説明

アルカリ蓄電池用セパレータ及びこのセパレータを用いたアルカリ蓄電池

【課題】目付が55g/m2以下のセパレータを用いてもアルカリ電解液の注液性と巻回時の引張強度の課題を克服することができ、更なる高出力化が達成できるアルカリ蓄電池用セパレータを提供する。
【解決手段】本発明は、アルカリ蓄電池の渦巻状電極群の負極20と正極30との間に配置されるアルカリ蓄電池用セパレータ10であって、目付が55g/m2以下で、最大孔径と最小孔径との孔径差が15μm以下で、短軸に対する長軸の引張強度比が1.5以上で5.0以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド自動車(HEV)などの車両用途に好適なアルカリ蓄電池用セパレータ及びこのセパレータを用いたアルカリ蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二次電池の用途が拡大する中で、ハイブリッド自動車(HEV)、電気自動車(PEV)などの車両用の用途に用いられるアルカリ蓄電池においては、高出力が求められており、正極や負極やセパレータの薄型化により、正極と負極との間の対向面積が増大するようになされるようになった。これに加えて、セパレータの薄型化に伴い、耐ショート性の改善を目的として、繊維配合の見直しやセパレータの製造方法の改良などにより、緻密性の向上が図られるようになった。
【0003】
例えば、特許文献1(特開平5−314961号公報)においては、平均繊維直径が1.5〜8μmのナイロン系極細繊維からなる第1繊維層と、このナイロン系極細繊維よりも平均繊維直径が大きな繊維からなる第2繊維層とが積層一体化されたセパレータが提案されている。この場合、第1繊維層は、該繊維層を構成する繊維が親水性のナイロン系極細繊維よりなるため、電解液は繊維表面のみならず内部にまで浸透し、繊維相互の間隙には微細な孔が形成されている。この結果、第1繊維層には十分な保液性と通気性とが保たれた状態となっている。一方、第2繊維層は第1繊維層のナイロン系極細繊維よりも平均繊維直径が大きな繊維から構成されているので、電池の製造時にセパレータに対して加わる引張力に対抗できる一定の機械的強度が付与できるようになる。
【0004】
一方、特許文献2(特開2000−215873号公報)においては、極細短繊維と極細長繊維とが均一に互いに絡み合って形成されたポリオレフィン系樹脂繊維からなるセパレータが提案されている。この場合、長繊維を用いたセパレータの長所と短繊維を用いたセパレータの長所とを同時に実現できるセパレータが得られるようになるので、内部短絡を生じなく、かつ保液性が良好でガス透過性に優れたアルカリ蓄電池が得られるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−314961号公報
【特許文献2】特開2000−215873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、この種のセパレータを薄型化したり、緻密性の向上を図るに伴い、以下のような問題が生じるようになった。この場合、まず、正極と負極の間にセパレータを配置し、渦巻状に巻回して渦巻状電極群とする。この後、この渦巻状電極群を外装缶内に挿入した後、この外装缶内にアルカリ電解液を注液すると、アルカリ電解液がセパレータに均等に浸透しないという問題を生じた。ここで、セパレータにアルカリ電解液が均等に浸透しないと、注液直後においては、セパレータの電解液保持性が不均一になるという問題を生じるようになる。なお、このようなセパレータの電解液保持性が不均一になるという問題は、セパレータの目付が55g/m2以下の領域において顕著に発現するということが明らかになった。
【0007】
また、セパレータの電解液保持性が不均一になるという問題に対して、従来より、セパレータの長軸方向(巻回方向)に対する短軸方向(注液方向)の繊維配向性を高めることにより、アルカリ電解液の浸透性の改善が行われてきた。
しかしながら、上述のようなアルカリ電解液の浸透性と、セパレータの引張強度との間には相関関係が認められ、アルカリ電解液の注液方向の繊維配向性を高め過ぎると、巻回方向の引張強度が低下するため、巻回時にセパレータが破断するという問題が生じた。このため、目付が55g/m2以下のセパレータを用いることは困難であるという状況にある。
【0008】
そこで、本発明はこのような状況に基づいてなされたものであり、目付が55g/m2以下のセパレータを用いても、アルカリ電解液の注液性と巻回時の引張強度の課題を克服することができ、更なる高出力化が達成できるアルカリ蓄電池用セパレータを提供するとともに、このセパレータを用いて高出力化が達成できるアルカリ蓄電池を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、アルカリ蓄電池の渦巻状電極群の負極と正極との間に配置されるアルカリ蓄電池用セパレータであって、上記目的を達成するため、目付が55g/m2以下で、最大孔径と最小孔径との孔径差が15μm以下で、当該セパレータの短軸に対する長軸の引張強度比が1.5以上で5.0以下であることを特徴とする。
【0010】
ここで、セパレータの孔径差を小さくすると、アルカリ電解液を保持可能な空間の均質性が向上し、アルカリ電解液の浸透を均一にすることが可能となる。このため、本発明においては、目付が55g/m2以下で、最大孔径と最小孔径との孔径差が15μm以下となるように規制している。一方、セパレータの短軸に対する長軸の引張強度比を最適に制御すると、巻回に対して充分な強度を確保することが可能となる。このため、本発明においては、セパレータの短軸に対する長軸の引張強度比が1.5以上で5.0以下になるように規制している。これにより、注液性と巻回に対する強度に対する課題を克服することができ、目付が55g/m2以下のセパレータを使用することが可能となって、更なる電池の高出力化を達成することが可能となる。
【0011】
この場合、融着繊維シートからなる第1繊維シート層と、第1繊維シート層の上に形成されていて、極細繊維と融着繊維とからなる第2繊維シート層とからなり、第1繊維シート層と第2繊維シート層とが融着されたセパレータとするのが望ましい。これにより、負極と正極との間に配置されたセパレータの均質性と強度の両方が向上することとなる。
【0012】
また、本発明は、負極と、正極と、セパレータとからなる電極群がアルカリ電解液とともに外装缶内に収納されて密閉されたアルカリ蓄電池であって、セパレータは上述した目付が55g/m2以下で、最大孔径と最小孔径との孔径差が15μm以下で、短軸に対する長軸の引張強度比が1.5以上で5.0以下であるとともに、アルカリ電解液は、ナトリウム含有量が0.3mol/L以上で、5.3mol/L以下のもの、あるいはリチウム含有量が0.2mol/L以上で、0.8mol/L以下のものを用いている。この場合、セパレータの短軸方向の長さ(幅)は50mm以下、好ましくは40mm以下に規制するのが望ましい。
【0013】
これにより、負極と正極との間にセパレータを配置し、渦巻状に巻回して渦巻状電極群とした後、この渦巻状電極群を外装缶内に挿入し、アルカリ電解液を注液すると、アルカリ電解液がセパレータに均等に浸透するようになる。この結果、目付が55g/m2以下のセパレータを用いても、注液時にセパレータの電解液の浸透性が均一になって注液性が向上するとともに、巻回に対する強度も向上し、高出力のアルカリ蓄電池を得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明においては、目付が55g/m2以下のセパレータを使用しても、アルカリ電解液の浸透を均一にすることが可能になるとともに、巻回に対して充分な強度を確保することも可能となる。この結果、更なる電池の高出力化を達成することが可能となり、ハイブリッド自動車(HEV)などの車両用の用途に好適なアルカリ蓄電池を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のセパレータを備えた渦巻状電極群を模式的に示す図である。
【図2】本発明のアルカリ蓄電池を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
ついで、本発明の実施の形態を以下に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものでなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0017】
1.セパレータ
セパレータの機能として、保液性能を有していることは、電池特性の観点からすると必須である。この場合、セパレータに保液性能を保持させる方法としては、ポリオレフィン樹脂などの親水性がない繊維に親水化処理を行う方法の外、ナイロン樹脂などの元々親水性を有した繊維を使用する方法がある。ここで、HEVやPEVなどの高耐久性が要求される用途の電池に用いられるセパレータにおいては、ナイロン樹脂製繊維などの材質では分解や劣化が生じて耐久性に問題があるため、一般的には、ポリオレフィン樹脂製繊維に親水化処理する方法が用いられている。
【0018】
そこで、本発明においては、セパレータ10としては、単一構造を持つ極細繊維と複合構造を持つ芯鞘型融着繊維からなる不織布に、親水化処理を施して形成された不織布シートを用いている。ここで、各繊維はポリオレフィン樹脂からなり、例えばポリエチレン、ポリプロピレンなどの合成樹脂を用いることができる。不織布製法としては、例えば、乾式法、湿式法、スパンボンド法、メルトブロー法などによって作製されるが、緻密性の観点からすると湿式法が望ましい。芯鞘型融着繊維はポリオレフィン樹脂の鞘材で被覆されており、芯鞘型融着繊維自体が融着して不織布を構成できる。また、極細繊維の配合量を増やすことで平均繊維径が低減し、緻密な構造を持つ不織布が作製される。極細繊維と芯鞘型繊維の配合比、抄造工程でのラインスピード、繊維スラリー供給量を調整することで、孔径差、及び繊維配向性の異なるセパレータ10を作製した。
【0019】
ここで、作製したセパレータ10に対して、長軸方向(渦巻の巻回方向)、及び短軸方向(注液方向)にそれぞれ、幅5cm×長さ20cmとなるよう試験片を採取した後、JISL1096(一般織物試験方法)に準じて、つかみ間隔が10cmで、引張速度が300mm/minとなるように測定し、試験片が切断したときの力(N/5cm)を引張強度として求めるとともに、短軸方向の引張強度に対する長軸方向の引張強度の比を引張強度として求めた。また、作製したセパレータ10において、最大孔径(μm)と最小孔径(μm)とを測定し、これらの孔径差(μm)も求めた。
【0020】
(1)1層構造セパレータa1
上述した極細繊維と芯鞘型融着繊維とを用いて、極細繊維と芯鞘型繊維の配合比や、抄造工程でのラインスピードや、繊維スラリー供給量を調整して、目付が60g/m2で、孔径差(最大孔径と最小孔径の差:以下においても同様である)が20μmで、長軸方向(渦巻の巻回方向:以下においても同様である)の引張強度が176N/5cmで、短軸方向の引張強度に対する長軸方向の引張強度の比(引張強度比:以下においても同様である)が1.3となるセパレータを作製し、これをセパレータa1とした。
【0021】
(2)1層構造セパレータb1、b2
また、上述した極細繊維と芯鞘型融着繊維とを用いて、極細繊維と芯鞘型繊維の配合比や、抄造工程でのラインスピードや、繊維スラリー供給量を調整して、目付が55g/m2となるセパレータb1、b2を作製した。この場合、孔径差が20μmで、長軸方向の引張強度が158N/5cmで、引張強度比が1.3となるものをセパレータb1とし、孔径差が15μmで、長軸方向の引張強度が150N/5cmで、引張強度比が1.5となるものをセパレータb2とした。
【0022】
(3)1層構造セパレータc1〜c7
また、上述した極細繊維と芯鞘型融着繊維とを用いて、極細繊維と芯鞘型繊維の配合比や、抄造工程でのラインスピードや、繊維スラリー供給量を調整して、目付が44g/m2となるセパレータc1〜c7を作製した。この場合、孔径差が20μmで、長軸方向の引張強度が141N/5cmで、引張強度比が1.3となるものをセパレータc1とし、孔径差が15μmで、長軸方向の引張強度が132N/5cmで、引張強度比が1.3となるものをセパレータc2とし、孔径差が10μmで、長軸方向の引張強度が114N/5cmで、引張強度比が1.3となるものをセパレータc3とし、孔径差が10μmで、長軸方向の引張強度が169N/5cmで、引張強度比が6.0となるものをセパレータc4とし、孔径差が10μmで、長軸方向の引張強度が123N/5cmで、引張強度比が1.5となるものをセパレータc5とし、孔径差が10μmで、長軸方向の引張強度が151N/5cmで、引張強度比が3.0となるものをセパレータc6とし、孔径差が10μmで、長軸方向の引張強度が165N/5cmで、引張強度比が5.0となるものをセパレータc7とした。
【0023】
(4)2層構造セパレータd1〜d3
さらに、上述した芯鞘型融着繊維を用いて第1層の不織布シートを作製した後、この第1層の不織布シートの上に、上述した極細繊維と芯鞘型融着繊維とを用いて、極細繊維と芯鞘型繊維の配合比や、抄造工程でのラインスピードや、繊維スラリー供給量を調整して、目付が44g/m2となるセパレータd1〜d3を作製した。この場合、孔径差が8μmで、長軸方向の引張強度が185N/5cmで、引張強度比が3.0となるものをセパレータd1とし、孔径差が8μmで、長軸方向の引張強度が176N/5cmで、引張強度比が5.0となるものをセパレータd2とし、孔径差が3μmで、長軸方向の引張強度が167N/5cmで、引張強度比が5.0となるものをセパレータd3とした。
【0024】
(5)2層構造セパレータe1
また、上述した芯鞘型融着繊維を用いて第1層の不織布シートを作製した後、この第1層の不織布シートの上に、上述した極細繊維と芯鞘型融着繊維とを用いて、極細繊維と芯鞘型繊維の配合比や、抄造工程でのラインスピードや、繊維スラリー供給量を調整して、目付が40g/m2で、孔径差が3μmで、長軸方向の引張強度が150N/5cmで、引張強度比が5.0となるものを作製し、セパレータe1とした。
なお、得られたセパレータa1、b1、b2、c1〜c7、d1〜d3およびe1に対する測定結果を表にまとめると、下記の表1に示すような結果となる。
【0025】
【表1】

【0026】
2.水素吸蔵合金負極
まず、水素吸蔵合金粉末を100質量部に対して、0.1質量%のCMC(カルボキシメチルセルロース)と水(あるいは純水)とからなる水溶性結着剤に、スチレンブタジエンラテックス(SBR)と、炭素系導電剤とを添加した。この後、これらを混合し、混練して水素吸蔵合金スラリーを作製した。ついで、Niメッキ軟鋼材製の多孔性基板(パンチングメタル)からなる負極芯体21を用意し、この負極芯体21に、充填密度が5.0g/cm3となるように水素吸蔵合金スラリーを塗着し、乾燥させた後、所定の厚みになるように圧延して活物質層22を形成した。この後、所定の寸法になるように切断して、水素吸蔵合金負極20を作製した。
【0027】
3.ニッケル正極
一方、多孔度が約85%の多孔性ニッケル焼結基板を比重が1.75の硝酸ニッケルと硝酸コバルトの混合水溶液に浸漬して、多孔性ニッケル焼結基板31の細孔内にニッケル塩およびコバルト塩を保持させた。この後、この多孔性ニッケル焼結基板を25質量%の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液中に浸漬して、ニッケル塩およびコバルト塩をそれぞれ水酸化ニッケルおよび水酸化コバルトに転換させた。
【0028】
ついで、充分に水洗してアルカリ溶液を除去した後、乾燥を行って、多孔性ニッケル焼結基板31の細孔内に水酸化ニッケルを主成分とする活物質を充填した。このような活物質充填操作を所定回数(例えば6回)繰り返して、多孔性焼結基板31の細孔内に水酸化ニッケルを主体とする活物質32を充填密度が2.5g/cm3になるように充填した。この後、室温で乾燥させた後、所定の寸法に切断してニッケル正極30を作製した。
【0029】
4.ニッケル−水素蓄電池
この後、上述のように作製された水素吸蔵合金負極20とニッケル正極30とを用い、これらの間に、セパレータ10(a1、b1、b2、c1〜c7、d1〜d3およびe1のいずれか)を介在させて渦巻状に巻回して渦巻状電極群を作製した。この場合、セパレータ10(a1、b1、b2、c1〜c7、d1〜d3およびe1のいずれか)の短軸方向(注液方向)の寸法(幅)が50mmとなるように切断されたものを用いた。なお、このようにして作製された渦巻状電極群の下部には水素吸蔵合金負極20の芯体露出部23が露出しており、その上部にはニッケル正極30の芯体露出部33が露出している。ついで、得られた渦巻状電極群の下端面に露出する芯体露出部23に負極集電体24を溶接するとともに、渦巻状電極群の上端面に露出するニッケル正極30の芯体露出部33の上に正極集電体34を溶接して、電極体とした。
【0030】
ついで、得られた電極体を鉄にニッケルメッキを施した有底筒状の外装缶(底面の外面は負極外部端子となる)60内に収納した後、負極集電体24を外装缶60の内底面に溶接した。一方、正極集電体34より延出する集電リード部35を正極端子を兼ねるとともに外周部に絶縁ガスケット61が装着された封口体62の底部を構成する封口板62aに溶接した。なお、封口体62には正極キャップ62bが設けられていて、この正極キャップ62b内に所定の圧力になると変形する弁体62cとスプリング62dよりなる圧力弁が配置されている。
【0031】
ついで、外装缶60の上部外周部に環状溝部63を形成した後、電解液を注液し、外装缶60の上部に形成された環状溝部63の上に封口体62の外周部に装着された絶縁ガスケット61を載置した。この後、外装缶60の開口端縁64をかしめることにより、ニッケル−水素蓄電池A1、B1、B2、C1、C2、C3、C4、C5、C6、C7、D1、D2、D3、E1を作製した。この場合、外装缶60内に水酸化カリウム(KOH)と水酸化ナトリウム(NaOH)と水酸化リチウム(LiOH)からなるアルカリ電解液(アルカリ濃度が8mol/Lで、NaOHの濃度が0.3mol/Lで、LiOHの濃度が0.2mol/Lに調製されたもの)を注液した。
【0032】
なお、セパレータa1を用いたものを電池A1とした。同様に、セパレータb1を用いたものを電池B1とし、セパレータb2を用いたものを電池B2とした。また、セパレータc1を用いたものを電池C1とし、セパレータc2を用いたものを電池C2とし、セパレータc3を用いたものを電池C3とし、セパレータc4を用いたものを電池C4とし、セパレータc5を用いたものを電池C5とし、セパレータc6を用いたものを電池C6とし、セパレータc7を用いたものを電池C7とした。さらに、セパレータd1を用いたものを電池D1とし、セパレータd2を用いたものを電池D2とし、セパレータd3を用いたものを電池D3とした。また、セパレータe1を用いたものを電池E1とした。
【0033】
5.電解液の浸透性の測定
ここで、アルカリ電解液を電池に注液してから12時間後に、各電池A1、B1、B2、C1、C2、C3、C4、C5、C6、C7、D1、D2、D3、E1を解体して、各セパレータ10(a1、b1、b2、c1〜c7、d1〜d3およびe1)の短軸方向のアルカリ電解液の未浸透部の幅を測定し、以下の(1)式より電解液の浸透率を算出すると、下記の表2に示すような結果となった。
電解液の浸透率=1―(電解液の未浸透幅/短軸幅)・・・(1)
【0034】
6.出力試験
一方、上述のように作製した各電池A1、B1、B2、C1、C2、C3、C4、C5、C6、C7、D1、D2、D3、E1を、25℃雰囲気で1Itの充電電流でSOC120%相当まで充電し、1時間休止後に1Itの放電電流で電池電圧が0.9Vになるまで放電させるサイクルを5回繰返して活性化を行った。そして、活性化後の各電池A1、B1、B2、C1、C2、C3、C4、C5、C6、C7、D1、D2、D3、E1を25℃雰囲気下において、1Itの充電電流でSOC50%相当まで充電した。そして、1時間休止後、50Aの放電電流で10秒間放電した時の10秒目の電池出力を求めた。
【0035】
そして、求めた電池出力で放電性を評価した。この場合、各電池A1、B1、B2、C1、C2、C3、C4、C5、C6、C7、D1、D2、D3、E1をそれぞれ100セルずつ用いて電池出力を求め、出力の平均値と標準偏差を算出した後、出力の平均値においては、電池A1を100とし、他の電池B1、B2、C1、C2、C3、C4、C5、C6、C7、D1、D2、D3、E1においては電池A1との比で表すと、下記の表2に示すような結果となった。
【0036】
【表2】

【0037】
上記表2の結果から明らかなように、目付が60g/m2のセパレータa1を備えた電池A1と、セパレータa1よりも目付を55g/m2に低減させたセパレータb1および目付を44g/m2に低減させたセパレータc1を備えた電池B1および電池C1とを比較すると、目付を低減させたセパレータb1およびc1を備えた電池B1およびC1の方が、出力性能が大きく向上する反面、液浸透率が低下して出力バラツキが大きくなることが分かる。
【0038】
また、孔径差が20μmのセパレータc1を備えた電池C1と、孔径差が15μmのセパレータc2を備えた電池C2とを比較すると、電池C2の方が液浸透率が改善して出力バラツキが低減するが、孔径差を20μmから15μmに低減させてもその効果は十分でないことが分かる。さらに、孔径差を10μmに低減したセパレータc3を備えた電池C3においては、捲回時にセパレータが断裂してしまうという問題を生じた。これは、長軸方向の強度が低下したためである。
【0039】
これに対して、孔径差を15μmに低減し、かつ引張強度比を1.5としたセパレータb2を備えた電池B2においては、孔径差が20μmで引張強度比が1.3のセパレータb1を備えた電池B1に比較して、出力性能をそのままで、液浸透率が良化して、出力バラツキが大幅に低減することが分かった。また、捲回時にセパレータが断裂した電池C3に用いたセパレータc3よりも、引張強度比を1.5〜5.0に増大させたセパレータc5〜c7を備えた電池C5〜電池C7においては、長軸方向の引張強度を向上しつつ、孔径差が小さいために液浸透率が高く、高出力性能と出力バラツキ低減を両立できることが明らかになった。ただし、引張強度比を6.0に増大させたセパレータc4を備えた電池C4においては、液浸透率が低下してしまうことが明らかになった。
【0040】
これらのことから、目付が55g/m2以下の低目付のセパレータを用いる場合、セパレータ強度を維持し、かつ優れた電解液浸透性を有して出力バラツキの少ない電池を達成するには、セパレータの孔径差を15μm以下とし、短軸に対する長軸の引張強度比が1.5以上で、5.0以下とすることが必要と言える。なお、電池D1〜D3および電池E1に示すように、2層タイプのセパレータを用いた場合、セパレータの均質性と引張強度が向上するので、目付が44g/m2以下のさらに低目付の領域であっても、高い出力性能と出力バラツキを低減したアルカリ蓄電池を提供することが可能となる。
【0041】
7.アルカリ電解液の水酸化ナトリウム(NaOH)濃度および水酸化リチウム(LiOH)濃度の検討
ついで、アルカリ電解液の水酸化ナトリウム(NaOH)濃度および水酸化リチウム(LiOH)濃度について検討した。そこで、セパレータa1(目付が60g/m2で、孔径差が20μmで、引張強度比が1.3のもの)、c1(目付が44g/m2で、孔径差が20μmで、引張強度比が1.3のもの)、d1(目付が44g/m2で、孔径差が8μmで、引張強度比が3.0のもの)を備えた電極体を用い、これらの電極体を上述した外装缶60内に収納した後、上述同様にしてニッケル−水素蓄電池A2、A3、C8、C9、D5、D6、D7、D8を作製した。なお、これらのセパレータa1、c1、d1を短軸方向(注液方向)の寸法(幅)が50mmになるように切断されたものを用いた。
【0042】
この場合、セパレータa1を備えた電極体を用い、アルカリ濃度が8mol/Lで、NaOH濃度が0.4mol/Lで、LiOH濃度が0.2mol/Lに調製されたアルカリ電解液を注液したものを電池A2とし、アルカリ濃度が8mol/Lで、NaOH濃度が0.3mol/Lで、LiOH濃度が0.3mol/Lに調製されたアルカリ電解液を注液したものを電池A3とした。また、セパレータc1を備えた電極体を用い、アルカリ濃度が8mol/Lで、NaOH濃度が5.3mol/Lで、LiOH濃度が0.2mol/Lに調製されたアルカリ電解液を注液したものを電池C8とし、アルカリ濃度が8mol/Lで、NaOH濃度が0.3mol/Lで、LiOH濃度が0.8mol/Lに調製されたアルカリ電解液を注液したものを電池C9とした。
【0043】
さらに、セパレータd1を備えた電極体を用い、アルカリ濃度が8mol/Lで、NaOH濃度が0.4mol/Lで、LiOH濃度が0.2mol/Lに調製されたアルカリ電解液を注液したものを電池D5とし、アルカリ濃度が8mol/Lで、NaOH濃度が0.3mol/Lで、LiOH濃度が0.3mol/Lに調製されたアルカリ電解液を注液したものを電池D6とし、アルカリ濃度が8mol/Lで、NaOH濃度が5.3mol/Lで、LiOH濃度が0.2mol/Lに調製されたアルカリ電解液を注液したものを電池D7とし、アルカリ濃度が8mol/Lで、NaOH濃度が0.3mol/Lで、LiOH濃度が0.8mol/Lに調製されたアルカリ電解液を注液したものを電池D8とした。
【0044】
ついで、これらの電池A2、A3、C8、C9、D5、D6、D7、D8を用いて、上述と同様に電解液の浸透率を算出するとともに電池出力を求めた。そして、求めた電池出力で放電性を評価した。この場合、各電池A2、A3、C8、C9、D5、D6、D7、D8をそれぞれ100セルずつ用いて電池出力を求め、出力の平均値と標準偏差を算出した後、出力の平均値においては、上述した電池A1を100とし、他の電池A2、A3、C8、C9、D5、D6、D7、D8においては電池A1との比で表すと、下記の表3に示すような結果となった。なお、下記の表3においては、上述した電池A1、C1、D1の結果も併せて示している。
【0045】
【表3】

【0046】
上記表3の結果から明らかなように、電池A1と電池A2、A3とを比較すると、NaOH濃度またはLiOH濃度を増加させるに伴い、出力バラツキ増大することが分かる。また、電池C1と電池C8、C9とを比較しても、NaOH濃度またはLiOH濃度を増加させるに伴い、出力バラツキ増大することが分かる。これは、NaOH濃度またはLiOH濃度を増加させると、アルカリ電解液の粘度が増大したためと考えられる。
【0047】
一方、電池D1と電池D5〜D8とを比較すると、NaOH濃度またはLiOH濃度を増加させてアルカリ電解液の粘度を増大させても、十分なアルカリ電解液の浸透率を示していて、出力バラツキの抑制効果を発揮していることが分かる。このことから、アルカリ電解液に含有されるNaOH濃度(ナトリウム含有量)が0.3mol/L以上で、5.3mol/L以下、またはアルカリ電解液に含有されるLiOH濃度(リチウム含有量)が0.2mol/L以上で、0.8mol/L以下では本発明の効果が顕在化することが分かる。
【0048】
8.セパレータの短軸方向の幅(長さ)の検討
ついで、セパレータの短軸方向の幅(長さ)について検討を行った。そこで、セパレータa1、d1を用い、これらのセパレータa1、d1を短軸方向(注液方向)の寸法(幅)が40mmおよび35mmとなるように切断されたものを用いた。そして、これらのセパレータを用いて上述と同様にして電極体をそれぞれ作製し、これらの電極体を上述した外装缶60内に収納した後、上述と同様にしてアルカリ電解液(アルカリ濃度が6mol/Lで、NaOHの濃度が0.3mol/Lで、LiOHの濃度が0.2mol/Lに調製されたもの)を注液して、ニッケル−水素蓄電池A4、A5、D9、D10を作製した。
【0049】
ここで、短軸方向(注液方向)の寸法(幅)が40mmになるように切断されたセパレータa1を用いたものを電池A4とした。また、短軸方向(注液方向)の寸法(幅)が35mmになるように切断されたセパレータa1を用いたものを電池A5とした。また、短軸方向(注液方向)の寸法(幅)が40mmになるように切断されたセパレータd1を用いたものを電池D9とした。さらに、短軸方向(注液方向)の寸法(幅)が35mmになるように切断されたセパレータd1を用いたものを電池D10とした。
【0050】
ついで、これらの電池A4、A5、D9、D10を用いて、上述と同様に電解液の浸透率を算出するとともに電池出力を求めた。そして、求めた電池出力で放電性を評価した。この場合、各電池A4、A5、D9、D10をそれぞれ100セルずつ用いて電池出力を求め、出力の平均値と標準偏差を算出した後、出力の平均値においては、上述した電池A1を100とし、他の電池A4、A5、D9、D10においては電池A1との比で表すと、下記の表4に示すような結果となった。なお、下記の表4においては、上述した電池A1、D1の結果も併せて示している。この場合、電池A4、A5、D9、D10においては、セパレータの短軸方向(注液方向)の寸法(幅)に合わせて、正極および負極の短軸方向(注液方向)の寸法(幅)も小さくしているので、電池A1、D1よりも出力が小さくなっている。
【0051】
【表4】

【0052】
上記表4の結果から明らかなように、電池A1と電池A4、A5とを比較すると、セパレータの短軸方向の幅を短くしても、アルカリ電解液の浸透率や出力バラツキがそれほど改善されないことが分かる。一方、電池D1と電池D9、D10とを比較すると、セパレータの短軸方向の幅を短くするほど、十分な電解液の浸透率を示していて、出力バラツキの抑制効果を発揮していることが分かる。
このことから、目付が55g/m2以下の低目付で、最大孔径と最小孔径の孔径差が15μm以下で、短軸に対する長軸の引張強度比が1.5以上で、5.0以下としたセパレータを用いた場合は、セパレータの短軸方向の幅を50mm以下、好ましくは40mm以下にするのが望ましいということができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
なお、上述した実施形態においては、本発明をニッケル−水素蓄電池の製造方法に適用する例について説明したが、本発明の製造方法は、ニッケル−水素蓄電池のみに限られず、他のアルカリ蓄電の製造方法にも適用できことは勿論である。
【符号の説明】
【0054】
10…セパレータ、20…水素吸蔵合金負極、21…負極芯体、22…活物質層、23…芯体露出部、24…負極集電体、30…ニッケル正極、31…ニッケル焼結基板、33…芯体露出部、34…正極集電体、34a…正極用リード、60…外装缶、61…絶縁ガスケット、62…封口体、62a…封口板、62b…正極キャップ、62c…弁板、62d…スプリング、63…環状溝部、64…開口端縁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ蓄電池の渦巻状電極群の正極と負極との間に配置されるアルカリ蓄電池用セパレータであって、
目付が55g/m2以下で、最大孔径と最小孔径との孔径差が15μm以下で、当該セパレータの短軸に対する長軸の引張強度比が1.5以上で5.0以下であることを特徴とするアルカリ蓄電池用セパレータ。
【請求項2】
融着繊維シートからなる第1繊維シート層と、
前記第1繊維シート層の上に形成されていて、極細繊維と融着繊維とからなる第2繊維シート層とからなり、
前記第1繊維シート層と前記第2繊維シート層とが融着されていることを特徴とする請求項1に記載のアルカリ蓄電池用セパレータ。
【請求項3】
正極と、負極と、セパレータとからなる電極群がアルカリ電解液とともに外装缶内に収納されて密閉されたアルカリ蓄電池であって、
前記セパレータは請求項1または請求項2に記載のアルカリ蓄電池用セパレータであるとともに、
前記アルカリ電解液は、ナトリウム含有量が0.3mol/L以上で、5.3mol/L以下であることを特徴とするアルカリ蓄電池。
【請求項4】
正極と、負極と、セパレータとからなる電極群がアルカリ電解液とともに外装缶内に収納されて密閉されたアルカリ蓄電池であって、
前記セパレータは請求項1または請求項2に記載のアルカリ蓄電池用セパレータであるとともに、
前記アルカリ電解液は、リチウム含有量が0.2mol/L以上で、0.8mol/L以下であることを特徴とするアルカリ蓄電池。
【請求項5】
前記セパレータの短軸方向の長さ(幅)は50mm以下であることを特徴とする請求項3または請求項4に記載のアルカリ蓄電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−12431(P2013−12431A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145469(P2011−145469)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】