説明

アルカリ電池

【課題】ゲル状負極の充填量のばらつきが小さく、かつ重負荷放電特性に優れるアルカリ電池を提供する。
【解決手段】正極作用物質を含有する正極と、亜鉛を含有する負極作用物質、電解液、ポリアクリル酸塩及びBET比表面積が25〜45m2/gのポリアクリル酸を含むゲル状負極6とを具備することを特徴とするアルカリ電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛アルカリ電池のようなアルカリ電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえば携帯形のラジオやカセットレコーダーなどの携帯形電子機器類の電源として、密閉形のマンガンアルカリ亜鉛一次電池などが使用されている。また、この種の密閉形アルカリ一次電池、たとえばアルカリ亜鉛一次電池の構成においては、電池要素(起電部)をインサイドアウト形構造とすることにより、低コスト化を図ることも知られている。
【0003】
すなわち、中空筒状に成型された正極合剤を正極とし、その中空内に有底筒状のセパレータを配置し、この有底筒状セパレータ内に負極を配置するインサイドアウト形構造を採用することにより、シート状の正極、セパレータおよび負極の積層体を捲回するスパイラル形構造を採る場合に比して、生産性の向上などが図られ、結果的に、低コストで高容量のアルカリ亜鉛一次電池を提供できる。
【0004】
上記のようなインサイドアウト形構造を有する一次電池は、生産性や低コスト化の点で有利であるが、スパイラル形構造の場合に比較して正極と負極との対向面積が小さいため、一般的に、高率放電特性(重負荷放電特性)が劣るという問題がある。
【0005】
そこで、インサイドアウト形構造を有するアルカリ亜鉛一次電池の正極作用物質として、オキシ水酸化ニッケル粒子にコバルト化合物などを添加あるいは表面被覆を施した正極作用物質を用いることにより、高率放電容量を改善することが試みられている。このニッケル系化合物を用いたアルカリ亜鉛一次電池は、正極の重負荷放電利用率は高いものの、負極作用物質である亜鉛の利用率が高くないため、十分な重負荷放電特性を得られなかった。
【0006】
ところで、特許文献1には、ゲル状負極の充填作業性と耐衝撃性を改善するために、ゲル状負極のゲル化剤として25℃における0.5質量%水溶液分散粘度が10〜20Pa・sで、かつその粒径が100〜500μmを主としたものである架橋アクリル酸系重合体と、25℃における0.5質量%水溶液分散粘度が3〜12Pa・sで、かつその粒径が100μm以下を主とした非架橋アクリル酸系重合体とを併用することが記載されている。
【特許文献1】特開2003−288896号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ゲル状負極の充填量のばらつきが小さく、かつ重負荷放電特性に優れるアルカリ電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るアルカリ電池は、正極作用物質を含有する正極と、
亜鉛を含有する負極作用物質、電解液、ポリアクリル酸塩及びBET比表面積が25〜45m2/gのポリアクリル酸を含むゲル状負極と
を具備することを特徴とする。
【0009】
本発明に係るアルカリ電池は、オキシ水酸化ニッケルを含む正極作用物質を含有する正極と、
亜鉛を含有する負極作用物質、電解液、ポリアクリル酸塩及びBET比表面積が25〜45m2/gのポリアクリル酸を含むゲル状負極と
を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ゲル状負極の充填量のばらつきが小さく、かつ重負荷放電特性に優れるアルカリ電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明者らは、オキシ水酸化ニッケルを含む正極作用物質を含有する正極を備えたアルカリ電池において、負極のゲル化剤としてポリアクリル酸塩及びBET比表面積が25〜45m2/gのポリアクリル酸を使用すると、負極の電解液保持性が高められて負極の亜鉛利用率が向上され、重負荷放電時の正極の利用率と負極の利用率とのバランスが良好になり、重負荷放電特性が向上されることを見出したのである。また、このゲル化剤を使用したゲル状負極は、粘度上昇が少なく、外装缶に充填した際の充填量のばらつきを抑制することができる。
【0012】
さらに、HELOS&RODOS法によるポリアクリル酸の平均粒径が2〜10μmの範囲のものが望ましく、またポリアクリル酸の添加量は負極作用物質に対して0.02〜0.36質量%とすることで重負荷放電特性を向上できる。また、負極作用物質については粒度分布75〜150μmの範囲のものが少なくとも65%以上であることで重負荷放電特性をさらに向上することが可能である。
【0013】
さらに本発明者らは、正極作用物質として二酸化マンガンを用いた際にも、重負荷放電特性が向上され、かつ外装缶に充填した際のゲル状負極の充填量のばらつきが抑制されることを見出したのである。
【0014】
ゲル状負極と正極について説明する。
【0015】
1)ゲル状負極
ゲル状負極は、亜鉛を含有する負極作用物質、電解液、ポリアクリル酸塩及びBET比表面積が25〜45m2/gのポリアクリル酸を含む。
【0016】
亜鉛の放電反応式を以下に示す。
【0017】
Zn+2OH-→ZnO+H2O+2e
亜鉛を含有する負極作用物質として、亜鉛を使用することも可能であるが、亜鉛合金が好ましい。負極作用物質として純亜鉛ではなく亜鉛合金を用いることにより、アルカリ性電解液中での自己溶解速度を遅くし、密閉系の電池製品とした場合の電池内部での水素ガス発生を抑制して、漏液などによる事故を防止することができる。
【0018】
亜鉛合金としては、無汞化亜鉛合金として知られている水銀及び鉛を含まない亜鉛合金を用いることができる。具体的には、インジウム、ビスマス及びアルミニウムよりなる群から選択される少なくとも1種類の元素を含む亜鉛合金が、水素ガス発生の抑制効果があり望ましい。特にインジウム、ビスマスは放電性能を向上させるため望ましい。
【0019】
また、負極作用物質としての亜鉛合金の形状は、表面積を大きくして大電流放電に対応できるように粉末状とすることが望ましい。負極作用物質の平均粒径は、75〜150μmの範囲が好ましい。平均粒径が上記範囲を上回った場合、表面積が比較的小さくなり大電流放電に対応することが困難になる可能性がある。また、平均粒径が上記範囲を下回った場合、電池組み立て時の取り扱いが難しく、電解液及びゲル化剤と均一に混合することが困難になるばかりでなく、表面が活性であることから酸化されやすく安定性に欠ける。
【0020】
負極作用物質は粒径が75〜150μmの範囲に65%以上(100%を含む)を占める粒度分布を有することが望ましい。これにより、負極作用物質と電解液との接触ムラを小さくすることができるため、重負荷放電特性をさらに向上することができる。より好ましい範囲は90%以上である。
【0021】
ポリアクリル酸は、電解液との親和性に優れている。ポリアクリル酸は、架橋構造を有することが望ましい。
【0022】
ポリアクリル酸のBET法による比表面積を前記範囲に規定する理由を説明する。比表面積を25m2/g未満にすると、ゲル状負極の電解液保持性が低下するため、重負荷放電の末期に電解液が不足し、高い重負荷放電特性を得られない。一方、比表面積が45m2/gを超えると、ゲル状負極の粘度が上昇するため、ゲル状負極の充填量のばらつきが大きくなる。比表面積のより好ましい範囲は、30〜40m2/gである。
【0023】
ポリアクリル酸は平均粒径が2〜10μmの粒子であることが望ましい。平均粒径は、HELOS&RODOS法により測定される。平均粒径を2〜10μmにすることによって、重負荷放電特性をさらに向上することができる。
【0024】
ポリアクリル酸の含有量は負極作用物質に対して0.02〜0.36質量%の範囲にすることが望ましい。ポリアクリル酸の含有量を0.02質量%以上にすることによって、重負荷放電の末期における放電性能をさらに向上することができる。また、ポリアクリル酸の含有量を0.36質量%以下にすることによって、負極ゲルの充填量のばらつきをより小さくすることができる。より好ましい範囲は0.05〜0.25質量%である。
【0025】
ポリアクリル酸塩は、電解液を吸収することにより膨潤して電解液を保持する作用をなす。ポリアクリル酸塩は、架橋構造を有することが望ましい。
【0026】
ポリアクリル酸塩としては、例えば、ポリアクリル酸ナトリウムを挙げることができる。
【0027】
ポリアクリル酸塩の含有量は負極作用物質に対して0.5〜5質量%の範囲にすることが望ましい。ポリアクリル酸塩の含有量を0.5質量%以上にすることによって、ゲル状負極の形状保持性を向上することができるため、電池に落下等の衝撃が加わった際の漏液を回避することができる。また、ポリアクリル酸塩の含有量を5質量%以下にすることによって、重負荷放電の末期における電解液の拡散性が良好になり、放電性能をさらに向上することができる。より好ましい範囲は1〜3質量%である。
【0028】
電解液は、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ塩を溶質として用いた水溶液が好ましく、特に、水酸化カリウムを用いることが、好ましい。また、電解液中に亜鉛化合物を添加することが望ましい。かかる亜鉛化合物としては、酸化亜鉛、水酸化亜鉛などの化合物が挙げられるが、特に酸化亜鉛が好ましい。
【0029】
電解液として少なくとも亜鉛化合物を含有するアルカリ性水溶液を用いると、アルカリ性水溶液中での亜鉛合金の自己溶解が酸性系の電解液と比較して格段に少なくなり、更には亜鉛合金のアルカリ性電解液中での自己溶解を亜鉛化合物、例えば酸化亜鉛を溶解して亜鉛イオンを予め存在させておくことにより更に抑制される。
【0030】
2)正極
正極は、オキシ水酸化ニッケルを含む正極作用物質を含有する。
【0031】
オキシ水酸化ニッケルは、NiOOHで表される化合物であり、その平均粒径としては8〜12μmのものが最も優れた電池特性を有するため好ましい。オキシ水酸化ニッケルの放電反応は以下の反応式で表される。
【0032】
NiOOH+H2O+e→Ni(OH)2+OH
オキシ水酸化ニッケルには、亜鉛及びコバルトのうち少なくとも一方を共晶させたオキシ水酸化ニッケルや、無共晶のオキシ水酸化ニッケルを使用することができる。中でも、共晶オキシ水酸化ニッケルは、その結晶構造変化を少なくできるので好ましい。特に、亜鉛を共晶することによって、オキシ水酸化ニッケルの結晶性を改善することができるため、酸化還元時の結晶膨潤すなわち体積変化を抑制することができ、低電解液量の電池設計に大きく貢献する。さらに、負極の自己放電を抑制するために電解液に酸化亜鉛を溶解させる場合、最初から亜鉛をドープしたオキシ水酸化ニッケルを用いることによって、貯蔵中に電解液の酸化亜鉛がオキシ水酸化ニッケルに吸収されるのを抑えることができる。また、コバルトを共晶することによって、オキシ水酸化ニッケルの放電利用率を改善することができる。また、亜鉛、コバルトを併せて共晶することによって酸素過電圧を大きくすることができるので正極における自己放電特性を改善することができる。
【0033】
また、オキシ水酸化ニッケル粒子表面に、コバルト化合物、より好ましくは高導電性の高次コバルト化合物を被着させた複合オキシ水酸化物とすることが、オキシ水酸化ニッケル粒子同士の電子導電性を確保する理由で好ましい。前記表面に被着するコバルト化合物としては、出発原料として例えば、水酸化コバルト(Co(OH)2)、一酸化コバルト(CoO)、三酸化二コバルト(Co23)、などをあげることができ、これを酸化処理してオキシ水酸化コバルト(CoOOH)、四酸化三コバルト(Co34)などの高導電性高次コバルト酸化物に転化させる。また、コバルト化合物に代えて、金属コバルト粒子、あるいは金属ニッケル粒子を用いても差し支えない。
【0034】
正極作用物質は、オキシ水酸化ニッケルのみから構成されていても良いが、二酸化マンガンを併用しても良い。二酸化マンガンの添加割合は正極作用物質に対して40〜60質量%とすることが望ましい。また、オキシ水酸化ニッケルを含む正極作用物質の代りに、二酸化マンガンを正極作用物質として使用することができる。
【0035】
二酸化マンガンは電解二酸化マンガンが望ましく、平均粒径としては20〜40μmの一般的にアルカリマンガン電池に用いられているものを用いることができる。
【0036】
また、正極には、酸化エルビウムを含有させても良い。これにより、自己放電を抑制することができる。
【0037】
アルカリ電池の形態は特に限定されるものではないが、本発明によると、インサイドアウト形構造を有するアルカリ電池の重負荷放電特性を飛躍的に改善することができるため、インサイドアウト形構造を有するアルカリ電池が特に好ましい。また、インサイドアウト型構造を採用することにより、アルカリ電池の生産性も向上することができる。
【0038】
インサイドアウト形構造を有するアルカリ電池としては、例えば、外装缶と、外装缶内に収納された円筒形状の正極合剤と、前記正極合剤の内周面で囲まれた空間内(円筒の中空部内)に配置され、亜鉛を含有するゲル状負極と、前記正極合剤と前記負極との間に配置されたセパレータとを具備するものを挙げることができる。
【0039】
このアルカリ電池の一例を図1に示す。
【0040】
正極缶(外装缶)1は、有底円筒状で、底面が外側に凸状に張り出しており、この凸部は正極端子2として機能する。また、正極缶1の開口端付近には、内方に突出した段差3(ビード部)が設けられている。正極缶1は、例えば、表面にニッケルメッキもしくはニッケル合金メッキが施された鋼板から形成されている。
【0041】
円筒形状の正極合剤4は、正極缶1内に収納され、その外周面が正極缶1の内周面と電気的に接している。有底円筒状のセパレータ5は、正極合剤4の内周面で囲まれた空間内に配置され、正極合剤4の内周面と接している。セパレータ5には、ビニロンやポリビニルアルコール繊維等の親水性繊維から形成された不織布等を使用することができる。亜鉛を含む負極作用物質と電解液とを含有するゲル状負極6は、セパレータ5内に充填されている。
【0042】
正極缶1の開口部には二重環状構造のポリアミド樹脂からなるパッキング7が配置されている。例えば黄銅製の負極集電棒8は、パッキング7の内側環状部に挿入され、先端部がゲル状負極6と接している。金属製ワッシャー9は、パッキング7を正極缶1の内周面に押し付けるようにしてパッキング7の内側環状部と外側環状部の間に配置されている。金属製で帽子形をなす負極端子板10は、負極集電棒8の頭部と電気的に接するように金属製ワッシャー9上に配置され、正極缶1の開口部上端を内方に屈曲させることにより正極缶1にかしめ固定されている。
【0043】
以下、正極合剤、ゲル状負極及び電解液について説明する。
【0044】
1)正極合剤
正極合剤は、前述の正極作用物質と、正極作用物質の電気伝導性を向上させるための炭素粒子などの導電材と、これらの成分を成形した成形体の保形性を改善するためのバインダーと、電解液とを含む。
【0045】
正極合剤は、例えば、以下に説明する方法により作製される。
【0046】
(第1工程) 正極合剤成分の混合
正極作用物質、及び、正極合剤添加物である導電材とバインダーと潤滑剤と電解液などを混合する。この正極合剤の成分である導電材は、正極合剤中の内部電気抵抗を低減するために用いるものであり、一般にグラファイトが用いられる。また、バインダーは、正極合剤を成形する際の保形性を高め、成形作業中および電池内で保形性を維持するために用いられる。バインダーとしては、例えば、ポリオレフィン系樹脂が挙げられる。また、潤滑剤は、正極合剤を成形する際に使用する金型と、正極合剤成形体との滑りを向上させ、製造歩留まりを改善するために用いられる。この潤滑剤としては、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、エチレンビスステアラマイドなどが用いられる。また、電解液は、正極合剤中のイオン導電性を高めるためと、成形性を高めるために用いられる。この電解液は、電池の正極と負極の間のイオン導電を維持するために用いられる電解液と同じものを用いることが好ましい。好ましい電解液は40%KOH水溶液である。
【0047】
これらの正極合剤成分の配合比率は、質量比でオキシ水酸化ニッケル:二酸化マンガン:導電剤:バインダ:潤滑剤:電解液:酸化エルビウムとして、120〜40:0〜80:4〜8:0.05〜0.5:0.05〜0.30:4〜7:0.36〜1.2の配合比が好ましい。ただし、正極活物質であるオキシ水酸化ニッケルと二酸化マンガンの合計が120となるように配合する。
【0048】
これらの成分は、ロータリーミキサー、ヘンシェルミキサーなどの攪拌装置で混合される。
【0049】
(第2工程) ローラコンパクション処理
上記工程において配合された正極合剤は、次いで、ローラコンパクタによって圧縮加圧され、造粒のために充填密度を高められる。このローラコンパクタは、双ロール間に正極合剤を供給し、加圧して充填密度を高めるものであり、圧縮応力は、印加力をローラ幅で割った0.5×104〜5×104N/cmの範囲のものが好ましく、1.5×104〜3.5×104N/cmの範囲がより好ましい。このローラコンパクタは、半径の2乗およびロール幅に比例して処理量を向上させることができる。
【0050】
(第3工程) グラニュレーション処理
ローラコンパクション処理された正極合剤は、圧縮塊状となっている。これを用いて成形体を作製するためには一旦粒状に造粒する必要がある。そのためにロール表面に互いに嵌合する突起を有する双ロールを用いたグラニュレータによるグラニュレーション処理を行う。圧縮塊状に成形された正極合剤はこのグラニュレータに通すことによって、粒状に破砕される。得られる粒子の径は、10数μm〜1mm程度のものである。
【0051】
(第4工程) 分級処理
上記工程で得られる正極合剤粒子はそのサイズによって分級される。200〜850μmの範囲の粒子とすることによって、充填密度の高い正極合剤成形体とすることができる。200μm未満の造粒粉は、金型成形する際、造粒粉の計量に時間が掛かり不適である。また、850μmを越える造粒粉は、金型成形する際、成形体の重量がばらつくため不適である。この分級処理によって篩分された径が大きな粒子は再度グラニュレータ処理に供給して再利用され、また、形の小さな粒子は、ローラコンパクタ処理工程に供給され再利用されるといった造粒システムが、量産設備の中で構築可能である。
【0052】
(第5工程)成形
上記工程で造粒された正極合剤粒子は、次いで、金型を用いて正極成形体に成形される。インサイドアウト型の正極合剤は、中空円筒状をしているため、中央にマンドレルを有し、所要の体積を有する円筒形状の金型中に上記正極合剤粒子を充填して、雄型を圧入することにより成形が行われる。このときの成形圧力は、0.5×108〜9.8×108Paの圧力が好ましい。成形圧力が上記範囲を下回った場合、必要な正極合剤の充填密度が得られず、また、粒子同士の接触も確保しにくくなるので、電池とした場合、所定の放電容量が得られない。一方、成形圧力が上記範囲を上回った場合、正極合剤中に電解液が浸透しにくくなり、その利用率を下げてしまう。
【0053】
[実施例]
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。
【0054】
(実施例1)
平均粒径10μmのオキシ水酸化ニッケル粒子54質量部に、電解二酸化マンガンを66質量部と、導電剤の黒鉛7質量部とを加え、平均粒径が5μmのポリエチレンを正極作用物質に対して1000ppm加え、酸化エルビウム0.36質量部を加えてから乾式攪拌を10分間、回転数300rpmで行った後、練液である40質量%の水酸化カリウム水溶液6.2質量部を加え、湿式攪拌を回転数600rpmで10分間行って攪拌合剤とした。続いてこの攪拌合剤を圧縮強度200kg/mm2で圧粉を行い、薄片状態のものを作製した。さらに、分級機を用いて薄片状態のものを破砕することにより顆粒合剤を製作した。
【0055】
その後、一定重量、一定寸法の正極合剤を成形し、正極缶内部に挿入した。続いて、正極合剤と正極缶との密着を図るために再加圧を施した。
【0056】
負極ゲル亜鉛の作製は、酸化亜鉛を5%溶解した37質量%の水酸化カリウム水溶液165質量部に、架橋型ポリアクリル酸ナトリウムを4.5質量部と、BET法による比表面積とHELOS&RODOS法による平均粒径が下記表1に示す値の架橋型ポリアクリル酸を0.06質量部と、酸化インジウム0.1質量部とを混合したものを加えて攪拌し、ゲル状電解液を作製した。続いて、粒径75〜150μmの割合が下記表1に示す値で、インジウム0.06質量%、ビスマス0.014質量%及びアルミニウム0.0035質量%を含む組成の亜鉛合金粉末300質量部とゲル状電解液190質量部を混合し、真空で脱泡しながら攪拌を行い、ゲル状亜鉛負極を作製した。ポリアクリル酸ナトリウムとポリアクリル酸の添加量を負極作用物質に対する添加量に換算したものを下記表1に示す。なお、換算は、亜鉛合金粉末添加量に対するポリマー添加量の比を算出することにより行った。ポリアクリル酸の負極作用物質に対する添加量は、(0.06/300)×100より算出した。一方、ポリアクリル酸ナトリウムの負極作用物質に対する添加量は、(4.5/300)×100より算出した。
【0057】
得られたゲル状亜鉛をセパレータ内に所定量充填し、前述した図1に示す構造を有するJIS規格LR6形(単3形)のアルカリ電池を組立てた。
【0058】
なお、ポリアクリル酸のBET法による比表面積は、以下に説明する方法で測定した。
【0059】
試料を入れた既知量のセルをユアサアイオニクス社製多機能型自動表面積測定装置の脱気部に取り付け、窒素ガスを流しながらマントルヒーターで60℃15分間脱気した。続いてセルを測定部に移して液体窒素で冷却した。次にセルを常温に戻すと脱離が始まり、吸着量を測定し、セルの重量から比表面積を求めた。
【0060】
負極作用物質(亜鉛合金粉末)の粒度分布は、以下に説明する方法で測定した。
【0061】
試料30gを秤量した。粒度#425、#300、#150、#106、#75μmの標準篩を音波篩機に重ね、最上段の#425μm篩の網目上に亜鉛試料を均一にのせた。運転時間5分で分級して各網上に残った試料の質量を秤量して粒度分布を算出した。
【0062】
(実施例2〜43及び比較例1〜12)
ポリアクリル酸のBET比表面積、平均粒径及び添加量と、ポリアクリル酸塩の添加量と、亜鉛合金粉末の粒度分布における粒径75〜150μmの粒子の割合とを下記表1、表2に示す値にすること以外は実施例1と同様にしてJIS規格LR6形(単3形)のアルカリ電池を組立てた。
【0063】
(実施例44)
正極作用物質をオキシ水酸化ニッケル100%としたこと以外は実施例16と同様にしてJIS規格LR6形(単3形)のアルカリ電池を組立てた。
【0064】
以上のようにして組立てたLR6形アルカリ電池について、初度750mA/0.8Vcut放電試験をn=6で実施した。また、ゲル亜鉛充填量のばらつきの結果を下記表1〜表3に示す。
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
【表3】

【0067】
表1から明らかなように、BET比表面積が25〜45m2/gのポリアクリル酸を備えた実施例1〜30の電池は、ポリアクリル酸のBET比表面積が25m2/g未満の比較例1〜6の電池に比して初度重負荷放電特性が高く、BET比表面積が45m2/gを超える比較例7〜12の電池に比して充填量のばらつきが小さかった。この結果から、BET比表面積が25〜45m2/gのポリアクリル酸とポリアクリル酸塩とをゲル状亜鉛負極に用いることにより、重負荷特性が向上し、ゲル亜鉛充填量のばらつきを低くすることができ、製品品質上、信頼性のある製品の製造が可能となることが理解できる。実施例1,7,13,19および25を比較することにより、BET比表面積が30〜40m2/gの実施例7,13,19の電池の重負荷放電特性が、BET比表面積が25m2/gの実施例1及びBET比表面積が45m2/gの実施例25に比較して優れていることを理解できる。同様の傾向が、実施例2,8,14,20,26の比較、実施例3,9,15,21,27の比較、実施例4,10,16,22,28の比較の比較からも得られた。
【0068】
ポリアクリル酸の添加量については、表1及び表2における実施例13,15,17と実施例39,41との比較から、添加量が0.02〜0.36質量%の実施例13,15,17で良好な重負荷放電特性が得られることがわかった。同様な結果が実施例14,16,18,40,42の比較からも得られた。
【0069】
負極作用物質の粒度分布については、表1及び表2における実施例15,16と実施例43との比較から、75〜150μmの範囲の粒子が65%以上の実施例15,16の方が重負荷放電特性に優れており、90%以上の実施例16の初度重負荷放電特性が最も優れていた。
【0070】
ポリアクリル酸の平均粒径については、表2の結果から、平均粒径2〜10μmの範囲で良好な重負荷放電特性が得られることを確認することができた。
【0071】
また、表3の結果から、正極作用物質としてオキシ水酸化ニッケルと二酸化マンガンとの混合物を使用しても、オキシ水酸化ニッケルのみを使用しても、初度重負荷放電特性が高く、かつゲル状負極の充填量のばらつきを小さくできることと、オキシ水酸化ニッケルのみを使用する実施例44の特性が優れていることを確認することができた。
【0072】
(実施例45)
電解二酸化マンガンを120質量部と、導電剤の黒鉛9質量部とを加え、平均粒径が5μmのポリエチレンを正極作用物質に対して1000ppm加えてから乾式撹拌を10分間、回転数300rpmで行った後、練液である37質量%の水酸化カリウム水溶液5質量部を加え、湿式撹拌を回転数600rpmで10分間行って撹拌合剤とした。続いてこの撹拌合剤を圧縮強度100kg/mm2で圧粉を行い、薄片状態のものを作製した。さらに、分級機を用いて薄片状態のものを破砕することにより顆粒合剤を作製した。
【0073】
その後、一定重量、一定寸法の正極合剤を成形し、正極缶内部に挿入した。続いて、正極合剤と正極缶との密着を図るために再加圧を施した。
【0074】
負極ゲル亜鉛の作製は、酸化亜鉛を3%溶解した37質量%の水酸化カリウム水溶液165質量部に、架橋型ポリアクリル酸ナトリウムを4.5質量部と、BET比表面積とHELOS&RODOS法による平均粒径が下記表4に示す値の架橋型ポリアクリル酸を0.06質量部と、酸化インジウム0.1質量部とを混合したものを加えて撹拌し、ゲル状電解液を作製した。続いて、粒径75〜150μmの粒子の割合が下記表4に示す値の亜鉛合金粉末300質量部とゲル状電解液170質量部を混合し、真空で脱泡しながら撹拌を行い、ゲル状亜鉛負極を作製した。ポリアクリル酸ナトリウムとポリアクリル酸の添加量を負極作用物質に対する添加量に換算したものを下記表4に示す。なお、換算は、亜鉛合金粉末添加量に対するポリマー添加量の比を算出することにより行った。ポリアクリル酸の負極作用物質に対する添加量は、(0.06/300)×100より算出した。一方、ポリアクリル酸ナトリウムの負極作用物質に対する添加量は、(4.5/300)×100より算出した。
【0075】
得られたゲル状亜鉛をセパレータ内に所定量充填し、前述した図1に示す構造を有するJIS規格LR6形(単3形)のアルカリ電池を組立てた。
【0076】
(実施例46〜59,74〜88及び比較例13〜24)
ポリアクリル酸のBET比表面積、平均粒径及び添加量と、ポリアクリル酸塩の添加量と、亜鉛合金粉末の粒度分布における粒径75〜150μmの粒子の割合とを下記表4に示す値にすること以外は実施例45と同様にしてJIS規格LR6形(単3形)のアルカリ電池を組立てた。
【0077】
以上のようにして組立てたLR6形アルカリ電池について、初度1000mA(10s on/50s off{表4で(10s/m)と表示})放電/0.9V cut放電試験をn=30で実施した。また、ゲル状亜鉛負極充填量のばらつき(標準偏差)の結果を表4に示す。
【表4】

【0078】
表4から明らかなように、BET比表面積が25〜45m2/gのポリアクリル酸を備えた実施例45〜59、74〜88の電池は、ポリアクリル酸のBET比表面積が25m2/g未満の比較例13〜15,19〜21の電池に比して初度重負荷放電特性が高く、BET比表面積が45m2/gを超える比較例16〜18,22〜24の電池に比して充填量のばらつきが小さかった。この結果から、正極作用物質として二酸化マンガンを使用した際にもBET比表面積が25〜45m2/gのポリアクリル酸とポリアクリル酸塩とをゲル状亜鉛負極に用いることにより、重負荷特性が向上し、ゲル亜鉛充填量のばらつきを低くすることができ、製品品質上、信頼性のある製品の製造が可能となることが理解できる。
【0079】
また、実施例45と実施例74を比較することにより、粒度分布75〜150μmの範囲の粒子が65%以上の実施例74よりも、90%以上の実施例45の方が重負荷放電特性に優れていることがわかる。実施例46〜59,74〜88においても同様な傾向を示した。
【0080】
(実施例60〜65)
ポリアクリル酸の添加量を下記表5に示す値にすること以外は実施例45と同様にしてJIS規格LR6形(単3形)のアルカリ電池を組立てた。
【0081】
得られたLR6形アルカリ電池について、前述した条件で初度1000mA放電試験とゲル状亜鉛負極充填量のばらつきを測定し、その結果を表5に示す。表5には、前述した実施例45〜47,51〜53,57〜59の結果を併記する。
【表5】

【0082】
表5において、実施例45〜47及び実施例60,61を比較することにより、ポリアクリル酸添加量を0.02質量%以上にすると、優れた重負荷放電特性が得られ、ポリアクリル酸添加量を0.36質量%以下にすると、ゲル状負極の充填量のばらつきが少なくなることがわかる。ポリアクリル酸のBET比表面積を変更した実施例51〜53,57〜59及び62〜65においても同様な傾向が示されている。よって、重負荷放電特性のさらなる向上と、ゲル状負極充填量のばらつきのさらなる抑制とを達成するために、ポリアクリル酸添加量を0.02質量%以上、0.36質量%以下にすることが望ましい。
【0083】
(実施例66〜73)
ポリアクリル酸の平均粒径を下記表6に示す値にすること以外は実施例45と同様にしてJIS規格LR6形(単3形)のアルカリ電池を組立てた。
【0084】
得られたLR6形アルカリ電池について、前述した条件で初度1000mA放電試験とゲル状亜鉛負極充填量のばらつきを測定し、その結果を表6に示す。
【表6】

【0085】
表6において、実施例66〜69を比較することにより、平均粒径が2〜10μmの実施例67,68の重負荷放電特性が、平均粒径が2μm未満もしくは10μmを超える実施例66,69に比して優れていることがわかった。ポリアクリル酸の比表面積を変更した実施例70〜73においても同様な傾向が得られた。よって、重負荷放電特性のさらなる改善のためにポリアクリル酸の平均粒径を2〜10μmにすることが好ましい。
【0086】
実施例52のアルカリ電池に初度750mA/0.8Vcut放電試験をn=6で実施した。その結果を下記表7に示す。なお、表7には、前述した実施例16,44の結果を併記する。
【表7】

【0087】
表7から明らかな通りに、オキシ水酸化ニッケルを含む正極作用物質を用いた実施例16,44の重負荷放電特性が、二酸化マンガンを正極作用物質として用いる実施例52に比して優れており、BET比表面積が25〜45m2/gのポリアクリル酸とポリアクリル酸塩の使用は、オキシ水酸化ニッケルを含む正極作用物質に特に有効であることがわかる。
【0088】
以上説明したとおり、本発明によれば、ゲル状負極の充填性を損なうことなく負極亜鉛利用率を高めることが可能となり、初度重負荷放電特性を向上でき、製品品質上、信頼性の高い亜鉛アルカリ電池を提供することができる。
【0089】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明のアルカリ電池の一実施形態を示す模式的な断面図。
【符号の説明】
【0091】
1…正極缶、2…正極端子、3…ビード部、4…正極合剤、5…セパレータ、6…ゲル状負極、7…パッキング、8…負極集電棒、9…金属ワッシャー、10…負極端子板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極作用物質を含有する正極と、
亜鉛を含有する負極作用物質、電解液、ポリアクリル酸塩及びBET比表面積が25〜45m2/gのポリアクリル酸を含むゲル状負極と
を具備することを特徴とするアルカリ電池。
【請求項2】
オキシ水酸化ニッケルを含む正極作用物質を含有する正極と、
亜鉛を含有する負極作用物質、電解液、ポリアクリル酸塩及びBET比表面積が25〜45m2/gのポリアクリル酸を含むゲル状負極と
を具備することを特徴とするアルカリ電池。
【請求項3】
前記ポリアクリル酸は平均粒径が2〜10μmの粒子形状を有することを特徴とする請求項1または2記載のアルカリ電池。
【請求項4】
前記ポリアクリル酸の量は前記負極作用物質に対して0.02〜0.36質量%であることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載のアルカリ電池。
【請求項5】
前記負極作用物質は粒径が75〜150μmの範囲に65%以上が占める粒度分布を有することを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載のアルカリ電池。

【図1】
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【公開番号】特開2007−95675(P2007−95675A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−239417(P2006−239417)
【出願日】平成18年9月4日(2006.9.4)
【出願人】(000003539)東芝電池株式会社 (109)
【Fターム(参考)】