説明

きのこ類の菌床栽培における培地基材の処理方法

【課題】 本発明は、培地仕込み前の工程においてチップ状又はオガ粉状の菌床培地基材に蒸気を噴射接触させ、該培地基材に水分を吸収させてきのこ菌糸の蔓延に必要な水分率を与えるきのこ類の菌床栽培における培地基材の処理方法を提供する。
【解決手段】本発明は、きのこ類の菌床栽培における培地仕込み工程の前段階において、チップ状及び/又はオガ粉状の培地基材を蒸気処理式ミキサーに投入し、蒸気ボイラーから該蒸気処理式ミキサーに蒸気を投入し、該培地基材に対して該蒸気ボイラーから蒸気を段階的に噴射接触させて結露を促し、内部に熱を伝達して基材木質を柔らかくすることで該結露した水を培地基材内部に浸透させて、該培地基材の含水率を35%以上とすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、きのこ類菌床の培地仕込み工程の前工程において、培地基材に蒸気接触を行わせて結露させ、含水率を大幅に向上させると共にきのこ菌に対する阻害成分を揮発させて、きのこの発生能力を高めることのできるきのこ類の菌床栽培における培地基材の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の一般的なきのこ類の菌床栽培における培地基材は、仕込み工程においてチップ状又はオガ粉状の該培地基材に栄養体を添加混合し、水分調整を行った後、ビンや袋などの栽培容器に充填し、しかる後に該栽培容器の外部から蒸気殺菌を行う方法が採用されている。
この方法は比較的短時間で培地基材を製造することが可能であるが、乾燥状態にある培地基材を使用するために、該培地基材中の導管などに空気の塊が多く存在して水分との濡れ性が悪く、この状態は充分な水分が吸収され難く、熱伝導率が低下した培地状態となり、その結果、培地全体の含水率が不均一になり、殺菌も不完全となっている。従って、このような培地状態では部分的にきのこの菌糸蔓延状況が異なり、菌糸が不均一状況になるなどの弊害が発現する。
更に、上記記載の栽培容器外部からの蒸気殺菌においては、培地に内在する揮発性成分等が放散されずに滞留してしまい、きのこ菌糸の培養環境に悪影響を及ぼす弊害がある。
これらの弊害を緩和するために、従来、仕込み前の工程において積載保管中の培地基材にシャワーを掛けるやり方やミキサーに培地基材と水を入れて掻き混ぜるやり方で散水や浸水などを行い、水分を吸収させる方法が採用されているが、この方法においても含水率が不均一になり易い。更に、タンニンなどの有色素成分が溶出し、あるいはBOD値も高くなって田畑、水湖、河川等の環境に影響を及ぼす可能性があることが指摘されている。また、培地に内在するきのこ菌糸に悪影響を及ぼす揮発性成分等の放散についても、有効な方法であるとは言えない。
他方、菌床の製造方法の一例として、特許文献1に「培地基材と栄養体を混合した培地を撹拌しながら加熱殺菌を行い、無菌的に栽培容器に培地を充填する。」製造方法が提案されているが、設備機器の導入コストが高額になるなどの問題がある。
一方、植物の植栽土壌を蒸気殺菌する方法とその装置については特許文献2に、「攪拌手段が設けられた容器に植栽土壌基材を投入し、該攪拌手段で植栽土壌を攪拌すると共に、蒸気を噴射して植栽土壌と攪拌と殺菌を同時に行う方法」が記載されている。しかしながら、当該技術は、蒸気殺菌を主たる目的とする設備製造に関わる提案であって、本発明の如く水分浸透が困難なチップ状又はオガ粉状の菌床培地基材への水分供給から生まれる菌床栽培方法に関わる提案を行うものではない。

【特許文献1】特開平8−242841号公報
【特許文献2】特許第3673813号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は上記実情に鑑みてなされたもので、きのこ類の菌床栽培における培地基材の処理方法において、培地仕込み前の工程においてチップ状又はオガ粉状の菌床培地基材に蒸気を噴射接触させて結露を促し、該培地基材に水分を浸透させてきのこ菌糸の蔓延に必要な水分率を与えると共にきのこ菌に対する阻害成分を揮発させる栽培方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために、請求項1記載のきのこの菌床栽培方法は、きのこ類の菌床栽培における培地仕込み工程の前段階において、培地基材を蒸気に接触させて表面を結露状態とし、内部に熱を伝達して基材木質を柔らかくすることによって水分を培地基材に浸透させることを特徴とする。
請求項2記載のきのこの菌床栽培方法は、きのこ類の菌床栽培における培地仕込み工程の前段階において、チップ状及び/又はオガ粉状の培地基材に蒸気を接触させて結露を促し、内部に熱を伝達して基材木質を柔らかくすることで水分を浸透させて該培地基材の含水率を35%以上とすることを特徴とする。
請求項3記載のきのこの菌床栽培方法は、きのこ類の菌床栽培における培地仕込み工程の前段階において、チップ状及び/又はオガ粉状の培地基材を蒸気処理式ミキサーに投入し、蒸気ボイラーから該蒸気処理式ミキサーに蒸気を投入し、該培地基材に対して該蒸気ボイラーから蒸気を段階的に噴射接触させて結露を促し、内部に熱を伝達して基材木質を柔らかくすることで該結露した水を培地基材内部に浸透させて、該培地基材の含水率を35%以上とすることを特徴とする。
請求項4記載のきのこの菌床栽培方法は、きのこ類の菌床培地基材であって、チップ状又は粉状の、木材、トウモロコシカス、サトウキビカス、綿実カス、パーク堆肥からなる群のうち少なくともいずれか一つを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
きのこ類菌床の培地基材を仕込みの前工程において、木質チップ等に対し蒸気を噴射接触させると、木質チップ等の表面では、蒸気の潜熱が吸収されて結露し、その潜熱吸収及び蒸気熱の伝導等でチップの基材木質が柔らかくなり、柔軟になった基材木質には水分が浸透し易くなるので、内部にまで水分が入り込む。その結果、基材木質内部の含水率が高くなり、接種したきのこ菌糸を活力を維持した状態で内部にまで蔓延させることができる。
体積が大きく水の浸透が困難であったチップに対しても、水の浸透が可能となり栽培が有利となる。
このとき、上記培地基材の仕込みの前工程において、木質チップ等に対し蒸気処理式ミキサー内にて蒸気を噴射接触させ、該培地基材の蒸気噴射前温度管理、蒸気噴射を行なえば、蒸気の噴射量を該培地基材に最適水分量に換算でき、きのこ菌糸を蔓延できる所定の水分率範囲に管理することができる。
蒸気を噴射するので、該培地基材に含有する該きのこ菌糸に対する揮発性有害成分の除去ができ、その後のきのこの良好な生育を促す。更に、蒸気噴射であるので、該培地基材に過剰な散水や浸水が成されることがないので、タンニンなどの有色素成分が溶出することはなく、排水がないので環境に悪影響を及ぼすこともない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下この発明の実施の形態を、図および表に基づいて説明する。
最初に、本発明の対象となるきのこ類と該きのこ類の栽培を可能とする培地基材との関係について説明する。
本発明の対象となるきのこ類はシイタケ、ナメコ、マイタケ、エノキタケ等の木材腐朽菌やハタケシメジ等の腐生菌であり、本発明の対象となる培地基材は該木材腐朽菌や腐生菌に相当するきのこ類の菌床培地基材であって、具体的には木質チップ、木質オガ粉、その他トウモロコシカス、サトウキビカス、綿実カス、パーク堆肥のチップ等である。
一方、現状のきのこ類に対する基材の使用状況を示すと表1の如くである。

【0007】
【表1】


いずれの基材も均一な水分吸収は困難であるが、特に木質チップの水分吸収が最も困難で、内部浸透までに時間が掛かるため、使用に苦労しているのが現状である。

【0008】
そこで本発明にあっては、先ず、前記栽培用培地基材を図1に示すような蒸気供給システムの設置されたミキサーに投入する。
即ち、常温付近例えば30℃付近で直径5〜15mmのチップ状又は直径1〜2mmのオガ粉状の培地基材6を蒸気処理式ミキサー1に投入する。

【0009】
次いで、蒸気ボイラー4を稼働させ、蒸気給蒸管3を介して蒸気処理式ミキサー1に、攪拌しながら蒸気を供給する。続けて、蒸気処理式ミキサー1内においては、撹拌羽根11と一体化したミキサー回転軸兼蒸気給蒸管2より、該蒸気処理式ミキサー1内に蒸気が供給されるが、この初期給蒸段階では該撹拌羽根11の回転はさせないで、蒸気を一定時間緩やかに供給する。次の段階で、撹拌羽根11を徐行回転させながら蒸気を一定以上の勢いで噴射させる。更に次の蒸気全開給蒸段階では、蒸気の噴射を継続させて撹拌羽根11を一定以上に速め、一定時間蒸気を投入後終結させる。
このとき、最初の段階から蒸気を噴射させたり、ミキサー回転速度を全回転させたり、あるいはミキサーの回転速度が速いと培地基材に水分が浸透せず乾燥する場合があるので、培地基材の種類や状態及びミキサーへの投入量などによって蒸気供給量およびミキサー回転速度と撹拌時間を調整する必要がある。
【0010】
斯くして、木質チップおよび木質オガ粉等に蒸気供給によって、基材表面に付着した蒸気が培地基材に触れると、該培地基材6の表面温度と該蒸気温度の差があるので、水と蒸気の相関から、蒸気から水への液化の際の体積変化が大きくなって、気体から液体へと相変化し、所謂結露する。この結露に際し、蒸気が吸熱されて潜熱を放出し、この放出された潜熱は基材に吸収されて基材の温度を上昇させ、さらに、液体となった水が蒸気からの熱を伝達し、チップの木質を柔らかくする。柔軟になった木質には水分が浸透し易くなるので、結露した水分の内部への侵入を可能とする。そして、その水分が培地基材6内に浸透すると、同様にして次々に水分が浸透する。
【0011】
ここで、該培地基材への蒸気供給量や蒸気供給時間等の管理を行ないながら、例えば、30℃−1m3のチップに対して100kgボイラー等で60〜70分間蒸気噴射すれば結露し、所定の水分量が該培地基材に吸水され、35%以上の含水率となる。このときミキサーで所定の回転数で攪拌するので、基材に均一な水分量を供給することができる。
含水率を35%以上とするなら、チップ、おが粉及び栄養体の混合時においても水を吸収し易い状態となる。
【0012】
又、上記蒸気の噴射にあっては、該培地基材に含有する該きのこ菌糸に対する揮発性有害成分の除去ができ、その後のきのこの良好な生育を促すことができる。
即ち、エノキタケ等は針葉樹のオガ粉を基材とするものであるが、該針葉樹にはきのこの生育を阻害する成分が多く含まれるので、その為、長期間野積み等を行い阻害成分の除去を図らねばならないものであった。
しかし、本発明にあっては、蒸気噴射によって揮発性有害成分を除去することができるので、野積み等を必要とすることがなくなり、短期間のうちにきのこの良好な生育を促すことができる。
【0013】
更に、蒸気噴射であるので、該培地基材に過剰な散水や浸水が成されることがないので、タンニンなどの有色素成分が溶出することはなく、排水がないので環境に悪影響を及ぼすこともない。
即ち、従来培地基材に水分を与えるのに、シャワーによる散水やミキサーでの浸水等が行われているが、長い時間を要することや、必要以上の水を与えるので
排水が不可欠となり、その際にタンニンなどの有色素成分が溶出する等の弊害があった。しかし、本発明では蒸気噴射による水の浸透なので排水が殆どなく、上記弊害が解消される。
【0014】
そして、図2に示す如く、上記蒸気処理式ミキサー1内にて蒸気処理を終了した上記培地基材6は、冷却後に下部の排出口12より排出され、ベルトコンベア13で搬送され、該一般の培地撹拌用ミキサー8に投入される。該一般の培地撹拌用ミキサー8にて基材を攪拌しつつ栄養体9を供給する。
【0015】
以上で、上記きのこ類の菌床栽培における培地仕込み工程の前段階における培地基材が形成され、その後、該培地基材7は菌床培地として仕込み、殺菌して菌糸を接種して培養し、きのこの育成を行う。この殺菌を行う際、内部の含水率が高く且つ均一となっているので熱伝導率が良く、殺菌効率を高めることができる。
そして、通常通り培養工程、発生工程等を経て生育きのこを得るが、その際、上記処理した本発明菌床培地は、均一且つ高い含水率を維持しているので栄養体を満遍なく行き渡らせることができ、更に揮発性の有害成分が除去されているため接種した菌糸を活力を維持した状態で基材内部にまで蔓延させることができ、きのこ類の発生個数、発生量をともに増大させることができる。
【実施例1】
【0016】
この発明の実施例を、上記実施の形態に基づいて製作した。その実施状況を以下に説明する。
上記の形態に基づいてきのこ類菌床培地基材を作成するに当たり、木質チップおよび木質オガ粉を同量ずつ秤量混合した。該混合培地基材においての蒸気の供給条件は、1m3の混合試料に対して100kgボイラーを使用し、蒸気供給量およびミキサー回転速度の印加方法を段階式に徐々に行う方法で実施した。
最初の30分間はミキサーを静止状態にして蒸気を供給し、それ以降はミキサー回転速度を7rpmで撹拌すると共に、同蒸気を噴射供給しながら2時間運転した。このとき該木質チップおよび木質オガ粉の混合培地基材の含水率が40%に達したので、蒸気噴射供給を終了させた。
その後、該混合培地基材を30℃以下に冷却し、冷却した該混合培地基材に栄養体9を重量比で10%混合して水分を加え、その含水率を62%とした。引き続いて、該混合培地2.5kgを採取し、きのこ類菌床培地として仕込みおよび殺菌を行い、培地冷却後に北研600号(北研株式会社製)を接種した。この処理方法を蒸気処理区とした。
【0017】
一方、比較例として、上記混合培地基材の蒸気処理をしないで散水を実施し、栄養体9を重量比で10%混合して水分を加え、その含水率を62%とした。引き続いて、該混合培地2.5kgを採取し、きのこ類菌床培地として仕込みおよび殺菌を行い、培地冷却後に北研600号(北研株式会社製)を接種した。この処理方法を散水処理区とした。
更に、もう一つの比較例として、上記混合培地基材の蒸気処理および散水のいずれも実施しないで、栄養体9を重量比で10%混合して水分を加え、その含水率を62%とした。引き続いて、該混合培地2.5kgを採取し、きのこ類菌床培地として仕込みおよび殺菌を行い、培地冷却後に北研600号(北研株式会社製)を接種した。この処理方法を無処理区とした。
【0018】
上記木質チップおよび木質オガ粉を同量ずつ秤量混合した混合培地基材の3種の栽培試験結果を表2に示す。

【0019】
【表2】

上表に示す通り、蒸気処理区と散水処理区は無処理区に比較して菌床寿命が20日間延長され、きのこ発生個数、きのこ発生量共に良好であった。更に蒸気処理区と散水処理区を比較すると、蒸気処理区の方がきのこ発生個数、きのこ発生量共に多く、該蒸気処理区は蒸気を噴射する方法であるので、培地基材に含有するきのこ菌糸に対する揮発性有害成分の除去ができ、更にタンニンによる茶色の排水がなかった。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は、きのこ発生状況の改善に寄与して広く利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の蒸気供給システム概略図である。
【図2】本発明の別の態様の蒸気供給システム概略図である。
【符号の説明】
【0022】
1 蒸気処理式ミキサー
2 ミキサー回転軸兼蒸気給蒸管
3 蒸気給蒸管
4 蒸気ボイラー
5 蒸気
6 培地基材
7 冷却した培地基材
8 一般の培地撹拌用ミキサー
9 栄養体
10 防水型デジタル温度計
11 撹拌羽根
12 排出口
13 ベルトコンベア




【特許請求の範囲】
【請求項1】
きのこ類の菌床栽培における培地仕込み工程の前段階において、培地基材を蒸気に接触させて表面を結露状態とし、内部に熱を伝達して基材木質を柔らかくすることによって水分を培地基材に浸透させることを特徴とするきのこ類の菌床栽培における培地基材の処理方法。
【請求項2】
きのこ類の菌床栽培における培地仕込み工程の前段階において、チップ状及び/又はオガ粉状の培地基材に蒸気を接触させて結露を促し、内部に熱を伝達して基材木質を柔らかくすることで水分を浸透させて該培地基材の含水率を35%以上とすることを特徴とするきのこ類の菌床栽培における培地基材の処理方法。
【請求項3】
きのこ類の菌床栽培における培地仕込み工程の前段階において、チップ状及び/又はオガ粉状の培地基材を蒸気処理式ミキサーに投入し、蒸気ボイラーから該蒸気処理式ミキサーに蒸気を投入し、該培地基材に対して該蒸気ボイラーから蒸気を段階的に噴射接触させて結露を促し、内部に熱を伝達して基材木質を柔らかくすることで該結露した水を培地基材内部に浸透させて、該培地基材の含水率を35%以上とすることを特徴とするきのこ類の菌床栽培における培地基材の処理方法。
【請求項4】
きのこ類の菌床培地基材であって、チップ状又は粉状の、木材、トウモロコシカス、サトウキビカス、綿実カス、パーク堆肥からなる群のうち少なくともいずれか一つを含むことを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか1項に記載のきのこ類の菌床栽培における培地基材の処理方法。




【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−183201(P2009−183201A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−26104(P2008−26104)
【出願日】平成20年2月6日(2008.2.6)
【出願人】(000242024)株式会社北研 (17)
【Fターム(参考)】