説明

X線検査装置およびX線検査方法

【課題】X線によって高い空間分解能で被検体の表面形状を検査できるようにする。
【解決手段】X線検査装置に、真空容器5に収められたリング状の電子エミッタ6およびリング状のX線ターゲット7を備える。リング状のX線ターゲット7から放出されたX線は、すべて所定のX線照射領域11に向かう。このX線は、被検体に照射され、被検体から放たれる散乱または蛍光X線12は、反射X線コリメータ2を通って、X線二次検出器3によって検出される。リング状のX線ターゲット7から放出されるX線9は、すべて所定のX線照射領域11に向かうため、X線ターゲット7の熱衝撃を大きくすることなく、X線強度を増加させ、検査精度を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線検査装置およびX線検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、X線検査装置は被検体を透過したX線による被検体内部および表面の透過像をもとに検査を行うものである。
【0003】
このようなX線検査装置としては、X線を発生するX線源とX線フィルム、X線イメージインテンシファイアあるいはX線CCDカメラなどのX線二次元検出器とで被検体を挟み込み、被検体の透過像を得るものがある。また、特殊なX線検査装置として、X線源からのX線を被検体表面に照射し、そこから放たれる蛍光X線あるいは散乱X線を二次元的に検出して被検体表面の元素分布分析を行うものがある(たとえば特許文献1および2参照)。
【特許文献1】特開2000−55842号公報
【特許文献2】特開2003−329622号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
X線検査装置においては、厚さ数10cm程度の金属板表面を10μm程度の空間分解能で検査をする場合、X線透過検査では高エネルギー且つ高強度のX線が10μm以下のX線焦点から発生するX線源が必要となる。このような場合、X線源において大電力密度の電子がX線を発生する金属ターゲットに吸収されるため、熱衝撃に対する金属ターゲットの耐久性に問題があり、実現が困難である。したがって検査に必要なX線強度と空間分解能の両立ができないことが課題であった。
【0005】
また、蛍光X線あるいは散乱X線を利用する検査装置においては、X線源の形状、大きさの制限を受けるため、使用できるX線源強度、個数に限界が生じ、被検体表面への照射X線強度が制限される。これに伴って、蛍光および散乱X線強度も制限を受ける。このため、検出に必要なX線強度を確保することが困難である点が課題であった。
【0006】
本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、X線によって高い空間分解能で被検体の表面形状を検査できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を解決するため、本発明は、X線検査装置において、真空容器と、前記真空容器に収められた、電子を放出する電子エミッタと、前記電子エミッタから放出されて所定の電圧で加速された電子が所定の電子衝突領域に衝突すると所定のX線照射領域に向かうX線を放出する、前記真空容器に収められたX線ターゲットと、前記X線ターゲットから放出されたX線が前記X線照射領域に配置された被検体に照射されたときに前記被検体から放たれるX線が通過する反射X線コリメータと、前記反射X線コリメータを通過したX線を検出するX線二次検出器と、を有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、X線検査方法において、電子を電子エミッタから放出する電子放出工程と、前記電子放出工程で放出された電子を所定の電圧で加速する電子加速工程と、前記電子加速工程で加速された電子を、X線ターゲットに衝突させ、所定のX線照射領域に向かうX線を放出させるX線放出工程と、前記X線放出工程で放出されたX線を前記X線照射領域に配置された被検体に照射する照射工程と、前記被検体から放たれるX線を反射X線コリメータによって所定の方向にコリメートするコリメート工程と、前記コリメート工程で前記所定の方向にコリメートされたX線を検出するX線二次検出工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、X線によって高い空間分解能で被検体の表面形状を検査できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に係るX線検査装置の実施形態を、図面を参照して説明する。なお、同一または類似の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0011】
[実施形態1]
図1は、本発明に係る実施形態1のX線検査装置であって、(a)は一部断面斜視図、(b)は縦断面図である。
【0012】
このX線検査装置は、X線源1、コリメータ2、X線二次元検出器3および遮蔽体4から構成されている。
【0013】
X線源1は真空容器5を有している。真空容器5は、円筒状の外筒5aと、外筒5aよりも径が小さく、円筒5aと軸を同じくする円筒状の内筒5bと、外筒5aと内筒5bの底部をつなぐドーナツ状の2枚の円板5cで囲まれる真空空間を有している。真空容器5の内部には、リング状の電子エミッタ6、および、リング状のX線ターゲット7が収められている。電子エミッタ6およびX線ターゲット7は、いずれも真空容器5の円筒軸を中心とし、その円筒軸方向に所定の間隔で配置されている。X線ターゲット7の一つの表面は、真空容器5の円筒軸を中心とする円錐面の一部である。X線ターゲット7は円板5cの近傍に配置されている。
【0014】
円板5cの近傍には、真空容器5の円筒軸を中心とする円形内だけにX線を透過させる入射X線コリメータ10が設けられている。また、真空容器5の一部は遮蔽体4で覆われていて、X線が入射X線コリメータ10以外の部分に放出されないようになっている。
【0015】
電子エミッタ6には、高電圧線13を介して電源20が接続されており、X線ターゲット7に対して負電位が印加できるようになっている。
【0016】
内筒5bの内側には、真空容器5の円筒軸方向が円板5cとほぼ同じ位置に、反射X線コリメータ2が配設されている。また、X線二次元検出器3がその上方に配設されている。X線二次元検出器3は、画像信号線14を介して、外部モニタ21などに接続されている。
【0017】
電子エミッタ6からリング状に電子8が放出されると、電子エミッタ6とX線ターゲット7の間に印加された電圧によって電子8は加速し、X線ターゲット7に衝突する。加速した電子8がX線ターゲット7に衝突することにより、X線9が発生する。
【0018】
X線ターゲット7から発生したX線9は入射X線用コリメータ10を通過し、円板5cと対向する位置のX線照射面11に照射される。このとき、X線照射面11に照射されたX線9は、リング状ターゲット7の各点から発生したX線がX線照射面11に集中するため、照射X線強度は高強度となる。また、リング状のX線ターゲット7の全体に電子8が衝突するようにすれば、X線ターゲット7の受ける単位面積あたりの熱衝撃を緩和することができる。このため、リング状エミッタ6から発生する電子8の全個数を増加することができ、発生するX線強度をさらに高くすることができる。
【0019】
X線が照射されたX線照射面11からは、散乱および蛍光X線12が発生し、反射X線コリメータ2を通過した散乱および蛍光X線12のみがX線二次元検出器3に入射し、X線信号として検出される。このとき、X線二次元検出器3に入射した散乱および蛍光X線12はX線照射面11の凹凸などの表面状態により強度が変化する。このため、X線二次元検出器3で検出したX線信号を画像化すると、X線照射面11の凹凸などの表面状態を観測することができる。
【0020】
表面状態変化の空間分解能はコリメータ2の穴径に依存するため、高分解能検査をする場合はコリメータ2の穴径を小さくする。コリメータ2の穴径を小さくすると、コリメータ2を通過するX線量が減少し検出感度が低下する。したがって、高分解能高感度検査を行うためには照射X線の強度を高くする必要がある。
【0021】
本実施形態によれば、リング状のX線ターゲット7を用いるために、X線ターゲットの熱負荷を大きくすることなく照射X線強度を高めることができ、高分解能高感度表面検査が可能となる。
【0022】
なお、X線ターゲット7および電子エミッタ6の形状は、X線ターゲット7の受ける単位面積あたりの熱衝撃を緩和できれば、リング状以外でもよい。
【0023】
[実施形態2]
図2は、本発明に係る実施形態2のX線検査装置であって、(a)は一部断面斜視図、(b)は縦断面図である。
【0024】
本実施形態のX線検査装置は、複数組のリング状のエミッタ6とリング状のX線ターゲット7を備えている。複数のリング状電子エミッタ6からの電子放出に時間差をつけ、1つの電子エミッタ6からの電子放出はパルス的である。このため、放出される電子8を受けるリング状のX線ターゲット7の熱衝撃もパルス的になる。したがって、X線ターゲット7の平均的な熱入力は低くなる。このため、パルス的に発生する電子8の全個数を増加することが可能となり、照射X線強度を高くすることができる。
【0025】
このように、本実施形態のX線検査装置によって、照射X線強度を高めることができるため、高分解能高感度表面検査が可能となる。
【0026】
[実施形態3]
図3は、本発明に係る実施形態3のX線検査装置であって、(a)は一部断面斜視図、(b)は縦断面図である。
【0027】
本実施形態のX線検査装置は、実施形態1の反射X線コリメータの代わりに、ピンホールコリメータ15を用いる。本実施形態のX線検査装置は、X線照射面11を物面、X線二次元検出器3を像面としたピンホールカメラと同様のものであり、簡易な構成での表面二次元検査が可能となる。
【0028】
[実施形態4]
図4は、本発明に係る実施形態4のX線検査装置であって、(a)は一部断面斜視図、(b)は縦断面図である。
【0029】
本実施形態のX線検査装置は、実施形態3のX線検査装置に、ピンホールコリメータ15の位置を移動する駆動機構16を追加したものである。駆動機構16によって、ピンホールコリメータ15は、X線照射面11からX線二次元検出器3に向かう軸方向に移動できるようになっている。
【0030】
図5は、ピンホールコリメータ15の位置と像の大きさの関係を示す模式図である。ピンホールコリメータ15が図5(a)の位置にある場合を基準として、図5(b)のようにピンホールコリメータ15がX線照射面11(物面)に近づくと、X線二次元検出器3のX線が入射する面(像面)に映る像は大きくなる。反対に、図5(c)のようにピンホールコリメータ15がX線二次元検出器3に近づくと、X線二次元検出器3のX線が入射する面に映る像は小さくなる。
【0031】
本実施形態のX線検査装置では、ピンホールコリメータの15の位置を変化させることで、物面からピンホールコリメータ15までの距離とピンホールコリメータ15から像面までの距離の比が変化する。すなわち、検出したX線照射面11の表面像の拡大、縮小が可能となる。
【0032】
[実施形態5]
図6は、本発明に係る実施形態5のX線検査装置の断面図である。
【0033】
本実施形態のX線検査装置は、実施形態3とX線検査装置のピンホールコリメータ15の代わりにテーパー状コリメータ19を用いる。テーパー状コリメータ19は、散乱および蛍光X線12が通過する方向に所定の厚みを有していて、散乱および蛍光X線12が通過する部分には、軸を同じくする円錐が頂点部分で結合した形状の穴が貫通している。
【0034】
図7は、コリメータの形状とコリメートされたX線および漏洩X線の関係を模式的に示す断面図である。
【0035】
表面状態検査の空間分解能はコリメータの穴径によって決まる。図7(a)のように、コリメータとして、薄い板に貫通孔を開けた薄い板厚のコリメータ17を用いた場合には、X線強度が大きいとX線を十分に遮蔽することができない場合がある。この場合には、コリメータの穴径に依存した空間分解能を確保することができない。また、図7(b)のように、コリメータの穴径を一定のまま板厚を厚くした厚い板厚のコリメータ18を用いると、必要なX線までもが遮蔽され、検出感度が低下する。
【0036】
本実施形態のX線検査装置では、図7(c)のようにコリメータの貫通部をテーパー状としたことで、必要なX線を通過させたまま、コリメータの厚さを厚くすることができる。このため、不要な漏洩X線を遮蔽し、検査に必要なX線だけを検出することができ、高分解能高感度検査が可能となる。
【0037】
なお、以上の説明は単なる例示であり、本発明は上述の各実施形態に限定されず、様々な形態で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る実施形態1のX線検査装置であって、(a)は一部断面斜視図、(b)は縦断面図。
【図2】本発明に係る実施形態2のX線検査装置であって、(a)は一部断面斜視図、(b)は縦断面図。
【図3】本発明に係る実施形態3のX線検査装置であって、(a)は一部断面斜視図、(b)は縦断面図。
【図4】本発明に係る実施形態4のX線検査装置であって、(a)は一部断面斜視図、(b)は縦断面図。
【図5】ピンホールコリメータの位置と像の大きさの関係を示す模式図。
【図6】本発明に係る実施形態5のX線検査装置の縦断面図。
【図7】コリメータの形状とコリメートされたX線および漏洩X線の関係を模式的に示す断面図。
【符号の説明】
【0039】
1…X線源、2…コリメータ、3…X線二次元検出器、4…遮蔽体、5…真空容器、5a…外筒、5b…内筒、5c…円板、6…電子エミッタ、7…X線ターゲット、8…電子、9…X線、10…入射X線用コリメータ、11…X線照射面、12…散乱および蛍光X線、13…高電圧線、14…画像信号線、15…ピンホールコリメータ、16…ピンホールコリメータ駆動機構、17…薄い板厚のコリメータ、18…厚い板厚のコリメータ、19…テーパー状コリメータ、20…電源、21…外部モニタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器と、
前記真空容器に収められた、電子を放出する電子エミッタと、
前記電子エミッタから放出されて所定の電圧で加速された電子が所定の電子衝突領域に衝突すると所定のX線照射領域に向かうX線を放出する、前記真空容器に収められたX線ターゲットと、
前記X線ターゲットから放出されたX線が前記X線照射領域に配置された被検体に照射されたときに前記被検体から放たれるX線が通過する反射X線コリメータと、
前記反射X線コリメータを通過したX線を検出するX線二次検出器と、
を有することを特徴とするX線検査装置。
【請求項2】
前記電子エミッタおよび前記X線ターゲットはそれぞれリング状に形成されていることを特徴とする請求項1記載のX線検査装置。
【請求項3】
前記電子エミッタと前記X線ターゲットの対を複数有することを特徴とする請求項1または請求項2記載のX線検査装置。
【請求項4】
前記反射X線コリメータは、板にピンホールを設けたものであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項記載のX線検査装置。
【請求項5】
前記反射X線コリメータを移動させるコリメータ駆動手段を有することを特徴とする請求項4記載のX線検査装置。
【請求項6】
前記ピンホールは、前記板の板厚方向を軸として前記X線二次検出器およびその反対方向に向かって広がった2つの円錐形が結合した形状であることを特徴とする請求項4または請求項5記載のX線検査装置。
【請求項7】
前記電子エミッタと前記X線ターゲットに前記所定の電圧を印加する電源を有することを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項記載のX線検査装置。
【請求項8】
電子を電子エミッタから放出する電子放出工程と、
前記電子放出工程で放出された電子を所定の電圧で加速する電子加速工程と、
前記電子加速工程で加速された電子を、X線ターゲットに衝突させ、所定のX線照射領域に向かうX線を放出させるX線放出工程と、
前記X線放出工程で放出されたX線を前記X線照射領域に配置された被検体に照射する照射工程と、
前記被検体から放たれるX線を反射X線コリメータによって所定の方向にコリメートするコリメート工程と、
前記コリメート工程で前記所定の方向にコリメートされたX線を検出するX線二次検出工程と、
を有することを特徴とするX線検査方法。
【請求項9】
前記電子放出工程は、前記電子エミッタの全体から同時に電子を放出するものであることを特徴とする請求項8記載のX線検査方法。
【請求項10】
前記電子放出工程は、複数の電子エミッタから、順次パルス状に電子を放出するものであることを特徴とする請求項8記載のX線検査方法。
【請求項11】
前記反射X線コリメータを移動させる工程をさらに有することを特徴とする請求項8ないし請求項10のいずれか1項記載のX線検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−232530(P2007−232530A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−53661(P2006−53661)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】