説明

ISFETを用いるATPアーゼ活性の計測方法並びに計測システム

【課題】ATP活性反応により生じるリン酸およびその濃度変化を高感度に計測できる方法並びにシステムを提供すること。
【解決手段】本発明の方法並びにシステムは、ATPを含む試料における、ATPアーゼ活性を有する蛋白質のATPアーゼ活性を計測するために、電界効果型トランジスタ(FET)のゲート絶縁膜上にイオンに感応するセンシング部を形成して成るセンサであって、当該センシング部の表面の電位の変化に基づくチャネルの電位レベルの変化量を検出してイオン濃度を検出する構成を有し、かつ、当該センシング部に五酸化タンタルを使用したイオン感応性電界効果トランジスタ(ISFET)センサを使用したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン感応性電界効果トランジスタ(Ion Sensitive Field Effect Transistor:以下、「ISFET」と称する)を用いる、ATPアーゼの活性の計測方法並びにシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
本明細書中、「ATPアーゼ」と称するアデノシン三リン酸フォスファターゼ(アデノシントリフォスファターゼは、アデノシン三リン酸 (ATP) の末端高エネルギーリン酸結合を加水分解する酵素群(EC番号3.6.1.3)である。ATPは生体内のエネルギー通貨であるから、エネルギーを要する生物活動に関連したタンパク質は、この酵素の活性を持っていることが多い。また、ATPはすべての生物の細胞内に存在し、筋肉の収縮や栄養物の移動などあらゆる生命活動で使用される炭素化合物である。ATPからADP(アデノシン2リン酸)への加水分解の際、7.3kcal/molの高いエネルギーが生じる。
【0003】
即ち、ATPアーゼは、この加水分解時に発生するエネルギーを利用して、エネルギーを要する生物体内作用に寄与している。ATPアーゼは、ATP以外のヌクレオチド三リン酸(GTP、UTP、CTPなど)にも作用することが知られている。また、ATPアーゼはATPの合成(酸化的リン酸化)、筋収縮、細胞内物質輸送、細胞外物質輸送、イオン濃度勾配の作成、解毒作用、発光、発電、膜融合(あらゆる生体膜)、膜タンパク質の品質管理など、エネルギーの関与する全ての反応に寄与していると言ってよい。
【特許文献1】特許第3623728号公報
【特許文献2】国際公開WO2003/042683
【非特許文献1】今野久仁彦ほか:平成12年度水産利用加工研究推進全国会議資料、143-146(2000)
【0004】
ところで、ATPアーゼの活性を計測するためには、ATPの加水分解によって生ずる遊離リン酸を定量する方法を用いることが一般的である。
例えば、オルトバナジン酸を利用した呈色反応により遊離リン酸を定量する方法が一般的であり、本法を利用したATPアーゼ計測キット((株) ジェノメンブレン)が市販されている。また、Cytoskeleton社のアッセイ法は、ATP、GTPの加水分解によって生じた遊離リン酸により、MESG(2-アミノ-6-メチルプリン リボヌクレオシド)が2-アミノ-6-メルカプト-メチルプリンに変換され、極大吸収波長が330〜360nmにシフトする反応を利用して定量を行うものである。この反応はPNPにより触媒され、反応後、360nmの吸光度を測定し、遊離リン酸の量からATPアーゼ/GTPアーゼ活性を測定する。これらは、発色反応による吸光度を光学的な装置により測定する方法である。また、食品分野では、pHスタット法によるATPアーゼ活性の測定も試みられている(例えば、非特許文献1)。
【0005】
しかし、吸光度法は感度も低く、ATPアーゼ反応後に測定を行うものであるため、リアルタイムに、高感度に、極微量のサンプルでの定量解析が望まれている。pHスタット法はさらに感度が低く、多量のサンプルを必要とするものであり、微量分析に対応できるものには至っていない。
また、ATPアーゼの一種であるABCトランスポーターにおいては放射性標識した化合物の取り込みから輸送活性を測定することにより高感度にATPアーゼの活性を計測できるが、本法もATPアーゼ反応後に計測を行うものであり、さらに、使用する施設が限定されることから、ラジオアイソトープ(RI)を利用しない分析法への切り替えが望まれている。
【0006】
ところで、酵素センサとして、電流検出型の電気化学センサが一般的に用いられているが、電流検出の代わりに電界効果トランジスタを用いて電位検出を行う場合もある。また、この目的のために、水素イオン濃度(pH)のセンサとなるISFETを利用することが考えられる。このISFETセンサは、ISFETのゲート上の窒化ケイ素等のイオン感応膜に溶液が接すると、溶液中のイオン活量に応じて界面電位が発生するしくみを利用している。つまり、このISFETセンサは、ISFETのゲート絶縁膜上にイオンに感応するセンシング部が形成されて成り、このセンシング部の表面の電位の変化に基づくチャネルの電位レベルの変化量を検出して、イオン濃度を検出することができる。結果、ISFETがセンシング部にて水素イオンに感応して、かかるISFETセンサはpHセンサとして機能する(ただし、これは、ISFETセンサの用途の一つである)。ゲート絶縁膜と試料間の界面電位の変化は、pH依存性の出力電圧として計測される。かかるISFETセンサを基に、更に、ゲート部に種々の感応膜を着膜することにより、種々のポテンショメトリックセンサが作製できる。特に、ISFETを利用したバイオセンサは、集積回路の製造工程により製造されるので、小型化及び規格化が可能であり、大量生産が可能であるという利点があるため、その開発潜在力が期待されている。
しかしながら、ISFETは感度が低く、経時的に出力が不安定であり、イオン濃度を高精度に検出できないという問題があり、現在のところ、ISFETを利用したバイオセンサは、電流検出型のバイオセンサに比して、全く普及していない。
【0007】
ISFETの欠点を克服するため、いわゆる累積型のISFETセンサが開発されている(特許文献1)。この累積型ISFETセンサは、ISFETのセンシング部の表面電位の変化に基づくセンシング部直下のポテンシャル井戸の深さの変化をドレインに電荷として転送することを繰り返し、ドレインに電荷が累積されるべく構成したことにより、センシング部の表面電位の変化が微量であっても確実に検出し、高感度にイオン濃度の変化を検出することができることを特徴とする。また、かかる技術の応用として、試料中の核酸と一本鎖核酸との間のハイブリダイゼーションの発生の有無を高感度に検出することが可能なFETセンサ及び塩基配列検出方法が既に開発されており(特許文献2)、これを用いて、PCR法によりDNAを増量させることなく、簡便に、短時間に、低コストに塩基配列を決定することが実現されている。しかし、このような累積型ISFETがATPアーゼの存在下におけるATP加水分解反応(以後ATPアーゼ活性反応という)により生じるリン酸の濃度変化を高感度に測定するためのバイオセンサに利用可能であるかどうかは不明である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ATP活性反応により生じるリン酸およびその濃度変化を高感度に計測できる方法並びにシステムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、かかる課題を達成するために、鋭意検討した結果、イオン感応膜として窒化ケイ素の替わりに五酸化タンタルを用いたISFETを利用したセンサシステムにより、ATPアーゼ活性反応を効率よく追跡できることを見い出した。また、特に前記累積型のISFETセンサを使用することにより、ATPアーゼの活性により試料中で生じるリン酸およびその濃度変化を高感度に定量することが可能であることを見い出し、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明の方法は、ATPを含む試料における、ATPアーゼ活性を有する蛋白質のATPアーゼ活性を計測するための方法であって、
(1)前記試料中で前記蛋白質をATPと反応させると共に、当該反応期間中の、少なくとも第一の時点とその後の第二の時点に、当該試料中のイオンを、イオン感応性センサを用いて検出するステップと、
(2)前記第一の時点における検出値と前記第二の時点における検出値の比較に基づき、当該第一の時点と当該第二の時点の間に、前記試料中で、前記蛋白質によるATPアーゼ活性により生じたリン酸の濃度変化を検出するステップと
を含み、前記イオン感応性センサとして、電界効果型トランジスタ(FET)のゲート絶縁膜上にイオンに感応するセンシング部を形成して成るセンサであって、当該センシング部の表面の電位の変化に基づくチャネルの電位レベルの変化量を検出してイオン濃度を検出する構成を有し、かつ、当該センシング部に五酸化タンタルを使用したイオン感応性電界効果トランジスタ(ISFET)センサを用いることを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、ATPを含む試料における、ATPアーゼ活性を有する蛋白質のATPアーゼ活性を計測するためのシステム(分析や診断を実施するため装置やキット)として、電界効果型トランジスタ(FET)のゲート絶縁膜上に、イオンに感応するセンシング部を形成して、このセンシング部の表面の電位の変化に基づくチャネルの電位レベルの変化量を検出して、イオン濃度を検出する構成のイオン感応性電界効果トランジスタ(ISFET)センサにおいて、前記センシング部に五酸化タンタルを使用したISFETセンサを備えたシステムをも提供する。
【0011】
かかる本発明は、半導体ベースの高感度ISFETイオンセンサを用いることにより、ATPの加水分解により生じる、試料中のイオンの濃度変化を電気信号として出力することにより、これまで困難とされてきたATPの加水分解により生じるリン酸およびその濃度変化を、これらが極微量であっても、きわめて短時間で簡便に計測できるものであり、特に、イオンセンサのイオン感応膜に五酸化タンタルを使用したことで、従来に比して感度が向上したものである。
即ち、ATPは、式:ATP+HO→ADP+HOPO2−+Hで表されるように加水分解されて、リン酸イオン(HOPO2−)を生じるが、従来、特に、ATPアーゼの活性により生じる微量のリン酸およびその濃度変化を正確に計測することは非常に困難であった。本発明では、このように計測が困難な、ATPの加水分解により生じたリン酸およびその濃度変化の迅速かつ正確な計測を可能とした画期的なものである。
【0012】
本発明で計測に供する試料は、ATPを含むものであればいずれでもよく、例えば、かかる試料としては、例えば、特にヒトを含む脊椎動物、無脊椎動物、植物、微生物等の生体由来のもの、例えば、血液、血清、血漿、唾液、脳脊髄液、尿、便、糞、リンパ液、精液、涙液等や、河川、土壌などの環境から採取したもの、食品や医薬品等の加工物由来のもの等が挙げられる。
前記試料は、本発明において計測に供するに際し、超音波処理や界面活性剤処理等により破砕した後に計測に供するか、タンパク抽出および所望により精製操作により前処理を行った後に計測に供することが概して好ましく、このようにすることで、計測感度を向上させることができる。
【0013】
即ち、本発明では、ATPアーゼ活性により生じるリン酸の検出は、ATPの加水分解に伴い生じる水素イオンおよびリン酸イオンをISFETが検出することによるが、それは特にリン酸イオンをISFETが検出することによるものと考えられる。
【0014】
前記ATPアーゼ活性を有する蛋白質は、ATPを加水分解してイオンの濃度変化を生じるものであれば特に限定されず、例えば、ミオシンATPアーゼ、ダイニンATPアーゼ、キネシンATPアーゼ、ダイナミンATPアーゼなどの運動性タンパク質ATPアーゼ、F型ATPアーゼ、A型ATPアーゼ、V型ATPアーゼ、P型ATPアーゼなどのイオン輸送性ATPアーゼ、トランスポーター型ABCタンパク質、チャネル型ABCタンパク質、レセプター型ABCタンパク質、DNA結合型ABCタンパク質などのABC ATPアーゼ、AAAプロテアーゼ、膜融合AAA・ATPアーゼ等のAAA・ATPアーゼ等が挙げられる。
【0015】
また、前記ATPアーゼ活性を有する蛋白質の形態は、特に限定されず、液状であってもよいし、固形状態であって、試料と混合することにより水分を供給されるものであってもよいし、また適宜キャリア物質等と組み合わせて当該蛋白質を含む組成物、例えば、医薬品、食品および飲料等の形態であってもよい。また、かかる蛋白質は、適当な容器に入れられたり、適当なデバイスに搭載されて、例えば、分子生物学用途の分析用試薬、生化学用途の分析試薬、体外診断薬、液状体外診断薬、チップ状またはスリット状に加工した体外診断薬、バイオセンサ等の形態をとることもできる。
【0016】
前記ATPアーゼ活性を有する蛋白質は、また、膜などの担体に固定化されていてもよいし、遊離状態で存在してもよい。一般に、電界効果トランジスタ(FET)を利用したバイオセンサでは、センシング部の膜に、酵素活性を有する蛋白質を直接あるいは間接的に固定して使用した場合と固定せずに使用した場合では、バイオセンサが示すpH特性が異なる場合がある。これは、固定化により当該蛋白質の立体構造が変化することが原因の1つであるが、他に以下の2点が考えられる。第1に、酵素固定化膜によってpHの勾配が生じ、溶液中のpHと酵素固定化膜中のpHに差が生じることと、第2に、酵素反応等によって生成する酸により酵素近傍のpHが変化することである。従って、このような場合は、当該蛋白質は遊離状態で存在することが好ましい。
【0017】
本発明において、反応系、即ち試料やATPアーゼ活性を有する蛋白質を含む反応混合物の全体に対するATPアーゼ活性を有する蛋白質の濃度は特に限定されないが、試料等と混合後の終濃度が0.000005〜0.01U/μLとなる様に含有させることが好ましく、終濃度0.00001〜0.005U/μLとなる様に含有させることがさらに好ましい。
【0018】
更に、本発明では、前記蛋白質のATPアーゼ活性を、アルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩の存在下でISFETにより検出するように構成されてもよく、かかる金属塩として、例えば、塩化ナトリウムや塩化カリウムを使用することができる。かかる金属塩は、検出シグナルを安定化させる働きを有する。反応系に使用されるアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩の添加濃度は、特に限定されないが、例えば、0.1mM〜1Mであり、1〜100mMであることが好ましく、1〜50mMであることがより好ましく、かかる範囲で、優れた検出シグナル安定化効果を得ることができる。
【0019】
本発明において、反応系には、溶液のpH緩衝作用、タンパク質の安定化などの目的で、さらに他の物質を混合しても良い。1つの実施態様では、バッファー成分として、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、クエン酸緩衝液、トリス緩衝液、PIPES、MES、TES、MOPS、HEPESなどのGood緩衝液等を使用できる。かかるバッファー成分の反応系全体に対する濃度は特に限定はないが、濃度が高すぎるとイオン濃度が変化しにくく、低すぎると変化が過剰になるので、高い検出感度が達成されるように適切な濃度を選択することが好ましい。かかるバッファー成分の濃度は例えば0.1〜20mMであり、0.2〜10mMであることが好ましく、0.5〜10mMであることがより好ましい。また、反応系には、エタノールやメタノール、プロパノールなどのアルコールおよびその誘導体等を添加しても良い。
【0020】
本発明において、反応系には、さらに、必要に応じてその他の添加剤を含有してもよい。添加剤としては界面活性剤、安定化剤、防腐剤、キレート剤、活性化剤などが挙げられる。かかる添加剤についても何ら限定はないが、具体的には以下のようなものが例示される。例えば、界面活性剤としては、ノニオン性のもの、アニオン性のもの、およびカチオン性のもののいずれも使用でき、例えば、ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類(商品名トリトンX−100など)やポリオキシエチレンアルキルエーテル類等、アニオン界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩や直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩等、カチオン界面活性剤としては、テトラアルキルアンモニウム塩等がそれぞれ挙げられる。安定化剤としては、シュークロース、トレハロース、サイクロデキストリン等の糖類およびその誘導体、アルギニン、リジン、ヒスチジン、グルタミン酸等のアミノ酸およびその誘導体、アルブミン等の蛋白質、アルカリ金属やアルカリ土類金属等の塩類、アンモニアイオン、グルコン酸などが挙げられる。防腐剤としては、抗生物質、アジ化化合物、その他防菌剤、防かび剤等が挙げられる。キレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸およびその塩等が挙げられる。活性化剤としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属等が挙げられる。
【0021】
かかる本発明では、反応混合物が、ISFETセンサのセンシング部に直接あるいは間接的に接触することになる。最適な反応混合物の容量は、センサの構成、特にセンシング部の面積に依存することになるが、例えば、0.1〜500μLが好ましく、0.1〜30μLがより好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、試料中での、ATPの加水分解により生じたリン酸およびその濃度変化を高感度に定量することできる。また、本発明の方法並びにシステムは、極めて簡単な構成である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明を実施するための累積型のISFETセンサおよびこれを用いるイオン計測装置について、一部図面を参照しながら、更に詳しく説明する。
【0024】
本発明では、五酸化タンタルを使用した前記ISFETセンサとして、特にセンシング部の表面電位の変化を累積して前記イオン濃度を検出できる累積型ISFETセンサを使用するのが好ましい。かかる累積型のISFETセンサを使用することで、非常に高感度で前記蛋白質のATPアーゼ活性の計測が可能となる。例えば、特許文献2に記載されるような累積型のISFETセンサを使用するのがよい。ここでは、ISFETのセンシング部の表面電位の変化を、電荷として転送することを繰り返し、電荷を累積させることにより、センシング部の表面電位の変化が微量であっても確実に、その変化を検出し、高感度にイオン濃度の変化を検出することができるものである。
【0025】
また、本発明では、試料中のイオン濃度を計測するための手段として、一対の電界効果型トランジスタ(FET)センサを同一の半導体基板上に併設し、この一対のセンサ間では、その上に収容する試料溶液が互いに流通しないようにしたダブルセンサ型のイオン計測装置を使用してもよい(図5参照)。この場合、一方のセンサに目的とするATP加水分解反応を起こさせる反応混合物を投入し、他方のセンサに対照用成分を投入して、目的の反応によるイオン変化を検出することができる。
【0026】
本発明に使用する累積型のISFETセンサとしては、例えば、図7に示すようなP型又はN型半導体基板の表面側に所定の間隔を置いて形成された、基板と逆型の拡散領域からなる入力ダイオード部及び浮遊拡散部と、前記入力ダイオード部から浮遊拡散部までの間に形成されるべき導通チャネルの始端及び終端にそれぞれ対応した基板表面上の位置に、絶縁膜を介して固定された入力ゲート及び出力ゲートと、前記チャネルの中間部に対応した基板表面上の位置に、絶縁膜を介して固定されたイオン感応膜からなるセンシング部と、前記浮遊拡散部の、前記チャネルから離れた側に連なる前記基板表面上の位置に、絶縁膜を介して固定されたリセットゲートと、前記リセットゲートにおける前記浮遊拡散部から離れた側の前記基板表面部に形成された、基板と逆型の拡散領域からなるリセットダイオード部とを備え、前記センシング部に、ATPアーゼ活性を有する蛋白質または該蛋白質を含む組成物および試料を添加混合し、その結果、前記センシング部に作用するイオン濃度に応じて変化したポテンシャル井戸の深さと、そのポテンシャル井戸からの汲み出し回数に応じ、電位リセット後の前記浮遊拡散部が蓄積する電荷量を、電位変化として検出するようにしたFETセンサを構成したものを好適に使用できる。
【0027】
図7は、本発明で使用する累積型のISFETセンサの一例を示すものであるが、図7(A)は、ISFETセンサ素子の構成を示す縦断面図であり、図7(B)は図7(A)に示すISFETセンサ素子のエネルギー準位を示す模式図である。また、図8はバイオセンサ計測装置により、図7(A)に示すISFETセンサ素子の出力特性を計測するときの動作タイミングチャートである。またさらに、図9は、図7(A)に示すISFETセンサ素子の動作を示す図であって、ポテンシャル状態及び蓄積電荷の推移を示す、図7(B)と同様のエネルギー準位を示す模式図である。
【0028】
図7(A)において、典型的にはシリコンにてなるp−型の半導体基板1の表側には互いに所定間隔をおいてn+型拡散層からなる電荷供給部としての入力ダイオード2及び浮遊拡散部3が形成され、さらに浮遊拡散部3から小間隔をおいてリセットダイオード4が形成される。半導体基板1上には、この場合、n+型拡散層上も含めSiO又はSiからなる絶縁膜5が形成される。入力ダイオード2及び浮遊拡散部3間における半導体基板1表面部には、次に述べるゲート構造との関連において導通チャネル(n型反転層)が形成され、その結果、入力ダイオード2をソースとし、浮遊拡散部3をドレインとするISFETセンサ20が構成される。絶縁膜5上には、チャネル始端部に対応する入力ダイオード2の隣接位置において入力ゲート6が、またチャネル終端部に対応する浮遊拡散部3の隣接位置において出力ゲート7が、それぞれポリシリコン、又はアルミニウムからなる蒸着層より形成され、さらに浮遊拡散部3とリセットダイオード4との間においてリセットゲート8が同様の蒸着層より形成される。入力ゲート6、リセットゲート8の上面と、これらのゲートを支持したゲート外の絶縁膜5上には、典型的には窒化ケイ素(Si)蒸着層からなる被着膜10が形成される。Si膜はSiO膜に比べて構造が緻密で、酸素の拡散係数が小さいため、それ自身が入力ゲート6と出力ゲート7間に形成する凹部をセンシング部9として、良好なイオン感応膜を構成する。
【0029】
好ましい態様では、イオン感応膜としては五酸化タンタル(Ta)蒸着層を用いる。本発明の方法並びにシステムにおける、前記蛋白質のATPアーゼ活性により生じたリン酸をISFETセンサを用いて検出する系において、センシング部に五酸化タンタル層が設けられていることにより、窒化ケイ素の蒸着層を使用する従来技術に比較して極めて高感度にイオンの濃度変化を検出することができる。ISFETセンサ素子20Aのセンシング部9のイオン感応膜には、本発明の方法並びにシステムにおける反応物質、例えばATPアーゼ活性を有する蛋白質等が固定化されてもよいが、かかる反応物質は遊離状態で存在してもよい。
【0030】
なお、半導体基板1の表面Xにおいて、入力ダイオード2及びリセットダイオード4の外側には、絶縁膜5と同様なシリコン酸化膜等からなる比較的厚いマスク層11が形成され、前述したセンシング部9を形成する蒸着膜である被着膜10は、当該マスク層11にも被さり、さらに被着膜10上にはセンシング部9を除き、例えば、リンガラスからなる保護膜12と、当該保護膜12上において外表面を面一にした外装膜13が被着形成される。図7(A)の左側より、入力ダイオード2、入力ゲート電極6及び出力ゲート電極7、浮遊拡散部3、リセットゲート8及びリセットダイオード4の上面には、各々アルミニウム等からなる電極リードが形成され、それらの電極リードを介して計測シーケンスに従った電圧が印加され、又は浮遊拡散部3の電位が検出される。浮遊拡散部3は電極リード端子の出力電圧Vout(以下、この出力信号電圧を「シグナル」と称する。)を、ソースフォロワ増幅器を含む計測装置に接続する。
【0031】
詳しくは、本態様では、ISFETセンサ素子は、P−型半導体基板1の表面X側に所定の間隔をおいて形成された、半導体基板1と逆型であるN+型の拡散領域からなる入力ダイオード部2及び浮遊拡散部3と、リセットダイオード4とを有し、浮遊拡散部3とリセットダイオード4との間の絶縁膜5上には同じくリセットゲート8を有することにより、浮遊拡散部3のためのリセットトランジスタを構成したものである。まず、入力ゲート6、及び出力ゲート7は入力ダイオード部2から浮遊拡散部3までの間に形成されるべき導通チャネルの中間部、及び終端部にそれぞれ対応した絶縁膜9上に固定され、両ゲート6及び7を隣接させるため、比較的細幅で高さを持たせた出力ゲート7が、比較的広幅の入力ゲート6の当該隣接側を覆う被着膜10によって、当該入力ゲート6と絶縁された構造となっている。出力ゲート7は底面が半導体基板1上の絶縁膜に接するとともに、その上方部が被着膜10及び保護膜12を貫通し、上端が外装膜13内に位置する高さを有している。
【0032】
このように形成された入力ダイオード2と、入力ゲート6との間の基板表面上の位置、すなわち形成されるべき反転チャネルの入力端に対応した位置には、底面をなす絶縁膜5とともにイオン感応膜となる入力ゲート6側の絶縁膜5と、入力ダイオード2側の被着膜10及び保護膜12の断層とに挟まれて凹部をなすセンシング部9が形成される。
なお、計測には市販のオシロスコープ等を使用する。
【0033】
さらに、図7(A)のISFETセンサ素子を用いて、イオン濃度を検出する方法について、図8及び図9を参照して説明する。
まず、図8に示すように、センシング部9内の水溶液に例えば2Vの電圧Vginを印加、センシング部9の直下の半導体基板1の表面の電位を一定にする。これがポテンシャル井戸入り口の初期設定値となる。次に、図7に示すように、入力ゲート6に適当な直流電圧Vsen(例えば、2.0V)を印加し、その直下の半導体基板1の表面電位を固定するとともに、電荷供給部としての入力ダイオード2に逆バイアス電圧Vin=5Vを、また、リセットゲート8に所定のパルス幅のリセット電圧Vgrを印加し、浮遊拡散部3の電位の初期値を設定する。このとき、出力ゲート7の電圧Vgoutは0Vである。
【0034】
図8に示すように、初期状態(t0〜t1)では電荷供給部である入力ダイオード2の電圧Vin=5Vは十分な逆バイアスとして、当該入力ゲート内に残留する電荷を図7(B)に示すようにごく僅かに抑え、当該電荷プールの上端は、センシング部9のレベルに届かず、センシング部9以降(図7(B)のセンシング部9の右側)には侵入しない。この場合、水溶液中のマイナスイオン濃度が高くなった場合、センシング部9の表面電位が変化し、当該センシング部9直下の半導体基板1の表面の電位は前記初期設定値b0よりさらに上がり、逆に、マイナスイオン濃度が低くなった場合、又はプラスイオンが高くなった場合には、表面電位はb0より下がる。
時間t1に達し、入力ダイオード2に印加する電圧Vinが、5Vから1Vに下がると、逆バイアスが緩和された分、電荷プール量が多くなり、そのレベルは、この場合センシング部9直下の基板表面電位b0(ポテンシャル井戸入ロレベル)を越え、当該入力ダイオード2からの電荷が入力ゲート6直下のポテンシャル井戸に供給される(図8及び図9(A)参照。)。
【0035】
時間t1からt2に達すると、再度、入力ダイオード2に印加する電圧Vinが5Vに上がり、センシング部9直下の表面電位のレベルで電荷がすりきられ、当該レベル下におけるポテンシャル井戸の容量分だけ電荷が残存、それ以外の電荷は入力ダイオード2を経て、当該ダイオード2に残留する分を残し直流電圧源21に還流する(図9(B)参照。)。この場合も、ポテンシャル井戸に残留した電荷の量はマイナスイオン濃度によって変化し、センシング部9の表面電位の変化量がこの電荷の量に変換される。
【0036】
次に、時間t2からt3になるまでの間に、出力ゲート7に電圧Vgoutが5V印加されると、当該出力ゲート7が開いて、電荷が予めリセット電位に維持された浮遊拡散部3に転送される(図9(C)参照。)。時間t3で、この電荷を転送後、出力ゲート7に印加する電圧Vgoutが0Vに下がり、出力ゲート7が閉じられる(図9(D)参照)。さらに、浮遊拡散部3は、時間t3で電位が読み取られた後は、リセットゲート8にリセットゲート電圧Vgrを印加し、当該浮遊拡散部3の電荷を、電源電圧+Vddの直流電圧源21に接続されたリセットダイオード4に導き、さらに直流電圧源21に吸収せしめて、初期出力電圧Voutを再設定する。
【0037】
以上説明したように、図9(B)から図9(D)に示したプロセスを繰り返し行うこと(電荷の転送と、出力ゲートの開閉)により、センシング部9の表面電位の変化量が浮遊拡散部3の電荷量として累積される。そして、浮遊拡散部3に蓄積された電位変化量は出力電圧Voutとして、計測装置に入力された後、表示されかつ記録その他の処理に用いられる。
【0038】
本発明において、累積型ISFETセンサのセンシング部の表面積は、センサを小型化し至便性を高めるためには、小さい方が好ましいが、反応混合物の容量を高め、シグナルのレベルを上げるためには、大きい方が好ましい。従って、その使用目的、対象試料種などに応じて、センシング部の表面積を至適化すればよい。概して、センシング部の表面積は、0.0001mm〜5mmが好ましく、0.005mm〜1mmがより好ましい。
【0039】
かかる累積型ISFETをセンサ素子として用いた計測装置により、ATPアーゼ活性反応によって生じるイオンおよびその濃度変化を計測することができる。
【実施例】
【0040】
以下の実施例を用いて本発明を具体的に説明する。ただし、かかる実施例は、本発明を限定するものではない。
【0041】
[実施例1]本発明の方法による、ATPアーゼ活性を有する蛋白質の活性の計測
下記の表1に示す計測用試料、蛋白質溶液および緩衝溶液を準備し、下記計測装置を用いて、下記の計測方法により、各試料における当該蛋白質のATPアーゼ活性を計測した。
【0042】
【表1】

【0043】
[計測装置]
累積型ISFETセンサ(AMISセンサ、バイオエックス社製)を用いた計測装置(バイオエックス社製)であって、ISFETのゲート上のイオン感応膜に五酸化タンタルを使用したもの。センシング部の表面積は0.05mmとした。詳しくは、この計測装置は、図5に示すように、一対のISFETセンサ(23、24)を同一の半導体基板1上に併設し、その一対のISFETセンサの周縁を一括して包囲する電気化学的に不活性なフッ素樹脂等からなる外周壁25と、それらのセンサ23、24間を仕切って両端が外周壁25に内接する仕切り壁26を設けて成るものであり、各センサ23、24上に収容する試料溶液が互いに流通しないため、同一基板上で隣接した2センサのうち、一方のセンサにおいて目的のATP加水分解反応を起こさせる反応混合物成分を投入し、他方のセンサにおいて、当該反応混合物成分の少なくとも一つを、緩衝液等の、明らかに目的のATP加水分解反応を起こさない成分に置き換えて対照用とし、該他方のセンサにより溶液・物性等の経時ドリフトを測定し、このドリフト値を当該一方のセンサの測定値から差し引いて、正確に目的の反応によるイオン変化のみを検出することが可能なものである。また、2つのセンサにおいて異なった試料溶液を収容し、互いに影響なく、各別の測定を行うことも可能である。
【0044】
[計測方法]
図5に示すダブルセンサ型の計測装置のセンシング部Aに計測用試料を18μL添加し、センシング部Bに対照用試料として緩衝溶液を18μL添加した。30℃で3分間の予備加温を実施し、温度を安定化した後、経時的にシグナルを計測し、センサの状態を確認した。そしてセンシング部A及びBに、活性蛋白質溶液(アルカリフォスファターゼを、その活性度が0.1〜5U/mlになるように濃度を調整したもの)を各2μL添加および混合し、シグナルが安定した後(1〜2分後)、30℃にてシグナル変化量(センシング部Bからのシグナルと比較してのセンシング部Aからのシグナルの減少)を5秒ごとに4〜5分計測した。累積型ISFETセンサの累積回数は10回で計測した。
【0045】
[結果]
各計測試料について計測を実施し、各々のシグナル変化量のタイムコースを計測した結果を図1に示す。計測したシグナル変化量とアルカリフォスファターゼの活性度との関係を図2に示す。試薬中のアルカリフォスファターゼの活性度とシグナル変化量の間に、良好な相関関係が認められる。
【0046】
[実施例2]本発明の方法による、ABCトランスポーターの被検物質感受性の評価
本実施例では、膜蛋白であるABCトランスポーターのATPアーゼ活性を本発明の方法を用いて計測することにより、被検物質(本実施例では、カルシウム拮抗剤であるベラパミル)に対するABCトランスポーターの感受性を計測した。
まず、下記の表2の最上段に示す緩衝溶液を準備し、この緩衝液を用いて下記表に示す反応液、膜蛋白希釈液、被検物質溶液および反応開始試薬を作製し、下記計測装置を用いて、下記計測方法により、ABCトランスポーターのATPアーゼ活性を計測した。
【0047】
【表2】

【0048】
[計測装置]
実施例1で使用したものと同じ累積型ISFETセンサ(AMISセンサ、バイオエックス社製)を用いた計測装置(バイオセンサ開発用計測装置、バイオエックス社製)であって、ISFETのゲート上のイオン感応膜に五酸化タンタルを使用したもの。センシング部の表面積は0.05mmとした。
【0049】
[計測方法]
計測装置のセンシング部Aに膜タンパク希釈液を9μLと、被検物質溶液(その濃度を0.1〜5μMに調整したもの)を9μLとを添加し、センシング部Bに膜タンパク希釈液を9μLと対照用試薬としての反応液を9μLとを添加した。37℃で10分間経過後のシグナルを計測し、センサの状態を確認した。次いで、センシング部A及びBに反応開始試薬を各2μL添加し、混合し、37℃にてシグナル変化量(センシング部Bからのシグナルと比較してのセンシング部Aのシグナルの減少)を1分ごとに10分間計測した。累積型ISFETセンサの累積回数は10回で計測した。
【0050】
[結果]
各被検物質溶液について計測を実施し、各々のシグナル変化量のタイムコースを計測した結果を図3に示す。また、計測したシグナル変化量とベラパミル濃度との関係を図4に示す。試料中のベラパミル濃度とシグナル変化値との間に良好な相関関係が認められる。
ところで、例えば、本実施例に用いた前記計測装置と膜蛋白溶液は、セットにして、膜蛋白質の被検物質に対する感受性を評価するためのシステムとして、キット等の形態で提供できる。
【0051】
[実施例3]本発明の方法による、試料中のリン酸濃度の計測
下記の表3に示す計測用試料と緩衝溶液を準備し、下記計測装置を用いて、下記の計測方法により、各試料中のリン酸濃度を計測した。
【0052】
【表3】

【0053】
[計測装置]
実施例1で使用したものと同じ累積型ISFETセンサ(AMISセンサ、バイオエックス社製)を利用した計測装置(バイオセンサ開発用計測装置、バイオエックス社製)であって、ISFETのゲート上のイオン感応膜に五酸化タンタルを使用したもの。センシング部の表面積は、0.05mmとした。
【0054】
[計測方法]
計測装置のセンシング部A及びBに、緩衝溶液を各18μL添加した。30℃で3分間の予備加温を実施し、温度を安定化した後、50秒間シグナルを計測し、センサの状態を確認した。次いで、センシング部Aに、各種計測用試料(リン酸濃度0〜1μMのもの)を各々2μLを添加および混合し、センシング部Bには対照用試料として緩衝溶液を2μL添加および混合し、30℃にてシグナル変化量(センシング部Bからのシグナルと比較してのセンシング部Aからのシグナルの減少)を5秒毎に100秒間計測した。累積型ISFETセンサの累積回数は、10回で設定した。
【0055】
[結果]
結果を、測定したリン酸濃度とシグナル変化の関係として図6に示す(●)。試薬中のリン酸の濃度とシグナル変化量の間に、良好な希釈直線性が認められる。
なお、発明者等は、別途の試験により、本実施例の方法により、例えば試料中に0.01μM〜200μMの濃度で含有されるリン酸を計測することができ、試料中に0.05μM〜100μM以下の濃度で含有されるリン酸を確実に計測することができることが確認した。
【0056】
[比較例1] センシング部に窒化ケイ素層を用いた累積型ISFETによるリン酸濃度の計測
計測装置におけるISFETのゲート上のイオン感応膜として、窒化ケイ素を使用したこと以外は、実施例1と同様の試料、計測装置、および条件で、各試料中のリン酸濃度を計測した。
【0057】
[結果]
各計測試料について計測を実施し、各々のシグナル変化量を計測し、シグナル変化とリン酸濃度との関係を、実施例1と同様に図6に示す(○)。窒化ケイ素層イオン感応膜を使用した際にも、試薬中のリン酸の濃度に応じてシグナル変化値が変化し、希釈直線性が認められるが、その感度は十分でなく、シグナル変化のレベルは五酸化タンタル層イオン感応膜を使用した際の約1/5である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の方法による、アルカリフォスファターゼによるATPの加水分解により生じたリン酸の濃度変化のタイムコースを示す。
【図2】本発明の方法による、アルカリフォスファターゼのATPアーゼ活性の計測の検量線を示す。
【図3】本発明の方法による、リン酸の濃度変化のタイムコースを示す。
【図4】本発明の方法によるATPアーゼ活性の計測に基づくベラパミール濃度の検量線を示す。
【図5】本発明の方法並びにシステムに適したダブルセンサ型のイオン計測装置の平面図を示す。
【図6】本発明の方法によるリン酸濃度計測と、窒化ケイ素層をセンシング部に有するISFETセンサを使用した比較例によるリン酸濃度計測における、シグナル変化量と試料中のリン酸濃度の希釈直線性を示す。図中、白丸(○)は本発明の方法による計測値を、黒丸(●)は、比較例による計測値を示す。
【図7】本発明の方法並びにシステムに適したISFETセンサの構成を示す図であり、(A)は当該ISFETセンサの構成を示す縦断面図であり、(B)は(A)に示すISFETセンサのエネルギー準位を示す模式図である。
【図8】図7(A)に示すISFETセンサの出力特性を計測するときの動作タイミングチャートである。
【図9】図7(A)に示すISFETセンサの動作を示す図であって、ポテンシャル状態及び蓄積電荷の推移を示す、図7(B)と同様のエネルギー準位を示す模式図である。
【符号の説明】
【0059】
1…半導体基板
2…入力ダイオード
3…浮遊拡散部
4…リセットダイオード
5…絶縁膜
6…入力ゲート
7…出力ゲート
8…リセットゲート
9…センシング部
10…被着膜
11…マスク層
12…保護膜
13…外装膜
20、23、24…ISFETセンサ
25…外周壁
26…仕切り壁
X …表面
A …センシング部
B …センシング部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ATPを含む試料における、ATPアーゼ活性を有する蛋白質のATPアーゼ活性を計測するための方法であって、
(1)前記試料中で前記蛋白質をATPと反応させると共に、当該反応期間中の、少なくとも第一の時点とその後の第二の時点に、当該試料中のイオンを、イオン感応性センサを用いて検出するステップと、
(2)前記第一の時点における検出値と前記第二の時点における検出値の比較に基づき、当該第一の時点と当該第二の時点の間に、前記試料中で、前記蛋白質によるATPアーゼ活性により生じたリン酸の濃度変化を検出するステップと
を含み、前記イオン感応性センサが、電界効果型トランジスタ(FET)のゲート絶縁膜上にイオンに感応するセンシング部を形成して成るセンサであって、当該センシング部の表面の電位の変化に基づくチャネルの電位レベルの変化量を検出してイオン濃度を検出する構成を有し、かつ、当該センシング部に五酸化タンタルを使用したイオン感応性電界効果トランジスタ(ISFET)センサであることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記ISFETセンサとして、センシング部の表面電位の変化を累積して前記イオン濃度を検出できる累積型ISFETセンサを使用することを特徴とする請求項1の方法。
【請求項3】
前記イオン感応性センサとして、各センサ上に収容する試料溶液が互いに流通しないようにした一対の電界効果型トランジスタ(FET)センサを使用し、一方のセンサに目的とするATP加水分解反応を起こさせる反応混合物を投入し、他方のセンサに対照用成分を投入して、目的の反応によるイオン変化を検出することを特徴とする請求項1又は2の方法。
【請求項4】
ATPを含む試料における、ATPアーゼ活性を有する蛋白質のATPアーゼ活性を計測するためのシステムであって、
電界効果型トランジスタ(FET)のゲート絶縁膜上に、イオンに感応するセンシング部を形成して、このセンシング部の表面の電位の変化に基づくチャネルの電位レベルの変化量を検出して、イオン濃度を検出する構成のイオン感応性電界効果トランジスタ(ISFET)センサにおいて、前記センシング部に五酸化タンタルを使用したISFETセンサを備えたことを特徴とする、ATPアーゼ活性反応測定システム。
【請求項5】
前記ISFETセンサとして、センシング部の表面電位の変化を累積して前記イオン濃度を検出できる累積型ISFETセンサであることを特徴とする請求項4のシステム。
【請求項6】
前記ISFETセンサとして、各センサ上に収容する試料溶液が互いに流通しないようにした一対の電界効果型トランジスタ(FET)センサを使用したダブルセンサ型のイオン計測装置を使用することを特徴とする請求項4又は5のシステム。
【請求項7】
前記ATPアーゼ活性を有する蛋白質が、ABCトランスポーターであることを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載のATPアーゼ活性反応測定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−229379(P2009−229379A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−77625(P2008−77625)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(301051530)株式会社バイオエックス (4)
【出願人】(596053068)京都市 (26)
【出願人】(500158096)
【出願人】(506202076)
【Fターム(参考)】