説明

Th2介在性状態の治療のためのKIM−1抗体

【課題】Th2介在性疾患およびTh1介在性疾患を治療するための組成物および方法の提供。
【解決手段】本発明は、KIM−1の特定領域と結合する抗体などの作用物質が、Th1および/またはTh2介在性免疫を差次的に調節することができるという発見に少なくとも一部基づく。例えば、KIM−1のストーク領域またはKIM−1のシアル酸結合領域と結合する作用物質は、Th2サイトカインの発現を調節することができ、Th2介在性障害、例えば喘息を治療するために使用することができ、KIM−1のムチン領域内の特定エピトープと結合する作用物質は、病原性Th1応答を低減することができ、Th1介在性障害、例えば炎症性腸疾患(IBD)、クローン病、多発性硬化症、糖尿病、リウマチ性関節炎、乾癬、急性移植片対宿主病(GVHD)、移植、膵炎、遅延型過敏症(DTH)などの炎症障害または自己免疫性障害を治療するために使用できる。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
(発明の背景)
アレルギー性喘息およびアトピー性皮膚炎などのアトピー性疾患は、Th2免疫優性への病原性シフトを伴うと考えられている(Umetsuら、2002年、Nat Immunol.、3巻:715〜20頁)。
【0002】
喘息状態では、Th2サイトカイン生成は肺への好酸球流入、好酸球活性化、IgE生成、IgE介在性マスト細胞活性化および脱顆粒、ならびに肺間質腔での単核細胞蓄積を駆動する。肺間質腔ではT細胞および活性化顆粒球がTh2サイトカイン、ケモカイン、およびエフェクター分子を分泌し続けることによって、肺炎の継続を促進する。KIM遺伝子ファミリーを有するTAPR遺伝子座は、マウスにおけるアトピー性炎症発生に関係付けられており、KIM−1の対立遺伝子変異は、患者のポピュレーション解析においてアトピーの発生率と関連している(非特許文献1;非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】McIntireら、2001年、Nat Immunol、2巻:1109〜16頁
【非特許文献2】McIntireら、2003年、Nature、425巻:576頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
(発明の要旨)
本発明は、KIM−1の特定領域と結合する抗体などの作用物質が、Th1および/またはTh2介在性免疫を差次的に調節することができるという発見に少なくとも一部基づくものである。例えば、KIM−1のストーク領域またはKIM−1のシアル酸結合領域と結合する作用物質は、Th2サイトカインの発現を調節することができ、Th2介在性障害、例えば喘息を治療するために使用することができ、KIM−1のムチン領域内の特定エピトープと結合する作用物質は、病原性Th1応答を低減することができ、Th1介在性障害、例えば炎症性腸疾患(IBD)、クローン病、多発性硬化症、糖尿病、リウマチ性関節炎、乾癬、急性移植片対宿主病(GVHD)、移植、膵炎、遅延型過敏症(DTH)などの炎症障害または自己免疫性障害を治療するために使用することができる。Th2介在性障害およびTh1介在性障害の治療に有用な組成物および方法が提供される。
【0005】
一態様では、本発明は、Th2介在性状態、例えば喘息(特にアレルギー性喘息)、アレルギー性鼻炎、アレルギー、湿疹、およびその他のアトピー性状態を治療する方法を提供する。この方法は、Th2介在性状態を有する哺乳動物、好ましくはヒトに、KIM−1のストーク領域またはKIM−1のシアル酸結合モチーフと結合する作用物質を投与することを含む。例えば、この方法は、KIM−1のストーク領域またはKIM−1のシアル酸結合モチーフと結合する単一特異性抗体、例えばモノクローナル抗体(またはその抗原結合断片)を含有する医薬組成物を、その状態を治療するために十分な量および時間投与することを含みうる。KIM−1のストーク領域は、本明細書においてKIM−1のムチンドメインおよび膜貫通ドメインの間に存在する高度に保存されたN−結合グリコシル化部位を含有する荷電ドメインであると同定されている。ヒトKIM−1のストーク領域およびシアル酸結合モチーフを図1に示す。本明細書に規定されたこれらの領域のN末端およびC末端はおおよそであり、KIM−1配列由来の連続する残基を数個(例えば1、2、または3個)多くまたは少なく有しうる。
【0006】
一実施形態では、その作用物質は、ヒトKIM−1ストーク領域に結合する抗体である。例えば、その抗体は、配列
【0007】
【化14】

(配列番号1のアミノ酸236〜269)を有するペプチドと結合する。一実施形態では、その抗体は、配列
【0008】
【化15】

(配列番号1のアミノ酸262〜270)、
【0009】
【化16】

(配列番号1のアミノ酸260〜269)、
【0010】
【化17】

(配列番号1のアミノ酸257〜270)、または
【0011】
【化18】

(配列番号1のアミノ酸252〜270)を有するペプチドに結合する。他の実施形態では、その抗体は、配列番号1のアミノ酸236〜250または236〜258の配列を有するペプチドに結合する。
【0012】
一実施形態では、その抗体はKIM−1のシアル酸結合モチーフに結合する。例えばその抗体は、配列
【0013】
【化19】

(配列番号1のアミノ酸81〜107)または
【0014】
【化20】

(配列番号1のアミノ酸29〜42)を有するペプチドに含まれるか、またはそれと重複するエピトープに少なくとも部分的に結合する。一実施形態では、その抗体は、還元タンパク質および非還元タンパク質と結合する。すなわち、その抗体は、
【0015】
【化21】

(配列番号1のアミノ酸81〜107)または
【0016】
【化22】

(配列番号1のアミノ酸29〜42)の少なくとも4、5、6、7、8、9、または10個の連続するアミノ酸残基の直鎖状エピトープと結合する。
【0017】
別の実施形態では、その抗体は、配列
【0018】
【化23】

(配列番号1のアミノ酸81〜107)および
【0019】
【化24】

(配列番号1のアミノ酸29〜42)の一方または両方が寄与する構造エピトープと結合する。一実施形態では、そのエピトープは、組換えマウスKIM−1 IgV−ヒトIgG1 Fc融合体の8kDaのTPCKトリプシン断片に対応するヒトKIM−1配列に含まれる構造エピトープでありうる。
【0020】
一実施形態では、その抗体は、シアル酸の結合に必要な、配列番号1の残基R86、W92、およびF93のうち1つまたは複数を妨害する。
【0021】
本明細書に記載した方法が任意の特定のメカニズムにも理論にも拘束されないことが了解されているが、その抗体は1つまたは複数の以下の性質を有しうる:(a)その抗体はKIM−1のIgVドメイン上のシアル酸結合モチーフと、KIM−1のストーク領域の1つまたは複数のN−グリコシル化部位上に提示された糖質との相互作用を妨害する、(b)その抗体は、ストーク領域の1つまたは複数のN−結合グリコシル化部位と結合するか、またはそれを立体的に妨害する、(c)その抗体は、KIM−1のシグナル伝達のダウンレギュレーションを阻害する、(d)その抗体はアゴニスト抗体であり、例えばその抗体は、結合時にKIM−1を経由した下流のシグナル伝達を促進または増大させる、(e)その抗体はKIM−1の多量体化を遮断する、(f)その抗体は結合するか、ストーク領域と補助受容体もしくはリガンドとの相互作用を立体的に妨害して正常な機能を破壊する、(g)その抗体は、KIM−1のIgVドメイン上のシアル酸結合モチーフと、KIM−1のストーク領域に隣接するムチン領域の1つまたは複数のO−グリコシル化部位上に提示された糖質との相互作用を妨害する、(h)その抗体は、例えばジスルフィド結合または水素結合を変更または妨害することによって、タンパク質のコンホメーションを変えるようにIgドメインの構造の特徴を変更する、(i)その抗体はKIM−1リガンドなどの他のタンパク質との結合を変えるようにKIM−1のIgドメインの構造の特徴または機能的特徴を変更する。
【0022】
一実施形態では、その抗体は細胞表面からのKIM−1の分断を阻害しない。例えば、その抗体は培養293Ebna(E293)細胞からのKIM−1の分断を阻害しない。
【0023】
好ましい実施形態では、その抗体は単一特異性である。例えば、その抗体はモノクローナル抗体、例えばヒト化モノクローナル抗体もしくは完全ヒトモノクローナル抗体またはその抗原結合断片である。
【0024】
一実施形態では、その状態はアレルギー性喘息である。この実施形態では、その方法は場合によりアレルギー性喘息のリスクがあるか、またはアレルギー性喘息を有する対象を同定することも含む。場合により、その方法は、対象における喘息の症状、例えばIgEレベル、気道過敏性、咳、喘鳴、胸部絞扼感、呼吸困難、気道平滑筋収縮、気管支粘液分泌、炎症、血管拡張、炎症細胞(例えば好中球、単球、マクロファージ、リンパ球、好酸球)の動員、杯細胞過形成、マスト細胞または遊走性炎症細胞による炎症メディエータ放出を評価することも含む。その評価のステップは、投与のステップの前、途中、および/または後に行うことができる。その評価は、医師、その他の医療提供者、または対象により行われることがある。その評価は、1回または複数回、例えば投与後に1回または複数回、例えば投与から1週間、1カ月、2カ月、3カ月、6カ月、またはそれよりも長い期間に少なくとも2回行われることがある。
【0025】
好ましい実施形態では、その方法は、その作用物質の投与(または多回投与)が対象における気道疾患の1つまたは複数の症状の重症度または開始を低減したかどうか判定することを含む。
【0026】
いくつかの実施形態では、その抗体は、対象における喘息の治療に有効な第2の作用物質、例えばコルチコステロイド、気管支拡張薬、ロイコトリエン修飾因子、抗炎症剤、抗IgE剤(例えば抗IgE抗体、例えばオマリズマブ(Xolair(登録商標))と同時投与される。「同時投与」または「組合せ投与」は、患者に及ぼす物質の効果が重複するように、同時またはある間隔以内、例えば1週間以内に投与することを意味する。
【0027】
別の実施形態では、その状態はアレルギー、例えば食物アレルギーまたは季節性アレルギー(例えば花粉アレルギー)である。アレルギーの診断は、アレルゲン皮膚試験の適用、血清中IgE濃度の決定(例えばIgE>300ng/ml)、および血清中のアレルゲン特異的IgE抗体またはIgG抗体の決定のうち1つまたは複数により行われる。
【0028】
その抗体は、1つまたは複数の以下の期間に投与されることがある:アトピーの対象がアレルゲンに曝露される前、アレルゲンへの曝露後であるが症状の発生前、症状の発生時、症状の発生後。
【0029】
一実施形態では、その作用物質は一連の治療として、例えば所定の回数の定期投与の形で、例えば毎日、毎週、隔週、または毎月投与される。いくつかの実施形態では、抗体は、喘鳴、咳、息切れ、または胸部絞扼感の発症の回数または重症度を、例えばある期間、例えば3カ月、6カ月、1年、またはそれを超えて低減(例えば実質的に低減)するために十分な期間および/または量で投与されうる。
【0030】
別の態様では、本発明は、KIM−1のストーク領域と特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合断片を提供する。その抗体は、培養E293細胞からのKIM−1の分断を阻害しない。一実施形態では、その抗体はヒトKIM−1のストーク領域に結合する。例えば、その抗体は、配列
【0031】
【化25】

(配列番号1のアミノ酸236〜269)を有するペプチドと結合する。一実施形態では、その抗体は配列
【0032】
【化26】

(配列番号1のアミノ酸262〜270)、
【0033】
【化27】

(配列番号1のアミノ酸260〜270)、
【0034】
【化28】

(配列番号1のアミノ酸257〜270)、または
【0035】
【化29】

(配列番号1のアミノ酸252〜270)を有するペプチドに結合する。他の実施形態では、その抗体は、配列番号1のアミノ酸241〜254、242〜258、および242〜255の配列を有するペプチドに結合する。
【0036】
別の態様では、本発明は、KIM−1のシアル酸結合モチーフに特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合断片を提供する。例えば、その抗体は、配列
【0037】
【化30】

(配列番号1のアミノ酸81〜107)または
【0038】
【化31】

(配列番号1のアミノ酸29〜42)を有するペプチドに含まれるか、またはそれと重複するエピトープに少なくとも部分的に結合する。一実施形態では、その抗体は還元タンパク質および非還元タンパク質と結合し、すなわちその抗体は、
【0039】
【化32】

(配列番号1のアミノ酸81〜107)または
【0040】
【化33】

(配列番号1のアミノ酸29〜42)の少なくとも4、5、6、7、8、9、または10個の連続するアミノ酸残基の直鎖状エピトープと結合する。別の実施形態では、その抗体は、配列
【0041】
【化34】

(配列番号1のアミノ酸81〜107)および
【0042】
【化35】

(配列番号1のアミノ酸29〜42)の一方または両方が寄与する構造エピトープと結合する。いくつかの実施形態では、そのエピトープは組換えマウスKIM−1 IgV−ヒトIgG1 Fc融合体の8kDaのTPCKトリプシン断片に対応するヒトKIM−1領域に含まれる構造エピトープである。一実施形態では、その抗体はシアル酸の結合に必要な、配列番号1の残基R86、W92、およびF93の1つまたは複数を妨害する。
【0043】
単離された抗体は、1つまたは複数の以下の特徴を有しうる:(a)その抗体は、KIM−1のIgVドメイン上のシアル酸結合モチーフと、KIM−1のストーク領域の1つまたは複数のN−グリコシル化部位上に提示された糖質との相互作用を妨害する、(b)その抗体は、ストーク領域のN−結合グリコシル化部位のうち一方または両方と結合するか、またはそれを立体的に妨害する、(c)その抗体は、KIM−1のシグナル伝達のダウンレギュレーションを阻害する、(d)その抗体はアゴニスト抗体であり、例えばその抗体は、結合時にKIM−1を経由した下流のシグナル伝達を促進または増大させる、(e)その抗体はKIM−1の多量体化を遮断する、(f)その抗体は、結合するか、またはストーク領域と補助受容体もしくはリガンドとの相互作用を立体的に妨害して正常な機能を破壊する、(g)その抗体は、KIM−1のIgVドメイン上のシアル酸結合モチーフと、KIM−1のストーク領域に隣接するムチン領域の1つまたは複数のO−グリコシル化部位上に提示された糖質との相互作用を妨害する、(h)その抗体は、例えばジスルフィド結合または水素結合を変更または妨害することによって、タンパク質のコンホメーションを変えるようにIgドメインの構造特徴を変更する、(i)その抗体は、KIM−1リガンドなどの他のタンパク質への結合を変えるようにKIM−1のIgドメインの構造または機能特徴を変更する。
【0044】
別の態様では、本発明は、Th1介在性状態、例えば病原性または増加したTh1応答を特徴とする状態を治療する方法を特徴とする。そのような状態には、炎症性腸疾患(IBD)、クローン病、多発性硬化症、糖尿病、リウマチ性関節炎、乾癬、急性移植片対宿主病(GVHD)、移植、膵炎、遅延型過敏症(DTH)などの炎症障害および/またはニコ免疫性障害が挙げられる。この方法は、Th1介在性状態を有する哺乳動物、好ましくはヒトに、配列
【0045】
【化36】

(配列番号1の残基200〜235)に含まれるエピトープと結合する作用物質、例えば抗体を投与することを含む。例えば、この方法は、KIM−1の特定の領域と結合する単一特異性抗体、例えばモノクローナル抗体(またはその抗原結合断片)を含有する医薬組成物を、その状態を治療するために十分な量および時間で投与することを含みうる。そのKIM−1の特定の領域はマウスにおいて選択的スプライシングされたKIM−1変異体に見出される。本明細書に定義されたこの領域のN末端およびC末端はおおよそであり、KIM−1配列由来の連続する残基を少数(例えば1個または2個)多く、または少なく含有しうる。
【0046】
一実施形態では、その抗体は還元タンパク質および非還元タンパク質と結合する。
【0047】
好ましい実施形態では、その抗体は単一特異性であり、例えばその抗体はモノクローナル抗体、例えばヒト化もしくは完全ヒトモノクローナル抗体、またはその抗原結合断片である。
【0048】
一実施形態では、その状態は、炎症性腸疾患(IBD)、クローン病、リウマチ性関節炎、乾癬、急性移植片対宿主病(GVHD)、移植、膵炎、または遅延型過敏症(DTH)である。場合によりその方法は、挙げられた任意の状態のリスクがあるか、またはそれを有する対象を同定することも含む。
【0049】
好ましい実施形態では、その方法は、その作用物質の投与(または多回投与)が対象の状態の1つまたは複数の症状の重症度または開始を低減するかどうかを判定することを含む。
【0050】
いくつかの実施形態では、その抗体は対象における状態を治療するために有効な第2の作用物質、例えばコルチコステロイドまたは他の抗炎症剤、DMARD、抗TNF療法、または抗CD20療法と同時投与される。「同時投与」または「組合せ投与」は、患者に及ぼす物質の効果が重複するように、同時またはある間隔以内、例えば1週間以内に投与することを意味する。
【0051】
一実施形態では、その作用物質は一連の治療として、例えば所定の回数の定期投与の形で、例えば毎日、毎週、隔週、または毎月投与される。いくつかの実施形態では、抗体は、症状の回数または重症度を、例えばある期間、例えば3カ月、6カ月、1年、またはそれを超えて低減(例えば実質的に低減)するために十分な期間および/または量で投与されうる。
【0052】
本明細書に使用する用語「治療する」、「治療すること」、および「治療」は、病理学的状態を特徴付ける症状またはパラメータを改善または回復させるために;病理学的状態を特徴付ける症状またはパラメータの重症度を低減するために;病理学的状態の進行を防止、減速、もしくは逆転するために;または病理学的状態の1つもしくは複数の症状もしくはパラメータを防止するために有効な量、方法、および/または様式で治療を施すことを表す。
【0053】
本明細書に使用する、KIM−1の特定ドメインと「結合する作用物質」は、その特定のドメインに10−6M未満のKで結合する任意の化合物を表す。KIM−1結合剤の例は、KIM−1結合タンパク質、例えばKIM−1結合抗体、好ましくは単一特異性抗体である。
【0054】
本明細書に使用する用語「シアル酸結合領域」、「シアル酸結合モチーフ」、および「シアル酸結合に必要な」、ならびにこれらの用語の変形は、糖質の結合に必要なシアル酸結合Ig様レクチン(Siglec)ファミリーで同定されたアミノ酸残基、アミノ酸配列、ならびにアミノ酸二次構造および三次構造に類似した、または相同なアミノ酸残基、アミノ酸配列、ならびにアミノ酸二次構造および三次構造を表す。
【0055】
用語「抗体またはその抗原結合断片」は、少なくとも1つの免疫グロブリン可変領域を含むタンパク質、例えば抗原と特異的に結合するために十分な免疫グロブリン可変ドメインまたは免疫グロブリン可変ドメイン配列を提供するアミノ酸配列を含むタンパク質を包含する。例えばこの用語は、1つの重(H)鎖可変領域(本明細書ではVHと略す)および1つの軽(L)鎖可変領域(本明細書ではVLと略す)を有する抗原結合タンパク質を含む。別の例では、この用語は、2つの重(H)鎖可変領域および2つの軽(L)鎖可変領域を含む抗原結合タンパク質を含む。この用語は、抗体の抗原結合断片(例えば単鎖抗体、Fab断片、F(ab’)2断片、Fd断片、Fv断片、およびdAb断片)ならびに完全抗体、例えばIgA、IgG、IgE、IgD、IgMタイプ(およびそのサブタイプ)の無傷免疫グロブリンを包含する。免疫グロブリン軽鎖は、κまたはλタイプでありうる。一実施形態では、その抗体はグリコシル化されている。抗体は抗体依存性細胞傷害作用および/または補体介在性細胞傷害作用について機能的でありうるし、これらの活性の一方または両方について非機能的でありうる。VHおよびVL領域を、「相補性決定領域」(「CDR」)と名付けられた超可変領域にさらに細分することができる。その超可変領域には、それよりも保存性の高い「フレームワーク領域」(FR)と名付けられた領域が分散している。FRおよびCDRの程度が精密に定義されている(Kabat, E.A.ら(1991年)「Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版」、US Department of Health and Human Services、NIH Publication、第91−3242号、およびChothia, C.ら(1987年)J. Mol. Biol.、196巻:901〜917頁参照)。Kabatの定義を本明細書に使用する。各VHおよびVLは、通常、以下の順序でアミノ末端からカルボキシル末端に配列した3個のCDRおよび4個のFRから構成される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。
【0056】
前述の概要および後述の説明は、請求される発明を限定するものではない。
例えば、本願発明は以下の項目を提供する。
(項目1)
哺乳動物におけるTh2介在性障害を治療する方法であって、該哺乳動物にKIM−1のストーク領域と結合する抗体またはその抗原結合断片を投与することを含む、方法。
(項目2)
前記哺乳動物がヒトである、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記障害がアトピーである、項目1に記載の方法。
(項目4)
前記障害が喘息である、項目1に記載の方法。
(項目5)
前記抗体が、ペプチド
【化1】


(配列番号1のアミノ酸236〜269)に少なくとも部分的に含まれるエピトープと結合する、項目1、2、3、または4に記載の方法。
(項目6)
前記抗体がヒト化または完全ヒト単一特異性抗体である、項目1、2、3、または4に記載の方法。
(項目7)
前記抗体がヒト化または完全ヒト単一特異性抗体であり、ペプチド
【化2】


(配列番号1のアミノ酸236〜269)に少なくとも部分的に含まれるエピトープと結合する、項目1、2、3、または4に記載の方法。
(項目8)
全長抗体が投与される、項目1、2、3、または4に記載の方法。
(項目9)
全長抗体が投与され、該抗体が、ペプチド
【化3】


(配列番号1のアミノ酸236〜269)に少なくとも部分的に含まれるエピトープと結合する、項目1、2、3、または4に記載の方法。
(項目10)
抗体の抗原結合断片が投与される、項目1、2、3、または4に記載の方法。
(項目11)
抗体の抗原結合断片が投与され、前記抗体が、ペプチド
【化4】


(配列番号1のアミノ酸236〜269)に少なくとも部分的に含まれるエピトープと結合する、項目1、2、3、または4に記載の方法。
(項目12)
前記抗原結合断片が、単鎖抗体、Fab断片、F(ab’)2断片、Fd断片、Fv断片、およびdAb断片からなる群から選択される、項目10に記載の方法。
(項目13)
前記抗原結合断片が、単鎖抗体、Fab断片、F(ab’)2断片、Fd断片、Fv断片、およびdAb断片からなる群から選択される、項目11に記載の方法。
(項目14)
前記抗体またはその抗原結合断片が、前記障害についての第2の治療剤と組み合わせて投与される、項目1、2、3、または4に記載の方法。
(項目15)
前記抗体またはその抗原結合断片が、前記障害についての第2の治療剤と組み合わせて投与され、該抗体が、ペプチド
【化5】


(配列番号1のアミノ酸236〜269)に少なくとも部分的に含まれるエピトープと結合する、項目1、2、3、または4に記載の方法。
(項目16)
前記抗体またはその抗原結合断片が、0.05mg/kgと20mg/kgとの間の投薬量で投与される、項目1、2、3、または4に記載の方法。
(項目17)
前記抗体またはその抗原結合断片が、0.05mg/kgと20mg/kgとの間の投薬量で投与され、該抗体が、ペプチド
【化6】


(配列番号1のアミノ酸236〜269)に少なくとも部分的に含まれるエピトープと結合する、項目1、2、3、または4に記載の方法。
(項目18)
KIM−1のストーク領域と特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合断片であって、該抗体は、培養物においてE293細胞からのKIM−1の分断を阻害しない、抗体またはその抗原結合断片。
(項目19)
前記抗体が、
(a)配列番号1のアミノ酸262〜270、
(b)配列番号1のアミノ酸260〜269、
(c)配列番号1のアミノ酸257〜270、
(d)配列番号1のアミノ酸252〜270、
(e)配列番号1のアミノ酸236〜250、および
(f)配列番号1のアミノ酸236〜258
からなる群から選択される配列を有するペプチドに結合する、項目1、2、3、または4に記載の方法。
(項目20)
前記抗体はヒト化または完全ヒト単一特異性抗体である、項目19に記載の方法。
(項目21)
全長抗体が投与される、項目19に記載の方法。
(項目22)
前記抗体の抗原結合断片が投与される、項目19に記載の方法。
(項目23)
前記抗体またはその抗原結合断片が、前記障害についての第2の治療剤と組み合わせて投与される、項目19に記載の方法。
(項目24)
前記抗体またはその抗原結合断片が0.05mg/kgと20mg/kgとの間の投薬量で投与される、項目19に記載の方法。
(項目25)
哺乳動物におけるTh1介在性障害を治療する方法または病原性Th1応答を低減する方法であって、該哺乳動物に、ヒトKIM−1の配列
【化7】


(配列番号1のアミノ酸200〜235)または該配列と重複するエピトープと結合する抗体またはその抗原結合断片を投与することを含む、方法。
(項目26)
前記哺乳動物がヒトである、項目25に記載の方法。
(項目27)
前記抗体がヒト化または完全ヒト単一特異性抗体である、項目25に記載の方法。
(項目28)
全長抗体が投与される、項目25に記載の方法。
(項目29)
前記抗体の抗原結合断片が投与される、項目25に記載の方法。
(項目30)
前記抗体またはその抗原結合断片が、前記障害についての第2の治療剤と組み合わせて投与される、項目25に記載の方法。
(項目31)
前記抗体またはその抗原結合断片が、0.05mg/kgと20mg/kgとの間の投薬量で投与される、項目25に記載の方法。
(項目32)
哺乳動物におけるTh2介在性障害を治療する方法であって、該哺乳動物に、KIM−1のシアル酸結合モチーフと結合する抗体またはその抗原結合断片を投与することを含む、方法。
(項目33)
前記抗体が、配列
【化8】


(配列番号1のアミノ酸81〜107)または
【化9】


(配列番号1のアミノ酸29〜42)を有するペプチドに含まれるか、またはそれと重複するエピトープに少なくとも部分的に結合する、項目32に記載の方法。
(項目34)
前記抗体が、
【化10】


(配列番号1のアミノ酸81〜107)または
【化11】


(配列番号1のアミノ酸29〜42)の連続するアミノ酸残基の直鎖状エピトープと結合する、項目32に記載の方法。
(項目35)
前記抗体が、配列
【化12】


(配列番号1のアミノ酸81〜107)および
【化13】


(配列番号1のアミノ酸29〜42)の一方または両方が寄与する構造エピトープと結合する、項目32に記載の方法。
(項目36)
前記抗体が、配列番号1のアミノ酸81〜107を保護する、項目32に記載の方法。
(項目37)
前記抗体が、配列番号1の残基R86、W92、およびF93のうち1つまたはそれより多くを妨害する、項目32に記載の方法。
(項目38)
前記哺乳動物がヒトである、項目32、33、34、35、36、または37に記載の方法。
(項目39)
前記障害がアトピーである、項目32、33、34、35、36、または37に記載の方法。
(項目40)
前記障害が喘息である、項目1に記載の方法。
(項目41)
前記抗体がヒト化または完全ヒト単一特異性抗体である、項目32、33、34、35、36、または37に記載の方法。
(項目42)
全長抗体が投与される、項目32、33、34、35、36、または37に記載の方法。
(項目43)
前記抗体の抗原結合断片が投与される、項目32、33、34、35、36、または37に記載の方法。
(項目44)
前記抗原結合断片が、単鎖抗体、Fab断片、F(ab’)2断片、Fd断片、Fv断片、およびdAb断片からなる群から選択される、項目43に記載の方法。
(項目45)
前記抗体またはその抗原結合断片が、前記障害についての第2の治療剤と組み合わせて投与される、項目32、33、34、35、36、または37に記載の方法。
(項目46)
前記抗体またはその抗原結合断片が、0.05mg/kgと20mg/kgとの間の投薬量で投与される、項目32、33、34、35、36、または37に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】図1は、本明細書に記載した様々なドメインを示す(シグナル配列および挿入多型MTTVPを有さない)ヒトKIM−1の注釈付きポリペプチド配列(配列番号1)である。
【図2】図2は、OVAを用いたエアロゾル誘発および3A2を用いた処置後の気管支洗浄液(BAL)中に存在する好酸球の率(y軸)を示すグラフである。
【図3】図3は、OVA抗原を用いたex vivo刺激および3A2を用いた処置後の所属(気管支)リンパ節細胞の増殖を示すグラフである。y軸はトリチウムチミジンの取込みをcpm単位で表したものである。
【図4】図4は、OVA抗原を用いたex vivo刺激に対する所属(気管支)リンパ節細胞の応答を示すグラフである。LNをOVAのエアロゾル誘発後に採取し、次にOVAと共にex vivo培養し、3A2で処理した。これらの培養物から上清を採り、TH2サイトカイン(IL−4、IL−5、およびIL−10)生成について分析した。y軸はピコグラム/mlである。
【図5】図5は、3A2と固定化タンパク質との相互作用について作成した結合曲線を示す。MAb 3A2は、mKIM−1−ECD−Fc(丸)、mKIM−1−137〜216−Fc(三角)、およびmKIM−1−196〜216−Fc(菱形)と等価的に結合したが、mKIM−1−IgV−Fc(四角)とは結合しなかった。
【図6】図6は、OVAを用いたエアロゾル誘発および4A2を用いた処置後に気管支洗浄液(BAL)に存在する好酸球およびリンパ球の率(y軸)を示すグラフである。
【図7】図7は、OVA抗原を用いたex vivo刺激および4A2を用いた処置に対する所属(気管支)リンパ節細胞の応答を示すグラフである。LNをOVAのエアロゾル誘発後に採取し、次にOVAと共にex vivo培養した。これらの培養物から上清を採り、Th2サイトカイン(IL−4、IL−5、IL−10、およびIL−13)生成について分析した。y軸はピコグラム/mlである。
【図8】図8は、OVAを用いたエアロゾル誘発および4A2を用いた治療的処置後に気管支洗浄液(BAL)に存在する好酸球の率(y軸)を示すグラフである。
【図9】図9は、精製KIM−1タンパク質に対するmAb 4A2の結合曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0058】
(発明の詳細な説明)
本明細書に記載するように、抗体療法を用いたKIM−1の特定領域のターゲティングは、Th2およびTh1サイトカインの発現に対して重大な制御を及ぼし、Th2介在性疾患およびその他のアトピー性障害を治療するための、そしてTh1介在性疾患のための治療戦略を提供する。
【0059】
抗体の作成
本明細書に記載する抗体(例えばKIM−1のストーク領域またはKIM−1のシアル酸結合モチーフに結合する抗体)を、例えば動物を使用した免疫処置によって、またはファージディスプレイなどのin vitro法によって作成することができる。KIM−1の標的エピトープ(例えばKIM−1のストーク領域またはKIM−1のシアル酸結合モチーフ)を含むポリペプチドを免疫原として使用することができる。他の実施形態では、KIM−1ポリペプチドのより大きな部分、例えば細胞外ドメインを免疫原として使用することができ、結果として生じた抗体を、所望のKIM−1領域またはドメインとの反応性についてスクリーニングすることができる。
【0060】
一実施形態では、免疫処置された動物は、天然、ヒト、または部分的ヒト免疫グロブリン遺伝子座を有する免疫グロブリン生成細胞を含む。一実施形態では、非ヒト動物は、ヒト免疫グロブリン遺伝子の少なくとも一部を含む。例えば、ヒトIg遺伝子座の大きな断片を有し、マウス抗体生成を欠損したマウス系統を操作することが可能である。ハイブリドーマ技法を使用して、それらの遺伝子由来の所望の特異性を有する抗原特異的モノクローナル抗体を生成させて選択することができる。例えば、XenoMouse(商標)、Greenら、Nature Genetics、7巻:13〜21頁(1994年)、US2003−0070185、米国特許第5789650号、およびWO96/34096を参照されたい。
【0061】
KIM−1に対する非ヒト抗体を例えば齧歯動物において生成させることもできる。その非ヒト抗体を、例えば米国特許第6602503号、EP239400、米国特許第5693761号、および米国特許第6407213号に記載されたようにヒト化することができる。
【0062】
EP239400(Winterら)は、ある種についての相補性決定領域(CDR)を別の種由来のCDRに(与えられた可変領域内で)置換することにより、抗体を変更することを記載している。CDRを置換された抗体は、非ヒト構成要素をあまり含まないので、CDRを置換された抗体は、真のキメラ抗体に比べてヒトに免疫応答を誘発する見込みが少なくなりうる。(Riechmannら、1988年、Nature、332巻、323〜327頁;Verhoeyenら、1988年、Science、239巻、1534〜1536頁)。組換え核酸技法を使用することによりマウス抗体のCDRがヒト抗体の対応する領域に代わって入り、所望の置換された抗体をコードしている配列が生成した。所望のアイソタイプ(通常はCHについてγIであり、CLについてκ)のヒト定常領域遺伝子セグメントを付加することができ、ヒト化重鎖および軽鎖遺伝子を哺乳動物細胞に同時発現させて可溶性ヒト化抗体を生成することができる。
【0063】
Queenら、1989年およびWO90/07861は、本来のマウス抗体のV領域フレームワークに最適なタンパク質配列相同性についてコンピュータ解析することにより、ヒトVフレームワーク領域を選択すること、およびマウスCDRと相互作用する見込みの高いフレームワークアミノ酸残基を可視化するためにマウスV領域の三次構造をモデル化することを含む方法を記載している。次に、これらのマウスアミノ酸残基を相同なヒトフレームワークと重ね合わす。米国特許第5693762号、第5693761号、第5585089号、および第5530101号も参照されたい。Tempestら、1991年、Biotechnology、9巻、266〜271頁は、マウス残基の根本的な導入なしにCDRを接合するためにNEWMおよびREIの重鎖および軽鎖由来のV領域フレームワークをそれぞれ標準として利用している。NEWMおよびREIに基づくヒト化抗体を構築するためにTempestらの取組みを使用する利点は、NEWMおよびREIの可変領域の三次元構造がX線結晶学から公知であり、よってCDRとV領域フレームワーク残基との間の特異的相互作用をモデル化できることである。
【0064】
非ヒト抗体を修飾して、ヒト免疫グロブリン配列を挿入する置換を、例えば特定の位置でのコンセンサスヒトアミノ酸残基を例えば1つまたは複数(好ましくは少なくとも5、10、12個、または全て)の以下の位置で含ませることができる:(軽鎖可変ドメインFR中の) 4L、35L、36L、38L、43L、44L、58L、46L、62L、63L、64L、65L、66L、67L、68L、69L、70L、71L、73L、85L、87L、98L、および/または(重鎖可変ドメインFR中の)2H、4H、24H、36H、37H、39H、43H、45H、49H、58H、60H、67H、68H、69H、70H、73H、74H、75H、78H、91H、92H、93H、および/または103H(Kabatの番号付けによる)。例えば、米国特許第6407213号を参照されたい。
【0065】
KIM−1の所望の領域に結合する完全ヒトモノクローナル抗体は、例えばBoernerら、1991年、J. Immunol.、147巻、86〜95頁に記載されているようにin vitroで初回免疫を受けたヒト脾臓細胞を使用して生成することができる。Perssonら、1991年、Proc. Nat. Acad. Sci. USA、88巻:2432〜2436頁、またはHuangおよびStollar、1991年、J. Immunol. Methods、141巻、227〜236頁、または米国特許第5798230号により記載されたレパートリークローニングによりそのモノクローナル抗体を調製することができる。大規模な非免疫処置ヒトファージディスプレイライブラリーを使用して、標準的なファージ技法を使用してヒト治療薬として開発することのできる高親和性抗体を単離することもできる(例えばVaughanら、1996年; Hoogenboomら(1998年)Immunotechnology、4巻:1〜20頁;およびHoogenboomら(2000年)Immunol Today、2巻:371〜8頁;US2003−0232333参照)。
【0066】
本明細書に使用する「免疫グロブリン可変ドメイン配列」は、免疫グロブリン可変ドメインの構造を形成することのできるアミノ酸配列を表す。例えば、その配列は、天然可変ドメインのアミノ酸配列の全てまたは一部を含みうる。例えば、その配列から1個、2個、またはそれを超えるN末端またはC末端アミノ酸が取り除かれることがあり、内部のアミノ酸は、1つまたは複数の挿入または追加の末端アミノ酸を含むことがあるし、他の変更を含むことがある。一実施形態では、免疫グロブリン可変ドメイン配列を含むポリペプチドは、別の免疫グロブリン可変ドメイン配列と関連して標的結合構造(すなわち「抗原結合部位」)、例えばKIM−1の特定の領域と相互作用する構造を形成することがある。
【0067】
抗体のVHまたはVL鎖は、重鎖または軽鎖定常領域の全てまたは一部をさらに含むことによって、それぞれ免疫グロブリン重鎖または軽鎖を形成することがある。一実施形態では、その抗体は、2本の免疫グロブリン軽鎖および2本の免疫グロブリン重鎖の四量体である。免疫グロブリン重鎖および軽鎖は、ジスルフィド結合により繋がっていることがある。重鎖定常領域は、典型的には3つの定常ドメインであるCH1、CH2、およびCH3を含む。軽鎖定常領域は、典型的にはCLドメインを含む。重鎖および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含む。抗体の定常領域は、典型的には免疫系の様々な細胞(例えばエフェクター細胞)および古典的補体系の第1成分(C1q)を含めた、宿主の組織または作用物質へのその抗体の結合を仲介する。
【0068】
抗体の1つまたは複数の領域は、ヒト、事実上のヒト、またはヒト化でありうる。例えば1つまたは複数の可変領域はヒトまたは事実上のヒトでありうる。例えば、1つまたは複数のCDR、例えばHC CDR1、HC CDR2、HC CDR3、LC CDR1、LC CDR2、およびLC CDR3はヒトでありうる。軽鎖CDRのそれぞれはヒトでありうる。HC CDR3はヒトでありうる。1つまたは複数のフレームワーク領域は、ヒト、例えばHCまたはLCのFR1、FR2、FR3、およびFR4でありうる。一実施形態では、全てのフレームワーク領域はヒトであり、例えばヒト体細胞、例えば免疫グロブリンを生成する造血細胞または非造血細胞由来である。一実施形態では、ヒト配列は、例えば生殖細胞系核酸にコードされている生殖細胞系配列である。1つまたは複数の定常領域は、ヒト、事実上のヒト、またはヒト化でありうる。別の実施形態では、フレームワーク領域(例えばFR1、FR2、およびFR3をまとめて、またはFR1、FR2、FR3、およびFR4をまとめて)の少なくとも70、75、80、85、90、92、95、もしくは98%、またはその抗体全体は、ヒト、事実上のヒト、またはヒト化でありうる。例えば、FR1、FR2、およびFR3はまとめてヒト生殖細胞系セグメントによりコードされているヒト配列と少なくとも70、75、80、85、90、92、95、98、または99%同一でありうる。
【0069】
「事実上のヒト」免疫グロブリン可変領域は、十分な数のヒトフレームワークアミノ酸位置を含む結果、その免疫グロブリン可変領域が正常なヒトにおいて免疫原性応答を誘発しない免疫グロブリン可変領域である。「事実上のヒト」抗体は、十分な数のヒトアミノ酸位置を含む結果、その抗体は正常なヒトにおいて免疫原性応答を誘発しない。
【0070】
「ヒト化」免疫グロブリン可変領域は、修飾されている結果、その修飾された形態がヒトにおいて非修飾形態よりも小さい免疫応答を誘発する免疫グロブリン可変領域であり、例えば修飾されて十分な数のヒトフレームワークアミノ酸位置を含む結果、その免疫グロブリン可変領域は正常なヒトにおいて免疫原性応答を誘発しない。「ヒト化」免疫グロブリンの記載には、例えば米国特許第6407213号および米国特許第5693762号が挙げられる。一部の例では、ヒト化免疫グロブリンは、1つまたは複数のフレームワークアミノ酸位置に非ヒトアミノ酸を含むことがある。
【0071】
抗体の全てまたは一部は、免疫グロブリン遺伝子またはそのセグメントによりコードされうる。ヒト免疫グロブリン遺伝子の例には、κ、λ、α(IgA1およびIgA2)、γ(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、δ、ε、およびμ定常領域遺伝子、ならびに無数の免疫グロブリン可変領域遺伝子が挙げられる。全長免疫グロブリン「軽鎖」(約25Kdまたは214アミノ酸)は、NH2末端(約110アミノ酸)が可変領域遺伝子により、そしてCOOH末端がκまたはλ定常領域遺伝子によりコードされている。全長免疫グロブリン「重鎖」(約50Kdまたは446アミノ酸)は可変領域遺伝子(約116アミノ酸)およびその他の前述の定常領域遺伝子の1つ、例えばγ(約330アミノ酸をコードしている)により同様にコードされている。
【0072】
全長抗体の「抗原結合断片」という用語は、対象となる標的に特異的に結合する能力を保持する全長抗体の1つまたは複数の断片を表す。全長抗体の「抗原結合断片」という用語の中に包含される結合断片の例には、(i)Fab断片、すなわちVL、VH、CL、およびCH1ドメインからなる1価断片;(ii)F(ab’)2断片、すなわちヒンジ領域でジスルフィド架橋により連結した2つのFab断片を含む2価断片;(iii)VHおよびCH1ドメインからなるFd断片;(iv)抗体の単一アームのVLおよびVHドメインからなるFv断片;(v)VHドメインからなるdAb断片(Wardら(1989年)Nature、341巻:544〜546頁);および(vi)機能性を保持する単離された相補性決定領域(CDR)が挙げられる。さらに、Fv断片の2つのドメインであるVLおよびVHは別々の遺伝子によりコードされているが、組換え法を使用して、それらのドメインをタンパク質1本鎖として作製できるようにする合成リンカーによりそれらを繋ぐことができる。そのタンパク質1本鎖では、VLおよびVH領域の対が単鎖Fv(scFv)として公知である1価分子を形成する。例えば、Birdら(1988年)Science、242巻:423〜426頁およびHustonら(1988年)Proc. Natl. Acad. Sci. USA、85巻:5879〜5883頁を参照されたい。
【0073】
抗体の生産
原核細胞および真核細胞において抗体を生産することができる。一実施形態では、抗体(例えばscFv)はピキア(例えば Powersら(2001年)J Immunol Methods.、251巻:123〜35頁参照)、ハンセヌラ(Hanseula)、またはサッカロミセスなどの酵母細胞において発現される。
【0074】
一実施形態では、抗体、特に全長抗体、例えばIgGの全長抗体は哺乳動物細胞において生産される。組換え発現用の哺乳動物宿主細胞の例には、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞(例えばKaufmanおよびSharp(1982年)、Mol. Biol.、159巻:601〜621頁に記載されたDHFR選択マーカーと共に使用されるUrlaubおよびChasin(1980年) Proc. Natl. Acad. Sci. USA、77巻:4216〜4220頁に記載されたdhfr−CHO細胞を含む)、リンパ細胞系、例えばNS0骨髄腫細胞およびSP2細胞、COS細胞、K562、ならびにトランスジェニック動物由来の細胞、例えばトランスジェニック哺乳動物由来の細胞が挙げられる。例えば、その細胞は哺乳動物上皮細胞である。
【0075】
免疫グロブリンドメインをコードしている核酸配列に加えて、組換え発現ベクターは、宿主細胞におけるベクターの複製を調節する配列(例えば複製起点)および選択マーカー遺伝子などの追加の核酸配列を有することがある。選択マーカー遺伝子は、そのベクターが導入された宿主細胞の選択を促進する(例えば米国特許第4399216号、第4634665号、および第5179017号参照)。選択マーカー遺伝子の例には、(dhfr−宿主細胞においてメトトレキサート選択/増幅と共に使用するための)ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)遺伝子および(G418選択用の)neo遺伝子が挙げられる。
【0076】
抗体(例えば全長抗体またはその抗原結合部分)の組換え発現用の系の例では、抗体重鎖および抗体軽鎖の両方をコードしている組換え発現ベクターを、リン酸カルシウム介在性トランスフェクションによりdhfr−CHO細胞に導入する。組換え発現ベクター内では、抗体重鎖および軽鎖遺伝子は、それぞれ(例えばSV40、CMV、アデノウイルスなど由来のCMVエンハンサー/AdMLPプロモーター調節エレメントまたはSV40エンハンサー/AdMLPプロモーター調節エレメントなどの)エンハンサー/プロモーター調節エレメントと作動可能に連結して高レベルの遺伝子転写を駆動する。組換え発現ベクターはDHFR遺伝子も有し、DHFR遺伝子は、メトトレキサート選択/増幅を使用してベクターをトランスフェクトされたCHO細胞の選択を可能にする。選択された形質転換体宿主細胞を培養して、抗体重鎖および軽鎖の発現を可能にし、無傷抗体を培養液から回収する。標準的な分子生物学の技法を使用して組換え発現ベクターを調製し、宿主細胞をトランスフェクトし、形質転換体を選択し、宿主細胞を培養し、培養液から抗体を回収する。例えば、プロテインAまたはプロテインGを用いたアフィニティクロマトグラフィーにより一部の抗体を単離することができる。
【0077】
抗体は、修飾、例えばFcの機能を変更する修飾を含み、例えばFc受容体もしくはC1qとの、またはその両方との相互作用が減少または除去されることもある。例えば、ヒトIgG1定常領域を1つまたは複数の残基で、例えば米国特許第5648260号の番号付けによる、例えば残基234および347の1つまたは複数で突然変異させることができる。その他の修飾の例には、米国特許第5648260号に記載された修飾が挙げられる。
【0078】
Fcドメインを含む一部の抗体について抗体生産系を設計して、Fc領域がグリコシル化されている抗体を合成することができる。例えば、IgG分子のFcドメインをCH2ドメインのアスパラギン297でグリコシル化する。このアスパラギンは、2分岐型オリゴ糖を用いた修飾のための部位である。このグリコシル化は、Fcγ受容体および補体C1qによって仲介されるエフェクター機能に関与する(BurtonおよびWoof(1992年)Adv. Immunol.、51巻:1〜84頁;Jefferisら(1998年)Immunol. Rev.、163巻:59〜76頁)。アスパラギン297に対応する残基を適切にグリコシル化する哺乳動物発現系でこのFcドメインを生産することができる。このFcドメインは他の真核生物の翻訳後修飾も含むことがある。
【0079】
トランスジェニック動物により抗体を生産することもできる。例えば、米国特許第5849992号は、トランスジェニック哺乳動物の乳腺に抗体を発現させる方法を記載している。乳汁特異的プロモーターと、対象となる抗体、例えば本明細書に記載した抗体、および分泌のためのシグナル配列をコードしている核酸配列とを含む導入遺伝子を構築する。当該トランスジェニック哺乳動物の雌により生産される乳汁は、その中に分泌された対象となる抗体、例えば本明細書に記載した抗体を含む。その抗体を乳汁から精製することができるし、一部の適用には直接使用することができる。
【0080】
例えば抗体の安定化および/または循環、例えば血液、血清、リンパ液、気管支洗浄液、もしくは他の組織における貯留を、例えば少なくとも1.5、2、5、10、または50倍高める部分を用いて、抗体を修飾することができる。
【0081】
一例では、KIM−1結合抗体は、ポリマー、例えばポリアルキレンオキシドまたはポリエチレンオキシドなどの実質的に非抗原性のポリマーと関連していることがある。適切なポリマーは、重量により実質的に変動するものである。平均分子量が約200から約35000ダルトン(または約1000から約15000、および2000から約12500)の範囲を有するポリマーを使用することができる。
【0082】
別の例では、KIM−1結合抗体は、水溶性ポリマー、例えば親水性ポリビニルポリマー、例えばポリビニルアルコールまたはポリビニルピロリドンと複合していることがある。当該ポリマーの非限定的な一覧表には、ポリエチレングリコール(PEG)またはポリプロピレングリコールなどのポリアルキレンオキシドホモポリマー、ポリオキシエチレン化ポリオール、そのコポリマーおよび(そのブロックコポリマーの水溶性が維持されるという条件で)そのブロックコポリマーが挙げられる。追加的に有用なポリマーには、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、およびポリオキシエチレンとポリオキシプロピレンとのブロックコポリマー(Pluronic)などのポリオキシアルキレン;ポリメタクリル酸エステル;カルボマー;糖単量体であるD−マンノース、D−およびL−ガラクトース、フコース、フルクトース、D−キシロース、L−アラビノース、D−グルクロン酸、シアル酸、D−ガラクツロン酸、D−マンヌロン酸(例えばポリマンヌロン酸またはアルギン酸)、D−グルコサミン、D−ガラクトサミン、D−グルコース、およびノイラミン酸を含む分岐または非分岐多糖であって、ラクトース、アミロペクチン、デンプン、ヒドロキシエチルデンプン、アミロース、硫酸デキストラン、デキストラン、デキストリン、グリコーゲン、または酸性ムコ多糖の多糖サブユニット、例えばヒアルロン酸を含めた分岐または非分岐多糖;ポリソルビトールおよびポリマンニトールなどの糖アルコールのポリマー;ヘパリンまたはヘパラン(heparon)が挙げられる。
【0083】
用途および投与方法
本明細書に記載した方法では、Th2介在性状態またはTh1介在性状態を治療するために、対象にKIM−1の特定領域と結合する抗体などの作用物質を投与する。治療される対象は哺乳動物、例えばヒトである。
【0084】
「投与」は、いかなる特定の製剤、送達系、および経路にも限定されず、例えば気管支内、非経口(皮下、静脈内、脊髄内、関節内、筋肉内、または腹腔内注射を含む)、直腸内、局所、経皮、または経口(例えばカプセル剤、懸濁剤、または錠剤の形)を含みうる。投与は、単回投与または繰り返しで、生理学的に許容できる塩の形態を含有する多様な医薬組成物のうち任意のものとして、および/または許容できる医薬賦形剤と共に提供されうる。生理学的に許容できる塩の形態および医薬製剤および賦形剤は公知である(例えば2004 Physicians’ Desk Reference(登録商標)(PDR)(2003年)Thomson Healthcare、第58版;Gennadoら(2000年)、第20版、Lippincott, Williams & Wilkins)Remington: The Science and Practice of Pharmacy参照。
【0085】
喘息の管理および治療に多数の治療剤が有用である。これらには、気管支拡張薬、例えば気道を弛緩させる抗コリン作用性気管支拡張薬(例えば臭化イプラトロピウム、アルブテロール/臭化イプラトロピウム);気道筋を弛緩させるベータ作動薬(例えばエピネフリン、メタプロテレノール、テルブタリン、メシル酸イソエタリン、イソエタリン、イスプレル、ピルブテロール、アルブテロール、サルメテロール、ビトルテロール);炎症を軽減する経口または吸入コルチコステロイド(例えばヒドロコルチゾン、コルチゾン、デキサメタゾン、プレドニゾロン、プレドニゾン、メチルプレドニゾロン、フルニソリド、トリアムシノロン、ベクロメタゾン(beclomethosone)、デキサメタゾン、フルチカソン、ブデソニド);気道の腫脹および気流遮断を防止して粘液産生を減少させるロイコトリエン調節因子(例えばザフィルルカスト、モンテルカストナトリウム、ジロイトン);およびとりわけ気道開放を助け、痰の放出を減らすテオフィリンが挙げられるが、それに限定されるわけではない。抗喘息薬には、抗IgE、抗IL−9、抗IL−3、抗IL−4、抗IL−5、抗IL−13、抗VLAタンパク質、および抗遊走阻止因子(MIF)を非限定的に含めた治療用抗体(またはその機能的断片)も含まれる。本明細書に記載した抗体を、1つまたは複数の前述の作用物質と組み合わせて投与してアレルギー性喘息を治療することができる。
【0086】
Th1介在性炎症状態の管理および治療に有用な治療剤には、抗炎症化合物、例えばステロイドおよびNSAIDが挙げられる。
【0087】
公知の変換係数を使用して、ある動物モデルで実現された治療有効投薬量を、ヒトを含めた別の動物での使用のために変換することができる(例えばFreireichら(1966年) Cancer Chemother. Reports、50巻(4):219〜244頁参照。
【0088】
以下の実施例は例示的な実施形態を提供するものである。この実施例は、本発明を決して限定するものではない。当業者は、本発明の範囲内で行うことができる多数の修飾および変更を認識しているであろう。したがって、そのような修飾および変更は本発明に包含される。
【実施例】
【0089】
(実施例1:マウスKIM−1に対するラットモノクローナル抗体の特徴付け)
標準的なPCRおよびクローニング技法を使用して、全長細胞外ドメインのマウスKIM−1発現構築物およびIgVドメインのみのマウスKIM−1発現構築物を作成し、CHO細胞にそれを安定的にトランスフェクトした。これらの融合タンパク質をCHO細胞系の上清からプロテインAおよびSECクロマトグラフィーにより精製した。ヒトIgG1−Fcドメインに融合した全長KIM−1は、グリコシル化の差に一致したダブレットとして出現した。細胞外ドメイン全体からなる全長マウスKIM−1−Ig融合蛋白質を用いてラットに免疫処置を行った。mKIM−1に対する1集団のラットモノクローナル抗体をELISAアッセイおよびFACSスクリーニングにより同定し、これらのセットをBiacoreにより、ならびにドメイン特異的ELISAおよびウエスタンブロット分析によりさらに特徴付けた。これにより、別個のエピトープに結合する多数の抗体がこの集団中に提示されることを実証した。このように、7個の抗体がBiacoreおよびELISA分析で全長タンパク質と結合したが、これら7個のうち4個はIgVドメインのみをコードしているタンパク質に結合しなかった(表1)。Biacore形式で結合するムチンストークドメインの存在を必要とすると思われる4個の抗体のうち、3個がムチンドメイン内で結合することがELISAおよびウエスタンブロット分析でさらに確定されたが、1個はストークドメインで結合した(表1)。いくつかの抗体は、ムチンドメイン内でエキソン4によりコードされている別個の領域を認識した(表1)。このように、IgVドメイン、ムチンドメイン、およびストークドメインを認識する抗体が同定された。表1に、ラット抗mKIM−1 mAbの概略のエピトープマッピングの結果を示す。表1のデータを、完全なECDのKIM−1−Ig、KIM−1−IgV−Ig、およびKIM−1−Igタンパク質のタンパク質分解断片を使用した多数のアッセイ(Biacore、ELISA、ウエスタンブロット、およびFACS)から編集した。
【0090】
【表1】

(実施例2:機能亢進肺におけるKIM−1発現の誘導)
Balb/cマウスをOVA/ミョウバンで2回感作し、次に3週間休ませ、その期間に噴霧器を使用してマウスにOVAエアロゾルの3日間の曝露を受けさせた。肺組織、所属(気管支)リンパ節、および脾臓を採取し、RT−PCRによりKIM−1の発現誘導について調べた。KIM−1のメッセージは、噴霧の24時間後までに気管支LNおよび肺組織の両方に誘導された。KIM−1のmRNAレベルとは対照的に、KIM−3のmRNAレベルはOVAエアロゾルを用いた攻撃誘発後に調節されなかった。KIM−2レベルはKIM−1に同様の様式でアップレギュレーションされた。
【0091】
(実施例3:OVA誘導過反応性に及ぼす抗KIM−1抗体の作用)
OVAエアロゾルモデルを使用して、そして予防投薬方式および治療投薬方式の両方を使用して、肺炎の発生に影響する能力について、異なるエピトープ特異性を有する抗KIM−1抗体を試験した。
【0092】
予防的研究に関して、OVAにより誘導された肺炎のアッセイおよびリコールアッセイを以下のように行った。1日目および7日目にBalb/cマウスに、ImjectAlum(Pierce、ロックフォード、イリノイ州、米国)100μlと混合した0.5mg/ml OVA(グレードV、Sigma)100μlのip注射を与えた。2回目の注射の3週間後に超音波噴霧器(Devilbiss、カールズバッド、カリフォルニア州、米国)を使用してPBS中の1%OVAのアエロゾルにマウスを1日20分間、3日間にわたり曝露した。mAbの投与を以下のように行った。1、3、6、および9日目に200μgを与え、次に噴霧を開始した日に500μgをip投与した。
【0093】
治療的研究に関して、マウスを上記のようにミョウバン中のOVAで免疫処置したが、一連の噴霧の直前までmAbは投与しなかった。このように250μgのmAb 4A2を初回噴霧の前日に与え、250μgのmAb 4A2を2回目の噴霧の朝に与えた。
【0094】
予防的研究および治療的研究の両方で、最終噴霧セッションの2日後にマウスを屠殺して分析に供した。気管切開によって、0.1%BSAおよび0.02mM EDTAを含有するPBSで3回洗浄することを採用して気管支洗浄液(BAL)を収集した。サイトスピンおよび被覆スライド(Shandon、ピッツバーグ、ペンシルベニア州、米国)を使用してBAL細胞をペレットにして、次に風乾し、異なる細胞集団を同定するためにHema3色素(Fisher Scientific、ピッツバーグ、ペンシルベニア州、米国)で染色した。日常的な組織観察のために肺組織を中性緩衝ホルマリンの中に採取するか、後でRNAを単離するためにトリゾール中で急速凍結した。所属(気管支)リンパ節および脾臓を単核細胞の単離のために採取し、様々な濃度のOVAを有するRPMI/10%FBSの中でそれを培養状態に置いた。72時間後に上清を採取し、細胞を1μCiトリチウムチミジン(Amersham Biosciences、ピスカタウェイ、ニュージャージー州、米国)で8時間パルスし、Microbetajetシステム(Wallac、ゲーサーズバーグ、メリーランド州、米国)を使用してプレートを計数した。Th1/Th2および炎症のCBAキット(BD Biosciences)ならびにIL−13 ELISAアッセイ(R&D Systems、ミネアポリス、ミネソタ州、米国)を使用して上清を分析した。
【0095】
結果:
OVA初回免疫期および攻撃誘発期の間に抗体をマウスに投与した。攻撃誘発後に気管支洗浄液(BAL)、気管支リンパ節、脾臓、および肺組織を採取した。BALに存在する好酸球、好中球、およびリンパ球の率を計算した。mAb 1H8は処置されたマウスのBAL中に好酸球数を強く誘導した結果、存在する好酸球の率は対照の2倍を超えた。BALの細胞性のわずかな部分を構成する好中球およびリンパ球の率の中程度の増加も認められた。この結果に一致して、1H8で処置されたマウスから単離され、OVAでex
vivo攻撃誘発された気管支LN細胞は対照培養物よりも大きく増殖し、高レベルのTh2関連サイトカインを発現した。特に、対照に比べて非常に高レベルのIL−5およびIL−13が生成した。もっとも、IL−4、IL−6、およびIL−10のレベルも上昇した。興味深いことにIFN−γレベルも増加した。もっとも、全般的にこのサイトカインのレベルは低かった。Th2サイトカインの選択的誘導は、MS、RA、クローン病などのTh1サイトカイン依存性病理の背景において有効であろう。
【0096】
1H8と対照的に、mAb 3A2は、BAL中の好酸球の率を低減し、気管支リンパ節リコールアッセイでTh2関連サイトカインの生成を低減した(図2)。このように、抗体1H8および3A2はこのアッセイにおいて相反する作用を有する。IgVドメイン内のエピトープを認識する、1H9を含めたいくつかの他の抗体は、このモデルにおける肺炎にもサイトカイン生成にも作用を及ぼさなかった。3A2と共にOVA抗原を用いたex vivo刺激に対する所属(気管支)リンパ節細胞の応答の分析は、抗原刺激に対する細胞増殖の低減を示した(図3)。さらに、これらの培養物の上清の分析は、IL−4、IL−5、およびIL−10を含めたTh2サイトカインの発現に顕著な低減を示した(図4)。IL−13のレベルもこのアッセイで低減した。
【0097】
抗IgドメインmAb 4A2を用いた処置は、OVAを用いた感作および噴霧処置後にBALへの好酸球およびリンパ球流入の顕著な低減を招いた(図6)。BAL中の好酸球の平均減少率は、対照に比べて84%(p<0.0001、平均の同等性の検定)であり、リンパ球の平均減少率は対照に比べて90%(p<0.001、平均の同等性の検定)であった。気管支リンパ節細胞をOVAでex vivo再刺激したとき、IL−4、IL−5、IL−10、およびIL−13を含めたTh2サイトカイン生成に劇的な減少が存在した(図7)。したがって、mAb 4A2を用いた処置は肺炎および喘息応答に関連するサイトカイン生成を低減した。
【0098】
mAb 4A2の臨床有効性をさらに特徴付けるために治療用投与実験を行った。このモデルでは、マウスを免疫処置してOVA抗原に対する感受性を発生させ、mAb処置を全く施さなかった。次に、これも処置を全く行わずにマウスを3週間休ませ、次に1%OVAを噴霧する3回のセッションのうち初回の前日に4A2 mAbを投与した。2回目のセッション前にmAb投与を繰り返した。この処置プロトコールの結果として、BALへの好酸球流入により測定される肺炎の軽減が生じた(図8)。好酸球の率は平均70%減少した(p<0.001、平均の同等性の検定)。したがって、mAb 4A2はOVA誘導肺炎モデルにおいて予防的投与方式および治療的投与方式の両方で有効であった。これは、4A2により認識されるエピトープがTh2介在性障害の処置のための治療に関連する標的であることを示唆している。
【0099】
例えばmAb 2A7およびmAb 2B3を含めた他の抗KIM−1 mAbも、OVA誘導肺炎モデルにおいて治療活性を有することが実証された。mAb 2A7は、Biacore(登録商標)アッセイでの固定化KIM−1への結合について4A2と競合することが示された。これは、これらの抗体が共有されたエピトープまたは重複するエピトープを有することを示唆している。
【0100】
(実施例4:抗原に対するCD4 T細胞応答に及ぼすKIM−1抗体の作用)
KLH抗原リコールアッセイを使用して抗KIM−1 mAbの活性を評価した。マウスを抗KIM−1 mAb、対照mAb、またはPBSで処置し、次にKLHで免疫処置し、6日後に所属LNを切除した。LN CD4+T細胞を単離し、未処置マウスから単離して放射線照射した脾臓細胞全体の存在下で精製OVAを用いてex vivo再刺激した。ex vivo刺激の48時間後に細胞増殖およびサイトカイン生成をアッセイした。このアッセイでは、いくつかの抗KIM−1 mAbが顕著な作用を有した。mAb
1H8はex vivoでのKLH攻撃誘発に応答してT細胞増殖を劇的に増大させた。対照的に、このアッセイでは、mAb 3A2はT細胞増殖を低減した。mAb 1H8で処置された細胞から生成した培養物中のサイトカインを測定した。処置された培養物は、対照よりも多量のIFN−γおよびTH2関連サイトカインを含有することが見出された。対照的に、TNFおよびIL−2のレベルは対照と同様であった。
【0101】
このデータは、1H8が病原性Th1応答を低減することができることを示している。このデータは、1H8について本明細書に規定したように、KIM−1領域に結合する1H8および他の抗体が、免疫応答を増加させることによりアジュバントとして作用できることも示している。本発明は、例えばワクチンの有効性を増大させるために、免疫応答を増大する方法にも及ぶ。そのようなアジュバント活性は、ワクチン接種、免疫不全、および抗腫瘍免疫にも用途を有しうる。
【0102】
1H8は、ウエスタンブロットにおいてDba/2配列ではなく、Balb/C配列のKIM−1のECDと結合する。これは、この抗体が配列
【0103】
【化37】

(配列番号2)を含む選択的スプライシングされたマウス対立遺伝子変異体に結合することを示している。この配列は、ヒトKIM−1の配列
【0104】
【化38】

(配列番号1のアミノ酸200〜235)に対応する。
【0105】
(実施例5:mAb 3A2の特徴付け)
3A2 mAbはOVAモデルにおいて治療効果を有したが、このmAbとKIM−1との結合をさらに詳細に特徴付けた。
【0106】
多様な精製タンパク質をELISAアッセイに使用して、mAb 3A2のエピトープを決定した(表2)。3A2と固定化タンパク質との相互作用についての全結合曲線を作成した(図5)。MAb 3A2は、以下のマウスタンパク質と等価に結合した:マウスKIM−1細胞外ドメイン(KIM−1−ECD−1〜216)、mKIM−1−137〜216、およびmKIM−1−196〜216−Fc。対照的に、mAb 3A2は、ムチンおよびストークドメイン全体を欠如しているmKIM−1−IgVドメイン単独と結合できなかった。このデータは、3A2に関するエピトープがmKIM−1由来の196から216までの21アミノ酸残基内に存在することを示している。その残基は、KIM−1のストーク領域の部分に位置する。このエピトープは、図1に示すようにヒトKIM−1の残基247〜272に等しい。
【0107】
【表2】

マウスKIM−1のアミノ酸196から216(ヒトKIM−1のアミノ酸247〜272に対応する)を含むストーク領域がN−グリコシル化部位を有することから、N−グリコシル化部位に結合した糖部分が3A2の結合に必要であるかどうかを判定することが関心対象であった。グリコシル化および脱グリコシル化KIM−1−196〜216−Fcのウエスタンブロット分析を行った(図2)。脱グリコシル化は、3A2がKIM−1−196〜216−Fcに結合する能力に影響しなかったことをこの分析は示した。したがって、糖部分は3A2がそのエピトープを認識するために必要ではない。
【0108】
3A2が細胞表面からのKIM−1の分断を阻害するかどうか判定するために、KIM−1をトランスフェクトされたE293細胞を5ug/mLの3A2、25ug/mLの3A2、または3A2なし(対照)で処理した。ビオチン化1H8抗体を用いて探査したウエスタンブロットを行ったとき、両セットの3A2処理細胞の上清は、KIM−1染色で対照との差を示さなかった。これは、3A2がKIM−1の分断を阻止しないことを示唆している。
【0109】
(実施例6. 4A2mAbの特徴付け)
ELISAおよびBiacore分析を使用して、mAb 4A2がマウスKIM−1のIgドメインを認識したと判定した(図9、表1)。mAb 4A2により認識されたエピトープをさらに特徴付けるために、単独および4A2と複合体を形成した組換えマウスKIM−1 IgV−ヒトIgG1 Fc融合体をTPCKトリプシンで消化した。KIM−1単独から8kDaのバンドが生成し、4A2が結合しているときには生成しない。これは、KIM−1への4A2の結合がこのバンドの生成に必要な切断部位へのトリプシンの接近を遮断することを示している。非還元状態での8Kdaのバンドへの消化は、4A2がヒトKIM−1配列
【0110】
【化39】

(配列番号1のアミノ酸81〜107)に対応する断片を保護することを明らかにした。このように、4A2抗体は、少なくとも部分的に配列番号1のアミノ酸81〜107内の、またはそのアミノ酸と重複するTPCKトリプシン部位を保護する。
【0111】
2A7を用いて同様のTPCKトリプシン消化実験を行い、ほぼ同じサイズのバンドを得た。同様の実験を(喘息モデルにおける無効mAbであり、Igドメインにも結合する)1H9で行ったとき、このバンドは得らなかった。これは、エピトープが喘息での有効性と一致することを示している。
【0112】
この明細書は、この明細書の中で引用される参照の教示に照らして最も完全に理解される。この明細書内の実施形態は、本発明の実施形態の例示を提供するものであり、本発明の範囲を限定するものとみなしてはならない。当業者は、多数の他の実施形態が本発明により包含されることを容易に認識している。本開示に引用される全ての刊行物、特許、および生物学的配列は、その全体が参照により組み込まれている。参照により組み込まれている資料が本明細書と矛盾するか、または一致しない範囲で、本明細書はそのような任意の資料に優先するであろう。本明細書における任意の参照の引用は、そのような参照が本発明の従来技術であるという承認ではない。
【0113】
別に示さない限り、特許請求の範囲を含めて本明細書に使用された成分、細胞培養、処置条件などの量を表現する全ての数字は、全ての例において用語「約」により修飾されていると了解されたい。
【0114】
したがって、それとは反対に別に示さない限り、数値パラメータは近似であり、本発明により得ようと努めた所望の性質に応じて変動しうる。別に示さない限り、一連の要素に先行する用語「少なくとも」は、その連なりにおける全ての要素を表すことを了解されたい。当業者は、本明細書に記載した本発明の特定の実施形態の多数の等価物を認識しているであろうし、また日常的な実験だけを使用してそれを確かめることができる。そのような等価物は、添付の特許請求の範囲により包含されることが意図される。
【数1】

【数2】

【数3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
本願明細書に記載された発明。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−131825(P2012−131825A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−73852(P2012−73852)
【出願日】平成24年3月28日(2012.3.28)
【分割の表示】特願2007−558223(P2007−558223)の分割
【原出願日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(592221528)バイオジェン・アイデック・エムエイ・インコーポレイテッド (224)
【Fターム(参考)】