アルミニウム−樹脂複合体の製造方法
【課題】接着剤を使用せずにアルミニウムと樹脂組成物の密着性を向上できる上、廃液処理が容易なアルミニウム−樹脂複合体の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のアルミニウム−樹脂複合体の製造方法では、アルミニウム製部品の表面をエッチング剤によって粗化処理する粗化工程と、前記粗化処理した表面に樹脂組成物を付着させる付着工程とを実施する。前記エッチング剤は、両性金属イオンと酸化剤とアルカリ源とを含むアルカリ系エッチング剤、並びに第二鉄イオン及び第二銅イオンの少なくとも一方と酸とを含む酸系エッチング剤から選ばれる一種以上である。
【解決手段】本発明のアルミニウム−樹脂複合体の製造方法では、アルミニウム製部品の表面をエッチング剤によって粗化処理する粗化工程と、前記粗化処理した表面に樹脂組成物を付着させる付着工程とを実施する。前記エッチング剤は、両性金属イオンと酸化剤とアルカリ源とを含むアルカリ系エッチング剤、並びに第二鉄イオン及び第二銅イオンの少なくとも一方と酸とを含む酸系エッチング剤から選ばれる一種以上である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム製部品の表面に樹脂組成物を付着させたアルミニウム−樹脂複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気・自動車分野を中心に、幅広い産業分野でアルミニウムと樹脂とを一体化させる技術が開発されている。従来、アルミニウムと樹脂との接合には、接着剤を使用することが一般的であり、このために多くの接着剤が開発されている。しかし、接着剤の使用は、生産工程を煩雑化して製品のコストアップの要因になっていた。また、接着剤を使用すると、高温下における接合強度が低下するので、自動車等の耐熱性が要求される用途への適用が困難となる。
【0003】
そのため、近年では、接着剤を使用せずにアルミニウムと樹脂とを一体化させる技術が研究されている。例えば、下記特許文献1には、アルミニウム合金をヒドラジン水溶液で浸漬処理することによって、その表面に30〜300nm径の凹部を形成した後、処理面にポリフェニレンサルファイドを含む熱可塑性樹脂組成物を射出成形して、アルミニウム−樹脂複合体を得る技術が提案されている。
【0004】
特許文献1に記載の方法によれば、アルミニウム表面が極微細にエッチングされ、更にその表面にヒドラジンが化学吸着する。その結果、射出成形時において化学吸着したヒドラジンに熱可塑性樹脂組成物が接触して発熱反応が生じるため、熱可塑性樹脂組成物が急速に冷却固化することなくアルミニウム表面に出来た微細凹部に浸入できる。これによりアンカー効果が得られるため、接着剤を使用せずにアルミニウムと樹脂組成物とを一体化させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−6721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前記特許文献1に記載の方法では、毒性の高いヒドラジンを使用するため、取扱い性が悪い上、廃液処理が困難となっていた。
【0007】
本発明は、前記のような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、接着剤を使用せずにアルミニウムと樹脂組成物との密着性を向上できる上、廃液処理が容易なアルミニウム−樹脂複合体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、アルミニウム製部品の表面をエッチング剤によって粗化処理する粗化工程と、前記粗化処理した表面に樹脂組成物を付着させる付着工程とが実施されるアルミニウム−樹脂複合体の製造方法である。前記エッチング剤は、両性金属イオンと酸化剤とアルカリ源とを含むアルカリ系エッチング剤、並びに第二鉄イオン及び第二銅イオンの少なくとも一方と酸とを含む酸系エッチング剤から選ばれる一種以上である。
【0009】
本発明では、アルミニウム製部品を粗化処理するエッチング剤として、前記アルカリ系エッチング剤及び前記酸系エッチング剤から選ばれる一種以上を使用する。これらのエッチング剤は、毒性の高い成分を配合する必要がないため、廃液処理が容易である。また、前記特定のエッチング剤で処理することにより、アルミニウム−樹脂組成物間の密着性向上に適した凹凸が形成され、そのアンカー効果によりアルミニウム−樹脂組成物間の密着性が向上する。
【0010】
なお、前記本発明における「アルミニウム」は、アルミニウムからなるものであってもよく、アルミニウム合金からなるものであってもよい。また、本明細書において「アルミニウム」は、アルミニウム又はアルミニウム合金をさす。
【0011】
また、本発明における「粗化処理」とは、エッチング剤を前記アルミニウム製部品に接触させることにより、前記アルミニウム製部品の表面の表面粗さ(Ra)が、処理前よりも大きくなるような処理をいう。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、特定のエッチング剤でアルミニウム製部品の表面を粗化処理するため、接着剤を用いなくてもアルミニウムと樹脂組成物の密着性を向上できる上、廃液処理が容易なアルミニウム−樹脂複合体の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施例で用いた試験用アルミニウム−樹脂複合体を示す斜視図。
【図2】(a)〜(c)は本実施例で用いた試験用アルミニウム−樹脂複合体を示す図で、(a)は上面図、(b)は側面図、(c)は(a)のA−A線断面図。
【図3】本実施例の気密性試験及び水密性試験に用いた試験装置の断面図。
【図4】一実施例の酸系エッチング剤により粗化処理されたアルミニウム製部品の表面の走査型電子顕微鏡写真(撮影角度45°、倍率3000倍)。
【図5】一実施例の酸系エッチング剤により粗化処理されたアルミニウム製部品の表面の走査型電子顕微鏡写真(撮影角度真上、倍率1000倍)。
【図6】一実施例の酸系エッチング剤により粗化処理されたアルミニウム製部品の表面の走査型電子顕微鏡写真(撮影角度真上、倍率5000倍)。
【図7】一実施例の酸系エッチング剤により粗化処理されたアルミニウム製部品の断面の走査型電子顕微鏡写真(倍率1000倍)。
【図8】一実施例の酸系エッチング剤により粗化処理されたアルミニウム製部品の断面の走査型電子顕微鏡写真(倍率5000倍)。
【図9】一実施例のアルカリ系エッチング剤により粗化処理されたアルミニウム製部品の表面の走査型電子顕微鏡写真(撮影角度45°、倍率5000倍)。
【図10】一実施例のアルカリ系エッチング剤により粗化処理されたアルミニウム製部品の表面の走査型電子顕微鏡写真(撮影角度真上、倍率1000倍)。
【図11】一実施例のアルカリ系エッチング剤により粗化処理されたアルミニウム製部品の表面の走査型電子顕微鏡写真(撮影角度真上、倍率10000倍)。
【図12】一実施例のアルカリ系エッチング剤により粗化処理されたアルミニウム製部品の断面の走査型電子顕微鏡写真(倍率1000倍)。
【図13】一実施例のアルカリ系エッチング剤により粗化処理されたアルミニウム製部品の断面の走査型電子顕微鏡写真(倍率10000倍)。
【図14】(a)は本実施例で用いた試験用アルミニウム−樹脂複合体を示す斜視図、(b)は本実施例の熱伝導性試験に用いた試験装置の断面図。
【図15】実施例12及び比較例6,7の熱伝導性試験における、樹脂組成物の表面温度の経時変化を示すグラフ。
【図16】一実施例の複合体の断面の走査型電子顕微鏡写真(倍率5000倍)。
【図17】(a)〜(c)は本実施例で用いた試験用アルミニウム−樹脂複合体を示す図で、(a)は斜視図、(b)は上面図、(c)は(a)のC−C線断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係るアルミニウム−樹脂複合体の製造方法について説明する。
【0015】
本実施形態のアルミニウム−樹脂複合体の製造方法では、アルミニウム製部品の表面をエッチング剤によって粗化処理する粗化工程と、前記粗化処理した表面に樹脂組成物を付着させる付着工程とが実施される。
【0016】
[アルミニウム製部品]
本実施形態で使用できるアルミニウム製部品(以下、「部品」ともいう)は、樹脂組成物を付着させてアルミニウム−樹脂複合体(以下、「複合体」ともいう)を形成できるような形状を有している限り、特にその形状は限定されない。例えば、アルミニウムの塊、板材、棒材等から塑性加工、鋸加工、フライス加工、放電加工、ドリル加工、プレス加工、研削加工、研磨加工等を単独、又はこれらの加工を組み合わせて所望の形状に機械加工されたもの等が使用できる。
【0017】
アルミニウム製部品は、樹脂組成物を付着させる表面に酸化膜や水酸化物等からなる厚い被膜がないことが望ましい。このような厚い被膜を除去するため、エッチング剤で処理する前に、サンドブラスト加工、ショットブラスト加工、研削加工、バレル加工等の機械研磨や、化学研磨により表面層を研磨してもよい。
【0018】
[エッチング剤]
本実施形態においては、前記アルミニウム製部品を粗化処理するエッチング剤として、アルカリ系エッチング剤及び酸系エッチング剤から選ばれる一種以上を使用する。これらのエッチング剤は、ヒドラジンのような毒性の高い成分を配合する必要がないため、取扱い性が良好であり、かつ廃液処理が容易である。前記特定のエッチング剤で処理することにより、アルミニウム−樹脂組成物間の密着性向上に適した凹凸がアルミニウム製部品の表面に形成され、そのアンカー効果によりアルミニウム−樹脂組成物間の密着性が向上するものと考えられる。
【0019】
更に、前記特定のエッチング剤で処理することにより、アルミニウムと樹脂組成物の界面からの水分や湿気の浸入を防ぐこともできる。つまり、前記特定のエッチング剤で処理することにより、複合体の付着界面における気密性や水密性を向上させることもできる。よって、本実施形態の製造方法は、高い気密性、水密性が要求される各種電極端子部品、各種センサー部品、各種スイッチ部品等の製造に好適である。
【0020】
付着界面における気密性や水密性を向上させるという観点、及びアルミニウム−樹脂組成物間の密着性を向上させるという観点から、より深い凹凸を形成できる酸系エッチング剤を用いることが好ましい。一方、作業性の観点からは、処理中のアルミニウムとの反応がより穏やかなアルカリ系エッチング剤を用いることが好ましい。また、本発明では、酸系エッチング剤によるエッチング処理とアルカリ系エッチング剤によるエッチング処理とを併用することもできる。以下、本実施形態で使用できるエッチング剤の各成分について説明する。
【0021】
(アルカリ系エッチング剤)
まず、前記アルカリ系エッチング剤について説明する。前記アルカリ系エッチング剤は、両性金属イオンと酸化剤とアルカリ源とを含み、必要に応じて、チオ化合物、各種添加剤等を含むことができる。
【0022】
<両性金属イオン>
前記両性金属イオンは、粗化処理中に部品の表面上でアルミニウムと置換反応することにより析出する。そして、析出した両性金属は、後述する酸化剤によりエッチング剤中に再溶解する。このように、両性金属イオンが析出と溶解を繰り返すことによって、樹脂組成物との密着性向上に適した凹凸が形成されるものと考えられる。前記両性金属イオンとしては、Alよりもイオン化傾向の小さい両性金属のイオンが好ましく、例えば、Znイオン、Pbイオン、Snイオン、Sbイオン、Cdイオン等が例示できる。アルミニウム−樹脂組成物間の密着性向上に適した良好な粗化形状を得るという観点、及び環境負荷の低減の観点から、Znイオン、Snイオンが好ましく、Znイオンがより好ましい。前記両性金属イオンの含有量は、アルミニウム−樹脂組成物間の密着性向上に適した良好な粗化形状を得るという観点から、0.2質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、1.0質量%以上であることが更に好ましい。また、適切な粗化処理速度を得るという観点から、前記両性金属イオンの含有量は、6.0質量%以下であることが好ましく、4.4質量%以下であることがより好ましく、3.5質量%以下であることが更に好ましい。
【0023】
前記両性金属イオンは、両性金属イオン源を配合することによって、アルカリ系エッチング剤中に含有させることができる。両性金属イオン源の例としては、Znイオン源の場合は、硝酸亜鉛、ホウ酸亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、臭化亜鉛、塩基性炭酸亜鉛、酸化亜鉛、硫化亜鉛等が挙げられる。また、Snイオン源の場合は、塩化錫(IV)、塩化錫(II)、酢酸錫(II)、臭化錫(II)、二リン酸錫(II)、しゅう酸錫(II)、酸化錫(II)、ヨウ化錫(II)、硫酸錫(II)、硫化錫(IV)、ステアリン酸錫(II)等が挙げられる。
【0024】
<酸化剤>
前記酸化剤は、粗化処理中に部品の表面上でアルミニウムと置換反応することにより析出する両性金属を再溶解させるために配合される。前記酸化剤の含有量は、両性金属の再溶解性の観点から、0.5質量%以上であることが好ましく、1.0質量%以上であることがより好ましく、2.0質量%以上であることが更に好ましい。また、アルミニウム−樹脂組成物間の密着性向上に適した良好な粗化形状を得るという観点から、前記酸化剤の含有量は、10.0質量%以下であることが好ましく、8.4質量%以下であることがより好ましく、6.0質量%以下であることが更に好ましい。
【0025】
前記酸化剤としては、亜塩素酸及び次亜塩素酸等の塩素酸並びにそれらの塩、過マンガン酸塩、クロム酸塩、重クロム酸塩、セリウム(IV)塩等の酸化性金属塩類、ニトロ基含有化合物、過酸化水素、過硫酸塩等の過酸化物、硝酸、硝酸イオン等が挙げられる。前記硝酸イオンは、硝酸塩等の硝酸イオン源を配合することによって、アルカリ系エッチング剤中に含有させることができる。中でも取扱い性の観点から、硝酸、硝酸イオンが好ましく、硝酸イオンがより好ましい。
【0026】
<アルカリ源>
前記アルカリ源は、両性金属イオンにより酸化されたアルミニウムを溶解させる成分である。アルカリ源としては、特に限定されないが、アルミニウムの溶解性の観点、及びコスト低減の観点から、無機アルカリ源が好ましく、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる一種以上の金属の水酸化物がより好ましく、NaOH、KOHが更に好ましい。前記アルカリ源の含有量は、アルミニウム−樹脂組成物間の密着性向上に適した良好な粗化形状を得るという観点から、水酸化物イオンとして0.60質量%以上であることが好ましく、1.45質量%以上であることがより好ましく、2.50質量%以上であることが更に好ましい。また、適切な粗化処理速度を得るという観点から、前記アルカリ源の含有量は、水酸化物イオンとして22.80質量%以下であることが好ましく、16.30質量%以下であることがより好ましく、12.25質量%以下であることが更に好ましい。
【0027】
<チオ化合物>
本実施形態で使用できる前記アルカリ系エッチング剤には、緻密な粗化処理を行うことによって、複合体の付着界面における気密性や水密性を更に向上させるという観点からチオ化合物を配合してもよい。同様の観点から、チオ化合物の含有量は、0.05質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、0.2質量%以上であることが更に好ましい。同様の観点から、チオ化合物の含有量は、25質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることが更に好ましい。
【0028】
前記チオ化合物としては、特に限定されないが、緻密な粗化形状を得るという観点から、チオ硫酸イオン及び炭素数1〜7のチオ化合物から選択される一種以上であることが好ましく、チオ硫酸イオン及び炭素数1〜3のチオ化合物から選択される一種以上であることがより好ましい。このうち、チオ硫酸イオン等のイオンは、そのイオン源を配合することによって、アルカリ系エッチング剤中に含有させることができる。
【0029】
前記炭素数1〜7のチオ化合物としては、チオ尿素(炭素数1)、チオグリコール酸イオン(炭素数2)、チオグリコール酸(炭素数2)、チオグリセロール(炭素数3)、L−チオプロリン(炭素数4)、ジチオジグリコール酸(炭素数4)、β,β'−チオジプロピオン酸(炭素数5)、N,N−ジエチルジチオカルバミン酸イオン(炭素数5)、3,3'−ジチオジプロピオン酸(炭素数6)、3,3'−ジチオジプロパノール(炭素数6)、o−チオクレゾール(炭素数7)、p−チオクレゾール(炭素数7)等が挙げられる。
【0030】
<他の成分>
本実施形態で使用できるアルカリ系エッチング剤には、指紋等の表面汚染物による粗化のむらを防ぐために界面活性剤を添加してもよく、必要に応じて他の添加剤を添加してもよい。他の添加剤としては、アルミニウムの溶解に伴うスラッジ発生を抑制するための添加剤、例えば、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸等のオキシカルボン酸及びそれらの塩等が例示できる。これら他の成分を添加する場合、その含有量は、0.1〜5質量%程度であるのが好ましい。
【0031】
本実施形態で使用できるアルカリ系エッチング剤は、前記の各成分をイオン交換水等に溶解させることにより容易に調製することができる。
【0032】
(酸系エッチング剤)
次に、前記酸系エッチング剤について説明する。前記酸系エッチング剤は、第二鉄イオン及び第二銅イオンの少なくとも一方と酸とを含み、必要に応じて、マンガンイオン、各種添加剤等を含むことができる。
【0033】
<第二鉄イオン>
前記第二鉄イオンは、アルミニウムを酸化する成分であり、第二鉄イオン源を配合することによって、酸系エッチング剤中に含有させることができる。前記第二鉄イオン源としては、硝酸第二鉄、硫酸第二鉄、塩化第二鉄等があげられる。前記第二鉄イオン源のうちでは、塩化第二鉄が溶解性に優れ、安価であるという点から好ましい。
【0034】
本発明において、酸系エッチング剤によるエッチングのみが実施されアルカリ系エッチング剤によるエッチングが行われない場合、及び酸系エッチング剤によるエッチング後にアルカリ系エッチング剤によるエッチングが行われる場合、酸系エッチング剤中の前記第二鉄イオンの含有量は、好ましくは0.01〜20質量%、より好ましくは1.5〜12質量%、更に好ましくは2.5〜7質量%、更により好ましくは4〜6質量%である。一方、アルカリ系エッチング剤によるエッチング後に酸系エッチング剤によるエッチングが行われる場合、前記第二鉄イオンの含有量は、好ましくは0.01〜20質量%、より好ましくは0.5〜12質量%、更に好ましくは0.5〜7質量%、更により好ましくは0.6〜6質量%である。前記含有量が0.01質量%以上であれば、アルミニウムの粗化速度(溶解速度)の低下を防ぐことができる。一方、前記含有量が20質量%以下であれば、粗化速度を適正に維持することができるため、アルミニウム−樹脂組成物間の密着性向上に適した均一な粗化が可能になる。
【0035】
<第二銅イオン>
前記第二銅イオンはアルミニウムを酸化する成分であり、第二銅イオン源を配合することによって、酸系エッチング剤中に含有させることができる。前記第二銅イオン源としては、硫酸第二銅、塩化第二銅、硝酸第二銅、水酸化第二銅等があげられる。前記第二銅イオン源のうちでは、硫酸第二銅、塩化第二銅が安価であるという点から好ましい。
【0036】
前記第二銅イオンの含有量は、0.001〜10質量%であることが好ましく、より好ましくは0.01〜7質量%、更に好ましくは0.05〜1質量%、更により好ましくは0.1〜0.8質量%、更により好ましくは0.15〜0.7質量%、特に好ましくは0.15〜0.4質量%である。前記含有量が0.001質量%以上であれば、アルミニウムの粗化速度(溶解速度)の低下を防ぐことができる。一方、前記含有量が10質量%以下であれば、粗化速度を適正に維持することができるため、アルミニウム−樹脂組成物間の密着性向上に適した均一な粗化が可能になる。
【0037】
前記酸系エッチング剤は、第二鉄イオン及び第二銅イオンの一方のみを含むものであってもよく、両方を含むものであってもよい。本発明において、酸系エッチング剤によるエッチングのみが実施されアルカリ系エッチング剤によるエッチングが行われない場合、及び酸系エッチング剤によるエッチング後にアルカリ系エッチング剤によるエッチングが行われる場合、前記酸系エッチング剤は、第二鉄イオン及び第二銅イオンの両方を含むことが好ましい。酸系エッチング剤が第二鉄イオン及び第二銅イオンの両方を含むことで、アルミニウム−樹脂組成物間の密着性向上に適した良好な粗化形状が容易に得られる。
【0038】
前記酸系エッチング剤が、第二鉄イオン及び第二銅イオンの両方を含む場合、第二鉄イオン及び第二銅イオンのそれぞれの含有量が、前記範囲であることが好ましい。また、酸系エッチング剤中の第二鉄イオンと第二銅イオンの含有量の合計は、0.011〜20質量%であることが好ましく、より好ましくは1.5〜15質量%、更に好ましくは2.5〜10質量%である。
【0039】
<マンガンイオン>
前記酸系エッチング剤には、部品表面をむらなく一様に粗化するために、マンガンイオンが含まれていてもよい。マンガンイオンは、マンガンイオン源を配合することによって、酸系エッチング剤中に含有させることができる。前記マンガンイオン源としては、硫酸マンガン、塩化マンガン、酢酸マンガン、フッ化マンガン、硝酸マンガン等があげられる。前記マンガンイオン源のうちでは、硫酸マンガン、塩化マンガンが安価である等の点から好ましい。
【0040】
前記マンガンイオンの含有量は、0.02〜1.5質量%であることが好ましく、より好ましくは0.06〜0.6質量%、更に好ましくは0.1〜0.5質量%である。前記含有量が0.02質量%以上であれば、アルミニウム−樹脂組成物間の密着性向上に適した均一な粗化が可能になる。一方、前記含有量が1.5質量%以下であれば、コスト低減が容易となる。特に、本発明において、酸系エッチング剤によるエッチングのみが実施されアルカリ系エッチング剤によるエッチングが行われない場合、及び酸系エッチング剤によるエッチング後にアルカリ系エッチング剤によるエッチングが行われる場合は、前記酸系エッチング剤がマンガンイオンを含有することで、アルミニウム−樹脂組成物間の密着性向上に適した良好な粗化形状が均一に得られやすい。
【0041】
<酸>
前記酸は、第二鉄イオン及び/又は第二銅イオンにより酸化されたアルミニウムを溶解させる成分である。前記酸としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、過塩素酸、スルファミン酸等の無機酸や、スルホン酸、カルボン酸等の有機酸があげられる。前記カルボン酸としては、ギ酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、リンゴ酸等があげられる。前記酸系エッチング剤には、これらの酸を一種又は2種以上配合することができる。前記無機酸のうちでは、臭気がほとんどなく、安価である点から硫酸が好ましい。また、前記有機酸のうちでは、粗化形状の均一性の観点から、カルボン酸が好ましい。
【0042】
前記酸の含有量は、0.1〜50質量%であることが好ましく、1〜50質量%であることがより好ましく、5〜50質量%であることが更に好ましく、5〜30質量%であることが更により好ましく、7〜25質量%であることが更により好ましく、8〜18質量%であることが更により好ましい。前記含有量が0.1質量%以上であれば、アルミニウムの粗化速度(溶解速度)の低下を防止できる。一方、前記含有量が50質量%以下であれば、液温が低下した際のアルミニウム塩の結晶析出を防止できるため、作業性を向上できる。
【0043】
<他の成分>
本実施形態で使用できる酸系エッチング剤には、指紋等の表面汚染物による粗化のむらを防ぐために界面活性剤を添加してもよく、必要に応じて他の添加剤を添加してもよい。他の添加剤としては、深い凹凸を形成するために添加されるハロゲン化物イオン源、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム等が例示できる。あるいは、粗化処理速度を上げるために添加されるチオ硫酸イオン、チオ尿素等のチオ化合物や、より均一な粗化形状を得るために添加されるイミダゾール、トリアゾール、テトラゾール等のアゾール類や、粗化反応を制御するために添加されるpH調整剤等も例示できる。これら他の成分を添加する場合、その合計含有量は、0.01〜10質量%程度であるのが好ましい。
【0044】
本実施形態の酸系エッチング剤は、前記の各成分をイオン交換水等に溶解させることにより容易に調製することができる。
【0045】
[粗化工程]
次に、上述したエッチング剤を用いて部品の表面を粗化処理する粗化工程について説明する。まず、アルカリ系エッチング剤を用いる場合について説明する。
【0046】
前記アルカリ系エッチング剤を用いて粗化処理を行う際に、処理対象物である前記アルミニウム部品表面に機械油等の著しい汚染がある場合は、脱脂を行なった後、前記アルカリ系エッチング剤による粗化処理を行なうことが好ましい。前記アルカリ系エッチング剤による粗化処理方法としては、浸漬、スプレー等による処理方法が挙げられる。処理温度は20〜40℃が好ましく、処理時間は10〜500秒程度が好ましい。前記処理後は、通常、水洗及び乾燥が行なわれる。
【0047】
本実施形態では、前記アルカリ系エッチング剤を用いて粗化処理した後に、析出した両性金属の除去を目的として酸洗浄を行うことが好ましい。酸洗浄に用いる酸は両性金属を溶解できるものであれば特に限定されないが、特に硝酸水溶液、硫酸水溶液、及び硫酸と過酸化水素とを含有する水溶液から選択される一種以上の水溶液を用いることが好ましい。前記水溶液による酸洗浄は、部品表面に析出した両性金属の除去と、部品表面の再不働態化を同時に行うことができるため、処理表面の保存安定性向上の観点から好ましい。前記水溶液による酸処理方法としては、浸漬、スプレー等による処理が挙げられる。処理温度は20〜40℃が好ましく、処理時間は5〜80秒程度が好ましい。前記処理後は、通常、水洗及び乾燥が行なわれる。
【0048】
前記水溶液として硝酸水溶液を用いる場合は、両性金属の除去性能とアルミニウムの腐食を抑制する観点から、硝酸の濃度が5〜65質量%であることが好ましく、15〜45質量%であることがより好ましい。前記水溶液として硫酸水溶液を用いる場合は、両性金属の除去性能とアルミニウムの腐食を抑制する観点から、硫酸の濃度が5〜60質量%であることが好ましく、20〜40質量%であることがより好ましい。
【0049】
前記水溶液として硫酸と過酸化水素とを含有する水溶液を用いる場合は、両性金属の除去性能の観点、及びアルミニウムの腐食を抑制する観点から、硫酸の濃度が5〜60質量%であることが好ましく、20〜40質量%であることがより好ましい。同様の観点から、過酸化水素の濃度が1〜40質量%であることが好ましく、5〜30質量%であることがより好ましい。
【0050】
本実施形態では、前記したように酸洗浄、特に硝酸水溶液、硫酸水溶液、及び硫酸と過酸化水素とを含有する水溶液から選択される一種以上の水溶液で粗化面を処理した後、更に該処理面を陽極酸化処理(アルマイト処理)してもよい。前記陽極酸化処理を行うと、耐食性を更に向上させることができる。
【0051】
また、本実施形態では、アルカリ系エッチング剤を用いて粗化処理した後に、塩酸、臭化水素酸等のハロゲン化水素酸や、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる一種以上の金属の水酸化物を含むアルカリ性水溶液を用いて、粗化面を洗浄してもよい。ハロゲン化水素酸やアルカリ性水溶液により粗化面の洗浄を行うと、粗化面がわずかにエッチングされるため、粗化面の形状を制御することができる。より深い凹部を有する粗化面を形成するには、ハロゲン化水素酸で処理することが好ましい。なお、前記アルカリ性水溶液は、両性金属イオンの含有量が0.1質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下であり、両性金属イオンを含まないことが特に好ましい。
【0052】
前記ハロゲン化水素酸により洗浄する場合は、粗化面の形状を容易に制御する観点から、ハロゲン化水素の濃度が1〜35質量%のハロゲン化水素酸を用いるのが好ましい。ハロゲン化水素酸としては、コストの観点及び取扱い性の観点から塩酸が好ましい。
【0053】
前記ハロゲン化水素酸により洗浄する場合、処理方法としては、浸漬、スプレー等による処理が挙げられる。処理温度は20〜40℃が好ましく、処理時間は5〜300秒程度が好ましい。前記処理後は、通常、水洗及び乾燥が行なわれる。
【0054】
前記アルカリ性水溶液により洗浄する場合は、粗化面の形状を容易に制御する観点から、水酸化物の濃度が1〜48質量%のアルカリ性水溶液を用いるのが好ましい。水酸化物としては、コストの観点及び取扱い性の観点から水酸化カリウム、水酸化ナトリウムが好ましい。
【0055】
前記アルカリ性水溶液により洗浄する場合、処理方法としては、浸漬、スプレー等による処理が挙げられる。処理温度は20〜40℃が好ましく、処理時間は5〜300秒程度が好ましい。前記処理後は、通常、水洗及び乾燥が行なわれる。また、前記アルカリ性水溶液で粗化面を洗浄した後、洗浄後の粗化面を更に酸洗浄することが好ましい。前記アルカリ系エッチング剤の処理で析出した両性金属の除去ができるからである。前記酸洗浄に用いる酸や処理条件等は、上述した両性金属の除去を目的として行う酸洗浄の場合と同様である。
【0056】
次に、前記酸系エッチング剤を用いて粗化処理工程を実施する場合について説明する。前記酸系エッチング剤を用いる場合も、処理対象物であるアルミニウム製部品表面に機械油等の著しい汚染がある場合は、水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム水溶液等のアルカリ性水溶液による処理や、脱脂を行なった後、前記酸系エッチング剤による粗化処理を行なうことが好ましい。前記酸系エッチング剤を用いて粗化処理する方法としては、浸漬、スプレー等による処理方法が挙げられる。処理温度は20〜40℃が好ましく、処理時間は5〜300秒程度が好ましい。前記処理後は、通常、水洗及び乾燥が行なわれる。
【0057】
前記酸系エッチング剤を用いて粗化処理した結果、部品表面の凹凸が細かくなりすぎた場合は、アルカリ性水溶液で細かすぎる部分のみを溶解させて除去することができる。ここで用いられるアルカリ性水溶液としては、濃度1〜5質量%程度の水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム水溶液等が挙げられる。この場合、アルカリ性水溶液で処理した後、表面に残るスマットを、希硝酸で溶解除去するのが好ましい。アルミニウム製部品を粗化した後の酸系エッチング剤は、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム等を加えて中和することにより、エッチング剤中に溶解しているアルミニウムを容易に凝集、沈殿させることができるので、廃液処理が容易である。
【0058】
前記アルカリ系エッチング剤又は前記酸系エッチング剤を用いた粗化処理によって、部品表面が凹凸形状に粗化される。前記アルカリ系エッチング剤を用いた際のアルミニウム製部品の深さ方向のエッチング量(溶解量)は、溶解したアルミニウムの質量、比重及び表面積から算出した場合、0.1〜15μmであることが好ましく、0.1〜10μmであることがより好ましく、0.5〜5μmであることが更に好ましい。エッチング量が0.1μm以上であれば、アルミニウム−樹脂組成物間の密着性をより向上させることができる。また、エッチング量が15μm以下であれば、処理コストの低減が可能となる。エッチング量は、処理温度や処理時間等により調整できる。
【0059】
前記酸系エッチング剤を用いた際のアルミニウム製部品の深さ方向のエッチング量(溶解量)は、溶解したアルミニウムの質量、比重及び表面積から算出した場合、0.1〜500μmであることが好ましく、5〜500μmであることがより好ましく、5〜100μmであることが更に好ましい。エッチング量が0.1μm以上であれば、アルミニウム−樹脂組成物間の密着性をより向上させることができる。また、エッチング量が500μm以下であれば、処理コストの低減が可能となる。エッチング量は、処理温度や処理時間等により調整できる。
【0060】
なお、本実施形態では、前記アルカリ系エッチング剤又は前記酸系エッチング剤を用いて部品を粗化処理する際、部品表面の全面を粗化処理してもよく、樹脂組成物が付着される面だけを部分的に粗化処理してもよい。
【0061】
また、本実施形態では、前記アルカリ系エッチング剤による処理と、前記酸系エッチング剤による処理を併用してもよい。処理の順番は限定されないが、前記アルカリ系エッチング剤による処理後に、前記酸系エッチング剤による処理を行うと、アルミニウム−樹脂組成物間の密着性向上に適した良好な粗化形状を容易に得ることができるため好ましい。この場合、前記アルカリ系エッチング剤による処理と前記酸系エッチング剤による処理との間に、水洗工程を行うことが好ましい。更に、前記酸系エッチング剤による処理をした後、生じたスマットを除去するため、酸洗浄及び/又は超音波洗浄を施すことが好ましい。前記酸洗浄では、アルカリ系エッチング剤処理後に両性金属の除去を目的として行う酸洗浄において使用される酸として前述した酸と同様のものが使用でき、その際の洗浄条件についても同様である。また、本発明の効果を損なわない範囲で、その他のエッチング剤によるウェットエッチングや、各種のドライエッチングを併用してもよい。
【0062】
[樹脂組成物の付着工程]
次に、前記粗化処理工程で粗化処理された前記アルミニウム製部品の表面上に樹脂組成物を付着させる樹脂組成物の付着工程を実施する。かかる付着工程を実施することで本実施形態のアルミニウム−樹脂複合体が得られる。本実施形態では、前記特定のエッチング剤で処理することにより、アルミニウム−樹脂組成物間の密着性向上に適した凹凸が前記部品表面に形成されるため、接着剤を使用せずにアルミニウム−樹脂組成物間の密着性確保が可能となる。粗化処理した部品表面上に樹脂組成物を付着させる方法としては、特に限定されず、射出成形、押し出し成形、加熱プレス成形、圧縮成形、トランスファーモールド成形、注型成形、レーザー溶着成形、反応射出成形(RIM成形)、リム成形(LIM成形)、溶射成形等の樹脂成形方法が採用できる。また、アルミニウム表面に樹脂組成物皮膜をコーティングしたアルミニウム−樹脂組成物皮膜からなる複合体を製造する場合は、溶剤に樹脂組成物を溶解又は分散させて塗布するコーティング法や、その他の各種塗装方法が採用できる。その他の塗装方法としては、焼き付け塗装、電着塗装、静電塗装、粉体塗装、紫外線硬化塗装等が例示できる。中でも、樹脂組成物部分の形状の自由度や、生産性等の観点から、射出成形、トランスファーモールド成形が好ましい。前記列挙した成形方法の成形条件は、樹脂組成物に応じて公知の条件を採用することができる。
【0063】
[樹脂組成物]
本実施形態で使用できる樹脂組成物としては、前記列挙した成形方法で部品表面に付着させることができる限り、特に限定されず、熱可塑性樹脂組成物や熱硬化性樹脂組成物の中から用途に応じて選択することができる。
【0064】
(熱可塑性樹脂組成物)
熱可塑性樹脂組成物を使用する場合、主成分となる熱可塑性樹脂としては、ポリアミド6やポリアミド66等のポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリロニトリル・スチレン共重合樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、液晶性ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、シンジオタクチックポリスチレン樹脂、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート樹脂、フッ素樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、非晶ポリアリレート樹脂、芳香族ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、液晶ポリマー、ポリエーテルニトリル樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン・アクリル酸共重合樹脂、エチレン・メタクリル酸共重合樹脂等や、これら2種以上を組み合わせたもの等を挙げることができる。中でも、成形加工が容易なポリアミド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂が好ましく、アルミニウム−樹脂組成物間の密着性を向上させるという観点からポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂がより好ましい。また、複合体の付着界面における気密性や水密性を向上させるという観点からポリアミド樹脂がより好ましく、ポリアミド6が更に好ましい。
【0065】
本実施形態で使用できる熱可塑性樹脂組成物としては、前記列挙した熱可塑性樹脂からなる組成物であってもよく、本発明の効果を損なわない程度に、前記列挙した熱可塑性樹脂に対して、従来公知の各種無機・有機フィラー、難燃剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、光安定剤、着色剤、カーボンブラック、加工助剤、核剤、離型剤、可塑剤等の添加剤を添加した組成物であってもよい。中でもアルミニウムと樹脂組成物との線膨張率の差によって生じるアルミニウム−樹脂組成物間の界面剥離を防止するために、前記列挙した熱可塑性樹脂100質量部に対して、無機フィラーを10〜200質量部添加することが好ましい。また、複合体の放熱性を向上させるためには、熱伝導性フィラーを添加することが好ましい。前記熱伝導性フィラーとしては、絶縁性が求められる場合は、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛、酸化チタン等の金属酸化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、窒化ホウ素、窒化アルミニウム等の金属窒化物、酸化窒化アルミニウム等の金属酸窒化物、炭化珪素等の金属炭化物等を含有する熱伝導性フィラーを使用することができる。導電性が求められる用途では、アルミニウムや銅等の金属、あるいは黒鉛等の炭素材料等を含有する熱伝導性フィラーを使用することができる。前記熱伝導性フィラーの添加量は、成形性と放熱性を両立させる観点から、前記列挙した熱可塑性樹脂100体積部に対して、熱伝導性フィラーを10〜1000体積部添加することが好ましく、10〜500体積部添加することがより好ましく、10〜200体積部添加することが更に好ましい。
【0066】
(熱硬化性樹脂組成物)
樹脂組成物として熱硬化性樹脂組成物を使用する場合、主成分となる熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ジアリルフタレート樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂、シアネート樹脂、シリコーン樹脂等や、これら2種以上を組み合わせたもの等を挙げることができる。中でも、成形加工が容易なフェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂が好ましく、アルミニウム−樹脂組成物間の密着性を向上させるという観点、及び複合体の付着界面における気密性や水密性を向上させるという観点からフェノール樹脂がより好ましい。
【0067】
本実施形態で使用できる熱硬化性樹脂組成物としては、前記列挙した熱硬化性樹脂からなる組成物であってもよく、本発明の効果を損なわない程度に、前記列挙した熱硬化性樹脂に対して、従来公知の各種無機・有機フィラー、難燃剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、光安定剤、着色剤、カーボンブラック、加工助剤、核剤、離型剤、可塑剤等の添加剤を添加した組成物であってもよい。中でもアルミニウムと樹脂組成物との線膨張率の差によって生じるアルミニウム−樹脂組成物間の界面剥離を防止するために、前記列挙した熱硬化性樹脂100質量部に対して、無機フィラーを10〜200質量部添加することが好ましい。また、複合体の放熱性を向上させるためには、熱伝導性フィラーを添加することが好ましい。前記熱伝導性フィラーとしては、絶縁性が求められる場合は、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛、酸化チタン等の金属酸化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、窒化ホウ素、窒化アルミニウム等の金属窒化物、酸化窒化アルミニウム等の金属酸窒化物、炭化珪素等の金属炭化物等を含有する熱伝導性フィラーを使用することができる。導電性が求められる用途では、アルミニウムや銅等の金属、あるいは黒鉛等の炭素材料等を含有する熱伝導性フィラーを使用することができる。熱伝導性フィラーの添加量は、成形性と放熱性を両立させる観点から、前記列挙した熱硬化性樹脂100体積部に対して、熱伝導性フィラーを10〜1000体積部添加することが好ましく、10〜500体積部添加することがより好ましく、10〜200体積部添加することが更に好ましい。
【0068】
(その他の樹脂組成物)
本実施形態で使用できる樹脂組成物としては、前記列挙した樹脂組成物以外にも、アクリル樹脂、スチレン樹脂等を含む光硬化性樹脂組成物や、ゴム、エラストマー等を含む反応硬化性樹脂組成物等、各種の樹脂組成物を挙げることができる。
【0069】
本実施形態で例示される本発明の複合体の製造方法は、電子機器用部品、家電機器用部品、あるいは輸送機械用部品等の各種機械用部品等の製造に用いられ、更に詳しくは、モバイル用途等の各種電子機器用部品、家電製品用部品、医療機器用部品、車両用構造部品、車両搭載用部品、その他の電気部品や放熱用部品等の製造に好適である。放熱用部品の製造に適用した場合、アルミニウム製部品の表面を粗化することによって表面積が増加するため、アルミニウム−樹脂組成物間の接触面積が増加し、接触界面の熱抵抗を低減させることができる。よって、本発明の方法を放熱用部品の製造に適用すると、密着性や気密・水密性を向上させる効果以外に、放熱性を向上させる効果も得られる。
【実施例】
【0070】
次に、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0071】
[引張せん断試験]
(実施例1〜4:酸系エッチング剤による粗化)
JIS H4000に規定された合金番号5052のアルミニウム板(厚み:2mm)を、長さ110mm、幅25mmに切断した。このアルミニウム製部品を表1に示す組成の酸系エッチング剤(30℃)中に浸漬し、揺動させることによって、表2に示すエッチング量だけエッチングした後、水洗を行った。次に5質量%の水酸化ナトリウム水溶液(25℃)中に前記処理後のアルミニウム製部品を浸漬して30秒間揺動させた後、水洗を行った。次に35質量%の硝酸水溶液(25℃)中に前記処理後のアルミニウム製部品を浸漬して30秒間揺動させた後、水洗を行い、乾燥させた。なお、前記エッチング量は、エッチング処理前後のアルミニウム製部品の質量差、アルミニウムの比重、及びアルミニウム製部品の表面積から算出したエッチング量であり、エッチング時間で調整した。以下に示す「エッチング量」も同様である。
【0072】
処理後のアルミニウム製部品と表2に示す樹脂組成物を用いて、表3に示す成形条件にて射出成形(使用装置:型式TH60−9VSE(単動)、日精樹脂工業社製)して、図1に示すように、アルミニウム製部品1と、樹脂組成物2とが一端側で上下に重なりあっている複合体を得た。なお、重なり部分aの長さは12.5mmである。また、樹脂組成物2は、長さ110mm、幅25mm、厚み2mmである。得られた複合体について、引張り試験機(インストロン社製万能試験機、型式:1175)により、引張り速度1mm/分で図1に示す方向Xに引っ張って、破断するときの強度を引張せん断強度とした。引張せん断強度の測定結果を表2に示す。
【0073】
(比較例1)
比較例1として、実施例1において粗化処理を行っていないこと以外は同様の条件で複合体を成形し、実施例1と同様に引張せん断強度を測定した。
【0074】
【表1】
【0075】
【表2】
【0076】
【表3】
【0077】
表2の結果より、実施例1乃至4の複合体は、引張せん断強度がいずれも良好であった。比較例1の複合体は射出成形後にアルミニウム製部品から樹脂組成物の一部が剥がれ落ちて、測定することができなかった。
【0078】
[垂直押込試験]
(実施例5,6:アルカリ系エッチング剤による粗化)
JIS H4000に規定された合金番号5052のアルミニウム板材(厚み:2mm)を、80mm×80mmの寸法に切断し、中央に20mmφの穴をあけて試験用のアルミニウム製部品を得た。前記試験用アルミニウム製部品を、実施例5及び実施例6として、それぞれ表4に示す組成のアルカリ系エッチング剤(35℃)中に浸漬し、揺動させることによって、表5に示すエッチング量だけエッチングした。水洗を行った後、15質量%の硝酸水溶液(25℃)中に前記処理後のアルミニウム製部品を浸漬して60秒間揺動させた後、水洗を行い、乾燥させた。前記処理後のアルミニウム製部品と、表5に示す樹脂組成物を用いて、トランスファーモールド成形機(装置型式:TA−37、株式会社神藤金属工業所製)によってトランスファーモールド成形し、図2(a)〜(c)に示す形状のアルミニウム製部品10と樹脂組成物20とが積層された試験用の複合体3を得た。なお、成形条件は、金型温度155℃、注入圧力17.7MPaに設定した。成形後の複合体3を1週間、25〜30℃の雰囲気温度で放置することによってエージングし、試験機(インストロン社製万能試験機、型式:1175)により、押込み速度1mm/分で、図2(b)に示す方向Yに押し込んで、アルミニウム製部品から樹脂が剥がれるときの強度(MPa)を垂直押込強度とした。結果を表5に示す。
【0079】
(実施例7,8:酸系エッチング剤による粗化)
実施例7については、JIS H4000に規定された合金番号5052のアルミニウム板材(厚み:2mm)を、前記実施例5と同様の寸法に切断し、中央に20mmφの穴をあけて試験用のアルミニウム製部品を得た。かかるアルミニウム製部品を、前記実施例1と同様の手順で、35質量%硝酸水溶液による処理まで行い、水洗、乾燥させた。次いで、前記実施例5と同様にトランスファーモールドによって複合体3を成形し、同様に垂直押込強度を測定した。実施例8については、樹脂組成物として表5に記載のものを用い、成形条件として表3の「ポリアミド6」の条件を用いた以外は実施例7と同様に複合体3を成形し、同様に垂直押込強度を測定した。結果を表5に示す。なお、実施例7の評価については、複合体3を得た後、1週間、25〜30℃の雰囲気温度で放置することによってエージングしたものを用いた。
【0080】
(比較例2,3)
比較例2として、実施例5の粗化処理を行っていないこと以外は実施例5と同様の条件で複合体3を成形し、前記と同様に垂直押込強度を測定した。更に、比較例3として、実施例8の粗化処理を行っていないこと以外は実施例8と同様の条件で複合体3を成形し、前記と同様に垂直押込強度を測定した。結果を表5に示す。なお、比較例2の評価については、複合体3を得た後、1週間、25〜30℃の雰囲気温度で放置することによってエージングしたものを用いた。
【0081】
【表4】
【0082】
【表5】
【0083】
表5に示すように、各実施例では、垂直押込強度が所定以上の強度であった。実施例5と実施例6との対比から、アルカリ系エッチング剤がチオ化合物を含有することで、より密着性に優れる複合体が得られることがわかる。一方、各比較例の複合体は成形後にアルミニウム製部品から樹脂組成物の一部が剥がれ落ちて、測定することができなかった。
【0084】
[気密性試験及び水密性試験]
(実施例9〜11及び比較例4,5)
前記実施例5,7,8と同様の手順で複合体3を成形し、それぞれ実施例9,10,11の評価用複合体とした。
また、前記比較例2及び3と同様の手順で複合体3を成形し、それぞれ比較例4及び5の評価用複合体とした。
得られた各複合体について、以下に示す方法で気密性試験及び水密性試験を行った。なお、実施例9、10及び比較例4の評価については、複合体3を得た後、1週間、25〜30℃の雰囲気温度で放置することによってエージングしたものを用いた。
【0085】
<気密・水密試験方法>
図3に示す試験装置を用いて評価を行った。まず、耐圧気密容器の金属製容器部11に、ゴム製Oリング12を介して複合体3をセットし、金属製上蓋部11aで複合体3を挟み込むように固定した。気密試験方法としては、複合体3をセットした耐圧気密容器を水槽に投入し、エアーバルブ(図示せず)を徐々に開放して耐圧気密容器内の圧力を上げていき、複合体3の付着界面からのエアー漏れの有無を確認した。この際、所定の圧力をかけて3分間の静置状態においてエアー漏れが無ければ、当該圧力下での気密性は良好と判断した。試験は圧力0.1MPaから開始し、エアー漏れが無ければ順次0.1MPaずつ上げていき、最大0.4MPaまで試験を行った。そして、0.1MPaでエアー漏れがあった場合をC、0.2〜0.3MPaでエアー漏れが無く、かつ0.4MPaでエアー漏れがあった場合をB、0.4MPaでエアー漏れがなかった場合をAとして気密性の評価を行った。
【0086】
水密試験方法としては、前記気密試験において、耐圧気密容器を水槽に投入しないことと、エアーの代わりに水を注入し、水洩れの有無で評価したこと以外は、同様の方法で行った。圧力0.1MPaで水漏れがあった場合をC、0.2〜0.3MPaで水漏れが無く、かつ0.4MPaで水漏れがあった場合をB、0.4MPaで水漏れがなかった場合をAとして水密性の評価を行った。結果を表6に示す。
【0087】
【表6】
【0088】
表6に示すように、各実施例では気密性、水密性のいずれも良好であるが、各比較例では、いずれも0.1MPaでエアー漏れ及び水漏れが生じた。以上の結果から、本発明によれば、アルミニウムと樹脂組成物との密着性に加えて、気密性及び水密性にも優れる複合体が得られることが分かる。
【0089】
[表面観察、断面観察]
前記実施例1の粗化工程と同様の条件で酸系エッチング剤を用いて処理したアルミニウム製部品の表面及び断面を走査型電子顕微鏡(SEM)(型式JSM−7000F、日本電子社製)で観察した。その際のSEM写真を図4乃至図8に示す。同様に前記実施例5の粗化工程と同様の条件でアルカリ系エッチング剤を用いて処理したアルミニウム製部品の表面及び断面を走査型電子顕微鏡(SEM)(型式JSM−7000F、日本電子社製)で観察した。その際のSEM写真を図9乃至図13に示す。
【0090】
[熱伝導性試験]
以下に示す方法により、複合体のアルミニウム−樹脂組成物間における熱伝導性を評価した。
【0091】
(実施例12)
JIS H4000に規定された合金番号5052のアルミニウム板材(厚み:2mm)を、10mm×25mmの寸法に切断し、試験用のアルミニウム製部品を得た。前記アルミニウム製部品と熱伝導性ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物(東レ社製、グレード名:H718LB)を用いて、前記実施例3と同様の粗化条件及び成形条件で、図14(a)に示すようなアルミニウム製部品400の一主面の全面に前記樹脂組成物500が積層された複合体を得た。樹脂組成物500の寸法は、10mm×25mm×厚み2mmであった。次いで、図14(b)に示すように、60℃の水200を入れた恒温槽100を準備し、水200の水面にステンレス鋼製バット300を浮かべて60分間放置した後、ステンレス鋼製バット300の底面と前記複合体のアルミニウム製部品400とを、シリコーングリス600を介して固着させた。シリコーングリス600としては、バリューウェーブ社製シリコーングリス(型番:TG01)を用いた。そして、ステンレス鋼製バット300と前記複合体のアルミニウム製部品400とを固着した直後から、樹脂組成物500の表面500aの表面温度をミニ放射温度計(CUSTOM社製、型番:IR−200)により2秒間隔で測定し、定常状態(温度変化が安定した状態)になるまで測定を継続した。測定の際は、樹脂組成物500の表面500aと、ミニ放射温度計の検知器先端との間隔を1cm空けて測定した。この際の樹脂組成物500の表面温度の経時変化を図15に示す。なお、測定中の樹脂組成物500付近の雰囲気温度は30℃であった。
【0092】
(比較例6,7:接着剤等による複合体の形成)
比較例6及び比較例7では、樹脂組成物からなる板状物とアルミニウム板とを用いて、以下に示す手順で、それぞれグリース及び接着剤を介して積層させて複合体を形成し、評価を行った。熱伝導性ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物(東レ社製、グレード名:H718LB)からなる板状物(10mm×25mm×厚み2mm)を前記実施例3と同様の条件で射出成形により得た。粗化処理していないこと以外は実施例12で用いたものと同様のアルミニウム製部品と前記板状物とを、バリューウェーブ社製シリコーングリス(型番:TG01)を介して実施例12と同様に積層させて比較例6の複合体を得た。また、前記比較例6において、シリコーングリスの代わりにセメダイン社製シリコーン系接着剤(品番:RE−215)を用いて前記板状物と前記アルミニウム製部品とを接着したこと以外は同様の方法で、比較例7の複合体を得た。比較例6,7の複合体について、前記実施例12と同様の方法で熱伝導性試験を行った。結果を図15に示す。
【0093】
図15に示すように、実施例12は、比較例6,7に比べ、定常状態に到達するまでの時間が短かった。これは、実施例12のアルミニウム−樹脂組成物間における熱伝導性が比較例6,7に比べ高いことに起因するものと考えられる。この結果から、本発明によれば、複合体のアルミニウム−樹脂組成物間における熱伝導性が高く(即ち熱抵抗が低く)なるため、複合体の放熱性を向上できることが分かる。
【0094】
[断面観察]
前記実施例12と同様の条件で成形した複合体の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)(型式JSM−7000F、日本電子社製)で観察した。その際のSEM写真を図16に示す。図16に示すように、アルミニウム製部品表面に形成された凹凸の窪みに多数の熱伝導性フィラーが入り込んでいることが分かる。本実施例では、アルミニウム製部品表面の粗化によるアルミニウム−樹脂組成物間の接触面積の増加と、アルミニウム−樹脂組成物間の接触界面の窪みに多数入り込んだ熱伝導性フィラーにより、前記接触界面の熱抵抗を低減できると考えられる。
【0095】
[押込せん断試験]
(実施例13,14:アルカリ系エッチングと酸系エッチングの併用)
JIS H4000に規定された合金番号5052のアルミニウム板(厚み:2mm)を、40mm×40mmに切断した。このアルミニウム製部品を表4に示す組成のアルカリ系エッチング剤(35℃)中に浸漬し、1分間揺動させた後、水洗を行った。次いで、表8に示す組成の酸系エッチング剤(30℃)中に浸漬し、揺動させることによって、表8に示すエッチング量だけエッチングし、水洗を行った。なお、表8に示すエッチング量は、前記アルカリ系エッチング剤によるエッチング量と前記酸系エッチング剤によるエッチング量の合計である。次いで、15質量%の硝酸水溶液(25℃)中に前記処理後のアルミニウム製部品を浸漬して20秒間揺動させた後、超音波洗浄(水中)を行い、乾燥させた。
【0096】
処理後のアルミニウム製部品とポリプラスチックス社製ポリフェニレンサルファイド樹脂(品番1140A7)を用いて、表7に示す成形条件にて射出成形(使用装置:型式TH60−9VSE(単動)、日精樹脂工業社製)して、図17(a)〜(c)に示すように、アルミニウム製部品700と、樹脂組成物800とが一端側で上下に重なりあっている複合体を得た。得られた複合体について、引張り試験機(インストロン社製万能試験機、型式:1175)により、押込み速度1mm/分で、図17(c)に示す方向Zに押し込んで、アルミニウム製部品から樹脂が剥がれるときの強度(MPa)を押込せん断強度とした。
【0097】
【表7】
【0098】
(実施例15及び比較例8)
実施例15として、実施例13において酸系エッチング剤によるエッチングを行わず、アルカリ系エッチング剤のみでエッチングを行った。エッチング量は表8に示す通りである。それ以外は実施例13と同様の条件で複合体を成形し、同様に押込せん断強度を測定した。
比較例8として、実施例13において粗化処理を行っていないこと以外は同様の条件で複合体を成形し、実施例13と同様に押込せん断強度を測定した。
【0099】
[ヘリウムリーク試験]
(実施例16:アルカリ系エッチングと酸系エッチングの併用)
実施例16では、実施例5と同様の試験用のアルミニウム製部品を用い、実施例13と同様の粗化処理条件及び複合体成形条件で、図2に示す試験用の複合体3(アルミニウム−ポリフェニレンサルファイド樹脂複合体)を得た。得られた複合体3をヘリウムリークディテクタ(島津製作所社製、MSE−2000R)にセットし、ディテクタ内のヘリウム分圧が5.0×10−11Pa・m3/秒以下になるまで真空に引いた後、上記複合体3にヘリウムガスを吹き付けた際のディテクタ内のヘリウム分圧を測定した。
【0100】
(実施例17及び比較例9)
実施例17として、実施例5と同様の試験用のアルミニウム製部品を用い、実施例15と同様の粗化処理条件及び複合体成形条件で、図2に示す試験用の複合体3(アルミニウム−ポリフェニレンサルファイド樹脂複合体)を得た。得られた複合体3について、実施例16と同様にヘリウムリーク試験を行った。
比較例9として、実施例16において粗化処理を行っていないこと以外は同様の条件で複合体3を成形し、同様にヘリウムリーク試験を行った。
【0101】
実施例13〜15及び比較例8の押込せん断強度、並びに実施例16,17及び比較例9のヘリウムリーク試験におけるヘリウム分圧を、酸系エッチング剤の組成とともに表8に示す。なお、ヘリウムリーク試験では、ヘリウムガスを吹き付けた際のヘリウム分圧が小さい値であるほど、複合体の付着界面における気密性が高いと評価できる。
【0102】
【表8】
【0103】
表8に示すように、比較例8,9の複合体は、成形後にアルミニウム製部品から樹脂組成物の一部が剥がれ落ちて、押込せん断強度測定及びヘリウムリーク試験を行うことができなかった。一方、各実施例では、押込せん断強度が所定値以上であり、ヘリウムリーク試験におけるヘリウム分圧が所定値以下であった。これらの結果から、本発明の製造方法によれば、密着性及び気密性に優れる複合体が得られることが分かる。特に、アルカリ系エッチング剤による処理後に酸系エッチング剤による処理が行われた実施例13、14では、実施例15に比して3倍以上の高い押込せん断強度が得られている。また、実施例16では、実施例17に比して高い気密性を有している。この結果から、アルカリ系エッチングと酸系エッチングとの併用により、より密着性及び気密性に優れる複合体が得られることが分かる。
【符号の説明】
【0104】
1、10、400、700:アルミニウム製部品
2、20、500、800:樹脂組成物
3:複合体
11:金属製容器部
11a:金属製上蓋部
12:Oリング
100:恒温漕
200:水
300:ステンレス鋼製バット
500a:樹脂組成物の表面
600:シリコーングリス
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム製部品の表面に樹脂組成物を付着させたアルミニウム−樹脂複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気・自動車分野を中心に、幅広い産業分野でアルミニウムと樹脂とを一体化させる技術が開発されている。従来、アルミニウムと樹脂との接合には、接着剤を使用することが一般的であり、このために多くの接着剤が開発されている。しかし、接着剤の使用は、生産工程を煩雑化して製品のコストアップの要因になっていた。また、接着剤を使用すると、高温下における接合強度が低下するので、自動車等の耐熱性が要求される用途への適用が困難となる。
【0003】
そのため、近年では、接着剤を使用せずにアルミニウムと樹脂とを一体化させる技術が研究されている。例えば、下記特許文献1には、アルミニウム合金をヒドラジン水溶液で浸漬処理することによって、その表面に30〜300nm径の凹部を形成した後、処理面にポリフェニレンサルファイドを含む熱可塑性樹脂組成物を射出成形して、アルミニウム−樹脂複合体を得る技術が提案されている。
【0004】
特許文献1に記載の方法によれば、アルミニウム表面が極微細にエッチングされ、更にその表面にヒドラジンが化学吸着する。その結果、射出成形時において化学吸着したヒドラジンに熱可塑性樹脂組成物が接触して発熱反応が生じるため、熱可塑性樹脂組成物が急速に冷却固化することなくアルミニウム表面に出来た微細凹部に浸入できる。これによりアンカー効果が得られるため、接着剤を使用せずにアルミニウムと樹脂組成物とを一体化させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−6721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前記特許文献1に記載の方法では、毒性の高いヒドラジンを使用するため、取扱い性が悪い上、廃液処理が困難となっていた。
【0007】
本発明は、前記のような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、接着剤を使用せずにアルミニウムと樹脂組成物との密着性を向上できる上、廃液処理が容易なアルミニウム−樹脂複合体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、アルミニウム製部品の表面をエッチング剤によって粗化処理する粗化工程と、前記粗化処理した表面に樹脂組成物を付着させる付着工程とが実施されるアルミニウム−樹脂複合体の製造方法である。前記エッチング剤は、両性金属イオンと酸化剤とアルカリ源とを含むアルカリ系エッチング剤、並びに第二鉄イオン及び第二銅イオンの少なくとも一方と酸とを含む酸系エッチング剤から選ばれる一種以上である。
【0009】
本発明では、アルミニウム製部品を粗化処理するエッチング剤として、前記アルカリ系エッチング剤及び前記酸系エッチング剤から選ばれる一種以上を使用する。これらのエッチング剤は、毒性の高い成分を配合する必要がないため、廃液処理が容易である。また、前記特定のエッチング剤で処理することにより、アルミニウム−樹脂組成物間の密着性向上に適した凹凸が形成され、そのアンカー効果によりアルミニウム−樹脂組成物間の密着性が向上する。
【0010】
なお、前記本発明における「アルミニウム」は、アルミニウムからなるものであってもよく、アルミニウム合金からなるものであってもよい。また、本明細書において「アルミニウム」は、アルミニウム又はアルミニウム合金をさす。
【0011】
また、本発明における「粗化処理」とは、エッチング剤を前記アルミニウム製部品に接触させることにより、前記アルミニウム製部品の表面の表面粗さ(Ra)が、処理前よりも大きくなるような処理をいう。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、特定のエッチング剤でアルミニウム製部品の表面を粗化処理するため、接着剤を用いなくてもアルミニウムと樹脂組成物の密着性を向上できる上、廃液処理が容易なアルミニウム−樹脂複合体の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施例で用いた試験用アルミニウム−樹脂複合体を示す斜視図。
【図2】(a)〜(c)は本実施例で用いた試験用アルミニウム−樹脂複合体を示す図で、(a)は上面図、(b)は側面図、(c)は(a)のA−A線断面図。
【図3】本実施例の気密性試験及び水密性試験に用いた試験装置の断面図。
【図4】一実施例の酸系エッチング剤により粗化処理されたアルミニウム製部品の表面の走査型電子顕微鏡写真(撮影角度45°、倍率3000倍)。
【図5】一実施例の酸系エッチング剤により粗化処理されたアルミニウム製部品の表面の走査型電子顕微鏡写真(撮影角度真上、倍率1000倍)。
【図6】一実施例の酸系エッチング剤により粗化処理されたアルミニウム製部品の表面の走査型電子顕微鏡写真(撮影角度真上、倍率5000倍)。
【図7】一実施例の酸系エッチング剤により粗化処理されたアルミニウム製部品の断面の走査型電子顕微鏡写真(倍率1000倍)。
【図8】一実施例の酸系エッチング剤により粗化処理されたアルミニウム製部品の断面の走査型電子顕微鏡写真(倍率5000倍)。
【図9】一実施例のアルカリ系エッチング剤により粗化処理されたアルミニウム製部品の表面の走査型電子顕微鏡写真(撮影角度45°、倍率5000倍)。
【図10】一実施例のアルカリ系エッチング剤により粗化処理されたアルミニウム製部品の表面の走査型電子顕微鏡写真(撮影角度真上、倍率1000倍)。
【図11】一実施例のアルカリ系エッチング剤により粗化処理されたアルミニウム製部品の表面の走査型電子顕微鏡写真(撮影角度真上、倍率10000倍)。
【図12】一実施例のアルカリ系エッチング剤により粗化処理されたアルミニウム製部品の断面の走査型電子顕微鏡写真(倍率1000倍)。
【図13】一実施例のアルカリ系エッチング剤により粗化処理されたアルミニウム製部品の断面の走査型電子顕微鏡写真(倍率10000倍)。
【図14】(a)は本実施例で用いた試験用アルミニウム−樹脂複合体を示す斜視図、(b)は本実施例の熱伝導性試験に用いた試験装置の断面図。
【図15】実施例12及び比較例6,7の熱伝導性試験における、樹脂組成物の表面温度の経時変化を示すグラフ。
【図16】一実施例の複合体の断面の走査型電子顕微鏡写真(倍率5000倍)。
【図17】(a)〜(c)は本実施例で用いた試験用アルミニウム−樹脂複合体を示す図で、(a)は斜視図、(b)は上面図、(c)は(a)のC−C線断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係るアルミニウム−樹脂複合体の製造方法について説明する。
【0015】
本実施形態のアルミニウム−樹脂複合体の製造方法では、アルミニウム製部品の表面をエッチング剤によって粗化処理する粗化工程と、前記粗化処理した表面に樹脂組成物を付着させる付着工程とが実施される。
【0016】
[アルミニウム製部品]
本実施形態で使用できるアルミニウム製部品(以下、「部品」ともいう)は、樹脂組成物を付着させてアルミニウム−樹脂複合体(以下、「複合体」ともいう)を形成できるような形状を有している限り、特にその形状は限定されない。例えば、アルミニウムの塊、板材、棒材等から塑性加工、鋸加工、フライス加工、放電加工、ドリル加工、プレス加工、研削加工、研磨加工等を単独、又はこれらの加工を組み合わせて所望の形状に機械加工されたもの等が使用できる。
【0017】
アルミニウム製部品は、樹脂組成物を付着させる表面に酸化膜や水酸化物等からなる厚い被膜がないことが望ましい。このような厚い被膜を除去するため、エッチング剤で処理する前に、サンドブラスト加工、ショットブラスト加工、研削加工、バレル加工等の機械研磨や、化学研磨により表面層を研磨してもよい。
【0018】
[エッチング剤]
本実施形態においては、前記アルミニウム製部品を粗化処理するエッチング剤として、アルカリ系エッチング剤及び酸系エッチング剤から選ばれる一種以上を使用する。これらのエッチング剤は、ヒドラジンのような毒性の高い成分を配合する必要がないため、取扱い性が良好であり、かつ廃液処理が容易である。前記特定のエッチング剤で処理することにより、アルミニウム−樹脂組成物間の密着性向上に適した凹凸がアルミニウム製部品の表面に形成され、そのアンカー効果によりアルミニウム−樹脂組成物間の密着性が向上するものと考えられる。
【0019】
更に、前記特定のエッチング剤で処理することにより、アルミニウムと樹脂組成物の界面からの水分や湿気の浸入を防ぐこともできる。つまり、前記特定のエッチング剤で処理することにより、複合体の付着界面における気密性や水密性を向上させることもできる。よって、本実施形態の製造方法は、高い気密性、水密性が要求される各種電極端子部品、各種センサー部品、各種スイッチ部品等の製造に好適である。
【0020】
付着界面における気密性や水密性を向上させるという観点、及びアルミニウム−樹脂組成物間の密着性を向上させるという観点から、より深い凹凸を形成できる酸系エッチング剤を用いることが好ましい。一方、作業性の観点からは、処理中のアルミニウムとの反応がより穏やかなアルカリ系エッチング剤を用いることが好ましい。また、本発明では、酸系エッチング剤によるエッチング処理とアルカリ系エッチング剤によるエッチング処理とを併用することもできる。以下、本実施形態で使用できるエッチング剤の各成分について説明する。
【0021】
(アルカリ系エッチング剤)
まず、前記アルカリ系エッチング剤について説明する。前記アルカリ系エッチング剤は、両性金属イオンと酸化剤とアルカリ源とを含み、必要に応じて、チオ化合物、各種添加剤等を含むことができる。
【0022】
<両性金属イオン>
前記両性金属イオンは、粗化処理中に部品の表面上でアルミニウムと置換反応することにより析出する。そして、析出した両性金属は、後述する酸化剤によりエッチング剤中に再溶解する。このように、両性金属イオンが析出と溶解を繰り返すことによって、樹脂組成物との密着性向上に適した凹凸が形成されるものと考えられる。前記両性金属イオンとしては、Alよりもイオン化傾向の小さい両性金属のイオンが好ましく、例えば、Znイオン、Pbイオン、Snイオン、Sbイオン、Cdイオン等が例示できる。アルミニウム−樹脂組成物間の密着性向上に適した良好な粗化形状を得るという観点、及び環境負荷の低減の観点から、Znイオン、Snイオンが好ましく、Znイオンがより好ましい。前記両性金属イオンの含有量は、アルミニウム−樹脂組成物間の密着性向上に適した良好な粗化形状を得るという観点から、0.2質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、1.0質量%以上であることが更に好ましい。また、適切な粗化処理速度を得るという観点から、前記両性金属イオンの含有量は、6.0質量%以下であることが好ましく、4.4質量%以下であることがより好ましく、3.5質量%以下であることが更に好ましい。
【0023】
前記両性金属イオンは、両性金属イオン源を配合することによって、アルカリ系エッチング剤中に含有させることができる。両性金属イオン源の例としては、Znイオン源の場合は、硝酸亜鉛、ホウ酸亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、臭化亜鉛、塩基性炭酸亜鉛、酸化亜鉛、硫化亜鉛等が挙げられる。また、Snイオン源の場合は、塩化錫(IV)、塩化錫(II)、酢酸錫(II)、臭化錫(II)、二リン酸錫(II)、しゅう酸錫(II)、酸化錫(II)、ヨウ化錫(II)、硫酸錫(II)、硫化錫(IV)、ステアリン酸錫(II)等が挙げられる。
【0024】
<酸化剤>
前記酸化剤は、粗化処理中に部品の表面上でアルミニウムと置換反応することにより析出する両性金属を再溶解させるために配合される。前記酸化剤の含有量は、両性金属の再溶解性の観点から、0.5質量%以上であることが好ましく、1.0質量%以上であることがより好ましく、2.0質量%以上であることが更に好ましい。また、アルミニウム−樹脂組成物間の密着性向上に適した良好な粗化形状を得るという観点から、前記酸化剤の含有量は、10.0質量%以下であることが好ましく、8.4質量%以下であることがより好ましく、6.0質量%以下であることが更に好ましい。
【0025】
前記酸化剤としては、亜塩素酸及び次亜塩素酸等の塩素酸並びにそれらの塩、過マンガン酸塩、クロム酸塩、重クロム酸塩、セリウム(IV)塩等の酸化性金属塩類、ニトロ基含有化合物、過酸化水素、過硫酸塩等の過酸化物、硝酸、硝酸イオン等が挙げられる。前記硝酸イオンは、硝酸塩等の硝酸イオン源を配合することによって、アルカリ系エッチング剤中に含有させることができる。中でも取扱い性の観点から、硝酸、硝酸イオンが好ましく、硝酸イオンがより好ましい。
【0026】
<アルカリ源>
前記アルカリ源は、両性金属イオンにより酸化されたアルミニウムを溶解させる成分である。アルカリ源としては、特に限定されないが、アルミニウムの溶解性の観点、及びコスト低減の観点から、無機アルカリ源が好ましく、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる一種以上の金属の水酸化物がより好ましく、NaOH、KOHが更に好ましい。前記アルカリ源の含有量は、アルミニウム−樹脂組成物間の密着性向上に適した良好な粗化形状を得るという観点から、水酸化物イオンとして0.60質量%以上であることが好ましく、1.45質量%以上であることがより好ましく、2.50質量%以上であることが更に好ましい。また、適切な粗化処理速度を得るという観点から、前記アルカリ源の含有量は、水酸化物イオンとして22.80質量%以下であることが好ましく、16.30質量%以下であることがより好ましく、12.25質量%以下であることが更に好ましい。
【0027】
<チオ化合物>
本実施形態で使用できる前記アルカリ系エッチング剤には、緻密な粗化処理を行うことによって、複合体の付着界面における気密性や水密性を更に向上させるという観点からチオ化合物を配合してもよい。同様の観点から、チオ化合物の含有量は、0.05質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、0.2質量%以上であることが更に好ましい。同様の観点から、チオ化合物の含有量は、25質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることが更に好ましい。
【0028】
前記チオ化合物としては、特に限定されないが、緻密な粗化形状を得るという観点から、チオ硫酸イオン及び炭素数1〜7のチオ化合物から選択される一種以上であることが好ましく、チオ硫酸イオン及び炭素数1〜3のチオ化合物から選択される一種以上であることがより好ましい。このうち、チオ硫酸イオン等のイオンは、そのイオン源を配合することによって、アルカリ系エッチング剤中に含有させることができる。
【0029】
前記炭素数1〜7のチオ化合物としては、チオ尿素(炭素数1)、チオグリコール酸イオン(炭素数2)、チオグリコール酸(炭素数2)、チオグリセロール(炭素数3)、L−チオプロリン(炭素数4)、ジチオジグリコール酸(炭素数4)、β,β'−チオジプロピオン酸(炭素数5)、N,N−ジエチルジチオカルバミン酸イオン(炭素数5)、3,3'−ジチオジプロピオン酸(炭素数6)、3,3'−ジチオジプロパノール(炭素数6)、o−チオクレゾール(炭素数7)、p−チオクレゾール(炭素数7)等が挙げられる。
【0030】
<他の成分>
本実施形態で使用できるアルカリ系エッチング剤には、指紋等の表面汚染物による粗化のむらを防ぐために界面活性剤を添加してもよく、必要に応じて他の添加剤を添加してもよい。他の添加剤としては、アルミニウムの溶解に伴うスラッジ発生を抑制するための添加剤、例えば、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸等のオキシカルボン酸及びそれらの塩等が例示できる。これら他の成分を添加する場合、その含有量は、0.1〜5質量%程度であるのが好ましい。
【0031】
本実施形態で使用できるアルカリ系エッチング剤は、前記の各成分をイオン交換水等に溶解させることにより容易に調製することができる。
【0032】
(酸系エッチング剤)
次に、前記酸系エッチング剤について説明する。前記酸系エッチング剤は、第二鉄イオン及び第二銅イオンの少なくとも一方と酸とを含み、必要に応じて、マンガンイオン、各種添加剤等を含むことができる。
【0033】
<第二鉄イオン>
前記第二鉄イオンは、アルミニウムを酸化する成分であり、第二鉄イオン源を配合することによって、酸系エッチング剤中に含有させることができる。前記第二鉄イオン源としては、硝酸第二鉄、硫酸第二鉄、塩化第二鉄等があげられる。前記第二鉄イオン源のうちでは、塩化第二鉄が溶解性に優れ、安価であるという点から好ましい。
【0034】
本発明において、酸系エッチング剤によるエッチングのみが実施されアルカリ系エッチング剤によるエッチングが行われない場合、及び酸系エッチング剤によるエッチング後にアルカリ系エッチング剤によるエッチングが行われる場合、酸系エッチング剤中の前記第二鉄イオンの含有量は、好ましくは0.01〜20質量%、より好ましくは1.5〜12質量%、更に好ましくは2.5〜7質量%、更により好ましくは4〜6質量%である。一方、アルカリ系エッチング剤によるエッチング後に酸系エッチング剤によるエッチングが行われる場合、前記第二鉄イオンの含有量は、好ましくは0.01〜20質量%、より好ましくは0.5〜12質量%、更に好ましくは0.5〜7質量%、更により好ましくは0.6〜6質量%である。前記含有量が0.01質量%以上であれば、アルミニウムの粗化速度(溶解速度)の低下を防ぐことができる。一方、前記含有量が20質量%以下であれば、粗化速度を適正に維持することができるため、アルミニウム−樹脂組成物間の密着性向上に適した均一な粗化が可能になる。
【0035】
<第二銅イオン>
前記第二銅イオンはアルミニウムを酸化する成分であり、第二銅イオン源を配合することによって、酸系エッチング剤中に含有させることができる。前記第二銅イオン源としては、硫酸第二銅、塩化第二銅、硝酸第二銅、水酸化第二銅等があげられる。前記第二銅イオン源のうちでは、硫酸第二銅、塩化第二銅が安価であるという点から好ましい。
【0036】
前記第二銅イオンの含有量は、0.001〜10質量%であることが好ましく、より好ましくは0.01〜7質量%、更に好ましくは0.05〜1質量%、更により好ましくは0.1〜0.8質量%、更により好ましくは0.15〜0.7質量%、特に好ましくは0.15〜0.4質量%である。前記含有量が0.001質量%以上であれば、アルミニウムの粗化速度(溶解速度)の低下を防ぐことができる。一方、前記含有量が10質量%以下であれば、粗化速度を適正に維持することができるため、アルミニウム−樹脂組成物間の密着性向上に適した均一な粗化が可能になる。
【0037】
前記酸系エッチング剤は、第二鉄イオン及び第二銅イオンの一方のみを含むものであってもよく、両方を含むものであってもよい。本発明において、酸系エッチング剤によるエッチングのみが実施されアルカリ系エッチング剤によるエッチングが行われない場合、及び酸系エッチング剤によるエッチング後にアルカリ系エッチング剤によるエッチングが行われる場合、前記酸系エッチング剤は、第二鉄イオン及び第二銅イオンの両方を含むことが好ましい。酸系エッチング剤が第二鉄イオン及び第二銅イオンの両方を含むことで、アルミニウム−樹脂組成物間の密着性向上に適した良好な粗化形状が容易に得られる。
【0038】
前記酸系エッチング剤が、第二鉄イオン及び第二銅イオンの両方を含む場合、第二鉄イオン及び第二銅イオンのそれぞれの含有量が、前記範囲であることが好ましい。また、酸系エッチング剤中の第二鉄イオンと第二銅イオンの含有量の合計は、0.011〜20質量%であることが好ましく、より好ましくは1.5〜15質量%、更に好ましくは2.5〜10質量%である。
【0039】
<マンガンイオン>
前記酸系エッチング剤には、部品表面をむらなく一様に粗化するために、マンガンイオンが含まれていてもよい。マンガンイオンは、マンガンイオン源を配合することによって、酸系エッチング剤中に含有させることができる。前記マンガンイオン源としては、硫酸マンガン、塩化マンガン、酢酸マンガン、フッ化マンガン、硝酸マンガン等があげられる。前記マンガンイオン源のうちでは、硫酸マンガン、塩化マンガンが安価である等の点から好ましい。
【0040】
前記マンガンイオンの含有量は、0.02〜1.5質量%であることが好ましく、より好ましくは0.06〜0.6質量%、更に好ましくは0.1〜0.5質量%である。前記含有量が0.02質量%以上であれば、アルミニウム−樹脂組成物間の密着性向上に適した均一な粗化が可能になる。一方、前記含有量が1.5質量%以下であれば、コスト低減が容易となる。特に、本発明において、酸系エッチング剤によるエッチングのみが実施されアルカリ系エッチング剤によるエッチングが行われない場合、及び酸系エッチング剤によるエッチング後にアルカリ系エッチング剤によるエッチングが行われる場合は、前記酸系エッチング剤がマンガンイオンを含有することで、アルミニウム−樹脂組成物間の密着性向上に適した良好な粗化形状が均一に得られやすい。
【0041】
<酸>
前記酸は、第二鉄イオン及び/又は第二銅イオンにより酸化されたアルミニウムを溶解させる成分である。前記酸としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、過塩素酸、スルファミン酸等の無機酸や、スルホン酸、カルボン酸等の有機酸があげられる。前記カルボン酸としては、ギ酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、リンゴ酸等があげられる。前記酸系エッチング剤には、これらの酸を一種又は2種以上配合することができる。前記無機酸のうちでは、臭気がほとんどなく、安価である点から硫酸が好ましい。また、前記有機酸のうちでは、粗化形状の均一性の観点から、カルボン酸が好ましい。
【0042】
前記酸の含有量は、0.1〜50質量%であることが好ましく、1〜50質量%であることがより好ましく、5〜50質量%であることが更に好ましく、5〜30質量%であることが更により好ましく、7〜25質量%であることが更により好ましく、8〜18質量%であることが更により好ましい。前記含有量が0.1質量%以上であれば、アルミニウムの粗化速度(溶解速度)の低下を防止できる。一方、前記含有量が50質量%以下であれば、液温が低下した際のアルミニウム塩の結晶析出を防止できるため、作業性を向上できる。
【0043】
<他の成分>
本実施形態で使用できる酸系エッチング剤には、指紋等の表面汚染物による粗化のむらを防ぐために界面活性剤を添加してもよく、必要に応じて他の添加剤を添加してもよい。他の添加剤としては、深い凹凸を形成するために添加されるハロゲン化物イオン源、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム等が例示できる。あるいは、粗化処理速度を上げるために添加されるチオ硫酸イオン、チオ尿素等のチオ化合物や、より均一な粗化形状を得るために添加されるイミダゾール、トリアゾール、テトラゾール等のアゾール類や、粗化反応を制御するために添加されるpH調整剤等も例示できる。これら他の成分を添加する場合、その合計含有量は、0.01〜10質量%程度であるのが好ましい。
【0044】
本実施形態の酸系エッチング剤は、前記の各成分をイオン交換水等に溶解させることにより容易に調製することができる。
【0045】
[粗化工程]
次に、上述したエッチング剤を用いて部品の表面を粗化処理する粗化工程について説明する。まず、アルカリ系エッチング剤を用いる場合について説明する。
【0046】
前記アルカリ系エッチング剤を用いて粗化処理を行う際に、処理対象物である前記アルミニウム部品表面に機械油等の著しい汚染がある場合は、脱脂を行なった後、前記アルカリ系エッチング剤による粗化処理を行なうことが好ましい。前記アルカリ系エッチング剤による粗化処理方法としては、浸漬、スプレー等による処理方法が挙げられる。処理温度は20〜40℃が好ましく、処理時間は10〜500秒程度が好ましい。前記処理後は、通常、水洗及び乾燥が行なわれる。
【0047】
本実施形態では、前記アルカリ系エッチング剤を用いて粗化処理した後に、析出した両性金属の除去を目的として酸洗浄を行うことが好ましい。酸洗浄に用いる酸は両性金属を溶解できるものであれば特に限定されないが、特に硝酸水溶液、硫酸水溶液、及び硫酸と過酸化水素とを含有する水溶液から選択される一種以上の水溶液を用いることが好ましい。前記水溶液による酸洗浄は、部品表面に析出した両性金属の除去と、部品表面の再不働態化を同時に行うことができるため、処理表面の保存安定性向上の観点から好ましい。前記水溶液による酸処理方法としては、浸漬、スプレー等による処理が挙げられる。処理温度は20〜40℃が好ましく、処理時間は5〜80秒程度が好ましい。前記処理後は、通常、水洗及び乾燥が行なわれる。
【0048】
前記水溶液として硝酸水溶液を用いる場合は、両性金属の除去性能とアルミニウムの腐食を抑制する観点から、硝酸の濃度が5〜65質量%であることが好ましく、15〜45質量%であることがより好ましい。前記水溶液として硫酸水溶液を用いる場合は、両性金属の除去性能とアルミニウムの腐食を抑制する観点から、硫酸の濃度が5〜60質量%であることが好ましく、20〜40質量%であることがより好ましい。
【0049】
前記水溶液として硫酸と過酸化水素とを含有する水溶液を用いる場合は、両性金属の除去性能の観点、及びアルミニウムの腐食を抑制する観点から、硫酸の濃度が5〜60質量%であることが好ましく、20〜40質量%であることがより好ましい。同様の観点から、過酸化水素の濃度が1〜40質量%であることが好ましく、5〜30質量%であることがより好ましい。
【0050】
本実施形態では、前記したように酸洗浄、特に硝酸水溶液、硫酸水溶液、及び硫酸と過酸化水素とを含有する水溶液から選択される一種以上の水溶液で粗化面を処理した後、更に該処理面を陽極酸化処理(アルマイト処理)してもよい。前記陽極酸化処理を行うと、耐食性を更に向上させることができる。
【0051】
また、本実施形態では、アルカリ系エッチング剤を用いて粗化処理した後に、塩酸、臭化水素酸等のハロゲン化水素酸や、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる一種以上の金属の水酸化物を含むアルカリ性水溶液を用いて、粗化面を洗浄してもよい。ハロゲン化水素酸やアルカリ性水溶液により粗化面の洗浄を行うと、粗化面がわずかにエッチングされるため、粗化面の形状を制御することができる。より深い凹部を有する粗化面を形成するには、ハロゲン化水素酸で処理することが好ましい。なお、前記アルカリ性水溶液は、両性金属イオンの含有量が0.1質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下であり、両性金属イオンを含まないことが特に好ましい。
【0052】
前記ハロゲン化水素酸により洗浄する場合は、粗化面の形状を容易に制御する観点から、ハロゲン化水素の濃度が1〜35質量%のハロゲン化水素酸を用いるのが好ましい。ハロゲン化水素酸としては、コストの観点及び取扱い性の観点から塩酸が好ましい。
【0053】
前記ハロゲン化水素酸により洗浄する場合、処理方法としては、浸漬、スプレー等による処理が挙げられる。処理温度は20〜40℃が好ましく、処理時間は5〜300秒程度が好ましい。前記処理後は、通常、水洗及び乾燥が行なわれる。
【0054】
前記アルカリ性水溶液により洗浄する場合は、粗化面の形状を容易に制御する観点から、水酸化物の濃度が1〜48質量%のアルカリ性水溶液を用いるのが好ましい。水酸化物としては、コストの観点及び取扱い性の観点から水酸化カリウム、水酸化ナトリウムが好ましい。
【0055】
前記アルカリ性水溶液により洗浄する場合、処理方法としては、浸漬、スプレー等による処理が挙げられる。処理温度は20〜40℃が好ましく、処理時間は5〜300秒程度が好ましい。前記処理後は、通常、水洗及び乾燥が行なわれる。また、前記アルカリ性水溶液で粗化面を洗浄した後、洗浄後の粗化面を更に酸洗浄することが好ましい。前記アルカリ系エッチング剤の処理で析出した両性金属の除去ができるからである。前記酸洗浄に用いる酸や処理条件等は、上述した両性金属の除去を目的として行う酸洗浄の場合と同様である。
【0056】
次に、前記酸系エッチング剤を用いて粗化処理工程を実施する場合について説明する。前記酸系エッチング剤を用いる場合も、処理対象物であるアルミニウム製部品表面に機械油等の著しい汚染がある場合は、水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム水溶液等のアルカリ性水溶液による処理や、脱脂を行なった後、前記酸系エッチング剤による粗化処理を行なうことが好ましい。前記酸系エッチング剤を用いて粗化処理する方法としては、浸漬、スプレー等による処理方法が挙げられる。処理温度は20〜40℃が好ましく、処理時間は5〜300秒程度が好ましい。前記処理後は、通常、水洗及び乾燥が行なわれる。
【0057】
前記酸系エッチング剤を用いて粗化処理した結果、部品表面の凹凸が細かくなりすぎた場合は、アルカリ性水溶液で細かすぎる部分のみを溶解させて除去することができる。ここで用いられるアルカリ性水溶液としては、濃度1〜5質量%程度の水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム水溶液等が挙げられる。この場合、アルカリ性水溶液で処理した後、表面に残るスマットを、希硝酸で溶解除去するのが好ましい。アルミニウム製部品を粗化した後の酸系エッチング剤は、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム等を加えて中和することにより、エッチング剤中に溶解しているアルミニウムを容易に凝集、沈殿させることができるので、廃液処理が容易である。
【0058】
前記アルカリ系エッチング剤又は前記酸系エッチング剤を用いた粗化処理によって、部品表面が凹凸形状に粗化される。前記アルカリ系エッチング剤を用いた際のアルミニウム製部品の深さ方向のエッチング量(溶解量)は、溶解したアルミニウムの質量、比重及び表面積から算出した場合、0.1〜15μmであることが好ましく、0.1〜10μmであることがより好ましく、0.5〜5μmであることが更に好ましい。エッチング量が0.1μm以上であれば、アルミニウム−樹脂組成物間の密着性をより向上させることができる。また、エッチング量が15μm以下であれば、処理コストの低減が可能となる。エッチング量は、処理温度や処理時間等により調整できる。
【0059】
前記酸系エッチング剤を用いた際のアルミニウム製部品の深さ方向のエッチング量(溶解量)は、溶解したアルミニウムの質量、比重及び表面積から算出した場合、0.1〜500μmであることが好ましく、5〜500μmであることがより好ましく、5〜100μmであることが更に好ましい。エッチング量が0.1μm以上であれば、アルミニウム−樹脂組成物間の密着性をより向上させることができる。また、エッチング量が500μm以下であれば、処理コストの低減が可能となる。エッチング量は、処理温度や処理時間等により調整できる。
【0060】
なお、本実施形態では、前記アルカリ系エッチング剤又は前記酸系エッチング剤を用いて部品を粗化処理する際、部品表面の全面を粗化処理してもよく、樹脂組成物が付着される面だけを部分的に粗化処理してもよい。
【0061】
また、本実施形態では、前記アルカリ系エッチング剤による処理と、前記酸系エッチング剤による処理を併用してもよい。処理の順番は限定されないが、前記アルカリ系エッチング剤による処理後に、前記酸系エッチング剤による処理を行うと、アルミニウム−樹脂組成物間の密着性向上に適した良好な粗化形状を容易に得ることができるため好ましい。この場合、前記アルカリ系エッチング剤による処理と前記酸系エッチング剤による処理との間に、水洗工程を行うことが好ましい。更に、前記酸系エッチング剤による処理をした後、生じたスマットを除去するため、酸洗浄及び/又は超音波洗浄を施すことが好ましい。前記酸洗浄では、アルカリ系エッチング剤処理後に両性金属の除去を目的として行う酸洗浄において使用される酸として前述した酸と同様のものが使用でき、その際の洗浄条件についても同様である。また、本発明の効果を損なわない範囲で、その他のエッチング剤によるウェットエッチングや、各種のドライエッチングを併用してもよい。
【0062】
[樹脂組成物の付着工程]
次に、前記粗化処理工程で粗化処理された前記アルミニウム製部品の表面上に樹脂組成物を付着させる樹脂組成物の付着工程を実施する。かかる付着工程を実施することで本実施形態のアルミニウム−樹脂複合体が得られる。本実施形態では、前記特定のエッチング剤で処理することにより、アルミニウム−樹脂組成物間の密着性向上に適した凹凸が前記部品表面に形成されるため、接着剤を使用せずにアルミニウム−樹脂組成物間の密着性確保が可能となる。粗化処理した部品表面上に樹脂組成物を付着させる方法としては、特に限定されず、射出成形、押し出し成形、加熱プレス成形、圧縮成形、トランスファーモールド成形、注型成形、レーザー溶着成形、反応射出成形(RIM成形)、リム成形(LIM成形)、溶射成形等の樹脂成形方法が採用できる。また、アルミニウム表面に樹脂組成物皮膜をコーティングしたアルミニウム−樹脂組成物皮膜からなる複合体を製造する場合は、溶剤に樹脂組成物を溶解又は分散させて塗布するコーティング法や、その他の各種塗装方法が採用できる。その他の塗装方法としては、焼き付け塗装、電着塗装、静電塗装、粉体塗装、紫外線硬化塗装等が例示できる。中でも、樹脂組成物部分の形状の自由度や、生産性等の観点から、射出成形、トランスファーモールド成形が好ましい。前記列挙した成形方法の成形条件は、樹脂組成物に応じて公知の条件を採用することができる。
【0063】
[樹脂組成物]
本実施形態で使用できる樹脂組成物としては、前記列挙した成形方法で部品表面に付着させることができる限り、特に限定されず、熱可塑性樹脂組成物や熱硬化性樹脂組成物の中から用途に応じて選択することができる。
【0064】
(熱可塑性樹脂組成物)
熱可塑性樹脂組成物を使用する場合、主成分となる熱可塑性樹脂としては、ポリアミド6やポリアミド66等のポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリロニトリル・スチレン共重合樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、液晶性ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、シンジオタクチックポリスチレン樹脂、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート樹脂、フッ素樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、非晶ポリアリレート樹脂、芳香族ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、液晶ポリマー、ポリエーテルニトリル樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン・アクリル酸共重合樹脂、エチレン・メタクリル酸共重合樹脂等や、これら2種以上を組み合わせたもの等を挙げることができる。中でも、成形加工が容易なポリアミド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂が好ましく、アルミニウム−樹脂組成物間の密着性を向上させるという観点からポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂がより好ましい。また、複合体の付着界面における気密性や水密性を向上させるという観点からポリアミド樹脂がより好ましく、ポリアミド6が更に好ましい。
【0065】
本実施形態で使用できる熱可塑性樹脂組成物としては、前記列挙した熱可塑性樹脂からなる組成物であってもよく、本発明の効果を損なわない程度に、前記列挙した熱可塑性樹脂に対して、従来公知の各種無機・有機フィラー、難燃剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、光安定剤、着色剤、カーボンブラック、加工助剤、核剤、離型剤、可塑剤等の添加剤を添加した組成物であってもよい。中でもアルミニウムと樹脂組成物との線膨張率の差によって生じるアルミニウム−樹脂組成物間の界面剥離を防止するために、前記列挙した熱可塑性樹脂100質量部に対して、無機フィラーを10〜200質量部添加することが好ましい。また、複合体の放熱性を向上させるためには、熱伝導性フィラーを添加することが好ましい。前記熱伝導性フィラーとしては、絶縁性が求められる場合は、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛、酸化チタン等の金属酸化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、窒化ホウ素、窒化アルミニウム等の金属窒化物、酸化窒化アルミニウム等の金属酸窒化物、炭化珪素等の金属炭化物等を含有する熱伝導性フィラーを使用することができる。導電性が求められる用途では、アルミニウムや銅等の金属、あるいは黒鉛等の炭素材料等を含有する熱伝導性フィラーを使用することができる。前記熱伝導性フィラーの添加量は、成形性と放熱性を両立させる観点から、前記列挙した熱可塑性樹脂100体積部に対して、熱伝導性フィラーを10〜1000体積部添加することが好ましく、10〜500体積部添加することがより好ましく、10〜200体積部添加することが更に好ましい。
【0066】
(熱硬化性樹脂組成物)
樹脂組成物として熱硬化性樹脂組成物を使用する場合、主成分となる熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ジアリルフタレート樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂、シアネート樹脂、シリコーン樹脂等や、これら2種以上を組み合わせたもの等を挙げることができる。中でも、成形加工が容易なフェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂が好ましく、アルミニウム−樹脂組成物間の密着性を向上させるという観点、及び複合体の付着界面における気密性や水密性を向上させるという観点からフェノール樹脂がより好ましい。
【0067】
本実施形態で使用できる熱硬化性樹脂組成物としては、前記列挙した熱硬化性樹脂からなる組成物であってもよく、本発明の効果を損なわない程度に、前記列挙した熱硬化性樹脂に対して、従来公知の各種無機・有機フィラー、難燃剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、光安定剤、着色剤、カーボンブラック、加工助剤、核剤、離型剤、可塑剤等の添加剤を添加した組成物であってもよい。中でもアルミニウムと樹脂組成物との線膨張率の差によって生じるアルミニウム−樹脂組成物間の界面剥離を防止するために、前記列挙した熱硬化性樹脂100質量部に対して、無機フィラーを10〜200質量部添加することが好ましい。また、複合体の放熱性を向上させるためには、熱伝導性フィラーを添加することが好ましい。前記熱伝導性フィラーとしては、絶縁性が求められる場合は、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛、酸化チタン等の金属酸化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、窒化ホウ素、窒化アルミニウム等の金属窒化物、酸化窒化アルミニウム等の金属酸窒化物、炭化珪素等の金属炭化物等を含有する熱伝導性フィラーを使用することができる。導電性が求められる用途では、アルミニウムや銅等の金属、あるいは黒鉛等の炭素材料等を含有する熱伝導性フィラーを使用することができる。熱伝導性フィラーの添加量は、成形性と放熱性を両立させる観点から、前記列挙した熱硬化性樹脂100体積部に対して、熱伝導性フィラーを10〜1000体積部添加することが好ましく、10〜500体積部添加することがより好ましく、10〜200体積部添加することが更に好ましい。
【0068】
(その他の樹脂組成物)
本実施形態で使用できる樹脂組成物としては、前記列挙した樹脂組成物以外にも、アクリル樹脂、スチレン樹脂等を含む光硬化性樹脂組成物や、ゴム、エラストマー等を含む反応硬化性樹脂組成物等、各種の樹脂組成物を挙げることができる。
【0069】
本実施形態で例示される本発明の複合体の製造方法は、電子機器用部品、家電機器用部品、あるいは輸送機械用部品等の各種機械用部品等の製造に用いられ、更に詳しくは、モバイル用途等の各種電子機器用部品、家電製品用部品、医療機器用部品、車両用構造部品、車両搭載用部品、その他の電気部品や放熱用部品等の製造に好適である。放熱用部品の製造に適用した場合、アルミニウム製部品の表面を粗化することによって表面積が増加するため、アルミニウム−樹脂組成物間の接触面積が増加し、接触界面の熱抵抗を低減させることができる。よって、本発明の方法を放熱用部品の製造に適用すると、密着性や気密・水密性を向上させる効果以外に、放熱性を向上させる効果も得られる。
【実施例】
【0070】
次に、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0071】
[引張せん断試験]
(実施例1〜4:酸系エッチング剤による粗化)
JIS H4000に規定された合金番号5052のアルミニウム板(厚み:2mm)を、長さ110mm、幅25mmに切断した。このアルミニウム製部品を表1に示す組成の酸系エッチング剤(30℃)中に浸漬し、揺動させることによって、表2に示すエッチング量だけエッチングした後、水洗を行った。次に5質量%の水酸化ナトリウム水溶液(25℃)中に前記処理後のアルミニウム製部品を浸漬して30秒間揺動させた後、水洗を行った。次に35質量%の硝酸水溶液(25℃)中に前記処理後のアルミニウム製部品を浸漬して30秒間揺動させた後、水洗を行い、乾燥させた。なお、前記エッチング量は、エッチング処理前後のアルミニウム製部品の質量差、アルミニウムの比重、及びアルミニウム製部品の表面積から算出したエッチング量であり、エッチング時間で調整した。以下に示す「エッチング量」も同様である。
【0072】
処理後のアルミニウム製部品と表2に示す樹脂組成物を用いて、表3に示す成形条件にて射出成形(使用装置:型式TH60−9VSE(単動)、日精樹脂工業社製)して、図1に示すように、アルミニウム製部品1と、樹脂組成物2とが一端側で上下に重なりあっている複合体を得た。なお、重なり部分aの長さは12.5mmである。また、樹脂組成物2は、長さ110mm、幅25mm、厚み2mmである。得られた複合体について、引張り試験機(インストロン社製万能試験機、型式:1175)により、引張り速度1mm/分で図1に示す方向Xに引っ張って、破断するときの強度を引張せん断強度とした。引張せん断強度の測定結果を表2に示す。
【0073】
(比較例1)
比較例1として、実施例1において粗化処理を行っていないこと以外は同様の条件で複合体を成形し、実施例1と同様に引張せん断強度を測定した。
【0074】
【表1】
【0075】
【表2】
【0076】
【表3】
【0077】
表2の結果より、実施例1乃至4の複合体は、引張せん断強度がいずれも良好であった。比較例1の複合体は射出成形後にアルミニウム製部品から樹脂組成物の一部が剥がれ落ちて、測定することができなかった。
【0078】
[垂直押込試験]
(実施例5,6:アルカリ系エッチング剤による粗化)
JIS H4000に規定された合金番号5052のアルミニウム板材(厚み:2mm)を、80mm×80mmの寸法に切断し、中央に20mmφの穴をあけて試験用のアルミニウム製部品を得た。前記試験用アルミニウム製部品を、実施例5及び実施例6として、それぞれ表4に示す組成のアルカリ系エッチング剤(35℃)中に浸漬し、揺動させることによって、表5に示すエッチング量だけエッチングした。水洗を行った後、15質量%の硝酸水溶液(25℃)中に前記処理後のアルミニウム製部品を浸漬して60秒間揺動させた後、水洗を行い、乾燥させた。前記処理後のアルミニウム製部品と、表5に示す樹脂組成物を用いて、トランスファーモールド成形機(装置型式:TA−37、株式会社神藤金属工業所製)によってトランスファーモールド成形し、図2(a)〜(c)に示す形状のアルミニウム製部品10と樹脂組成物20とが積層された試験用の複合体3を得た。なお、成形条件は、金型温度155℃、注入圧力17.7MPaに設定した。成形後の複合体3を1週間、25〜30℃の雰囲気温度で放置することによってエージングし、試験機(インストロン社製万能試験機、型式:1175)により、押込み速度1mm/分で、図2(b)に示す方向Yに押し込んで、アルミニウム製部品から樹脂が剥がれるときの強度(MPa)を垂直押込強度とした。結果を表5に示す。
【0079】
(実施例7,8:酸系エッチング剤による粗化)
実施例7については、JIS H4000に規定された合金番号5052のアルミニウム板材(厚み:2mm)を、前記実施例5と同様の寸法に切断し、中央に20mmφの穴をあけて試験用のアルミニウム製部品を得た。かかるアルミニウム製部品を、前記実施例1と同様の手順で、35質量%硝酸水溶液による処理まで行い、水洗、乾燥させた。次いで、前記実施例5と同様にトランスファーモールドによって複合体3を成形し、同様に垂直押込強度を測定した。実施例8については、樹脂組成物として表5に記載のものを用い、成形条件として表3の「ポリアミド6」の条件を用いた以外は実施例7と同様に複合体3を成形し、同様に垂直押込強度を測定した。結果を表5に示す。なお、実施例7の評価については、複合体3を得た後、1週間、25〜30℃の雰囲気温度で放置することによってエージングしたものを用いた。
【0080】
(比較例2,3)
比較例2として、実施例5の粗化処理を行っていないこと以外は実施例5と同様の条件で複合体3を成形し、前記と同様に垂直押込強度を測定した。更に、比較例3として、実施例8の粗化処理を行っていないこと以外は実施例8と同様の条件で複合体3を成形し、前記と同様に垂直押込強度を測定した。結果を表5に示す。なお、比較例2の評価については、複合体3を得た後、1週間、25〜30℃の雰囲気温度で放置することによってエージングしたものを用いた。
【0081】
【表4】
【0082】
【表5】
【0083】
表5に示すように、各実施例では、垂直押込強度が所定以上の強度であった。実施例5と実施例6との対比から、アルカリ系エッチング剤がチオ化合物を含有することで、より密着性に優れる複合体が得られることがわかる。一方、各比較例の複合体は成形後にアルミニウム製部品から樹脂組成物の一部が剥がれ落ちて、測定することができなかった。
【0084】
[気密性試験及び水密性試験]
(実施例9〜11及び比較例4,5)
前記実施例5,7,8と同様の手順で複合体3を成形し、それぞれ実施例9,10,11の評価用複合体とした。
また、前記比較例2及び3と同様の手順で複合体3を成形し、それぞれ比較例4及び5の評価用複合体とした。
得られた各複合体について、以下に示す方法で気密性試験及び水密性試験を行った。なお、実施例9、10及び比較例4の評価については、複合体3を得た後、1週間、25〜30℃の雰囲気温度で放置することによってエージングしたものを用いた。
【0085】
<気密・水密試験方法>
図3に示す試験装置を用いて評価を行った。まず、耐圧気密容器の金属製容器部11に、ゴム製Oリング12を介して複合体3をセットし、金属製上蓋部11aで複合体3を挟み込むように固定した。気密試験方法としては、複合体3をセットした耐圧気密容器を水槽に投入し、エアーバルブ(図示せず)を徐々に開放して耐圧気密容器内の圧力を上げていき、複合体3の付着界面からのエアー漏れの有無を確認した。この際、所定の圧力をかけて3分間の静置状態においてエアー漏れが無ければ、当該圧力下での気密性は良好と判断した。試験は圧力0.1MPaから開始し、エアー漏れが無ければ順次0.1MPaずつ上げていき、最大0.4MPaまで試験を行った。そして、0.1MPaでエアー漏れがあった場合をC、0.2〜0.3MPaでエアー漏れが無く、かつ0.4MPaでエアー漏れがあった場合をB、0.4MPaでエアー漏れがなかった場合をAとして気密性の評価を行った。
【0086】
水密試験方法としては、前記気密試験において、耐圧気密容器を水槽に投入しないことと、エアーの代わりに水を注入し、水洩れの有無で評価したこと以外は、同様の方法で行った。圧力0.1MPaで水漏れがあった場合をC、0.2〜0.3MPaで水漏れが無く、かつ0.4MPaで水漏れがあった場合をB、0.4MPaで水漏れがなかった場合をAとして水密性の評価を行った。結果を表6に示す。
【0087】
【表6】
【0088】
表6に示すように、各実施例では気密性、水密性のいずれも良好であるが、各比較例では、いずれも0.1MPaでエアー漏れ及び水漏れが生じた。以上の結果から、本発明によれば、アルミニウムと樹脂組成物との密着性に加えて、気密性及び水密性にも優れる複合体が得られることが分かる。
【0089】
[表面観察、断面観察]
前記実施例1の粗化工程と同様の条件で酸系エッチング剤を用いて処理したアルミニウム製部品の表面及び断面を走査型電子顕微鏡(SEM)(型式JSM−7000F、日本電子社製)で観察した。その際のSEM写真を図4乃至図8に示す。同様に前記実施例5の粗化工程と同様の条件でアルカリ系エッチング剤を用いて処理したアルミニウム製部品の表面及び断面を走査型電子顕微鏡(SEM)(型式JSM−7000F、日本電子社製)で観察した。その際のSEM写真を図9乃至図13に示す。
【0090】
[熱伝導性試験]
以下に示す方法により、複合体のアルミニウム−樹脂組成物間における熱伝導性を評価した。
【0091】
(実施例12)
JIS H4000に規定された合金番号5052のアルミニウム板材(厚み:2mm)を、10mm×25mmの寸法に切断し、試験用のアルミニウム製部品を得た。前記アルミニウム製部品と熱伝導性ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物(東レ社製、グレード名:H718LB)を用いて、前記実施例3と同様の粗化条件及び成形条件で、図14(a)に示すようなアルミニウム製部品400の一主面の全面に前記樹脂組成物500が積層された複合体を得た。樹脂組成物500の寸法は、10mm×25mm×厚み2mmであった。次いで、図14(b)に示すように、60℃の水200を入れた恒温槽100を準備し、水200の水面にステンレス鋼製バット300を浮かべて60分間放置した後、ステンレス鋼製バット300の底面と前記複合体のアルミニウム製部品400とを、シリコーングリス600を介して固着させた。シリコーングリス600としては、バリューウェーブ社製シリコーングリス(型番:TG01)を用いた。そして、ステンレス鋼製バット300と前記複合体のアルミニウム製部品400とを固着した直後から、樹脂組成物500の表面500aの表面温度をミニ放射温度計(CUSTOM社製、型番:IR−200)により2秒間隔で測定し、定常状態(温度変化が安定した状態)になるまで測定を継続した。測定の際は、樹脂組成物500の表面500aと、ミニ放射温度計の検知器先端との間隔を1cm空けて測定した。この際の樹脂組成物500の表面温度の経時変化を図15に示す。なお、測定中の樹脂組成物500付近の雰囲気温度は30℃であった。
【0092】
(比較例6,7:接着剤等による複合体の形成)
比較例6及び比較例7では、樹脂組成物からなる板状物とアルミニウム板とを用いて、以下に示す手順で、それぞれグリース及び接着剤を介して積層させて複合体を形成し、評価を行った。熱伝導性ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物(東レ社製、グレード名:H718LB)からなる板状物(10mm×25mm×厚み2mm)を前記実施例3と同様の条件で射出成形により得た。粗化処理していないこと以外は実施例12で用いたものと同様のアルミニウム製部品と前記板状物とを、バリューウェーブ社製シリコーングリス(型番:TG01)を介して実施例12と同様に積層させて比較例6の複合体を得た。また、前記比較例6において、シリコーングリスの代わりにセメダイン社製シリコーン系接着剤(品番:RE−215)を用いて前記板状物と前記アルミニウム製部品とを接着したこと以外は同様の方法で、比較例7の複合体を得た。比較例6,7の複合体について、前記実施例12と同様の方法で熱伝導性試験を行った。結果を図15に示す。
【0093】
図15に示すように、実施例12は、比較例6,7に比べ、定常状態に到達するまでの時間が短かった。これは、実施例12のアルミニウム−樹脂組成物間における熱伝導性が比較例6,7に比べ高いことに起因するものと考えられる。この結果から、本発明によれば、複合体のアルミニウム−樹脂組成物間における熱伝導性が高く(即ち熱抵抗が低く)なるため、複合体の放熱性を向上できることが分かる。
【0094】
[断面観察]
前記実施例12と同様の条件で成形した複合体の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)(型式JSM−7000F、日本電子社製)で観察した。その際のSEM写真を図16に示す。図16に示すように、アルミニウム製部品表面に形成された凹凸の窪みに多数の熱伝導性フィラーが入り込んでいることが分かる。本実施例では、アルミニウム製部品表面の粗化によるアルミニウム−樹脂組成物間の接触面積の増加と、アルミニウム−樹脂組成物間の接触界面の窪みに多数入り込んだ熱伝導性フィラーにより、前記接触界面の熱抵抗を低減できると考えられる。
【0095】
[押込せん断試験]
(実施例13,14:アルカリ系エッチングと酸系エッチングの併用)
JIS H4000に規定された合金番号5052のアルミニウム板(厚み:2mm)を、40mm×40mmに切断した。このアルミニウム製部品を表4に示す組成のアルカリ系エッチング剤(35℃)中に浸漬し、1分間揺動させた後、水洗を行った。次いで、表8に示す組成の酸系エッチング剤(30℃)中に浸漬し、揺動させることによって、表8に示すエッチング量だけエッチングし、水洗を行った。なお、表8に示すエッチング量は、前記アルカリ系エッチング剤によるエッチング量と前記酸系エッチング剤によるエッチング量の合計である。次いで、15質量%の硝酸水溶液(25℃)中に前記処理後のアルミニウム製部品を浸漬して20秒間揺動させた後、超音波洗浄(水中)を行い、乾燥させた。
【0096】
処理後のアルミニウム製部品とポリプラスチックス社製ポリフェニレンサルファイド樹脂(品番1140A7)を用いて、表7に示す成形条件にて射出成形(使用装置:型式TH60−9VSE(単動)、日精樹脂工業社製)して、図17(a)〜(c)に示すように、アルミニウム製部品700と、樹脂組成物800とが一端側で上下に重なりあっている複合体を得た。得られた複合体について、引張り試験機(インストロン社製万能試験機、型式:1175)により、押込み速度1mm/分で、図17(c)に示す方向Zに押し込んで、アルミニウム製部品から樹脂が剥がれるときの強度(MPa)を押込せん断強度とした。
【0097】
【表7】
【0098】
(実施例15及び比較例8)
実施例15として、実施例13において酸系エッチング剤によるエッチングを行わず、アルカリ系エッチング剤のみでエッチングを行った。エッチング量は表8に示す通りである。それ以外は実施例13と同様の条件で複合体を成形し、同様に押込せん断強度を測定した。
比較例8として、実施例13において粗化処理を行っていないこと以外は同様の条件で複合体を成形し、実施例13と同様に押込せん断強度を測定した。
【0099】
[ヘリウムリーク試験]
(実施例16:アルカリ系エッチングと酸系エッチングの併用)
実施例16では、実施例5と同様の試験用のアルミニウム製部品を用い、実施例13と同様の粗化処理条件及び複合体成形条件で、図2に示す試験用の複合体3(アルミニウム−ポリフェニレンサルファイド樹脂複合体)を得た。得られた複合体3をヘリウムリークディテクタ(島津製作所社製、MSE−2000R)にセットし、ディテクタ内のヘリウム分圧が5.0×10−11Pa・m3/秒以下になるまで真空に引いた後、上記複合体3にヘリウムガスを吹き付けた際のディテクタ内のヘリウム分圧を測定した。
【0100】
(実施例17及び比較例9)
実施例17として、実施例5と同様の試験用のアルミニウム製部品を用い、実施例15と同様の粗化処理条件及び複合体成形条件で、図2に示す試験用の複合体3(アルミニウム−ポリフェニレンサルファイド樹脂複合体)を得た。得られた複合体3について、実施例16と同様にヘリウムリーク試験を行った。
比較例9として、実施例16において粗化処理を行っていないこと以外は同様の条件で複合体3を成形し、同様にヘリウムリーク試験を行った。
【0101】
実施例13〜15及び比較例8の押込せん断強度、並びに実施例16,17及び比較例9のヘリウムリーク試験におけるヘリウム分圧を、酸系エッチング剤の組成とともに表8に示す。なお、ヘリウムリーク試験では、ヘリウムガスを吹き付けた際のヘリウム分圧が小さい値であるほど、複合体の付着界面における気密性が高いと評価できる。
【0102】
【表8】
【0103】
表8に示すように、比較例8,9の複合体は、成形後にアルミニウム製部品から樹脂組成物の一部が剥がれ落ちて、押込せん断強度測定及びヘリウムリーク試験を行うことができなかった。一方、各実施例では、押込せん断強度が所定値以上であり、ヘリウムリーク試験におけるヘリウム分圧が所定値以下であった。これらの結果から、本発明の製造方法によれば、密着性及び気密性に優れる複合体が得られることが分かる。特に、アルカリ系エッチング剤による処理後に酸系エッチング剤による処理が行われた実施例13、14では、実施例15に比して3倍以上の高い押込せん断強度が得られている。また、実施例16では、実施例17に比して高い気密性を有している。この結果から、アルカリ系エッチングと酸系エッチングとの併用により、より密着性及び気密性に優れる複合体が得られることが分かる。
【符号の説明】
【0104】
1、10、400、700:アルミニウム製部品
2、20、500、800:樹脂組成物
3:複合体
11:金属製容器部
11a:金属製上蓋部
12:Oリング
100:恒温漕
200:水
300:ステンレス鋼製バット
500a:樹脂組成物の表面
600:シリコーングリス
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム製部品の表面をエッチング剤によって粗化処理する粗化工程と、前記粗化処理した表面に樹脂組成物を付着させる付着工程とを実施するアルミニウム−樹脂複合体の製造方法であって、
前記エッチング剤が、
両性金属イオンと、酸化剤と、アルカリ源と、を含むアルカリ系エッチング剤、
並びに
第二鉄イオン及び第二銅イオンの少なくとも一方と、酸と、を含む酸系エッチング剤、
から選ばれる一種以上であることを特徴とするアルミニウム−樹脂複合体の製造方法。
【請求項2】
前記アルカリ系エッチング剤が、チオ化合物を更に含む請求項1に記載のアルミニウム−樹脂複合体の製造方法。
【請求項3】
前記チオ化合物が、チオ硫酸イオン及び炭素数1〜7のチオ化合物から選択される一種以上である請求項2に記載のアルミニウム−樹脂複合体の製造方法。
【請求項4】
前記アルカリ系エッチング剤に含まれる前記酸化剤が、硝酸イオンである請求項1〜3の何れか1項に記載のアルミニウム−樹脂複合体の製造方法。
【請求項5】
前記粗化工程が、前記アルミニウム製部品の表面を前記アルカリ系エッチング剤により処理した後、処理後の粗化面を前記酸系エッチング剤により処理する工程である請求項1〜4の何れか1項に記載のアルミニウム−樹脂複合体の製造方法。
【請求項6】
前記酸系エッチング剤により処理した後の粗化面を、酸洗浄及び超音波洗浄から選ばれる一種以上の洗浄方法により洗浄する請求項5に記載のアルミニウム−樹脂複合体の製造方法。
【請求項7】
前記付着工程において前記粗化処理した表面に前記樹脂組成物を付着させる方法が、射出成形又はトランスファーモールド成形である請求項1〜6の何れか1項に記載のアルミニウム−樹脂複合体の製造方法。
【請求項1】
アルミニウム製部品の表面をエッチング剤によって粗化処理する粗化工程と、前記粗化処理した表面に樹脂組成物を付着させる付着工程とを実施するアルミニウム−樹脂複合体の製造方法であって、
前記エッチング剤が、
両性金属イオンと、酸化剤と、アルカリ源と、を含むアルカリ系エッチング剤、
並びに
第二鉄イオン及び第二銅イオンの少なくとも一方と、酸と、を含む酸系エッチング剤、
から選ばれる一種以上であることを特徴とするアルミニウム−樹脂複合体の製造方法。
【請求項2】
前記アルカリ系エッチング剤が、チオ化合物を更に含む請求項1に記載のアルミニウム−樹脂複合体の製造方法。
【請求項3】
前記チオ化合物が、チオ硫酸イオン及び炭素数1〜7のチオ化合物から選択される一種以上である請求項2に記載のアルミニウム−樹脂複合体の製造方法。
【請求項4】
前記アルカリ系エッチング剤に含まれる前記酸化剤が、硝酸イオンである請求項1〜3の何れか1項に記載のアルミニウム−樹脂複合体の製造方法。
【請求項5】
前記粗化工程が、前記アルミニウム製部品の表面を前記アルカリ系エッチング剤により処理した後、処理後の粗化面を前記酸系エッチング剤により処理する工程である請求項1〜4の何れか1項に記載のアルミニウム−樹脂複合体の製造方法。
【請求項6】
前記酸系エッチング剤により処理した後の粗化面を、酸洗浄及び超音波洗浄から選ばれる一種以上の洗浄方法により洗浄する請求項5に記載のアルミニウム−樹脂複合体の製造方法。
【請求項7】
前記付着工程において前記粗化処理した表面に前記樹脂組成物を付着させる方法が、射出成形又はトランスファーモールド成形である請求項1〜6の何れか1項に記載のアルミニウム−樹脂複合体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図14】
【図15】
【図17】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図16】
【図2】
【図3】
【図14】
【図15】
【図17】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図16】
【公開番号】特開2013−52671(P2013−52671A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−130422(P2012−130422)
【出願日】平成24年6月8日(2012.6.8)
【出願人】(000114488)メック株式会社 (49)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年6月8日(2012.6.8)
【出願人】(000114488)メック株式会社 (49)
【Fターム(参考)】
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