説明

きのこの液体種菌の生産方法及び元種培養用ボトルのキャップ

【課題】液体元種を元種培養用ボトルから培養タンク内へ投入する作業を容易に行うことができるきのこの液体種菌の生産方法及び元種培養用ボトルのキャップを提供すること。
【解決手段】培養液を用いてきのこ菌を増殖させることで、きのこの種菌を液体状に大量生産するように、元種培養工程と、本培養工程とを有するきのこの液体種菌の生産方法であって、雄螺子部12が形成された瓶口11を備える元種培養用ボトル10に、第一段階の培養液19及び菌体を入れ、瓶口11を、雌螺子部22が形成された元種培養用ボトルのキャップ20をねじ込むことで外嵌して塞ぐと共に、元種培養用ボトルのキャップ20にはフィルタ25を配設してあることで元種培養用ボトル10内部への通気性が確保され、元種培養用ボトルのキャップ20を外して、液体元種29を、元種培養用ボトル10から第二段階の培養液が入った培養タンクへ空気圧力を用いて圧送することで投入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、きのこの菌床栽培に用いられる液体種菌の生産方法及び元種培養用ボトルのキャップに関する。菌床栽培の対象となるきのこの種類としては、エノキ茸、シメジ類、ナメコ、マイタケ、エリンギ、バイリング等がある。
【背景技術】
【0002】
従来のきのこの種菌を生産する方法では、固体の培地を用いてきのこ菌を増殖させ、固体状の種菌を生産していた。
これに対して、より効率的に種菌を生産するため、培養液を用いてきのこ菌を増殖させ、液体状の種菌を生産する方法が実用化されてきている。
なお、種菌が生産された後は、その種菌を固体状の培地に接種し、菌糸を増殖させる培養工程を経て、子実体を発芽させて生長させる。このきのこの栽培方法は、従来と同様であり、説明を省略する。
【0003】
きのこの液体種菌の生産方法は、例えば、以下のような構成を備える。
保存用菌株から培養して得た種菌を液体培養して本培養で使用する液体種菌を調整する前培養工程(元種培養工程)と、該前培養工程で調整された液体種菌を、種菌接種に使用する一定量の培養液が貯蔵された培養タンクに投入し、該培養液中で培養する本培養工程とを有するきのこの液体種菌の製造方法において、前記培養タンクに培養液を収容した後、培養タンクごと高圧殺菌釜に収容して培養液を高圧殺菌し、培養液を高圧殺菌した後、培養液を常温まで放冷させ、培養液を放冷させた後、前記前培養工程で調整した液体種菌を培養タンク内で本培養する工程を有する(特許文献1参照)。
これによれば、品質のよいきのこの液体種菌を容易に量産することができ、液体種菌を使用してきのこを栽培することによって、きのこの栽培期間を短縮して栽培効率を向上させ、きのこの良品を得ることができる。
【0004】
また、きのこの液体種菌の生産方法に関連して、大豆粉、糖類、リン酸水素塩及び硫酸塩を含有することを特徴とするきのこの液体種菌用培養液が開示されている(特許文献2参照)。
これによれば、きのこの製造工程(培養工程、発生工程、育成工程)における期間を短縮することができ、培養液の材料が安価な素材であるため製造コストを削減できる。
【0005】
このような従来のきのこの液体種菌の生産方法においては、前培養工程(元種培養工程)で調整した液体種菌(液体元種)を培養液に接種する工程において、次のような手順で、雑菌が混入しないようにしている。
クリーンブース内で接種作業を行い、接種口を開く前に接種口の周辺を火炎殺菌し、次に、接種口のフランジ部に数cc程度のプロピルアルコールを注ぎ、アルコールに点火して接種口を開口させる。アルコールの焔による気流が生じている状態のうちに、前培養工程で調整した液体種菌を培養タンク内に注ぎ込む。液体種菌を投入完了後、ただちに接種口を閉じる(特許文献1、2参照)。
また、液体元種を元種培養用ボトルから培養タンク内へ手作業で注いでおり、雑菌が侵入しないように、元種培養用ボトルの瓶口の内側に嵌められた栓を抜くと共に、注ぎ込む作業を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−51639(第1頁)
【特許文献2】特開2008−79605(第1頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
きのこの液体種菌の生産方法及び元種培養用ボトルのキャップに関して解決しようとする問題点は、元種を元種培養用ボトルから培養タンク内へ投入する作業が難しく、雑菌が入り易いことにある。つまり、その作業の成否が、作業者の熟練度に依っている。雑菌が入った場合は、大量の培養液が無駄になってしまい、きのこの栽培効率を著しく低下させてしまう。
そこで本発明の目的は、作業者の熟練度に依らず、元種を元種培養用ボトルから培養タンク内へ投入する作業を容易に行うことができるきのこの液体種菌の生産方法及び元種培養用ボトルのキャップを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために次の構成を備える。
本発明に係るきのこの液体種菌の生産方法の一形態によれば、培養液を用いてきのこ菌を増殖させることで、きのこの種菌を液体状に大量生産するように、固体培地で培養させた菌体を第一段階の培養液に投入・培養させて液体元種を生産する元種培養工程と、該元種培養工程で生産された前記液体元種を第二段階の培養液に投入・培養させて大量の液体種菌を生産する本培養工程とを有するきのこの液体種菌の生産方法であって、前記元種培養工程では、雄螺子部が形成された瓶口を備える元種培養用ボトルに、前記第一段階の培養液及び前記菌体を入れ、前記瓶口を、雌螺子部が形成された元種培養用ボトルのキャップをねじ込むことで外嵌して塞ぐと共に、該元種培養用ボトルのキャップにはフィルタを配設してあることで前記元種培養用ボトル内部への通気性が確保され、前記本培養工程では、前記元種培養用ボトルのキャップを外して、前記液体元種を、前記元種培養用ボトルから前記第二段階の培養液が入った培養タンクへ空気圧力を用いて圧送することで投入する。
【0009】
また、本発明に係る元種培養用ボトルのキャップ一形態によれば、前記のきのこの液体種菌の生産方法に用いられる元種培養用ボトルのキャップであって、通気性を確保するための前記フィルタが、メンブレンフィルタであることを特徴とすることができる。
【0010】
また、本発明に係る圧送用の元種培養用ボトルのキャップ一形態によれば、前記のきのこの液体種菌の生産方法において、前記液体元種を、前記元種培養用ボトルから前記第二段階の培養液が入った培養タンクへ空気圧力を用いて圧送する際に、前記元種培養用ボトルに装着されて用いられる元種培養用ボトルの圧送用キャップであって、雌螺子部が形成されて前記瓶口にねじ込み状態で外嵌して装着されるキャップ本体を有し、該キャップ本体の上端面部を貫通した状態に圧力空気の供給用管及び液体元種の排出用管が配設されていることを特徴とすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るきのこの液体種菌の生産方法及び元種培養用ボトルのキャップによれば、作業者の熟練度に依らず、液体元種を元種培養用ボトルから培養タンク内へ投入する作業を容易に行うことができるという特別有利な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係るきのこの液体種菌の生産方法に用いる元種培養用ボトルとその元種培養用ボトルのキャップの形態例を示す断面図である。
【図2】本発明に係るきのこの液体種菌の生産方法における液体元種を元種培養用ボトルから培養タンク内へ投入するための形態例を示す説明図である。
【図3】本発明に係るきのこの液体種菌の生産方法における液体元種を培養タンク内へ投入する工程を説明した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明に係るきのこの液体種菌の生産方法及び元種培養用ボトルのキャップの形態例を添付図面(図1〜3)に基づいて詳細に説明する。
このきのこの液体種菌の生産方法は、基本的に、培養液を用いてきのこ菌を増殖させることで、きのこの種菌を液体状に大量生産するように、固体培地で培養させた菌体を第一段階の培養液に投入・培養させて液体元種を生産する元種培養工程と、該元種培養工程で生産された前記液体元種を第二段階の培養液に投入・培養させて大量の液体種菌を生産する本培養工程とを有する。この基本的な構成は、従来の方法と同様である。
【0014】
このきのこの液体種菌の生産方法において、元種培養工程では、雄螺子部12が形成された瓶口11備える元種培養用ボトル10に、前記第一段階の培養液19及び前記菌体を入れ、液体元種29を生産する。
この元種培養用ボトル10としては、ガラス瓶を用いると滅菌を行い易い利点がある。なお、このボトルの容量は、例えば500ccである。
また、雄螺子部12が形成された瓶口11備えることで、後述する圧送用の元種培養用ボトルのキャップ40を装着することができ、液体元種29を好適に圧送することができる。これに対して、瓶口11の内側に栓をする従来の形態では、圧送のための空気圧に耐えることができず、栓が抜けてしまうという問題がある。
【0015】
そして、この元種培養用ボトル10の瓶口11は、雌螺子部22が形成された元種培養用ボトルのキャップ20がねじ込まれることで外嵌されて塞がれる。すなわち、元種培養用ボトル10の雄螺子部12に、元種培養用ボトルのキャップ20の雌螺子部22が螺合して瓶口11を塞ぐ形態になっている。また、この元種培養用ボトルのキャップ20にはフィルタ25が配設され、元種培養用ボトル10内部への通気性が確保されている。本形態例では、そのキャップ本体23の上端面部中央に、フィルタ25がシールされて設けられている。なお、26はパッキンであり、瓶口11の上端面と元種培養用ボトルのキャップ20との内面との間で挟圧されてシールするように配されている。
【0016】
本形態例の元種培養用ボトルのキャップ20では、通気性を確保するためのフィルタ25が、メンブレンフィルタになっている。このメンブレンフィルタとしては、例えばポアサイズが0.2μmであって、菌類の胞子が通過することを阻止して無菌空気を元種培養用ボトル10内へ供給できるものを採用できる。
【0017】
このようにフィルタ25の付いた元種培養用ボトルのキャップ20を使用することで、きのこ菌の増殖が効果的になされ、液体元種の生産を効率よく行うことができる。これは、フィルタ25を通して適度の空気が給排気されるためと考えられる。特にメンブレンフィルタを用いることで、無菌空気を元種培養用ボトル10内へ適切に供給できる。なお、積極的に圧縮された清浄空気を投入するエアレーションを行うことも可能であるが、きのこ菌が増殖する初期には過剰な空気となってしまう。また、エアレーションを行うための設備はコストが高くつき、効果的ではない。
【0018】
そして、元種培養工程が終了した後の本培養工程では、元種培養用ボトルのキャップ20を外して、液体元種29を、元種培養用ボトル10から前記第二段階の培養液39が入った培養タンク30へ空気圧力を用いて圧送することで投入する(図2、3参照)。なお、この培養タンク30の容量は、例えば500リットルである。
この工程では、従来のような手作業で液体元種29を元種培養用ボトル10から培養タンク30へ注ぐという難しい作業をしなくてもよい。また、従来のような接種口を開く前に接種口の周辺を火炎殺菌するという難しい作業をしないで済む。すなわち、後述するような液体元種の排出用管46を利用し、チューブを連結することだけで液体元種29を培養タンク30へ容易に移すことができる。
【0019】
次に、図2、3に基づいて、圧送用の元種培養用ボトルのキャップ40の形態例を説明する。この圧送用の元種培養用ボトルのキャップ40は、液体元種29を、元種培養用ボトル10から第二段階の培養液39が入った培養タンク30へ空気圧力を用いて圧送する際に、元種培養用ボトル10に装着されて用いられる。これによれば、雑菌の入る機会を極力無くした状態で、元種培養工程から、元種培養用ボトル10の液体元種29を培養タンク30へ投入する工程へ容易に移行することができる。
【0020】
この圧送用の元種培養用ボトルのキャップ40には、元種培養用ボトル10の瓶口11にねじ込み状態で外嵌して装着されるように、雌螺子部42が形成されたキャップ本体43を有する。このキャップ本体43には、その上端面部を貫通した状態に圧力空気の供給用管45及び液体元種の排出用管46が配設されている。なお、雌螺子部42は、キャップ本体43の周側壁の内面に設けられている。
【0021】
また、本形態例の液体元種の排出用管46は、培養タンク30の上部のチューブ接続口31に接続されている。なお、47は圧縮空気の供給源であり、48は空気無菌化用のエアフィルタである。また、50はエアレーション用のチューブであり、51は圧縮空気の供給源、52は空気無菌化用のエアフィルタである。さらに、60は液体種菌の出口であり、培養タンク30の下部に設けられており、61は開閉弁になっている。
【0022】
次に、図3に基づいて、本発明に係るきのこの液体種菌の生産方法について説明する。
(a)は、元種培養用ボトル10内の第一段階の培養液19で、きのこ菌を増殖・培養している状態を示している。(b)は、元種培養用ボトル10内での培養が十分になされた後に、元種培養用ボトルのキャップ20を外した状態をしている。(c)は、空気圧による圧送用の元種培養用ボトルのキャップ40を元種培養用ボトル10に嵌めた状態を示している。(d)は空気圧を印加、液体元種29を培養タンク30へ送る状態を示している。
【0023】
これによれば、従来のような難しい作業を必要としないで、液体元種29を培養タンク30へ好適に投入できる。雑菌の混入を防止でき、熟練した作業者でなくても容易に作業をすることができる。従って、きのこ栽培の作業効率を格段に向上できる。
【0024】
以上、本発明につき好適な形態例を挙げて種々説明してきたが、本発明はこの形態例に限定されるものではなく、発明の精神を逸脱しない範囲内で多くの改変を施し得るのは勿論のことである。
【符号の説明】
【0025】
10 元種培養用ボトル
11 瓶口
12 雄螺子部
19 第一段階の培養液
20 元種培養用ボトルのキャップ
22 雌螺子部
25 フィルタ
29 液体元種
30 培養タンク
39 第二段階の培養液
40 圧送用元種培養用ボトルのキャップ
42 雌螺子部
43 キャップ本体
45 圧力空気の供給用管
46 液体元種の排出用管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養液を用いてきのこ菌を増殖させることで、きのこの種菌を液体状に大量生産するように、固体培地で培養させた菌体を第一段階の培養液に投入・培養させて液体元種を生産する元種培養工程と、該元種培養工程で生産された前記液体元種を第二段階の培養液に投入・培養させて大量の液体種菌を生産する本培養工程とを有するきのこの液体種菌の生産方法であって、
前記元種培養工程では、雄螺子部が形成された瓶口を備える元種培養用ボトルに、前記第一段階の培養液及び前記菌体を入れ、前記瓶口を、雌螺子部が形成された元種培養用ボトルのキャップをねじ込むことで外嵌して塞ぐと共に、該元種培養用ボトルのキャップにはフィルタを配設してあることで前記元種培養用ボトル内部への通気性が確保され、
前記本培養工程では、前記元種培養用ボトルのキャップを外して、前記液体元種を、前記元種培養用ボトルから前記第二段階の培養液が入った培養タンクへ空気圧力を用いて圧送することで投入することを特徴とするきのこの液体種菌の生産方法。
【請求項2】
請求項1記載のきのこの液体種菌の生産方法に用いられる元種培養用ボトルのキャップであって、通気性を確保するための前記フィルタが、メンブレンフィルタであることを特徴とする元種培養用ボトルのキャップ。
【請求項3】
請求項1記載のきのこの液体種菌の生産方法において、前記液体元種を、前記元種培養用ボトルから前記第二段階の培養液が入った培養タンクへ空気圧力を用いて圧送する際に、前記元種培養用ボトルに装着されて用いられる圧送用元種培養用ボトルのキャップであって、雌螺子部が形成されて前記瓶口にねじ込み状態で外嵌して装着されるキャップ本体を有し、該キャップ本体の上端面部を貫通した状態に圧力空気の供給用管及び液体元種の排出用管が配設されていることを特徴とする圧送用の元種培養用ボトルのキャップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−268710(P2010−268710A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−122021(P2009−122021)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【出願人】(508205279)株式会社 LGサポート (2)
【Fターム(参考)】