説明

ε−N−ルシフェリルリシン化合物、これを用いたペプチド標識剤及びペプチド標識方法

【課題】ホタルルシフェリン−発光甲虫ルシフェラーゼ発光系の発光を利用した検出が可能な標識でペプチドやタンパク質を標識でき、発光光量が調節可能な新規なε−N−ルシフェリルリシン化合物によるペプチド標識技術を提供する。
【解決手段】ε−N−ルシフェリルリシン化合物は、下記一般式で示さる。これをペプチド標識剤として用いて、ペプチド合成によりルシフェリンで標識されたペプチドを調製することによって、前ペプチドからルシフェリンを解離させる活性の存在下での発光検出を可能とする。


(一般式中のRは、メチル基であり、Pvは、水素原子又はフルオレニルメトキシカルボニル基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光甲虫ルシフェラーゼによる発光系の発光基質であるホタルルシフェリンの構造を有する新規なε−N−ルシフェリルリシン化合物、これを用いたペプチド標識剤及びペプチド標識方法に関する。より詳細には、リシン(lysine)のε−アミノ基がルシフェリンと結合した新規なε−N−ルシフェリルリシン化合物、これを用いたペプチド標識剤、及び、ルシフェラーゼ発光による検出を可能とするペプチド標識方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生物発光として有名なホタルの発光は、ホタルルシフェリン−発光甲虫ルシフェラーゼ発光系(ホタル生物発光系)の反応によるものであり、発光基質であるホタルルシフェリンが、ATP及びマグネシウムイオンの存在下でホタルルシフェラーゼによって発光体であるオキシルシフェリンに変換されることによって発光する。ホタル生物発光系は、発光効率が非常に高く、生物発光の分子機構解釈についても研究が進められており、遺伝子組換えベクターや細胞に発光甲虫ルシフェラーゼ遺伝子を導入することによって遺伝子発現・遺伝子導入効率の解析や細胞増殖のモニタリング等に利用できることが知られている。このため、生化学や医学、薬学、免疫学など様々な分野において注目され、応用が検討されつつあり、ホタル生物発光系を利用した多岐にわたる発光材料が様々な企業から提供されている。
【0003】
近年、モニタリングにおける事象・現象の可視化が重要になり、可視化対象の拡大に伴って標識技術も多様化が求められている。特に、分子イメージングは、診断・検査器機の進歩とも相まって大きく発展し、例えば、ガン、心疾患等の個別化医療等のような先端技術への応用も精力的に研究されている。又、計測技術の進歩に伴って、より高感度・高性能な器機や標識材料へのニーズが急速に高まっている。その一方で、広範なユーザに向けた、適度な性能で安価なシステムに対する製品需要も見込まれており、これを支える安価な新規発光材料のニーズも看過できない。
【0004】
生物発光系の標識材料に関する従来の技術としては、発光反応に必要な要素(発光基質、ATP、発光酵素等)の何れかが不足する系を作り、標的となる現象が生じる際に前述の不足する要素が補われて発光するように構成したシステムがあり、発光によって標的現象がモニタリングされる。例えば、ルシフェリンのフェノール性水酸基にガラクトースを結合した化合物を用いたシステムが市販されており、この化合物は、ガラクトシダーゼ酵素が作用した時にガラクトースとの結合が切断されて遊離したルシフェリンがルシフェラーゼによって発光するので、ガラクトシダーゼ又はこれと同等の作用をする酵素活性の存在が検出・可視化される(例えば、下記特許文献1参照)。
【0005】
また、下記特許文献2では、抗原、ハプテン又は抗体を定量するために、これらをリガンドとして酵素−リガンド複合体を構成し、これにルシフェリン誘導体が作用したときに酵素によって脱離するルシフェリンをルシフェラーゼを用いて発光させることによって酵素を検出(つまり、リガンドを検出)することが記載されている。ルシフェリン誘導体として、ルシフェリンのフェノール性水酸基又はカルボキシル基がアミノ酸に結合した発光基質結合アミノ酸化合物が幾つか提示されている。
【特許文献1】特開平11−332593号公報
【特許文献2】特表昭63−501571号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アミノ酸は生体の構成物質であり、アミノ酸の集合体であるペプチドやタンパク質は、様々な生理活性を有している。従って、ペプチドやタンパク質に関連する現象のモニタリングは様々な生体反応メカニズムの解析において有用である。生物発光によるペプチドやタンパク質のモニタリングを行うには、生物発光系標識材料で標識したペプチド又はタンパク質を調製する必要があり、任意のペプチド又はタンパク質について、任意の標識量で標識したペプチド又はタンパク質を得られる生物発光系標識技術の開発が重要である。
【0007】
本発明は、ホタルルシフェリン−発光甲虫ルシフェラーゼ発光系の発光を利用した検出が可能な標識でペプチドやタンパク質を容易に標識することができ、標識量を調節して好適な発光光量を得ることが可能な、ペプチド標識剤として有望な新規なε−N−ルシフェリルリシン化合物を提供することを課題とする。
【0008】
又、本発明は、ペプチドやタンパク質の標識量を調節可能で、それによって発光を好適な画像条件で検出可能なペプチド標識剤を提供することを課題とする。
【0009】
又、本発明は、ホタルルシフェリン−発光甲虫ルシフェラーゼ発光系の発光基質に結合したアミノ酸を標識剤として用いて発光検出による画像モニタリングを行う際に、標識剤の導入量の調整によって適切な光量で検出及び画像モニタリングを行うことが可能なペプチド標識方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、発光基質に結合するアミノ酸として2つのアミノ基を有するリシンを利用し、ε−位のアミノ基に発光基質を結合させた化合物を標識剤として用いることによって、ペプチド中に含まれるリシンの一部又は全てが標識されたペプチドとなるため、必要に応じて標識剤の導入量を増減したペプチドを得ることが可能であり、発光光量に関する制限が緩和されることを見出し、本発明を成すに至った。
【0011】
本発明の一態様によれば、ε−N−ルシフェリルリシン化合物は、下記一般式で示される。
【化1】

【0012】
(一般式中のRは、メチル基であり、Pvは、水素原子又はフルオレニルメトキシカルボニル基である。)
又、本発明の一態様によれば、ペプチド標識剤は、上記ε−N−ルシフェリルリシン化合物を有する。
【0013】
又、本発明の一態様によれば、ペプチド標識方法は、上記ε−N−ルシフェリルリシン化合物を用いたペプチド合成によりルシフェリンで標識されたペプチドを調製することによって、前記ペプチドからルシフェリンを解離させる活性の存在下での発光検出を可能とする。
【0014】
上記発光検出は、発光甲虫ルシフェラーゼ酵素の作用による発光の検出であり、検出可能な発光光量を調節するためにペプチドに組み込まれるε−N−ルシフェリルリシン化合物の量を調整することができる。
【0015】
上記ペプチド標識方法において、前記ルシフェリンは、ピロリン酸及びMgイオンの存在下で酸化反応し、これにより発光挙動が安定化し、発光甲虫ルシフェラーゼによる発光強度の定量分析が可能になる。
【0016】
上記酸化反応は、発光甲虫ルシフェラーゼ、酸化酵素又は酸化剤を用いて行うことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、発光甲虫ルシフェラーゼによる発光系の発光基質と、リシンのε−アミノ基とを結合することにより、リシンのα−アミノ基の反応によるペプチド鎖への導入が可能な新規化合物が得られ、この化合物のペプチドへの導入量を調整することによって検出光量を任意に制御可能な、ペプチド標識剤として有望な化合物が提供される。このペプチドへの導入量の設定によって画像モニタリングに適した発光強度を実現可能になるので、画像モニタリングにおける発光光量の調整及び適正化が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
合成反応技術の進歩やペプチド合成装置の開発によって、現在では、予め設定されたアミノ酸配列に従ってアミノ酸からペプチドを合成することが可能であり、任意の天然又は人工のペプチド(高分子量ペプチドであるタンパク質を含む)を調製することができる。従って、標識されたアミノ酸を用いてペプチド合成を行うことによって、標識されたペプチドを得ることができる。
【0019】
つまり、アミノ酸に発光基質つまりホタルルシフェリン(以下、ルシフェリンと記す)が結合した化合物を調製し、これを用いてペプチドを合成すれば、発光基質で標識されたペプチドが得られ、このペプチドから発光基質標識が解離したときに発光甲虫ルシフェラーゼ(以下、ルシフェラーゼと記す)による生物発光を検出することによって、ペプチド及び標識解離を生じた酵素活性等の存在がモニターされる。換言すれば、発光基質が結合したアミノ酸は、ペプチドに導入することによってペプチドを標識することができるアミノ酸型ペプチド標識剤として働く。
【0020】
上記アミノ酸型ペプチド標識剤は、カルボキシル基及びα−位のアミノ基以外に、水酸基、アミノ基、チオール基、カルボキシル基などの官能基を有するアミノ酸を用いて発光基質を縮合させることによって調製することができる。このようなアミノ酸には、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、リシン、アルギニン、ヒスチジン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシンがあるが、発光基質との反応性及び標識剤としての応用性の点から、本発明ではリシンを採用し、発光基質であるルシフェリンと縮合させたアミノ酸型ペプチド標識剤を提案する。
【0021】
リシンは、2つのアミノ基を有するアミノ酸である。ルシフェリンとの縮合部位に関しては、リシンのα−位又はε−位のアミノ基とのアミド化及びカルボキシル基とのエステル化があるが、リシンのα−位のアミノ基又はカルボキシル基がルシフェリンと結合した化合物の場合、ペプチドを合成する際にこの化合物からペプチド鎖に組み込み可能なのは、残りのα−アミノ基又はカルボキシル基の一方のみであるので、ペプチドのN末端又はC末端への導入に限定される。つまり、標識剤の適用はペプチド末端の標識に限定され、1つのペプチド鎖に組み込み可能な標識剤は1分子のみである。この場合、標識する分子の分子量が大きい場合や濃度が低い状態での検出の場合、標識剤の存在量が少ないために、発光光量の不足によって検出が困難であったり、明確な発光画像が得られない可能性が生じる。
【0022】
これに比べて、リシンのε−位のアミノ基がルシフェリンと結合したε−N−ルシフェリルリシンは、ペプチド鎖に導入する際にリシンと同様にα−アミノ基及びカルボキシル基がペプチド鎖に組み込まれるので、ペプチド末端に限らず、ペプチド中の任意の位置に組み込むことができる。従って、目的とするペプチドのアミノ酸配列に従って、ペプチドを構成するリシンの一部又は全てをε−N−ルシフェリルリシンで置換したペプチドを得ることができる。つまり、ペプチド中のリシン部位の一部又は全てをルシフェリンで標識したペプチドを得ることができる。また、任意量のε−N−ルシフェリルリシンをペプチド中に導入することができるので、標識の頻度を調節できる。従って、高分子量のペプチドや、低濃度条件にあるペプチドであっても、標識量を増加することによって、発光検出及び画像モニタリングに適した光量を提供可能な標識方法となる。
【0023】
以下、本発明に係る新規なε−N−ルシフェリルリシン化合物及びこれをペプチド標識剤として用いるペプチドの標識方法について詳細に説明する。
【0024】
本発明は、ペプチドの標識剤として有望な新規化合物として、下記式のようなε−N−ルシフェリルリシン化合物を提案する。
【化2】

【0025】
(上記一般式中のRは、メチル基であり、Pvは、水素原子又はフルオレニルメトキシカルボニル基である。)
ホタルルシフェリンのカルボキシル基とリシンエステルのε−位のアミノ基との縮合は、ルシフェリン及びリシンエステルの共存状態で、ルシフェリンのカルボキシル基を緩やかに活性化することによって、リシンエステルのε−アミノ基と縮合して得られる。リシンエステルのε−アミノ基は、α−アミノ基より反応性が高いが、ルシフェリンのカルボキシル基の活性が高いと、リシンエステルの両方のアミノ基がルシフェリンと縮合した化合物が生成するので、緩やかな活性化によって調製する。
【0026】
ε−N−ルシフェリルリシン化合物は、ペプチド合成を行う際にリシンの代替物として用いることによって、ペプチド中のリシンがルシフェリンで標識されたペプチドを得ることができる。つまり、ε−N−ルシフェリルリシン化合物は、ペプチド標識剤として機能する。ε−N−ルシフェリルリシン化合物の使用量によって標識量を調整することができる。ペプチドの合成方法は、既存の有機合成化学による種々の方法及び器機を任意に選択・使用して行えば良く、ペプチド合成装置によって自動的に合成してもよい。ペプチド合成方法として、縮合剤を用いるペプチド形成、活性エステル化法、混合酸無水物法、ライゲーション、固相合成法等が挙げられる。
【0027】
定法による有機合成化学的ペプチド合成においてε−N−ルシフェリルリシン化合物をペプチド標識剤として利用する際に、α−アミノ基又はカルボキシル基が保護されている必要がある。特に、α−アミノ基がフリーなアミノ酸はラセミ化し易いので、α−アミノ基を反応させない(カルボキシル基が縮合しペプチド化する)場合はアミノ基の保護が常に必要である。従って、実際にペプチド標識剤としてペプチド合成に供給される化合物としては、メチル基を保護基Rとしてカルボキシル基が保護された化合物や、フルオレニルメトキシカルボニル基を保護基Pvとしてα−アミノ基が保護された化合物が含まれ、このような保護基を有するε−N−ルシフェリルリシン化合物からペプチド合成での使用態様に応じて適宜選択することができる。これらのε−N−ルシフェリルリシン化合物に対して、既知の方法により保護基の導入・脱離を行うことができる。具体的には、カルボキシル基の保護基Rについては、塩酸のアルコール溶液、又は、アルコールと塩化チオニルの反応物を用いて処理することでアルコキシ化され、水素化反応やトリフルオロ酢酸による処理で脱離する。α−アミノ基の保護基Pvについては、アミン存在下でN−(フルオレニルメトキシカルボニルオキシ)コハク酸イミドと反応させることによってフルオレニルメトキシカルボニル基が導入され、ピペリジンによる処理で脱離する。
【0028】
上述のようなε−N−ルシフェリルリシン化合物を用いて合成したペプチドは、標識がない同じアミノ酸配列のペプチドと同等の挙動を示し、同様に周囲からの化学的作用及び生化学的作用を受ける。その結果としてペプチドが得た環境中に、例えばアミダーゼの一種であるアシラーゼのような酵素活性あるいは同様の加水分解作用を促す化学環境が存在すれば、ルシフェリン部分とリシン部分とのアミド結合が分解してペプチドからルシフェリンが解離する。従って、解離したルシフェリンをルシフェラーゼを用いて発光検出することによって、ペプチドの挙動・移動や配置が可視化・画像化される。これを利用すれば、例えば、合成ペプチドの機能確認や、挙動、動静の追跡が可能であり、細胞膜等を介する境界内外の移動、局在・分散傾向、他物質との反応・相互作用などの調査が可能である。また、標識ペプチドからルシフェリンを遊離させる加水分解能を有する酵素のアミノ酸配列をコードした遺伝子をベクターに組み込んで細胞中で発現させた場合に、本発明のアミノ酸型標識剤を用いて合成したペプチドを作用させると、ベクターを有する細胞において標識ルシフェリンの遊離が起こるので、これを発光検出することによって遺伝子を追跡でき、遺伝子の導入状態及びその細胞の挙動をモニタリング・画像化できる。
【0029】
遊離したルシフェリンの生物発光検出は、発光酵素、酸素及びATPの存在によって可能となるので、これらを含み、pHを適切に調整したルシフェラーゼ組成物を発光キットとして用いることができる。発光系のpHは特に限定しないが4〜10であることが好ましく、より好ましくは6〜8であり、必要に応じて、pHを安定化させるためにリン酸カリウム、トリス塩酸、グリシン、HEPES等の緩衝剤を適宜使用できる。発光系は水性系であるが、親水性有機化合物の存在は許容されるので、例えば、テトラフルオロ酢酸、酢酸、ギ酸等を含有してもよい。
【0030】
ルシフェリンは、化学発光による発光検出も可能である。化学発光は、ルシフェリンを酸化して過酸化物を生成することにより、過酸化物の分解物が励起状態の発光種となって起こる。酸化は、DMSO中でt−ブトキシカリウムを用いて空気酸化することによって進行する。従って、このような酸化系が許容される場合は、化学発光による検出・可視化も可能である。
【0031】
従って、本発明のペプチド用標識剤を用いると、上記のような発光形態に基づいて、タンパク質プロセッシング酵素の発現やタンパク量のアッセイ、タンパク質の局在化状態のバイオイメージングができる。また、タンパク質の熟成に必要な糖鎖の付加プロセスをバイオイメージしたり、タンパク質/タンパク質間の相互作用等を観測することも可能である。
【0032】
以下、実施例を参照して本発明を詳述する。本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。尚、本願において、「%」は、特に説明がない場合、「質量%」を示すものとする。
【実施例1】
【0033】
[ε−N−ルシフェリルリシン メチルエステルの調製]
(D)−ルシフェリン(103.8mg、0.37mmol)、(L)−リシン メチルエステル・二塩酸塩(103.7mg、0.42mmol)及び1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(62.3mg、0.46mmol)を含有する無水DMF溶液1.5mlに、N,N−ジイソプロピルエチルアミン(150μl、1.56mmol)を加えた。このD−ルシフェリン溶液を氷浴で冷却しながら、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(99mg、0.52mmol)を含有するクロロホルム溶液1mlを一分間かけて滴下して3時間攪拌した後、室温で14時間攪拌することによって反応させた。尚、反応中の内容物は、HPLCにて分析することによって追跡した。分析条件は以下の通りであり、ε−N−(D)−ルシフェリル−(L)−リシンのメチルエステルは9.0分付近に溶出した。
【化3】

【0034】
反応溶液に蒸留水30mlを加えて、酢酸エチル30mlで3回抽出した。酢酸エチル抽出液を合わせて無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、減圧濃縮して粗ε−N−(D)−ルシフェリル−(L)−リシンのメチルエステルを得た(純度60−70%)。これは、下記分析条件を用いてカラムにより分離精製し、質量分析及びNMR分析によって確認した。得られた化合物データは以下の通りである。
【0035】
<分析条件>
分析カラム:関東化学Mightysil PR-18 GP(H)、250×4.6(5μm)
溶媒:0.05%TFAaq:CH3CN=1:9→9:1(20分)、1:9(20−30分)
流速:1ml/分、カラム温度:20℃
検出:254,330nm(DAD)、510nm(exp.=330nm、FD)
<ε−N−(D)−ルシフェリル−(L)−リシン メチルエステルの化合物データ>
MS(ESI)[M+H];m/z423.1213
1H−NMR(270MHz,CD3OD):δ1.46−1.60(2H,complex),1.65−1.77(2H,complex),1.88−2.00(2H,complex),2.19(2H,t,J=7.5Hz),3.69(1H,d,J=9.7Hz),3.75(1H,d,J=9.7Hz),3.82(3H,s),4.03(1H,dt,J=6.5,2.3Hz)、5.34(1H,t,J=9.7Hz),7.07(1H,dd,J=8.9,2.3Hz),7.34(1H,d,J=2.3Hz),7.90(1H,d,J=8.9Hz)
【実施例2】
【0036】
[α−N−フルオレニルメトキシカルボニル−ε−N−(D)−ルシフェリル−(L)−リシン メチルエステルの調製]
実施例2で得たε−N−(D)−ルシフェリル−(L)−リシン メチルエステル(50mg、0.12mmol)、ジクロロメタン1ml及びクロロギ酸9−フルオレニルメチル(151.2mg、0.58mmol)を混合溶解した。次いで、N,N−ジイソプロピルエチルアミン(200μl、2.08mmol)を滴下し、室温で3時間攪拌した。反応中の内容物は、実施例1と同様の分析条件でHPLCにて原料の消失を確認した後、
蒸留水30mlを加え、酢酸エチル30mlで3回抽出した。酢酸エチル抽出液を合わせて無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、減圧濃縮して粗α−N−フルオレニルメトキシカルボニル−ε−N−(D)−ルシフェリル−(L)−リシンを得た。これは、同析条件を用いてカラムにより分離精製し、質量分析によって確認した。得られた化合物データは以下の通りである。
【0037】
<α−(N−フルオレニルメトキシカルボニル)−ε−(D)−ルシフェリル−(L)−リシン メチルエステルの化合物データ>
MS(ESI)[M+Na];m/z667.0852
MS(ESI)[M+K];m/z683.0740

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式で示されるε−N−ルシフェリルリシン化合物。
【化1】

(一般式中のRは、メチル基であり、Pvは、水素原子又はフルオレニルメトキシカルボニル基である。)
【請求項2】
請求項1記載のε−N−ルシフェリルリシン化合物を有するペプチド標識剤。
【請求項3】
請求項1記載のε−N−ルシフェリルリシン化合物を用いたペプチド合成によりルシフェリンで標識されたペプチドを調製することによって、前記ペプチドからルシフェリンを解離させる活性の存在下での発光検出を可能とするペプチド標識方法。
【請求項4】
前記発光検出は、発光甲虫ルシフェラーゼ酵素の作用による発光の検出であり、検出可能な発光光量を調節するためにペプチドに組み込まれるε−N−ルシフェリルリシン化合物の量を調整する請求項3記載のペプチド標識方法。

【公開番号】特開2010−30918(P2010−30918A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−192596(P2008−192596)
【出願日】平成20年7月25日(2008.7.25)
【出願人】(504133110)国立大学法人電気通信大学 (383)
【出願人】(000004477)キッコーマン株式会社 (212)
【出願人】(803000045)株式会社キャンパスクリエイト (41)
【Fターム(参考)】