説明

アルカリ亜鉛一次電池、およびそれに用いるアルカリ亜鉛系化合物正極合剤

【課題】 本発明は、生産性の優れたインサイドアウト型構造を採りながら、高率放電特性に優れ、かつ貯蔵時の自己放電による放電容量の低下を抑制し、放電容量の維持率を向上させることを目的とする。
【解決手段】 本発明は、電池外装缶と、前記電池外装缶内に収容装着された水酸化ニッケル系化合物粒子および炭素系粒子を少なくとも含有し中空円筒状に成形された正極合剤と、前記正極合剤の中空円筒内にセパレータを介して収納配置された亜鉛を主成分とする合金粒子を含有する負極材料とを有するアルカリ亜鉛一次電池において、前記正極合剤がMg,Ca,Yb,Er,Mo,Wの群から選ばれる少なくとも1種からなる化合物を含有することを特徴とするアルカリ亜鉛一次電池である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルカリ亜鉛一次電池に係り、さらに詳しくは貯蔵による放電容量を改善したアルカリ亜鉛一次電池及びこの電池に用いるアルカリ亜鉛系化合物正極合剤に関する。

【背景技術】
【0002】
たとえば携帯型のラジオやカセットレコーダーなどの携帯型電子機器類の電源として、アルカリマンガン一次電池などが使用されている。また、この種のアルカリ一次電池、たとえばアルカリマンガン一次電池の構成においては、電池要素(起電部)をインサイドアウト型構造とすることにより、低コスト化を図ることも知られている。
【0003】
すなわち、正極を中空円筒状とし、その中空内に有底円筒状のセパレータを介挿・配置し、この有底円筒状セパレータ内に負極物質を充填するインサイドアウト型構造を採ることにより、シート状の正極、セパレータおよび負極の積層体を捲回するスパイラル型構造を採る場合に比べて、生産性の向上などが図られ、結果的に、低コストで高容量のアルカリ亜鉛一次電池を提供できる。
【0004】
前記のように、電池要素がインサイドアウト型構造の一次電池の場合は、生産性や低コスト化の点で有利であるが、スパイラル型構造の場合に較べて正極と負極との対向面積が小さいため、一般的に、高率放電特性が劣るという問題がある。
【0005】
そこで、この高率放電容量を改善するアルカリ亜鉛一次電池の正極活物質として水酸化ニッケル粒子に、亜鉛およびコバルト単独もしくは両方を共晶させた正極活物質を用いることによって高率放電容量を改善することが試みられている。このニッケル系化合物を用いたアルカリ亜鉛一次電池は、高容量で、高率放電特性に優れており、単位重量当たりのエネルギー密度が高いという特徴がある。
【0006】
また、二酸化マンガンに前記ニッケル系化合物を添加した正極活物質をアルカリ電池として用いることも知られている(特許文献1参照)。しかしながら、この水酸化ニッケル系化合物は、アルカリマンガン一次電池の正極活物質であるマンガン酸化物と比較して、還元性が強く、保存時に自己放電を生起し、放電容量が低下するという問題があった。前記特許文献1においては、これを解決するために、亜鉛酸化物等を正極活物質に添加することが記載されているが、二酸化マンガン−水酸化ニッケル系化合物を正極活物質として用いる電池においては、十分この問題を実用的な範囲にまで解決することは困難であった。
【特許文献1】特開2001−15106号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記のように、アルカリマンガン一次電池に比べて、高率放電特性が優れたニッケル系正極活物質を用いたアルカリ亜鉛一次電池ではあるが、貯蔵安定性において実用化にはまだ不十分である。本発明は、前記事情に対処してなされたもので、生産性の優れたインサイドアウト型構造を採りながら、高率放電特性に優れ、かつ貯蔵時の自己放電による放電容量の低下を抑制し、放電容量の維持率を向上させることを目的とする。

【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、電池外装缶と、前記電池外装缶内に収容装着された水酸化ニッケル系化合物粒子および炭素系粒子を含有し中空円筒状に成形された正極合剤と、前記正極合剤の中空円筒内にセパレータを介して収納配置された亜鉛を主成分とする合金粒子を含有する負極材料とを有するアルカリ亜鉛一次電池であって、前記正極合剤がMg,Ca,Y,Yb,Er,Mo,Wの群から選ばれる少なくとも1種の元素の化合物からなる正極合剤添加成分を含有することを特徴とするアルカリ亜鉛一次電池である。
【0009】
本発明においては、正極合剤にMg,Ca,Y,Yb,Er,Mo,Wから選ばれる少なくとも1種の元素の化合物を添加することにより、正極の自己放電によって消費される電解液の量、および負極から正極へ移動する電解液の量を低減化し、負極に含有される電解液の量を保持することによって、貯蔵による放電容量の低下を防止し、放電容量維持率の改善を達成するものである。
【0010】
また、前記本発明において、前記正極合剤に、MgF,CaF,Er,Y,Yb,KMoO,KWOから選ばれた少なくとも1種を添加成分とすると、正極の酸素過電圧が上がり、オキシ水酸化ニッケルの還元性を弱め、すなわち、電解液中の水の分解である酸素ガス発生反応を低下させることで、自己放電を抑制し、放電容量を維持する効果がある。また、前記本発明において、前記正極合剤添加成分の量は、正極合剤に対して0.1〜2.0質量%であることが望ましい。前記正極合剤添加成分の量が、この範囲を下回ると、所望の放電容量維持率維持の効果を発揮しない。また、前記化合物の量が、この範囲を上回ると、正極合剤の電気抵抗が上昇し、電池特性が低下する。
【0011】
さらに、前記本発明において、前記水酸化ニッケル系化合物としては、亜鉛およびコバルト単独もしくはこれらを共晶させたオキシ水酸化ニッケルであることが、低電解液比率でも結晶構造の変化を伴わず安定した放電を行うことができるため、好ましい。
さらに、前記本発明において、前記水酸化ニッケル系化合物粒子が、亜鉛およびコバルト単独もしくはこれらを共晶させたオキシ水酸化ニッケルであることが、正極全体の電気伝導性が向上し、放電容量、高率放電特性が改善されるため好ましい。また、前記本発明において、前記正極合剤に、MgF,CaF,Er,Y,Yb,KMoO,KWOから選ばれた少なくとも2種を添加成分とすると、さらに貯蔵による放電容量の低下を防止し、放電容量維持率の改善が達成される。この場合、Er,Y,Ybから選ばれた少なくとも2種を添加成分とすることが望ましい。正極活物質として、このような材料を選択することによって、アルカリマンガン亜鉛一次電池と比較して高率放電特性の優れたアルカリ亜鉛一次電池を実現することができる。

【発明の効果】
【0012】
以上に説明した本発明によれば、ニッケル系化合物を正極活物質として用いたアルカリ亜鉛一次電池において、正極合剤にYb,MgFなどの化合物を添加することによって、ニッケル系化合物の自己放電を抑止し、貯蔵後に放電容量が低下することを効果的に防止することができる。

【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(電池構造)
以下、本発明の電池の詳細な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明をいわゆるインサイドアウト構造(電池缶体が正極側、電池蓋側が負極側となっている構造)と呼ばれているJIS規格のLR6形(単3形)の電池に応用した例である。
【0014】
図1において1は、正極端子を兼ねる有底円筒状の金属からなる電池外装缶であり、この電池外装缶1の内部に中空円筒状の正極活物質を含有する正極合剤2が収容されている。この正極合剤2の中空内部には不織布などからなる有底円筒状のセパレータ3を介して、ゲル状亜鉛負極材料4が充填されている。そして、この負極材料4には金属棒からなる負極集電棒5が挿着され、この負極集電棒5の一端は負極材料4の表面から突出してリング状金属板7及び陰極端子を兼ねる金属封口板8に電気的に接続されている。そして、正極となる電池外装缶1内面と、負極集電棒5の突出部外周面には、二重環状のプラスチック樹脂からなる絶縁ガスケット6が配設され、これらは絶縁されている。また、電池外装缶1の開口部はかしめられて液密に封止されている。
【0015】
以下本発明の水酸化ニッケル系アルカリ亜鉛一次電池で用いられる正極合剤、負極材料、電解液、およびセパレータについて、それぞれ詳細に説明する。
【0016】
(1) 正極合剤
本発明の正極合剤は、水酸化ニッケル系化合物粒子からなる正極活物質、黒鉛など炭素系材料からなる導電材、前記水溶液であるアルカリ電解液、さらに必要に応じてバインダ、および潤滑剤などからなっている。本発明の正極合剤には、前述の通り、Mg,Ca,Y,Yb,Er,Mo,Wの群から選ばれる少なくとも1種の元素の化合物を含有する点に特徴がある。この化合物としては、MgF,CaF,Y,Yb,Er,KMoOおよびKWOの群から選ばれる少なくとも1種であることが望ましい。これらの化合物は、粒子状で正極合剤に配合される。その平均粒径は、0.1〜10μmの範囲のものが好ましい。これらの化合物は、電解液に溶解し、はじめて自己放電を抑制する機能を達成する。そのため、電解液への溶解速度が大きい小粒径のものが好ましいが、前記範囲を下回る平均粒径のものは取り扱いが困難で実用的ではない。
【0017】
(正極活物質)
本発明において用いられる前記正極活物質である水酸化ニッケル系化合物は、電池製造後、充電を施すことなく直ちに放電可能にするために、水酸化ニッケルを一部あるいは全部酸化してオキシ水酸化ニッケルとすることが望ましい。本発明において、オキシ水酸化ニッケル化合物を正極活物質として用いた電池の正極における放電反応は下記の化学式によって表される。
NiOOH + HO + e → Ni(OH) + OH
このオキシ水酸化ニッケルとしては、ニッケル原子の価数が3価のβ−オキシ水酸化ニッケルあるいはγ−オキシ水酸化ニッケルでもよいし、水酸化ニッケルのニッケル原子の価数である4価のニッケル原子と、完全にオキシ水酸化物となっているニッケル原子の3価の中間的な価数を持っている化合物であってもよい。
【0018】
さらに、正極活物質である水酸化ニッケル系化合物自体が、亜鉛もしくはコバルト単独あるいはその両方と共晶しているものであってもよい。この正極活物質は低電解液比率でも安定した放電が行えるという特徴を有している。この水酸化ニッケル系化合物に共晶させる亜鉛もしくはコバルトの量としては、4〜12%の範囲が好ましい。亜鉛の量がこの範囲を下回ると、利用率低下の問題が発生し、またこの範囲を上回ると、比重低下により容量密度が低下する問題があるからである。
【0019】
(炭素系粒子)
また、本発明においては、前記正極合剤中に炭素系粒子を配合し導電性を改善することが好ましい。本発明において用いられる炭素系粒子として、アセチレンブラック、カーボンブラック、人工黒鉛、天然黒鉛等が挙げられるが、特に平均粒径が5〜40μmの黒鉛が好ましい。その理由は、平均粒径が、この範囲を下回った場合には、本来黒鉛が持っている正極合剤成分を結着する能力が低下し、成形した正極合剤の強度が低下して電池製造の作業性に問題があるばかりでなく、正極合剤の導電性が低下するからである。一方、黒鉛の平均粒径が前記範囲を上回った場合、活物質の粒子と比較して径が大きくなるため、導電性が低下するからである。そして、本発明においては、前記正極合剤中のかかる黒鉛粒子の含有量を10質量%以下とすることが望ましい。正極合剤中の黒鉛粒子の含有量を大きくしすぎると、限られた金属缶の容積中に充填することのできる正極活物質量自体が減少することと、黒鉛粒子が酸化されて生じる炭酸イオンが自己放電を加速して、放電容量が減少するからである。そのためには、正極合剤中の炭素粒子の含有量は、10質量%以下が好ましく、より好ましくは7質量%以下である。
【0020】
(他の添加成分)
バインダは、正極合剤構成成分を結着し、正極合剤成形体の保形性を高めるために配合されるもので、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、PVdFの水素もしくはフッ素のうち、少なくとも1つを他の置換基で置換した変性PVdF、フッ化ビニリデン−6フッ化プロピレンの共重合体、ポリフッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−6フッ化プロピレンの3元共重合体等を用いることができる。これらのバインダ成分は、正極合剤に対して0.05〜0.5質量%の範囲で用いるのが適切である。また、正極合剤には、正極合剤成形時の作業性を改善するための潤滑剤を添加することもできる。この潤滑剤としては、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、エチレンビスステアラマイドなどのステアリン酸系化合物が好ましい。この添加量は、正極合剤に対して0.05〜0.5質量%の範囲が適切である。
【0021】
(正極成形体の成形)
正極合剤は、混合され、プレスにより、その外径が金属からなる電池外装缶の内径にほぼ等しい中空円筒状に成形して正極成形体として製造される。そして、成形された正極合剤は、正極活物質粒子、および導電材粒子が相互に結着し、粒子間の粒界には電解液が充填されている。本発明の水酸化ニッケル系化合物粒子は、以下の工程によって正極に成形される。
【0022】
1) 正極合剤成分の混合正極合剤は、正極活物質に、前述の正極合剤添加物である導電材、バインダ、潤滑剤および電解液などを混合して得られる。電解液は、正極合剤中のイオン導電性を高めるためと、成形性を高めるために用いられる。この電解液は、電池の正極と負極の間のイオン導電を維持するために用いられる電解液と同じものを用いることが好ましい。好ましい電解液は40%KOH水溶液である。これらの正極合剤成分の配合比率は、質量比で正極活物質:導電剤:バインダ:潤滑剤:電解液として、90〜92:4〜6:0.05〜0.5:0.05〜0.30:4〜6の配合比が好ましい。これらの成分は、ロータリーミキサー、ヘンシェルミキサーなどの攪拌装置で混合される。
【0023】
2) 圧縮造粒分級工程前記工程において配合された正極合剤は、次いで、ローラコンパクタによって圧縮加圧され、造粒のために充填密度を高められる。
ローラコンパクション処理された正極合剤は、圧縮塊状となっている。これを用いて成形体を作製するためには一旦粒状に造粒する必要がある。そのためにロール表面に互いに嵌合する突起を有する双ロールを用いたグラニュレータによるグラニュレーション処理を行う。
【0024】
前記工程で得られる正極合剤粒子はそのサイズによって分級される。本発明においては、200〜800μmの範囲の粒子とすることによって、充填密度の高い正極合剤成形体とすることができる。200μm未満の造粒粉は、金型成形する際、造粒粉の計量に時間が掛かり不適である。また、800μmを越える造粒粉は、金型成形する際、成形体の重量がばらつくため不適である。
【0025】
3) 成形前記工程で造粒された正極合剤粒子は、次いで、金型を用いて正極成形体に成形される。インサイドアウト型の正極合剤は、中空円筒状をしており、中央のマンドレルを有し、所要の体積を有する円筒状の金型中に前記正極合剤粒子を充填して、雄型を圧入することにより成形が行われる。このときの成形圧力は、0.5×10〜9.8×10Paの圧力が好ましい。成形圧力が前記範囲を下回った場合、必要な正極合剤の充填密度が得られず、また、粒子同士の接触も確保しにくくなるので、電池とした場合、所定の放電容量が得られない。一方、成形圧力が前記範囲を上回った場合、正極合剤中に電解液が浸透しにくくなり、その利用率を下げてしまう。
【0026】
(2) 負極材料
本発明で用いられる負極材料は、負極活物質である亜鉛合金を主成分とする負極材料であり、公知のアルカリマンガン一次電池で使用されている亜鉛ゲルを用いることができる。この負極材料は、ゲル状であることが取り扱いの点で望ましい。負極をゲル状とするためには、電解液と増粘剤から作製されるゲル状電解液に負極活物質の亜鉛合金を分散させることにより容易にゲル状物にすることができる。
【0027】
本発明において用いる亜鉛合金は、無汞化亜鉛合金として知られている水銀及び鉛を含まない亜鉛合金を用いることができる。具体的には、インジウム0.01〜0.06質量%、ビスマス0.005〜0.02質量%、アルミニウム0.0035〜0.015質量%を含む亜鉛合金が、水素ガス発生の抑制効果があり望ましい。特にインジウム、ビスマスは放電性能を向上させるため望ましい。負極作用物質として純亜鉛ではなく亜鉛合金を用いる理由は、アルカリ性電解液中での自己溶解速度を遅くし、密閉系の電池製品とした場合の電池内部での水素ガス発生を抑制して、漏液などによる事故を防止するためである。
【0028】
また、亜鉛合金の形状は、表面積を大きくして大電流放電に対応できるように粉末状とすることが望ましい。本発明において好ましい亜鉛合金の平均粒径は、100〜350μmの範囲が好ましい。亜鉛合金の平均粒径が前記範囲を上回った場合、表面積が比較的小さくなり大電流放電に対応することは困難になる。また、平均粒径が前記範囲を下回った場合、電池組み立て時の取り扱いが難しく、電解液及びゲル化剤と均一に混合することが困難になるばかりでなく、表面が活性であることから酸化されやすく不安定である。
【0029】
また、本発明において用いられる増粘剤としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸塩、CMC、アルギン酸などを用いることができる。特に、ポリアクリル酸ナトリウムが、強アルカリ水溶液に対する吸水倍率に優れているため好ましい。
【0030】
(3) 電解液
本発明で用いられる電解液は、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ塩を溶質として用いた水溶液が好ましく、特に、水酸化カリウムを用いることが、好ましい。また、本発明においては、前記水酸化カリウムなどのアルカリ塩を水に溶解して電解液とするが、さらに電解液中に亜鉛化合物を添加することが望ましい。かかる亜鉛化合物としては、酸化亜鉛、水酸化亜鉛などの化合物が挙げられるが、特に酸化亜鉛が好ましい。
【0031】
電解液として少なくとも亜鉛化合物を含有するアルカリ性水溶液を用いるのは、アルカリ性水溶液中での亜鉛合金の自己溶解が酸性系の電解液と比較して格段に少なく、更には亜鉛合金のアルカリ性電解液中での自己溶解を亜鉛化合物、例えば酸化亜鉛を溶解して亜鉛イオンを予め存在させておくことにより更に抑制するためである。
【0032】
(4) セパレータ
本発明で用いられるセパレータは、セルロース繊維と、ポリビニルアルコール系繊維などの繊維の不織布、織布、抄紙などからなっている。これらの繊維においては、セルロース繊維が、アルカリ電解液との親和性がよいため、保液性を高めるために用いられており、一方、ポリビニルアルコール系繊維は、耐アルカリ性に優れており、これらを併用することによってこれらの特性のバランスがよいセパレータを得ることができる。本発明において、これらのセルロース繊維とポリビニルアルコール系繊維は、それぞれの繊維を混合して抄紙してもよいし、それぞれを個別に抄紙した後、張り合わせてもよい。このセパレータ紙を用いてセパレータとするには、セパレータ紙を捲回し、底部を接着して有底円筒状に形成する。この際、捲回セパレータ紙の側部を接着しても差し支えない。この接着は、セパレータ紙を成形した後熱接着してもよいし、また、接着剤を使用してもよい。接着剤を使用する場合には、耐薬品性のある接着剤である必要がある。

【実施例】
【0033】
[実施例1]
(正極の作製)
上述正極活物質の水酸化ニッケル粒子90質量部に、比表面積が3.4m/gの黒鉛粉末5.4質量部、及びバインダーとしてのポリエチレン樹脂0.1質量部を加え、平均粒径3μmのMgF粒子を、正極合剤に対して0.5質量%の割合で添加し、10分間撹拌混合する。その後、40質量%の水酸化カリウム水溶液4.6質量部を加え、汎用混合容器で30分間混合して混合物を得る。次いで、この混合物を外径13mm、内径9mm、高さ(長さ)13mmの中空円筒状に加圧成形して、正極合剤ペレットを作製する。
【0034】
(負極の作製)
インジウム0.01質量部、ビスマス0.01質量部及びアルミニウム0.003質量部を含む平均粒径100〜300μmの亜鉛合金粉末65質量部に、ポリアクリル酸(ゲル化剤)を加え、汎用混合容器で撹拌・混合して均一な混合系を得た。これに、アルカリ電解液(40%KOH、4%ZnO)とゲル化剤を加えて混合してゲル状負極材料を調製した。
【0035】
(電池の組立)
次に、前記作製した正極合剤ペレット、およびゲル状負極を使用して、常套的な手法によって、図1に概略構成を断面的に示す単3形のアルカリ亜鉛一次電池を組み立てる。図1において、1は正極端子を兼ねる有底筒状の金属缶(外装缶)であり、金属缶1の筒状中空内には、正極合剤ペレットを3個積み重ねた状態で、再度加圧成形した正極合剤2が充填・装着されている。また、正極合剤2の中空部には、アセタール化ポリビニルアルコール繊維の不織布からなる有底筒状のセパレータ3が装着され、そのセパレータ3の内側にゲル状負極4が充填されている。
【0036】
そして、前記ゲル状負極4内には、真鍮性の負極集電棒5の一端側が挿入・配置されており、この負極集電棒5のゲル状負極4から突出する他端側の外周面、および金属缶1の開口内周面の間に、ポリアミド樹脂製の二重環状の絶縁性ガスケット6が配設される。さらに、この絶縁性ガスケット6の二重環状の間には、リング状の金属板7が嵌着配置され、負極端子を兼ねる帽子形の金属封口板8が負極集電棒5の先端部に当接する配置構成となっている。なお、金属缶1の開口端縁部を内側に屈曲させることにより、絶縁性ガスケット6および金属封口板8で、金属缶1の開口端縁を密封した構成を採っている。
【0037】
(評価)
得られた電池について、常温で貯蔵し所定期間経過後の放電容量を測定した。その結果を、表1に示す。この表から明らかのように、Yのみの添加では、常温で貯蔵し所定期間経過後の放電容量の改善は大きくないが、後述するようにYの他にEr,Ybを添加すれば大幅な改善が見られる。
【0038】
[実施例2〜7]
正極合剤に添加する化合物として、CaF,Yb,Er,KMoO,およびKWOを用いたこと以外は、実施例1と同様にして電池を製作し、実施例1と同様にして常温保存後の容量維持率を測定した。その結果を、表12に併せて示す。
【0039】
[比較例1]
実施例1において、MgF粒子を正極合剤に添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして電池を製作し、その容量維持率を実施例1と同様に測定した。その結果を、表1に併せて示す。
【0040】
【表1】

【0041】
以上の結果から明らかなように、本発明の正極合剤に添加する化合物を添加しなかった比較例1の電池は、貯蔵720日で、容量は77.7%にまで低下したのに対して、本発明の化合物を添加した実施例では、いずれの電池も80%を超える容量を維持していた。
【0042】
[実施例8〜14]
正極合剤に添加する成分として、表2に示す化合物を用い、その配合量も表2に示すように調整したこと以外には前記実施例1と同様にして、電池を製作し、放電容量を測定した。その結果を表2に示す。
この結果から明らかなように、化合物添加量が、0.1〜2質量%の範囲で、放電容量の改善が見られた。
【0043】
【表2】

【0044】
[実施例15〜38]
正極合剤に添加する成分として、表3に示す化合物(Er,Y,Ybから選ばれた2種)を用い、その配合量も表3に示すように調整したこと以外には前記実施例1と同様にして、電池を製作し、放電容量を測定した。
その結果を表4に示す。なお、比較のために、比較例2〜4(Y/Yb/Erを1種含んでいるもの)および参考例1〜3(Y/Yb/Erを2種含んでいるもので、Yの混合比が25〜99質量%の範囲にないか、あるいは、Ybの混合比が、25〜99質量%の範囲にないもの)も併せて示している。
【0045】
【表3】

【0046】
【表4】

【0047】
この結果から明らかなように、Er,Y,Ybから選ばれた2種の化合物添加量が、0.1〜2質量%の範囲で、放電容量の改善が見られた。
【0048】
[比較例5]
正極活物質として、二酸化マンガンにオキシ水酸化ニッケルを、正極活物質に対して40質量%の量で添加した活物質を用いて、実施例1と同様にして電池を製作した。
この電池について、実施例1と同様にして電池特性を評価した。その結果を表5に示す。表5において、放電容量、容量維持率の値は、実施例1の結果を100%とした場合の比で表した。
前記表1および表5に見られるように、オキシ水酸化ニッケルを添加した二酸化マンガン正極活物質を用いた電池においては、オキシ水酸化ニッケルと比較して、電池容量の特性において改善の余地があった。
【0049】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明を適用するのに適したインサイドアウト型電池の一例を示す断面図。
【符号の説明】
【0051】
1…金属容器
2…正極合剤
3…セパレータ
4…ゲル状負極
5…負極集電棒
6…絶縁ガスケット
7…金属板
8…金属封口板



【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池外装缶と、前記電池外装缶内に収容装着された水酸化ニッケル系化合物粒子および炭素系粒子を少なくとも含有し中空円筒状に成形された正極合剤と、前記正極合剤の中空円筒内にセパレータを介して収納配置された亜鉛を主成分とする合金粒子を含有する負極材料とを有するアルカリ亜鉛一次電池において、
前記正極合剤がMg,Ca,Y,Yb,Er,Mo,Wの群から選ばれる少なくとも1種の元素の化合物からなる正極合剤添加成分を含有することを特徴とするアルカリ亜鉛一次電池。
【請求項2】
前記正極合剤添加成分が、MgF,CaF,Y,Yb,Er,KMoO,およびKWOの群から選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする請求項1記載のアルカリ亜鉛一次電池。
【請求項3】
前記正極合剤添加成分の量が、正極合剤に対して0.1〜2質量%であることを特徴とする請求項1または請求項2記載のアルカリ亜鉛一次電池。
【請求項4】
前記正極合剤添加成分が、Y,Yb,Erの群から選ばれる少なくとも2種の化合物であって、その2種の混合物の量は正極合剤に対して0.1〜2質量%であることを特徴とする請求項1記載のアルカリ亜鉛一次電池。
【請求項5】
前記Yからなる正極合剤添加成分の混合比が25〜99質量%であるか、前記Ybからなる正極合剤添加成分の混合比が25〜99質量%であることを特徴とする請求項4記載のアルカリ亜鉛一次電池。
【請求項6】
前記混合物に含まれるY,Yb,Erからなる化合物の平均粒径が、いずれも0.1〜10μmであることを特徴とする請求項4記載のアルカリ亜鉛一次電池。
【請求項7】
前記水酸化ニッケル系化合物が、亜鉛およびコバルト単独もしくはこれらを共晶させたオキシ水酸化ニッケルであることを特徴とする請求項1記載のアルカリ亜鉛一次電池。
【請求項8】
水酸化ニッケル系化合物粒子及び炭素系粒子を含有する正極合剤であって、その正極合剤にMg,Ca,Y,Yb,Er,Mo,Wの群から選ばれる少なくとも1種の元素の化合物を含有していることを特徴とするアルカリ亜鉛系化合物正極合剤。
【請求項9】
水酸化ニッケル系化合物粒子及び炭素系粒子を含有する正極合剤であって、その正極合剤にMg,Ca,Y,Yb,Er,Mo,Wの群から選ばれる少なくとも2種の元素の化合物を含有し、正極合剤添加成分の量が、正極合剤に対して0.1〜2質量%であることを特徴とするアルカリ亜鉛系化合物正極合剤。


【図1】
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【公開番号】特開2007−123051(P2007−123051A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−313516(P2005−313516)
【出願日】平成17年10月27日(2005.10.27)
【出願人】(000003539)東芝電池株式会社 (109)
【Fターム(参考)】