説明

アルコール類の製造方法およびそのアルコール類の製造方法を用いた水素または合成ガスの製造方法、アルコール類

【課題】硫黄化合物を含有するアルコール類から簡易な脱硫処理により、硫黄化合物の含有量が著しく少ないアルコール類を得る工程を有するアルコール類の製造方法およびそのアルコール類の製造方法を用いた水素または合成ガスの製造方法、並びに、そのアルコール類の製造方法によって得られたアルコール類を提供する。
【解決手段】本発明のアルコール類の製造方法は、硫黄化合物を含有するアルコール類を、パーベーパレーション法に基づく分離膜と接触させることによる脱硫処理によって、前記アルコール類中の硫黄化合物の含有量を低減させる分離工程を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫黄化合物を含有するアルコール類から、硫黄化合物を除去してアルコール類を得るアルコール類の製造方法およびそのアルコール類の製造方法を用いた水素または合成ガスの製造方法、並びに、そのアルコール類の製造方法によって得られたアルコール類に関するものである。さらに詳しくは、本発明は、硫黄化合物を含有するアルコール類から、硫黄化合物を選択的に除去することにより、触媒反応を含むケミカルプロセスの原料または燃料として利用可能なアルコール類の製造方法およびそのアルコール類の製造方法を用いた水素または合成ガスの製造方法、並びに、そのアルコール類の製造方法によって得られたアルコール類に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルコール類は、化学工業における重要な基礎原料の1つであり、種々の反応を経て有用な化学品に変換される。また、アルコール類は、自動車などで使用される内燃機関の燃料や、その他の燃料としても利用される。
【0003】
アルコール類は、おおよそ、石油系原料から化学反応を経るか、あるいは、バイオマス系原料から発酵を経て製造される。
石油系原料には原油に含まれていた硫黄化合物に由来する硫黄化合物が含まれていることがあり、また、バイオマス原料には発酵段階で硫黄化合物が生成することがあるため、アルコール類には硫黄化合物が含まれることがある。
【0004】
アルコール類が硫黄化合物を含んでいる場合、通常、脱硫といわれる方法によりアルコール類から硫黄化合物を分離する。そして、アルコール類は、化学製品の原料や各種燃料として使用するのに支障のないレベルまで精製されてから使用される。
このようにアルコール類を脱硫、精製する理由は、(1)硫黄化合物によって化学製品を製造する工程で使用される触媒が被毒される、(2)硫黄化合物を含んでいるアルコール類を燃焼させると亜硫酸ガスが発生し、アルコール類の燃焼装置に特別な除害手段を設けない限り酸性雨の原因となるなど、環境へ悪影響を及ぼす亜硫酸ガスが大気中に放出されるといった問題が存在するからである。
さらに、アルコール類が自動車用燃料として使用される場合、アルコール類に含まれる硫黄化合物は、排ガス浄化触媒の被毒の原因となるといった問題がある。
【0005】
アルコール類の精製段階、あるいは、化学反応や発酵工程を経て得られた粗アルコールから精製アルコールを生成する段階で、目的の品質のアルコール類と同時に、アルコール類から分離すべき不純物が濃縮されたものが生成する。多くの場合、この段階のアルコール類は、アルコールが主成分をなし、硫黄化合物やその他の有機化合物が含まれたものとなっている。
【0006】
この硫黄化合物やその他の有機化合物が含まれたアルコール類は、当然に、目的のアルコール類としては使用できない。また、このアルコール類は、硫黄化合物がより高濃度に濃縮されたものとなっていることが多く、その用途が制限される。しかし、このアルコール類は、相当量のアルコール成分を含んでいることが多いので、前記の硫黄化合物による悪影響を取り除いて有効利用できる方法を見出すことは、資源の有効活用の観点から重要な取り組みである。
【0007】
硫黄化合物を分離するという観点からすると、蒸留法が有効な方法の1つである。しかし、蒸留法は多量のエネルギーを消費するプロセスであり、省エネルギーや二酸化炭素排出量削減の観点からは課題のある方法である。
【0008】
さらに、蒸留法によって、より高い収率で目的の品質のアルコール類を得るためには、(1)分離除去する低沸点の留分および高沸点の留分を減らして蒸留収率を上げる、(2)より段数の高い蒸留塔を使用する、(3)蒸留塔における還流量を増やす、などの対策が必要である。
(1)の方法では、分離除去する留分量を減らすことと、硫黄化合物などの不純物の分離度を高くして目的の留分中の硫黄化合物の含有量を減らすこととの間には二律背反の関係がある。そのため、この方法により蒸留収率を上げようとすると、目的とする留分に硫黄化合物が混入する可能性が高くなるから、この方法には必然的に限界がある。
(2)および(3)の方法では、蒸留塔の建設費が高くなる、蒸留に要するエネルギー量が増加するなどの問題がある。
【0009】
ところで、脱硫とは、対象となる物質に含まれている硫黄化合物を、何らかの方法で除去することを言う。脱硫法の中でも、特に、ナフサ、ガソリン、灯油、軽油などの石油留分を脱硫する水添脱硫法が一般的な方法である。
この水添脱硫法とは、対象物質に含まれている硫黄化合物を、水素添加反応により硫化水素を中心とする化合物に変換し、その化合物を吸着剤に吸着させて除去する方法である。
【0010】
しかしながら、同様の方法をアルコール類に適用した場合、過剰に存在するアルコール分子中の酸素官能基が、水添脱硫触媒上あるいは吸着剤上の活性点に優先的に作用するため、これらの触媒や吸着剤の性能が十分に発揮されない。また、使用する触媒や吸着剤によっては、アルコール類そのものが反応してしまうこともあることから、石油留分の脱硫法を、アルコール類の脱硫に適用することは困難である。これは、石油留分と異なり、アルコール類が酸素官能基を含むということに起因する課題である。
【0011】
また、石油系原料を対象とする水添脱硫法を行う場合に使用される触媒の担体や吸着剤の成型剤としては、比表面積を大きくできること、安定性が高いなどの性質からγ−アルミナが広く用いられている。しかしながら、このγ−アルミナは、アルコール類との反応性が高いため、アルコール類の分解、脱水、脱水素、重合などの反応が進行し、アルコール類がメタン、エタン、エチレン、プロパンなどの軽質炭化水素や軽質含酸素炭化水素に転化し、目的とする硫黄含有量の少ないアルコール類の収率が低減するため、水添脱硫法には適用することが難しいという問題があった。
【0012】
また、アルコール類から吸着法によって硫黄化合物を除去する方法も開示されているが(例えば、特許文献1参照)、この方法は銀イオンなどの高価な物質を利用するため、工業的に実施するには実用上、満足されるものではない。
【特許文献1】国際公開第2005/063354号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、硫黄化合物を含有するアルコール類から簡易な脱硫処理により、硫黄化合物の含有量が著しく少ないアルコール類を得る工程を有するアルコール類の製造方法およびそのアルコール類の製造方法を用いた水素または合成ガスの製造方法、並びに、そのアルコール類の製造方法によって得られたアルコール類を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、硫黄化合物を含有するアルコール類を、パーベーパレーション法に基づく分離膜と接触させることによる脱硫処理によって、前記アルコール類中の硫黄化合物の含有量を低減させる分離工程を有するアルコール類の製造方法を提供する。
【0015】
前記分離膜が、シリコーン膜、ポリイミド膜、ポリアミド膜、ポリエステル膜またはポリビニルアルコール膜の群から選択される1種であることが好ましい。
【0016】
前記アルコール類が、1重量ppm以上のメタノールまたはプロパノール類を含むことが好ましい。
【0017】
前記アルコール類が、20重量ppm以上のメタノールまたは200重量ppm以上のプロパノール類を含むことが好ましい。
【0018】
前記アルコール類中の総硫黄含有量を10重量ppm未満に低減させることが好ましい。
【0019】
前記アルコール類中の総硫黄含有量を1重量ppm未満に低減させることが好ましい。
【0020】
前記アルコール類中の総硫黄含有量を0.5重量ppm未満に低減させることが好ましい。
【0021】
前記アルコール類が、10重量ppm以上の硫黄化合物を含むことが好ましい。
【0022】
前記アルコール類を水で希釈された状態で供給し、前記脱硫処理を行うことが好ましい。
【0023】
前記アルコール類が、エタノールであることが好ましい。
【0024】
前記分離工程の前に、前記アルコール類に対して、反応処理による脱硫処理、物理吸着による脱硫処理、あるいは、化学吸着剤による脱硫処理のうちから選択される1つまたは2つ以上の方法による脱硫処理を施す前処理工程を有することが好ましい。
【0025】
本発明は、本発明のアルコール類の製造方法によって得られたアルコール類に接触改質反応を施して、水素または合成ガスを製造する水素または合成ガスの製造方法を提供する。
【0026】
本発明は、本発明のアルコール類の製造方法によって得られたアルコール類を提供する。
【発明の効果】
【0027】
本発明のアルコール類の製造方法によれば、硫黄化合物を含有するアルコール類を、パーベーパレーション法に基づく分離膜と接触させることによる脱硫処理によって、前記アルコール類中の硫黄化合物の含有量を低減させる分離工程を有するので、簡易な脱硫処理によって、硫黄化合物を含有するアルコール類から、硫黄化合物の含有量が著しく少ないアルコール類を得ることができる。
【0028】
本発明の水素または合成ガスの製造方法によれば、本発明のアルコール類の製造方法によって得られたアルコール類に接触改質反応を施して、水素または合成ガスを製造するので、本発明のアルコール類の製造方法によって得られた総硫黄含有量が10重量ppm未満のアルコール類に接触改質反応を施すことにより、効率的に水素または合成ガスを製造することができる。
【0029】
本発明のアルコール類は、本発明のアルコール類の製造方法によって得られたので、総硫黄含有量が10重量ppm未満であり、触媒反応を含むケミカルプロセスの原料または自動車用燃料、その他燃料として利用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明のアルコール類の製造方法およびそのアルコール類の製造方法を用いた水素または合成ガスの製造方法、並びに、そのアルコール類の製造方法によって得られたアルコール類の最良の形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0031】
「アルコール類の製造方法の第一の実施形態」
本発明のアルコール類の製造方法の第一の実施形態は、硫黄化合物を含有するアルコール類を、パーベーパレーション法に基づく分離膜と接触させることによる脱硫処理によって、前記アルコール類中の硫黄化合物の含有量を低減させる分離工程を有する方法である。
【0032】
本発明におけるアルコール類のアルコールとしては、エタノール、ブタノール、ヘキサノールなどの、プロパノール類を除く炭素数2〜8の低級アルコールなどが挙げられる。
本発明のアルコール類の製造方法は、これらの中でもエタノールの製造に好適な製造方法である。
【0033】
本発明に用いられるアルコール類は、その製造方法によって制限されるものではなく、例えば、石油資源由来のものでもバイオマス資源由来のものでもよい。また、アルコール類の製造過程で発生する不純物を含むものであってもよい。
【0034】
石油資源由来のアルコール類の場合、その原料に用いられた石油資源原料に硫黄化合物が含まれているため、そのアルコール類に石油資源原料に由来する硫黄化合物が混入していることがある。そのため、石油資源由来のアルコール類には、硫黄化合物を含有するものが存在する。
【0035】
アルコール類の中でも、エタノールとブタノールは、発酵法において最も効率的に生成される発酵生成物の1つである。そのため、環境問題が注目される中、エタノールとブタノールは、カーボンニュートラルな燃料あるいは化学原料として注目されている。
【0036】
発酵法とは、サトウキビ、トウモロコシ、タピオカ、キャッサバ、米、小麦、廃木材、古紙などから得られるものを原料とし、これらの原料の発酵プロセスを経て、目的物を生成する方法のことである。
【0037】
一般に、発酵工程では、微生物が代謝するアミノ酸類などに含まれる硫黄や、発酵工程で使用される硫酸などに由来する硫黄化合物が生成する。そして、その硫黄化合物がアルコール類に混入することがあり、バイオマス資源由来のアルコール類にも硫黄化合物を含有するものが存在する。
【0038】
前述の通り、このような硫黄化合物を含むアルコール類を使用した場合、そのアルコール類が、それを用いる触媒反応工程の触媒に対して触媒毒として作用したり、亜硫酸ガスなどの有害物質を含む排気ガスを発生することがある。したがって、本発明のアルコール類の製造方法は、脱硫処理を施してアルコール類中の硫黄化合物の含有量を低減させる工程を有するので、このようなアルコール類の製造において利用価値の高い方法である。
【0039】
アルコール類の製造過程において、アルコール類の回収率を上げるために、実用上問題のない範囲内にて、ある程度の不純物の混入を許容することがある。
このようにして提供されるアルコール類は、精製されたものであっても、結果的に硫黄化合物を含有するものがある。このアルコール類が、本発明における「硫黄化合物を含有するアルコール類」の代表例である。
アルコール類の使用目的が変われば、それに含まれる硫黄化合物が課題となることもあり、このようにして提供されるアルコール類に対して脱硫処理を施すことにより総硫黄含有量を低減させたアルコール類を製造することや、総硫黄含有量を低減させたアルコール類、あるいは、総硫黄含有量を低減させたアルコール類を用いて水素または合成ガスを製造することも本発明の範囲に含まれる。
【0040】
アルコール類は、通常、蒸留工程を経て精製されるが、この際、問題となるのは、目的のアルコール類と沸点の近い化合物である。アルコール類の中でも、特に、エタノールやブタノールなどの低級アルコールは、水と共沸が生じることがあるため、水との共沸点が問題となることがある。化学反応を経て製造される場合は反応過程で生成する水が精製工程で共存する場合が多く、また、発酵によって製造される場合は発酵工程由来の水が精製工程で共存する場合が多いため、蒸留工程にて水が共存する限り、水との共沸点を考慮しなければならない。
【0041】
ところで、メタノールやプロパノール類は、本発明が対象としているエタノールやブタノールなどのアルコール類と同族の化合物であり、製造段階において目的のアルコール類とともに副生することが多い。
【0042】
メタノールやプロパノール類は、目的の品質のアルコール類よりも低沸点の留分あるいは高沸点の留分として分離される。しかし、メタノールやプロパノール類の単独での沸点や、水との共沸点がエタノールやブタノールに近く、分離が容易ではない場合が多い。
その結果、目的のアルコール類から分離された留分は、プロパノール類やメタノールを多く含むとともに、相当量の目的のアルコール類も含むことになる。
【0043】
ここで、プロパノール類とは、1−プロパノールおよび2−プロパノールのことである。
【0044】
硫黄化合物の中には、石油資源原料に由来するものや、発酵過程で生成するものがあるが、これらの中でも目的の品質のアルコール類を得るために課題となるのは、本発明が対象としているエタノールやブタノールなどのアルコール類と沸点あるいは水との共沸点が近いものである。
これらの硫黄化合物は、上述したプロパノール類の場合と同様に、目的の品質のアルコール類よりも低沸点の留分あるいは高沸点の留分として分離される。
【0045】
このように、目的の品質のアルコール類の留分とともに、低沸点の留分あるいは高沸点の留分として目的の品質のアルコール類から分離された留分が存在する。この留分は、精製前のアルコール類に含まれていたメタノールやプロパノール類と硫黄化合物が含まれるものである。前述の通り、これらのメタノールやプロパノール類および硫黄化合物と、アルコール類との分離が容易ではないため、結果として、この留分は相当量のアルコール類を含み、かつ、メタノールやプロパノール類、および、硫黄化合物を含有する。そのため従来のアルコール類の製造方法では、言うなれば低純度のアルコール留分が生成する。
この低純度アルコール留分は、本発明における「硫黄化合物を含有する、または、硫黄化合物を含有し、かつ、1重量ppm以上のメタノールまたはプロパノール類を含むアルコール類」の代表例である。
【0046】
本発明における総硫黄含有量とは、アルコール類に含まれる硫黄を含む化合物の総量のことであり、硫黄を含む化合物の総量を硫黄基準の重量分率で示したものである。また、アルコール類が水などで希釈されている場合、アルコール成分(アルコール類に主成分として含まれるアルコール)に対する硫黄を含む化合物の総量を硫黄基準の重量分率で示したものである。
【0047】
この本発明の製造方法の原料となるアルコール類は、触媒毒や亜硫酸ガスの発生源になる硫黄分が多量に含まれているため、この硫黄分を除去しない限り工業的応用が困難である。
【0048】
アルコール類に含まれる硫黄化合物としては、ジメチルスルフィド、ジエチルスルフィド、エチルメチルスルフィド、ジブチルスルフィドなどのスルフィド類;ジメチルジスルフィド、ジエチルジスルフィド、エチルメチルジスルフィド、ジブチルジスルフィドなどのジスルフィド類;チオ酢酸メチル、S−メチルチオ酢酸などのチオカルボン酸類;チオフェン、メチルチオフェン、ベンズチオフェンなどの芳香族イオウ化合物;亜硫酸ジメチル、亜硫酸ジエチル、亜硫酸ジブチルなどの亜硫酸エステル類;硫酸ジメチル、硫酸ジエチル、硫酸ジブチルなどの硫酸エステル類などが挙げられる。
【0049】
本発明で用いられる分離膜と接触させることによる脱硫処理は、パーベーパレーション法に基づく機構によって進行すると考えられている。
本発明におけるパーベーパレーション法とは、分離膜を透過させて、分離膜の反対側に供給液よりも硫黄化合物を高濃度で含むアルコール類を蒸発させ、アルコール類から硫黄化合物を分離する膜分離法である。パーベーパレーション法に用いられる分離膜として、硫黄化合物との親和性が高い適当なものを選択すれば、硫黄化合物がより選択性よく揮発して、分離膜に対して硫黄化合物を含むアルコール類の供給側と反対側に除去され、その結果として、供給側に脱硫されたアルコール類が残る。
【0050】
パーベーパレーション法とは、分離膜を介して液体を蒸発させることを言うが、アルコール類を液相状態で供給することのみならず、気相あるいは気液混相状態で供給して分離膜と接触させることも本発明の範囲に含まれる。
気相部が存在する状態で硫黄化合物を含むアルコール類を分離膜に供給して脱硫させる場合、パーベーパレーション機構により、液相部から硫黄化合物が選択性よく分離膜の反対側に透過することに加えて、気相部から硫黄化合物が選択性よく分離膜の反対側に透過することによって、脱硫が進行すると考えられる。
【0051】
硫黄化合物を含有するアルコール類を、パーベーパレーション法に基づく分離膜と接触させることによる脱硫処理において、分離膜の供給側に供給するアルコール類の流量は、(平均)線速度に換算して、0.01cm/秒以上、300cm/秒以下であることが好ましく、より好ましくは0.05cm/秒以上、150cm/秒以下であり、さらに好ましくは0.1cm/秒以上、50cm/秒以下である。
分離膜の供給側に供給するアルコール類の流量は、(平均)線速度に換算して、0.01cm/秒以上、300cm/秒以下であることが好ましい理由は、(平均)線速度が0.01cm/秒未満では、脱硫処理の速度が遅くなって、必要な脱硫処理を行うために長時間を要するからであり、一方、(平均)線速度が300cm/秒を超えると、脱硫処理を施すアルコール類の供給に必要な圧力が高くなって、脱硫に必要な装置が高価なものになるばかりでなく、脱硫の効率も低下するからである。
【0052】
また、硫黄化合物を含有するアルコール類を、パーベーパレーション法に基づく分離膜と接触させることによる脱硫処理において、分離膜の供給側に供給するアルコール類の圧力は、アルコール類の流量と脱硫装置の特性に応じて適宜調整され、特に限定されるものではないが、脱硫処理時における分離膜の供給側に供給するアルコール類の圧力は10kPa以上、10MPa以下であることが好ましく、より好ましくは10kPa以上、1MPa以下であり、さらに好ましくは50kPa以上、0.5MPa以下である。
分離膜の供給側に供給するアルコール類の圧力は10kPa以上、10MPa以下であることが好ましい理由は、アルコール類の圧力が10kPa未満では、パーベーパレーション法による蒸発速度が遅くなり、脱硫に要する時間が長くなるからであり、一方、アルコール類の圧力が10MPaを超えると、分離膜を透過して蒸発するアルコール類の量が増えるため、結果として脱硫効率が低下するだけでなく、脱硫に必要な装置に高い耐圧能が要求され、装置が高価なものになってしまうからである。
【0053】
また、硫黄化合物を含有するアルコール類を、パーベーパレーション法に基づく分離膜と接触させることによる脱硫処理において、分離膜の回収側、すなわち、分離膜に対して供給側と反対側の圧力は、供給側の圧力と関連して、その圧力以下に設定されていれば特に限定されるものではないが、分離膜の回収側と供給側との圧力差が0kPa以上、10MPa以下であることが好ましく、より好ましくは0.05kPa以上、1MPa以下であり、さらに好ましくは0.1kPa以上、0.5MPa以下である。言い換えれば、分離膜の回収側の圧力は、供給側の圧力よりも0kPa以上、10MPa以下の範囲で低く設定されていることが好ましく、より好ましくは0.05kPa以上、1MPa以下の範囲で低く設定され、さらに好ましくは0.1kPa以上、0.5MPa以下の範囲で低く設定される。
分離膜の回収側と供給側との圧力差が0kPa以上、10MPa以下であることが好ましい理由は、圧力差が0kPa未満であればパーベーパレーション法によって硫黄化合物が供給側から分離膜を介して回収側に移動しないからであり、一方、圧力差が10MPaを超えると、分離膜に高い耐圧性能が求められ、分離膜やその支持体の構造が複雑になって脱硫装置が高価なものになるばかりでなく、膜厚の大きい分離膜が必要になって脱硫効率が低下するからである。
【0054】
また、硫黄化合物を含有するアルコール類を、パーベーパレーション法に基づく分離膜と接触させることによる脱硫処理において、分離膜の供給側に供給するアルコール類の温度は0℃以上、100℃以下であることが好ましく、より好ましくは10℃以上、70℃以下であり、さらに好ましくは20℃以上、50℃以下である。
分離膜の供給側に供給するアルコール類の温度は0℃以上、100℃以下であることが好ましい理由は、アルコール類の温度が0℃未満では、蒸発速度が遅くなるために脱硫に要する時間が長くなるからであり、一方、アルコール類の温度が100℃を超えると、分離膜を透過して蒸発するアルコール類の量が増えるため、アルコール類の回収率が低下するだけでなく、脱硫効率も低下するからである。
【0055】
また、分離膜を透過した硫黄化合物は、気体(ガス)状態であるので、分離膜の透過側(回収側)では、気体状態の硫黄化合物をトラップ容器などに捕集すると同時に、各種冷却装置や液体窒素などにより、その捕集した硫黄化合物を冷却して、硫黄化合物を液体として回収する。このとき、分離膜を透過したアルコール類の一部も同時に回収されることがある。
トラップ容器に捕集した気体状態の硫黄化合物を冷却する温度は、分離膜の透過側(回収側)の圧力下における沸点よりも30℃程度低い温度に設定することが好ましい。トラップ容器に捕集した気体状態の硫黄化合物を冷却する温度がこの温度よりも高い場合、硫黄化合物の捕集効率が悪くなり、低い場合、気体状態の硫黄化合物の冷却に余計なエネルギーが必要となるからである。
【0056】
分離膜としては、シリコーン膜、ポリイミド膜、ポリアミド膜、ポリエステル膜またはポリビニルアルコール膜の群から選択される1種が用いられる。これらの中でも、入手の容易さ、硫黄化合物の選択透過性に優れる点から、シリコーン膜が好ましい。
なお、本発明において、シリコーン膜とは、シリコーンからなる分離膜の総称である。同様に、ポリイミド膜とは、ポリイミドからなる分離膜の総称であり、ポリアミド膜とは、ポリアミドからなる分離膜の総称であり、ポリエステル膜とは、ポリエステルからなる分離膜の総称であり、ポリビニルアルコール膜とは、ポリビニルアルコールからなる分離膜の総称である。
【0057】
分離膜としては、硫黄化合物を含むアルコール類が分離膜と接触できれば、分離膜の型式は特に限定されるものではないが、例えば、中空糸型、チューブ型、平膜型、キャピラリー型、スパイラル型または管状型の群から選択される1種の型式をなしているものが用いられる。
【0058】
中空糸型の分離膜とは、ストロー状あるいはマカロニ状をなす長尺の中空糸膜を多数本束ねた構成をなしている分離膜である。
この中空糸型の分離膜を用いたアルコール類の膜分離では、アルコール類を加圧しながら中空糸膜の内部を流通(通過)させ、アルコール類に含まれる硫黄化合物を中空糸膜の内部から外部へ透過させることにより、脱硫処理を行う。
【0059】
中空糸型の分離膜を構成する中空糸膜の内径は0.01mm以上、100mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.01mm以上、30mm以下であり、さらに好ましくは0.1mm以上、5mm以下である。
中空糸膜の内径は0.01mm以上、100mm以下であることが好ましい理由は、中空糸膜の内径が0.01mm未満では、処理できるアルコール類の量が少なくなったり、分離膜の供給側に高い圧力が必要になったりするからであり、一方、中空糸膜の内径が100mmを超えると、アルコール類と分離膜との接触効率が悪くなり、結果として脱硫効率が低下するからである。
【0060】
中空糸型の分離膜を構成する中空糸膜の外径は、好ましい中空糸膜の内径と膜厚に応じて適宜決定されるものであるから、特に限定されないが、0.01mm以上、100mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.01mm以上、50mm以下であり、さらに好ましくは0.1mm以上、10mm以下である。なお、中空糸膜の外径は、上記の中空糸膜の内径よりも小さくなることはない。
中空糸膜の外径は0.01mm以上、100mm以下であることが好ましい理由は、中空糸膜の外径が0.01mm未満では、処理できるアルコール類の量が少なくなったり、分離膜の供給側に高い圧力が必要になったりするからであり、一方、中空糸膜の外径が100mmを超えると、アルコール類と分離膜との接触効率が悪くなり、結果として脱硫効率が低下するからである。
【0061】
中空糸型の分離膜を構成する中空糸膜の有効長さは、分離膜の供給側に供給されるアルコール類の流量に応じて適宜調整されるが、1cm以上、300cm以下であることが好ましく、より好ましくは5cm以上、200cm以下であり、さらに好ましくは10cm以上、150cm以下である。
中空糸膜の有効長さは1cm以上、300cm以下であることが好ましい理由は、中空糸膜の有効長さが1cm未満では、アルコール類と分離膜との接触時間が短くなって脱硫効率が低下するからであり、一方、中空糸膜の有効長さが300cmを超えると、脱硫装置が大きくなり、工業的な実施の観点から課題となるからである。
なお、中空糸膜の有効長さとは、中空糸膜の全長に対して、アルコール類の膜分離に実際に機能する長さのことである。
【0062】
中空糸型の分離膜を構成する中空糸膜の本数は、分離膜の供給側に供給されるアルコール類の流量に応じて適宜調整されるが、2本以上、30000本以下であることが好ましく、より好ましくは1000本以上、10000本以下であり、さらに好ましくは100本以上、8000本以下である。
中空糸膜の本数が2本以上、30000本以下であることが好ましい理由は、中空糸膜の本数が2本未満では、処理できるアルコール類の量が少なくなるからであり、一方、中空糸膜の本数が30000本を超えると、脱硫装置が大きくなり、工業的な実施の観点から課題となるからである。
【0063】
中空糸型の分離膜における、脱硫処理されるアルコール類が接触する部分、すなわち、この分離膜を構成する全ての中空糸膜の内壁面の面積の和(以下、「中空糸型の分離膜の総表面積」と言う。)は、分離膜の好ましい構成に応じて適宜決定されるものであるから、特に限定されないが、0.01m以上、100m以下であることが好ましく、より好ましくは0.02m以上、50m以下であり、さらに好ましくは0.03m以上、10m以下である。
中空糸型の分離膜の総表面積は0.01m以上、100m以下であることが好ましい理由は、総表面積が0.01m未満では、脱硫効率が低下するからであり、一方、総表面積が100mを超えると、好ましい分離膜の構成範囲から逸脱した装置設計が必要となるからである。
【0064】
チューブ型の分離膜とは、長い筒状の分離膜である。
このチューブ型の分離膜を用いたアルコール類の膜分離では、チューブ(筒)内に脱硫に供せられるアルコール類を通液し、アルコール類に含まれる硫黄化合物をチューブの内部から外部へ蒸発させて脱硫処理を行う。
【0065】
チューブ型の分離膜におけるチューブの有効長さは、脱硫に必要なチューブ内におけるアルコール類の滞留時間と処理速度に応じて適宜決定され、特に限定されるものではないが、1m以上、1000m以下であることが好ましく、より好ましくは2m以上、500m以下であり、さらに好ましくは4m以上、100m以下である。
チューブの有効長さは1m以上、1000m以下であることが好ましい理由は、チューブの有効長さが1m未満では、脱硫のために十分なチューブ内におけるアルコール類の滞留時間を確保することができないからであり、一方、チューブの有効長さが1000mを超えると、脱硫処理に長時間を要し、チューブ内にアルコール類を通液させるために高い圧力が必要になるからである。
なお、チューブ型の分離膜におけるチューブの有効長さとは、チューブ型の分離膜の全長に対して、アルコール類の膜分離に実際に機能する長さのことである。
【0066】
チューブ型の分離膜におけるチューブの内径、外径および総表面積に関する好ましい構成要件は、中空糸型の分離膜における好ましい構成要件と同様である。
【0067】
平膜型の分離膜とは、二枚の膜が所定の間隔を隔てて対向して配置され、一対をなしている分離膜である。この分離膜では、アルコール類の供給側の膜と透過側の膜との間に適切なスペーサーが配置され、供給側の膜と透過側の膜との間にアルコール類の流路が形成されている。
この平膜型の分離膜を用いたアルコール類の膜分離では、アルコール類を加圧しながら分離膜に対して平行に流通(通過)させ、アルコール類に含まれる硫黄化合物を分離膜の外部へ透過させて分離させることにより、脱硫処理を行う。
【0068】
キャピラリー型の分離膜とは、支持体を必要とせず、基本的に中空糸型の分離膜と同様の構成をなしている分離膜である。キャピラリー型の分離膜と中空糸型の分離膜の相違点は、キャピラリー型の分離膜の大きさが中空糸型の分離膜の大きさよりも小さい点である。
このキャピラリー型の分離膜を用いたアルコール類の膜分離では、中空糸型の分離膜と同様に、アルコール類を加圧しながらキャピラリーの内部を流通(通過)させ、アルコール類に含まれる硫黄化合物をキャピラリーの内部から外部へ透過させることにより、脱硫処理を行う。
【0069】
スパイラル型の分離膜とは、平膜型の分離膜をサンドイッチロール状に巻いたような構成をなしている分離膜である。
このスパイラル型の分離膜を用いたアルコール類の膜分離では、平膜型の分離膜と同様に、アルコール類を加圧しながら分離膜に対して平行に流通(通過)させ、アルコール類に含まれる硫黄化合物を分離膜の外部へ透過させて分離させることにより、脱硫処理を行う。
【0070】
管状型の分離膜とは、支持体を必要とし、多孔性のステンレス管、セラミックス管あるいはプラスチック管が内側に設置されている分離膜である。
この管状型の分離膜を用いたアルコール類の膜分離では、中空糸型の分離膜と同様に、アルコール類を加圧しながら管の内部を流通(通過)させ、アルコール類に含まれる硫黄化合物を管の内部から外部へ透過させることにより、脱硫処理を行う。
【0071】
また、本発明では、硫黄化合物を含むアルコール類を水で希釈された状態で供給し、脱硫処理を行うことが好ましい。
一般に、アルコール類を水で希釈した際に希釈熱が発生するため、一部の低沸点硫黄化合物が揮発して、アルコール類中の総硫黄含有量が減少する。しかしながら、この方法のみによって、触媒反応を含むケミカルプロセスの原料または自動車燃料などの燃料として利用できる段階まで、アルコール類の脱硫を進行させることは困難である。
【0072】
本発明では、水で希釈したアルコール類を脱硫処理に供した方が、希釈していないアルコール類を脱硫処理に供するよりも脱硫効率が向上することがある。
これは、水の存在によってアルコール類と分離膜との親和性が変わることに起因すると考えられる。水は水素結合を介してよりアルコール類と相互作用しやすいため、水が存在することによって、アルコール類と分離膜との親和性が低下し、結果として硫黄化合物と分離膜との親和性が、アルコール類と分離膜との親和性よりも高くなったからであると推察される。
【0073】
また、水で希釈したアルコール類を脱硫処理に供した方が、希釈していないアルコール類を脱硫処理するよりもアルコール類の回収率が向上する。
これは、アルコール類は水と水素結合を介した会合体を作りやすい性質があり、会合体が形成されることで、より揮発し難くなり、パーベーパレーション法によって分離膜の回収側に揮発するアルコール類が減少するためであると考えられる。
【0074】
アルコール類を水で希釈する場合、希釈後のアルコール類(アルコール類の水希釈液)における水の含有量は、20重量%以上、80重量%以下であることが好ましく、より好ましくは30重量%以上、60重量%以下であり、さらに好ましくは40重量%以上、50重量%以下である。
アルコール類の水希釈液における水の含有量は20重量%以上、80重量%以下であることが好ましい理由は、水の含有量が20重量%未満では、アルコール類と水の会合体の形成が十分でなく、アルコール類が揮発しやすく、結果として、アルコール類の回収率を向上させることができないからであり、一方、水の含有量が80重量%を超えると、脱硫に必要な装置が大きくなる問題があり、また、脱硫済みのアルコール類を使用する次の工程で水を分離する必要性が生じるという問題があるからである。
また、アルコール類を水で希釈して用いる場合、脱硫を行う直前に水を加えて希釈してもよいし、例えば、発酵液のような、もともと水で希釈されたアルコール類をそのまま用いてもよい。
【0075】
ここで、中空糸型の分離膜を備えた脱硫装置を用いたアルコール類の脱硫処理について説明する。
図1は、本発明のアルコール類の製造方法に用いられる脱硫装置の一実施形態を示す概略構成図である。
図1に示す脱硫装置10は、硫黄化合物を含むアルコール類20を入れる容器11と、このアルコール類20を送液するためのポンプ12と、チューブ型の分離膜13と、分離膜13にて分離された脱硫処理液21を回収する回収容器14と、容器11と分離膜13とを接続する流路15とから概略構成されている。
【0076】
この脱硫装置10では、ポンプ12により容器11中の未脱硫のアルコール類20を、流路15を介してチューブ型の分離膜13に供給すると、この分離膜13内を通過する間に、アルコール類20中の硫黄化合物が分離膜13の外側にパーベーパレーションによって揮発し、硫黄化合物が低減されたアルコール類が回収容器14に送られる。
チューブ型の分離膜以外の分離膜を用いるときは、この脱硫装置10において、その分離膜を分離膜13の代わりに接続して、脱硫に供する。
【0077】
図2は、本発明のアルコール類の製造方法に用いられる脱硫装置の他の実施形態を示す概略構成図である。
図2に示す脱硫装置30は、未脱硫のアルコール類50を入れる容器31と、このアルコール類50を送液するためのポンプ32と、中空糸膜を多数本束ねた中空糸型の分離膜(以下、「中空糸型分離膜」と言う。)33を具備する分離器34と、分離器34にて分離された気体状態の硫黄化合物を捕集するトラップ容器35と、トラップ容器35にて捕集した気体状態の硫黄化合物を冷却するための液体窒素60を入れる低温保存用断熱容器36と、これらを接続する流路37,38,39とから概略構成されている。
【0078】
この脱硫装置30では、ポンプ32により容器31中の未脱硫のアルコール類50を、流路37を介して液送入口40から分離器34内の中空糸型分離膜33の供給側に供給すると、アルコール類50中の硫黄化合物が中空糸型分離膜33を通過する間に、中空糸型分離膜の外側にパーベーパレーションによって揮発する。
次いで、気化した硫黄化合物は、排出口43から分離器34外に排出され、流路38を介してトラップ容器35内に送られる。
次いで、トラップ容器35内に送られた硫黄化合物は、低温保存用断熱容器36内の液体窒素60によって冷却されて、液化し、回収される。
【0079】
なお、分離器34内の中空糸型分離膜33の外側には、ガス送入口42から窒素ガスが送り込まれている。また、中空糸型分離膜33を透過しなかったアルコール類50は、排出口41から分離器34外に排出され、流路39を介して容器31へと戻される。
このように、ポンプ32を作動させることにより、アルコール類50が、容器31→流路37→分離器34→流路39→容器31→流路37→・・・の順に循環するとともに、硫黄化合物の一部が中空糸型分離膜33を透過して、脱硫処理が行われる。
【0080】
本発明のアルコール類の製造方法の第一の実施形態によれば、硫黄化合物を含有するアルコール類、あるいは、硫黄化合物を含有するとともに、1重量ppm以上のメタノールまたはプロパノール類を含有するアルコール類にパーベーパレーション法に基づく分離膜と接触させることによる脱硫処理を施すので、それによって得られるアルコール類の総硫黄含有量を好ましくは10重量ppm未満、より好ましくは1重量ppm未満、さらに好ましくは0.5重量ppm未満にすることができる。したがって、触媒反応を含むケミカルプロセスの原料または自動車用燃料、その他燃料として利用可能なアルコール類を製造することができる。
【0081】
「アルコール類の製造方法の第二の実施形態」
本発明のアルコール類の製造方法の第二の実施形態は、上述の第一の実施形態における分離工程の前に、硫黄化合物を含有するアルコール類に対して、反応処理による脱硫処理、物理吸着による脱硫処理、あるいは、化学吸着剤による脱硫処理のうちから選択される1つまたは2つ以上の方法による脱硫処理を施す前処理工程を有する方法である。
【0082】
本発明のアルコール類の製造方法の第二の実施形態と、本発明のアルコール類の製造方法の第一の実施形態とが異なる点は、第二の実施形態では、硫黄化合物を含有するアルコール類に対して、反応処理による脱硫処理、物理吸着剤による脱硫処理、あるいは、化学吸着剤による脱硫処理のうちから選択される1つまたは2つ以上の方法による脱硫処理を施す前処理工程の後に、上述の第一の実施形態と同様のパーベーパレーション法に基づく分離膜を用いて脱硫処理を施す分離工程を行う点である。
【0083】
前処理工程における反応処理による脱硫処理とは、一定の化学反応を施して、硫黄化合物を元の化合物とは性質の異なる化合物に変換し、その化合物を何らかの方法により除去する方法のことである。このような反応処理による脱硫処理の中でも最も一般的な方法が水添脱硫であり、この水添脱硫は、水添反応(水素添加反応)によって硫黄化合物を硫化水素に変換し、これらの化合物を吸着剤に吸着させて除去する方法である。
【0084】
水添反応(水素添加反応)とは、水素の存在下、硫黄化合物を含むアルコール類を触媒と接触させる反応のことである。この水添反応により、硫黄化合物が硫化水素に変換されるので、これらの化合物を吸着剤に吸着させて除去することができる。
【0085】
本発明のアルコール類の製造方法では、水添反応(水素添加反応)に用いられる触媒が担体に担持されていることが好ましい。
水添反応に用いられる触媒の担体としては、370℃、常圧下にて純エタノールと接触させて転化反応させた場合の純エタノールの収率が60%以上であるものが好ましい。
また、このような担体のγ−アルミナの含有量が3重量%未満であることが好ましい。
【0086】
このような担体としては、シリカ(SiO)、チタニア(TiO)、活性炭(ACTIVATED CARBON、AC)、マグネシア(MgO)、α−アルミナ(α−Al)の群から選択される1種または2種以上を含むものが挙げられる。
【0087】
水添反応に用いられる触媒としては、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)の群から選択される1種または2種以上を含むものが挙げられる。具体的には、Co−Mo系担持酸化物触媒、Ni−Mo系担持酸化触媒、Pd担持活性炭触媒、Pt担持活性炭触媒などが挙げられる。
【0088】
水添反応の反応温度は、0℃以上、400℃以下であることが好ましく、より好ましくは100℃以上、300℃以下である。
水添反応の反応温度が、0℃以上、400℃以下であることが好ましい理由は、反応温度が0℃以上、400℃以下であると、目的生成物である低硫黄含有アルコールの収率がより向上するからである。
【0089】
また、水添反応の反応圧力は、常圧以上、5MPaG以下であることが好ましく、より好ましくは常圧以上、3MPaG以下である。
水添反応の反応圧力が、常圧以上、5MPaG以下であることが好ましい理由は、反応圧力が常圧以上、5MPaG以下であると、メタン、エタンなどの軽質炭化水素ガスの生成量がより減少し、目的生成物である低硫黄含有アルコールの収率が向上するばかりでなく、反応装置の設計圧力が低下することにより機器のコストが低減するため経済性が向上するからである。
【0090】
水添反応に用いられる吸着剤としては、370℃、常圧下にて純エタノールと接触させて転化反応させた場合の純エタノールの回収率が60%以上であるものが好ましい。
また、このような吸着剤のγ−アルミナの含有量が3重量%未満であることが好ましい。
【0091】
このような吸着剤としては、酸化亜鉛などの亜鉛化合物、酸化鉄などの鉄化合物の群から選択される1種または2種以上を含み、これらの化合物の総含有量が30重量%以上であるものが用いられる。
さらに、この吸着剤は、シリカ、チタニア、マグネシア、アルミナの群から選択される1種または2種以上を含み、かつ、γ−アルミナの含有量が3重量%未満であるものが挙げられる。
【0092】
硫黄化合物を含むアルコール類をイオン交換樹脂または固体触媒と接触させる方法としては、(1)イオン交換樹脂または固体触媒を充填した塔内に、硫黄化合物を含むアルコール類を連続的に流通させる方法、(2)回分式反応器に、イオン交換樹脂または固体触媒と、硫黄化合物を含むアルコール類とを仕込み、攪拌下、両者を接触させる方法が用いられる。
【0093】
イオン交換樹脂としては、陽イオン交換樹脂または陰イオン交換樹脂のいずれか一方、あるいは、陽イオン交換樹脂および陰イオン交換樹脂の両方が用いられる。
固体触媒としては、活性白土、ヘテロポリ酸、シリカ、アルミナ、ゼオライトなどが用いられる。
【0094】
上記の(1)、(2)の方法において、硫黄化合物を含むアルコール類をイオン交換樹脂または固体触媒と接触させる際の温度(以下、この温度を「接触温度」と言うこともある。)は、0℃以上、200℃以下であることが好ましく、より好ましくは室温(25℃)以上、100℃以下である。
接触温度が、0℃以上、200℃以下であることが好ましい理由は、接触温度が、この温度範囲内であれば、イオン交換樹脂や固体触媒の触媒作用によるアルコール類の脱水反応や縮合反応が起こりにくいからである。
【0095】
なお、接触温度によっては、上記の(1)、(2)の方法による脱硫処理を、加圧下で行うこともある。
また、複数のイオン交換樹脂や固体触媒を同時に用いることもできる。
【0096】
イオン交換樹脂触媒または固体触媒と接触させる脱硫処理においては、通常、アルコール類に含まれる硫黄化合物がイオン交換樹脂または固体触媒に化学的に吸着されてアルコール類から分離され、脱硫される。
ところが、イオン交換樹脂および固体触媒には硫黄化合物をアルコール類と性質の異なる化合物に変換する性質もあり、硫黄化合物が化学吸着剤によって分離されることに加えて、化合物によっては、上述の変換反応を受けた硫黄化合物がアルコール類から分離されることで脱硫されることもありうる。
【0097】
また、イオン交換樹脂や固体触媒が硫黄化合物を物理的に吸着することもあり、化合物によっては、物理吸着剤によって脱硫されることもありうる。
すなわち、イオン交換樹脂または固体触媒と接触させる脱硫処理は、イオン交換樹脂や固体触媒と硫黄化合物を含むアルコール類とを接触させることが重要なのであって、必ずしも化学吸着剤による脱硫に限定されるものではなく、反応処理による脱硫や物理吸着剤による脱硫が含まれる場合もある。
【0098】
上述の処理によってアルコール類と性質の異なる化合物に変換された硫黄化合物は、通常、蒸留、吸着などの方法により分離される。
また、変換された硫黄化合物の沸点が十分に低い場合、この硫黄化合物を、イオン交換樹脂や固体触媒に接触させる段階にて、ガスとして系外に除去できる。例えば、硫黄化合物が亜硫酸エステルの場合、亜硫酸エステルは、上記の(1)、(2)の方法による脱硫処理により亜硫酸ガスに変換されるが、亜硫酸ガスは沸点が十分に低いため、イオン交換樹脂や固体触媒に接触させている段階にて、気相部に分離される。なお、亜硫酸ガスが大気中に放出されないように、その気相部の除外処理は必要である。
【0099】
また、イオン交換樹脂または固体触媒と接触させることによる脱硫処理においては、あらかじめ硫黄化合物を含むアルコール類と水を混合した混合溶液を脱硫処理することが好ましい。このような硫黄化合物を含むアルコール類と水の混合溶液を用いることにより、一部の硫黄化合物と水とが反応し、反応処理による脱硫を受けやすい化合物やアルコール類から、分離されやすい化合物に変換されると推定される。
【0100】
前処理工程における物理吸着剤による脱硫処理とは、適当な吸着剤に硫黄化合物を物理的に吸着させることによって、硫黄化合物を除去する方法のことである。吸着剤としては、活性炭、活性白土、珪藻土、シリカ、アルミナ、ゼオライトなどが用いられる。
【0101】
前処理工程における化学吸着剤による脱硫処理とは、適当な吸着剤に硫黄化合物を化学的に吸着させることによって、硫黄化合物を除去する方法のことである。吸着剤としては、イオン交換樹脂、銅などを主成分とするものなどが用いられる。
【0102】
これらの物理吸着剤による脱硫処理および化学吸着剤による脱硫処理では、上記の吸着剤を充填した塔内に、硫黄化合物を含むアルコール類を連続的に流通させる方法などが用いられる。
この方法において、硫黄化合物を含むアルコール類を吸着剤と接触させる際の温度は、0℃以上、200℃以下であることが好ましく、より好ましくは室温(25℃)以上、100℃以下である。
硫黄化合物を含むアルコール類を吸着剤と接触させる際の温度が、0℃以上、200℃以下であることが好ましい理由は、この温度範囲であれば、吸着剤に吸着された硫黄化合物の脱着反応が起こりにくく、吸着効果が向上するからである。
【0103】
なお、物理吸着剤による脱硫処理および化学吸着剤による脱硫処理では、吸着剤に一定量の硫黄化合物が吸着されると、吸着剤はその吸着機能を果たさなくなる。その場合、吸着剤を再生するか、あるいは、新しい吸着剤と交換する。
【0104】
本発明のアルコール類の製造方法の第二の実施形態における分離工程は、前処理工程により脱硫処理が施されたアルコール類に対して、上述の第一の実施形態と同様のパーベーパレーション法に基づく分離膜を用いて脱硫処理を施す工程である。
【0105】
本発明のアルコール類の製造方法の第二の実施形態によれば、硫黄化合物を含有するアルコール類、あるいは、硫黄化合物を含有するとともに、1重量ppm以上のメタノールまたはプロパノール類を含有するアルコール類に対して、反応処理による脱硫処理、物理吸着剤による脱硫処理、あるいは、化学吸着剤による脱硫処理のうちから選択される1つまたは2つ以上の方法による脱硫処理を施す前処理工程と、前処理工程により脱硫処理が施されたアルコール類に対して、パーベーパレーション法に基づく分離膜を用いた脱硫処理を施す分離工程とを施すので、それによって得られるアルコール類の総硫黄含有量を好ましくは10重量ppm未満、より好ましくは1重量ppm未満、さらに好ましくは0.5重量ppm未満にすることができる。したがって、触媒反応を含むケミカルプロセスの原料または自動車用燃料、その他燃料として利用可能なアルコール類を製造することができる。なお、前処理工程および分離工程の2つの工程を行うことは、脱硫プロセスとしてはより煩雑になるが、脱硫すべき硫黄化合物の構造によっては、上述の第一の実施形態よりも効率的にアルコール類を製造することができる。
【0106】
「水素または合成ガスの製造方法」
本発明の水素または合成ガスの製造方法は、本発明のアルコール類の製造方法(第一の実施形態、第二の実施形態)によって得られたアルコール類に接触改質反応を起こさせて、水素または合成ガスを製造する方法である。
【0107】
接触改質反応は、水素または合成ガスを生成する方法の中でも石油系の原料に対して多くの実績があり、一般的に、低温水蒸気改質反応(プレリフォーミング)と高温水蒸気改質反応から構成されている。
ここで、高温水蒸気改質とは、炭化水素と水蒸気を混合し、通常800℃以上の高温において反応、改質させることにより合成ガスを得る改質である。
また、低温水蒸気改質とは多種の炭化水素種を含む場合に、高温での改質反応での負荷を低減するため、前段で炭化水素と水蒸気を混合し、250℃から550℃において炭化水素種からメタンなどの成分を得る改質である。
【0108】
接触改質反応の一段目の低温水蒸気改質反応により、エタノールはメタン、二酸化炭素、水素、一酸化炭素を主成分とする水素または合成ガスに変換される。得られた水素または合成ガスは、石油代替燃料として使用可能である。
このことより、低温水蒸気改質反応が問題なく行われれば、後段の高温水蒸気改質反応は容易に進行させることができる。
【0109】
「アルコール類」
本発明のアルコール類は、硫黄化合物を含有するアルコール類、あるいは、硫黄化合物を含有するとともに、1重量ppm以上のメタノールまたはプロパノール類を含有するアルコール類に対して、パーベーパレーション法に基づく分離膜と接触させることによる脱硫処理によって、アルコール類中の硫黄化合物の含有量を低減させる分離工程を施すか、もしくは、反応処理による脱硫処理、物理吸着剤による脱硫処理、あるいは、化学吸着剤による脱硫処理のうちから選択される1つまたは2つ以上の方法による脱硫処理を施す前処理工程と、前処理工程により脱硫処理が施されたアルコール類に対して、パーベーパレーション法に基づく分離膜を用いた脱硫処理を施す分離工程とを施すことによって得られ、総硫黄含有量が好ましくは10重量ppm未満、より好ましくは1重量ppm未満、さらに好ましくは0.5重量ppm未満のアルコール類である。すなわち、本発明のアルコール類は、上述の本発明のアルコール類の製造方法(第一の実施形態、第二の実施形態)によって得られたものである。
【0110】
したがって、本発明のアルコール類は、触媒反応を含むケミカルプロセスの原料または自動車用燃料、その他燃料として利用可能なアルコール類である。
【実施例】
【0111】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0112】
「アルコール類に含まれるメタノールおよびプロパノール類の濃度測定、アルコール類に含まれる硫黄の濃度測定」
アルコール類に含まれるメタノールおよびプロパノール類の濃度測定を、ガスクロマトグラフィーを用いて行った。測定条件を表1に示す。
濃度測定の結果を、メタノールまたはプロパノール類の重量ppmで示した。
【0113】
【表1】

【0114】
また、アルコール類に含まれる硫黄化合物の濃度測定(総硫黄含有量の測定)を、クーロメトリー(TOX−100、ダイアインスツルメンツ社製)を用いて行った。
濃度測定の結果を、硫黄基準の重量ppmで示した。
また、アルコール類(脱硫処理液)の回収率を、脱硫に供した液の重量に対する、脱硫で得られた処理液重量の割合として計算した。
【0115】
「実施例1」
図1に示す脱硫試験装置を用いて、硫黄化合物を含むエタノールの脱硫処理を行った。
チューブ型の分離膜13としては、内径が1mm、膜厚が1mm、有効長さが6mのチューブ型のシリコーン膜(商品名:SR1554、タイガースポリマー社製)を用いた。
アルコール類として、表2に示すようにメタノール、プロパノール類および硫黄化合物を含む未脱硫のエタノール「ET−1」を用い、このエタノールの水希釈液(エタノール:水=1mol:2mol、水の含有量44重量%)を調製した。
このエタノールの水希釈液を、室温にて、1分当たり1.57mLの速度((平均)線速度0.83cm/秒、滞留時間120分)で、チューブ型の分離膜13内に通液させ、脱硫処理液21を得た。
得られた脱硫処理液(希釈に使用した水も含む)について、上述の方法により、硫黄化合物の濃度測定(総硫黄含有量の測定)を行った。
また、得られた脱硫処理液の回収率を測定した。
これらの結果を表3に示す。
本実施例1では、総硫黄含有量は0.5重量ppm未満まで低減され、脱硫処理液の回収率は93%であった。
【0116】
「実施例2」
アルコール類として、表2に示す未脱硫のエタノール「ET−2」を用い、チューブ型の分離膜内におけるエタノールの水希釈液の滞留時間を60分とした以外は実施例1と同様にして、硫黄化合物を含むエタノールの脱硫処理を行った。
得られた脱硫処理液(希釈に使用した水も含む)について、上述の方法により、硫黄化合物の濃度測定、および、回収率の測定を行った。
これらの結果を表3に示す。
本実施例2では、総硫黄含有量は1重量ppmまで低減され、脱硫処理液の回収率は97%であった。
【0117】
「実施例3」
アルコール類として、表2に示す未脱硫のエタノール「ET−3」を用いた以外は実施例1と同様にして、脱硫処理液を得た。
得られた脱硫処理液(希釈に使用した水も含む)について、上述の方法により、硫黄化合物の濃度測定、および、回収率の測定を行った。
これらの結果を表3に示す。
本実施例3では、総硫黄含有量は1重量ppmまで低減され、脱硫処理液の回収率は93%であった。
【0118】
「実施例4」
アルコール類として、表2に示す未脱硫のエタノール「ET−4」を用いた以外は実施例2と同様にして、脱硫処理液を得た。
得られた脱硫処理液(希釈に使用した水も含む)について、上述の方法により、硫黄化合物の濃度測定、および、回収率の測定を行った。
これらの結果を表3に示す。
本実施例4では、総硫黄含有量は1重量ppmまで低減され、脱硫処理液の回収率は96%であった。
【0119】
「実施例5」
アルコール類として、表2に示す未脱硫のエタノール「ET−5」を用い、チューブ型の分離膜内におけるエタノールの水希釈液の滞留時間を50分とした以外は実施例1と同様にして、硫黄化合物を含むエタノールの脱硫処理を行った。
得られた脱硫処理液(希釈に使用した水も含む)について、上述の方法により、硫黄化合物の濃度測定、および、回収率の測定を行った。
これらの結果を表3に示す。
本実施例5では、総硫黄含有量は0.9重量ppmまで低減され、脱硫処理液の回収率は97%であった。
【0120】
「実施例6」
アルコール類として、表2に示す未脱硫のエタノール「ET−6」を用い、チューブ型の分離膜内におけるエタノールの水希釈液の滞留時間を30分とした以外は実施例1と同様にして、硫黄化合物を含むエタノールの脱硫処理を行った。
得られた脱硫処理液(希釈に使用した水も含む)について、上述の方法により、硫黄化合物の濃度測定、および、回収率の測定を行った。
これらの結果を表3に示す。
本実施例6では、総硫黄含有量は0.8重量ppmまで低減され、脱硫処理液の回収率は98%であった。
【0121】
「実施例7」
アルコール類として、表2に示す未脱硫のエタノール「ET−7」を用いた以外は実施例2と同様にして、脱硫処理液を得た。
得られた脱硫処理液(希釈に使用した水も含む)について、上述の方法により、硫黄化合物の濃度測定、および、回収率の測定を行った。
これらの結果を表3に示す。
本実施例7では、総硫黄含有量は0.5重量ppm未満まで低減され、脱硫処理液の回収率は97%であった。
【0122】
「実施例8」
アルコール類として、表2に示す未脱硫のエタノール「ET−8」を用いた以外は実施例6と同様にして、脱硫処理液を得た。
得られた脱硫処理液(希釈に使用した水も含む)について、上述の方法により、硫黄化合物の濃度測定、および、回収率の測定を行った。
これらの結果を表3に示す。
本実施例8では、総硫黄含有量は0.5重量ppm未満まで低減され、脱硫処理液の回収率は99%であった。
【0123】
「実施例9」
アルコール類として、表2に示す未脱硫のエタノール「ET−9」を用いた以外は実施例2と同様にして、脱硫処理液を得た。
得られた脱硫処理液(希釈に使用した水も含む)について、上述の方法により、硫黄化合物の濃度測定、および、回収率の測定を行った。
これらの結果を表3に示す。
本実施例9では、総硫黄含有量は0.5重量ppm未満まで低減され、脱硫処理液の回収率は97%であった。
【0124】
「実施例10」
アルコール類として、表2に示す未脱硫のエタノール「ET−10」を用いた以外は実施例6と同様にして、脱硫処理液を得た。
得られた脱硫処理液(希釈に使用した水も含む)について、上述の方法により、硫黄化合物の濃度測定、および、回収率の測定を行った。
これらの結果を表3に示す。
本実施例10では、総硫黄含有量は0.5重量ppm未満まで低減され、脱硫処理液の回収率は99%であった。
【0125】
【表2】

【0126】
【表3】

【0127】
実施例1〜10の結果から、上記のチューブ型の分離膜を用いれば、アルコール類の硫黄化合物含有量、メタノールやプロパノール類の存在の有無やその濃度に関係なく、総硫黄含有量を1重量ppm未満まで低減できることを確認できた。また、条件によっては、総硫黄含有量を0.5重量ppm未満まで低減できることを確認できた。
【0128】
「実施例11」
アルコール類として、硫黄化合物を含むブタノールを水で希釈せずに用い、チューブ型の分離膜内におけるブタノールの滞留時間を90分とした以外は実施例1と同様にして、硫黄化合物を含むブタノールの脱硫処理を行った。
得られた脱硫処理液について、上述の方法により、硫黄化合物の濃度測定を行った。
また、得られた脱硫処理液の回収率を測定した。
これらの結果を表4に示す。
本実施例11では、総硫黄含有量は0.5重量ppm未満まで低減され、脱硫処理液の回収率は86%であった。
【0129】
「実施例12」
アルコール類として、水で希釈せずにブタノールを用いた以外は実施例2と同様にして、脱硫処理液を得た。
得られた脱硫処理液について、上述の方法により、硫黄化合物の濃度測定、および、回収率の測定を行った。
これらの結果を表4に示す。
本実施例12では、総硫黄含有量は0.5重量ppm未満まで低減され、脱硫処理液の回収率は90%であった。
【0130】
「実施例13」
アルコール類として、水で希釈せずにブタノールを用いた以外は実施例6と同様にして、脱硫処理液を得た。
得られた脱硫処理液について、上述の方法により、硫黄化合物の濃度測定、および、回収率の測定を行った。
これらの結果を表4に示す。
本実施例13では、総硫黄含有量は0.5重量ppm未満まで低減され、脱硫処理液の回収率は95%であった。
【0131】
【表4】

【0132】
実施例11〜13の結果から、上記のチューブ型の分離膜を用いれば、アルコール成分がブタノールであっても、総硫黄含有量を0.5重量ppm未満まで低減できることを確認できた。
【0133】
「実施例14」
アルコール類として、表2に示す未脱硫のエタノール「ET−4」を用い、チューブ型の分離膜内におけるエタノールの水希釈液の滞留時間を変化させた以外は実施例1と同様にして、脱硫処理液を得た。
得られた脱硫処理液(希釈に使用した水も含む)について、上述の方法により、硫黄化合物の濃度測定を行った。
これらの結果を表5に示す。
【0134】
【表5】

【0135】
実施例14の結果から、チューブ型の分離膜内におけるエタノールの水希釈液の滞留時間を長くするほど、エタノールの硫黄化合物含有量(総硫黄含有量)を低くできることを確認できた。
【0136】
「実施例15−1」
アルコール類として、表2に示す未脱硫のエタノール「ET−7」を水で希釈せずに用いた以外は実施例2と同様にして、脱硫処理液を得た。
得られた脱硫処理液(希釈に使用した水も含む)について、上述の方法により、硫黄化合物の濃度測定、および、回収率の測定を行った。
これらの結果を表6に示す。
【0137】
「実施例15−2」
アルコール類として、表2に示す未脱硫のエタノール「ET−7」を水で希釈せずに用い、チューブ型の分離膜内におけるエタノールの水希釈液の滞留時間を90分とした以外は実施例1と同様にして、硫黄化合物を含むエタノールの脱硫処理を行った。
得られた脱硫処理液(希釈に使用した水も含む)について、上述の方法により、硫黄化合物の濃度測定、および、回収率の測定を行った。
これらの結果を表6に示す。
【0138】
「実施例16−1」
アルコール類として、表2に示す未脱硫のエタノール「ET−9」を水で希釈せずに用いた以外は実施例2と同様にして、脱硫処理液を得た。
得られた脱硫処理液(希釈に使用した水も含む)について、上述の方法により、硫黄化合物の濃度測定、および、回収率の測定を行った。
これらの結果を表6に示す。
【0139】
「実施例16−2」
アルコール類として、表2に示す未脱硫のエタノール「ET−9」を水で希釈せずに用い、チューブ型の分離膜内におけるエタノールの水希釈液の滞留時間を90分とした以外は実施例1と同様にして、硫黄化合物を含むエタノールの脱硫処理を行った。
得られた脱硫処理液(希釈に使用した水も含む)について、上述の方法により、硫黄化合物の濃度測定、および、回収率の測定を行った。
これらの結果を表6に示す。
【0140】
【表6】

【0141】
実施例15、16の結果から、未脱硫のエタノールを水で希釈してから脱硫処理をおこなうことによって、脱硫効率が向上するとともに脱硫処理液の回収率が向上することを確認できた。
すなわち、実施例15−1と実施例7を比較すると、滞留時間が同じ(60分)であれば、未脱硫のエタノールを水で希釈した実施例7の方が脱硫処理液の回収率が高いことを確認できた。また、実施例15−2と実施例7を比較すると、エタノールに含まれる硫黄化合物の濃度を同程度(0.5重量ppm未満)まで低減するのに要する時間は、実施例7の方が短いことを確認できた。
また、実施例16−1と実施例9を比較すると、滞留時間が同じ(60分)であれば、未脱硫のエタノールを水で希釈した実施例9の方が脱硫処理液の回収率が高いことを確認できた。また、実施例16−2と実施例9を比較すると、エタノールに含まれる硫黄化合物の濃度を同程度(0.5重量ppm未満)まで低減するのに要する時間は、実施例9の方が短いことを確認できた。
【0142】
「実施例17」
図2に示す脱硫試験装置を用いて、硫黄化合物を含むエタノールの脱硫処理を行った。
中空糸型分離膜33としては、内径が0.17mm、外径が0.25mm、有効長さが140mmのシリコーン製中空糸膜を6000本束ねたもの(総表面積0.55m、商品名:NAGASEP M40−B、永柳工業社製)を用いた。
アルコール類として、表2に示す未脱硫のエタノール「ET−4」を用い、50℃にて、この未脱硫のエタノールを、容器31→流路37→分離器34→流路39→容器31→流路37→・・・の順に循環させ、中空糸型分離膜33を介して揮発した成分を、窒素ガス(1L/分)を用いてトラップ容器35内に捕集して、この捕集した揮発成分を液体窒素60により−195℃に冷却して凝縮し、揮発成分の凝縮液を回収した。
得られた凝縮液について、上述の方法により、硫黄化合物の濃度測定を行ったところ、総硫黄含有量は448ppmであった。
その結果、硫黄化合物を含有するエタノールを、パーベーパレーション法に基づく分離膜と接触させることによる脱硫処理によって、そのエタノール中の硫黄化合物の含有量を低減させることができることを確認できた。
【0143】
「実施例18」
エタノールの水蒸気改質反応において、エタノールに含まれる硫黄化合物の影響を調査した。
砂流動槽内に設置した改質触媒を充填した反応器を用い、温度330℃、反応器内の圧力1.5MPaG、水/エタノール比=2.0mol/molの条件にて、エタノールの低温水蒸気改質反応を行った。
このエタノールの低温水蒸気改質反応において、反応器内の温度分布の経時変化を測定した。
硫黄化合物をほとんど含まないエタノールを用いた場合の反応器内における温度分布の経時変化を、図3のグラフに示す。
また、表2に示す未脱硫のエタノール「ET−1」を用いた場合の反応器内における温度分布の経時変化を、図4のグラフに示す。
【0144】
このエタノールの低温水蒸気改質反応では、反応の進行に伴って発生する熱によって改質触媒の温度が上昇するが、図3および図4の結果から、硫黄化合物をほとんど含まないエタノールを用いた場合、その発熱する場所がほとんど変化しないのに対して、硫黄化合物を含むエタノールを用いた場合、発熱する場所が後流側へ移動していることが分かった。このような現象は、硫黄化合物が改質触媒を被毒していることに起因していると考えられる。
そこで、この反応試験後、反応に用いた改質触媒への硫黄および炭素の付着量を測定したところ、図5に示すような改質触媒への硫黄および炭素の付着量の分布が確認された。その結果、上記のような現象は、硫黄化合物が改質触媒を被毒していることに起因していることが裏付けられた。また、改質触媒に硫黄化合物が供給された場合、触媒層の上流側より徐々に硫黄が吸着することによって、改質触媒におけるエタノールの改質反応が行われなくなり、アルコールの熱分解などに起因する煤の生成が確認された。
【0145】
「比較例1」
未脱硫のエタノールの水希釈液として、エタノール:水=1mol:2mol(水の含有量44重量%)に調製したものを用いた。
温度350℃に保たれた砂流動槽内に設置した脱硫触媒と吸着剤を連結させた反応器を用い、反応器内の圧力を2.0MPaGとし、水素の存在下、水素/エタノール比=0.3mol/molの条件にて、未脱硫のエタノール水希釈液の脱硫処理を行った。
脱硫触媒として、CoO−MoO/γ−Al(「触媒A」とする。商品名:CDS−LX1、日揮触媒化成社製)、並びに、吸着剤として、純度およびアルミナ含有量の異なるZnO(ZnO純度:89.0重量%、アルミナ:4.0重量%)を1.7mmから2.8mmの粒径に揃えたZnO(「吸着剤B」とする。)を用いた。
実施例1と同様にして、得られた処理液(希釈に使用した水も含む)の総硫黄含有量を測定した結果、処理液の総硫黄含有量は45.7重量ppm以下であり、脱硫反応が僅かにしか進行しなかった。
【0146】
「比較例2」
酸性質を殆ど有さないSiOを担体とする脱硫触媒であるCoO−MoO/SiO(「触媒B」とする。)、および、吸着剤として、ZnO(吸着剤B)を用いた以外は比較例1と同様にして、未脱硫のエタノール水希釈液の脱硫処理を行った。
得られた処理液(希釈に使用した水も含む)の総硫黄含有量を測定した結果、処理液の総硫黄含有量は43.3重量ppm以下であり、脱硫反応が僅かにしか進行しなかった。
【0147】
「比較例3」
石油系原料の水添脱硫において使用されているγ−アルミナを含む担体に、活性金属としてコバルトおよびモリブデンを担持させた脱硫触媒(「触媒C」とする。)を用い、温度350℃、反応圧力2.0MPaGとし、水素の存在下、水素/エタノール比=0.2mol/molの条件にて反応を行い、さらに、試薬(商品名:酸化亜鉛 KC1級、ZnO純度:99重量%以上、アルミナ:0.0%、片山化学工業社製)を圧縮成型し、1.7mmから2.8mmの粒径にそろえることにより調製したZnO系の吸着触媒(「吸着剤C」とする。)を用いた以外は比較例1と同様にして、未脱硫のエタノール水希釈液の脱硫処理を行った。
得られた処理液(希釈に使用した水も含む)の総硫黄含有量を測定した結果、処理液の総硫黄含有量は44.5重量ppm以下であり、脱硫反応が僅かにしか進行しなかった
【0148】
実施例1〜17および比較例1〜3の結果より、硫黄化合物を含有するアルコール類を、パーベーパレーション法に基づく分離膜と接触させることによる脱硫処理を行うことによって、従来の触媒を用いた脱硫処理よりも硫黄含有量の低いアルコール類を生成できることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0149】
本発明のアルコール類の製造方法によれば、硫黄化合物を含有するアルコール類から簡易な脱硫処理により、硫黄化合物の含有量が著しく少ないアルコール類を得る工程を含む製造方法などを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0150】
【図1】本発明のアルコール類の製造方法に用いられる脱硫装置の一実施形態を示す概略構成図である。
【図2】本発明のアルコール類の製造方法に用いられる脱硫装置の他の実施形態を示す概略構成図である。
【図3】エタノールの低温水蒸気改質反応において、硫黄化合物をほとんど含まないエタノールを用いた場合の反応器内における温度分布の経時変化を示すグラフである。
【図4】エタノールの低温水蒸気改質反応において、表2に示す未脱硫のエタノール「ET−1」を用いた場合の反応器内における温度分布の経時変化を用いた場合の反応器内における温度分布の経時変化を示すグラフである。
【図5】エタノールの低温水蒸気改質反応に用いた改質触媒への硫黄および炭素の付着量の分布を示すグラフである。
【符号の説明】
【0151】
10・・・脱硫装置、11・・・容器、12・・・ポンプ、13・・・チューブ型の分離膜、14・・・回収容器、15・・・流路、20・・・アルコール類、21・・・脱硫処理液、30・・・脱硫装置、31・・・容器、32・・・ポンプ、33・・・中空糸型分離膜、34・・・分離器、35・・・トラップ容器、36・・・低温保存用断熱容器、37,38,39・・・流路、40・・・液送入口、41・・・排出口、42・・・ガス送入口、43・・・排出口、50・・・アルコール類、60・・・液体窒素。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄化合物を含有するアルコール類を、パーベーパレーション法に基づく分離膜と接触させることによる脱硫処理によって、前記アルコール類中の硫黄化合物の含有量を低減させる分離工程を有することを特徴とするアルコール類の製造方法。
【請求項2】
前記分離膜が、シリコーン膜、ポリイミド膜、ポリアミド膜、ポリエステル膜またはポリビニルアルコール膜の群から選択される1種であることを特徴とする請求項1に記載のアルコール類の製造方法。
【請求項3】
前記アルコール類が、1重量ppm以上のメタノールまたはプロパノール類を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のアルコール類の製造方法。
【請求項4】
前記アルコール類が、20重量ppm以上のメタノールまたは200重量ppm以上のプロパノール類を含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のアルコール類の製造方法。
【請求項5】
前記アルコール類中の総硫黄含有量を10重量ppm未満に低減させることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のアルコール類の製造方法。
【請求項6】
前記アルコール類中の総硫黄含有量を1重量ppm未満に低減させることを特徴とする請求項5に記載のアルコール類の製造方法。
【請求項7】
前記アルコール類中の総硫黄含有量を0.5重量ppm未満に低減させることを特徴とする請求項5または6に記載のアルコール類の製造方法。
【請求項8】
前記アルコール類が、10重量ppm以上の硫黄化合物を含むことを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載のアルコール類の製造方法。
【請求項9】
前記アルコール類を水で希釈された状態で供給し、前記脱硫処理を行うことを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載のアルコール類の製造方法。
【請求項10】
前記アルコール類が、エタノールであることを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1項に記載のアルコール類の製造方法。
【請求項11】
前記分離工程の前に、前記アルコール類に対して、反応処理による脱硫処理、物理吸着による脱硫処理、あるいは、化学吸着剤による脱硫処理のうちから選択される1つまたは2つ以上の方法による脱硫処理を施す前処理工程を有することを特徴とする請求項1ないし10のいずれか1項に記載のアルコール類の製造方法。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれか1項に記載のアルコール類の製造方法によって得られたアルコール類に接触改質反応を施して、水素または合成ガスを製造することを特徴とする水素または合成ガスの製造方法。
【請求項13】
請求項1ないし11のいずれか1項に記載のアルコール類の製造方法によって得られたことを特徴とするアルコール類。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−70512(P2010−70512A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−241598(P2008−241598)
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【出願人】(000004411)日揮株式会社 (94)
【出願人】(000162607)協和発酵ケミカル株式会社 (60)
【出願人】(308032666)協和発酵バイオ株式会社 (41)
【上記1名の代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
【Fターム(参考)】