、ここにおいて、ポリペプチドバックボーンは、左巻き若しくは右巻き方向で、分子の長軸の回りに巻かれており、アミノ酸のR基がらせん状(へリックス)バックボーンから外側へ突出しているものであり、前記構造の反復ユニットは、前記へリックスの1分岐であり、前記長軸に沿って約0.56nm伸長している。
【0045】
ここで用いられたように、"βストランド"とは、伸長したジグザグ高次構造へ延びたポリペプチド鎖の高次構造を言及している。並列に配向したポリペプチド鎖のβストランドは、"βシート"を形成する。"並列(平行)"に走ったストランドは全て、同じ方向に走る。"逆平行"のポリペプチド鎖のストランドは、お互い反対の方向に走る。
【0046】
ここで用いられたように、"細胞"、"宿主細胞"、若しくは"組換え宿主細胞"という用語は、同義的に用いられており、特定の対象細胞だけでなく、そのような細胞の子孫や潜在的な子孫も意味する。変異或いは環境的な影響に起因して、特定な修飾が後世にも生じるため、実は、そのような子孫は親細胞とは同一ではないのであるが、本明細書で用いられたようなような範囲内には含まれる。
【0047】
"キメラタンパク質"若しくは"融合タンパク質"という用語は、ここでは同義的に用いられており、GRP94ポリペプチドをコード化している第1のアミノ酸配列と、GRP94のどのドメインとも異なり、相同性もないポリペプチドを定義している第2のアミノ酸配列との融合を意味している。例えば、キメラタンパク質は、第1のタンパク質も発現している生物体内で見出される外来性ドメインを含むことができる、若しくは、異なる種類の生物体によって発現されているタンパク質構造の"種間"或いは"遺伝子間"融合であり得る。一般的に、融合タンパク質は、一般式X−GRP94−Yで表すことができ、ここにおいてGRP94は、GRP94ポリペプチドから由来したタンパク質の一部を表し、XとYは独立して、生物体においてGRP94配列と関連しておらず、天然由来の変異を含むアミノ酸配列を有する若しくは持たないものである。
【0048】
ここで用いられたように、"検出する"という用語は、例えば、放射線学的シグナル、分光学的シグナル、若しく標的物質が存在する場合にのみ現れる別のシグナルなどの検出可能なシグナルの出現を観察することによって、標的物質の存在を確認することを意味している。
【0049】
ここで用いられたように、"相互作用する"という用語は、例えば、酵母二重ハイブリッドアッセイなどを用いて検出され得るような、分子間の検出可能な相互作用を意味している。また、"相互作用"という用語は、分子間の"結合"相互作用も含むことを意味している。相互作用は、例えば、タンパク質−タンパク質、若しくはタンパク質−核酸間で生じ得る。
【0050】
ここで用いられたように、"修飾された"という用語は、物質の正常な状態からの変化を意味している。物質は、別々の化学ユニットの除去によって、若しくは別々の化学ユニットを付加することによって修飾され得る。"修飾された"という用語は、検出可能な標識や、精製において補助として追加されたそれら物質を含む。
【0051】
ここで用いられたように、"変異"という用語は、その従来の意味合いを含み、核酸或いはポリペプチド配列における改変、遺伝的、天然由来、若しくは導入を意味しており、本分野の当業者には一般的に知られているような意味で用いられる。
【0052】
ここで用いられたように、"部分的アゴニスト"という用語は、標的に結合でき、アゴニストによって誘導された、標的における改変のごく一部を誘導できる物質を意味している。その違いは、質的である、若しくは量的であり得る。従って、部分的アゴニストは、他のものでではなくアゴニストによって誘導される立体構造改変のいくつかを誘導することができる、若しくは限定範囲で特定の変化のみを誘導することができる。
【0053】
ここで用いられたように、"部分的アンタゴニスト"という用語は、標的に結合でき、アンタゴニストによって誘導された、標的における変化のごく一部を阻害できる物質を意味している。その違いは、質的である、若しくは量的であり得る。従って、部分的アンタゴニストは、他のものでではなくアンタゴニストによって誘導される立体構造改変のいくつかを阻害することができる、若しくは限定範囲で特定の変化を阻害することができる。
【0054】
ここで用いられたように、"核酸"若しくは"核酸分子"は、一本鎖或いは二本鎖の、あらゆるDNA若しくはRNA分子を意味しており、もし一本鎖の場合はその分子の相補的配列は直線或いは環状形態である。核酸分子の所で説明したように、特定の核酸分子の配列或いは構造は、5’から3’方向で配列を表示している従来の方法に従って、本明細書において記載されている。本発明の核酸に関して、"単離核酸"という用語は、しばしば用いられる。この用語は、DNAに適用された場合、それが由来する生体の天然由来のゲノム内におけるすぐ連続した配列から分離されたDNA分子を意味する。例えば、"単離核酸"は、プラスミド或いはウイルスベクターなどのベクターに挿入されたDNA分子、若しくは原核或いは真核細胞或いは宿主生物体のゲノムDNAへ組み込まれたDNA分子を含む。
【0055】
RNAに適用された場合、"単離核酸"という用語は、上で定義したような単離DNA分子によってコード化された主にRNA分子を言及している。或いは、この用語は、その天然状態(すなわち、細胞或いは組織内)と関連した他の核酸から十分に分離されたRNA分子を言及している。"単離核酸"(DNA或いはRNA)は、さらに生物学的或いは合成手段によって直接生産された分子、及びその産生の間に存在する他の化合物から分離された分子を表す。
【0056】
"パーセント相似"、"パーセント同一"、及び"パーセント同一"、及び"パーセント相同性"という用語は、特定の配列を言及する場合、ウィスコンシン大学のGCGソフトウェアプログラムに規定されているものとして使用される。
【0057】
"実質的に純粋"という用語は、所定の物質(例えば、核酸、オリゴヌクレオチド、タンパク質、など)の少なくとも50〜60重量%を有する調剤を言及している。より好ましくは、前記調剤は、所定の化合物の少なくとも75重量%、最も好ましくは90〜95重量%を有するものである。純度は、所定の化合に対して適切な方法(例えば、クロマトグラフィー法、アガロース或いはポリアクリルアミドゲル電気泳動、HPLC解析、及びそれらの同等方法など)によって測定される。
【0058】
"レプリコン"とは、例えば、プラスミド、コスミド、バクミド、プラスチド(plastid)、ファージ、若しくはウイルスなどの、それ自身の制御下で大部分は複製できるあらゆる遺伝的要素である。
【0059】
"ベクター"とは、プラスミド、コスミド、バクミド、ファージ、若しくはウイルスなどの、他の遺伝配列或いは要素(DNA若しくはRNA)が結合され、その結合した配列或いはヨウ素の複製をもたらすような、レプリコンである。
【0060】
"発現オペロン"は、例えば、プロモーター、エンハンサー、翻訳開始シグナル(例えばATG或いはAUGコドン)、ポリアデニル化シグナル、ターミネーター(転写終結区)、及びそれらと同等物であり、宿主細胞或いは生物においてポリペプチドコード化配列の発現を促進する、転写や翻訳制御配列を持つ核酸セグメントを言及する。
【0061】
ここで用いられたように、"オリゴヌクレオチド"という用語は、本発明の配列、プライマー、及びプローブを言及し、2若しくはそれ以上の、好ましくは3以上のリボ或いはデオキシリボヌクレオチドからなる核酸分子として定義される。オリゴヌクレオチドの正確なサイズは、様々な因子、及びそのオリゴヌクレオチドの特定の適用や使用に依存するであろう。
【0062】
"特異的なハイブリダイズ"という用語は、本分野で一般的に用いられる事前に決定された状況下で、そのようなハイブリダイゼーションを可能にするために十分に相補的な配列の2つの一本鎖核酸分子の間の結合を言及する(しばしば"実施的に相補的"と言われる)。特に、この用語は、非相補的配列の一本鎖核酸を有するオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションを物質的に排除する、本発明の一本鎖DNA或いはRNA分子内に含まれる実質的に相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションを言及する。
【0063】
ここで用いられたように"プローブ"という用語は、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、若しくは核酸(RNA或いはDNA)を言及しており、これらは、精製制限酵素で消化して天然に由来する、或いは合成的に生産されたものであり、前記プローブに相補的な配列を有する核酸とアニーリングする、若しくは特異的にハイブリダイズすることができるものである。プローブは、一本鎖若しくは二本鎖である。前記プローブの正確な長さは、温度、プローブの原料、及び用いる方法を含む多くの因子に依存するであろう。例えば、診断用適用に対しては、標的配列の複雑さに依存して、オリゴヌクレオチドプローブは、少しのヌクレオチドを含んでいるが、15〜25或いはそれ以上のヌクレオチドを典型的に含む。ここにおいてプローブとは、特定の標的核酸配列の異なる鎖と"実質的に"相補的であるように選択される。これは、事前に決定された状況下で、前記プローブが"特異的にハイブリダイズ"できる、若しくはそれらそれぞれの標的配列とアニーリングことができるように、十分に相補的でなくてはならないことを意味している。従って、前記プローブ配列は、標的の正確に相補的な配列を反映している必要はない。例えば、非相補的ヌクレオチドフラグメントは、標的鎖に相補的な前記プローブ配列の残りの部分を有し、前記プローブの5’若しくは3’末端に結合される。或いは、非相補的塩基、若しくはより長い配列は、プローブ中に散在し、それと共に特異的にアニーリングするために、前記プローブ配列が標的核酸の配列と十分な相補性を有するように提供される。
【0064】
ここで用いられたように、"プライマー"という用語は、RNA若しくはDNA、一本鎖若しくは二本鎖、生体システムから由来する、制限酵素消化によって産生される、若しくは適切な環境に置かれた時、鋳型−依存性核酸合成の阻害剤として機能的に働くことができるように合成的に生産される、オリゴヌクレオチドを言及する。適切な核酸鋳型、核酸の適切なヌクレオシド三リン酸前駆体、ポリメラーゼ酵素、適切な補助因子、及び例えば適切な温度やpHなどの適切な条件、と存在する場合、前記プライマーは、プライマー伸長産物を生じるために、ポリメラーゼの作用、或いは同様の活性によるヌクレオチドの付加によって、その3’終端で伸長される。前記プライマーは、特定の条件、及び適用の要求に依存して、長さが変わる。例えば、診断用適用において、前記オリゴヌクレオチドプライマーは、典型的に15〜25、若しくはそれ以上の長さのヌクレオチドである。前記プライマーは、望ましい伸長産物の合成を刺激するために、望ましい鋳型に対して十分に相補的でなくてはならない、つまり、ポリメラーゼ、若しくは同様な酵素による合成の開始で使用するために、適切な近位で、前記プライマーの3’ヒドロキシル部分を提供するのに十分な形で、望ましい鋳型鎖とアニーリングすることが可能である。前記プライマー配列は、望ましい鋳型の正確な相補体を表していることは必要とされていない。例えば、非相補的ヌクレオチド配列は、別の相補的プライマーの5’末端に結合される。或いは、非相補的塩基は、前記オリゴヌクレオチドプライマー配列内に散在し、これにより、前記伸長産物の合成用の鋳型プライマー複合体を機能的に提供するために、前記プライマー配列が望ましい鋳型鎖の配列と十分に相補的であることが提供される。
【0065】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、米国特許番号第4,683,195号、第4,880,195号、及び第4,965,188号に記載されており、これらの全体の開示はこの参照により本明細書に組み込まれる。
【0066】
ここで用いられたように、"レポーター"、"レポーターシステム"、"レポーター遺伝子"、若しくは"レポーター遺伝子産物"という用語は、発現した場合、例えば、生物アッセイ、免疫アッセイ、放射線免疫アッセイによって、若しくは比色定量的な方法、蛍光発生的な方法、化学発光的な方法、或いは他の方法によって、容易に測定可能なレポーターシグナルを産生する、産物をコード化する遺伝子を核酸が有している操作的な遺伝システムを意味している。前記核酸は、RNA或いはDNA、直線或いは環状、一本鎖或いは二本鎖、アンチセンス或いはセンスポラリティーであり、前記レポーター遺伝子産物の発現に対して、必要な調節要素に動作可能に結合される。必要な調節要素は、レポーターシステムの性質に従って、及び前記レポーター遺伝子がDNA或いはRNAの形態かどうかで変わるが、これに限定されるものではないが、そのような要素には、プロモーター、エンハンサー、翻訳調節配列、ポリA付加シグナル、転写終止シグナル、及びそれらと同等物を含む。
【0067】
"形質転換"、"形質移入"、"形質導入"という用語は、核酸が細胞或いは宿主生物へ導入されることによる、あらゆる方法或いは手段を意味し、同じ意味を伝えるために同義的に用いられる。そのような方法は、これに限定されるものではないが、形質移入(トランスフェクション)、マイクロインジェクション、PEG−融合、及びそれらの同等物を含む。
【0068】
導入された核酸は、レシピエント細胞或いは生物体の核酸配列へ(共有結合して)組み込まれる、若しくは組み込まれない。細菌、酵母、植物、及び哺乳類細胞において、例えば、導入された核酸は、エピソーム要素、或いはプラスミドなどの独立レプリコンとして維持される。或いは、前記導入された核酸は、レシピエント細胞或いは生物体の核酸へ組み込まれ、及び細胞或いは生物体ないで安定して維持され、さらに、子孫細胞或いはレシピエント細胞の生物体へ伝えられる或いは遺伝される。最後に、前記導入された核酸は、一時的にのみ、レシピエント細胞或いは宿主生物体に存在する。
【0069】
"選択可能なマーカー遺伝子"という用語は、発現された場合、形質転換された細胞或いは植物に、抗菌抵抗などの選択可能な表現型を与える遺伝子を言及する。
【0070】
"動作可能に接続された"という用語は、翻訳領域配列の発現に必要である調節性配列が、領域配列の発現に影響を及ぼすように、翻訳領域配列に対して適切な位置でDNA分子に配置されていることを意味している。この同じ定義は、時々、発現ベクターにおける転写ユニット、及び他の転写調節要素(例えば、エンハンサーなど)の配列に適用される。
【0071】
アミノ酸残基は、従来の3文字或いは1文字略語に従って本明細書中で同定される。
【0072】
ここに記載されたアミノ酸残基は、"L"異性体型であることが好ましい。しかしながら、"D"異性体型における残基は、あらゆるLアミノ酸残基に置換され、これにより前記ポリペプチドの望ましい特性が保持されることが提供される。ここに表された全てのアミノ酸残基配列は、従来の左から右というアミノ終端からカルボキシ終端配向に一致する。
【0073】
"単離タンパク質"若しくは"単離及び精製タンパク質"という用語は、時々ここで用いられる。この用語は、主に、本発明の単離された核酸分子の発現によって産生されたタンパク質を意味している。或いは、この用語は、"実質的に純粋"な形態で存在するように、自然に関連した他のタンパク質から十分に分けられたタンパク質を言及している。"単離された"は、他の化合物或いは物質を有する人工的な或いは合成的な混合物、若しくは基本的な活性を阻害せず、例えば不完全な精製或いは安定剤の添加に起因して生じる不純物の存在を排除することを意味している訳ではない。
【0074】
"成熟タンパク質"若しくは"成熟ポリペプチド"は、ポリタンパク質前駆体からのタンパク質分解プロセシングなどの、一連のその発生の間、前記ポリペプチドに正常に起こるあらゆるプロセシング現象の後で前記ポリペプチドの配列を所有するポリペプチドを意味している。成熟タンパク質の配列或いは境界(バウンダリ)を指定する際、前記成熟タンパク質配列の第1のアミノ酸は、アミノ酸残基1として指定される。ここで用いられたように、天然には発見されない成熟タンパク質と関連したあらゆるアミノ酸残基は、アミノ酸1を先行するタンパク質がアミノ酸−1、2、3、などに指定されていることに関連付けられる。組換え発現システムに対して、メチオニン開始コドンはしばしば、効率的な翻訳を目的として用いられる。ここで用いられたように、結果として生じるポリペプチドにおけるこのメチオニン残基は、成熟GRP94タンパク質配列に相対的な−1位に位置される。
【0075】
低分子量"ペプチド類縁体"は、GRP94タンパク質の天然型若しくは変異(変異された)類縁体を意味しており、これは、そのタンパク質の断片の直線或いは不連続体を有しており、他のアミノ酸で置換された1若しくはそれ以上のアミノ酸を有し、親或いは非変異タンパク質と比較した場合、改変、増強或いは減少された生物活性を有している。
【0076】
本発明は、GRP94ポリペプチド或いは本発明のタンパク質の活性部分、断片、誘導体、及び機能的或いは非機能的擬態も含む。そのようなポリペプチドの"活性部分"は、完全長ポリペプチドより短いが、測定可能な生物活性は維持しているペプチドを意味している。
【0077】
GRP94ポリペプチドの"断片"若しくは"部分"は、一続きのアミノ酸残基の少なくとも約5〜7の連続アミノ酸を意味しており、しばしば、少なくとも約7から9の連続アミノ酸であり、典型的には少なくとも約9〜13の連続アミノ酸であり、最も好ましくは、少なくとも約12〜13、若しくはそれ以上の連続アミノ酸である。GRP94ポリペプチド配列、抗原決定基、若しくはエピトープの断片は、免疫特異的抗GRP94抗体の有効な産生のために、GRP94タンパク質アミノ酸配列の一部に対する免疫反応を誘発するのに有用である。
【0078】
GRP94ポリペプチドの異なる"変異体"は、天然に存在する。これらの変異体は、前記タンパク質をコード化する遺伝子のヌクレオチド配列における違いによって特徴付けられる対立遺伝子(アレル)である、若しくは異なるRNAプロセシング或いは翻訳後修飾に関わるものである。当業者は、単一或いは複数アミノ酸の置換、欠損、或いは交換を有する変異体を生産することができる。これらの変異体は、これに限定されるものではないが、(a)1若しくはそれ以上のアミノ酸残基が、保存的或いは非保存的アミノ酸と置換されている変異体、(b)1若しくはそれ以上のアミノ酸がポリペプチドに付加されている変異体、(c)1若しくはそれ以上のアミノ酸が置換基を含む変異体、及び、(d)前記ポリペプチドが、融合パートナー、タンパク質タグ、或いは他の化学部分などの別のペプチド或いはポリペプチドと融合されており、例えば、抗体に対するエピトープ、ポリヒスチジン配列、膜融合配列、細胞質標的配列、核標的配列、ビオチン部分、及びそれらと同等物などの、GRP94関連ポリペプチドに対して有用な特性を与えるものである、変異体を含む。本発明の別のGRP94ポリペプチドは、1種からのアミノ酸残基が、保存或いは非保存位置で、別の種の対応する残基に置換されている変異体を含む。別の実施形態において、非保存位置でのアミノ酸残基は、保存或いは非保存残基と置換される。これらの変異体を得るための技術は、遺伝的(抑制、欠損、変異など)、化学的、及び酵素的技術を含み、本分野の当業者には既知である。そのような対立遺伝的変異体、類縁体、断片、誘導体、変異体、及び修飾体の範囲では、GRP94の生物学的特性のいくつかを保持するアポトーシス修飾因子ポリペプチドの誘導体を生じる、選択的核酸プロセシング形態と、選択的転写後修飾形態を含み、それらは本発明の観点内に含まれる。
【0079】
ここで用いられたように、"機能的"という用語は、核酸配列或いはアミノ酸配列が、列挙されたアッセイや目的に対して機能的であることを意味している。
【0080】
特定のヌクレオチド或いはアミノ酸を言及する場合の"基本的に〜からなる"という用語は、所定の配列ID番号の特性を有する配列を意味している。例えば、アミノ酸配列を言及する時に用いられた場合、その用語は、配列それ自体、及びその配列の基本や新規特徴に影響を与えない分子修飾を含む。
【0081】
"タグ"、"タグ配列"、若しくは"タンパク質タグ"という用語は、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、或いはアミノ酸、ペプチド或いはタンパク質、若しくは他の化学物質などの化学部分を言及しており、これらが他の配列へ付加されたとき、特にその配列の欠損若しくは単離において、付加的な有用性を提供する、若しくは有用な特性を与えるものである。従って、例えば、ホモポリマー核酸配列、若しくはキャプチャー(捕獲)オリゴヌクレオチドと相補的な核酸配列は、プライマー或いはプローブ配列に付加され、その後に続く伸長産物或いはハイブリダイズされた産物の単離を容易にする。タンパク質タグの場合、ヒスチジン残基(例えば、4〜8の連続したヒスチジン残基)は、タンパク質のアミノ終端或いはカルボキシ終端に付加され、金属クロマトグラフィーのキレート化によるタンパク質単離を容易にする。代わりに、アミノ酸配列、ペプチド、タンパク質、若しくは、特異的抗体分子或いは他の分子(例えば、フラグエピトープ、c mycエピトープ、インフルエンザAウイルス赤血球凝集素(hemaglutinin)タンパク質の膜貫通エピトープ、タンパク質A、セルロース結合ドメイン、カルモジュリン結合タンパク質、マルトース結合タンパク質、キチン結合ドメイン、グルタチオンSトランスフェラーゼ、及びそれらの同等物など)に反応性を有する決定基と結合する、或いはエピトープを表す融合パートナーは、タンパク質に付加され、アフィニティー(親和性)クロマトグラフィー或いは免疫親和性クロマトグラフィーなどの手順によるタンパク質単離を容易にする。化学タグ部分は、ビオチンなどの分子を含み、核酸或いはタンパク質に付加され、アビジン試薬及びそれと同等物との相互作用による単離或いは検出を容易にする。多くの他のタグ部分は、訓練を受けた職人によっては既知で、想定され得るものであり、この定義の範囲内であると考えられる。
【0082】
"クローン"若しくは"クローン細胞集合"は、有糸分裂による、単一細胞若しくは共通の祖先から由来した細胞の集合である。
【0083】
"細胞株"とは、何代もの間、in vitroで安定して成長できる第1次細胞若しくは細胞集合のクローンである。
【0084】
"抗体"若しくは"抗体分子"は、抗体やそれらの断片を含むあらゆる免疫グロブリンであり、GRP94タンパク質のエピトープなどの特異的な抗原に結合するものである。この用語は、ポリクローナル、モノクローナル、キメラ、及び二重特異性抗体を含む。ここで用いられたように、抗体若しくは抗体分子としては、無傷免疫グロブリン分子と、Fab、Fab’、F(ab’)2及びF(v)として本分野では知られた免疫グロブリンの一部である免疫学的に活性な部分との両方が考えられる。
【0085】
I.GRP94コード化核酸分子、GRP94ポリペプチド、及びその断片の調整
A.核酸分子
本発明のGRP94関連配列をコード化した核酸分子は、以下の2つの(1)適切なヌクレオチド三リン酸から合成する、若しくは(2)生物源から単離する、という一般的な方法によって調整される。用いられた両方の方法は、本分野ではよく知られた方法である。
【0086】
例えば、配列ID番号1を有する完全長cDNAなどのヌクレオチド配列情報の利用可能性は、オリゴヌクレオチド合成による、本発明の単離核酸分子の調整を可能にする。合成オリゴヌクレオチドは、Applied Biosystems 38A DNA Synthesizer若しくは同様の装置で用いられるホスホラミダイト方法によって調整される。結果生じる構成物は、本分野では既知な方法、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)などに従って精製される。本発明のDNA分子などの長い二本鎖ポリヌクレオチドは、現在のオリゴヌクレオチド合成方法に固有なサイズ限定のおかげで、段階的に合成されるべきである。従って、例えば2.4kb二本鎖分子は、適切な相補性を有したいくつかの小さい断片として合成される。従って、産生された相補的断片は、各断片が隣接した断片に結合するための適切な突出末端を有するように、アニーリングされる。隣接した断片は、DNAリガーゼの存在下で、突出末端をアニーリングすることによって結合され、完全な2.4kb二本鎖分子を構成する。そのように構成された合成DNA分子は、次にクローン化され、適切なベクター内で増幅される。
【0087】
GRP94若しくはそれらの相同体をコード化する核酸配列は、本分野では既知である方法を用いて、適切な生物源から単離される。好ましい実施形態において、cDNAクローンは、ヒトのcDNA発現ライブラリーから単離される。別の実施形態において、cDNA配列によって提供された配列情報を用いて、GRP94をコード化したゲノムクローンが単離される。代わりに、GRP94との相同性を有したcDNA若しくはゲノムクローンは、GRP94遺伝子内の事前に決定した配列に対応するオリグヌクレオチドプローブを用いて、マウスなどの他の種から単離される。
【0088】
本発明に従って、配列ID番号1のタンパク質コード領域と適切なレベルの配列相同性を有した核酸は、ハイブリダイゼーションと適切に厳密な洗浄条件とを用いることによって同定される。例えば、ハイブリダイゼーションは、Sambrookら(supra)の方法に従って、5X SSC、5X デンハート液、0.5〜1.0% SDS、100μg/ml 変性断片化サケ精子DNA、0.05% ピロリン酸ナトリウム、及び50%までのホルムアミドからなるハイブリダイゼーション溶液を用いて、実行される。ハイブリダイゼーションは、37〜42℃で、少なくとも6時間実行された。ハイブリダイゼーションに続いて、フィルタを以下のように、(1)2X SSC及び0.5〜1%SDS中で、室温で5分間、(2)2X SSC及び0.1% SDS中で、室温15分間、(3)1X SSC及び1% SDS中で、37℃で30分〜1時間、(4)溶液を30分毎に変えながら、1X SSC及び1% SDSで、42〜65℃で2時間、洗浄した。
【0089】
特異的配列相同性を有する核酸分子間のハイブリダイゼーションを達成するために必要とされる前記厳密な条件を計算するための一つの共通の公式としては(Sambrook et al.,1989);
Tm=81.5℃+16.6Log[Na+]+0.41(%G+C)−0.63(%ホルムアミド)−600/#bp(二重鎖における)である。
【0090】
上の公式に記載されたように、[Na+]=[0.368]、及び50%ホルムアミドを用い、GC含量が42%であり、平均プローブ細部が200ベースである場合、Tmは57℃である。DNA二重鎖のTmは、相同性が1%減る毎に1〜1.5℃ずつ減少する。従って、約75%以上の配列同一性を有する標的は、42℃のハイブリダイゼーション温度を用いて観察される。そのような配列は、本発明の核酸配列と実質的に相同であると考えられる。
【0091】
ハイブリダイゼーションと洗浄の厳密さは、溶液の塩濃度と温度に第1に依存している。一般的に、プローブのその標的とのアニーリングの割合を最大限にするために、ハイブリダイゼーションは、ハイブリッドの計算されたTmが20〜25℃以下である塩及び温度条件で通常実行される。洗浄条件は、前記標的に対するプローブの同一性のためにもできる限り厳密であるべきである。一般的に、洗浄条件は、ハイブリッドのTmが約12〜20℃以下であるように選択される。本発明の核酸に関しては、中程度に厳密なハイブリダイゼーションは、6X SSC、5X デンハート溶液、0.5% SDS、及び100μg/ml 変性サーモン精子DNA中、42℃でのハイブリダイゼーションを行い、2X SSC及び0.5% SDS中、55℃で15分洗浄することとして定義される。高度に厳密なハイブリダイゼーションは、6X SSC、5X デンハート溶液、0.5% SDS、及び100μg/ml 変性サーモン精子DNA中、42℃でのハイブリダイゼーションを行い、1X SSC及び0.5% SDS中、65℃で15分洗浄することとして定義される。非常に高度に厳密なハイブリダイゼーションは、6X SSC、5X デンハート溶液、0.5% SDS、及び100μg/ml 変性サーモン精子DNA中、42℃でのハイブリダイゼーションを行い、0.1X SSC及び0.5% SDS中、65℃で15分洗浄することとして定義される。
【0092】
本発明に用いるための核酸は、あらゆる簡便性クローニングベクターにおけるDNAとして維持される。好ましい実施形態において、クローンは、例えば、pBluescript(Stratagene,La Jolla,CA)などのプラスミドクローニング/発現ベクターにおいて維持され、適切なE.coli(大腸菌)宿主細胞において増殖される。ヒト若しくはマウスGRP94遺伝子をコード化した、本発明のゲノムクローンは、ラムダファージFIX II(Stratagene)において維持される。
【0093】
本発明のGRP94コード化核酸分子は、cDNA、ゲノムDNA、RNA,及びそれらの断片を含み、一本鎖或いは二本鎖であり得る。従って、本発明は、本発明の核酸分子の少なくとも1つの配列、例えば、配列ID番号1を有するcDNAの選択断片など、とハイブリダイズ可能な配列を有するオリゴヌクレオチド(DNA或いはRNAのセンス鎖或いはアンチセンス鎖)を提供する。
【0094】
これら配列の変異体(例えば、アリル変異体など)は、ヒト集団の中に存在し、本発明のオリゴを設計及び/若しくは使用する場合、考慮に入れられるべきであることは、当業者には理解されるであろう。従って、ここに開示されたGRP94配列、若しくはそれぞれの遺伝子或いはRNA転写物上の特異的位置を標的としたオリゴに関して、そのような変異体を含むことは本発明の範囲内である。そのような変異体を含むことに関して、"天然アリル変異体"という用語は、ヒト集団において生じる、様々な特異的ヌクレオチド配列とそれらの変異体を言及するためにここでは用いられている。コード化タンパク質における保存的若しくは中立アミノ酸置換を生じさせる遺伝子多形は、そのような変異の例である。加えて、"実質的に相補的"という用語は、標的配列と完全にマッチされていないが、そのミスマッチが、記載された条件下でその標的配列とハイブリダイズする前記オリゴの能力に実質的に影響を与えていない、オリゴ配列を言及している。
【0095】
従って、コード配列は、配列ID番号1に示されたものである。若しくはこの配列の変異体(mutant)、変異形(variant)、誘導体、若しくはアリル体である。前記配列は、示した配列の1若しくはそれ以上のヌクレオチドの付加、挿入、欠損、及び置換の1若しくはそれ以上である改変によって示される配列とは異なる。ヌクレオチド配列の改変は、遺伝子コードによって決定されたようにタンパク質レベルでのアミノ酸改変を生じる、若しくは生じない。
【0096】
従って、本発明に従った核酸は、同じアミノ酸配列を有するポリペプチドをコード化するにも関わらず、配列ID番号1に示された配列とは異なる配列を含む。
【0097】
一方、前記コードポリペプチドは、配列ID番号2に示されたアミノ酸配列とは、1若しくはそれ以上のアミノ酸残基が異なるアミノ酸配列を有する。配列ID番号2に示された配列のアミノ酸配列変異形、変異体、誘導体、若しくはアリル体であるポリペプチドをコード化する核酸は、本発明によってさらに提供される。そのようなポリペプチドをコード化した核酸は、配列ID番号1に示されたコード配列と60%以上の相同性を示し、好ましくは、70%以上の相同性、80%以上の相同性、90%以上の相同性、若しくは95%以上の相同性を示す。
【0098】
本発明は、目的の核酸を得るための方法を提供し、前記方法は、配列ID番号1に示された配列の一部若しくは全てを有する、若しくは標的核酸に対して相補的な配列を有するプローブのハイブリダイゼーションを含む。一般的に、ハイブリダイゼーションに続いて、成功したハイブリダイゼーションの同定と、前記プローブにハイブリダイズされた核酸の単離(PCRの1若しくはそれ以上の工程が関連する)がある。
【0099】
そのようなオリゴヌクレオチドプローブ若しくはプライマー、及び完全長配列(及び変異形、変異体、アリル体、及び誘導体)は、アリル体、変異形、及び変異体、特に腫瘍抗原結合活性が増強されたそれらが存在するか、核酸を有するテストサンプルをスクリーニングする際に有用であり、前記プローブは、テストされる個人から得たサンプルからの標的配列とハイブリダイズするものである。前記ハイブリダイゼーションの条件は、非特異的結合を最小限にするために調節され、中程度に厳密なハイブリダイゼーション条件に対する好ましい厳密さが使用される。当業者は、ハイブリダイゼーション反応に対して、そのようなプローブを容易に設計し、それらを標識し、適切な条件を工夫することができ、これはSambrook et al(1989)やAusubel et al(1992)などの教科書によって支援されている。
【0100】
いくつかの好ましい実施形態において、配列ID番号1に示された配列の断片、若しくはペプチド結合活性に関するあらゆるアリル体である、本発明に従ったオリゴヌクレオチドは、少なくとも約10ヌクレオチド長であり、より好ましくは約20ヌクレオチド長である。そのような断片事態は、それぞれ本発明の観点を表している。断片及び他のオリゴヌクレオチドは、説明されたようにプライマー若しくはプローブとして用いられるが、GRP94ポリペプチドをコード化する配列のテストサンプルにおける存在を決定することに関係する方法(例えば、PCRによって)でも産生される。
【0101】
B.タンパク質
GRP94タンパク質は、小胞体に存在し、他の分泌タンパク質或いは小胞体内に形成し、それらの3次元形を達成する膜受容体を助ける機能を有する分子シャペロンである。本発明の完全長GRP94タンパク質は、既知の方法に従った様々な方法で調整される。前記タンパク質は、例えば、形質転換細菌、若しくは動物培養細胞或いは組織などの適切な源から、免疫親和性精製によって精製される。しかしながら、これは、いかなる時点でも、所定の細胞タイプにおいて存在するであろうタンパク質が少ないため、好ましい方法ではない。GRP94をコード化する核酸分子の利用可能性は、当業者には既知であるin vitro発現方法を用いた、前記タンパク質の産生を可能にする。例えば、cDNA若しくは遺伝子は、in vitro転写のために適切なin vitro転写ベクター(pSP64やpSP65など)へクローン化され、その後、コムギ胚芽或いはウサギ網状赤血球可溶化液などの適切な無細胞翻訳システムにおける無細胞翻訳が続く。In vitro転写と翻訳システムは、例えば、Promega Biotech(Madison、ウィスコンシン州)或いはBRL(Rockville、メリーランド州)から商業用に利用可能である。
【0102】
或いは、好ましい実施形態によると、より大量なGRP94は、適切な原核或いは真核システムにおける発現によって産生される。例えば、配列ID番号1を有するcDNA或いはそれらの望ましい断片などの、DNA分子の一部或いは全部は、大腸菌などの細菌性細胞内の発現に適応したプラスミドベクターへ挿入される。そのようなベクターは、宿主細胞内で前記DNAの発現を可能にするような方法で位置付けられた、宿主細胞(例えば、大腸菌)内で前記DNAを発現するために必要な調節性要素を有する。発現に必要とされるそのような調節要素は、プロモーター配列、転写開始配列、及び任意に、エンハンサー配列を含む。
【0103】
組換え原核或いは真核システムにおける遺伝子発現によって産生されたGRP94は、本分野では既知である方法に従って精製される。好ましい実施形態において、商業的に利用可能な発現/分泌システムを用いることができ、これによって前記組換えタンパク質は発現され、その後宿主細胞から分泌され、周囲の培地から容易に精製される。発現/分泌ベクターを用いなかった場合、代わりのアプローチは、例えば、組換えタンパク質と特異的に結合する抗体との、若しくはそれらのN末端或いはC末端での6〜8のヒスチジン残基でタグ付けされた組換えタンパク質を単離するためのニッケルカラムとの免疫学的相互作用によってなどの、親和性分離によって組換えタンパク質を精製する工程を含む。代替タグは、FLAGエピトープ、若しくは赤血球凝集素エピトープを有する。そのような方法は、当業者によって一般的に使用されている。
【0104】
本発明のGRP94タンパク質若しくはペプチド断片は、上述した方法によって調整され、標準手順に従って解析される。例えば、そのようなタンパク質は、既知の方法に従ったアミノ酸配列解析を受ける。
【0105】
上述したように、本発明に従ったポリペプチドを産生するための簡便な方法は、発現システムにおける核酸の使用によって、それのコード化している核酸を発現することである。発現システムの使用は、非常に高度な精巧度まで到達している。
【0106】
従って、本発明は、(上述したように)ポリペプチドを産生する方法も含み、前記方法は、前記ポリペプチドをコード化する核酸(一般的には本発明に従った核酸)から発現する工程を含む。これは、ポリペプチドの産生を引き起こす若しくは可能にする適切な条件下、そのようなベクターを含む、培養中の宿主細胞を増殖することによって簡便に達成される。ポリペプチドは、網状赤血球可溶化液などのin vitroシステムにおいても産生される。
【0107】
アミノ酸配列の変異形、アリル体、誘導体、若しくは変異体であるポリペプチドも、本発明によって提供される。変異形、アリル体、誘導体、或いは変異体であるポリペプチドは、配列ID番号2も示された配列と、1若しくはそれ以上のアミノ酸の付加、置換、欠損、及び挿入の1若しくはそれ以上によって異なるアミノ酸配列を有する。好ましいそのようなポリペプチドは、GRP94機能を有する、すなわち、以下の特徴、ペプチド結合活性、ADP、ATP、或いはNECAに対する結合活性、ゲルダナマイシン或いはラディシコール、若しくはそれらの合成変異体に対する結合活性、及び配列ID番号2に示された配列に対するポリペプチドとの抗体反応性を有する免疫交差反応性の1若しくはそれ以上を有するものである。配列ID番号2に示されたアミノ酸配列のアミノ酸配列変異形、アリル体、誘導体、若しくは変異体であるポリペプチドは、示された配列と約35%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、約70%以上、約80%以上、約90%以上、約95%以上の配列相同性を有する配列相同性を有するアミノ酸配列を有する。特定のアミノ酸配列変異形は、配列ID番号2に示されたアミノ酸配列とは、1アミノ酸、2、3、4、5〜10、10〜20、20〜30、30〜40、40〜50、50〜100、100〜150、若しくは150アミノ酸以上の挿入、付加、置換、或いは欠損によって、異なるものである。
【0108】
本発明に従ったポリペプチドは、その活性や機能に影響を与える、若しくは修飾する分子のためのスクリーニングに用いられる。そのような分子は、治療的状況(場合によっては、予防的な状況も含む)に対して有用である。
【0109】
II.GRP94コード化核酸、GRP94タンパク質、及びGRP94ペプチド断片の使用
GRP94タンパク質及びGRP94ペプチド断片
GRP94は、抗原提示及び腫瘍拒絶に影響を及ぼす重要な免疫調節性タンパク質であることが明らかになった。本発明のGRP94分子は、癌の治療に対する免疫反応を特に増強するための方法を促進するために用いられる。
【0110】
さらに、本発明に従ったGRP94核酸、タンパク質、及びそれらに対する抗体は、抗原修復、タンパク質折り畳み、及び腫瘍拒絶反応に密接に関与する他のタンパク質を同定するための研究ツールとして使用される。これらの経路の生化学的解明は、癌及び他の免疫機能障害の治療のための新規試薬の開発を促進するであろう。
【0111】
A.GRP94コード化核酸
GRP94コード化核酸は、本発明に従った多くの目的で用いられる。GRP94コード化DNA、RNA、若しくはそれらの断片は、GRP94タンパク質をコード化する遺伝子の存在及び/若しくは発現を検出するためのプローブとして用いられる。GRP94コード化核酸がそのようなアッセイに対するプローブとして用いられる方法としては、これに限定されるものではないが、(1)in situハイブリダイゼーション、(2)サザンハイブリダイゼーション、(3)ノーザンハイブリダイゼーション、及び(4)ポリメラーゼ鎖反応(PCR)などの様々な増幅反応を含む。
【0112】
本発明のGRP94コード化核酸は、他の動物種からの関連遺伝子を同定するためのプローブとしても有用である。本分野ではよく知られているように、ハイブリダイゼーション厳密性は、核酸プローブと、様々な程度の相同性を有する相補的配列とのハイブリダイゼーションを可能にするように調節される。従って、GRP94コード化核酸は、様々な程度でGRP94と関連する他の遺伝子を同定し、特徴付けることを促進するために用いられ、それにより分子シャペロンシステムのさらなる特徴付けが可能になるものである。さらに、それらは、GRP94と(例えば"相互作用トラップ"技術によって)相互作用するタンパク質をコード化する遺伝子を同定するために用いられ、これはさらに、抗原提示及び腫瘍拒絶に関与する構成成分の同定を促進するべきである。
【0113】
GPR94をコード化する核酸分子、或いはそれらの断片は、GRP94の産生を調節し、それによって免疫調節性反応に使用できるタンパク質の量を調節するためにも有用である。GRP94タンパク質の生理学的な量における変化は、例えば抗原提示などに関与する他のタンパク質因子の活性に対して劇的な影響を与える。
【0114】
GRP94コード化核酸の利用可能性は、GRP94遺伝子の一部或いは全部、若しくはそれらの変異配列を有している実験マウスの系統の産生を可能にする。そのようなマウスは、免疫調節及び腫瘍拒絶に対するin vivoモデルを提供する。代わりに、ここに提供されたGRP94配列情報は、GRP94をコード化する内在性遺伝子が特異的に不活性化されているノックマウスの産生を可能にする。実施例2を参照のこと。実験マウスに導入遺伝子を導入する方法は、当業者には既知である。3つの共通する方法としては、1.初期胚への目的外来性遺伝子をコード化するレトロウイルスベクターの組込み、2.新しく受精させた卵の前核へのDNAの注入、及び3.初期胚への遺伝操作された胚性幹細胞の取り込みを含む。上述したトランスジェニック(遺伝子組換え)マウスの生産は、胚発生や免疫調節におけるGRP94の役割を分子的解明するために有用である。
【0115】
ヒトGPR94遺伝子を有するトランスジェニックマウスは、マウスGPR94遺伝子をヒトの遺伝子に直接置換することによって生成される。これらのトランスジェニック動物は、ヒトの疾患に対する、及びGRP94によって修飾された生物活性に関連する傷害や疾患を最終的な治療に対する動物モデルとして、薬剤スクリーニング研究に有用である。GRP94の"ノックアウト"を有するトランスジェニック動物は、胚発生におけるGRP94の役割を評価するのに有用である。
【0116】
哺乳類システムにおけるGRP94の役割を定義する手段として、GRP94遺伝子の標的変異破壊が原因でGRP94タンパク質を産生できないマウスが産生される。
【0117】
この項で用いられたように、"動物"という用語は、ヒトを除く全ての脊椎動物を含む。また、胚性及び胎生段階を含む全ての発生段階の個々の動物も含む。"トランスジェニック動物"は、例えば、標的組換え或いはマイクロインジェクションによって、若しくは組換えウイルスでの注入によってなどの、細胞下レベルでの計画的な遺伝子操作によって、直接的に或いは間接的に変えられた或いは有するようになった遺伝子情報を有する1若しくはそれ以上の細胞を有するあらゆる動物のことである。"トランスジェニック動物"という用語は、典型的な異種交配やin vitro受精を含むことを意味しているものではないが、1若しくはそれ以上の細胞が組換えDNA分子によって変えられている或いはそれらを有するようになった動物を含むことを意味している。この分子は、定義された遺伝子座を特異的に標的化される、染色体内に無作為に連結される、若しくは染色体外のDNA置換されるものである。"生殖(胚)細胞系列トランスジェニック動物"という用語は、遺伝子改変若しくは遺伝子情報が生殖細胞系列に導入され、それにより遺伝子情報を子孫へ伝達する能力を持つようになったトランスジェニック動物を言及している。そのような子孫において、その改変或いは遺伝子情報のいくつかまたは全てを有する子孫もまたトランスジェニック動物である。
【0118】
改変或いは遺伝子情報は、レシピエントが属する動物の種とは異なっている、或いは特定の個々のレシピエントのみ異なっているものである、若しくは遺伝子情報はすでにレシピエントが有しているものである。最後のケースでは、改変或いは導入された遺伝子は、未変性遺伝子とは異なった発現をする。
【0119】
改変GRP94遺伝子は、宿主動物由来の同じGRP94タンパク質を完全にコード化するものではなく、その発現産物は、軽微な或いは大幅な度合いで改変される、若しくは全く欠けているものである。しかしながら、より中程度に修飾されたGRP94遺伝子は、それが特異的な改変であった場合、本発明の範囲内に含まれると考えられる。
【0120】
標的遺伝子を改変するために用いられたDNAは、幅広い多くの技術によって得られ、その技術には、これに限定されるものではないが、ゲノム源からの単離、単離されたmRNA鋳型からのcDNAの調整、直接的な合成、若しくはそれらの組み合わせを含む。
【0121】
導入遺伝子を導入するための標的細胞の種類は、胚性幹細胞(ES)である。ES細胞は、in vitroで培養された移植前胚から得られる(Evans et al.,(1981)Nature 292:154〜156;Bradley et al.,(1984)Nature 309:255〜258;Gossler et al.,(1986)Proc.Natl.Acad.Sci.83:9065〜9069)。導入遺伝子は、DNA形質移入などの標準技術によって、若しくはレトロウイルス仲介性形質伝達によって、ES細胞へ効率的に導入され得る。結果生じる形質転換されたES細胞は、その後、非ヒト動物からの胚盤胞と組み合わさ得る。導入されたES細胞は、その後その胚をコロニー形成し、結果生じるキメラ動物の生殖細胞系列を与える。
【0122】
個々の遺伝子やそれらの発現産物の寄与を決定するための問題に対する1つのアプローチは、単離されたGRP94遺伝子を用いて、野生型遺伝子を分化全能性ES細胞(上述したような細胞など)において選択的に不活性化し、次にトランスジェニックマウスを産生することである。遺伝子−標的トランスジェニックマウスの産生における遺伝子−標的ES細胞の使用は、他の所で記載され概説されている(Frohman et al.,(1989)Cell 56:145〜147;Bradley et al.,(1992)Bio/Technology 10:534〜539)。
【0123】
標的相同性組換えを用いることによって、特異的変化を染色体アリルへ挿入し、あらゆる遺伝子領域を望んだ変異を有するように不活性化する或いは改変する技術が利用可能である。しかしながら、100%に近い頻度で生じる相同性染色体外組換えと比較して、相同性プラスミド−染色体組換えは、10−6〜10−3の間の頻度でのみ検出されると当初は報告されていた。非相同性プラスミド−染色体相互作用は、相同的挿入と比較して、105倍〜102倍のレベルでより頻繁に生じる。
【0124】
マウスES細胞における標的組換えのこの低比率を克服するために、希少な相同性組換えを検出する或いは選択するための様々な戦略が開発された。相同性改変現象を検出するための1つのアプローチは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用い、相同的挿入のために、形質転換体細胞のプールをスクリーニングし、個々のクローンをスクリーニングすることである。代わりに、ポジティブ遺伝子選択アプローチは、相同的挿入が生じる場合にのみ活性であるマーカー遺伝子が構成されるように開発され、これによりこれらの組換えの直接的な選択を可能になるものである。相同性組換えを選択するために開発された最も強力なアプローチの一つは、ポジティブ−ネガティブ選択(PNS)方法であり、これは、改変が存在するため直接的な選択がない遺伝子のために開発された。PNS方法は、マーカー遺伝子がそれ自身のプロモーターを有しているためん、高レベルでは発現していない遺伝子を標的にするためにはより効率的である。単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV−TK)遺伝子を用いることによって、及びガンシクロビル(GANC)或いは1−(2−デオキシ−2−フルオロ−B−Dアラビノフルラノシル)−5−ヨードウラシル)(FIAU)などの効果的なヘルペス薬剤を有するその非相同的挿入に対して選択することによって、非相同性組換えは選択される。このカウンター選択によって、生存形質転換体における相同性組換えの数は、増加され得る。
【0125】
ここで用いられたように、"標的遺伝子"若しくは"ノックアウト"とは、これに限定するものではないが、ここに記載された方法などのヒトの介入によって、生殖細胞系列或いは非ヒト動物へ導入されたDNA配列である。本発明の標的遺伝子は、同族内在性アリルを特異的に改変するように設計されたDNA配列を含む。
【0126】
本発明のトランスジェニックマウスのために使用する方法も、本明細書で提供される。癌の治療や予防のための薬剤は、GRP94トランスジェニックマウスを用いた研究でスクリーニングされる。
【0127】
本発明の別の実施形態において、GRP94ノックアウトマウスは、GRP94タンパク質に特異的なモノクローナル抗体のアレイを産生するために用いられる。
【0128】
また、本発明の別の実施形態において、GRP94遺伝子は、ゲノムから検出され得る(すなわち、切り出される)短い配列で隣接するGRP94遺伝子と置換される。2つの異なるバクテリオファージリコンビナーゼを用いる方法が記載され、これはゲノムへの外来性DNAの切除或いは組込みのために用いられる。いくつかの原核生物及び低等真核生物の部位特異的組換えシステムは、高等真核生物においてもうまく操作することが示された。酵母、植物、及び動物細胞において、機能的部位特異的組換えシステムは、バクテリオファージP1(CRE−loxP)(以下を参照)及びMu(Gin−gix)から、及びSaccharomyces cerevisiae(出芽酵母、FLP−frt)(Morris et al.1991;Lyznik et al.1996)及びZygosaccharomyces rouxii(R−RS)(Onouchi et al.1991;Onouchi et al.1995)の転化プラスミドから、報告された。このアプローチは、本分野では既知である方法によって、組織特異的方法若しくは発生的特異的方法において用いられ得る。選択された細胞においてはGRP94が不活性で他の細胞ではそうではない、そのようなマウスは、"条件的ノックアウトマウス"と名付けられており、疾患に対する動物モデルとして役立つ。例えば、GRP94が筋肉発達に対して重要であるとの発見は、筋肉組織の遺伝的欠陥や、筋肉変性疾患に対する重要な動物モデルを提供する。
【0129】
GRP94欠損マウス及びGRP94欠損ES細胞の利用可能性は、治療法を開発するために用いることができる細胞株の産生を可能にする。第1に、GRP94欠損細胞株は、GRP94の機能を哺乳類HSP90ファミリーの他の3つのメンバーの機能と区別するアッセイを開発するために用いられ得る。GRP94に優位に依存するこのストレス反応性は、これらの細胞に影響を受け、従って(本明細書のデータにおいてすでに示されたように)識別可能であるべきである。第2に、GRP94欠損細胞株は、HSP90若しくはGRP94に対して特異的な薬剤を開発するための用いられ得、従って、このファミリーの全てのメンバーを標的とする薬剤よりもよく、望まない副作用を持たない抗腫瘍薬剤の作成を可能にする。第3に、GRP94欠損ES細胞株は、組織特異的或いは細胞種特異的適用に対する、培養分化細胞株を作成するために用いられ得る。例えば、肝臓細胞(hepatocytes)若しくは脂肪細胞(adipocytes)は既にそのような細胞から産生されており、これらは、DNAアレイやタンパク質アレイなどの全ゲノム及び全プロテオーム技術を用いて、正常及び/若しくは病原性肝機能における、及び/若しくは脂肪組織生物学におけるGRP94の役割を決定するために用いられ得る。GRP94は、グルコース代謝に対するセンサーであると知られているので、目的の細胞種には膵臓細胞及び筋細胞も含むことができ、GRP94の非存在は、GRP94のセンサー機能に依存した、或いはこれらの組織の生理機能に影響を与えるその非存在に依存した薬剤の研究や産生を可能にする。
【0130】
癌治療の状況において、GRP94欠損マウスとES細胞の利用可能性は、腫瘍免疫療法に対する、Srivastavaらによって促進されたモデルの遺伝子テストを可能にする。腫瘍は、GRP94欠損を産生し、免疫システムを刺激した場合のin vivoでの役割を決定するためにマウスへ注射され得る。そのような研究室テストの有用性は、免疫調節活性も有している、ストレスタンパク質などの他のタンパク質の発見になり得、そのタンパク質の作用はGRP94の存在によって遮蔽されるものである。
【0131】
B.GRP94タンパク質及びそれらの断片
精製GRP94若しくはそれらの断片は、哺乳類細胞におけるGRP94の存在及び蓄積に対する高感度検出試薬としても作用する、GRPポリクローナル抗体或いはモノクローナル抗体を産生するために用いられる。組換え技術は、GRP94タンパク質の一部或いは全部を含む融合タンパク質の発現を可能にする。前記タンパク質の完全長タンパク質或いは断片は、前記タンパク質の様々なエピトープに特異的なモノクローナル抗体のアレイを生産を促進するために用いられ、それにより細胞内の前記タンパク質の検出に対して著しい感受性を提供する。
【0132】
GRP94に免疫学的に特異的であるポリクローナル抗体或いはモノクローナル抗体は、前記タンパク質を検出し定量化するように設計された様々なアッセイにおいて用いられる。そのようなアッセイには、これに限定されるものではないが、(1)フローサイトメトリー解析、(2)腫瘍細胞におけるGRP94の免疫化学的局在、及び(3)様々な細胞からの抽出物の免疫ブロット解析(例えば、ドットブロット、ウエスタンブロットなど)を含む。さらに、上述されたように、抗GRP94は、GRP94の精製のためにも用いられ得る(例えば、親和性カラム精製、免疫沈降など)。
【0133】
前述に説明から、本発明のGRP94コード化核酸、GRP94発現ベクター、GRP94タンパク質、及び抗GRP94抗体は、GRP94遺伝子発現を検出し、タンパク質折り畳み、抗原提示、及び腫瘍拒絶に関連した遺伝子及びタンパク質の相互作用を評価するために、GRP94タンパク質蓄積を改変するために用いられる。本発明の別の観点によると、GRP94産生を回復する或いは増強するのに適切な薬剤を同定するための、癌治療に対する薬剤をスクリーニングする方法が提供される。上述したGRP94欠損細胞株は、この目的のための優れたスクリーニングツールを提供する。
【0134】
薬剤スクリーニングアッセイに用いられたGRP94ポリペプチド或いは断片は、溶液中では含まれず、固体支持体へ添加される、若しくは細胞内に存在するものである。薬剤スクリーニングの1つの方法は、原核生物或いは真核生物宿主細胞を利用し、それら宿主細胞は、好ましくは競合的結合アッセイにおいて、前記ポリペプチド或いは断片を発現する組換えポリヌクレオチドで安定的に形質転換される。そのような細胞(生細胞でも固定された形態でも)は、標準結合アッセイに用いられ得る。ある人は、例えば、GRP94ポリペプチド或いは断片とテストされる薬剤との間の複合体の形成を決定し、GRP94ポリペプチド或いは断片と既知リガンドとの間の複合体の形成が、テストされる薬剤によってどの程度干渉されるかを検討する。本発明の細胞株を用いたそのようなアッセイは、HSP90とGRP94の間で異なった結合を示す薬剤の同定を促進する。
【0135】
薬剤スクリーニングのための別の技術は、GRP94ポリペプチドに対して適切な結合親和性を有する化合物のための高処理スクリーニング系を提供し、Geysenによる1984年9月13日に公開されたPCT公開公報番号WO84/03564号に詳細に記載されている。簡潔に説明すると、多くの異なる小ペプチドテスト化合物は、プラスチックピン或いは他のものの表面などの固体基質上に合成される。前記ペプチドテスト化合物は、GRP94ポリペプチドと反応され、洗浄される。GRP94ポリペプチド結合は、次に本分野ではよく知られた方法によって検出される。
【0136】
精製されたGRP94は、上述した薬剤スクリーニング技術で用いるために、プレート上に直接コーティングされる。しかしながら、前記ポリペプチドに対する非中和抗体は、GRP94ポリペプチドを前記固体相上に固定化するための抗体を捕獲するために用いられ得る。GRP94をプレート或いは他の固体基質上に接着する好ましい方法は、部位特異的ビオチン付加に向いたC末端タグを有する、修飾GRP94を使用するものである。特に、著者らは、ビオチン標識化部位がN1−355、N34−355、及びN34−222のC末端に作成され得ることを示した。
【0137】
本発明は、GRP94ポリペプチド或いはそれらの断片と結合するためのテスト化合物と競合する、GRP94ポリペプチドに特異的に結合可能な抗体を中和する競合性薬剤スクリーニングアッセイの使用も考慮に入れる。これに関して、前記抗体は、GRP94ポリペプチドの1若しくはそれ以上の抗原性決定基を共有するあらゆるペプチドの存在を検出するために用いられ得る。
【0138】
薬剤スクリーニングに対するさらなる技術は、非機能性GRP94遺伝子を有する宿主真核生物細胞株若しくは細胞(上述したような)の使用を含む。これらの宿主細胞株若しくは細胞は、GRP94ポリペプチドレベルで欠損している。前記宿主細胞株若しくは細胞は、薬剤化合物の存在下で増殖する。前記宿主細胞の増殖速度は、前記化合物がGRP94欠損細胞の増殖を調節するかどうか決定するために測定される。
【0139】
例えば、腫瘍細胞は、制御されない増殖によって正常細胞とは区別される。従って、多くの癌治療法は、急速に分裂する細胞を選択的に阻害するように設計される。細胞の増殖調節は、外部細胞膜における多くの受容体タンパク質、及び細胞膜内に埋め込まれた"キナーゼ"と呼ばれる酵素に依存しており、それらの機能としては、他の増殖調節タンパク質をリン酸化(リン酸基を付加する)するものである。受容体やキナーゼの多くは、熱ショックタンパク質90(HSP90)と相互作用する細胞増殖調節に関与しており、細胞内でのそれらの適切な機能と正確な堆積のためにこの相互作用に依存している。特に、HSP90は、有力な抗腫瘍薬剤標的候補として考えられてきた。しかしながら、HSP90は、GRP94に非常に高い相同性を有しており、GRP94と構造要素を共有しており。GRP94が結合するものとほとんど同じリガンドに結合する。今日まで、HSP90活性を干渉するように設計された全ての阻害剤は、GRP94にも結合し、阻害する。これは、抗HSP90薬剤を用いた結果として望まない副作用を導く。従って、GRP94欠損細胞株の使用は、GRP94若しくはHSP90の選択的結合を示す薬剤の同定を可能にするであろう。
【0140】
癌に対抗するための第2の戦略は、癌性細胞と正常細胞との間の増殖の違いではなく、それらの間の化学的な違いを目標とするものである。腫瘍細胞の特徴となるタンパク質断片における違いを検出するTリンパ球の精巧な能力のおかげで、そのような細胞に作用し殺傷するためのT細胞性免疫システムの助けを得ることは可能である。GRP94は、始めSrivastavaらによって、後に他の人によって、そのようなTリンパ球による腫瘍細胞の認識を刺激することが示された。
【0141】
この技術におけるバリエーションとしては、目的の様々なストレス条件下で、GRP94が欠損した細胞の増殖があり、これにより前記ストレスに対処する細胞の能力を決定し、細胞性ストレス反応を修飾するための薬剤の能力を測定するものである。全ての動物に対するこの技術の重要な進展としては、特異的組織及び/若しくは細胞種においてGRP94遺伝子が不活性化されたマウスにおけるストレス反応性の測定がある。
【0142】
理論的薬剤デザインのゴールは、生物学的に活性な目的のポリペプチドの構造類似体、若しくは、例えばより活性があり安定した形態のポリペプチドである薬剤或いは例えば、in vivoでポリペプチドの機能を増殖する或いは阻害する薬剤を構築するために相互作用する(例えば、アゴニスト、アンタゴニスト、阻害剤など)小分子の構造類似体を産生することである。例えば、Hodgson,(1991)Bio/Technology 9:19〜21を参照のこと。ひとつのアプローチにおいて、ある人は、まず(例えば、GRP94ポリペプチドなど)目的のタンパク質、若しくは例えばGRP94ペプチド複合体の三次元構造を、X線結晶学によって、核磁気共鳴によって、コンピューターモデリング、若しくは最も一般的にはそれらアプローチの組み合わせによって決定する。頻繁ではないが、ポリペプチドの構造に関する有用な情報は、相同性タンパク質の構造に基づいたモデリングによって得られる。理論的薬剤デザインの例としては、HIVプロテアーゼ阻害剤の開発である(Erickson et al.,(1990)Science 249:527〜533)。加えて、ペプチド(例えば、GRP94ポリペプチド)は、アラニンスキャンによって解析される(Wells,1991,Meth.Enzym.202:390〜411)。この技術において、アミノ酸残基は、Alaによって置換され、前記ペプチド活性に対するその影響が決定される。前記ペプチドの前記アミノ酸残基のそれぞれは、この方法によって解析され、前記ペプチドの重要領域を決定する。
【0143】
GRP94のペプチド結合部位の発見、及びHSP90ファミリータンパク質の他のメンバーとの配列及び/若しくは構造の高度な相同性によって、このファミリーの他のメンバーにおける相同的部位に結合するペプチド及び同様のリガンドに関連する、本発明の別の観点が示される。例えば、細菌におけるhtpGを標的とすることによって、新規抗生物質が導かれる。別の例として、HSP90ペプチド結合部位を標的とすることによって、その活性の修飾が導かれる。第3に、1ペプチド結合部位についての知識を得ることによって、ストレスタンパク質であるHSP90ファミリーの全ての他のメンバーの結合部位の理論的構造ベース遺伝子操作が導かれる。
【0144】
また、機能的アッセイによって選択された、標的特異的抗体を単離し、次にその結晶構造を解析することも可能である。原理としては、このアプローチは、次に続く薬剤デザインの基礎となり得る薬学的コア(pharmacore)をもたらす。機能的薬理学的活性抗体に対する抗イディオタイプ固体(抗−ids)を産生することにより、タンパク質結晶学全体を回避することが可能である。鏡像として、前記抗−idsの結合部位は、オリジナル分子の類似体になると予想される。次に、前記抗−idsは、科学的或いは生物学的に産生されたペプチドのバンクからペプチドを同定し、単離するために用いられる。選択されたペプチドは、その後薬学的コアとして働く。
【0145】
従って、ある人は、例えば、GRP94ポリペプチド活性の阻害剤、アゴニスト、アンタゴニストなどとして作用する、改善されたGRP94ポリペプチド活性或いは安定性を有する薬剤をデザインする。クローン化GRP94配列の利用可能性の長所によって、十分量のGRP94ポリペプチドが、X線結晶学などの解析研究を実行する場合に利用できるようになる。さらに、ここに提供されたGRP94タンパク質配列の知識を得ることによって、X線結晶学の変わりに、或いはそれに加えて、コンピューターモデリング技術を用いる人に対するガイドとなる。
【0146】
III.薬剤
A.薬剤とペプチド治療
本発明のGRP94ポリペプチド/タンパク質、抗体、ペプチド、及び核酸は、薬学的組成物にも調合され得る。これらの組成物は、上述の物質の1つに加えて、本分野の当業者にはよく知られた、薬学的に許容可能な賦形剤、担体、緩衝液、安定剤、若しくは他の物質を有する。そのような物質は、無毒性であるべきで、前記活性成分の有効性を阻害しないものでなくてはならない。前記担体若しくは他の物質の正確な性質は、例えば、経口、静脈内、皮膚或いは皮下、鼻腔内、筋肉内、腹腔内経路などの投与経路に依存している。
【0147】
個々へ与えられるものである本発明に従ったポリペプチド、抗体、ペプチド、核酸分子、小分子、若しくは他の薬学的に有用な化合物は、好ましくは、"予防的に有効な量"若しくは"治療上有効な量"(場合によっては、予防的な場合は治療であると考えられるが)であり、これは、前記個々に有益をもたらすのに十分である。
【0148】
B.遺伝子治療の方法
さらなる別の手段として、標準の生物学的に活性なGRP94ポリペプチドをコード化する核酸は、免疫システムの修飾が必要とされている患者、若しくは癌を患っている患者などを治療するための遺伝子治療の方法に用いられ得る。1つのアプローチにおいて、pan−HSP90薬剤に感受性を持たない、GRP94の修飾されたバージョンは、抗HSP90の特異性を増加し、GRP94の同時標的に起因する望まない副作用を阻害する方法で、投与され得る。別のアプローチにおいて、GRP94は、効率的に分泌されず、効率的な分泌にGRP94を必要としているタンパク質(例えば、免疫グロブリン、トール様受容体など)などに関与する疾患の遺伝子治療に用いられる(Randow,F.,and B.Seed.2001.Endoplasmic reticulum chaperone gp96 is required for innate immunity but not cell viability.Nat Cell Biol 3:891)。
【0149】
最小で十分なバージョンのGRP94遺伝子を遺伝子治療(及び微小タンパク質をタンパク質ベース治療)に使用することの主な利益は、投与した遺伝子/タンパク質の望まない効果及び活性が最小限になるということである。他のHSP90全ての様な、GRP94は、モジュラー構造を有している。それは、ユニークな活性を有する、異なるドメインから成っている。例えば、少なくとも3つのタンパク質は、HSP90のC末端ドメインに結合すると知られており、少なくとも1つは、中央ドメインに結合する(Young,J.C.,I.Moarefi,and F.U.Hartl.2001.Hsp90:a specialized but essential protein−folding tool.J.Cell Biol 154:267;Buchner,J.1999.Hsp90&Co.−a holding for folding.Trends Biochem Sci 24:136)。GRP94のリガンド結合ドメインと荷電ドメインとからのみなる構造に対する治療に限れば、導入された遺伝子/タンパク質をより特異的な治療に用いるような、他の相互作用が起こる可能性はない。
【0150】
最小シャペロンモジュールを用いる第2の利点は、小タンパク質は組換え体を産生することが簡単である点である。小355アミノ酸タンパク質は、細菌、昆虫細胞、或いは哺乳類細胞発現システムにおいて、完全長GRP94と比較して、高収量とより良い活性(おそらく、正確に折り畳まれたタンパク質分子のより高いパーセンテージに起因する)が得られる。
【0151】
ウイルスベクターなどのベクターは、幅広い様々な異なる標的細胞へ遺伝子を導入するために先行文献において使用されてきた。典型的には、前記ベクターは、目的のポリペプチドの発現から有用な治療効果或いは予防効果を提供するのに十分な比率において、形質転換が生じることができるように標的細胞へさらされる。形質転換された核酸は、各標的腫瘍細胞のゲノムへ永久に取り込まれ持続的な効果を提供する、若しくは代わりにその治療が定期的に繰り返される。
【0152】
ウイルスベクターやプラスミドベクターの両方である様々なベクターは、本分野では知られており、米国特許番号第5,252,479号、及び国際特許番号WO93/07282号を参照のこと。特に多くのウイルスは、遺伝子転移ベクターとして用いられ、これらには、SV40、ワクシニアウイルス、HSVやEBVを含むヘルペスウイルス、及びレトロウイルスなどのパポバウイルスが含まれる。先行技術における多くの遺伝子治療プロトコールは、障害のあるマウスレトロウイルスが用いられていた。
【0153】
腫瘍組織に対するGRP94核酸を選択的に標的とする遺伝子転移技術が好ましい。この例としては、受容体仲介性遺伝子転移を含み、ここにおいて核酸は、前記標的細胞の表面に存在する受容体に特異的なリガンドを有しているタンパク質リガンドにポリリシンを介して結合されているものである。
【0154】
以下の実施例は、本発明の特定の実施形態を説明するために提供される。これらは、決して本発明を限定することを意図したものではない。
【実施例1】
【0155】
GRP94のN末端ペプチド結合部位の同定
グルコース調節タンパク質94(GRP94)(gp96としても知られている)は、分子シャペロンのHSP901ファミリーのメンバーであり、2つのメカニズム:すなわち、免疫システムの適応アームに対するペプチド提示の増強[1]、及び自然免疫の刺激[2]によってT細胞反応を劇的に刺激することができる。これらの活性のおかげで、腫瘍由来GRP94は、腫瘍に対して免疫反応を誘発するために用いられ得、潜在的に強力な免疫治療ツールになる[3]。抗原提示活性は、その免疫原性を増強するGRP94における変異に起因するものではなく、むしろペプチドと結合するその能力に起因するものであると示されている[4]。GRP94−ペプチド複合体は、受容体仲介性エンドサイトーシスを介して抗原提示細胞のサブセットによって取り込まれると知られており[5]、次に、細胞表面にあるMHCクラスI分子に対して、シャペロンペプチドが内在性抗原提示細胞上に提示される。ペプチド結合は多くの分子シャペロンの通常の活性である一方で、GRP94は、抗原提示を増強する場合、そのようなシャペロンのなかで最も効果的であると議論されていた。その重要性にも関わらず。GRP94ペプチド相互作用、及びそのペプチド結合部位の同定は、詳細には特徴付けられていなかった。これらは、GRP94の免疫刺激作用を理解するに対して、重大な問題である。GRP94によるペプチド結合の機序は、2つの活性の間の連結は未だ解明されていないが、選択された膜結合のシャペロン及び分泌タンパク質としてのその活性についても伝達する[6]。同様な質問が、シグナル伝達複合体を組織化し、転写因子を調節する場合に、これらサイトゾルシャペロンの重要な役割であるにも関わらず、全ての他のHSP90シャペロンに対して答えられていない。水疱性口内炎ウイルス(VSV)由来のいくつかのペプチドは、GRP94に結合すると示されていた。VSV8は、VSVのNタンパク質からの八量体(RGYVYQGL)であり、MHCクラスIKbを介して特異的T細胞に対して提示された、ウイルスの優性T細胞エピトープである[8]。MHCクラスIを有するこのペプチドの複合体の構造は、解明されている[9]。VSV8は、VSV Nタンパク質形質転換細胞株から精製されたGRP94から溶出され[10]、このペプチドは、精製されたGRP94にin vitroで直接結合することが示された[1]。ペプチドAは、前記ウイルスの糖タンパク質からの15−mer(KRQIYTDLEMNRLGK)であり、免疫原性であるとは知られていない[1、11、12]。しかしながら、このペプチドは、VSV Gタンパク質からのLSSLFRPKRRPIYKSを含む、他のペプチドがするように、GRP94に結合する[1]。SpeeとNeefjesは、光反応性側鎖を有する放射性ペプチドを用い、GRP94のペプチド優先度を探索した[13]。明らかなサイズ優先度は発見できず、40merでさえ前記シャペロンに結合した。特異性が観られた唯一の配列は、基本的に9merである、若しくはGRP94に相対的に弱く結合する2及び9位の酸性アミノ酸である。従って、GRP94との結合に互換性がある配列或いは構造的な特徴は、まだ知られていない。
【0156】
GRP94のペプチド結合活性に関する限られた量の情報は、低い結合の化学量論(約1%のペプチドのみがペプチドに結合すると示されている[14])と、遅い結合反応速度論[15]にある程度起因している。これらの技術的障害は、前記ペプチド結合部位とその調節の構造的決定の同定も妨げている。本発明者らは、ペプチド結合構成要素を構成し、この断片に対するペプチド結合が特異的であることを示す第3のGRP94のN末端は、pan−HSP90阻害剤であるラディシコール及びゲルダナマイシンによって阻害され、GRP94の1モルに対して1モルに近い結合化学量論を有することを示した[15]。加えて、本発明者らのデータによると、この部位の前記ペプチド特異性は、別のER常在ストレスタンパク質であるBiPの特異性とは異なることが示唆された[15]。この実施例において、本発明者らは、分子モデリング、生化学的特徴付け、及び部位特異的突然変異誘発を用い、N末端ドメイン内に位置した、或いはラディシコール結合部位の反対の表面にあるペプチド結合部位を同定し、His125が前記結合部位内に位置し、その結合活性に直接関連していることを示した。
【0157】
以下の材料及び方法は、実施例1の実施を容易にするために提供される。
【0158】
組換えタンパク質
N1−355:昆虫細胞内のN1−355の発現のための構成要素と、その精製工程は[15]に記載されている。組換えN1−355タンパク質は、N末端His6タグを含み、次にGRP94の成熟配列の最初の355アミノ酸が続き、シグナルKDELを標的にしたC末端ER1を含む。
【0159】
N34−355:N1−355の最初の33アミノ酸をコード化した配列は、PCRクローニングにより削除された。結果生じたPCR産物を、BamH1とXmaIを用いて、アミノ末端の因子Xa認識配列が続くHis6タグに付加するように、pQEXaベクター(Qiagen)に挿入した。前記プラスミドを、M15 E.coliにおいて形質転換し、中間ログ段階まで増殖させ、次に1mM IPTGと共に4時間、27℃でインキュベートし、タンパク質発現を誘導した。バクテリアを播種し、500mM NaClと20mMイミダゾールを含む20mMリン酸バッファー(pH7.2)で1%NP40(Sigma Chemicals)で溶解した。N34−355を、取り扱い説明書に従って、Ni−NTAカラム(Qiagen)の親和性クロマトグラフィーによって、界面活性剤溶解液から精製した。結合したタンパク質は、500mMイミダゾールで溶出し、透析し、濃縮した。このタンパク質は、10〜20%スクロースを含む25mM HEPES(pH7.2)、110mM KOAc、20mM NaCl、1mM Mg(OAc)2、0.1mM CaCl2(バッファーA)中、−80℃で保存した。必要な場合、His6タグを含むアミノ末端伸長を、取り扱い説明書に従って、因子Xa(Novagen)での消化によって除去した。反応混合液は、小さいNi−NTAカラムに通して再精製し、切断されたN34−355のみを含む流出液を使用した。前記切断されたタンパク質は、SDS−PAGE上で、親タンパク質よりも2〜3kDa小さく現れ、これは17アミノ酸の除去と一致していた(図示せず)。消化後、7merであるPYNGTGSは、Ala34或いは成熟N34−355配列の前に置かれる。
【0160】
ミニ−GRP94(例えば、アミノ酸34〜355、70〜221)のための、及び/若しくはミニ−HSP90組換えたんぱく質のための構成要素を、目的の配列のPCR増幅によって作成し、標準手順によって、発現ベクターpQE30(Qiafen Corp.)のマルチプルクローニング部位へクローニングした。6−ヒスチジン部位は、発現タンパク質のN末端にこのベクターによって提供され、親和性精製が可能になった。
【0161】
アミノ酸1〜210からなるHSP90断片を用い、GRP94で記載したように発現させた。正常HSP90配列を用いることに関して、本発明者らは、アミノ酸100〜134の間の領域に突然変異を誘導した(実施例1の図4を参照のこと)。部位特異的突然変異は、結合ペプチドと結合するGRP94におけるアミノ酸によって導かれ、これに限定されるものではないが、Thr90、Ile81、Pro82、及びGRP94配列にマッチするようなアミノ酸130の前の残基の挿入を含む。
【0162】
変異タンパク質:QuikChange Kit(Stratagene)を用いて、アミン鎖置換を、N34−355をコード化するベクターへ導入した。制限酵素解析によって解析する場合、変異はシークエンスによって検証した。このタンパク質は、バクテリア内で発現させ、上述したように精製した。
【0163】
ペプチド
ペプチドは、the University of Chicagoの施設で合成され、質量分析法によって検証された。2つのバインダーペプチドの配列は、VSV8としてRGYVYQGL(VSVNタンパク質から)、及びPepAとしてKRQIYTDLEMNRLGK(VSV Gタンパク質から)である。水の中に保存溶液を調整し、−80℃で保存した。ペプチド濃度は、BCAアッセイ(Pierce)をもちいて決定した。指示されたように、ペプチドは、IodoBead法(Pierce)によってイオジン化し、取り込まれなかったイオジンは、短いDowex Ag1X8カラムに通すことによって除去した。前記ペプチドの特異的放射線は、通常2x1014〜1x1015cpm/moleであった。
【0164】
ペプチド結合アッセイ
2種類の結合アッセイを用いた。溶液結合(solution binding)アッセイは、[15]に記載されたように実行した。簡潔には、組換えタンパク質を、飽和状態下でイオジン化ペプチドと共にインキュベートし、バッファーA中、0.8μlのパックP−30ビーズ(Bio Rad)を含むスピンカラムを通じて、遊離ペプチドの分離後、タンパク質−ペプチド複合体に関連する放射線を測定した。タンパク質なしのイオジン化ペプチドは、スピンカラム分離のバックグラウンド対照として使用された。
【0165】
固相結合アッセイ(テキスト中ではプレートアッセイとして言及されている)は、他の所で記載、検証されている(Biswas et al.,manuscript in preparation)。簡潔には、96ウェルプレート(Costar 3590 High Binding,Corning,ニューヨーク州)を、アッセイ前にペプチドでコーティングし、100μlのバッファーA中の組換えタンパク質を90分間結合させた。結合は、HRP−ウサギ抗His6(Amersham)によって定量し、色変化は、BioTekプレートリーダーを用いて415nmで観察した。N1−355及びN34−355は通常、0.7或いは1μgのインプットレベルで飽和に到達するので、このレベルのOD415値を1と定義し、全てのデータ点をそれを規準化した。300μMラディシコール(Sigma;DMSO中の保存溶液)による阻害を、特異性対照として用いた。
【0166】
GRP94に対するペプチド結合は、飽和可能で特異的であるので、オフ率はまだ非常に遅く[15]、Ka値は、分数占有曲線(Fractional occupancy curves)から図形的に推測した(タンパク質インプットの機能としての、飽和時のOD415値に関連した所定のタンパク質インプットのOD415値)。結合反応が均等でない場合、これらの値は、様々な変異の間の比較用パラメーターとして有効である。
【0167】
ゲル電気泳動
ブルーネガティブゲル電気泳動によるタンパク質高次構造の解析は、SDSなしのLaemliゲルシステムの5〜15%勾配アクリルアミドゲルを用いて、ネガティブバッファーに含まれたクーマシーブリリアントブルーG250(Sigma Chemicals)によって行われた[40]。チログロブリン、フェリチン、及びBSAを、分子量標準として用いた。
【0168】
タンパク質修飾
タンパク質への蛍光色素8−ANS(Molecular Probes,Eugene,オレゴン州)の結合は、500μlのバッファーA中の0.5μMの適切なN355構成要素を含む5μM ANSとインキュベートすることによって行った。
【0169】
アクリロダン(acrylodan;6−アクリロイル−2−ジメチルアミノナフタレン)修飾のために、組換えタンパク質(10μM)を、50mMアンモニウム酢酸バッファー(pH6.9)中の100μMアクリロダン(Molecular Probes)の存在下、40℃で一晩インキュベートし、遊離アクリロダンはスピンカラムを用いて除去した。N355−アクリロダンに対するペプチドの効果を測定する実験のために、ペプチドを最終濃度100μMになるように添加し、対照サンプルには等量のバッファーを添加した。この混合液に、10分間50℃の熱ショックを与え、500μlまで希釈し、蛍光測定をPTI蛍光測定器で実行した。サンプルは、ANSに対しては350nm、アクリロダンに対しては390nmで励起させ、発光スペクトルは、400〜600nmの間で収集した。このスリット幅は、励起に対しては2nmで、発光に対しては2〜6nmにセットした。
【0170】
DEPCでのヒスチジン修飾の前に、野生型或いはH125D N34−355(各800μg)を、バッファーA中の24ユニットの因子Xa(Novagen)と25℃で一晩処理し、因子Xaを除去するためにXarex Agarose(Novagen)を用いて、ペプチドを含むHis6を除去するためにNi−NTAアガロースを用いて再精製した。His−切断タンパク質は、バッファーA中の12μMのタンパク質及び2.8mMのペプチドとして、25℃で一晩、ペプチドA(若しくは溶液のみ)と反応させた。遊離ペプチドを除去し、バッファーを、P10スピンカラムを用いて、50mMアンモニア酢酸(pH6.8)に代えた。遊離N34−355及びタンパク質−ペプチド複合体の両方を、1mM DEPC(Sigma Chemicals)と25℃で反応させる、若しくは溶液対照としてEtOHと反応させた。15〜20分間インキュベートし、240nmでの反応を観察することによって決定されたように、完全なHis修飾が得られた[25]。指示されたように、カルベトキシヒスチジン(carbethoxyhistidine)は、400mMヒドロキシルアミンで15分間、25℃で処理することによって、ヒスチジンに戻される。
【0171】
質量分析法
サンプルは、アセトニトリルと1% TFAで飽和したシナピニン酸中、20μM最終濃度でまで希釈した。各サンプルの1〜2μlを、Ciphergen gold chipに吸収させ、空気乾燥した。質量は、SELDI−TOF ProteinChip Reader(Ciphergen)によって測定した。
【0172】
結果
GRP94−結合ペプチドは、188残基断片内に含まれる
以前、本発明者らは、切り取られたバージョンのGRP94(アミノ酸1〜355を含む)は、VSV主要T細胞抗原であるVSV8などの免疫学的に関連のあるペプチドと結合するための完全長タンパク質の能力を説明するのに十分であると証明した。本発明者らはさらに、この活性は、pan−HSP90阻害剤であるラディシコール及びゲルダナマイシンによって調節される対象であることを示した[15]。このペプチド結合部位をさらに位置付けるために、成熟タンパク質の最初の33アミノ酸を欠損した、より短いバージョンの組換えGRP94(N34−355;図1A)をクローニングし、E.coli内で過剰発現させた。この組換えタンパク質は、N1−355の結合曲線と非常に類似した結合曲線でVSV8と結合し(図1B)、これは、最初の33アミノ酸が、ペプチド結合活性には重要ではないことを示している。ペプチド結合部位を含むより小さい断片を定義するために、本発明者らは、N34−355の1つのトロンビン部位(C末端側Arn222)を利用し、N34−355とペプチドとの複合体はトロンビン切断後、無傷を維持するかどうかを検証した。消化後、2つのバンドがクーマシーブルー染色によって検出可能であり、これらは予想されたN末端22.4kDa、及びC末端14.6kDa断片と一致した(図1C)。断片の割り当ては、N34−355のN末端部に対して(抗His60)、若しくはC末端近くの残基261〜276(9G19[16])に対して特異的な抗体によって確認した。GRP94−ペプチド複合体は、SDSに対して耐性であり[1]、ペプチド結合タンパク質断片は、SDS−PAGE後、結合イオジン化ペプチドの放射線活性によって検出できる。トロンビンの非存在下において、非切断複合体に一致する放射線活性バンドが検出可能であった。部分的トロンビン消化の後、正確な分子量である22.4kDaの付加的な放射線標識バンドが、SDS−PAGE分離後に検出でき、一方、他の14.6kDa断片は標識されなかった(図1C)。従って、これらのデータより、GRP94のアミノ酸34〜222は、ペプチドの結合を維持するのに十分であることが示された。
【0173】
GRP94−ペプチド複合体の分子モデリング
本発明者らは、次に以前に公開したデータを利用し[17][18]、潜在的ペプチド結合部位のコンピューターモデルを作成した。第1に、本発明者らは、HSP90のN末端ドメインの結晶構造(PDB files 1YER and 1A4H)を用いて、エネルギー最小化をされた、GRP94の高度相同性セグメント(酵母HSP90とマウスGRP94の間で51%の相同性)の予想構造を産生した。第2に、本発明者らは、MHCクラスIと関連して決定された(2MHC;[9])抗原性ペプチドVSV8の既知構造を用いた。第3に、GRP94に結合する場合、VSV8の高次構造は、MHCクラスIと結合したときのその高次構造と本質的に同様であるという仮定を単純化するために、本発明者らは、the docking algorithm PatchDock[19]を用いて、潜在的結合部位を予想した。前記アルゴリズムは、リガンド分子と高度にゲノム的形状相補性を有する位置をタンパク質表面で検査し、前記リガンドをこれらの位置にドッキングさせる。そのようなドッキング解法は通常、異なるタンパク質の溝においてクラスターを形成し、この溝における結合は高度な形状相補性を可能にする。加えて、VSV8とMHCクラスIとの原子接触に関する統計学的データを収集し、前記ドッキング解法を評価するために用いた。形状相補性の観点から一番高い評価の解法、及び統計的評価を選択した。
【0174】
ペプチド結合部位はラディシコール結合ポケットとは区別される
7つの最適な解法(ソリューション)は、2つの潜在的ドッキング部位にマップされた。1つの部位は、ラディシコール結合ポケットと部分的に一致し(図2A)、前記タンパク質において最大の溝であった。以前のデータによるとラディシコール及びペプチドが同時に結合できるので[15]、この部位は考えられそうもない。従って、本発明者らは、ラディシコールには結合しない変異がまだペプチドに結合できるかどうかを検討した。酵母HSP90のN末端ドメインとラディシコールとの間の複合体の決定構造[18]、及びHSP90とGRP94の間の類似性[19]に依存して、本発明者らは、残基Asp128とGly132を同時に、それぞれAsnとAlaへ変異させた。HSP90におけるAsp93(GRP94におけるAsp128に対応する)は、ラディシコールと重大な水素結合をなし、Gly97は阻害剤に対して固くパッキングし、前記結合ポケットの重要な位置であるヘリックス4位に対して役立つ[17、18、20]。HSP90のD93N変異体は、ATPとは結合せず[21]、GRP94の二重変異体は、ラディシコールと結合できないと予想された。組換えN34−355 D128N、G132A変異体(RadR)は、可溶性であり、ほぼ単量体であり、野生型タンパク質のように、抗体9G10に対する構造感受性エピトープを発現した。前記RadR変異体がラディシコールに結合するかテストするために、本発明者らは、2つの機能的テスト(詳細は[15]を参照のこと)である、9G10エピトープの欠損、及びネガティブブルーゲルにおいて移動性を増加した小型高次構造の獲得を用いた。両方の変化は、ラディシコール結合に対するタンパク質の高次構造変化に影響を及ぼすように見られた[15]。結果生じた変異体は、9G10エピトープの連続してさらすこと(データは示さず)、及び小型高次構造の獲得の欠損によって判断されたように、ラディシコールでの処理に屈折性を有した(図3A)。ラディシコール結合の欠損にも関わらず、WTタンパク質と比較して明らかな会合定数における少しの減少のみで、前記RadRタンパク質はペプチドと効果的に結合した(図3C)。ラディシコール結合の欠損と一致して、RadR変異体のペプチド結合活性は、ラディシコールでの前処理によって阻害されないが、野生型N34−355の活性は著しく阻害された(図3B)。本発明者らは、N34−355のペプチド結合部位がラディシコール結合部位と異なる[15]だけでなく、阻害剤結合の消滅はペプチドへ結合する能力には影響を与えないと結論付けた。
【0175】
ペプチド結合は2つの疎水性プローブに対する結合部位の環境に影響を及ぼす
他の潜在的ペプチドドッキング部位は、βシートの反対側にあり、ここには8つのβシートからできたサドル様表面がある。このサドルに対するサイドバリアは、2つのループ(Asp170〜Arg222、及びLys119〜Asn122)であり、モデル配列の末端であるストランドH(Val260〜Ser263)のプラス部分によって提供される(図2B)。4つの最高の評価解法は、VSV8がこのサドル内にうまくはまると予想した(図2B)。ペプチドは、ストランドE〜Hを横切り、βシートの長軸に相対して約70度の角度ではまり、表面接触のほとんどはβシートとであった。
【0176】
この推定上のペプチド結合部位は、深い疎水性ポケットと近接している(図4)。へリックス及びストランドHを導いているループからと同様に、ストランドE、F,G、及びHからの疎水性残基は、このポケットを形成すると予想される。βシートのエッジストランド(H)と前述のループは、このポケットへの入り口の一部を形成し(図4B)、疎水性色素bis−ANSの結合部位を導くと示された[22]。従って、本発明者らは、このポケットは、GRP94に結合すると報告されていた[12、22]、例えばbis−ANS、ANS、アクリロダン、及びNile Redなどの様々な疎水性プローブに適応できると推測した。ANSが疎水性環境において結合されると予想された[23]ように、ANS標識化N1−355の発光スペクトルは、474nm周辺で最大になる(図5A)。ANS標識化N1−355をペプチドAとインキュベートした場合、ANS蛍光の強度は減少し、その発光最大値はわずかにブルーシフトであった(図5A)。そのような減少したANS傾向は、直接的に若しくは構造変化を介して、フルオロフォアの環境に影響を及ぼす、ペプチドA結合と一致した。或いは、ANS及びペプチドが同じ結合部位に競合した場合、ANSの放出に起因するものになるであろう。後者の説明は、ANS発光のブルーシフトに起因して外されるので、本発明者らは、ペプチドは疎水性ポケットに近接して結合するという意見に賛成する。
【0177】
予想されたようにペプチドが結合した場合、他の疎水性プローブの環境にも影響を及ぼすであろう。ストランドGは、N1−355中に単一のシステイン残基(Cys117)を有しており、この側鎖は前記疎水性ポケットに方向を向いているので(図4)、本発明者らは前記タンパク質をCys−特異的ナフタレン誘導体アクリロダンで修飾した[12]。アクリロダンは水溶性溶液中では非常に低量子収量であるので、その蛍光は、チオールとの反応によって著しく増加し[24]、次にその蛍光は、疎水性のその環境に対して非常に感受性を有していた。図5Bに示されたように、390nmで励起した場合、アクリロダン−修飾N1−355は、フルオロフォアが極度な疎水性の環境にいた場合に予想されたように、474nm周辺で最大の発光をした。遊離アクリロダンは、520nmで最大値を示した。6Mグアニジン塩酸塩と共役したN1−355−アクリロダンの変性は、474nmでの蛍光を消滅し、6Mグアニジン中の遊離アクリロダンと同じ発光最大値を生じ、これは観察された蛍光はタンパク質の三次構造に依存することを示している。共有結合性修飾であると予想されたように、変性N1−355−アクリロダン共役の蛍光強度は、遊離アクリロダンに比べて著しく高かった(図5B)。これらのスペクトル特性は、Cys117ni共有結合的に結合した場合、アクリロダンが疎水性ポケットに位置付けられるという予想を実現させる。従って、N1−355のアクリロダン修飾は、分子変化の検出用に定義された蛍光プローブを提供する。
【0178】
アクリロダンでの修飾がN1−355のペプチド結合に影響を及ぼすかどうかをテストするために、本発明者らは、アクリロダン−修飾タンパク質、及び非修飾タンパク質を、飽和量のイオジン化VSV8と共にインキュベートし、それぞれに対するペプチド結合を測定した。アクリロダン−共役タンパク質は、前記非修飾タンパク質のように、本質的にはペプチドを結合でき(図5C)、これはアクリロダンが結合活性を干渉しないことを示している。重要なことには、アクリロダンの蛍光は、ペプチドの存在下で部分的に消光された(図5D)。これらのデータは、図2Bのモデルと十分一致し、ペプチド結合部位は異なってはいるが、前記疎水性ポケットと近接していると予想された。しかしながら、これらのデータは、ペプチド結合がアクリロダンと近接することに起因する消光と、より離れた部位へのペプチド結合の結果としての高次構造変化に起因する消光とを区別できない。しかしながら、本発明者らは以前、ペプチド結合は阻害剤結合と同様な構造変化を誘導せず、全体的な構造変化と相反して、N355のプロテアーゼ感受性も変えない(データは示さず)ことを示した[15]。これは、以下に示したデータ(表1)と共に、Cys117に近接したペプチド結合が好ましいことを示している。
【0179】
ペプチド結合はヒスチジン残基の修飾に対して感受性を有している
ペプチド結合部位を定義するための第3のアプローチは、ペプチド結合がpH感受性であるという観察に由来している(図6A及び参考文献[1])。結合はpH7.2以上で
阻害され、pH6.0周辺で刺激される。加えて、結合は、イミダゾールに感受性を有しており、6mMイミダゾールの存在下でペプチド結合が半分に減少する(図6B)両方の観察によって、ヒスチジン残基がGRP94によるペプチド結合に関与していることを示された。ジエチルピロカルボネート(DEPC)は、特定の条件下、高度に特異的な方法で、ヒスチジンのイミダゾール環をN−カルベトシキレート化し(N−carbethoxylates)[25、26]、従って、ヒスチジンの役割を定義する場合に有用である。エタノール溶液のみは阻害作用がない一方で、N34−355のDEPC処理(His6タグの切断後)は、阻害剤であるラディシコールと同じ位効果的に、前記タンパク質のペプチド結合活性を消滅させる(図6C)。ヒドロキシルアミン(HA)処理は、DEPC修飾タンパク質の活性を回復し(図6C)、他のアミノ酸ではなく、修飾されたHis残基のみが、活性の変化に重要であった。
【0180】
His125はペプチド結合に重要である
N34−355タンパク質は4つのHis残基を有しており、125位、194位、200位、及び353位である。前記モデルに基づいて(図2B)、His125は、ペプチド結合部位に最も関与しそうなヒスチジン残基であると判断された。従って、本発明者らは、His125を、Asp(電荷が変わる)に、或いはTyr(イミダゾール環がフェノール環に置換する)に変異させた。変異H125Dタンパク質は、ペプチド結合活性を有さず、H125Yタンパク質は部分的な活性のみを有していた(図7A)。結合反応が非常に遅い速度[15]であり、従って平衡ではなく、ヒルプロットはその親和性を計算するためには用いることができないが、分数占有プロットは、会合定数を測定するために用いることはできる。野生型及びH125Yに対して計算された分数占有は、super−imposableであり(図7B)、野生型とH125Yタンパク質の会合定数の間に著しい違いは見られなかった。H125Y変異体の飽和レベルは野生型の飽和レベルの約0.6であるので、この解析は、H125Y変異体が、活性割合による結合によってというよりも、前記タンパク質の活性割合に影響を及ぼすことを示唆していた。結合活性の欠損は、前記変異タンパク質の全体的な誤った折り畳みに起因するものではない。第1に、両者は可溶性タンパク質として精製され、野生型タンパク質と類似のクロマトグラフィー特性を示した。第2に、H125D及びH125Yの両方は、モノクローナル9G10エピトープを発現した(データは示さず)。第3に、図7Cにおけるネガティブゲル移動テストによって示されたように、H125Dは、阻害剤であるラディシコールへ結合し、その高次構造を変えることによってそれに反応するためのその能力を保持した。同様のテストによって、H125Y変異体の約半分はラディシコールの非存在下でさえ、速く移動する高次構造内に見出されることが示されており、これはH125Y変異体は、活性タンパク質の割合を減少するという結論を支持している。しかしながら、正確な移動度(約50%)を示すこのタンパク質の集団は、ラディシコール結合誘導性構造変化できる能力があると明らかになった(図7C)。この集団の相対的な存在量は、H125Yのペプチド飽和レベル(野生型のペプチド飽和レベルの約0.6、図7A)と一致している。従って、N34−355の125位のチロシンは、活性タンパク質の割合が減少する間、ペプチド結合それ自体は妨げない。ヒスチジン及びチロシンと対照的に、125位のアスパラギン酸は、ペプチド結合を消滅するので、本発明者らは、125位残基の性質はペプチド結合に重要であると提案し、これは構造モデルの強力な予想を確認するものである。
【0181】
His125は結合ペプチドに物理的に近い
上述したデータによると、Cys117の環境はペプチド結合に変化をもたらし、DEPCによる若しくは電荷変化変異によるHis125修飾はペプチド結合を消滅することが示されているけれども、それらは高次構造変化の伝達の観点で説明され、従って物理的関連は形式上示していない。従って、本発明者らは、ペプチド保護実験においてDEPC修飾手順を用いた。DEPC修飾の程度は、ペプチド結合N34−355及びペプチドなしN34−355(His6タグが除去された所から)の間で比較され、ペプチドがモデル通りに結合された場合を推測すると、修飾からHis125を保護するべきである。前記タンパク質は、SELDI−TOF質量分析法によって解析された(表1)。各N−カルベトキシル化によって、修飾されたHis残基当たり72Daが付加される。DEPCで修飾されたN34−355の質量は、非修飾タンパク質と比較して、289Daに増加し、これは全てのHis残基の修飾から予想された通りである。Hisのみが修飾されたことは、ヒドロキシルアミンでの後処理による質量増加の可逆性によって示された[26]。N34−355は、DEPCでの修飾前にペプチドAde飽和され、得られた質量は、ペプチドの非存在下の場合以下の73Daであり(表1)、これは1つの残基がDEPC修飾から保護された場合に予想された通りである。DEPC修飾タンパク質のタンパク質分解性断片の質量分析により、保護残基はHis125であると確認された(データは示さず)。H125D変異体が同様な方法で用いられた場合、その質量は、ペプチドが存在の有無に関わらず、DEPCでの修飾後211〜215Da増加し、これは3つのHisのみを有し、ペプチドに結合できないタンパク質から予想された通りである(表1)。これらの修飾実験によって、4つのヒスチジンの修飾であり、His125のみがペプチド結合に関与しており、これは前記ペプチドに物理的に関与していることが立証された。
【0182】
【表1】
【0183】
議論
GRP94のシャペロン活性、若しくはペプチド特異的T細胞反応を刺激するその能力を理解するための骨格としては、どのようにそれがペプチドに結合するかを解析することである。我々の以前のデータ[15]と共に、本発明者らは、シャペロンGRP94のペプチド結合部位は、N末端ドメインの大きな溝内で、ヌクレオチド/ゲルダナマイシン/ラディシコール結合部位の反対側に位置付けられていることを示した。このペプチド結合部位は、コンピュータードッキングアルゴリズムによって予想され、以下の実験的観察はその予想からなっている。a)1〜33及び223〜355の残基は、結合に使用しない場合、結合ペプチドの保持に対して不必要である、b)ペプチド結合は天然では疎水性ではなく、むしろこの部位の親水性性質に一致している、c)疎水性ポケットに位置付けられたCys117は、ペプチド結合によって影響を受けるが、ペプチド結合を阻害することなく共有結合的に修飾され得る、d)阻害剤であるラディシコールに対する結合部位の変化はペプチド結合を妨げない、e)125位残基の性質は、ペプチド結合にとって重要であり、His−125は、ペプチドが結合された場合、DEPCでの修飾から保護される、f)N1−355における他の3つのヒスチジンは関与してないように見える。
【0184】
His125に対するAspの置換は、前記タンパク質のペプチド結合活性を消滅するには十分である。ペプチド結合を減少或いは消滅した変異体は結合ポケットの外側に位置し、タンパク質高次構造に影響を及ぼすように作用する一方、本発明者らは、ペプチドが結合した場合、小分子DEPCによる修飾からの保護のため、His125及びペプチドの間の物理的関連を示した。従って、本発明者らは、N末端ドメインの湾曲したβシートが、少なくともin vitroではこのシャペロンのペプチド結合部位であり、単なる調節部位ではないと提案する。突然変異によるアミノ酸のより広範囲な調査、及び結合部位の範囲をマップするための他の生化学的方法が進行中である。
【0185】
コンピュータ生成モデルがペプチド関連性のモードを予想する時も正しい場合、結合は、完全長のペプチドと接触して溝の軸に沿ったものであり、これはペプチドとMHCクラスIタンパク質の溝との相互作用を暗示するものである。提案された結合部位のサドル様配置は、GRP94結合ペプチドが前記溝の軸に沿って‘スライド’することを可能にし、これはVSV8は、真ん中の8アミノ酸がVSV8配列であるペプチドのVSV19と同様の反応速度で結合するという観察を明らかにするものである。結合部位のこの観点は、同様の親和性を有して、8mer〜40merの異なる長さのペプチドと結合するGRP94の能力も説明する[1、13、15]。
【0186】
シャペロンは一般的に疎水性ペプチドを認識すると考えられているが(実際、HSP70ではそうである)、GRP94によって認識されるペプチドの特徴は、異なるように観られる。ここで同定されたGRP94溝は、塩基性側鎖(リシン及びヒスチジン)、及び疎水性側鎖をほとんど持たないヒドロキシル性側鎖(例えばスレオニン)に沿っている。本発明において用いられた2つのバインダーペプチドも、完全に親水性であり、それらの結合はpHに対して感受性を有しており、高塩濃度で解離した[15]。従って、少なくともこれらのペプチドの結合は、疎水性ではなく。極性及び静電気的相互作用によって決定されるようである。この観察も、His125変異体の性質と一致しており、これは、イミダゾール環のTyr側鎖での置換は部分的結合を可能にし、Aspでの置換は完全に結合を阻害したように、結合に影響を及ぼした。
【0187】
ペプチド結合部位に対する床を形成するβストランドは、ラディシコール結合ポケットとは分離している。前記ドメインの中心にあるβシートは、N末端ドメインの両方の活性において役割を果たしているように見える。これは、このβシートのストランドFに対して、ここに明らかに示されている(図4A)。これは、少なくとも1つの残基であるAsp128を含み、この側鎖はラディシコールに向けられており、ラディシコールへの結合に重要であり、これはHSP90との相同性から予想された通りであり[18]、この研究においても直接的に示されている。同じストランドFは、His125も内蔵し、ペプチド結合におけるこの中心的役割は、ここに説明されている。それらは近接しているにも関わらず、阻害剤と接触するこのストランド側の残基の置換は、ペプチド結合を有する前記すとランドの別側における接触には著しく影響せず、その逆もまた同じである。本発明者らによると、ラディシコール−屈折変異体は、ペプチドと結合することができ、ペプチド結合における変異はラディシコールに対してまだ正常に反応することが示された。ペプチド結合は、ラディシコールの結合によって阻害され得るが、前記阻害剤はその結合部位を最初に占有しなくてはならない[15]。これは、ラディシコールの結合は、βシートを横切る或いはペプチド結合溝を変えるようなより間接的な、一方向性の変化を伝達する。
【0188】
HSP90の結晶構造は、ゲルダナマイシン/ラディシコール/ATPの存在下及び非存在下の両方で解析され、構造におけるその違いは、ヌクレオチド部位の占有によって誘導された高次構造変化を定義するのを助ける[17、18、20、29]。2つの形態は、全部で約35残基である、3つのらせん体及びループの点で異なり、これらの大部分はヌクレオチド結合ポケットの増強を可能にする若しくは抑制するものである。GRP94の対応する領域は、アミノ酸135〜174である(図4A)。ゲルダナマイシン或いはラディシコールによるペプチド結合の阻害を説明するような、βシートにおける明らかな違いはない。従って、観察された阻害は、微妙の変化に起因する、若しくは135〜174領域から前記分子の反対側までの構造変化のより間接的な伝達に起因するものである。
【0189】
GRP94のペプチド結合部位の同定は、それらはペプチドに結合すると報告されていたので、全てのHSP90タンパク質に直接関連しているが、それらの結合部位は未だ一つもマップされていない。Scheibelらは、酵母HSP90のN末端210アミノ酸は、ゲルダナマイシン−及びATP−感受性で[30]、ペプチドに結合するのに十分な単量体ドメインを形成することを示し、それはここに記載されたような最小GRP94コンストラクトによく似ている。N末端ドメインへの負に電荷したドメインの付加は、特異性に影響を及ぼすことなく、ペプチド結合親和性を増加する[31]。酵母HSP90とマウスGRP94との間の別の類似点は、ペプチド結合の性質が明白に非平衡であることである([15、31]及び本発明)。サドル様結合部位に寄与する残基の比較によって、His125は全てのHSP90を欠損し、ほとんどのHSP90配列はThrに置換されていることが示された。HSP90の1〜210ドメインは、より長いペプチドより緩くVSV8に結合するため[31]、HSP90のN末端部位は、ペプチド結合においてGRP94ほど効率的ではない、若しくはそのペプチド特異性が異なる可能性がある。
【0190】
GRP94によるペプチド結合を他のペプチド結合部位と比較することは有益である。HSP70タンパク質において、ペプチドは、βサンドイッチドメインからのループによって描かれたβシートの先端にも結合する[32、33]。このペプチドは、3つのβストランドに対して垂直に接触し、その結合溝は疎水性アミノ酸及び極性アミノ酸の両方を有しているが、電荷残基は有していない[32、33]。相対的に、GRP94ペプチド溝は広く、ほとんどの極性残基を作り出し、前記ペプチドは、大体3つのストランド(ストランドG、F、及びH)の軸に沿って接触している。GRP94のペプチドとの相互作用は、MHCタンパク質と共通したいくつかの特徴を有している。MHCクラスI及びクラスIIの両方において、会合定数は低く、オフ率は非常に遅い。GRP94‐ペプチド複合体は、非常に安定で、SDSに対してさえも耐性を有し、多くのMHC−ペプチド複合体のようである[34]。KbクラスIタンパク質との複合体の場合、この研究に用いられた同じVSV8ペプチドは、3−ストランドβシートを横切った約450位に位置し、GRp94結合溝であると提案した形態(トポロジー)と同様な形態である2つのαらせんの間に束縛された[9]。面白いことに、βシートの別面上の残基と阻害剤であるゲルダナマイシン或いはラディシコールとの重要な接触をもたらすストランドFのように、ペプチドと相互作用するMHCクラスIの同じ3つのβストランドは、前記シートの別面上に、前記タンパク質のβ2mサブユニットとの重要な接触も提供する[35]。MHCアリルに依存して[36]、β2mにおける変異は、そのような接触を変え、βシートの別面上に負荷したペプチドに影響を及ぼすことができる[37]。
【0191】
MHC−ペプチド複合体は、次に続くT細胞受容体との接触が到達し利用できるように、結合ペプチドの1面を残すように設計される。一方、HSP70タンパク質において、結合ペプチドは、可逆的なラッチとして作用するαへリックスドメインによって、所定の位置に埋められ、ロックされ、その動きは、ヌクレオチド誘導性構造変化によって調節される[33]。本発明のデータは、GRP94−ペプチド複合体がモデルのどちらか一方に似ているかどうかを決定するには十分でない。N末端ドメインの少なくとも1つの活性に必要とされ、N末端ドメインへの阻害剤の結合によって誘導される高次構造変化に関与するため[15]、第2のGRP94の酸性ドメインはペプチドのロッキングシステムを提供する可能性がある。最近公開されたGRP94のN末端残基48〜316の構造[38](その論文で用いられた命名法では残基69〜337)は、結合ペプチドを束縛するように作用する明らかな部分はないと示していた。一方、酸性ドメインは、結晶構造では不規則であり、従って、HSP70タンパク質の長いへリックスと同様に、ペプチド結合ポケットへの接近を潜在的に制御できる[33]。
【0192】
この研究で同定されたペプチド−結合部位は、GRP94のT細胞刺激活性において重要な役割を演じる。N末端GRP94断片は抗原提示細胞と結合し、T細胞を活性化できると示したデータと合わせて[39]、本発明者らのデータは、免疫学的に関連するペプチドはこの部位で結合すること、及びGRP94のN34−355断片はT細胞のペプチド特異的活性の原因となるように見えると示していた。この部位はヌクレオチド部位や疎水性ポケットに結合するリガンドによって制御され得るので、この部位へのペプチドの結合は、まだ発見されていない細胞内補助因子によって制御され得る。
【0193】
【表2】
【0194】
【表3】
【実施例2】
【0195】
小胞体シャペロンGRP94はマウス原腸形成及び中胚葉誘導に重要である
小胞体シャペロンGRP94は、遍在的に発現されるが、クライアントタンパク質はほとんど知られておらず、それらは重要な発生チェックポイントには関与していない。マウスGRP94遺伝子の標的破壊によって、それは胚発生において重要な機能を有していることが示された。Grp94−/−胚は、発生の卵筒段階である、妊娠7日目に子宮内で死んだ。それらは、その段階で正常に生じる主な分化イベントである、中胚葉、原始線条、及び原始羊膜腔を発生することに失敗し、中胚葉誘導に関与する重要な遺伝子を発現しない。発生上の欠損は、母系GRP94の希釈に起因するものではなく、前記シャペロンの活性を反映しているようである。Grp94−/−細胞は、それらの野生型対応物と同じペースで分裂した。さらに、低グルコース張力による既知のGRP94の転写性制御にも関わらず、変異ES細胞は、低グルコース培地において野生型と同様に増殖した。一方、変異細胞は、血清欠乏、及びカルシウム恒常性の摂動に対してさらに感受性を有していた。これらのデータは、GRP94の必要条件は非常に選択的であると示している。本発明者らは、中胚葉誘導に重要であるいくつかの分泌或いは細胞表面タンパク質の適切な発現はGRP94に依存しており、細胞−細胞相互作用が胚細胞の適切な運命を特定する場合、このシャペロンの非存在下ではこれらの提示が非効率的である。
【0196】
分化及び器官形成のほとんどは天然代謝性ストレス反応が関与していると考えられているけれども、哺乳類発生の間のGRP94発現に関してほとんど知られていない。GRP94転写は、卵母細胞及び2細胞期胚を含んで、遍在的に見出されている[6]。タンパク質レベルで、未分化F9細胞には検出されていないが、一方、主要なERストレスタンパク質であるGRP78/BiPは、構成的に発現されていることが見出されている。しかしながら、Ca++イオン透過孔によって誘導されたストレスに対して、GRP94及びGRP78タンパク質両方の発現は、生体分化細胞の場合と同様に誘導された[6]。GRp94であるように思われるが厳格には同定されていない、100kDaタンパク質は、早ければ4細胞期の発生中のマウス胚の細胞上に発現されていることが示された[7]。卵筒段階で7から8.5日胚では、発現は胚性及び胚体外外胚葉において最も高く、内臓内胚葉においてはより低くなる[8]。さらに、原始線条から現れる中胚葉細胞は、陽性であった[7]。後期(E9.5〜13.5)では、器官形成の間、GRP94は、構成的に発現され、発生中の心臓、神経上皮、及び外胚葉組織の表面内に最も顕著に局在していることが見出された[9]。これらの発現パターンは、発生中の胚におけるエネルギー代謝に関連しているとしばしば考えられており、GRP94発現は、ストレスタンパク質と同様に、その機能を最も要求されている時期と場所で最大である。
【0197】
GRP94の重要な機能は、いくつかの遺伝的方法によって研究されていた。アンチセンス[10]若しくはGRP94レベルのリボザイム仲介性欠乏[8]は、GRP94及びGRP78/BiPタンパク質両方に影響を及ぼし、ストレス条件によるそれらの誘導が阻害され得る場合、それらの基本的な発現は変わらず、細胞成長と増殖を支持するには十分である。GRP94は、多くのその転写的制御因子をGRP79/BiPと共有している[11]。GRP94欠損マウス前Bリンパ球株である70Z/3は、リポ多糖類(LPS)刺激に対する感受性に基づいてRandowとSeedによって単離され[12]、培養で増殖可能であることが示された。シロイヌナズナ(Arabidopsis)において、ヌルgrp94変異体は、前記タンパク質が植物発生において重要であることを示している[13]。ナズナ(Shepherd)変異体及び70Z/3細胞株の両方は、GRP94の欠損は細胞致死ではなく、むしろ選択的な過程に影響を及ぼすことを遺伝的に示した。これらの研究及び酵母からGRP94の非存在は、GRP94発現と複数の細胞性(multi−cellularity)との間の相関に一致する。
【0198】
上述の結論は、GRP94を他のほとんどのシャペロンと区別し、そのクライアントタンパク質が少数である、といったGRP94の別の例外的な特徴に恐らく関連している。GRP94欠損株において、表面発現するものであるが、インテグリン及びトール様受容体ではないタンパク質が影響を受けることが示された[12]。同様に、本発明者らは、免疫グロブリン生合成は、GRP94の薬理学的な阻害に対して感受性を有しているが、MHCクラスIの生合成ではそうではない。それらの折り畳みの間にGRP94が関連していると知られている分泌及び膜タンパク質の間では、同定可能な共通の構造因子はない。従って、タンパク質構造に基づいてGRP94基質を予想することは現在不可能である。GRP94の明らかな選択性のため、マウスにおいてGRP94発現を除去することの影響を決定することが重要であった。
【0199】
本発明者らは本明細書において、マウス組織におけるその遍在性発現にも関わらず、GRP94に対するマウス遺伝子を標的化することは、重大な発生チェックポイント、すなわち中胚葉の誘導における特異的な欠陥を有する胚性致死な表現型を生じると報告する。
【0200】
以下の材料及び方法は、実施例2の実施を容易にするために提供される。
【0201】
grp94のクローニング及びマッピング
Srivastavaら[41]は、10番染色体に位置する1つのマウスGRP94コード化遺伝子が存在するが、部分的なゲノム配列が利用可能であることを示した。本発明者らは、マウスgrp94のエクソン/イントロン構造をマップするためのガイドとして、ブタgrp94遺伝子[42]を用いた。マウスGRP94の重複部分をコード化する9つのファージを、Sv129ゲノムλファージライブラリー(Strategene)から単離し、それらのgrp94遺伝子含有量をエクソンPCR解析によってマッピングした。約23kbのそれぞれのゲノムDNAを有するファージ(データは示さず)は、標的ベクターを構成するために用いた。
【0202】
標的コンストラクトは、ベクターpPNT1内に構築した[43]。エクソン8と4、及びエクソン8の間のイントロンから伸長する8kbのEcoRV断片を、右腕として用いた。左腕はPCR増幅された完全な配列であった。これは、5’UTRから始まりエクソン3内部で終わる、1.5kbのgrp94を含む。この2つの腕(アーム)は、転写の方向とは逆方向に挿入されたネオマイシン耐性カセットによって分離した。これは停止コドンを形成し、成熟GRP94タンパク質の781アミノ酸の61のみ(+ベクター由来の付加的なアミノ酸3つ)を含むタンパク質産生が予想される。前記標的コンストラクトであるgrp94配列の上流には、ネガティブ選択のためにチミジンキナーゼ(tk)遺伝子を含有した。
【0203】
grp94遺伝子標的化マウスの生成
前記標的コンストラクトを、C1 ES細胞(Dr.B.Hendrikson(the University of Chicago)から寄贈された)へ電気穿孔し、ガンシクロビル及びG418の両方に対して耐性なクローンを単離し、増殖させた。12の正確に標的化したクローンを同定し、これは、非標的化ESクローンの約1/4の割合に相当する。これらのクローンの6つを、さらに増殖させ、偽妊娠C57B1/6 WT雌マウスからの胚盤胞に注入した。前記胚盤胞を移植し、その雌マウスはある期間まで成長させ、キメラ動物を作成した。次に、75%以上の茶毛を有する7匹のオスキメラ子孫を、WT C57B1/6雌マウスと交配し、結果生じた子孫の遺伝子型を同定した。ヘテロ接合体を、F1世代を生むために交雑(inter−cross)した。破壊された遺伝子の生殖系列伝達を有する2つの独立マウス系統を派生させた。両系統の表現型は、区別不可能であるので、ここで報告したデータは、系統18から得られたものである。このデータは、少なくとも6世代に亘って、C57B1/6バックグラウンドと戻し交雑されたマウスからのものである。
【0204】
標的化マウスからのES細胞株の生成
grp94−/−交雑からのES細胞を、30−1/2"ゲージ針を用いてM2培地(Sigma)でE3.5妊娠雌の卵管を流すことによって単離した。胚盤胞は、完全ES培地(DEME、20%FCS、Pen−Strepグルタミン、β−メルカプトエタノール、非必須アミノ酸、Hepes。1000μ/mlESGRO)中でゼラチンコーティングした組織培養ディッシュに播種した。内部細胞塊を4日後に単離し、照射されたマウス胚性線維芽細胞上に増殖させた。
【0205】
細胞増殖及び生存アッセイ
増殖アッセイは、CellTiter96 Aqueous Non−Radioactive Proliferation assay kit(Promega)を用いて実行した。増殖アッセイを実行する前に、細胞を2週間、異なるレベルのグルコースを含む培地中で増殖させた。無グルコースの培地、及び高グルコース培地(4.5g/L)は、Invitrogenより購入した。いくつかの実験において、細胞は、1mMEGTAの存在下で増殖させ、その増殖は細胞分裂の数で定量化した。血清欠乏実験として、60%コンフルエンス或いはそれ以上で既知数の細胞をプレーティングし、前記細胞がゼラチンコーティングプレートに適切に接着したら、増殖培地を無血清培地に交換し、そのプレートを洗浄し、残った接着細胞をトリパンブルー(Fisher)除去でアッセイした。剥離した細胞は、ほとんどがトリパンブルー陽性であり、再びプレーティングしても接着できなかった。タプシガルジン感受性アッセイのために、細胞培養を、0.25〜3μMの薬剤濃度で3〜24時間処理した。
【0206】
免疫組織化学及びホールマウント原位置ハイブリッド形成
脱落膜膨張(Decidual swellings)を、子宮筋組織から単離し、4℃で一晩、4%パラホルムアルデヒド内で固定した。この組織をパラフィンに包埋し、5〜7μmで切片化し、Superfront slides(Fisher)上に載せた。免疫組織化学法のために、このスライドを脱蝋して、H2O2で固定し、10mMクエン酸(pH6.0)で10分間煮沸し、9G10(Neomarkers)での抗体検出の前に室温に冷却した。H&E染色のために、スライドは脱蝋し、再水和し、Harris’ hematoxylin(Sigma)で4分間染色し、水道水できれいになるまで洗浄し、脱色するために1%酸アルコール(70%エタノールに1% HCl)に浸し、流水で洗浄し、100%エタノールに浸した。次にスライドを3〜4回、エオシン−phloxine(Fisher)に浸し、脱水し、キシレン(Fisher)できれいにし、載せた。脾細胞のFACS解析を、標準的な手順を用いて、蛍光抗−IgM及び抗−CD3モノクローナル抗体(Pharmingen)で実行した。
【0207】
ホールマウント原位置ハイブリッド形成のために、胚(E6.5及びE7.5)を新鮮に単離された脱落膜から解体し、45分間冷4%パラホルムアルデヒドで固定し、[44]に記載されたように処理した。簡潔には、胚を再水和させ、H2O2で脱色し、プロテインキナーゼKで透過性にし、再固定した。ホウ化水素ナトリウムで処理した後、胚を洗浄し、63℃で1時間、プレハイブリダイズした。DIG標識プローブ(2μg/ml)(Company for DIG)を、添加し、ハイブリダイゼーションを63℃で20分間、実行した。厳密性が増加した時点での洗浄後、プローブ結合をPurple AP(Roche)で検出した。胚を、T−100 タングステンフィルム(Kodak)を用いた精密顕微鏡を通じて写真を撮った。
【0208】
Brachyury(T)を除く全てのリボプローブは、pBluescriptIIKS+(Stratagene)内にクローニングされたcDNAからT3 RNA ポリメラーゼ(Promega)を用いて合成された。brachyury鋳型コンストラクトはDr.Hermann(Max−Planck−Institut fur Entwicklungsbiologie,Tubingen,Germany))から寄贈され、T7 RNAポリメラーゼ(Promega)で転写された。
【0209】
LPSアッセイ
新鮮に単離されホモジナイズされたマウス脾臓からのB細胞を、取り扱い説明書に従って、Lympholyte M(Accurate Chemical)で精製した。細胞は、106細胞当たり5μg LPS(E.coli血清型0127:B8、Sigma)の非存在或いは存在下、200μl培地中に、3つ組で96ウェルプレートに播種した。前記細胞を、72時間、37℃、7.5% CO2でインキュベートし、その上清を、アルカリ性ホスファターゼ標識抗−マウスIgG(Southern Biotechnology Associates Clonotyping System)と、検出用に基質バッファー(500ml中に0.24MMgCl2*6H2O、0.9Mジエタノールアミン、pH9.8)中の1mg/mlPNPP基質を用いて、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によって解析した。
【0210】
RNA及びcDNA調整
総RNAを調整するために、全体胚を100μl Trizol(Sigma)中でピペッティングすることによってホモジナイズした。10μgグリコゲンを担体として添加し、RNAをフェノール/クロロホルムで抽出し、エタノールで沈殿させた。他の胚からのRNAは、Qiagen RNeasy Mini kit(Qiagen)を用いて調整した。一般的に、各RNAサンプルの半分は、cDNA調整のために用いた。ランダムプライマー(Gibco若しくはInvitrogen)及びdNTP混合物を添加し、5分間、65℃でインキュベートし、氷上ですぐに冷やした。反応バッファーを添加した後、Placental RNase阻害剤(Roche)を添加し、50分間42℃でSuperscript II酵素(Invitrogen)、若しくは1時間37℃でSensiscript逆転写酵素(Qiagen)を用いて第1鎖が合成された。次に、RNA鋳型を除去するためにRNase Hを用い、PCR解析の干渉を最小限にした。
【0211】
結果
マウスgrp94遺伝子の標的化
GRP94は、多細胞生物にのみ発見され、細胞増殖には必要なく、限られた基質範囲を有するので、このシャペロンは、分泌経路においてほとんどのタンパク質の折り畳みには恐らく必要ない。従って、本発明者らは、標的化マウスgrp94の切断は、破局的な成長欠陥というよりも定義された表現型を生むであろうと仮定した。
【0212】
マウスgrp94遺伝子は、10番染色体に位置し[14]、129C1ES細胞系統内で標的化され(図8A)、6つの正確に標的化されたクローン(ガンシクロビル及びG418両方に耐性)を選択し、偽妊娠C57B1/6野生型(WT)雌マウスからの胚盤胞内に注入した。2つの独立した系統から75%以上の表皮色キメラ化を示した7匹の雌を次に、WT C57B1/6雌と交配させ、結果生じた子孫の遺伝子型を同定した。ヘテロ接合体を交雑し、さらに同様に、12世代に亘ってWT C57B1/6バックグラウンドと戻し交雑した。
【0213】
この標的化コンストラクトから産生される予想されたタンパク質は、成熟GRP94タンパク質の61アミノ酸(781の中から)、さらにベクター由来の3つの付加的アミノ酸を含む。この断片は、タンパク質−ペプチド結合及びヌクレオチド結合の既知活性に対しては不十分である[15〜17]。1つのWT及び2つのヘテロ接合体F1マウスから単離したゲノムDNAでのサザンブロット解析を、標的コンストラクト外部の3’プローブを用いて行い、この結果は図8Bに示した。RT−PCR解析は、GRP94の非存在下での−/−胚からの転写を示すことによって、この発見の解釈を拡大した(図4A)。GRP94タンパク質の非存在は、アミノ酸266位から347位のあいだのエピトープを認識する9G10モノクローナル抗−GRP94を用いて、胚性組織と細胞の免疫ブロットによって検証した。
【0214】
grp94のホモ接合体欠損は胚性致死表現型を有する
表2に示したように、生存可能なgrp94−/−マウスは、ヘテロ接合体間の交雑による900以上の子孫からは得られなかった。ヘテロ接合体生産マウスの割合は、55.4%であり、これは−/−マウスの非存在において予想された66.7%ではなかった。従って、ホモ接合体変異死亡率にくわえて、ノックアウトアリルであり、まだ研究されていない表現型の歪んだ遺伝が存在することを示している。
【0215】
胚性死亡率の段階を決定するために、本発明者らは、胚形成の異なる段階で胚をばらばらにした。E14.5及びE10.5の時点で、−/−胚は見出せず、E8.5の時点でさえ、ごく少数の変異胚が同定されたのみである(表2)。E8.5〜E9.5の間で、胚の再吸収は共通のことであった。しかしながら、本発明者らは、E5.5〜E7.5の間で、予想された1:2:1メンデル比に一致する遺伝子型分配を発見した。
【0216】
発生の卵筒段階まで、grp94−/−胚は、grp94+/+胚と形態学的に区別不可能である(図9A〜D)。GRP94タンパク質発現は、WT胚を通じて容易に検出された(図9C)。1日後、grp94−/−胚は、WT胚と比べてまだほぼ区別不可能であった(図9E〜F)。しかしながら、E7.0〜7.5では、grp94−/−胚とgrp94+/+胚の間に劇的な違いが観察された(図9I、J)。それらは適切に伸長しないので、遠位チップの周りの卵黄嚢には余分なスペースがあった。羊膜若しくは漿膜も形成されず、原始羊膜溝も明らかでなかった(図9J)。胚盤葉上層と胚外領域との間の接合部は、WT胚のものよりも明白ではなく、内胚葉細胞層は異常に現れた(図9K)この段階の正常の胚においては、内胚葉の胚外領域は、頂端空胞(apical vacuoles)及び微絨毛を有する立方状/円柱状細胞で構成されており、前記接合部の下に位置する内胚葉層の胚領域は、ほとんど扁平上皮細胞からなっていた。対照的に、grp94−/−胚の内胚葉は、胚領域及び胚外領域の両方が立方状細胞で構成されていた(図9L、黒矢印)。ライヘルト膜に結合した頭頂部内胚葉は、−/−胚において正常に見えた(図9L)。
【0217】
注目すべきこととしては、−/−胚は、中胚葉の形成を開始した時に原始外胚葉細胞の移入を時々示すのみであり、正常のものは明らかに3つの胚葉を産生したけれども、2つの胚葉のみがこれらの胚において現れた(図9I〜L)。
【0218】
【表4】
【0219】
grp94−/−発生における欠損は原腸形成の時に生じる
発生における欠損がgrp94−/−胚において明らかになった時点で、正常胚は、原腸形成を開始していた。この過程の間、内臓内胚葉細胞は置換され、全3胚葉が胚盤葉上層から発生する。前記内臓内胚葉細胞は、卵黄嚢及び胚外領域の一部に寄与するが、それにも関わらず体軸の形成において役割を担っていることが示された[19、20]。GRP94に対する免疫化学染色によって、GRP94はE5.5(図10A)若しくはE6.5(図10B)の全ての細胞において発現されていることが示された。しかしながら、染色は均一ではなく、他の内胚葉或いは外胚葉細胞よりもGRPを発現した内臓内胚葉細胞のクラスターが明らかに存在した(図10)。重要なこととしては、胚本来及び胚外組織における発現レベルが、周囲の母系組織と比較して著しく異ならないことである。
【0220】
原腸形成の進行は、細胞運命特定化に関連した転写因子の発現によって一般的に観察されており、従って、本発明者らは、grp94−/−胚をin situ(原位置)ハイブリダイゼーション及び半定量性RT−PCRによって解析した。正常胚においてE4.5の時点ですでに発現が検出される[21]転写因子であるOct4は、E6.5の時点で胚盤葉上層の至るところで発現されており、翌日を超えると、原条内に徐々に集結してくる(図11A)。E7.5−/−胚において、Oct4転写物の分配は、E6.5 WT胚のものと似ている(図11A)。Otx2はホメオボックス転写因子であり、原腸形成前の胚性外胚葉及び内臓内胚葉に偏在的に発現し、原条伸長[45]のように、E6.5〜7.5の間に胚の前領域に徐々に限定されるものである。E7.5のgrp94−/−胚において、変異胚の全外胚葉に発現したOtx2は、E6.5のWT胚におけるその分配と同じである。これら両方のマーカーは、grp94−/−胚はE6.5段階以降は進行しないという結論を分子レベルで確証させるものである。
【0221】
前記胚の異なる領域が特異的に影響を受けたかどうかを決定するために、本発明者らは、前内臓内胚葉(AVE)に対する多くのマーカーの発現をテストした。E6.5〜7.5の時点でAVEに限定された[22]lim−1の発現は、発現のドメインが同じ齢のWT胚と同じくらい近くに伸長しなかったけれども、変異胚においても適切に正常に見えた(図11G)。同様に、第2のAVEマーカーであるHex[23]は、変異胚において前側に発現した(データは示さず)。機能的内蔵内胚葉は、適切な原腸形成にとって重大であるため[24]、いくつかの他のAVEマーカーをRT−PCRによってテストした。トランスサイレチン、トランスフェリン、αフェトプロテイン、アポリポタンパク質A1及びE、及びレチノール結合タンパク質の転写物は、WT及び変異胚において全て同等に発現していた(図12D)。結論としては、このマーカー解析によって、AVE形成体の形成である少なくとも軸性分化プログラムの一部は、GRP94における欠損によって破壊されるものではないと示唆された。
【0222】
調査された別の領域は、胚外外胚葉であった。正常及び変異胚の両方は、E6.5の胚外外胚葉においてマーカーBmp4[46]の発現を示した(図11E)。E7.5のgrp94−/−胚は、近接した胚外外胚葉にのみBmp4を発現したが、WT胚においては胚外溝を裏打ちする胚外中胚葉において発現していた(図11F)。これは、胚外外胚葉に対して明らかな影響を及ぼさず、E6.5の分化停止と再び一致していた。
【0223】
対照的に、初期中胚葉マーカー[47]であるbrachyury(T)の発現は、著しく影響を及ぼした。E7.5のgrp94−/−胚は、in situハイブリダイゼーションにおいて、Tアンチセンスプローブに対してネガティブ(陰性)であったが、正常同腹仔brachyuryは原条において発現していた(図11C)。brachyuryの非存在或いは低発現は、RT−PCRによっても確認された(図12)。brachyury特異的プライマーを用いた個々のE7.5胚からの転写物の増幅は、grp94−/−サンプルにおいて限界に近いbrachyuryシグナルのみを示したが、hgprt転写物は、容易に増幅された。しかしながら、第2のT−ボックスタンパク質であるEomesは、原腸形成、及びbrachyuryよりも初期段階での中胚葉誘導に関与し[25]、−/−胚において発現していた。in situハイブリダイゼーションの全マウントによって、eomesは、WTのE7.5胚の原条及び胚外領域において最初に発現されている[26]。変異胚において、eomesの発現ドメインは、原条が発達するために発現される領域を含む、卵筒の大部分を有していた(図11D)。E7.5のgrp94−/−胚におけるeomesの発現パターンは、E6.5のWT胚のものと非常に類似していた[26]。この結果と一致して、RT−PCR解析は、eomes転写物は、WTのE7.5胚で見られた範囲内の中間レベルで、変異胚において容易に検出された(図12C)。WT胚における変異性は、E6.5〜E7.5の間のeomesの徐々に限定される発現と一致していた[26]。最後に、後期中胚葉マーカーであるpMesogenin1[27]は、RT−PCRによって検出されなかった(データは示さず、N=2変異胚)。RT−PCR、ハイブリダイゼーション解析、及び形態学的データを総合すると、grp94−/−発生における欠損は、原条が発生する初期の原腸形成段階であった。さらに、GRP94活性は、eomes発現の初期ウェーブと、brachyury発現の正常時間との間に必要とされるように見られた。
【0224】
生産へテロ接合体は正常である
生産へテロ接合体とWTマウスの間に表現型の違いは観察されなかった。外見、体重、寿命、及び繁殖性は、全て正常であった(データは示さず)。これが残存アリルからのGRP94発現の上方制御に起因するかどうかを調査するために、grp94+/+、及びgrp94+/−マウスの肝臓及び脾臓から総タンパク質を単離し、GRP94発現を免疫ブロッティングによって定量化した。図13Aに示したように、ヘテロ接合体組織におけるGRP94の量は、WTレベルの約50%近くであり、これはWTありるからの発現の上方制御がないことを意味している。さらに、3つの異なる主要なERシャペロンのレベルを定量化した。BiP、カルネキシン、及びERp72のレベルは、ヘテロ接合体及びWT動物において一致しており(S.Vogen and T.Gidalevitz、データは示さず)、これはこれらのERシャペロンはGRP94の発現の減少を補わなかったことを示している。本発明者らは、GRP94の正常の発現は、正常マウス生理機能に対しては半分で十分であると結論付けた。
【0225】
GRP94は休止Bリンパ球の免疫グロブリン(Ig)分泌プラズマ細胞への分化の間に上方制御されるので[28、29]、本発明者らは、半分の量のGRP94がB細胞分化やIg分泌に及ぼす影響を検討した。LPSでの刺激前後の、表面Ig発現に対するFACSによって、及びIg分泌に対するELISAによって、脾臓細胞を調査した。図13Bに示したように、ex vivoのLPS刺激の3日前後での表面Ig発現のレベルにおける違いはなかった。T細胞及びB細胞の数も、両方の遺伝子型のマウスにおいて同じだった。第3に、grp94+/−、及びgrp94+/+マウス脾細胞によって分泌されたIgMのレベルにおいても、著しい違いを検出できなった(図13C)。従って、正常レベルの50%のGRP94は、ERシャペロンの強大な上方制御を伴う生理反応である、Ig分泌を補助するには十分であった。
【0226】
異なるストレス条件下でのGRP94の分化要求
grp94−/−胚で見られたような初期胚致死表現型は、例えば、部分的な細胞周期の阻止などの遅い増殖によって引き起こされる。別の可能性では、変異体はその細胞が母系由来GRP94の十分なレベルを有する限りのみ生存することである。これらの可能性を解決するために、本発明者らは、移植前E3.5胚盤胞からES細胞株を派生させた。ES細胞クローンのマッチングペアは、grp94−/−及び+/−同腹仔胚〜樹立した。grp94−/−ES細胞(14.1と呼ばれるクローン)は、+/+ESクローン(42.1と呼ばれる)と同様に、複数世代に亘って培養増殖可能であった(図14A)。従って、GRP94は、細胞増殖と分裂それ自体に対しては必須ではない。さらに、この観察によって、初期胚形成の間の母系GRP94の希釈が原因で、変異胚の発生停止は単純なものではないと証明された。
【0227】
GRP94はよく知られたストレスタンパク質であるので、本発明者らは、以下の3つの細胞性ストレス条件:低グルコースでの増殖、血清使用中止に対する反応、及びカルシウム恒常性の摂動、に対するGRP94欠損細胞の感受性を検討した。驚くべくことに、grp94−/−細胞は、正常グルコースレベルの2.5%まで下がったとしても、低グルコース張力下の正常細胞と同様に増殖した(図14B)。従って、グルコース欠乏によるその転写制御にも関わらず、GRP94は、このストレス条件下での細胞生存には重要ではない。一方、grp94−/−細胞は、血清欠乏は許容しない。血清の使用中止後3時間いないに、25%の変異細胞は死滅し、約20%のみが血清なしで24時間後まで生存したが、一方、WT細胞の細胞死は48時間後でさえさほどなかった(図14C)。GRP欠損細胞も、ER Ca++−ATPaseの阻害剤である、タプシガルジンとの処理に対して感受性を有しており[30]、300nMタプシガルジンの存在下で7時間後に広範囲の細胞死が生じた(図14D)。さらに、WT細胞は、1mMEGTAの存在下で5日間増殖できたが、−/−細胞は、そのようなCa++−キレート化条件下では増殖できなかった(図14E〜F)。これらの研究によって、GRP94のストレスタンパク質としての要求は、GRP94のシャペロンとしての要求と同様に選択的であり、いくつかのストレス反応には重要であるが、全てにではなく、その限定基質特性を恐らく反映している。
【0228】
図15は、GRP94−欠損細胞が血清使用中止に対して感受性を有していることを示したものである。ES細胞培養を、正常増殖培地から無血清培地へ移行し、生細胞を示した時間で測定した。示されたように、野生型ES細胞は、このストレスに対して少なくとも4日間生存したが、GRP94−/−細胞は、すぐ死滅した。図16は、GRP94のN末端ドメインが樹状細胞によって取り込まれることを示したものである。GRP94のN末端ドメイン(N1−355或いはN34−355)は、40℃で精製マウス樹状細胞と結合し、37℃での加熱によってエンドソーム小胞内へ内部移行した。前記タンパク質は、テキサスレッド−ストレプトアビジン(Texas−red−Streptavidin)のそれらのC末端ビオチン化Lys370への結合によって視覚化した。結合アッセイは、右の顕微鏡写真に示され、N34−355の樹状細胞への結合を定量化した。前記タンパク質は、単独或いはアルファ2マクログロブリン(CD91受容体の阻害剤)の存在下、若しくはフコイジン(スカベンジャー受容体Aの阻害剤)の存在下で、4℃、1時間で前記細胞への結合を可能にした。インキュベーション後、前記細胞を洗浄し、溶解し、免疫ブロットによって解析した。結合度を蛍光体イメージングによって定量化した。
【0229】
図17に示したように、GRP94ノックアウト(KO)細胞は、全ての3胚葉から細胞タイプへ分化できた。GRP94−/−或いはGRP94+/−細胞は、懸滴内に凝集され胚様体を形成し、その胚様体は、次に培地中のDMSO或いはレチノイン酸の含有によって様々な細胞タイプへの分化が誘導される。ニューロン(神経細胞:左のパネル)は、その形態によって、及び中間体フィラメントタンパク質に対するニューロン特異的抗体で染色によって同定される。肝細胞(真ん中のパネル)は、インドシアニングリーン染色によって、及びマーカータンパク質のPCR増幅によって同定される。脂肪細胞(右のパネル)は、その脂質顆粒のオイルレッドO(Oil Red O)染色によって同定される。
【0230】
図18は、GRP94欠損細胞は、筋肉へは分化しないことを示したものである。+/+ES細胞はミオシン重鎖ポジティブ細胞(上パネル)へ容易に分化したが、−/−ES細胞は、骨格筋細胞を生じることはできなかった(左、下)。
【0231】
図19は、ノックアウト(KO)胚はおよそE6.5で停止したことを示す(A〜H)WT(上パネル)及び変異体(下パネル)胚の組織学的解析である。妊娠E5.5、6.5、若しくは7.5日目の胚を固定し、切片化し、ヘマトキシリンとエオシンとで染色した。E7.5の野生型胚において空洞、羊膜、及び絨毛膜の形成、及び左−右及び背−腹非対称軸の形成に着目すべきであるが、一方、変異胚ではこれらの発生特徴のどれも現れなかった。
【0232】
議論
多くの分子シャペロンは、豊富に且つ偏在的に発現している。従って、そのようなシャペロンの1つであるGRP94の消失によって、母系GRP94が閾値レベルに到達したらすぐに細胞レベルの破局的な増殖欠損を生じる可能性は十分にある。代わりに、その機能は、重複性を有し、容易に別のシャペロンによって満たされるであろう。従って、ここに記載されたgrp94の標的とした破壊の表現型は、驚くべくその特異性を有している。胚致死によって、grp94はマウス発生にとって重要な遺伝子であることが示された。さらに、その欠損の綿密な解析によって、GRP94に非常に依存した第1段階としては、原腸形成と中胚葉誘導であることが示された。これは、GRP94のサイトゾルファミリーメンバーであるHSP90βを必要とする第1段階よりも早く、その消失によって、胎盤発生の欠陥が原因でマウスの発生がE9.0〜9.5で停止する[31]。GRP94の必要性は、別のCa++−結合ERシャペロンであるカルレティキュリンよりも早く、その消失によって心臓発生の欠陥を引き起こす[32]。
【0233】
grp94−/−胚の発生停止は、母系遺伝的タンパク質の希釈に起因するものではなく、胚に対する自律性のもののようである。GRP94は、その前にはないが、早ければE4.5から移植後胚の至る所で発現されていた([Li,1991 #1038]及び本発明者らによる研究)。さらに重要なことは、GRP94欠損細胞は、分裂する能力を有し、培養中で分化する能力さえも有しており、これは、GRp94が細胞増殖それ自体にとって重要でないことを示している。この結論は、Randow and Seed(GRP94欠損前駆B細胞株を用いた)[12]、及びIshifuroら(天然由来シロイヌナズナヌル変異体を用いた)[13]による観察によって拡大される。従って、発生停止の正確な段階に関する本発明者らの解釈としては、GRP94の活性は、胚形成の間の重要なチェックポイントのいくつかの局面の適切な実行にとって重要であるというものである。
【0234】
GRP94の非存在下で、原条の形成及びその結果生じる中胚葉の誘導なしに、胚発生は卵筒段階で停止した。いくつかの中胚葉マーカー、特に転写因子であるbrachyury及びeomesoderminの転写物の解析によって、分化プログラムはeomes及びbrachyuryの発現の間のどこかで停止されることが示唆された。内臓内胚葉、及びAVEは、Lim−1及びHex転写物を局在化することによって、及びトランスフェリン受容体、レチノール結合タンパク質、及びいくつかの他のマーカーの転写物を定量化することによって判断されたように、GRP94欠損胚においても正常に発生した。それにも関わらず、前領域の分化は完全に正常という訳ではなかった。第1に、Lim−1及びHexの発現ドメインは、WT胚のものより小さく、より局在化しており、胚の全周縁を伸ばしていない。第2に、胚周辺の内胚葉細胞は、扁平上皮になるというよりも立方状を適切に維持している。主要な原条欠陥に対するこれらの欠陥の割合は、不明である。
【0235】
発生欠陥は、培養grp94−/−ES細胞の表現型にも反映される。これらの細胞は、血清使用中止などのストレスに対して、及びカルシウム恒常性の崩壊に対してより感受性を有するが、驚くことに、WT ES細胞よりも低グルコース張力に対する感受性は有していない。これらの生化学的表現型は、ストレスタンパク質としてその役割においてでさえ、GRP94の選択性を強調する。さらに、grp94−/−ES細胞は、培養において分化する能力を有しており、これにより、全3胚葉に由来した多系統を生じるが、心臓細胞若しくは骨格筋細胞を生じることはできない。さらにこれにより、GRP94の必要性におけるいくつかの特異性が示された(S.Wanderling,O.Ostrovsky and Y.Argon,manuscript in preparation)。
【0236】
GRP94の非存在に起因する正確な分子欠損はまだ定義されていないが、このシャペロンの欠乏によって、発生的に重要なクライアントタンパク質の成熟に対してGRP94が非常に必要とされることを明らかにすると容易に提案できるように思われる。GRP94はERシャペロンであるので、推定上のクライアントは、分泌型若しくは膜結合性であってもよく、高度な誘導性過程である中胚葉形成に必要とされる細胞−細胞相互作用に関与しているようである。注目すべきこととして、mesdマウスにおける中胚葉誘導欠陥は、LRP−5/6膜受容体と相互作用する能力を持ったER常在性タンパク質における欠損に起因しているものとして最近同定された[33]。GRP94誘導性胚欠損は、同様なパラダイムに起因するものである。GRP94クライアントタンパク質を同定することは、GRP94の特異性に関する構造的情報がないのでより難しくなる。少数の基質のみが確実に同定されており、その中の少数が共通のモチーフの定義を妨げる。初期発生において潜在的な機能を有する唯一の既知クライアントタンパク質は、トール様受容体1、2、及び4である。注目すべきは、トールはそもそも、ショウジョウバエ胚において、軸形成において非常に重要であるものとして同定された[34]。同様な機能は、その後アフリカツメガエル胚においても同定された[35]。しかしながら、高等真核生物において、複数のトール様受容体が存在し、これまで初期哺乳類発生における機能を示されたことはなかった。GRP94が、複数トール様受容体に共通する構造的モチーフを認識するならば、全ての折り畳みはこのシャペロンの非存在下で損なわれ、軸形成における欠陥として潜在的に現れる。
【0237】
反対に、多くの他のタンパク質の遺伝的消失によって、原条形成及び原腸形成時のその重要性が確認された。これらは、線維芽細胞成長因子受容体、アクチビン受容体、骨形成受容体、及びそれらの各リガンドのいくつかを含む[36][37〜40]。これらのタンパク質は、膜発現或いは分泌のためのGRP94への依存性という観点で研究されなかったが、小胞体におけるその生合成に起因して全て、潜在的なクライアントである。
【0238】
要約すると、本発明者らは、1若しくはそれ以上の発生的に重要なタンパク質のER成熟は、GRP94の活性に大きく依存していると仮定した。この分子シャペロンの非存在下で、基質は適切に折り畳まれず、細胞表面へ輸送するためのER質調節機構によって放出されなかった。言い換えると、これは重大なリガンド−受容体相互作用を阻害しており、中胚葉誘導で必要とされる特定の細胞間相互作用を妨げる。
【0239】
以下の、1)Grp94は、中胚葉誘導に対する哺乳類発生の間必要とされる、2)Grp94は、筋肉細胞のin vitro分化に必要とされるが、他の系統の分化には必要ではない、3)Grp94は、血清が欠乏した場合、生存因子の分泌を支持することによって、胚性幹細胞をアポトーシスから保護する、4)Grp94のペプチド結合部位は、そのN末端ヌクレオチド結合ドメインに位置している、5)His125は、ペプチド結合にとって重要であり、結合ペプチドと接触する、及び6)ペプチド結合にとって十分な同じ断片は結合するにも十分であり、樹状細胞によって内部移行される、という結論は、前述の結果に基づいてなされたものである。
【0240】
【表5】
【0241】
【表6】
【0242】
【表7】
【0243】
【表8】
【実施例3】
【0244】
ペプチドを含む腫瘍保護薬剤はGRP94タンパク質に結合できる
この実施例は、腫瘍抗原を提示するためのペプチドに結合する分子シャペロンGRP94を用いることによって、腫瘍に反応した免疫システムの調節について説明する。本発明は、GRP94のペプチド特異性は、それを腫瘍保護薬剤として特に有効にするという仮説に基づいている。従って、本発明は、分子シャペロンGRP94のペプチド結合活性に基づいた腫瘍ワクチンを提供する。1観点において、表3に提供されたようなペプチド配列は、GRP94或いはHSP90ミニシャペロンと複合体を形成する。複合体形成に続いて、前記複合体を有する組成物の有効量は、癌患者へ投与され、腫瘍特異的CTL反応を刺激する。代わりに、腫瘍関連ペプチドは、治療される患者から単離され、ここに記載されたGRP94及びHSP90ミニシャペロンと複合体を形成される。両方のアプローチは、免疫調節腫瘍減少若しくは拒絶を刺激しなくてはならない。同様なアプローチは、ウイルス特異的ペプチド、及び本発明のミニシャペロンからなる複合体を用いて、ウイルス生感染の治療及び根絶のために用いられ得る。
【0245】
組換えタンパク質(GRP94由来或いはHSP90由来)は、典型的には、結合率が遅いことに起因するペプチドの膨大なモル濃度過剰で、合成ペプチドとインキュベートした。4マイクロモルのGRP94は、800マイクロモルの合成バインダーペプチドと飽和させた。会合は、10分間、50℃でのタンパク質処理によって増強され、この負荷は非常に効率的であるので、タンパク質の85%までペプチドに負荷され得る。
【0246】
【表9】
【0247】
新しく発明されたペプチド結合アッセイを用いて、ペプチドライブラリーを、組換えGRP94を用いてスクリーニングし、高親和性及び低親和性結合ペプチドを同定した。バインダーペプチドの最適な長さ及び他の特性は、順序を変えられた(permutated)合成配列のライブラリーを用いることで推定される。次にコンセンサスバインダー配列は、大きな複雑性ファージディスプレイ(complexity phase display)ライブラリーを選別することによって決定された。次にバインダーペプチドは、他のシャペロンによって選択されたペプチド、最も重要なのはMHCクラスI及びクラスII結合ペプチドと比較された。これらの実験は、GRP94−ペプチド提示経路の選択性を決定するのを助ける。
【0248】
実施例1に記載されたように、GRP94のペプチド結合部位は、生化学及び部位直接的変異原性の組み合わせによってマッピングされ、そのデータは、前記シャペロンのコンピュータ構造モデルに合致する。この分子をさらに特徴付けるために、本発明者らは、改変されたペプチドへの親和性及び/若しくは特異性を有するGRP94バージョンを研究し、組織培養内で、次に特異的キラーT細胞反応を増強されたマウスモデルにおいて、GRP94の操作されたバージョンをテストした。高親和性バインダーペプチドは、それらがエンドサイトーシスの間でもGRP94への結合を維持したため、より提示されることが可能である。代わりに、GRP94に対して中程度親和性を有するペプチドは、それらがMHCクラスIにより効率的に伝達されるため、選択的に提示される。
【0249】
抗原提示細胞によって取り込まれ、T細胞を刺激する最小GRP94誘導体は、ここに記載されている。様々なマクロファージ及び樹状細胞(培養株及びex vivo由来)は、GRP94由来のペプチド負荷組換えコンストラクトとインキュベートされ、前記ペプチドを提示するそれらの能力は、培養でのT細胞反応を測定することによってテストされた。そのようなミニシャペロンは、完全長シャペロンの他の活性を含まないようであり、従って、腫瘍ワクチンとしてより適している。
【0250】
T細胞認識を可能にし、刺激する腫瘍特異的ペプチド人工的に増加する1つの方法は、図20に示されたように、タンパク質GRP94を有する複合体としてそのようなペプチドを導入することである。GRP94は偏在性タンパク質であり、腫瘍細胞内の変異ペプチドを含むペプチドに結合する。Srivastava研究室による優れた研究によって、腫瘍ペプチドに結合したGRP94は、ワクチン接種したマウスに使用し、対照マウスと比較して、腫瘍と戦う場合に10〜200倍T細胞の反応が優れていた(Blachere,N.E.,et al.,Heat shock protein−peptide complexs,reconstituted in vitro,elicit peputid−specific cytotoxic T lymphocyte response and tumor immunity.J.Exp.Med.,1997.186:1315〜1322を参照のこと)。GRP94注入マウスによる腫瘍拒絶の頻度は、優れていた。このアプローチは、現在臨床試験でテストされている。この大きな利点は、自己タンパク質を持ちいることであり、ペプチド抗原を運搬する手段として、著しい免疫反応もない。
【0251】
少なくとも2つの薬剤がGRP94のペプチド結合活性を阻害すると以前報告された(Schulte,T.W.,et al.,Interaction of radicicol with members of the heat shock protein 90 family of molecular chaperones.Mol.Endocrinol.,1999.13:1435〜1448)。これらの研究は、タンパク質配列の最初の200アミノ酸に結合するペプチドの部位を局在化した(Vogen,S.M.,et al.,Radicicol−sensitive peputide binding to the N−terminal portion of GRP94.J.Bio.Chem.2002.277:40742〜40750を参照のこと)。組換えタンパク質を産生する能力を用いて、本発明者らは、GRP94における異なる部位に対するペプチド結合及び阻害剤結合マップを示し、重要なこととしては、このシャペロンのペプチド特異性は、Vogenらによって開示されたように、BiP若しくはHSP70などの他のものの特異性とは異なっていると示した。最後に、実施例2に記載された本発明のノックアウトマウス胚由来のGRP94欠損細胞は、前記タンパク質の操作されたバージョンの活性をテストするための宿主として用いられ得る。
【0252】
図20に記載したように、GRP94結合ペプチドがマクロファージ及び/若しくは樹状細胞を介して、T細胞に間接的に提示されることはすでに確認されている。これらの細胞は、注入されたGRP94を取り込み(Binder et al.によって記載されたようなCD91依存性エンドサイトーシス、若しくはBerwin,B.,et al.(CD91−Independent Cross−Presentation of GRP94(gp94)−Associated Peptides.J.Immunol,2002.168:4282〜4286)に記載されたような別の経路を介して)、腫瘍ペプチドをGRP94からMHCクラスIへ、いくつかのill定義経路によって伝達され、次に、T細胞刺激のために、前記ペプチドをクラスI分子との複合体で表面に提示する(Berwin,B.,et al.,Transfer of GRP94(G¥p94)−Associated Peptides onto Endocomal MHC Class I Molecules.Traffic,2002.3:358〜366)。
【0253】
GRP94結合ペプチドのスペクトルを定義するために、本発明者らは、ライブラリーアプローチを用いることを計画した。本発明者らは、組換えGRP94バージョンを用いた96ウェルプレートフォーマット結合アッセイを確立し、これにより図21に示されたように、バインダーペプチドの最適な特性を決定可能になった。本発明者らは、一番知られたバインダーペプチドの化学的に合成されたバージョンのライブラリーを選択し(vsv8:RGYVYQGL;ペプチドA:KRQIYTDLEMNRLGK)、ピン或いはプレートフォーマットのニロトセルロースにくっ付けた。前記ライブラリーは、2つのペプチド及び合成アミノ酸置換の各末端からの進行性切断(truncations)からなる。結合の特異性は、Vogenらによって記載されたように、阻害剤であるラディシコールへの感受性によって確認された。この方法において、本発明者らは、結合するために最適であり、重要な側鎖に対して必要である長さと疎水性を決定した。このアプローチは、合成ペプチド能力及びroboticアッセイシステムがこのスクリーンに利用可能になるように、さらに強化された。
【0254】
最適な長さが分かったので、本発明者らは、すてに保有していたライブラリーを用いてペプチドファージディスプレイライブラリーを使用した。ファージディスプレイGRP94結合ペプチドは、コンセンサス配列を派生させるために、単離され、配列決定した。本発明者らのアッセイは定量的であるので、結果として生じたペプチドは、ランク付けされた。ヒトゲノムデータベースは、これらのペプチドがヒトタンパク質中にどのくらいの頻度で、及びどの種類のタンパク質が生じるかを解明するために使用した。このアプローチの重要な組成物は、T細胞を刺激すると知られているペプチドを有するGRP94結合ペプチドを比較した。本発明者らは、この目的のために、そのようなペプチドのコレクション、及びそれに対応する各T細胞クローン若しくはハイブリドーマを有している。GRP94結合ペプチドの大部分が、T細胞によって認識されるペプチドと構造的に異なる場合、腫瘍に対して免疫化するこの方法は、広く適用可能とならないであろう。しかしながら、GRP94結合ペプチドとして知られた小サブセットの検討によって、これはこのケースには当てはまらず、T細胞によって認識されるペプチドと相当な同一性を有していることが示唆された。
【0255】
従って、GRP94の最小ペプチド結合ドメインは、アミノ酸34〜221である。上と同様なアッセイを用いて、本発明者らは、平均ヒット率が配列当たり1〜2変異となるようにこの配列を無作為に変異させ、既知ペプチドVSV8に対する親和性が減少した組換えタンパク質を選択した。これらは、ペプチド結合に影響を及ぼす全てのアミノ酸を決定するために配列決定した。部位直接的変異原性を用いた予備データによって、Trp202及びHis136はペプチド結合に関与すると示唆され、結合部位をマッピングするための本アプローチの実行可能性を検証した。
【0256】
平行して、本発明者らは、T細胞反応の増強においてより効果的である"設計バージョン"を産生するために、GRP94を、ペプチドとよく結合するように及び/若しくは天然由来タンパク質をは異なるように操作した。低レベルのペプチド−GRP94が投与された場合でも、ペプチド親和性が増加した変異体は、免疫システムに感作した。代わりに、より高い親和性は、マクロファージ/樹状細胞環境においてペプチドからのGRP94の解離がより難しくなったため、有害となった。従って、本発明者らは、改変されたペプチド認識を与える変異体をスクリーニングした。
【0257】
これらの変異体が細胞−フリーペプチド結合アッセイで特徴付けられたので、本発明者らは、まず、(ここに記載されたように)培養抗原提示細胞を用い、次にTamuraら、Basu ら、Sutoら、及びBlachereらによる引用文献に記載されたように、マウスの免疫化を用いて、これらをT細胞へのペプチド提示に関してテストした。
【0258】
図22は、野生型GRP94の核酸及びアミノ酸配列を提供するものである。
【0259】
【表10】
【0260】
本発明は詳細に記載され、それらの特定の実施例を参照にしているが、様々な変更及び修飾が、それらの要旨や範囲から逸脱することなくなされることが、当業者には理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0261】
【図1A】図1は、GRP94の最小部分を示したものであり、これでペプチド結合は十分である。図1Aは、用いられた組換えタンパク質の図式である。「15」で用いられたタンパク質であるN1−355は、GRP94の最初の355アミノ酸を含み、成熟タンパク質のDDEVD N−末端から開始している。N34−355は、細菌内で発現したバージョンであり、成熟GRP94の最初の33アミノ酸が欠損している。斜線部分はN−末端ドメインであり、ヌクレオチド/ゲルダナマイシン/ラディシコール結合部位を含む。濃い灰色の部分は、N−末端ドメインに属する少なくとも1つの活性を必要とする酸性度メインである。薄い灰色の部分は、His6タグである。N34−355において、前記タグは、因子Xa切断部位が続く。N1−355は、KDEL ER回収シグナルで終結し、このシグナルはN34−355内にはない。Arg222の後の1つのトロンビン切断部位は、その領域が9G10モノクローナル抗GRP94エピトープ(抗原決定基)を含むように印(*)をつけた。
【図1B】図1は、GRP94の最小部分を示したものであり、これでペプチド結合は十分である。図1Bは、N1−355及びN34−355のペプチド結合能力を示したものである。組換えシャペロンのこの2つのバージョンは、96ウェルプレートアッセイにおいて、8−merのペプチドVSV8の結合に対して、示された用量でテストされた(実験手順を参照のこと)。黒塗り三角形はN1−355を示し、黒塗り四角はN34−355を示す。白塗りの記号はラディシコールによるペプチド結合の阻害を示している。
【図1C】図1は、GRP94の最小部分を示したものであり、これでペプチド結合は十分である。図1Cは、N1−355−ヨウ素化ペプチド複合体のトロンビン消化を示したものである。C.B.は、トロンビンによる部分的なタンパク質分解の後のクーマシーブルー染色ゲルであり、組換えタンパク質が2つの断片に切断されていることを示している。125Iは、同じゲルのオートラジオグラフィーであり、ヨウ素化ペプチドは、より大きなトロンビン断片とともに共遊走することを示している。α−Hisは、N−末端Hisタグに対するウエスタンブロットであり、22.4kDaのバンドはN−末端断片として確認できる。9G10は、酸性度メイン内に存在するエピトープに対するウエスタンブロットであり、14.6kDaのバンドはC−末端断片として確認できる。ゲルの上部にあるより大きなバンドは、未消化物質である。
【図2A】図2は、分子ドッキングモデルを示したものである。マウスGRP94の関連配列(アミノ酸46〜269)は、BioSymソフトウェアを用いて、酵母HSP90(PDBファイル1YER;[20])のN末端ドメインの解決された構造を介して構成され、エネルギーは最小化させた。前記ペプチドVSV8の構造は、VSV8及びMHCクラスIKbの複合体の解決された構造[9]から選択された。次にVSV8は、PatchDock(Schneidman−Duhovny,D.,Y.Inbar,V.Polak,M.Shatsky,I.Halperin,H.Benyamini,A.Barzilai,O.Dror,N.Haspel,R.Nussinov, and H.J.Wolfson.2003.Taking geometry to its dege:fast unbound rigid(and hinge−bent)docking.Proteins 52:107)を用いてモデル化GRP94構造へドッキングされ、MHCクラスIと同様な高次構造内のGRP94へ結合すると予想された。最高ランキングドッキング解法(ソリューション)が示された。これらは、2つの可能部位の間で分割され、それぞれパネルA及びBにおいて緑色で示されている。図2Aは、ラディシコール/ゲルダナマイシン結合部位を部分的に重複する3つのペプチドドッキング解法を示している。左のパネルは、βシートの軸に沿ったC末端からの側面図である。右のパネルは、底面図である。白い楕円は、ラディシコール結合部位のアウトラインである。
【図2B】図2は、分子ドッキングモデルを示したものである。マウスGRP94の関連配列(アミノ酸46〜269)は、BioSymソフトウェアを用いて、酵母HSP90(PDBファイル1YER;[20])のN末端ドメインの解決された構造を介して構成され、エネルギーは最小化させた。前記ペプチドVSV8の構造は、VSV8及びMHCクラスIKbの複合体の解決された構造[9]から選択された。次にVSV8は、PatchDock(Schneidman−Duhovny,D.,Y.Inbar,V.Polak,M.Shatsky,I.Halperin,H.Benyamini,A.Barzilai,O.Dror,N.Haspel,R.Nussinov, and H.J.Wolfson.2003.Taking geometry to its dege:fast unbound rigid(and hinge−bent)docking.Proteins 52:107)を用いてモデル化GRP94構造へドッキングされ、MHCクラスIと同様な高次構造内のGRP94へ結合すると予想された。最高ランキングドッキング解法(ソリューション)が示された。これらは、2つの可能部位の間で分割され、それぞれパネルA及びBにおいて緑色で示されている。図2Bは、βシートの一部の上をマッピングした4つのドッキング解法である。左のパネルは、図2Aと同様な、βシートの軸に沿った図である。右のパネルは、上面図である。1つのシステイン及び3つのヒスチジンは、それぞれ黄色と淡い青色の円柱状の線で示されている。赤い矢印は、Cys117、赤い矢じり(arrowhead)は、His125であり、A〜Hは、βシート鎖を示している。
【図3A】図3は、ラディシコール−屈折変異体N34−355 D128N、G132Aがまだペプチドに結合することを示した図である。図3Aは、N34−355(RadR)のD128N、G132A変異体は、ラディシコール処理N34−355(WT)に対して屈折性を有しておりRadRタンパク質は、15分間、DMSO若しくはラディシコールとインキュベートされ、ブルーネガティブゲルで解析された。ラディシコール結合WTタンパク質は、タンパク質内の構造変化[15]のため、ゲルにおいて素早く移動した。ラディシコールへ結合するためのRadRタンパク質の能力は、劇的に減少した。黒矢印は、非修飾タンパク質、白矢印は、ラディシコール結合タンパク質を示している。
【図3B】図3は、ラディシコール−屈折変異N34−355 D128N、G132Aがまだペプチドに結合することを示した図である。図3Bは、RadR変異体によるペプチド結合がラディシコールによって影響を受けず、WTタンパク質の飽和性と同様な飽和性を有していることを示したものである。N34−355及びRadRタンパク質のVSV8への結合は、プレートアッセイ(実験手順を参照のこと)によって測定された。黒いバーは、阻害剤非存在下での結合、灰色のバーは、ラディシコール存在下での結合を示している。データは、3つ組サンプルの平均値である。
【図3C】図3は、ラディシコール−屈折変異N34−355 D128N、G132Aがまだペプチドに結合することを示した図である。図3Cは、N34−355及びRadRタンパク質の用量結合を示したものである。VSV8ペプチドへの結合は、プレートアッセイによって測定された。丸は、WTタンパク質、四角は、RadR変異体を示している。データは、3つ組サンプルの平均値である。
【図4A】図4は、予想されるペプチド結合部位が深い疎水性ポケットと、阻害剤結合部位とに近接していることを示したものである。図4Aは、GRP94及びHSP90のN末端ドメインの一部の複数配列の配列比較を示したものである。配列上の黒線は、ストランドG及びF(パネルBを参照のこと)を示しており、それぞれCys117及びHis125を含むものである。配列下の赤線は、部分的配列内の阻害剤結合ポケット構成物を示している[17、20]。緑線は、HSP90における35アミノ酸を示しており、この位置はゲルダナマイシン結合と、遊離高次構造との間で異なっている。これらは、HSP90残基100〜134(括弧内の番号)は、GRP94の残基135〜174に一致する。黄色のハイライトは125位、灰色のハイライトはAsp128及びGly132(RadR変異体において変異された残基)、緑色のハイライトはIle115、Leu124、及びVal126(疎水性ポケットに寄与している残基)を示している。疎水性ポケットからの他の残基は、Leu80、Ile84、Leu240、Ile243、Val247、Ile254、Ile258、Pro259、及びVal260である。アミノ酸は、E或いはDに対しては青色で、K、R或いはHに対しては赤色、N或いはQに対しては紫色、F或いはYに対しては緑色、Cに対しては茶色、A、G、P、S、Tに対しては黒色、及びI、L、M、Vに対しては黄色で示してある。
【図4B】図4は、予想されるペプチド結合部位が深い疎水性ポケットと、阻害剤結合部位とに近接していることを示したものである。図4Bは、疎水性ポケットのモデルを示したものである。スペースフィル(specefill)モデル(左のパネル)は、図2Bと同様な図のタンパク質を示している。ペプチドは、淡い緑で示されている。濃い緑色は、残基I、L、及びV、青色はF、紫色はT、茶色はP、黄色はC、淡い青色はHを示している。赤矢印はCys117、赤矢じりはHis125を示している。赤の点線は、bis−ANSへの架橋を示す残基のおおよその位置を示している[22]。
【図5A】図5は、ペプチド結合がCys117を含む疎水性ポケットの環境に影響を及ぼすことを示したものである。図5Aは、ペプチドA結合がN1−355−結合ANSの発光に影響を及ぼすことを示したものである。N1−355は、まずANSと反応し(N1−355−ANS)、次に飽和量のペプチドAと結合した。N1−355−ANSの発光最大値は、478nmであり、これは高度な疎水性環境であることを示している。ペプチドAの付加は、N1−355−ANSの蛍光を部分的に消光するが、遊離ANSはしない。N1−355自体は、示された波長範囲においては蛍光ではない。
【図5B】図5は、ペプチド結合がCys117を含む疎水性ポケットの環境に影響を及ぼすことを示したものである。図5Bは、アクリロダンが予想された疎水性ポケット内のCysと共有結合的に結合することを示したものである。N1−355及びN34−355は、40℃で一晩、アクリロダンと反応させた。タンパク質なしで同一量のアクリロダンを有するサンプルを、対照とした。次に各サンプルの半分量を、グアニジン塩化物に最終濃度が6Mとなるまで添加し、残りには当量のバッファーを添加した。非変性条件下でN1−355−結合アクリロダンの発光最大値は、約473nmであり、これは、高度な疎水性環境であることを示している。6Mグアニジン塩化物において、発光最大値は、N1−355−結合、及び遊離アクリロダンの両方に対して約522nmであったが、一方、タンパク質結合アクリロダンの蛍光強度は、遊離色素よりも著しく高く、これは共有結合を意味している。
【図5C】図5は、ペプチド結合がCys117を含む疎水性ポケットの環境に影響を及ぼすことを示したものである。図5Cは、アクリロダン共役N1−355が非共役N1−355と同程度でペプチドと結合することを示したものである。遊離或いはアクリロダン−共役タンパク質(3.6μM)は、飽和条件下で800mM 125I−VSV8と反応させ、非結合ペプチドは、スピンカラムを用いて除去された[15]。遊離125IVSV8は、非結合ペプチドの効率的な除去を調節するために用いられた。N1−355及びN1−355−acrは、それぞれ遊離及びアクリロダン共役タンパク質を意味しており、N1−355+VSV8*及びN1−355−acr+VSV8*は、同じタンパク質が125I−VSV8に結合していることを意味しており、VSV8*は、遊離125I−VSV8ペプチドを意味している。
【図5D】図5は、ペプチド結合がCys117を含む疎水性ポケットの環境に影響を及ぼすことを示したものである。図5Dは、N1−355に共有結合的に結合したアクリロダンの蛍光がペプチドの付加によって影響を受けることを示したものである。VSV8(800mM最終濃度)若しくは同等量のバッファーの存在下でのアクリロダン共役N1−355の蛍光発光スキャンは、励起波長390nmで測定された。VSV8単独は、測定された波長範囲内では蛍光を示さなかった。
【図6A】図6は、ペプチド結合がHis残基を必要とすることを示したものである。図6Aは、ペプチド結合がpH依存性であることを示したものである。N1−355のペプチドVSV8への結合は、[15]に記載された溶液結合アッセイを用いて様々なpH値で測定された。pH7.2において、Hepes若しくはPipesは、同様の結果で使用され、平均値は、100%に設定した。HepesはpH8.2で用い、PipesはpH6.2で使用し、標準pHの7.2で得られた値で規準化された平均結合値を有していた。
【図6B】図6は、ペプチド結合がHis残基を必要とすることを示したものである。図6Bは、ペプチド結合がイミダゾールに感受性を有していることを示したものである。N34−355のペプチドAへの結合は、96ウェルプレートアッセイ(実験手順を参照のこと)を用いて測定された。イミダゾールは、指示された最終濃度まで添加され、各濃度の結合は、イミダゾールなしのもので規準化した。ラディシコール存在下でのペプチド結合は、非特異的結合の測定値として示された。三角は阻害剤の非存在下での結合、四角はラディシコールの存在下での結合を示す。
【図6C】図6は、ペプチド結合がHis残基を必要とすることを示したものである。図6Cは、結合活性がDEPC修飾によって消滅されることを示したものである。組換えN355のHis6タグは、取り扱い説明書(Novagen)に従って、因子Xaによって切断され、Ni−NTAカラムを用いてタンパク質再精製を行った。タンパク質は、ここに記載されたようにDEPCで処理し、ヒスチジン選択的に修飾した。一部の修飾されたタンパク質は、0.4Mヒドロシキルアミン(HA)で処理され、DEPC作用を逆転させた。エタノールでの修飾は、溶液対照として用いられた。ラディシコール処理は、特異的ペプチド結合を測定するために用いられた。未処理及び修飾タンパク質は、ペプチドAコーティングプレート(0.7μgタンパク質/ウェル)に結合され、結合はHRP−ヤギ抗−ラット(Jackson Labs)に続いて、9G10 Mab(Affinity Bioreagents)との間接的な反応によって定量化された。3つ組データポイントは、それぞれの実験からのものである。DEPCは、結合をバックグラウンドレベルまで減少したが、一方HAは、DEPC効果を完全に逆転させた。His6タグの除去は、有効性或いは結合の特異性に全く影響を及ぼさなかった。Rはラディシコール、Etはエタノール、DEPはDEPCでの処理、HAはヒドロキシルアミンに続きDEPCでの処理を意味している。
【図7A】図7は、部位直接的変異原性によってペプチド結合に対するヒスチジン125の重要性を明らかにされることを示しているものである。図7Aは、His125の改変がペプチドAへのN34−355結合に影響を及ぼすことを示している。野生型N34−355、H125Y、或いはH125Dタンパク質は、金属キレートクロマトグラフィーによって精製され、ペプチドへ結合するその能力は、プレートアッセイ(方法を参照のこと)でテストされた。ラディシコール(300μM)による阻害は、特異性対照として用いられた(Rad)。結合は、WTタンパク質に対する結合飽和のレベルに基づいて、2つのタンパク質インプット(入力)レベル(0.7或いは2μg)で測定された。示されたデータは平均値であり、2回の実験の3つ組ポイントの標準エラーである。黒色バーは、0.7μgタンパク質、灰色バーは、2μgタンパク質を示している。
【図7B】図7は、部位直接的変異原性によってペプチド結合に対するヒスチジン125の重要性を明らかにされることを示しているものである。図7Bは、野生型及びH125Yの分数占有曲線を示したものである。ペプチド結合タンパク質の量は、各タンパク質に対する飽和結合レベルの分数として計算され、タンパク質のインプットの機能として示された。黒色四角は、野生型タンパク質に対する3回の独立した用量結合実験からの値である。白色四角は、H125Yに対する3回の独立した実験からの値である。
【図7C】図7は、部位直接的変異原性によってペプチド結合に対するヒスチジン125の重要性を明らかにされることを示しているものである。図7Cは、H125D変異体がラディシコール結合に対して予想された構造変化を示すことを示したものである。H125D及びH125Yは、ブルーネガティブゲル電気泳動を用いてWTタンパク質と比較された。各タンパク質(10μg)は、300μMラディシコール或いはDMSOで処理され、次に各2つの隣接するゲルレーンに添加された。電気泳動後、ゲルをクーマシーブルーで染色した。野生型及びH125Dタンパク質は、モノマーとしてほぼ移動し、特有のラディシコール誘導性移動度シフトは両者に見られた。H125Yタンパク質もモノマーとして移動したけれども、2つの異なる高次構造で存在した。約半分のH125Yは、ラディシコール非存在下でさえも移動度の増加を示したが、他の半分は予想された移動度とラディシコール誘導性高次構造変化の両方を示した。黒矢印は非結合タンパク質、白矢印はラディシコール結合タンパク質を示している。
【図8A】図8は、マウスGRP94遺伝子の標的化破壊を示したものである。図8Aは、マウス遺伝子及び標的ベクターの模式図である。GRP94遺伝子の16エクソン(黒ボックス)、及びイントロン(細い線、長さはエクソンプライマーPCR及び/若しくはシークエンス解析によって決定された)は、エクソン11及び18の間のギャップと共に、縮小して記載されている。標的ベクターは、PCR増幅によって産生された1.2kbの5’相同性、及びEcoRV断片における8.0kbの3’相同性を含む。neo耐性カセットは、成熟タンパク質の中にエクソン3,61アミノ酸の末端でコード領域を中断した。その転写配向は、GRP94の配向と反対であり、矢印によって示されている。5’相同性領域は、tkと隣接しており、ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子は、ネガティブ選択に対して用いた。
【図8B】図8は、マウスGRP94遺伝子の標的化破壊を示したものである。図8Bには、2つのマウスにおける正確な標的化は、HindIII(H)或いはEcoRI(R)での消化後、挿入(パネルAの矢印を参照のこと)の5’に位置したプローブAでのサザンブロットによって決定されたことが示されている。
【図9a】図9は、Grp94−/−胚が原腸形成に失敗したことを示すものである。図9A〜Hは、WT(左パネル)及び変異体(右パネル)胚の組織学的及び免疫染色解析を示したものである。E5.5胚(A〜D)及びE6.5胚(E〜H)は、材料及び方法に記載されたように、固定され、切片化され、ヘマトキシリン及びエオシン(HとE、A〜B、E〜F)或いはMab 9G10(αGRP94、C〜D、G〜H)で染色された。VEは内臓内胚葉、EPCは栄養膜錐体を示す。パネルE〜F内の*は、前羊膜腔の発生を示している。
【図9b】図9は、Grp94−/−胚が原腸形成に失敗したことを示すものである。図9I〜Lは、E7.5胚の組織学的解析によって、WT胚(I)と比較して、変異胚(J)において、中胚葉形成の欠損、及び空洞化の欠損が見られたことを示すものである。PA Cavは前羊膜腔、EC Cavは胚外腔、PEは頭頂内胚葉を示す。パネルIにおける二重矢印、及びパネルKにおける矢印は、胚性及び胚外領域の間の接合を占め得している。Kは、WT内胚葉のより高度な拡大率画像であり、接合部の胚外側における細胞の立方状構造、及び接合部の胚側内胚葉細胞上の扁平上皮形態を示している。Lは、変異体胚の同様な図であり、接合部の両側上のVE細胞は立方状である。前羊膜腔に対する証拠がないことに注意する。PE細胞は変異体及びWT胚において違いは見られなかった。
【図10】図10は、前原腸形成胚におけるGRP94の発現を示したものである。抗−GRP94モノクローナル抗体である9G10による、E5.5(A)及びE6.5(B)WT胚の免疫組織化学を示した。示された切片は、複数サンプルの代表例であり、材料及び方法に記載されたように染色された。矢じりは、高タンパク質発現を現している内臓内胚葉細胞のクラスターを指し示している。バーは、(A)では50μm、及び(B)では100μmである。
【図11】図11は、grp94−/−胚が原条を発生しないことを示したものである。grp94変異胚における発生的マーカーの解析は、全マウントin situハイブリダイゼーションによってなされた。全てのペアにおいて、WT胚は左側に、変異胚は右側に示した。全ての胚は、表示されない限りE7.5である。示されたこれらの図は、各マーカーに対する2〜7同腹仔からの代表的な変異体及びWT胚である。図11Aより、Oct4は、E6.5の胚盤葉上層に亘って正常に発現し、後半ではWT胚においてE7.5で原条(ps)に局在化していた。変異体は、胚盤葉上層全体の発現が維持されていた。図11Bより、E7.5でのOtx2発現は正常胚の前領域に局在化されていたが、変異体では胚盤葉上層全体に発現されていた。図11Cより、Brachyuryは、正常胚においてE7.5で原条において発現されていたが、E7.5変異胚では検出できなかった。図11Dより、Eomesは、E6.5で胚外外胚葉(ee)及び発生原条で発現されており、後半、WT胚においてE7.5で原条に局在化されていた。E7.5の変異胚はE6.5のWT胚と共通していた。図11Eは、E6.5におけるBmp4発現を示している。Bmp4は、正常胚及び変異は位の両者の近位胚外外胚葉において正常に発現していた(矢印)。図11Fより、Bmp4発現は、WT胚の胚外(exocoelomic)腔(ec)を裏打ちする胚外中胚葉においてE7.5でも検出された。変異胚は、矢印で示されたように、近位胚外外胚葉にのみBmp4を発現した。図11Gにより、Lim1はWT E7.5胚のAVE及び中胚葉翼において発現されていたが、変異体においては、中胚葉発現は見られなかった。
【図12】図12は、中胚葉性マーカーの転写の解析を示したものである。図12Aにおいて、cDNAは、母系組織から注意深く切り離された完全E7.5胚から調整された。1つの野生型(WT)及び2つのgrp94−/−胚(KO1及びKO2)が示されている。インプットcDNAの量は、PCR反応の直線範囲におけるHPRTプライマーを用いて規準化された(レーン1〜6)。レーン1〜3、7〜9は、それぞれ0.25、0.125、0.063μlのWTcDNAである。レーン4〜5、10〜11は、2つの分離−/−胚からの1.5μlのgrp94−/−cDNAである。図12Bにおいて、Aと同様なcDNAは、基準初期中胚葉マーカーであるbrachyuryの発現を推測するために用いられた。インプットcDNAの違いを調整すると、KO1からのシグナルは、KO2からのシグナルより約4倍強かったが、WTcDNAより2桁小さかった。示された実験は、4分の1である。図12Cは、Eomos発現のRT−PCR定量を示したものである。cDNAインプットは、β−チューブリンの増幅物を用いて規準化された。2つのWT及び2つの変異体(KO)胚の5分の1が示されている。図12Dは、VEマーカー発現のRT−PCR解析を示したものである。3つのWT及び3つのKO胚からのcDNAを比較し、β−チューブリン発現に対して規準化された。TTRはトランスサイレチン、TFNはトランスフェリン、AFPはαフェトタンパク質、ApoA1はアポリポタンパク質A1、ApoEはアポリポタンパク質E、RBPはレチノール結合タンパク質を示している。
【図13】図13は、ヘテロ接合体マウスが正常であることを示したものである。図13Aより、grp94−/−マウスにおいて、GRP94タンパク質は50%減少した。肝臓ホモジェネート液をヘテロ接合体及びWTマウスから調整し、総タンパク質の等量を左から右に向かって希釈シリーズ(100、50、25μg)で添加し、抗GRP94(9G10)(上のパネル)、或いは抗βチューブリン(下のパネル)を用いた免疫ブロットによって解析した。3つのGRP94バンドは、完全長タンパク質、及び2つの小さい消化産物であり、肝臓抽出物において共通して見られるものである。示されたブロットは、4つの反復の代表例である。基本的に同じ結果が脾臓溶解液の解析によっても得られた。図13Bは、脾細胞上の表面マーカーの発現を示したものである。ヘテロ接合体(HET)或いはWTマウスからの脾臓細胞は、培養し、50μg/mlLPSで処理し、B細胞の増殖を開始させ、Ig分泌細胞へ分化させた。3日後、T細胞に対するマーカーである抗CD3抗体(右の灰色)、或いはB細胞に対するマーカーである抗IgM抗体(濃い灰色)で染色した。黒線は、非染色細胞を意味している。図13Cは、脾細胞におけるIg分泌の誘導を示したものである。ヘテロ接合体或いはWTマウスからの脾臓細胞は、上述したように50μg/mlLPSで処理し、3日後培地中のIgのレベルを、抗−μ抗体或いは抗−κ抗体を用いたELISAによって決定した。LPS処理前後の培地中のIgの割合は、各脾臓培養に対して計算し、誘導の大きさとしてプロットした。
【図14】図14は、grp94−/−細胞の増殖とストレス反応を示したものである。野生型及び変異ES細胞クローンは、E3.5胚盤胞から確立し、支持細胞なしで増殖するように適応させた。細胞は、高グルコース培地(4.5L)(図14A)で増殖させる、若しくは低(0.1g/L)グルコース培地(図14B)で増殖するように適応させ、次にその増殖率を1週間後に測定した(n=3)。図14Cは、血清欠乏に対する変異細胞の感受性を示したものである。血清を時間0で除去し、生存接着細胞を指示された時間で計測した(n=4)。脱離した細胞の全ては、トリパンブルー陽性であり、完全な培地に取り替えた際に増殖しない。青の四角はクローン42.1のWT細胞、赤の丸はクローン14.1の変異細胞を示している。図14Dは、タプシガルジン(Tg)への異なる感受性を示したものである。WT及び変異ES細胞を、300nMタプシガルジン(+)で処理する、若しくはニセ(mock)処理(−)し、その生存度を6時間後(WT細胞への細胞毒性が限界に近い時間)に観察した。図14E〜Fより、WT及び変異ES細胞が1mMEGTAの存在下或いは非存在下、指示された時間で増殖するか、その生存度を評価された。
【図15】図15は、GRP94欠損細胞が血清除去に対して感受性を有することを示したグラフである。
【図16】図16は、GRP94のN末端ドメインが樹状細胞によって取り込まれることを示した顕微鏡写真及び結合アッセイである。
【図17】図17は、GRP94ノックアウト(KO)細胞が全ての3胚葉から細胞タイプへ分化できることを示した一連の顕微鏡写真である。
【図18】図18は、GRP94欠損細胞が筋肉へは分化しないことを示した一連の顕微鏡写真とブロットである。
【図19】図19は、ノックアウト(KO)胚はE6.5周辺で停止することを示した一連の顕微鏡写真である。
【図20】図20は、T細胞へのペプチド提示に対するSrivastavaモデルを示している。末期腫瘍細胞10由来のGRP94の分画を、腫瘍特異的ペプチドと共に添加した。これは、特定の樹状細胞及びマクロファージ(APC)の原形質膜上のCD91と結合し、その結果、受容体仲介性エンドサイトーシスによって内部移行された。エンドソームコンパートメントにおいて、前記ペプチドは、GRP94から解離され、APCのサイトゾルへ押し出され、次に小胞体ペプチド輸送体(TAP)を介してER内腔へ輸送され、これは、新しく合成されたクラスI分子20及び22へ含まれる。次に、含まれたクラスIは、原形質膜へ輸送され、ここのいてT細胞によって認識されるように腫瘍由来ペプチドを提示する。いくつかのペプチドは、GRP94から放出された後及びクラスI分子へ含まれる前に、プロテオソーム30によって整形される。
【図21】図21は、ペプチド結合アッセイを示している。複数ウェルプレート(96)は、指示されたペプチドでコーティングし、次に阻害剤であるラディシコールの非存在下或いは存在下で、GRP94のアミノ酸34〜355からなるHis6タグ化N355とインキュベートした。各反応は、0.7μモルシャペロンを含む。VSV8及びPepAは、GRP94バインダーペプチドとして知られており、一方NYLは非バインダーである。溶解液とは、細菌溶解液中の総タンパク質量を意味しており、それぞれ0.7μモルシャペロンを含み、これは結合の部分的阻害のみを説明しているものである。ペプチドコーティングプレートへのシャペロンの結合は、HRP共役抗−His抗体によって検出された。
【図22A】図22A及び図22Bは、完全長GRP94に対するタンパク質及び核酸配列を示している。図22Aは、GRP94タンパク質配列(配列ID番号2)を示している。
【図22B】図22A及び図22Bは、完全長GRP94に対するタンパク質及び核酸配列を示している。図22Bは、GRP94核酸(配列ID番号1)を示している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
切断したGRP94ミニシャペロンタンパク質をコード化する核酸。
【請求項2】
請求項1の核酸において、
前記核酸は、配列ID番号2のアミノ酸34〜355、配列ID番号2のアミノ酸34〜221、及び配列ID番号2のアミノ酸70〜221からなる群から選択されたGRP94タンパク質変異体をコード化するものである。
【請求項3】
発現ベクター内に含まれる、請求項2の核酸。
【請求項4】
請求項2の核酸によってコード化されたGRP94ミニシャペロンタンパク質。
【請求項5】
薬学的に許容可能な担体内に含まれる、請求項4のタンパク質を有する組成物。
【請求項6】
請求項5の組成物であって、さらに、
前記GRP94ミニシャペロンタンパク質と複合体を形成しているペプチドを有するものである組成物。
【請求項7】
請求項6の組成物において、
前記複合体内の前記ペプチドは、腫瘍特異的抗原を有するものである。
【請求項8】
請求項6の組成物において、
前記複合体内の前記ペプチドは、ウイルス抗原を有するものである。
【請求項9】
悪性度を治療するために、腫瘍組織に対する免疫反応を刺激する方法であって、
a)請求項4に記載された少なくとも1つのミニシャペロンと、腫瘍特異的抗原を有する少なくとも1つの腫瘍特異的ペプチドとの間で複合体を形成する工程と、
b)それらを必要とする患者へ、前記複合体の有効量を投与し、腫瘍特異的細胞殺傷性T細胞(CTL)反応を開始させ、前記CTL反応が前記腫瘍組織内での減少を引き起こし、その結果、前記悪性度を治療する工程と
を有する方法。
【請求項10】
請求項9の方法において、
前記少なくとも1つのペプチドは、多数の共有腫瘍抗原を有するものである。
【請求項11】
請求項10の方法において、
前記共有腫瘍抗原は、表3に記載されたペプチドからなる群から選択されるものである。
【請求項12】
請求項9の方法において、
前記少なくとも1つの腫瘍特異的ペプチドは、前記患者から単離され、工程a)の複合体を形成するために使用されるものである。
【請求項13】
ウイルス感染に対する免疫反応を刺激し、前記感染を治療するための方法であって、
a)請求項4に記載された少なくとも1つのミニシャペロンと、前記ウイルスに対する抗原特異性を有した少なくとも1つのウイルス特異的ペプチドとの間で複合体を形成する工程と、
b)それらを必要とする患者へ前記複合体の有効量を投与し、ウイルス特異的細胞殺傷性T細胞(CTL)反応を開始させ、前記CTL反応が前記ウイルス負荷を減少し、その結果、前記感染を治療する工程と
を有する方法。
【請求項14】
請求項13の方法において、
前記少なくとも1つのペプチドは、多数のウイルス特異的抗原を有するものである。
【請求項15】
ホモ接合体ヌル変異をその内在性GRP94遺伝子内に持つトランスジェニックマウス胚であって、
前記変異は、胚性幹細胞内の相同性組換えを介して前記マウスへ導入され、さらに前記マウスは、機能性マウスGRP94タンパク質を発現しないものである。
【請求項16】
請求項15のトランスジェニックマウスにおいて、
前記ヌル変異は、マウス胚盤胞への胚性幹細胞のマイクロ注入をした後に、胚性段階の前記マウスの祖先へ導入されるものである。
【請求項17】
請求項15のトランスジェニックマウス胚において、
前記ヌル変異は、胚性幹細胞を受精卵或いは桑実胚と共−インキュベーションした後に、胚性段階の前記マウスの祖先へ導入されるものである。
【請求項18】
請求項15のトランスジェニックマウス胚由来のGRP94欠損細胞株。
【請求項19】
胚性幹細胞株である、請求項18の細胞株。
【請求項20】
細胞分化を受けるように導入された、請求項19の細胞株。
【請求項21】
請求項20のGRP94欠損細胞株であって、
ニューロン、脂肪細胞、肝細胞、及びリンパ球からなる群から選択された細胞タイプへ分化するように導入されたものである、GRP94欠損細胞株。
【請求項22】
GRP94活性に選択的に影響する治療薬剤をスクリーニングするための方法であって、
a)テスト化合物を請求項18の細胞、及び野生型マウス胚由来の細胞へ投与する工程と、
b)GRP94関連生理学的過程の変化を、前記GRP94欠損細胞及び野生型細胞において評価し、それにより、GRP94活性を選択的に調節する薬剤を同定する工程と
を有する方法。
【請求項23】
GRP94活性に選択的に影響する治療薬剤をスクリーニングするための方法であって、
a)テスト化合物を請求項19の細胞、及び野生型マウス胚由来の細胞へ投与する工程と、
b)GRP94関連生理学的過程の変化を、前記GRP94欠損細胞及び野生型細胞において評価し、それにより、GRP94活性を選択的に調節する薬剤を同定する工程と
を有する方法。
【請求項24】
GRP94活性に選択的に影響する治療薬剤をスクリーニングするための方法であって、
a)テスト化合物を請求項21の細胞、及び野生型マウス胚由来の細胞へ投与する工程と、
b)GRP94関連生理学的過程の変化を、前記GRP94欠損細胞及び野生型細胞において評価し、それにより、GRP94活性を選択的に調節する薬剤を同定する工程と
を有する方法。
【請求項25】
HSP90ミニシャペロンをコード化する核酸であって、
ヒトHSP90のアミノ酸1〜210を有し、
少なくとも1つのアミノ酸残基は、別のアミノ酸へ置換されたThr90、Ile81、Pro82からなる群から選択されるものである核酸。
【請求項26】
請求項25の核酸によってコード化されたHSP90ミニシャペロンタンパク質。
【請求項27】
薬学的に許容可能な担体内に請求項26のHSP90ミニシャペロンを有する薬学的組成物。
【請求項28】
悪性度を治療するために、腫瘍組織に対する免疫反応を刺激する方法であって、
a)請求項26に記載された少なくとも1つのミニシャペロンと、腫瘍特異的抗原を有する少なくとも1つの腫瘍特異的ペプチドとの間で複合体を形成する工程と、
b)それらを必要とする患者へ前記複合体の有効量を投与し、腫瘍特異的細胞殺傷性T細胞(CTL)反応を開始させ、前記CTL反応は前記腫瘍組織の減少を引き起こし、それにより前記悪性度を治療する工程と
を有する方法。
【請求項29】
請求項28の方法において、
前記少なくとも1つのペプチドは、多数の共有腫瘍抗原を有するものである。
【請求項30】
請求項29の方法において、
前記共有腫瘍抗原は、表3に記載された群から選択されるものである。
【請求項31】
請求項28の方法において、
前記少なくとも1つの腫瘍特異的ペプチドは、前記患者から単離され、工程a)の複合体を形成するために使用されるものである。
【請求項32】
ウイルス感染に対する免疫反応を刺激し、前記感染を治療するための方法であって、
a)請求項26に記載された少なくとも1つのミニシャペロンと、前記ウイルスに対する抗原特異性を有する少なくとも1つのウイルス特異的ペプチドとの間で複合体を形成する工程と、
b)それらを必要とする患者へ前記複合体の有効量を投与し、ウイルス特異的細胞殺傷性T細胞(CTL)反応を開始させ、前記CTL反応は、前記ウイルス負荷の減少を引き起こし、それにより前記感染を治療する工程と
を有する方法。
【請求項33】
請求項32の方法において、
前記少なくとも1つのペプチドは、多数のウイルス特異的抗原を有するものである。
【請求項1】
切断したGRP94ミニシャペロンタンパク質をコード化する核酸。
【請求項2】
請求項1の核酸において、
前記核酸は、配列ID番号2のアミノ酸34〜355、配列ID番号2のアミノ酸34〜221、及び配列ID番号2のアミノ酸70〜221からなる群から選択されたGRP94タンパク質変異体をコード化するものである。
【請求項3】
発現ベクター内に含まれる、請求項2の核酸。
【請求項4】
請求項2の核酸によってコード化されたGRP94ミニシャペロンタンパク質。
【請求項5】
薬学的に許容可能な担体内に含まれる、請求項4のタンパク質を有する組成物。
【請求項6】
請求項5の組成物であって、さらに、
前記GRP94ミニシャペロンタンパク質と複合体を形成しているペプチドを有するものである組成物。
【請求項7】
請求項6の組成物において、
前記複合体内の前記ペプチドは、腫瘍特異的抗原を有するものである。
【請求項8】
請求項6の組成物において、
前記複合体内の前記ペプチドは、ウイルス抗原を有するものである。
【請求項9】
悪性度を治療するために、腫瘍組織に対する免疫反応を刺激する方法であって、
a)請求項4に記載された少なくとも1つのミニシャペロンと、腫瘍特異的抗原を有する少なくとも1つの腫瘍特異的ペプチドとの間で複合体を形成する工程と、
b)それらを必要とする患者へ、前記複合体の有効量を投与し、腫瘍特異的細胞殺傷性T細胞(CTL)反応を開始させ、前記CTL反応が前記腫瘍組織内での減少を引き起こし、その結果、前記悪性度を治療する工程と
を有する方法。
【請求項10】
請求項9の方法において、
前記少なくとも1つのペプチドは、多数の共有腫瘍抗原を有するものである。
【請求項11】
請求項10の方法において、
前記共有腫瘍抗原は、表3に記載されたペプチドからなる群から選択されるものである。
【請求項12】
請求項9の方法において、
前記少なくとも1つの腫瘍特異的ペプチドは、前記患者から単離され、工程a)の複合体を形成するために使用されるものである。
【請求項13】
ウイルス感染に対する免疫反応を刺激し、前記感染を治療するための方法であって、
a)請求項4に記載された少なくとも1つのミニシャペロンと、前記ウイルスに対する抗原特異性を有した少なくとも1つのウイルス特異的ペプチドとの間で複合体を形成する工程と、
b)それらを必要とする患者へ前記複合体の有効量を投与し、ウイルス特異的細胞殺傷性T細胞(CTL)反応を開始させ、前記CTL反応が前記ウイルス負荷を減少し、その結果、前記感染を治療する工程と
を有する方法。
【請求項14】
請求項13の方法において、
前記少なくとも1つのペプチドは、多数のウイルス特異的抗原を有するものである。
【請求項15】
ホモ接合体ヌル変異をその内在性GRP94遺伝子内に持つトランスジェニックマウス胚であって、
前記変異は、胚性幹細胞内の相同性組換えを介して前記マウスへ導入され、さらに前記マウスは、機能性マウスGRP94タンパク質を発現しないものである。
【請求項16】
請求項15のトランスジェニックマウスにおいて、
前記ヌル変異は、マウス胚盤胞への胚性幹細胞のマイクロ注入をした後に、胚性段階の前記マウスの祖先へ導入されるものである。
【請求項17】
請求項15のトランスジェニックマウス胚において、
前記ヌル変異は、胚性幹細胞を受精卵或いは桑実胚と共−インキュベーションした後に、胚性段階の前記マウスの祖先へ導入されるものである。
【請求項18】
請求項15のトランスジェニックマウス胚由来のGRP94欠損細胞株。
【請求項19】
胚性幹細胞株である、請求項18の細胞株。
【請求項20】
細胞分化を受けるように導入された、請求項19の細胞株。
【請求項21】
請求項20のGRP94欠損細胞株であって、
ニューロン、脂肪細胞、肝細胞、及びリンパ球からなる群から選択された細胞タイプへ分化するように導入されたものである、GRP94欠損細胞株。
【請求項22】
GRP94活性に選択的に影響する治療薬剤をスクリーニングするための方法であって、
a)テスト化合物を請求項18の細胞、及び野生型マウス胚由来の細胞へ投与する工程と、
b)GRP94関連生理学的過程の変化を、前記GRP94欠損細胞及び野生型細胞において評価し、それにより、GRP94活性を選択的に調節する薬剤を同定する工程と
を有する方法。
【請求項23】
GRP94活性に選択的に影響する治療薬剤をスクリーニングするための方法であって、
a)テスト化合物を請求項19の細胞、及び野生型マウス胚由来の細胞へ投与する工程と、
b)GRP94関連生理学的過程の変化を、前記GRP94欠損細胞及び野生型細胞において評価し、それにより、GRP94活性を選択的に調節する薬剤を同定する工程と
を有する方法。
【請求項24】
GRP94活性に選択的に影響する治療薬剤をスクリーニングするための方法であって、
a)テスト化合物を請求項21の細胞、及び野生型マウス胚由来の細胞へ投与する工程と、
b)GRP94関連生理学的過程の変化を、前記GRP94欠損細胞及び野生型細胞において評価し、それにより、GRP94活性を選択的に調節する薬剤を同定する工程と
を有する方法。
【請求項25】
HSP90ミニシャペロンをコード化する核酸であって、
ヒトHSP90のアミノ酸1〜210を有し、
少なくとも1つのアミノ酸残基は、別のアミノ酸へ置換されたThr90、Ile81、Pro82からなる群から選択されるものである核酸。
【請求項26】
請求項25の核酸によってコード化されたHSP90ミニシャペロンタンパク質。
【請求項27】
薬学的に許容可能な担体内に請求項26のHSP90ミニシャペロンを有する薬学的組成物。
【請求項28】
悪性度を治療するために、腫瘍組織に対する免疫反応を刺激する方法であって、
a)請求項26に記載された少なくとも1つのミニシャペロンと、腫瘍特異的抗原を有する少なくとも1つの腫瘍特異的ペプチドとの間で複合体を形成する工程と、
b)それらを必要とする患者へ前記複合体の有効量を投与し、腫瘍特異的細胞殺傷性T細胞(CTL)反応を開始させ、前記CTL反応は前記腫瘍組織の減少を引き起こし、それにより前記悪性度を治療する工程と
を有する方法。
【請求項29】
請求項28の方法において、
前記少なくとも1つのペプチドは、多数の共有腫瘍抗原を有するものである。
【請求項30】
請求項29の方法において、
前記共有腫瘍抗原は、表3に記載された群から選択されるものである。
【請求項31】
請求項28の方法において、
前記少なくとも1つの腫瘍特異的ペプチドは、前記患者から単離され、工程a)の複合体を形成するために使用されるものである。
【請求項32】
ウイルス感染に対する免疫反応を刺激し、前記感染を治療するための方法であって、
a)請求項26に記載された少なくとも1つのミニシャペロンと、前記ウイルスに対する抗原特異性を有する少なくとも1つのウイルス特異的ペプチドとの間で複合体を形成する工程と、
b)それらを必要とする患者へ前記複合体の有効量を投与し、ウイルス特異的細胞殺傷性T細胞(CTL)反応を開始させ、前記CTL反応は、前記ウイルス負荷の減少を引き起こし、それにより前記感染を治療する工程と
を有する方法。
【請求項33】
請求項32の方法において、
前記少なくとも1つのペプチドは、多数のウイルス特異的抗原を有するものである。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図8A】
【図8B】
【図9A−9H】
【図9I−9L】
【図10A−10B】
【図11A−11G】
【図12A−12D】
【図13A−13C】
【図14A−14F】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22A】
【図22B】
【図1B】
【図1C】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図8A】
【図8B】
【図9A−9H】
【図9I−9L】
【図10A−10B】
【図11A−11G】
【図12A−12D】
【図13A−13C】
【図14A−14F】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22A】
【図22B】
【公表番号】特表2007−504840(P2007−504840A)
【公表日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−533063(P2006−533063)
【出願日】平成16年5月12日(2004.5.12)
【国際出願番号】PCT/US2004/015120
【国際公開番号】WO2004/101766
【国際公開日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(301040958)ザ・チルドレンズ・ホスピタル・オブ・フィラデルフィア (3)
【氏名又は名称原語表記】THE CHILDREN’S HOSPITAL OF PHILADELPHIA
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年5月12日(2004.5.12)
【国際出願番号】PCT/US2004/015120
【国際公開番号】WO2004/101766
【国際公開日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(301040958)ザ・チルドレンズ・ホスピタル・オブ・フィラデルフィア (3)
【氏名又は名称原語表記】THE CHILDREN’S HOSPITAL OF PHILADELPHIA
【Fターム(参考)】
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